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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025025450
(43)【公開日】2025-02-21
(54)【発明の名称】係留鎖の撤去方法および保持治具
(51)【国際特許分類】
   B63B 21/50 20060101AFI20250214BHJP
   B63B 85/00 20200101ALI20250214BHJP
【FI】
B63B21/50 A
B63B85/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023130219
(22)【出願日】2023-08-09
(71)【出願人】
【識別番号】000219406
【氏名又は名称】東亜建設工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】山田 尚輝
(72)【発明者】
【氏名】小西 豊
(57)【要約】
【課題】浮体構造物を係留している係留鎖を安全に効率よく撤去できる係留鎖の撤去方法および保持治具を提供する。
【解決手段】船体21の船端21aから水域側に突出する突出部2を有する保持治具1を船体21に対して固定しておく。クレーン22を使用して係留鎖31の長手方向中途までを水上に吊上げ、突出部2に形成されていて水域側に開口するスリット3に係留鎖31の長手方向中途に位置する1つの鎖素子32を差し込み、その鎖素子32の上に連結されている別の鎖素子32を突出部2に係止させた状態にする。次いで、突出部2に係止させた鎖素子32よりも先端側の係留鎖31を船体21上に延在させて載置し、その係留鎖31の船体21上に延在させている部分を切断する。その後、切断位置よりも後端側の係留鎖31をクレーン22により船体21上に引き上げる。
【選択図】図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
浮体構造物を係留している係留鎖の撤去方法において、
船体の船端から水域側に突出する突出部を有する保持治具を前記船体に対して固定しておき、クレーンを使用して前記係留鎖の長手方向中途までを水上に吊上げ、前記突出部に形成されていて水域側に開口するスリットに前記係留鎖の長手方向中途に位置する1つの鎖素子を差し込み、その鎖素子の上に連結されている別の鎖素子を前記突出部に係止させ、次いで、前記突出部に係止させた前記鎖素子よりも先端側の前記係留鎖を前記船体上に延在させて載置し、その前記係留鎖の前記船体上に延在させている部分を切断し、その後、切断位置よりも後端側の前記係留鎖を前記クレーンにより前記船体上に引き上げることを特徴とする係留鎖の撤去方法。
【請求項2】
前記スリットに1つの前記鎖素子を差し込んだ後に、開閉機構により前記スリットの開口を閉鎖した状態にする請求項1に記載の係留鎖の撤去方法。
【請求項3】
前記突出部の突出先端側に、前記係留鎖を前記スリットに誘導するガイド部を設けておく請求項1または2に記載の係留鎖の撤去方法。
【請求項4】
浮体構造物を係留している係留鎖の撤去に使用する係留鎖の保持治具であって、
船体の船端から水域側に突出する突出部を有し、前記突出部には、水域側に開口するスリットが形成されていて、前記スリットに前記係留鎖の長手方向中途に位置する1つの鎖素子が差し込まれ、その鎖素子の上に連結されている別の鎖素子が前記突出部に係止される構成であることを特徴とする係留鎖の保持治具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、係留鎖の撤去方法および保持治具に関し、さらに詳しくは、浮体構造物を係留している係留鎖を安全に効率よく撤去できる係留鎖の撤去方法および保持治具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
