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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025025390
(43)【公開日】2025-02-21
(54)【発明の名称】アルミニウム製フィン材
(51)【国際特許分類】
   F28F 1/12 20060101AFI20250214BHJP
   F28F 19/04 20060101ALI20250214BHJP
   F28F 21/08 20060101ALI20250214BHJP
   C23C 26/00 20060101ALI20250214BHJP
   C23C 28/00 20060101ALI20250214BHJP
【FI】
F28F1/12 G
F28F19/04 Z
F28F21/08 A
C23C26/00 A
C23C28/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023130114
(22)【出願日】2023-08-09
(71)【出願人】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】角田 亮介
【テーマコード(参考)】
4K044
【Fターム(参考)】
4K044AA06
4K044AB02
4K044BA15
4K044BA17
4K044BA21
4K044BB03
4K044BB04
4K044BB05
4K044BB06
4K044BC00
4K044BC02
4K044BC04
4K044CA16
4K044CA53
(57)【要約】
【課題】アルミニウム製フィン材としての従来の機能を損なうことなく、抗ウイルス・抗菌性も備えるアルミニウム製フィン材の提供。
【解決手段】アルミニウム板と、前記アルミニウム板の少なくとも一方の表面上に、耐食性皮膜層と親水性皮膜層とをこの順に備え、前記親水性皮膜層は、親水性樹脂及び有機系の抗ウイルス・抗菌剤を含む、アルミニウム製フィン材。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム板と、前記アルミニウム板の少なくとも一方の表面上に、耐食性皮膜層と親水性皮膜層とをこの順に備え、
前記親水性皮膜層は、親水性樹脂及び有機系の抗ウイルス・抗菌剤を含む、アルミニウム製フィン材。
【請求項2】
前記親水性皮膜層における前記有機系の抗ウイルス・抗菌剤の含有量は0.10~0.60mg/dmである、請求項1に記載のアルミニウム製フィン材。
【請求項3】
前記有機系の抗ウイルス・抗菌剤はフェノール系の抗ウイルス・抗菌剤を含む、請求項1又は2に記載のアルミニウム製フィン材。
【請求項4】
前記親水性樹脂は、スルホン酸基及びエーテル結合を含有する、アクリル酸樹脂を含む、請求項1又は2に記載のアルミニウム製フィン材。
【請求項5】
前記耐食性皮膜層はエポキシ樹脂を含む、請求項1又は2に記載のアルミニウム製フィン材。
【請求項6】
前記親水性皮膜層の表面にさらに潤滑性皮膜層を備える、請求項1又は2に記載のアルミニウム製フィン材。
【請求項7】
前記潤滑性皮膜層は、ポリエチレングリコールを主成分として含む樹脂マトリクスと、スルホン酸基及びエステル基の少なくとも一方を含有する親水成分と、を含む、請求項6に記載のアルミニウム製フィン材。
【請求項8】
前記アルミニウム板と前記耐食性皮膜層との間に、下地処理層をさらに備える、請求項1又は2に記載のアルミニウム製フィン材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム製フィン材に関する。
【背景技術】
【0002】
熱交換器は、ルームエアコン、パッケージエアコン、冷凍ショーケース、冷蔵庫、オイルクーラ、ラジエータなどの様々な分野の製品に用いられている。熱交換器のフィンの材料としては、熱伝導性、加工性、耐食性などに優れるアルミニウムやアルミニウム合金が一般的である。
【0003】
ルームエアコン等の様々な製品に対し、ウイルスや細菌による感染防止の観点から、抗ウイルス・抗菌性の付与が求められている。
【0004】
ウイルス・細菌は、ウイルス・細菌感染者から放出されたくしゃみ等の飛散物に含まれるが、ウイルス・細菌感染は、空気中に漂う上記飛散物の直接的な吸引や、飛散物が付着したものへの接触により生じるとされている。
これに対し、エアコンが作動し、室内の空気が循環されると、室内空間中に浮遊したウイルス・細菌も共に循環されることになる。
【0005】
そこで、エアコンの空気流路に設置されているフィルターに抗ウイルス・抗菌性が付与されたものが上市されている。
具体的には、特許文献1には、酸化タングステン微粒子および酸化タングステン複合材微粒子から選ばれる少なくとも1種の微粒子を具備する抗ウイルス性を有する光触媒材料を具備した、エアコン用フィルタが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011-212613号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、室内空間中に存在するウイルス・細菌のさらなる低減が望まれる。そこで、本発明者は、エアコンに用いられる熱交換器そのものへの抗ウイルス・抗菌性の付与を検討し、特にアルミニウム製フィン材への抗ウイルス・抗菌性の付与について検討した。
【0008】
