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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025025336
(43)【公開日】2025-02-21
(54)【発明の名称】苦味物質による苦味を低減する方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 27/30 20160101AFI20250214BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20250214BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20250214BHJP
   A23L 5/00 20160101ALI20250214BHJP
   A23L 27/21 20160101ALI20250214BHJP
   A61K 31/198 20060101ALN20250214BHJP
【FI】
A23L27/30 A
A61K47/26
A61K47/36
A23L5/00 D
A23L5/00 N
A23L27/21
A23L27/30 B
A61K31/198
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023130014
(22)【出願日】2023-08-09
(71)【出願人】
【識別番号】519127797
【氏名又は名称】三菱商事ライフサイエンス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】小野 真太郎
(72)【発明者】
【氏名】大橋 且明
【テーマコード(参考)】
4B035
4B047
4C076
4C206
【Fターム(参考)】
4B035LC01
4B035LC06
4B035LE01
4B035LG04
4B035LG14
4B035LG17
4B035LG19
4B035LK03
4B035LK12
4B035LP36
4B047LB08
4B047LB09
4B047LE06
4B047LE07
4B047LG15
4B047LG21
4B047LG25
4B047LG27
4B047LP09
4C076BB01
4C076DD66T
4C076EE38T
4C076FF52
4C206AA10
4C206FA53
4C206MA03
4C206MA05
4C206MA72
4C206NA09
4C206ZC21
(57)【要約】
【課題】
苦味を呈する物質による苦味を簡便に低減する方法を提供することを目的とする。
【解決手段】
苦味を呈する物質を、糖の水素化物を賦形剤とし、DEが41以下の澱粉分解物を水素化した還元澱粉糖化物を結合剤として造粒する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
苦味を呈する物質を、糖の水素化物を賦形剤とし還元澱粉糖化物を結合剤として造粒することにより、苦味を呈する物質による苦味を低減する方法。
【請求項2】
還元澱粉糖化物が、DEが41以下である澱粉加水分解物を水素化したものである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
還元澱粉糖化物の単糖類、二糖類、三糖類の含有量が50質量%以下である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
糖の水素化物が単糖または二糖の水素化物である、請求項1から3に記載の方法。
【請求項5】
苦味を呈する物質が分岐鎖アミノ酸である、請求項1から3に記載の方法。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、苦味を呈する物質による苦味を低減する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
苦味を呈する物質を食品、医薬品の成分として用いる場合、摂取の際に感じる苦味の低減が望まれることがある。特許文献1には苦味等を呈するアミノ酸と異なる種類のアミノ酸、甘味料、フレーバーを組成物とすることにより該アミノ酸の苦味等を低減することが記載されている。また特許文献2には特定の比表面積および粒度をもつマンニトール粉末を用い、同時摂取する苦味物質の苦味を抑制する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003-235512号公報