水域に係留される浮標灯や波浪計などの浮体構造物には、係留鎖(係留チェーン)が接続されていて、係留鎖の後端部に連結された係留錘(シンカーやアンカー)が水底に配置されている。浮体構造物、係留鎖および係留錘の撤去作業は、起重機船などのクレーンを使用して行うが、係留鎖は比較的長いため、係留鎖の全てを一回の吊上げ作業で船上に引き上げることは困難である。それ故、従来では、クレーンによって浮体とともに係留鎖の長手方向中途までを船体の近傍に吊上げ、その吊上げた状態の係留鎖に作業者がシャックルやワイヤなどを取付けることで、係留鎖を船体に対して固定していた。その後、係留鎖の長手方向中途を切断し、浮体構造物と浮体構造物側の切断した係留鎖を船上に回収していた。切断位置よりも係留錘側の係留鎖はクレーンによって吊り直し、係留鎖を船体に対して固定する作業と係留鎖の切断作業を繰り返すことで、係留鎖と係留錘を撤去していた。
【0003】
従来の撤去方法では、クレーンによって吊上げた状態の係留鎖に作業者が近づいて係留鎖にシャックルやワイヤなどを取付ける必要があるため、安全性の面で課題があった。また、係留鎖は重量やサイズが大きいため、係留鎖の固定に使用するシャックルやワイヤなども大型なものとなるため、作業性の面でも課題があった。また、係留鎖にカキ殻等が付着している場合には、係留鎖にシャックルやワイヤなどを取付けることが困難な場合があり、係留鎖に付着しているカキ殻等を除去する作業も必要であった。
【0004】
従来、係留鎖ではないが係留索が接続された浮体構造物の撤去方法は種々提案されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載の撤去方法では、浮体構造物の側方に水底に係留された作業用台船を配置し、水平拘束用ワイヤを用いて作業用台船に対して浮体構造物の水平方向移動を規制した状態にしている。そして、浮体構造物を沈下させることによって緊張係留索を弛緩させ、その状態で緊張係留索を水中で切断することで、浮体構造物と緊張係留索を撤去している。この方法を係留鎖が接続された浮体構造物に適用する場合には、水中で係留鎖を切断することになるが、浮体構造物の係留に用いる係留鎖の鎖素子は呼び径(線径)が比較的大きいため、水中で係留鎖を切断するには比較的多くの時間と労力を要し、潜水作業も必要となる。また、この方法では、係留鎖の長手方向中途を切断した後に、係留錘側の係留鎖を船体上に回収することが困難になるという問題もある。それ故、係留鎖の撤去方法には改善の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-23233号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、浮体構造物を係留している係留鎖を安全に効率よく撤去できる係留鎖の撤去方法および保持治具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の係留鎖の撤去方法は、浮体構造物を係留している係留鎖の撤去方法において、船体の船端から水域側に突出する突出部を有する保持治具を前記船体に対して固定しておき、クレーンを使用して前記係留鎖の長手方向中途までを水上に吊上げ、前記突出部に形成されていて水域側に開口するスリットに前記係留鎖の長手方向中途に位置する1つの鎖素子を差し込み、その鎖素子の上に連結されている別の鎖素子を前記突出部に係止させ、次いで、前記突出部に係止させた前記鎖素子よりも先端側の前記係留鎖を前記船体上に延在させて載置し、その前記係留鎖の前記船体上に延在させている部分を切断し、その後、切断位置よりも後端側の前記係留鎖を前記クレーンにより前記船体上に引き上げることを特徴とする。
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の係留鎖の保持治具は、浮体構造物を係留している係留鎖の撤去に使用する係留鎖の保持治具であって、船体の船端から水域側に突出する突出部を有し、前記突出部には、水域側に開口するスリットが形成されていて、前記スリットに前記係留鎖の長手方向中途に位置する1つの鎖素子が差し込まれ、その鎖素子の上に連結されている別の鎖素子が前記突出部に係止される構成であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、船体の船端から水域側に突出する突出部を有する保持治具を船体に対して固定しておく。