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特開2025-25455時刻同期システム、時刻同期プログラム、及び時刻同期方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025025455
(43)【公開日】2025-02-21
(54)【発明の名称】時刻同期システム、時刻同期プログラム、及び時刻同期方法
(51)【国際特許分類】
   G01H 17/00 20060101AFI20250214BHJP
   G01V 1/30 20060101ALI20250214BHJP
【FI】
G01H17/00 Z
G01V1/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023130230
(22)【出願日】2023-08-09
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.PYTHON
(71)【出願人】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】小寺 健三
【テーマコード(参考)】
2G064
2G105
【Fターム(参考)】
2G064AB01
2G064AB02
2G064AB12
2G064AB19
2G064BA02
2G064CC13
2G064CC17
2G064CC29
2G064CC36
2G064CC43
2G064CC47
2G105AA03
2G105BB01
2G105EE02
2G105MM01
2G105NN02
(57)【要約】
【課題】自由度が高く、かつ簡易な処理又は方法により、複数の振動データ間における時刻同期の精度を確保可能な時刻同期システム、時刻同期プログラム、及び時刻同期方法を提供する。
【解決手段】時刻同期システムは、振動が生じる構造物の別個の位置において取得される第1振動データ及び第2振動データを用いて、第1振動データと第2振動データとの間の時刻を同期させる。時刻同期システムは、第1振動データと第2振動データとの間の時間ずれの推定に用いられ、時間ずれの複数の仮推定値のうちの1つを各々が含む複数の推定伝達関数を順次算出し、時間ずれの複数の仮推定値のうち、推定伝達関数における位相値が0度及び180度の二値の方向に最も集中する前記時間ずれの仮推定値を、時刻を同期させるための第1最適値として決定する演算部を備える。時刻同期プログラム及び時刻同期方法は、上述に対応する構成を有する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動が生じる構造物の別個の位置において取得される第1振動データ及び第2振動データを用いて、前記第1振動データと前記第2振動データとの間の時刻を同期させる時刻同期システムであって、
前記第1振動データと前記第2振動データとの間の時間ずれの推定に用いられ、前記時間ずれの複数の仮推定値のうちの1つを各々が含む複数の推定伝達関数を順次算出し、
前記時間ずれの複数の仮推定値のうち、前記推定伝達関数における位相値が0度及び180度の二値の方向に最も集中する前記時間ずれの仮推定値を、前記時刻を同期させるための第1最適値として決定する
演算部を備える
時刻同期システム。
【請求項2】
前記演算部は、
前記第1最適値に基づき、前記第1振動データと前記第2振動データとの間の前記時刻を同期させ、
前記時刻を同期させた後の前記第1振動データと、前記時刻を同期させた後の前記第2振動データとの間のコヒーレンス値を算出し、
前記コヒーレンス値を用いて、複数の前記推定伝達関数における位相値を重みづけし、
前記時間ずれの複数の仮推定値のうち、前記位相値が0度及び180度の二値の方向に最も集中する前記時間ずれの仮推定値を、前記時刻を同期させるための第2最適値として決定する
請求項1に記載の時刻同期システム。
【請求項3】
振動が生じる構造物の別個の位置において取得される第1振動データ及び第2振動データを用いて、前記第1振動データと前記第2振動データとの間の時刻を同期させる時刻同期プログラムであって、
前記第1振動データと前記第2振動データとの間の時間ずれの推定に用いられ、前記時間ずれの複数の仮推定値のうちの1つを各々が含む複数の推定伝達関数を順次算出し、
前記時間ずれの複数の仮推定値のうち、前記推定伝達関数における位相値が0度及び180度の二値の方向に最も集中する前記時間ずれの仮推定値を、前記時刻を同期させるための第1最適値として決定する
時刻同期プログラム。
【請求項4】
振動が生じる構造物の別個の位置において取得される第1振動データ及び第2振動データを用いて、前記第1振動データと前記第2振動データとの間の時刻を同期させる時刻同期方法であって、
前記第1振動データと前記第2振動データとの間の時間ずれの推定に用いられ、前記時間ずれの複数の仮推定値のうちの1つを各々が含む複数の推定伝達関数を順次算出する工程と、
前記時間ずれの複数の仮推定値のうち、前記推定伝達関数における位相値が0度及び180度の二値の方向に最も集中する前記時間ずれの仮推定値を、前記時刻を同期させるための第1最適値として決定する工程と
を含む
時刻同期方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動が生じる構造物において取得された複数の振動データ間の時刻を同期させるための時刻同期システム、時刻同期プログラム、及び時刻同期方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地震動等の振動が生じる建築構造物等の構造物に、振動を計測する複数の振動センサを設置する場合、複数の振動センサで取得される振動データの正確な解析を行うために、複数の振動センサ同士の時刻を同期させる必要がある。振動センサを搭載したセンサユニットには、振動が生じた時刻を特定するための内蔵時計が搭載されているが、内蔵時計の精度は高くなく、内蔵時計の時刻は時間経過とともにずれが生じる。内蔵時計の時刻を調整する方法としては、例えば、複数のセンサユニットを有線接続又は無線接続した通信環境を構築し、GPS(Global Positioning System)サーバ若しくはNTP(Network Time Protocol)サーバ、又は標準電波の送信局から送信される原子時計等を用いて、時刻調整を行う方法がある。
【0003】
しかしながら、有線接続又は無線接続により時刻調整を行う場合、電波障害、通信遅延等の通信環境の問題によって、高精度な時刻調整が担保されない場合がある。また、原子力発電所の建屋、又はスタジオ、MRI(Magnetic Resonance Image)室、若しくは実験室等の壁、床、若しくは天井等を電磁シールド構造とした空間のように、有線接続又は無線接続を問わず、通信環境を構築すること自体が困難な構造物も存在する。
【0004】
また、好適な通信環境を構造物に構築することが可能である場合でも、GPS等を受信するための装置等をセンサユニットに組み込むと、センサユニットにおける消費電力が大きくなる。そのため、センサユニットにおける外部電源の確保又は内部バッテリーの大容量化が必要となり、センサユニットの大型化又は運用コスト上昇に繋がる。また、有線接続においては配線工事が必要になる、無線接続においてはセンサ以外の親機、又は通信状況に応じた中継器が必要になるなど、センサ間を相互に接続することに伴うコストが発生する。
【0005】
したがって、振動データの解析においては、有線接続又は無線接続が可能であるか否かを問わず、振動データを取得した後に、複数の振動データの時刻同期を行う方法が、多く採用されている(例えば、特許文献1~3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007-327873号公報
【特許文献2】特開2018-091824号公報
【特許文献3】特開2018-100875号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1においては、複数の地震計によって取得された地震記録データの立ち上がり部分の波形を抽出し、立ち上がり部分波形を相互に比較して時間ずれを算出し、各々の地震記録データの間の時刻同期を行う方法が開示されている。
【0008】
しかしながら、特許文献1においては、振動の立ち上がり部分の記録が必須であり、何らかの原因で振動の立ち上がり部分の記録ができなかった場合には、時刻の同期に支障をきたすことがある。また、地震記録データの立ち上がり部分の波形しか使用しないため、短い波形で時刻同期計算を行わねばならず、精度確保の面で改善の余地がある。さらに、地震記録データから立ち上がり部分波形を抽出する範囲の設定長さによって、時刻同期の結果が異なる可能性がある。
【0009】
