(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025025392
(43)【公開日】2025-02-21
(54)【発明の名称】患者搬送台車及び放射線照射システム
(51)【国際特許分類】
A61N 5/10 20060101AFI20250214BHJP
【FI】
A61N5/10 T
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023130124
(22)【出願日】2023-08-09
(71)【出願人】
【識別番号】518119249
【氏名又は名称】株式会社ビードットメディカル
(71)【出願人】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】306000957
【氏名又は名称】株式会社シコウ
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100141025
【弁理士】
【氏名又は名称】阿久津 勝久
(74)【代理人】
【識別番号】100221327
【弁理士】
【氏名又は名称】大川 亮
(72)【発明者】
【氏名】久保田 佳樹
(72)【発明者】
【氏名】蓑原 伸一
(72)【発明者】
【氏名】植田 達也
(72)【発明者】
【氏名】東 真宏
(72)【発明者】
【氏名】大杉 政利
(72)【発明者】
【氏名】藤井 敬士
【テーマコード(参考)】
4C082
【Fターム(参考)】
4C082AA01
4C082AC04
4C082AE01
4C082AJ07
4C082AJ08
4C082AJ14
4C082AJ16
4C082AL02
4C082AL06
4C082AP07
(57)【要約】
【課題】患者搬送台車及び放射線照射システムにおいて、種々の観点の少なくとも一つについての改善を図る技術を提供する。
【解決手段】患者搬送台車(100)は、患者を乗せる天板(110)と、天板に接続し、天板を移動する天板移動部(120)と、天板及び天板移動部を搬送する搬送部(130)と、を備える。天板移動部は、アーム部(122)と、調整部(121)と、スライド部(123)と、を含む。アーム部は、アーム(1221)及びアームを動作させる機構を有する。調整部は、アーム部と天板との間に設けられ、アームの先端側において天板の姿勢を調整する。スライド部は、アーム部を搬送部に対してスライドさせる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者搬送台車であって、
患者を乗せる天板と、
前記天板に接続し、前記天板を移動する天板移動部と、
前記天板及び前記天板移動部を搬送する搬送部と、
前記天板移動部を制御する天板移動制御部と、
前記搬送部を制御する搬送制御部と、
を備え、
前記天板移動部は、アーム部と、調整部と、スライド部と、を含み、
前記アーム部は、アーム及び前記アームを動作させる機構を有し、
前記調整部は、前記アーム部と前記天板との間に設けられ、前記アームの先端側において前記天板の姿勢を調整し、
前記スライド部は、前記アーム部を前記搬送部に対してスライドさせる、
患者搬送台車。
【請求項2】
請求項1に記載の患者搬送台車であって、
高さ方向に沿ったZ軸の周りの回転をヨー方向の回転とし、Z軸に直交するX軸周りの回転をピッチ方向の回転とし、前記Z軸及びX軸に直交するY軸の周りの回転をロール方向の回転とした場合に、前記調整部は、
前記天板をピッチ方向又はロール方向の少なくともいずれかに回転させて天板の傾斜を調整する傾斜調整機構と、
前記天板をヨー方向に回転させて前記天板の向きを調整する向き調整機構と、
を含む、
患者搬送台車。
【請求項3】
請求項2に記載の患者搬送台車であって、
前記向き調整機構は、前記天板を高さ方向に沿った2つの軸周りにヨー方向に回転可能である、
患者搬送台車。
【請求項4】
請求項1に記載の患者搬送台車であって、
前記アームを動作させる前記機構は、
前記アームを水平方向に延びる軸周りに回転させる第1の回転機構と、
前記アームをヨー方向に回転させる第2の回転機構と、
を含む、
患者搬送台車。
【請求項5】
請求項1に記載の患者搬送台車であって、
前記アームは、平行リンク機構のロボットアームである、
患者搬送台車。
【請求項6】
請求項1に記載の患者搬送台車であって、
前記スライド部は、
前記搬送部の上部に設けられるガイドと、
ガイドに沿って移動する可動部と、
を含む、
患者搬送台車。
【請求項7】
請求項1に記載の患者搬送台車であって、
前記搬送部は、
前記天板移動部が設けられるベースと、
前記ベースは、前記天板移制御部と前記搬送制御部を設けられるスペースを有し、
前記ベースに設けられ、放射線治療室に設けられた係合部と係合して前記搬送部の位置を固定する固定機構と、
を含む、
患者搬送台車。
【請求項8】
請求項7に記載の患者搬送台車であって、
前記固定機構は、前記ベースに格納された格納位置と、前記格納位置から突出した固定位置との間で変位する前記係合部と嵌合する嵌合部材を含む、
患者搬送台車。
【請求項9】
請求項7に記載の患者搬送台車であって、
前記搬送部は、前記固定機構を少なくとも4つ含む、
患者搬送台車。
【請求項10】
請求項7に記載の患者搬送台車であって、
前記固定機構は、前記ベースに格納された格納位置と、前記格納位置から突出した固定位置との間で変位する前記係合部と嵌合する嵌合部材を含み、
前記嵌合部材は、テーパ形状の部分を含み、
前記係合部は、前記嵌合部材の前記テーパ形状に対応した凹部を含み、
嵌合部材と係合部材が環状に線接触又は面接触する、
患者搬送台車。
【請求項11】
請求項7に記載の患者搬送台車であって、
前記搬送部は、前記ベースに装着された複数の車輪を含み、
前記複数の車輪は、
駆動源により駆動する駆動車輪と、
前記駆動車輪に従動する自由車輪と、
を含む、
患者搬送台車。
【請求項12】
請求項11に記載の患者搬送台車であって、
前記駆動車輪は、少なくとも前後進及び旋回可能である、
患者搬送台車。
【請求項13】
患者搬送台車と、患者に放射線を照射する放射線照射装置と、を備える放射線照射システムであって、
前記患者搬送台車は、
患者を乗せる天板と、
前記天板に接続し、前記天板を移動する天板移動部と、
前記天板及び前記天板移動部を搬送する搬送部と、
を備え、
前記天板移動部は、
アーム及び前記アームを動作させる機構を有するアーム部と、
前記アーム部を前記搬送部に対してスライドさせるスライド部と、
前記アーム部と前記天板との間に設けられ、前記天板の姿勢を調整する調整部と、
を含む、
放射線照射システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、患者搬送台車及び放射線照射システムに関する。
【背景技術】
【0002】
放射線治療では、放射線を患者に照射する前に治療台に患者を乗せて、放射線の照射部から照射される放射線の位置と放射線を照射すべき部位との位置合わせ(患者位置設定や位置決め処理という)が行われる。
【0003】
また、放射線治療の一種である粒子線治療において、加速器から取り出された陽子線、重粒子線、又は中性子線などの粒子線を病巣や癌などの腫瘍部分等(標的)に照射する治療法が行われている。これらの治療法では、標的への粒子線の線量の集中性を高めつつ正常組織への影響を抑えるために、粒子線は標的に高精度に照射される必要があり、高精度な患者位置設定が求められる。一方で、放射線治療室内での患者位置設定に多くの時間を要してしまうと、患者1人当たりの放射線治療室の占有時間が増加し、単位時間あたりの治療人数が少なくなってしまうおそれがある。また、安全な治療照射を担保するための放射線のQuality Assurance(QA)測定を行う時間を圧迫し、医師や看護師、放射線技師等の医療従事者への負担が大きくなるおそれがある。
【0004】
特許文献1では、患者を乗せる天板(110)と、天板を移動及び/又は回転させる天板駆動部(120)と、天板駆動部を載置するベース(131)を有する搬送部(130)とを備えた患者搬送台車が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記従来技術では、粒子線治療室とは別の位置決め室において患者搬送台車の天板(110)に対する患者の位置決めを行った上で患者搬送台車を粒子線治療室に移動することにより、1人あたりの患者の治療室占有時間を短縮している。ところで、このような患者搬送台車においては、例えば台車の小型化、アームと他の装置との干渉の抑制、位置決め作業の効率化など、種々の観点から改善の余地が残されている。
【0007】