クレーンを使用して係留鎖の長手方向中途までを水上に吊上げ、突出部に形成されていて水域側に開口するスリットに係留鎖の長手方向中途に位置する1つの鎖素子を差し込み、その鎖素子の上に連結されている別の鎖素子を突出部に係止させることで、係留鎖を保持治具で保持した状態にできる。この作業は、吊上げた状態の係留鎖に作業者が近づく必要がなく、クレーンの操作で容易に行うことができる。その後は、突出部に係止させた鎖素子よりも先端側(浮体構造物側)の係留鎖を船体上に延在させて載置し、その係留鎖の船体上に延在させている部分を切断することで、船体上において係留鎖の切断作業を安全に行うことができる。係留鎖の長手方向中途は保持治具に保持されているので、係留鎖を切断した際に、切断位置よりも後端側(係留錘側)の係留鎖が水中に落下することはない。そのため、切断位置よりも後端側の係留鎖をクレーンにより船体上に引き上げる作業も容易に効率よく行うことができる。それ故、浮体構造物を係留している係留鎖を安全に効率よく撤去できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の係留鎖の保持治具を設置した船舶を浮体構造物の近傍に停船させた状態を平面視で模式的に例示する説明図である。
図2図1の保持治具の拡大図である。
図3図2のA矢視図である。
図4図2のB矢視図である。
図5】船舶に搭載されているクレーンによって浮体構造物と係留鎖の長手方向中途までを水上に吊上げた状態を側面視で模式的に例示する説明図である。
図6図5の状態から、突出部に形成されているスリットに係留鎖の長手方向中途に位置する1つの鎖素子を差し込み、その鎖素子の上に連結されている別の鎖素子を突出部に係止させた状態を正面視で模式的に例示する説明図である。
図7図6の状態から、突出部に係止させた鎖素子よりも先端側の係留鎖を船体上に延在させて載置した状態を平面視で模式的に例示する説明図である。
図8図7の状態から、係留鎖の船体上に延在させている部分を切断した状態を平面視で模式的に例示する説明図である。
図9図8の状態から、切断位置よりも後端側の係留鎖にクレーンの吊具を連結した状態を側面視で模式的に例示する説明図である。
図10図9の状態から、切断位置よりも後端側の係留鎖をクレーンによって吊上げた状態を側面視で模式的に例示する説明図である。
図11】最後に切断した切断位置よりも後端側の係留鎖と係留アンカーをクレーンによって吊上げた状態を側面視で模式的に例示する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の係留鎖の撤去方法および保持治具を図に示した実施形態に基づいて説明する。
【0012】
図1に例示するように、本発明の係留鎖の撤去方法は、浮体構造物30を係留している係留鎖31を撤去する方法であり、本発明の保持治具1は、浮体構造物30を係留している係留鎖31の撤去に使用するものである。浮体構造物30としては、水域に係留される浮標灯や波浪計、浮体式洋上風力発電施設などが例示できる。浮体構造物30に係留鎖31の先端部が接続されていて、係留鎖31の後端部に接続された係留錘(係留シンカーや係留アンカー)33が水底に配置されている。この実施形態では、係留鎖31の後端部に係留錘33として係留シンカーが接続されている場合を例示している。
【0013】
浮体構造物30の係留に使用される係留鎖31の長さや係留鎖31を構成する鎖素子32のサイズは、浮体構造物30のサイズや浮体構造物30を設ける水域の水深などの条件によって様々であるが、係留鎖31の長手方向の長さは、例えば30m~400m程度である。係留鎖31を構成する鎖素子32の呼び径(線径)は例えば5cm~16cm程度であり、鎖素子32の長手方向の長さは例えば30cm~110cm程度であり、鎖素子32の外幅は例えば18cm~70cm程度である。
【0014】
図1に例示するように保持治具1は、クレーン22が搭載された船舶20や台船などの船体21に設置される。この実施形態では、船舶20の船体21(甲板上)に保持治具1を設置した場合を例示している。図2図4に例示するように、保持治具1は、船体21の船端21aから水域側に突出する突出部2を有している。突出部2には水域側に開口するスリット3が形成されている。
