(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025025414
(43)【公開日】2025-02-21
(54)【発明の名称】摩擦伝動装置
(51)【国際特許分類】
F16H 13/08 20060101AFI20250214BHJP
F16H 13/10 20060101ALI20250214BHJP
【FI】
F16H13/08 G
F16H13/10 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023130156
(22)【出願日】2023-08-09
(71)【出願人】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100116274
【弁理士】
【氏名又は名称】富所 輝観夫
(72)【発明者】
【氏名】南雲 稔也
【テーマコード(参考)】
3J051
【Fターム(参考)】
3J051AA01
3J051BA04
3J051BB05
3J051BD02
3J051BE04
3J051EA06
3J051EB03
3J051EC10
3J051FA01
(57)【要約】
【課題】本発明の目的は、より小型化が可能な摩擦電動装置を提供することである。
【解決手段】摩擦伝動装置100は、入力軌道輪14と、入力軌道輪14の回転軸線La周りに配置され入力軌道輪14に接触する遊星転動体20と、遊星転動体20と接触し出力部材32と連結される出力軌道輪30と、遊星転動体20に接触する支持軌道輪28と、を備える摩擦伝動装置である。摩擦伝動装置100は、遊星転動体20および出力軌道輪30を囲むケーシング37と、遊星転動体20とは反対側で出力軌道輪30を支持するスラスト軸受33と、ケーシング37とは別体の支持部材31とを有する。支持部材31は、スラスト軸受33と当接する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力軌道輪と、前記入力軌道輪の回転軸線周りに配置され前記入力軌道輪に接触する遊星転動体と、前記遊星転動体と接触し出力部材と連結される出力軌道輪と、前記遊星転動体に接触する支持軌道輪と、を備える摩擦伝動装置であって、
前記遊星転動体を囲むケーシングと、
前記遊星転動体とは反対側で出力軌道輪を支持するスラスト軸受と、
前記ケーシングとは別体の支持部材と、
を有し、
前記支持部材は、前記スラスト軸受と当接する摩擦伝動装置。
【請求項2】
前記支持部材は、前記スラスト軸受の転動体と当接する、請求項1に記載の摩擦伝動装置。
【請求項3】
前記支持部材は、前記ケーシングと前記出力部材との間に配置される出力軸受である、請求項2に記載の摩擦伝動装置。
【請求項4】
前記ケーシングは、前記遊星転動体を囲む内周面よりも内側に突出していない、請求項1に記載の摩擦伝動装置。
【請求項5】
前記支持軌道輪と前記遊星転動体との接触面に押付力を発生させる押付力付与機構を有し、
前記支持部材は、前記スラスト軸受、前記出力軌道輪、および前記押付力付与機構と軸方向に重なる、請求項1に記載の摩擦伝動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摩擦伝動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
IVT(Infinitely Variable Transmission)と呼ばれ、無限大の変速比が可能な無段変速機が知られている。本出願人は、特許文献1において、入力軌道輪と、遊星転動体と、出力軌道輪とを備える摩擦伝動装置の技術を開示した。この装置では、遊星転動体は、入力軌道輪の回転軸周りに配置され入力軌道輪に接触し、出力軌道輪は、遊星転動体と接触し出力軸と連結される。また、この装置は、遊星転動体に接触する複数の支持軌道輪を有しており、入力軌道輪に入力された回転を変速して出力軸から出力する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
摩擦伝動装置は、ロボットや自走台車など多くのアプリケーションで使用されることが期待される。多様なアプリケーションに搭載されるためには、摩擦伝動装置はより小型化されることが望ましい。しかしながら、従来の摩擦伝動装置では、遊星転動体を支持するスラスト軸受周りの構成が複雑で、摩擦伝動装置を軸方向に小型化することが難しかった。
【0005】
本発明の目的は、このような課題に鑑みてなされたもので、より小型化が可能な摩擦電動装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の摩擦伝動装置は、入力軌道輪と、入力軌道輪の回転軸線周りに配置され入力軌道輪に接触する遊星転動体と、遊星転動体と接触し出力部材と連結される出力軌道輪と、遊星転動体に接触する支持軌道輪と、を備える摩擦伝動装置であって、遊星転動体を囲むケーシングと、遊星転動体とは反対側で出力軌道輪を支持するスラスト軸受と、ケーシングとは別体の支持部材とを有する。支持部材は、スラスト軸受と当接する。
【0007】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや、本発明の構成要素や表現を方法、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、より小型化が可能な摩擦電動装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施形態に係る摩擦伝動装置の一例を示す斜視図である。
【
図2】
図1の摩擦伝動装置のA-A線に沿った断面を示す断面図である。
【
図3】
図1の摩擦伝動装置の入力軌道輪を示す斜視図である。
【
図4】
図1の摩擦伝動装置の第1支持軌道輪を示す斜視図である。
【
図5】
図1の摩擦伝動装置の遊星転動体を示す斜視図である。
【
図6】
