(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025025419
(43)【公開日】2025-02-21
(54)【発明の名称】運転業務支援システム、運転業務支援方法及び支援プログラム
(51)【国際特許分類】
G05B 23/02 20060101AFI20250214BHJP
G06Q 50/40 20240101ALI20250214BHJP
【FI】
G05B23/02 Z
G06Q50/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023130162
(22)【出願日】2023-08-09
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】三宮 豊
(72)【発明者】
【氏名】圓佛 伊智朗
(72)【発明者】
【氏名】中村 信幸
(72)【発明者】
【氏名】横井 浩人
(72)【発明者】
【氏名】田畑 潤也
【テーマコード(参考)】
3C223
5L049
5L050
【Fターム(参考)】
3C223AA02
3C223AA05
3C223AA06
3C223AA17
3C223BA01
3C223BB12
3C223CC01
3C223DD01
3C223EB01
3C223FF04
3C223FF13
3C223FF16
3C223FF17
3C223GG01
3C223HH03
3C223HH08
5L049CC42
5L050CC42
(57)【要約】
【課題】現在の運転状態と類似の過去の運転状態から自動的に最適な運転情報を提示する運転業務支援システムを提供する。
【解決手段】本発明の運転業務支援システムは、業務情報と前記業務情報の内容を示すイベント名称を業務の発生した日時に紐づけて入力する業務情報入力部31と、プラントの運転データを取得する運転データ取得部35と、運転データ取得部で取得したプラントの現在の状態に類似する過去実績を検索し、検索した類似する過去実績の発生日時にイベント名称が設定されていた際に、イベント名称に基づいて対策が必要な事象が発生したか否かを判定するイベント判定部33と、イベント判定部で対策が必要な事象が発生したと判定した際に、イベント名称の発生日時の業務情報及びイベント名称を対策情報として提示する対策情報提示部34と、を備えるようにした。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
業務情報と前記業務情報の内容を示すイベント名称を業務の発生した日時に紐づけて入力する業務情報入力部と、
プラントの運転データを取得する運転データ取得部と、
前記運転データ取得部で取得したプラントの現在の状態に類似する過去実績を検索し、検索した類似する過去実績の発生日時にイベント名称が設定されていた際に、イベント名称に基づいて対策が必要な事象が発生したか否かを判定するイベント判定部と、
前記イベント判定部で対策が必要な事象が発生したと判定した際に、前記イベント名称の発生日時の業務情報及び前記イベント名称を対策情報として提示する対策情報提示部と、
を備える運転業務支援システム。
【請求項2】
請求項1に記載の運転業務支援システムにおいて、さらに、
前記類似の過去実績に関する所定の観点の対策のKPIを求める対策評価設定部を備え、
前記対策情報提示部が、前記対策評価設定部で求めたKPIが高評価の対策情報を提示する、
運転業務支援システム。
【請求項3】
請求項2に記載の運転業務支援システムにおいて、
前記対策評価設定部は、複数のKPIを設定し、
前記対策情報提示部は、運転員が優先したいKPIを選択することで、もっとも高評価の過去の類似実績の業務情報、警報情報及び操作ログ情報を提示する、
運転業務支援システム。
【請求項4】
請求項2における運転業務支援システムにおいて、
前記対策評価設定部は、浄水場を対象とした場合に、水質・量、コスト、工数、警報数のいずれかをKPIに設定する、
運転業務支援システム。
【請求項5】
請求項1に記載の運転業務支援システムにおいて、
前記イベント判定部は、ユークリッド距離を用いてトレンド同士の類似度を算出することで、現在の状況に類似する過去実績を探索し、
前記対策情報提示部は、検索した類似の過去実績の発生した日時に基づいて、業務情報、警報情報及び操作ログ情報の業務情報を抽出する
運転業務支援システム。
【請求項6】
請求項1に記載の運転業務支援システムにおいて、
前記業務情報入力部が、前記業務情報とイベント名称を入力する際に、入力する業務情報の日時のプラントの状態に類似する過去実績を検索し、類似する過去実績の日時に該当する業務情報とイベント名称とを提示する
