(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025002545
(43)【公開日】2025-01-09
(54)【発明の名称】リチウム化学品の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01D 15/08 20060101AFI20241226BHJP
C22B 26/12 20060101ALI20241226BHJP
C22B 3/22 20060101ALI20241226BHJP
C22B 7/00 20060101ALI20241226BHJP
C22B 3/24 20060101ALI20241226BHJP
C22B 3/44 20060101ALI20241226BHJP
【FI】
C01D15/08
C22B26/12
C22B3/22
C22B7/00 Z
C22B3/24
C22B3/44 101A
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023102787
(22)【出願日】2023-06-22
(71)【出願人】
【識別番号】522411717
【氏名又は名称】株式会社双日イノベーション・テクノロジー研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】吉塚 和治
【テーマコード(参考)】
4K001
【Fターム(参考)】
4K001AA34
4K001BA24
4K001CA01
4K001DB03
4K001DB16
4K001DB23
(57)【要約】
【課題】固体廃棄物からのリチウムの回収において、コストの低減が可能な新たな技術を提供する。
【解決手段】本発明では、ほう素を含む鉱石からほう素化学品を製造したときに生じる固体廃棄物からリチウム化学品を製造する。この製造方法において、25~35質量%の濃度の硫酸を固体廃棄物に常温で混合して、固体廃棄物中のリチウムをリチウムイオンとして固体廃棄物の液媒に抽出する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ほう素を含む鉱石からほう素化学品を製造したときに生じる固体廃棄物からリチウム化学品を製造する方法であって、
前記固体廃棄物に対して25質量%以上35質量%以下の硫酸を前記固体廃棄物に常温で混合して、前記固体廃棄物中のリチウムを液媒に抽出する工程を含む、リチウム化学品の製造方法。
【請求項2】
前記固体廃棄物に対して26質量%より多く34質量%以下の硫酸を用いる、請求項1に記載のリチウム化学品の製造方法。
【請求項3】
前記固体廃棄物に対して28質量%以上33質量%以下の硫酸を用いる、請求項1に記載のリチウム化学品の製造方法。
【請求項4】
前記硫酸を混合する前に、前記固体廃棄物を水で湿潤させる工程をさらに含む、請求項1に記載のリチウム化学品の製造方法。
【請求項5】
前記リチウム抽出後、固液分離により固形物を除去する工程と、
前記固形物を除去した後の前記液媒を吸着剤に接触させて前記液媒中の前記リチウムを前記吸着剤に吸着させる工程と、をさらに含む、請求項1に記載のリチウム化学品の製造方法。
【請求項6】
前記リチウムを吸着した前記吸着剤に酸を接触させて前記吸着剤から前記リチウムを溶離させる工程と、
得られた溶離液にアルカリ剤を添加して前記溶離液をアルカリ性にする工程と、
得られたアルカリ性の前記溶離液中に析出した不溶物を除去する工程と、
前記不溶物を除去した前記溶離液のpHをpH5~8にする中和工程と、中和した溶離液を濃縮する工程と、をさらに含む、請求項5に記載のリチウム化学品の製造方法。
【請求項7】
ほう素を含む鉱石からほう素化学品を製造したときに生じる固体廃棄物からリチウム化学品を製造する方法であって、
塊状の前記固体廃棄物を粉砕する工程と、
粉砕した前記固体廃棄物に水を混合して前記固体廃棄物を水で湿潤させる工程と、
固体廃棄物に対して25質量%以上35質量%以下の硫酸を前記固体廃棄物に常温で混合して、前記固体廃棄物中のリチウムをリチウムイオンとして液媒に抽出する工程と、
液媒と固体廃棄物の混合物から固形物を除去する工程と、
前記固形物を除去した後の前記液媒を吸着剤に接触させて前記液媒中の前記リチウムイオンを前記吸着剤に吸着させる工程と、
前記リチウムイオンを吸着した前記吸着剤に酸を接触させて前記吸着剤から前記リチウムイオンを溶離させる工程と、
得られた溶離液にアルカリを添加して前記溶離液をpH6以上にする工程と、
前記pH6以上の溶離液を濃縮する工程と、
得られた濃縮液に炭酸化合物を添加して炭酸リチウムを析出させる工程と、
析出した炭酸リチウムの粒子を前記濃縮液から分離してから飽和炭酸リチウム水溶液で洗浄する工程と、
洗浄された炭酸リチウムの粒子を乾燥する工程と、をこの順で含む、リチウム化学品の製造方法。
【請求項8】
前記固体廃棄物に対して26質量%より多く34質量%以下の硫酸を用いる、請求項7に記載のリチウム化学品の製造方法。
【請求項9】
前記固体廃棄物に対して28質量%以上33質量%以下の硫酸を用いる、請求項7に記載のリチウム化学品の製造方法。
【請求項10】
前記吸着剤に、ペレット状に成型されている酸化マンガン系イオン吸着剤を用いる、請求項5または7に記載のリチウム化学品の製造方法。
【請求項11】
前記固体廃棄物は、原子番号12以上の元素の中では、質量基準でカルシウムを最も多く含有している、請求項1または7に記載のリチウム化学品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム化学品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウムイオン電池は電気自動車に多量に搭載されるため、リチウム化学品の需要が著しく増大しており、将来、リチウム資源が枯渇する可能性が指摘されている。さらにリチウム埋蔵国、リチウム化学品の製造国が限られており、リチウム供給に関する地政学的リスクも先進諸国の懸念材料となっている。そのため、リチウムをこれらの国に頼らないで入手することが世界中の国で課題となっており、多くの研究者がこの課題に取り組んでいる。
【0003】
さて、ホウ砂などのほう素化学品は、ほう素を含有する鉱石から製造されている。この時、塊状または泥状の廃棄物(以下、「固体廃棄物」(wastes)と言う)が排出される。当該固体廃棄物は、少量のリチウムを含有する場合がある。固体廃棄物中のリチウムの含有量は、リチウム鉱石よりかなり少ないが、固体廃棄物の排出量が多ければ、リチウムの資源として十分に期待できる。たとえば、トルコではほう素鉱石からほう素化学品の製造が盛んであり、長年にわたって年間百万トン以上の大量の固体廃棄物が蓄積している。そのため、固体廃棄物からリチウム化学品を製造する技術が検討されている。通常、固体廃棄物中のリチウムは水に不溶な化合物として存在するため、その化合物を水溶性の化合物に転換し、水で抽出する技術が広く知られている。
【0004】
