(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025025285
(43)【公開日】2025-02-21
(54)【発明の名称】正浸透膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
B01D 71/56 20060101AFI20250214BHJP
B01D 69/00 20060101ALI20250214BHJP
B01D 69/10 20060101ALI20250214BHJP
B01D 69/12 20060101ALI20250214BHJP
C08J 9/36 20060101ALI20250214BHJP
【FI】
B01D71/56
B01D69/00
B01D69/10
B01D69/12
C08J9/36 CER
C08J9/36 CEZ
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023129923
(22)【出願日】2023-08-09
(71)【出願人】
【識別番号】504205521
【氏名又は名称】国立大学法人 長崎大学
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100093045
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 良男
(72)【発明者】
【氏名】藤岡 貴浩
(72)【発明者】
【氏名】ポポバ アレナ
(72)【発明者】
【氏名】新谷 卓司
【テーマコード(参考)】
4D006
4F074
【Fターム(参考)】
4D006GA14
4D006MA03
4D006MA09
4D006MA22
4D006MA26
4D006MA27
4D006MA31
4D006MC48
4D006MC49
4D006MC56X
4D006MC58
4D006NA41
4D006NA62
4F074AA70
4F074CA10
4F074CC08Y
4F074CC27Y
4F074CC48X
4F074CE26
4F074CE65
4F074CE98
4F074DA19
4F074DA20
4F074DA43
(57)【要約】
【課題】支持体自体を薄膜化してもその強度を保つことができる上、薄膜化することによって十分な透水性を確保しつつ、低い塩透過率を達成する。
【解決手段】10~50μkmの膜厚であって、垂直孔径が0.05~1.0μmのトラックエッチド膜を多孔質支持体として使用すると共に、トラックエッチド膜の表面に極薄膜の複合ポリアミド層をスキン層として製膜するに当たり、第1の溶液として、所定濃度に調製された芳香族多官能アミン溶液を用意すると共に、第2の溶液として所定濃度に調製された芳香族多官能酸ハライド溶液を用意し、トラックエッチド膜の表面に第1の溶液を流下して薄膜化された溶液層を形成しながら余分な溶液を取り去り、しかる後第2の溶液を流し込んで、第1の溶液による溶液層との界面での重合反応により、縮重合化した極薄膜状の複合ポリアミド層を製膜する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
10~50μmの膜厚であって、孔径が0.05~1.0μmのトラックエッチド膜を多孔質支持体として使用すると共に、上記トラックエッチド膜の表面に極薄膜の複合ポリアミド層をスキン層として製膜するに当たり、
第1の溶液として所定濃度に調製された芳香族多官能アミン溶液を用意すると共に、第2の溶液として所定濃度に調製された芳香族多官能酸ハライド溶液を用意し、
上記トラックエッチド膜の表面に上記第1の溶液を流下して薄膜化された塗布層を形成しながら余分な溶液を上記塗布層の表面から流し去り、しかる後上記第2の溶液を上記塗布層の面上に流し込んで、上記塗布層の界面における上記第2の溶液との重合反応によって縮重合化した極薄膜状の複合ポリアミド層を製膜する
ことを特徴とする正浸透膜の製膜方法。
【請求項2】