図1の摩擦伝動装置の保持器を示す斜視図である。
【
図7】
図1の摩擦伝動装置の遊星転動体ユニットを示す斜視図である。
【
図8】
図1の摩擦伝動装置の第2支持軌道輪を示す斜視図である。
【
図9】
図1の摩擦伝動装置の出力軌道輪を示す斜視図である。
【
図10】
図1の摩擦伝動装置の押付カムを示す斜視図である。
【
図11】
図1の摩擦伝動装置のローラ保持器を示す斜視図である。
【
図12】
図1の摩擦伝動装置の押付力付与機構の動作を説明する模式図である。
【
図13】
図1の摩擦伝動装置の速比制御機構を示す斜視図である。
【
図14】実施形態の摩擦伝動装置の第1の構成例を示す断面図である。
【
図15】実施形態の摩擦伝動装置の第2の構成例を示す断面図である。
【
図16】実施形態の摩擦伝動装置の第3の構成例を示す断面図である。
【
図17】実施形態の摩擦伝動装置の第4の構成例を示す断面図である。
【
図18】実施形態の摩擦伝動装置の第5の構成例を示す断面図である。
【
図19】参考例の摩擦伝動装置の構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を好適な実施形態をもとに各図面を参照しながら説明する。実施形態、参考例および変形例では、同一または同等の構成要素、部材には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、各図面における部材の寸法は、理解を容易にするために適宜拡大、縮小して示される。また、各図面において実施形態を説明する上で重要ではない部材の一部は省略して表示する。
【0011】
また、第1、第2などの序数を含む用語は多様な構成要素を説明するために用いられるが、この用語は一つの構成要素を他の構成要素から区別する目的でのみ用いられ、この用語によって構成要素が限定されるものではない。
【0012】
[実施形態]
まず、本開示の実施形態に係る摩擦伝動装置100の全体構成を説明する。
図1は、実施形態に係る摩擦伝動装置100の一例を示す斜視図である。摩擦伝動装置100は、内部機構を包囲するケーシング37と、入力軸64と、出力部材32と、取付部材38とを有する。取付部材38は、摩擦伝動装置100を外部装置(不図示)に取り付けるために、ケーシング37の外周に設けられる鍔状の部材である。
【0013】
摩擦伝動装置100は、入力軸64に入力された回転によって入力軌道輪を回転させることにより遊星転動体に自転と公転とを生じさせ、その生じた回転成分を出力軌道輪と連結される出力部材32から被駆動装置(不図示)に出力するように構成される。
【0014】
図2は、摩擦伝動装置100のA-A線に沿った縦断面を示す断面図である。
図2は、取付部材38を取り外した状態を示している。摩擦伝動装置100は、主に、入力機構2と、伝達機構3と、出力機構5と、押付力付与機構7と、速比制御機構6とを含む。入力機構2は、原動機から入力された回転を入力軌道輪14に伝達する機構である。伝達機構3は、入力軌道輪14に伝達された回転を変速して出力軌道輪30に伝達する機構である。出力機構5は、出力軌道輪30に伝達された回転を出力部材32から被駆動装置に出力する機構である。押付力付与機構7は、伝達機構3に軸方向の押付力を付与する。速比制御機構6は、伝達機構3の各軌道輪の相対位置を変更して変速比を制御する機構である。
【0015】
図2を参照して入力機構2を説明する。実施形態の入力機構2は、入力軸64と、ボールスプラインナット65と、入力軸受66と、カバー67と、第1オイルシールS1と、シャフト68と、シャフトキャップ69と、入力軌道輪14と、スリーブ15と、第1支持軌道輪26と、第1軌道輪用軸受27とを含む。
【0016】
以下、入力軌道輪14の回転軸線Laに沿った方向を「軸方向」といい、その回転軸線Laを中心とする円の円周方向、半径方向をそれぞれ「周方向」、「径方向」とする。また、以下、便宜的に、軸方向の一方側(図中右側)を「入力側」といい、他方側(図中左側)を「反入力側」という。
【0017】
特に指定のない限り、摩擦伝動装置100の各部材の回転軸線Laを囲む円形部分は、回転軸線Laを中心に形成されている。なお、これらの円形部分の中心は誤差の範囲で回転軸線Laからずれていてもよい。
【0018】
入力軸64は、原動機からの回転が入力される入力部である。実施形態の原動機はモータ50であり、入力軸64は、モータ50の回転が出力されるモータ軸51に連結される。ボールスプラインナット65は、入力軸64の回転をシャフト68に伝達するとともに、シャフト68を軸方向に移動可能に支持する。入力軸64は、ボールスプラインナット65を収容する外筒を有する。ボールスプラインナット65は、キー65kにより入力軸64にキー連結され、入力軸64と一体的に回転する。シャフト68は、ボールスプラインナット65に対して軸方向に相対移動可能であり、ボールスプラインナット65と一体的に回転する。
【0019】
カバー67は、摩擦伝動装置100の入力側を覆う中空円板状の部材で、回転軸線Laを囲む中空部67cを有する。カバー67は、複数のボルトB1によりケーシング37の入力側に固定される。入力軸受66は、中空部67cとボールスプラインナット65の間に配置され、ボールスプラインナット65および入力軸64を相対回転可能に支持する。入力軸受66の外輪は中空部67cに支持され、内輪は入力軸64を支持する。この例の入力軸受66は、玉軸受である。第1オイルシールS1は、中空部67cにおいて入力軸受66の入力側に配置され、入力軸受66をシールする。
【0020】
シャフト68は、軸方向に延びる棒状のシャフトであり、ボールが通過する軸方向の溝(不図示)を有する。シャフト68の入力側は、ボールスプラインナット65に収容され、シャフト68の先端は、遊星転動体20よりも反入力側に延びる。シャフトキャップ69は、シャフト68と第1支持軌道輪26の位置関係を規制する部材である。シャフトキャップ69は、円板部69bと、円板部69bの外周から入力側に延びる円筒部69cとからなるカップ形状を有する。シャフト68の先端は、円筒部69cに挿入され、円板部69bを貫通するボルトB3によって円板部69bに固定される。
