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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025025604
(43)【公開日】2025-02-21
(54)【発明の名称】画像形成方法
(51)【国際特許分類】
   B44C 1/17 20060101AFI20250214BHJP
   B41M 5/52 20060101ALI20250214BHJP
   C09D 11/32 20140101ALI20250214BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20250214BHJP
【FI】
B44C1/17 J
B41M5/52 400
C09D11/32
B41J2/01 129
B41J2/01 501
B41J2/01 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023130502
(22)【出願日】2023-08-09
(71)【出願人】
【識別番号】000005267
【氏名又は名称】ブラザー工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117101
【弁理士】
【氏名又は名称】西木 信夫
(74)【代理人】
【識別番号】100120318
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 朋浩
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 のぞみ
(72)【発明者】
【氏名】町井 草太
【テーマコード(参考)】
2C056
2H111
3B005
4J039
【Fターム(参考)】
2C056FB01
2C056FC01
2C056FD03
2C056FD20
2H111CA03
2H111CA28
2H111CA29
2H111CA47
3B005EB05
3B005FA02
3B005FB26
3B005FE01
3B005GA05
3B005GB01
3B005GC03
4J039AD09
4J039BE01
4J039BE02
4J039EA06
4J039EA46
4J039FA02
4J039GA24
(57)【要約】
【課題】熱転写を用いて基材に発色のよい画像を形成し、かつ基材の質感を損なわない画像形成方法を提供する。
【解決手段】本画像形成方法は、基材に、紫外線照射により重合する樹脂成分を含む樹脂液をインクジェットヘッドから吐出させることにより付着し、紫外線を照射して樹脂成分を樹脂層として上記基材に定着する樹脂層形成工程と、昇華性染料インク層を有する転写シートを樹脂層に付着し、加熱により昇華性染料インク層の昇華性染料インクを樹脂層に転写する転写工程と、を有する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材に画像を形成する画像形成方法であって、
上記基材に、紫外線照射により重合する樹脂成分を含む樹脂液をインクジェットヘッドから吐出させることにより付着し、紫外線を照射して上記樹脂成分を樹脂層として上記基材に定着する樹脂層形成工程と、
昇華性染料インク層を有する転写シートを上記樹脂層に付着し、加熱により上記昇華性染料インク層の昇華性染料インクを上記樹脂層に転写する転写工程と、を有する画像形成方法。
【請求項2】
上記基材は、無機材料、またはガラス転移点が90℃以上の樹脂材料を含む請求項1に記載の画像形成方法。
【請求項3】
上記樹脂層のガラス転移点が0℃から70℃の範囲内である請求項1または2に記載の画像形成方法。
【請求項4】
上記樹脂層の厚みが5μmから50μmの範囲内である請求項1または2に記載の画像形成方法。
【請求項5】
上記樹脂液は、第1の樹脂成分を含む第1樹脂液と、第2の樹脂成分を含む第2樹脂液と、を含み、
上記樹脂層形成工程は、
