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特開2025-25533一液型ウレタン樹脂組成物及び剥落防止方法
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  • 特開-一液型ウレタン樹脂組成物及び剥落防止方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025025533
(43)【公開日】2025-02-21
(54)【発明の名称】一液型ウレタン樹脂組成物及び剥落防止方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 18/32 20060101AFI20250214BHJP
   C08G 18/10 20060101ALI20250214BHJP
   C08G 18/30 20060101ALI20250214BHJP
   C08G 18/16 20060101ALI20250214BHJP
   C08L 75/04 20060101ALI20250214BHJP
   C08K 5/17 20060101ALI20250214BHJP
   E04G 23/02 20060101ALI20250214BHJP
【FI】
C08G18/32 096
C08G18/10
C08G18/30 070
C08G18/16
C08L75/04
C08K5/17
E04G23/02 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023130375
(22)【出願日】2023-08-09
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り ・令和5年1月24日に株式会社リフォームジャパン(茨城県守谷市本町3396)にて公開。 ・令和5年2月1日にジャパンマテリアル株式会社横浜営業所(神奈川県横浜市港北区樽町4丁目13-26)にて公開。 ・令和5年2月14日にコニシ株式会社浦和研究所(埼玉県さいたま市桜区西堀5-3-35 コニシ株式会社浦和研究所)にて公開。 ・令和5年2月24日~令和5年3月3日にビルメン会館(千葉県千葉市中央区登戸1丁目24-1)にて公開。 ・令和5年3月22日~令和5年3月24日に中野区軽井沢少年自然の家(長野県北佐久郡軽井沢長倉2141)にて公開。 ・令和5年4月10日~令和5年4月18日にホテルビスタ札幌中島公園(北海道札幌市中央区南9条西4丁目5)にて公開。 ・令和5年4月24日~令和5年4月27日に春日部市教育センター(埼玉県春日部市粕壁東3-2-19)にて公開。 ・令和5年8月4日にアストニッシュ株式会社(千葉県千葉市中央区登戸1丁目15番32号)にて公開。 ・令和5年8月7日に株式会社並木樹脂(埼玉県春日部市下蛭田131-1)にて公開。 ・令和5年8月9日に「ボンド アクアバインド工法」認定技術者新規講習会、ポリテクセンター中部(愛知県小牧市下末1636-2)にて公開。
(71)【出願人】
【識別番号】000105648
【氏名又は名称】コニシ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 真大
(74)【代理人】
【識別番号】100206151
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 惇志
(74)【代理人】
【識別番号】100218187
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 治子
(74)【代理人】
【識別番号】100227673
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 光起
(74)【代理人】
【識別番号】100231038
【弁理士】
【氏名又は名称】正村 智彦
(72)【発明者】
【氏名】柿野 純貴
【テーマコード(参考)】
2E176
4J002
4J034
【Fターム(参考)】
2E176AA02
2E176BB04
2E176BB29
4J002CK021
4J002CK041
4J002DJ019
4J002EP019
4J002EU027
4J002EU187
4J002EU216
4J002EW048
4J002FB089
4J002FD047
4J002FD146
4J002FD158
4J002FD339
4J002GJ00
4J002GL00
4J034BA03
4J034BA08
4J034CE04
4J034DA01
4J034DB04
4J034DB07
4J034DC50
4J034DG03
4J034DG04
4J034DG06
4J034HA01
4J034HA07
4J034HC03
4J034HC22
4J034HC45
4J034HC46
