(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025025333
(43)【公開日】2025-02-21
(54)【発明の名称】バンドル型超電導線材および超電導コイル
(51)【国際特許分類】
H01F 6/06 20060101AFI20250214BHJP
H01B 12/06 20060101ALI20250214BHJP
【FI】
H01F6/06 140
H01F6/06 120
H01B12/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023130011
(22)【出願日】2023-08-09
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001380
【氏名又は名称】弁理士法人東京国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宇都 達郎
(72)【発明者】
【氏名】戸坂 泰造
【テーマコード(参考)】
5G321
【Fターム(参考)】
5G321AA04
5G321BA03
5G321CA04
5G321CA24
5G321CA26
5G321CA27
5G321CA28
5G321CA41
5G321CA42
5G321CA50
(57)【要約】
【課題】熱伝導が良く、超電導層の劣化が生じにくいバンドル型超電導線材とし、かつバンドル型超電導線材を構成する複数の超電導線材同士のテープ幅方向の位置ずれを抑制する。
【解決手段】バンドル型超電導線材1は、金属の基板22上に他の層とともに積層された酸化物の超電導層25を有し、テープ状を成し、かつテープ面60が互いに向き合うように束ねられた複数枚の超電導線材20と、複数枚の超電導線材20の周囲を一体的に覆い、絶縁性を有する絶縁材層41と、複数枚の超電導線材20の対向するテープ面60の間の少なくとも一部に設けられ、粘着性を有する粘着剤層42とを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属の基板上に他の層とともに積層された酸化物の超電導層を有し、テープ状を成し、かつテープ面が互いに向き合うように束ねられた複数枚の超電導線材と、
複数枚の前記超電導線材の周囲を一体的に覆い、絶縁性を有する絶縁材層と、
複数枚の前記超電導線材の対向する前記テープ面の間の少なくとも一部に設けられ、粘着性を有する粘着剤層と、
を備える、
バンドル型超電導線材。
【請求項2】
前記絶縁材層は、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリウレタン、ポリエステル、ポリビニルブチラール、ポリビニルホルマールからなる群より選ばれた少なくとも1つの材料からなり、
前記粘着剤層は、アクリル系粘着剤、ウレタン系粘着剤、シリコーン系粘着剤、ゴム系粘着剤からなる群より選ばれた少なくとも1つの材料からなる、
請求項1に記載のバンドル型超電導線材。
【請求項3】
前記粘着剤層と前記超電導線材との単位面積当たりの粘着力は、前記粘着剤層のガラス転移温度以下になったとき、前記絶縁材層と前記超電導線材との単位面積当たりの接着力よりも小さく、かつ前記超電導層の単位面積当たりの許容剥離力よりも小さくなる、
請求項1または請求項2に記載のバンドル型超電導線材。
【請求項4】
前記粘着剤層は、複数枚の前記超電導線材同士の間隙のうち、少なくとも前記超電導線材のテープ幅方向の両端部に設けられており、かつ前記テープ幅方向の中央部に前記粘着剤層が設けられていない領域が存在する、
請求項1または請求項2に記載のバンドル型超電導線材。
【請求項5】
前記超電導線材は、テープ幅方向の中央部に比べて端部が厚くなっており、
複数枚の前記超電導線材は、前記テープ幅方向の端部の少なくとも一部が互いに直に接触している、
請求項1または請求項2に記載のバンドル型超電導線材。
【請求項6】
前記超電導線材の2つの前記テープ面のうち、それぞれの前記テープ面から前記基板および前記超電導層までの距離を比較したときに、前記基板よりも前記超電導層に近い位置にある前記テープ面を近位面とし、前記基板よりも前記超電導層から遠い位置にある前記テープ面を遠位面とした場合に、