また、特許文献2においては、入力側の第1振動波形データと出力側の第2振動波形データとの間の時間ずれを、第1振動波形データと第2振動波形データとの間の伝達関数を用いて算出する方法が開示されている。特許文献2においては、第2振動波形データから伝達関数の影響を除去した第3振動波形データと、第1振動波形データとの相関に基づいて、第1振動波形データと第2振動波形データとの間の時間ずれが算出される。
【0010】
しかしながら、特許文献2においては、第1振動波形データを取得する第1振動計は、振動源側に設置される必要があるため、第1振動計と、第2振動波形データを取得する第2振動計との位置関係が限定される。
【0011】
また、特許文献2においては、振動計の設置された構造物が、1質点系と見なすことが可能な木造住宅などの単純な構造物である場合において、1質点系の伝達関数の理論式を用いて構造物を近似した伝達関数の算出方法が開示されている。さらに、特許文献2においては、振動計の設置された構造物が1質点系以外の振動モデル、例えば、多質点系の振動モデルとみなされるような複雑な構造物である場合における伝達関数の算出方法についても開示されている。
【0012】
しかしながら、振動計の設置された構造物が1質点系以外の振動モデルとみなされるような複雑な構造物である場合、有限要素法等による複雑な構造物モデルを用意することが必要となるため、伝達関数の算出に多大な時間及び労力がかかる。また、伝達関数の精度は作成した構造物モデルの精度によるため、構造物のモデル化作業が時刻同期の結果に影響を与える可能性がある。したがって、特許文献2の構造物が1質点系以外の振動モデルである場合、伝達関数の算出が困難であり、伝達関数が算出されたとしても、時刻同期の精度を確保できない可能性がある。
【0013】
また、特許文献3には、第1加速度データと第2加速度データとの間の相関係数を算出し、相関係数に基づいて、第1加速度データと第2加速度データとの間の時間ずれを補正する方法が開示されている。
【0014】
しかしながら、特許文献3は、1次固有振動数が大きく、1質点系の振動モデルとみなすことが可能な低層の木造建物を対象としたものであるため、1次固有振動数が小さく、多質点系の振動モデルとみなされるような構造物においては、時刻同期の精度を確保できない可能性がある。
【0015】
本発明は、上述の課題を解決するものであり、自由度が高く、かつ簡易な処理又は方法により、複数の振動データ間における時刻同期の精度を確保可能な時刻同期システム、時刻同期プログラム、及び時刻同期方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の時刻同期システムは、振動が生じる構造物の別個の位置において取得される第1振動データ及び第2振動データを用いて、前記第1振動データと前記第2振動データとの間の時刻を同期させる時刻同期システムであって、前記第1振動データと前記第2振動データとの間の時間ずれの推定に用いられ、前記時間ずれの複数の仮推定値のうちの1つを各々が含む複数の推定伝達関数を順次算出し、前記時間ずれの複数の仮推定値のうち、前記推定伝達関数における位相値が0度及び180度の二値の方向に最も集中する前記時間ずれの仮推定値を、前記時刻を同期させるための第1最適値として決定する演算部を備える。
【0017】
本発明の時刻同期システムによれば、基準となる振動データを定めることなく、構造物の任意の2点の振動データを用いて時刻の同期を行うことができる。また、本発明の時刻同期システムによれば、構造物の既知の振動モデルに拘束されることなく、複数の振動データ間の時刻の同期を行うことができる。したがって、本発明の時刻同期システムによれば、自由度の高い振動データ間の時刻の同期を高精度に実現できる。
【0018】
また、本発明の時刻同期システムによれば、取得した第1振動データ及び第2振動データの全体を利用して、第1振動データと第2振動データとの間の時刻の同期を行うことができる。したがって、本発明の時刻同期システムによれば、波形の立ち上がり部分、低次の固有周波数以下の周波数帯域、又は共振周波数等の振動データの特定の部分を用いることなく、自動的に振動データ間の時刻の同期を行うことができるため、簡易に振動データ間の時刻の同期を高精度に行うことができる。
【0019】
本発明の一態様において、前記演算部は、前記第1最適値に基づき、前記第1振動データと前記第2振動データとの間の前記時刻を同期させ、前記時刻を同期させた後の前記第1振動データと、前記時刻を同期させた後の前記第2振動データとの間のコヒーレンス値を算出し、前記コヒーレンス値を用いて、複数の前記推定伝達関数における位相値を重みづけし、前記時間ずれの複数の仮推定値のうち、前記位相値が0度及び180度の二値の方向に最も集中する前記時間ずれの仮推定値を、前記時刻を同期させるための第2最適値として決定する。
【0020】
本発明の一態様によれば、時間ずれの真の推定値をより精度よく決定できる。
【0021】
また、本発明の時刻同期プログラムは、振動が生じる構造物の別個の位置において取得される第1振動データ及び第2振動データを用いて、前記第1振動データと前記第2振動データとの間の時刻を同期させる時刻同期プログラムであって、前記第1振動データと前記第2振動データとの間の時間ずれの推定に用いられ、前記時間ずれの複数の仮推定値のうちの1つを各々が含む複数の推定伝達関数を順次算出し、前記時間ずれの複数の仮推定値のうち、前記推定伝達関数における位相値が0度及び180度の二値の方向に最も集中する前記時間ずれの仮推定値を、前記時刻を同期させるための第1最適値として決定する。
【0022】
本発明の時刻同期プログラムによれば、基準となる振動データを定めることなく、構造物の任意の2点の振動データを用いて時刻の同期を行うことができる。また、本発明の時刻同期システムによれば、構造物の既知の振動モデルに拘束されることなく、振動データ間の時刻の同期を行うことができる。したがって、本発明の時刻同期システムによれば、自由度の高い振動データ間の時刻の同期を高精度に実現できる。
【0023】
また、本発明の時刻同期プログラムによれば、取得した第1振動データ及び第2振動データの全体を利用して、第1振動データと第2振動データとの間の時刻の同期を行うことができる。したがって、本発明の時刻同期システムによれば、波形の立ち上がり部分、低次の固有周波数以下の周波数帯域、又は共振周波数等の振動データの特定の部分を用いることなく、自動的に振動データ間の時刻の同期を行うことができるため、簡易に振動データ間の時刻の同期を高精度に行うことができる。
【0024】
また、本発明の時刻同期方法は、振動が生じる構造物の別個の位置において取得される第1振動データ及び第2振動データを用いて、前記第1振動データと前記第2振動データとの間の時刻を同期させる時刻同期方法であって、前記第1振動データと前記第2振動データとの間の時間ずれの推定に用いられ、前記時間ずれの複数の仮推定値のうちの1つを各々が含む複数の推定伝達関数を順次算出する工程と、前記時間ずれの複数の仮推定値のうち、前記推定伝達関数における位相値が0度及び180度の二値の方向に最も集中する前記時間ずれの仮推定値を、前記時刻を同期させるための第1最適値として決定する工程とを含む。
【0025】
本発明の時刻同期方法によれば、基準となる振動データを定めることなく、構造物の任意の2点の振動データを用いて時刻の同期を行うことができる。また、本発明の時刻同期システムによれば、構造物の既知の振動モデルに拘束されることなく、振動データ間の時刻の同期を行うことができる。したがって、本発明の時刻同期システムによれば、自由度の高い振動データ間の時刻の同期を高精度に実現できる。
【0026】
また、本発明の時刻同期方法によれば、取得した第1振動データ及び第2振動データの全体を利用して、第1振動データと第2振動データとの間の時刻の同期を行うことができる。したがって、本発明の時刻同期システムによれば、波形の立ち上がり部分、低次の固有周波数以下の周波数帯域、又は共振周波数等の振動データの特定の部分を用いることなく、自動的に振動データ間の時刻の同期を行うことができるため、簡易に振動データ間の時刻の同期を高精度に行うことができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、自由度が高く、かつ簡易な処理又は方法によって、複数の振動データ間の時刻同期の精度を確保することが可能な時刻同期システム、時刻同期プログラム、及び時刻同期方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1図1は、本発明の実施形態に係る時刻同期システムと、構造物に設置されたセンサユニットとの関係の一例を示した全体図である。
図2図2は、本発明の実施形態に係る時刻同期システム及びセンサユニットの機能的なブロックの一例を示した概略図である。