4J034HC52
4J034HC54
4J034HC61
4J034HC64
4J034HC67
4J034HC71
4J034HC73
4J034JA42
4J034KA01
4J034KB02
4J034KC16
4J034KD02
4J034KD15
4J034KD22
4J034KE02
4J034QA03
4J034QA05
4J034QB12
4J034QB14
4J034RA05
4J034RA10
(57)【要約】
【課題】一液型のウレタン樹脂組成物であって、ウレタン結合による強度及び硬化性だけでなく耐候性についても優れた樹脂組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】イソシアネート基含有ウレタンプレポリマー(A)と、オキサゾリジン環を有する化合物(B)と、中性ヒンダードアミン系光安定剤(C)と、酸性の硬化促進剤(D)と、を含有することを特徴とする一液型ウレタン樹脂組成物。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イソシアネート基含有ウレタンプレポリマー(A)と、
オキサゾリジン環を有する化合物(B)と、
中性ヒンダードアミン系光安定剤(C)と、
酸性の硬化促進剤(D)と、
を含有することを特徴とする一液型ウレタン樹脂組成物。
【請求項2】
揺変性付与剤(E)をさらに含有する、請求項1に記載の一液型ウレタン樹脂組成物。
【請求項3】
揺変性付与剤(E)が、シリカまたはアマイドを含有する、請求項2に記載の一液型ウレタン樹脂組成物。
【請求項4】
酸性の硬化促進剤(D)が、酸性リン酸エステル化合物(D-1)である、請求項1に記載の一液型ウレタン樹脂組成物。
【請求項5】
前記酸性リン酸エステル化合物(D-1)が、ポリエーテルリン酸エステルである、請求項4に記載の一液型ウレタン樹脂組成物。
【請求項6】
コンクリート構造物及び/又はタイルを張り付けた壁面に請求項1~5のいずれか一項に記載の一液型ウレタン樹脂組成物を塗布して、前記壁面からのコンクリート片及び/又はタイルの剥落を防止する剥落防止層を形成する工程、を含むことを特徴とする剥落防止方法。
【請求項7】
前記一液型ウレタン樹脂組成物を塗布する前に、前記壁面にプライマーを塗布してプライマー層を形成する工程を含むことを特徴とする、請求項6に記載の剥落防止方法。
【請求項8】
前記剥落防止層を形成した後に、前記剥落防止層上にトップコートを塗布してトップコート層を形成する工程を含むことを特徴とする、請求項6に記載の剥落防止方法。
【請求項9】
前記壁面上にガラスクロス及び/又は繊維編み上げメッシュを配置してから、前記一液型ウレタン樹脂組成物を塗布し、前記ガラスクロス及び/又は繊維編み上げメッシュを内部に埋没させた剥落防止層を形成することを特徴とする、請求項6に記載の剥落防止方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、剥落防止方法に用いる一液型ウレタン樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、コンクリート構造物又はタイルを貼り付けた壁面の表面に剥落防止層を形成してコンクリート片やタイルの剥落を防止する工法に使用される剥落防止層形成用の樹脂組成物としては、特許文献1に記載されているように、ウレタンプレポリマーとオキサゾリジン環を有する化合物と酸性の硬化促進剤とを含有するものが知られている。
【0003】
このような剥落防止層形成用の樹脂組成物には塗工してすぐに硬化する硬化性と、雨風や紫外線などに曝される環境においても劣化しにくい耐候性とを兼ね備えていることが求められる。
【0004】
耐候性を向上させる成分としてはヒンダードアミン系光安定剤を使用するこことが考えられるが、ヒンダードアミン系光安定剤は、例えば、特許文献2に記載されているように、酸性の硬化促進剤とともに用いると硬化速度が遅くなり硬化性が悪くなってしまうという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011-252292号公報
【特許文献2】特開2007-063551号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前述した課題に鑑みてなされたものであり、一液型のウレタン樹脂組成物であって、ウレタン結合による強度及び硬化性だけでなく耐候性についても優れた樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明に係る一液型ウレタン樹脂組成物及び剥落防止方法は、以下のようなものである。
[1]イソシアネート基含有ウレタンプレポリマー(A)と、
オキサゾリジン環を有する化合物(B)と、
中性ヒンダードアミン系光安定剤(C)と、
酸性の硬化促進剤(D)と、
を含有することを特徴とする一液型ウレタン樹脂組成物。