【0021】
図3も参照して入力軌道輪14を説明する。
図3~
図11、
図13において、(A)で示す図は反入力側の斜め上から視た図で、(B)で示す図は入力側の斜め上から視た図である。
図3は、入力軌道輪14を示す斜視図である。
図3の例では、入力軌道輪14は、スリーブ15と一体的に形成されている。
【0022】
スリーブ15は、シャフト68の外周に絞まり嵌めなどにより固定される中空円筒状の部材で、入力側から反入力側に向かって、第1筒部15bと、第2筒部15cとを有する。第1筒部15bは、制御部軸受63に環囲され、制御部軸受63に回転可能に支持される。第2筒部15cは、第1筒部15bよりも大径の部分で、第1筒部15bに連続している。第1筒部15bと第2筒部15cの境界に段部15dが形成される。第1筒部15bには、制御部軸受63との位置関係を規制するための止め輪W1が装着される周溝15gが周設される。
【0023】
入力軌道輪14は、シャフト68の外周に固定される中空円筒状の部材で、第2筒部15cよりも大径で、第2筒部15cに連続している。入力軌道輪14は、シャフト68が嵌入される孔であって、入力軌道輪14の反入力側からスリーブ15の入力側まで貫通する中空部14eを有する。入力軌道輪14の外周に遊星転動体20と接触する転動面14hが設けられる。入力軌道輪14は、第1軌道輪用軸受27の入力側の一部を収容するための軸受収容部14jを有する。この例の軸受収容部14jは、入力軌道輪14の反入力側の端面から入力側に凹んだ円形の凹部である。
【0024】
入力軌道輪14は、遊星転動体20を所定の姿勢に支持するとともに、遊星転動体20に回転を伝達するための部材である。転動面14hは、遊星転動体20が転動する面であり、遊星転動体20に点接触または面接触する。転動面14hは、軸方向および径方向に対して傾斜していてもよい。転動面14hは、入力側に向かって縮径するテーパー面を含んでもよい。転動面14hは、平坦面や凹面などの曲面であってもよいが、この例では凸面である。
【0025】
図4も参照して第1支持軌道輪26を説明する。
図4は、第1支持軌道輪26を示す斜視図である。第1支持軌道輪26は、シャフト68の外周に嵌合し、シャフト68に回転可能に支持される円筒状の部材で、入力軌道輪14と略同径の中空円筒状の部材である。第1支持軌道輪26は、シャフト68を環囲する貫通孔26dを有する。第1支持軌道輪26の外周に遊星転動体20と接触する転動面26hが設けられる。第1支持軌道輪26は、第1軌道輪用軸受27の反入力側の一部を収容するための軸受収容部26jを有する。この例の軸受収容部26jは、第1支持軌道輪26の反入力側の端面から反入力側に凹んだ円形の凹部である。
【0026】
第1支持軌道輪26は、遊星転動体20を所定の姿勢に支持するための部材である。転動面26hは、遊星転動体20が転動する面であり、遊星転動体20に点接触または面接触する。転動面26hは、軸方向および径方向に対して傾斜していてもよい。転動面26hは、反入力側に向かって縮径するテーパー面を含んでもよい。転動面26hは、平坦面や凹面などの曲面であってもよいが、この例では凸面である。第1支持軌道輪26は、シャフト68および遊星転動体20に対して自由に回転可能であり、遊転軌道輪と称されることがある。
【0027】
第1軌道輪用軸受27は、入力軌道輪14に対して第1支持軌道輪26を回転可能に支持するスラスト軸受である。例えば、第1軌道輪用軸受27は、軸方向に対向する2枚のリングと、当該2枚のリングの間に介在する複数の球体とにより構成できる。
【0028】
図5~
図9も参照する。実施形態の伝達機構3は、複数の遊星転動体20と、保持器21と、入力軌道輪14と、第1支持軌道輪26と、第2支持軌道輪28と、出力軌道輪30とを含む。入力軌道輪14、第1支持軌道輪26、第2支持軌道輪28および出力軌道輪30を総称するときは「軌道輪」という。
【0029】
図5は、遊星転動体20を示す斜視図である。遊星転動体20は、周方向に所定の間隔で複数(例えば、5個)配置される。遊星転動体20の個数は特に限定されず、5個より少なくても多くてもよいが、5~12個が好ましい。遊星転動体20は、入力軌道輪14の転動面14hと接触する接触面20aと、第1支持軌道輪26の転動面26hと接触する接触面20bと、第2支持軌道輪28の転動面28hと接触する接触面20cと、出力軌道輪30の転動面30hと接触する接触面20dとを有する。
【0030】
これらの軌道輪の転動面14h、26h、28h、30hを総称するときは軌道輪の転動面という。接触面20a、20b、20c、20dを総称するときは遊星転動体の接触面という。接触面20a、20bは、平坦面や凸面などであってもよいが、この例では凹面である。接触面20c、20dは、平坦面や凹面などであってもよいが、この例では凸面である。
【0031】
遊星転動体20は、軌道輪の転動面に接触することにより軸方向位置、径方向位置および姿勢が規制される。遊星転動体20の形状は、軌道輪の転動面に接触することにより姿勢が決定され、軌道輪の転動面に接触しながら転動可能である限り、どのような形状であってもよい。
図5に示すように、実施形態の遊星転動体20は、所定の軸線を中心として上底と脚とが曲線である台形を回転させることにより得られる回転体である。所定の軸線は、前記台形の下底の反上底側に離間し当該下底に平行な軸線である。また、本明細書では、前記台形の上底の中心を通り、遊星転動体20の自転軸Lbに直交する平面(以下、「赤道面」という)と遊星転動体20の外周面とが交わってできる円を「赤道」という。この例では、赤道20eは、赤道面と遊星転動体20の外周面とが交わってできる円である。
【0032】