運転業務支援システム。
【請求項7】
請求項1に記載の運転業務支援システムにおいて、
前記対策情報提示部が、類似する過去実績、操作実績、処理実績、及びKPIの一覧と、運転員が選択したKPIのうち最も評価の高いトレンドの業務情報、警報情報、及び操作ログ情報のリンクが表示された表示画面と、を提示する、
運転業務支援システム。
【請求項8】
業務情報と前記業務情報の内容を示すイベント名称を業務の発生した日時に紐づけて入力するステップと、
プラントの運転データを取得するステップと、
プラントの現在の状態に類似する過去実績を検索し、検索した類似する過去実績の発生日時にイベント名称が設定されていた際に、イベント名称に基づいて対策が必要な事象が発生したか否かを判定するステップと、
対策が必要な事象が発生したと判定した際に、前記イベント名称の発生日時の業務情報及び前記イベント名称を対策情報として提示するステップと、
を含む運転業務支援方法。
【請求項9】
運転業務支援システムのプログラムであって、コンピュータを
業務情報と前記業務情報の内容を示すイベント名称を業務の発生した日時に紐づけて入力する業務情報入力部と、
プラントの運転データを取得する運転データ取得部と、
前記運転データ取得部で取得したプラントの現在の状態に類似する過去実績を検索し、検索した類似する過去実績の発生日時にイベント名称が設定されていた際に、イベント名称に基づいて対策が必要な事象が発生したか否かを判定するイベント判定部と、
前記イベント判定部で対策が必要な事象が発生したと判定した際に、前記イベント名称の発生日時の業務情報及び前記イベント名称を対策情報として提示する対策情報提示部と
して機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、上下水プラントや化学、電力及びゴミ処理場の運転業務支援システム、運転業務支援方法及び支援プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、上下水プラントでは、人口減少に伴う需要の減少,施設の老朽化,人材不足などの課題に対応するため,施設の統廃合や再配置を進めている。特に水道分野では,2018年に水道法が改正された。改正水道法では水道事業者の努力義務として、長期的な観点から水道施設の計画的な更新が記述されており、施設の統廃合や再配置の重要性が明確化された。
【0003】
上下水プラントなどの運転に関する維持管理業務では、運転員の目視と経験を頼りにして管理している場面がある。一方で、人員配置を効率化するため施設の統廃合や再配置を進められ、統合拠点からの集中監視体制に移行している。今後、統合拠点からの集中監視体制に切り替える事業体が増加していくと予想されるが、人員再配置の結果、運転員一人当たりの業務量の増加、また、経験の少ない施設の管理による判断力の低下が懸念される。また、熟練の運転員が減少するため、経験の少ない運転員へのノウハウや技術の蓄積及び継承がさらに困難になりつつある。
【0004】
ノウハウや技術の蓄積及び継承の手法としては、現場でのОJT(オンザジョブトレーニング)やマニュアルの作成及び読込みがある。近年、作成したマニュアルは電子的に保存されていることも多い。また、マニュアルは文書以外にも写真や動画などを用いて、情報を分かりやすく視覚的に整理している。ただし、従来の手法では、ノウハウや技術の蓄積及び継承に対して人員・時間をかける必要があり、少人数で管理しているプラントなどでは、主となる維持管理業務以外の、ノウハウや技術の蓄積及び継承の業務に取り組む余裕がない。つまり、ОJT及びマニュアルの作成ができない場合が多い。
【0005】
プラントの運転に関して何らかの対策を必要としたときの事象のノウハウや技術情報をマニュアルとして整理・まとめることができたとしても、突発的な事象のとき速やかに過去の対策情報を検索できず、有効活用されない場合がある。また、維持管理業務を開始してから時間が経過した場合や施設の新設・更新があったとき、対策情報の更新がされず、有効ではなくなる場合もある。
【0006】