[2]揺変性付与剤(E)をさらに含有する、[1]に記載の一液型ウレタン樹脂組成物。
[3]揺変性付与剤(E)が、シリカまたはアマイドを含有する、[2]に記載の一液型ウレタン樹脂組成物。
[4]酸性の硬化促進剤(D)が、酸性リン酸エステル化合物(D-1)である、[1]~[3]のいずれかに記載の一液型ウレタン樹脂組成物。
[5]前記酸性リンエステル化合物(D-1)が、ポリエーテルリン酸エステルである、[4]に記載の一液型ウレタン樹脂組成物。
[6]コンクリート構造物及び/又はタイルを張り付けた壁面に[1]~[5]のいずれかに記載の一液型ウレタン樹脂組成物を塗布して、前記壁面からのコンクリート片及び/又はタイルの剥落を防止する剥落防止層を形成する工程、を含むことを特徴とする剥落防止方法。
[7]前記一液型ウレタン樹脂組成物を塗布する前に、前記壁面にプライマーを塗布してプライマー層を形成する工程を含むことを特徴とする、[6]に記載の剥落防止方法。
[8]前記剥落防止層を形成した後に、前記剥落防止層上にトップコートを塗布してトップコート層を形成する工程を含むことを特徴とする、[7]に記載の剥落防止方法。
[9]前記壁面上にガラスクロス及び/又は繊維編み上げメッシュを配置してから、前記一液型ウレタン樹脂組成物を塗布し、前記ガラスクロス及び/又は繊維編み上げメッシュを内部に埋没させた剥落防止層を形成することを特徴とする、[6]~[8]のいずれかに記載の剥落防止方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、一液型のウレタン樹脂組成物であって、ウレタン結合による強度及び硬化性だけでなく耐候性についても優れたものを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一実施形態に係る剥落防止方法についての説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本実施形態に係る一液型ウレタン樹脂組成物について説明する。
本実施形態に係る一液型ウレタン樹脂組成物は、イソシアネート基含有ウレタンプレポリマー(A)と、オキサゾリジン環を有する化合物(B)と、酸性の硬化促進剤(D)と、を含有するものである。
【0011】
イソシアネート基含有ウレタンプレポリマー(A)は、イソシアネート基が水分(湿気)と反応して架橋・硬化するものである。
イソシアネート基含有ウレタンプレポリマー(A)は、例えば、ポリオールとポリイソシアネートとを、ポリオールの水酸基に対し、ポリイソシアネートのイソシアネート基を過剰とした条件で反応させることにより得ることができるものであり、ウレタンプレポリマーの末端にイソシアネート基を有している。この反応には反応触媒を用いても良い。
【0012】
ポリオールとしては、例えば、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどを用いることができる。ポリオールの分子量は、例えば、500以上5000以下のものであることが好ましく、1000以上3000以下のものであることがより好ましい。このようなポリオールは市販品として各化学メーカーから販売されているものを購入することができる。
ポリイソシアネートとしては、ジイソシアネート等のイソシアネート基を2以上有する化合物が挙げられ、例えば、脂肪族ポリイソシアネート、脂環式ポリイソシアネート、芳香族ポリイソシアネートなどを用いることができる。具体例としては、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート、1,5-ペンタメチレンジイソシアネート、1,4-テトラメチレンジイソシアネート、2,2,4-トリメチル-1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート、2,4,4-トリメチル-1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、水素添加キシリレンジイソシアネート、水素添加ジフェニルメタンジイソシアネート、テトラメチレンキシリレンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネート、1,4-シクロヘキシジルジイソシアネート等を挙げることができる。このようなポリイソシアネートは、各化学メーカーから提供されている市販品を使用することができる。
反応触媒としては、例えば、2-エチルヘキサン酸ジルコニウム等の有機金属化合物等を用いることができる。
一液型ウレタン樹脂組成物中のイソシアネート基含有ウレタンプレポリマー(A)の含有量は、20質量%以上70質量%以下であることが好ましく、30質量%以上60質量%以下であることがより好ましく、40質量%以上50質量%以下であることがさらに好ましい。
【0013】