本発明は、患者搬送台車及び放射線照射システムにおいて、上記の観点の少なくとも一つについての改善を図る技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明には、以下の態様が含まれる。
[態様1]
患者搬送台車であって、
患者を乗せる天板と、
前記天板に接続し、前記天板を移動する天板移動部と、
前記天板及び前記天板移動部を搬送する搬送部と、
前記天板移動部を制御する天板移動制御部と、
前記搬送部を制御する搬送制御部と、
を備え、
前記天板移動部は、アーム部と、調整部と、スライド部と、を含み、
前記アーム部は、アーム及び前記アームを動作させる機構を有し、
前記調整部は、前記アーム部と前記天板との間に設けられ、前記アームの先端側において前記天板の姿勢を調整し、
前記スライド部は、前記アーム部を前記搬送部に対してスライドさせる、
患者搬送台車。
[態様2]
態様1に記載の患者搬送台車であって
高さ方向に沿ったZ軸の周りの回転をヨー方向の回転とし、Z軸に直交するX軸周りの回転をピッチ方向の回転とし、前記Z軸及びX軸に直交するY軸の周りの回転をロール方向の回転とした場合に、前記調整部は、
前記天板をピッチ方向又はロール方向の少なくともいずれかに回転させて天板の傾斜を調整する傾斜調整機構と、
前記天板をヨー方向に回転させて前記天板の向きを調整する向き調整機構と、
を含む、
患者搬送台車。
[態様3]
態様2に記載の患者搬送台車であって、
前記向き調整機構は、前記天板を高さ方向に沿った2つの軸周りにヨー方向に回転可能である、
患者搬送台車。
[態様4]
態様1に記載の患者搬送台車であって、
前記アームを動作させる前記機構は、
前記アームを水平方向に延びる軸周りに回転させる第1の回転機構と、
前記アームをヨー方向に回転させる第2の回転機構と、
を含む、
患者搬送台車。
[態様5]
態様1に記載の患者搬送台車であって、
前記アームは、平行リンク機構のロボットアームである、
患者搬送台車。
[態様6]
態様1に記載の患者搬送台車であって、
前記アームは、患者が前記天板に乗り降りする際の乗降姿勢において前記搬送部との干渉を回避する形状の回避部を有する、
患者搬送台車。
[態様7]
態様1に記載の患者搬送台車であって、
前記スライド部は、
前記搬送部の上部に設けられるガイドと、
ガイドに沿って移動する可動部と、
を含む、
患者搬送台車。
[態様8]
態様1に記載の患者搬送台車であって、
前記搬送部は、
前記天板移動部が設けられるベースと、
前記ベースは、前記天板移制御部と前記搬送制御部を設けられるスペースを有し、
前記ベースに設けられ、放射線治療室に設けられた係合部と係合して前記搬送部の位置を固定する固定機構と、
を含む、
患者搬送台車。
[態様9]
態様8に記載の患者搬送台車であって、
前記固定機構は、前記ベースに格納された格納位置と、前記格納位置から突出した固定位置との間で変位する前記係合部と嵌合する嵌合部材を含む、
患者搬送台車。
[態様10]
態様8に記載の患者搬送台車であって、
前記搬送部は、前記固定機構を少なくとも4つ含む、
患者搬送台車。
[態様11]
態様8に記載の患者搬送台車であって、
前記固定機構は、前記ベースに格納された格納位置と、前記格納位置から突出した固定位置との間で変位する前記係合部と嵌合する嵌合部材を含み、
前記嵌合部材は、テーパ形状の部分を含み、
前記係合部は、前記嵌合部材の前記テーパ形状に対応した凹部を含み、
嵌合部材と係合部材が環状に線接触又は面接触する、
患者搬送台車。
[態様12]
態様8に記載の患者搬送台車であって、
前記搬送部は、前記ベースに装着された複数の車輪を含み、
前記複数の車輪は、
駆動源により駆動する駆動車輪と、
前記駆動車輪に従動する自由車輪と、
を含む、
患者搬送台車。
[態様13]
態様12に記載の患者搬送台車であって、
前記駆動車輪は、少なくとも前後進及び旋回可能である、
患者搬送台車。
[態様14]
患者搬送台車と、患者に放射線を照射する放射線照射装置と、を備える放射線照射システムであって、
前記患者搬送台車は、
患者を乗せる天板と、
前記天板に接続し、前記天板を移動する天板移動部と、
前記天板及び前記天板移動部を搬送する搬送部と、
を備え、
前記天板移動部は、
アーム及び前記アームを動作させる機構を有するアーム部と、
前記アーム部を前記搬送部に対してスライドさせるスライド部と、
前記アーム部と前記天板との間に設けられ、前記天板の姿勢を調整する調整部と、
を含む、
放射線照射システム。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】(a)は一実施形態に係る患者搬送台車の概略を示す正面図、(b)~(c)はその平面図である。
【
図2-1】(a)~(b)は患者搬送台車の天板の移動及び回転を説明する図である。
【
図2-2】(c)~(e)は患者搬送台車の天板の移動及び回転を説明する図である。
【
図2-3】(f)~(h)は患者搬送台車の天板の移動及び回転を説明する図である。
【
図3】患者搬送台車の駆動制御部のブロック図である。
【
図4】患者搬送台車の搬送制御部のブロック図である。
【
図5】施設内の放射線照射システムの概略図である。
【
図6】(a)及び(b)は放射線照射システムの位置決め室の概略図である。
【
図7】放射線照射システムの放射線治療室の構成を模式的に示す図である。
【
図9】放射線照射システムを用いた放射線治療の一連の流れを示すフローチャートである。
【
図10】(a)~(c)は患者搬送台車の固定機構の動作説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
〔患者搬送台車100の構成〕
<概略>
図1(a)は一実施形態に係る患者搬送台車100の概略を示す正面図であり、
図1(b)はその平面図であって天板110を省略して示した図である。
図1(c)は、
図1(b)に対してさらに天板搬送部を省略して示した図である。なお、
図1(a)では、患者搬送台車100の各部の構造を説明するため、カバー等の外装部材は適宜省略して示している。患者搬送台車100は、患者を搬送可能な台車である。例えば、後述する位置決め室において患者搬送台車100に乗った患者の患者位置設定が行われた後、患者搬送台車100により患者が安全な姿勢で放射線治療室まで搬送される。そして、治療室内において治療姿勢が再現され、治療照射が行われる。これにより、治療室内での患者位置設定に要する時間を短縮でき、患者1人当たりの放射線治療室の占有時間を短縮することができる。
【0011】
以下の説明では、患者搬送台車100の高さ方向に沿った軸をZ軸とし、Z軸に垂直な平面において互いに直交する軸をX軸及びY軸とする。X軸の周りの回転をピッチ回転(ピッチ方向の回転)とし、Y軸の周りの回転をロール回転(ロール方向の回転)とし、Z軸の周りの回転をヨー回転(ヨー方向の回転)とする。また、以下の説明において、対象物を回転するという場合、対象物を360度に渡って回転するものに限らず、所定の角度範囲で回転(回動)するものも含むものとする。
【0012】
図1の例では、平面視して長方形状である天板110の短辺方向に沿った軸をX軸とし、天板110の長辺方向に沿った軸をY軸としている。なお、天板110が楕円形状の場合は、例えば短軸をX軸、長軸をY軸とし、両軸に垂直な軸をZ軸としてもよい。
【0013】
患者搬送台車100は、患者を乗せる天板110と、天板110に接続し、天板110の姿勢を変更する天板移動部120と、天板110及び天板移動部120を搬送する搬送部130と、を備える。
【0014】
<天板110>
天板110は、患者の身体を固定するための固定具(不図示)を備える。例えば、固定具には、患者の頭部を固定する器具、患者の手足を固定する器具、患者の胴体を固定する器具、及び/又は患者の身体の形状に沿って形成されたクッション材などが含まれる。また、天板110は、患者の頭部、脚部、及び/又は胴体にあたる部分など天板110の一部が傾斜できるように構成されていてもよい。また、患者が天板110上でうつ伏せになった状態でも固定できるように、天板110に呼吸孔等が設けられていてもよい。
【0015】
天板110は、本実施形態では矩形状(長方形又は正方形)であるが、平面視して矩形状のものに限らず、楕円形状(円を含む)のものであってもよい。天板110は、患者が乗っても安定しており(撓まない)、患者が動かないよう固定できるような形状及びサイズを有し得る。
【0016】
<天板移動部120>
天板移動部120は、調整部121と、アーム部122と、スライド部123と、を含む。詳しくは後述するが、天板移動部120は、傾斜調整機構1211、第1の水平回転機構1213、第2の水平回転機構1214、第3の水平回転機構1223、垂直回転機構1222、及びスライド部123により、天板110とアーム1221とを移動及び回転させて、天板110を任意の位置に動かす。