遊星転動体20の自転軸Lbの回転軸線Laに対する傾斜は、軌道輪の転動面の相対位置によって変化する。つまり、自転軸Lbは、回転軸線Laと平行な場合と、回転軸線Laに対して傾斜する場合とがある。
【0033】
図6は、保持器21を示す斜視図である。実施形態の摩擦伝動装置100は、複数の遊星転動体20を所望の位置に保持するために保持器21を備える。保持器21は、複数の遊星転動体20の周方向の移動を規制する。保持器21は、遊星転動体20同士の接触を避けるように、複数の遊星転動体20を周方向に所定の間隔で保持する。保持器21は、2つのリング部22と、複数(例えば、5個)の柱部23とを有する。保持器21は、樹脂または金属でリング部22および柱部23を一体的に形成できる。
【0034】
2つのリング部22は、遊星転動体20を挟んで、軸方向に離れて配置される。リング部22は、中心孔22cを有する中空円環状の部分である。複数の柱部23は、軸方向に延びる帯状の部材であり、周方向に所定の間隔で複数の遊星転動体20の間に配置される。柱部23は、一端が一方のリング部22の外周に固定され、他端が他方のリング部22の外周に固定される。つまり、柱部23は、2つのリング部22の間に架けわたされる。隣り合う2つの柱部23の間には、遊星転動体20を保持するポケット24が形成される。
【0035】
図7は、遊星転動体ユニット4を示す斜視図である。
図7に示すように、複数の遊星転動体20は、保持器21の各ポケット24に組み込まれて、遊星転動体ユニット4を構成する。遊星転動体20は、ポケット24の中で回転可能に保持される。
【0036】
図8は、第2支持軌道輪28を示す斜視図である。第2支持軌道輪28は、スリーブ15および遊星転動体20を環囲するリング形状を有する。第2支持軌道輪28は、反入力側に転動面28hを有し、入力側にカム面28pを有する。転動面28hは、遊星転動体20が転動する面であり、遊星転動体20に点接触または面接触する。転動面28hは、軸方向および径方向に対して傾斜している。転動面28hは、入力側に向かって縮径するテーパー面を含む。この例の転動面28hは、平坦面で構成される円錐面である。円錐面は凹面であるから、凸面である接触面20cと転動面28hとは、凸凹接触する。
【0037】
カム面28pは、第1斜面28fと第2斜面28gとからなる凹状のカム溝28jを複数(例えば、6つ)有する。カム溝28jは、外径側から径方向に視てV字形状を有する。複数のカム溝28jは、周方向に所定の間隔で配置され、それぞれ接続面28eによって接続される。接続面28eは、回転軸線Laに直交する平面と平行に形成できる。第1斜面28fは、回転軸線Laに直交する平面に対して傾斜する。第2斜面28gは、回転軸線Laに直交する平面に対して第1斜面28fと逆向きに傾斜する。
【0038】
第2支持軌道輪28は、軸方向にスライド可能にケーシング37の内周面に嵌合する。第2支持軌道輪28には、押付力付与機構7により、カム面28pから反入力側への軸方向の押付力が付与される。押付力は、遊星転動体20を出力軌道輪30に押し付ける。
【0039】
図9は、出力軌道輪30を示す斜視図である。出力軌道輪30は、シャフト68およびシャフトキャップ69を環囲する中空の円形形状を有する。出力軌道輪30は、入力側に転動面30hを有する。転動面30hは、遊星転動体20が転動する面であり、遊星転動体20に点接触または面接触する。転動面30hは、軸方向および径方向に対して傾斜している。転動面30hは、反入力側に向かって縮径するテーパー面を含む。この例の転動面30hは、平坦面で構成される円錐面である。円錐面は凹面であるから、凸面である接触面20dと転動面30hとは、凸凹接触する。
【0040】
出力軌道輪30は、遊星転動体20と接触し、遊星転動体20が回転するにつれて回転軸線La周りに回転する。出力軌道輪30は、出力機構5の出力部材32に連結されており、出力軌道輪30が回転するにつれて出力部材32が回転する。出力軌道輪30は、回転軸線Laを囲み軸方向に貫通する連結孔30eを有する。連結孔30eには、平行キー35と噛み合う凹部30kが設けられる。出力軌道輪30には、反入力側に突出する円形の円形凸部30bが設けられる。
【0041】
伝達機構3の動作を説明する。入力軌道輪14が回転すると、遊星転動体20が自転軸Lb周りに自転しながら公転軸周りに公転する。この例では、遊星転動体20の公転軸は回転軸線Laと一致しているため、以下では回転軸線Laを公転軸として説明する。
【0042】
第1支持軌道輪26が自由回転し、第2支持軌道輪28が非回転で静止している場合、出力軌道輪30には、入力回転に変速比Rを乗じた出力回転が出力される。変速比Rは、遊星転動体20の形状と自転軸Lbの回転軸線Laに対する傾斜に応じて定まる。したがって、自転軸Lbの傾斜を変更することにより変速比Rを変更できる。実施形態は、自転軸Lbの傾斜を変更して変速比Rを変更するために、速比制御機構6を備える。速比制御機構6については後述する。
【0043】
図2を参照して出力機構5を説明する。出力機構5は、出力軌道輪30と、スラスト軸受33と、出力部材32と、出力軸受34と、第2オイルシールS2と、ケーシング37とを含む。
【0044】
ケーシング37は、摩擦伝動装置100の内部機構を包囲する外殻として機能する。ケーシング37は、内周面37bを有する筒状を呈する。内周面37bは、遊星転動体20を囲む内周面37eを含む。ケーシング37の入力側端部には、押付カム56を挟んでカバー67が固定される。
【0045】
出力軸受34は、出力部材32とケーシング37の間に配置され、出力軸受34の入力側はケーシング37に支持される。出力軸受34は、出力部材32を回転可能に支持する。この例の出力軸受34は、クロスローラベアリングである。出力軸受34の外輪は、ケーシング37に固定される。出力軸受34の内輪は、出力部材32と一体的に形成される。
【0046】
第2オイルシールS2は、出力軸受34の反入力側に配置され、出力軸受34を封止(シール)している。