複数枚の前記超電導線材は、互いに前記近位面と前記遠位面が対向するように配置されている、
請求項1または請求項2に記載のバンドル型超電導線材。
【請求項7】
前記超電導線材の2つの前記テープ面のうち、それぞれの前記テープ面から前記基板および前記超電導層までの距離を比較したときに、前記基板よりも前記超電導層に近い位置にある前記テープ面を近位面とし、前記基板よりも前記超電導層から遠い位置にある前記テープ面を遠位面とした場合に、
複数枚の前記超電導線材のうち、積層される方向で最も外側に配置されている前記超電導線材は、前記近位面が他の前記超電導線材と対向し、かつ前記遠位面が外側を向くように配置されている、
請求項1または請求項2に記載のバンドル型超電導線材。
【請求項8】
請求項1または請求項2に記載のバンドル型超電導線材を巻き回して形成されている、
超電導コイル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、バンドル型超電導線材および超電導コイルに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、レアアース(RE:Rare Earth)を含む(RE)Ba2Cu3O7を用いたREBCO線材を代表とする高温超電導線材を用いた超電導コイルの研究が盛んにされている。特に、厚さ50~100μm程度の基板上に、複数の種類の層を形成して製作される高温超電導線材は、高磁場下での電流容量が大きいという特性があり、高磁場を発生させる超電導コイルの実現が期待されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第5395870号公報
【特許文献2】特許第6505565号公報
【特許文献3】特開2018-26233号公報
【特許文献4】特開2021-15729号公報
【特許文献5】特許第5558794号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
高温超電導線材を巻き回し、樹脂を含浸して得られる超電導コイルは、含浸樹脂と高温超電導線材との熱収縮率の差に起因して高温超電導線材の内部の超電導層に剥離力が働き、層間剥離が生じて超電導特性が劣化する可能性があるという課題がある。この層間剥離を回避する技術としては、超電導コイルを非含浸(樹脂を含浸させずに)で製作する技術、コイルターン間を離型する技術が知られる。しかし、超電導コイルを非含浸で製作する場合は、機械的強度が低下するというデメリットが生じる。
【0005】
また、コイルターン間を離型する技術としては、超電導線材と離型材テープを共巻する技術が知られている。しかし、この技術では、離型材テープの厚み分だけ、超電導コイルの外径が増大してしまい、超電導コイルとしての電流密度が低下してしまうという課題がある。また、離型材テープの厚みを薄くする試みもなされたが、薄い離型材テープは、扱いが難しく、容易に断線したり変形したりしてしまう。このため、離型材テープを薄くすることによる電流密度の向上にも限界がある。これらの事情から、コイルターン間を離型せずとも、超電導線材の層間剥離による劣化を回避することが求められている。
【0006】
超電導線材自体に離型作用を持たせる技術としては、2枚の超電導線材を重ねた(束ねた)構造(いわゆるバンドル構造)において、超電導線材の幅方向の端部同士を結合させることで、超電導線材の幅方向の中央部付近に空洞を作る技術が知られている。しかし、この技術では、超電導線材の幅方向の端部の結合部分を長手方向に安定して形成するのが難しい。実際には長手方向の超電導線材同士の間に隙間ができてしまい、この隙間部分に含浸樹脂が入り込んで劣化してしまうという課題がある。また、この技術では、離型材テープが不要であるが、ターン間の絶縁材は必要となるため、絶縁材を共巻きすることで電流密度が低下するという課題がある。
【0007】
また、超電導線材の幅方向の端部を金属部材で接続し、テープ面には非接着層を設ける技術が知られている。この技術では、金属部材を追加することにより電流密度が低下するという課題がある。
【0008】
