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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025025430
(43)【公開日】2025-02-21
(54)【発明の名称】能動型騒音低減装置
(51)【国際特許分類】
   G10K 11/178 20060101AFI20250214BHJP
【FI】
G10K11/178 140
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023130175
(22)【出願日】2023-08-09
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001379
【氏名又は名称】弁理士法人大島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】王 循
(72)【発明者】
【氏名】井上 敏郎
【テーマコード(参考)】
5D061
【Fターム(参考)】
5D061FF02
(57)【要約】
【課題】二次経路の伝達関数が変化したか否かを正確に判定する。
【解決手段】能動型騒音低減装置1は、騒音d1を打ち消すための打消音y1を出力する打消音出力装置21と、騒音d1及び打消音y1に基づいて誤差信号e1を生成する誤差マイク23と、誤差信号e1に基づいて打消音出力装置21を制御する制御装置25と、を備え、制御装置25は、打消音出力装置21を制御するための制御信号u1を生成する制御フィルタW1と、打消音出力装置21から誤差マイク23までの二次経路の伝達関数の推定値を示す二次経路フィルタC^1と、を備える。能動型騒音低減装置1は、誤差マイク23とは別個に設けられた基準マイク24を更に備え、基準マイク24は、少なくとも騒音d2に基づいて判定用信号e2を生成し、制御装置25は、誤差信号e1及び判定用信号e2に基づいて、二次経路の伝達関数が変化したか否かを判定する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
騒音を打ち消すための打消音を出力する打消音出力装置と、
前記騒音及び前記打消音に基づいて誤差信号を生成する誤差マイクと、
前記誤差信号に基づいて前記打消音出力装置を制御する制御装置と、を備え、
前記制御装置は、
前記打消音出力装置を制御するための制御信号を生成する制御フィルタと、
前記打消音出力装置から前記誤差マイクまでの二次経路の伝達関数の推定値を示す二次経路フィルタと、を備えた能動型騒音低減装置であって、
前記誤差マイクとは別個に設けられた基準マイクを更に備え、
前記基準マイクは、少なくとも前記騒音に基づいて判定用信号を生成し、
前記制御装置は、前記誤差信号及び前記判定用信号に基づいて、前記二次経路の伝達関数が変化したか否かを判定する能動型騒音低減装置。
【請求項2】
前記打消音出力装置とは別個に設けられた第2の打消音出力装置を更に備え、
前記制御装置は、前記第2の打消音出力装置を制御するための第2の制御信号を生成する第2の制御フィルタを備え、
前記第2の制御フィルタは、前記判定用信号に基づいて適応的に更新される請求項1に記載の能動型騒音低減装置。
【請求項3】
前記制御装置は、前記第2の打消音出力装置から前記基準マイクまでの第2の二次経路の伝達関数の推定値を示す第2の二次経路フィルタを備え、
前記制御装置は、前記誤差信号及び前記判定用信号に基づいて、前記第2の二次経路の伝達関数が変化したか否かを判定する請求項2に記載の能動型騒音低減装置。
【請求項4】
前記制御装置は、
前記誤差信号と前記判定用信号の差が第1基準値以上であり、且つ、前記誤差信号の時間変化量が第2基準値以上である場合に、前記二次経路の伝達関数が変化したと判定し、
前記誤差信号と前記判定用信号の差が前記第1基準値以上であり、且つ、前記判定用信号の時間変化量が前記第2基準値以上である場合に、前記第2の二次経路の伝達関数が変化したと判定する請求項3に記載の能動型騒音低減装置。
【請求項5】
前記制御装置は、前記誤差信号と前記判定用信号の差が第1基準値以上であり、且つ、前記誤差信号の時間変化量が第2基準値以上である場合に、前記二次経路の伝達関数が変化したと判定する請求項1に記載の能動型騒音低減装置。
【請求項6】
前記制御装置は、前記誤差信号と前記判定用信号の差が前記第1基準値以上であり、且つ、前記誤差信号の時間変化量が前記第2基準値以上であり、且つ、前記誤差信号が第3基準値以上である場合に、前記二次経路の伝達関数が変化したと判定する請求項5に記載の能動型騒音低減装置。
【請求項7】
前記打消音出力装置とは別個に設けられた第2の打消音出力装置を更に備え、
前記制御装置は、前記第2の打消音出力装置から前記基準マイクまでの第2の二次経路の伝達関数の推定値を示す第2の二次経路フィルタを備えている請求項1に記載の能動型騒音低減装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、騒音とは逆位相の打消音を騒音に干渉させることで騒音を低減する能動型騒音低減装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、交通参加者の中の高齢者や子供といった脆弱な立場にある人々に配慮し、このような人々に持続可能な輸送システムへのアクセスを提供する取り組みが活発化している。その実現に向けて、車両の居住性に関する開発を通して、交通の安全性や利便性をより一層改善する研究開発が注目されている。
【0003】
車両の居住性を向上させるためには、車内空間における騒音の低減を図ることが好ましい。そこで、騒音とは逆位相の打消音を騒音に干渉させることで騒音を低減する能動型騒音低減装置の研究開発が積極的に行われている。
【0004】
