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特開2025-2556フォトンカウンティングCT装置および医用画像処理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025002556
(43)【公開日】2025-01-09
(54)【発明の名称】フォトンカウンティングCT装置および医用画像処理方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 6/03 20060101AFI20241226BHJP
【FI】
A61B6/03 350Y
A61B6/03 373
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023102808
(22)【出願日】2023-06-22
(71)【出願人】
【識別番号】594164542
【氏名又は名称】キヤノンメディカルシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木地 浩章
(72)【発明者】
【氏名】田口 博基
(72)【発明者】
【氏名】湊谷 洋平
(72)【発明者】
【氏名】松浦 正和
【テーマコード(参考)】
4C093
【Fターム(参考)】
4C093AA22
4C093CA13
4C093EA07
4C093EB20
4C093FD09
4C093FF19
4C093FF20
4C093FF21
(57)【要約】
【課題】フォトンカウンティングCT画像におけるリングアーチファクトを高精度に判定および除去すること。
【解決手段】実施形態のフォトンカウンティングCT装置は、判定部と、除去部とを持つ。判定部は、複数の異なるX線エネルギー帯の光子検出結果の合算データに基づいて生成されたカウンティング画像におけるスパイク成分を判定する第1の判定処理と、複数の異なるX線エネルギー帯ごとの光子検出結果に基づいて生成される複数のエネルギー画像に基づいてリングアーチファクトを判定する第2の判定処理とを行う。除去部は、第1の判定処理の結果と、第2の判定処理の結果との両方に基づいて、カウンティング画像のリングアーチファクトを除去または低減する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の異なるX線エネルギー帯の光子検出結果の合算データに基づいて生成されたカウンティング画像におけるスパイク成分を判定する第1の判定処理と、前記複数の異なるX線エネルギー帯ごとの光子検出結果に基づいて生成される複数のエネルギー画像に基づいてリングアーチファクトを判定する第2の判定処理とを行う判定部と、
前記第1の判定処理の結果と、前記第2の判定処理の結果との両方に基づいて、前記カウンティング画像のリングアーチファクトを除去または低減する除去部と、
を備えるフォトンカウンティングCT装置。
【請求項2】
前記判定部は、前記第2の判定処理において、
直交座標で表された前記複数のエネルギー画像の各々を極座標変換し、
極座標変換された前記複数のエネルギー画像の各々からスパイク成分を抽出し、
前記スパイク成分に基づいて、前記リングアーチファクトを判定する、
請求項1に記載のフォトンカウンティングCT装置。
【請求項3】
前記判定部は、前記第2の判定処理において、
前記複数のエネルギー画像の内、第1のエネルギー画像の第1の位置において抽出された第1のスパイク成分と、他のエネルギー画像における前記第1の位置の画素値との比較結果に基づいて、前記第1のスパイク成分に関する指標値を算出し、
前記指標値と、閾値との比較結果に基づいて、前記第1のスパイク成分がリングアーチファクトに起因するか否かを判定する、
請求項2に記載のフォトンカウンティングCT装置。
【請求項4】
前記判定部は、前記第2の判定処理において、
前記複数のエネルギー画像に基づいて、前記複数のエネルギー画像に含まれる物質を識別し、
識別された前記物質の質量減弱係数から算出される理論値である理論画素値と、前記複数のエネルギー画像から算出される実測値である実測画素値との比較結果に基づいて、前記リングアーチファクトを判定する、
請求項1に記載のフォトンカウンティングCT装置。
【請求項5】
前記判定部は、前記第2の判定処理において、
所定の複数のエネルギー値に対応する複数の前記理論画素値の間の比率と、前記複数のエネルギー値に対応する複数の前記実測画素値の間の比率との間の差分と、閾値との比較結果に基づいて、前記複数のエネルギー画像に含まれるリング成分がリングアーチファクトに起因するか否かを判定する、
請求項4に記載のフォトンカウンティングCT装置。
【請求項6】
前記判定部は、前記第1の判定処理において判定された前記スパイク成分の内、前記第2の判定処理において判定されたリングアーチファクトと位置が対応するスパイク成分を、前記カウンティング画像におけるリングアーチファクトと判定し、
前記除去部は、前記カウンティング画像から、判定された前記カウンティング画像におけるリングアーチファクトを差し引くことで、前記カウンティング画像のリングアーチファクトを除去または低減する、
請求項1に記載のフォトンカウンティングCT装置。
【請求項7】
前記複数のエネルギー画像は、前記複数の異なるX線エネルギー帯ごとの光子検出結果を用いて再構成されたビン画像である、
請求項1から6のいずれか一項に記載のフォトンカウンティングCT装置。
【請求項8】
前記複数のエネルギー画像は、前記複数の異なるX線エネルギー帯ごとの光子検出結果を用いて再構成された仮想単色X線エネルギー画像である、
請求項1から6のいずれか一項に記載のフォトンカウンティングCT装置。
【請求項9】
コンピュータが、
複数の異なるX線エネルギー帯の光子検出結果の合算データに基づいて生成されたカウンティング画像におけるスパイク成分を判定する第1の判定処理と、前記複数の異なるX線エネルギー帯ごとの光子検出結果に基づいて生成される複数のエネルギー画像に基づいてリングアーチファクトを判定する第2の判定処理とを行い、
前記第1の判定処理の結果と、前記第2の判定処理の結果との両方に基づいて、前記カウンティング画像のリングアーチファクトを除去または低減する、
医用画像処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書及び図面に開示の実施形態は、フォトンカウンティングCT装置および医用画像処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
X線CT(Computed Tomography)装置により撮像されたCT画像に生じるリングアーチファクトの除去技術として、サイノグラムベース、画像ベースの手法が提案されている。これらの従来の手法では、検出素子ごとの検出データまたは当該検出データから再構成されたCT画像の画素値(CT値)等の情報を用い、隣接素子または隣接画素の間の差分の程度に基づいてリング成分を判定し、CT画像(オリジナルデータ)からリング成分を差し引く処理が行われる。その際、隣接素子または隣接画素の間の差分が所定の閾値よりも大きい場合には、そのリング成分は、リングアーチファクト起因ではなく、撮像対象であるオブジェクト(例えば、臓器、骨等)起因であると判断して除去しないように設計されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-099667号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
