(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025025399
(43)【公開日】2025-02-21
(54)【発明の名称】監視装置、監視方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G05B 23/02 20060101AFI20250214BHJP
【FI】
G05B23/02 302S
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023130132
(22)【出願日】2023-08-09
(71)【出願人】
【識別番号】310010564
【氏名又は名称】三菱重工コンプレッサ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100161702
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100189348
【弁理士】
【氏名又は名称】古都 智
(74)【代理人】
【識別番号】100196689
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 康一郎
(72)【発明者】
【氏名】小笠原 良治
【テーマコード(参考)】
3C223
【Fターム(参考)】
3C223AA17
3C223AA23
3C223BA01
3C223FF04
3C223FF35
3C223GG01
3C223GG03
(57)【要約】
【課題】MD値による監視精度を高め、過度に異常判定されることを防ぐことができる監視装置を提供する。
【解決手段】監視装置は、回転機械のプロセス値に基づいてMD値を算出する手段と、前記プロセス値の異常を判定するための閾値と前記プロセス値の推定値の差に対する前記プロセス値の実測値と前記推定値の差の割合を示すギャップ値を算出する手段と、前記MD値と前記ギャップ値とに基づいて前記回転機械の運転状態を判定する手段と、を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転機械のプロセス値に基づいてマハラノビス距離を算出する手段と、
前記プロセス値の異常を判定するための閾値と前記プロセス値の推定値の差に対する前記プロセス値の実測値と前記推定値の差の割合を示すギャップ値を算出する手段と、
前記マハラノビス距離と前記ギャップ値とに基づいて前記回転機械の運転状態を判定する手段と、
を有する監視装置。
【請求項2】
前記判定する手段は、前記マハラノビス距離が第1閾値を超過すると、
前記ギャップ値の大きさに応じて前記運転状態に関する異常の程度を評価する、
請求項1に記載の監視装置。
【請求項3】
前記判定する手段は、前記マハラノビス距離が第1閾値を超過し、且つ、前記ギャップ値が、第2閾値を超過すると、異常の予兆を検出したと判定する、
請求項1に記載の監視装置。
【請求項4】
前記判定する手段は、前記マハラノビス距離が前記第1閾値を超過し、且つ、前記ギャップ値が、前記第2閾値より小さい第3閾値を超過すると、経過観察が必要な前記運転状態と判定する、
請求項3に記載の監視装置。
【請求項5】
前記判定する手段が、前記経過観察が必要な前記運転状態と判定すると、
前記実測値に基づく異常の原因分析を行い、前記原因分析の結果を記録する手段、
をさらに有する請求項4に記載の監視装置。
【請求項6】
前記判定する手段は、前記マハラノビス距離が前記第1閾値を超過し、且つ、前記ギャップ値が、前記第2閾値より大きい第4閾値を超過すると、異常を検知したと判定する、
請求項3に記載の監視装置。
【請求項7】
前記ギャップ値を算出する手段は、前記回転機械の回転数によって変動する前記プロセス値を用いて前記ギャップ値を算出する、
請求項1または請求項2に記載の監視装置。
【請求項8】
前記ギャップ値を算出する手段は、前記回転機械の回転数をパラメータとする所定の予測式を用いて、前記プロセス値の推定値を算出する、
請求項1または請求項2に記載の監視装置。
【請求項9】
前記ギャップ値を算出する手段は、前記回転機械の監視を開始してから所定の時間が経過するまでに計測された前記実測値の平均値を前記プロセス値の推定値として算出する、
請求項1または請求項2に記載の監視装置。
【請求項10】
回転機械のプロセス値に基づいてマハラノビス距離を算出するステップと、
前記プロセス値の異常を判定するための閾値と前記プロセス値の推定値の差に対する前記プロセス値の実測値と前記推定値の差の割合を示すギャップ値を算出するステップと、
前記マハラノビス距離と前記ギャップ値とに基づいて前記回転機械の運転状態を判定するステップと、