すなわち本発明は、アルミニウム製フィン材としての従来の機能を損なうことなく、抗ウイルス・抗菌性も備えるアルミニウム製フィン材の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題に対し、本発明者が検討を進めたところ、無機系の抗ウイルス・抗菌剤を用いると、アルミニウム製フィン材の成形性が低下することが分かった。また、耐食性皮膜層に抗ウイルス・抗菌剤を含有させると、上記耐食性皮膜層の表面上に親水性皮膜層を形成しても、所望する親水性能が得られないことが分かった。これは、抗ウイルス・抗菌剤が耐食性皮膜層中に相溶せずにミクロ相分離しており、その結果、耐食性皮膜層に対する親水性皮膜層の密着性が低下するためであると考えられる。
そこでさらに検討を進めた結果、有機系の抗ウイルス・抗菌剤を親水性皮膜層に含有させることで、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明は、以下の[1]~[8]に係るものである。
[1] アルミニウム板と、前記アルミニウム板の少なくとも一方の表面上に、耐食性皮膜層と親水性皮膜層とをこの順に備え、
前記親水性皮膜層は、親水性樹脂及び有機系の抗ウイルス・抗菌剤を含む、アルミニウム製フィン材。
[2] 前記親水性皮膜層における前記有機系の抗ウイルス・抗菌剤の含有量は0.10~0.60mg/dmである、前記[1]に記載のアルミニウム製フィン材。
[3] 前記有機系の抗ウイルス・抗菌剤はフェノール系の抗ウイルス・抗菌剤を含む、前記[1]又は[2]に記載のアルミニウム製フィン材。
[4] 前記親水性樹脂は、スルホン酸基及びエーテル結合を含有する、アクリル酸樹脂を含む、前記[1]~[3]のいずれか1に記載のアルミニウム製フィン材。
[5] 前記耐食性皮膜層はエポキシ樹脂を含む、前記[1]~[4]のいずれか1に記載のアルミニウム製フィン材。
[6] 前記親水性皮膜層の表面にさらに潤滑性皮膜層を備える、前記[1]~[5]のいずれか1に記載のアルミニウム製フィン材。
[7] 前記潤滑性皮膜層は、ポリエチレングリコールを主成分として含む樹脂マトリクスと、スルホン酸基及びエステル基の少なくとも一方を含有する親水成分と、を含む、前記[6]に記載のアルミニウム製フィン材。
[8] 前記アルミニウム板と前記耐食性皮膜層との間に、下地処理層をさらに備える、前記[1]~[7]のいずれか1に記載のアルミニウム製フィン材。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係るアルミニウム製フィン材は、アルミニウム製フィン材としての従来の機能を損なうことなく、抗ウイルス・抗菌性も備える。そのため、親水性皮膜層による親水性や、アルミニウム製フィン材としての成形性を維持しつつ、室内空間中に存在するウイルス・細菌を好適に低減できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係るアルミニウム製フィン材を実施するための形態について、詳細に説明する。なお数値範囲を示す「~」とは、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
【0013】
《アルミニウム製フィン材》
本実施形態に係るアルミニウム製フィン材(以下、単に「フィン材」と称することがある。)は、アルミニウム板と、上記アルミニウム板の少なくとも一方の表面上に、耐食性皮膜層と親水性皮膜層とをこの順に備える。
【0014】
〈親水性皮膜層〉
本実施形態における親水性皮膜層はフィン材の表面に親水性を付与する皮膜層であり、親水性樹脂及び有機系の抗ウイルス・抗菌剤を含む。
無機系の抗ウイルス・抗菌剤と比べて、有機系の抗ウイルス・抗菌剤を用いることにより、アルミニウム製フィン材の成形性を低下させることなく、抗ウイルス・抗菌性を付与できる。
また、有機系の抗ウイルス・抗菌剤を親水性皮膜層に含有させることにより、耐食性皮膜層に含有させる場合と異なり、親水性皮膜層による親水性能を低下させることなく、良好な抗ウイルス・抗菌性を付与できる。
【0015】
本実施形態における有機系の抗ウイルス・抗菌剤とは、抗ウイルス性能及び抗菌性能の少なくとも一方を発現する有機系の物質であれば特に限定されず、公知のものを採用できる。
有機系の抗ウイルス・抗菌剤は、例えば、イミダゾール系、チアゾール系、イソチアゾリン系、ピリジン系、トリアジン系、アルデヒド系、フェノール系、ピグアナイド系、ニトリル系、ハロゲン系、アニリド系、ジスルフィド系、チオカーバメート系、4級アンモニウム塩系、有機金属系、アルコール系、カルボン酸系、天然系等が挙げられる。
有機系の抗ウイルス・抗菌剤は、親水性皮膜層の形成に用いる塗料組成物への溶解性や分散性等の観点から、適宜選択すればよく、例えばフェノール系の抗ウイルス・抗菌剤が好ましい。また、抗ウイルス・抗菌剤は1種のみを用いても、2種以上を併用してもよい。
【0016】
本実施形態における親水性皮膜層中の有機系の抗ウイルス・抗菌剤の含有量は0.10mg/dm以上が好ましく、0.10~0.60mg/dmがより好ましい。ここで、より良好な抗ウイルス性能・抗菌性能を実現する観点から、上記含有量は0.10mg/dm以上が好ましく、0.15mg/dm以上がより好ましく、0.20mg/dm以上がさらに好ましい。一方、抗ウイルス性能・抗菌性能が頭打ちとなるために過剰な添加は不要である観点、また、フィン材を構成する各皮膜層の機能を過度に損なわない観点から、上記含有量は0.60mg/dm以下が好ましく、0.50mg/dm以下がより好ましく、0.40mg/dm以下がさらに好ましい。