フォトンカウンティングCT装置(Photon Counting Computed Tomography;PCCT)に用いられる半導体検出器であるフォトンカウンティング検出器(Photon Counting Detector;PCD)は、シンチレータおよびフォトダイオードから構成される従来型の検出器よりも、熱やその他要因により素子応答(出力特性)が変わりやすく、キャリブレーション時と本スキャン時の応答差異が生じやすい。このため、従来型のCT装置では検出器の故障以外で出現しないような強いリング成分が、フォトンカウンティングCT装置では出現する場合がある。従来のリングアーチファクトの除去技術では、隣接素子との差分の程度が大きい場合にはオブジェクトと判定してしまうために、リング成分がリングアーチファクト起因だとしてもこれを除去することが出来ない場合があった。
【0005】
本明細書及び図面に開示の実施形態が解決しようとする課題は、フォトンカウンティングCT画像におけるリングアーチファクトを高精度に除去することである。ただし、本明細書及び図面に開示の実施形態により解決しようとする課題は上記課題に限られない。後述する実施形態に示す各構成による各効果に対応する課題を他の課題として位置づけることもできる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態のフォトンカウンティングCT装置は、判定部と、除去部とを持つ。判定部は、複数の異なるX線エネルギー帯の光子検出結果の合算データに基づいて生成されたカウンティング画像におけるスパイク成分を判定する第1の判定処理と、複数の異なるX線エネルギー帯ごとの光子検出結果に基づいて生成される複数のエネルギー画像に基づいてリングアーチファクトを判定する第2の判定処理とを行う。除去部は、第1の判定処理の結果と、第2の判定処理の結果との両方に基づいて、カウンティング画像のリングアーチファクトを除去または低減する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】第1の実施形態に係るフォトンカウンティングCT装置1の一例を示す図。
図2】第1の実施形態に係るDAS16の構成の一例を示す図。
図3】第1の実施形態に係るフォトンカウンティングCT装置1のリングアーチファクト除去処理の一例を示すフローチャート。
図4】第1の実施形態に係るフォトンカウンティングCT装置1のリングアーチファクト判定処理(スパイク成分判定)の一例を示すフローチャート。
図5】第1の実施形態に係る各ビン画像においてリングアーチファクトが生じている様子を示す図。
図6】第1の実施形態に係るビン画像に対する極座標変換の処理を説明する図。
図7】第1の実施形態に係るフォトンカウンティングCT装置1のリングアーチファクト判定処理(CT値比率判定)の一例を示すフローチャート。
図8】第1の実施形態に係る基準物質の理論的なエネルギー値とCT値との関係を示すグラフ。
図9】第2の実施形態に係るフォトンカウンティングCT装置1のリングアーチファクト除去処理の一例を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照しながら、実施形態のフォトンカウンティングCT装置および医用画像処理方法について説明する。
【0009】
<第1の実施形態>
[フォトンカウンティングCT装置の構成]
図1は、実施形態に係るフォトンカウンティングCT装置1の一例を示す図である。本実施形態では、フォトンカウンティングCT装置の特徴であるエネルギー帯域(エネルギービン)ごとに再構成された画像(以下「ビン画像」という)を用いて、リングアーチファクト/オブジェクトの判定を行い、判定結果に基づいてリングアーチファクトを除去または低減する。これにより、リングアーチファクトが高精度に除去または低減されたCT画像を生成することができる。
【0010】
フォトンカウンティングCT装置1は、エネルギー分解能に優れた半導体検出器等の直接型検出器を用いて、X線が透過した検査対象の物質を弁別した画像データを生成することができる。フォトンカウンティングCT装置1は、例えば、架台装置10と、寝台装置30と、コンソール装置40とを有する。フォトンカウンティングCT装置との用語は、架台装置10と、寝台装置30と、コンソール装置40との全体を示すものであってもよいし、架台装置10と、寝台装置30と、コンソール装置40との少なくとも1つを示すものであってもよい。図1では、説明の都合上、架台装置10をZ軸方向から見た図とX軸方向から見た図の双方を掲載しているが、実際には、架台装置10は一つである。本実施形態では、非チルト状態での回転フレーム17の回転軸または寝台装置30の天板33の長手方向をZ軸方向、Z軸方向に直交し、床面に対して水平である軸をX軸方向、Z軸方向に直交し、床面に対して垂直である方向をY軸方向とそれぞれ定義する。
【0011】
<架台装置10>
架台装置10は、例えば、X線管11と、ウェッジ12と、コリメータ13と、X線高電圧装置14と、X線検出器15と、データ収集システム(以下、DAS:Data Acquisition System)16と、回転フレーム17と、制御装置18とを有する。X線検出器15と、DAS16とは、検出器モジュール20を構成する。
【0012】
X線管11は、X線高電圧装置14からの高電圧の印加により、陰極(フィラメント)から陽極(ターゲット)に向けて熱電子を照射することでX線を発生させる。X線管11は、真空管を含む。例えば、X線管11は、回転する陽極に熱電子を照射することでX線を発生させる回転陽極型のX線管である。
【0013】
ウェッジ12は、X線管11から被検体Pに照射されるX線量を調節するためのフィルタである。ウェッジ12は、X線管11から被検体Pに照射されるX線量の分布が予め定められた分布になるように、自身を透過するX線を減衰させる。ウェッジ12は、ウェッジフィルタ(wedge filter)、ボウタイフィルタ(bow-tie filter)とも呼ばれる。ウェッジ12は、例えば、所定のターゲット角度や所定の厚みとなるようにアルミニウムを加工したものである。
【0014】
コリメータ13は、ウェッジ12を透過したX線の照射範囲を絞り込むための機構である。コリメータ13は、例えば、複数の鉛板の組み合わせによってスリットを形成することで、X線の照射範囲を絞り込む。コリメータ13は、X線絞りと呼ばれる場合もある。コリメータ13の絞り込み範囲は、機械的に駆動可能であってよい。
【0015】
X線高電圧装置14は、例えば、図示しない高電圧発生装置と、図示しないX線制御装置とを有する。高電圧発生装置は、変圧器(トランス)および整流器等を含む電気回路を有し、X線管11に印加する高電圧を発生させる。X線制御装置は、X線管11に発生させるべきX線量に応じて高電圧発生装置の出力電圧を制御する。高電圧発生装置は、上述した変圧器によって昇圧を行うものであってもよいし、インバータによって昇圧を行うものであってもよい。X線高電圧装置14は、回転フレーム17に設けられてもよいし、架台装置10の固定フレーム(不図示)の側に設けられてもよい。