を有する監視方法。
【請求項11】
コンピュータを、
回転機械のプロセス値に基づいてマハラノビス距離を算出する手段、
前記プロセス値の異常を判定するための閾値と前記プロセス値の推定値の差に対する前記プロセス値の実測値と前記推定値の差の割合を示すギャップ値を算出する手段、
前記マハラノビス距離と前記ギャップ値とに基づいて前記回転機械の運転状態を判定する手段、
として機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、監視装置、監視方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
機器やプラントなどの異常検知を行う方法として、マハラノビス・タグチ法(Mahalanobis-Taguchi method:MT法)が知られている。MT法では、複数の変数の時系列データからマハラノビス距離(MD値と記載する。)を算出し、MD値が閾値を超えた場合に異常と判定する。しかし、MD値の算出に用いる各種センサの計測値には、ノイズや欠損、変動等が生じることがあり、このような計測データを使ってMD値を算出すると、正常域から逸脱したMD値が得られることがある。例えば、タービンや圧縮機などの回転機械の場合、回転数の変動に伴って、軸受温度等が上昇し、機械としては異常ではなくても、MD値が閾値を超えてアラームが誤って発報されてしまう可能性がある。
【0003】
特許文献1には、センサ等で計測した計測値と閾値を比較するだけではなく、当該計測値に影響を与える他の計測値を使用して異常の予兆を検知する方法が開示されている。特許文献2には、転がり軸受の回転時の振動が閾値未満となると、転がり軸受に過度の昇温が生じる予兆であると判定する軸受異常予知方法が開示されている。特許文献1、2には、MT法を補完できる異常検知の方法については記載がない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-201683号公報
【特許文献2】特開2021-018106号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
MT法による監視精度を高め、誤検知を防ぐ方法が求められている。
【0006】
本開示は、上記課題を解決することができる監視装置、監視方法及びプログラムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の監視装置は、回転機械のプロセス値に基づいてマハラノビス距離を算出する手段と、前記プロセス値の異常を判定するための閾値と前記プロセス値の推定値の差に対する前記プロセス値の実測値と前記推定値の差の割合を示すギャップ値を算出する手段と、前記マハラノビス距離と前記ギャップ値とに基づいて前記回転機械の運転状態を判定する手段と、を有する。
【0008】
本開示の監視方法は、回転機械のプロセス値に基づいてマハラノビス距離を算出するステップと、前記プロセス値の異常を判定するための閾値と前記プロセス値の推定値の差に対する前記プロセス値の実測値と前記推定値の差の割合を示すギャップ値を算出するステップと、前記マハラノビス距離と前記ギャップ値とに基づいて前記回転機械の運転状態を判定するステップと、を有する。
【0009】
本開示のプログラムは、コンピュータを、回転機械のプロセス値に基づいてマハラノビス距離を算出する手段、前記プロセス値の異常を判定するための閾値と前記プロセス値の推定値の差に対する前記プロセス値の実測値と前記推定値の差の割合を示すギャップ値を算出する手段、前記マハラノビス距離と前記ギャップ値とに基づいて前記回転機械の運転状態を判定する手段、として機能させる。
【発明の効果】
【0010】
上述の監視装置、監視方法及びプログラムによれば、MT法による監視精度を高め、誤検知を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施形態に係る監視装置の一例を示すブロック図である。
【
図2】実施形態に係るMD値の推移の一例を示す図である。
【
図3】実施形態に係る回転数の推移の一例を示す図である。
【
図4】実施形態に係る監視対象項目の一例を示す図である。
【
図5】実施形態に係るギャップ値について説明する図である。
【
図6】実施形態に係る異常判定処理の一例を示すフローチャートである。
【
図7】実施形態に係る監視装置のハードウェア構成の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<実施形態>
以下、本開示の監視装置10について、
図1~
図7を参照して説明する。
図1は、実施形態に係る監視装置の一例を示すブロック図である。