このため、従来からノウハウや技術の蓄積及び継承を行う方法が種々考案されている。例えば、特許文献1には、「各種管理データ及び水質管理基準を逸脱した場合に出力される警報の履歴情報や操作/運転履歴情報(プロセス)データを格納、格納した水質データ、警報出力履歴・プロセスデータに対して操作員が入力した各種ノウハウ情報を時系列に画面上で表示、浄水場内の従事者へ情報開示、ノウハウの継承と共に、定量的評価が与えられたノウハウ情報を基に、実効的な管理、運用マニュアルを新規に整備する、技術継承支援方法及び技術継承支援システム」が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記の先行技術によれば、履歴・プロセスデータベースに操作履歴、プロセスデータ、警報発生日時、警報内容が記録されており、プロセスデータがあらかじめ設定していた基準値内であることを診断して、基準値範囲外を示したプロセスデータを検出した警報出力日時や警報内容を記録する。この基準値はデータの上下限値、相関解析値、統計解析値などがあり、これらの数値をあらかじめ入力する必要がある。
【0009】
運用時はこの基準値の範囲内外を判定して整備したマニュアルを提示するため、条件に該当しなければマニュアルを提示できない可能性がある。また、特許文献1では、ノウハウの抽出にテキストマイニング手法を適用するため、ノウハウの入力方法に定められたルール(5W1H)があり、運転員の入力作業が煩雑になる可能性がある。
【0010】
本発明の目的は、現在の運転状態と類似の過去の運転状態から自動的に最適な運転情報を提示する運転業務支援システム等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するため、本発明の運転業務支援システムは、業務情報と前記業務情報の内容を示すイベント名称を業務の発生した日時に紐づけて入力する業務情報入力部と、プラントの運転データを取得する運転データ取得部と、前記運転データ取得部で取得したプラントの現在の状態に類似する過去実績を検索し、検索した類似する過去実績の発生日時にイベント名称が設定されていた際に、イベント名称に基づいて対策が必要な事象が発生したか否かを判定するイベント判定部と、前記イベント判定部で対策が必要な事象が発生したと判定した際に、前記イベント名称の発生日時の業務情報及び前記イベント名称を対策情報として提示する対策情報提示部と、を備えるようにした。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、現在の運転状態と類似の過去の運転状態から自動的に最適な運転情報を提示する運転業務支援システムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施形態の運転業務支援システムの構成図である。
【
図2】降雨による被処理水の濁度上昇に対して凝集剤を添加して対策した時の処理水濁度の変化を示す図である。
【
図3】降雨による被処理水の濁度上昇に対して凝集剤を添加して対策した時の凝集剤注入率の変化を示す図である。
【
図5】ステップS2における被処理水の濁度の推移を検索の一例を示す図である。
【
図6】対策情報提示部が表示する、イベント判定部が取得した情報の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態の運転業務支援システムについて、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、実施形態の運転業務支援システムの構成図である。
【0015】
運転業務支援システムは、運転情報を提示する運転業務支援装置10と、運転員が業務情報などを入力する情報入力装置40と、運転業務支援装置10が求めた運転情報を運転員に提示する情報出力装置50と、維持管理したい複数のプラントと運転業務支援装置10に接続するネットワーク60と、から構成する。
【0016】
詳しくは後述するが、運転業務支援装置10は、運転員の対応内容(日報、引継ぎ情報など)を記憶する業務情報蓄積部21、プロセスの運転データ蓄積部22、警報蓄積部23、操作ログ蓄積部24、及び対策の要否を判定するイベント蓄積部25を有する情報蓄積部20と、運転データ取得部35、業務情報入力部31、対策評価設定部32、イベント判定部33、及び対策情報提示部34を有する業務支援部30と、から構成する。
【0017】
具体的には、運転業務支援装置10は、図示しないCPU、メモリ及びハードディスクなどの記憶手段と、ネットワーク等のインターフェースを有するコンピュータ(情報処理装置)により構成し、記憶装置に格納されたプログラムをCPUが実行して、業務支援部30の機能を実現する。また、記憶部には、情報蓄積部20を構成する。
【0018】
また、情報入力装置40は、キーボード、マウス、音声マイクなど必要な情報を入力できるインターフェースであればよく、特に限定されない。また、情報出力装置50は、表示装置であり、音声出力できるようにしてもよい。
ネットワーク60は、無線LAN、有線LAN、又は他の通信手段でよく、特に限定しない。
【0019】
