(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025025319
(43)【公開日】2025-02-21
(54)【発明の名称】電圧調整装置及び電圧調整方法
(51)【国際特許分類】
H02J 3/16 20060101AFI20250214BHJP
【FI】
H02J3/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023129984
(22)【出願日】2023-08-09
(71)【出願人】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(71)【出願人】
【識別番号】000222037
【氏名又は名称】東北電力株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】304021288
【氏名又は名称】国立大学法人長岡技術科学大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001036
【氏名又は名称】弁理士法人暁合同特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊東 洋一
(72)【発明者】
【氏名】有松 健司
(72)【発明者】
【氏名】芳賀 仁
(72)【発明者】
【氏名】知識 凜
【テーマコード(参考)】
5G066
【Fターム(参考)】
5G066DA01
5G066DA08
(57)【要約】
【課題】タップ切換時の急激な電圧変動を抑制する。
【解決手段】
電圧調整装置10は、トランス20と、調整電源40と、を含む。前記トランス20は、一次巻き線21と、二次巻き線22と、前記一次巻き線21又は前記二次巻き線22のいずれか一方に配置されたタップ25と、を含む。前記調整電源40は、前記一次巻き線21又は前記二次巻き線22に対して、直列に接続されたインバータ41である。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電圧調整装置であって、
トランスと、
調整電源と、を含み、
前記トランスは、
一次巻き線と、
二次巻き線と、
前記一次巻き線又は前記二次巻き線のいずれか一方に配置されたタップと、を含み、
前記調整電源は、前記一次巻き線又は前記二次巻き線に対して、直列に接続されたインバータである、電圧調整装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電圧調整装置であって、
前記インバータは、タップ切換時に、負荷電圧の変動を滑らかにする協調制御を実行する、電圧調整装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の電圧調整装置であって、
負荷電圧の振幅を振幅指令値にフィードバック制御する制御回路と、
負荷電圧の振幅の指令値を前記制御回路に出力する振幅指令部を有し、
前記振幅指令部は、
前記トランスの二次電圧の振幅を検出する振幅検出器と、
前記振幅検出器の検出信号の一次遅れ信号を、負荷電圧の振幅の指令値として出力する一次遅れフィルタと、を備える、電圧調整装置。
【請求項4】
電圧調整方法であって、
タップ切換時に、トランスの一次巻き線又は二次巻き線に対して直列に接続されたインバータの出力電圧を変化させることにより、負荷電圧の変動を滑らかにする、電圧調整方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電圧を調整する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
配電設備の一つに、電圧調整装置がある。特許文献1は、トランスのタップ切換により、電圧を調整する点を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
タップ付きのトランスは、電圧の調整が段階的であり、タップ切換時に、電圧が急激に変動する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
電圧調整装置は、トランスと、調整電源と、を含む。前記トランスは、一次巻き線と、二次巻き線と、前記一次巻き線又は前記二次巻き線のいずれか一方に配置されたタップとを含む。前記調整電源は、前記一次巻き線又は前記二次巻き線に対して直列に接続されたインバータである。
