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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025025309
(43)【公開日】2025-02-21
(54)【発明の名称】締結装置
(51)【国際特許分類】
   B23Q 3/06 20060101AFI20250214BHJP
【FI】
B23Q3/06 304F
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023129965
(22)【出願日】2023-08-09
(71)【出願人】
【識別番号】592063401
【氏名又は名称】株式会社ナベヤ
(74)【代理人】
【識別番号】100078190
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 三千雄
(74)【代理人】
【識別番号】100115174
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 正博
(72)【発明者】
【氏名】柴田 泰成
(72)【発明者】
【氏名】岡本 將義
【テーマコード(参考)】
3C016
【Fターム(参考)】
3C016CA07
3C016EA01
(57)【要約】
【課題】油圧や空圧の如き圧力流体を用いた作動機構を全く採用することなく、締結動作やその解除動作の応答性に優れた締結装置を提供する。
【解決手段】自己保持型ソレノイド40のコイル54a,54bへの通電によって、可動鉄心50に接続されたコネクタ66を介して接続されたピストン部材30をピン本体部28の内部空所内を軸方向に移動させて、かかるピストン部材30によってスチールボール32をピン本体部28の外周面から突出・後退移動させることで、ピン本体部28の外周面から突出したスチールボール32が締結ブッシュ10のテーパ状係合面18に係合せしめられて、締結ブッシュ10と締結ピン12が締結されるようにする一方、かかるスチールボール32がピン本体部28内へ後退した際には、それらの係合が解除されて、締結ブッシュ10と締結ピン12の締結が解除されるようにした。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
締結されるべき二つの部材のうちの一方の部材に対して位置固定に取り付けられる締結ブッシュと、
該二つの部材のうちの他方の部材に対して位置固定に取り付けられ、該締結ブッシュに挿入されて係合せしめられることにより、該二つの部材の締結を行う、軸方向に延びる内側空所が設けられた筒状のピン本体部を有する締結ピンと、
該締結ピンのピン本体部内に、その軸方向に対して直角な方向に向かって移動可能に配置されて、かかるピン本体部の外周面からの突出により前記締結ブッシュに係合せしめられる一方、該ピン本体部内への後退により前記締結ブッシュに対する係合を解除する少なくとも一つの移動部材と、
前記締結ピンのピン本体部に設けられた前記内側空所に収容されて、かかる内側空所内を軸方向に移動せしめられ、前記少なくとも一つの移動部材の突出・後退移動を行うピストン部材と、
コイルへの通電によって可動鉄心を移動せしめるソレノイドを有し、該ソレノイドにおける可動鉄心の移動によって、前記ピストン部材を作動せしめて、前記ピン本体部の内部空所内を軸方向に移動させる作動手段と、
を含んで構成されていることを特徴とする締結装置。
【請求項2】
前記ソレノイドが、コイルへの通電によって可動鉄心を軸方向に移動せしめる一方、かかる移動させられた可動鉄心を永久磁石にて吸着して、その移動位置を保持する自己保持型ソレノイドであることを特徴とする請求項1に記載の締結装置。
【請求項3】
前記自己保持型ソレノイドが、前記コイルへの通電によって軸方向に移動せしめられる前記可動鉄心を、その移動方向の両端位置において、それぞれ、前記永久磁石にて磁着して、保持するようにした双安定ソレノイドであることを特徴とする請求項2に記載の締結装置。
【請求項4】
前記自己保持型ソレノイドが、二つのコイルを前記可動鉄心の軸方向において並列的に位置するように配置して、それら二つのコイルに互いに逆方向の電流が流されることによって、該可動鉄心が、その軸方向において双方向に駆動せしめられ得るようになっている2コイル型作動構造を有していることを特徴とする請求項2に記載の締結装置。
【請求項5】
前記ピストン部材と前記ソレノイドにおける可動鉄心とが、連結手段にて連結せしめられていることを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れか1項に記載の締結装置。
【請求項6】
前記連結手段が、前記ピストン部材の下部に設けられた保持空所と、前記可動鉄心の上部に設けられた、該保持空所内に、軸直角方向に移動可能な間隙が形成されるように嵌入されて、それらピストン部材と可動鉄心との間の連結を実現する係合頭部とを有していることを特徴とする請求項5に記載の締結装置