また、運転業務支援装置10は、ネットワーク等のインターフェースを有するコンピュータ(情報処理装置)により構成することができるので、
プラントの敷地内に設置されている必要はなく、プラントから離れた場所に設置されていてもよい。
【0020】
ここで、実施形態の運転業務支援システムが支援の対象とするプラントの一例である浄水場について説明する。
【0021】
浄水場は、河川水、ダム水、又は地下水を浄水処理し、処理水を工場や一般家庭などへ送水する施設であり、複数の設備で構成される。例えば、着水井、急速混和池、フロック形成池、沈殿池、ろ過池、消毒池、配水池などの設備であり、これらの設備により被処理水から濁りを除去し、被処理水の殺菌を行う。
【0022】
濁りを除去するプロセスは凝集沈殿処理と呼ばれる。一般的な浄水場における凝集沈殿処理は、浄水場に流入してきた被処理水に、例えばポリ塩化アルミニウムや硫酸バンドなどの凝集剤と呼ばれる薬剤を注入する。薬剤を注入する目的の一つは、水中で懸濁している不溶解性物質(以下、濁質と称する)を除去することである。濁質は水中でマイナスに荷電しているが、薬剤を添加することで電気的中和が可能となる。また、薬剤を注入する別の目的は、薬剤同士の架橋作用により、中和した濁質同士が衝突したとき、凝集しやすくすることである。
【0023】
急速混和池では、被処理水に薬剤が注入され、急速攪拌により濁質同士を衝突させることで凝集核を形成する。次に、フロック形成池ではフロック(かたまり状になった水中の細かな塵やゴミ)を破壊しない強度で緩速攪拌することで、フロックを成長させる。そして沈殿池では、成長したフロックを沈澱・除去する。
【0024】
凝集沈殿処理では、薬剤の注入量が増加すると架橋作用が強くなるため、フロックの成長が早くなり、凝集状態は良好(処理水濁度の低下)となる。ただし、薬剤の注入量が過剰になると濁質がプラスに荷電してしまい、凝集状態は不良(処理水濁度の増加)になる可能性がある。水中の濁りの量(被処理水濁度)は増加するほど、濁質(あるいは凝集核、フロック)の衝突頻度を増やすことができるため、フロックの成長が早くなる。このように、フロックの凝集メカニズムの因子の一つであるフロックの成長は、薬剤の注入量などのプラントの操作条件と水質条件により影響を受ける。
【0025】
フロックの凝集メカニズムは全ての浄水場で共通であるが、施設構成や規模は浄水場ごとに異なり、フロックの成長も変わる。例えば、浄水場ごとに沈殿池などの容量や傾斜版の有無などの違いがある。
【0026】
詳しくは、処理水量と沈殿池の容量で,沈殿池内の被処理水の滞留時間が決まるが、滞留時間が長いほど小さいフロックも沈殿しやすく、フロックは被処理水から除去される。また、傾斜版がある場合、同じ処理水量と沈殿池の容量でも傾斜版がない場合と比較して被処理水からフロックは除去される。急速混和池では攪拌装置などで凝集剤が混和されるが、急速混和地の形状などで混和の均一性が変わり、その後のフロックの成長具合に影響する。
【0027】
また、浄水場ごとに被処理水の取水元が異なるため、水質も浄水場ごとに異なる。このため、薬剤の注入量(制御値)やそのほかの運転操作は浄水場ごとに異なる。また、一つの浄水場でも水需要の変化や施設の老朽化などの長期的な変化、もしくは浄水場内の施設の工事などの短期的な変化により、運転操作量や内容が変化する場合がある。
【0028】
運転員が熟練者の場合には、浄水場内の状況の変化にこれまでの知見で対応可能であるが、運転員が経験の少ない施設を管理する場合には、対応が困難となる場合がある。実施形態の運転業務支援システムは、最適な運転情報を提示し、浄水場の運転を円滑に行うように支援する。
以下、運転業務支援装置10の構成を詳細に説明する。
【0029】
情報蓄積部20の業務情報蓄積部21は、業務の発生した日時と紐づけされ、運転員が引継ぎするときの業務情報(何らかの対策時の一連の運転員の対応内容、当該対応に関する検討議事、根拠、運転員の主観など)を格納する。具体的には、運転員が情報入力装置40により日々入力する日報などを、後述する業務情報入力部31を介して取得して蓄積する。
【0030】
運転データ蓄積部22は、プラントに設置されたセンサなどから得られた過去の計測データを運転データとして格納する。詳しくは、運転データはプラントに設置された図示しない水処理に関わる水質項目を計測するセンサ群が取得したデータや機器の操作パラメータなどである。
【0031】
具体的には、浄水場に設置されるセンサには、水の濁りを計測する濁度計(被処理水、処理水用)、水温を計測する水温計、pHを計測するpH計、アルカリ度を計測するアルカリ度計、水中の有機物を計測するTOC計や紫外線吸光度計などの水処理に影響する水質項目を計測できるセンサがある。また、センサには、水の処理量を計測する水量計なども該当する。これらのセンサから取得された運転データは時系列情報として運転データ蓄積部220に蓄積される。
