(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025025454
(43)【公開日】2025-02-21
(54)【発明の名称】筆記具用水性インク組成物および筆記具
(51)【国際特許分類】
C09D 11/17 20140101AFI20250214BHJP
B43K 7/00 20060101ALI20250214BHJP
B43K 8/02 20060101ALI20250214BHJP
【FI】
C09D11/17
B43K7/00
B43K8/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023130227
(22)【出願日】2023-08-09
(71)【出願人】
【識別番号】000005957
【氏名又は名称】三菱鉛筆株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101878
【弁理士】
【氏名又は名称】木下 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100187506
【弁理士】
【氏名又は名称】澤田 優子
(72)【発明者】
【氏名】村田 達哉
(72)【発明者】
【氏名】遠見 英明
(72)【発明者】
【氏名】荻原 拓己
【テーマコード(参考)】
2C350
4J039
【Fターム(参考)】
2C350GA03
2C350GA04
4J039AD03
4J039AD09
4J039AD14
4J039BA02
4J039BC01
4J039BC07
4J039BC10
4J039BC13
4J039BC20
4J039BE01
4J039BE12
4J039BE16
4J039BE22
4J039BE23
4J039CA06
4J039EA41
4J039EA42
4J039EA47
4J039GA26
4J039GA27
(57)【要約】
【課題】炭素黒色顔料の分散性を向上させることにより、高い印字濃度を維持しながら、紙面を裏抜けしにくい、高い隠蔽性と低光沢性を備えた筆記具用水性インク組成物を提供する。
【解決手段】少なくとも、植物由来の炭素黒色顔料と、分散剤と、増粘剤と、水溶性有機溶剤と、水とを含む水性インク組成物であって、前記植物由来の炭素黒色顔料が、比表面積10~1400m2/g、メジアン径0.9~6.0μmの粒子でかつ、ラマンスペクトルにおけるDバンド(1350cm-1)とGバンド(1582cm-1)の強度比(G/D)が0.9~2.0であり、前記分散剤が、スチレン・アクリル酸樹脂系の水溶性高分子、スチレン・マレイン酸樹脂系の水溶性高分子、およびノニオン系界面活性剤から選ばれる少なくとも1種であり、前記水性インク組成物の25℃における表面張力が30~60mN/mである筆記具用水性インク組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、植物由来の炭素黒色顔料と、分散剤と、増粘剤と、水溶性有機溶剤と、水とを含む水性インク組成物であって、
前記植物由来の炭素黒色顔料が、比表面積10~1400m2/g、メジアン径0.9~6.0μmの粒子でかつ、ラマンスペクトルにおけるDバンド(1350cm-1)とGバンド(1582cm-1)の強度比(G/D)が0.9~2.0であり、
前記分散剤が、スチレン・アクリル酸樹脂系の水溶性高分子、スチレン・マレイン酸樹脂系の水溶性高分子、およびノニオン系界面活性剤から選ばれる少なくとも1種であり、
前記水性インク組成物の25℃における表面張力が30~60mN/mである筆記具用水性インク組成物。
【請求項2】
25℃における383sec-1の粘度が1~100mPa・s、かつ、粘性指数n値が0.1~0.8であり、