【0017】
(調整部121)
調整部121は、アーム1221の先端側において天板110の姿勢を調整する。調整部121は、天板110とアーム部122との間に設けられる。ここでは、天板110の姿勢の調整は、天板110の水平面に対する傾斜及び水平面上の向きの少なくともいずれかの調整を指すものとする。
【0018】
調整部121は、傾斜調整機構1211と、向き調整機構1212と、を含む。傾斜調整機構1211は、天板110をピッチ方向又はロール方向の少なくともいずれかに回転させて天板110の傾斜を調整する。
【0019】
傾斜調整機構1211は、天板110に接続する。本実施形態では、傾斜調整機構1211は、天板110をピッチ回転方向、ロール回転方向に傾斜させるよう構成されている。傾斜調整機構1211は、アイソセントリック回転が可能なように、各軸の回転を独立してモータ駆動で制御する(
図3参照)。
【0020】
また、傾斜調整機構1211は、傾斜調整部が2枚の接続プレートで上下に挟まれる構造となっている。第1の水平回転機構1213と接続した接続プレート1211cの上に各軸のモータと傾斜調整部が搭載されている。接続プレート1211cは、第1の水平回転機構1213に対し常に水平を保つように設けられる。天板110に接続した接続プレート1211dは、傾斜調整部が所定の傾斜を設定する際には、その傾斜に追従する。すなわち、水平を保つ接続プレート1211cに対して接続プレート1211dが傾斜する傾斜調整部は、例えばボールねじ等の公知の機構により接続プレート1211dを水平方向に延びる所定の軸周りに所定量回転させることで、接続プレート1211dを傾斜させてもよい。
【0021】
本実施形態では、傾斜調整機構1211による天板110の傾斜角度は実臨床で使用する範囲を想定している。回転ガントリを用いて多方向から照射可能な放射線治療装置の場合、患者位置設定では、天板の回転可能な角度は±10度以下で十分である。この範囲の天板の傾斜の調整であれば、回転関節構造をとるより傾斜調整機構を採用することで、構造が簡略化される。一方で、水平、垂直、45度方向などの固定ポートから放射線が照射される場合は、所望の照射角度からの治療を実現するため、±20度程度まで天板を大きく傾けることがある。このような場合に対応するために、調整部121は傾斜調整機構1211として回転関節構造を採用してもよい。
【0022】
向き調整機構1212は、天板110をヨー回転(水平回転)させて天板110の向きを調整する。向き調整機構1212は、第1の水平回転機構1213と、第2の水平回転機構1214とを含む。
【0023】
第1の水平回転機構1213は、傾斜調整機構1211に接続され且つ天板110を水平回転するよう構成される。換言すれば、第1の水平回転機構1213は、傾斜調整機構1211とともに天板110を水平回転可能である。第2の水平回転機構1214は、第1の水平回転機構1213と接続され且つ天板110を水平回転するよう構成される。換言すれば、第2の水平回転機構1214は、傾斜調整機構1211及び第1の水平回転機構1213とともに天板110を水平回転可能である。すなわち、本実施形態では、向き調整機構1212は、2つの水平回転機構を用いて天板110の向きを調整することができる。例えば、第1の水平回転機構1213と第2の水平回転機構1214とは、所定の接続部材等で接続され得る。
【0024】
本実施形態では、調整部121が2つの水平回転機構(第1の水平回転機構1213、第2の水平回転機構1214)を有することで、各関節を小型化しつつ、天板110の十分な旋回範囲を確保することができる。なお、各施設の治療運用フローや、放射線治療室に設置された診療機器のレイアウトによって天板の旋回領域を大きく設定する必要がない場合などは、第1の水平回転機構1213、第2の水平回転機構1214を1つの水平回転機構で代用しても良い。その場合には、調整部121を上下方向により小型化することができる。
【0025】
(アーム部122)
アーム部122は、天板110を移動させる。アーム部122は、アーム1221と、アーム部122を動作させる機構としての垂直回転機構1222及び第3の水平回転機構1223と、を含む。
【0026】
アーム1221は、調整部121の第2の水平回転機構1214に接続される。アーム1221は、平行リンク機構のロボットアームであり、その先端に接続された第2の水平回転機構1214を機械的に水平に保つことができる。すなわち、アーム1221を構成する平行リンクの対向するリンクは等長であり、常に対称性を保持してアーム1221が回転する。よって、アーム1221が垂直回転機構1222により回転してその高さが変化する際にも、アーム1221の先端に接続する第2の水平回転機構1214を水平に保つことができる。なお、本実施形態では、アーム1221は、例えば上腕部及び前腕部を有するアームのように、所定の長さの複数のリンクが直列に接続するアームではなく、直列方向には一つのリンクのみで構成される。また、アーム1221は、平行リンクではなくてもよい。
【0027】
垂直回転機構1222は、アーム1221に接続され且つアーム1221を回転するよう構成される。垂直回転機構1222は、患者搬送台車100が設けられる面に対して垂直方向へアーム1221の高さを調整するように構成されている。さらにいえば、垂直回転機構1222は、アーム1221の一端を、水平方向に延びる軸周りに回転するように構成される。垂直回転機構1222の回転角度は、患者の腫瘍中心位置をアイソセンタ(荷電粒子ビームが到達する幾何学的中心)に合わせることができる高さへ天板110を上昇させ、且つ患者に負担なく天板110に乗降できる高さまで天板110を下降させる範囲であり得る。
【0028】
第3の水平回転機構1223は、垂直回転機構1222に接続され且つアーム1221を水平回転するよう構成される。換言すれば第3の水平回転機構1223は、アーム1221を、垂直方向に延びる軸周りに回転するように構成される。第3の水平回転機構1223は、アーム1221を水平面で旋回し、天板の位置を0度から180度以上回転させることが可能である。
【0029】
よって、アーム1221の両側に直接または間接的に接続された第1の水平回転機構1213、第2の水平回転機構1214及び第3の水平回転機構1223と傾斜調整機構1211の接続プレート1211c、1211dにより、天板110が移動しながら高さが変化する際にも天板110を水平に保つことが可能である。
【0030】
また、アーム1221はリンクが湾曲していてもよい。一例として床側に位置するリンクを湾曲させることで、搬送部130のベース131との干渉を避けることができる。すなわち、アーム1221は、患者が天板110に乗り降りする際の乗降姿勢において搬送部130との干渉を回避する湾曲形状等の形状の回避部を有していてもよい。この結果、アーム1221をより大きく床方向へ回転させることが可能となり、患者が乗降する位置をより低い位置(例えば床面から天板の高さが70cm以下)とすることが可能である。これにより、高齢者や小児でも容易に乗降可能である。なお、回避部は、湾曲形状に限らず、例えば
図1(a)の向きで見た場合に上に凸となるように屈曲した屈曲部であってもよい。
【0031】
(スライド部123)
スライド部123は、アーム部122を搬送部130に対してスライドさせる。スライド部123は、アーム部122の第3の水平回転機構1223と接続する。スライド部123は、搬送部130の上部に設けられるガイド部123cと、ガイド部123cのリニアガイドに沿って直線移動可能な可動部123dとを含む。また、一例として、ガイド部123cは、リニアガイドの他、土台となる走行軸プレート、直線移動の駆動機構であるモータ部、出力を増幅する減速機、動力を伝達させるタイミングベルトとプーリ、天板移動部120のケーブルを直線移動に同調させて収納するケーブルベア(登録商標)、スライド部123の機構を覆うベルト部を含む。スライド部123は、搬送部130のベース131に設けられた凹部に嵌め込まれる。走行軸プレートにリニアガイドが設置され、さらに支持プレートがリニアガイドと連結している。支持プレートは第3の水平回転機構1223と接続し天板移動部120の第3の水平回転機構1223より上部を支える。ベルト部は走行軸プレート、走行軸プレートに搭載された構成する要素を全て包む。支持プレートがリニアガイドと連結することで、天板移動部120の第3の水平回転機構1223より上部を直線移動させ、天板の位置を変更することが可能な構成となっている。
【0032】
<搬送部130>
(概要)