正浸透膜の製膜方法において使用される上記第1の溶液は、芳香族多官能アミンのうちm-フェニレンジアミンが、純水100mL中、0.5~1.5重量%混合されたものである
ことを特徴とする請求項1記載の正浸透膜の製膜方法。
【請求項3】
正浸透膜の製膜方法において使用される上記第2の溶液は、芳香族多官能酸ハライドのうち1,3,5-ベンゼントリカルボン酸クロライドが、ヘキサン100mL中、0.1~0.2重量%含まれたものである
ことを特徴とする請求項1記載の正浸透膜の製膜方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正浸透膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
超純水製造、海水淡水化、かん水の脱塩処理、排水の再利用処理などに用いる複合半透膜として、従来からポリサルフォン製の多孔質膜上にポリアミド層を形成した複合半透膜や、酢酸セルロース膜が知られている(特許文献1、特許文献2)。
近年発表されている特許文献1や特許文献2において報告されている複合半透膜の一例としては、支持体とその上に製膜されたスキン層からなる2層構造の複合半透膜であって、多孔質膜としてエポキシ樹脂が、スキン層としてポリアミド樹脂が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013-13888号公報
【特許文献2】特開2015-85234号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した特許文献1や特許文献2には、膜厚が10~250μmに選定された多孔質のエポキシ樹脂をその支持体(支持膜)として使用することが開示されている。機械的な強度をスポンジ状の材料に持たせるためには、ある程度の厚みが必要になり、膜厚の下限値を10μmのように極薄膜化すると強度面で不十分となるおそれがある。
実際に市販されているものは110~150μm程度の膜厚しか市場に出回っていない。この現実を直視するならば例えエポキシ樹脂を用いても、その膜厚値は100μm程度が限界であると考えられる。
エポキシ樹脂の膜厚値を100μm程度に製膜しても今度は透水率が問題となる。膜厚が100~150μm程度あると、水分子の輸送にとっては大きな負荷となるため透水率が悪くなるということが知られている。100μm程度の膜厚であっても透水性が劣ったままであるので、水分子を分離するような液体分離装置用としては最適な半透膜材料とは言い難い。
そこでこの発明はこのような従来の問題点を解決したものであって、水分子の透過流束を上げるため、支持体の膜厚を極力薄膜化すると共に、不純物を有効に除去できる正浸透膜の製造方法を提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に記載したこの発明に係る正浸透膜の製膜方法は、10~50μmの膜厚であって、孔径が0.05~1.0μmのトラックエッチド膜を多孔質支持体として使用すると共に、上記トラックエッチド膜の表面に極薄膜の複合ポリアミド層をスキン層として製膜するに当たり、
第1の溶液として所定濃度に調製された芳香族多官能アミン溶液を用意すると共に、第2の溶液として所定濃度に調製された芳香族多官能酸ハライド溶液を用意し、
上記トラックエッチド膜の表面に上記第1の溶液を流下して薄膜化された塗布層を形成しながら余分な溶液を上記塗布層の表面から流し去り、しかる後上記第2の溶液を上記塗布層の面上に流し込んで、上記塗布層の界面における上記第2の溶液との重合反応によって縮重合化した極薄膜状の複合ポリアミド層を製膜することを特徴とする。
余分な第1の溶液をその塗布層の表面から流し去るにあたっては、第1の溶液の塗布層に触れることなく余分な溶液を取り除くようにすることで、塗布層を傷つけることなく作製することができる。
請求項2に記載のこの発明に係る正浸透膜の製膜方法において、使用される上記第1の溶液は、芳香族多官能アミンのうちm-フェニレンジアミンが、純水100mL中、0.5~1.5重量%(wt%)混合されたものであることを特徴とする。