例えば、フッ素とリチウムとを含有する固体廃棄物に硫酸水溶液を混合してリチウムイオンを抽出し、その抽出液にカルシウム含有アルカリ剤を添加して当該抽出液からフッ素と硫酸イオンを沈殿除去し、リチウム精製液を得る技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
また、当該技術として、リチウムを含有する鉱石(クレイ)または固体廃棄物に塩酸、硫酸、硝酸、他の酸、またはそれらの組み合わせた酸、を用いて、リチウム含有抽出液を得る技術が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0006】
また、当該技術として、非特許文献1には、トルコのキルカ鉱床から採取した鉱石(クレイ)を、当該鉱石1gに対して0.25M-HCL水溶液200mLで酸処理し、当該鉱石からリチウムを抽出する技術が知られている(例えば、非特許文献1参照)
【0007】
また、当該技術として、トルコのキルカ鉱床から採取した鉱石(クレイ)を材料とするほう素化学品の製造によって生成した固体廃棄物(wastes)を650~800℃で焙焼し、焙焼した固体廃棄物に、次いで硫酸/固体廃棄物の重量比で0.18~0.26の量の硫酸を加えてリチウムを抽出する技術が知られている(例えば、非特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2022/085635号
【特許文献2】特表2021-514030号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Won-Jong Leeら、J.Miner.Soc.Korea,29(4),167-177 (2016)
【非特許文献2】Abdullah Obutら、Physicochem.Probl.Miner.Process.,58(4),149635(2022)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
我々もホウ素化学品製造のおりの固体廃棄物を入手し、これからリチウム化学品を製造するために、上記の文献を参考にリチウム抽出の追試を行った(実施例・比較例で説明)。
【0011】
たとえば、前述の特許文献1の発明は、フッ素を多く含む廃リチウム電池由来の廃棄物を原料とすることから非水溶性のフッ化リチウムの発生によりリチウムの回収が阻害される、という課題を解決する発明である。しかし我々の入手した固体廃棄物はフッ素を全く含まないため、特許文献1を適用することは想到しない。
【0012】
また、前述の特許文献2には、イオン交換樹脂を用いてリチウムイオン含有溶液からリチウムイオンを濃縮する発明が開示されている。特許文献2の段落0308には、酸を用いて廃棄物からリチウムを抽出することの示唆があるが、酸の種類とその使用量、あるいは具体的プロセスが示されていない。固体廃棄物中のリチウムの含有量は通常少ないことから、酸の種類および使用量によってはリチウムの抽出効率または酸の廃棄処理コストがリチウム化学品価格に大きく影響する。そのため、特許文献2の発明は、固体廃棄物をリチウム化学品の原料とし、酸の種類と使用量とを特定する動機づけにはなり得ない。
【0013】
また、前述の非特許文献1の発明では、原料の鉱石におけるリチウムの含有量が、我々が入手した固体廃棄物の約3倍(約0.18%)なので、非特許文献1に記載されているように多量の酸を用いると、回収したリチウムの単位重量当たりの回収コストが高くなる。そのため、非特許文献1の発明は、商業の観点から参考にしがたい。また、原料の鉱石の組成は、本実施形態における固体廃棄物とは大きく相違する。したがって、非特許文献1の発明も、固体廃棄物をリチウム化学品の原料とし、酸の種類と使用量とを特定する動機づけにはなり得ない。
【0014】
また、前述した非特許文献2の発明では原料に焙焼を施すが、我々の入手した原料では、リチウムの抽出効率が焙焼によって低減した。その理由は定かではないが、非特許文献2の発明における原料の化学組成は本実施形態における固体廃棄物のそれとは異なることから、焙焼がリチウムの抽出において原料に及ぼす影響は、原料の化学組成に応じて異なることが考えられる。
【0015】
このように上述の従来技術には、概してコストの問題があった。すなわち、リチウムの含有量が少ない固体廃棄物からリチウムを抽出するために大量の酸を使用する場合には、回収されたリチウムの単位重量当たりの酸のコストおよびその他の処理コストが高くなる。そのため、利益が著しく圧縮され、場合によっては採算がとれなくなる可能性がある。また、焙焼工程を含む方法では、焙焼のためのコストが更にかかる。さらに、上述の従来技術には、固体廃棄物の組成に特化されている技術が含まれており、固体廃棄物の化学組成によっては所望のリチウムの回収率が期待できないことがある。
【0016】
課題は、我々の入手したほう素化学品製造時に排出された固体廃棄物からリチウムを回収する際、単位重量当たりの回収されたリチウムの回収コストをより低減する抽出技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係るリチウム化学品の製造方法は、ほう素を含む鉱石からほう素化学品を製造したときに生じる固体廃棄物からリチウム化学品を製造する方法であって、常温で固体廃棄物に対して25質量%以上35質量%以下の硫酸を前記固体廃棄物に混合して、前記固体廃棄物中のリチウムをリチウムイオンとして抽出し、これに液媒(水が例示できる)を加えてリチウムを含んだ液媒を得る工程を含む。
【0018】
また、上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係るリチウム化学品の製造方法は、ほう素を含む鉱石からほう素化学品を製造したときに生じる固体廃棄物からリチウム化学品を製造する方法であって、塊状の前記固体廃棄物を粉砕する工程と、粉砕した前記固体廃棄物に水を混合して前記固体廃棄物を水で湿潤させる工程と、固体廃棄物に対して25質量%以上35質量%以下の硫酸を前記固体廃棄物に常温で混合して、前記固体廃棄物中のリチウムをリチウムイオンとして抽出し、これに液媒(水が例示できる)を加えてリチウムを含んだ液媒を得る工程と、前記リチウムイオンを含んだ液媒から固形物を除去する工程と、前記固形物を除去した後の前記液媒を吸着剤に接触させて前記液媒中の前記リチウムイオンを前記吸着剤に吸着させる工程と、前記リチウムイオンを吸着した前記吸着剤に酸を接触させて前記吸着剤から前記リチウムイオンを溶離させる工程と、得られた溶離液にアルカリを添加して前記溶離液をpH6以上にするする工程と、pH6以上に調製した前記溶離液を濃縮する工程と、得られた濃縮液に可溶性炭酸化合物を添加して炭酸リチウムを析出させる工程と、析出した炭酸リチウムの粒子を前記濃縮液から分離して飽和炭酸リチウム水溶液で洗浄する工程と、洗浄された炭酸リチウムの粒子を乾燥する工程と、をこの順で含む。
【発明の効果】
【0019】
本発明の一態様によれば、固体廃棄物からのリチウムの回収において、回収されたリチウムの単位重量当たりの回収コストをより低減できる新たな技術を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の実施形態に係るリチウム化学品の製造方法における一態様の工程の流れを示すフローチャートである。