【0015】
この実施形態の保持治具1は一対の棒状の鋼材4と、その一対の鋼材4を船体21に対して固定する固定部5とを有して構成されている。一対の鋼材4は船体21の船幅方向に延在している。それぞれの鋼材4の先端側は船体21の船端21aから水域側に突出していて、それぞれの鋼材4の後端側は船体21上に配置されている。この実施形態では、船体21の甲板の上に一対の鋼材4の後端側が載置されている。それぞれの鋼材4の後端側は複数箇所に設けられた固定部5によって船体21の甲板に対して固定されている。
【0016】
この実施形態では、一対の鋼材4の船体21の船端21aから水域側に突出している部分が、保持治具1の突出部2を構成している。船舶20の船長方向に間隔をあけて2本の鋼材4が配置されていて、船端21aから水域側に突出している部分の2本の鋼材4どうしの間のすき間が、突出部2のスリット3になっている。
【0017】
この実施形態では、断面形状が矩形の無垢の鋼材4を使用している。鋼材4として例えば、型鋼などを使用することもできる。この実施形態では、固定部5として一対の鋼材4の間の複数箇所に複数の鋼材をつなぎ合わせて作製した間隔保持材を嵌め込み、それぞれの間隔保持材を一対の鋼材4の船体21上に配置している部分と船体21の甲板とに溶接で接合している。さらに、固定部5として一対の鋼材4のそれぞれの側方の複数箇所に鋼材を配設して、それらの鋼材を一対の鋼材4の船体21上に配置している部分と船体21の甲板とに溶接で接合している。
【0018】
図2図4に例示するように、この実施形態では、スリット3の先端の開口を、開口した状態と閉鎖した状態とに切り換える開閉機構6が設けられている。この実施形態では、突出部2の突出先端部に開閉機構6が設けられていて、開閉機構6は突出部2に対して回動可能な開閉バー6aを有して構成されている。開閉バー6aをスリット3の先端の開口を横断するように船長方向に延在させた状態にすると、スリット3の先端の開口が開閉バー6aによって閉鎖された状態になる。その状態から開閉バー6aを180度回動させて、開閉バー6aをスリット3の先端の開口の外側で船長方向に延在させた状態にすると、スリット3の先端の開口が開口した状態になる。
【0019】
この実施形態ではさらに、突出部2の突出先端側に、係留鎖31をスリット3に誘導するガイド部7が設けられている。この実施形態のガイド部7は、船体21の船端21aから水域側に突出して延在する一対の金属製の板部材7aで構成されている。スリット3の船長方向の一方側と他方側にそれぞれ板部材7aが配設されている。船体21の船側にそれぞれの板部材7aを支持する支持部材8が設けられている。それぞれの支持部材8は船体21の船側に固定されている。支持部材8の上に板部材7aが固定されていて、板部材7aの船体21側の端部は船体21の船端21aに溶接で接合されている。この実施形態では、板部材7aの上に突出部2が配置されている。スリット3の下には板部材7aは配置されていない。
【0020】
ガイド部7には、係留鎖31(鎖素子32)をスリット3の開口に誘導するためのガイド溝7bが形成されている。ガイド溝7bは、スリット3の開口からガイド部7の先端側に向かって開口幅が拡幅する構造になっている。即ち、ガイド部7の先端側の開口幅は、スリット3の開口幅よりも広く設定されている。言い換えると、ガイド溝7bは、ガイド部7の先端側からスリット3の開口に向かってテーパ状に縮小する構造になっている。図4に例示するように、この実施形態では、スリット3の下方の側方に突出部2を補強する一対の補強板9が設けられている。補強板9は上下方向に延在していて、船体21の船側に固定されている。
【0021】
図6に例示するように、突出部2に形成されているスリット3の幅寸法SWは、撤去対象の係留鎖31を構成する鎖素子32の呼び径(線径)dよりも広く、かつ、鎖素子32の外幅Bよりも狭く設定されている。スリット3の幅寸法SWは、撤去対象の係留鎖31を構成する鎖素子32の呼び径dの例えば、1.2倍以上2.5倍以下、より好ましくは1.2倍以上2.0倍以下の広さに設定するとよい。言い換えると、スリット3の幅寸法SWは、鎖素子32の呼び径dよりも1.5cm~15cm程度広い寸法に設定するとよい。