【0017】
本実施形態における親水性皮膜層に含まれる親水性樹脂は従来公知の親水性樹脂を採用できる。
親水性樹脂は、親水基を有していればよく、1種の樹脂を含有しても、2種以上の樹脂を含有してもよい。親水基としては、例えば水酸基(ヒドロキシ基)、カルボキシル基、スルホン酸基、ポリエーテル基等が挙げられる。
【0018】
水酸基を有する親水性樹脂としては、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリビニルアルコール(PVA)等が挙げられる。
カルボキシル基を有する親水性樹脂としては、ポリアクリル酸(PAA)等が挙げられる。
水酸基とカルボキシル基を有する親水性樹脂としては、カルボキシメチルセルロース(CMC)等が挙げられる。
スルホン酸基を有する親水性樹脂としては、スルホエチルアクリレート等が挙げられる。
ポリエーテル基を有する親水性樹脂としては、ポリエチレングリコール(PEG)や、その変性化合物等が挙げられる。
【0019】
中でも、親水性皮膜層の表面に潤滑性皮膜層が形成されていても、所望する親水性をより好適に発現する観点から、親水性樹脂は、スルホン酸基を含むもの、ポリエーテル基、すなわちエーテル結合を含むものが好ましく、スルホン酸基及びエーテル結合を含むものがより好ましく、スルホン酸基及びエーテル結合を含むアクリル酸樹脂が特に好ましい。
【0020】
スルホン酸及びエーテル結合を含むアクリル酸樹脂とは、不飽和二重結合基とスルホン酸基を含有するアクリル酸樹脂であり、例えば3-アリルオキシ-2-ヒドロキシ-1-プロパンスルホン酸ナトリウム(HAPS)が代表的であるが、その他にアクリルアミドメチルプロパンスルホン酸等が挙げられる。なお、スルホン酸及びエーテル結合を含むアクリル酸樹脂はこれらに限定されるものではない。
【0021】
親水性樹脂は、上記の他に、親水基を有する単量体の2種以上の共重合体も使用できる。例えばアクリル酸とスルホエチルアクリレートの共重合体が挙げられる。共重合体は、交互共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体、ランダム共重合体等、単量体の配列方法には特に限定されない。
【0022】
親水性皮膜層は、親水性樹脂に加えて、さらに界面活性剤を含有することが好ましい。これにより、親水性皮膜層上に潤滑性皮膜層が形成されている場合には、上記潤滑性皮膜層による加工性と共に、より良好な親水性も両立できる。これは、界面活性剤の表出作用によるものと考えられる。
【0023】
界面活性剤はアニオン型、カチオン型、ノニオン型のいずれも適用可能であるが、親水性皮膜層中での分散のしやすさの観点からアニオン型界面活性剤が好ましい。界面活性剤は1種を用いても、2種以上を併用してもよい。
【0024】
アニオン型界面活性剤としては、例えばポリオキシエチレンアルキルエーテルりん酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルスルホコハク酸塩等が挙げられる。
【0025】
ノニオン型界面活性剤としては、例えばエチレンジアミンポリオキシプロピレン-ポリオキシエチレン縮合物、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマー、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート等が挙げられる。
【0026】
親水性皮膜層には、親水性樹脂や界面活性剤の他に、本発明の効果を損なわない範囲において、他の任意成分を含有させてもよい。任意成分としては、例えば皮膜層の物性などを改善するための各種塗料添加物等が挙げられる。
【0027】
塗料添加物としては、例えば、架橋剤、表面調整剤、湿潤分散剤、沈降防止剤、酸化防止剤、消泡剤、防錆剤等が挙げられる。これらの塗料添加物は、1種が含まれていても、2種以上が含まれていてもよい。
【0028】
本実施形態における親水性皮膜層の皮膜量は、0.1~28mg/dmが好ましい。ここで、より良好な親水性を得る観点から、親水性皮膜層の皮膜量は0.1mg/dm以上が好ましく、0.3mg/dm以上がより好ましく、0.5mg/dm以上がさらに好ましい。また、親水性皮膜層形成時の良好な塗布作業性を得る観点や、親水性皮膜層のアルミニウム板側に形成された耐食性皮膜層等による機能を良好に発揮する観点から、親水性皮膜層の皮膜量は28mg/dm以下が好ましく、25mg/dm以下がより好ましい。
なお、親水性皮膜層の皮膜量は、蛍光X線、赤外膜厚計、皮膜剥離による重量測定等の公知の方法により測定できる。親水性皮膜層以外の各皮膜層の皮膜量についても同様である。
【0029】
親水性皮膜層における親水性樹脂の付着量は0.05~5g/mが好ましい。ここで、十分な親水性を得る観点から、上記付着量は0.05g/m以上が好ましく、0.1g/m以上がより好ましく、0.3g/m以上がさらに好ましい。また、フィン材の表面が水に濡れた際に親水性樹脂が溶出して機能性皮膜による撥油性を阻害するのを防ぐ観点から、上記付着量は5g/m以下が好ましく、1g/m以下がより好ましく、0.8g/m以下がさらに好ましい。
【0030】