【
図2】本発明の実施例で用いた固体廃棄物のX線回折スペクトルを示す図である。
【
図3】実施例で用いた固体廃棄物の粉砕物に添加する硫酸の質量比とリチウム抽出量との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本明細書において、「~」は、特別な説明がない限り、その両端の数値を含有する「以上以下」の範囲を意味する。また、濃度の単位は、特別な説明がない限り、質量基準の単位を意味する。
【0022】
本発明の実施形態に係るリチウム化学品の製造方法は、ほう素を含む鉱石からほう素化学品を製造したときに生じる固体廃棄物からリチウム化学品を製造する方法である。本発明の一実施形態として、産業廃棄物(固体)から、リチウムイオン電池製造で使用できる純度のリチウム化学品を製造する技術を説明する。この技術は主に、(1)当該廃棄物中に含まれるリチウムを溶液へ抽出する技術、(2)当該溶液中のリチウムイオン以外の不純物イオンを沈殿させる技術、(3)リチウムイオンを含む溶液をリチウム選択性の高い無機イオン交換体によって吸脱着させる技術、(4)脱着後のリチウムイオン溶液から精製された炭酸リチウムを得る技術、から成る。なお、ほう素化学品とは、ほう素を主成分とする組成物であり、その例には、ほう素およびほう素を含む化合物が含まれ、より具体的には、例えば前述したようにほう砂である。
【0023】
〔リチウム化学品〕
リチウム化学品とは、リチウムを主成分とする組成物であり、その例には、リチウム、および、リチウムを含む化合物、が含まれ、より具体的には、炭酸リチウムまたは水酸化リチウムである。
【0024】
〔固体廃棄物〕
固体廃棄物(waste)とは、ほう素を含有する鉱物からほう素化学品を製造した時に、残留物として排出される固体状あるいは泥状の廃棄物である。当該鉱物の例には、プロベルタイト、コレマナイト、マイヤーホフェリット、インヨイド、パンダーマイトおよびダトライが含まれる。
【0025】
固体廃棄物の例には、後述の実施例で示されているような、トルコのキルカ(Kirka)にあるほう素化学品製造工場で生成する固体廃棄物(waste)が含まれる。固体廃棄物中にはリチウムは広範囲に分布している。固体廃棄物におけるリチウムの含有量は、およそ数十ppm~数千ppm(metal-Li-mg/waste-kg)である。なお、実施例で用いた固体廃棄物のリチウム含有量は約800ppmである。
【0026】
ほう素化学品製造工場において、ほう素化学品の原料になるほう素鉱石(Clay)が異なる場合、あるいは、ほう素化学品の製造ラインの操業条件が異なる場合、生成する固体廃棄物の組成および化学反応性は同じではない。本実施形態に用いられる固体廃棄物は、後述の硫酸との混練において好適な反応性を示す固体廃棄物であることが好ましい。当該反応性は、硫酸との混練実験によって確認することが可能である。また、好適な反応性を示す固体廃棄物の組成と実質的に同じ組成を有する固体廃棄物も、本実施形態において好ましい固体廃棄物と確認し得る。固体廃棄物の組成は、X線回折法(XRD)、あるいはXPSによる測定によって確認することが可能である。
【0027】
混合物の組成(とその結晶状態)が同じであれば、XRDスペクトルは同じになり、ピーク位置も同じになる。ただし、結晶の形状が異なると、それに応じて結晶面の反射面積が変化するため、それに応じてピーク強度は変化する。また化学組成(結晶)が決まれば、ピーク値(2θ)は決まるが、X線源または受光スリット幅が無限小ではない等の様々な理由でピーク値は±0.2度の誤差は伴う。
【0028】
本実施形態における好適な固体廃棄物であるか否かは、好適な固体廃棄物のXRDスペクトルと実質的に同じか否かによって判断することが可能である。たとえば、実施例で使用した固体廃棄物は、本実施形態における好適な固体廃棄物の一例であり、実施例における表2および
図2に示される、XRDスペクトルの強度順位が12位までのピークが、好適な固体廃棄物の判断基準になり得る。当該XRDスペクトルの12ピークのうち、ピーク位置2θ±0.2度の誤差で3ピーク以上、好ましくは7ピーク以上が一致すれば、本実施形態に適用可能な固体廃棄物と認定し得る。本実施形態では、一致するピークがより多い固体廃棄物ほど好ましい。本実施形態における固体廃棄物は、キルカで入手される後述の実施例で用いる固体廃棄物であることが、リチウムの回収効率およびコスト削減の観点から好適である。
【0029】
固体廃棄物の元素組成は、原子番号12以上の元素の中ではカルシウムを最も多く含有していることが好ましい。詳しくは後述するが、硫酸との混練により、固体廃棄物中のカルシウムは硫酸カルシウムとして不溶化し、ろ過によって液媒から除去され得る。したがって、リチウムの回収に向けたその後の工程においてカルシウムイオンが阻害要因となる工程が含まれていても、当該工程でのカルシウムイオンの影響を実質的に抑えることが可能である。たとえば、後述の吸着工程で酸化マンガン系吸着剤を用いる場合では、カルシウムイオンが妨害イオンとなりやすい。しかしながら、固体廃棄物を硫酸で処理する本実施形態では、液媒中のカルシウムイオンは炭酸カルシウムとして沈殿し、そのほとんどが固液分離によって液媒から除去され得る。そのため、吸着工程に酸化マンガン系吸着剤を用いても、当該吸着剤の性能を十分に発現させることができる。
【0030】
後述の抽出工程における固体廃棄物と硫酸との接触性を高める観点から、抽出工程に用いる固体廃棄物は、その表面積が大きいことが好ましい。よって、固体廃棄物が塊状である場合では、当該固体廃棄物に固体廃棄物の粉砕物を用いることが好ましい。当該粉砕物の生成には、無機材料の粉砕に使用可能な公知の粉砕装置を用いることが可能である。
【0031】
〔抽出工程〕
本発明の実施形態に係るリチウム化学品の製造方法は、硫酸を固体廃棄物に常温で混合し、混練して、固体廃棄物中のリチウムをリチウムイオンとして液媒に抽出する。以下、この抽出する工程を「抽出工程」と言う。
【0032】
抽出工程における硫酸の添加量は、乾燥粉砕物に対する。また、「常温」とは、本実施形態の実施場所における環境の温度であってよく、例えば0~40℃であってよい。さらに、「液媒」とは、固体廃棄物から抽出されたリチウムイオンが存在可能な液体であり、例えば水を主成分とする液体である。液媒の例には、水、塩の水溶液、および、水溶性有機化合物(アルコールなど)の水溶液、が含まれる。
【0033】
抽出工程における硫酸の添加量は、少な過ぎるとリチウムの回収効率が低く、高過ぎるとリチウムの回収効率の効果が頭打ちになり、硫酸そのものおよびその後の処理に関するコストが増加するためコストの観点から不利である。また、詳しくは後述の実施例で示すが、抽出工程において、液媒へのリチウム抽出率は、添加する硫酸の量に依存し、硫酸/固体廃棄物重量比がある値(臨界点)以上からリチウムの回収率が顕著に増加する。リチウムの回収効率を十分に高める観点から、抽出工程における硫酸の添加量は、25質量%以上であることが好ましく、26質量%より多いことがより好ましく、28質量%以上であることがさらに好ましい。また、硫酸に関するコストの増加を抑制する観点から、抽出工程の液媒における硫酸の濃度は、35質量%以下であることが好ましく、34質量%以下であることがより好ましく、33質量%以下であることがさらに好ましい。
