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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025025401
(43)【公開日】2025-02-21
(54)【発明の名称】直動案内装置
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/78 20060101AFI20250214BHJP
   F16C 29/06 20060101ALI20250214BHJP
【FI】
F16C33/78 Z
F16C29/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023130136
(22)【出願日】2023-08-09
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】矢野 吉章
【テーマコード(参考)】
3J104
3J216
【Fターム(参考)】
3J104AA03
3J104AA25
3J104AA36
3J104AA65
3J104AA69
3J104AA74
3J104AA76
3J104BA63
3J104DA04
3J216AA03
3J216AA12
3J216AA16
3J216AB01
3J216AB31
3J216BA30
3J216CA01
3J216CA04
3J216CB03
3J216CB12
3J216CC01
3J216CC14
3J216CC33
3J216DA01
(57)【要約】
【課題】例えば試行動作時を含めて摺動部の損傷等を抑制できるシール部材を備えた直動案内装置を提供する。
【解決手段】直動案内装置は、スライダと案内レールとの間をシールするサイドシールが設けられ、サイドシールは、スライダ側に配置された保持板と、カバーと、案内レールの長さ方向に沿ってカバーと保持板との間に配置されるシール部材とを有し、シール部材は、保持板とカバーとの間に挟持される本体と、本体から案内レール側に向かって延在するリップ部とを有し、リップ部が案内レールに当接した状態において、案内レールの幅方向の所定箇所におけるリップ部と本体との連結部は、所定箇所以外のリップ部と本体との連結部よりも、案内レールから離間する。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
取り付け穴を有する案内レールと、スライダと、複数個の転動体と、を備え、前記案内レールおよびスライダは、互いに対向配置されて転動体の転動通路を形成する転動面を有し、前記転動通路を転動体が転動することにより、前記案内レールおよび前記スライダの一方が他方に対して相対的に直線運動する直動案内装置において、
前記スライダと前記案内レールとの間をシールするサイドシールが設けられ、
前記サイドシールは、前記スライダ側に配置された保持板と、カバーと、前記案内レールの長さ方向に沿って前記カバーと前記保持板との間に配置されるシール部材とを有し、
前記シール部材は、前記保持板と前記カバーとの間に挟持される本体と、前記本体から前記案内レール側に向かって延在するリップ部とを有し、
前記リップ部が前記案内レールに当接した状態において、前記案内レールの幅方向の所定箇所における前記リップ部と前記本体との連結部は、前記所定箇所以外の前記リップ部と前記本体との連結部よりも、前記案内レールから離間する、
ことを特徴とする直動案内装置。
【請求項2】
前記リップ部が前記案内レールに当接しない状態において、前記案内レールの幅方向の所定箇所における前記リップ部と前記本体との連結部と、前記所定箇所以外の前記リップ部と前記本体との連結部とは、前記案内レールから同じ距離にある、
ことを特徴とする請求項1に記載の直動案内装置。
【請求項3】
前記案内レールの幅方向に直交する前記シール部材の本体の断面形状は一様であり、
前記保持板の前記案内レールに対向する面には、前記案内レールの幅方向の所定箇所に逃げ部が形成され、前記リップ部が前記案内レールに当接した状態において前記逃げ部内に前記本体の一部が進入する、
ことを特徴とする請求項1に記載の直動案内装置。
【請求項4】
前記案内レールの幅方向に直交する前記保持板の断面形状は一様であり、
