IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社スリーボンドの特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025025560
(43)【公開日】2025-02-21
(54)【発明の名称】爪または人工爪用光硬化性組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/81 20060101AFI20250214BHJP
   A61Q 3/02 20060101ALI20250214BHJP
【FI】
A61K8/81
A61Q3/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023130420
(22)【出願日】2023-08-09
(71)【出願人】
【識別番号】000132404
【氏名又は名称】株式会社スリーボンド
(72)【発明者】
【氏名】森川 祐未
(72)【発明者】
【氏名】原田 菜摘
【テーマコード(参考)】
4C083
【Fターム(参考)】
4C083AC771
4C083AC772
4C083AD091
4C083AD092
4C083CC28
4C083DD28
4C083EE01
4C083EE03
4C083EE07
(57)【要約】      (修正有)
【課題】硬化物の表面において光沢を発現すると共にその光沢に耐久性も持たせる、人工爪用光硬化性組成物を提供する。
【解決手段】(A)~(D)成分を含み、(A)成分100質量部に対して、(B)成分が30~70質量部、(C)成分が10~80質量部含む爪または人工爪用光硬化性組成物。
(A)成分:重量平均分子量が3000~6000で、1分子当たりの(メタ)アクリロイル基が3~5個含むウレタン変性(メタ)アクリレートオリゴマー
(B)成分:1分子当たり(メタ)アクリロイル基を1つ以上有する(メタ)アクリレート((A)成分を除く)
(C)成分:ポリチオール化合物
(D)成分:光開始剤
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)~(D)成分を含み、(A)成分100質量部に対して、(B)成分が30~70質量部、(C)成分が10~80質量部含む爪または人工爪用光硬化性組成物。
(A)成分:重量平均分子量が3000~6000で、1分子当たりの(メタ)アクリロイル基が3~5個含むウレタン変性(メタ)アクリレートオリゴマー
(B)成分:1分子当たり(メタ)アクリロイル基を1つ以上有する(メタ)アクリレート((A)成分を除く)
(C)成分:ポリチオール化合物
(D)成分:光開始剤
【請求項2】
前記(A)成分がポリエーテル骨格を有する請求項1に記載の爪または人工爪用光硬化性組成物。
【請求項3】
前記(B)成分が1官能(メタ)アクリレートおよび/または2官能(メタ)アクリレートのみからなる請求項1に記載の爪または人工爪用光硬化性組成物。
【請求項4】
前記1官能(メタ)アクリレートが、水酸基を有する1官能(メタ)アクリレートである請求項3に記載の爪または人工爪用光硬化性組成物。
【請求項5】
前記2官能(メタ)アクリレートが、ジメチロールトリシクロデカンジアクリレートである請求項3に記載の爪または人工爪用光硬化性組成物。
【請求項6】
さらに、保存安定剤としてリン系化合物を含む請求項1に記載の爪または人工爪用光硬化性組成物。
【請求項7】
前記リン系化合物が、ホスホン酸化合物R?P(=O)(ORで(ここで、R、Rはそれぞれ独立した水素または有機基である)ある請求項6に記載の爪または人工爪用光硬化性組成物。
【請求項8】
請求項1に記載の爪または人工爪用光硬化性組成物を含むトップコート用の爪または人工爪用光硬化性組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チオール化合物を含む光硬化性組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1にはいわゆるジェルネイルの発明が記載されており、(メタ)アクリロイル基を有する化合物にポリチオール化合物を添加することで、光硬化性が向上し、それに伴って酸素に触れている界面においても酸素阻害の影響を受けにくく表面硬化性が向上することが知られている。しかしながら、ジェルネイル特有の特性として、硬化物の表面において光沢を発現し、その光沢に耐久性も持たせることは困難性が伴う。また、爪の施術は、人間の地爪に直接または間接的にジェルネイルが塗布され、光照射により硬化させる施術を行うが、硬化時にジェルネイルが自己発熱を伴うことがある。その場合、被験者にとっては、熱によるストレスや苦痛の原因になっていた。
【0003】
一方で、ポリチオールを含むジェルネイルは、光硬化性が高いがために、ジェルネイルの粘度が上昇するなど保存安定性が低下する傾向がある。保存安定性を維持させるために、重合禁止剤などを添加することで、ラジカル重合を抑制し、保存安定性を高くすることができるが、それによって、硬化物の表面における光沢にも影響が出る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017-210475号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来は、ジェルネイルが自己発熱して被験者にストレスになると共に、硬化物の表面において光沢を発現せず、(メタ)アクリロイル基を有する化合物にポリチオール化合物を添加することで保存安定性と光硬化性を両立することが困難であった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成するべく鋭意検討した結果、光硬化性組成物である本発明を完成するに至った。
【0007】
本発明の要旨を次に説明する。本発明の第一の実施態様は、(A)~(D)成分を含み、(A)成分100質量部に対して、(B)成分が30~70質量部、(C)成分が10~80質量部含む爪または人工爪用光硬化性組成物である。
(A)成分:重量平均分子量が3000~6000で、1分子当たりの(メタ)アクリロイル基が3~5個含むウレタン変性(メタ)アクリレートオリゴマー
(B)成分:1分子当たり(メタ)アクリロイル基を1つ以上有する(メタ)アクリレート((A)成分を除く)