【0016】
X線検出器15は、X線管11が発生させ、被検体Pを通過して入射したX線の強度を検出する。X線検出器15は、検出したX線の強度に応じた電気信号(光信号等でもよい)をDAS16に出力する。X線検出器15は、例えば、複数のX線検出素子列を有する。複数のX線検出素子列のそれぞれは、X線管11の焦点を中心とした円弧に沿ってチャンネル方向に複数のX線検出素子が配列されたものである。複数のX線検出素子列は、スライス方向(列方向、row方向)に配列される。
【0017】
X線検出器15は、例えば、直接検出型の検出器である。X線検出器15としては、例えば、半導体の両端に電極が取り付けられた半導体ダイオードが適用可能である。半導体に入射したX線光子は、電子・正孔対に変換される。1つのX線光子の入射により生成される電子・正孔対の数は、入射したX線光子のエネルギーに依存する。電子と正孔とは、半導体の両端に形成された一対の電極に各々引き寄せられる。一対の電極は、電子・正孔対の電荷に応じた波高値を有する電気パルスを発生する。一個の電気パルスは、入射したX線光子のエネルギーに応じた波高値を有する。
【0018】
DAS16は、例えば、制御装置18からの制御信号に従って、X線検出器15により検出されたX線光子のカウント数を示すカウントデータを複数のエネルギービンについて収集する。複数のエネルギービンに関するカウントデータは、X線検出器15の応答特性に応じて変形された、X線検出器15への入射X線に関するエネルギースペクトラムに対応する。DAS16は、デジタル信号に基づく検出データをコンソール装置40に出力する。検出データは、生成元のX線検出素子のチャンネル番号、列番号、および収集されたビューを示すビュー番号により識別されたカウントデータのデジタル値である。ビュー番号は、回転フレーム17の回転に応じて変化する番号であり、例えば、回転フレーム17の回転に応じてインクリメントされる番号である。従って、ビュー番号は、X線管11の回転角度を示す情報である。ビュー期間とは、あるビュー番号に対応する回転角度から、次のビュー番号に対応する回転角度に到達するまでの間に収まる期間である。
【0019】
DAS16は、ビューの切り替わりを、制御装置18から入力されるタイミング信号によって検知してもよいし、内部のタイマーによって検知してもよいし、図示しないセンサから取得される信号によって検知してもよい。フルスキャンを行う場合においてX線管11によりX線が連続曝射されている場合、DAS16は、全周囲分(360度分)の検出データ群を収集する。ハーフスキャンを行う場合においてX線管11によりX線が連続曝射されている場合、DAS16は、半周囲分(180度分)の検出データを収集する。DAS16は、半導体検出器により検出された検出データの処理を行う。
【0020】
図2は、第1の実施形態に係るDAS16の構成の一例を示す図である。DAS16は、X線検出素子の個数に応じたチャンネル数分の読出しチャンネルを備える。これら複数の読出しチャンネルは、ASIC等の集積回路に並列的に実装されている。図2では、1読出しチャンネル分のDAS16-1の構成のみを示している。
【0021】
DAS16-1は、前置増幅回路61と、波形整形回路63と、複数の波高弁別回路65と、複数の計数回路67と、出力回路69とを有する。前置増幅回路61は、接続先のX線検出素子からの検出電気信号DS(電流信号)を増幅する。例えば、前置増幅回路61は、接続先のX線検出素子からの電流信号を、当該電流信号の電荷量に比例した電圧値(波高値)を有する電圧信号に変換する。前置増幅回路61には波形整形回路63が接続されている。波形整形回路63は、前置増幅回路61からの電圧信号の波形を整形する。例えば、波形整形回路63は、前置増幅回路61からの電圧信号のパルス幅を縮小する。
【0022】
波形整形回路63にはエネルギー帯域(エネルギービン)の数に対応する複数の計数チャンネルが接続されている。n個のエネルギービンが設定されている場合、波形整形回路63には、n個の計数チャンネルが設けられる。各計数チャンネルは、波高弁別回路65-nと、計数回路67-nとを有する。
【0023】
波高弁別回路65-nの各々は、波形整形回路63からの電圧信号の波高値であるX線検出素子により検出されたX線フォトンのエネルギーを弁別する。例えば、波高弁別回路65-nは、比較回路653-nを有する。比較回路653-nの各々の一方の入力端子には、波形整形回路63からの電圧信号が入力される。比較回路653-nの各々の他方の入力端子には、異なる閾値に対応する参照信号TH(参照電圧値)が、制御装置18から供給される。
【0024】
例えば、エネルギービンbin1のための比較回路653-1には、参照信号TH-1が供給され、エネルギービンbin2のための比較回路653-2には、参照信号TH-2が供給され、エネルギービンbinnのための比較回路653-nには、参照信号TH-nが供給される。参照信号THの各々は、上限参照値と下限参照値とを有している。比較回路653-nの各々は、波形整形回路63からの電圧信号が、参照信号THの各々に対応するエネルギービンに対応する波高値を有している場合、電気パルス信号を出力する。例えば、比較回路653-1は、波形整形回路63からの電圧信号の波高値がエネルギービンbin1に対応する波高値である場合(参照信号TH-1とTH-2との間にある場合)、電気パルス信号を出力する。一方、エネルギービンbin1のための比較回路653-1は、波形整形回路63からの電圧信号の波高値がエネルギービンbin1に対応する波高値でない場合、電気パルス信号を出力しない。また、例えば、比較回路653-2は、波形整形回路63からの電圧信号の波高値がエネルギービンbin2に対応する波高値である場合(参照信号TH-2とTH-3との間にある場合)、電気パルス信号を出力する。
【0025】
計数回路67-nは、ビューの切替周期に一致する読出し周期で、波高弁別回路65-nからの電気パルス信号を計数する。例えば、計数回路67-nには、制御装置18から、各ビューの切替タイミングにトリガ信号TSが供給される。トリガ信号TSが供給されたことを契機として計数回路67-nは、波高弁別回路65-nから電気パルス信号が入力される毎に、内部メモリに記憶されているカウント数に1を加算する。次のトリガ信号が供給されたことを契機として計数回路67-nは、内部メモリに蓄積されたカウント数のデータ(すなわち、カウントデータ)を読み出し、出力回路69に供給する。また、計数回路67-nは、トリガ信号TSが供給される毎に内部メモリに蓄積されているカウント数を初期値に再設定する。このようにして計数回路67-nは、ビュー毎にカウント数を計数する。
【0026】
出力回路69は、X線検出器15に搭載されている複数の読出しチャンネル分の計数回路67-nに接続されている。出力回路69は、複数のエネルギービンの各々について、複数の読出しチャンネル分の計数回路67-nからのカウントデータを統合してビュー毎の複数の読出しチャンネル分のカウントデータを生成する。各エネルギービンのカウントデータは、チャンネルとセグメント(列)とエネルギービンとにより規定されるカウント数のデータの集合である。各エネルギービンのカウントデータは、ビュー単位でコンソール装置40に伝送される。ビュー単位のカウントデータをカウントデータセットCSと呼ぶ。さらに、出力回路69は、X線検出器15により検出された画素ごとに検出されたデータをコンソール装置40に伝送する。検出データには、この画素ごとに検出されたデータと、エネルギービンごとのカウントデータとの少なくとも一方が含まれる。