上記基材に、上記第1樹脂液をインクジェットヘッドから吐出させることにより付着し、紫外線を照射して上記第1の樹脂成分をベース層として上記基材に定着する第1工程と、
上記第2樹脂液をインクジェットヘッドから吐出させることにより付着し、紫外線を照射して上記第2の樹脂成分を表層として上記ベース層に積層する第2工程と、を含み、
上記ベース層のガラス転移点は、上記表層のガラス転移点より低い請求項1または2に記載の画像形成方法。
【請求項6】
上記第1樹脂液は、色材を含む請求項5に記載の画像形成方法。
【請求項7】
上記ベース層のガラス転移点は、25℃未満であり、
上記表層のガラス転移点は、25℃から55℃の範囲内である請求項5に記載の画像形成方法。
【請求項8】
上記表層の厚みが15μm以上である請求項7に記載の画像形成方法。
【請求項9】
上記樹脂液は、上記樹脂成分を含む第3樹脂液をさらに含み、
上記第3樹脂液は、色材を含み、
上記第1樹脂液および上記第2樹脂液は、色材を含まず、
上記樹脂層形成工程は、
上記第1工程の後であって上記第2工程の前に、上記第3樹脂液をインクジェットヘッドから吐出させることにより付着し、紫外線を照射して上記ベース層と上記表層との間の中間層とする第3工程、を含む請求項5に記載の画像形成方法。
【請求項10】
上記転写工程において、上記昇華性染料インク層の昇華性染料インクを上記樹脂層に転写するときの加熱温度が、120℃から240℃の範囲内である請求項1または2に記載の画像形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱転写を用いて基材に画像を形成する画像形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ポリ塩化ビニル成型品上に紫外線硬化性樹脂の硬化皮膜を形成し、この皮膜状に昇華性染料転写紙を重ねて加圧加熱することにより、ポリ塩化ビニル成型品に染料転写する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特公昭63-38475号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、ポリ塩化ビニル成型品上に、紫外線硬化性樹脂がナイフコーティングやグラビアコーティングによりコーティングされる。したがって、ポリ塩化ビニル成型品は、シート形状のものに限られており、カップなどの立体物にフルカラー印刷をすることは困難であった。他方、紫外線硬化インクを用いて、インクジェット方式により立体物に印刷することが考えられる。しかしながら、印字濃度やカラー色の増加にともなって、インク皮膜の厚みが増加するため、立体物とインク皮膜との密着性が劣ったり、立体物の表面の質感が失われたりする。
【0005】
本発明の目的は、熱転写を用いて基材に発色のよい画像を形成し、かつ基材の質感を損なわない画像形成方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1) 本発明は、基材に画像を形成する画像形成方法に関する。本画像形成方法は、上記基材に、紫外線照射により重合する樹脂成分を含む樹脂液をインクジェットヘッドから吐出させることにより付着し、紫外線を照射して上記樹脂成分を樹脂層として上記基材に定着する樹脂層形成工程と、昇華性染料インク層を有する転写シートを上記樹脂層に付着し、加熱により上記昇華性染料インク層の昇華性染料インクを上記樹脂層に転写する転写工程と、を有する。
【0007】
上記画像形成方法によれば、基材に、発色および質感のよい画像が形成される。
【0008】
(2) 上記基材は、無機材料、またはガラス転移点が90℃以上の樹脂材料を含んでもよい。
【0009】
これにより、滲みのない画像が形成される。
【0010】
(3) 上記樹脂層のガラス転移点が0℃から70℃の範囲内であってもよい。
【0011】
これにより、転写シートの剥離性が優れる。
【0012】
(4) 上記樹脂層の厚みが5μmから50μmの範囲内であってもよい。
【0013】
これにより、画像の発色がよく、かつ基材と樹脂層との密着性がよい。