(C)成分:ポリチオール化合物
(D)成分:光開始剤
【0008】
本発明の第二の実施形態は、前記(A)成分がポリエーテル骨格を有する第一の実施態様に記載の爪または人工爪用光硬化性組成物である。
【0009】
本発明の第三の実施形態は、前記(B)成分が1官能(メタ)アクリレートおよび/または2官能(メタ)アクリレートのみからなる第一の実施態様に記載の爪または人工爪用光硬化性組成物である。
【0010】
本発明の第四の実施形態は、前記1官能(メタ)アクリレートが、水酸基を有する1官能(メタ)アクリレートである第三の実施態様に記載の爪または人工爪用光硬化性組成物である。
【0011】
本発明の第五の実施形態は、前記2官能(メタ)アクリレートが、ジメチロールトリシクロデカンジアクリレートである第三の実施様態に記載の爪または人工爪用光硬化性組成物である。
【0012】
本発明の第六の実施形態は、さらに、保存安定剤としてリン系化合物を含む第一の実施態様に記載の爪または人工爪用光硬化性組成物である。
【0013】
本発明の第七の実施形態は、前記リン系化合物が、ホスホン酸化合物R?P(=O)(ORで(ここで、R、Rはそれぞれ独立した水素または有機基である)ある第六の実施態様に記載の爪または人工爪用光硬化性組成物である。
【0014】
本発明の第八の実施形態は、第一の実施態様に記載の爪または人工爪用光硬化性組成物を含むトップコート用の爪または人工爪用光硬化性組成物である。
【発明の効果】
【0015】
本発明では、光硬化時の自己発熱を抑制し、硬化物の表面において光沢を発現すると共に、保存安定性を高くすると同時に硬化性を低下させない(メタ)アクリロイル基を有する化合物とポリチオール化合物を含む光硬化性組成物を可能にする。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の詳細を次に説明する。本発明で使用することができる(A)成分としては、重量平均分子量が3000~6000で、1分子当たりの(メタ)アクリロイル基が3~5個含むウレタン変性(メタ)アクリレートオリゴマーである。以下、アクリロイルとメタクリロイルを合わせて(メタ)アクリロイルと呼び、(メタ)アクリロイル基を有する化合物を(メタ)アクリレートとも呼ぶ。
【0017】
ウレタン変性(メタ)アクリレートオリゴマーとは、ウレタン結合を有する(メタ)アクリレートオリゴマーであり、ポリオールとポリイソシアネートによりウレタン結合を形成して、残留するイソシアネート基に分子内に水酸基と(メタ)アクリロイル基を有する化合物や(メタ)アクリロイル酸を付加させる合成などが知られている。耐久性を向上させる観点および光硬化性が良好な観点から、(A)成分は重量平均分子量が3000~6000で、1分子当たりのアクリロイル基が3~5個含むウレタン変性アクリレートオリゴマーであることが最も好ましい。
【0018】
ポリオールとして、分子内に2個以上の水酸基を有するポリオール化合物が挙げられ、具体的にはポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、カプロラクトンジオール、ビスフェノールポリオール、ポリイソプレンポリオール、水添ポリイソプレンポリオール、ポリブタジエンポリオール、水添ポリブタジエンポリオール、ひまし油ポリオール、ポリカーボネートジオールなどが挙げられる。中でも、光沢度を発現する観点からポリエーテル骨格を導入するため、ポリエーテルジオールであることが好ましい。これらは単独で使用してもよく、複数を組み合わせて使用してもよい。
【0019】
ポリイソシアネートとして、分子内に2個以上のイソシアネート基を有する化合物が挙げられ、具体的には、芳香族ポリイソシアネートと脂肪族ポリイソシアネートがある。芳香族ポリイソシアネートとしては、2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、1,3-キシリレンジイソシアネート、1,4-キシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ナフタレン-1,5-ジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネートなどが挙げられ、脂環式ポリイソシアネートとしては、イソホロンジイソシアネート、ビス(4-イソシアナトシクロヘキシル)メタン、1,3-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、ノルボルナンジイソシアネート、ビシクロヘプタントリイソシアネートなどが挙げられ、脂肪族ポリイソシアネートとしては、ヘキサメチレンジイソシアネート、1,3,6-ヘキサメチレントリイソシアネート、1,6,11-ウンデカトリイソシアネートなどが挙げられる。中でも、イソホロンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネートなどのジイソシアネートが好ましい。
【0020】
水酸基と(メタ)アクリロイル基を有する化合物としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、ポリエチレングリコールなどの二価のアルコールのモノ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、グリセリンなどの三価のアルコールのモノ(メタ)アクリレートまたはジ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらは単独で使用してもよく、複数を組み合わせて使用してもよい。
【0021】
(A)成分は、1分子当たりの(メタ)アクリロイル基が3~5個含み、かつ、重量平均分子量は、3000~6000であることで、光硬化時に発熱せず、速やかな硬化ができる。さらに、硬化物の表面にタックが残らないと共にツヤが発現する。
【0022】
具体例としては、根上工業株式会社製のアートレジン KY-11などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0023】
