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特開2025-2552金属管内面に熱電対を溶接するための溶接電極・熱電対保持用治具
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  • 特開-金属管内面に熱電対を溶接するための溶接電極・熱電対保持用治具 図1
  • 特開-金属管内面に熱電対を溶接するための溶接電極・熱電対保持用治具 図2
  • 特開-金属管内面に熱電対を溶接するための溶接電極・熱電対保持用治具 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025002552
(43)【公開日】2025-01-09
(54)【発明の名称】金属管内面に熱電対を溶接するための溶接電極・熱電対保持用治具
(51)【国際特許分類】
   B23K 37/04 20060101AFI20241226BHJP
【FI】
B23K37/04 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023102800
(22)【出願日】2023-06-22
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100071216
【弁理士】
【氏名又は名称】明石 昌毅
(74)【代理人】
【識別番号】100130395
【弁理士】
【氏名又は名称】明石 憲一郎
(72)【発明者】
【氏名】岡田 卓也
(57)【要約】
【課題】 鋼管などの金属管の内面に熱電対を容易に溶接により固定できるようにする。
【解決手段】 溶接電極wと熱電対TCとを保持する治具1は、熱電対の付着される金属管Tの内部に挿入可能な寸法を有し、熱電対の二本の先端Tnが交差するように熱電対を金属管の内面Tiに接した位置にて保持するよう象られた熱電対保持溝部2、3、3aと、溶接電極wの先端wpが熱電対の二本の先端の交差位置を介して金属管の内面に当接するよう溶接電極を保持する溶接電極保持通路部5とを有する。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接電極と熱電対とを保持する治具であって、前記熱電対の付着される金属管の内部に挿入可能な寸法を有し、前記熱電対の二本の先端が交差するように前記熱電対を前記金属管の内面に接した位置にて保持するよう象られた熱電対保持溝部と、前記溶接電極の先端が前記熱電対の二本の先端の交差位置を介して前記金属管の内面に当接するよう前記溶接電極を保持する溶接電極保持通路部とを有する治具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接装置の溶接電極を保持するための治具に係り、より詳細には、鋼管その他の金属管の内面に熱電対を溶接するべく溶接電極と熱電対を保持する治具(溶接電極・熱電対保持用治具)に係る。
【背景技術】
【0002】
鋼管の焼き入れ加工やその他の金属管の種々の熱処理加工に於いて、金属管の温度管理の目的で、金属管表面に熱電対を付着する溶接が実行される場合がある。例えば、特許文献1に於いては、円筒状の配管の溶接部分の外周面に局所的にレーザ光を照射しながら、照射領域を周方向に移動することにより、配管の残留応力を改善する場合に、配管外面の温度履歴を測定するために、配管外面に複数の熱電対を付着することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008-169444
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
鋼管の焼き入れ加工などの金属管の熱処理加工の際、金属管の外面と内面では温度が異なる場合があるので、温度は、管外面だけでなく、管内面も計測できることが好ましい。この点に関し、管表面の適所に温度計測のための熱電対を付着する場合、熱電対は、溶接により管表面に固定されるところ、管の内径が比較的小さく、管内面の熱電対の付着したい箇所までの距離が管の開口端から比較的長いときには、溶接電極を担持する溶接機を管内に持ち入れることはできず、溶接電極だけを延ばしてその先端を、管内の奥の、熱電対の付着したい箇所までもっていくことになるが、比較的柔軟なワイヤ状の熱電対を所望の位置に保持しつつ、溶接電極の先端を、溶接が完了するまで、熱電対の溶接位置に安定的に保持することは極めて困難である。そこで、管内面の所望の位置に熱電対を溶接する際には、管内にて、熱電対と溶接電極とを安定的に保持できる治具があると便利であり、熱電対の取り付け工程が極めて簡単になることが期待される。