【特許文献2】特開2017-125001号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、従来よりもさらに簡便に、苦味を呈する物質による苦味を低減する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、苦味を呈する物質を、糖の水素化物を賦形剤とし、還元澱粉糖化物を結合剤として造粒したところ、該物質による苦味が低減されることを見出し、本発明を完成した。
【0006】
すなわち、本発明は第一に苦味を呈する物質を、糖の水素化物を賦形剤とし、還元澱粉糖化物を結合剤として造粒することにより、苦味を呈する物質による苦味を低減する方法である。
第ニに還元澱粉糖化物が、DEが41以下である澱粉加水分解物を水素化したものである、第一に記載の方法である。
第三に還元澱粉糖化物の単糖類、二糖類、三糖類の含有量が50質量%以下である、第一に記載の方法である。
第四に糖の水素化物が単糖類または二糖類である、第一から第三に記載の方法である。
第五に苦味を呈する物質が分岐鎖アミノ酸である、第一から第三に記載の方法である。
【発明の効果】
【0007】
本発明を用いることにより、苦味の低減された造粒物を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明における、苦味を呈する物質は食品、医薬品として用いることはできるものであれば特に制限なく用いることができ、例えば、カフェイン、テオブロミン、ニコチン、カテキン、フムロン、リモニン、ククルビタシン、ナリンジン、コール酸、分岐鎖アミノ酸等の苦味を呈するアミノ酸、苦味を呈するペプチド、無機物のカルシウム塩、マグネシウム塩などが挙げられる。また、本発明では苦味を呈する物質を含有する組成物を用いることもできる。
【0009】
本発明において糖の水素化物は賦形剤として用いられるが、化合物の種類としては特に制限なく使用することができる。糖の水素化物は糖のホルミル基またはカルボニル基が水素化された構造を有しており、このような物質は糖アルコール、ポリオールなどと呼ばれる。糖の水素化物としては、例えば、エリスリトール、キシリトール、マンニトール、ソルビトール、マルチトール、還元イソマルツロース、マルトトリイトール、還元澱粉糖化物などが挙げられるが、エリスリトール、キシリトール、マンニトール、ソルビトール、マルチトール等の、単糖類または二糖類の水素化物または単糖類または二糖類の水素化物を主要成分とする還元水飴が好ましく挙げられる。
【0010】
本発明において苦味を呈する物質を造粒する際、または造粒後に本発明による効果を阻害しなければ、上記で挙げた成分以外の香料や甘味料などの成分を加えることができる。本発明において、香料としては好ましくは柑橘類、特に好ましくはオレンジ香料を用いることができ、甘味料としては、好ましくは高甘味度甘味料、特に好ましくはアセスルファムK、スクラロースを用いることができる。
【0011】
本発明において用いられる結合剤としては、特定の成分組成を有する水溶性の澱粉加水分解物の水素化物である還元澱粉糖化物が挙げられる。澱粉加水分解物は澱粉を化学的、酵素的に部分加水分解し低分子化した物質であり、様々な重合度を有する物質を成分として含有する。この澱粉加水分解物のホルミル基が水素化された構造を有する物質は還元澱粉糖化物、還元水飴などと呼ばれる。本発明において還元澱粉糖化物は市販品を用いてもよく、公知の方法によって澱粉加水分解物から製造してもよい。また、異なる糖組成を有する還元澱粉糖化物を混合し、任意の糖組成を有する組成物としてもよい。
【0012】
ここで糖組成とは、糖質の総質量に対する各糖質の質量の割合を百分率で示すものをいう。糖組成は高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で確認することができる。糖質の水溶液を試料としてHPLCを行い、クロマトグラムを得る。得られたクロマトグラムのピーク面積の全体の和が糖質の総質量に相当し、各ピーク面積がそれぞれの糖質の質量に相当し、それぞれの糖質の質量の割合を求めることができる。HPLCの条件は適宜設定ができる。
【0013】
本発明においては、還元澱粉糖化物の成分としての単糖類、二糖類、三糖類の含有量が、還元澱粉糖化物100質量部に対し50質量部以下、好ましくは45質量部以下、より好ましくは40質量部以下であり、さらに好ましくは、前記の組成に加え、単糖類、二糖類、三糖類、四糖類の含有量の合計が50質量部以下である還元澱粉糖化物を結合剤として用いることができる。なお、還元澱粉糖化物の成分としての単糖類、二糖類、三糖類などは、それぞれ単糖類、二糖類、三糖類などの水素化物を意味する。