本発明で使用することができる(B)成分としては、1分子当たり(メタ)アクリロイル基を1つ以上有する(メタ)アクリレートである。ただし、(A)成分を除く。(B)成分としては(メタ)アクリロイル基を有する化合物であれば使用することができる。具体的には、(メタ)アクリレートモノマーや(メタ)アクリレートオリゴマーを指す。モノマーとオリゴマーの違いは重量平均分子量(または分子量)が1000で分けることができ、モノマーの重量平均分子量(または分子量)は1000以下である。(B)成分は25℃雰囲気下で液状であることが好ましく、本発明の(A)成分や(C)成分との相溶性が良好であれば使用することができる。
【0024】
(メタ)アクリレートオリゴマーの具体例としては、(A)成分以外のウレタン変性(メタ)アクリレートオリゴマー、分子内にエステル結合を有する(メタ)アクリレートオリゴマー、エーテル結合を有する(メタ)アクリレートオリゴマー、エポキシ変性(メタ)アクリレートオリゴマーなどが挙げられ、その主骨格はビスフェノールA、ノボラックフェノール、ポリブタジエン、ポリエステル、ポリエーテルなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、本発明に使用することができる(A)成分には、1分子中にエポキシ基を1以上と(メタ)アクリロイル基を1以上有する化合物も含まれる。
【0025】
(A)成分以外のウレタン変性(メタ)アクリレートオリゴマーとしては、重量平均分子量が3000未満または6000より大きく、または、1分子当たりの(メタ)アクリロイル基が3個より少なく含む、または、5個より多く含むウレタン変性(メタ)アクリレートオリゴマーである。
【0026】
エステル結合を有する(メタ)アクリレートオリゴマーとしては、ポリオールと多価カルボン酸とがエステル結合を形成して、未反応の水酸基にアクリル酸を付加させる合成が知られているが、この合成方法に限定されるものではない。具体的には東亜合成株式会社製のアロニックスM-6100、M-6200、M-6250、M-6500、M-7100、M-7300K、M-8030、M-8060、M-8100、M-8530、M-8560、M-9050など、日本合成化学工業株式会社製のUV-3500BA、UV-3520TL、UV-3200B、UV-3000Bなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0027】
エーテル結合を有する(メタ)アクリレートオリゴマーとしては、ポリエーテルポリオールの水酸基や、ビスフェノールなどの芳香族を有するポリエーテルポリオールの水酸基にアクリル酸を付加させる合成方法が知られているが、この合成方法に限定されるものではない。具体例としては、日本合成化学工業製のUV-6640B、UV-6100B、UV-3700Bなどが、共栄社化学株式会社製のライト(メタ)アクリレート3EG-A、4EG-A、9EG-A、14EG-A、PTMGA-250、BP-4EA、BP-4PA、BP-10EAなどが、ダイセル・サイテック株式会社製のEBECRYL3700などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0028】
エポキシ変性(メタ)アクリレートオリゴマーとしては、多官能グリシジルエーテル化合物のグリシジル基に(メタ)アクリル酸などを開環重合させて合成できるが、これらに限定されるものではない。多官能グリシジルエーテルの主鎖としては、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、ノボラックフェノール型など様々な骨格のものが使用できる。前記のエポキシ変性アクリルオリゴマーの具体例としては、共栄社化学株式会社製のエポキシエステル3000A、3002Aなど、ダイセル・オルネクス株式会社製のEBECRYL3700などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0029】
(メタ)アクリレートモノマーとしては、1官能、2官能および3官能(メタ)アクリレートモノマーを含むことができる。また、単体または複数のモノマーを組み合わせて使用することもできる。
【0030】
1官能(メタ)アクリレートモノマーの具体例としては、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート 、エチルカルビトール(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシテトラエチレングリコール(メタ)アクリレート、ノニルフェノキシエチル(メタ)アクリレート、ノニルフェノキシテトラエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、ブトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシルポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ノニルフェニルポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシジプロピレングリコール(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、グリセロール(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、エピクロロヒドリン変性ブチル(メタ)アクリレート、エピクロロヒドリン変性フェノキシ(メタ)アクリレート、N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。好ましくは、(A)成分中に水酸基を有する1官能性モノマーが含まれていることが好ましい。具体的には、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0031】