図3図3は、実際の振動データを用いたシミュレーションによる、第1振動データと第2振動データとの関係を表わす伝達関数の特性を示したグラフである。図3(a)は、第1振動データと第2振動データとの間の時間ずれがない場合の、振動数(Hz)に対する伝達関数の増幅を示したグラフであり、横軸は振動数(Hz)を示し、縦軸は伝達関数の増幅を示している。図3(b)は、第1振動データと第2振動データとの間の時間ずれがない場合の、振動数(Hz)に対する伝達関数の位相を示したグラフであり、横軸は振動数(Hz)を示し、縦軸は伝達関数の位相を角度で示している。図3(c)は、第1振動データと第2振動データとの間の時間ずれが1秒である場合の、振動数(Hz)に対する伝達関数の増幅を示したグラフであり、横軸は振動数(Hz)を示し、縦軸は伝達関数の増幅を示している。図3(d)は、第1振動データと第2振動データとの間の時間ずれが1秒である場合の、振動数(Hz)に対する伝達関数の位相を示したグラフであり、横軸は振動数(Hz)を示し、縦軸は伝達関数の位相を角度で示している。
図4図4は、本発明の実施形態に係る演算処理を示すフローチャートである。
図5図5は、実際の振動データを用いたシミュレーションによる、第1振動データと第2振動データとの間の時間ずれが1秒の場合における、時間ずれの仮推定値と推定伝達関数の位相分散値との関係を示したグラフである。図5(a)のグラフにおいては、横軸は-5秒から5秒までの範囲の時間ずれの仮推定値(秒)を示し、縦軸は位相分散値を示している。図5(b)のグラフは、図5(a)のグラフの横軸を拡大したものであり、横軸は0秒から1.1秒までの範囲の時間ずれの仮推定値(秒)を示し、縦軸は位相分散値を示している。
図6図6は、実際の振動データを用いたシミュレーションによる、第1振動データと第2振動データとの間の時間ずれが0.5秒の場合における、時間ずれの仮推定値と推定伝達関数の位相分散値との関係を示したグラフである。図6(a)のグラフにおいては、横軸は-5秒から5秒までの範囲の時間ずれの仮推定値(秒)を示し、縦軸は位相分散値を示している。図6(b)のグラフは、図6(a)のグラフの横軸を拡大したものであり、横軸は0秒から1.1秒までの範囲の時間ずれの仮推定値(秒)を示し、縦軸は位相分散値を示している。
図7図7は、実際の振動データを用いたシミュレーションによる、第1振動データと第2振動データとの間の時間ずれが0.1秒の場合における、時間ずれの仮推定値と推定伝達関数の位相分散値との関係を示したグラフである。図7(a)のグラフにおいては、横軸は-5秒から5秒までの範囲の時間ずれの仮推定値(秒)を示し、縦軸は位相分散値を示している。図7(b)のグラフは、図7(a)のグラフの横軸を拡大したものであり、横軸は0秒から1.1秒までの範囲の時間ずれの仮推定値(秒)を示し、縦軸は位相分散値を示している。
図8図8は、本発明の実施形態の変形例に係る時刻同期システム及びセンサユニットの機能的なブロックの一例を示した概略図である。
図9図9は、実際の振動データを用いたシミュレーションによる、第1振動データと第2振動データとの関係を表わす伝達関数と、同期後の第1振動データと同期後の第2振動データとの間のコヒーレンス値との関係を示したグラフである。図9(a)は、図3(a)と同一のグラフであり、第1振動データと第2振動データとの間の時間ずれがない場合の、振動数(Hz)に対する伝達関数の増幅を示したグラフである。図9(a)においては、横軸は振動数(Hz)を示し、縦軸は伝達関数の増幅を示している。図9(b)は、図3(b)と同一のグラフであり、第1振動データと第2振動データとの間の時間ずれがない場合の、振動数(Hz)に対する伝達関数の位相を示したグラフである。図9(b)においては、横軸は振動数(Hz)を示し、縦軸は伝達関数の位相を角度で示している。図9(c)は、同期後の第1振動データと同期後の第2振動データとの間のコヒーレンス値を示したグラフである。図9(c)においては、横軸は振動数(Hz)を示し、縦軸はコヒーレンス値を示している。図9(c)においては、第1振動データと第2振動データとの間の時間ずれがない場合の連続した曲線が、薄い黒色の実線にて示され、第1振動データと第2振動データとの間の時間ずれが0.1秒の場合の連続した曲線が、黒色の破線にて示されている。
図10図10は、本変形例に係る演算処理を示すフローチャートである。
図11図11は、実際の振動データを用いたシミュレーションによる、第1振動データと第2振動データとの間の時間ずれが1秒の場合における、時間ずれの仮推定値と推定伝達関数の位相分散値との関係を示したグラフである。図11(a)及び図11(b)は、推定伝達関数においてコヒーレンス値による位相値の重みづけがない場合の時間ずれの仮推定値と推定伝達関数の位相分散値との関係を示したものである。図11(a)のグラフは、図5(a)と同一のものであり、横軸は-5秒から5秒までの範囲の時間ずれの仮推定値(秒)を示し、縦軸は位相分散値を示している。図11(b)のグラフは、図5(b)と同一のものであり、図11(a)のグラフの横軸を拡大したものであり、横軸は0秒から1.1秒までの範囲の時間ずれの仮推定値(秒)を示し、縦軸は位相分散値を示している。図11(c)及び図11(d)は、推定伝達関数においてコヒーレンス値による位相値の重みづけがある場合の時間ずれの仮推定値と推定伝達関数の位相分散値との関係を示したものである。図11(c)においては、横軸は-5秒から5秒までの範囲の時間ずれの仮推定値(秒)を示し、縦軸は位相分散値を示している。図11(d)のグラフは、図11(c)のグラフの横軸を拡大したものであり、横軸は0秒から1.1秒までの範囲の時間ずれの仮推定値(秒)を示し、縦軸は位相分散値を示している。
図12図12は、実際の振動データを用いたシミュレーションによる、第1振動データと第2振動データとの間の時間ずれが0.5秒の場合における、時間ずれの仮推定値と推定伝達関数の位相分散値との関係を示したグラフである。図12(a)及び図12(b)は、推定伝達関数においてコヒーレンス値による位相値の重みづけがない場合の時間ずれの仮推定値と推定伝達関数の位相分散値との関係を示したものである。図12(a)のグラフは、図6(a)と同一のものであり、横軸は-5秒から5秒までの範囲の時間ずれの仮推定値(秒)を示し、縦軸は位相分散値を示している。図12(b)のグラフは、図6(b)と同一のものであり、図12(a)のグラフの横軸を拡大したものであり、横軸は0秒から1.1秒までの範囲の時間ずれの仮推定値(秒)を示し、縦軸は位相分散値を示している。図12(c)及び図12(d)は、推定伝達関数においてコヒーレンス値による位相値の重みづけがある場合の時間ずれの仮推定値と推定伝達関数の位相分散値との関係を示したものである。図12(c)においては、横軸は-5秒から5秒までの範囲の時間ずれの仮推定値(秒)を示し、縦軸は位相分散値を示している。図12(d)のグラフは、図12(c)のグラフの横軸を拡大したものであり、横軸は0秒から1.1秒までの範囲の時間ずれの仮推定値(秒)を示し、縦軸は位相分散値を示している。
図13図13は、実際の振動データを用いたシミュレーションによる、第1振動データと第2振動データとの間の時間ずれが0.1秒の場合における、時間ずれの仮推定値と推定伝達関数の位相分散値との関係を示したグラフである。図13(a)及び図13(b)は、推定伝達関数においてコヒーレンス値による位相値の重みづけがない場合の時間ずれの仮推定値と推定伝達関数の位相分散値との関係を示したものである。図13(a)のグラフは、図7(a)と同一のものであり、横軸は-5秒から5秒までの範囲の時間ずれの仮推定値(秒)を示し、縦軸は位相分散値を示している。図13(b)のグラフは、図7(b)と同一のものであり、図13(a)のグラフの横軸を拡大したものであり、横軸は0秒から1.1秒までの範囲の時間ずれの仮推定値(秒)を示し、縦軸は位相分散値を示している。図13(c)及び図13(d)は、推定伝達関数においてコヒーレンス値による位相値の重みづけがある場合の時間ずれの仮推定値と推定伝達関数の位相分散値との関係を示したものである。図13(c)においては、横軸は-5秒から5秒までの範囲の時間ずれの仮推定値(秒)を示し、縦軸は位相分散値を示している。図13(d)のグラフは、図13(c)のグラフの横軸を拡大したものであり、横軸は0秒から1.1秒までの範囲の時間ずれの仮推定値(秒)を示し、縦軸は位相分散値を示している。
【発明を実施するための形態】
【0029】
図1において、実施形態に係る時刻同期システム1について説明する。以下の図面においては、同一の部材若しくは部分又は同一の機能を有する部材若しくは部分には、同一の符号を付すか、あるいは符号を省略している。
【0030】