【0014】
(5) 上記樹脂液は、第1の樹脂成分を含む第1樹脂液と、第2の樹脂成分を含む第2樹脂液と、を含み、上記樹脂層形成工程は、上記基材に、上記第1樹脂液をインクジェットヘッドから吐出させることにより付着し、紫外線を照射して上記第1の樹脂成分をベース層として上記基材に定着する第1工程と、上記第2樹脂液をインクジェットヘッドから吐出させることにより付着し、紫外線を照射して上記第2の樹脂成分を表層として上記ベース層に積層する第2工程と、を含み、上記ベース層のガラス転移点は、上記表層のガラス転移点より低くてもよい。
【0015】
これにより、ベース層と基材との密着性がよく、かつ表層における転写シートの剥離性がよい。
【0016】
(6) 上記ベース層のガラス転移点は、25℃未満であり、上記表層のガラス転移点は、25℃から55℃の範囲内であってもよい。
【0017】
(7) 上記表層の厚みが15μm以上であってもよい。
【0018】
これにより、画像の発色がよい。
【0019】
(8) 上記樹脂液は、上記樹脂成分を含む第3樹脂液をさらに含み、上記第3樹脂液は、色材を含み、上記第1樹脂液および上記第2樹脂液は、色材を含まず、上記樹脂層形成工程は、上記第1工程の後であって上記第2工程の前に、上記第3樹脂液をインクジェットヘッドから吐出させることにより付着し、紫外線を照射して上記ベース層と上記表層との間の中間層とする第3工程、を含んでもよい。
【0020】
これにより、ベース層と基材との密着性がよく、かつ表層における転写シートの剥離性がよい。また、画像の発色がよい。
【0021】
(9) 上記転写工程において、上記昇華性染料インク層の昇華性染料インクを上記樹脂層に転写するときの加熱温度が、120℃から240℃の範囲内であってもよい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、熱転写を用いて基材に発色のよい画像が形成され、かつ基材の質感が損なわれない。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の好ましい実施形態を説明する。なお、本実施形態は本発明の一実施態様にすぎず、本発明の要旨を変更しない範囲で実施態様を変更できることは言うまでもない。
【0024】
基材に画像を形成する画像形成方法では、樹脂層形成工程と、転写工程と、を含む。基材は、樹脂層が積層できれば特に限定されず、紙、布、木材、ガラス、金属、樹脂などからなるものが挙げられる。また、基材は、複数の素材からなるものであってもよい。基材の形状は特に限定されず、シートや平板であってもよいし、様々な形状の立体物であってもよい。基材において画像が形成される表面が、無機材料、またはガラス転移点が90℃以上の樹脂材料であれば、滲みのない画像が形成されるので好ましい。無機材料としては、例えば、ガラス、金属などが挙げられる。ガラス転移点(Tg)が90℃以上の樹脂材料としては、ポリメタクリル酸メチル(Tg=90℃)、ポリスチレン(Tg=100℃)、ポリアクリロニトリル(Tg=104℃)、ポリアクリル酸(Tg=106℃)、ポリカーボネート(Tg=150℃)、ポリメタクリル酸(Tg=185℃)や、これらの共重合体などが挙げられる。
【0025】
樹脂層形成工程では、基材に、紫外線照射により重合する樹脂成分を含む樹脂液をインクジェットヘッドから吐出させることにより付着し、紫外線を照射して樹脂成分を樹脂層として基材に定着する。
【0026】