前記水溶性有機溶剤が芳香族類、アルコール類、多価アルコール類、グリコールエーテル類、炭化水素類およびエステル類からなる群より選択される少なくとも一種である、請求項1に記載の筆記具用水性インク組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載の筆記具用水性インク組成物を搭載した筆記具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物由来の炭素黒色顔料を用いた筆記具用水性インク組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素黒色顔料を使用したインク組成物としては、墨汁の用途の他に、カーボンブラックやその他の黒鉛を含むボールペン(油性・水性)、万年筆、またはインクジェットプリンター用のインクが知られている。
【0003】
一方、環境に配慮した資材を用いた色材として、竹を焼成して得られる竹炭を用いたインク組成物も報告されている。例えば、竹炭とバインダー樹脂とを含む印刷インクでは、竹は木炭に比べて微細な孔が隙間なく並んだハニカム構造を有しており、バインダー樹脂が微細な孔の入口付近や内部に入り込むため、インクの隠蔽性が高いこと、また、竹炭は木炭に比べてガラス状に固まるため、バインダー樹脂が竹炭をコーティングした状態になるため、良好な絶縁性が得られることを報告している(特許文献1、2)。
【0004】
インクジェットインクの場合、色材の粒径が小さいと、水や溶媒の揮発に起因して、増粘やゲル化が生じて粘度変化が生じる。一方、色材の粒径が大きいと、インクが吐出する際にノズル詰まりを起こすことがある。特許文献3では、水と、植物由来の炭化色材と、リグニン樹脂とを用いることにより、炭化色材同士の凝集をリグニン樹脂が阻害し、増粘やゲル化の発生を抑制することを報告している。
【0005】
着色剤として、カーボンブラックを用いた水性インク組成物としては、一般式(I):[-CH2CR1(COO(CH2CH2O)nAr)-]で表される水不溶性樹脂によって被覆された、BET法による比表面積が200m2/g以上300m2/g未満のカーボンブラックと、有機溶媒と、中和剤と、水とを含有する水性インク組成物において、水不溶性樹脂を構成する親水性構造単位および疎水性構造単位のうち、親水性構造単位の量を15質量%以下とすることで、顔料の分散などの諸性能が向上し、インクジェット記録時に良好なインク吐出性が得られる(特許文献4)。
【0006】
その他、色材としてカーボンブラックと、分散剤としてポリビニルブチラール樹脂と、一般式(I):C6H5O(C2H4O)nHまたは一般式(II):C6H5CH2O(C2H4O)nHで表される有機溶剤から選ばれる少なくとも一種とを含む油性ボールペン用インク組成物も報告されている(特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2018-193543号公報
【特許文献2】特開2018-193414号公報
【特許文献3】特開2022-167623号公報
【特許文献4】特開2009-221326号公報
【特許文献5】特開2002-275406号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、カーボンブラック等の炭素系色材は沈降しやすいため、良好な印字濃度を維持し、筆記時のインク流出性を維持するため、インク中でのカーボンブラックの分散性を向上させる必要がある。
本発明は、炭素黒色顔料の分散性を向上させて、高い印字濃度を維持しながら、紙面を裏抜けしにくく隠蔽性があり、かつ、低光沢性の筆記具用水性インク組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の筆記具用水性インク組成物は、少なくとも、植物由来の炭素黒色顔料と、分散剤と、増粘剤と、水溶性有機溶剤と、水とを含み、前記植物由来の炭素黒色顔料が、比表面積10~1400m2/g、メジアン径0.9~6.0μmの粒子でかつ、ラマンスペクトルにおけるDバンド(1350cm-1)とGバンド(1582cm-1)の強度比(G/D)が0.9~2.0であり、前記分散剤が、スチレン・アクリル酸樹脂系の水溶性高分子、スチレン・マレイン酸樹脂系の水溶性高分子、およびノニオン系界面活性剤から選ばれる少なくとも1種であり、前記水性インク組成物の25℃における表面張力が30~60mN/mであることを特徴とする。