【0027】
図1に戻り、回転フレーム17は、X線管11、ウェッジ12、およびコリメータ13と、X線検出器15とを対向支持する円環状の部材である。回転フレーム17は、固定フレームによって、内部に導入された被検体Pを中心として回転自在に支持される。回転フレーム17は、更にDAS16を支持する。DAS16が出力する検出データは、回転フレーム17に設けられた発光ダイオード(LED)を有する送信機から、光通信によって、架台装置10の非回転部分(例えば固定フレーム)に設けられたフォトダイオードを有する受信機に送信され、受信機によってコンソール装置40に転送される。尚、回転フレーム17から非回転部分への検出データの送信方法として、前述の光通信を用いた方法に限らず、非接触型の任意の送信方法を採用してよい。回転フレーム17は、X線管11等を支持して回転させることができるものであれば、円環状の部材に限らず、アームのような部材であってもよい。
【0028】
フォトンカウンティングCT装置1は、例えば、X線管11とX線検出器15の双方が回転フレーム17によって支持されて被検体Pの周囲を回転するRotate/Rotate-TypeのX線CT装置(第3世代CT)であるが、これに限らず、円環状に配列された複数のX線検出素子が固定フレームに固定され、X線管11が被検体Pの周囲を回転するStationary/Rotate-TypeのX線CT装置(第4世代CT)であってもよい。
【0029】
制御装置18は、例えば、CPU(Central Processing Unit)等のプロセッサを有する処理回路を有する。制御装置18は、コンソール装置40または架台装置10に取り付けられた入力インターフェースからの入力信号を受け付けて、架台装置10、寝台装置30、およびDAS16の動作を制御する。例えば、制御装置18は、回転フレーム17を回転させたり、架台装置10をチルトさせたりする。架台装置10をチルトさせる場合、制御装置18は、入力インターフェースに入力された傾斜角度(チルト角度)に基づいて、Z軸方向に平行な軸を中心に回転フレーム17を回転させる。制御装置18は、図示しないセンサの出力等によって回転フレーム17の回転角度を把握している。また、制御装置18は、DAS16のエネルギービン(参照信号TH)を制御する。制御装置18は、架台装置10に設けられてもよいし、コンソール装置40に設けられてもよい。
【0030】
<寝台装置30>
寝台装置30は、スキャン対象の被検体Pを載置して移動させ、架台装置10の回転フレーム17の内部に導入する装置である。寝台装置30は、例えば、基台31と、寝台駆動装置32と、天板33と、支持フレーム34とを備える。基台31は、支持フレーム34を鉛直方向(Y軸方向)に移動可能に支持する筐体を含む。寝台駆動装置32は、モータやアクチュエータを含む。寝台駆動装置32は、天板33を、支持フレーム34に沿って天板33の長手方向(Z軸方向)に移動させる。また、寝台駆動装置32は、天板33を鉛直方向(Y軸方向)に移動させる。天板33は、被検体Pが載置される板状の部材である。
【0031】
寝台駆動装置32は、天板33だけでなく、支持フレーム34を天板33の長手方向に移動させてもよい。また、上記とは逆に、架台装置10がZ軸方向に移動可能であり、架台装置10の移動によって回転フレーム17が被検体Pの周囲に来るように制御されてもよい。また、架台装置10と天板33の双方が移動可能な構成であってもよい。また、フォトンカウンティングCT装置1は、被検体Pが立位または座位でスキャンされる方式の装置であってもよい。この場合、フォトンカウンティングCT装置1は、寝台装置30に代えて被検体支持機構を有し、架台装置10は、回転フレーム17を、床面に垂直な軸方向を中心に回転させる。
【0032】
<コンソール装置40>
コンソール装置40は、例えば、メモリ41と、ディスプレイ42と、入力インターフェース43と、ネットワーク接続回路44と、処理回路50とを有する。本実施形態では、コンソール装置40は架台装置10とは別体として説明するが、架台装置10にコンソール装置40の各構成要素の一部または全部が含まれてもよい。
【0033】
メモリ41は、例えば、RAM(Random Access Memory)、フラッシュメモリ等の半導体メモリ素子、ハードディスク、光ディスク等により実現される。メモリ41は、例えば、検出データや投影データ、再構成画像データ、CT画像データ、被検体Pに関する情報、撮影条件等を記憶する。メモリ41は、例えば、架台装置10から伝送された複数のエネルギービンに関するカウントデータを記憶する。これらのデータは、メモリ41ではなく(或いはメモリ41に加えて)、フォトンカウンティングCT装置1が通信可能な外部メモリに記憶されてもよい。外部メモリは、例えば、外部メモリを管理するクラウドサーバが読み書きの要求を受け付けることで、クラウドサーバによって制御されるものである。
【0034】
ディスプレイ42は、各種の情報を表示する。例えば、ディスプレイ42は、処理回路によって生成された医用画像(CT画像)や、医師、技師等である操作者による各種操作を受け付けるGUI(Graphical User Interface)画像等を表示する。ディスプレイ42は、例えば、液晶ディスプレイやCRT(Cathode Ray Tube)、有機EL(Electroluminescence)ディスプレイ等である。ディスプレイ42は、架台装置10に設けられてもよい。ディスプレイ42は、デスクトップ型でもよいし、コンソール装置40の本体部と無線通信可能な表示装置(例えばタブレット端末)であってもよい。
【0035】
入力インターフェース43は、操作者による各種の入力操作を受け付け、受け付けた入力操作の内容を示す電気信号を処理回路50に出力する。例えば、入力インターフェース43は、検出データまたは投影データを収集する際の収集条件、CT画像を再構成する際の再構成条件、CT画像から後処理画像を生成する際の画像処理条件、エネルギービンの設定条件等の入力操作を受け付ける。例えば、入力インターフェース43は、マウスやキーボード、タッチパネル、ドラッグボール、スイッチ、ボタン、ジョイスティック、カメラ、赤外線センサ、マイク等により実現される。
【0036】
入力インターフェース43は、架台装置10に設けられてもよい。また、入力インターフェース43は、コンソール装置40の本体部と無線通信可能な表示装置(例えばタブレット端末)により実現されてもよい。尚、本明細書において入力インターフェースはマウス、キーボード等の物理的な操作部品を備えるものだけに限られない。例えば、装置とは別体に設けられた外部の入力機器から入力操作に対応する電気信号を受け取り、この電気信号を制御回路へ出力する電気信号の処理回路も入力インターフェースの例に含まれる。
【0037】
ネットワーク接続回路44は、例えば、プリント回路基板を有するネットワークカード、或いは無線通信モジュール等を含む。ネットワーク接続回路44は、接続する対象のネットワークの形態に応じた情報通信用プロトコルを実装する。