紫外線照射により重合する樹脂成分としては、公知のものが採用される。公知の樹脂成分としては、例えば、エポキシアクリレート、ポリエステルウレタンアクリレート、ポリエステルアクリレート等の重合性オリゴマー、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、1,3-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート等の重合性モノマー、アセトフエノン、2,2-ジエトキシアセトフエノン、ベンゾフエノン、ミヒラーケトン、ベンジル、ベンゾインアルキルエーテル、ベンジルメチルケタール、チオキサンなどが挙げられる。これら樹脂成分から1つ或いは複数が選定され、紫外線照射により重合した後の樹脂層のガラス転移点が所定の範囲となるように適宜調整して樹脂液とする。樹脂液には、必要に応じて光重合開始助剤や界面活性剤などが含まれる。樹脂層のガラス転移点は、0℃から70℃の範囲内が好ましく、その中でも25℃から55℃の範囲内が好ましく、さらに好ましくは、38℃から55℃の範囲内であり、特に好ましくは、49℃から55℃の範囲内である。樹脂層のガラス転移点が上記範囲内であれば、転写工程において転写シートの剥離性に優れる。
【0027】
紫外線照射により重合する樹脂成分により形成される樹脂層は、複数の樹脂層から構成されてもよい。複数の樹脂層は、例えば、二層や三層である。樹脂層が二層(ベース層と表層)である場合には、ベース層のガラス転移点は25℃未満が好ましくは、特に好ましくは、16℃未満である。ベース層のガラス転移点が上記範囲内であれば、基材とベース層との密着性がよい。
【0028】
表層のガラス転移点は25℃から55℃の範囲内が好ましく、さらに好ましくは、38℃から55℃の範囲内であり、特に好ましくは、49℃から55℃の範囲内である。表層のガラス転移点が上記範囲内であれば、転写工程において転写シートの剥離性に優れる。
【0029】
樹脂層が三層(ベース層、中間層、表層)である場合には、中間層を形成する樹脂成分としては、表層を形成する樹脂成分と同様であってよい。また、中間層を形成する樹脂液は、色材を含み、ベース層および表層を形成する樹脂液は、色材を含まなくてもよい。また、樹脂層が二層(ベース層、表層)である場合に、ベース層を形成する樹脂液が、色材を含んでもよい。色材は、例えば白色の顔料が好ましいが、白色に限定されない。これにより、ベース層において基材との密着性がよく、表層において転写シートの剥離性がよく、中間層またはベース層が着色されるので、表層に転写された画像の発色がよい。
【0030】
白色顔料としては、例えば、C.I.ピグメントホワイト(以下「CIPW」とも称される。)4である酸化亜鉛、CIPW6である酸化チタン、CIPW7である硫化亜鉛、CIPW12である酸化ジルコニウム(ジルコニウムホワイト)、CIPW18である炭酸カルシウム、CIPW19である酸化アルミ・酸化ケイ素(カオリンクレー)、CIPW21又は22である硫酸バリウム、CIPW23である水酸化アルミニウム(アルミナホワイト)、CIPW27である酸化ケイ素、CIPW28であるケイ酸カルシウム等が好ましい。白色顔料に使用される無機粒子は単体でもよいし、ケイ素、アルミニウム、ジルコニウム、チタン等の酸化物や有機金属化合物、有機化合物との複合粒子であってもよい。中でも酸化チタンは、他の白色顔料と比べて比重が小さく、屈折率が大きいので、基材の隠蔽性や着色性に優れ、また、酸やアルカリ、その他の環境に対する耐久性にも優れるので、好適に使用される。なお、酸化チタンに加えて他の白色顔料(上述した白色顔料以外のものであってもよい。)を併用してもよい。
【0031】
各樹脂液は、インクジェットヘッドから基材へ向けて吐出されることにより、基材または既に形成された樹脂層に付着される。インクジェットヘッドは、ノズルから微少な液滴を吐出するものであって公知のものが採用される。また、樹脂液は、基材または樹脂層のすべてを覆うように付着されてもよいし、一部分にのみ付着されてもよい。そして、基材または樹脂層に付着し樹脂液に対して紫外線を照射することにより、樹脂成分が硬化して樹脂層が形成される。複数の樹脂層が形成される場合には、例えば、ベース層、中間層、表層について、インクジェットヘッドによる樹脂液の吐出と紫外線の照射とが、順に繰り返して行われる。
【0032】
樹脂層の厚みは、全体として5μmから50μmの範囲内であることが好ましく、その中でも10μmから50μmの範囲内であることが好ましく、さらに好ましくは、43μmから50μmの範囲内である。樹脂層の厚みが上記範囲内であれば、画像の発色がよい。