【0014】
デキストロース当量(Dextrose Equivalent,DE)とは、澱粉加水分解物の平均分子量に関する指標すなわち、澱粉加水分解物における加水分解の程度の指標であり、D-グルコースの還元力を100とした場合の相対的な尺度である。値が0に近いものほど加水分解の程度が低く、平均分子量が大きく、100に近いものほど加水分解の程度が高く、平均分子量が小さい。本発明ではDE41以下、好ましくはDE39以下の澱粉加水分解物の水素化物である還元澱粉糖化物を結合剤として用いることができる。なお、造粒時の取り扱い易さなどの観点から、還元澱粉糖化物の原料である澱粉加水分解物のDEは5以上であることが好ましく、より好ましくは10以上である。結合剤は、苦味を呈する物質および賦形剤としての糖の水素化物の合計100質量部に対し、1~10質量部、好ましくは1~5質量部、より好ましくは2~4質量部用いて造粒を行う。
【0015】
本発明において、造粒とは、結合剤などを用いて、単一もしくは多成分からなる賦形剤などの粒子をより大きな顆粒に加工する操作である。本発明は造粒の方法にかかわらず用いることができるが、造粒時に水、または結合剤溶液を賦形剤粉末に滴下、または噴霧し湿潤させ、その水分を乾燥させる操作で造粒する湿式造粒に用いることが好ましい。湿式造粒における水、または結合剤溶液の添加方法についても特に制限はなく、例えば、苦味を呈する物質の粉末および糖の水素化物の粉末を撹拌しながら溶液などを滴下し造粒する攪拌造粒、流動層の中で苦味を呈する物質の粉末および糖の水素化物の粉末を流動させながら溶液などを噴霧して造粒する流動層造粒を用いることができるが、本発明では操作性の観点から流動層造粒を用いることが好ましい。
【0016】
本発明において苦味を呈する物質の苦味の低減の度合いについては、本発明が適用されていない該苦味を呈する物質との比較による官能検査により評価を行う。
【0017】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
【実施例0018】
(結合剤)
結合剤として、単糖類1.3質量部、二糖類2.9質量部、三糖類2.6質量部、四糖類1.7質量部、五糖類以上の重合度を有する糖質が91.5質量部であり、原料のDEが12.6である還元澱粉糖化物(PO-10、三菱商事ライフサイエンス社製)を用いた。なお比較品の結合剤としてヒドロキシプロピルセルロース(HPC-SSL,日本曹達社製)を用いた。
【0019】
(賦形剤粉末)
賦形剤としての糖の水素化物の粉末は以下に示すものを用いた。
結晶マルチトール(レシス微粉、三菱商事ライフサイエンス社製)
粉末マルチトール(アマルティMR―100,三菱商事ライフサイエンス社製)
比較品の賦形剤としては、デキストリン(サンデック#100、三和澱粉工業社製)を用いた。
【0020】
(苦味物質)
苦味物質としては、分岐鎖アミノ酸の混合物であるL-バリン:L-ロイシン:L-イソロイシンを1:2:1で混合したものを使用した。
【0021】
(高甘味度甘味料)
造粒後、粉末混合により以下の高甘味度甘味料を併用した。
アセスルファムK(サネット、三菱商事ライフサイエンス社製)
スクラロース(スクラロース、三栄源エフ・エフ・アイ社製)
【0022】
(造粒)
賦形剤粉末100g、苦味成分400gを造粒装置(FLO-1:フロイント産業社製)に仕込み、結合剤の10%水溶液または水を150g噴霧し造粒した。造粒は製品温度40℃で行い、製品温度60℃で10分間乾燥し、室温で一晩放置した後、目開き850μmのふるいで篩過し、顆粒を得た。
【0023】
(苦味低減の評価)
製造した顆粒に表1に示す割合で高甘味度甘味料を加えた組成物の苦味について12人のパネルによる評価を行った。なお、評価を実施した組成物は、組成物100gあたり砂糖140gに相当する甘味度を有する。
苦味の評価は、組成物0.5gを用い、比較品の苦味を基準とした7段階評価法(-3:苦味が非常に強い、-2:苦味がかなり強い、-1:苦味が強い、0:苦味が基準と同じ、1:苦味が弱い、2:苦味がかなり弱い、3:苦味が非常に弱い)で行った。結果を表2~3に示す。
【0024】
【表1】
【0025】
【表2】
【0026】
【表3】
【0027】
本発明に係る還元澱粉糖化物を結合剤、マルチトールを賦形剤として造粒した苦味成分(分岐鎖アミノ酸混合物)を含有する実施品は、いずれも比較品よりも苦味が弱いことが確認された。