また、2枚の超電導線材の間に錫からなる接合材を満たす技術が知られている。この技術では、超電導線材同士の間に含浸樹脂が入り込まないが、2枚の超電導線材同士が錫により強固に固着されてしまうため、離型作用が得られず、超電導線材の層間剥離による劣化を回避することが困難であるという課題がある。また、超電導線材の周囲に離型材を塗布する技術が知られている。しかし、この技術は、含浸コイルを製作したときに、超電導線材が周囲の含浸樹脂層から離型されてしまい、熱伝導が阻害されてしまうという課題がある。
【0009】
同様の着想で複数枚の超電導線材を束ねる技術として、複数枚の超電導線材を束ねて周囲を絶縁テープでラップ巻きし、超電導線材の間には、離型材を設ける技術が知られている。この技術では、樹脂含浸コイルを製作した場合に、絶縁テープ同士の隙間から染み込んだ含浸樹脂が超電導線材同士の間に入り込み、離型材と混合したり、置き換わったりすることで、離型作用を阻害するおそれがあるという課題がある。また、超電導線材同士が互いに接着されていない状態で束ねられているので、束ねた超電導線材同士がテープ幅方向に位置ずれしてしまうという課題がある。
【0010】
本発明の実施形態は、このような事情を考慮してなされたもので、熱伝導が良く、超電導層の劣化が生じにくいバンドル型超電導線材とし、かつバンドル型超電導線材を構成する複数枚の超電導線材同士のテープ幅方向の位置ずれを抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の実施形態に係るバンドル型超電導線材は、金属の基板上に他の層とともに積層された酸化物の超電導層を有し、テープ状を成し、かつテープ面が互いに向き合うように束ねられた複数枚の超電導線材と、複数枚の前記超電導線材の周囲を一体的に覆い、絶縁性を有する絶縁材層と、複数枚の前記超電導線材の対向する前記テープ面の間の少なくとも一部に設けられ、粘着性を有する粘着剤層と、を備える。
【発明の効果】
【0012】
本発明の実施形態により、熱伝導が良く、超電導層の劣化が生じにくいバンドル型超電導線材とし、かつバンドル型超電導線材を構成する複数枚の超電導線材同士のテープ幅方向の位置ずれを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】第1実施形態のバンドル型超電導線材を示す断面図。
【
図4】第2実施形態のバンドル型超電導線材を示す断面図。
【
図5】第3実施形態のバンドル型超電導線材を示す断面図。
【
図6】第4実施形態のバンドル型超電導線材を示す断面図。
【
図7】第5実施形態のバンドル型超電導線材を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(第1実施形態)
以下、図面を参照しながら、バンドル型超電導線材および超電導コイルの実施形態について詳細に説明する。まず、第1実施形態について
図1から
図3を用いて説明する。
【0015】
図1の符号1は、第1実施形態のバンドル型超電導線材である。このバンドル型超電導線材1は、超電導コイル10(
図3)などの超電導機器に用いられる。例えば、バンドル型超電導線材1が巻き回されて超電導コイル10が製作される。
【0016】
1枚のバンドル型超電導線材1は、複数枚の超電導線材20が束ねられて(バンドルされて)形成されている。
図1の例では、積層された薄層から構成されて、テープ状に成形された2枚の超電導線材20が、そのテープ面(幅広面)が互いに向き合うように積層されて束ねられている。
【0017】
まず、
図2を用いて超電導線材20の構成を説明する。超電導線材20は、一般に薄膜状の複数の層が積層されたテープ状を成している。この超電導線材20は、例えば、レアメタル酸化物(RE酸化物)からなる超電導層25を含むREBCO線材である。このような線材は、高温超電導線材または酸化物超電導線材とも呼ばれている。また、超電導層25は、高温超電導層または酸化物超電導層とも呼ばれている。
【0018】
超電導線材20は、安定化層21と基板22と配向層23と中間層24と超電導層25と保護層26とを備える。ただし、超電導線材20を構成する各層の種類および数はこれに限定されるものではなく、必要に応じて多くても少なくてもよい。
【0019】
安定化層21は、超電導線材20の表面全体を覆う層である。この安定化層21は、例えば、銅、アルミニウムなどの良伝導性金属で形成されている。安定化層21は、超電導層25に流れる過剰な通電電流が迂回される経路となって熱暴走を防止する。