搬送部130は、天板110及び天板移動部120を搬送する。搬送部130は、搬送に関わる様々な装置を収納するだけでなく、天板移動部120とその接続部や天板移動部120に関わる装置を収納するための十分なスペースを有する。例えば、搬送部130は、天板移動部120が設けられるベース131と、ベース131に装着された複数の車輪132と、ベース131内に載置された駆動制御部133及び搬送制御部134と、設けられた1つ又は複数のセンサ136と、ベース131に設けられた固定機構137と、を含む。なお、駆動制御部133及び搬送制御部134については、〔制御構成〕において説明する。例えば、駆動制御部133及び搬送制御部134は、ベース131に設けられた収容スペース131aに収容される。ベース131の上面の一部を駆動制御部133及び搬送制御部134の載置スペースとしてもよい。
【0033】
搬送部130により、患者搬送台車100は、一例として経路上にテープ状の誘導部を施工し、誘導部上を移動する。誘導部にはマーカが組み込まれる。患者搬送台車100は、センサなどでこのマーカを読み取ることで該経路のどこに位置するかを、搬送制御部134により把握する。患者搬送台車100は、患者搬送台車100の運行管理を行う運行管理装置260(
図8参照)に搬送制御部134から位置を無線送信してもよい。運行管理装置260は、特に施設内で複数の患者搬送台車100が稼働するような場合には、各患者搬送台車100の位置を把握することで、システム全体としての患者搬送台車100の搬送効率を向上することができる。
【0034】
搬送部130により、患者搬送台車100は、公知の自律走行技術を用いて施設内を自走する。誘導部の誘導方式は、磁気誘導式、電磁誘導式、若しくは二次元コードなどの画像認識方式、又はレーザ誘導式であってもよい。あるいは、自己位置推定機能と走行制御機能を有した自律移動式であってもよい。誘導部は、施設の運用フローによって、フレキシブルに経路を変更できるよう、使用中は容易には剥がれないが、施工時には脱着しやすいものであってもよい。また、患者搬送台車100は、介助者などに追従、あるいは協調して移動する追従式であってもよいし、状況に応じ走行モードを切り替え可能であってもよい。
【0035】
(車輪132)
複数の車輪132は、本実施形態では、全方向に移動可能な駆動車輪1321(全方向駆動車輪)と自由車輪1322を含む。駆動車輪1321は、少なくとも、前後進及び旋回可能で有り得る。例えば、駆動車輪1321としては、二輪速度差方式が採用されてもよい。この場合、駆動輪1321は、前後進及び旋回が可能である。その他、駆動車輪1321はステアリング方式、全方向に移動可能な独立ステアリング方式、メカナムホイールあるいはオムニホイール等であってもよい。車輪132の駆動車輪1321は、ベース131の中央部分に位置し、走行軸に対して垂直方向軸に少なくとも2箇所に設置される。一方、自由車輪1322は、ベース131の前後左右に4箇所設置される。駆動車輪1321により様々な方向に小回りな回転が可能となり、自由車輪1322によって安定した走行が可能となる。搬送制御部134の制御により駆動車輪1321用の駆動モータ(不図示)等の駆動源の力を受けて回転し、患者搬送台車100を走行させる。患者搬送台車100は自走するものであるが、介助者等が手動で動かすこともできてもよい。なお、駆動車輪1321は、全方向駆動車輪に限らず、ステアリング方式のものや、左右の駆動トルクや回転数の差によって旋回を行うもの等であってもよい。
【0036】
(センサ136)
センサ136は、例えば障害物センサを含む。センサ136は、患者搬送台車100の移動に際し、障害物を検知できる位置(前後、四隅など)に設けられる。一例として、障害物センサは非接触式で、患者搬送台車100から所定の範囲(例えば数cm~数m)にある周囲の障害物を検知するものであり、例えば2次元若しくは3次元光学センサ、レーザ測定センサ、音響センサ、磁場センサ、電界センサ、誘導センサ、電波センサ、又はこれらの組み合わせであってもよい。また、障害物を検出するセンサとして、接触式センサを備えてもよい。ベース131や天板110などの平面方向(XY平面)に広がりが最大になる可能性のある部分の周囲に備えられ、障害物に接触すると、搬送制御部は患者搬送台車100を減速停止させる。例えば、ベース131の周囲を囲うように設置され、搬送途中に人の足との接触、経路途中の小さな障害物などとの接触を感知し、患者搬送台車100を減速停止させる。
【0037】
また、センサ136は、前述した誘導部に組み込まれたマーカを検知する磁気誘導センサを含む。磁気誘導センサは、ベース131の床面側に少なくとも2つ設置されている。直線通路だけではなく、カーブする通路も想定されるため、必要に応じて複数のセンサが設けられてもよい。固定機構137は、ベース131の床面側から突出、又は前後左右のいずれか1つ以上の側面から突出するよう設けられる。
【0038】
(固定機構137)
固定機構137は、放射線治療室及び位置決め室の床に設けられた係合部の一例である受け部225、235(
図6、
図7参照)と係合して搬送部130の位置を固定し、患者搬送台車100が床に対して動かないように固定するための機構である。固定機構137は、受け部225、235と嵌合する嵌合部材137cと、嵌合部材137cと、後述する駆動モータ137aとを含む。
【0039】
嵌合部材137cは、ベース131の下部に設けられる。嵌合部材137cの数は適宜設定可能であるが、例えば4つ設けられる。嵌合部材137cは、駆動モータ137aによってベース131から床面に対して進退可能に設けられている。嵌合部材137cを進退させるための具体的な機構には、ラックピニオン機構やボールねじ機構等の公知の技術を適宜用いることができる。
【0040】
【0041】
嵌合部材137cは、受け部225、235と係合していない状態(ロック解除状態)においては、患者搬送台車100の移動時に邪魔にならないようにベース131内に格納される(格納位置、
図10(a))。また、嵌合部材137cは、受け部225、235と嵌合する際には駆動モータ137aによりベース131から下方に突出する。例えば、患者搬送台車100が固定位置を示す誘導部の端部、あるいは、固定位置として指定されたマーカ部に到達すると、ベース131から床面の受け部225、235に向かって嵌合部材137cが突出する(
図10(b))。そして、嵌合部材137cが受け部225、235と嵌合することで、患者搬送台車100の位置が固定される(固定位置、
図10(c))。
【0042】
一例として、固定機構137の嵌合部材137cはテーパ形状(円錐台の形状)を有し、受け部225、235は嵌合部材137cのテーパ形状に対応した形状の凹部である。これにより、目標位置に対して多少ずれた位置に患者搬送台車100が停止し、固定機構制御部134cの指示に基づき嵌合部材137cを下方に突出させたとしても、嵌合部材137cは受け部225、235の凹部のテーパ形状に沿って誘導され(
図11(a))、一意に位置が決まる(
図11(b))。なお、嵌合部材137cの形状としては、テーパ形状のほか、半球面形状等であってもよい。また、受け部225、235は嵌合部材137cの形状に対応した形状であればよい。すなわち、嵌合部材137cが目標位置に対して多少ずれた位置で受け部225、235に接触した際に、嵌合部材137cが受け部225、235に沿って案内されればよい。或いは、嵌合部材137cと受け部225、235とは、嵌合時に両者が周方向に沿って環状に線接触又は面接触することで、相対位置が一意に定まるような関係であればよい。
【0043】
なお、嵌合部材137cは、下方に代えて、或いは下方に加えて、側方に突出してもよい。このとき、受け部225、235は、位置決め室及び放射線治療室の壁面やその他の構造物の側面に設けられてもよい。
【0044】
患者搬送台車100の位置調整を変位センサ等により行うことも考えられるが、位置決め精度の確保が困難な場合がある。一方、本実施形態では、簡単な嵌合部材137cを用いて位置決めを行うので、患者搬送台車100の構成を簡素化しつつ、位置決めの精度を確保することができる。また、床面への大掛かりな装置も必要なく、位置決め室及び放射線治療室への受け部225、235の設置が容易である。
【0045】
<患者搬送台車100の他の構成>
患者搬送台車100に設けられる各駆動モータは、例えばベース131に設置されるバッテリー(不図示)からの電力を受けて、制御対象の各機構を駆動する。患者搬送台車100に積載されたバッテリーは、ベース131に備えられたオートコネクタ(不図示)を通じて充電されるようにしてもよい。基本的に、天板移動部120と搬送部130は同時に駆動しないため、電力の供給先を切り替えて使用が可能であり、天板移動部120と搬送部130への受電は共通のバッテリーを使用してもよい。バッテリーは、収容スペース131aに収納されてもよい。長軸方向の端に収納されることで、容易に取り出し可能で交換がし易くなる。