【請求項7】
前記連結手段による前記ピストン部材と前記可動鉄心との連結位置を軸方向において調整することが可能な調整手段が、更に設けられていることを特徴とする請求項5に記載の締結装置。
【請求項8】
前記ピストン部材と前記ソレノイドにおける可動鉄心とが、一体的に連結されて、一つの部材として構成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れか1項に記載の締結装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、締結装置に係り、特に、所定のワークや治具、装置等が固定される固定プレートと、そのような固定プレートを支持又は保持する台座やベースエレメント等の支持体を相互に締結するのに好適に用いられ得るクランプ装置乃至は締結装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、二つの部材を締結するための締結装置としては、種々の構造のものがあり、それらの中から、締結されるべき部材の形状や用途等に応じて、適宜に選択されて、使用されている。例えば、組立作業や測定作業時のワーク(対象物)の固定のために、またマシニングセンタ等の工作機械においては、各種の工具や治具を取り付けるために、様々な締結装置が用いられてきているのである。具体的には、マシニングセンタ等の工作機械にあっては、一般に、加工されるべきワークを保持するために、クランプやバイス等の各種の治具が用いられているのであるが、それらの治具は、その段取り替えを容易に且つ迅速に行わしめるために、多くの場合、治具プレートに固定されており、この治具プレートが、ベースエレメントに対して締結せしめられることによって、各種の治具が、ベースエレメントに取り付けられ得るようになっている。そして、それら固定プレートとしての治具プレートと、支持体としてのベースエレメントとを相互に締結せしめるものとして、特開2001-225236号公報や特開2005-188670号公報等に明らかにされている如き締結装置が用いられていることは、よく知られているところである。
【0003】
そして、そのような締結装置は、固定プレートと支持体の何れか一方に対して位置固定に取り付けられる締結ブッシュと、それらのうちの何れか他方に対して位置固定に取り付けられる、かかる締結ブッシュに対して軸方向に挿入せしめられて、嵌合可能とされた締結ピンとを有しており、そして締結ピン内には、その軸方向に移動可能とされたピストン部材が設けられて、油圧や空圧等の作用により、固定プレートと支持体との対向方向に移動せしめられることにより、締結ピンの内部に配置されたスチールボールが、締結ピンの軸方向に対して直角な方向に押圧されて移動させられ、締結ピンの外周面から部分的に突出せしめられることによって、締結ブッシュに係合させられ得るようになっている。即ち、締結ピンの締結ブッシュへの挿入状態下において、かかるスチールボールの突出部位に対して、締結ブッシュの内周面に設けられた係合部が係合せしめられると共に、それら締結ブッシュと締結ピンとの相互の嵌合乃至は当接によって係止されることにより、締結ブッシュに対する締結ピンの挿入状態下でのそれらの軸方向における相対移動が阻止され得るように構成されているのである。
【0004】
従って、そのような構造を有する締結装置を用いることにより、締結ブッシュと締結ピンとを、それぞれ、固定プレートと支持体とに取り付けた状態において、単に、締結ブッシュに対して締結ピンを挿入して、そのピストン部材を、油圧や空圧等により移動させるだけで、それら固定プレートと支持体との締結を、容易に且つ迅速に行うことが出来ることとなる。
【0005】
ところで、かくの如き締結装置を用いて、固定プレートと支持体との締結作業を行うには、締結ピン内に配設されたピストン部材を、油圧や空圧等の圧力流体(動力源)を用いて、その軸方向に移動せしめる機構が必要となるのであるが、それには、かかる圧力流体による駆動機構を、締結ピンに対して配設する必要があり、また、そのような駆動機構に対する圧力流体の流路の配設に加えて、そのような圧力流体の発生装置も、別途準備することが必要となるところから、締結ピンにおける構造の複雑化や、装置全体の高コスト化を招く等の問題を内在するものであった。しかも、そのような圧力流体を用いた駆動機構は、その応答性においても、少なからず改善の余地を残すものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001-225236号公報