【0034】
抽出工程の硫酸には、濃硫酸を好適に用いることができる。濃硫酸は、安価である観点からも他の酸よりも有利である。濃硫酸の濃度は、85~98%であることが好ましく、90~98%であることがより好ましく、94~98%であることがさらに好ましい。
【0035】
抽出工程で硫酸を使用することは、以下の利点も得られる。すなわち、固体廃棄物に硫酸を加えると、固体廃棄物中の炭酸カルシウムが発砲して硫酸を中和し、硫酸カルシウムとなって沈殿する。この反応ではほぼ中性の溶液が得られる。そのため、本実施形態では、このようなカルシウムとの反応による中和を考慮して液媒の硫酸の濃度を決定することができる。その結果、抽出工程で得られる液媒のpHの低下を抑えることが可能となり、その後のリチウムイオンの吸着を、液媒のpH調整をすることなく実施することが可能になる。
【0036】
本実施形態では、本発明の効果が得られる範囲において、抽出工程において硫酸以外の他の酸を併用してもよい。他の酸の例には、塩酸および硝酸が含まれる。本実施形態では、抽出工程で使用する酸が実質的に硫酸のみであることが、上述の硫酸による効果を十分に発現させる観点から好ましい。たとえば、抽出工程において塩酸を使用する場合では、硫酸のみを使用する場合に比べて液媒のpHは酸性側(より低く)になりやすい。そのため、その後のリチウムイオンの吸着において、液媒のpHをより高めるためのpH調整がさらに必要になることがある。
【0037】
〔その他の工程〕
本発明の実施形態では、本発明の効果が得られる範囲において、前述した抽出工程以外の他の工程をさらに含んでいてもよい。たとえば、本実施形態のリチウム化学品の製造方法は、抽出工程の前、すなわち硫酸を混合する前に、固体廃棄物を水で湿潤させる工程(湿潤工程)をさらに含んでもよい。湿潤工程では、固体廃棄物を水中に浸漬してもよく、固体廃棄物へ直接水を添加・攪拌してもよい。湿潤により、例えば粉砕固体廃棄物がスムーズな動性を呈し、硫酸と粉砕固体廃棄物とが均一に混合しやすくなる。水との接触性を高める観点から、固体廃棄物は十分に粉砕されていることが好ましい。湿潤工程をさらに含むことは、抽出工程における硫酸と固体廃棄物との接触性を高める観点から好適である。
【0038】
また、本実施形態のリチウム化学品の製造方法は、リチウムイオン抽出後液媒と固形物を分離する工程(液媒分離工程)をさらに含んでもよい。ここで言う「固形物」とは、抽出工程において硫酸と混合した後の固体廃棄物であり、あるいは、抽出工程において生成した不溶性の成分である。当該不溶性の成分は、例えば、固体廃棄物がカルシウムを含む場合なら硫酸カルシウムである。液媒分離工程は、公知の固液分離方法によって実施可能である。そのような方法の例には、ろ過、デカンテーションおよび遠心分離が含まれる。液媒分離工程が複数手段から成ることは、目的のリチウム化学品の品質(純度)を高める観点から好適である。
【0039】
また、本実施形態のリチウム化学品の製造方法は、液媒分離工程後、すなわち固形物を除去した後のリチウムを含んだ液媒を吸着剤に接触させて液媒中のリチウムイオンを吸着剤に吸着させる工程(リチウムイオン吸着工程)をさらに含んでもよい。リチウムイオン吸着工程は、リチウムイオンに対する吸着能を有する公知の吸着剤を用いて実施可能である。当該吸着剤の例には、酸化マンガン系イオン吸着剤が含まれる。当該酸化マンガン系イオン吸着剤は、例えば酸化マンガンの単一相の吸着剤であって、リチウムイオン直径の欠陥を有する多孔結晶型の吸着剤であり得る。吸着剤と液媒との接触は、吸着剤の粒子を液媒中に流動させてもよいし、吸着剤の固定床に液媒を流通させてもよい。リチウムイオンの吸着およびその後の脱離の操作を安定かつ簡易に実施する観点から、吸着剤の固定床に液媒を流通させ吸着剤と液媒とを接触させることが好ましい。このような観点から、吸着剤は、ペレット状に成型されている酸化マンガン系イオン吸着剤であることが好ましく、リチウムイオン吸着工程は、当該吸着剤が充填されている管にリチウムを含む液媒を流通させる工程であることが好ましい。
【0040】
特に、前述した液媒分離工程を含む場合では、リチウムイオン吸着工程に供される液媒からは吸着に対する妨害イオンとなるカルシウムイオンが固形分(硫酸カルシウム)として除去されていることから、酸化マンガン系イオン吸着剤によるリチウムイオンの吸着性能を十分に発現させることが可能である。また、前述した液媒分離工程を含む場合では、硫酸がカルシウムイオンの固定化(硫酸カルシウムの生成)に消費されることから、硫酸による液媒のpHの低下が抑制され得る。よって、液媒分離工程後に液媒のpHを調整する工程を省略して、液媒分離工程から直接リチウムイオン吸着工程を実施することが可能となる。
【0041】
また、本実施形態のリチウム化学品の製造方法は、リチウムイオンを吸着した吸着剤に酸を接触させて、吸着しているリチウムイオンを水素イオンと交換させて吸着剤からリチウムイオンを溶離させる工程(リチウムイオン溶離工程)をさらに含んでもよい。リチウムイオン溶離工程をさらに含むことは、吸着剤からリチウムイオンを簡易な操作によって回収する観点から好適である。リチウムイオン溶離工程における酸には、リチウムイオンを吸着した吸着剤がリチウムイオンを溶離する酸であればよく、その例には、塩酸、硫酸および硝酸が含まれる。当該酸の濃度は、吸着剤がリチウムイオンを溶離するのに十分な濃度であればよく、pH0(塩酸なら1mol/L)程度であってよい。
【0042】
また、本実施形態のリチウム化学品の製造方法は、得られた酸性溶離液をアルカリ剤で中和する。これにより、後段での装置の腐食を防止する観点から好適である。中和した液媒のpHは5以上が好ましく、より好ましくは6以上である。なぜなら、この次のステップが濃縮工程であり、酸が残っていると濃縮により酸性が強くなるため、酸は十分に除去しておく必要があるからである。
【0043】
本実施形態のリチウム化学品の製造方法では、得られた酸性溶離液にアルカリ剤を添加する時、例えばpH10まで添加すると、わずかに含まれているマンガンまたは鉄等が析出するため、これを除去すれば、さらにリチウムの純度を高めることができる。析出物を除去後、液性をpH6~8に調整後、濃縮工程へ進むことができる。
【0044】
また、本実施形態のリチウム化学品の製造方法は、溶離液を濃縮する工程(濃縮工程)をさらに含んでもよい。濃縮工程は、当該溶離液を濃縮可能な公知の装置を用いて実施可能である。濃縮工程には、エネルギー効率およびランニングコストの観点から、蒸発濃縮缶などの公知の蒸発濃縮装置を好適に用いることが可能である。
【0045】
本実施形態の一態様をより具体的に説明する。
図1は、本発明の実施形態に係るリチウム化学品の製造方法における一態様の工程の流れを示すフローチャートである。
【0046】
まず、ステップS1において、塊状の固体廃棄物を粉砕する。固体廃棄物の粉砕は、公知の粉砕装置を用いて実施される。泥状の固体廃棄物であれば固体廃棄物を粉砕しなくてよい。