監視装置10は、コンプレッサ、タービン、エンジン、ポンプ、発電機等の回転機械の運転状態を監視する。一例として、本実施形態では、回転機械がコンプレッサの場合を例に説明を行う。コンプレッサ1と監視装置10は、有線または無線のネットワーク、信号線などで通信可能に接続されている。コンプレッサ1の各所には、温度計、圧力計、振動計、回転数計、電流計、電圧計などコンプレッサ1のプロセス値を計測する各種のセンサ2が複数の設けられており、各センサ2が計測した計測値は、監視装置10へ送信される。監視装置10は、プロセス値取得部11と、MD値算出部12と、ギャップ値算出部13と、判定部14と、分析部15と、出力部16と、記憶部17と、を備える。
【0013】
プロセス値取得部11は、コンプレッサ1の各センサ2が計測した計測値または計測値から算出された値を取得する。計測値や計測値から算出された値をプロセス値またはプロセス値の実測値と呼ぶ。プロセス値は、他の装置で算出されてもよいし、プロセス値取得部11が算出してもよい。プロセス値取得部11は、プロセス値を取得し、記憶部17に保存する。
【0014】
MD値算出部12は、監視の開始前に、プロセス値取得部11が取得したコンプレッサ1の正常時のプロセス値を用いて、マハラノビス距離(MD値)を算出するための単位空間を作成する。MD値算出部12は、監視開始後に、作成した単位空間と、プロセス値取得部11が取得したプロセス値とに基づいて、コンプレッサ1の異常度の評価に用いるMD値を計算する。MD値算出部12は、プロセス値取得部11が取得したプロセス値の中から単位空間の作成に用いたプロセス値と同じ種類の評価対象のプロセス値を抽出し、抽出したプロセス値と単位空間とのマハラノビス距離(MD値)を算出する。MD値は、コンプレッサ1の正常な状態から、どの程度乖離しているかを示す値である。マハラノビス距離の算出方法は公知の為、本明細書では説明を省略する。MD値算出部12は、算出したMD値を判定部14へ出力する。
【0015】
図2に、MD値の推移を模式的に表したグラフを示す。
図2のグラフの縦軸はMD値、横軸は時間、Th1は閾値である。グラフ21は、MD値算出部12が算出した時系列のMD値を示す。一般的なマハラノビス法による異常監視では、時間t1にMD値が閾値Th1を超えると、異常または異常の予兆を検知したと判定する。ところが、コンプレッサ1等の回転機械では、このような異常検知が誤判定となる場合がある。
図3にコンプレッサ1の回転数のトレンドを示す。
図3のグラフの縦軸はコンプレッサ1の回転数、横軸は時間、グラフ31は、プロセス値取得部11が取得した時系列の回転数を示す。
図2と
図3の横軸の同じ位置は同じ時間を表しているとすると、回転数の上昇に伴ってMD値が閾値Th1を超えるような推移を示していることがわかる。回転数の上昇に伴い、軸受温度等が上昇するとMD値が閾値を超え、アラームが発報されてしまう。しかし、実際には、コンプレッサ1の運転状態は正常である場合がある。このような事象に対し、従来は、MD値が閾値を超えた際、監視員が、先ず回転数等のプロセス値が変動してないかどうかを確認し、MD値の上昇が異常によるものか、回転数の上昇によるものかを判断していた。これに対し、本実施形態では、MD値のほかに、監視対象項目を設定し、監視対象項目の値を推定する。そして、推定した値を推定値(以下で説明する予測値、平均値、性能予測値を総称して推定値またはプロセス値の推定値と呼ぶ。)とし、推定値と実測値の差を用いた後述するギャップ値を算出し、MD値が閾値を超えることに加え、ギャップ値が閾値を超えると異常または異常の予兆が検知されたと判定する。
【0016】
ギャップ値算出部13は、監視対象項目のギャップ値を算出する。監視対象項目の一例を
図4に示す。
図4のジャーナル軸受温度などのプロセス値は監視対象項目を示し、予測値、平均値などはギャップ値の算出に用いる各プロセス値の推定値の算出方法を示している。ギャップ値算出部13は、
図4の監視対象項目のそれぞれについてギャップ値を算出する。例えば、ジャーナル軸受温度、スラスト軸受温度、軸位置(回転軸の軸方向の変位量)のギャップ値の算出には、各監視対象項目の予測値が用いられる。ギャップ値算出部13は、以下の式(1)によってジャーナル軸受温度等のギャップ値を算出する。
ギャップ値=(実測値-予測値)÷(従来の閾値-予測値)・・・(1)
【0017】