【0020】
基板22は、例えば、ニッケル基合金、ステンレス、銅などの高強度の金属材料で形成されている。配向層23は、基板22の上に形成されている。この配向層23は、例えば、中間層24を基板22の表面に配向させるマグネシウムなどの金属材料で形成されている。中間層24は、配向層23の上に形成されている。この中間層24は、基板22と超電導層25の熱収縮の際に起因する熱歪みを防止する。
【0021】
超電導層25は、中間層24の上に形成されている。この超電導層25は、レアメタル酸化物(RE酸化物)で形成されている。保護層26は、超電導層25の上に形成されている。この保護層26は、例えば、銀、金、白金などの金属材料で形成されている。保護層26は、超電導層25に含まれる酸素が超電導層25から拡散することを防止し、超電導層25を保護している。
【0022】
基板22と配向層23と中間層24と超電導層25と保護層26で、超電導積層体27が構成されている。1枚の超電導線材20は、この超電導積層体27の周囲を安定化層21で覆った線材である。
【0023】
ここで、1枚の超電導線材20の長手方向に平行な4つの面のうち、2つの幅広面(テープ面)は、主面60と呼ばれている。また、超電導線材20の2つの主面60のうち、より超電導層25に近い主面60は、近位面60Aと呼ばれ、遠い主面60は、遠位面60Bと呼ばれている。
【0024】
図1は、第1実施形態のバンドル型超電導線材1の長手方向に垂直な面で切断した場合の断面を示す。
【0025】
バンドル型超電導線材1は、複数枚の超電導線材20のテープ面同士が向き合うように重ねられている。さらに、重ねられた複数枚の超電導線材20の外周に絶縁材層41が配置されている。
【0026】
なお、1枚のバンドル型超電導線材1が備えている超電導線材20の枚数nを「2」としたが、n=3以上としてもよい。
【0027】
絶縁材層41は、複数枚(2枚)の超電導線材20の周囲を一体的に覆っている。例えば、絶縁材層41が、複数枚の超電導線材20の外表面全周に亘ってコーティングされている。絶縁材層41は、絶縁性を有し、複数枚の超電導線材20を周囲から絶縁するとともに、超電導線材20で発生した熱を周囲に伝達する冷却パスとして機能する。また、絶縁材層41は、超電導線材20を使用して樹脂含浸コイルを製作した際に、含浸樹脂が複数枚の超電導線材20同士の隙間に入り込むのを防ぐ機能を有する。
【0028】
絶縁材層41を構成する絶縁材料(樹脂)は、超電導線材20との接着性が良好な材質が好ましい。この絶縁材層41は、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリウレタン、ポリエステル、ポリビニルブチラール、ポリビニルホルマールからなる群より選ばれた少なくとも1つの材料からなる。また、絶縁材層41を形成する方法は、吹き付け塗装、電着塗装、静電塗装などの方法がある。
【0029】
複数枚の超電導線材20の対向するテープ面の間に、間隙45が形成されている。絶縁材層41は、この間隙45に配置されていない。この間隙45の少なくとも一部の領域には、粘着性を有する粘着剤層42が配置されている。
【0030】
第1実施形態では、間隙45の全ての領域が粘着剤層42で満たされている。この粘着剤層42は、複数枚の超電導線材20同士がテープ幅方向(
図1の紙面左右方向)に互いに位置ずれするのを防ぐ目的で配置される。
【0031】
粘着剤層42は、絶縁材層41とは異なる樹脂からなる。粘着剤層42を構成する材料は、絶縁材層41を形成する際の施工温度と絶縁材層41の硬化温度で高い粘着力を持つことが好ましい。また、粘着剤層42には、ガラス転移温度がこれらの温度よりも低い材料が好適に用いられる。例えば、粘着剤層42は、アクリル系粘着剤、ウレタン系粘着剤、シリコーン系粘着剤、ゴム系粘着剤からなる群より選ばれた少なくとも1つの材料からなる。
【0032】
一般的に、アクリル系粘着剤のガラス転移温度(Tg)は、-60℃~-40℃程度である。ウレタン系粘着剤のガラス転移温度は、-40℃~+50℃程度である。シリコーン系粘着剤のガラス転移温度は、-130℃~-110℃程度である。ゴム系粘着剤のガラス転移温度は、-40℃~+50℃程度である。