前記シール部材の本体は、前記案内レールの幅方向の所定箇所における前記案内レールの当接面法線方向の長さが、前記所定箇所以外における前記案内レールの当接面法線方向の長さより短い、
ことを特徴とする請求項1に記載の直動案内装置。
【請求項5】
前記案内レールの幅方向の所定箇所は、前記案内レールの取り付け穴に対応した位置である、
ことを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の直動案内装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直動案内装置に関する。
【背景技術】
【0002】
直動案内装置は、案内レールの軌道面とスライダ本体の軌道面との間に形成される転動体の転動通路と、スライダ本体に形成された転動体の戻し通路と、エンドキャップに形成された転動体の方向転換路と、が連通されてなる略環状の循環経路を備えており、この循環経路内を転動体が循環するようになっている。
【0003】
直動案内装置には、一般的にサイドシール、インナーシール、アンダーシールといったスライダを保護する接触シールが使用されている。接触シールにおいて、ゴム成形や射出成形などによって生じるソリやたわみなど、形状精度が低めになりがちな軟質の弾性体摺動部品を、シールすべき相手材であるレールの断面形状に近づける、もしくは少なくとも転動体が通過する転走面上の異物を除去すべく摺動部品を転走面だけでもすき間なく押し当てることができる形状補正技術が望まれている。
【0004】
直動案内装置用の接触シールの弾性体摺動部品の形状補正技術としては、特許文献1のように弾性部材を全体的に拘束して補正するもの、あるいは特許文献2のように部分的に拘束するものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第6295624号公報
【特許文献2】特許第6863550号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
これらの形状補正技術によれば、より形状精度が出やすい硬質プラスチック製の形状補正部品を用いてシール締め代(押圧力)を持たせるようにした工夫がなされており、それにより一定の効果が得られるとされている。
【0007】
しかしながら、一般的な直動案内装置のレールには、レール取付穴やレール継部などの不連続部がある。このような不連続部を接触シールの摺動部品であるシール部材が通過する際、その摺動部が不連続部のエッジ部で傷ついたり、摩耗するなどの問題が生じることがあった。
【0008】
かかる問題は、レール取付穴やレール継部のエッジ部の面取りを小さくして異物の堆積を予防した結果、シール部材が相手材であるレールのエッジ部に衝突しやすくなり、より顕在化する傾向がある。また、シール部材とスライダとの間に、転動体循環部材や潤滑用部材などの完全剛体ではない多数の部品を積層した際に、それらの部材の変形や芯ずれなどの影響を受けて、締め代を有するシール部材が相手材であるレールのエッジ部に強く衝突する恐れもある。
【0009】
これに対し、例えば、レールの取付穴部にレール上面カバーや専用キャップを取り付けたり、レールの継部にテープを貼るなどの対策を行うことで、シール部材の摺動部への衝撃力の緩和を行うことはできる。しかしながら、直動案内装置の出荷検査で慣らし走行を行ったり、直動案内装置のレールを別の装置にボルト等にて取り付けた後に、スライダの走り平行度などの運動精度の調整を行うなどの試行動作時には、作業性を考慮して、レールの取付穴部や継部にカバー部品等を装着することは行われないことが多い。このため、試行動作時に仮にシール部材の摺動部の傷つきが生じた場合、直動案内装置を取り付けた装置の実際の動作時に所望のシール性を得られない恐れがある。
【0010】
そこで本発明は、かかる従来技術の問題に鑑みてなされたものであり、例えば試行動作時を含めて摺動部の損傷等を抑制できるシール部材を備えた直動案内装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の直動案内装置は、
取り付け穴を有する案内レールと、スライダと、複数個の転動体と、を備え、前記案内レールおよびスライダは、互いに対向配置されて転動体の転動通路を形成する転動面を有し、前記転動通路を転動体が転動することにより、前記案内レールおよび前記スライダの一方が他方に対して相対的に直線運動する直動案内装置において、