【0047】
次いで、ステップS2において、粉砕した固体廃棄物に水を混合して固体廃棄物を水で湿潤させる。たとえば、固体廃棄物の粉砕物1kgに対し、水を約1kg加えて混練し、スラリー状にする。こうして固体廃棄物の水スラリーが調製される。
【0048】
次いで、ステップS3において、硫酸を固体廃棄物に常温で混合する。たとえば乾燥固体廃棄物に対して0.25~0.35kgの硫酸を徐々に加えながら水スラリーをさらに混練する。こうして固体廃棄物中のリチウムがリチウムイオンとして液媒へ抽出される。
【0049】
次いで、ステップS4において、リチウムイオン抽出後の水スラリー(水、硫酸および固体廃棄物の反応混合物)から固形物を除去する。たとえば、ステップS3において硫酸を添加した水スラリーの発泡が収まったら、さらに水(あるいは液媒)を加え、固形物が沈殿した後に上澄み液を採取する。あるいは発泡が収まったらろ過してリチウム抽出液と固形物とを分離する。こうして当該水スラリーから液媒を得る。ステップS4では、リチウム抽出液のリチウムの濃度が、次のリチウムイオン吸着工程に適した濃度(実施例では、約200ppm)になるよう、水を加えてからろ過してもよい。
【0050】
ここで液媒のpHを測定し、pHがリチウムイオン吸着剤を使用するのに適した最小pH以上(例えば実施例で用いた吸着剤の場合ならpH6以上)であれば、次のリチウムイオン吸着工程へ進む。液媒のpHがリチウムイオン吸着剤の推奨使用pH範囲の最小値未満となる場合には、次の工程におけるリチウムイオン吸着剤のリチウムイオンが溶解し、当該吸着剤の吸着能力が低下することがある。液媒のpHがリチウムイオン吸着剤を使用するのに適したpH範囲より低い場合には、ステップS3で添加する硫酸の量をより少なくして液媒のpHが上がるようにステップS3の条件を設定し直してもよく、あるいは当該液媒へのアルカリ剤の添加によって液媒のpHを調整してもよい。
【0051】
次いで、ステップS5において、固形物を除去した後の液媒をリチウムイオン吸着剤に接触させる。ステップS5は、例えばリチウムイオン吸着剤を充填した吸着管に液媒を流す工程である。吸着管において、液媒は、上から下に流してもよく、下から上に流してもよい。
【0052】
リチウムイオン吸着剤には、酸化マンガン系の吸着剤例えば国際公開第2011/058841号に開示されているリチウム吸着剤を例示し得る。通液中における吸着剤の当該シリンダからの流出を防止する観点から、ペレット状に形成されてシリンダに充填されているリチウムイオン吸着剤が好適に用いられる。上記の酸化マンガン系のリチウムイオン吸着剤は、一例として、1kgで約15~20gのリチウムイオンを吸着および脱着することが可能である。ステップS5によって、液媒中のリチウムイオンがリチウムイオン吸着剤に吸着される。ステップS5では、リチウムイオン吸着剤はリチウムイオンのみを吸着するため、液媒を吸着管に供給し始めてからしばらくの間、吸着管からは、リチウムを実質的に含有していない液が排出される。ステップS5の終点は、吸着管から排出される液からリチウムイオンが検出されることによって決定し得る。
【0053】
次いで、ステップS6において、リチウムイオンを吸着したリチウムイオン吸着剤に酸を接触させる。たとえば吸着管に酸を供給して通液させる。一例として、約1mol/L(約4%)の塩酸を吸着管に流す。吸着管への酸の供給は、ステップS5における液媒の吸着管への供給方向と同じ(例えば上から下)であってもよく、逆方向(例えば下から上)であってもよい。前者は吸着管周囲の配管をより簡易に構成する観点から好適であり、後者はリチウムイオン吸着剤と酸との接触性を高める観点から好適である。吸着剤中のリチウムイオンは塩酸の水素イオンと交換され、塩化リチウムと塩酸を含んだ溶液(溶離液)が吸着管から排出される。排出の間、排出される液はタンクに貯められる。このリチウムを含んだ溶離液のリチウムイオン濃度は、当該タンク中でおよそ1000~2000ppmである。
【0054】
次いで、ステップS7において、得られた溶離液にアルカリを添加して溶離液を中和する。溶離液は強酸性であり、後段の工程の設備を腐食することがある。そのため、水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウムのようなアルカリ剤を溶離液に添加して溶離液を適宜に中和することが好ましい。たとえば、溶離液に水酸化ナトリウムを、溶離液のpHが6以上になるまで撹拌しながら添加する。このように十分に中和することにより、後段の設備の腐食が防止される。中和が十分でないと、濃縮により酸性度が増加することがあるので、pH6以上とした。
【0055】
次いで、ステップS8において、溶離液を濃縮する。当該濃縮は、溶離液から水系の前述の液媒を留去させる方法であればよく、加圧下でも常圧下でも減圧下でもよい。当該溶離液の濃縮には、一例としてステンレス鋼製の蒸発濃縮缶を用いる常圧での濃縮が挙げられる。リチウムイオン濃度が15000ppm以上になるまで、濃縮を行う。濃縮する理由は、次の工程で沈殿する炭酸リチウムの量を多くするためである。ステップS8によって、リチウムイオンを高濃度で含有する濃縮液が得られる。
【0056】
次いで、ステップS9において、得られた濃縮液に炭酸化合物を添加して炭酸リチウムを析出させる。炭酸化合物は、実質的に濃縮液中のリチウムイオンのみと反応して炭酸リチウムを生成する化合物であればよい。炭酸化合物の例には、炭酸ナトリウム、二酸化炭素(空気が例示できる)および炭酸カリウムが含まれる。一例として、1Lの濃縮液に対して約210gの炭酸ナトリウムを添加し、攪拌し、静置することで炭酸リチウムを沈殿させ得る。ステップS9によって、濃縮液中の金属イオンのうち、リチウムイオンが炭酸リチウムとして析出し、他の金属イオン(ナトリウムイオンなど)は濃縮液中に溶解した状態で残る。炭酸リチウムは、本実施形態におけるリチウム化学品の一例である。したがって、ステップS9によって十分に高い純度を有するリチウム化学品が得られる。
【0057】
次いで、ステップS10において、析出した炭酸リチウムの粒子を濃縮液から分離して飽和炭酸リチウム水溶液で洗浄する。濃縮液からの炭酸リチウムの粒子の分離は、公知の固液分離方法から選択される適当な方法によって実現可能であり、例えばろ過によって実施可能である。
【0058】
ろ別した粒子の洗浄は、不純物を含まない飽和炭酸リチウム水溶液で洗浄することにより実施する。このような洗浄方法により、沈殿した炭酸リチウムの粒子間の不純物を含む溶液は流出し、また沈殿した炭酸リチウムの粒子の表面に付着した不純物は飽和炭酸リチウム水溶液に溶解して除去される。洗浄液に飽和炭酸リチウム水溶液を用いているので、炭酸リチウム粒子は溶解しないが、他の不純物は飽和炭酸リチウム水溶液に溶解し、あるいは洗い流される。したがって、ステップS10の精製による減量損失が実質的に防止され、かつより高い純度のリチウム化学品が得られる。こうして、炭酸リチウムが精製される。飽和炭酸リチウム水溶液は、例えば過剰量の炭酸リチウムが添加されている水の上澄み液であってよく、リチウム化学品の製造における異なるバッチ間で共通して使用されてよい。