【0033】
粘着剤層42の粘着力の大きさが、絶縁材層41の硬化温度以下で小さくなることが望ましい。例えば、粘着剤層42が、ガラス転移温度以下になったとき、粘着剤層42と超電導線材20との単位面積当たりの粘着力が、絶縁材層41と超電導線材20との単位面積当たりの接着力よりも小さくなることが望ましい。さらに、この粘着力は、ガラス転移温度以下になったとき、超電導層25の単位面積当たりの許容剥離力よりも小さくなることが望ましい。
【0034】
このようにすれば、絶縁材層41の硬化後において、粘着剤層42の粘着力が弱まり、粘着剤層42を離型層として機能させることができる。粘着剤層42の部分で剥離を生じさせることで、超電導層25に不要な力が加わることを防止し、超電導層25の劣化を抑制することができる。一方、絶縁材層41の硬化前は、粘着剤層42の粘着力を維持し、複数枚の超電導線材20同士がテープ幅方向に互いに位置ずれしてしまうことを防ぐことができる。
【0035】
なお、超電導層25の許容剥離力とは、超電導層25に加わる不要な力のうち、超電導層25で剥離が生じない状態を維持することができる最大の力(許容できる力)のことである。
【0036】
なお、超電導線材20の枚数nを「3」以上とした場合は、2箇所以上の間隙45が生じる。全ての間隙45に粘着剤層42が設けられていることが望ましいが、そのうち1箇所以上に粘着剤層42が設けられていれば、一定の効果を奏する。
【0037】
第1実施形態の作用について具体的に説明する。例えば、束ねられた超電導線材20に対して絶縁材層41として室温硬化性のエポキシ樹脂が塗布され、粘着剤層42としてアクリル系粘着剤が用いられ、室温中で50時間放置してエポキシ樹脂が硬化される場合が考えられる。この場合、アクリル系樹脂のガラス転移温度は、エポキシ樹脂の硬化温度よりも低いため、エポキシ樹脂の硬化条件下で、アクリル系粘着剤(粘着剤層42)が、超電導線材20同士を強固に接着することができる。これによって、製造装置の振動、作業者のハンドリングなどの要因に基づく外力Fにより、複数枚の超電導線材20同士が互いにテープ幅方向に位置ずれすることを防ぐことができる。
【0038】
また、このような位置ずれを防ぐことで、複数枚の超電導線材20同士が互いにテープ幅方向に位置ずれした状態で絶縁材層41が硬化された場合に生じる、バンドル型超電導線材1の幅の増大を防ぐことができる。さらに、幅が不要に増大したバンドル型超電導線材1をコイル化した場合に、コイル全体の電流密度が不要に低下してしまうことを防ぐことができる。
【0039】
また、粘着剤層42は、ガラス転移温度以下に冷却されることで、ゴム状態からガラス状態へ変化し、硬度が増すことで粘着力が低下する。これにより、粘着剤層42は、ガラス転移温度を超える場合に、超電導線材20同士を固着させて束ねる機能を持ち、ガラス転移温度以下へ冷却された際に粘着力を失い、超電導線材20同士を剥離させる離型層として機能する。
【0040】
絶縁材層41として室温よりも高い温度、例えば、150℃、12時間の条件下で硬化するポリイミド樹脂が用いられる場合には、粘着剤層42として、例えば、ガラス転移温度が50℃程度のウレタン系粘着剤が用いられてもよい。この場合でも、絶縁材層41の硬化温度よりも粘着剤層42のガラス転移温度が低いため、絶縁材層41の硬化時に超電導線材20同士を粘着させて、位置ずれを防ぐことができる。そして、粘着剤層42がガラス転移温度以下へ冷却された際に粘着力を失い、超電導線材20同士を剥離させる離型層として機能する。
【0041】
第1実施形態のバンドル型超電導線材1が、77K以下に冷却された際、または冷却した状態で通電された際に、電磁応力または熱応力に起因して超電導層25に剥離方向(
図1の紙面上下方向)の外力Fが加わる場合がある。この場合に、粘着剤層42と超電導線材20との接着強度が、超電導層25の許容剥離力よりも小さければ、超電導層25が剥離される前に、粘着剤層42が超電導線材20から剥離されるようになる。よって、超電導層25が破壊されることを防止できる。
【0042】