【0010】
測定温度25℃におけるずり速度383sec-1の粘度は1~100mPa・s、かつ、粘性指数n値は0.1~0.8であることが好ましい。
本発明の筆記具は、前記筆記具用水性インク組成物を搭載したものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の筆記具用水性インク組成物は、分散性の高い炭素黒色顔料を使用するため、高い印字濃度を維持することができる。さらに、前記水性インク組成物は、紙面を裏抜けしにくく隠蔽性があり、かつ、低光沢で黒色度が高いため、視認性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の筆記具用水性インク組成物について、詳細に説明する。
本発明の筆記具用水性インク組成物(以下単に「水性インク組成物」ともいう。)は、少なくとも、植物由来の炭素黒色顔料と、分散剤と、増粘剤と、水溶性有機溶剤と、水とを含み、前記植物由来の炭素黒色顔料が、比表面積10~1400m2/g、メジアン径0.9~6.0μmの粒子でかつ、ラマンスペクトルにおけるDバンド(1350cm-1)とGバンド(1582cm-1)の強度比(G/D)が0.9~2.0であり、前記分散剤が、スチレン・アクリル酸樹脂系の水溶性高分子、スチレン・マレイン酸樹脂系の水溶性高分子、およびノニオン系界面活性剤から選ばれる少なくとも1種であり、前記水性インク組成物の25℃における表面張力が30~60mN/mである。
【0013】
植物由来の炭素黒色顔料は、例えば、竹や木などの植物を250℃以上の温度で炭焼きして得られた炭化色材である。植物由来の炭素黒色顔料を用いた本発明の水性インク組成物は、発色性に優れており、添加物など他の成分を配合したときにも、粘度変化を抑制する効果を有する。
【0014】
植物由来の炭素黒色顔料には、特に制限はないが、例えば、黒炭、白炭、オガ炭、竹炭および粉炭等の木炭が用いられる。これらのうち、竹炭や、備長炭に代表される白炭が好ましい。竹を原料とする竹炭はそれ以外の木炭よりも微細な孔を多く有する。また、竹炭は木炭よりもガラス状物質を多く含むため、バインダー樹脂との濡れが木炭よりも良好となり、水性インクの隠蔽性を向上させる効果を有する。
【0015】
前記植物由来の炭素黒色顔料は、比表面積10~1400m2/g、メジアン径0.9~6.0μmの粒子であり、好ましくは、比表面積10~1400m2/g、メジアン径0.9~6.0μmの粒子であり、前記植物由来の炭素黒色顔料の粒子の形状は、板状、球状、鱗片状、塊状、不定形状、棒状等、いずれの形状であってもよい。比表面積が10m2/g以上であると、光を乱反射することで、低明度・低光沢を発現する点で好ましい。低明度・低光沢を発現する、より好ましい比表面積は25m2/g以上である。水性インク組成物が高い分散性をもつには、前記植物由来の炭素黒色顔料の比表面積を200m2/g以下とすることがより好ましい。ただし、比表面積が1400m2/gを超える過大粒子では、水性インク組成物中で分散性が低下し、顔料として好ましくない。一方、メジアン径が0.9μm以上であると、顔料が紙面上にとどまることで裏抜け防止および隠蔽性を発現する点で好ましく、メジアン径を6.0μm以下にすることで、筆記具に搭載した際のインク流出性に優れる。
【0016】
ここで、比表面積は、窒素吸着によるBET多点法を用いて粒子径と相関づけて測定する。比表面積と粒子径との関係式S=6/ρd(S:比表面積(m2/g)、ρ:密度(g/cm3)、d:粒子径(μm))が表すとおり、比表面積が大きいほど、粒子は小さくなる。前記植物由来の炭素黒色顔料は、比表面積25~200m2/g、メジアン径0.9~5.0μmの粒子であることが好ましい。なお、本明細書でいうメジアン径とは、粒度分布計〔マイクロトラックHRA9320-X100(日機装(株)製)〕にて測定した、体積基準におけるメジアン径(D50)をいう。
【0017】