【0046】
患者搬送台車100は、天板移動部120と搬送部130を個別に製造し、締結部で接続してもよい。例えば
図1(b)、
図1(c)に示すように、走行軸プレートの長軸方向のベルト部と重複しない両端に締結部1231を、ベース131に締結部1311を設け、両者をボルトなどで締結する。これにより、両者を容易に組み立てることができ、また、個別に性能試験やメンテナンスを行うことができる。また収容スペース131aや、スペース間の空間を利用して、天板移動部120と搬送部130の受電、信号配線などを行うことができる。
【0047】
〔患者搬送台車100の姿勢〕
図1に示すように、天板110、傾斜調整機構1211、第1の水平回転機構1213、第2の水平回転機構1214、第3の水平回転機構1223、垂直回転機構1222、アーム1221は、並びにスライド部123は、高さ方向(略Z軸)において重畳するよう折りたたんだ状態で収容できるよう構成されている。この状態を、患者搬送台車100がホームポジション状態という。すなわち、患者搬送台車100がホームポジション状態において、天板110、アーム1221が高さ方向(略Z軸)に折り畳んだ状態となる。
【0048】
また、
図1(b)に示すように、ホームポジション状態においては、天板110及び天板移動部120は、平面視で搬送部130のX方向及びY方向の幅内に収まるように設けられている。したがって、このように患者搬送台車100がホームポジション状態にあると、天板110及び天板移動部120の平面方向(XY平面)の広がりを抑えることができる。患者搬送台車100は、このホームポジション状態のまま、天板110に患者を乗せ、病院等の施設内を移動する。
【0049】
図2(a)~
図2(h)は、患者搬送台車100がとり得る姿勢の例を示す図である。天板移動部120は、放射線治療の際に天板110を移動及び回転させ、患者を任意の姿勢となるよう動かすことができる。
【0050】
図2(a)及び
図2(b)は、患者乗降位置を示す。このとき、患者は照射装置と反対側の広いスペースで安全に乗降する。天板110は傾斜調整機構1211により水平に保持される。さらにアーム1221を、第3の水平回転機構1223及び/又はスライド部123により旋回させ、第1の水平回転機構1213及び/又は第2の水平回転機構1214により天板110をベース131に略平行とし、垂直回転機構1222により下降させることで患者は天板110から降りることができる。このとき、駆動開始姿勢はホームポジションからであってもよい。一方、治療終了直後などであれば、治療姿勢、つまり天板110はホームポジションから回転や移動している姿勢のため、降車ポジションに到達するまでに天板110は傾斜調整機構1211により水平姿勢に徐々に移動するよう駆動制御をしてもよい。
【0051】
図2(c)~(e)は、治療姿勢の一例である。
図2(c)は、0度姿勢であり、
図2(e)は180度姿勢である。
図2(d)は、0度姿勢から180度姿勢に移動する間の展開姿勢を示したものである。例えば、前立腺がん治療において、主に大腿骨頭などの正常組織への被ばく量を抑制するために、患者の左右方向から分割して照射する。このとき、一日の治療において連続で2門照射(0度、180度方向からの照射)をする場合、患者位置設定時の姿勢を保持するために速やかに天板110を180度回転する必要がある。アーム1221を、第3の水平回転機構1223及びスライド部123により旋回させ、第1の水平回転機構1213及び/又は第2の水平回転機構1214により天板110がベース131に垂直な位置を経由し(
図2(d))、
図2(c)を左右反転した
図2(e)の位置に天板110が配置される。このとき、0度あるいは180度治療中の姿勢から、左右反転の位置に旋回するため、天板110の姿勢は保持されたまま旋回してもよい。また、天板110の姿勢によっては、アーム1221と干渉する可能性があるため、傾斜調整機構1211を水平に戻して旋回し、反転した位置に到達するまで、あるいは到達した時点で姿勢を再現してもよい。
【0052】
図2(f)~(g)は、治療姿勢の一例であり、ノンコプラナー照射の場合である。ノンコプラナー照射は、患者の体軸方向に対して垂直断面だけでなく、非同一面からも治療ビームを照射し、正常組織や、腫瘍に隣接する重要臓器への線量を低下させる照射法である。主に、骨構造の複雑な頭頸部がんを対象に行われる。治療位置に患者搬送台車が固定されると、アーム1221を、第3の水平回転機構1223及び/又はスライド部123により回転させ、第1の水平回転機構1213及び/又は第2の水平回転機構1214により天板110を所望の角度に位置させる。一例として、頭頂部から照射する場合は、
図2(f)のように天板110をベース131に対し90度に位置させる。また、同日に多門照射する場合で、次に
図2(g)のように45度から照射するのであれば、天板110をアイソセンタ(照射中心)周りに回転する(アイソセントリック回転)。尚、回転開始角度は任意である。このときアーム1221と天板110とは重畳はせず、角度を持たせて天板の姿勢調整が行えるようにする。
【0053】
図2(h)は、診断機器を利用する一例である。診断機器は例えば自走式のCTやPET、MRIなどである。診断機器は、専用の診断室だけでなく、放射線治療室に据え付けられてもよい。診断装置のボア(開口部)面に対して平行に患者搬送台車が固定されると、第1の水平回転機構1213及び/又は第2の水平回転機構1214により天板110をベース131に対し垂直に位置させる。このとき、アーム1221はベース131に重畳された状態である。診断機器は自走し、ボア内に天板110を通過させることで、撮像を実施する。尚、
図2(a)~
図2(h)の姿勢を成すために天板移動部120の各駆動機構を以て説明したが、これらの各駆動機構は複合動作してもよい。
【0054】
〔制御構成〕
<駆動制御部133の制御構成>
図3は、駆動制御部133の機能ブロック図の一例である。駆動制御部133は、例えば、CPU(Central Processing Unit)等の1以上のプロセッサ及びメモリを備えた制御回路である。駆動制御部133の各機能部は、メモリに読み出し可能に記憶されたプログラム(ソフトウェア)によって、プロセッサが動作することにより実現されてもよい。プログラムは、例えば駆動制御部133内の記憶部に記憶されてもよい。
【0055】
なお、駆動制御部133は、プロセッサ及びメモリに代えて、或いはこれらに加えて、FPGA(Field Programmable Gate Array)又はASIC(Application Specific Integrated Circuit)に代表される集積回路等のハードウェアを含んで構成されてもよい。また、駆動制御部133は、単一の制御回路によって実現されてもよいし、駆動制御部133の各機能部が分担された複数の制御回路によって実現されてもよい。
【0056】
送受信部133aは、所定の装置と情報を送受信する。所定の装置としては、例えば、後述する位置決め室管理装置240や治療室管理装置250、前述した運行管理装置260等が挙げられる(
図8参照)。
【0057】
傾斜調整機構制御部133bのピッチ回転傾斜調整機構制御部1331bは、送受信部133aが受信した指示に基づき、傾斜調整機構1211の駆動モータ12111aを制御して、天板110のピッチ回転を制御する。ピッチ回転の回転量は位置検出器12111bにより算出され、ピッチ回転傾斜調整機構制御部1331bに出力される。傾斜調整機構制御部133bのロール回転傾斜調整機構制御部1332bは、送受信部133aが受信した指示に基づき、傾斜調整機構1211の駆動モータ12112aを制御して、天板110のロール回転を制御する。ロール回転の回転量は位置検出器12112bにより算出され、ロール回転傾斜調整機構制御部1332bに出力される。位置検出器はレゾルバやエンコーダも用いてよい。傾斜調整機構制御部133bは、送受信部133aを介して傾斜量の情報を所定の装置へ送信する。所定の装置は、当該情報に基づき、傾斜調整機構1211の傾斜量を把握する。
【0058】
第1の水平回転機構制御部133cは、送受信部133aが受信した指示に基づき、第1の水平回転機構1213の駆動モータ1213aを制御する。第2の水平回転機構制御部133dは、送受信部133aが受信した指示に基づき、第2の水平回転機構1214の駆動モータ1214aを制御する。第3の水平回転機構制御部133eは、送受信部133aが受信した指示に基づき、第3の水平回転機構1223の駆動モータ1223aを制御する。これにより、第1の水平回転機構1213及び第2の水平回転機構1214による天板110の水平回転(ヨー回転)、又は第3の水平回転機構1223によるアーム1221の水平回転(ヨー回転)が行われる。