オキサゾリジン環を有する化合物(B)としては、例えば、オキサゾリジン及びその誘導体を広く用いることができる。
より具体的には、水酸基およびオキサゾリジン環を有する化合物の水酸基と、有機イソシアネート化合物のイソシアネート基や有機カルボン酸化合物のカルボキシル基とを反応させて得られる、ウレタン結合含有オキサゾリジン化合物やエステル基含有オキサゾリジン化合物、あるいはまた、オキサゾリジンシリルエーテル、カーボネート基含有オキサゾリジンなどを挙げることができる。製造し易く粘度が低いことから、ウレタン基(ウレタン結合)及びオキサゾリジン環を有する化合物が好ましい。
【0014】
これらの化合物は従来知られた方法で合成することができるが、例えば、ウレタン結合含有オキサゾリジン化合物の場合には、具体的には、水酸基およびオキサゾリジン環を有する化合物の水酸基と、イソシアネート化合物のイソシアネート基とを、イソシアネート基/水酸基のモル比が0.9~1.2の範囲、好ましくは0.95~1.05の範囲となるように使用し、有機溶剤の存在下または不存在下に50~100℃の温度で反応させることによって得ることができる。
【0015】
ウレタン結合含有オキサゾリジン化合物の合成に用いられるイソシアネート化合物としては、前述のイソシアネート基含有ウレタンプレポリマー(A)の合成に用いられるポリイソシアネートと同様のものを用いることができる。ウレタン基含有オキサゾリジン化合物の結晶性を低く抑え、かつ溶解性に優れるものとすることができるため、脂肪族系有機ポリイソシアネートを用いることが好ましく、イソホロンジイソシアネート及びヘキサメチレンジイソシアネートからなる群より選ばれる少なくとも一種を用いることがより好ましく、ヘキサメチレンジイソシアネートを用いることが特に好ましい。
【0016】
オキサゾリジン環を有する化合物は、分子内に、イソシアネート基含有ウレタンプレポリマー(A)のイソシアネート基と5~35℃の常温で反応する官能基を実質的に有していないことが好ましい。
【0017】
前記オキサゾリジン環を有する化合物(B)の含有量は、発泡を抑える観点からイソシアネート基含有ウレタンプレポリマー(A)中のイソシアネート基1.0当量に対して、オキサゾリジン環を有する化合物が加水分解して再生する2級アミノ基の活性水素が0.3当量以上、さらに0.5~1.5当量となるようにすることが好ましい。
一液型ウレタン樹脂組成物中のオキサゾリジン環を有する化合物(B)の含有量は、10質量%以上40質量%以下であることが好ましく、15質量%以上35質量%以下であることがより好ましく、20質量%以上30質量%以下であることがさらに好ましい。
【0018】
酸性の硬化促進剤(D)としては、例えば、オキサゾリジン環を開環させるものであればよく、酸性(例えばpKaが5以下)のものを用いている。具体例としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、カプロン酸、シュウ酸、コハク酸、アジピン酸、2-エチルヘキサン酸、オクテン酸、ラウリン酸、オレイン酸、ステアリン酸、マレイン酸、フタル酸、安息香酸、サリチル酸、およびこれらの酸無水物、酸性リン酸エステル化合物、又はPTSI(p-トルエンスルホニルイソシアネート)およびPTSIの加水分解物等を用いることができ、酸性リン酸エステル化合物を用いることが好ましく、酸性リン酸エステル化合物であるポリエーテルリン酸エステルを用いることがさらに好ましい。
一液型ウレタン樹脂組成物の酸性の硬化促進剤(D)の含有量は、0.05質量%以上10質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以上8質量%以下であることがより好ましく、0.2質量%以上4質量%以下であることがさらに好ましい。
【0019】
本実施形態に係る一液型ウレタン樹脂組成物は、さらに中性のヒンダードアミン系光安定剤(C、中性ヒンダードアミン系光安定剤ともいう。)を含有している。中性とは、ここでは、pKbが5.1よりも大きい、より好ましくはpKbが6以上、さらに好ましくはpKbが8以上のものを指す。
一液型ウレタン樹脂組成物の中性ヒンダードアミン系光安定剤(C)の含有量は、0.1質量%以上5質量%以下であることが好ましく、0.3質量%以上4質量%以下であることがより好ましく、0.5質量%以上3質量%以下であることがさらに好ましい。
【0020】
(C)中性ヒンダードアミン系光安定剤の市販品としては、例えば、以下の[化1]や[化2]ような構造のものを使用することができる。
【0021】
【化1】
化合物名:Decanedioic acid,bis(2,2,6,6-tetramethyl-1-(octyloxy)-4-piperidinyl)ester,reaction products with 1,1-dimethylethylhydroperoxide and octane
【0022】
【化2】