【0033】
また、樹脂層が複数の層からなる場合には、表層の厚みは、15μmから45μmの範囲内であることが好ましい。表層の厚みが上記範囲内であれば、画像の発色がよく、かつ基材の質感が保持される。
【0034】
転写工程では、昇華性染料インク層を有する転写シートを樹脂層に付着し、加熱により昇華性染料インク層の昇華性染料インクを樹脂層に転写する。転写後に、転写シートは樹脂層から剥離される。
【0035】
昇華性染料インク層を有する転写シートは、公知の方法により形成される。転写シートの基材としては、紙、樹脂などが挙げられる。基材となるシートに染料インクがインクジェットヘッドなどにより吐出されることにより、所望の画像の昇華性染料インク層が形成される。染料インクは、加熱により昇華する分散染料を含んでおり、複数色の染料インクが用いられてもよい。
【0036】
昇華性染料インクは、水と、水溶性有機溶剤と、昇華性染料と、を含む。昇華性染料は分散染料とも呼ばれる。昇華性染料としては、C.I.ディスパースレッド60;C.I.ディスパースイエロー3、7、8、23、39、51、54、60、71、86;C.I.ディスパースオレンジ1、1:1、5、20、25、25:1、33、56、76;C.I.ディスパースブラウン2;C.I.ディスパースレッド11、50、53、55、55:1、59、60、65、70、75、93、146、158、190、190:1、207、239、240;C.I.バットレッド41;C.I.ディスパースバイオレット8、17、23、27、28、29、36、57;C.I.ディスパースブルー19、26、26:1、35、55、56、58、64、64:1、72、72:1、81、81:1、91、95、108、131、141、145、359;C.I.ソルベントブルー36、63、105、111;等が挙げられる。これらは、単独であっても2種類以上が併用されてもよい。また、染料インクは、前述したした以外の成分(その他の成分)を含んでもよい。その他の成分としては、例えば、分散剤、防腐防黴剤、pH調整剤、キレート試薬、防錆剤、紫外線吸収剤、消泡剤、表面張力調整剤が挙げられる。
【0037】
染料インクを樹脂層に転写するときの加熱温度は、120℃から240℃の範囲内であることが好ましい。加熱温度が上記範囲より低ければ転写効率が悪くなる。加熱温度が上記範囲より高ければ、画像がぼやけたり、樹脂層が変質して画像に影響を与える。転写時間は、特に限定されないが、例えば30秒である。
【実施例0038】
以下、本発明の実施例が示される。
【0039】
(実施例1)
紫外線照射により重合された樹脂層のガラス転移点が38℃となるように調整された樹脂液Aを、インクジェットプリンタ(ブラザー工業社製、GTX pro)を用いてガラス製の平板に20mm×50mmの長方形に吹き付けて、紫外線を照射することにより厚み15μmの樹脂層を形成した。紙製のシートに昇華性染料インク(C.I.ディスパースレッド60)が積層された転写シートを、形成された樹脂層に重ねて、手動式小型アイロンプレス機カブトPCA-3233により160℃、30秒加熱し、自然冷却後に転写シートを樹脂層から剥離して基材に長方形の塗りつぶし画像を形成した。すなわち、昇華性染料インクを転写シートから樹脂層に昇華転写した。樹脂層のガラス転移点は、照射示差走査熱量計DSC7000X(日立ハイテク社製)を用いて測定した。
【0040】
(実施例2)
紫外線照射により重合された樹脂層のガラス転移点が27℃となるように調整された樹脂液Bを使用し、樹脂層の厚みを20μmとしたほかは、実施例1と同様にして画像を形成した。
【0041】
(実施例3)
樹脂層の厚みを10μmとしたほかは、実施例2と同様にして画像を形成した。
【0042】
(実施例4)
樹脂層の厚みを50μmとしたほかは、実施例2と同様にして画像を形成した。
【0043】
(実施例5)
紫外線照射により重合された樹脂層のガラス転移点が50℃となるように調整されており、CIPW6(酸化チタン)を含む樹脂液Cを使用し、樹脂層の厚みを10μmとしたほかは、実施例1と同様にして画像を形成した。