【0032】
警報蓄積部23は、プラントで発報された過去の警報データを時系列情報として格納する。ここで、警報データは、処理水の濁度の上限異常など、あらかじめプラントで設定した運転パラメータの値が閾値を超過した場合や、ポンプ停止など設備の故障や電源異常などがある。
【0033】
操作ログ蓄積部24は、運転員がプラントを操作した操作履歴データを時系列情報として格納する。ここで、操作履歴データは、運転員が手動で変更した薬剤の注入量(制御値)や取水流量の変更(バルブの開度変更)などで、情報入力装置40で入力する業務情報と異なり、自動で記録された運転操作のデータである。
【0034】
イベント蓄積部25は、プラントの運転に関して何らかの対策が必要な事象が起きたか否かを示すイベント名称を時系列情報として格納する。このイベント名称は、発生した事象を示す名称であり、「処理水質異常」や「ポンプ停止」などである。運転員が情報入力装置400から引継ぎの情報(業務情報)を入力するときに、何らかの対策した事象であった場合に、引継ぎ情報(業務情報)と共にイベント名称を入力する。
【0035】
次に、業務支援部30の詳細を説明する。
業務情報入力部31は、情報入力装置40により入力された、運転員が引継ぎするときの業務情報(何らかの対策時の一連の運転員の対応内容、当該対応に関する検討議事、根拠、運転員の主観など)と、業務の発生日時と、プラントの運転に関する業務情報を示すイベント名称を、業務情報蓄積部21とイベント蓄積部25に格納する処理部である。イベント名称は、プラントの運転に関して何らかの対策が必要な事象が発生したか否かを判定できる名称とする。
【0036】
詳しくは、業務情報入力部31は、運転員が引継ぎするときの業務情報を、業務の発生日時と紐づけて業務情報蓄積部21に格納する。業務情報とイベント名称とを業務の発生日時に紐づけることにより、後述するイベント判定部33で、現在の状況と類似の状況を検索するときに、類似の状況の日時から業務情報を自動的に検索・提示することが可能となる。
【0037】
また、業務情報自体は、日々の維持管理業務の記録も含んでおり、プラントの運転に関して何らかの対策が必要な事象が起きたとき、提示すべき重要な情報か否かの区別がない。このため、業務情報入力部31は、業務情報を入力するとき、何らかの対策が必要な事象が起きたか否かを判定するイベント名称と対策を開始・終了した日時を入力する。イベント名称と業務情報を紐づけることで、類似の状況の日時から業務情報を検索したとき、類似の状況において、何らかの対策が必要な事象か否か、を判別することが可能となる。
【0038】
対策評価設定部32は、プラントの運転に関して何らかの対策が必要な事象が起きて、これに対応した結果を評価する処理部である。
【0039】
以下、何らかの対策として凝集剤注入率の変更を一例として説明する。浄水場は河川などの被処理水を取水するが、河川などの被処理水の水質は、降雨などの自然現象に大きく影響を受ける。例えば、台風などの影響で大雨が降った場合、被処理水の懸濁している不溶解性物質、つまり、濁度が短期間で大きく上昇する。このようなときは凝集剤の添加量を増やして対応するが、増やすタイミングや一度に増加する量については、個々の運転員や状況に応じて異なる場合が多い。結果として、被処理水の濁度のトレンド(傾向変動)が同じように推移した場合でも、添加した凝集剤の量や処理水の濁度のトレンドが変化する。そこで、対応した結果に対して定量的な評価を実行する。ここで、定量的な評価のKPI(指標)としては、水質・量、コスト、工数、警報数などが挙げられる。
【0040】
図2により、対策評価設定部32における水質・量に関する対策評価の一例を説明する。
図2は、降雨による被処理水の濁度上昇に対して凝集剤を添加して対策した時の処理水濁度の変化(トレンド1、2)を示す図である。
図2の横軸は日時、縦軸は処理水の濁度(処理水濁度)である。処理水濁度は、プラントの実測値であり、運転データ取得部35がネットワーク60を介してプラントから取得する。
【0041】
水質の観点から見た、対策が高評価とは、あらかじめ浄水場で設定している目標値(
図2の場合、0.8度が目標値)から逸脱しないことになる。
対策評価設定部32は、
図2に示すような処理水濁度のトレンド1、2における水質の観点から見た対策の評価をつぎのように行う。
【0042】