前記植物由来の炭素黒色顔料では、比表面積およびメジアン径が所定範囲であることに加えて、ラマンスペクトルにおけるDバンド(1350cm-1)とGバンド(1582cm-1)の強度比(G/D)が0.9~2.0である。ラマン分光法は炭素材料の構造分析に使用される。Dバンドはダイヤモンド構造(sp3結合)に由来するピークであり、Gバンドはグラファイト構造(sp2結合)に由来するピークである。因みに黒鉛のG/Dは13である。Dバンドに対するGバンドの強度の比(G/D)が2.0以下であると、結晶化度が小さく、アモルファス構造に由来する光の乱反射により低明度および低光沢の黒色を発現する点で好ましい。ただし、G/Dが0.9未満になると、脆性が高く、顔料としての使用に適さない。
【0018】
前記植物由来の炭素黒色顔料は、一種または二種以上を組み合わせて用いてもよい。植物由来の炭素黒色顔料の含有量は、水性インク組成物の総量に対して、通常は1.0~15質量%、好ましくは3.0~10質量%、より好ましくは5.0~8.0質量%である。植物由来の炭素黒色顔料の含有量が前記範囲内であるとき、水性インク組成物の粘度調節が容易となり、分散性が良好となる。
【0019】
分散剤は、スチレン・アクリル酸樹脂系の水溶性高分子、スチレン・マレイン酸樹脂系の水溶性高分子、およびノニオン系界面活性剤から選ばれる少なくとも1種である。本発明では分散剤として、スチレン・アクリル酸樹脂系もしくはスチレン・マレイン酸樹脂系の水溶性高分子と、ノニオン系界面活性剤とのうちいずれか一方を用いてもよいし、両方を混合して用いてもよい。
【0020】
スチレン・アクリル酸樹脂系の水溶性高分子は、側鎖にカルボキシル基を有するアルカリ溶解性樹脂である。アルカリ溶解性樹脂は、前記植物由来の炭素黒色顔料を分散させるとともに、描線が乾燥した際の固着性を上げる働きもする。スチレン・アクリル酸樹脂系の水溶性高分子の重量平均分子量(Mw)は、概ね2000~100000である。具体例には、ジョンクリル52J、ジョンクリル57J、ジョンクリル60J、ジョンクリル63J(以上、BASFジャパン(株)製)、およびRS-1191、VS-1047、YS-1274(以上、星光PMC(株)製)などのスチレン・アクリル酸共重合体エマルションが挙げられる。
【0021】
スチレン・マレイン酸樹脂系の水溶性高分子は、水性インク組成物の粘度を調整する働きをするとともに、前記した植物由来の炭素黒色顔料の分散性を向上させる。スチレン・アクリル酸樹脂系の水溶性高分子の重量平均分子量(Mw)は、概ね1000~50000である。具体例としては、アラスター700、アラスター703S(以上、荒川化学工業(株)製)、SMA-1440、SMA-2625、およびSMA-17352(以上、川原油化(株)製)などのスチレン-マレイン酸共重合体エマルションである。
なお、本明細書において、重量平均分子量(Mw)は水系ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によるポリスチレン換算値である。
【0022】
ノニオン系界面活性剤は、例えば、ポリオキシアルキレン高級脂肪酸エステル、多価アルコールの高級脂肪酸部分エステル、および糖の高級脂肪酸エステルが挙げられる。具体的には、グリセリンの脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ペンタエリスリトール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンフィトステロール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル、ポリオキシエチレンヒマシ油、ポリオキシエチレンラノリン、ポリオキシエチレンラノリンアルコール、ポリオキシエチレンアルキルアミン、およびポリオキシエチレン脂肪酸アミド等が挙げられる。エマルゲンA500(ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル、花王(株)製)等の市販品を用いてもよい。