例えば、特許文献1には、二次経路の伝達関数の推定値を示す二次経路フィルタ(特許文献1の「フィルタードX信号作成用フィルタ14c」参照)を備えた能動型騒音低減装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7-28474号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のような能動型騒音低減装置において、二次経路の伝達関数が変化し、二次経路の伝達関数と二次経路フィルタの差が大きくなると、騒音の低減効果が低下したり、却って騒音が増幅したりする恐れがある。そこで、二次経路の伝達関数が変化した場合に、二次経路フィルタを適応的に更新する技術が知られている。このような技術を採用する場合に、二次経路フィルタの適応的な更新を適切なタイミングで実行するためには、二次経路の伝達関数が変化したか否かを正確に判定することが求められる。
【0007】
本発明は、以上の背景に鑑み、二次経路の伝達関数が変化したか否かを正確に判定することが可能な能動型騒音低減装置を提供することを課題とする。延いては、持続可能な輸送システムの発展に寄与することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために本発明のある態様は、騒音を打ち消すための打消音を出力する打消音出力装置(21)と、前記騒音及び前記打消音に基づいて誤差信号(e1)を生成する誤差マイク(23)と、前記誤差信号に基づいて前記打消音出力装置を制御する制御装置(25)と、を備え、前記制御装置は、前記打消音出力装置を制御するための制御信号(u1)を生成する制御フィルタ(W1)と、前記打消音出力装置から前記誤差マイクまでの二次経路の伝達関数の推定値を示す二次経路フィルタ(C^1)と、を備えた能動型騒音低減装置(1)であって、前記誤差マイクとは別個に設けられた基準マイク(24)を更に備え、前記基準マイクは、少なくとも前記騒音に基づいて判定用信号(e2)を生成し、前記制御装置は、前記誤差信号及び前記判定用信号に基づいて、前記二次経路の伝達関数が変化したか否かを判定する。
【0009】
この態様によれば、誤差信号及び判定用信号に基づいて、二次経路の伝達関数が変化したか否かを正確に判定することができる。そのため、二次経路フィルタの適応的な更新を適切なタイミングで実行することができる。
【0010】
上記の態様において、前記打消音出力装置とは別個に設けられた第2の打消音出力装置(22)を更に備え、前記制御装置は、前記第2の打消音出力装置を制御するための第2の制御信号(u2)を生成する第2の制御フィルタ(W2)を備え、前記第2の制御フィルタは、前記判定用信号に基づいて適応的に更新されても良い。
【0011】
この態様によれば、基準マイクが生成した判定用信号を用いて、第2の制御フィルタを適応的に更新することができる。そのため、判定用信号を生成するマイクと第2の制御フィルタの適応的な更新のための信号を生成するマイクとを別々に設ける場合と比較して、部品点数を削減することができる。
【0012】
上記の態様において、前記制御装置は、前記第2の打消音出力装置から前記基準マイクまでの第2の二次経路の伝達関数の推定値を示す第2の二次経路フィルタ(c^2)を備え、前記制御装置は、前記誤差信号及び前記判定用信号に基づいて、前記第2の二次経路の伝達関数が変化したか否かを判定しても良い。
【0013】
この態様によれば、誤差信号及び判定用信号に基づいて、二次経路の伝達関数が変化したか否かだけでなく、第2の二次経路の伝達関数が変化したか否かも判定することができる。そのため、二次経路の伝達関数の変化を判定するための信号と、第2の二次経路の伝達関数の変化を判定するための信号と、を別々の構成要素によって生成する場合と比較して、部品点数を削減することができる。
【0014】
上記の態様において、前記制御装置は、前記誤差信号と前記判定用信号の差が第1基準値以上であり、且つ、前記誤差信号の時間変化量が第2基準値以上である場合に、前記二次経路の伝達関数が変化したと判定し、前記誤差信号と前記判定用信号の差が前記第1基準値以上であり、且つ、前記判定用信号の時間変化量が前記第2基準値以上である場合に、前記第2の二次経路の伝達関数が変化したと判定しても良い。
【0015】
この態様によれば、誤差信号及び判定用信号に基づいて、二次経路の伝達関数が変化したか否かと第2の二次経路の伝達関数が変化したか否かを簡単に判定することができる。そのため、制御装置の計算負荷を低減することができる。
【0016】
上記の態様において、前記制御装置は、前記誤差信号と前記判定用信号の差が第1基準値以上であり、且つ、前記誤差信号の時間変化量が第2基準値以上である場合に、前記二次経路の伝達関数が変化したと判定しても良い。
【0017】
この態様によれば、誤差信号と判定用信号の差だけでなく、誤差信号の時間変化量にも基づいて、二次経路の伝達関数が変化したか否かを判定することができる。これにより、打消音出力装置から基準マイクまでの二次経路の伝達関数が変化した場合に、打消音出力装置から誤差マイクまでの二次経路の伝達関数が変化したと誤判定するのを回避することができる。また、誤差信号と判定用信号の差及び誤差信号の時間変化量に基づいて、二次経路の伝達関数が変化したか否かを簡単に判定することができる。そのため、誤差信号と判定用信号の類似度に基づいて二次経路の伝達関数が変化したか否かを判定するような場合と比較して、制御装置の計算負荷を低減することができる。
【0018】
上記の態様において、前記制御装置は、前記誤差信号と前記判定用信号の差が前記第1基準値以上であり、且つ、前記誤差信号の時間変化量が前記第2基準値以上であり、且つ、前記誤差信号が第3基準値以上である場合に、前記二次経路の伝達関数が変化したと判定しても良い。
【0019】
二次経路の伝達関数が変化していない状態でも、誤差信号は僅かに変化していることがある。第1基準値及び第2基準値のみを用いて二次経路の伝達関数の変化を判定する場合、上記のような誤差信号の僅かな変化を除外するためには、第2基準値を大きくすることが求められる。しかし、このように第2基準値を大きくしてしまうと、二次経路の伝達関数の変化を判定する精度が低下する恐れがある。上記の態様によれば、第1基準値及び第2基準値に加えて第3基準値を用いて二次経路の伝達関数の変化を判定することで、第2基準値を大きくすることなく、上記のような誤差信号の僅かな変化を除外することができる。そのため、二次経路の伝達関数の変化を精度良く判定することができる。
【0020】