【0047】
スラスト軸受33は、出力軌道輪30を回転可能に支持する。スラスト軸受33は、軸方向において、支持部材31と出力軌道輪30の間に配置される。支持部材31については後述する。スラスト軸受33は、ケーシング37と、出力軌道輪30の円形凸部30bとの間の環状空間に収容されるリング形状を有する。つまり、スラスト軸受33は、円形凸部30bの外周に嵌合する。この例のスラスト軸受33は、中空円板状の転動輪33eと、当該転動輪33eを転動する複数の転動体33bとを含む。一例として、転動体33bはころである。スラスト軸受33の転動体33bは、転動輪33eに対して軸受の軸中心周りに移動可能である。一例として、支持部材31は、スラスト軸受33の転動体33bと当接する。
【0048】
出力部材32は、出力環状部32bと、連結部32dとを有する略円形の部材である。出力環状部32bは、円板状の部分で、反入力側に被駆動装置が連結される。出力環状部32bは、出力軸受34に支持される。
【0049】
連結部32dは、出力環状部32bから入力側に張り出す中空円形の部分である。連結部32dの外周は、出力軌道輪30の内周に嵌合し、これらの間に平行キー35が差し込まれる。この構成によって出力部材32が出力軌道輪30に連結される。この状態で、出力部材32と出力軌道輪30は、軸方向に相対移動可能であり、周方向には一体的に回転する。連結部32dの内周には、シャフト68の先端およびシャフトキャップ69が収容される。
【0050】
図2、
図10~
図12を参照して押付力付与機構7を説明する。押付力付与機構7は、予圧軌道輪の回転運動をこの予圧軌道輪の直線運動に変換して伝達機構3に予圧を付与する。
図2の例では、第2支持軌道輪28は予圧軌道輪として機能する。押付力付与機構7は、押付カム56と、ローラ保持器52と、ローラ53と、カバー67と、第2支持軌道輪28とを含む。
【0051】
図10は、押付カム56を示す斜視図である。押付カム56は、貫通孔56cを有する中空円板状の部材で、ケーシング37とカバー67の間に配置される。押付カム56は、回転軸線Laからオフセットした位置において、周方向に所定間隔で配置される複数のボルト孔56dを有する。
図10の例では、120°間隔で3つのボルト孔56dが設けられる。押付カム56は、速比制御機構6の制御シャフト61を貫通させるために周方向の一部が切り欠かれた切欠部56kを有する。
【0052】
押付カム56は、反入力側にカム面56pを有する。カム面56pは、第1斜面56fと第2斜面56gとからなる凹状のカム溝56jを複数(例えば、6つ)有する。カム溝56jは、外径側から径方向に視てV字形状を有する。複数のカム溝56jは、周方向に所定の間隔で配置され、それぞれ接続面56eによって接続される。接続面56eは、回転軸線Laに直交する平面と平行に形成できる。第1斜面56fは、回転軸線Laに直交する平面に対して傾斜する。第2斜面56gは、回転軸線Laに直交する平面に対して第1斜面56fと逆向きに傾斜する。
【0053】
図11は、ローラ53と、ローラ保持器52を示す斜視図である。ローラ保持器52は、貫通孔52cを有する中空円板状の部材で、第2支持軌道輪28のカム面28pと、押付カム56のカム面56pの間に配置される。ローラ保持器52は、周方向に所定の間隔で配置される複数(例えば、6つ)のポケット52bを有する。ポケット52bは軸方向から視て矩形の孔である。ローラ53は、カム溝56jに対応して複数(例えば、6つ)設けられる。ローラ53は、円筒形状を有し、ポケット52b内で回転可能に収容される。ローラ保持器52は、速比制御機構6の制御シャフト61をカバー67の外部に貫通させるために、制御リング62の径方向張出部62cに対応した位置に周方向の一部が切り欠かれた切欠部52kを有する。
【0054】
図1、
図2を参照してカバー67を説明する。カバー67は、回転軸線Laを囲む中空部67cを有する中空円板状の部材で、複数のボルトB1によってケーシング37の入力側に固定される。複数のボルトB1は、回転軸線Laからオフセットした位置において、周方向に所定間隔で配置される。カバー67は、制御シャフト61を貫通させるための貫通孔67eを有する。貫通孔67eは、回転軸線Laからオフセットした位置であって、ボルトB1のピッチ円よりも内周側に配置される。貫通孔67eには、円筒シール58が装着される(
図2も参照)。
【0055】
中空部67cには、入力軸受66の入力側に接する周状段部67hと、止め輪W3が装着される周溝67gが周設される。周溝67gには入力軸受66の反入力側に接する止め輪W3が装着される。入力軸受66の軸方向位置は、止め輪W3と周状段部67hとによって規制される。
【0056】
押付カム56およびローラ保持器52は、カバー67の反入力側に重ねて装着される。制御リング62は、押付カム56およびローラ保持器52の中央空間に収容され、制御シャフト61は、貫通孔67eを貫通してカバー67のから入力側へ突出する。
【0057】
図12は、押付力付与機構7の動作を模式的に説明する図であり、カム面28p、ローラ53およびカム面56pを示している。押付カム56は、ケーシングに固定されて静止しており、第2支持軌道輪28は、遊星転動体20の回転に連れて回転力(トルク)を受けて回転する。
図12(A)は、回転力を受けていない状態を示し、
図12(B)は、回転力を受けている状態を示す。
【0058】
第2支持軌道輪28が回転すると、
図12(B)に示すように、矢印Wのようにカム溝28jとカム溝56jとの相対位置がずれて、ローラ53は第1斜面56fと第2斜面28gに乗り上げる。この結果、斜面にローラ53からの抗力F0が加わり、抗力F0の分力が押付力Fとなって第2支持軌道輪28を反入力側に押し付ける。押付力Fは、第2支持軌道輪28、遊星転動体20、出力軌道輪30およびスラスト軸受33を支持部材31に押し付け、伝達機構3の予圧として機能する(