【0044】
(実施例6)
紫外線照射により重合された樹脂層のガラス転移点が21℃となるように調整された樹脂液Eを、インクジェットプリンタ(ブラザー工業社製、GTX pro)を用いて平板形状のガラスに20mm×50mmの長方形に吹き付けて、紫外線を照射することにより厚み3μmのベース層を形成した。さらに、紫外線照射により重合された樹脂層のガラス転移点が49℃となるように調整された樹脂液Dを、インクジェットプリンタを用いてベース層に付着して紫外線を照射することにより厚み10μmの表層を形成した。その後、実施例1と同様にして、転写シートを用いて画像を形成した。
【0045】
(実施例7)
紫外線照射により重合された樹脂層のガラス転移点が15℃となるように調整された樹脂液Fを、インクジェットプリンタ(ブラザー工業社製、GTX pro)を用いて平板形状のガラスに20mm×50mmの長方形に吹き付けて、紫外線を照射することにより厚み3μmのベース層を形成した。さらに、樹脂液Aを、インクジェットプリンタを用いてベース層に付着して紫外線を照射することにより厚み10μmの表層を形成した。その後、実施例1と同様にして、転写シートを用いて画像を形成した。
【0046】
(実施例8)
樹脂液Dを、インクジェットプリンタ(ブラザー工業社製、GTX pro)を用いてベース層に付着して紫外線を照射することにより厚み15μmの表層を形成したほかは、実施例6と同様にして画像を形成した。
【0047】
(実施例9)
表層の厚みを20μmとしたほかは、実施例8と同様にして画像を形成した。
【0048】
(実施例10)
樹脂液Fを、インクジェットプリンタ(ブラザー工業社製、GTX pro)を用いて金属製の平板に20mm×50mmの長方形に吹き付けて、紫外線を照射することにより厚み3μmのベース層を形成した。さらに、樹脂液Dを、インクジェットプリンタを用いてベース層に付着して紫外線を照射することにより厚み40μmの表層を形成した。その後、実施例1と同様にして、転写シートを用いて画像を形成した。
【0049】
(実施例11)
樹脂液Eを、インクジェットプリンタ(ブラザー工業社製、GTX pro)を用いて金属製の平板に20mm×50mmの長方形に吹き付けて、紫外線を照射することにより厚み1μmのベース層を形成した。さらに、紫外線照射により重合された樹脂層のガラス転移点が52℃となるように調整された樹脂液Gを、インクジェットプリンタを用いてベース層に付着して紫外線を照射することにより厚み20μmの表層を形成した。その後、実施例1と同様の転写シートを用いて、90℃、30秒加熱し、自然冷却後に転写シートを樹脂層から剥離して基材に長方形の塗りつぶし画像を形成した。
【0050】
(実施例12)
転写シートに対する加熱温度を250℃としたほかは、実施例11と同様にして画像を形成した。
【0051】
(実施例13)
樹脂液Eを、インクジェットプリンタ(ブラザー工業社製、GTX pro)を用いてポリカーボネート(Tg=150℃)製の平板に20mm×50mmの長方形に吹き付けて、紫外線を照射することにより厚み1μmのベース層を形成した。さらに、樹脂液Gを、インクジェットプリンタを用いてベース層に付着して紫外線を照射することにより厚み20μmの表層を形成した。その後、実施例1と同様の転写シートを用いて、160℃、30秒加熱し、自然冷却後に転写シートを樹脂層から剥離して基材に長方形の塗りつぶし画像を形成した。
【0052】
(実施例14)
基材に塩化ビニル(Tg=87℃)製の平板を用いたほかは、実施例7と同様にして画像を形成した。
【0053】
(実施例15)
樹脂液Cを、インクジェットプリンタ(ブラザー工業社製、GTX pro)を用いてベース層に付着して紫外線を照射することにより厚み10μmの表層を形成したほかは、実施例7と同様にして画像を形成した。
【0054】
(実施例16)