時刻同期システム1は、振動が生じる構造物5において別個の位置で取得される第1振動データ及び第2振動データを用いて、第1振動データと第2振動データとの間の時刻の同期を行うものである。第1振動データは、振動が生じる構造物5において別個の位置で取得される複数の振動データのうちの1つである。第2振動データは、上述した複数の振動データのうちの他の1つである。
【0031】
複数の振動データは、構造物5において別個の位置に設置された複数のセンサユニット2によって取得される。第1振動データは、複数のセンサユニット2のうちの1つである第1センサユニット2aによって取得される。第2振動データは、複数のセンサユニット2のうちの他の1つである第2センサユニット2bによって取得される。本実施形態においては、第1センサユニット2a及び第2センサユニット2bは、複数のセンサユニット2の中から任意に選択される。
【0032】
複数のセンサユニット2は、構造物5の任意の位置に設置される。図1においては、複数のセンサユニット2は、床面に設置されているが、天井又は壁面に配置してもよい。また、複数のセンサユニット2は、屋上又は地下に配置してもよい。また、図1に示すように、複数のセンサユニット2は、構造物5の同一階に配置してもよい。
【0033】
なお、図1においては、構造物5の前方左下の角を基準とした三次元の座標軸が定められている。三次元の座標軸は、構造物5の左側から右側に向かうX軸と、構造物5の前側から後ろ側に向かうY軸と、構造物5の下端から上方に向かうZ軸とにより規定されている。しかしながら、本実施形態の時刻同期システム1は、質点系モデルにて表現可能な単純な構造物5から、有限要素法等を用いないと表現できない複雑な構造物5まで、多様な構造物5に適用可能であり、複数のセンサユニット2の配置は、特定の軸(例えば、Z軸)に整列したものに限定されない。
【0034】
また、本実施の形態においては、複数のセンサユニット2は、構造物5の定位置に固定しなくてもよい。例えば、自律走行ロボットにセンサユニット2を搭載し、任意の位置に移動させた状態で、振動データを取得するようにしてもよい。
【0035】
本実施形態の時刻同期システム1を適用可能な、振動を生ずる構造物5は、例えば、木造住宅又は高層ビル等の木造、鉄骨造、又は鉄筋コンクリート造の建築構造物であるが、これに限定されない。例えば、構造物5は、原子力発電所の建屋等の特殊建築構造物であってもよいし、橋梁、塔、又は高速道路等の土木構造物であってもよい。
【0036】
また、本実施形態の時刻同期システム1を適用可能な振動の種類については、地震による振動に限定されない。例えば、車両、鉄道、若しくは航空機等の通過、又は人の移動等に伴う建築構造物又は土木構造物の振動、強風等の自然現象による橋梁又は塔の振動、産業機械の稼働等に伴う工場等の建築構造物の振動についても、本実施形態の時刻同期システム1を適用可能である。
【0037】
次に、図2を用いて、時刻同期システム1及びセンサユニット2の構造について説明する。
【0038】
時刻同期システム1は、コンピュータ装置若しくはマイクロコンピュータ、専用のハードウェア、又はその組み合わせとして構成される。図2に示すように、時刻同期システム1は、演算部11と、データ出力部13と、データ受け渡し部15とを備えている。
【0039】
時刻同期システム1がコンピュータ装置又はマイクロコンピュータである場合、演算部11は、CPU(Central Processing Unit)又はMPU(Micro Processing Unit)として構成される。演算部11が、CPU又はMPUとして構成される場合、演算部11が実行する各機能は、ソフトウェア、ファームウェア、又はソフトウェアとファームウェアとの組み合わせにより実現される。ソフトウェア又はファームウェアは、プログラム言語によりプログラムとして記述される。プログラム言語としては、限定しないが、C言語、Python、又はR言語等が用いられる。プログラムは、時刻同期システム1の内部メモリ(図示せず)に格納され、内部メモリ(図示せず)に格納されたプログラムは、制御部(図示せず)の制御処理により、CPU又はMPUに読み出されて実行される。CPU又はMPUが、内部メモリに格納されたプログラムを読み出して実行することにより、演算部11における各々の機能が実現される。内部メモリ(図示せず)は、例えば、RAM、ROM、フラッシュメモリ、EPROM、又はEEPROM等の、不揮発性又は揮発性の半導体メモリである。
【0040】
なお、コンピュータ装置の種類は、限定しないが、例えば、クラウドサービスを提供する仮想サーバであってもよいし、ローカルネットワーク内のグループに対し各種サービスを提供する物理サーバであってもよい。また、コンピュータ装置は、量子コンピュータであってもよいし、一般用途のデスクトップ型若しくはラップトップ型のコンピュータ、又はタブレット型端末若しくはスマートフォン等の携帯型端末であってもよい。また、時刻同期システム1は、複数のコンピュータ装置を用いて、分散処理を行うようにしてもよい。
【0041】
時刻同期システム1が専用のハードウェアである場合、演算部11は、例えば、単一回路、複合回路、ASIC(application specific integrated circuit)、FPGA(field-programmable gate array)、又はこれらを組み合わせた回路により実現される。演算部11が実現する各々の機能は、個別のハードウェアにおいて実現可能なようにしてもよいし、機能のすべてを単一のハードウェアにおいて実現可能なようにしてもよい。
【0042】
演算部11は、複数の機能的なブロックを有しており、例えば、データ読み込み部11a1と、伝達関数算出部11a2と、位相分散値算出部11a3と、時間ずれ算出部11a4と、時間ずれ補正部11a5とを有している。データ読み込み部11a1、伝達関数算出部11a2、位相分散値算出部11a3、時間ずれ算出部11a4、及び時間ずれ補正部11a5は、1つの機能的なブロックである第1時刻同期部11aを形成する。
【0043】
データ読み込み部11a1は、振動が生じる構造物5(図1参照)において別個の位置で取得された第1振動データ及び第2振動データを、データ受け渡し部15を介して、演算部11の内部に読み込むものである。データ読み込み部11a1における、第1振動データ及び第2振動データの読み込みは、例えば、時刻同期システム1の内部に設けられた制御部(図示せず)における制御処理により行うことができる。
【0044】
伝達関数算出部11a2は、データ読み込み部11a1において読み込まれた第1振動データと第2振動データとに基づき、第1振動データと第2振動データとの関係を表わす伝達関数を算出するものである。また、伝達関数算出部11a2は、第1振動データと第2振動データとの間の時間ずれの推定に用いられ、時間ずれの複数の仮推定値を含む、推定上の伝達関数である複数の推定伝達関数を順次算出するものである。伝達関数算出部11a2においては、複数の推定伝達関数の各々が、第1振動データと第2振動データとの間の時間ずれの複数の仮推定値のうちの1つを含むように、複数の推定伝達関数が順次算出される。なお、算出された複数の推定伝達関数は、制御部(図示せず)における制御処理により、時刻同期システム1に設けられた内部メモリ又はハードディスク等の補助記憶装置などの記憶部(図示せず)に少なくとも一時的に保存するようにしてもよい。
【0045】
位相分散値算出部11a3は、伝達関数算出部11a2において算出された複数の推定伝達関数の各々における位相分散値を算出するものである。位相分散値は、第1振動データと第2振動データとの間の時間ずれの仮推定値ごとに算出される。時間ずれの仮推定値ごとに算出された複数の位相分散値は、制御部(図示せず)における制御処理により、時刻同期システム1に設けられた内部メモリ又はハードディスク等の補助記憶装置などの記憶部(図示せず)に少なくとも一時的に保存される。
【0046】
時間ずれ算出部11a4は、位相分散値算出部11a3において算出された複数の推定伝達関数における時間ずれの仮推定値のうち、推定伝達関数における位相値が0度及び180度の二値の方向に最も集中する時間ずれの仮推定値を、時刻を同期させるための真の推定値である第1最適値として決定するものである。時間ずれ算出部11a4においては、位相分散値算出部11a3において時間ずれの仮推定値ごとに算出された複数の位相分散値が、数値比較のために、制御部(図示せず)における制御処理により、記憶部(図示せず)から読み出される。
【0047】
時間ずれ補正部11a5は、時間ずれ算出部11a4において決定された第1最適値に基づき、第1振動データと第2振動データとの間の時刻を同期させるものである。時間ずれ補正部11a5においては、第1振動データと第2振動データとの間の時刻の同期は自動的に行われる。なお、第1振動データと第2振動データとの間の時刻の同期は、第1最適値を操作者が知ることができれば、キーボード又はマウス等の入力装置(図示せず)による操作により、手動で行うことも可能である。時刻の同期を手動で行う場合には、時間ずれ補正部11a5における演算処理は省略してもよい。