【0059】
回転量(ヨー回転の回転量)は各位置検出器1213b、1214b、1223bにより算出され、各水平回転機構制御部133c、133d、133eに出力される。各水平回転機構制御部133c、133d、133eは、送受信部133aを介して回転量の情報を所定の装置へ送信する。所定の装置は、当該情報に基づき、第1の水平回転機構1213、第2の水平回転機構1214、及び第3の水平回転機構1223の回転量を把握する。
【0060】
垂直回転機構制御部133fは、送受信部133aが受信した指示に基づき、垂直回転機構1222の駆動モータ1222aを制御して、アーム1221の回転を制御する。回転量は位置検出器1222bにより算出され、垂直回転機構制御部133fに出力される。垂直回転機構制御部133fは、送受信部133aを介して回転量の情報を所定の装置へ送信する。所定の装置は、当該情報に基づき、垂直回転機構1222の回転量を把握する。
【0061】
直線駆動機構制御部133gは、送受信部133aが受信した指示に基づき、スライド部123の駆動モータ123aを制御して、アーム1221の直線移動量を制御する。移動量は位置検出器123bにより算出され、直線駆動機構制御部133gに出力される。直線駆動機構制御部133gは、送受信部133aを介して移動量の情報を所定の装置へ送信する。所定の装置は、当該情報に基づき、スライド部123の移動量を把握する。送受信部133aと各軸の制御部との間には、制御部133hが存在してもよい。制御部133hは、天板110が所望の位置へ移動するための天板駆動部の軌道計算などの全体の制御を担う。
【0062】
<搬送制御部134の制御構成>
図4は、搬送制御部134の機能ブロック図である。搬送制御部134は、例えば、CPU(Central Processing Unit)等の1以上のプロセッサ及びメモリを備えた制御回路である。駆動制御部133の各機能部は、メモリに読み出し可能に記憶されたプログラム(ソフトウェア)によって、プロセッサが動作することにより実現されてもよい。プログラムは、例えば搬送制御部134内の記憶部に記憶されてもよい。
【0063】
なお、搬送制御部134は、プロセッサ及びメモリに代えて、或いはこれらに加えて、FPGA(Field Programmable Gate Array)又はASIC(Application Specific Integrated Circuit)に代表される集積回路等のハードウェアを含んで構成されてもよい。また、搬送制御部134は、単一の制御回路によって実現されてもよいし、搬送制御部134の各機能部が分担された複数の制御回路によって実現されてもよい。
【0064】
送受信部134aは、所定の装置と情報を送受信する。所定の装置としては、例えば、後述する位置決め室管理装置240や治療室管理装置250、前述した運行管理装置260等が挙げられる(
図8参照)。また、駆動制御部133及び搬送制御部134は、送受信部133a及び送受信部134aにより相互に通信可能であってもよい。
【0065】
車輪制御部134bは、所定の装置から受信した指示に基づき、車輪132に含まれる駆動車輪1321の駆動モータ132aを制御して駆動車輪1321の回転及び向きを制御する。搬送制御部134が駆動車輪1321を制御することで、患者搬送台車100は施設内を自走する。駆動車輪1321の回転量(速度及び移動距離など)は位置検出器132bにより算出され、車輪制御部134bに出力される。位置検出器はレゾルバやエンコーダも用いてよい。車輪制御部134bは、送受信部134aを介して回転量の情報を所定の装置へ送信する。また、搬送部130のセンサ136は、障害物を検知すると、搬送制御部134に検知信号を送信する。これを受けて搬送制御部134は、患者搬送台車100を減速停止させる。あるいは、搬送制御部134は誘導部のマーカにより患者搬送台車100の位置を把握している場合、自己位置推定機能により車輪制御部134bへ適切な走行制御を指示してもよい。すなわち、搬送制御部134は、運行管理装置260等の所定の装置との通信を介することなく、車輪制御部134bへ適切な走行制御を指示してもよい。この場合、患者搬送台車100の走行に関して患者搬送台車100内で閉じた制御が可能となる。
【0066】
固定機構制御部134cは、所定の装置から受信した指示に基づき、駆動モータ137aを制御して固定機構137の状態をロック状態とロック解除状態との間で遷移させる。ここでは、ロック状態は、ベース131から固定機構137の嵌合部材137cが突出して受け部と嵌合した状態を指すものとする。また、ロック解除状態は、受け部との嵌合を解きベース131に固定機構137の嵌合部材137cを格納した状態を指すものとする。あるいは、搬送制御部134は誘導部のマーカにより患者搬送台車100の位置を把握している場合、自己位置推定機能により固定位置への到達を判断し、固定機構制御部134cへ固定機構の状態遷移制御を指示してもよい。すなわち、搬送制御部134は、所定の装置との通信を介することなく、固定機構制御部134cへ固定機構の状態遷移制御を指示してもよい。
【0067】
〔患者搬送台車100についての小括〕
以上説明した通り、本実施形態によれば、患者搬送台車100の小型化を図ることができる。具体的には、患者搬送台車100は、アーム部122を搬送部130に対してスライドさせるスライド部123を有する。これにより、スライド部123を設けずに同様の自由度を確保する場合と比較して患者搬送台車100を小型化することができる。すなわち、スライド部123を設けずに同様の自由度を確保しようとした場合、例えばアーム1221にさらに直列にリンクを追加する必要がある。本実施形態ではそのような場合と比べて患者搬送台車100を小型化することができる。
【0068】
また、本実施形態では、アーム1221は、例えば上腕部及び前腕部を有するアームのように、所定の長さの複数のリンクが直列に接続するアームではなく、直列方向には一つのリンクのみで構成される。したがって、例えば上腕部及び前腕部を有するアームと比べて患者搬送台車100を小型化することができる。詳細には、本実施形態の患者搬送台車100は、ホームポジション状態において、上腕部及び前腕部を折りたたんで上下方向に重ねる必要のあるアーム等と比較して、患者搬送台車100を上下方向に小型化することができる。
【0069】
また、本実施形態では、スライド部123及びアーム部122により天板110の移動を行う。よって、スライド部123を設けずに例えば所定の長さの複数のリンクが直列に接続するアームと比べてアームの長さを短くでき、アームの通過範囲が狭くなる。よって、天板移動部120と他の装置との干渉も抑制することができる。
【0070】
また、本実施形態では、アーム1221は、患者が天板110に乗り降りする際の乗降姿勢において搬送部130との干渉を回避する湾曲形状等の形状の回避部1221aを有していてもよい。この結果、アーム1221をより大きく床方向へ回転させることが可能となり、患者が乗降する位置をより低い位置(例えば床面から天板の高さが70cm以下)とすることが可能である。これにより、高齢者や小児でも容易に乗降可能である。
【0071】
また、本実施形態では、固定機構137の嵌合部材137cがテーパ形状を有し、受け部225、235は嵌合部材137cのテーパ形状に対応した形状の凹部である。これにより、嵌合部材137cが受け部225、235の凹部のテーパ形状に沿って誘導され、受け部225、235に対して嵌合部材137cの位置が一意に決まる。よって、簡易な形状で、患者搬送台車100の位置決め精度を確保することができる。
【0072】
また、患者搬送台車100の位置決め精度を確保できるので、位置決め室と放射線治療室に同様の受け部225、235を設けておくことで、位置決め室で得られた位置決め時のデータを用いて放射線治療室での位置決めを効果的に行うことができる。
【0073】
〔放射線照射システム〕
<概要>
上記で説明した患者搬送台車100を用いる放射線照射システム200について説明する。放射線照射システム200は、1つ又は複数の患者搬送台車100、並びに放射線照射装置210、患者位置設定装置220、230、位置決め室管理装置240、治療室管理装置250、及び運行管理装置260を含む。
【0074】
図5は、放射線治療を行う施設(例えば病院)に設けられた放射線照射システム200の例である。放射線治療を行う施設には、患者に放射線を照射する放射線照射装置210が置かれた1つ又は複数の放射線治療室と、放射線照射装置210の照射位置(アイソセンタIC)に対して、患者の患部の位置を一致させる位置決め処理が行われる1つ又は複数の位置決め室とが少なくとも含まれる。