親水性皮膜が界面活性剤を含有する場合、親水性皮膜における界面活性剤の付着量は0.0003~0.7g/mが好ましい。ここで、十分な親水性を得る観点から、上記付着量は0.0003g/m以上が好ましく、0.0005g/m以上がより好ましく、0.001g/m以上がさらに好ましい。また、親水性が強すぎて、親水性皮膜層上に潤滑性皮膜層を有する場合に、潤滑性皮膜層による潤滑性を阻害するのを防ぐ観点から、上記付着量は0.7g/m以下が好ましく、0.5g/m以下がより好ましく、0.05g/m以下がさらに好ましい。
【0031】
親水性皮膜層の皮膜量や厚みは、親水性皮膜層の形成に用いる塗料組成物の濃度やバーコーターNo.の選択などによって調整できる。
【0032】
〈耐食性皮膜層〉
本実施形態に係るフィン材は、アルミニウム板と親水性皮膜層との間に耐食性皮膜層を備える。耐食性皮膜層は、主として、アルミニウム板の耐食性を高めるために、アルミニウム板の上に形成される層である。
【0033】
アルミニウム板の表面に後述する下地処理層が形成されている場合には、耐食性皮膜層は下地処理層と親水性皮膜層との間に備えることが好ましい。また、アルミニウム板の上又は下地処理層の上に着氷霜抑制皮膜層等の他の機能を有する皮膜層が形成されている場合には、その皮膜層の上に耐食性皮膜層を形成してもよい。
【0034】
耐食性皮膜層は疎水性樹脂を含有することが好ましく、例えば疎水性樹脂を含有する塗料組成物をアルミニウム板上、下地処理層上、又は着氷霜抑制皮膜層等の皮膜層上に塗布、乾燥等により固化することで形成できる。
【0035】
耐食性皮膜層によって、結露水などの水分、酸素、塩化物イオンをはじめとするイオン種などがアルミニウム板に浸入し難くなり、アルミニウム板の腐食や臭気を発生するアルミ酸化物の生成などが抑制される。
【0036】
耐食性皮膜層における疎水性樹脂は、従来公知のものを採用できる。例えば、ポリエステル系、ポリオレフィン系、メラミン系、エポキシ系、ウレタン系、アクリル系の各種樹脂が挙げられ、これらの1種または2種以上を混合したものを適用できる。例えば、より優れた耐食性を得る観点から、本実施形態における耐食性皮膜層は、エポキシ樹脂を含むことが好ましい。
【0037】
耐食性皮膜層には、疎水性樹脂の他に、本発明の効果を損なわない範囲において、他の任意成分を含有させてもよい。任意成分としては、例えば塗装性、作業性、皮膜の物性などを改善するための各種の水系溶媒や塗料添加物等が挙げられる。
【0038】
塗料添加物としては、例えば、水溶性有機溶剤、架橋剤、界面活性剤、表面調整剤、湿潤分散剤、沈降防止剤、酸化防止剤、消泡剤、防錆剤等が挙げられる。これらの塗料添加物は、1種が含まれていても、2種以上が含まれていてもよい。
【0039】
耐食性皮膜層の皮膜量は特に限定されないが、3~60mg/dmが好ましい。ここで、アルミニウム板に十分な耐食性を付与する観点から、耐食性皮膜層の皮膜量は3mg/dm以上が好ましい。一方、耐食性皮膜層の皮膜量を増やしても、得られる耐食性の効果は頭打ちにあること、及び、フィン材の熱交換効率の低下を抑制する観点から、耐食性皮膜層の皮膜量は60mg/dm以下が好ましい。
なお、耐食性皮膜層の皮膜量は、耐食性皮膜層の成膜に用いる塗料組成物の濃度やバーコーターNo.の選択などによって調整することができる。
【0040】
〈潤滑性皮膜層〉
本実施形態に係るアルミニウム製フィン材は、親水性皮膜層の表面にさらに潤滑性皮膜層を備えることが好ましい。潤滑性皮膜層は、フィン材表面の潤滑性を高める層である。これにより、フィン材の摩擦係数が低減され、フィン材をフィンに加工する際のプレス成形性等の加工性が向上する。
潤滑性皮膜層は、アルミニウム製フィン材における最外層とすることがより好ましい。
【0041】
本実施形態における潤滑性皮膜層は、樹脂マトリクスと親水成分とを含むことが好ましい。ここで、樹脂マトリクスとは、潤滑性皮膜層を形成する母組成となる樹脂成分を意味する。潤滑性皮膜層を構成する成分の総量に対し、樹脂マトリクスの含有量は60質量%以上が好ましい。また、樹脂マトリクス以外の成分による機能を十分に発揮する観点から、上記含有量は70質量%以下が好ましい。
【0042】
本実施形態における樹脂マトリクスは、後述する特定の親水成分と組み合わせた際に、熱による親水性能の低下を抑制し、良好な耐熱性を得る観点から、ポリエチレングリコール(PEG)を主成分として含むことが好ましい。
ここで、樹脂マトリクスの主成分とは、樹脂マトリクスを構成する樹脂の合計に対して、その含有量が60質量%以上であることを意味する。
【0043】
上記ポリエチレングリコールには、その変性化合物も含まれる。
ポリエチレングリコールの変性化合物としては、ウレタン結合、エステル結合及びエーテル結合からなる群より選択される1種以上の結合を有する官能基を構造中に有する変性ポリエチレングリコールが挙げられる。中でも、伸びに優れる官能基を有する点から、ウレタン結合を有する官能基を構造中に有する変性ポリエチレングリコールが好ましい。
【0044】
また、樹脂マトリクスに、分子量や構造が異なる2種以上のポリエチレングリコールが含まれる場合には、それらの合計が60質量%以上であれば、ポリエチレングリコールを主成分として含むと言える。
【0045】
本実施形態における樹脂マトリクスにおける、主成分であるポリエチレングリコールの含有量は60質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、80質量%以上がさらに好ましく、100質量%、すなわち、樹脂マトリクスはポリエチレングリコールのみからなってもよい。