【0048】
データ出力部13は、時間ずれ補正部11a5において、第1最適値に基づき時刻が同期された第1振動データ及び第2振動データを、データ解析のために出力するものである。データ出力部13は、例えばモニタ又はプリンタ等の出力装置であってもよいし、出力装置を接続するための出力ポートであってもよい。データ出力部13が出力ポートである場合、データ出力部13は、USBポート、HDMI(登録商標)ポート、パラレルポート、又はシリアルポート等により構成される。
【0049】
データ受け渡し部15は、構造物5(図1参照)において取得された第1振動データ及び第2振動データを、時刻同期システム1に読み込むためのインタフェースである。データ受け渡し部15は、Wi-Fi通信、NFC通信、若しくはWiMAX(登録商標)通信等のための無線通信ポートであってもよいし、イーサネット(有線LAN)通信等のための有線通信ポートであってもよい。また、構造物5(図1参照)が原子力発電所の建屋である等、通信環境を構築するのが困難な環境である場合、データ受け渡し部15は、構造物5から取り外したセンサユニット2を接続して、センサユニット2から振動データを直接的に受信する接続ポートとしてもよい。センサユニット2から振動データを直接的に受信する接続ポートは、限定しないが、センサユニット2とUSB接続を行うためのUSB接続ポート、又はセンサユニット2とIEEE1394接続を行うためのIEEE1394ポート等の有線接続ポートであってもよい。また、センサユニット2から振動データを直接的に受信する接続ポートは、Bluetooth(登録商標)通信又は赤外線通信を行うための無線接続ポートであってもよい。また、データ受け渡し部15は、センサユニット2において取得された振動データを、USBメモリ又はSDカード等のリムーバブルメディアを介して、オフラインで受け取るための、リムーバブルメディアの読み取り部としてもよい。
【0050】
図2に示すように、センサユニット2は、処理部21と、測定部23と、内蔵時計25と、記憶部27と、データ受け渡し部29とを、機能的なブロックとして有している。
【0051】
処理部21は、測定部23、内蔵時計25、記憶部27、及びデータ受け渡し部29の制御処理を行うものである。処理部21は、マイクロコンピュータ、専用のハードウェア、又はその組み合わせとして構成される。
【0052】
処理部21がマイクロコンピュータである場合、処理部21は、MPUを有している。MPUが実行する各機能は、ソフトウェア、ファームウェア、又はソフトウェアとファームウェアとの組み合わせにより実現される。ソフトウェア又はファームウェアは、プログラムとして記述される。プログラムは、処理部21に設けられた内部メモリ(図示せず)に格納され、内部メモリ(図示せず)に格納されたプログラムは、MPUに読み出されて実行される。MPUが、内部メモリに格納されたプログラムを読み出して実行することにより、センサユニット2における各々の機能が実現される。内部メモリ(図示せず)は、例えば、RAM、ROM、フラッシュメモリ、EPROM、又はEEPROM等の、不揮発性又は揮発性の半導体メモリである。
【0053】
処理部21が専用のハードウェアである場合、処理部21は、例えば、単一回路、複合回路、ASIC(application specific integrated circuit)、FPGA(field-programmable gate array)、又はこれらを組み合わせた回路により実現される。処理部21が実現する各々の機能は、個別のハードウェアにおいて実現可能なようにしてもよいし、機能のすべてを単一のハードウェアにおいて実現可能なようにしてもよい。
【0054】
測定部23は、構造物5(図1参照)において検出された振動を、電子信号に変換する振動センサである。振動センサは、振動計とも称され、振動を検出する素子と、素子からの電気信号を調整する信号処理回路とを有している。
【0055】
測定部23は、構造物5(図1参照)に直接接触させる接触型の振動センサであっても、構造物5(図1参照)からの振動を非接触で測定する非接触型の振動センサであってもよい。接触型の振動センサは、加速度検出型の振動センサである加速度センサであってもよいし、速度検出型の振動センサである速度センサ又は変位検出型の振動センサである変位センサであってもよい。加速度センサは、例えば、圧電型の加速度センサであってもよいし、動電型、ストレインゲージ型、半導体型の加速度センサであってもよい。速度センサとしては、例えば、動電型の速度センサが用いられる。接触型の変位センサとしては、例えば、ストレインゲージ型の変位センサが用いられる。また、非接触型の振動センサとしては、変位検出型の振動センサである変位センサが用いられる。非接触型の変位センサは、例えば、渦電流型の変位センサであってもよいし、静電容量型、光学型、又は差動トランス型の変位センサであってもよい。
【0056】
本実施形態において、構造物5(図1参照)における振動を検出するのに好適な振動センサは、限定しないが、例えば、圧電型の加速度センサ、動電型の速度センサ、及び渦電流型の変位センサである。中でも、圧電型の加速度センサは、動電型の速度センサ及び渦電流型の変位センサと比較すると、検出可能な振動数の範囲が広範であるため、構造物5(図1参照)における振動を検出するのに好適である。また、圧電型の加速度センサは、小型化が可能であり、機械的強度及び環境耐性が良好であるという特性を有している。
【0057】
圧電型の加速度センサとしては、例えば、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems:微小電気機械システム)方式の圧電型の加速度センサが用いられる。MEMS方式の圧電型の加速度センサを採用することにより、センサユニット2の小型化及びインテリジェント化を図ることができる。なお、MEMS方式の圧電型の加速度センサは、一般的には3軸の加速度センサであるが、1軸の加速度センサであってもよい。
【0058】
内蔵時計25は、センサユニット2に計時機能を実装させる集積回路(IC)であり、リアルタイムクロック(RTC)又はCMOSクロックとも称される。内蔵時計25において計時される時刻は、処理部21における制御処理によって、測定部23で取得された振動の電気信号に関連付けられることにより、振動データに取り込まれる。
【0059】
記憶部27は、ハードディスク等の補助記憶装置であり、測定部23で取得された振動の電気信号に内蔵時計25において計時される時刻を関連付けた振動データを、少なくとも一時的に保存するものである。記憶部27は、センサユニット2から時刻同期システムに向けて、オンラインかつリアルタイムで振動データが送信される場合は、省略可能である。
【0060】
データ受け渡し部29は、処理部21での制御処理によって生成された振動データを、時刻同期システム1に渡すためのインタフェースである。データ受け渡し部29は、Wi-Fi通信、NFC通信、若しくはWiMAX(登録商標)等のための無線通信ポートであってもよいし、イーサネット(有線LAN)通信等のための有線通信ポートであってもよい。また、データ受け渡し部29は、時刻同期システム1に直接的に接続して、時刻同期システム1へ振動データを直接的に送信する接続ポートとしてもよい。時刻同期システム1へ振動データを直接的に送信する接続ポートは、限定しないが、時刻同期システム1とUSB接続を行うためのUSB接続ポート、又は時刻同期システム1とIEEE1394接続を行うためのIEEE1394ポート等の有線接続ポートであってもよい。また、時刻同期システム1へ振動データを直接的に送信する接続ポートは、Bluetooth(登録商標)通信又は赤外線通信を行うための無線接続ポートであってもよい。また、データ受け渡し部29は、センサユニット2において取得された振動データを、USBメモリ又はSDカード等のリムーバブルメディアを介して、オフラインで時刻同期システム1に渡すための、リムーバブルメディアの書き込み部としてもよい。
【0061】
なお、図2においては、センサユニット2のデータ受け渡し部29から、時刻同期システム1のデータ受け渡し部15に向けて、振動データの受け渡しが行われることが、破線の矢印で示されているが、逆方向に各種情報の受け渡しをすることも当然可能である。
【0062】
次に、本実施形態における演算処理の具体的なフローについて、図3及び図4を用いて説明する。なお、図3においては、実際の地震の振動データに基づいてシミュレーションを行った結果について説明している。図3を含め、以降の図面における時間ずれに関するグラフについては、シミュレーションを行う目的で、実際の地震の振動データに対し、意図的に時間ずれを生じさせたものである。したがって、図3以降の時間ずれに関するグラフについては、実際の地震における振動データにおける時間ずれではないことに留意されたい。