1官能(メタ)アクリレートモノマーには、酸性基を有する(メタ)アクリレートモノマーもあげられる。特に、分子内に(メタ)アクリロイル基を有するカルボン酸やリン酸などを指す。分子内に(メタ)アクリロイル基を有するカルボン酸としては、(メタ)アクリロイル酸、3-(メタ)アクリロイロキシプロピルコハク酸、4-(メタ)アクリロイロキシブチルコハク酸、2-(メタ)アクリロイロキシエチルマレイン酸、3-(メタ)アクリロイロキシプロピルマレイン酸、4-(メタ)アクリロイロキシブチルマレイン酸、2-(メタ)アクリロイロキシエチルヘキサヒドロフタル酸、3-(メタ)アクリロイロキシプロピルヘキサヒドロフタル酸、4-(メタ)アクリロイロキシブチルヘキサヒドロフタル酸、2-(メタ)アクリロイロキシエチルフタル酸、3-(メタ)アクリロイロキシプロピルフタル酸、4-(メタ)アクリロイロキシブチルフタル酸などが、分子内に(メタ)アクリロイル基を有するリン酸としては、2-エチルヘキシルアシッドホスフェート、2-ヒドロキシエチルメタクリレートアシッドホスフェート、ジブチルホスフェートなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。耐久性を向上させる目的で酸性基を有する(メタ)アクリレートモノマーが含まれることが好ましい。
【0032】
2官能(メタ)アクリレートモノマーの具体例としては、1、3-ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサングリコールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジアクリレ-ト、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジメチロールトリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレンオキサイドサイド変性ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、エピクロロヒドリン変性ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性ビスフェノールSジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコール変性トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルジ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性ジシクロペンテニルジ(メタ)アクリレート、ジアクリロイルイソシアヌレート等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。硬化性の向上を考慮すると、脂環構造を有する2官能(メタ)アクリレートモノマーを含むことが好ましく、ジメチロールトリシクロデカンジ(メタ)アクリレートを使用することが最も好ましい。ここで、脂環構造とは環状脂肪族炭化水素の構造であり、具体的には、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロへキシル、ブチルヘキシル、メチルシクロヘキシル、ジメチルシクロへキシル、シクロヘプチル、メチルシクロヘプチル、シクロオクチル、シクロノニル、シクロデシルなどのシクロアルキル、ヒドロナフチル、1-アダマンチル、2-アダマンチル、ノルボルニル、メチルノルボルニル、イソボルニル、ジシクロペンテニル、ジシクロペンタニル、ジシクロペンテニルオキシエチル、トリシクロデカンなどが挙げられる。
【0033】
3官能(メタ)アクリレートモノマーの具体例としては、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、EO変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、PO変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ECH変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ECH変性グリセロールトリ(メタ)アクリレート、トリス(アクリロイルオキシエチル)イソシアヌレート等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0034】
表面硬化性および光沢を発現させる観点から、1官能(メタ)アクリレートは水酸基を有する1官能(メタ)アクリレートを含み、2官能(メタ)アクリレートはジメチロールトリシクロデカンジアクリレート含むことが好ましい。
【0035】
(B)成分は1官能(メタ)アクリレートおよび/または2官能(メタ)アクリレートを含むことが好ましく、さらには、1官能(メタ)アクリレートおよび/または2官能(メタ)アクリレートのみからなることが好ましく、最も好ましくは1官能(メタ)アクリレートおよび2官能(メタ)アクリレートのみからなることである。また、施術時の発熱を抑制する観点から、(B)成分は3官能以上の(メタ)アクリレートを含まないことが好ましい。
【0036】
(A)成分100質量部に対して(B)成分は30~70質量部含まれ、(B)成分は40~60質量部含まれることが最も好ましい。(B)成分が30質量部以上含むと組成物の粘度を低くして施術し易く、(B)成分が70質量部以下であると硬化性が良好である。
【0037】
本発明で使用することができる(C)成分は、ポリチオール化合物である。(C)成分は、1分子内にチオール基を2個以上有していれば、特に限定はされず、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。(C)成分の具体例として、1級チオール基を有する(C)成分として脂肪族ポリチオール化合物、芳香族ポリチオール化合物、スルフィド結合を有するポリチオール化合物などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0038】
チオール基を2つ有する脂肪族ポリチオール化合物としては、1,2-エタンジチオール、1,2-プロパンジチオール、1,3-プロパンジチオール、1,4-ブタンジチオール、1,6-ヘキサンジチオール、1,7-ヘプタンジチオール、1,8-オクタンジチオール、1,9-ノナンジチオール、1,10-デカンジチオール、1,12-ドデカンジチオール、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジチオール、3-メチル-1,5-ペンタンジチオール、2-メチル-1,8-オクタンジチオール、1,4-シクロヘキサンジチオール、1,4-ビス(メルカプトメチル)シクロヘキサン、1,1-シクロヘキサンジチオール、1,2-シクロヘキサンジチオール、ビシクロ[2,2,1]ヘプタ-exo-cis-2,3-ジチオール、1,1-ビス(メルカプトメチル)シクロヘキサン、ビス(2-メルカプトエチル)エーテル、エチレングリコールビス(2-メルカプトアセテート)、及びエチレングリコールビス(3-メルカプトプロピオネート)などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0039】