前記スライダと前記案内レールとの間をシールするサイドシールが設けられ、
前記サイドシールは、前記スライダ側に配置された保持板と、カバーと、前記案内レールの長さ方向に沿って前記カバーと前記保持板との間に配置されるシール部材とを有し、
前記シール部材は、前記保持板と前記カバーとの間に挟持される本体と、前記本体から前記案内レール側に向かって延在するリップ部とを有し、
前記リップ部が前記案内レールに当接した状態において、前記案内レールの幅方向の所定箇所における前記リップ部と前記本体との連結部は、前記所定箇所以外の前記リップ部と前記本体との連結部よりも、前記案内レールから離間する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、例えば試行動作時を含めて摺動部の損傷等を抑制できるシール部材を備えた直動案内装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、第1実施形態に係る直動案内装置の斜視図である。
図2図2は、本実施形態のサイドシールをスライダから分解した状態で示す図である。
図3図3は、図1の直動案内装置を矢印III方向から見た図である。
図4図4は、図3の構成をIV-IV線で切断して示す図である。
図5図5は、サイドシールの斜視図である。
図6図6は、サイドシールを分解した状態で示す図である。
図7図7は、図3の矢印VII部に相当する拡大断面図である。
図8図8は、図7の断面と平行な断面を示す図である。
図9図9は、図7(a)の構成をIX-IX線で切断して示す図である。
図10図10は、図7(b)の構成をX-X線で切断して示す図である。
図11図11(a)は、第1実施形態にかかる中間壁の一部を示す図であり、図11(b)は、変形例にかかる中間壁の一部を示す図である。
図12図12は、第2実施形態のサイドシールを示す図10と同様な断面図である。
図13図13は、第3実施形態のサイドシールを示す図7(b)と同様な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態に係る直動案内装置を添付図面に基づいて説明する。
【0015】
[第1実施形態]
図1は、第1実施形態に係る直動案内装置を、一部切断した状態で示す斜視図である。
本実施形態に係る直動案内装置は、案内レール100と、スライダ200と、複数個のころ(転動体)300と、を備えている。案内レール100およびスライダ200は、互いに対向配置されてころ300の転動通路を形成する転動面110,210を有する。
【0016】
スライダ200は、案内レール100の長さ方向で、スライダ本体201と、その両端に固定された一対のエンドキャップ202と、さらにその両端に固定された一対の固体潤滑剤のケース203と、さらにその両端に固定された一対のサイドシール20と、を有する。転動面210は、スライダ本体201に形成されている。スライダ200のレール方向両端に配置されたサイドシール20は、スライダ200と、案内レール100の上面および両側面との間をシール部材により密封する。
【0017】
固体潤滑剤のケース203は、例えばケース203内に内蔵した固体潤滑剤から染み出るグリースを、長期間にわたって補給するものであり、例えば特開2004-340362号公報等に詳細が記載されているため、ここでは説明を省略する。
【0018】
スライダ200は、また、ころ300の戻し通路204と、この戻し通路204と前記転動通路とを連通させる方向転換路205を有する。戻し通路204はスライダ本体201に形成され、方向転換路205はエンドキャップ202に形成されている。スライダ200の上面には、テーブル等をねじ止めで取り付けるための雌ねじ206が形成されている。
【0019】
図2に示すように、サイドシール20、固体潤滑剤のケース203およびエンドキャップ202には、グリースニップル400の取り付け穴が形成されている。グリースニップル400からエンドキャップ202の油路に潤滑剤が導入されて、直動案内装置の潤滑が行われる。サイドシール20、固体潤滑剤のケース203およびエンドキャップ202は、ボルト500を用いてスライダ本体201に固定されている。案内レール100には、基台等の被取付部に案内レール100をボルトで取り付けるための取り付け穴120が形成されている。