予測値は、例えば、ジャーナル軸受温度等を計算するための理論式から導かれる予測式または機械学習等を用いて構築された予測モデル等によって算出される。監視対象項目には、コンプレッサ1の回転数の変動による影響を受けるプロセス値が含まれ、ジャーナル軸受温度、スラスト軸受温度などはその一例である。例えば、ジャーナル軸受温度やスラスト軸受温度の場合、予測値を算出する予測式には、コンプレッサ1の回転数や潤滑油の温度などのパラメータが用いられていてもよい。これらのパラメータは、理論式を構成するパラメータのうち軸受温度と相関が強い因子である。実測値は、例えば、それぞれの軸受温度を計測するセンサ2によって計測されたプロセス値である。従来の閾値とは、ジャーナル軸受温度であれば、ジャーナル軸受温度についての異常を検知するために設定された閾値である。
【0018】
予測値を算出することが難しい監視対象項目については、監視開始時の平均値を用いてギャップ値を算出する。
図4の軸振動、蒸気圧力・温度、コンプレッサ吸込温度、冷却水温度、ガスシール差圧、潤滑油圧力、潤滑油温度のギャップ値の算出には平均値が用いられる。ギャップ値算出部13は、以下の式(2)によってギャップ値を算出する。
ギャップ値=(実測値-平均値)÷(従来の閾値-平均値)・・・(2)
【0019】
例えば、過去の運転時に採取した軸振動、蒸気圧力などの平均値があらかじめ算出されていて、ギャップ値算出部13は、これら各プロセス値の平均値と、監視時にプロセス値取得部11によって取得される実測値(プロセス値)と、従来の閾値と、式(2)によって各監視対象項目のギャップ値を算出してもよい。また、ギャップ値算出部13は、コンプレッサ1の監視を開始してから所定時間が経過するまでに、プロセス値取得部11によって取得された軸振動、蒸気圧力、蒸気温度、コンプレッサ吸込温度、冷却水温度、ガスシール差圧、潤滑油圧力、潤滑油温度等のプロセス値それぞれの平均値を計算し、前記所定時間が経過した後は、計算した平均値や式(2)を使って、ギャップ値を算出してもよい。
【0020】
また、ギャップ値算出部13は、所定の性能カーブ(コンプレッサ1の吐出圧力と他のパラメータの関係が示された曲線)や所定の理論式からコンプレッサ1の吐出圧力の予測値(性能予測値)を算出し、以下の式(3)によってギャップ値を算出する。
ギャップ値=(実測値-性能予測値)÷(従来の閾値-性能予測値)・・・(3)
同様に、ギャップ値算出部13は、所定の性能カーブや理論式を用いて、コンプレッサ1の吐出温度を算出し、式(3)により、吐出温度のギャップ値を算出する。
【0021】
なお、
図4に例示する監視対象項目は、MD値の算出に用いられてもよい。また、MD値の算出には、
図4の監視対象項目に加え、回転数、コンプレッサ流量、蒸気流量、コンプレッサ吸入圧力などが用いられてもよい。また、これらの項目をグループ分けし、グループごとにMD値を算出するようにしてもよい。
【0022】
判定部14は、MD値算出部12が算出したMD値とギャップ値算出部13が算出したギャップ値をそれぞれの閾値と比較し、MD値が閾値Th1を超え、さらに監視対象項目のギャップ値のうちの何れかが所定の閾値を超過すると、異常視すべきとの判定を行う。具体的には、判定部14は、MD値とギャップ値の監視を常時並行して行い、両者が閾値を超えたら異常予兆検知または異常検知としてアラームを発報する。MD値に加え、ギャップ値による判定を加えることで、回転数上昇に伴ってMD値が閾値Th1を超過したとしても、ギャップ値が閾値以内であれば、アラームの発報を回避することができる。
【0023】
ギャップ値に対する閾値については、複数段階で設定することができる。例えば、経過観察用の閾値Tha=30%、異常予兆判定用の閾値Thb=50%、異常判定用の閾値Thc=100%のように設定してもよい。異常予兆のアラームは、異常が深刻化する前に早期に原因を究明し、早期に対策を打つ事を目的としており、異常と言えない変動量で発報する事は回避しなければならない。早すぎても、遅すぎても好ましくない事から、例えば、予測値と従来の閾値との中間(50%)を異常予兆検知の閾値Thbとしてもよい。軸振動のように予測値の算出が困難な対象については、運転初期の平均値と従来の閾値との中間を閾値Thbとすることができる。また、異常予兆検知に至るまでに取得されるプロセス値は、異常の原因分析や異常予兆検知のための学習データとして活用することができる。そこで、異常予兆検知より低い変動レベルに対して経過観察用の閾値Thaを設け、この閾値を超過すると、センサ2が計測等したプロセス値についてFTA(Fault Tree Analysis)等による原因分析などを開始し、その分析結果やプロセス値を保存用に記録するようにしてもよい。変動レベルが小さすぎると原因分析の精度が低下するので、閾値Thaには、十分な分析精度が得られる値が設定される。
【0024】
図5上側のグラフ51に監視対象項目(例えば、ジャーナル軸受温度)についての予測値と実測値の推移を示し、