【0022】
次に、保持治具1を使用して、浮体構造物30を係留している係留鎖31を撤去する方法を説明する。
【0023】
図1に例示するように、撤去対象の浮体構造物30の近傍の水域にクレーン22を搭載した船舶20(或いは台船)を停船させる。図1図4に例示するように、船舶20の船体21の船端21aから水域側に突出する突出部2を有する保持治具1を船体21に対して固定しておく。
【0024】
具体的には、この実施形態では、まず、船体21の船側に支持部材8を接合して固定する。次いで、支持部材8の上にガイド部7を構成する板部材7aを配置して、板部材7aを船体21の船端21aと支持部材8とに接合して固定する。次いで、船体21の甲板上に保持治具1を構成する一対の鋼材4の後端側を載置して、突出部2を構成する一対の鋼材4の先端側と開閉機構6を板部材7aの上に載置した状態にする。一対の鋼材4の後端側の複数箇所に固定部5を設けて、一対の鋼材4の後端側を船体21に対して固定する。前述した保持治具1やガイド部7などを船体21に設置する作業は、撤去対象の浮体構造物30の近傍の水域に船舶20を停船させた後に行ってもよいし、船舶20が航行する以前に予め船体21に保持治具1を設置しておいてもよい。
【0025】
次いで、図5に例示するように、クレーン22を使用して係留鎖31の長手方向中途までを水上に吊上げる。最初の吊上げでは、クレーン22から懸下されている吊ワイヤ23の下端に浮体構造物30の吊上げに使用する吊具24を連結する。そして、吊具24と浮体構造物30とを接続し、クレーン22によって浮体構造物30と浮体構造物30に接続されている係留鎖31とを保持治具1の近傍の水上に吊上げた状態にする。開閉機構6の開閉バー6aはスリット3の先端の開口の外側で船長方向に延在させた状態にしておき、スリット3の開口を開口した状態にしておく。
【0026】
次いで、クレーン22を操作して、水上に吊上げている係留鎖31を保持治具1に向けて移動させ、図6に例示するように、保持治具1の突出部2に形成されていて水域側に開口するスリット3に係留鎖31の長手方向中途に位置する1つの鎖素子32を差し込み、その鎖素子32の上に連結されている別の鎖素子32を突出部2に係止させた状態(引っ掛けた状態)にする。この際、船体21上にいる作業者は、保持治具1から離間した安全な場所で待機しておく。
【0027】
この実施形態では、クレーン22を操作して、水上に吊上げた状態の係留鎖31の長手方向中途をガイド部7のガイド溝7bの内側に配置し、係留鎖31の長手方向中途をガイド溝7bに沿ってスリット3の開口側に移動させることで、係留鎖31はスリット3の開口に誘導される。そして、係留鎖31の長手方向中途に位置する1つの鎖素子32がスリット3に差し込まれた状態となり、その鎖素子32の上に連結されている別の鎖素子32が突出部2に係止された状態になる。
【0028】
次いで、図7に例示するように、クレーン22を操作して、突出部2に係止させた鎖素子32よりも先端側(浮体構造物30側)の係留鎖31を船体21上に延在させて載置する。最初の吊上げでは、浮体構造物30を船体21上に載置して、浮体構造物30に接続されている係留鎖31を船体21上に延在させて載置する。そして、突出部2の突出先端部に設けている開閉機構6により、スリット3の開口を閉鎖した状態にする。この実施形態では、作業者が開閉バー6aを180度回動させて、開閉バー6aをスリット3の先端の開口を横断するように船長方向に延在させた状態にすることで、スリット3の開口が閉鎖された状態になる。先端側の係留鎖31を船体21上に載置するまでは、作業者は浮体構造物30や係留鎖31から離間した安全な場所で待機しておき、先端側の係留鎖31を船体21上に載置した後に、開閉機構6を操作することが好ましい。
【0029】