【特許文献2】特開2005-188670号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここにおいて、本発明は、上述の如き事情を背景にして為されたものであって、その解決課題とするところは、油圧や空圧の如き圧力流体を用いた作動機構を全く採用することなく、締結動作やその解除動作の応答性に優れた締結装置を提供することにあり、また他の課題とするところは、圧力流体の供給源やその供給経路を設ける必要のない、構造が簡略化されてなる、良好な操作性を有する締結装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そして、本発明にあっては、かくの如き課題を解決するべく、その第1の態様として、(a)締結されるべき二つの部材のうちの一方の部材に対して位置固定に取り付けられる締結ブッシュと、(b)該二つの部材のうちの他方の部材に対して位置固定に取り付けられ、該締結ブッシュに挿入されて係合せしめられることにより、該二つの部材の締結を行う、軸方向に延びる内側空所が設けられた筒状のピン本体部を有する締結ピンと、(c)該締結ピンのピン本体部内に、その軸方向に対して直角な方向に向かって移動可能に配置されて、かかるピン本体部の外周面からの突出により前記締結ブッシュに係合せしめられる一方、該ピン本体部内への後退により前記締結ブッシュに対する係合を解除する少なくとも一つの移動部材と、(d)前記締結ピンのピン本体部に設けられた前記内側空所に収容されて、かかる内側空所内を軸方向に移動せしめられ、前記少なくとも一つの移動部材の突出・後退移動を行うピストン部材と、(e)コイルへの通電によって可動鉄心を移動せしめるソレノイドを有し、該ソレノイドにおける可動鉄心の移動によって、前記ピストン部材を作動せしめて、前記ピン本体部の内部空所内を軸方向に移動させる作動手段と、を含んで構成されていることを特徴とする締結装置を、採用するものである。
【0009】
また、このような本発明に従う締結装置の好ましい第2の態様においては、前記ソレノイドが、コイルへの通電によって可動鉄心を軸方向に移動せしめる一方、かかる移動させられた可動鉄心を永久磁石にて吸着して、その移動位置を保持する自己保持型ソレノイドであることを特徴としている。
【0010】
さらに、本発明に従う締結装置の有利な第3の態様では、前記自己保持型ソレノイドが、前記コイルへの通電によって軸方向に移動せしめられる前記可動鉄心を、その移動方向の両端位置において、それぞれ、前記永久磁石にて磁着して、保持するようにした双安定ソレノイドであることを特徴とする。
【0011】
更にまた、本発明に従う締結装置の望ましい第4の態様においては、前記自己保持型ソレノイドが、二つのコイルを前記可動鉄心の軸方向において並列的に位置するように配置して、それら二つのコイルに互いに逆方向の電流が流されることによって、該可動鉄心が、その軸方向において双方向に駆動せしめられ得るようになっている2コイル型作動構造を有していることを特徴とするものである。
【0012】
加えて、本発明に従う締結装置の好ましい他の第5の態様においては、前記ピストン部材と前記ソレノイドにおける可動鉄心とが、連結手段にて連結せしめられていることを特徴とする。
【0013】
そして、本発明に従う締結装置の有利な第6の態様においては、前記連結手段が、前記ピストン部材の下部に設けられた保持空所と、前記可動鉄心の上部に設けられた、該保持空所内に、軸直角方向に移動可能な間隙が形成されるように嵌入されて、それらピストン部材と可動鉄心との間の連結を実現する係合頭部とを有していることを特徴とするものである。
【0014】
なお、本発明に従う締結装置にあっては、その第7の態様として、前記連結手段による前記ピストン部材と前記可動鉄心との連結位置を軸方向において調整することが可能な調整手段が、更に設けられていることを特徴とする構成が有利に採用されることとなる。
【0015】
また、本発明に係る締結装置の第8の態様においては、前記ピストン部材と前記ソレノイドにおける可動鉄心とが、一体的に連結されて、一つの部材として構成されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0016】
このように、本発明に従う締結装置にあっては、締結ピン内に配置されたピストン部材の軸方向への作動を、圧力流体の給排にて実現する従来の作動方式に代えて、ソレノイドを用い、そのコイルへの通電によって移動せしめられる可動鉄心にて、行うものであるところから、圧力流体の供給源は全く必要がなく、また圧力流体の給排路や、圧力流体による作動機構をピストン部材に設ける必要がないところから、ピストン部材の構造が有利に簡略化され得ると共に、圧力流体(油空圧)による作動に比べて、応答性が速く、より迅速な締結作動を行わしめることが可能となるのである。
【0017】
特に、かかるピストン部材を作動せしめるソレノイドとして、自己保持型ソレノイドを用いることにより、コイルへの通電によって移動させられた可動鉄心を、その移動端において永久磁石にて吸着して、その移動位置を保持せしめるようにすることにより、かかる可動鉄心の移動位置での保持構造が簡略化され得ると共に、コイルへの通電が可動鉄心の移動時のみでよいところから、電力の消費が少なく、省エネ効果も有利に発揮され得ることとなる。