【0046】
本実施形態における樹脂マトリクスが、ポリエチレングリコール以外の他の樹脂を含む場合、他の樹脂としては、例えば、親水基を有する樹脂が挙げられる。上記親水基としては、例えば水酸基(ヒドロキシ基)、カルボキシル基、スルホン酸基、ポリエーテル基等が挙げられる。
【0047】
ポリエチレングリコール(PEG)以外の水酸基を有する樹脂は、ポリビニルアルコール(PVA)等が挙げられる。
カルボキシル基を有するものとしては、ポリアクリル酸(PAA)等が挙げられる。
水酸基とカルボキシル基を有するものとしては、カルボキシメチルセルロース(CMC)等が挙げられる。
スルホン酸基を有するものとしては、スルホエチルアクリレート等が挙げられる。
これらの他に、親水基を有する単量体の2種以上の共重合体も適用できる。
【0048】
本実施形態における親水成分はスルホン酸基及びエステル基の少なくとも一方を含有する成分が好ましく、200℃で10分間加熱する前後における親水性に寄与する官能基量の変化が15%以下であるものがより好ましい。これにより、親水性皮膜層による親水性の効果が、加熱等によって失われることなく維持され、耐熱性に優れた親水性を実現できる。
【0049】
スルホン酸基及びエステル基の少なくとも一方を含有する親水成分としては、例えば、スルホン酸アクリル系化合物、リン酸エステル系化合物、アクリル系化合物等が挙げられる。これら化合物は、200℃で10分間加熱する前後における親水性に寄与する官能基量の変化が15%以下であるものがより好ましい。
【0050】
親水成分の、200℃で10分間加熱する前後における親水性に寄与する官能基量の変化は15%以下が好ましく、10%以下がより好ましく、5%以下がさらに好ましい。
なお、本明細書において親水性に寄与する官能基量の変化は、フーリエ変換赤外分光光度計を用いて測定できる。
【0051】
本実施形態において、樹脂マトリクス100質量部に対する親水成分の含有量は2.0~6000質量部が好ましい。ここで、高い親水性を得る観点から、上記含有量は2.0質量部以上が好ましく、5.0質量部以上がより好ましく、6.0質量部以上がさらに好ましく、8.0質量部以上がよりさらに好ましく、10質量部以上が特に好ましい。一方、良好な加工性を得る観点から、上記含有量は6000質量部以下が好ましく、5000質量部以下がより好ましく、4000質量部以下がさらに好ましく、3000質量部以下が特に好ましい。
このように、樹脂マトリクスに対する親水成分の含有量を適切な範囲にすることで、良好な加工性と、水飛びの防止や通風抵抗の低減に関する親水性といった特性を、互いに阻害することなく両立、向上できる。
【0052】
本実施形態における潤滑性皮膜層における樹脂マトリクスと親水成分の好ましい組み合わせとして、ポリエチレングリコールを主成分として含む樹脂マトリクスと、スルホン酸基及びエステル基の少なくとも一方を含有する親水成分とが挙げられる、より好ましい組み合わせは、上記ポリエチレングリコールの好適態様、及び上記親水成分の好適態様をそれぞれ任意の組み合わせで採用できる。
【0053】
本実施形態における潤滑性皮膜層には、樹脂マトリクス及び親水成分の他に、本発明の効果を損なわない範囲において、他の任意成分を含有させてもよい。任意成分としては、例えば所望する物性等を改善するための各種塗料添加物等が挙げられる。
【0054】
塗料添加物としては、例えば、架橋剤、界面活性剤、表面調整剤、湿潤分散剤、沈降防止剤、酸化防止剤、消泡剤、防汚剤、防錆剤等が挙げられる。これらの塗料添加物は、1種が含まれていても、2種以上が含まれていてもよい。
【0055】
本実施形態における潤滑性皮膜層の皮膜量は、0.05~3.0mg/dmが好ましい。ここで、十分な耐食性及び熱に強い親水性を得る観点から、上記皮膜量は0.05mg/dm以上が好ましく、0.1mg/dm以上がより好ましく、0.2mg/dm以上がさらに好ましい。一方、フィン材の表面が水に濡れた場合に、潤滑性皮膜層を構成する成分の一部が表面に残存することにより親水性が低下するのを抑制する観点から、上記皮膜量は3.0mg/dm以下が好ましく、1.5mg/dm以下がより好ましく、1.0mg/dm以下がさらに好ましい。
【0056】
潤滑性皮膜層の皮膜量は、潤滑性皮膜層の形成に用いる塗料組成物の濃度やバーコーターNo.の選択などによって調整できる。
【0057】
本実施形態に係るアルミニウム製フィン材において、耐食性皮膜層、親水性皮膜層、及び潤滑性皮膜層の合計の厚みは、フィン材の熱交換効率の低下を抑制する観点から5μm以下が好ましい。
【0058】
〈アルミニウム板〉
本実施形態におけるアルミニウム板は、アルミニウムからなる板と、アルミニウム合金からなる板とを含む概念であり、アルミニウム製フィン材に従来用いられているアルミニウム板を用いることができる。
【0059】
アルミニウム板としては、熱伝導性及び加工性に優れることから、JIS H 4000:2014に規定されている1000系のアルミニウムが好ましい。より具体的には、アルミニウム板として合金番号1050、1070、1200のアルミニウムがより好ましい。ただし上記記載は、アルミニウム板として、2000系ないし9000系のアルミニウム合金や、その他のアルミニウム板を用いることを何ら排除するものではない。
【0060】
アルミニウム板は、フィン材の用途や仕様などに応じて適宜所望する厚みとする。