上記の態様において、前記打消音出力装置とは別個に設けられた第2の打消音出力装置(22)を更に備え、前記制御装置は、前記第2の打消音出力装置から前記基準マイクまでの第2の二次経路の伝達関数の推定値を示す第2の二次経路フィルタ(C^2)を備えていても良い。
【0021】
この態様によれば、第2の打消音出力装置の制御に基準マイクを利用することができる。そのため、基準マイク以外のマイクを利用して第2の打消音出力装置を制御する場合と比較して、部品点数を削減することができる。
【発明の効果】
【0022】
以上の態様によれば、二次経路の伝達関数が変化したか否かを正確に判定することが可能な能動型騒音低減装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】実施形態に係る能動型騒音低減装置が適用された車両を示す模式図
図2】実施形態に係る能動型騒音低減装置を示す機能ブロック図
図3】実施形態に係る音場変化判定処理を示すフローチャート
図4】実施形態に係る誤差信号の信号レベルを例示するグラフ
図5】実施形態に係る収束判定処理を示すフローチャート
図6】実施形態に係る二次経路フィルタのインパルス応答を例示するグラフ
図7】実施形態に係る更新処理を示すフローチャート
図8】他の実施形態に係る更新処理を示すフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施形態について説明する。なお、本明細書中において、各種符号に併記される「^」(ハット)は、同定値又は推定値を示す。「^」は、図中では各種符号の上に付されるが、本文中では各種符号の後に付される。
【0025】
<車両3>
図1は、実施形態に係る能動型騒音低減装置1(以下、「騒音低減装置1」と略称する)が適用された車両3を示す模式図である。車両3は、例えば、4輪自動車である。
【0026】
車両3の車室4内には、複数の乗員シート5、6が配置されている。複数の乗員シート5、6は、第1乗員シート5と、第2乗員シート6と、を含んでいる。例えば、第1乗員シート5は、助手席であり、第2乗員シート6は、運転席である。他の実施形態では、助手席以外のシート(例えば、運転席や後部座席)を第1乗員シート5としても良いし、運転席以外のシート(例えば、助手席や後部座席)を第2乗員シート6としても良い。つまり、第1乗員シート5と第2乗員シート6の組み合わせは自由に決定することができる。
【0027】
各乗員シート5、6(以下、単に「乗員シート5、6」と称する)は、シートクッション7と、シートクッション7の後ろ上方に配置され、シートクッション7に対して回転するリクライニング部8と、を有する。リクライニング部8は、シートバック9と、シートバック9の上端に固定されるヘッドレスト10と、を有する。
【0028】
乗員シート5、6の前後位置、乗員シート5、6の高さ、及び乗員シート5、6のリクライニング部8の傾斜角度は、乗員によるシート位置操作部(図示せず)に対する操作に応じて、電動モータ(図示せず)によって調整されるようになっている。つまり、乗員シート5、6は、いわゆるパワーシートによって構成されている。
【0029】
<騒音低減装置1>
騒音低減装置1は、車両3の車室4内で発生する騒音dを低減するためのANC装置(Active Noise Control Device)である。より詳細には、騒音低減装置1は、騒音dとは逆位相の打消音y1、y2を生成し、生成した打消音y1、y2を騒音dと干渉させることで、騒音dを低減する。
【0030】
例えば、騒音低減装置1の低減対象となる騒音dは、路面からの力による車輪の振動に起因するロードノイズである。なお、騒音低減装置1の低減対象となる騒音dは、上記のロードノイズ以外の騒音(例えば、内燃機関や電動モータ等の駆動源の振動に起因する駆動系騒音)であっても良い。
【0031】
騒音低減装置1は、騒音dを打ち消すための打消音y1、y2を出力する複数のスピーカ21、22と、騒音d及び打消音y1、y2に基づいて誤差信号e1、e2を生成する複数のマイク23、24と、誤差信号e1、e2に基づいて複数のスピーカ21、22を制御する制御装置25と、を備えている。
【0032】
<複数のスピーカ21、22>
複数のスピーカ21、22は、打消音y1を出力する第1スピーカ21(打消音出力装置の一例)と、打消音y2を出力する第2スピーカ22(第2の打消音出力装置の一例)と、を含んでいる。第2スピーカ22は、第1スピーカ21とは別個に設けられている。
【0033】
第1スピーカ21は、第1乗員シート5と対応する位置で、且つ、第1乗員シート5以外の部分に設けられている。例えば、第1スピーカ21は、第1乗員シート5の前方のフロアや第1乗員シート5の側方のドアに設けられている。他の実施形態では、第1スピーカ21は、第1乗員シート5に設けられていても良い。
【0034】
第2スピーカ22は、第2乗員シート6と対応する位置で、且つ、第2乗員シート6以外の部分に設けられている。例えば、第2スピーカ22は、第2乗員シート6の前方のフロアや第2乗員シート6の側方のドアに設けられている。他の実施形態では、第2スピーカ22は、第2乗員シート6に設けられていても良い。
【0035】
<複数のマイク23、24>
複数のマイク23、24は、第1マイク23(誤差マイクの一例)と、第2マイク24(基準マイクの一例)と、を含んでいる。第2マイク24は、第1マイク23とは別個に設けられている。
【0036】
第1マイク23は、第1乗員シート5の任意の箇所に設けられている。例えば、第1マイク23は、第1乗員シート5のリクライニング部8のヘッドレスト10に設けられている。他の実施形態では、第1マイク23は、第1乗員シート5と対応する位置で、且つ、第1乗員シート5以外の部分に設けられていても良い。
【0037】
図2を参照して、第1マイク23は、打消音y1、打消音y2、及び騒音d1(第1マイク23の位置における騒音d)に基づいて、誤差信号e1を生成する。なお、他の実施形態では、第1マイク23は、打消音y1及び騒音d1のみに基づいて誤差信号e1を生成しても良い。
【0038】
図1を参照して、第2マイク24は、第2乗員シート6の任意の箇所に設けられている。例えば、第2マイク24は、第2乗員シート6のリクライニング部8のヘッドレスト10に設けられている。他の実施形態では、第2マイク24は、第2乗員シート6と対応する位置で、且つ、第2乗員シート6以外の部分に設けられていても良い。