化合物名:2,4-bis[N-Butyl-N-(1-cyclohexyloxy-2,2,6,6-tetramethylpiperidic-4-yl)amino]-6-(2-hydroxyethylamine)-1,3,5-triazine
【0023】
市販品としては、Tinuvin123(BASF社製 化1 pKb=9.6)、Tinuvin152(BASF社製 化2 pKb=7.0、9.4)、Tinuvin249(BASF社製 pKb=8.0)等を挙げることができる。
【0024】
このように中性ヒンダードアミン系光安定剤(C)を用いることによって、酸性の硬化促進剤を用いた場合であっても、本実施形態に係る樹脂組成物においては、その硬化速度が遅くなることを抑制することができるので、ウレタン系樹脂であることによる十分な強度と硬化性、さらにヒンダードアミン系光安定剤による耐候性を全て最適な範囲とすることができる。
【0025】
本実施形態に係る一液型ウレタン樹脂組成物は、前述した成分以外に溶媒、その他の添加剤をさらに含有するものとしても良い。なお、溶媒及びその他の添加剤の添加は必須ではない。
溶媒としては、前述した成分を溶解又は分散させることが可能なものであり、一液型ウレタン樹脂組成物の硬化反応を阻害しないものであれば良く、一液型ウレタン樹脂組成物に一般的に使用されているものであれば問題なく用いることができる。溶媒の具体例としては、ナフテン系溶媒、グリコールエーテル系溶媒等を挙げることができる。グリコールエーテル系溶媒としては、例えば、ジエチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル等を挙げることができる。
一液型ウレタン樹脂組成物の溶剤の含有量は、0.5質量%以上20質量%以下であることが好ましく、1質量%以上15質量%以下であることがより好ましく、2質量%以上10質量%以下であることがさらに好ましい。
【0026】
その他の添加剤は、その目的に応じて適宜添加することができるものであり、例えば、イソシアヌレート、イソシアネート、揺変性付与剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、消泡剤などを挙げることができる。
【0027】
イソシアヌレートは、一液型ウレタン樹脂組成物が硬化する際に、イソシアネート基含有ウレタンプレポリマー(A)と結合して架橋を形成するものであり、添加により硬化した際の強度をさらに向上させるものである。
イソシアヌレートとしては、例えば、以下の化合物に挙げる化合物の三量体、すなわち三分子が縮合して生成したもの、及びこれらの水添物を挙げることができる。三量体を構成する3つの分子は互いに同じものであっても良いし、異なっていても良い。前記イソシアヌレート化合物を構成する化合物の例としては、例えば、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート、1,5-ペンタメチレンジイソシアネート、1,4-テトラメチレンジイソシアネート、2,2,4-トリメチル-1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート、2,4,4-トリメチル-1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、水素添加キシリレンジイソシアネート、水素添加ジフェニルメタンジイソシアネート、テトラメチレンキシリレンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネート、1,4-シクロヘキシジルジイソシアネート等を挙げることができる。
一液型ウレタン樹脂組成物のイソシアヌレートの含有量は、1質量%以上25質量%以下であることが好ましく、5質量%以上20質量%以下であることがより好ましく、10質量%以上15質量%以下であることがさらに好ましい。
【0028】
イソシアネートとしては、例えば、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート、1,5-ペンタメチレンジイソシアネート、1,4-テトラメチレンジイソシアネート、2,2,4-トリメチル-1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート、2,4,4-トリメチル-1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、水素添加キシリレンジイソシアネート、水素添加ジフェニルメタンジイソシアネート、テトラメチレンキシリレンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネート、1,4-シクロヘキシジルジイソシアネート、水添XDI(シクロヘキサン-1,2-ジイルビス(メチレン)ジイソシアナート)等のうち、少なくとも1種以上を挙げることができる。