【0018】
また、本発明に従う締結装置にあっては、ピストン部材を移動せしめるソレノイドコイルにおける可動鉄心の作動に際し、ソレノイドへの通電のオン・オフがスイッチ操作のみで行われ得るものであるところから、油空圧機器を作動させる場合の如き、複雑なシーケンス制御が不要となることに加えて、締結装置の操作においても、熟練した経験が必要とされることなく、その操作についての経験が比較的浅い作業者であっても、容易に取り扱うことが出来るという利点も有しているのである。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明に従う締結装置の一例を示す縦断面説明図であって、締結ピンと締結ブッシュの非締結状態を示すものである。
図2図1に示される締結装置における、ソレノイドを配設した締結ピンの形態を示す説明図であって、(a)は、その正面説明図であり、(b)は、(a)におけるA-A断面説明図である。
図3図1に示される締結装置における、ピストンと可動鉄心との連結形態を示す拡大部分説明図であって、(a)は、その正面拡大説明図であり、(b)は、(a)におけるB-B断面説明図であり、(c)は、(a)におけるC-C断面説明図である。
図4図1に示される締結装置において、ピストンの下部に対して、可動鉄心の上部に取り付けたコネクタを嵌入して、それらピストンと可動鉄心とを相互に連結せしめる形態を示す斜視説明図であって、(a)は、嵌入前の形態を示し、(b)は、嵌入後の形態を示している。
図5図1に示される締結装置の使用状態を示す縦断面説明図であって、締結ピンと締結ブッシュとがクランプされた状態を示している。
図6図1に示される締結装置の別の使用状態を示す縦断面説明図であって、締結ピンと締結ブッシュとがアンクランプにある状態を示している。
図7】本発明に従う締結装置の他の一例を示す縦断面説明図であって、ピストンと可動鉄心との連結形態の異なる例を示すものである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を更に具体的に明らかにするために、本発明に係る締結装置の具体的な構成について、図面を参照しつつ、詳細に説明することとする。
【0021】
先ず、図1には、本発明に従う構造を有し、マシニングセンタ等の工作機械のテーブルに取り付けられたり、組立作業や測定作業時における台座となる支持体としてのベースエレメントと、各種の治具、工具、装置、ワーク等が取り付けられる固定プレートとを、相互に連結するために用いられる締結装置(クランプ装置)の一例が、概略的に示されている。そこにおいて、締結装置は、締結ブッシュ10と締結ピン12とを有して、構成されている。そして、上下に対向配置された、締結されるべき2つの部材のうちの一方の部材である固定プレート14と、他方の部材であるベースエレメント16のうち、上方に位置する固定プレート14に対して、締結ブッシュ10が位置固定に取り付けられる一方、下方に位置するベースエレメント16に対して、締結ピン12が位置固定に取り付けられるようになっている。なお、それら締結ブッシュ10と締結ピン12とからなる締結装置は、一般に、複数個において用いられ、固定プレート14とベースエレメント16との間において、それらの四隅に配置される等して、用いられることとなる。
【0022】
ところで、かかる締結装置を構成する締結ブッシュ10は、従来と同様に、締結ピン12(具体的にはピン本体部28)の外径よりも所定寸法大きな内径を有する、全体として略円筒形状を呈している部材である。また、そのような締結ブッシュ10は、図面から明らかな如く、その内孔が中間部において小径化する段付き円周面を有しており、その段付き部に、テーパ状係合面18が形成されている一方、その外周部の下部には、所定厚さの外フランジ部20が、一体的に形成されている。なお、締結ブッシュ10は、固定プレート14の下面に開口するように設けられた凹所22内に嵌入せしめられてなる状態下において、外フランジ部20を貫通する複数の固定ボルト24が固定プレート14に設けられたネジ穴に螺入せしめられることによって、固定プレート14に対して位置固定に取り付けられている。
【0023】
一方、締結ブッシュ10と共に締結装置を構成する締結ピン12は、図面から明らかなように、上下方向(軸方向)に貫通する内孔を段付き形態において有する円筒形状を呈しており、その下部に、厚肉の矩形盤形状の外フランジ部26が設けられている。また、かかる外フランジ部26の上面には、その中央部から同心的に立ち上がる、上記の締結ブッシュ10の内孔内に挿入される円筒状のピン本体部28が、一体的に設けられていると共に、図示はしないが、外フランジ部26の矩形の角部において、固定ボルトを用いて、ベースエレメント16に対して固定せしめられている。より具体的には、締結ピン12を貫通する段付きの内孔は、ピン本体部28を軸方向に貫通し、更に外フランジ部26の中央部を貫通するように、設けられていると共に、上部が小径の内孔とされている一方、下部が大径の内孔とされているのである。