対策評価設定部32は、式(1)に示すように、業務情報入力部31で入力した対策の開始・終了した日時を区間として、プラントの実測値と目標値の差分の絶対値をとり、その後に差分の絶対値を合計して区間の点数で除することで算出した平均値を水質・量のKPIとする。ここで、ここで、kは対策の開始・終了した日時内のある期間のデータであり、ゼロは区間内の最初のデータ、lは区間内の最後のデータを示す。
【数1】
【0043】
上記では、降雨による被処理水の濁度上昇に対して凝集剤を添加して対策した時の処理水濁度の実測と目標値の差分の平均値をKPIとしたが、発生した事象に応じて水質・量のKPIは変化する。
図2に示した処理水濁度のトレンド1、2からKPIを算出すると、それぞれ0.07度、0.18度となり、水質の観点から見た場合、平均値が小さいトレンド1が高評価となる。
【0044】
次に、
図3により、対策評価設定部32におけるコストに関する対策評価の一例を説明する。
図3は、降雨による被処理水の濁度上昇に対して凝集剤を添加して対策した時の凝集剤注入率の変化(トレンド1、2)を示す図である。
図3の横軸は日時、縦軸は凝集剤を添加した量(凝集剤注入率)である。凝集剤注入率は、プラントの実測値であり、運転データ取得部35がネットワーク60を介してプラントから取得する。
【0045】
コストの観点から見た、対策の高評価とは、発生した事象に対して凝集剤注入率を増やさず、対策できた場合である。
対策評価設定部32は、
図3に示すような凝集剤注入率のトレンド1、2におけるコストの観点から見た対策の評価をつぎのように行う。
【0046】
対策評価設定部32は、式(2)に示すように、業務情報入力部310で入力した対策の開始・終了した日時を区間として、対策開始前の凝集剤注入率と対策中の凝集剤注入率との差分をとり、その後に差分を合計して区間の点数で除することで算出した平均値を(薬剤)コストのKPIとする。ここで、kは対策の開始・終了した日時内のある期間のデータであり、ゼロは区間内の最初のデータ、lは区間内の最後のデータを示す。
【数2】
【0047】
上記では対策開始前の凝集剤注入率と対策中の凝集剤注入率の差分の平均値をKPIとしたが、平均値を算出する前の合計値に、処理水量と凝集剤の価格(円/kg)を乗ずることで金額に換算してKPIとしてもよく、コストの違いを判別できるならば、特に限定されない。
【0048】
図3に示した凝集剤注入率のトレンド1、2からKPIを算出すると、それぞれ17.4mg/L、17.0mg/Lとなり、コストの観点から見た場合、対策開始前の凝集剤注入率と比較して、対策中の凝集剤注入率の増加が少ないトレンド2が高評価となる。
【0049】
上記では、対策評価設定部32におけるコストに関する対策評価を説明したが、コストに替えて工数の観点で評価してもよい。例えば、
図3では、対策前後の区間において凝集剤注入率の変更をトレンド1は2回、トレンド2は3回実行しており、対策開始・終了に要した時間で除することで、1時間当たりの操作頻度を算出できる。対策開始・終了に要した時間を10時間とした場合、工数の観点から
図2のトレンド1、2を比較すると、トレンド1は操作頻度が0.2となり、トレンド2の0.3より少なく、高評価となる。
【0050】
また、対策前後の区間において発生した警報数が少ない対策を高評価として、どの対策をとるべきか判定してもよい。
上記では、対策評価設定部32がKPIを水質・量、コスト、工数、警報数としたが、対策の優劣を評価できるならば、上記に例示したKPIでなくともよく、特に限定されない。
【0051】
図1に戻り、イベント判定部33について説明する。
イベント判定部33は、運転データ取得部35によりネットワーク60を介して取得したプラントの現在の状況に基づいて、運転データ蓄積部22に蓄積されている類似の過去実績を検索し、検索した類似の過去実績に対応する業務情報蓄積部21の過去実績の発生日時の業務情報にイベント名称が設定されていたとき、何らかの対策が必要な事象が発生したと判定する処理部である。詳しくは、イベント蓄積部25を参照して、過去実績の発生日時のイベント名称を取得する。
【0052】
イベント判定部33により、現在の状況が、イベント蓄積部25に蓄積されている対策が必要な事象の発生を示すイベント名称に対応する状況であることが分かるので、イベント名称を格納した熟練の運転員の対策を知ることができ、最適な運転情報を知ることができる。イベント判定部33の詳細は、
図4により後述する。
【0053】
図1の対策情報提示部34は、イベント判定部33で取得した情報を情報出力装置50に表示して運転員へ提示する処理部である。
図6により表示内容を後述する。
【0054】
次に、