図7に例示するように、この実施形態では、さらに、船体21上に設置している繋止装置10により、係留鎖31の船体21上に延在させている部分を船体21に対して繋ぎ止めた状態にする。繋止装置10の本体は船体21に対して固定されていて、繋止装置10から繰り出している繋止索10aを船体21上に載置している係留鎖31の鎖素子32に連結している。この実施形態では、2台の繋止装置10を設けて、船体21上に延在させている係留鎖31の2カ所を船体21に対して繋ぎ止めた状態にしている。繋止装置10を設ける数や配置は係留鎖31のサイズ等に応じて適宜決定でき、例えば、繋止装置10を1台だけ設けることもできるし、繋止装置10を2台以上設けることもできる。
【0030】
次いで、図8に例示するように、係留鎖31の船体21上に延在させている部分をガス切断などによって切断する。係留鎖31の切断位置は適宜決定できるが、繋止装置10によって繋ぎ止めている位置よりも先端側(船体中央側)の位置で係留鎖31を切断するとよい。以上の作業により、浮体構造物30と、切断位置よりも先端側の係留鎖31とを船体21上に回収して水域から撤去することができる。その後、船体21上に回収した係留鎖31は載置していた位置から別の位置に移動させる。係留鎖31を切断した後にも、切断位置よりも後端側の係留鎖31の一つの鎖素子32が突出部2に係止された状態になっているので、後端側の係留鎖31は水中に落下せずに保持治具1(突出部2)によって保持された状態になる。また、この実施形態では、切断位置よりも後端側の係留鎖31を繋止装置10によって繋ぎ止めた状態にしているので、係留鎖31を切断した時に後端側の係留鎖31が移動することが抑制される。
【0031】
次いで、図9に例示するように、クレーン22から懸下されている吊ワイヤ23の下端に取付ける吊具24を、係留鎖31の吊上げに使用する吊具24に取り替える。そして、切断位置よりも後端側の係留鎖31の先端部の鎖素子32と吊具24とを接続する。その後、開閉機構6を操作してスリット3の開口を開口した状態にする。この実施形態では、作業者が開閉バー6aを180度回動させて、開閉バー6aをスリット3の先端の開口の外側で船長方向に延在させた状態にすることで、スリット3の開口が開口された状態になる。その後、繋止装置10から繰り出している繋止索10aと船体21上に載置している後端側の係留鎖31の鎖素子32との連結を解除する。開閉機構6の操作と、繋止索10aと鎖素子32との連結の解除を終えた作業者は、切断位置よりも後端側の係留鎖31から離れた安全な場所に退避する。
【0032】
次いで、クレーン22により切断位置よりも後端側の係留鎖31を吊り上げた状態とし、クレーン22を操作して、吊上げている係留鎖31を突出部2から離間する方向に移動させることで、突出部2に係止されていた鎖素子32を突出部2から取外した状態にする。そして、図10に例示するように、クレーン22により、係留錘33に接続されている係留鎖31の長手方向中途までを水上に吊上げた状態にする。その後は、前述した方法と同様の作業手順で、スリット3に係留鎖31を差し込み突出部2に係止させる作業と、突出部2に係止させた鎖素子32よりも先端側の係留鎖31を船体21上に延在させて載置する作業と、係留鎖31の船体21上に延在させている部分を切断する作業とを順次行うことで、係留鎖31の長手方向中途部分を船体21上に回収して水域から撤去する。
【0033】
前述した一連の作業を、係留錘33に接続されている係留鎖31の長さがある程度短くなるまで繰り返し行う。そして、図11に例示するように、最終的には、クレーン22により切断位置よりも後端側の係留鎖31と係留錘33を船体21上に引き上げて回収することで、浮体構造物30、係留鎖31および係留錘33の撤去が完了する。
【0034】
このように、本発明によれば、船舶20や台船の船体21の船端21aに突出部2を有する保持治具1を固定しておくことで、クレーン22を使用して係留鎖31の長手方向中途までを水上に吊上げ、突出部2に形成されているスリット3に係留鎖31の長手方向中途に位置する1つの鎖素子32を差し込み、その鎖素子32の上に連結されている別の鎖素子32を突出部2に係止させることで、係留鎖31を保持治具1(突出部2)で保持した状態にできる。この作業は、吊上げた状態の係留鎖31に作業者が近づく必要がなく、クレーン22の操作で容易に安全に行うことができる。