【0039】
図2を参照して、第2マイク24は、打消音y1、打消音y2、及び騒音d2(第2マイク24の位置における騒音d)に基づいて、誤差信号e2(判定用信号の一例)を生成する。なお、他の実施形態では、第2マイク24は、打消音y2及び騒音d2のみに基づいて誤差信号e2を生成しても良い。
【0040】
なお、図2のC1は、第1スピーカ21から第1マイク23までの二次経路の伝達関数を示し、図2のH1は、騒音源から第1マイク23までの一次経路の伝達関数を示している。同様に、図2のC2は、第2スピーカ22から第2マイク24までの二次経路の伝達関数を示し、図2のH2は、騒音源から第2マイク24までの一次経路の伝達関数を示している。これらの伝達関数C1、H1、C2、H2は、車室4内の音場に対応している。
【0041】
<制御装置25>
制御装置25は、演算処理装置(CPU、MPU等のプロセッサ)と、記憶装置(ROM、RAM等のメモリ)と、を有するコンピュータによって構成されている。制御装置25は、1つのハードウェアとして構成されていてもよく、複数のハードウェアからなるユニットとして構成されていてもよい。
【0042】
制御装置25には、騒音dに対応する参照信号rが入力される。参照信号rは、例えば、騒音dから参照信号rを生成する参照マイク(図示せず)から制御装置25に入力される。他の実施形態では、参照信号rは、騒音dに応じた振動を検出する振動センサ(図示せず)から制御装置25に入力されても良いし、参照マイクや振動センサ以外の構成要素から制御装置25に入力されても良い。
【0043】
図2を参照して、制御装置25は、機能的な構成要素として、第1制御信号生成部31と、第1音場学習部32と、第2制御信号生成部33と、第2音場学習部34と、音場変化判定部35と、収束判定部36と、更新処理部37と、を有する。第1制御信号生成部31及び第1音場学習部32は、第1スピーカ21及び第1マイク23に対応している。第2制御信号生成部33及び第2音場学習部34は、第2スピーカ22及び第2マイク24に対応している。
【0044】
<第1制御信号生成部31>
制御装置25の第1制御信号生成部31は、第1制御フィルタ部41と、第1補助二次経路フィルタ部42と、第1制御更新部43と、を有する。
【0045】
第1制御フィルタ部41は、制御フィルタW1によって構成されている。制御フィルタW1は、FIRフィルタ(有限インパルス応答フィルタ)によって構成されている。他の実施形態では、制御フィルタW1は、SANフィルタ(単一周波数適応型ノッチフィルタ)等によって構成されていても良い。
【0046】
第1制御フィルタ部41は、制御フィルタW1によって参照信号rに対してフィルタ処理を施すことで、第1スピーカ21を制御するための制御信号u1を生成する。第1制御フィルタ部41は、生成した制御信号u1を第1スピーカ21及び第1音場学習部32に出力する。これに応じて、第1スピーカ21は、第1制御フィルタ部41から出力される制御信号u1に応じた打消音y1を発生させる。
【0047】
第1補助二次経路フィルタ部42は、補助二次経路フィルタC^1pによって構成されている。補助二次経路フィルタC^1pは、二次経路の伝達関数C1の推定値を示すフィルタである。補助二次経路フィルタC^1pは、FIRフィルタによって構成されている。他の実施形態では、補助二次経路フィルタC^1pは、SANフィルタ等によって構成されていても良い。
【0048】
第1補助二次経路フィルタ部42は、補助二次経路フィルタC^1pによって参照信号rに対してフィルタ処理を施すことで、参照信号rを補正する。第1補助二次経路フィルタ部42は、補正した参照信号rを第1制御更新部43に出力する。
【0049】
第1制御更新部43は、LMSアルゴリズム(Least Mean Square Algorithm)等の適応アルゴリズムを用いて、制御フィルタW1を適応的に更新する。より詳細には、第1制御更新部43は、第1マイク23から出力される誤差信号e1が最小になるように、制御フィルタW1を適応的に更新する。
【0050】
<第1音場学習部32>
制御装置25の第1音場学習部32は、第1打消音推定信号生成部51と、第1二次経路更新部52と、第1騒音推定信号生成部53と、第1一次経路更新部54と、第1打消音推定信号反転部55と、第1騒音推定信号反転部56と、第1仮想誤差信号生成部57と、を有する。
【0051】
第1打消音推定信号生成部51は、二次経路フィルタC^1によって構成されている。二次経路フィルタC^1は、補助二次経路フィルタC^1pと同様に、二次経路の伝達関数C1の推定値を示すフィルタである。二次経路フィルタC^1は、例えば、FIRフィルタによって構成されている。他の実施形態では、二次経路フィルタC^1は、SANフィルタ等によって構成されていても良い。
【0052】
第1打消音推定信号生成部51は、二次経路フィルタC^1によって制御信号u1に対してフィルタ処理を施すことで、打消音y1の推定値を示す打消音推定信号y^1を生成する。第1打消音推定信号生成部51は、生成した打消音推定信号y^1を第1打消音推定信号反転部55に出力する。
【0053】
第1二次経路更新部52は、LMSアルゴリズム等の適応アルゴリズムを用いて、二次経路フィルタC^1を適応的に更新する。より詳細には、第1二次経路更新部52は、第1仮想誤差信号生成部57から出力される仮想誤差信号ev1(詳細は後述)が最小になるように、二次経路フィルタC^1を適応的に更新する。
【0054】
第1騒音推定信号生成部53は、一次経路フィルタH^1によって構成されている。一次経路フィルタH^1は、一次経路の伝達関数H1の推定値を示すフィルタである。一次経路フィルタH^1は、例えば、FIRフィルタによって構成されている。他の実施形態では、一次経路フィルタH^1は、SANフィルタ等によって構成されていても良い。
【0055】
第1騒音推定信号生成部53は、一次経路フィルタH^1によって参照信号rに対してフィルタ処理を施すことで、騒音d1の推定値を示す騒音推定信号d^1を生成する。第1騒音推定信号生成部53は、生成した騒音推定信号d^1を第1騒音推定信号反転部56に出力する。
【0056】