図5下側のグラフ52に当該監視対象項目のギャップ値の推移の一例を示す。グラフ51の縦軸は軸受温度、横軸は時間である。グラフ52の縦軸は予測値と実測値の温度差、横軸は時間である。
図5上側のグラフ51について、閾値51aは、ジャーナル軸受温度について設定された閾値(式(1)の従来の閾値)を示し、グラフ51b、51cは、それぞれジャーナル軸受温度の予測値、実測値を示す。式(1)が示すように、ジャーナル軸受温度のギャップ値(%)は、グラフ51b、51cの差を分子、グラフ51a、51bの差を分母とする分数で算出する。
図5下側のグラフ52について、グラフ52a、52bは、それぞれ式(1)の分母、分子を示す。また、グラフ52cは、式(1)によって算出されるギャップ値を示す。分子は実測値の予測値からのズレ量を表し、分母は予測値から閾値までの許容幅を表す。許容幅で正規化することにより、実測値の予測値からのズレ量を相対化して評価することができる。MD値は、個々の信号の標準偏差からのズレ量を数値化しており、実際の変動量との関係性の説明が難しいが、ギャップ値(実測値と従来の閾値51aとの距離を正規化した値)を導入することにより、より具合的に監視対象の状態を評価することができる。
【0025】
図5下側のグラフ52について、判定部14は、時間t1にギャップ値(グラフ52c)が閾値Thaを超えると(MD値は、閾値Th1を超えているとする。以下同様。)、経過観察が必要と判定し、分析部15に原因分析および分析結果などの記録を指示する。判定部14は、時間t2にギャップ値が閾値Tha以下となると、経過観察が不要と判定し、分析部15にデータの記録の停止を指示する。時刻t3に再びギャップ値が閾値Thaを超えると、判定部14は、分析部15にデータの記録を指示する。
【0026】
判定部14は、時間t4にギャップ値が閾値Thbを超えると、異常の予兆が検知されたと判定し、出力部16に異常予兆検知および対策準備開始を促すアラームを発報するよう指示する。時間t5にギャップ値が閾値Thcを超えると、判定部14は、異常が検知されたと判定し、出力部16に異常検知のアラームを発報するよう指示する。
【0027】
分析部15は、異常予兆が検知された場合などにFTA等による異常の原因分析を行う。また、分析部15は、プロセス値取得部11が取得した各種のプロセス値やFTA等による分析結果を記憶部17に記録する。記録したデータは、異常原因の分析や異常予兆検知のための学習用データとして用いられる。
【0028】
出力部16は、コンプレッサ1の監視に関する諸々の情報を表示装置や他装置へ出力する。例えば、出力部16は、判定部14による判定結果やアラームの発報を行う。
記憶部17は、種々の情報を記憶する。例えば、記憶部17は、プロセス値取得部11が取得したプロセス値、各種の閾値、予測値の算出に用いる予測式や予測モデル、MD値の算出に用いる単位空間などを記憶する。
【0029】
(動作)
次に
図6を参照して、異常判定処理の流れについて説明する。
図6は、実施形態に係る異常判定処理の一例を示すフローチャートである。
監視装置10は、以下の処理を所定の制御周期で繰り返し行う。まず、プロセス値取得部11が、プロセス値を取得する(ステップS11)。次にMD値算出部12が、MD値を算出する(ステップS12)。MD値算出部12は、算出したMD値を判定部14へ出力する。次にギャップ値算出部13が、式(1)~(3)を用いて、監視対象項目ごとにギャップ値を算出する(ステップS13)。ギャップ値算出部13は、算出したギャップ値を判定部14へ出力する。なお、ステップS12とステップS13の実行順に制限はない。ステップS13、ステップS12の順に行ってもよいし、ステップS12とステップS13を同時並行的に行ってもよい。
【0030】
次に判定部14が、MD値とギャップ値に基づいて異常等の判定を行う(ステップS14、S15、S17、S20)。MD値が閾値Th1以下の場合(ステップS14;No)、ステップS23へ進む。
【0031】
MD値が閾値Th1より大きく、何れかのギャップ値が閾値Thcより大きい場合(ステップS14;Yes、ステップS15;Yes)、判定部14は、異常を検知したと判定し、出力部16にアラームの発報を指示する。出力部16は、異常検知を知らせるアラームを発報する(ステップS16)。例えば、出力部16は、監視装置10に接続された表示装置にアラームを表示してもよいし、ランプを点灯させたり、ブザーを鳴らしたり、他の端末装置などに異常検知のアラームを送信してもよい。
【0032】