請求項3に記載のこの発明に係る正浸透膜の製膜方法において、使用される上記第2の溶液は、芳香族多官能酸ハライドのうち1,3,5-ベンゼントリカルボン酸クロライドが、ヘキサン100mL中、0.1~0.2重量%含まれたものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
この発明によれば、膜厚が10~50μm程度で、貫通孔の孔径が0.05~1.0μmのトラックエッチド膜をスキン層の支持体として使用すると共に、このトラックエッチド膜の表面にスキン層として0.1~0.2μmの複合ポリアミド層を製膜することで、支持体自体を薄膜化してもその強度を保つことができる上、薄膜化することによって十分な透水性を確保でき、さらに低い塩透過率を達成できる。その製膜も比較的簡単な製膜工程である。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】この発明によって平膜状に作製された正浸透膜の要部拡大断面図である。
【
図2】この発明による製膜方法の説明に供する工程の模式図を示す第1の工程図である。
【
図3】この発明による製膜方法の説明に供する工程の模式図を示す第2の工程図である。
【
図4】この発明による製膜方法の説明に供する工程の模式図を示す第3の工程図である。
【
図5】この発明による製膜方法の説明に供する工程の模式図を示す第4の工程図である。
【
図6】この発明による正浸透膜の断面を示す顕微鏡写真(図面代用写真)である。
【
図7】
図6の中央部における一部拡大した顕微鏡写真(図面代用写真)である。
【
図8】
図7のさらに一部を拡大した顕微鏡写真(図面代用写真)である。
【
図9】評価実験に使用した評価モデルの一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
続いて、この発明に係る正浸透膜の製膜方法を実施例に基づいて説明する。
【0009】
[正浸透膜の構造]
図1はこの発明によって製造された正浸透膜10の簡易構成を示す要部の拡大断面図である。正浸透膜10の形状は説明の便宜上平膜として説明ずる。
正浸透膜10は多孔質の支持体12としてトラックエッチド膜(TE膜)を使用し、その一面(表面)にスキン層14として複合ポリアミド層を製膜したものである。トラックエッチド膜は多数の貫通孔16が垂直孔として形成されたものであり、その膜厚は10~50μmの範囲内で選択することが可能で、透水性と塩透過率との観点から10~25μm程度の厚みが好ましい。実施例では25μmの膜厚を採用した。
トラックエッチド膜は従来から使用されているエポキシ樹脂膜よりも強度の面で優れており、10μm程度の膜厚でもある程度の耐圧を維持できる。孔径は0.05~1.0μm就中0.1~0.2μmが好ましい。薄膜化するのは透過水の透過流束を上げるためであり、貫通孔の径径を0.1~0.2μmとするのは水分子を選択的に透過させるためである。
【0010】
支持体12として使用するトラックエッチド膜は、以下のような工程を経て作製されたものを使用することができる。
素材はポリカーボネート樹脂で、厚みが25μmのポリカーボネートフィルムに放射線を照射して多数のトラックを形成した後、エッチング処理することで、膜厚が非常に薄く、孔径が0.2μm以下で、垂直に貫通した均一な貫通孔(垂直孔)を形成できる。
【0011】
このトラックエッチド膜は孔径分布が非常に狭いことが特徴で、0.1~0.2μm程度で、しかも垂直に穿設された貫通孔を形成できる。
トラックエッチド膜の素材としては、ポリカーボネートの他に、ポリエステル、ポリイミドなどを使用することができる。
スキン層14として機能する複合ポリアミド層は、2種類の溶液の界面での縮重合反応を利用して0.1~0.2μm程度の極薄膜として製膜したものである。この製膜にあってはトラックエッチド膜の表面に流し込まれた最初の溶液がその表面(塗布面)から剥離しないように余分な溶液を除去する必要がある。複合ポリアミド層の製膜については後述する。