チオール基を3つ有する脂肪族ポリチオール化合物としては、1,1,1-トリス(メルカプトメチル)エタン、2-エチル-2-メルカプトメチル-1,3-プロパンジチオール、1,2,3-プロパントリチオール、トリメチロールプロパントリス(2-メルカプトアセテート)、トリメチロールプロパントリス(3-メルカプトプロピオネート)、及びトリス[(メルカプトプロピオニルオキシ)-エチル]イソシアヌレートなどが挙げられるがこれらに限定されるものではない。
【0040】
チオール基を4つ以上有する脂肪族ポリチオール化合物としては、ペンタエリスリトールテトラキス(2-メルカプトアセテート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトブチレート)、及びジペンタエリスリトールヘキサ-3-メルカプトプロピオネートなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0041】
芳香族ポリチオール化合物としては、1,2-ジメルカプトベンゼン、1,3-ジメルカプトベンゼン、1,4-ジメルカプトベンゼン、1,2-ビス(メルカプトメチル)ベンゼン、1,3-ビス(メルカプトメチル)ベンゼン、1,4-ビス(メルカプトメチル)ベンゼン、1,2-ビス(2-メルカプトエチル)ベンゼン、1,3-ビス(2-メルカプトエチル)ベンゼン、1,4-ビス(2-メルカプトエチル)ベンゼン、1,2-ビス(2-メルカプトエチレンオキシ)ベンゼン、1,3-ビス(2-メルカプトエチレンオキシ)ベンゼン、1,4-ビス(2-メルカプトエチレンオキシ)ベンゼン、1,2,3-トリメルカプトベンゼン、1,2,4-トリメルカプトベンゼン、1,3,5-トリメルカプトベンゼン、1,2,3-トリス(メルカプトメチル)ベンゼン、1,2,4-トリス(メルカプトメチル)ベンゼン、1,3,5-トリス(メルカプトメチル)ベンゼン、1,2,3-トリス(2-メルカプトエチル)ベンゼン、1,2,4-トリス(2-メルカプトエチル)ベンゼン、1,3,5-トリス(2-メルカプトエチル)ベンゼン、1,2,3-トリス(2-メルカプトエチレンオキシ)ベンゼン、1,2,4-トリス(2-メルカプトエチレンオキシ)ベンゼン、1,3,5-トリス(2-メルカプトエチレンオキシ)ベンゼン、1,2,3,4-テトラメルカプトベンゼン、1,2,3,5-テトラメルカプトベンゼン、1,2,4,5-テトラメルカプトベンゼン、1,2,3,4-テトラキス(メルカプトメチル)ベンゼン、1,2,3,5-テトラキス(メルカプトメチル)ベンゼン、1,2,4,5-テトラキス(メルカプトメチル)ベンゼン、1,2,3,4-テトラキス(2-メルカプトエチル)ベンゼン、1,2,3,5-テトラキス(2-メルカプトエチル)ベンゼン、1,2,4,5-テトラキス(2-メルカプトエチル)ベンゼン、1,2,3,4-テトラキス(2-メルカプトエチレンオキシ)ベンゼン、1,2,3,5-テトラキス(2-メルカプトエチレンオキシ)ベンゼン、1,2,4,5-テトラキス(2-メルカプトエチレンオキシ)ベンゼン、2,2’-メルカプトビフェニル、4,4’-チオビス-ベンゼンチオール、4,4’-ジメルカプトビフェニル、4,4’-ジメルカプトビベンジル、2,5-トルエンジチオール、3,4-トルエンジチオール、1,4-ナフタレンジチオール、1,5-ナフタレンジチオール、2,6-ナフタレンジチオール、2,7-ナフタレンジチオール、2,4-ジメチルベンゼン-1,3-ジチオール、4,5-ジメチルベンゼン-1,3-ジチオール、9,10-アントラセンジメタンチオール、1,3-ビス(2-メルカプトエチルチオ)ベンゼン、1,4-ビス(2-メルカプトエチルチオ)ベンゼン、1,2-ビス(2-メルカプトエチルチオメチル)ベンゼン、1,3-ビス(2-メルカプトエチルチオメチル)ベンゼン、1,4-ビス(2-メルカプトエチルチオメチル)ベンゼン、1,2,3-トリス(2-メルカプトエチルチオ)ベンゼン、1,2,4-トリス(2-メルカプトエチルチオ)ベンゼン、1,3,5-トリス(2-メルカプトエチルチオ)ベンゼン、1,2,3,4-テトラキス(2-メルカプトエチルチオ)ベンゼン、1,2,3,5-テトラキス(2-メルカプトエチルチオ)ベンゼン、及び1,2,4,5-テトラキス(2-メルカプトエチルチオ)ベンゼンなどが挙げられるがこれらに限定されるものではない。
【0042】
スルフィド結合を有するポリチオール化合物としては、ビス(2-メルカプトエチル)スルフィド、ビス(2-メルカプトエチルチオ)メタン、1,2-ビス(2-メルカプトエチルチオ)エタン、1,3-ビス(2-メルカプトエチルチオ)プロパン、1,2,3-トリス(2-メルカプトエチルチオ)プロパン、テトラキス(2-メルカプトエチルチオメチル)メタン、1,2-ビス(2-メルカプトエチルチオ)プロパンチオール、2,5-ジメルカプト-1,4-ジチアン、ビス(2-メルカプトエチル)ジスルフィド、3,4-チオフェンジチオール、1,2-ビス(2-メルカプトエチル)チオ-3-メルカプトプロパン、及びビス-(2-メルカプトエチルチオ-3-メルカプトプロパン)スルフィドなどが挙げられるがこれらに限定されるものではない。
【0043】
1級チオール基を有する(C)成分の商品としては、SC有機化学株式会社製のPEMP、TMMP、TMMP-20P、DPMP、TEMPICなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0044】