【0005】
かくして、本発明の主な課題は、鋼管などの金属管の内面に熱電対を容易に溶接により固定できるようにするために、熱電対と溶接電極とを管内で保持する冶具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、上記の課題は、溶接電極と熱電対とを保持する治具であって、前記熱電対の付着される金属管の内部に挿入可能な寸法を有し、前記熱電対の二本の先端が交差するように前記熱電対を前記金属管の内面に接した位置にて保持するよう象られた熱電対保持溝部と、前記溶接電極の先端が前記熱電対の二本の先端の交差位置を介して前記金属管の内面に当接するよう前記溶接電極を保持する溶接電極保持通路部とを有する治具によって達成される。
【0007】
上記に於いて、「熱電対」は、この分野で通常使用される2種類の被覆された金属線を線状に並列されてなるワイヤ状のものであり、少なくとも700~1000℃程度の温度の計測が可能なものであってよい。「溶接電極」は、熱電対のようなワイヤを金属表面に溶接して固定することのできる、この分野で利用されている手持ちの溶接機の棒状又は線状の金属部材であり、その先端が溶接対象の物品に当接して電流が印加されることで、溶接が達成されるものであってよい。上記の治具は、全体の寸法が熱電対の付着される金属管の内部に挿入可能となるように形成され、治具が金属管へ挿入された状態に於いて、治具の金属管内面に面した表面上に、上記の如く、熱電対を、金属管の内面に接した位置にて二本の先端が交差した状態で保持するよう象られた熱電対保持溝部が形成され、更に、溶接電極保持通路部が、溶接電極を保持して、その先端を熱電対の二本の先端の交差位置を介して金属管の内面に当接させるよう構成される。
【0008】
上記の本発明の治具によれば、金属管内に於いて、溶接電極の先端が熱電対の二本の先端の交差位置を介して金属管内面に当接した状態で、溶接電極と熱電対とが安定的に位置決めされることとなり、その状態で溶接加工を実行することで、容易に熱電対が金属管内面に固定されることとなる。かかる構成によれば、従前では極めて困難であった鋼管などの金属管内に熱電対が容易に固定でき、管内の温度の監視が可能となるので、金属管の焼き入れ処理などに於ける品質の向上が図られることとなる。
【0009】
上記の本発明の治具を用いる場合、熱電対の溶接部位に対する溶接電極の先端の位置が確定されるので、金属管内へ治具を挿入する際、溶接電極の先端からの溶接電極の長さを見ることで熱電対の位置が分かることとなる。従って、金属管内での熱電対の位置を決定するために溶接電極の上に、その先端から距離を示すマーカーが設けられていてよい。かかるマーカーは、溶接電極上に着色による印であってもよいが、溶接電極の先端から任意に設定される所定の距離の位置に、その距離を表わす別の治具であってもよい。
【発明の効果】
【0010】
かくして、上記の構成によれば、治具が挿入可能な内径の金属管に於いて熱電対の溶接が容易に達成できるので、溶接機が挿入できない径の金属管内面に熱電対が容易に溶接できることとなる。また、金属管の内側に熱電対を付着することが、管に孔などを開けずに可能であるので、熱処理中の管の内側の温度を、より正確に計測することが可能となる。更に、本発明によれば、熱処理中の管の内側の温度を観測できることから、管の内側の状況が、管そのものを破壊しなくても、推定できることとなる。そして、熱処理中の管内の温度が監視できることにより、より適切な温度制御が達成され、製造される金属管の品質向上が期待される。本発明の構成は、種々の熱処理加工される金属管の内側に熱電対を取り付けるために利用されてよい。
【0011】