第1一次経路更新部54は、LMSアルゴリズム等の適応アルゴリズムを用いて、一次経路フィルタH^1を適応的に更新する。より詳細には、第1一次経路更新部54は、第1仮想誤差信号生成部57から出力される仮想誤差信号ev1(詳細は後述)が最小になるように、一次経路フィルタH^1を適応的に更新する。
【0057】
第1打消音推定信号反転部55は、第1打消音推定信号生成部51から出力される打消音推定信号y^1の極性を反転させる。第1打消音推定信号反転部55は、極性を反転させた打消音推定信号y^1を第1仮想誤差信号生成部57に出力する。
【0058】
第1騒音推定信号反転部56は、第1騒音推定信号生成部53から出力される騒音推定信号d^1の極性を反転させる。第1騒音推定信号反転部56は、極性を反転させた騒音推定信号d^1を第1仮想誤差信号生成部57に出力する。
【0059】
第1仮想誤差信号生成部57は、第1マイク23から出力される誤差信号e1と、第1打消音推定信号反転部55を通過した打消音推定信号y^1と、第1騒音推定信号反転部56を通過した騒音推定信号d^1と、を足し合わせることで、仮想誤差信号ev1を生成する。第1仮想誤差信号生成部57は、生成した仮想誤差信号ev1を第1二次経路更新部52及び第1一次経路更新部54に出力する。
【0060】
<第2制御信号生成部33>
制御装置25の第2制御信号生成部33は、第1制御信号生成部31とは別個に設けられている。第2制御信号生成部33は、第2制御フィルタ部61と、第2補助二次経路フィルタ部62と、第2制御更新部63と、を有する。
【0061】
第2制御フィルタ部61は、制御フィルタW2(第2の制御フィルタの一例)によって参照信号rに対してフィルタ処理を施すことで、第2スピーカ22を制御するための制御信号u2(第2の制御信号の一例)を生成する。第2補助二次経路フィルタ部62は、二次経路の伝達関数C2の推定値を示す補助二次経路フィルタC^2pによって構成されている。第2補助二次経路フィルタ部62は、補助二次経路フィルタC^2pによって参照信号rを補正し、補正した参照信号rを第2制御更新部63に出力する。第2制御更新部63は、第2マイク24から出力される誤差信号e2が最小になるように、制御フィルタW2を適応的に更新する。
【0062】
<第2音場学習部34>
制御装置25の第2音場学習部34は、第1音場学習部32とは別個に設けられている。第2音場学習部34は、第2打消音推定信号生成部71と、第2二次経路更新部72と、第2騒音推定信号生成部73と、第2一次経路更新部74と、第2打消音推定信号反転部75と、第2騒音推定信号反転部76と、第2仮想誤差信号生成部77と、を有する。
【0063】
第2打消音推定信号生成部71は、二次経路の伝達関数C2の推定値を示す二次経路フィルタC^2(第2の二次経路フィルタの一例)によって構成されている。第2打消音推定信号生成部71は、二次経路フィルタC^2によって制御信号u2に対してフィルタ処理を施すことで、打消音y2の推定値を示す打消音推定信号y^2を生成する。第2二次経路更新部72は、仮想誤差信号ev2(詳細は後述)が最小になるように、二次経路フィルタC^2を適応的に更新する。
【0064】
第2騒音推定信号生成部73は、一次経路の伝達関数H2の推定値を示す一次経路フィルタH^2によって構成されている。第2騒音推定信号生成部73は、一次経路フィルタH^2によって参照信号rに対してフィルタ処理を施すことで、騒音d2の推定値を示す騒音推定信号d^2を生成する。第2一次経路更新部74は、仮想誤差信号ev2(詳細は後述)が最小になるように、一次経路フィルタH^2を適応的に更新する。
【0065】
第2打消音推定信号反転部75は、打消音推定信号y^2の極性を反転させる。第2騒音推定信号反転部76は、騒音推定信号d^2の極性を反転させる。第2仮想誤差信号生成部77は、第2マイク24から出力される誤差信号e2と、第2打消音推定信号反転部75を通過した打消音推定信号y^2と、第2騒音推定信号反転部76を通過した騒音推定信号d^2と、を足し合わせることで、仮想誤差信号ev2を生成する。
【0066】
<音場変化判定部35>
制御装置25の音場変化判定部35は、誤差信号e1及び誤差信号e2に基づいて、二次経路の伝達関数C1が変化したか否かを判定する。なお、音場変化判定部35による判定の方法については、後述する。
【0067】
<収束判定部36>
制御装置25の収束判定部36は、二次経路フィルタC^1に基づいて、二次経路フィルタC^1の適応的な更新に伴う変動が収束したか否かを判定する。なお、収束判定部36による判定の方法については、後述する。
【0068】
<更新処理部37>
制御装置25の更新処理部37は、音場変化判定部35及び収束判定部36の判定結果に基づいて、フィルタの適応的な更新の順序及びタイミングを決定する。なお、更新処理部37による決定の方法については、後述する。
【0069】
<音場変化判定処理>
次に、音場変化判定部35による音場変化判定処理について説明する。音場変化判定処理は、二次経路の伝達関数C1が変化したか否かを判定するための処理である。
【0070】
図3を参照して、音場変化判定処理が開始されると、音場変化判定部35は、第1マイク23から誤差信号e1を取得すると共に、第2マイク24から誤差信号e2を取得する(ステップST1)。
【0071】
次に、音場変化判定部35は、誤差信号e1の信号レベルL1と誤差信号e2の信号レベルL2とを算出する(ステップST2)。例えば、音場変化判定部35は、一定時間内の誤差信号e1の二乗和を誤差信号e1の信号レベルL1としても良いし、一定時間内の誤差信号e1の絶対値の和を誤差信号e1の信号レベルL1としても良い。誤差信号e2の信号レベルL2についても同様である。
【0072】
次に、音場変化判定部35は、誤差信号e1の信号レベルL1と誤差信号e2の信号レベルL2の差の絶対値が第1基準値R1以上であるか否かを判定する(ステップST3)。誤差信号e1の信号レベルL1と誤差信号e2の信号レベルL2の差の絶対値が第1基準値R1未満である場合(ステップST3:No)、音場変化判定部35は、二次経路の伝達関数C1が変化していないと判定する(ステップST4)。
【0073】