【発明の効果】
【0006】
電圧の連続的な調整が可能であり、タップ切換時の電圧変動を滑らかにすることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【発明を実施するための形態】
【0008】
(本実施形態の概要)
(1)本発明の一実施形態に係る電圧調整装置は、トランスと、調整電源と、を含む。前記トランスは、一次巻き線と、二次巻き線と、前記一次巻き線又は前記二次巻き線のいずれか一方に設置されたタップとを含む。前記調整電源は、前記一次巻き線又は前記二次巻き線に対して直列に接続されたインバータである。
【0009】
本発明の一実施形態に係る電圧調整装置によれば、タップによる切換電圧の中間の電圧をインバータにより出力することができ、電圧の連続的な調整が可能である。そのため、タップ切換時の電圧変動を滑らかにすることが出来る。
【0010】
(2)上記(1)に記載の電圧調整装置において、前記インバータは、タップ切換時に、負荷電圧の変動を滑らかにする協調制御を実行してもよい。協調制御の実行により、タップ切換時に、負荷電圧の急激な変動を緩和することが出来る。
【0011】
(3)上記(1)又は(2)に記載の電圧調整装置において、負荷電圧の振幅を振幅指令値にフィードバック制御する制御回路と、負荷電圧の振幅の指令値を前記制御回路に出力する振幅指令部を有してもよい。前記振幅指令部は、前記トランスの二次電圧の振幅を検出する振幅検出器と、前記振幅検出器の検出信号の一次遅れ信号を、負荷電圧の振幅の指令値として出力する一次遅れフィルタと、を備える構成でもよい。負荷電圧は、トランスの二次電圧の一次遅れ電圧に調整されるから、タップ切換時における負荷電圧の急激な電圧変動を緩和し、電圧変動を滑らかにすることが出来る。
【0012】
<実施形態1>
1.電圧調整装置10の説明
図1は電圧調整装置10の回路図である。
図1にて開示する電圧調整装置10は、三相のトランス20U、20V、20Wと、3相の調整電源40から構成されている。
【0013】
トランス20U、20V、20Wは、一次巻き線21U、21V、21Wと、二次巻き線22u、22v、22wと、タップ25U、25V、25Wを備える。一次巻き線21U、21V、21Wは、交流電源(図略)に接続され、二次巻き線22u、22v、22wは、負荷Rに接続される。
【0014】
タップ25U、25V、25Wは、一次巻き線21U、21V、21Wと二次巻き線22u、22v、22wの巻き線比nを変更する。この例では、タップ25U、25V、25Wを、一次巻き線21U、21V、21Wに設けている。
【0015】
調整電源40は、二次巻き線22u、22v、22wに対して、直列に接続されている。調整電源40は、
図2に示すように、三相インバータ41である。
【0016】
三相インバータ41は、直流電源の直流電圧を三相電圧に変換して出力し、PWM制御により電圧の連続的な調整が可能である。尚、三相インバータ41の直流電源は、コンデンサでもよいし、二次電池でもよい。
【0017】
図3は、電圧調整装置10の等価回路である。負荷電圧VLは、数式1にて示すように、二次巻き線22の二次電圧V2と三相インバータ41の出力電圧Vinvの和になり、タップ25による段階的な電圧調整(右辺1項目)と、三相インバータ41による連続的な電圧調整(右辺2項目)が可能である。
【0018】
VL=V2+Vinv・・・・・(1)
【0019】
以下の説明において、一次巻き線21U、21V、21Wを総称して一次巻き線21とし、二次巻き線22u、22v、22wを総称して二次巻き線22とする。また、タップ25U、25V、25Wを総称してタップ25とする。
【0020】
図1、
図2では、電圧調整装置10の一例として、タップ25をトランス20の一次側に設け、三相インバータ41を二次側に設けた。タップ25、三相インバータ41の配置は、上記の例に限らず、
図4に示すように、タップ25をトランス20の二次側に設け、三相インバータ41をトランス20の一次側に設けてもよい。
【0021】
また、
図5に示すように、タップ25と三相インバータ41をトランス20の一次側に設置する構成や、
図6に示すように、タップ25と三相インバータ41をトランス20の二次側に設置する構成にすることも出来る。また、トランス20の結線は、Y-Y結線に限らず、Δ-Y結線やY-Δ結線、Δ―Δ結線でもよい。