また、同様に、77K以下の温度において、絶縁材層41と超電導線材20のテープ面との界面48に剥離方向の応力が加わる場合がある。この場合でも、粘着剤層42と超電導線材20との接着強度が、絶縁材層41と超電導線材20との接着強度よりも小さければ、絶縁材層41が超電導線材20のテープ面との界面48から剥離される前に、粘着剤層42が超電導線材20から剥離されるようになる。これにより、絶縁材層41と超電導線材20の接着状態が保たれるので、絶縁材層41と超電導線材20の間の熱伝導が阻害されず、絶縁材層41が冷却パスとして有効に機能する。
【0043】
なお、超電導線材20の枚数nを「3」以上とした場合は、2箇所以上の間隙45が生じる。これらの間隙45のうち、1箇所以上に粘着剤層42が設けられていればよい。このようにすれば、バンドル型超電導線材1に外力Fが加わった際に、粘着剤層42で剥離が生じるようになり、超電導層25の内部の剥離、または超電導層25と絶縁材層41との界面48における剥離を防止することができる。
【0044】
したがって、巻き回して超電導コイル10を製作した場合に、周囲から確実に絶縁しつつ、熱伝導が良く、かつ超電導層25の劣化も生じにくいバンドル型超電導線材1が得られる。
【0045】
図3に示すように、超電導コイル10が製作される場合、バンドル型超電導線材1が巻胴13へ巻回されることにより、巻回軸中心を貫通する空間を有するパンケーキ状の巻線部12が形成される。
【0046】
ここで、バンドル型超電導線材1が同心円状に巻回され、パンケーキ状に形成された超電導コイル10は、パンケーキコイルと呼ばれている。
【0047】
超電導コイル10は、エポキシ樹脂などの接着性を有する絶縁材料で含浸される。接着性のある樹脂で含浸されることにより、超電導コイル10の内部の隣接するバンドル型超電導線材1同士が互いに固着され、超電導コイル10の熱伝導度および機械的強度が向上する。
【0048】
巻線部12の側面(上下面)には、絶縁シート16が設けられている。この絶縁シート16は、巻線部12を隣り合う他の超電導コイル10から絶縁する。絶縁シート16としては、エポキシ樹脂または繊維強化プラスチックが好適に用いられる。さらに、エポキシ樹脂などの接着性を有する絶縁材料が、巻線部12と絶縁シート16の間に満たされることで絶縁樹脂層18を形成することができる。
【0049】
第1実施形態のバンドル型超電導線材1を用いて超電導コイル10を製作することで、熱伝導が良く、超電導層25の劣化も生じにくい超電導コイル10が得られる。
【0050】
(第2実施形態)
つぎに、第2実施形態について
図4を用いて説明する。なお、前述した実施形態に示される構成部分と同一構成部分については同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0051】
第2実施形態では、間隙45のうち、粘着剤層42が一部分のみを満たし、残りの部分が空洞46になっている。つまり、粘着剤層42は、複数枚の超電導線材20同士の間隙45のうち、少なくとも超電導線材20のテープ幅方向の両端部に設けられており、かつテープ幅方向の中央部に粘着剤層42が設けられていない領域(空洞46)が存在する。
【0052】
このようにすれば、外部から超電導線材20に剥離方向の力が加わったとしても、その力は、安定化層21を介して粘着剤層42を引っ張る力となる。例えば、空洞46の部分は、超電導線材20の厚み方向の寸法が大きくなるように、超電導線材20全体が変形する。しかし、空洞46があることで、超電導層25を他の層から剥離させたり、絶縁材層41を超電導線材20のテープ面との界面48から剥離させたりする力が生じにくいという効果を奏する。
【0053】
(第3実施形態)
つぎに、第3実施形態について
図5を用いて説明する。なお、前述した実施形態に示される構成部分と同一構成部分については同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0054】
第3実施形態の超電導線材20Aは、超電導積層体27の周囲を安定化層21で覆ったものである。この安定化層21は、超電導積層体27の周囲に均一な厚みで形成されることが望ましい。しかし、製造方法によっては、超電導線材20Aのテープ幅方向の端部付近における安定化層21の厚みが、テープ幅方向の中央部付近における安定化層21の厚みよりも数μm~数十μm程度大きくなってしまう。このような安定化層21の断面形状は、ドッグボーン形状とも呼ばれている。これにより、超電導線材20Aの厚み(テープ面に垂直な方向の寸法)が、テープ幅方向の中央部付近よりも端部付近が大きくなる。