【0020】
この直動案内装置は、前記転動通路、戻し通路、および方向転換路で転動体の循環経路が構成され、この循環経路内をころ300が循環することにより、案内レール100およびスライダ200の一方が他方に対して相対的に直線運動する。
【0021】
図2は、本実施形態のサイドシールをスライダから分解した状態で示す図である。図3は、図1の直動案内装置を矢印III方向から見た図であるが、ころは省略する。図4は、図3の構成をIV-IV線で切断して示す図であるが、サイドシール20のうち保持板22とシール部材21が図示されている。図5は、サイドシール20の斜視図である。図6は、サイドシール20を分解した状態で示す図である。
【0022】
図2図6に示すように、サイドシール20は、案内レール方向に見て、エンドキャップ202とほぼ同じ外形状(略逆U字状)を有し、案内レール100の上側に配置される上側部20aと、案内レール100の左右各側に配置される一対の側方部20bと、案内レールの斜め上方に配置される一対の角部20cと、を有する。
【0023】
図6に示すように、サイドシール20は、シール部材21、保持板22、およびカバー23で構成されている。
【0024】
保持板22は、ボルト挿通用の複数の孔22jを有し、またカバー23も、ボルト挿通用の複数の孔23aを有する。シール部材21を、保持板22とカバー23とで挟持し、さらにカバー23の外側から孔23a、22jに挿通したボルト500を、エンドキャップ202の孔202aに挿通したのち、スライダ本体201のねじ穴に螺合させることで、サイドシール20は、固体潤滑剤のケース203を介してエンドキャップ202に取り付けられる。
【0025】
図7(a)及び(b)は、図3の矢印VII部に相当する拡大断面図であり、図7(a)はサイドシール20のリップ部が案内レール100に当接していない状態を示し、図7(b)はサイドシール20のリップ部が案内レール100に当接した状態を示す。また、図8(a)及び(b)は、図7(a)及び(b)の断面と平行な断面を示す図であり、図8(a)はサイドシール20のリップ部が案内レール100に当接していない状態を示し、図8(b)はサイドシール20のリップ部が案内レール100に当接した状態を示す。図9は、図7(a)の構成をIX-IX線で切断して示す図であり、図10は、図7(b)の構成をX-X線で切断して示す図である。なお、図9において、VIIa-VIIa線で切断して示す断面図が図7(a)に相当し、図9において、VIIIa-VIIIa線で切断して示す断面図が図8(a)に相当する。また、図10において、VIIb-VIIb線で切断して示す断面図が図7(b)に相当し、図10において、VIIIb-VIIIb線で切断して示す断面図が図8(b)に相当する。
【0026】
図7(a)~図8(b)において、カバー23は、均一な板材からなる。シール部材21は、弾性変形可能な素材から形成され、そのレール幅方向に直交する断面形状はレール幅方向に沿って一様であって、本体21aとリップ部21bとを連設してなる。本体21aは、図7(a)~図8(b)の断面で略逆U字状を有し、具体的には、本体上部21cと、本体下部21dと、本体上部21cと本体下部21dとを連結する本体中間部21eとを有する。本体上部21cと本体下部21dと本体中間部21eは、カバー23の対向平面に当接している。また本体中間部21eに対して、本体上部21cと本体下部21dは、保持板22側に突出している。
【0027】
リップ部21bは、本体下部21dの下面(案内レール100に対向する面)の保持板22近傍から、カバー23側に向かって片持ち状に、案内レール100の面に対して斜めに延在する。
【0028】
保持板22は、カバー23の上端に当接してレール長さ方向に延在する上壁22aと、上壁22aの端部に連結され案内レール100側に延在する側壁22bと、側壁22bの中間位置よりカバー23側に向かって延在する中間壁22cと、が連設されてなる。サイドシール20として組付けた状態で、本体上部21cと、それに対向する側壁22bとの間に隙間があり、また本体中間部21eと、それに対向する中間壁22cの先端との間には隙間がある。一方、本体下部21dは、カバー23と側壁22bの双方に当接し、これによりシール部材21はカバー23と保持板22により挟持されて保持される。