【0035】
その後は、突出部2に係止させた鎖素子32よりも先端側の係留鎖31を船体21上に延在させて載置し、その係留鎖31の船体21上に延在させている部分を切断することで、船体21上において係留鎖31の切断作業を容易に安全に行うことができる。係留鎖31の長手方向中途は保持治具1に保持されているので、係留鎖31を切断した際に、切断位置よりも後端側の係留鎖31が水中に落下することはない。それ故、切断位置よりも後端側の係留鎖31にクレーン22の吊具24を連結する作業も船体21上で容易に安全に行うことができる。切断位置よりも後端側の係留鎖31は保持治具1に保持されているので、切断位置よりも後端側の係留鎖31をクレーン22により船体21上に引き上げる作業も容易に効率よく行うことができる。このように、保持治具1は比較的簡素な構成でありながら、保持治具1を使用することで、浮体構造物30を係留している係留鎖31を安全に効率よく撤去できるので非常に有用である。
【0036】
この実施形態のように、保持治具1を、間隔をあけて配置した一対の鋼材4で構成すると、保持治具1を非常に簡素に構成できる。突出部2のスリット3の幅寸法SWを、撤去対象の係留鎖31を構成する鎖素子32の呼び径dの1.2倍以上2.0倍以下の広さに設定すると、鎖素子32をスリット3に円滑に差し込みやすくなり、スリット3に差し込まれている鎖素子32の上に連結されている別の鎖素子32がスリット3から下方に落下するリスクも非常に低くなる。
【0037】
なお、保持治具1は、船体21の船端21aから水域側に突出していて係留鎖31を係止可能な突出部2と、突出部2に形成されていて係留鎖31の鎖素子32を差し込み可能なスリット3とを有していればよく、保持治具1の構成は上記で例示した実施形態の構成に限らず、他にも様々な構成にすることができる。例えば、保持治具1は、スリット3が形成されている板状部材で構成することもできる。
【0038】
この実施形態のように、開閉機構6を設けて、突出部2のスリット3に係留鎖31の1つの鎖素子32を差し込んだ後に、開閉機構6によりスリット3の開口を閉鎖した状態にすると、係留鎖31の長手方向中途が突出部2から外れることをより確実に防ぐことができる。それ故、開閉機構6を設けることで、係留鎖31の撤去作業の安全性がより高くなる。この実施形態のように、開閉機構6を回動可能な開閉バー6aで構成すると、開閉機構6を非常に簡素に構成できる。この実施形態では、開閉機構6を作業者が手動で操作する場合を例示したが、例えば、開閉機構6をリモートコントローラで遠隔操作する構成にすることもできる。開閉機構6を遠隔操作できる構成にすると、作業者の安全性を高めるにはより有利になる。
【0039】
開閉機構6は、スリット3の開口を開口した状態と閉鎖した状態とに切り換えられる構成であればよく、開閉機構6の構造は上記で例示した実施形態の構成に限らず、他にも様々な構成にすることができる。なお、本発明の保持治具1では、スリット3に係留鎖31の1つの鎖素子32を差し込んで、その鎖素子32の上に連結されている別の鎖素子32を突出部2に係止させた状態にすると、係留鎖31の長手方向中途は突出部2から外れ難い状態になるので、開閉機構6を設けない場合にも、係留鎖31の撤去作業を安全に行うことは可能である。それ故、本発明では、開閉機構6は必要に応じて任意に設けることができる。
【0040】
この実施形態のように、突出部2の突出先端側に、係留鎖31をスリット3に誘導するガイド部7を設けておくと、クレーン22によって水上に吊上げた状態の係留鎖31の鎖素子32をスリット3に差し込む作業の効率性を高めるには有利になる。この実施形態のように、ガイド部7を、ガイド溝7bが設けられた板部材7aで構成するとガイド部7を非常に簡素に構成できる。また、この実施形態のように、ガイド部7を構成する板部材7aを支持部材8によって支持した構造にすると、作業者が板部材7aの上に乗った状態で開閉機構6の操作を行うことが可能になるので、撤去作業の作業性を高めるには有利になる。
【0041】