【0063】
図4に示すように、本実施形態における演算処理においては、工程S1において、振動が生じる構造物5(図1参照)において別個の位置で取得された第1振動データ及び第2振動データが、演算処理のために取得される。工程S1は、例えば、時刻同期システム1(図2参照)においては、演算部11のデータ読み込み部11a1において実行される。
【0064】
なお、本実施形態に限ったことではないが、振動データの時間同期処理をする場合は、第1振動データのデータ数と第2振動データのデータ数とを同一とする必要がある。第1振動データ及び第2振動データのデータ数は、限定しないが、10秒間のデータを0.01秒間隔で取得することにより、同一の数にしてもよい。また、第1振動データ及び第2振動データのうち、データ長の短いデータの末尾に0を付加することにより、第1振動データのデータ数と第2振動データのデータ数とを同一の数にしてもよい。
【0065】
工程S1において、第1振動データ及び第2振動データは、振動が生じる構造物5(図1参照)の任意の位置から取得できるため、自由度が高い処理又は方法による時刻同期方法が提供される。
【0066】
なお、センサユニット2(図2参照)における測定部23として、前述した3軸の加速度センサが採用される場合、図1で示したX軸、Y軸、及びZ軸に沿った振動データが取得される。この場合、時刻同期に用いる振動データは、X軸、Y軸、及びZ軸のうち、いずれか1つの軸に沿った振動データについて時間ずれを決定すればよく、他の2軸の振動データについては、決定された時間ずれの値に基づき、時間の同期を行えばよい。
【0067】
次に、工程S2においては、工程S1において取得された第1振動データと第2振動データとに基づき、第1振動データと第2振動データとの関係の推定に用いる複数の推定伝達関数が算出される。工程S2は、例えば、時刻同期システム1(図2参照)においては、演算部11の伝達関数算出部11a2において実行される。
【0068】
工程S2においては、最初に、時間ずれを考慮しない状態における第1振動データと第2振動データとの関係を表わす伝達関数H(f)が、以下の式(1)から算出される。
【0069】
【数1】
【0070】
式(1)において、fは振動数(Hz)を表す変数であり、F(f)は第1振動データ及び第2振動データのうちの一方の振動データのフーリエ変換値であり、F(f)は、第1振動データ及び第2振動データのうちの一方の振動データのフーリエ変換値である。なお、振動数は、周波数と同義であり、周波数と称される場合がある。
【0071】
構造物5(図1参照)で生じる振動に関する伝達関数H(f)は、2次遅れ系の伝達関数として表現される。したがって、図3(b)に示すように、第1振動データと第2振動データとの間に時間ずれがない場合には、位相は0度及び180度の二値に集中していることが分かる。図3(b)においては、特に低周波数帯域(例えば、10Hz以下の帯域)において、低次の固有周波数付近を除いて、位相は0度及び180度の二値に集中していることが確認できる。
【0072】
また、第1振動データと第2振動データとの間に1秒の時間ずれが生じた場合、図3(a)及び図3(c)に示すように伝達関数H(f)の増幅については変化は確認できない。一方、伝達関数H(f)の位相については、図3(b)と比較して分散が大きくなることが確認される(図3(d))。したがって、第1振動データと第2振動データとの間に時間ずれが生じた場合には、伝達関数H(f)の増幅には影響をほぼ及ぼさないものの、伝達関数H(f)の位相に大きな影響を及ぼす。
【0073】
上述したような時間ずれによる位相特性及び増幅特性を反映させた、第1振動データと第2振動データとの間の時間ずれの推定に用いられる推定伝達関数H(f)は、以下の式(2)で表すことが可能である。
【0074】
【数2】
【0075】
式(2)において、Lは時間ずれの仮推定値を表す変数であり、単位は秒である。また、式(2)において、eはネイピア数であり、iは虚数である。
【0076】
式(2)の右辺において、伝達関数H(f)に乗算されるネイピア数eの累乗で表された部分は、時間ずれの仮推定値である変数Lの数値によらず、複素平面における単位円上にすべての値が存在する。したがって、式(2)におけるネイピア数eの累乗で表された部分の絶対値は、変数Lの値によらず1となる。したがって、推定伝達関数H(f)の増幅は、伝達関数H(f)の増幅と同一になる。
【0077】
一方、ネイピア数eの累乗で表された部分を乗算することにより、推定伝達関数H(f)の位相は、時間ずれの仮推定値の分、伝達関数H(f)からずれることになる。
【0078】
したがって、推定伝達関数H(f)における位相値が0度及び180度の二値の方向に最も集中する時間ずれの仮推定値を決定できれば、第1振動データと第2振動データとの間の時間ずれを特定できることになる。
【0079】
なお、本実施形態の説明において明確となるが、「推定伝達関数H(f)における位相値が0度及び180度の二値の方向に最も集中する」とは、統計学的な意味において、推定伝達関数H(f)の周波数領域における各々の位相値が0度及び180度の二値の方向に最も集中することを意味する。したがって、各々の推定伝達関数H(f)における180度又は0度の二値に一致する位相値の数の多寡は、「0度及び180度の二値の方向に最も集中」しているか否かとは必ずしも関連しないことに留意されたい。また、各々の推定伝達関数H(f)の位相値が、180度又は0度と異なる二値に最も集中している場合であっても、180度又は0度の二値に最も集中している場合は、「0度及び180度の二値の方向に最も集中」に該当することに留意されたい。
【0080】
工程S2においては、上述を踏まえて、時間ずれの仮推定値である変数Lを変化させることにより、複数の推定伝達関数H(f)を順次算出する。工程S2においては、限定しないが、例えば、-5秒から+5秒の範囲において0.01秒のサンプリング間隔で、変数Lを変化させることにより、各々の時間ずれの仮推定値に対する推定伝達関数H(f)を順次算出できる。複数の推定伝達関数H(f)の算出は、例えばループ処理によって、高速かつ簡易に実行できる。
【0081】
工程S3においては、工程S2において順次算出された複数の推定伝達関数H(f)の各々の位相分散値が算出される。工程S3は、例えば、時刻同期システム1(図2参照)においては、演算部11の位相分散値算出部11a3において実行される。
【0082】
工程S3においては、式(3)により、推定伝達関数H(f)における周波数と位相との関係を示す関数が算出される。
【0083】
【数3】
【0084】
工程S3における位相分散値の算出は、例えば、要約統計量(mean resultant length)によって算出される。要約統計量の考えに基づくと、推定伝達関数H(f)の位相を、複素平面の単位円上におけるベクトルと考え、位相データの平均方向は、複素平面上の単位円上における各々のベクトルのベクトル平均により算出される平均ベクトルにおける、複素平面上における方向と考える。算出した平均ベクトルの大きさが1に近いほど、位相データは平均ベクトルの方向に集中していると考えられる。要約統計量においては、算出した平均ベクトルの大きさを1から減算したものを位相データの分散値と考える。
【0085】
本実施形態においては、推定伝達関数H(f)における位相値が0度及び180度の二値の方向に最も集中する時間ずれの仮推定値を、時間ずれの真の推定値として決定することとなる。一方、複素平面上においては、0度と180度とは、実軸上の逆向きの位相ベクトルとなるため、0度及び180度の二値を等価に扱うための標準化が必要となる。
【0086】
上述の式(3)において、θ(f)を2倍とすると、0度及び180度の二値が、0度及び360度の二値となり、複素平面上においては、0度及び180度の二値が同一方向のベクトルに標準化される。したがって、θ(f)を標準化して算出した平均ベクトルの実部の値が最大になる、時間ずれの仮推定値を有する推定伝達関数H(f)が、位相値が0度及び180度の二値の方向に最も集中する、時間ずれの真の推定値を有する推定伝達関数H(f)となる。逆に言うと、θ(f)を標準化して算出した平均ベクトルの実部の値を1から減算した値が最も小さくなる、時間ずれの仮推定値を有する推定伝達関数H(f)が、位相値が0度及び180度の二値から最も分散の小さい、時間ずれの真の推定値を有する推定伝達関数H(f)となる。
【0087】
したがって、工程S3における位相分散値の算出は、例えば、以下の式(4)によって行われる。
【0088】
【数4】
【0089】