このようにして製膜された正浸透膜10を液体分離装置に適用する場合には、正浸透膜10のエレメントを、複合ポリアミド層側が供給液(フィード溶液)側で、トラックエッチド膜が高浸透圧溶液(ドロー溶液)側となるように配置する。これとは逆に、トラックエッチド膜をフィード溶液側に配置してもよい。処理方式としてはクロスフロー運転方式などが考えられる。
【0012】
このような液体分離装置にこの発明に係る正浸透膜10を複合半透膜として適用した場合、次のような利点が考えられる。
支持体12としてトラックエッチド膜を使用したため、スポンジ状の支持体とは異なり、膜厚が10μm程度の極薄膜であっても、強度があるため、自立性と耐久性を確保できる。
トラックエッチド膜は非常に薄い多孔質フィルムとして不織布なしで使用するので、膜厚は10μm程度の極薄膜であっても使用することができ、しかも垂直孔が重なっても問題ないので、開孔率を高めることができる。正浸透膜では膜の分子拡散が通水抵抗のほとんどを占めるため、膜厚が薄いほど通水ろ過抵抗が低くなり、透水率が向上する。
【0013】
[複合ポリアミド層の製膜方法]
(1)トラックエッチド膜を用意する。
厚さが10~30μmこの例では強度および耐久性の観点から、多少余裕を持たせて
厚さが25μmで、均一な孔径0.2μmのトラックエッチングされたポリカーボネート膜(トラックエッチド膜)を用意する。
【0014】
(2)複合ポリアミド層用として第1の溶液を調製する。
第1の溶液としては芳香族多官能アミンが使用される。芳香族多官能アミンとしてこの例では、m-フェニレンジアミン(以下MPD溶液という)を使用する。MPD溶液には、m-フェニレンジアミンの溶解と分散を促進させるため、以下の3種類の添加液を使用する。添加液としてこの例では、純水100mLに対して、
CSA(10-カンファ―スルホン液)・・・4wt%
TEA(トリエチルアミン液)・・・2wt%
SDS(ドデシル硫酸ナトリウム液)・・・0.25wt%
の3種類の溶液を使用した。
これらの添加液を0.5wt%のMPD(m-フェニレンジアミン液)と共に100mLの純水(Milly-Q水)を用いて攪拌、混合して、MPD水溶液を調製した。
このMPD水溶液をさらに蓋付きの琥珀色の瓶に入れ、70rpmの回転速度で1時間、よく攪拌、混合して最終的なMPD水溶液とした。このほかに、MPD水溶液として濃度のみ1.0wt%および1.5wt%に代えたトータル3種類のMPD水溶液を評価用として調製した。溶液の混合速度や混合時間などは一例である。
【0015】
(3)複合ポリアミド層製膜用として第2の溶液(TMC溶液)を調製する。
第2の溶液としては芳香族多官能酸ハライドを用いる。芳香族多官能ハライドとしては、トリメンソールクロライド(trimesoyl chloride)液や、1,3,5-ベンゼントリカルボン酸クロライド(1,3,5-benzene tricarboxylic acid chloride)液などがあり、以下の例では後者の溶液を使用した。TMC溶液は、100mLのヘキサンに0.1wt%含有させて調製した。
このTMC溶液を調合用瓶(蓋付きアンバーボトル)に入れて、300rpmの回転速度で1時間ほど攪拌して、最終的なTMC溶液として使用する。このほかに、TMC溶液の濃度を、0.15wt%と0.2wt%に代えたトータル3種類のTMC溶液を調製した。調製に使用した回転速度や攪拌時間などは一例である。このようにして調製されたトータル6種類の溶液を使用して評価を行うこととする。
【0016】
[正浸透膜10の作製]
模式的な図面を参照して正浸透膜10の作製工程を説明する。
まず、多孔質の支持体12として上述したトラックエッチド膜を用意し、その表面に第1の溶液であるMPD水溶液(この例では1.0wt%のMPD水溶液)を均一にゆっくり滴下する(
図2の第1の工程図参照)。そうするとトラックエッチド膜の表面がMPD水溶液で薄く覆われた塗布層20(斜線で図示)が得られる。