【0024】
そして、かかる締結ピン12の内孔内には、その軸方向に往復移動可能に配置せしめられたピストン部材30が収容されている。このピストン部材30は、上部と下部がそれぞれ大径部とされている一方、軸方向の中間部が小径部とされると共に、上部の大径部よりも下部の大径部の方が大なる外径となるように、構成されている。また、かかるピストン部材30における上部の大径部が、下方に向かって小径となるテーパ状の外周面とされて、ピン本体部28の小径の内孔内に位置せしめられ得るようになっている一方、その下部の大径部が、ピン本体部28の下部から外フランジ部26に延びる大径の内孔内に位置せしめられて、ピストン本体部28の軸方向に移動せしめられ得るようになっている。
【0025】
そして、かかるピストン部材30が、締結ピン12のピン本体部28から外フランジ部26に延びる内孔内を軸方向に往復移動せしめられることによって、ピン本体部28の周方向に従来と同様な構造において配設された、移動部材としてのスチールボール(鋼球)32の複数個が、ピン本体部28の軸方向に直角な方向に突出移動または後退移動せしめられ得るようになっている。即ち、スチールボール32は、従来と同様に、ピン本体部28の筒壁部を貫通するように設けられた収容孔内を、ピストン部材30の上部の大径部のテーパ状の外周面にて押し出されることにより、ピン本体部28の外周面から、その一部が突出せしめられるようになっている一方、ピストン部材30の軸方向中間部位に設けられたくびれ部となる小径部の存在によって、かかる小径部がスチールボール32の配設位置に移動したときには、スチールボール32は径方向内方への移動が許容され得ることとなり、これによって、スチールボール32は後退移動させられて、ピン本体部28の外周面からの突出が解消され得るようになっているのである。
【0026】
ところで、締結ピン12には、図1及び図2から明らかな如く、ピン本体部28の内孔内に収容されたピストン部材30を、その軸方向に移動せしめるための作動手段として、自己保持型ソレノイド40が、外フランジ部26から下垂した形態において配設されている。具体的には、外フランジ部26に対して、逆L字型の取付ブラケット42が垂下形態においてボルト固定されており、この取付ブラケット42に対して、自己保持型ソレノイド40が、複数のボルト44によって固定、保持されているのである。また、ソレノイド40は、図2(b)に示される如く、矩形の平面形態を呈するものであって、その外周部を覆うように、コの字型の2つのカバー46a,46bが、矩形形状を呈する形態で組み合わされて、それぞれボルト47a,47bにて取り付けられて、かかるソレノイド40を保護し得るようになっている。
【0027】
ここで、自己保持型のソレノイド40は、図1図2から明らかな如く、箱形のケース48内に、可動鉄心50と、その回りに位置する永久磁石52と、2つのコイル54a,54bとを収容してなる構造を有している。具体的には、ケース48の中心部に、ロッド形状の可動鉄心50が位置せしめられており、その外周部に固定されたプランジャ56と共に、スリーブ58内において、可動鉄心50の軸方向(図1において上下方向)に移動せしめられ得るようになっている。なお、そのような可動鉄心50の上下方向の移動は、ケース48の天井部に取り付けた上ベース60a及びケース48の底部に取り付けた下ベース60bに、プランジャ56が当接することにより、規制されて、その移動端が規定されるようになっていると共に、かかる上ベース60aを貫通し、また下ベース60bには、その中央孔に嵌入可能とされて、可動鉄心50が、その軸方向に移動可能となるように、構成されている。
【0028】
また、永久磁石52を上下に挟むようにして、上コイル54aと下コイル54bとが配設されており、それらコイル54a,54bへの、電線62を通じての通電によって、同方向への磁力が発生せしめられて、可動鉄心50が、プランジャ56と共に、軸方向の一方の側に移動せしめられ、そして、その移動端において、プランジャ56が、永久磁石52にて位置固定に吸引乃至は吸着されて、保持されるようになっている。一方、電線60を通じての逆方向の電流の通電によって、2つのコイル54a,54bには、上記とは逆方向の磁力が発生せしめられることにより、可動鉄心50は、プランジャ56と共に、軸方向において前記とは逆方向に移動せしめられることとなり、そしてその移動端において、プランジャ56が、永久磁石52にて吸引乃至は吸着されて、位置固定に保持されることとなるのである。
【0029】
そして、ソレノイド40における可動鉄心50の上部に設けられたネジ部には、図1に示される如く、調整ナット64とコネクタ66とが螺合せしめられており、かかるコネクタ66が、ピストン部材30の下部に嵌合せしめられることによって、ピストン部材30に対して連結されている。これにより、可動鉄心50の軸方向への移動に従って、ピストン部材30も、その軸方向に移動せしめられ得るようになっているのである。