【0029】
揺変性付与剤は、一液型ウレタン樹脂組成物を壁面などに塗布する際の液だれを抑え、かつ塗工時の作業性を向上させるために、一液型ウレタン樹脂組成物の粘度を適切な範囲に調整するものである。揺変性付与剤の具体例としては、粒子状のシリカやアマイド等を挙げることができる。一液型ウレタン樹脂組成物の揺変性付与剤の含有量は、0.1質量%以上15質量%以下であることが好ましく、0.4質量%以上10質量%以下であることがより好ましく、1質量%以上8質量%以下であることがさらに好ましい。
粒子状のシリカとしては、ヒュームドシリカや微粉末シリカ等が挙げられ、表面処理された微粉末シリカが好ましい。表面処理としては、例えば、ジメチルジクロロシラン、ヘキサメチルジシラザン、シリコーンオイル等が挙げられる。揺変性付与剤として、シリカを用いる場合には、シリカの含有量が0.5質量%以上20質量%以下となるようにすることが好ましく、1質量%以上10質量%以下とすることがより好ましく、2質量%以上7.5質量%以下とすることがさらに好ましい。
アマイドとしては、例えば、脂肪酸(ステアリン酸、リシノール酸、オレイン酸、オキシステアリン酸、エルカ酸、ラウリン酸、エチレンビスステアリン酸、エチレンビスオレイン酸、アルカン酸等)とアミン類(エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ポリエチレンポリアミン等)との縮合反応により製造される反応生成物が挙げられる。揺変性付与剤として、アマイドを用いる場合には、アマイドの含有量(アマイドペースト等を用いる場合には溶剤を除いたアマイドのみの質量、すなわち固形分での含有量)が0.1質量%以上5質量%以下となるようにすることが好ましく、0.4質量%以上3質量%以下とすることがより好ましく、0.9質量%以上2質量%以下とすることがさらに好ましい。
【0030】
以下に、本実施形態に係る一液型ウレタン樹脂組成物の主な用途である剥落防止方法について説明する。
本実施形態に係る剥落防止方法は、例えば、図1に示すように、コンクリート構造物又はタイルを貼り付けた壁面の表面に前述した一液型ウレタン樹脂組成物を塗布、乾燥させて剥落防止層を形成することにより、コンクリート片やタイルの剥落を防止するものである。
【0031】
本実施形態に係る剥落防止方法は、具体的には、以下のような工程を含むものである。
まず、コンクリート構造物やタイルを貼り付けた壁面の表面に付着している塵埃や異物を除去する。この際に、コンクリート構造物の表面に突起物や段差がある場合には表面を平滑にしておくことが好ましい。
次に、コンクリート構造物の表面に、プライマーを塗布し、乾燥させてプライマー層を形成する。プライマーをコンクリート構造物の表面に塗布する方法は、とくに限られないが、例えば、スプレーガンによって噴射する方法、ローラーや刷毛もしくはレーキによって塗布する方法などを挙げることができる。
プライマー層を形成した後、前述した本実施形態に係る一液型ウレタン樹脂組成物を塗布し、乾燥させて、剥落防止層を形成する。一液型ウレタン樹脂塗膜樹脂組成物を塗布する方法についても特に限られないが、例えば、ローラーによる塗布や鏝もしくはレーキによって塗布する方法などを挙げることができる。
剥落防止層を形成した後、この剥落防止層の表面にさらにトップコートをスプレーガンなどによって塗布し、トップコート層を形成するものとしても良い。
【0032】
プライマーとしては、一液型・二液型を問わず、また水性形・溶剤形を問わず、広くどのようなものでも使用することができるが、例えば、ウレタン樹脂系、ウレア樹脂系、エポキシ樹脂系、アクリル樹脂系、変成シリコーン樹脂系、シリコン系及び無機系のプライマーのうちの一種以上を使用することができる。中でもアクリルシリコン樹脂系のプライマーを用いることが好ましい。
トップコートとしても、一液型・二液型を問わず、また水性形・溶剤形を問わず、広くどのようなものでも使用することができるが、例えば、ウレタン樹脂系、ウレア樹脂系、エポキシ樹脂系、アクリル樹脂系、変成シリコーン樹脂系、シリコン系及び無機系のプライマーのうちの一種以上を使用することができる。中でもアクリルシリコン樹脂系のプライマーを用いることが好ましい。
【0033】
前述した方法により形成される剥落防止層の厚みは、目的や環境に応じて適宜変更が可能であるが、例えば、0.10mm以上10mm以下であることが好ましく、0.15mm以上8mm以下であることがより好ましく、0.20mm以上5mm以下であることがさらに好ましい。
【0034】
プライマー層及びトップコート層は必須の構成ではなく、必要に応じてこれらの一方のみを形成するものとしても良いし、両方を形成しないものとしても良い。