【0029】
中間壁22cの先端は、本体上部21cと本体下部21dとの間に位置する。このため、組み付けた状態でカバー23と保持板22との間からシール部材21の離脱が抑制される。
【0030】
保持板22は、レール幅方向の位置により、その断面形状が変化する。図9及び図10において、上壁22aの下面(案内レール100に対向する面)は、案内レール100の中央を跨いで形成されレール長さ方向に延在する上部浅溝22fと、上部浅溝22fのレール幅方向両側に配置された平面状の上部下面22gと、を有する。
【0031】
また、中間壁22cの下面(案内レール100側を向いた面)は、上部浅溝22fに対応する位置に形成されレール長さ方向に延在する中間部浅溝(逃げ部ともいう)22hと、中間部浅溝22hのレール幅方向両側に配置された平面状の中間部下面22iと、を有する。本実施形態においては、上部浅溝22fと中間部浅溝22hは、図10に示すように、レール幅方向における取り付け穴120の両端部の間に形成されている。
【0032】
シール部材21が案内レール100に当接する前の状態(図9参照)において、シール部材21の本体上部21cは、保持板22の上壁22aの上部下面22gに当接しているが、上部浅溝22fにはほとんど進入しておらず、したがって上部浅溝22fの底面(案内レール100側を向いた面)と、本体上部21cとの間には隙間Aが存在する。
【0033】
また、シール部材21が案内レール100に当接する前の状態(図9参照)において、シール部材21の本体下部21dは、保持板22の中間壁22cの中間部下面22iに当接しているが、中間部浅溝22hにはほとんど進入しておらず、したがって中間部浅溝22hの底面(案内レール100側を向いた面)と、本体下部21dとの間には隙間Bが存在する。このとき、図7(a)、図8(a)に示すように、レール幅方向の中間部浅溝22hに対応する位置(所定箇所)のリップ部21bと本体21aとの連結部CN1と、前記所定箇所以外のリップ部21bと本体21aとの連結部CN2とは、案内レール100から略同じ距離にあると好ましい。
【0034】
シール部材21が案内レール100に当接した状態(図7(b)、図8(b)参照)において、リップ部21bの先端近傍(最下縁)が、案内レール100に(ここでは線接触で)当接して弾性変形し、レール幅方向にわたって密封機能を発揮する。シール部材21のリップ部21bは案内レール100に対して締め代を有するため、取り付け穴120を通過する時のリップ部21bの先端位置は、図10に一点鎖線で示す位置となる。
【0035】
このとき、案内レール100からの反力が、リップ部21bを介して本体21aに伝達されるが、中間部下面22iに当接する本体下部21dの部位は、固定された状態を維持する。一方、中間部浅溝22hに対向する本体下部21dの部位は、中間部浅溝22hとの間に隙間B(図9参照)が存在することから弾性変形し、図10に示すように本体下部21dが中間部浅溝22hに進入し、ここでは中間部浅溝22hの底面に当接する。
【0036】
案内レール100からの反力は、さらに本体中間部21eを介して本体上部21cに伝達される。上部下面22gに当接する本体上部21cの部位は、固定された状態を維持するが、上部浅溝22fに対向する本体上部21cの部位は、上部浅溝22fとの間に隙間A(図9参照)が存在することから弾性変形し、図10に示すように本体上部21cが上部浅溝22fに進入し、ここでは上部浅溝22fの底面に当接する。
【0037】
図7(b)、図8(b)を比較すると明らかであるが、リップ部21bの枢支点(本体21aとの連結部)は、中間部下面22iに当接するリップ部21b(図8(b)参照)よりも中間部浅溝22hに対応する位置にあるリップ部21b(図7(b)参照)の方が、案内レール100より離間した位置になる。換言すれば、レール幅方向の中間部浅溝22hに対応する位置(所定箇所)のリップ部21bと本体21aとの連結部CN1が、前記所定箇所以外のリップ部21bと本体21aとの連結部CN2よりも案内レール100から離間する。このため、中間部下面22iに当接するリップ部21bよりも中間部浅溝22hに対応する位置にあるリップ部21bの方が、締め代が小さくなる。