【0038】
処理回路50は、フォトンカウンティングCT装置1の全体の動作や、架台装置10の動作、寝台装置30の動作を制御する。処理回路50は、例えば、システム制御機能51、前処理機能52、再構成機能53、画像処理機能54、スキャン制御機能55、表示制御機能56、判定機能57、除去機能58等を実行する。これらの構成要素は、例えば、ハードウェアプロセッサ(コンピュータ)がメモリ41に格納されたプログラム(ソフトウェア)を実行することにより実現される。ハードウェアプロセッサとは、例えば、CPU、GPU(Graphics Processing Unit)、ASIC、プログラマブル論理デバイス(例えば、単純プログラマブル論理デバイス(Simple Programmable Logic Device; SPLD)または複合プログラマブル論理デバイス(Complex Programmable Logic Device; CPLD)、フィールドプログラマブルゲートアレイ(Field Programmable Gate Array; FPGA))等の回路(circuitry)を意味する。
【0039】
メモリ41にプログラムを記憶させる代わりに、ハードウェアプロセッサの回路内にプログラムを直接組み込むように構成しても構わない。この場合、ハードウェアプロセッサは回路内に組み込まれたプログラムを読み出し実行することで機能を実現する。ハードウェアプロセッサは、単一の回路として構成されるものに限らず、複数の独立した回路を組み合わせて1つのハードウェアプロセッサとして構成され、各機能を実現するようにしてもよい。また、複数の構成要素を1つのハードウェアプロセッサに統合して各機能を実現するようにしてもよい。
【0040】
コンソール装置40または処理回路50が有する各構成要素は、分散化されて複数のハードウェアにより実現されてもよい。処理回路50は、コンソール装置40が有する構成ではなく、コンソール装置40と通信可能な処理装置によって実現されてもよい。処理装置は、例えば、一つのフォトンカウンティングCT装置と接続されたワークステーション、或いは、複数のフォトンカウンティングCT装置に接続され、以下に説明する処理回路50と同等の処理を一括して実行する装置(例えばクラウドサーバ)である。
【0041】
システム制御機能51は、入力インターフェース43が受け付けた入力操作に基づいて、処理回路50の各種機能を制御する。システム制御機能51は、例えば、エネルギービンの設定、リング判定および除去の設定等を行う。システム制御機能51は、設定されたエネルギービンの設定条件を、制御装置18に出力する。
【0042】
前処理機能52は、DAS16により出力された検出データに対してオフセット補正処理、チャンネル間の感度補正処理、ビームハードニング補正等の前処理を行う。
【0043】
再構成機能53は、検出データ(カウントデータ)に基づいて被検体Pに関するフォトンカウンティングCT画像を再構成する。再構成機能53は、複数のエネルギービンに関するカウントデータ、被検体Pへの入射X線のエネルギースペクトラム、およびメモリ41に記憶された検出器応答特性を表す応答関数に基づいて、複数の基準物質各々に関するX線吸収量を算出する。このように基準物質毎にX線吸収量を得る処理は物質弁別とも呼ばれている。基準物質としては、カルシウム、石灰化、骨、脂肪、筋肉、空気、臓器、病変部、硬部組織、軟部組織、造影物質等のあらゆる物質に設定可能である。再構成機能53は、算出された複数の基準物質各々に関するX線吸収量に基づいて、当該複数の基準物質のうちの画像化対象の基準物質の空間分布を表現するフォトンカウンティングCT画像を再構成し、生成したCT画像データをメモリ41に記憶させる。
【0044】
画像処理機能54は、入力インターフェース43が受け付けた入力操作に基づいて、CT画像データを公知の方法により、三次元画像データや任意断面の断面像データに変換する。三次元画像データへの変換は、前処理機能52によって行われてもよい。
【0045】
スキャン制御機能55は、X線高電圧装置14、DAS16、制御装置18、および寝台駆動装置32に指示することで、架台装置10における検出データの収集処理を制御する。スキャン制御機能55は、位置決め画像を収集する撮影、および診断に用いる画像を撮影する際の各部の動作をそれぞれ制御する。
【0046】
表示制御機能56は、処理回路によって生成された医用画像(CT画像)や、医師、技師等である操作者による各種操作を受け付けるGUI画像等を、ディスプレイ42に表示させる。
【0047】
判定機能57および除去機能58は、複数の異なるX線エネルギー帯の光子検出結果の合算データ(エネルギービンごとのカウントデータを足し合わせたデータ)に基づいて生成される画像(以下「カウンティング画像」という)から、リングアーチファクトを除去または低減するための処理を行う。尚、カウンティング画像は、従来のCT画像と同様に、エネルギー情報を有さない画像である。
【0048】
判定機能57は、フォトンカウンティングCT装置1により得られた複数の異なるX線エネルギー帯の光子検出結果の合算データに基づいて生成されるカウンティング画像におけるスパイク成分を判定する第1の判定処理と、複数の異なるX線エネルギー帯ごとの光子検出結果に基づいて生成される複数のエネルギー画像(例えば、ビン画像)に基づいてリングアーチファクト(例えば、リングアーチファクトの有無)を判定する第2の判定処理とを行う。カウンティング画像およびビン画像は、例えば、再構成機能53により再構成される画像である。判定機能57は、第1の判定処理において判定されたスパイク成分の内、第2の判定処理において判定されたリングアーチファクトと位置が対応するスパイク成分を、カウンティング画像におけるリングアーチファクトと判定する。判定機能57の処理の詳細については後述する。判定機能57は、「判定部」の一例である。
【0049】
除去機能58は、判定機能57による第1の判定処理の結果と第2の判定処理の結果との両方に基づいて、カウンティング画像のリングアーチファクトを除去または低減する。除去機能58は、カウンティング画像から、判定されたカウンティング画像におけるリングアーチファクトを差し引くことで、カウンティング画像のリングアーチファクトを除去または低減する。除去機能58の処理の詳細については後述する。除去機能58は、「除去部」の一例である。
【0050】
上記構成により、フォトンカウンティングCT装置1は、ヘリカルスキャン、コンベンショナルスキャン、ステップアンドシュート等のスキャン態様で被検体Pのスキャンを行う。ヘリカルスキャンとは、天板33を移動させながら回転フレーム17を回転させて被検体Pをらせん状にスキャンする態様である。コンベンショナルスキャンとは、天板33を静止させた状態で回転フレーム17を回転させて被検体Pを円軌道でスキャンする態様である。ステップアンドシュートとは、天板33の位置を一定間隔で移動させて、コンベンショナルスキャンを複数のスキャンエリアで行う態様である。
【0051】
[処理フロー]