【0055】
第3実施形態では、それぞれの超電導線材20がテープ幅方向の中央部に比べて端部が厚くなっていることで、超電導線材20Aのテープ幅方向の端部に、膨出部49が形成されている。そして、それぞれの超電導線材20Aは、膨出部49の部分で互いに直に接触している。つまり、複数枚の超電導線材20は、テープ幅方向の端部の少なくとも一部が互いに直に接触している。このようにすれば、この接触している部分を介して電流が流れるため、バイパス電流を流すことができる。
【0056】
例えば、超電導線材20同士が互いに直に接触している場合には、超電導線材20A,20A同士の間に電流を流すことができる。これにより、仮に一方の超電導線材20Aにおける長手方向の一部において局所的に臨界電流値が低い部分が存在し、通電電流値がその部分で臨界電流値を越えそうになったとしても、電流が他方の超電導線材20Bへ転流される。このため、一方の超電導線材20Aにおける臨界電流値が低い部分(性能低下部分)が常電導導体に変化することを防止することができ、超電導線材20に熱暴走が発生しにくくなる。
【0057】
(第4実施形態)
つぎに、第4実施形態について
図6を用いて説明する。なお、前述した実施形態に示される構成部分と同一構成部分については同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0058】
超電導線材20の2つの主面60(
図2)であるテープ面のうち、相対的に超電導層25(
図2)に近い位置にあるテープ面が近位面60Aとされ、相対的に超電導層25に遠い位置にあるテープ面が遠位面60Bとされている。言い換えると、それぞれのテープ面から基板22および超電導層25までの距離を比較したときに、基板22よりも超電導層25に近い位置にあるテープ面が近位面60Aとされている。さらに、基板22よりも超電導層25から遠い位置にあるテープ面が遠位面60Bとされている。このように規定した場合において、複数枚の超電導線材20,20は、互いに近位面60Aと遠位面60Bが対向するように配置されている。
【0059】
つまり、複数枚の超電導線材20,20を重ね合わせるときの超電導線材20,20の向きとしては、一方の超電導線材20の近位面60Aと、他方の超電導線材20の遠位面60Bとが向き合うように(近い位置となるように)配置されている。このようにすれば、一方と他方の超電導線材20,20のそれぞれの遠位面60Bが同じ方向を向くことになる。
【0060】
ここで、バンドル型超電導線材1を用いて超電導コイル10(
図3)が製作されたとする。このような超電導コイル10において、超電導コイル10自身が発生する自己磁場中、または、コイル周方向に垂直なコイル軸方向の成分がこの自己磁場と同じ向きになるような外部磁場中で、超電導コイル10に電流を印加する場合が想定される。
【0061】
この場合において、超電導コイル10におけるそれぞれのターンのバンドル型超電導線材1に、磁場と電流に比例した電磁力が作用する。バンドル型超電導線材1は、その電磁力のコイル径方向の成分により、コイル径方向に広がるような力を受ける。このミクロな視点では、バンドル型超電導線材1の中の超電導層25が、この電磁力を受けていることになる。
【0062】
第4実施形態では、1枚の超電導線材20において、近位面60Aを内周側とし、遠位面60Bを外周側として超電導線材20が巻き回されている。つまり、それぞれの超電導線材20,20の遠位面60Bが同じ方向を向いて巻き回されている。これにより、いずれの超電導線材20についても、超電導層25の外周側(外径側)に強度の高い基板22が配置されることになる。このため、電磁力によって超電導層25が破壊されにくい構造とすることができる。
【0063】
(第5実施形態)
つぎに、第5実施形態について
図7を用いて説明する。なお、前述した実施形態に示される構成部分と同一構成部分については同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0064】
超電導線材20の2つの主面60(
図2)であるテープ面のうち、相対的に超電導層25(