【0038】
このため、案内レール100に対する中間部浅溝22hに対応する位置にあるリップ部21bの面圧が、中間部下面22iに当接するリップ部21bの面圧よりも低くなるように、レール幅方向におけるリップ部21bの面圧分布を調整できる。したがって、サイドシール20をスライダ200に組付けた状態で、リップ部21bが案内レール100に対して摺動した際に、リップ部21bからの取り付け穴120を通過するときに取り付け穴120から受ける衝撃力を緩和でき、また案内レールに継部があるときに、そのエッジ部からの衝撃力を減少させることができ、それにより試行動作時を含めて摺動部の損傷等を抑制できる。
【0039】
なお、上部浅溝22fを上壁22aに形成することで、シール部材21の本体上部21cが上方に移動しやすくなり、それにより本体下部21dも上方に移動しやすくなって、リップ部21bの面圧分布調整をより効果的に行える。
【0040】
仮に中間壁22cに中間部浅溝22hを形成しないとすると、リップ部21bの面圧分布はレール幅方向に一様となるため、レール進行方向の剛性が全体的に強くなりすぎて、取り付け穴120からの衝撃力が大きくなり、場合によってはリップ部21bが傷つくことがある。本実施形態のように、中間壁22cに中間部浅溝22hを形成することで取り付け穴120通過時の衝撃力を緩和することができる。
【0041】
なお、案内レール100から、中間壁22cの中間部浅溝22hの底面までの距離C(図7(b)参照)を任意に設定することで、例えばリップ部21bが案内レール100に当接した状態で、本体下部21dが中間部浅溝22hの底面に当接しないようにもでき、それによりリップ部21bの面圧分布の調整を行える。
【0042】
また、実際の製品においては、スライダ200に対するサイドシール20の組付け誤差の影響などで、案内レール100に対するシール部材21のリップ部21bの締め代が大きいもの、あるいは小さいものが混在する。締め代が大きいものでは、図10の実線で示すように上部浅溝22fの底面に本体上部21cが当接し、また中間部浅溝22hの底面に本体下部21dが当接するように、リップ部21bが大きく変形する。一方、締め代が小さいものでは、図10の破線で示すように上部浅溝22fの底面と本体上部21cとの間に隙間ができ、また中間部浅溝22hの底面と本体下部21dとの間に隙間ができるように、リップ部21bの変形が抑制される。これにより、締め代が大きい場合であっても、取り付け穴120の通過時におけるリップ部21bの損傷を防止することができ、また締め代が小さい場合であっても、必要十分なシール性を確保できる。
【0043】
ただし、中間部浅溝22hを、中間壁22cのレール幅方向全体に拡張した場合(すなわち、逃げ部を中間壁22c全体とした場合)、リップ部21bのレール進行方向の剛性が低くなりすぎて、シール性能が低下する恐れがある。したがって中間部浅溝22hは、中間壁22cのレール幅方向の一部に設けることが望ましい。
【0044】
中間部浅溝22hを設けることによる衝撃力緩和機能により、サイドシール20とエンドキャップ202の間に、潤滑剤のケース203などの樹脂部品があっても、それによる芯ずれや変形などによる取付誤差によるリップ部21bの押圧力の上昇を緩和でき、取り付け穴120の通過時にリップ部21bの先端の傷つきを防止することができる。
【0045】
本発明者の検討結果によれば、サイドシール20とエンドキャップ202間に設けた潤滑剤のケース203による芯ずれの測定結果と、リップ部21bの締め代から、逃げ部の逃げ量(中間部浅溝22hの深さ)を、リップ部21bと案内レール100との間にすき間が形成されない範囲に設定することで、潤滑剤のケース203を配設しても、リップ部21bをレール幅方向にわたって案内レール100と接触させることができることが分かった。
【0046】
本実施形態では、直動案内装置の動作時に、特にリップ部21bの損傷がし易い取り付け穴120などを通過する部分に対応して、締め代を低減させる逃げ部、すなわち中間部浅溝22hを設けた。この逃げ部は案内レール100の面に対して法線方向に設けている。また、レール進行方向にみてシール部材21はカバー23と保持板22とによって挟まれているが、少なくともボルト500でスライダ200に固定される前の状態では、このカバー23と保持板22による挟まれ部は、微すき間もしくはレール挿入後のリップ部21bの押圧力の反力によって、逃げ部に倣ってリップ部21bが変形できる程度の微予圧状態としている。