次に、フォトンカウンティングCT装置1のリングアーチファクト除去処理の一連の流れについて説明する。図3は、第1の実施形態に係るフォトンカウンティングCT装置1のリングアーチファクト除去処理の一例を示すフローチャートである。図3に示すリングアーチファクト除去処理は、例えば、被検体Pのスキャン実行中または実行後等に、操作者が入力インターフェース43を介してリングアーチファクト除去の指示を入力した際に開始される。或いは、このリングアーチファクト除去処理は、フォトンカウンティングCT画像の再構成処理の一連の処理に組み込まれて自動的に実行されるものであってもよい。
【0052】
まず、コンソール装置40の処理回路50は、DAS16により出力された検出データを取得する(ステップS101)。この検出データは、DAS16によりカウントされたエネルギービンごとのカウントデータ(複数の異なるX線エネルギー帯の光子検出結果)を含む。
【0053】
次に、再構成機能53は、取得されたエネルギービンごとのカウントデータを合算したデータに基づいてカウンティング画像を再構成する(ステップS103)。
【0054】
次に、判定機能57は、再構成されたカウンティング画像におけるスパイク成分を抽出する(スパイク成分を判定する)第1の判定処理を行う(ステップS105)。スパイク成分とは、画素値(CT値)が他の領域と大きく異なる局所的な領域をいう。例えば、判定機能57は、再構成されたカウンティング画像の各画素の画素値等を用い、隣接画素と画素値の差分の程度に基づいてスパイク成分を抽出する。このスパイク成分は、リングアーチファクト起因か、或いは、撮影対象であるオブジェクト(例えば、臓器、骨等)起因のいずれかにより生じるものである。
【0055】
次に、再構成機能53は、取得されたエネルギービンごとのカウントデータに基づいて、複数のビン画像を再構成する(ステップS107)。
【0056】
次に、判定機能57は、再構成された複数のビン画像に基づいて、リングアーチファクトを判定する第2の判定処理を行う(ステップS109)。例えば、判定機能57は、各ビン画像のスパイク成分に基づいてリングアーチファクトを判定するスパイク成分判定、或いは、各ビン画像のCT値比率に基づいてリングアーチファクトを判定するCT値比率判定を行う。
【0057】
<リングアーチファクト判定処理(スパイク成分判定)>
図4は、第1の実施形態に係るフォトンカウンティングCT装置1のリングアーチファクト判定処理(スパイク成分判定)の一例を示すフローチャートである。図5は、第1の実施形態に係る各ビン画像においてリングアーチファクトが生じている様子を示す図である。図5では、5つのエネルギービンに対応する5つのビン画像Bin1~Bin5が示されている。この内、3つのビン画像(Bin2、Bin3、Bin4)にリングアーチファクト(RA2、RA3、RA4)が現れており、2つのビン画像(Bin1およびBin5)にはリングアーチファクトが現れていない。また、ビン画像Bin2、ビン画像Bin3、およびビン画像Bin4の順に、リングアーチファクト(RA2、RA3、RA4)が強くはっきりと現れている。
【0058】
本実施形態においては、主に、検出素子の温度依存性等に起因する一時的な出力不良によるリングアーチファクトを判定対象としている。尚、X線検出器15に突発的に生じた不良素子(NCP:non-comfortable pixel、「欠陥素子」ともいう)に起因するリングアーチファクト検出にも用いることができる。尚、このような不良素子に起因するアーチファクトについては、当該不良素子の位置(マップ)を予め記録しておき、不良素子に対応する画素のデータを隣接補間などの方法により補正することもできる。
【0059】
上記のようなリングアーチファクトを判定するために、まず、判定機能57は、直交座標で表された各ビン画像に対して極座標変換を行う(ステップS201)。図6は、第1の実施形態に係るビン画像に対する極座標変換の処理を説明する図である。図6の例では、直交座標(XY平面)上に表されたビン画像Bin4(原点Oは画像中心)を、原点Oからの距離(r)と原点Oを中心とする所定軸(例えばY軸)からの回転角度(角度θ)とで表された極座標に変換する。ここで、例えば、ビン画像Bin4にリングアーチファクトが生じている場合、極座標変換されたビン画像Bin4において、このリングアーチファクトに対応する位置にスパイク成分SC4が生じることとなる。このスパイク成分SC4は、XY平面上では、例えば、X座標がX1~X2の間に生じ、極座標上では、距離r1からr2の間に生じる。
【0060】
判定機能57は、極座標変換後のビン画像に対して、例えば、高周波フィルタを適用することで、スパイク成分を抽出する(ステップS203)。リング成分に対応するスパイク成分は、極座標上において原点Oから所定距離(r1~r2)の位置に角度θ方向に他の領域と画素値が異なる領域として現れる。判定機能57は、このようなリング成分に対応するスパイク成分を抽出する。スパイク成分を抽出するために、画像処理等の任意の手法が採用されてもよい。
【0061】
次に、判定機能57は、各ビン画像から抽出されたスパイク成分の画素値をビン画像間で比較することで、最大スパイク成分を判定する(ステップS205)。例えば、判定機能57は、複数のビン画像の内、あるビン画像(第1のビン画像)において抽出されたスパイク成分の位置(第1の位置)の画素値(第1の画素値)と、他のビン画像の各々における同位置(第1の位置)の画素値(第2の画素値)とを比較し、同位置(第1の位置)において最も大きい画素値を最大スパイク成分と判定する。
【0062】
次に、判定機能57は、最大スパイク成分と所定の閾値との比較結果に基づいて、抽出されたスパイク成分がリングアーチファクトに起因するものであるか否かを判定する(ステップS207)。判定機能57は、例えば、以下の式(1)および(2)に基づいて、リングアーチファクトの判定を行う。
【0063】
【数1】
【0064】
上記式(1)において、Spike_max[x,y]は最大スパイク成分であり、Spike[x,y,E]はビン画像ごと(エネルギー帯Eごとの)のスパイク成分であり、A(A>1)はパラメータである。ここで、あるビン画像において抽出されたスパイク成分の最大値(最大スパイク成分)が、所定の閾値よりも大きいとき(式(1)のIF文が成立する場合、すなわち、最大スパイク成分が、他のビン画像のスパイク成分×Aよりも大きい場合)、判定機能57は、その最大スパイク成分はリング成分(リングアーチファクト起因)であると判定する。そして、最大スパイク成分がリング成分であると判定された場合、判定機能57は、上記式(2)において、同一位置(同一画素)におけるその他の全てのビン画像におけるスパイク成分もリング成分(リングアーチファクト起因)であると判定する。パラメータAは、撮影条件等に応じてリング成分の判定が可能となるように、任意に設定することが可能である。
【0065】
尚、判定機能57は、複数のビン画像の内、あるビン画像(第1のビン画像)において抽出されたスパイク成分の位置(第1の位置)の画素値(第1の画素値)と、他のビン画像の各々における同位置(第1の位置)の画素値(第2の画素値)との差分(=第1の画素値-第2の画素値)または比(=第1の画素値/第2の画素値)を算出し、算出した差分または比の内、最大の差分または比を最大スパイク成分として判定してもよい。ここで、あるビン画像において抽出されたスパイク成分の最大値(最大スパイク成分)が、所定の閾値よりも大きいとき、判定機能57は、その最大スパイク成分はリング成分であると判定してよい。そして、最大スパイク成分がリング成分であると判定された場合、判定機能57は、同一画素におけるその他の全てのビン画像におけるスパイク成分もリング成分であると判定してよい。以上により、図4に示すスパイク成分判定のフローチャートの処理が終了する。