【0059】
次いで、ステップS11において、洗浄された炭酸リチウムの粒子を乾燥する。こうして、固体廃棄物から高純度のリチウム化学品が得られる。炭酸リチウムを水酸化リチウムにさらに変換してリチウム化学品としてもよい。または、ステップS11における粒子の乾燥工程を省略して、水酸化リチウムの化学転換工程へ進んでもよい。
【0060】
このように、本実施形態では、ほう素を含む鉱石からほう素化学品を製造したときに生じる固体廃棄物からリチウム化学品が製造される。本実施形態の方法によれば、より低い操業コスト(OPEX)、かつより低いCO2-LCA(ライフサイクルアセスメント)で固体廃棄物中のリチウムを回収することができる。本実施形態により製造されるリチウム化学品について、一例を挙げれば、マンガン、アルミおよびほう素などの、リチウムイオン電池の原料として忌避される成分の濃度が十分低く、炭酸リチウムの純度が99.7%以上にもなり得る。リチウムイオン電池用の原料グレードの炭酸リチウムの純度が99.5%以上なので、本実施形態により製造される炭酸リチウムは、リチウムイオン電池の原料に用いることができる。
【0061】
〔変形例〕
なお、
図1に示すプロセスでは、各ステップの相対的な前後関係を変えない範囲において、各ステップの間に別のステップを挿入してもよい。ただし、焙焼は回収コストを著しく増加させるため除く。たとえば、ステップS6(吸着剤と酸との接触によるリチウムイオンの溶離)の前にリチウムイオン吸着剤を洗浄する工程をさらに含めてもよい。このように、
図1に示すプロセスには、pH調整工程、希釈工程、ろ過工程、洗浄工程、測定工程または貯留工程がさらに挿入されていてもよい。
【0062】
また、
図1に示すプロセスでは、溶離工程の後に行う中和工程で、液性を約pH10になるまでアルカリ剤を加えてもよい。そうすると、マンガンまたは鉄が析出沈殿するので、これらを取り除くことにより、より純度の高いリチウム化学品を得ることができる。これらを取り除いた後、液性をpH6以上に調製してから、濃縮工程へ進む。
【0063】
また、本発明の実施形態では、抽出工程の液媒から前述した吸着法以外の他の方法によってリチウムを回収することも可能である。このような他の方法の例には、イオン伝導体の分離膜を用いて液媒からリチウムイオンを分離する方法が含まれる。このような他の方法においても、pH調整およびろ過などの工程が必要に応じてさらに含まれてもよい。
【0064】
本発明の実施形態では、焙焼は不要である。したがって、本発明の実施形態に係るリチウム化学品の製造方法は、固体廃棄物を焙焼する工程を含まなくてよい。このような焙焼工程を含まないことは、焙焼における加熱にかかるコストの削減に有利であり、またリチウム化学品およびそれを用いるさらなる製品におけるCO2-LCAの低減に有利である。
【0065】
〔主な作用効果〕
前述したように、本実施形態に係るリチウム化学品の製造方法は、(1)固体廃棄物に対し、25質量%から35質量%の硫酸を、加温または焼成することなく混合、混練する操作により、リチウムイオンを固体廃棄物から抽出するステップと、(2)当該抽出液から酸化マンガン系リチウムイオン吸着剤を用いて、高純度リチウム含有水溶液を得るステップ、を含み得る。本実施形態によれば、ほう素化学品の製造で産生される固体廃棄物から、より低コストおよび低CO2-LCAでリチウム化学品を製造することができる。
【0066】
また、本実施形態では、抽出したリチウムを含む水溶液からリチウムだけを取り出す方法として、高いリチウム選択性を有するリチウムイオン吸着剤を採用している。前述したリチウム含有抽出液の取得と当該リチウムイオン吸着剤との両者を組み合わせることによる相乗効果により、リチウム化学品の製造コストがさらに低減され得る。当該相乗効果としては、例えば、抽出後のろ液を(液媒)pH調整等の工程を経ずに直接リチウムイオン吸着工程へ進むことができること、あるいは、前述の溶離液からアルカリ化工程(変形例)によってリチウム以外の陽イオンをほとんど除去できること、などがある。
【0067】
より詳しくは、本実施形態において、固体廃棄物に対し、25~35質量%の範囲の硫酸を加えることにより、少量の硫酸を無駄なく反応させ、そしてリチウムを高収率で回収することができる。その範囲において硫酸の使用量を、リチウムイオン吸着剤を使用するのに適したpHになるように調整すると、吸着工程前の中和工程が不要となり得る。すなわち、本実施形態では、前述した液媒分離工程の後に、そのまま(pH調整等の他の工程を介さずに)リチウムイオン吸着工程を実施することが可能である。このように、本実施形態は、工程削減によるコストの低減の観点から有利である。
【0068】
また、本実施形態においてリチウムにだけ選択性のあるイオン交換吸着剤を用いることにより、水溶性の複数の不要なイオンの随伴を防止することが可能となり、複数の沈殿分離工程を省略することが可能となる。そのため、薬剤代のコストを大幅に低減できる。
【0069】
また、本実施形態では、固体廃棄物を高温で焙焼する必要がない。また固体廃棄物と硫酸とを反応させるときにも加温を必要としない。そのため、これらの加熱にかかる費用が不要となり、かつこのような加熱を要する方法に比べて、製造工程の二酸化炭素総排出量(LCA)を低減させることができる。
【0070】
さらには、本実施形態において、固体廃棄物がカルシウムを含有している場合では、リチウムイオンを取り出した後の残滓は主に石膏になる。そのため、廃棄処理コストが安く、あるいはリサイクルすれば販売利益を得ることができる。
【0071】
このように本実施形態によれば、固体廃棄物から抽出した単位重量当たりのリチウムに費やした操業コスト(薬品代、エネルギー代および廃液処理代など)が非常に小さくなり得るし、またバッテリーグレードの高純度品が得られる。したがって、本実施形態によるリチウム化学品を原料に用いてリチウムイオン電池またはリチウム全固体電池などのリチウム製品を製造すれば、当該製品の製造時の二酸化炭素排出量もより少なくすることが可能である。すなわち、本実施形態のリチウム化学品の製造方法によって製造されたリチウム化学品、あるいは当該リチウム化学品を材料として製造されたリチウムイオン電池または全固体電池、あるいは当該電池を搭載した電気動力車両、は、従来品に比べてその製造における二酸化炭素排出量がより少ない、という利点を有し得る。
【0072】
〔まとめ〕
本発明の第一の態様は、ほう素を含む鉱石からほう素化学品を製造したときに生じる固体廃棄物からリチウム化学品を製造する方法であって、固体廃棄物に対して25質量%以上35質量%以下の硫酸を固体廃棄物に常温で混合して、固体廃棄物中のリチウム化合物をリチウムイオンとして抽出する工程を含む。第一の態様によれば、固体廃棄物からのリチウムの回収において、最小限の酸を用い、コストの低減が可能な新たな技術を提供することができる。
【0073】
本発明の第二の態様は、第一の態様において、固体廃棄物に対して26質量%より多く34質量%以下の硫酸を用いる。また、本発明の第三の態様は、第一または第二の態様において、固体廃棄物に対して28質量%以上33質量%以下の硫酸を用いる。第二の態様は、リチウムの回収効率を十分に高める観点からより効果的であり、第三の態様は当該観点からより一層効果的である。