【0023】
分散剤の含有量は、水性インク組成物総量に対して、固形分濃度で、通常は0.2~10質量%、好ましくは0.3~4質量%である。分散剤の含有量が0.2質量%未満であると、水性インク組成物が経時的に不安定となる場合がある。一方、10質量%を超える場合は、水性インク組成物の粘度が高いことがある。
【0024】
増粘剤には、合成高分子、セルロースおよび多糖類が用いられ、一種単独または二種以上組み合わせて使用してよい。具体的には、ポリビニルピロリドン、ポリビニルメチルエーテル、架橋型アクリル酸重合体、セルロースおよびその誘導体、キサンタンガム、レオザンガム、ウェランガム、ジェランガムならびにスクシノグリカン等である。なお、少量で高い粘性を示す増粘剤に代えて、液体のものをゼリー状に固めるゲル化剤を用いてもよい。
前記増粘剤の含有量は、水性インク組成物の総量に対して、通常は0.05~1.0質量%、好ましくは0.1~0.5質量%である。
【0025】
本発明の水性インク組成物は、植物由来の炭素黒色顔料、分散剤および増粘剤が水溶性有機溶剤および水に溶解または細かく分散した形態である。
【0026】
水溶性有機溶剤は、水性インク組成物に通常用いられるものであれば、制限されないが、芳香族類、アルコール類、多価アルコール類、グリコールエーテル類、炭化水素類およびエステル類からなる群より選択される少なくとも一種であることが好ましい。具体的には、水との相溶性の点で、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、3-ブチレングリコール、チオジエチレングリコールおよびグリセリン等のグリコール類;エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテルおよびプロピレングリコールモノメチルエーテル等のグリコールエーテル類;2-ピロリドン、N-メチル-2-ピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、ホルムアミド、アセトアミドおよびジメチルスルホキシド等が挙げられる。
水性インク組成物中、水溶性有機溶剤の含有量は、通常は3~30質量%である。
【0027】
水は、水道水、精製水、蒸留水、イオン交換水および純水等である。
水性インク組成物中、水の含有量は、通常は30~90質量%である。
【0028】
本発明の水性インク組成物は、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の添加剤を含有することができる。添加剤としては、バインダー樹脂、pH調整剤、潤滑剤、濡れ剤、気泡抑制剤、消泡剤、防錆剤、および防腐剤等が挙げられる。
バインダー樹脂は、植物由来の炭素黒色顔料等を紙面に固着させる目的で添加する。具体的には、塩化ビニル・酢酸ビニル共重合樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリオレフィン樹脂、マレイン酸樹脂、フェノール樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、メラミン樹脂、フェノキシ樹脂および活性エネルギー線硬化型樹脂ならびにこれらの変性物が挙げられる。
【0029】
pH調整剤は、例えば、アンモニア、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、尿素、トリポリリン酸ナトリウム、炭酸ナトリウムおよび水酸化ナトリウム等である。pH調整剤を適宜添加することで、本発明の水性インク組成物のpH(25℃)を6~9.5の範囲に調整することが好ましい。
【0030】
潤滑剤は、例えば、リン酸エステル、高級脂肪酸アミドのアルキルスルホン酸塩、およびアルキルアリルスルホン酸塩等のアニオン系界面活性剤;ポリアルキレングリコールの誘導体およびポリエーテル変性シリコーン等が挙げられる。
【0031】
濡れ剤は、例えば、リン酸エステル、フッ素系界面活性剤、アセチレン系界面活性剤、およびシリコーン系界面活性剤等である。濡れ剤は、筆記面上でのインク組成物のはじきを抑制するために使用される。