MD値が閾値Th1より大きく、すべてのギャップ値が閾値Thc以下で何れかのギャップ値が閾値Thbより大きい場合(ステップS14;Yes、ステップS15;No、ステップS17;Yes)、判定部14は、異常の予兆を検知したと判定し、出力部16にアラームの発報を指示する。出力部16は、異常予兆検知および対策準備開始を促すアラームを発報する(ステップS18)。また、判定部14は、分析部15へ異常の原因分析を指示する。分析部15は、閾値Thbを超えたギャップ値に係る監視対象項目についてFTA等を実行し、異常の原因分析を行う(ステップS19)。例えば、記憶部17には、監視対象項目ごとに、監視対象項目の値が異常を示すことに関するフォールトツリーが格納されていて、分析部15は、このフォールトツリーに基づいてギャップ値が閾値Thbを超えたことの原因を分析する。分析部15は、FTA等による異常の分析結果を、出力部16を通じて表示装置に表示する。なお、ステップS19の処理は、異常検知の場合にも実行するようにしてもよい。
【0033】
MD値が閾値Th1より大きく、すべてのギャップ値が閾値Thc、Thb以下で何れかのギャップ値が閾値Thaより大きい場合(ステップS14;Yes、ステップS15;No、ステップS17;No、ステップS20;Yes)、判定部14は、経過観察が必要と判定し、分析部15に、ギャップ値が閾値Thaを上回ったことの原因分析や、分析結果の記録を指示する。分析部15は、閾値Thaを超えたギャップ値に係る監視対象項目についてFTAなどを実行し、異常の原因分析を行う(ステップS21)。分析部15は、原因分析の結果や原因分析に用いた計測値などを記憶部17に記録して保存する(ステップS22)。
【0034】
MD値が閾値Th1より大きく、何れのギャップ値も閾値Tha以下の場合(ステップS14;Yes、ステップS15;No、ステップS17;No、ステップS20;No)、判定部14は、コンプレッサ1の運転状態は異常ではないと判定する。この場合、アラームの発報中であれば、アラーム発報等を停止したうえで、ステップS24へ進む(ステップS23)。例えば、異常検知または異常予兆検知が行われていた場合、判定部14は、出力部16へアラームの発報の停止を指示する。出力部16は、アラームの発報を停止する。例えば、経過観察が必要と判定されていた場合であれば、判定部14は、原因分析および分析結果の記録の停止を分析部15へ指示する。分析部15は、原因分析や記録を停止する。
【0035】
次に監視装置10は、コンプレッサ1の監視を終了するかどうかを判定する(ステップS24)。例えば、ユーザにより、停止指示が入力されると、監視装置10は、監視を終了すると判定し(ステップS24;Yes)、
図6のフローチャートの処理を終了する。監視を終了しない場合(ステップS24;No)、ステップS11からの処理が繰り返し実行される。
【0036】
(効果)
以上説明したように、本実施形態によれば、MD値が閾値Th1を超過することに加え、ギャップ値が閾値を超過したときのみ異常検知や異常予兆検知の判定を行うので、MT法による異常検知精度を向上することができる。例えば、ギャップ値が閾値以下となる正常な運転状態のときに、回転数の上昇によってMD値のみが閾値Th1を超過した場合であっても、アラームの誤発報を回避することができる。また、ギャップ値だけではなく、MD値を用いることで確度の高い異常検知が可能になる。具体的には、MD値が閾値Th1を超過することにより、コンプレッサ1の運転状態が通常の範囲から逸脱していることを確認し、これを前提条件としたうえで、特定のプロセス値の異常が確認できた場合のみ、異常検知や異常予兆検知の判定を行う。これにより、コンプレッサ1の運転状態が正常であるにもかかわらず、何らかの原因で予測値の予測精度が得られずに実測値と予測値の乖離(式(1)の分子)が大きくなってしまうような状況であっても、誤って異常検知することを防ぐことができる。
【0037】
また、例えば、ジャーナル軸受温度やスラスト軸受温度などのように、コンプレッサ1の回転数の影響を受けるプロセス値のギャップ値に注目することで、MD値の上昇が回転数の上昇の影響を受けた単なる数値上のものか(例えば、MD値>閾値Th1且つジャーナル軸受温度等のギャップ値≦閾値Thbまたは閾値Thc)、本当の異常か(例えば、MD値>閾値Th1且つジャーナル軸受温度等のギャップ値>閾値Thbまたは閾値Thc)を判別することができ、監視員の負担を軽減することができる。
【0038】
上記の実施形態では、コンプレッサ1を例に説明を行ったが、監視対象はコンプレッサに限らず、他の回転機械であってもよい。また、
図4に例示した監視対象項目は一例であってこれに限定されない。また、
図4等に例示した監視対象項目すべてのギャップ値を判定対象とする必要はなく、任意に必要な監視項目を選択することができる。また、