2級チオール基を有する(C)成分の具体例としては、ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトブチレート)、1,4-ビス(3-メルカプトブチリルオキシ)ブタン、1,3,5-トリス(3-メルカプトブチリルオキシエチル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリオン、トリメチロールプロパントリス(3-メルカプトブチレート)、トリメチロールエタントリス(3-メルカプトブチレート)、トリメチロールプロパントリス(3-メルカプトブチレート)、トリメチロールエタントリス(3-メルカプトブチレート)などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。商品としては、SC有機化学株式会社製のPEMPなどが、昭和電工株式会社製のカレンズMT(商標登録)シリーズのPE1、BD1、NR1などが挙げられるがこれらに限定されるものではない。
【0045】
(A)成分100質量部に対して(C)成分は10~80質量部含まれ、(C)成分は10~70質量部含まれることが最も好ましい。(C)成分が10質量部以上含まれることで表面硬化性が向上し、80質量部以下含むと保存安定性が向上する。また、(C)成分は組成物全体に対して8質量%より多く含み、30質量%より少ないことが好ましい。
【0046】
本発明で使用することができる(D)成分としては、光開始剤である。(D)成分としては、可視光線、紫外線、X線、電子線等のエネルギー線によりラジカル種を発生するラジカル系光開始剤であれば限定はない。
【0047】
(D)成分の具体的としては、ジエトキシアセトフェノン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン、ベンジルジメチルケタール、4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル-(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ケトン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-メチル-2-モルホリノ(4-チオメチルフェニル)プロパン-1-オン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルホリノフェニル)ブタノン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-[4-(1-メチルビニル)フェニル]プロパノンオリゴマー等のアセトフェノン類;ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル等のベンゾイン類;ベンゾフェノン、o-ベンゾイル安息香酸メチル、4-フェニルベンゾフェノン、4-ベンゾイル-4′-メチル-ジフェニルサルファイド、3,3′,4,4′-テトラ(t-ブチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、2,4,6-トリメチルベンゾフェノン、4-ベンゾイル-N,N-ジメチル-N-[2-(1-オキソ-2-プロペニルオキシ)エチル]ベンゼンメタナミニウムブロミド、(4-ベンゾイルベンジル)トリメチルアンモニウムクロリド等のベンゾフェノン類;2-イソプロピルチオキサントン、4-イソプロピルチオキサントン、2,4-ジエチルチオキサントン、2,4-ジクロロチオキサントン、1-クロロ-4-プロポキシチオキサントン、2-(3-ジメチルアミノ-2-ヒドロキシ)-3,4-ジメチル-9H-チオキサントン-9-オンメソクロリド等のチオキサントン類などが挙げられるが、これに限定されるものではない。また、複数の(D)成分を組み合わせて使用することもできる。
【0048】
(A)成分が100質量部に対して、(D)成分は0.1~20質量部を添加し、さらに好ましくは5~15質量部である。(D)成分が0.1質量部より多い場合は光硬化性を維持することができる。一方、(D)成分が20質量部より少ない場合は保存時に増粘すること無く保存安定性を維持することができる。可視光型光開始剤が(D)成分全体に対して0~70重量%含む事が好ましく、硬化物が黄変しにくい。ここで、可視光型光開始剤とは、可視光領域で光吸収が最も強い光開始剤で、主にリン原子を含むアシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤を示す。具体的には2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-フォスフィンオキサイドやビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイドなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0049】
本発明には、本発明の特性を損なわない範囲において、(メタ)アクリルアミドモノマー、保存安定剤、カップリング剤、無機充填剤や有機充填剤、顔料、染料などの着色剤、酸化防止剤、重合禁止剤、消泡剤、レベリング剤、レオロジーコントロール剤等の添加剤を適量配合しても良い。これらの添加により樹脂強度、作業性、保存安定性などに優れた組成物またはその硬化物が得られる。
【0050】
本発明では、本発明の特性を損なわない範囲において(メタ)アクリルアミドモノマーを添加することができる。具体例としては、ジメチル(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロイルモルホリン、ジエチル(メタ)アクリルアミドなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。明確な原因は分からないが、耐久性が向上する観点から、モノマーは(メタ)アクリルアミドモノマーを含むことが好ましい。本発明においては(メタ)アクリルアミドモノマーの具体例としては、KJケミカル株式会社製のDMAA、ACMO、DEAAなどが知られているが、これらに限定されるものではない。
【0051】