誤差信号e1の信号レベルL1と誤差信号e2の信号レベルL2の差の絶対値が第1基準値R1以上である場合(ステップST3:Yes)、音場変化判定部35は、誤差信号e1の信号レベルL1の時間変化量ΔL1(例えば、誤差信号e1の信号レベルL1の今回値と誤差信号e1の信号レベルL1の前回値の差)が第2基準値R2以上であるか否かを判定する(ステップST5)。誤差信号e1の信号レベルL1の時間変化量ΔL1が第2基準値R2未満である場合(ステップST5:No)、音場変化判定部35は、二次経路の伝達関数C1が変化していないと判定する(ステップST4)。
【0074】
誤差信号e1の信号レベルL1の時間変化量ΔL1が第2基準値R2以上である場合(ステップST5:Yes)、音場変化判定部35は、誤差信号e1の信号レベルL1が第3基準値R3以上であるか否かを判定する(ステップST6)。誤差信号e1の信号レベルL1が第3基準値R3未満である場合(ステップST6:No)、音場変化判定部35は、二次経路の伝達関数C1が変化していないと判定する(ステップST4)。誤差信号e1の信号レベルL1が第3基準値R3以上である場合(ステップST6:Yes)、音場変化判定部35は、二次経路の伝達関数C1が変化したと判定する(ステップST7)。
【0075】
図1に二点鎖線で示されるように、第1乗員シート5のリクライニング部8が倒されると、第1乗員シート5のリクライニング部8に設けられた第1マイク23の位置が変化する。これに応じて、二次経路の伝達関数C1が変化し、二次経路の伝達関数C1と二次経路フィルタC^1との差分が一時的に大きくなる。そのため、騒音低減装置1による制御効果が一時的に低下し、誤差信号e1の信号レベルL1が増加する。
【0076】
図4を参照して、例えば、時刻t1において第1乗員シート5のリクライニング部8が倒されると、誤差信号e1の信号レベルL1が誤差信号e2の信号レベルL2に対して大きく増加する。これに伴って、上記のステップST3、ステップST5、ステップST6の判定がすべてYesになる。そのため、音場変化判定部35は、二次経路の伝達関数C1が変化したと判定することができる。
【0077】
なお、音場変化判定部35は、上述の音場変化判定処理と同様の処理によって、誤差信号e1及び誤差信号e2に基づいて、二次経路の伝達関数C2が変化したか否かを判定することができる。例えば、音場変化判定部35は、誤差信号e1の信号レベルL1と誤差信号e2の信号レベルL2の差の絶対値が第1基準値R1以上であり、且つ、誤差信号e2の信号レベルL2の時間変化量ΔL2が第2基準値R2以上であり、且つ、誤差信号e2の信号レベルL2が第3基準値R3以上である場合に、二次経路の伝達関数C2が変化したと判定する。音場変化判定部35は、それ以外の場合には、二次経路の伝達関数C2が変化していないと判定する。
【0078】
<収束判定処理>
次に、収束判定部36による収束判定処理について説明する。収束判定処理は、二次経路フィルタC^1の適応的な更新に伴う変動(以下、「二次経路フィルタC^1の変動」と略称する)が収束したか否かを判定するための処理である。
【0079】
図5図6を参照して、収束判定処理が開始されると、収束判定部36は、二次経路フィルタC^1の振幅A及び位相Pを取得する(ステップST11)。例えば、収束判定部36は、二次経路フィルタC^1のインパルス応答の振幅の最大値を二次経路フィルタC^1の振幅Aとして取得する。また、収束判定部36は、二次経路フィルタC^1のインパルス応答の振幅の最大値に対応する遅延サンプル番号Sdを二次経路フィルタC^1の位相Pとして取得する。なお、遅延サンプル番号Sdにサンプリング時間Tsを乗じることによって、遅延時間ΔT(第1スピーカ21が打消音y1を出力した時刻Tから二次経路フィルタC^1のインパルス応答の振幅が最大値になる時刻Tmaxまでの時間)が算出される。つまり、収束判定部36は、遅延時間ΔTと対応する遅延サンプル番号Sdを、二次経路フィルタC^1の位相Pとして利用する。
【0080】
次に、収束判定部36は、二次経路フィルタC^1の振幅Aの変化量ΔA(例えば、二次経路フィルタC^1の振幅Aの今回値と二次経路フィルタC^1の振幅Aの前回値の差)を算出する。更に、収束判定部36は、二次経路フィルタC^1の位相Pの変化量ΔP(例えば、二次経路フィルタC^1の位相Pの今回値と二次経路フィルタC^1の位相Pの前回値の差)を算出する(ステップST12)。
【0081】
次に、収束判定部36は、二次経路フィルタC^1の振幅Aの変化量ΔAが振幅閾値AT未満であるか否かを判定する(ステップST13)。二次経路フィルタC^1の振幅Aの変化量ΔAが振幅閾値AT以上である場合(ステップST13:No)、収束判定部36は、二次経路フィルタC^1の変動が収束していないと判定する(ステップST14)。
【0082】
二次経路フィルタC^1の振幅Aの変化量ΔAが振幅閾値AT未満である場合(ステップST13:Yes)、収束判定部36は、二次経路フィルタC^1の位相Pの変化量ΔPが位相閾値PT未満であるか否かを判定する(ステップST15)。二次経路フィルタC^1の位相Pの変化量ΔPが位相閾値PT以上である場合(ステップST15:No)、収束判定部36は、二次経路フィルタC^1の変動が収束していないと判定する(ステップST14)。二次経路フィルタC^1の位相Pの変化量ΔPが位相閾値PT未満である場合(ステップST15:Yes)、収束判定部36は、二次経路フィルタC^1の変動が収束したと判定する(ステップST16)。
【0083】
以上のように、収束判定部36は、二次経路フィルタC^1の振幅Aの変化量ΔAと位相Pの変化量ΔPの両方に基づいて収束判定処理を実行する。これにより、二次経路フィルタC^1の振幅Aの変化量ΔAと位相Pの変化量ΔPの一方のみに基づいて収束判定処理を実行する場合と比較して、二次経路フィルタC^1の変動が収束したか否かを正確に判定することができる。
【0084】
<更新処理>
次に、制御装置25による更新処理について説明する。更新処理は、制御フィルタW1、二次経路フィルタC^1、一次経路フィルタH^1、及び補助二次経路フィルタC^1pを更新するための処理である。
【0085】
図7を参照して、更新処理が開始されると、音場変化判定部35は、上述の音場変化判定処理を実行する。即ち、音場変化判定部35は、誤差信号e1及び誤差信号e2に基づいて、二次経路の伝達関数C1が変化したか否かを判定する(ステップST21)。