図5の例では粒子線治療施設を想定している。
【0075】
<位置決め室>
図6(a)及び
図6(b)は、位置決め室の構成を模式的に示す図である。位置決め室には患者位置設定装置220と、患者搬送台車100の固定機構137と係合する受け部225とが備え付けられる。例えば、患者を乗せた患者搬送台車100は、施設内を通り位置決め室内へ搬送され、位置決め室に設けた受け部225に固定機構137を嵌合させて固定した後、位置決め用の測定台としてそのまま利用される。患者を搬送する台車から位置決め用の測定台へ移す必要がなく、患者の負担は軽減される。また、位置決め室内に固定の測定台を備え付けておく必要がなく、位置決め室のスペースも低減し得る。
【0076】
患者位置設定装置220は、複数のX線管221a、221bと、CCDエリアイメージセンサ、CMOSエリアイメージセンサ、又はフラットパネルディテクター等のX線を検出する複数の検出器222a、222bを備える。患者位置設定装置220は、例えばX線撮像装置又はX線CT装置である。患者位置設定装置220としてMRI装置を用いてもよく、この場合、X線管221の代わりに磁場発生装置(電磁石等)を用い、検出器222として磁場検出装置(RF受信コイル等)を用いることになる。
【0077】
図6(a)及び
図6(b)には、X線管221a、221bと対応する検出器222a、222bとで2組描かれているが、これらは1組であってもよいし、3組以上であってもよい。数が多いほど精度は向上するが、処理が煩雑になるので、例えば2~4組とするとよい。
【0078】
位置決め室では患者位置設定装置220を用いて放射線の照射位置(アイソセンタIC)の位置に対する患部の位置決めが行われる(
図6(a))。アイソセンタ座標データ(XYZ座標)及びX線画像データと、天板移動部120の位置決めデータは、位置決め室管理装置240に送られ、位置決め室管理装置240から、ネットワーク270を介して治療室管理装置250に送られる。ここで、位置決めデータは、傾斜調整機構1211、第1の水平回転機構1213、第2の水平回転機構1214、第3の水平回転機構1223、垂直回転機構1222、アーム1221及びスライド部123の位置決めデータであり得る。即ち、位置決めの際に取得した、天板110及び天板移動部120の姿勢を放射線治療室において再現するための各種データであり得る。位置決め室において放射線照射位置の位置決めが完了した後、患者搬送台車100は、患者を天板110に乗せたままホームポジションにある状態に戻る(
図6(b))。そのまま、位置決め室から放射線治療室にまで、施工された誘導部に沿って移動する。
【0079】
<放射線治療室>
放射線治療室は、外部への不必要な放射線の漏えいを防止するために周囲を厚いコンクリート等の遮蔽体によって囲まれている(
図5)。放射線治療室の入口は、曲がり角を有する迷路構造となっており、放射線の漏洩防止策が施されている。
【0080】
図7は、放射線治療室の構成を模式的に示す図である。放射線治療室には、放射線照射装置210(とくに照射部213)と、放射線照射位置の位置決めを行う患者位置設定装置230と、患者搬送台車100の固定機構137と係合する受け部235が備え付けられている。患者を乗せた患者搬送台車100は、施設内を通り放射線治療室内へ搬送され、放射線治療室に設けた受け部235に固定機構137の嵌合部材137cを嵌合させて固定させた後、放射線治療用の台としてそのまま利用される。患者を搬送する台車から患者の治療用の台へ移す必要がなく、患者への負担は軽減される。また、放射線治療室内に固定の治療台を備え付けておく必要がなく、放射線治療室のスペースを低減することできる。
【0081】
放射線治療室では、位置決め室管理装置240から受信した位置決めデータに基づき、再度放射線の照射位置に対する患部の位置決め処理が行われる。なお、放射線治療室に備え付けられる患者位置設定装置230は、複数のX線管231a、231bと、X線を検出する複数の検出器232a、232bを備えてもよい。位置決め室に備え付けられる患者位置設定装置220と異なる構成であってもよいが、同じ構成とすることで、放射線治療室と位置決め室との間の位置合わせが容易となる。
【0082】
<患者位置設定装置220、230>
位置決め室の患者位置設定装置220は、一部が位置決め室内に設けられ、残りの部分が位置決め室外に設けられていてもよい。同様に、放射線治療室の患者位置設定装置230は、一部が放射線治療室内に設けられ、残りの部分が放射線治療室外に設けられていてもよい。そのため、患者位置設定装置220、230の一部が位置決め室又は放射線治療室内に設けられていれば、「位置決め室に設けられた患者位置設定装置」及び「放射線治療室に設けられた患者位置設定装置」ということになる。
【0083】
患者位置設定装置220は、各種通信インターフェースと、各種制御のためのプログラム及びプロセッサ(又はASICなど)と、位置決め処理時の変位量の計算や取得画像の読み込みをするメモリなどを備える。患者位置設定装置220は、メモリに読み出し可能に記憶されたプログラム(ソフトウェア)によってプロセッサが動作するなどして実現される患者位置設定装置220の機能部として、X線撮像制御部を備える(不図示)。
【0084】
X線撮像制御部は、位置決め室管理装置240からの指示に応じて又は所定の周期で、X線管221及び検出器222を制御し、患者の患部のX線画像を生成し、患者位置設定部に出力する。患者位置設定部は、入力したX線画像と、予め記憶しておいた該患者の患部に係る基準X線画像とを比較し、両者の誤差量(位置誤差)を算出し、その情報を位置決め室管理装置240に出力する。
【0085】
<位置決め室管理装置240>
位置決め室管理装置240は、上記位置誤差が低減される(又はゼロになる)ように、患者搬送台車100の天板110及び天板移動部120の移動量及び/又は回転量を算出し、その情報を患者搬送台車100の駆動制御部133に送る。これを受けて駆動制御部133は天板移動部120を動かし、天板110の位置を調整する。また、位置決め室管理装置240は、患者搬送台車100から、実際に動かした移動量及び/又は回転量の情報を受けとる。
【0086】
位置決め室管理装置240は、ネットワーク270を介して治療室管理装置250に各種情報を送る。各種情報には、位置決め室管理装置240が搬送制御部134から受信した移動量及び/又は回転量の情報が含まれる。
【0087】
放射線治療室の患者位置設定装置230及び治療室管理装置250についても、位置決め室の患者位置設定装置220及び位置決め室管理装置240とそれぞれ同様の構成を有することができるが、説明は省略する。
【0088】
<運行管理装置260>
図8は、運行管理装置260と、患者搬送台車100と、位置決め室管理装置240及び治療室管理装置250と、の間の情報の授受を説明する図である。運行管理装置260は、患者搬送台車100の位置を管理するコンピュータである。運行管理装置260は、患者搬送台車100の搬送制御部134と通信し、誘導部のマーカを読み取った情報から患者搬送台車100の位置を把握する。
【0089】
放射線治療の効率化のためには、1人あたりの患者の治療室占有時間を短縮することや、患者の放射線治療終了後にすぐ次の患者が放射線治療室に入ることが求められる。放射線治療室や放射線治療室外の施設を運行する患者搬送台車は複数あることがあり、複数台の患者搬送台車の運行には、各患者搬送台車の位置を把握する管理装置が求められる。このような事情に鑑み、運行管理装置260は施設内における複数の患者搬送台車100の位置を把握していてもよい。
【0090】
<患者搬送台車100の制御切り替え>
次に、位置決め室及び放射線治療室に入室した際の、患者搬送台車100の制御の切替について説明する。
【0091】
患者搬送台車100が位置決め室に入り、固定機構137と受け部225との係合が完了すると(ロック状態)、ロック状態になったことを示す信号が送受信部134aから位置決め室管理装置240に送信される。これを受けて、位置決め室管理装置240は、患者搬送台車100が不意に動いてしまうことを防止するために、搬送制御部134を待機状態(スタンバイ状態)とする指示を搬送制御部134に送る。また、位置決め室管理装置240は、駆動制御部133を待機状態から復帰するための指示を駆動制御部133に送る。なお、搬送制御部134から駆動制御部133へと当該指示が送られてもよい。
【0092】