熱交換器用のフィン材については0.08~0.3mmの厚みが好ましい。ここで、フィンの強度等の観点から、フィン材の厚みは0.08mm以上が好ましく、0.1mm以上がより好ましい。一方、フィンへの加工性や熱交換効率等の点から、フィン材の厚みは0.3mm以下が好ましく、0.2mm以下がより好ましい。
【0061】
このアルミニウム板の少なくとも一方の表面上に、少なくとも耐食性皮膜層と親水性皮膜層とをこの順に備えるが、両方の表面上に、少なくとも耐食性皮膜層と親水性皮膜層とをこの順に備えてもよい。また、両方の表面上に耐食性皮膜層と親水性皮膜層とを備える場合、両方の表面における各皮膜層の構成は、必ずしも同一とする必要はない。
【0062】
〈下地処理層〉
本実施形態に係るアルミニウム製フィン材は、アルミニウム板と耐食性皮膜層との間に、下地処理層をさらに備えていてもよい。
下地処理層を備えることにより、アルミニウム板の耐食性を高めることができ、また、アルミニウム板と耐食性皮膜層との密着性を高めることもできる。
【0063】
本実施形態における下地処理層は、アルミニウム板に耐食性を付与できればよく、従来公知のものを採用できる。例えば、無機酸化物又は無機-有機複合化合物からなる層を採用できる。
無機酸化物や無機-有機複合化合物を構成する無機材料としては、クロム(Cr)、ジルコニウム(Zr)、チタン(Ti)等が挙げられる。
【0064】
下地処理層となる無機酸化物からなる層は、例えば、アルミニウム板にリン酸クロメート処理、リン酸ジルコニウム処理、酸化ジルコニウム処理、クロム酸クロメート処理、リン酸亜鉛処理、リン酸チタン酸処理等を行うことによって形成できる。但し、無機酸化物の種類は、これらの処理で形成されるものに限定されない。
【0065】
下地処理層となる無機-有機複合化合物からなる層は、例えば、アルミニウム板に塗布型クロメート処理や、塗布型ジルコニウム処理等を行うことによって形成できる。このような無機-有機複合化合物の具体例としては、例えば、アクリル-ジルコニウム複合体などが挙げられる。
【0066】
下地処理層の膜厚等は特に限定されず、適宜設定すればよいが、単位面積あたりの皮膜量が金属(Cr、Zr、Ti)換算で1~100mg/mとなるように形成されることが好ましく、膜厚は1~100nmが好ましい。
【0067】
下地処理層の皮膜量や膜厚は、下地処理層の成膜に用いる化成処理液の濃度や、成膜処理時間等により調整できる。
【0068】
〈アルミニウム製フィン材の特性〉
本実施形態に係るアルミニウム製フィン材は、フィン材としての従来の機能を損なうことなく、抗ウイルス性・抗菌性も備える。具体的には、成形性や親水性を損なうことなく、良好な抗ウイルス性能・抗菌性能を実現できる。
【0069】
上記のうち成形性は、有機系の抗ウイルス・抗菌剤を用いた場合と、無機系の抗ウイルス・抗菌剤を用いた場合とで検証したが、無機系の抗ウイルス・抗菌剤を用いた場合には、抗ウイルス性・抗菌性発現のために皮膜への添加量を増やす必要があり、親水性低下を招く結果であった。
【0070】
また、アルミニウム製フィン材は、例えば熱交換器に用いられることを考えると、従来と同程度以上の親水性を維持する必要がある。
具体的には、後述する実施例に記載された方法により測定される、浸漬と乾燥を繰り返す前の液滴の接触角が18°以下であれば良好であると言え、16°以下が好ましく、13°以下がより好ましく、11°以下がさらに好ましく、小さいほど好ましい。
これに加え、浸漬と乾燥を14サイクル繰り返した後の液滴の接触角が20°以下であれば、良好な親水性について、従来と同程度以上の耐久性をもって実現できると評価でき、上記接触角は19°以下がより好ましく、18°以下がさらに好ましく、小さいほど好ましい。
【0071】
アルミニウム製フィン材の抗ウイルス性能・抗菌性能は、SIAAマーク認証のための試験により評価できる。
具体的には、抗ウイルス試験についてはISO 21702に、抗菌試験についてはJIS Z 2801:2012年にそれぞれ基づき、耐水性試験又は耐光性試験による処理を行った後の試験片を用いて行う。
耐水性試験、耐光性試験いずれの処理を経たものについても、抗ウイルス活性値が2.0以上であれば、抗ウイルスの有効性があると判断できる。また、耐水性試験、耐光性試験いずれの処理を経たものについても、抗菌活性値が2.0以上であれば、抗菌の有効性があると判断できる。
【0072】
《アルミニウム製フィン材の製造方法》
本実施形態に係るアルミニウム製フィン材は、アルミニウム板の少なくとも一方の表面上に、耐食性皮膜層を形成する工程、及び親水性皮膜層を形成する工程を順に経ることで製造できる。上記親水性皮膜層を形成する工程において用いられる塗料組成物には、親水性樹脂及び有機系の抗ウイルス・抗菌剤を含む。
【0073】
以下に、本実施形態に係るアルミニウム製フィン材の製造方法の一態様を具体的に説明する。なお、以下では、アルミニウム板の表面に、下地処理層、耐食性皮膜層、親水性皮膜層、及び潤滑性皮膜層をこの順に形成するが、下地処理層及び潤滑性皮膜層の形成は任意である。また、他の機能を有する皮膜層をさらに設けてもよい。
【0074】
アルミニウム板の表面上に下地処理層を形成する場合、従来公知の方法を採用できる。具体的には、下地処理層が無機酸化物からなる層である場合には、例えば、アルミニウム板にリン酸クロメート処理、リン酸ジルコニウム処理、酸化ジルコニウム処理、クロム酸クロメート処理、リン酸亜鉛処理、リン酸チタン酸処理等を行うことで、下地処理層を形成できる。