図2も参照)。
【0059】
被駆動装置からの負荷が増え、出力軌道輪30と遊星転動体20との間の予圧が不足すると、入力軌道輪14から遊星転動体20に入力された回転力のうち第2支持軌道輪28に伝達される割合が増える。第2支持軌道輪28の回転力が増えると、第2支持軌道輪28の回転力の分力である押付力Fが増え、予圧が増加する。被駆動装置からの負荷が減ると、逆のメカニズムで第2支持軌道輪28に伝達される回転力が減り、押付力Fおよび予圧も減少する。このように、押付力付与機構7によれば、被駆動装置からの負荷に応じた押付力Fを伝達機構3に付与し、予圧を自動的に調整できる。
【0060】
図2、
図13を参照して速比制御機構6を説明する。
図13は、速比制御機構6を示す斜視図である。上述したように、速比制御機構6は、伝達機構3の入力軌道輪14の相対位置を変更して変速比Rを制御する機構である。
図2に示すように、速比制御機構6は、制御シャフト61と、制御リング62と、制御部軸受63とを含む。制御シャフト61は、回転軸線Laから径方向にオフセットした位置において軸方向に延びる棒状の部材であり、その反入力側端が制御リング62の径方向張出部62cに取り付けられる。制御シャフト61の径方向位置は、入力軸64よりも径方向外側にオフセットした位置であってもよいし、入力軌道輪14よりも径方向外側にオフセットした位置であってもよい。制御リング62は、中空部62eを有する中空円環状の部材である。中空部62eには、制御部軸受63を支持するために、中空部62eの反入力側部が径方向内側に延出する周状延出部62fと、止め輪W4が装着される周溝62gが周設される。制御部軸受63は、周状延出部62fと止め輪W4により軸方向の移動が規制される。
【0061】
制御部軸受63は、制御リング62の中空部62eと、スリーブ15の第1筒部15bの間に配置される。制御部軸受63は、速比制御機構6に対してスリーブ15を回転可能に支持する。制御部軸受63の外輪は制御リング62の中空部62eに支持され、内輪は第1筒部15bを支持する。この例の制御部軸受63は、クロスローラベアリングである。制御シャフト61は、径方向張出部62cから入力側に延び、カバー67を貫通し、カバー67の入力側に突出する。制御シャフト61は、軸方向の駆動力を出力するアクチュエータ(不図示)に連結される。制御リング62の反入力側は、ローラ保持器52の貫通孔52cに収容される。
【0062】
速比制御機構6の動作を説明する。アクチュエータから制御シャフト61に軸方向の駆動力が入力されると、制御リング62が軸方向に移動する。制御リング62の移動に連動して、制御部軸受63、スリーブ15、入力軌道輪14、第1軌道輪用軸受27、第1支持軌道輪26、シャフト68およびシャフトキャップ69が一体的に移動する。このとき、第2支持軌道輪28および出力軌道輪30は軸方向に静止しているので、遊星転動体20の自転軸Lbが回転軸線Laに対して傾く。
【0063】
入力軌道輪14と第1支持軌道輪26が、反入力側に移動すると、自転軸Lbの反入力側が回転軸線Laから遠ざかり、自転軸Lbの入力側が回転軸線Laに近づくように傾く。この結果、各軌道輪と遊星転動体20の各接触点の自転半径および公転半径が変化し、変速比Rも変化する。摩擦伝動装置100の変速比R(出力回転/入力回転)は、回転軸線Laに対する傾斜が大きくなるに連れて大きくなる。同様に、入力軌道輪14と第1支持軌道輪26が、入力側に移動すると、自転軸Lbは反対側に傾き、摩擦伝動装置100の変速比Rは、回転軸線Laに対する傾斜が大きくなるに連れて小さくなる。制御シャフト61の位置を一定に保持することにより、遊星転動体20の姿勢は一定になり、変速比Rは一定に保たれる。
【0064】
以上のように構成された摩擦伝動装置100の動作を説明する。モータ軸51から入力軸64に回転が伝達されると、入力軌道輪14が回転軸線La周りに回転する。入力軌道輪14が回転することにより遊星転動体20に自転と公転とが生じる。遊星転動体20の回転は出力軌道輪30に伝達され、出力軌道輪30は変速比Rに応じた速度で回転する。出力軌道輪30の回転は、出力機構5を通じて出力部材32に出力される。速比制御機構6により入力軌道輪14および第1支持軌道輪26の位置を変えると、変速比Rも変化する。
【0065】
以下、実施形態の摩擦伝動装置100の特徴構成を説明する。実施形態の摩擦伝動装置100の特徴の一つは、スラスト軸受33を支持するためにケーシング37とは別体の支持部材31有することである。
【0066】
スラスト軸受33および支持部材31の具体的な構成を説明する。特徴構成の理解を容易にするために、摩擦伝動装置の参考例200におけるスラスト軸受33の支持構成を説明する。参考例200は、本実施形態を開発する過程で本発明者によって創作されたものである。
図19は、参考例200の構成を示す断面図である。参考例200では、ケーシング37は、内周面37bから径方向内側に張り出す内側張出部37hを有し、ケーシング37とは別体の支持部材を有しない点で実施形態の摩擦伝動装置100と相違する。
【0067】
参考例200は、内側張出部37hを有することによって、スラスト軸受33を支持する部分に関して構成の簡素化が難しく、内側張出部37hの厚さの分、摩擦伝動装置が軸方向に大きくなり、装置の小型化に不利である。また、参考例200では、トルクが大きくなるとスラスト軸受33への荷重が大きくなり、この荷重に耐えるために内側張出部37hを厚くする必要があるためさらに小型化に不利である。これらを踏まえ、実施形態の摩擦伝動装置100の幾つかの構成例を説明する。
【0068】
(第1および第2の構成例)
図14、
図15を参照して、実施形態の摩擦伝動装置100の第1および第2の構成例を説明する。
図14は、スラスト軸受33および支持部材31の第1の構成例を示す断面図である。