【0032】
気泡抑制剤は、例えば、システイン、グルタチオン、ヒドロキシルアミン、アスコルビン酸、エリソルビン酸およびこれらの塩、ならびにN-ビニル-2-ピロリドンのオリゴマー等である。
【0033】
消泡剤は、例えば、シリコーン系のエマルション型、オイル型、またはオイルコンパウンド型等があるが、シリコーン系のエマルションを油性溶剤との組み合わせて用いることが好ましい。
【0034】
防錆剤は、例えば、ベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール、ジシクロへキシルアンモニウムナイトライトおよびサポニン類等である。
防腐剤は、例えば、安息香酸ナトリウム、ナトリウムオマジン、チアゾリン系化合物およびベンズイミダゾール系化合物等である。
【0035】
前記した添加剤は一種単独でも二種以上を併用してもよい。
【0036】
本発明の水性インク組成物は、少なくとも、植物由来の炭素黒色顔料と、分散剤と、増粘剤と、水溶性有機溶剤と、水と、他の任意成分とをホモミキサー、ホモジナイザーまたはディスパー等の攪拌機により攪拌混合し、さらに必要に応じて、ろ過や遠心分離によって粗大粒子を除去することによって、調製することができる。
【0037】
前記水性インク組成物の粘度は1~100mPa・sであり、かつ、粘性指数n値は0.1~0.8であることが好ましい。粘度はEMD型粘度計(東京計器(株)製)を用いて、測定温度25℃におけるずり速度383sec-1での測定値である。本発明(後述する実施例等も含む)で規定する粘性指数(n値)は、擬塑性を表す指標をいい、ニュートン・オストワルドの粘度式におけるずり速度と見かけ粘度の関係から算出した値である。各ずり速度における粘度の範囲、粘性指数n値の範囲の調整等は、用いる増粘剤、溶媒となる水、色材などを好適に組み合わせ、これらの各含有量を好適に調整すること、さらに、好適な混練方法などの選択により行うことができる。
【0038】
前記水性インク組成物の表面張力は30~60mN/mであり、好ましくは35~55mN/mである。表面張力は自動表面張力計CBVP-Z(協和界面科学(株)製)を用いて25℃で測定した値である。
【0039】
本発明の筆記具は、前記水性インク組成物を搭載したものである。前記水性インク組成物は、ボールペンチップ、繊維チップ、フェルトチップまたはプラスチックチップ等のペン先部を備えたボールペンまたはマーキングペンに搭載される。例えば、ボールペンの場合、直径0.18~2.0mmのボールを備えたボールペン用インク収容体に前記水性インク組成物を収容し、さらにポリブテン、シリコーンオイルおよび鉱油等をインク追従体として収容する。
なお、ボールペンおよびマーキングペンの構造は、特に限定されず、例えば、軸筒自体をインク収容体として該軸筒内に水性インク組成物を充填したコレクター構造(インク保持機構)を備えた直液式のボールペンおよびマーキングペンであってもよい。
【実施例0040】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに具体的に説明するが、本発明は下記実施例により制限されるものではない。
〔水性インク組成物の調製〕
実施例1~6の水性インク組成物および比較例1~8の水性インクを以下のように調製し、評価した。
〔水性インク組成物の評価〕
(1)インク流出性
ボールペン(三菱鉛筆(株)製;商品名(ユニボールシグノUM-100)のリフィールに水性インク組成物を充填した後、キャップをして25℃、50%RH下でペン先を横向きに置いた。期間1か月放置後、PPC用紙に直線を手書き筆記し、筆記描線を下記基準で評価した。
A:書き始めから難なく筆記できた
B:書き始めから線に若干の掠れや滲み等の不具合がみられた
C:書き始めから描線に顕著な掠れや滲み等の不具合がみられた
【0041】
(2)耐裏抜け性
PPC用紙に手書きで螺旋を筆記後、筆記面の裏側を観察し、描線が裏抜けしているかどうか下記基準で評価した。