本発明のその他の目的及び利点は、以下の本発明の好ましい実施形態の説明により明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1(A)は、本実施形態による溶接電極・熱電対保持用治具の模式的な斜視図であり、図1(B)は、本実施形態による治具を金属管内に挿入した状態の模式的な斜視図である。図1(C)、(D)は、本実施形態による治具の模式的な側面図と底面図であり、図1(E)、(F)は、本実施形態による治具に溶接電極と熱電対とを取り付けた状態の模式的な側方断面図と底面図である。図1(G)は、本実施形態による治具を金属管内に挿入した状態の模式的な側方断面図である。
図2図2(A)は、本実施形態による治具に取り付けられる熱電対の模式図であり、図2(B)は、熱電対を物品の表面に溶接する様子の模式的な斜視図である。図2(C)は、金属管の外側と内側に熱電対を取り付けた状態の模式図である。図2(D)、(E)は、本実施形態の治具がない場合(従来技術)に、金属管内に熱電対を溶接しようとした場合の状態の模式的な斜視図と側方断面図である。
図3図3は、本実施形態による治具を用いて熱電対の取り付けが可能な管の例の一つの模式的な断面図である。
【符号の説明】
【0013】
1…溶接電極・熱電対保持用治具,2…熱電対束線保持溝,3、3a…熱電対細線保持溝,4…溶接用孔,5…溶接電極保持通路,6…溶接電極固定蓋,7…固定ネジ,10…位置決め用治具,w…溶接電極,TC…熱電対(束),TA…熱電対(細線),Tn…熱電対(裸線),T…金属管,P…溶接箇所,M…溶接機
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に添付の図を参照しつつ、本発明を幾つかの好ましい実施形態について詳細に説明する。図中、同一の符号は、同一の部位を示す。
【0015】
熱電対と溶接機の構成
鋼管などの金属管を700~1000℃程度まで加熱する焼き入れ処理に於いては、管の内外の温度が適正に制御できているか否かを確認するために、管の内外で温度が計測できることが好ましい。そこで、上記の温度範囲にて温度の計測が可能な熱電対が、溶接機を用いた溶接により、管の表面に付着される。ここで使用される熱電対は、図2(A)に模式的に描かれている如く、種類の異なる金属の裸線Tn(例えば、直径0.2mm程度)を被覆してなる2本の細線TA(例えば、直径0.5mm程度)が束になったワイヤ状(例えば、直径1.4mm程度)の構成TCを有する。熱電対TCを物品K上に溶接する際には、図2(B)の如く、金属裸線Tnの先端付近が交差された状態で物品K上の溶接位置Pに配置され、物品Kに於いて、溶接機の陰極Gが設置され、手持ちの箱状の溶接機本体Mにて保持された溶接電極(陽極)wの先端wp(例えば、直径5mm程度)を、金属裸線Tnの交差部を介して、溶接位置Pに当接して、スイッチswを押して、電極間に電流を流すことで、物品Kと金属裸線Tnが溶解し、これにより、熱電対TCの先端が溶接位置Pに固定される。
【0016】
従って、図2(C)に模式的に描かれている如く、金属管Tの外表面だけでなく、内表面にも熱電対TCを付着しようとする場合には、金属管Tの内部の熱電対を付けたい位置まで、溶接電極wの先端wpと熱電対TCの先端をもっていき、安定的に保持する必要がある。しかしながら、金属管Tの内径が比較的小さく、金属管Tの開口端から熱電対を付けたい位置までの距離が比較的長い場合には、図2(D)、(E)に模式的に描かれている如く、溶接機本体Mを管内に持ち込むことができず、また、溶接機本体Mから片持ち状態の溶接電極の長さが長過ぎると、安定的に位置決めすることが難しく、熱電対TCは、比較的柔軟なワイヤ状の線材であるので、結局、熱電対を付着したい位置Ptに熱電対の裸線部分を交差した状態で配置し、更にそこに溶接電極先端wpを当接しようとしても、溶接電極先端wpが位置Ptまで届かないか、届いたとしても、安定的に、溶接が完了するまで、その場所に熱電対と溶接電極とを安定的に保持することは、非常に困難となる。
【0017】
本実施形態による治具の構成とその使用
上記の如き金属管の内側に熱電対を付着することの困難性に鑑み、本実施形態に於いては、図1(A)~(G)に模式的に描かれている如き、金属管T内に挿入可能な寸法に形成された治具1であって、熱電対TCの先端の2本の裸線Tnが交差した状態で金属管内面に当接され、その上に溶接電極wの先端wpが当接された状態で、溶接電極wと熱電対TCとを保持する治具1が提供される。
【0018】