【0047】
この構造によって、中間部材などの影響による芯ずれや傾きなどの取付誤差があってもリップ部21bのシール押圧力が過剰に上昇せず、一様化されることにより締め代を有するリップ部21bが取り付け穴120や、レール継部がある場合にそのエッジ部に衝突する際の衝撃力が緩和されるため、リップ部21bの損傷を防止することができる。
【0048】
この逃げ部は、例えば取り付け穴120に対応して設ける。このときのレール幅方向の逃げ幅により、同一剛性を有するリップ部21bでも、案内レール100の上下方向に逃げる量を調整することができる。なお、上下方向の逃げ量は、リップ部21bの端面が当たるように設定すると、シール押圧力は一定にならないが、最小締め代を設定することが可能であり、そのようにしてもよい。
【0049】
[変形例]
図11(a)は、第1実施形態にかかる中間壁22cの一部をレール長さ方向に見た状態で示す図であり、図11(b)は、変形例にかかる中間壁22cの一部を同じ方向に見て示す図である。第1実施形態においては、図11(a)に示すように、中間部浅溝22hの両側面を構成する斜面22kは、中間部下面22iに対して、鈍角である角度θで傾斜している。鈍角である交差角θは、例えば160度以上、180度未満であると好ましい。
【0050】
これに対し、図11(b)に示す変形例では、中間部浅溝22hの両側面を構成する斜面22kは、中間部下面22iに対して、鋭角である交差角θ’で交差している。斜面22kと中間部下面22iとの交差角θ’を鋭角にすると、リップ部21bの局部変形により、より狭い幅でも締め代を低減することができる。しかしながら、シール寿命が低減したり、また、シール接触圧力の差が極端に生じたり、異物がたまりやすいポケット部(異物だまり)などが生じてシール性が低下する場合がある。したがって、図11(a)のように、交差角は鈍角であることが好ましい。
【0051】
以上の実施形態では、図9に示す断面において、シール部材21の本体上部21c及び本体下部21dは一様な厚さであるのに対し、保持板22の上壁22aに上部浅溝22fを形成し、側壁22bに中間部浅溝22hを形成することにより、本体上部21cと上部浅溝22fとの間及び本体下部21dと中間部浅溝22hとの間にそれぞれ隙間を与える構造としている。これに対し、保持板22の上壁22a及び側壁22bを一様な断面とする代わりに、シール部材21の本体上部21cに上部浅溝22fを反転させた溝を設け、また本体下部21dに中間部浅溝22hを反転させたような溝を設けることで、同様な隙間を確保することができる。
【0052】
さらに、サイドシールが保持板、シール部材、カバーの構成でなくとも、上述の締め代を低減させる逃げ部の効果を得ることができる。例えば、保持板の代わりとなる金属板の芯金に接着したゴムによりシール部材を構成するサイドシールの場合、取り付け穴120と対向する位置では、芯金にゴムを接着しない(あるいは接着範囲を縮小する)ことで、シール部材のリップの締め代を調整できる。
【0053】
[第2実施形態]
図12は、第2実施形態のサイドシールの一部を示す図10と同様な断面図である。本実施形態においては、保持板22Aの構成のみが第1実施形態と異なるため、第1実施形態と共通する構成については、重複説明を省略する。
【0054】
図10においては、レール幅方向において、保持板22Aの上壁22aに形成された上部浅溝22fと、中間壁22cに形成された中間部浅溝22hが、案内レール100の取り付け穴120の両端部よりも内側に形成されていた。これに対し、本実施形態では図12に示すように、レール幅方向において、保持板22Aの上壁22Aaに形成された上部浅溝22Afと、中間壁22Acに形成された中間部浅溝22Ahが、案内レール100の取り付け穴120の両端部から外側にはみ出して形成されている。したがって、逃げ部としての中間部浅溝22Ahは、第1実施形態よりもレール幅方向に広くなっている。これにより取り付け穴120のエッジによるリップ部21bへの衝撃力をより緩和できる。
【0055】