図15は、スラスト軸受33および支持部材31の第2の構成例を示す断面図である。参考例200では、出力軸受34が内側張出部37hに支持されていたところ、実施形態では、出力軸受34をケーシング37に固定し、支持部材31によってスラスト軸受33を軸方向に支持している。
【0069】
具体的には、出力軸受34の外輪34gを外周に向かって拡径し、外輪34gの拡径部34hをケーシング37の反入力側の端面37gに軸方向に当接させ、これらをボルトB4によって固定している。ボルトB4は、周方向に所定の間隔で複数設けられる。ボルトB4の数は、所望の強度を実現する観点から設定できる。端面37gには、拡径部34hが嵌合する周状凹部37jが設けられている。出力軸受34の外輪34gは、転動体34aが転動する外側転動面34eを有する。内側転動面34jは、出力部材32の外周側に設けられる。
【0070】
第1および第2の構成例では、支持部材31は、ケーシング37と出力部材32との間に配置される出力軸受34の外輪34gである。支持部材31は、転動体33bまたは転動輪33eを軸方向に支持可能であれば、出力軸受34に限定されない。
【0071】
図14に示すように、第1の構成例では、支持部材31である外輪34gは、転動輪33eの反入力側に当接し、転動輪33eを支持する。
図15に示すように、第2の構成例では、支持部材31である外輪34gは、転動体33bの反入力側に当接し、転動体33bを支持する。第1の構成例によれば、参考例200よりも、内側張出部37hの厚さの分、軸方向に小型化できる。また、第1の構成例によれば、第2の構成例よりも、外輪34gの入力側端面の仕上げ加工を減らして加工工数を低減できる。第2の構成例によれば、第1の構成例よりも、転動輪33eの厚み分、軸方向にさらに小型化できる。
【0072】
ケーシング37が、遊星転動体20を囲む内周面37eよりも内側に突出する部分を有する場合、当該部分とスラスト軸受33とが干渉し、スラスト軸受33の支持構造を簡素化しにくくなる。そこで、実施形態では、ケーシング37は、遊星転動体20を囲む内周面37eよりも内側に突出していない。
【0073】
別の見方をすれば、外輪34gはケーシングの一部であるともいえる。つまり、外輪34gは、ケーシング37とは別体の第2ケーシングであって、スラスト軸受33の外側転動面が形成されたケーシングともいえる。
【0074】
(第3および第4の構成例)
図16、
図17を参照して、実施形態の摩擦伝動装置100の第3および第4の構成例を説明する。
図16、
図17は、摩擦伝動装置100の第3および第4の構成例を示す断面図である。第3の構成例は、第1の構成例に対して外輪34gの構成が異なる点で相違し、他の構成は同様である。第4の構成例は、第2の構成例に対して外輪34gの構成が異なる点で相違し、他の構成は同様である。よって、重複する説明は省く。
【0075】
第1および第2の構成例では、外輪34gが単一部材で構成されている例を示したが、外輪34gは複数の部材で構成されてもよい。第3および第4の構成例では、外輪34gが外側転動面34eを有する外輪転動部34bと、外輪転動部34bを囲む外輪基部34cの2部材を含んで構成される。外輪転動部34bは、高硬度の材料で形成できるので高い耐久性を実現できる。外輪基部34cは、加工容易な材料で形成できるので高い生産性を実現できる。
【0076】
図16、
図17の例では、外輪基部34cの内周側には、外輪転動部34bの入力側側面を支持する内周段部34dが設けられている。また、外輪基部34cの内周側には、止め輪W5が嵌め込まれる周溝が設けられる。外輪転動部34bは、止め輪W5によって、反入力側への移動が規制され、外輪基部34cとの位置関係が固定される。
【0077】
(第5の構成例)
図18を参照して、実施形態の摩擦伝動装置100の第5の構成例を説明する。
図18は、摩擦伝動装置100の第5の構成例を示す断面図である。第5の構成例は、第2の構成例に対して、出力軌道輪30の反入力側に、第2の押付力付与機構(以下、「押付力付与機構7B」という)が設けられている点で相違し、他の構成は同様である。よって、重複する説明は省く。なお、押付力付与機構7Bは、第1、第3、第4の構成例に組み込まれてもてよい。
【0078】
第2の構成例では、第2支持軌道輪28の入力側に押付力付与機構7が設けられる例を示したが、押付力付与機構はこれに限定されない。押付力付与機構は複数設けられてもよいし、出力軌道輪30の反入力側に設けられてもよい。第5の構成例では、第2支持軌道輪28の入力側に押付力付与機構7(以下、区別のために「押付力付与機構7A」と表記する)が設けられており、加えて、出力軌道輪30の反入力側に、押付力付与機構7Bが設けられている。
【0079】
押付力付与機構7Bは、押付カム55と、ローラ保持器54と、ローラ53と、出力軌道輪30とを含む。これらは、出力部材32の入力側から軸方向に押付カム55、ローラ保持器54、および出力軌道輪30の順に配置される。
【0080】
押付カム55は、押付力付与機構7Aの押付カム56と同様に機能し、ローラ保持器54は、押付力付与機構7Aのローラ保持器52と同様に機能し、出力軌道輪30は、反入力側にカム面30pが形成されており、押付力付与機構7Aの第2支持軌道輪28と同様に機能する。押付カム55の入力側にカム面55pが形成されており、カム面55pは押付カム56のカム面56pと同様に機能する。出力軌道輪30の反入力側にカム面30pが形成されており、カム面30pは第2支持軌道輪28のカム面28pと同様に機能する。
【0081】
押付カム55は、転動体33bの入力側に当接するスラスト端面55bと、転動体33bの内周側を規制する外筒面55cとを有する。押付カム55は、平行キー35によって、出力部材32に連結される。
【0082】
第5の構成例では、支持部材31(出力軸受34の外輪34g)は、出力軌道輪30、スラスト軸受33、および押付力付与機構7Bと軸方向に重なる。具体的には、支持部材31は、押付力付与機構7Bを構成する押付カム55およびローラ保持器54と軸方向に重なる。