具体的には、治具1に於いては、図1(C)、(D)に示されている如く、治具1が金属管Tの内側へ持ち込まれた際に、金属管Tの内面Tiに対面する底面1aに於いて、熱電対TCの束部分TCを収容する溝部分2と、熱電対TCの被覆された2本の細線部分TAを収容する溝部分3と、熱電対TCの2本の裸線部分Tnを、交差した状態で収容する溝部分3aとが形成される。なお、熱電対の束部分TC、被覆された細線TAが溝2、3内から容易に脱落しないように、溝幅は、束部分TC、細線TAの被覆がわずかに圧縮されて各溝内に収容されるように調整されていてよい。また、裸線部分Tnの交差する部分は、上方まで貫通した溶接用孔4が形成される。一方、治具1の上側には、溶接電極wの幹部分を保持する通路部5が形成され、その通路部5の上から蓋6が固定ネジ7により固定するよう構成される。かかる構成の治具1に於いて、熱電対TCと溶接電極wとが取り付けられる際には、図1(E)、(F)に示されている如く、熱電対TCの束部分TC、細線部分TA、裸線部分Tnが、それぞれ、溝部分2、3、3aに収容されるよう配置され、溶接電極wの屈曲した先端wpが溶接用孔4を挿通して、熱電対TCの裸線部分Tnの交差部分に当接するように、溶接電極wの幹部分が通路部5内に嵌入され、その上から蓋6が閉じられて固定ネジ7により固定されることで、溶接電極wが固定される。
【0019】
そして、図1(G)の如く、治具1は、熱電対と溶接電極とを保持した状態で金属管Tの内側へ挿入されて、熱電対を付着したい位置Ptに熱電対の裸線の交差している溶接用孔4が整合するよう移動され、そこに於いて、溶接機のスイッチswが押されて、溶接処理が実行される(金属管の内径は、1~数cm程度であってよい。)。その際、熱電対の裸線Tnの交差部分と溶接電極先端wpとは位置Ptに安定的に位置決めされているので、溶接処理が極めて容易となる。溶接完了後は、治具1が溶接電極を伴って管外へ取り出されるところ、熱電対は、管内面に溶接されているので、わずかな力で、治具1から外れ、管内に残ることとなる。(温度管理の終了後は、熱電対は、やや強い力で引張ると、溶接部分とともに管内面から剥離することできる。)
【0020】
ところで、上記の如く金属管内に治具1を用いて熱電対と溶接電極とを運び入れる際、管径が小さいときには、管内に於ける治具1、熱電対及び溶接電極の位置を作業者が目視することが困難となる。この点に関し、熱電対の裸線Tnの交差部分と溶接電極先端wpとの位置は治具により整合されており、溶接電極wは比較的剛性を有しているので、溶接電極の先端から溶接電極上の任意の位置までの長さによって管内に於ける熱電対の裸線Tnの交差部分の位置を知ることが可能である。そこで、溶接電極上の任意の位置に溶接電極の先端からの距離を示すマーカーが設けられてよい。マーカーとしては、例えば、溶接電極の先端から、熱電対の付着したい位置と管の開口端との距離と等しい長さの位置に、着色の印が付与されるか、図1(A)、(B)、(G)に例示されている如き位置を表示する治具10が装着されてよい。これにより、マーカーが管の開口端に整合することで、治具1の溶接孔4が熱電対を付着したい位置Ptに整合されることとなり、治具1の位置が目視できなくても、所望の位置に熱電対を容易に付着することが可能となる。
【0021】
上記の本実施形態による治具によれば、金属管内面に於いて、従前では、熱電対の溶接付着が困難なほど開口端から距離のある位置にも熱電対の溶接付着が可能となる。また、本実施形態による治具は、種々の内径の金属管の内側に熱電対を付着する場合に利用されてよい。例えば、図3に例示されている如く、内径φa~φc(例えば、18~24mmの間)が変化する管の場合、焼き入れ処理に於いて、温度のばらつきが生じ得るので、径の異なる位置のそれぞれにて温度が計測でき、監視できることが好ましいところ、本実施形態の治具を用いれば、径の異なる位置Pt1~Pt3のそれぞれへの熱電対の付着が極めて容易となる。
【0022】
以上の説明は、本発明の実施の形態に関連してなされているが、当業者にとつて多くの修正及び変更が容易に可能であり、本発明は、上記に例示された実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の概念から逸脱することなく種々の装置に適用されることは明らかであろう。
図1
図2
図3