【0022】
また、
図7は、
図1に示す電圧調整装置10に対してコンデンサCを追加している。コンデンサCは3相の線間に配置され、三相インバータ41の出力段に設けられたインダクタンスLと共に、LCフィルタを構成する。LCフィルタにより三相インバータ41のスイッチングノイズを抑圧することが出来る。
【0023】
図8は、電圧調整装置10の制御回路50Aである。制御回路50Aは、直流電圧補償器51、三相指令発生器53、電圧補償器55、PWM信号発生器57を備える。直流電圧補償器51は、三相インバータ41の直流電圧Vdcを一定に保つため、Vdcをフィードバックし、直流電圧Vdcが指令値Vdcrefと一致するような位相信号および/または振幅信号を三相指令発生器53に出力する。
【0024】
三相指令発生器53は、直流電圧補償器51から出力される信号と、負荷電圧VLの振幅指令値VLrefと、電源電圧V1U、V1V、V1Wの検出値に基づいて、交流電源の電源電圧V1U、V1V、V1Wに同期し、負荷電圧VLの振幅指令値VLrefに対応した電圧信号(三相交流信号)を出力する。
【0025】
電圧補償器55には、電圧検出器により検出される三相負荷電圧VLU、VLV、VLWのフィードバック信号と、三相指令発生器53の電圧信号とに基づいて、負荷電圧VLの振幅が振幅指令値VLrefと一致するように、PWM信号発生器57に対して、制御信号を出力する。
【0026】
このように制御回路50は、三相インバータ41の出力電圧調整により、負荷電圧VLの振幅を振幅指令値VLrefにフィードバック制御することが出来る。
【0027】
図9は、トランス20の二次電圧V2を変化させた時の負荷電圧VLの変動をシミュレーションした結果である。シミュレーションの条件は以下の通りであり、
図9の時刻t1にて、トランス20の二次電圧V2を切り換えている。
【0028】
V2:200V⇒100V
VL(指令値):200V
負荷R:75Ω、インダクタL:なし
【0029】
シミュレーションの結果、タップ切換により、トランス20の二次電圧V2がステップ状に変化しても、負荷電圧VLの振幅は概ね一定に保たれており、制御回路50の有効性(フィードバック制御の有効性)が確認された。
【0030】
図10は、交流電源の電源電圧が高調波を含有している場合について、負荷電圧VLの変動をシミュレーションした結果であり、
図10の時刻t1にて、電源電圧に高調波を重畳させている。
図10に示すように、三相インバータ41の出力電圧調整により高調波成分が補償されることで、負荷電圧VLを概ね正弦波にすることが出来ている。
【0031】
図11は、タップ切換時における電圧変化を示す図である。この例では、時刻t1でトランス20の二次電圧V2がステップ状に変化(降下)し、時刻t2にてトランス20の二次電圧V2がステップ状に変化(上昇)している。
【0032】
図12は、振幅指令部70のブロック図である。振幅指令部70は、トランス20の二次電圧V2の振幅を検出する振幅検出器71と一次遅れフィルタ73からなる。振幅指令部70は、トランス20の二次電圧V2の検出値を、一次遅れフィルタ73に通した信号を、負荷電圧VLの振幅指令値VLrefとして、制御回路50Aの三相指令発生器53に出力する。
【0033】
これにより、タップ切換時、負荷電圧VLの振幅は三相インバータ41によりトランス20の二次電圧V2の一次遅れ電圧に調整(協調制御)されるから、タップ切換時における負荷電圧VLの急激な電圧変動を緩和し、電圧変動を滑らかにすることが出来る(
図11のA部)。なお、協調制御とは、タップ切換時の負荷電圧VLの変動を滑らかにするために、三相インバータ41とタップ切換動作を協調して制御させることをいう。
【0034】
図13、
図14は、タップ切換時の負荷電流ILの変動を、三相インバータ41による協調制御が無い場合と有る場合について、シミュレーションした結果である。シミュレーションの条件は以下の通りである。
【0035】
タップ切換前、V2=VL=100Vである。
タップ切換によりV2を100Vから150Vに変更する。
負荷Rは、コンデンサインプット型の整流器である。
【0036】
図13に示すように、三相インバータ41の協調制御が無い場合、タップ切換時、負荷Rに対して過大な切換電流(B部)が流れる。