図1のイベント判定部33の機能を
図4により説明する。
図4は、イベント判定部33の処理フロー図である。
【0055】
ステップS1で、イベント判定部33は、運転データ取得部35によりネットワーク60を介してプラントから水質・量などの現在の運転データを取得するとともに、運転データ蓄積部22から過去の水質・量などの運転データを取得する。
【0056】
ステップS2で、イベント判定部33は、ステップS1で取得した現在の運転データにおける降雨による被処理水の濁度上昇を現在の状況として、ステップS1で取得した過去の運転データにおいて、現在の被処理水の濁度の推移と類似した過去の被処理水の濁度の推移を検索する。
【0057】
詳しくは、イベント判定部33は、式(3)に示すように、現在の被処理水の濁度のトレンドと、過去の被処理水の濁度のトレンドとの類似度を、ユークリッド距離を比較する等の手法を用いて算出し、類似度が所定値以内のトレンドを求める。ここで,Anはn番目のトレンドAの値,Bnはn番目のトレンドBの値,xは類似度の算出に用いる点数である。
【数3】
【0058】
これにより、イベント判定部33は、検索対象としたトレンド(被処理水の濁度の推移)が過去のどの時期にあったか知ることができる。また、検索したトレンドの少し先のトレンドを求めることで、将来的に起こりうるトレンドの変化の予想が可能となる。
【0059】
図5は、ステップS2における被処理水の濁度の推移を検索の一例を示す図である。
図5の横軸は時間、縦軸は被処理水の濁度である。トレンドAを現在の被処理水の濁度の推移、ゼロ点を現在の日時としたとき、ゼロ点からマイナス5時間の計6点に対して、過去の被処理水濁度の推移、例えばトレンドBをずらしながら、式(3)で類似度を算出して類似度の小さい、すなわち、類似の過去実績を検索する。ここで、類似度の計算の1時間ごとの計6点を使用したが、点数や時間間隔は被処理水の濁度の推移が分かるならば、特に限定されない。
【0060】
図4に戻り、ステップS3で、イベント判定部33は、ステップS2で検索した現在の被処理水の濁度の推移に類似する過去の被処理水の濁度の推移(過去実績)が発生した日時を用いて、イベント蓄積部25から該当日時のイベント名称(プラントの運転に関して何らかの対策が必要な事象が起きたか否かを示すイベント名称)を取得する。
【0061】
このとき、類似の過去実績は1つでなくてもよく、類似度の小さい順に複数選択してもよいし、あらかじめ類似度の閾値を設定しておき、閾値以下の類似の過去実績の該当日時の情報を取得してもよい。以下の説明では2つ以上の類似の過去実績を対象とした場合について説明する。
【0062】
類似の過去実績が無かった場合には、運転データ蓄積部22から他のプラントの過去の水質・量などの運転データを取得し、類似の過去実績を検索するようにしてもよい。
【0063】
ステップS4で、イベント判定部33は、ステップS3で取得した該当日時のイベント名称がプラントの運転に関して何らかの対策が必要な事象が起きたか否かを示すイベント名称であるか判定して、何らかの対策が必要な事象が起きたか否かを判断する。対策が必要な事象が起きた場合には、ステップS5に進み、起きていない場合にはステップS6に進む。
【0064】
ステップS5で、イベント判定部33は、ステップS4で何らかの対策が必要な事象が起きたと判断した日時に基づいて、業務情報蓄積部21、警報蓄積部23、操作ログ蓄積部24から該当日時の情報を取得する。取得した情報は、対策情報として対策情報提示部340により情報出力装置50に通知され、運転員に提示される。
【0065】
ステップS6で、イベント判定部33は、ステップS3で取得した類似の過去実績について、ステップS4及びS5を実施していない他の類似の過去実績があるか否かを判定し、他にある場合には(S3のYes)、ステップS4に戻る。他にない場合には(S3のNo)、処理を終了する。
【0066】
図6は、対策情報提示部34が、情報出力装置50に通知して表示する、イベント判定部33が取得した情報の一例を示す図である。
【0067】
情報出力装置50の表示画面には、被処理水の濁度のトレンドと検索した過去実績のトレンド(51)と、操作実績のトレンド(52)、及び処理実績のトレンド(53)を表示し、運転者に提示する。また、検索した過去実績のトレンドのKPIを一覧した表(54)も表示する。これにより、運転員は現在の状況と類似の過去実績の評価を一覧できる。
【0068】
さらに、表示領域55では、運転員が重要視したいKPIの入力又は選択領域(テキストボックス又はリストボックス等)を用意し、運転者が重要視したいKPIを入力することで、類似の過去実績で各観点からもっともKPIの高い業務情報を提示することができるようにする。