また、下地処理層が無機-有機複合化合物からなる層である場合には、例えば、アルミニウム板に塗布型クロメート処理や、塗布型ジルコニウム処理等を行うことで、下地処理層を形成できる。
【0075】
下地処理層を形成する前に、アルミニウム板の表面をアルカリ性脱脂液を用いて予め脱脂してもよく、これにより下地処理の反応性が向上し、さらに、形成された下地処理層の密着性も向上する。
【0076】
次いで、耐食性皮膜層を形成する工程として、アルミニウム板の耐食性を高めるための物質、例えば疎水性樹脂又はその前駆体を含む塗料組成物を下地処理層の表面に塗布し、脱水縮合を行う。これにより耐食性皮膜層が形成される。上記疎水性樹脂は先述したとおりであるが、例えばエポキシ樹脂が挙げられる。
【0077】
上記塗料組成物には、塗装性や作業性、皮膜の物性等を改善する観点より、水系溶媒、水溶性有機溶剤、先述した塗料添加物等がさらに含まれていてもよい。
【0078】
脱水縮合反応における反応温度や反応時間は特に限定されず、従来公知の条件を採用してもよい。
【0079】
耐食性皮膜層を形成する工程では、上記脱水縮合の後、必要に応じて乾燥を行ってもよい。
【0080】
親水性皮膜層は、親水性樹脂と、有機系の抗ウイルス・抗菌剤を含む塗料組成物を、耐食性皮膜層の上に塗布、乾燥等により固化することで形成できる。親水性樹脂、有機系の抗ウイルス・抗菌剤はそれぞれ、先述したものを使用できるが、例えば、親水性樹脂として、スルホン酸基及びエーテル結合を含有する、アクリル酸樹脂が挙げられる。また、有機系の抗ウイルス・抗菌剤として、フェノール系の抗ウイルス・抗菌剤が挙げられる。
【0081】
上記塗料組成物には、塗装性や作業性、皮膜の物性等を改善する観点より、水系溶媒、水溶性有機溶剤、先述した塗料添加物等がさらに含まれていてもよい。
【0082】
潤滑性皮膜層は、潤滑性を高める樹脂を含有する塗料組成物、例えば、樹脂マトリクスと親水成分を含む塗料組成物を、親水性皮膜層の上に塗布、乾燥等により固化することで形成できる。樹脂マトリクス、親水成分はそれぞれ、先述したものを使用できるが、例えば、樹脂マトリクスとしてはポリエチレングリコールを主成分として含むものが挙げられる。また、親水成分としては、スルホン酸基及びエステル基の少なくとも一方を含有するものが挙げられる。
【0083】
上記塗料組成物には、塗装性や作業性、皮膜の物性等を改善する観点より、水系溶媒、水溶性有機溶剤、先述した塗料添加物等がさらに含まれていてもよい。
【0084】
上記固化に際し、焼き付けを行ってもよい。
焼き付けの温度は、潤滑性皮膜層が剥離しなければ特に限定されないが、例えば100~250℃が好ましい。ここで、上記温度は100℃以上が好ましく、150℃以上がより好ましい。また、潤滑性皮膜層の樹脂が酸化するのを防ぐ観点から、上記温度は250℃以下が好ましく、200℃以下がより好ましい。なお、上記焼き付けの温度は、焼き付けを行う炉の温度である。
【0085】
焼き付けの時間も、潤滑性皮膜層が剥離しなければ特に限定されないが、例えば3~30秒が好ましい。ここで、上記時間は3秒以上が好ましく、5秒以上がより好ましい。また、潤滑性皮膜層の樹脂が酸化するのを防ぐ観点から、上記時間は30秒以下が好ましく、20秒以下がより好ましい。
【実施例0086】
以下に、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではなく、その趣旨に適合し得る範囲で変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0087】
《実施例1~3》
アルミニウム板として、厚みが0.1mmのJIS H 4000:2014に規定されている合金番号1070の規格を用いた。アルミニウム板の一方の表面上にリン酸クロメート処理により下地処理層を形成した。
【0088】
次に、エポキシ系樹脂組成物(DIC社製、EPICLON(登録商標)840)を水に分散させた塗料組成物を調製し、皮膜量が7.5mg/dmとなるように、下地処理層の表面にバーコーターを用いて塗布し、200℃で15秒間脱水縮合を行った後、乾燥させることで耐食性皮膜層を形成した。
【0089】
次に、スルホン酸基及びエーテル結合を含有するアクリル酸樹脂、並びに、抗ウイルス性及び抗菌性を有するフェノール系化合物を水に分散させた塗料組成物を調製し、皮膜量が4.0mg/dmとなるように、耐食性皮膜層の表面にバーコーターを用いて塗布し、乾燥させることで、親水性皮膜層を形成した。実施例1~3における親水性皮膜層におけるフェノール系化合物の含有量は表1に示すとおりである。
【0090】
最後に、ポリエチレングリコール(三洋化成工業社製、PEG6000)を水に分散させた塗料組成物を調製し、皮膜量が1.0mg/dmとなるように親水性皮膜層の表面にバーコーターを用いて塗布し、乾燥後、150℃で15秒間焼き付けることによって、潤滑性皮膜層を形成した。
以上により、アルミニウム製フィン材を得た。
【0091】
《比較例1~3》
抗ウイルス性及び抗菌性を有するフェノール系化合物を親水性皮膜層ではなく、耐食性皮膜層に、表1に記載の含有量となるように含有させた以外は、実施例1~3と同様にしてアルミニウム製フィン材を得た。
【0092】
《比較例4》
抗ウイルス性及び抗菌性を有するフェノール系化合物に代えて、抗ウイルス性及び抗菌性を有するトリアジン系化合物を用いた以外は比較例2と同様にしてアルミニウム製フィン材を得た。