図2において、22はMPD水溶液を入れた容器を示す。
【0017】
このとき余分なMPD水溶液を除去する必要がある。除去する際には細心の注意が必要になる。それは、内部構造がスポンジ状のポリサルフォン膜ではMPD水溶液が内部に浸透して必要なMPD水溶液が膜面に残留する一方で、トラックエッチド膜の表面上のみに乗っている塗布層20を、テッシュペーパーなどで拭き取ると全てのMPD水溶液をふき取ってしまいMPDが全く残らなくなるからである。
【0018】
そのためこの発明ではテッシュなどで拭き取る代わりに、第1のMPD水溶液の塗布層に触れることなく余分な溶液を取り除くことができるように、トラックエッチド膜を支えているフレーム(例えばPTFEフィルムを使用したフレーム)を所定の時間だけ傾ける工程を加えることにした(
図3の第2の工程図参照)。
【0019】
この工程を追加することで、塗布層20を傷つけることなく余分なMPD水溶液を流し落とし、均一で一様な塗布層(液体状の層面)を作製することができる。
トラックエッチド膜は予め傾けておくことでも、塗布しながら傾けてもよい。トラックエッチド膜が平膜の場合にはトラックエッチド膜を傾ける代わりに、スピンコーターを使用して遠心力により余分な液体を分散させながら流したり、あるいはバーコーターを使用して余分な液体を流し落とすなどの手法を利用できる。
【0020】
余分な溶液を流し落としてから、トラックエッチド膜を1~2分間静置する。トラックエッチド膜を傾けて処理した場合には、水平にもどしてから静置することになる。
そのあと、15mLのTMC溶液(TMC濃度は0.1wt%)を30秒間ゆっくりとトラックエッチド膜の表面(MPD水溶液の塗布層表面)に流し込む(
図4に示す第3の工程図参照)。これによって塗布層20の表面は第2の溶液層24(斜線図示)で覆われ、過剰のTMC溶液は排出される。
図4において、26はTMC溶液を入れた容器を示す。
【0021】
TMC溶液をMPD水溶液の塗布層20の表面に流し込むことで、これらMPD水溶液の塗布層20とTMC溶液の溶液層24との界面では界面重合反応(縮重合反応)が起き、その結果トラックエッチド膜の表面には大小様々な袋状の空洞を有する複合ポリアミド層(複合ポリアミド膜)14(網目状ハッチングで図示)が作製される(
図5の第4の工程図、
図1参照)。
【0022】
複合ポリアミド層の膜厚などは重合反応するMPD水溶液やTMC溶液などの濃度、反応時間、反応温度などの化学複合ポリアミド層の反応条件によって適宜調製することができる。この例ではこれらの条件を適宜選定することで、複合ポリアミド層の厚みを0.1~0.2μm程度に調製した。
トラックエッチド膜の表面に複合ポリアミド層が作製された複合半透膜は、100℃で約5分間加熱することで安定した製膜となる。その後室温(22℃)で冷却する。
冷却した複合半透膜は純水(Milli-Q水)に浸漬して洗浄処理を行い、過剰で未反応な化学物質(TMC溶液やMPD水溶液)を除去することで、目的の複合半透膜からなる正浸透膜10が得られる(
図1参照)。
【0023】
なお、正浸透膜を平膜として作製する場合の他に、ロール状に巻回された素材を使用してトラックエッチド膜を作製したり、予めトラックエッチド膜が作製されたロール状の素材を使用して正浸透膜を作製することが考えられる。以下に素材からトラックエッチド膜を作成する場合について、その製膜工程の一例を説明する。
【0024】
ロール状に巻き取られた所定幅のポリカーボネートフィルムを所定速度で移送させながら連続的もしくは間欠的に放射線(例えば、ガンマー線)を膜面に照射して多数のトラックを形成し、そののちエッチング液槽に浸漬してエッチング処理を行って多数の貫通孔が形成されたトラックエッチド膜を形成する。エッチング槽を通過したトラックエッチド膜を巻き取る。その後、トラックエッチド膜を斜めにした状態で搬送し、斜めのトラックエッチド膜面に第1の溶液であるMPD水溶液を斜め上方からゆっくり膜面上に流して、膜面全体に溶液を行き渡らせる。この斜めに搬送しながら溶液をその上方から流すことによってトラックエッチド膜に触れることなくトラックエッチド膜面から余分な溶液を流れ落とすことができる。余分なMPD水溶液を除去したトラックエッチド膜を水平に戻して搬送し、MPD水溶液の溶液層全面に行き渡るように第2の溶液であるTMC溶液をゆっくり流す。