【0086】
二次経路の伝達関数C1が変化した場合(ステップST21:Yes)、更新処理部37は、二次経路フィルタC^1の状態を更新必要状態に設定し(ステップST22)、ステップST23に移行する。二次経路の伝達関数C1が変化していない場合(ステップST21:No)、更新処理部37は、ステップST22の処理を実行することなく、ステップST23に移行する。
【0087】
次に、更新処理部37は、更新処理の実行回数Cnt(初期値=0)をCnt+1に更新し(ステップST23)、実行回数Cntが奇数であるか否かを判定する(ステップST24)。
【0088】
実行回数Cntが偶数である場合(ステップST24:No)、第1制御更新部43は、制御フィルタW1を適応的に更新する(ステップST25)。次に、第1制御フィルタ部41は、適応的に更新された制御フィルタW1によって制御信号u1を生成し、生成した制御信号u1を第1スピーカ21に出力する。これに応じて、第1スピーカ21が打消音y1を出力する(ステップST26)。
【0089】
実行回数Cntが奇数である場合(ステップST24:Yes)、更新処理部37は、二次経路フィルタC^1の状態が更新必要状態に設定されているか否かを判定する(ステップST27)。二次経路フィルタC^1の状態が更新必要状態に設定されていない場合(ステップST27:No)、実行回数Cntが偶数である場合(ステップST24:No)と同様に、ステップST25、ステップST26の処理が実行される。
【0090】
二次経路フィルタC^1の状態が更新必要状態に設定されている場合(ステップST27:Yes)、第1二次経路更新部52は、二次経路フィルタC^1を適応的に更新し、第1一次経路更新部54は、一次経路フィルタH^1を適応的に更新する(ステップST28)。
【0091】
次に、収束判定部36は、上述の収束判定処理を実行することで、二次経路フィルタC^1の変動が収束したか否かを判定する(ステップST29)。
【0092】
二次経路フィルタC^1の変動が収束した場合(ステップST29:Yes)、更新処理部37は、二次経路フィルタC^1の値を補助二次経路フィルタC^1pにコピーすることで、二次経路フィルタC^1の値によって補助二次経路フィルタC^1pを更新する(ステップST30)。
【0093】
次に、第1制御フィルタ部41は、一時的に固定された制御フィルタW1(前回の更新処理で適応的に更新された制御フィルタW1)によって制御信号u1を生成し、生成した制御信号u1を第1スピーカ21に出力する。これに応じて、第1スピーカ21が打消音y1を出力する(ステップST31)。
【0094】
二次経路フィルタC^1の変動が収束していない場合(ステップST29:No)、更新処理部37は、二次経路フィルタC^1の値によって補助二次経路フィルタC^1pを更新することなく、実行回数CntをCnt+1に更新する(ステップST32)。次に、上述のステップST31が実行されることで、第1制御フィルタ部41が制御信号u1を第1スピーカ21に出力し、第1スピーカ21が打消音y1を出力する。
【0095】
ステップST26とステップST31のどちらかが終了すると、更新処理が終了し、所定時間後に次回の更新処理(新たな更新処理)が実行される。但し、実行回数Cntの値は、更新処理が終了してもそのまま保持され、次回の更新処理に用いられる。
【0096】
なお、今回の更新処理において二次経路フィルタC^1の変動が収束していない場合(ステップST29:No)、次回の更新処理において更新処理部37が二次経路フィルタC^1の状態を更新必要状態に設定することになる(ステップST22)。また、今回の更新処理において二次経路フィルタC^1の変動が収束していない場合(ステップST29:No)、今回の更新処理のステップST32と次回の更新処理のステップST23において実行回数Cntが2回更新されることで、次回の更新処理のステップST24がYesになる。その結果、次回の更新処理において、今回の更新処理と同様に、二次経路フィルタC^1が適応的に更新され(ステップST28)、二次経路フィルタC^1の変動が収束したか否かが判定される(ステップST29)。このように、本実施形態では、二次経路フィルタC^1の変動が収束するまで、制御フィルタW1が適応的に更新されることなく、二次経路フィルタC^1の適応的な更新と、二次経路フィルタC^1の変動が収束したか否かの判定と、が繰り返される。
【0097】
制御装置25は、上記の更新処理を所定時間ごとに繰り返し実行する。更新処理において、制御装置25は、二次経路フィルタC^1の変動が収束したか否かを判定する(ステップST29)。二次経路フィルタC^1の変動が収束した場合(ステップST29:Yes)、制御装置25は、二次経路フィルタC^1の適応的な更新を停止する。次の更新処理において、制御装置25は、二次経路フィルタC^1の適応的な更新が停止している状態で、誤差信号e1及び誤差信号e2に基づいて二次経路の伝達関数C1が変化したか否かを判定する(ステップST21)。二次経路の伝達関数C1が変化した場合(ステップST21:Yes)、制御装置25は、二次経路フィルタC^1の適応的な更新を再開する(ステップST22、ステップST27、ステップST28)。
【0098】
<効果>
制御装置25は、外部情報(例えば、第1乗員シート5の位置に関する情報)に基づいて二次経路の伝達関数C1が変化したか否かを判定することも考えられる。しかし、このような判定方法を採用すると、外部情報を受信できない場合に、二次経路の伝達関数C1が変化したか否かを判定することができなくなる。二次経路の伝達関数C1が変化したか否かを判定することができない場合、制御装置25は、二次経路の伝達関数C1が変化したか否かに関わらず、常に二次経路フィルタC^1を適応的に更新することも考えられる。しかし、このような更新方法を採用すると、制御装置25の計算負荷が大きくなる。そのため、このような大きな計算負荷に耐えうる高価なプロセッサによって制御装置25を構成することが必要となり、騒音低減装置1の製造コストの上昇につながる恐れがある。
【0099】