A:裏抜けなし
B:若干の裏抜けが確認できる
C:描線の大部分が、裏抜けしている
【0042】
(3)隠蔽性
PPC用紙に手書きで筆記した際の隠蔽性を下記基準で評価した。
A:充分な隠蔽力がある
B:やや隠蔽力が不足している
C:隠蔽力がほとんどない
【0043】
(4)明度L*
水性インク組成物をバーコーターで非塗工紙に展色し、以下の測定条件で、カラーメーターSC-P(スガ試験機(株)製)を用いて、軸筒内のインク貯留体の部材の表面から、明度(明るい・暗い)を評価した。
〔光学条件〕反射測定;拡散光照明 8°受光
JIS Z 8722の条件cに準拠
A:30以下
B:30超40未満
C:40以上
【0044】
(5)60°光沢
JIS Z 8741-1997に準拠して、鏡面光沢度を測定した。以下の基準で60°光沢度を評価した。
A:2以下
B:2超10未満
C:10以上
【0045】
[実施例1]
植物由来の竹炭粉砕材(D50(メジアン径) 0.95μm、比表面積 108.3m2/g、G/D 0.97)5.5質量%、スチレン・アクリル樹脂(商品名 ジョンクリル60J、BASF(株)製、ポリアクリル酸エステル、重量平均分子量9,000)2.0質量%、キサンタンガム0.4質量%、プロピレングリコール15質量%、気泡抑制剤3.0質量%、潤滑剤0.5質量%、pH調整剤1.5質量%、防腐剤0.5質量%および蒸留水71.1質量%を混合して、水性インク組成物を調製した。なお、植物由来の炭素黒色顔料、分散剤、増粘剤、水溶性有機溶剤、添加剤、および蒸留水の合計は100質量%である。
次いで、マーキングペン(商品名ポスカPC-5M;ペン先の材質(PET繊維芯;三菱鉛筆(株)製)用の軸筒内にあるインク貯留体に水性インク組成物を充填し、マーキングペンを作製した。
水性インク組成物のインク流出性、耐裏抜け性、隠蔽性、明度L*、60°光沢を前記した基準に従って評価した。結果を表1に示す。
【0046】
[実施例2~6]
植物由来の炭素黒色顔料、分散剤、増粘剤、水溶性有機溶剤、気泡抑制剤、潤滑剤、pH調整剤、防腐剤および蒸留水を表1に示す割合で混合して、実施例1と同様にして水性インク組成物を調製し、マーキングペンを作製した。
水性インク組成物のインク流出性、耐裏抜け性、隠蔽性、明度L*、60°光沢を前記した基準に従って評価した。結果を表1に示す。
【0047】
[比較例1~8]
炭素黒色顔料、分散剤、増粘剤、水溶性有機溶剤、気泡抑制剤、潤滑剤、pH調整剤、防腐剤および蒸留水を表1に示す割合で混合して、実施例1と同様にして水性インクを調製し、マーキングペンを作製した。
水性インク組成物のインク流出性、耐裏抜け性、隠蔽性、明度L*、60°光沢を前記した基準に従って評価した。結果を表1に示す。
【0048】
比較例1は、顔料として竹炭粉砕材ではなく、D50が0.31μmと小さく、球状のカーボンブラックを使用したこと以外は、実施例1と同様にして水性インクを調製したものであるが、裏抜け性および隠蔽性に劣っていた。また、隠蔽性に劣ることにより、筆記線が透け、下地の紙面光沢の影響を受けるため、筆記線が明るく光沢のある黒色となった。
実施例5において、竹炭粉砕材の代わりに鱗片黒鉛を使用した比較例2と、実施例6において、竹炭粉末の代わりに土状黒鉛を使用した比較例3では、顔料が鱗片または塊状である嵩んだ形状を持つため、裏抜け性および隠蔽性に優れていたが、G/Dが高いため、筆記線が明るく光沢のある黒色となった。
分散剤としてリグニンを用いた比較例4の水性インクは、分散性に劣り、筆記具に搭載したところインク流出性に劣り使用に耐えなかった(評価結果においてC※と表している)。
実施例1に比べて、プロピレングリコールの含有量が3質量%と少ない比較例5の水性インクは、表面張力(測定温度25℃)が62mN/mと高く、インク流出性に劣っていた。
比較例6では、分散剤の量を増やしたところ、表面張力が24mN/mと低くなり描線に滲みが生じた。
水溶性有機溶媒を使用していない比較例7および8の水性インクは、粘度ないしn値がやや高く、インク流出性もBであった。
【0049】