また、必要に応じて、剥落防止層中にガラスクロス及び/又は繊維編み上げメッシュ等の補強材を樹脂塗膜中に埋設させることもできる。この場合には、壁面にプライマーを塗布した後、または一液型ウレタン樹脂組成物を一度塗布した後に、メッシュ等を貼り付けさらにその上から該メッシュを覆うように一液型ウレタン樹脂組成物を塗布し、乾燥することによりメッシュ等を埋没させることができる。
前述した補強材としては、合成繊維又は炭素繊維やガラス繊維、金属等を含む2軸或いは3軸メッシュシート、合成繊維製編織物又は合成樹脂製ネット等を広く用いることができる。より具体的には、ガラスクロス、ビニロン繊維ネット、アラミド繊維ネット、アラミドシート、カーボンシート、金属メッシュ等を挙げることができる。
【0035】
<本実施形態による効果>
本実施形態に係る樹脂組成物を前述した剥落防止方法に使用することにより、ウレタン結合による強度を発揮させながらも、硬化性に優れ、さらに十分な耐候性を有する剥落防止層を形成することができる。
さらに揺変性付与剤等の添加剤を適切な範囲で含有するものとしているので、壁面に一液型ウレタン樹脂組成物を塗布する際の作業性についても向上させることができる。
【0036】
本発明は前述した実施形態に限られず、本発明の趣旨に反しない限りにおいて、種々の変形や実施形態の組合せを行ってもかまわない。
例えば、本発明に係る一液型ウレタン樹脂組成物は、前述した剥落防止方法に限らず、同様の硬化強度、硬化性、耐候性を求められる用途に広く用いることができる。
【実施例0037】
以下に、実施例を挙げて本願発明についてより詳細に説明するが、本願発明はこれらに限られない。
【0038】
<ウレタンプレポリマーの合成>
まず、以下の通りウレタンプレポリマーを合成した。
合成例1(ウレタンプレポリマーP1の合成)
攪拌機、温度計、窒素シール管および加熱・冷却装置付き反応容器に、窒素ガスを流しながら、ポリオキシプロピレンジオール(三井化学社製、アクトコール D-2000、平均分子量2000)3267gを仕込み、攪拌しながらイソホロンジイソシアネート(IPDI,住化コベストロウレタン社製、商品名デスモジュールI、分子量222.3)648.61gと、反応触媒としてオクタン酸ジルコニウム(ホープ製薬社製、17%オクトープZr)0.783gを仕込み、80℃~90℃で3時間反応し、イソシアネート基の含有量が理論値(2.763質量%)以下になった時点で反応を終了し、ウレタンプレポリマーP1を合成した。得られたウレタンプレポリマーP1は、滴定による実測イソシアネート基含有量2.6387質量%の、常温で透明な粘液体であった。
合成例2~4(ウレタンプレポリマーP2~P4の合成)
表1に示すとおりに原材料及び仕込み比(モル比)を変更したこと以外は、合成例1と同様にして、ウレタンプレポリマーP2からP4を合成した。なお、表中のポリオールは以下のとおりである。ここでは、一例として平均分子量が2000のポリオールを使用しているが、ポリオールの平均分子量については適宜変更可能であり、例えば、平均分子量が1000や3000、4000等のものを使用した場合であっても同様の結果を得ることができる。
<ポリオール>
PTG-L2000:保土谷化学工業社製 変性ポリテトラメチレングリコール 平均分子量2000
PTMG2000:三菱ケミカル社製 ポリテトラメチレングリコール 平均分子量2000
【0039】
【表1】
【0040】
<一液型ウレタン樹脂組成物の調製>
実施例1
攪拌機、加熱、冷却装置および窒素シール管付混練容器に、窒素気流下で、合成例1で得たウレタンプレポリマーP1を1358.8g、水添XDI(三井化学社製、タケネート600)を26.1g、IPDIイソシアヌレート(住化コベストロウレタン社製、デスモジュール Z4470BA)を338.7g、ウレタン結合含有オキサゾリジン化合物(三井化学社製 M-OZ-T4(80))を648.9g、アマイドワックス(楠本化成社製、ディスパロンF-9050)を222.7g(アマイド含有量:20%)、中性ヒンダードアミン系光安定剤(BASF社製、Tinuvin123 pKb=9.6)39.5g、ヒドロキシフェニルトリアジン系紫外線吸収剤(BASF社製 Tinuvin400)39.5g、ポリエーテルリン酸エステル(楠本化成社製 ディスパロン3500)を32.4g、シリコン系消泡剤(ビックケミー社製 BYK-066N)を4.02g、ジエチレングリコールジメチルエーテル(東邦化学工業社製、ハイソルブMDM)を47.6g、ナフテン系溶剤(安藤パラケミー社製、エクソールD40)を294.3g仕込み、よく混合した後に減圧脱泡し、容器に充填、密封して、一液型ウレタン樹脂組成物を調製した。
実施例2~11及び比較例1~5
表2に示すとおりに原材料及び仕込み比(質量比)を変更したこと以外は実施例1と同様にして、一液型ウレタン樹脂組成物を調製した。なお、表2中の揺変性付与剤、ヒンダードアミン系光安定剤、硬化促進剤、溶媒は以下のとおりである。
<揺変性付与剤>
ディスパロン6820-20M:楠本化成社製 アマイドワックス(アマイド含有量:20%)