そこで、制御装置25は、誤差信号e1及び誤差信号e2に基づいて、二次経路の伝達関数C1が変化したか否かを判定している。これにより、外部情報を受信できない場合であっても、二次経路の伝達関数C1が変化したか否かを判定することができる。また、二次経路の伝達関数C1が変化したか否かを判定することで、二次経路の伝達関数C1が変化した場合にのみ二次経路フィルタC^1を適応的に更新することができる。そのため、二次経路フィルタC^1を常に適応的に更新する場合と比較して、制御装置25の計算負荷を低減することができる。
【0100】
制御装置25は、誤差信号e1のみに基づいて(例えば、誤差信号e1の大きさのみに基づいて)、二次経路の伝達関数C1が変化したか否かを判定することも考えられる。しかし、このような判定方法を採用すると、二次経路の伝達関数C2が変化した場合に、二次経路の伝達関数C1が変化したと誤判定する恐れがある。
【0101】
そこで、制御装置25は、誤差信号e1及び誤差信号e2に基づいて、二次経路の伝達関数C1が変化したか否かを判定している。これにより、二次経路の伝達関数C2ではなく、二次経路の伝達関数C1が変化したことを正確に判定することができる。
【0102】
<変形例>
上記実施形態では、収束判定部36は、二次経路フィルタC^1の振幅Aの変化量ΔAと位相Pの変化量ΔPの両方に基づいて、収束判定処理を実行している。他の実施形態では、収束判定部36は、二次経路フィルタC^1の振幅Aの変化量ΔAと位相Pの変化量ΔPのいずれか一方のみに基づいて、収束判定処理を実行しても良い。
【0103】
上記実施形態では、収束判定部36は、二次経路フィルタC^1のインパルス応答の振幅の最大値を二次経路フィルタC^1の振幅Aとして取得している(ステップST11)。他の実施形態では、収束判定部36は、下記(1)式によって二次経路フィルタC^1の振幅Aを算出しても良い。但し、下記(1)式のLは、二次経路フィルタC^1の係数の総数を示し、下記(1)式のnは、二次経路フィルタC^1の係数の番号を示している。
【数1】
上記(1)式を用いることで、二次経路フィルタC^1の振幅Aをより正確に算出することができる。
【0104】
上記実施形態では、収束判定部36は、二次経路フィルタC^1の振幅Aの変化量ΔAが振幅閾値AT未満であるか否かを判定している(ステップST13)。他の実施形態では、収束判定部36は、二次経路フィルタC^1の振幅Aの変化量ΔAが振幅閾値AT未満である状態が所定時間連続したか否かを判定しても良い。または、収束判定部36は、二次経路フィルタC^1の振幅Aの前回値に対する二次経路フィルタC^1の振幅Aの今回値の比率が所定値以下になったか否かを判定しても良い。二次経路フィルタC^1の位相Pの変化量ΔPの判定についても同様である。
【0105】
上記実施形態では、更新処理部37は、二次経路フィルタC^1の適応的な更新に合わせて、二次経路フィルタC^1の値を補助二次経路フィルタC^1pにコピーしている(ステップST28~ST30)。他の実施形態では、更新処理部37は、二次経路フィルタC^1の適応的な更新とは異なるタイミング(例えば、制御フィルタW1の適応的な更新のタイミング)で、二次経路フィルタC^1の値を補助二次経路フィルタC^1pにコピーしても良い。
【0106】
図7を参照して、上記第1実施形態では、二次経路フィルタC^1の変動が収束していない場合(ステップST29:No)、更新処理部37が実行回数CntをCnt+1に更新した後に、第1スピーカ21が打消音y1を出力している(ステップST31、ST32)。図8を参照して、他の実施形態では、二次経路フィルタC^1の変動が収束していない場合(ステップST29:No)、更新処理部37が実行回数CntをCnt+1に更新せずに、第1スピーカ21が打消音y1を出力しても良い(ステップST31)。つまり、他の実施形態では、ステップST32の処理が省略されても良い。これにより、次回の更新処理において、ステップST24がNoになり、制御フィルタW1が適応的に更新されることになる(ステップST25)。そのため、二次経路の伝達関数C1が変化した場合に、制御フィルタW1の適応的な更新(ステップST25)と二次経路フィルタC^1の適応的な更新(ステップST28)が交互に実行されることになる。
【0107】
上記実施形態では、判定用信号を生成するための基準マイクとして、第2マイク24が使用されている。他の実施形態では、判定用信号を生成するための専用の基準マイクが設けられていても良い。この場合、基準マイクは、打消音y1及び騒音dのみに基づいて判定用信号を生成しても良い。つまり、基準マイクは、少なくとも騒音dに基づいて判定用信号を生成すれば良い。
【0108】
上記実施形態では、制御装置25は、制御フィルタW1、二次経路フィルタC^1、及び一次経路フィルタH^1を適応的に更新するために、更新処理を実行している。他の実施形態では、制御装置25は、制御フィルタW2、二次経路フィルタC^2、及び一次経路フィルタH^2を適応的に更新するために、更新処理を実行しても良い。この場合、第2マイク24が誤差マイクとして用いられ、第1マイク23が基準マイクとして用いられると良い。
【0109】
上記実施形態では、騒音低減装置1を車両3の車室4に適用している。他の実施形態では、騒音低減装置1を車両3以外の移動体(例えば、船舶や航空機)の内部空間に適用しても良いし、騒音低減装置1を固定物(例えば、家屋)の内部空間に適用しても良い。
【0110】
以上で具体的な実施形態の説明を終えるが、本発明は上記実施形態や変形例に限定されることなく、幅広く変形実施することができる。
【符号の説明】
【0111】
1 :能動型騒音低減装置
21 :第1スピーカ(打消音出力装置の一例)
22 :第2スピーカ(第2の打消音出力装置の一例)
23 :第1マイク(誤差マイクの一例)
24 :第2マイク(基準マイクの一例)
25 :制御装置
C^1 :二次経路フィルタ
C^2 :二次経路フィルタ(第2の二次経路フィルタの一例)
W1 :制御フィルタ
W2 :制御フィルタ(第2の制御フィルタの一例)
e1 :誤差信号
e2 :誤差信号(判定用信号の一例)
u1 :制御信号
u2 :制御信号(第2の制御信号の一例)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8