【0025】
この流し込みによってMPD水溶液とTMC溶液との界面で縮重合反応が起き、複合ポリアミド膜が製膜される。その後、巻き取りながら加熱、冷却、洗浄処理などを経て、トラックエッチド膜上にポリアミド膜が作製された複合半透膜が完成する。この製膜工程はあくまで一例に過ぎない。
【0026】
〔正浸透膜10の断面観察〕
次に、1.0wt%のMPD水溶液と、0.1wt%のTMC溶液を用いて作製された正浸透膜10を試料としてその断面を観察した。この試料については、含水状態で液体窒素にて凍結破断を行い、乾燥後ホルダーに固定し、その後試料断面に対して導電処理を施したものを断面FE-SEM観察用試料として使用した。ここに、FE-SEMとは、電界放出形走査電子顕微鏡の略称であり、試料形態を高解像度、高倍率で観察することができる。
【0027】
図6~
図8は、日立製(SU-8220)の観察装置で、加速電圧を1.0kVに設定して二次電子像を観察したときの顕微鏡写真(試料断面)である。
図7は、
図6のほぼ中央部における界面付近での拡大写真であり、
図8は
図7のさらに部分的な要部の拡大写真である。
スキン層14における空洞16の大きさや形状は一様ではないが、肉厚が30~40nmで、数10~数100nmの断面径を有する空洞16がスキン層14の全面に亘って多数形成されている。支持体12の界面に付近に形成された空洞16は比較的小さいサイズのものが分布し、厚み方向における空洞16の形や重なり具合にもバラツキが見られるが、界面全体に亘り一様に空洞16が分布した状態で製膜されている。この空洞16の存在で、高い透過効率が確保されていると考えられる。
【0028】
[正浸透膜10の評価試験]
続いて、上述の正浸透膜10の評価試験について
図9の評価モデルを使用して説明する。
評価モデルに使用した槽(容器)の中央部に正浸透膜10を垂直に配置して左右の槽を仕切る。その左側に浸透圧の高い溶液(ドロー溶液)として使用するこの例では塩水を収容し、その右側に浸透圧の低い溶液(フィード溶液)としての純水を収容する。正浸透の現象によって浸透圧の高いドロー溶液側に水が流れる(透過する)。このときの透過流束(L/m
2H)と塩透過率(塩逆拡散流束)(g/m
2H)を求める。溶液の温度は25℃、ドロー溶液側流量は0.9L/min、フィード溶液側流量は1.0L/minである。
【0029】
図10はその結果である。比較例として三酢酸セルロース(Cellulose triacetate, CTA)を半透膜に使用した場合を示す。三酢酸セルロースを使用したときの透過流束を示す棒グラフ30は9.1L/m
2Hであり、塩逆拡散流束は棒グラフ32のように1.7g/m
2Hである。
これに対して本発明による正浸透膜10の場合には、棒グラフ40で示すように透過流束は21.0L/m
2Hを示し、塩逆拡散流束は棒グラフ42のように8.1g/m
2Hとなった。
これより明らかなように本発明による正浸透膜10の場合には透過流束が三酢酸セルロースよりも2倍程度高くなり、透過流束が大幅に改善する。一方、塩逆拡散流束は4倍程度高い値を示した。
このことから本発明による正浸透膜10は効率よく水分子を分離できるので、水分離装置に適用して極めて好適であることが判る。
【産業上の利用可能性】
【0030】
以上の評価試験からこの発明によって作製された正浸透膜10は、透水率が高く、しかも塩透過率は低いので、上述した液体分離装置用の正浸透膜10として使用して好適である。
【符号の説明】
【0031】
10 正浸透膜
12 支持体(トラックエッチド膜)
14 スキン層(複合ポリアミド層)
16 貫通孔
20 第1の溶液からなる塗布層
24 第2の溶液層