アエロジルRY-200S:日本アエロジル社製 ジメチルポリシロキサン処理ヒュームドシリカ
<ヒンダードアミン系光安定剤>
Tinuvin292:BASF社製 塩基性ヒンダードアミン系光安定剤(pKb=5.1)
<硬化促進剤>
JP-504:城北化学工業社製 酸性リン酸エステル(ブチルアシッドホスフェート)
JP-508:城北化学工業社製 酸性リン酸エステル(2-エチルヘキシルアシッドホスフェート)
JP-513:城北化学工業社製 酸性リン酸エステル(イソトリデシルアシッドホスフェート)
サリチル酸:三井化学ファイン社製
<溶媒>
ダワノールPMA:ダウ・ケミカル日本社製 プロピレングリコールメチルエーテルアセテート
【0041】
前述したようにして調製した一液型ウレタン樹脂組成物及びこれを硬化させた硬化物について、粘度、耐候性、製造直後のタックフリー時間、50℃2週間促進曝露後のタックフリー時間について以下の評価方法で評価した。結果を表2に示す。
【0042】
[粘度の測定]
調整した一液型ウレタン樹脂組成物について、東機産業株式会社製のB型粘度計を用いて粘度を測定した。ローターは、No.3ローターを用いた。測定温度は23℃とした。回転速度は20rpm及び2rpmとして粘度を測定し、回転速度を2rpmとした際の粘度を、回転速度を20rpmとした際の粘度で割った値をチキソトロピーインデックス(TI)とした。またTIの値が3以上を作業性○とした。
【0043】
[タックフリー時間の評価]
調製した一液型ウレタン樹脂組成物を、ヘラを用いて平滑なガラス板の上に厚さ0.3mmになるように平らにならした試験体を作製し、温度23℃±2℃及び相対湿度50±10%の雰囲気下に静置する。DMCで清浄にした指先で、試験体表面に軽く触れて、平らにならしたときから、硬化性組成物が指先に付着しなくなるまでに要した時間を測定し、タックフリー時間とした。測定した製造直後のタックフリー時間に対する50℃2週間促進曝露後(一般的な環境で半年保管後に相当)のタックフリー時間の遅延時間(すなわち保管前後のタックフリー時間の差)を下記の基準で評価した。
〇:保管後のタックフリー時間の遅延時間が、10分未満
×:保管後のタックフリー時間の遅延時間が、10分以上
【0044】
【表2】
【0045】
次に、実施例1及び5の各一液型ウレタン樹脂組成物を硬化させた硬化物について、強度と耐候性を以下の方法で調べた。結果を表3に示す。
[皮膜物性(引張強さ(N/mm2)・破断時の伸び率(%))評価方法]
JIS A 6021(建築用塗膜防水材)に定める塗膜作製方法及び23℃における引張性能試験方法を参考に引張強さ(N/mm2)と破断時の伸び率(%)を測定することで評価を実施した。
各実施例及び各比較例に係る一液型ウレタン樹脂組成物を用いて塗膜を作製した。なお塗膜作製は、温度23℃±2℃及び相対湿度50±10%の雰囲気下で168時間養生することで行い、試験片の切り出しはJIS K 6251に規定するダンベル3号形を用いて行った。また、引張試験機の引張速度は200mm/minに設定して引張性能試験を実施した。
【0046】
【表3】
【0047】
[促進耐候性評価方法]
メタルウェザーメーター(ブラックパネル温度:63℃、シャワー2分/120分、ダイプラウィンテス株式会社製)を用いて促進暴露試験を行うことで評価した。試験片は、実施例1~6に係る一液型ウレタン樹脂組成物をタイルの上に600g/m塗布して、23℃50%相対湿度の標準状態で7日間硬化養生したのちに促進暴露試験に供した。100時間の促進暴露後に試験片を目視により観察し、白化・クラック・変色のない場合を○、白化・クラック・変色が認められる場合を×と評価した。実施例1~6について促進耐候性評価を行った結果、これら全ての実施例において結果が○であった。
【0048】
以上の結果から、中性のヒンダードアミン系光安定剤(TINUVIN123、pKb=9.6)を用いた各実施例に係る一液型ウレタン樹脂組成物においては、コンクリート構造物やタイル外壁の剥落防止工法に十分な強度と耐候性を有しながらも、製造直後と50℃2週間促進曝露後のタックフリー時間との比較から、硬化速度の遅延は発生していないことが分かり、硬化速度を十分に速く維持できていることが分かる。一方で、塩基性のヒンダードアミン系光安定剤(TINUVIN292、pKb=5.1)を用いた比較例1~5においては製造直後と50℃2週間促進曝露後のタックフリー時間との比較から、硬化性が悪くなってしまっていることがわかる。
また、実施例1~10と実施例11との比較から揺変性付与剤を添加することにより、一液型ウレタン樹脂組成物の粘度について、ハケによる塗工時の作業性に最適な範囲のものとできることが分かった。
なお表2中に記載されている水添XDI、紫外線吸収剤、酸化防止剤、シリコン系消泡剤については、これらを添加しない場合であっても、今回評価した各指標に関しては同様の性能を発揮することが確認されている。


図1