【0093】
《参考例1》
抗ウイルス性及び抗菌性を有する化合物を耐食性皮膜層にも親水性皮膜層にも含有させなかった以外は、実施例1と同様にしてアルミニウム製フィン材を得た。
【0094】
《評価》
〈抗ウイルス性能・抗菌性能〉
得られたアルミニウム製フィン材それぞれについて、5cm×5cmの試料を切り出した。そして、各試料に対して、SIAAマーク認証における耐久性試験方法に準拠した耐水性試験又は耐光性試験により処理を行ったものを試験片とした。耐水性試験における区分は2、耐光性試験における区分は1とした。
【0095】
・抗ウイルス試験(ISO 21702)
得られたアルミニウム製フィン材それぞれについて、5cm×5cmの試験片を切り出した。上記試験片に、試験ウイルス液(インフルエンザウイルス)0.4mLを接種し、被覆フィルムを被せた。試験ウイルス液接種後、25±1℃、90%RH以上で24時間静置した後、プラーク法にてウイルス感染価(PFU/cm)を測定した。上記測定は各例のアルミニウム製フィン材に対して1回ずつ行い、その平均値をウイルス感染価とした。
参考例1の平均のウイルス感染価をUt、実施例又は比較例の平均のウイルス感染価をAtとし、(Ut-At)で表される値を、該当する実施例又は比較例における抗ウイルス活性値Rtとして算出した。結果を表1に示すが、抗ウイルス活性値が耐水性試験による処理(耐水処理後)及び耐光性試験による処理(耐光処理後)のいずれにおいても2.0以上であれば、抗ウイルスの有効性があると判断できる。なお、表1中、「-」は未測定であることを意味する。
【0096】
・抗菌試験(JIS Z 2801:2012年)
得られたアルミニウム製フィン材それぞれについて、5cm×5cmの試験片を切り出した。上記試験片をシャーレ内に設置し、その表面に、試験菌液(大腸菌又は黄色ブドウ球菌)0.4mLを滴下し、被覆フィルムを被せ、シャーレの蓋をした。シャーレを35℃、90%RH以上で24時間静置して培養した。その後SCDLP培地10mLを加えて、被覆フィルムと試験片から試験菌を洗い出し、当該洗い出し液中の菌数を寒天平板培養法により測定した。上記測定は各例のアルミニウム製フィン材に対して1回ずつ行い、その平均値を培養後生菌数とした。
参考例1の試験片1cm当たりの培養後生菌数をUf、実施例又は比較例の試験片1cm当たりの培養後生菌数をAfとし、その対数を取った〔log(Uf)-loh(Af)〕で表される値を、該当する実施例又は比較例における抗菌活性値Rfとして算出した。結果を表1に示すが、大腸菌及び黄色ブドウ球菌の少なくとも一方に対し、耐水処理後及び耐光処理後のいずれにおいても抗菌活性値が2.0以上であれば、抗菌の有効性があると判断できる。なお、表1中、「-」は未測定であることを意味する。
【0097】
〈親水性〉
フィン材表面に約2μLのイオン交換水を滴下して、その液滴の接触角を接触角測定器(協和界面科学社製:CA-05型)で測定した。接触角は各サンプル3回測定し、その平均値を初期の接触角とした。
次いで、水道水を流した水槽にフィン材を8時間浸漬した後、80℃で16時間乾燥させる工程を1サイクルとし、この浸漬と乾燥を14サイクル繰り返した。その後室温に戻し、フィン材表面に約2μLのイオン交換水を滴下して、その液滴の接触角を接触角測定器(協和界面科学社製:CA-05型)で測定した。接触角は各サンプル3回測定し、その平均値を14サイクル後の接触角とした。
結果を表1の「親水性」に示すが、初期の接触角が18°以下であれば、従来と同程度以上の良好な親水性を有すると評価できる。また、14サイクル後の接触角が20°であれば、良好な親水性について、従来と同程度以上の耐久性をもって実現できると評価できる。なお、表1中、「-」は未測定であることを意味する。
【0098】
【表1】
【0099】
表1の結果より、比較例1~4のように、耐食性皮膜層に有機系の抗ウイルス・抗菌剤を含有させると、親水性皮膜層を設けても本来の良好な親水性が得られず、親水性の低下度合も顕著であった。また、この場合には、耐水処理後の抗ウイルス性、抗菌性の結果が劣る傾向も見られた。
【0100】
これに対し、実施例1、2では、親水性皮膜層に有機系の抗ウイルス・抗菌剤を含有させることで、非常に良好な親水性及びその持続性を維持したまま、有効な抗ウイルス性、抗菌性も実現できることが分かった。特に、有機系の抗ウイルス・抗菌剤を含有しない従来のアルミニウム製フィン材である参考例1と比べても、親水性の機能を損なうことなく、抗ウイルス・抗菌性を実現できていることが分かる。
また、実施例3では抗ウイルス性能・抗菌性能の評価を行っていないが、実施例2で十分な抗ウイルス性、抗菌性が実現できていることから、実施例2よりも有機系の抗ウイルス・抗菌剤の含有量が多い実施例3でも良好な抗ウイルス性、抗菌性が実現できることは容易に推測できる。その上で、実施例3のように、有機系の抗ウイルス・抗菌剤を0.75mg/dm含有させても、良好な親水性を実現できた。ただし、有機系の抗ウイルス・抗菌剤の含有量を増やすにつれて、親水性皮膜層の塗料組成物を塗装する際に外観ムラができやすくなる傾向がみられた。そのため、塗料組成物中に、有機系の抗ウイルス・抗菌剤をミクロに均一に混ぜて均質な親水性皮膜層を形成し、親水性皮膜層としての機能を過度に損なわない観点から、有機系の抗ウイルス・抗菌剤の含有量は一定の値以下、例えば0.60mg/dm以下が好ましいと言える。