式(4)において、Vは位相分散値であり、Re(A)は、θ(f)を標準化して算出した平均ベクトルAの実部の値である。式(4)における、θ(f)を標準化して算出した平均ベクトルAは、以下の式(5)によって算出される。なお、式(4)において、平均ベクトルAの実部Re(A)を演算対象としたのは、0度及び180度の位相値は実軸上の値であり、平均ベクトルAの実軸上での大きさによって、0度及び180度の二値への集中の度合が示されるからである。
【0090】
【数5】
【0091】
式(5)において、Nは、第1振動データ及び第2振動データの位相データ数である。
【0092】
工程S4においては、工程S3において算出された平均ベクトルAの実部Re(A)の値に基づき、時刻を同期させるための真の推定値である第1最適値が決定される。工程S4は、例えば、時刻同期システム1(図2参照)においては、演算部11の時間ずれ算出部11a4において実行される。
【0093】
図5においては、第1振動データと第2振動データとの間の時間ずれが1秒の場合における、時間ずれの仮推定値と推定伝達関数H(f)の位相分散値との関係が示されている。また、図6においては、第1振動データと第2振動データとの間の時間ずれが0.5秒の場合における、時間ずれの仮推定値と推定伝達関数H(f)の位相分散値との関係が示されている。また、図7においては、第1振動データと第2振動データとの間の時間ずれが0.5秒の場合における、時間ずれの仮推定値と推定伝達関数H(f)の位相分散値Vとの関係が示されている。
【0094】
図5~7のいずれの場合においても、推定伝達関数H(f)の位相分散値が最小となるときの時間ずれの仮推定値と、シミュレーションのために設定した時間ずれの値とが一致している。したがって、工程S4においては、推定伝達関数H(f)の位相分散値が最小となる時間ずれの仮推定値を、時刻を同期させるための真の推定値である第1最適値として決定できる。
【0095】
なお、工程S4においては、推定伝達関数H(f)の平均ベクトルAの実部Re(A)の値が最大となる時間ずれの仮推定値を、真の推定値である第1最適値として決定してもよい。この演算処理においても、推定伝達関数H(f)における位相値が0度及び180度の二値の方向に最も集中する時間ずれの仮推定値を、第1最適値として決定できる。
【0096】
工程S5においては、工程S4において決定された第1最適値に基づき、第1振動データと第2振動データとの間の時刻が同期される。工程S5は、例えば、時刻同期システム1(図2参照)においては、演算部11の時間ずれ補正部11a5において実行される。
【0097】
なお、工程S5は、第1最適値を操作者が知ることにより、第1振動データと第2振動データとの間の時刻の同期を手動で行うことも可能である。時刻の同期を手動で行う場合は、工程S5の演算処理は省略可能である。
【0098】
以上のように、本実施の形態に係る時刻同期システム1は、振動が生じる構造物5の別個の位置において取得される第1振動データ及び第2振動データを用いて、第1振動データと第2振動データとの間の時刻を同期させる時刻同期システム1であって、第1振動データと第2振動データとの間の時間ずれの推定に用いられ、時間ずれの複数の仮推定値のうちの1つを各々が含む複数の推定伝達関数H(f)を順次算出し、時間ずれの複数の仮推定値のうち、推定伝達関数H(f)における位相値が0度及び180度の二値の方向に最も集中する時間ずれの仮推定値を、時刻を同期させるための第1最適値として決定する演算部11を備える。
【0099】
また、本実施の形態に係る時刻同期プログラムは、振動が生じる構造物の別個の位置において取得される第1振動データ及び第2振動データを用いて、第1振動データと第2振動データとの間の時刻を同期させる時刻同期プログラムであって、第1振動データと第2振動データとの間の時間ずれの推定に用いられ、時間ずれの複数の仮推定値のうちの1つを各々が含む複数の推定伝達関数H(f)を算出し、時間ずれの複数の仮推定値のうち、推定伝達関数H(f)における位相値が0度及び180度の二値の方向に最も集中する時間ずれの仮推定値を、時刻を同期させるための第1最適値として決定する。
【0100】
また、本実施の形態に係る時刻同期方法は、振動が生じる構造物の別個の位置において取得される第1振動データ及び第2振動データを用いて、第1振動データと第2振動データとの間の時刻を同期させる時刻同期方法であって、第1振動データと第2振動データとの間の時間ずれの推定に用いられ、時間ずれの複数の仮推定値のうちの1つを各々が含む複数の推定伝達関数を順次算出する工程と、時間ずれの複数の仮推定値のうち、推定伝達関数における位相値が0度及び180度の二値の方向に最も集中する時間ずれの仮推定値を、時刻を同期させるための第1最適値として決定する工程とを含む。
【0101】
本実施形態の時刻同期システム、時刻同期プログラム、及び時刻同期方法によれば、基準となる振動データを定めることなく、構造物5の任意の2点の振動データを用いて時刻の同期を行うことができる。また、本実施形態によれば、構造物5の既知の振動モデルに拘束されることなく、振動データ間の時刻の同期を行うことができる。したがって、自由度の高い振動データ間の時刻の同期を高精度に実現できる。
【0102】
また、本実施形態の時刻同期システム、時刻同期プログラム、及び時刻同期方法によれば、取得した第1振動データ及び第2振動データの全体を利用して、第1振動データと第2振動データとの間の時刻の同期を行うことができる。したがって、本実施形態によれば、波形の立ち上がり部分、低次の固有周波数以下の周波数帯域、又は共振周波数等の振動データの特定の部分を用いることなく、自動的に振動データ間の時刻の同期を行うことができ、簡易に振動データ間の時刻の同期を高精度に行うことができる。
【0103】
次に、上述の実施形態に係る時刻同期システム1の変形例について図8~13を用いて説明する。なお、以降の説明においては、前述した実施形態の構成と同一であるものについては、説明を省略する。
【0104】
図8に示すように、本変形例は、時刻同期システム1の演算部11が、第2時刻同期部11bを備えている。第2時刻同期部11bは、コヒーレンス算出部11b1と、位相分散値算出部11b2と、時間ずれ算出部11b3と、時間ずれ補正部11b4とを有している。
【0105】
本変形例においては、第1時刻同期部11aの時間ずれ補正部11a5(図2参照)において、第1最適値に基づく、第1振動データと第2振動データとの間の時刻の同期が自動的に行われることが前提となる。
【0106】
コヒーレンス算出部11b1は、時刻を同期させた後の第1振動データと、時刻を同期させた後の第2振動データとの間のコヒーレンス値を算出するものである。なお、算出されたコヒーレンス値は、制御部(図示せず)における制御処理により、時刻同期システム1に設けられた内部メモリ又はハードディスク等の補助記憶装置などの記憶部(図示せず)に少なくとも一時的に保存するようにしてもよい。
【0107】
位相分散値算出部11b2は、コヒーレンス算出部11b1において算出されたコヒーレンス値を用いて位相値を重みづけした複数の推定伝達関数について、各々の推定伝達関数における位相分散値を算出するものである。位相分散値は、第1振動データと第2振動データとの間の時間ずれの仮推定値ごとに算出される。時間ずれの仮推定値ごとに算出された複数の位相分散値は、制御部(図示せず)における制御処理により、時刻同期システム1に設けられた内部メモリ又はハードディスク等の補助記憶装置などの記憶部(図示せず)に少なくとも一時的に保存される。
【0108】
時間ずれ算出部11b3は、位相分散値算出部11b2において算出された複数の推定伝達関数における位相値が0度及び180度の二値の方向に最も集中する時間ずれの仮推定値を、時刻を同期させるための第2最適値として決定するものである。時間ずれ算出部11b3のその他の構成については、前述の実施形態に係る第1時刻同期部11aの時間ずれ算出部11a4と同一である。
【0109】
時間ずれ補正部11b4は、時間ずれ算出部11b3において決定された第2最適値に基づき、第1振動データと第2振動データとの間の時刻を同期させるものである。時間ずれ補正部11b4のその他の構成については、前述の実施形態に係る第1時刻同期部11aの時間ずれ補正部11a5と同一である。
【0110】
次に、本変形例における演算処理の具体的なフローについて、図9及び図10を用いて説明する。なお、図10における工程S1~S4については、前述の実施形態のものと同一であるため、説明を省略する。
【0111】
本変形例の演算処理においては、工程S5において、第1最適値に基づく、第1振動データと第2振動データとの間の時刻の同期が自動的に行われることが前提となる。前述の実施形態によると、第1振動データと第2振動データとの間の現実の時間ずれと、第1最適値との間の誤差を高精度に抑制することが可能である。
【0112】