本発明では、本発明の特性を損なわない範囲において保存安定剤を添加することができる。保存安定剤としては、pKa(酸解離定数)が1.0~4.0の保存安定剤であり、(A)成分および(B)成分を含まない。より具体的にはpKaが1.0~4.0の有機酸である。明確な原因は分からないが、本発明に係る組成物に添加することで粘度などの保存安定性および表面硬化性の両方が向上する。pKaは酸の強さ(水素イオンの解離しやすさ)を定量的に表した指標のひとつで、pKaが低い程強い酸と言える。pKaは中和滴定、吸光光度法、キャピラリー電気泳動などで測定されることが知られ、その中でも精度の高いのは中和滴定である。保存安定剤として特に好ましいのは、保存安定剤としてのリン化合物である。ここで、ホスホン酸とリン酸を含めてリン化合物と呼び、(D)成分を除く。最も好ましいのはホスホン酸化合物である。ホスホン酸化合物とは、R?P(=O)(ORで、ここで、Rは水素またはリン原子と酸素原子で結合していない有機基であり、Rはそれぞれ独立した水素または有機基である。有機基としては、フェニル基や炭化水素基などが挙げられるがこれらに限定されるものではない。最も好ましい(D)成分は、フェニルホスホン酸である。保存安定剤は、1種類を単独で使用しても、複数を併用しても良いが、組成物中に前記保存安定剤以外の保存安定剤を含まないことが好ましい。通常、リン酸はP(=O)(OH)と示され、ホスホン酸であるH?P(=O)(OH)とは相違する。
【0052】
保存安定剤の具体例としては、リン酸(pKa=1.83)、シュウ酸(pKa=1.04)、ホスホン酸化合物であり、特に、ホスホン酸化合物として、フェニルホスホン酸(pKa=1.83)、ビニルホスホン酸(pKa=2.11)、メチルホスホン酸(pKa=2.38)などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。保存安定剤は1種類で使用しても複数種類を併用しても良い。また、粘度などに関して保存安定性を低下させないためにも、前記保存安定剤以外にpKaが4.0より大きい有機酸を併用しないことが好ましい。
【0053】
(A)成分100質量部に対して、保存安定剤は、0.01~5.0質量部添加されることが好ましく、特に、0.01~2.0質量部添加されることが最も好ましい。保存安定剤が0.01質量部以上であると粘度変化が抑制され、5.0質量部以下では表面硬化性が維持される。また、組成物全体に対して、保存安定剤は0.01~10.0質量%含むことが好ましい。
【0054】
本発明では、本発明の特性を損なわない範囲においてカップリング剤を添加することができる。カップリング剤は、エポキシ基、ビニル基、アクリロイル基またはメタクリロイル基と加水分解性シラン基を併せ持つシラン系カップリング剤やフェニル基および加水分解性シリル基を有するポリオルガノシロキサン、および/またはエポキシ基および加水分解性シリル基を有するポリオルガノシロキサンなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。シラン系カップリング剤の具体例としては、アリルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-クロロプロピルトリメトキシシランなどが挙げられるがこれらに限定されない。
【0055】
本発明では、本発明の特性を損なわない範囲において無機充填剤や有機充填剤などの充填剤を適宜添加することができる。充填剤を添加することで、粘性・チクソ性だけでなく硬化性、強靱性を調整することができる。無機充填剤としては、アルミナ、シリカ、アモルファスシリカなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。一方、有機充填剤としては、スチレンフィラー、ゴムフィラー、コアシェルアクリルフィラーなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。具体的な製品として、シリカとしては株式会社龍森製のFUSELEX E-1、アドマファイン株式会社製のAO-802などが、アモルファスシリカとしては日本アエロジルジャパン株式会社製のアエロジルシリーズとして200(無処理)、R972(ジメチルジクロロシラン処理)、R976(ジメチルジクロロシラン処理)、RY200(ジメチルシリコーン処理)、RX200(ヘキサメチルジシラザン処理)、R800(オクチルシラン処理)などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0056】
本発明の爪または人工爪用光硬化性組成物をいわゆるジェルネイルとして使用する場合には次の手順で施術する。施術する前に、人間の爪の表面をファイル(やすり)等でサンディングを実施後、エタノールを主成分とする爪専用溶剤で埃、油分、水分などを取り除く。本発明を塗布する際には、筆や刷毛などで硬化前の状態で厚さ100~300μmの塗膜を形成する。塗布の際に事前にプライマーを使用しても良い。硬化する際の照射装置としては、市販されているジェルネイル用LEDランプなどを使用する。照射時間としては、15秒~120秒であり、指への影響を考慮すると、好ましくは20~70秒である。
【0057】
本発明の爪または人工爪用光硬化性組成物は、施術時の塗布性を考慮すると25℃における粘度が10Pa・s以下が好ましく、より好ましくは5Pa・s以下である。
【0058】
エネルギー線によりラジカル種を発生させて、(メタ)アクリロイル基を有する化合物を重合させる際に、酸素に触れている領域は酸素阻害により重合が抑制されることが知られている。その際、硬化物表面には未硬化成分が残るため、施術の際には未硬化成分をウェス等で拭き取ることで光沢を出させること多く、特に、最表面に使用されるトップコートではその傾向が強い。しかしながら、本発明は、酸素阻害の影響を受けにくく、光照射により硬化することから、硬化後に表面に未硬化成分が残らないノンワイプトップコートに適している。
【実施例0059】
次に実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0060】
[実施例1~6、比較例1~4]
光硬化性組成物を調製するために下記成分を準備した。(以下、爪または人工爪用光硬化性組成物を単に組成物とも呼ぶ。)
(A)成分:重量平均分子量が3000~6000で、1分子当たりの(メタ)アクリロイル基が3~5個含むウレタン変性(メタ)アクリレートオリゴマー
・重量平均分子量:5000、官能基数:3のポリエーテル系ウレタンアクリレートオリゴマー(アートレジン KY-11 根上工業株式会社製)
(A)成分以外のウレタン変性(メタ)アクリレートオリゴマー
・重量平均分子量:38000、官能基数2のポリエーテルウレタンアクリレート(紫光 UV-3700B 三菱ケミカル株式会社)