図6のステップS15等では、「何れかのギャップ値が閾値Thcを上回ること」を判定条件としたが、複数の監視対象項目のギャップ値が閾値Thcを上回ることを判定条件としてもよい。また、閾値Tha=30%、閾値Thb=50%、閾値Thc=100%としたが、これらの数値は一例であって、各閾値には他の値を適用してもよい。また、実施形態では、ギャップ値の閾値を3段階設けることとしたが、1~2段階のみ設けてもよいし、4段階以上設けてもよい。また、監視対象項目ごとに異なる値の閾値を設けてもよい。
【0039】
図7は、実施形態に係るコントローラのハードウェア構成を示す概略ブロック図である。コンピュータ900は、CPU901、主記憶装置902、補助記憶装置903、入出力インタフェース904、通信インタフェース905を備える。
上述の監視装置10は、コンピュータ900に実装される。そして、上述した各機能は、プログラムの形式で補助記憶装置903に記憶されている。CPU901は、プログラムを補助記憶装置903から読み出して主記憶装置902に展開し、当該プログラムに従って上記処理を実行する。また、CPU901は、プログラムに従って、記憶領域を主記憶装置902に確保する。また、CPU901は、プログラムに従って、処理中のデータを記憶する記憶領域を補助記憶装置903に確保する。コンピュータ900は、CPU901に代えて/加えてGPU(Graphic Processing Unit)、マイクロプロセッサなどを備えていてもよい。
【0040】
なお、他の実施形態においては、コンピュータ900は、上記構成に代えて/加えてPLD(Programmable Logic Device)などのカスタムLSI(Large Scale Integrated Circuit)を備えてもよい。PLDの例としては、PAL(Programmable Array Logic)、GAL(Generic Array Logic)、CPLD(Complex Programmable Logic Device)、FPGA(Field Programmable Gate Array)が挙げられる。この場合、CPU901によって実現される機能の一部または全部が当該集積回路によって実現されてよい。
【0041】
補助記憶装置903の例としては、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)、磁気ディスク、光磁気ディスク、CD-ROM(Compact Disc Read Only Memory)、DVD-ROM(Digital Versatile Disc Read Only Memory)、半導体メモリ等が挙げられる。補助記憶装置903は、コンピュータ900のバスに直接接続された内部メディアであってもよいし、入出力インタフェース904または通信回線を介してコンピュータ900に接続される外部メディアであってもよい。
【0042】
監視装置10の全部または一部の機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することにより各機能部による処理を行ってもよい。ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータシステム」は、WWWシステムを利用している場合であれば、ホームページ提供環境(あるいは表示環境)も含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、CD、DVD、USB等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。また、このプログラムが通信回線によってコンピュータ900に配信される場合、配信を受けたコンピュータ900が当該プログラムを主記憶装置902に展開し、上記処理を実行しても良い。また、上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであっても良く、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであってもよい。
【0043】
以上のとおり、本開示に係るいくつかの実施形態を説明したが、これら全ての実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することを意図していない。これらの実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態及びその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0044】
<付記>
各実施形態に記載の監視装置、監視方法及びプログラムは、例えば以下のように把握される。
【0045】