しかしながら、第1振動データと第2振動データとの間のコヒーレンスが良好でない場合、すなわち、推定伝達関数における位相分布において、推定伝達関数の位相値が0度及び180度の二値に集中している周波数帯域が相対的に少ない場合、時刻同期がされた場合であっても、時間ずれの真の推定値である第1最適値に±0.1秒程度の誤差が生じる可能性が稀にある。
【0113】
一方、図9(c)に示されるように、第1振動データと第2振動データとの間の時間ずれがない場合のコヒーレンス値は、第1振動データと第2振動データとの間の時間ずれが0.1秒程度である場合のコヒーレンス値と、ほぼ一致している。すなわち、時間ずれの推定値に±0.1秒程度の誤差が生じている場合であっても、時間ずれがない場合とほぼ同等のコヒーレンスを算出することが可能である。
【0114】
また、伝達関数の位相が0度及び180度の二値の周波数帯域においては、コヒーレンスの値が相対的に大きくなる。したがって、時刻を同期させた後の第1振動データと、時刻を同期させた後の第2振動データとの間のコヒーレンス値を算出し、算出したコヒーレンス値により推定伝達関数の位相値の重みづけを行えば、図9(b)に示されるような3(Hz)付近の共振点による、時間ずれの推定への影響を低減することができる。さらに、算出したコヒーレンス値により推定伝達関数の位相値の重みづけを行えば、図9(b)に示されるような推定伝達関数の全ての周波数帯域のうち、位相の分散が相対的に大きい13(Hz)以上の周波数帯域による、時間ずれの推定への影響を低減することができる。したがって、算出したコヒーレンス値により推定伝達関数の位相値の重みづけを行えば、さらに高精度に時刻の同期を行うことが可能となる。
【0115】
工程S6においては、時刻を同期させた後の第1振動データのフーリエ変換値F’(f)と、時刻を同期させた後の第2振動データのフーリエ変換値F’(f)との間のコヒーレンス値γ(f)が算出される。コヒーレンス値γ(f)の算出は、以下の式(6)に示されるように、F’(f)の共役複素数であるF’(f)と、F’(f)との内積値の周波数領域上における平均値の絶対値の2乗値を、F’(f)とF’(f)との内積値の周波数領域上における平均値、及びF’(f)とF’(f)の共役複素数であるF’(f)との内積値の周波数領域上における平均値にて除算することによって得られる。コヒーレンス値γ(f)は、0≦γ(f)≦1の間の値となる。なお、F’(f)とF’(f)の内積値の周波数領域上での平均値は、限定しないが、0.5(Hz)のParzen窓によって算出してもよい。
【0116】
【数6】
【0117】
工程S6は、例えば、時刻同期システム1においては、演算部11のコヒーレンス算出部11b1において実行される。
【0118】
工程S7においては、工程S3における位相分散値の算出と同様に、標準化して算出した平均ベクトルAを用いて算出されるが、平均ベクトルの算出に用いられる各々の位相ベクトルがコヒーレンス値γ(f)によって重みづけられる。したがって、標準化して算出した平均ベクトルAは、コヒーレンス値γ(f)による位相値の重みづけを反映させ、以下の式(7)で算出されることとなる。なお、コヒーレンス値の振動数ごとの相対的な差をさらに強調するため、限定しないが、式(7)においてはコヒーレンス値γ(f)の2乗によって重み付けを行っている。
【0119】
【数7】
【0120】
工程S7のその他の演算処理については、工程S3と同一である。工程S7は、例えば、時刻同期システム1においては、演算部11の位相分散値算出部11b2において実行される。
【0121】
工程S8においては、工程S7において算出された平均ベクトルAの実部Re(A)の値に基づき、時刻を同期させるための真の推定値である第2最適値が決定される。工程S8は、例えば、時刻同期システム1においては、演算部11の時間ずれ算出部11b3において実行される。工程S8のその他の演算処理については、工程S4と同一である。
【0122】
工程S9においては、工程S8において決定された第2最適値に基づき、第1振動データと第2振動データとの間の時刻が同期される。工程S9は、例えば、時刻同期システム1においては、演算部11の時間ずれ補正部11b4において実行される。工程S8のその他の演算処理については、上述の実施形態の工程S4と同一である。
【0123】
以上のように、本変形例の時刻同期システム1においては、演算部11は、第1最適値に基づき、第1振動データと第2振動データとの間の時刻を同期させ、時刻を同期させた後の第1振動データと、時刻を同期させた後の第2振動データとの間のコヒーレンス値γ(f)を算出し、コヒーレンス値γ(f)を用いて、複数の推定伝達関数における位相値を重みづけし、時間ずれの複数の仮推定値のうち、位相値が0度及び180度の二値の方向に最も集中する時間ずれの仮推定値を、時刻を同期させるための真の推定値である第2最適値として決定する。また、本変形例の時刻同期プログラム及び時刻同期方法は、上述に対応する構成を有する。
【0124】
図11(a)及び図11(b)においては、第1振動データと第2振動データとの間の時間ずれが1秒であり、かつ、推定伝達関数H(f)においてコヒーレンス値γ(f)による位相値の重みづけがない場合における時間ずれの仮推定値と推定伝達関数H(f)の位相分散値Vとの関係が示されている。図11(c)及び図11(d)においては、第1振動データと第2振動データとの間の時間ずれが1秒であり、かつ、推定伝達関数H(f)においてコヒーレンス値γ(f)による位相値の重みづけがある場合における時間ずれの仮推定値と推定伝達関数H(f)の位相分散値Vとの関係が示されている。
【0125】
図12(a)及び図12(b)においては、第1振動データと第2振動データとの間の時間ずれが0.5秒であり、かつ、推定伝達関数H(f)においてコヒーレンス値γ(f)による位相値の重みづけがない場合における時間ずれの仮推定値と推定伝達関数H(f)の位相分散値Vとの関係が示されている。図12(c)及び図12(d)においては、第1振動データと第2振動データとの間の時間ずれが0.5秒であり、かつ、推定伝達関数H(f)においてコヒーレンス値γ(f)による位相値の重みづけがある場合における時間ずれの仮推定値と推定伝達関数H(f)の位相分散値Vとの関係が示されている。
【0126】
図13(a)及び図13(b)においては、第1振動データと第2振動データとの間の時間ずれが0.1秒であり、かつ、推定伝達関数H(f)においてコヒーレンス値γ(f)による位相値の重みづけがない場合における時間ずれの仮推定値と推定伝達関数H(f)の位相分散値Vとの関係が示されている。図13(c)及び図13(d)においては、第1振動データと第2振動データとの間の時間ずれが0.1秒であり、かつ、推定伝達関数H(f)においてコヒーレンス値γ(f)による位相値の重みづけがある場合の時間ずれの仮推定値と推定伝達関数H(f)の位相分散値Vとの関係が示されている。
【0127】
図11~13のいずれにおいても、時間ずれの仮推定値は、推定伝達関数H(f)の位相分散値Vが最小となるときの時間ずれの仮推定値と、シミュレーションのために設定した時間ずれの値が一致している。一方、図11~13のいずれにおいても、推定伝達関数H(f)においてコヒーレンス値γ(f)による位相値の重みづけがない場合と比較して(図11(a)、図11(b)、図12(a)、図12(b)、図13(a)、及び図13(b))、推定伝達関数H(f)においてコヒーレンス値γ(f)による位相値の重みづけがある場合(図11(c)、図11(d)、図12(c)、図12(d)、図13(c)、及び図13(d))は、位相分散値Vが小さくなっている。
【0128】
したがって、推定伝達関数H(f)においてコヒーレンス値γ(f)による位相値の重みづけをすることにより、時間ずれの真の推定値がより精度よく決定できる。
【0129】
なお、コヒーレンス値による重みづけは、伝達関数の振幅に応じた重みづけをしてもよい。
【0130】
また、重みづけを行う周波数を中心とした一定幅の周波数帯域あたりにおける平均ベクトルの大きさによって、その周波数における位相値の重みづけを行ってもよい。
【符号の説明】
【0131】
1 時刻同期システム、2 センサユニット、2a 第1センサユニット、2b 第2センサユニット、5 構造物、11 演算部、11a 第1時刻同期部、11a1 データ読み込み部、11a2 伝達関数算出部、11a3 位相分散値算出部、11a4 時間ずれ算出部、11a5 時間ずれ補正部、11b 第2時刻同期部、11b1 コヒーレンス算出部、11b2 位相分散値算出部、11b3 時間ずれ算出部、11b4 時間ずれ補正部、13 データ出力部、15 データ受け渡し部、21 処理部、23 測定部、25 内蔵時計、27 記憶部、29 データ受け渡し部。
図1
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