・重量平均分子量:3500、官能基数2のポリエーテルウレタンアクリレート(アートレジン UN-6303 根上工業株式会社製)
・重量平均分子量:4900、官能基数10のウレタンアクリレートオリゴマー(アートレジン UN-904 根上工業株式会社製)
(B)成分:1分子当たり(メタ)アクリロイル基を1つ以上有する(メタ)アクリレート((A)成分を除く)
・メタクリル酸2-ヒドロキシプロピル(HPMA 株式会社日本触媒製)
・ジメチロールトリシクロデカンジアクリレート(ライトアクリレート DCP-A 共栄社化学株式会社製)
(C)成分:ポリチオール化合物
・トリメチロールプロパントリス(3-メルカプトプロピオネート)(TMMP-20P SC有機化学株式会社製)
(D)成分:光開始剤
・1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(非可視光型光開始剤)(IRGACURE184、BASF社製)
・2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-フォスフィンオキサイド(可視光型光開始剤)(LUCIRIN TPO BASF社製)
保存安定剤
・フェニルホスホン酸(試薬)
【0061】
実施例1~6および比較例1~4を調製する。組成物は(A)成分(および、その他オリゴマー)、(B)成分、(C)成分および保存安定剤を撹拌釜に秤量した後、30分間撹拌を行う。その後、30分間真空脱泡しながら撹拌を行う。最後に、(D)成分を秤量して攪拌釜に添加して30分間撹拌を行う。詳細な調製量は表1に従い、数値は全て質量部で表記する。
【0062】
【表1】
【0063】
実施例1~6および比較例1~4に対して、保存安定性確認、硬化物表面状態確認、表面硬化性確認、光沢度測定、摩耗試験および施術時発熱確認を実施した。その結果を表2にまとめる。
【0064】
[保存安定性確認]
ガラス容器に組成物を100g充填した状態で、熱風乾燥炉で60℃雰囲気に放置して3日後に取り出して組成物の性状を下記の評価基準に従って目視で確認し、「保存安定性」とする。
評価基準
○:容器を傾けて流動性がある
×:容器を傾けて流動性がない(ゲル化している)
【0065】
[硬化物表面状態確認]
厚さ2.0mm×幅25mm×長さ100mmのアクリル板の上に、組成物の厚さが300μmになる様に刷毛で塗布する。ネイル用UVランプ(定格電圧:100~110V 50-60Hz消費電力:36W、波長:350~400nm)で30秒照射して組成物を硬化する。下記の評価基準に従いLEDスタンドに反射させて目視で確認して「表面光沢」とする。
評価基準
○:表面にツヤが有る
×:表面にツヤが無い
【0066】
[表面硬化性確認]
厚さ2.0mm×幅25mm×長さ100mmのアクリル板の上に、組成物の厚さが300μmになる様に刷毛で塗布する。ネイル用UVランプ(定格電圧:100~110V 50-60Hz消費電力:36W、波長:350~400nm)で30秒照射して組成物を硬化する。その際の硬化物表面の状態を綿棒で表面を接触させて、下記の評価基準に従い目視で確認して「表面硬化性」とする。
評価基準
○:表面に成分のタックが生じない
×:表面に成分のタックが生じる
【0067】
[光沢度測定]
基材であるSPCC-SDに対してクリアーのアミノアルキド塗料を片面に電着塗装したテストピースを使用し、電着塗装した面に組成物を厚さ100μmで塗工し、ネイル用UVランプ(定格電圧:100~110V 50-60Hz消費電力:36W、波長:350~400nm)で30秒照射して組成物を硬化してテストピースを作成した。株式会社堀場製作所製の高光沢グロスチェッカを使用して、入射角60°、受光角60°でテストピースの表面の「初期の光沢度(%)」を測定した。外観にツヤが発生するには、初期の光沢度は85%以上が好ましい。
【0068】
[摩耗試験]
前記の光沢度測定にて測定を行ったテストピースを、ウエスで100回表面を拭き、もう一度、光沢度測定と同様の測定を行って「摩耗後の光沢度(%)」とする。また、「光沢度変化率(%)」を「光沢度変化率(%)」=(「摩耗後の光沢度(%)」-「初期の光沢度(%)」)/「初期の光沢度(%)」×100により求める。耐久性の観点から、摩耗後の光沢度は85%以上が好ましい。また、光沢度変化率は、-6.0~0.0%であることが好ましく、-3.0~0.0%であることが最も好ましい。
【0069】
[施術時発熱確認]
爪はサンディングを実施した後、爪専用溶剤(エタノール主成分)で埃や油分を取り除く。ベースコートとして組成物をウェットで厚さがおよそ100μmで塗布する。塗布は刷毛にて行う。その後、ネイル用LEDランプ(定格電圧:100~110V 50-60Hz消費電力:36W、波長:350~400nm)にて30秒照射して組成物を硬化させる。同様の方法で、ベースコートの表面にカラーコートおよびトップコートも同様の条件で順に硬化させる。カラーコートはPREGEL社製のスーパーカラーEX(色:パステルピーチ)を、トップコートは各組成物を使用した。一人の人間の手の指の爪(10本)に対して、以下の評価基準に従い、「施術時発熱」を評価した。被験者のストレスを考慮すると、「○」であることが好ましい。
評価基準
○:熱さ感じず
△:ほんのり暖かい
×:熱い
【0070】
【表2】
【0071】
実施例1~6と比較例1、2を比較すると、(A)成分100質量部に対して(C)成分が10~80質量部含むことで表面硬化性が向上することが分かる。また、実施例1~6は重量平均分子量が3000~6000で、1分子当たりの(メタ)アクリロイル基が3~5個含むウレタン変性(メタ)アクリレートオリゴマーを(A)成分に使用しているが、それ以外のウレタン変性(メタ)アクリレートオリゴマーを使用した比較例3、4と比較して施術時の発熱が抑制されている。さらには、実施例1~6においては、比較例2と比較して摩耗後に光沢度変化率が低い傾向が見られる。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明は、ポリチオールを含んでいるにもかかわらず表面硬化性と保存安定性を両立する光硬化性組成物である。特に、ネイル分野の施術において粘度変化は塗布性に影響が出ることから本発明は安定して施術することができる。また、本発明は施術時発熱がないものの表面硬化性が良好であることからノンワイプトップコートとして使用するができる。