【0030】
より詳細には、図3より明らかなように、コネクタ66は、大径の頭部66aと小径の脚部66bとから構成され、そしてそれらの中心部を貫通するように、ネジ穴66cが設けられている。なお、頭部66aの対応する側部が切り落とされて、互いに平行な二つの平坦面60d,60dが、形成されている。
【0031】
一方、ピストン部材30の下部の大径部には、コネクタ66の頭部66a及び脚部66bがそれぞれ軸直角方向において遊嵌形態となるように挿入せしめられ得る、U字形状の頭部挿入孔68a及び脚部挿入孔68bが、それぞれ側面に開口する形態において、設けられている。即ち、頭部挿入孔68aのU字の開口幅は、コネクタ66の頭部66aにおける対向する平坦面66d,,66d間の距離よりも大となる大きさにおいて設けられており、また脚部挿入孔68bのU字の開口幅にあっても、コネクタ66の脚部66bの直径よりも大なる大きさとなるように設けられているのである。なお、頭部挿入孔68aのピストン部材30の軸方向高さ(長さ)は、そこに嵌入乃至は挿入されるコネクタ66の頭部66aとの間のクリアランスが可及的に小さくなるように設定されており、これによって、可動鉄心50の軸方向移動が、ピストン部材30に対して、ガタツキが極力ないようにして、伝達され得るようになっている。
【0032】
従って、図4(a)及び(b)に示されるように、可動鉄心50の上部に設けたネジ部に調整ナット64とコネクタ66とを螺合せしめてなる形態において、ピストン部材30の下部の大径部の側方に開口する頭部挿入孔68a及び脚部挿入孔68b内に嵌入して、ピストン部材30に対してコネクタ66を組み込むと、図3(a)~(c)に示される如く、コネクタ66の頭部66aの外周面と頭部挿入孔68aの内面との間には、所定の間隙が形成されるようになるのであり、また脚部66bの外周面と脚部挿入孔68bの内面との間にも、所定の間隙が形成されることとなるのであって、これにより、ピストン部材30と可動鉄心50との間の径方向のズレが一方の側から他方の側に伝達されないようにして、可動鉄心50の芯ズレや振れによる損傷、ひいてはソレノイド40の損傷が、有利に回避され得るようになっているのである。
【0033】
なお、可動鉄心50の上部ネジ部に、コネクタ66に先立って、螺合せしめられる調整ナット64は、その螺入量に従って、コネクタ66を介して連結されるピストン部材30の上下方向のストローク位置(移動位置)を調整して、後述せるように、可動鉄心50の下方への移動端への移動に伴い、ピストン部材30が軸方向下方に移動せしめられて、スチールボール32が、ピン本体部28から突出せしめられることによって、締結ブッシュ10と締結ピン12とが確実にクランプ状態となるように構成されている一方、可動鉄心50の上方の移動端への移動においては、軸方向上方に移動せしめられたピストン部材30の上側大径部による押圧が解除されたスチールボール32が、ピン本体部28内に移動せしめられて、締結ブッシュ10に対する締結ピン12の締結が解除されてなるアンクランプ状態が、確実に実現され得るようになっている。
【0034】
このような構造の締結装置において、図1に示される状態から、締結ブッシュ10内に締結ピン12のピン本体部28が差し込まれた後、電線62を通じて、ソレノイド40のコイル54a,54bに通電して、図5において矢印にて示される如く、磁力を発生せしめることにより、可動鉄心50を軸方向下方に移動させて、ピストン部材30の上部大径部にて、スチールボール32をピン本体部から外方に突出させることにより、図5に示される如き、締結ブッシュ10と締結ピン12とのクランプ状態が実現されることとなるのである。なお、ソレノイド40において、下方の移動端まで移動せしめられた可動鉄心50は、それに固定されているプランジャ56が、永久磁石52にて吸着固定されることにより、その移動端に、保持されることとなる。
【0035】
また、図5に示されるクランプ状態から、締結ブッシュ10と締結ピン12との締結を解除して、図6に示される如きアンクランプ状態とするには、2つのコイル54a,54bに対して、電線62により供給される、外部電源からの電流を切り替えて、図5に示されるクランプ状態において供給された電流とは逆方向の電流を供給することにより、可動鉄心50に対して、それを軸方向上方に移動させる磁力を、図6において白抜き矢印にて示される如く、発生せしめて、可動鉄心50が上方への移動端まで移動せしめられるようにして、ピストン部材30を軸方向上方に移動させることにより、スチールボール32は、ピストン部材30の上部大径部による拘束が解除されて、ピストン部材30の中間の小径部に入り込み得ることとなる。そして、これによって、スチールボール32がピン本体部28内に後退して、ピン本体部28からの突出が解消されることにより、締結ブッシュ10と締結ピン12との間の締結が、解除されることとなるのである。なお、上方端に移動せしめられた可動鉄心50は、それに固定されたプランジャ56が、永久磁石52にて吸着されて、位置固定に保持されることとなるのであり、その状態では、コイル54a,54bへの通電が解除されるようになっている。また、かかるピストン部材30が移動せしめられて、その上端が、締結ブッシュ10の取り付けられた固定プレート14の凹所22の底面に当接せしめられ、更に突き出すようにすることによって、締結ブッシュ10と締結ピン12との間の縁切りが有利に行われ得るようになっている。