図14に示すように、三相インバータ41の協調制御がある場合、負荷Rに対して過大な切換電流が流れることを抑えることが出来る。
【0037】
2.電圧調整装置10の適用例
図15は、需要家システムS1のブロック図である。需要家システムS1は、電力系統1に連系する。電力系統1は、電気事業者が運営する系統であり、三相の系統電源3を有している。
【0038】
需要家システムS1は、電圧調整装置10、複数の負荷設備110~130及びコントローラ150を含む。第1負荷設備110、第2負荷設備120は交流負荷、第3負荷設備130は直流負荷である。
【0039】
コントローラ150は、各負荷設備110~130と通信可能に接続されており、各負荷設備110~130との間で、種々の情報を通信する。
【0040】
通信される情報には、各負荷設備110~130の運転状態(例えば、モータの回転速度など)に関する情報が含まれる。
【0041】
コントローラ150は、各負荷設備110~130の運転状態に基づいて、電圧調整装置10を制御することにより、需要家システムS1の配電電圧Vinを最適値にコントロールする。
【0042】
3.効果説明
実施形態1に係る電圧調整装置10は、トランス20と三相インバータ41を併用しているから、タップ25による切換電圧の中間の電圧を三相インバータ41により出力することができ、電圧の連続的な調整が可能である。そのため、タップ切換時における負荷電圧VLの急激な変動を緩和することが出来る。また、電圧調整装置10を三相インバータ41だけで構成する場合に比べて、容量の小さなインバータ41の使用が可能であり、コストメリットがある。
【0043】
<実施形態2>
図16は電圧調整装置10の制御回路50Bのブロック図である。
図16にて開示する制御回路50Bは、
図8にて開示する制御回路50Aに対して、ハイパスフィルタ61と電流補償器63を追加した点が相違している。
【0044】
ハイパスフィルタ61は、電流検出器による負荷電流ILの検出値から、低周波成分を抑圧し、高周波成分のみ通過させる。尚、
図16中のiLuh*、iLvh*、iLwh*はハイパスフィルタの出力信号(負荷電流ILの高調波成分)である。
【0045】
電流補償器63には、電圧補償器55から出力される信号に対して、ハイパスフィルタ61の出力信号を減算した信号が入力される。
【0046】
電流補償器63は、入力される信号に基づいて、負荷電圧VLの振幅が振幅指令値VLrefと一致し、かつ負荷電流ILの高調波成分が抑圧されるように、PWM信号発生器57に対して制御信号(指令値)を出力する。なお、高調波抑制制御とは、負荷電流ILの高調波成分をフィードバックし、電流補償器63でPWM信号発生器57に対する指令値を補正することにより、負荷電流ILの高調波成分を抑制する制御のことをいう。
【0047】
図17、
図18は、タップ切換時の負荷電流ILの変化を、高調波抑制制御が無い場合と有る場合について、シミュレーションした結果である。
【0048】
図17に示すように、高調波抑制制御が無い場合、負荷電流ILにスパイク状の歪が発生している。
図18に示すように、高調波抑制制御が有る場合、負荷電流ILは、エッジが丸みを帯びた形状に変化しており、スパイク状の歪が緩和している。
【0049】
<他の実施形態>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
【0050】
(1)実施形態1において、電圧調整装置10により、需要家の配電電圧Vinを調整した例を示したが、電圧調整装置10の用途は、配電電圧Vinの調整に限定されるものではない。電圧調整を目的としたものであれば、適宜適用することが出来る。
【0051】
(2)実施形態1において、電圧調整装置10を三相用としたが、
図19に示すように、単相用とすることも可能である。
【0052】
(3)実施形態1において、三相インバータ41による協調制御において、負荷電圧VLの振幅の指令値を一次遅れフィルタ73を利用して制御する形態を例示した。タップ切換時に負荷電圧VLの変動を滑らかにするものであれば、負荷電圧VLの振幅を別の方法で制御してもよい。
【符号の説明】
【0053】
10 電圧調整装置
20 トランス
21 一次巻き線
22 二次巻き線
25 タップ
41 インバータ
50A、50B 制御回路
70 振幅指令部
71 振幅検出器
73 一次遅れフィルタ