(1)第1の態様に係る監視装置は、回転機械のプロセス値に基づいてマハラノビス距離を算出する手段と、前記プロセス値の異常を判定するための閾値と前記プロセス値の推定値の差に対する前記プロセス値の実測値と前記推定値の差の割合を示すギャップ値を算出する手段と、前記マハラノビス距離と前記ギャップ値とに基づいて前記回転機械の運転状態を判定する手段と、を有する。
これにより、マハラノビス距離だけではなくギャップ値により運転状態を判定することができ、MT法による監視制度を向上することができ、過度な異常検知などの誤検知などを回避することができる。
【0046】
(2)第2の態様に係る監視装置は、(1)の監視装置であって、前記判定する手段は、前記マハラノビス距離が第1閾値を超過すると、前記ギャップ値の大きさに応じて前記運転状態に関する異常の程度を評価する。
ギャップ値の大きさに応じてさまざまな運転状態を評価することができる。
【0047】
(3)第3の態様に係る監視装置は、(1)~(2)の監視装置であって、前記判定する手段は、前記マハラノビス距離が前記第1閾値を超過し、且つ、前記ギャップ値が、第2閾値を超過すると、異常の予兆を検出したと判定する。
これにより、過度な異常予兆検知を回避しつつ、異常予兆を検知することができる。
【0048】
(4)第4の態様に係る監視装置は、(1)~(3)の監視装置であって、前記判定する手段は、前記マハラノビス距離が第1閾値を超過し、且つ、前記ギャップ値が、前記第2閾値より小さい第3閾値を超過すると、経過観察が必要な前記運転状態と判定する。
これにより、異常予兆とはいえないまでも将来的に異常に至る可能性がある運転状態を検知することができる。
【0049】
(5)第5の態様に係る監視装置は、(4)の監視装置であって、前記判定する手段が、前記経過観察が必要な前記運転状態と判定すると、前記実測値に基づく異常の原因分析を行い、前記原因分析の結果を記録する手段、をさらに備える。
これにより、異常予兆検知に役立つデータを蓄積することができる。
【0050】
(6)第6の態様に係る監視装置は、(1)~(5)の監視装置であって、前記判定する手段は、前記MD値が前記第1閾値を超過し、且つ、前記ギャップ値が、前記第2閾値より大きい第4閾値を超過すると、異常を検知したと判定する。
これにより、過度な異常検知を回避しつつ、異常を検知することができる。
【0051】
(7)第7の態様に係る監視装置は、(1)~(6)の監視装置であって、前記ギャップ値を算出する手段は、前記回転機械の回転数の変動の影響を受ける前記プロセス値を用いて前記ギャップ値を算出する。
これにより、MD値の上昇が、回転機械の回転数の変動によるものかどうかを確認しつつ、異常判定を行うことができる。
【0052】
(8)第8の態様に係る監視装置は、(1)~(7)の監視装置であって、前記ギャップ値を算出する手段は、前記回転機械の回転数をパラメータとする所定の予測式を用いて、前記プロセス値の推定値を算出する。
これにより、回転数の影響を受けるプロセス値の予測値を算出することができる。
【0053】
(9)第9の態様に係る監視装置は、(1)~(8)の監視装置であって、前記ギャップ値を算出する手段は、前記回転機械の監視を開始してから所定の時間が経過するまでに計測された前記実測値の平均値を前記プロセス値の推定値として算出する。
これにより、予測が難しいプロセス値について推定値を算出することができる。
【0054】
(10)第10の態様に係る監視方法は、回転機械のプロセス値に基づいてマハラノビス距離を算出するステップと、前記プロセス値の異常を判定するための閾値と前記プロセス値の推定値の差に対する前記プロセス値の実測値と前記推定値の差の割合を示すギャップ値を算出するステップと、前記マハラノビス距離と前記ギャップ値とに基づいて前記回転機械の運転状態を判定するステップと、を有する。
【0055】
(11)第11の態様に係るプログラムは、コンピュータに、回転機械のプロセス値に基づいてマハラノビス距離を算出する手段、前記プロセス値の異常を判定するための閾値と前記プロセス値の推定値の差に対する前記プロセス値の実測値と前記推定値の差の割合を示すギャップ値を算出する手段、前記マハラノビス距離と前記ギャップ値とに基づいて前記回転機械の運転状態を判定する手段、として機能させる。
【符号の説明】
【0056】
1・・・コンプレッサ
2・・・センサ
10・・・監視装置
11・・・プロセス値取得部
12・・・MD値算出部
13・・・ギャップ値算出部
14・・・判定部
15・・・分析部
16・・・出力部
17・・・記憶部
900・・・コンピュータ
901・・・CPU
902・・・主記憶装置
903・・・補助記憶装置
904・・・入出力インタフェース
905・・・通信インタフェース