【0069】
例えば、運転員がもっとも重要なKPIとして水質・量を選択した場合、トレンド1の業務情報、警報、操作ログのリンクが表示され、リンクを選択することで運転員は必要な情報に速やかにアクセス可能となる。これにより、何らかの事象が発生したとき、運転員はもっとも重要視する観点を考慮した場合における過去実績を検索することが可能となり、容易に運転良否を判断することができる。
【0070】
実施形態の運転業務支援システムによれば、熟練度の低い運転員が経験の少ない施設を管理する場合でも、薬品の注入率の不足や過剰を防ぎ、薬品使用量の最適化が期待できる。薬品使用量が最適化できれば、薬品補充と運搬の頻度が下がり、薬品製造時及び運搬時の二酸化炭素ガスの排出を低減できる。
【0071】
実施形態の運転業務支援システムによれば、施設の統廃合や再配置で生じる経験の少ない施設を管理する運転員に対して、過去の実績に基づいた対策情報を自動的に提示することで、意思決定の迅速化・精度向上が可能となる。
【0072】
また、プラントの操作では、単純に基準値を超過したから対応するケースばかりでなく、基準値を超過する前に事前対応するケースもある。本発明では、基準値ではなく運転状態の類似よる判断のため、どちらのケースでも対策情報を提示し、運転員の判断を支援することが可能となる。
【0073】
なお、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。また、上記の説明は、本発明を分かりやすく説明するためのものであり、必ずしも全ての構成を備えるものに限定されるものではない。
また、これらの機能は任意の組み合わせで一体化されてもよく、例えば、業務情報とイベントトリガーはそれぞれ業務情報蓄積部21とイベント蓄積部25にわけて記録したが、まとめて記録してもよい。
【0074】
上記の実施形態の運転業務支援システムでは、浄水場の薬注制御に適用した例を示したが、下水処理場のブロワ制御、電力プラントやごみ処理場の温度制御など、プラントの運転に関して何らかの対策が必要な事象が起きたか否かをイベント名称により説明する(示す)ことができる維持管理業務に適用可能である。
【0075】
詳細には、流入負荷(窒素)に応じて、処理水のDO(Dissolved Oxygen:溶存酸素濃度)を一定に保ようにブロアを制御して、処理水の硝化を進める下水処理場のブロア制御に適用できる。
また、ゴミ処理場において、ゴミの量などに応じて、焼却炉の温度を一定に保つように通風設備を制御することに適用できる。
【0076】
次に、業務情報入力部31における運転員の情報入力作業支援を説明する。詳しくは、業務情報入力部31は、運転員が業務情報を入力するとき、あらかじめ類似検索を適用することで現在の状況と類似した過去実績の該当日時の業務情報を取得、表示する。
【0077】
【0078】
ステップS11で、業務情報入力部31は、ネットワーク60と接続されたプラントから水質・量などの現在の運転データを現在の状況として取得し、また、運転データ蓄積部22から過去の水質・量などの運転データを取得する。
ステップS12で、ステップS11で取得した現在の状況に類似する運転データを検索して類似の過去実績とする。
【0079】
ステップS13で、業務情報入力部31は、ステップS12で検索した類似の過去実績の発生した日時を用いて、業務情報蓄積部21から該当日時の情報を取得する。
ステップS14で、業務情報入力部31は、取得した現在の状況と類似の過去実績の該当日時の業務情報を情報出力装置50に通知して、運転員へ提示する。
【0080】
業務情報入力部31は、業務情報を入力するとき現在の状況と類似した過去実績の日時の業務情報とイベント名称を運転員へ提示することで、運転員が入力に必要な情報などを参考でき、業務情報の入力が容易となる。また、過去の業務情報とイベント名称を見ることで、表記ブレなどを防ぐ効果も期待できる。
【0081】
上記では、業務情報をそのまま提示する手法で説明したが、例えば、テキストマイニング手法などで業務情報のうち、名詞のみを抜き出して提示するなど、運転員の入力を支援できるならば、提示する情報は特に限定されない。
【符号の説明】
【0082】
10 運転業務支援装置
20 情報蓄積部
21 業務情報蓄積部
22 運転データ蓄積部
23 警報蓄積部
24 操作ログ蓄積部
25 イベント蓄積部
30 業務支援部
31 業務情報入力部
32 対策評価設定部
33 イベント判定部
34 対策情報提示部
35 運転データ取得部
40 情報入力装置
50 情報出力装置
60 ネットワーク