【0074】
本発明の第四の態様は、第一から第三の態様のいずれかにおいて、硫酸を混合する前に、固体廃棄物を水で湿潤させる工程をさらに含む。第四の態様は、抽出工程における硫酸と固体廃棄物との接触性を高める観点からより一層効果的である。
【0075】
本発明の第五の態様は、第一から第四の態様のいずれかにおいて、リチウムイオン抽出後、硫酸を混合した水スラリーから固形物を除去する工程と、固形物を除去した後の液媒(不純物を含む水が例示できる)を吸着剤に接触させて液媒中のリチウムイオンだけを吸着剤に吸着させる工程と、をさらに含む。第五の態様では、固形物の除去後にpH調整を行わないで直接吸着工程へ進めることが可能である。よって第五の態様は工程の簡素化およびコスト低減の観点からより一層効果的である。
【0076】
本発明の第六の態様は、第五の態様において、リチウムイオンを吸着した吸着剤に酸を接触させて吸着剤からリチウムイオンを溶離させる工程をさらに含む。第六の態様では、アルカリ化による不純物除去を、蒸発濃縮缶の腐食を防ぐために行う中和と同時に行うことが可能である。よって第六の態様は、最終製品であるリチウム化学品の品質を高め、かつ製造の効率を向上させる観点からより一層効果的である。
【0077】
また、本発明の第六の態様は、得られた溶離液にアルカリ剤を添加して溶離液をアルカリ性にする工程と、得られたアルカリ性の溶離液中に析出した不溶物を除去する工程と、不溶物を除去した溶離液のpHをpH5~8にする中和工程と、中和した溶離液を濃縮する工程と、をさらに含んでもよい。このような工程をさらに含むことは、装置の腐食の防止、リチウムの純度の向上およびコスト高騰の抑制などの観点からより一層効果的である。
【0078】
本発明の第七の態様は、ほう素を含む鉱石からほう素化学品を製造したときに生じる固体廃棄物からリチウム化学品を製造する方法であって、塊状の固体廃棄物を粉砕する工程と、粉砕した固体廃棄物に水を混合して固体廃棄物を水で湿潤させる工程と、乾燥固体廃棄物に対して25質量%以上35質量%以下の硫酸を固体廃棄物に常温で混合して、固体廃棄物中のリチウムをリチウムイオンとして抽出する工程と、リチウムイオン抽出液から固形物を除去する工程と、固形物を除去した後のリチウムイオン抽出液を吸着剤に接触させてリチウムイオンを吸着剤に吸着させる工程と、リチウムイオンを吸着した吸着剤に酸を接触させて吸着剤からリチウムイオンを溶離させる工程と、
得られた溶離液にアルカリを添加して溶離液をpH6以上にする工程と、中和した溶離液を濃縮する工程と、得られた濃縮液に炭酸化合物を添加して炭酸リチウムを析出させる工程と、析出した炭酸リチウムの粒子を濃縮液から分離してから飽和炭酸リチウム水溶液で洗浄する工程と、洗浄された炭酸リチウムの粒子を乾燥する工程と、をこの順で含む。第七の態様は、焙焼を含まない工程によって構成される。よって第七の態様は、最終製品であるリチウム化学品の品質を高め、かつ製造コストと製造工程の二酸化炭素総排出量(LCA)を低減させる観点からより一層効果的である。
【0079】
本発明の第八の態様は、第七の態様において、26質量%より多く34質量%以下の濃度の硫酸を用いる。また、本発明の第九の態様は、第七または第八の態様において、28質量%以上33質量%以下の濃度の硫酸を用いる。第八の態様は、少ない酸の量で、リチウムの回収コストを十分に低減する観点からより効果的であり、第九の態様は当該観点からより一層効果的である。
【0080】
本発明の第十の態様は、第五から第九の態様のいずれかにおいて、固体廃棄物は、原子番号12以上の元素の中ではカルシウムを質量基準で最も多く含有している。第十の態様は、抽出工程後の工程における液媒のpHを中和が不要となる適切なpHになる硫酸の使用を可能にする観点からより一層効果的である。
【0081】
本発明の第十一の態様は、第一から第十の態様のいずれかにおいて、吸着剤に、ペレット状に成型されている酸化マンガン系イオン吸着剤を用いる。第十の態様は、通液中における吸着管からの吸着剤の流出を防止する観点からより一層効果的である。
【0082】
本発明の第十二の態様は、第一から第十一の態様のいずれかのリチウム化学品の製造方法によって製造されたリチウム化学品である。第十二の態様は、CO2のLCAが低いリチウム化学品を実現する観点からより一層効果的である。
【0083】
本発明の第十三の態様は、第十二の態様のリチウム化学品を材料として製造されたリチウムイオン電池または全固体電池である。第十三の態様は、CO2のLCAが低い当該電池を実現する観点からより一層効果的である。
【0084】
本発明の第十四の態様は、第十三の態様の電池を搭載した電気動力車両である。第十四の態様は、CO2のLCAが低い電気動力車両を実現する観点からより一層効果的である。
【0085】
前記構成によれば、薬剤代およびその他の経費を低減することにより企業の利益に貢献することができ、同時に、LCAをより小さくすることで地球環境への負荷軽減に貢献し得る。さらに、リチウム化学品として本発明品が使用されることにより、リチウムイオン電池または全固体電池のCO2のLCAがより低減され、さらには当該電池を使用する電動自動車の当該LCAもより低減され得る。このような効果を奏し得る本発明には、例えば、国連が提唱する持続可能な開発目標(SDGs)の目標13「気候変動に具体的な対策を」等の達成に貢献することが期待される。
【0086】
本発明は上述した各実施形態に限定されず、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態も、本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例0087】
本発明の一実施例について以下に説明する。
【0088】
〔実施例1〕
[固体廃棄物の用意]
トルコのキルカ(Kirka)にあるほう素化学品の製造工場の敷地内の固体廃棄物を用意した。当該固体廃棄物は、ほう素含有鉱物からほう素化学品を製造したときに、残留物として排出される固体状あるいは泥状の廃棄物である。当該固体廃棄物のリチウムの濃度は約800ppmである。なお、固体廃棄物中のリチウムの濃度は、サンプル1gを王水10mLに完全溶解させ、原子吸光を用いて標準添加法(n=3)によって測定した。
【0089】
また、エネルギー分散型蛍光X線分光法(Energy Dispersive X-ray Spectroscopy、EDX)の分析装置を用いて上記固体廃棄物の元素分析を行った。この分析方法では、元素番号が12以上の元素が検出される。検出結果を表1に示す。表1の存在量(%)は元素番号が12以上の元素の存在量から計算した。さらに、固体廃棄物のX線回折結果を
図2に示す。
図2では縦軸が相対的な反射強度、横軸が2θ(X線入射視斜角をθ)である。
図2から読み取られるピークのうち、相対強度の順位が大きい順から12番目のピークまでの相対強度を表2に示す。
【0090】
【0091】
【0092】