【0036】
このように、上述した構成の締結装置(クランプ装置)にあっては、ソレノイド40への通電のみによって、可動鉄心50を、その軸方向に移動せしめ、そして、ピストン部材30が、その軸方向に移動せしめられるようになっているところから、そのようなピストン部材30の軸方向への移動に対応して、スチールボール32の突出・後退が実現されるようにすることによって、締結ブッシュ10と締結ピン12との締結又はその解除を行うことが出来ることとなるのであり、これによって、従来の締結装置(クランプ装置)のような動力源(空圧・油圧)が不要となるところから、そのような動力源を用いた駆動(作動)機構、更にはその発生源を設ける必要がないことは勿論、そのような空圧・油圧を給排する流路を設ける必要がないところから、構造の簡略化が有利に図られ得ると共に、製造コストの低減にも、有利に寄与し得ることとなる。
【0037】
また、ここでは、ソレノイド40を用いた可動鉄心50によるピストン部材30の作動に際して、可動鉄心50が、その移動端において、永久磁石にて吸引乃至は吸着されて、位置固定に保持されるものであるところから、可動鉄心50の移動時においてのみ通電され、電力を消費するのみであるところから、省エネ効果を有利に享受し得ることとなることに加えて、油空圧による作動方式に比べて、迅速な応答性が実現され得、例えば、40ms程度で動作を完了させることが可能となるのである。
【0038】
加えて、ピストン部材30の作動にソレノイド40を用いているところから、そのようなソレノイド40の動作は、スイッチのみの制御でよく、そのために、従来の如き複雑なシーケンス制御が不要となる利点があることに加えて、電気製品を扱う経験が比較的浅い作業者であっても、その取り扱いが容易である特徴も有している。
【0039】
ところで、上記した実施形態においては、ソレノイド40の可動鉄心50とピストン部材30とが、コネクタ66を介して接続されていたが、また、図7に示されるように、コネクタ(66)を用いることなく、可動鉄心50とピストン部材30とを直接に連結せしめて、一体化させ、一つの部材として構成することも可能である。
【0040】
すなわち、かかる図7に示される締結装置においては、ピストン部材30の下端部に開口するように設けられたネジ穴に対して、ソレノイド40における可動鉄心50が、その上部に設けられたネジ部において螺合せしめられることにより、ピストン部材30と可動鉄心50とが直結されているのであり、これによって、可動鉄心50の軸方向の移動に対応して、ピストン部材30にあっても、その軸方向移動が実現されるようになっているのである。なお、ここにおいても、調整ナット64が、可動鉄心50の上部ネジ部に螺合せしめられており、それによって、更に可動鉄心50に螺合されるピストン部材30の軸方向のストローク範囲(移動範囲)が制御されて、スチールボール32の突出・後退移動が確実に行われ得るようになっている。また、ここでは、締結ブッシュ10が、その外周部に設けたネジ部において、固定プレート14のネジ穴に螺合せしめられることによって、固定プレート14に固定されている一方、締結ピン12が、そのピン本体部28の外周部に設けたネジ部において、ベースエレメント16を貫通するネジ穴に螺合せしめられることによって、ベースエレメント16に固定されるようになっている。その他、図7に示される締結装置において、前述した実施形態のものと同様な部位には、同一の番号を付して、詳細な説明は省略することとする。
【0041】
以上、本発明の具体的な構成について、本発明に係る締結装置の代表的な実施形態に基づいて詳述してきたが、それは、あくまでも、例示に過ぎないものであって、本発明は、上記した記載によって、何等の制約をも受けるものではないことが、理解されるべきである。
【0042】
先ず、締結ブッシュ10と締結ピン12とを移動部材(スチールボール32)を用いて締結せしめる構造としては、例示の実施形態に係る構造のみならず、公知の各種の構造を採用し得ることは言うまでもないところである。
【0043】
例えば、例示の実施形態では、移動部材が複数のスチールボール32にて構成されているが、かかる移動部材は、締結されるべき2つの部材の対向方向に対して直角な方向に移動せしめられて、締結ピンから突出/引込み(後退)移動せしめられるように構成されるものであれば、その構造は、何等限定されるものではなく、従って、移動部材を適当なコロ部材や板材或いはブロック体等にて構成しても、何等差し支えない。