【0083】
実施形態の摩擦伝動装置100の作用と効果を説明する。摩擦伝動装置100は、入力軌道輪14と、入力軌道輪14の回転軸線La周りに配置され入力軌道輪14に接触する遊星転動体20と、遊星転動体20と接触し出力部材32と連結される出力軌道輪30と、遊星転動体20に接触する支持軌道輪28と、を備える摩擦伝動装置である。摩擦伝動装置100は、遊星転動体20および出力軌道輪30を囲むケーシング37と、遊星転動体20とは反対側で出力軌道輪30を支持するスラスト軸受33と、ケーシング37とは別体の支持部材31と、を有する。支持部材31は、転動輪33eと当接する。
【0084】
この構成によれば、内側張出部を有する参考例と比較して、スラスト軸受33を支持する構成を簡素化できる。また、内側張出部がない分、摩擦伝動装置100を軸方向に小型化できる。支持部材31の強度を高くすることによって、スラスト軸受33の耐荷重性を高くできる。
【0085】
一例として、支持部材31は、スラスト軸受33の転動体33bと当接する。この場合、転動体33bが転動する支持部材31が別体になるので、転動する転動面を高精度に加工しやすい。
【0086】
一例として、支持部材31は、ケーシング37と出力部材32との間に配置される出力軸受34である。この場合、出力軸受34とは別に支持部材を設ける構成に比べて、スラスト軸受33を支持する構成を簡素化でき、小型化に一層有利である。
【0087】
一例として、ケーシング37は、遊星転動体20を囲む内周面37eよりも内側に突出していない。この場合、内周面37eから突出する部分を有する構成に比べて、スラスト軸受33を支持する構成を一層簡素化できる。
【0088】
一例として、摩擦伝動装置100は、支持軌道輪28と遊星転動体20との接触面に押付力を発生させる押付力付与機構7Bを有し、支持部材31は、出力軌道輪30、スラスト軸受33、および押付力付与機構7Bと軸方向に重なる。この場合、支持部材31が大径で、出力軌道輪30、スラスト軸受33、および押付力付与機構7Bと軸方向に重ならない構成に比べて、摩擦伝動装置100を径方向に小型化できる。
【0089】
以上、本発明をいくつかの実施形態をもとに説明した。これらの実施形態は例示であり、いろいろな変形および変更が本発明の特許請求の範囲内で可能なこと、またそうした変形例および変更も本発明の特許請求の範囲にあることは当業者に理解されるところである。従って、本明細書での記述および図面は限定的ではなく例証的に扱われるべきものである。
【0090】
(変形例)
以下、変形例を説明する。変形例の図面および説明では、実施形態と同一または同等の構成要素、部材には、同一の符号を付する。実施形態と重複する説明を適宜省略し、実施形態と相違する構成について重点的に説明する。
【0091】
実施形態の説明では、出力部材32と出力軌道輪30は、平行キー35によりキー連結される例を示したが、これらの連結構造に制限はない。これらの連結構造は、これらが軸方向に相対的に移動可能で、周方向に一体的に回転する構造であればよく、例えば、スプライン連結、インボリュートスプライン連結、軸方向に低剛性で周方向に高剛性なスプリング等の弾性体を用いた連結等を採用できる。
【0092】
実施形態の説明では、転動面30h、28hが、平坦面で構成される円錐面である例を示したが、これらは凸面や凹面などの曲面であってもよい。
【0093】
入力軸受66の構成は制限されておらず、例えば、転動体としてころを有する軸受であってもよい。また、第1軌道輪用軸受27の構成は制限されておらず、例えば、転動体としてころを有する軸受であってもよい。また、スラスト軸受33の構成は制限されておらず、例えば、転動体として球体を有する軸受であってもよい。また、出力軸受34の構成は制限されておらず、例えば、転動体として球体を有する軸受であってもよい。
【0094】
制御部軸受63の構成は制限されておらず、例えば、転動体として球体を有する軸受、スラスト軸受、滑り軸受などであってもよい。
【0095】
例えば、押付力付与機構7において、ローラ53に代わりに球体を有し、ローラ保持器52のポケット52b、押付カム56のカム溝56j、第2支持軌道輪28のカム溝28jがそれぞれ当該球体に対応する形状を有してもよい。
【0096】
例えば、押付力付与機構7において、ローラ53およびローラ保持器52を無くし、第2支持軌道輪28のカム溝28jをV字状の斜面を持つ凸状のカム山とし、これに押付カム56のカム溝56jが直接接触する構成であってもよい。また反対に、押付カムのカム溝56jに対応する領域がカム山になっていてもよい。
【0097】
実施形態の説明では、遊星転動体20の自転軸に対して、入力軌道輪14が径方向内側に配置され、出力軌道輪30が径方向外側に配置されていた。しかし、これに限定されるものではなく、入力軌道輪14が外側で、出力軌道輪30が内側に配置されてもよいし、両方が内側に配置されてもよいし、両方が外側に配置されてもよい。
【0098】
摩擦伝動装置の入力機動輪、出力機動輪、及び支持軌道輪をはじめとする各構成要素は、実施形態の摩擦伝動装置100で示した例に限られない。これらの構成要素は、本発明の特許請求の範囲の記載に矛盾しない範囲で実施形態とは別の形態であってもよい。
【0099】
これらの各変形例は、実施形態と同様の作用と効果を奏する。
【0100】
上述した各実施形態と変形例の任意の組み合わせもまた本発明の実施形態として有用である。組み合わせによって生じる新たな実施形態は、組み合わされる実施形態および変形例それぞれの効果をあわせもつ。
【符号の説明】
【0101】
14 入力軌道輪、 20 遊星転動体、 26 第1支持軌道輪、 28 第2支持軌道輪、 30 出力軌道輪、 31 支持部材、 32 出力部材、 33 スラスト軸受、 33b 転動体、 33e 転動輪、 34 出力軸受、 37 ケーシング、 37e 内周面、 100 摩擦伝動装置。