駆動制御部133が天板移動部120を制御することにより天板110の位置決めが完了した後、位置決め室管理装置240は、駆動制御部133に位置決め完了の信号を送る。駆動制御部133はこれを受けて、天板110をホームポジション状態に戻す。ホームポジション状態に戻った後、駆動制御部133は、ホームポジション状態に戻ったことを示す信号を位置決め室管理装置240に送信する。これを受けて、位置決め室管理装置240は、待機状態から復帰するための指示を搬送制御部134に送る。位置決め室管理装置240からの指示を受信すると、搬送制御部134は待機状態から復帰する。一方、駆動制御部133は、位置決め室管理装置240又は搬送制御部134から指示を受けて待機状態となる。そして搬送制御部134は、固定機構137をロック解除状態にし、ロック解除状態になったことを示す信号を位置決め室管理装置240に送信する。これを受けて位置決め室管理装置240は、搬送制御部134に患者搬送台車100の移動を許可する指示(経路の指定を含む)を送る。これを受けて搬送制御部134は、患者搬送台車100を移動させ、位置決め室から退室し、放射線治療室に移動する。なお、搬送制御部134は、ロック解除状態になったことを示す信号を運行管理装置260に送信してもよい。そして、搬送制御部134は、運行管理装置260から患者搬送台車100の移動を許可する指示(経路の指定を含む)を受信してもよい。
【0093】
同様に、患者搬送台車100が放射線治療室に入り、固定機構137と受け部235との係合が完了すると、ロック状態になったことを示す信号が治療室管理装置250に送信される。これを受けて、治療室管理装置250は、患者搬送台車100が不意に動いてしまうことを防止するために、搬送制御部134を待機状態とする指示と、駆動制御部133を待機状態から回復する指示を送る。
【0094】
放射線治療が完了した後、治療室管理装置250は、駆動制御部133に天板移動部120のホームポジションへの回帰信号を送る。駆動制御部133はこれを受けて、天板110をホームポジション状態に戻す。ホームポジション状態に戻った後、駆動制御部133は、ホームポジション状態に戻ったことを示す信号を治療室管理装置250に送信する。これを受けて治療室管理装置250は、搬送制御部134に指示を送り、治療室管理装置250からの指示を受信すると搬送制御部134は、待機状態から回復し、駆動制御部133は待機状態となる。そして搬送制御部134は、固定機構137をロック解除状態にし、ロック解除状態になったことを示す信号を治療室管理装置250に送信する。これを受けて治療室管理装置250は、搬送制御部134に患者搬送台車100の移動を許可する指示(経路の指定を含む)を送る。これを受けて搬送制御部134は、患者搬送台車100を移動させ、放射線治療室から退室する。
【0095】
<処理例>
図9は、放射線照射システム200における放射線治療の一連の流れを説明するフローチャートである。なお、このフローチャートのステップ順序はこれに限定されず、必要に応じて適宜調整される。
【0096】
患者搬送台車100は位置決め室への移動準備が完了すると、駆動制御部133は待機状態となり、搬送制御部134は、指定された経路の誘導部に沿って、患者搬送台車100を指定の位置決め室へ移動させる(ステップS1)。このとき、介助者等が患者搬送台車100の入力部(不図示)から適宜、移動先を搬送制御部134に指定してよい。
【0097】
位置決め室内で搬送制御部134は、固定位置を示す誘導部上に到達すると、固定機構137をロック状態にし、ロックが完了したことを示す信号を位置決め室管理装置240に送る(ステップS2)。これを受けて位置決め室管理装置240は、搬送制御部134に待機状態となるよう指示を送り、駆動制御部133に待機状態から復帰するよう指示を送る(ステップS3)。位置決め室に入室した患者は、患者搬送台車100に乗り、所定の位置まで移動する。その後、患者と治療台との間のずれを抑えるために、固定具で動かないよう天板110に固定される。患者が天板110に乗る際は、駆動制御部133が天板移動部120を動かし、天板110を床面近くへ移動させ、患者が乗りやすくする(
図2(a))。患者を乗せた天板110は、治療計画時のデータ(位置決めデータ)や前回の治療時のデータなどの所定の初期位置へ移動する。時間短縮のため、患者固定作業は位置決め室外で行ってもよい。駆動制御部133は、天板110及び天板移動部120を動かし、放射線の照射位置の位置決めを行う(ステップS4)。位置決めで得られたデータは、位置決め室管理装置240からネットワーク270を介して治療室管理装置250に送られる。位置決めでは、例えば、位置決め室内に設置されたレーザポインタ等を利用し、患者の皮膚の上から、放射線が照射される位置と放射線を照射すべき部位と間の粗い位置決めを行う。その後、患者のX線画像、CT画像、又はMRI画像を撮像し、それを見ながら患者が乗った天板の位置や傾き等を調整して、放射線粒子線を照射する位置を高精度に(例えば0.1mm単位)決定する。
【0098】
位置決めが完了すると、位置決め室管理装置240は、駆動制御部133に天板移動部120のホームポジションへの回帰信号を送り、これを受けて駆動制御部133は、天板110をホームポジション状態に戻す。その後、駆動制御部133は、ホームポジション状態に戻ったことを示す信号を位置決め室管理装置240に送信し、位置決め室管理装置240は、搬送制御部134を待機状態から回復する指示と、駆動制御部133を待機状態にする指示を送る。これを受けて駆動制御部133は待機状態になり、搬送制御部134は、待機状態から回復する(ステップS5)。搬送制御部134は、固定機構137をロック解除状態にする(ステップS6)。
【0099】
搬送制御部134はロック解除状態になったことを示す信号を位置決め室管理装置240に送信し、それを受けた位置決め室管理装置240は、患者搬送台車100を移動させてもよいことを許可する指示を送る。これを受けて、搬送制御部134は、運行管理装置260により指定された経路の誘導部に沿って、放射線治療室に患者搬送台車100を移動させる(ステップS7)。
【0100】
放射線治療室内で、固定位置を示す誘導部上に到達すると、搬送制御部134は、固定機構137をロック状態にし、ロック状態になったことを示す信号を治療室管理装置250に送る(ステップS8)。これを受けて治療室管理装置250は、搬送制御部134を待機状態にする指示と、駆動制御部133を待機状態から回復する指示を送る。これを受けて搬送制御部134は待機状態となり、駆動制御部133は待機状態から回復し、天板110及び天板移動部120を制御できるようになる(ステップS9)。駆動制御部133は、治療室管理装置250から位置決め室で決めた放射線の照射位置の情報(天板110及び天板移動部120の姿勢情報を含む)を受信し、その情報に基づき患者位置を再現する(ステップS10)。その後、必要であれば放射線治療室の患者位置設定装置230によりさらに位置決め処理(ステップS11)を行うようにするとよい。
【0101】
位置決めが完了すると、運行管理装置260は、放射線照射装置210を作動させ、放射線治療が開始する(ステップS12)。
【0102】
放射線治療が終了すると、治療室管理装置250は、駆動制御部133に患者位置決めが完了したことを示す信号を送り、駆動制御部133はこれを受けて、天板110をホームポジション状態に戻す。治療室管理装置250は、搬送制御部134を待機状態から回復する指示と、駆動制御部133を待機状態にする指示を送る。これを受けて駆動制御部133は待機状態になり、搬送制御部134は、待機状態から回復する(ステップS13)。そして、搬送制御部134は、固定機構137をロック解除状態にする(ステップS14)。搬送制御部134はロック解除状態になったことを示す信号を治療室管理装置250に送信し、これを受けた治療室管理装置250は、搬送制御部134に患者搬送台車100を移動させてもよいことを許可する指示を送る。これを受けて搬送制御部134は、患者搬送台車100を移動させ、放射線治療室から退出し、誘導部に沿って準備室等へ移動する(ステップS15)。
【0103】
上記実施形態で説明される寸法、材料、形状、構成要素の相対的な位置等は任意であり、当業者であれば本発明が適用される装置の構造又は様々な条件に応じて変更されると理解する。また、本発明は、具体的に記載された上記実施形態に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0104】
100:患者搬送台車、110:天板、120:天板移動部、121:調整部、122:アーム部、1221:アーム、1222:垂直回転機構、1223:第3の水平回転機構、123:スライド部、130:移動部、200:放射線照射システム