【0066】
すなわち、判定機能57(判定部)は、第2の判定処理において、直交座標で表された複数のエネルギー画像の各々を極座標変換し、極座標変換された複数のエネルギー画像の各々からスパイク成分を抽出し、スパイク成分に基づいて、リングアーチファクトを判定する。また、判定機能57(判定部)は、第2の判定処理において、複数のエネルギー画像の内、第1のエネルギー画像の第1の位置において抽出された第1のスパイク成分と、他のエネルギー画像における前記第1の位置の画素値との比較結果に基づいて、第1のスパイク成分に関する指標値(最大スパイク成分)を算出し、指標値と、閾値との比較結果に基づいて、第1のスパイク成分がリングアーチファクトに起因するか否かを判定する。複数のエネルギー画像は、複数の異なるX線エネルギー帯ごとの光子検出結果を用いて再構成されたビン画像である。
【0067】
<リングアーチファクト判定処理(CT値比率判定)>
図7は、第1の実施形態に係るフォトンカウンティングCT装置1のリングアーチファクト判定処理(CT値比率判定)の一例を示すフローチャートである。まず、判定機能57は、各ビン画像のCT値の閾値やエネルギービンごとの比率(K-edge)から、物質(基準物質)を識別する(ステップS301)。判定機能57は、例えば、各ビン画像の各画素位置について、水、カルシウム、ヨウ素、ガドリニウム等の基準物質を識別する。その他、判定機能57は、ニューラルネットワーク等の機械学習の技術を用いて、基準物質を識別するようにしてもよい。
【0068】
次に、判定機能57は、識別された物質ごとの、各ビン画像における尤もらしい理論上のCT値比率(理論CT値比率)を質量減弱係数から算出する(ステップS303)。図8は、第1の実施形態に係る基準物質の理論的なエネルギー値とCT値との関係を示すグラフである。図8は、例えば、所定濃度におけるヨウ素に関するエネルギーとCT値との関係を示す理論曲線(質量減弱係数)を示している。この例の理論曲線上では、5つのエネルギービンと対応するエネルギーB1~B5の各々のCT値がCT1~CT5となっている。判定機能57は、例えば、CT値比率として、エネルギーB1のCT値を基準として、CT2/CT1、CT3/CT1、CT4/CT1、およびCT5/CT1を算出する。
【0069】
図7に戻り、判定機能57は、各ビン画像の各画素における実測値に基づくCT値比率(実測CT値比率)を算出する(ステップS305)。判定機能57は、例えば、実測CT値比率として、ビン画像Bin1のCT値(CT1_r)を基準として、CT2_r/CT1_r、CT3_r/CT1_r、CT4_r/CT1_r、およびCT5_r/CT1_rを算出する。
【0070】
次に、判定機能57は、理論CT値比率と実測CT値比率との比較結果に基づいて、抽出されたスパイク成分がリングアーチファクトに起因するか否かを判定する(ステップS307)。判定機能57は、理論CT値比率と実測CT値比率との間に、所定の閾値以上の乖離がある場合に、抽出されたスパイク成分がリングアーチファクトに起因するものであると判定する。判定機能57は、例えば、以下の式(3)~(8)に基づいて、リングアーチファクトの判定を行う。
【0071】
【数2】
【0072】
上記式(3)において、CTideal[En]はエネルギー帯Eごとの理論上のCT値であり、μmiodine[En]はエネルギー帯Eごとのヨウ素の質量減弱係数であり、μmwater[En]はエネルギー帯Eごとの水の質量減弱係数であり、ρは濃度である。上記式(4)において、CT_ratio[En]はエネルギー帯Eごとの理論CT値比率である。上記式(5)において、CT_ratiom[x,y,En]はエネルギー帯Eごとの実測CT値比率であり、CTmeasure[x,y,En]はエネルギー帯Eごとの実測CT値である。ここで、あるビン画像において算出された実測CT値比率が、所定の範囲に含まれる場合(式(6)のIF文が成立する場合、すなわち、実測CT値比率が閾値aよりも大きく且つ閾値bよりも小さい場合)、判定機能57は、その実測CT値はリング成分(リングアーチファクト起因)ではないと判定する。一方、ここで、あるビン画像において算出された実測CT値比率が、所定の範囲に含まれない場合(式(6)のIF文が成立しない場合、すなわち、実測CT値比率が閾値a以下または閾値b以上である場合)、判定機能57は、その実測CT値はリング成分(リングアーチファクト起因)であると判定する。閾値aおよびbは、上記式(7)および(8)により定義され、αはパラメータである。パラメータαは、撮影条件等に応じてリング成分の判定が可能となるように、任意に設定することが可能である。以上により、図7に示すスパイク成分判定のフローチャートの処理が終了する。
【0073】
すなわち、判定機能57(判定部)は、第2の判定処理において、複数のエネルギー画像に基づいて、複数のエネルギー画像に含まれる物質を識別し、識別された物質の質量減弱係数から算出される理論値である理論画素値と、複数のエネルギー画像から算出される実測値である実測画素値との比較結果に基づいて、リングアーチファクトを判定する。また、判定機能57(判定部)は、第2の判定処理において、所定の複数のエネルギー値に対応する複数の理論画素値の間の比率と、複数のエネルギー値に対応する複数の実測画素値の間の比率との間の差分と、閾値との比較結果に基づいて、複数のエネルギー画像に含まれるリング成分がリングアーチファクトに起因するか否かを判定する。
【0074】
図3に戻り、判定機能57は、上記ステップS109における各ビン画像でのリング成分の判定結果に基づいて、上記ステップS105においてカウンティング画像において抽出されたスパイク成分の各々について、オブジェクト/リングアーチファクトの判定を行う(ステップS111)。すなわち、判定機能57は、上記ステップS105においてカウンティング画像から抽出されたスパイク成分の内、上記ステップS109においてリング成分と判定されたものと位置が対応するスパイク成分を、リング成分(リングアーチファクト起因)と判定する。一方、判定機能57は、上記ステップS105においてカウンティング画像から抽出されたスパイク成分の内、上記ステップS109においてリング成分と判定されたものと位置が対応しないスパイク成分を、オブジェクト成分(オブジェクト起因)と判定する。
【0075】
次に、除去機能58は、オブジェクト/リングアーチファクトの判定結果に基づいて、カウンティング画像からリングアーチファクトを除去または低減し、処理済みカウンティング画像を生成する(ステップS113)。例えば、除去機能58は、オリジナルのカウンティング画像から、判定されたリング成分を差し引くことで、処理済みカウンティング画像を生成する。以上により、図3に示すフローチャートの処理が終了する。
【0076】