図2)に近い位置にあるテープ面が近位面60Aとされ、相対的に超電導層25に遠い位置にあるテープ面が遠位面60Bとされている。言い換えると、それぞれのテープ面から基板22および超電導層25までの距離を比較したときに、基板22よりも超電導層25に近い位置にあるテープ面が近位面60Aとされている。さらに、基板22よりも超電導層25から遠い位置にあるテープ面が遠位面60Bとされている。このように規定した場合において、複数枚の超電導線材20のうち、積層される方向で最も外側に配置されている超電導線材20は、近位面60Aが他の超電導線材20と対向し、かつ遠位面60Bが外側を向くように配置されている。
図7の例では、2枚の超電導線材20,20の互いの近位面60A,60Aが対向するように配置されている。
【0065】
つまり、複数枚の超電導線材20,20を重ね合わせるときの超電導線材20,20の向きとしては、超電導線材20,20のそれぞれの遠位面60B,60Bがバンドル型超電導線材1の外面側に配置されている。このようにすれば、1枚の超電導線材20において、一方と他方の超電導線材20,20のそれぞれが備えている強度の高い基板22が、バンドル型超電導線材1の外面側に配置される。例えば、作業者が、1枚の超電導線材20の運搬などの作業中に、不注意で、その表面を疵つけてしまった場合でも、高強度の基板22が外面側に配置されているため、基板22よりも内側の超電導層25が損傷してしまう可能性を低減することができる。
【0066】
なお、超電導線材20を奇数枚かつ3枚以上重ね合わせる場合において、2つの主面60のうち一方のみが他の超電導線材20と隣接する超電導線材20、つまり、超電導線材20が積層される方向で端に配置される超電導線材20が2枚存在する。言い換えると、積層される方向で最も外側に配置されている超電導線材20が2枚存在する。これら2枚の超電導線材20において、他の超電導線材20と対向する面が近位面60Aとなり、他の面が遠位面60Bとなるように、2枚の超電導線材20が配置される。このようにすれば、前述した効果と同様の効果が得られる。
【0067】
なお、超電導線材20を偶数枚かつ4枚以上重ね合わせる場合は、超電導線材20が積層される方向で端に配置される超電導線材20は、隣接する超電導線材20との間で、互いの近位面60A,60A同士が対向することが好ましい。隣接する超電導線材20は、近位面60A同士で対向した方が、バイパス電流が流れやすくなるので、第3実施形態で述べたような熱暴走を抑制することができる。
【0068】
以上、本発明が第1実施形態から第5実施形態に基づいて説明されているが、いずれかの実施形態において適用された構成が他の実施形態に適用されてもよいし、各実施形態において適用された構成が組み合わされてもよい。
【0069】
なお、前述の実施形態において、コイル形状として円形の超電導コイル10が例示されている。しかし、前述の実施形態が適用できる巻線部12は、円形のパンケーキコイルに限定されない。例えば、前述の実施形態は、鞍型、楕円型などの非円形形状コイルにも適用することができる。
【0070】
以上説明した少なくとも1つの実施形態によれば、バンドル型超電導線材1は、複数枚の超電導線材20の対向するテープ面の間の少なくとも一部に設けられ、粘着性を有する粘着剤層42を備える。これにより、熱伝導が良く、超電導層25の劣化が生じにくいバンドル型超電導線材1とし、かつバンドル型超電導線材1を構成する複数枚の超電導線材20同士のテープ幅方向の位置ずれを抑制することができる。
【0071】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、組み合わせを行うことができる。これら実施形態またはその変形は、発明の範囲と要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0072】
1…バンドル型超電導線材、10…超電導コイル、12…巻線部、13…巻胴、16…絶縁シート、18…絶縁樹脂層、20,20A…超電導線材、21…安定化層、22…基板、23…配向層、24…中間層、25…超電導層、26…保護層、27…超電導積層体、41…絶縁材層、42…粘着剤層、45…間隙、46…空洞、48…界面、49…膨出部、60…主面、60A…近位面、60B…遠位面、F…外力。