なお、ガイド部7は、係留鎖31をスリット3に誘導できる構成であればよく、ガイド部7の構造や形状は、上記で例示した実施形態の構成に限定されず、他にも様々な構成にすることができる。本発明では、ガイド部7は必要に応じて任意に設けることができる。
【0042】
この実施形態のように、先端側の係留鎖31を船体21上に延在させて載置した後に、船体21上に設置している繋止装置10により、係留鎖31の船体21上に延在させている部分を船体21に対して繋ぎ止めた状態とし、その後に、係留鎖31の船体21上に延在させている部分を切断すると、係留鎖31の切断作業をより安全に行うには有利になる。係留鎖31を切断する際に、切断位置よりも後端側の係留鎖31を繋止装置10によって繋ぎ止めた状態にしておくと、切断後の後端側の係留鎖31の移動を繋止装置10によってより確実に抑制できるので、係留鎖31の切断作業を安全に行うにはより一層有利になる。繋止装置10により、係留鎖31の船体21上に延在させている部分を船体21に対して繋ぎ止めた状態にすることで、保持治具1の突出部2にかかる負荷も低減できる。
【0043】
なお、本発明の保持治具1では、係留鎖31の鎖素子32を突出部2に係止させた状態にすると、係留鎖31の長手方向中途は突出部2から外れ難い状態になるので、繋止装置10を使用しない場合にも、係留鎖31の撤去作業を安全に行うことは可能である。それ故、本発明では、繋止装置10は必要に応じて任意に設けることができる。
【0044】
上記で例示した実施形態では、浮体構造物30に1本の係留鎖31が接続されている場合を例示したが、例えば、浮体構造物30に複数本の係留鎖31が接続されている場合にも、同様に保持治具1を使用して複数本の係留鎖31を撤去できる。具体的には、例えば、1つの保持治具1を使用して複数本の係留鎖31を撤去する場合には、まず、複数本の係留鎖31のうちの1本の係留鎖31を保持治具1の突出部2に係止させた状態にして、浮体構造物30と突出部2に係止させている係留鎖31を船体21上に延在させて載置した状態にする。この際、浮体構造物30に接続されているその他の係留鎖31の先端側も船体21上に載置した状態にする。
【0045】
そして、上述した作業手順と同様の手順で1本目の係留鎖31とその係留鎖31に接続されている係留錘33を船体21上に回収する。その後、浮体構造物30に接続されていて船体21上に載置されている2本目の係留鎖31の長手方向中途にクレーン22の吊具24を接続した状態とし、吊具24を接続した鎖素子32よりも先端側(浮体構造物30)の鎖素子32を切断する。そして、吊具24を接続した鎖素子32よりも後端側(係留錘33側)の係留鎖31をクレーン22によって保持治具1の近傍に吊上げて、その2本目の係留鎖31の長手方向中途を保持治具1の突出部2に係止させた状態にする。その後は、上述した作業手順と同様の手順で2本目の係留鎖31とその係留鎖31に接続されている係留錘33を船体21上に回収する。前述した作業を繰り返すことで、浮体構造物30に複数本の係留鎖31が接続されている場合にも、1つの保持治具1で複数本の係留鎖31を安全に効率よく撤去できる。なお、例えば、船体21に複数の保持治具1を設けて、それぞれの保持治具1を使用して、複数本の係留鎖31の回収および撤去を並行して行うこともできる。
【0046】
上記で例示した実施形態では、保持治具1を設けた船体21上に搭載されているクレーン22を使用して係留鎖31を吊り上げる場合を例示したが、例えば、保持治具1を設けた船体21とは別の船体21に搭載されているクレーン22や水上構造体に搭載されているクレーン22を使用して係留鎖31を吊り上げることもできる。
【符号の説明】
【0047】
1 保持治具
2 突出部
3 スリット
4 鋼材
5 固定部
6 開閉機構
6a 開閉バー
7 ガイド部
7a 板部材
7b ガイド溝
8 支持部材
9 補強板
10 繋止装置
10a 繋止索
20 船舶
21 船体
21a 船端
22 クレーン
23 吊ワイヤ
24 吊具
30 浮体構造物
31 係留鎖
32 鎖素子
33 係留錘
図1
図2
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