以上、説明した第1の実施形態によれば、フォトンカウンティングCT画像におけるリングアーチファクトを高精度に判定および除去することができる。特に、従来の手法では、オブジェクトと判定されて除去することができなかったリングアーチファクトを検知し、除去することができる。また、本実施形態の構成は、X線検出器に突発的に生じた不良素子に起因するリングアーチファクトの判定および除去にも柔軟に適用することができる。
【0077】
<第2の実施形態>
次に、第2の実施形態について説明する。第1の実施形態では、エネルギービンごとのビン画像を用いてリングアーチファクトを判定および除去する構成を説明したが、第2の実施形態では、仮想単色画像(「Mono keV画像」ともいう)を用いてリングアーチファクトを判定および除去する。仮想単色画像は、任意の仮想単色X線エネルギーに対応する画像である。仮想単色画像は、スペクトラル画像の一種である。第2の実施形態の各装置構成については、第1の実施形態と共通する。以下においては、第1の実施形態との相違点を中心に、第2の実施形態について説明する。
【0078】
[処理フロー]
以下、フォトンカウンティングCT装置1のリングアーチファクト除去処理の一連の流れについて説明する。図9は、第2の実施形態に係るフォトンカウンティングCT装置1のリングアーチファクト除去処理の一例を示すフローチャートである。図9に示すリングアーチファクト除去処理は、例えば、被検体Pのスキャン実行中または実行後等に、操作者が入力インターフェース43を介してリングアーチファクト除去の指示を入力した際に開始される。或いは、このリングアーチファクト除去処理は、フォトンカウンティングCT画像の再構成処理の一連の処理に組み込まれて自動的に実行されるものであってもよい。
【0079】
まず、コンソール装置40の処理回路50は、DAS16により出力された検出データを取得する(ステップS101)。この検出データは、DAS16によりカウントされたエネルギービンごとのカウントデータ(複数の異なるX線エネルギー帯の光子検出結果)を含む。
【0080】
次に、再構成機能53は、取得されたエネルギービンごとのカウントデータを合算したデータに基づいてカウンティング画像を再構成する(ステップS103)。
【0081】
次に、判定機能57は、再構成されたカウンティング画像おけるスパイク成分を抽出する(スパイク成分を判定する)第1の判定処理を行う(ステップS105)。例えば、判定機能57は、再構成されたカウンティング画像の各画素の画素値等を用い、隣接画素と画素値の差分の程度に基づいてスパイク成分を抽出する。
【0082】
次に、再構成機能53は、取得されたエネルギービンごとのカウントデータに基づいて、スペクトラル画像(基準物質画像)および複数のエネルギー値に対応する仮想単色画像を再構成する(ステップS407)。再構成機能53は、検出データ(エネルギービンごとのカウントデータ)からのマテリアルデコンポジションの処理として、複数のエネルギー帯域ごとのビン投影データから複数種類の基準物質投影データを生成し、ここから基準物質画像を生成する。さらに、再構成機能53は、基準物質画像を用いて、複数のエネルギー値(例えば、40keV、50keV、・・・NkeV)に対応する複数の仮想単色画像を再構成する。複数の仮想単色画像は、複数の異なるX線エネルギー帯ごとの光子検出結果を用いて再構成された仮想単色X線エネルギー画像である。
【0083】
次に、判定機能57は、再構成された複数の仮想単色画像に基づいて、リングアーチファクトを判定する第2の判定処理を行う(ステップS409)。例えば、判定機能57は、各仮想単色画像のスパイク成分に基づいてリングアーチファクトを判定するスパイク成分判定、或いは、各仮想単色画像のCT値比率に基づいてリングアーチファクトを判定するCT値比率判定を行う。これらのスパイク成分判定およびCT値比率判定は、第1の実施形態におけるビン画像に対する処理と同様である。
【0084】
次に、判定機能57は、上記ステップS409における各仮想単色画像でのリング成分の判定結果に基づいて、上記ステップS105においてカウンティング画像において抽出されたスパイク成分の各々について、オブジェクト/リングアーチファクトの判定を行う(ステップS411)。すなわち、判定機能57は、上記ステップS105においてカウンティング画像から抽出されたスパイク成分の内、上記ステップS409においてリング成分と判定されたものと位置が対応するスパイク成分を、リング成分(リングアーチファクト起因)と判定する。一方、判定機能57は、上記ステップS105においてカウンティング画像から抽出されたスパイク成分の内、上記ステップS409においてリング成分と判定されたものと位置が対応しないスパイク成分を、オブジェクト成分(オブジェクト起因)と判定する。
【0085】
次に、除去機能58は、オブジェクト/リングアーチファクトの判定結果に基づいて、カウンティング画像からリングアーチファクトを除去または低減し、処理済みカウンティング画像を生成する(ステップS113)。例えば、除去機能58は、オリジナルのカウンティング画像から、判定されたリング成分を差し引くことで、処理済みカウンティング画像を生成する。以上により、図9に示すフローチャートの処理が終了する。
【0086】
以上、説明した第2の実施形態によれば、フォトンカウンティングCT画像におけるリングアーチファクトを高精度に判定および除去することができる。特に、従来の手法では、オブジェクトと判定されて除去することができなかったリングアーチファクトを検知し、除去することができる。また、本実施形態の構成は、X線検出器に突発的に生じた不良素子に起因するリングアーチファクトの判定および除去にも柔軟に適用することができる。
【0087】
以上説明した実施形態によれば、複数の異なるX線エネルギー帯の光子検出結果の合算データに基づいて生成されたカウンティング画像におけるスパイク成分を判定する第1の判定処理と、複数の異なるX線エネルギー帯ごとの光子検出結果に基づいて生成される複数のエネルギー画像に基づいてリングアーチファクトを判定する第2の判定処理とを行う判定部(判定機能57)と、第1の判定処理の結果と、第2の判定処理の結果との両方に基づいて、カウンティング画像のリングアーチファクトを除去または低減する除去部(除去機能58)とを備えることで、フォトンカウンティングCT画像におけるリングアーチファクトを高精度に判定および除去することができる。
【0088】
いくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0089】
1…フォトンカウンティングCT装置,10…架台装置,11…X線管,12…ウェッジ,13…コリメータ,14…X線高電圧装置,15…X線検出器,16…データ収集システム,17…回転フレーム,18…制御装置,20…検出器モジュール,30…寝台装置,31…基台,32…寝台駆動装置,33…天板,34…支持フレーム,40…コンソール装置,41…メモリ,42…ディスプレイ,43…入力インターフェース,44…ネットワーク接続回路,50…処理回路,51…システム制御機能,52…前処理機能,53…再構成機能,54…画像処理機能,55…スキャン制御機能,56…表示制御機能,57…判定機能,58…除去機能
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9