【0044】
また、そのような移動部材の配設個数にあっても、必ずしも、複数とされている必要はなく、締結ブッシュ10と締結ピン12との間の確実なクランプが行われ得るものであれば、その一つだけを配設するようにすることも出来る。
【0045】
さらに、例示の実施形態では、移動部材たる複数のスチールボール32が、締結ピン12のピン本体部28に設けられた貫通孔内に配設されて、かかる貫通孔から突出/引込み移動せしめられ得るようになっているが、かかる移動部材の配設位置や移動構造も、特に例示の形態に限定されるものでないことは、言うまでもないところである。
【0046】
また、締結ピン12のピン本体部28における内側空所内に収容されたピストン部材30を、その軸方向に移動せしめる作動手段を構成するソレノイドにあっても、例示の如き双安定タイプの自己保持型ソレノイド40が好適に採用され得るところであるが、それに限定されるものではなく、可動鉄心がコイルへの通電によって移動せしめられ、そしてその可動鉄心の移動にて、ピストン部材がその軸方向に移動せしめられ得るようにした、公知の各種のソレノイドを用いることが可能である。
【0047】
特に、本発明にあっては、ソレノイドとして、コイルへの通電によって可動鉄心を軸方向に移動せしめる一方、かかる移動させられた可動鉄心を永久磁石にて吸引乃至は吸着、保持して、その移動位置を固定するようにした自己保持型ソレノイドが、好適に用いられ得るところであるが、永久磁石を用いることなく、コイルにて発生せしめられる磁力によって移動させられた可動鉄心を位置固定に保持する、公知の他の構造を有するソレノイドであっても、何等差し支えない。
【0048】
また、自己保持型ソレノイドとしては、コイルへの通電によって軸方向に移動せしめられる可動鉄心を、その移動方向の両端位置において、それぞれ永久磁石にて磁着して、位置固定に保持するようにした双安定ソレノイドであることが望ましいものではあるが、一方の移動端のみにおいて、可動鉄心を永久磁石にて磁着保持するようにする一方、他方の移動端においては、コイルへの通電を続行して、それによる磁力にて保持したり、或いは可動鉄心を機械的乃至は物理的作用にて位置固定に保持するようにした構造の、単安定タイプのソレノイドであっても、何等差し支えない。
【0049】
さらに、自己保持型ソレノイドとして、コイルへの通電により可動鉄心を一方向に作動せしめる1コイル型や、双方向に作動せしめられ得る2コイル型と称される形式のものを用いることが出来る。そこで、1コイル型は、コイルへの通電によって可動鉄心を一方向に移動せしめ得るが、逆方向への可動鉄心の移動には、逆方向への電流の通電や復帰バネを利用する等の方式が採用されることとなる。また、2コイル型においては、2つのコイルが可動鉄心の軸方向において並列的に位置するように配置され、それら2つのコイルに独立して互いに逆方向の電流が流されることによって、可動鉄心が、その軸方向において双方向に駆動せしめられ得るようになっているものである。
【0050】
加えて、例示の実施形態では、本発明を、マシニングセンタ等の工作機械のテーブルに取り付けられたり、組立作業や測定作業時における台座となる支持体としてのベースエレメント16と、治具や工具、装置、ワーク等が固定された固定プレート14とを相互に締結するために用いられる締結装置に対して、適用したものの具体例が示されているが、本発明が、ベースエレメント16と固定プレート14との組合せ以外の、互いに連結されるべき2つの様々な部材を相互に締結するために用いられる締結装置に対しても、有利に適用され得るものであることは、勿論である。
【0051】
その他、一々列挙はしないが、本発明が、当業者の知識に基づいて、種々なる変更、修正、改良等を加えた態様において実施され得るものであり、また、そのような実施態様が、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、何れも、本発明の範疇に属するものであることは、言うまでもないところである。
【符号の説明】
【0052】
10 締結ブッシュ 12 締結ピン
14 固定プレート 16 ベースエレメント
18 テーパ状係合面 20 外フランジ部
22 凹所 24 固定ボルト
26 外フランジ部 28 ピン本体部
30 ピストン部材 32 スチールボール
40 自己保持型ソレノイド 42 取付ブラケット
44 ボルト 46a,46b カバー
47a,47b ボルト 48 ケース
50 可動鉄心 52 永久磁石
54a,54b コイル 56 プランジャ
58 スリーブ 60a 上ベース
60b 下ベース 62 電線
64 調整ナット 66 コネクタ
66a 頭部 66b 脚部
66c ネジ穴 60d 平坦面
68a 頭部挿入孔 68b 脚部挿入孔
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7