サイドシールは、リップ部21bの締め代によって案内レール100を付勢し、その反力を受けている。第1実施形態のようにレール幅方向に逃げ部が狭い場合でも、本実施形態のように逃げ部が広い場合でも、案内レール100からの反力の総和は同じである。しかしながら、第1実施形態のように逃げ部が狭いときは、リップ部21bが撓むことで釣り合いを取るのに対し、本実施形態のように逃げ部が広いときは、シール部材21に印加されるモーメントが大きくなるので、シール部材21そのものが撓むことで釣り合いを取るため、その分リップ部21bの撓みが減ることにより、面圧は略同一となる。
【0056】
[第3実施形態]
図13は、第3実施形態のサイドシール20Bを示す図7(b)と同様な断面図である。本実施形態においては、サイドシール20Bのシール部材21B及び保持板22Bの構成のみが第1実施形態と異なるため、第1実施形態と共通する構成については、重複説明を省略する。
【0057】
本実施形態においては、保持板22Bのレール幅方向に直交する断面形状は、レール幅方向に沿って一様であるのに対し、シール部材21Bのレール幅方向に直交する断面形状は、レール幅方向に位置に応じて異なっている。より具体的に、保持板22Bは、上壁22Baと側壁22Bbとを連設してなり、側壁22Bbの上部には、上壁22Baに隣接してレール幅方向に延在する溝凹部22Bcが形成されている。
【0058】
シール部材21Bは、本体21Baとリップ部21Bbとを連設してなる。本体21Baは、上部21Bcと、上部21Bcよりも薄肉の下部21Bdとを有する。リップ部21Bbは、下部21Bdの下面に連設されている。下部21Bdは、カバー23と保持板22Bとの間に挟持される。
【0059】
上部21Bcは、レール幅方向に直交する断面形状が一様であるのに対し、下部21Bdは、レール幅方向において、取り付け穴120(図1)に対応する位置では、上部21Bcからリップ部21Bbまでの距離(案内レール100の当接面法線方向の長さ)Dが短く、それ以外の位置では、上部21Bcからリップ部21Bbまでの距離Eが相対的に長くなっている。図13においては、取り付け穴120に対応する位置の下部21Bd及びリップ部21Bbを実線で示し、それ以外の下部21Bd及びリップ部21Bbを破線で示す。
【0060】
本実施形態によれば、リップ部21Bbが案内レール100の面に当接した状態において、案内レール100の幅方向の所定箇所(取り付け穴120に対応する位置)におけるリップ部21Bbと本体21Baとの連結部は、前記所定箇所以外のリップ部21Bbと本体21Baとの連結部よりも、案内レール100から離間している。すなわち、シール部材21Bが案内レール100に当接した状態で、取り付け穴に対応する位置では、上部21Bcからリップ部21Bbまでの距離D(<E)が短いため、リップ部21Bbの締め代が小さくなり、またそれ以外の位置では、リップ部21Bbの締め代が大きくなる。
【0061】
このため、案内レール100に対する取り付け穴に対応する位置にあるリップ部21bの面圧が、それ以外の位置にあるリップ部21Bbの面圧よりも低くなるように、レール幅方向におけるリップ部21Bbの面圧分布を調整できる。したがって、サイドシール20Bをスライダ200(図1)に組付けた状態で、リップ部21Bbが案内レール100に対して摺動した際に、リップ部21Bbからの取り付け穴を通過するときに取り付け穴から受ける衝撃力を緩和でき、また案内レールの継部があるときに、そのエッジ部からの衝撃力を減少させることができる。
【0062】
本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、実施形態の各構成を相互に組み合わせることや、明細書の記載、並びに周知の技術に基づいて、当業者が変更、応用することも本発明の予定するところであり、保護を求める範囲に含まれる。転動体として、ころ以外にボールを用いることができる。
【符号の説明】
【0063】
20、20B サイドシール
21、21B シール部材
22、22A、22B 保持板,
23 カバー
100 案内レール
200 スライダ
202 エンドキャップ
203 潤滑剤のケース
300 ころ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13