表1から、元素番号12以上の元素では、カルシウム(Ca)の存在量が最も多いことがわかる。また、表1から、シリコン(Si)が有意な量(10%以上)で含有されていること、および、マグネシウム(Mg)が含有されていないこと、がわかる。
【0093】
また、
図2および表2から、上位3位までのピークが顕著であり特徴的であること、がわかる。
【0094】
[リチウム化学品の製造]
まず、アルミナ乳鉢と乳棒を用いて固体廃棄物を粉砕し、篩で振るった。得られた粉砕物の粒径は、長径で概ね450μm以下である。
【0095】
次いで、固体廃棄物の粉砕物1kgに対し、水を約1kg加えて常温(20~30℃)環境下で1時間混合、混練し、当該粉砕物の水スラリーを得た。
【0096】
次いで、上記水スラリーに、濃度98質量%(18mol/L)の濃硫酸0.3kg(固体廃棄物に対して30質量%)を徐々に加えながらさらに混練した。
【0097】
上記水スラリーからの発泡が収まったら、当該水スラリーにさらに水を添加し、ろ過して、酸処理後の粉砕物と、リチウムを含んだろ液とに分離した。
【0098】
次いで、分離したリチウムを含んだろ液にリチウム濃度が約200ppmになる量の水をさらに添加した。当該希釈ろ液のpHを測定し、当該pHが6以上であることを確認した。
【0099】
次いで、希釈したろ液を、ペレット状のリチウムイオン吸着剤(国際公開第2011/058841号に記載のリチウム吸着剤)が充填されている吸着管(以下、「リチウムイオン吸着管」とも言う)に供給して流した。リチウムイオン吸着管から排出される液中のリチウムイオンの存在を、原子吸光法を用いて測定した。リチウムイオン吸着管からの排出液からリチウムイオンが検出されることを確認して、リチウムイオン吸着管への当該希釈したろ液の供給を停止した。
【0100】
次いで、約1mol/L(約4%)の塩酸水溶液をリチウムイオン吸着管に供給して流した。リチウムイオン吸着管中のリチウムイオン交換吸着剤に吸着されたリチウムイオンが塩酸の水素イオンと交換され(溶離)、塩化リチウムと塩酸とを含有する塩化リチウム水溶液(溶離液)がリチウムイオン吸着管から排出された。
【0101】
次いで、溶離液に水酸化ナトリウムを添加して塩酸を中和し、pHを10以上に上昇させた。そうすることにより、溶離液に含まれる微量のカルシウム、吸着剤が酸によって溶解した微量のマンガンが析出した。これをろ過後、pHが6~8になるようにpHを調整し、純度の高い溶離液を得た。
【0102】
次いで、蒸発濃縮缶を用いて溶離液を、リチウムイオンの濃度が15000ppm以上になるまで濃縮し、塩化リチウムの濃縮液を得た。
【0103】
次いで、濃縮液1L当たり約210gの炭酸ナトリウムを添加し、攪拌し、静置して、炭酸リチウムを生成させ、沈殿させた。
【0104】
次いで、沈殿した炭酸リチウム粒子を取り出して、飽和炭酸リチウム水溶液で洗浄した。こうして、リチウム化学品として、純度99.7%以上の炭酸リチウムの精製品を得た。また、固体廃棄物のリチウム含有量に対する炭酸リチウム精製品のリチウム含有量の割合を算出し、固体廃棄物からのリチウムの回収率を求めた。その結果、本実施例におけるリチウムの回収率は95%であった。
【0105】
本実施例の炭酸リチウムの精製品における金属元素の元素分析結果を表3に示す。残余はリチウムイオン(Li+)である。
【0106】
【0107】
表3より、得られた炭酸リチウムの精製品は、リチウムイオン電池の原料として忌避されるマンガン、アルミまたはほう素等の夾雑物の濃度が十分低く、また、その純度が99.7%以上であることがわかる。リチウムイオン電池用の原料に求められる炭酸リチウムの純度は99.5%以上である。よって、本実施例で得られた炭酸リチウムの精製品は、リチウムイオン電池の原料に用いることができる。
【0108】
〔比較例1〕
実施例1で用意した固体廃棄物の粉砕物の水スラリーに、濃硫酸に代えて、0.25M塩酸水溶液を、粉砕物1gに対して200mL添加して、当該水スラリーを混合し、混練し、そしてろ過した。こうして、当該粉砕物中のリチウムを抽出した比較例1のリチウム抽出液を得た。
【0109】
〔比較例2〕
実施例1で用意した固体廃棄物の粉砕物を1100℃で2時間焙焼し、焙焼した粉砕物に対して質量比で2.7倍量の水に浸漬し、そしてろ過した。こうして、焙焼後の粉砕物中のリチウムを抽出した比較例2のリチウム抽出液を得た。
【0110】
〔比較例3〕
実施例1で用意した固体廃棄物の粉砕物50gを水で湿潤後、4.5gの硫酸(濃度98質量%)を加えてよく混合し、750℃で1時間焙焼した。冷却後100mlの水を加えて水抽出を行い、そしてろ過した。こうして、焙焼後の粉砕物中のリチウムを抽出した比較例3のリチウム抽出液を得た。
【0111】
比較例1~3のそれぞれのリチウム抽出液中のリチウム量を定量し、固体廃棄物からのリチウムの抽出率を求めた。実施例1および比較例1~3におけるリチウム抽出率を表4に示す。なお、表4中の実施例1におけるリチウム抽出率には、前述したリチウム回収率の数値を採用している。
【0112】
【0113】
表4から明らかなように、実施例1では焙焼を行っていないにも関わらず、リチウム抽出率が高いことがわかる。
【0114】
実施例1と比較例1との対比から明らかなように、固体粉砕物からのリチウムの抽出では、同じ添加量であれば、塩酸に比べて硫酸の方が優れていることがわかる。その理由は定かではないが、以下のように考えられる。すなわち、実施例1では固体廃棄物がスラリー状になる程度に水を加えたのち、濃硫酸を徐々に加えながら混練している。硫酸は2価の酸であるが、pH1.5以下では、1価の硫酸水素イオンの濃度は2価の硫酸イオンの濃度よりも高い。そのため、固体廃棄物の水スラリーに濃硫酸を直接添加することにより、スラリー中の水分で濃硫酸が希釈される過程で、硫酸水素イオンが多く存在する期間が生じる。この硫酸水素イオンが固体廃棄物からリチウムイオンを効率よく抽出する、と推察される。
【0115】
〔参考例〕
実施例1における水スラリーに添加する硫酸の量を、粉砕物に対する硫酸の質量比で、それぞれ0、0.1、0.2、0.3(実施例)および0.4、としたときに水スラリーの液媒に抽出されたリチウムの抽出量を測定した。結果を
図3に示す。
【0116】
図3に示されるように、粉砕物に対する硫酸の質量比が0から約0.2に増加するにつれて、リチウム抽出率は比較的緩やかに増加する。そして、当該質量比が約0.2から約0.3に増加するにつれて、リチウム抽出率はより急激に増加する。そして、当該質量比が0.31でリチウム抽出率が100%となり、以後リチウム抽出率は頭打ちになる。
図3から、粉砕物に対する硫酸の質量比は概ね0.25~0.35の範囲であることが好ましいことがわかる。
【0117】
以上の実施例等によれば、我々の入手した固体廃棄物からのリチウムの回収において、回収されたリチウムの単位重量当たりの回収コストをより低減できる新たな技術を提供できることが明らかである。
本発明は、リチウム化学品およびそれに由来するさらなる製品の普及に利用することができ、当該リチウム化学品およびそれに由来するさらなる製品の製造における環境負荷の軽減に利用することができる。