樹脂液Cを、インクジェットプリンタ(ブラザー工業社製、GTX pro)を用いて平板形状のガラスに20mm×50mmの長方形に吹き付けて、紫外線を照射することにより厚み10μmのベース層を形成した。さらに、樹脂液Dを、インクジェットプリンタを用いてベース層に付着して紫外線を照射することにより厚み10μmの表層を形成した。その後、実施例1と同様にして、転写シートを用いて画像を形成した。
【0055】
(実施例17)
樹脂液Fを、インクジェットプリンタ(ブラザー工業社製、GTX pro)を用いて平板形状のガラスに20mm×50mmの長方形に吹き付けて、紫外線を照射することにより厚み3μmのベース層を形成した。さらに、樹脂液Cを、インクジェットプリンタを用いてベース層に付着して紫外線を照射することにより厚み3μmの中間層を形成した。さらに、樹脂液Dを、インクジェットプリンタを用いて中間層に付着して紫外線を照射することにより厚み10μmの表層を形成した。その後、実施例1と同様にして、転写シートを用いて画像を形成した。
【0056】
(比較例1)
樹脂液Bにマゼンタ顔料(PR122)をさらに含む樹脂液を、インクジェットプリンタ(ブラザー工業社製、GTX pro)を用いてガラス製の平板に20mm×50mmの長方形に吹き付けて、紫外線を照射することにより長方形の塗りつぶし画像を形成した。
【0057】
(比較例2)
樹脂層の厚みを100μmとしたほかは、比較例1と同様にして画像を形成した。
【0058】
(比較例3)
ガラス製の平板に、インクジェットプリンタ(ブラザー工業社製、GTX pro)を用いて昇華転写用インクを20mm×50mmの長方形に直接吹き付けて昇華させることにより塗りつぶし画像を形成した。昇華条件は、200℃、30秒とした。すなわち、転写シートを用いた昇華転写を行っていない。
【0059】
(比較例4)
樹脂液Fを、インクジェットプリンタ(ブラザー工業社製、GTX pro)を用いてガラス製の平板に20mm×50mmの長方形に吹き付けて、紫外線を照射することにより厚み5μmのベース層を形成した。さらに、樹脂液Bを、インクジェットプリンタを用いてベース層に吹き付けて、紫外線を照射することにより厚み20μmの表層を形成した。表層に対して、インクジェットプリンタを用いて昇華転写用インクを直接吹き付けて昇華させることにより塗りつぶし画像を形成した。昇華条件は、200℃、30秒とした。すなわち、転写シートを用いた昇華転写を行っていない。
【0060】
[発色試験]
形成された画像中の3箇所の光学濃度(OD値)を、X-Rite社製の分光測色計SpectoroEye(光源:D50、視野角:2°、ANSI-T)により測定し、平均値を求め、以下の評価基準により評価した。
AA:2.0以上
A:1.5以上2.0未満
B:1.0以上1.5未満
C:1.5未満または発色しない
【0061】
[滲み試験]
形成された画像に滲むがあるかを下記の評価基準で目視判定した。
A:滲みがまったくない
B:滲みが少しある
C:滲みがある
【0062】
[剥離性試験]
転写シートを用いて画像形成したときの転写シートの剥離性を以下の基準で評価した。
AA:容易に剥離できる
A:樹脂層にやや剥離跡が残る
B:樹脂層に剥離跡が多く残る
C:剥離できない
【0063】
[密着性試験]
セロハンテープ(ニチバン製CT-12)を樹脂層の表面にしっかり粘着し、一気に引き剥がしたときの樹脂層の残存率を、以下の基準で目し判定した。
AA:樹脂層の90%以上が残存した
A:樹脂層の70%以上が残存した
B:樹脂層の50%以上が残存した
C:樹脂層の残存が50%未満であった
【0064】
[質感試験]
画像を形成した基材の質感の有無を目視判定した。
○:基材の質感が残っている
×:基材の質感が残っていない
【0065】
[基材色の隠蔽試験]
画像を形成した基材の色が隠蔽されているかを目視判定した。
【0066】
[発色試験評価]
表1から表3に示されるように、実施例1~17は、比較例1,4に対して発色が優れていることがわかる。樹脂層の厚みの合計が16μm以上である実施例2,4,8~10、13,16,17では、評価がA以上であり発色が優れている。
【0067】
[滲み試験評価]
基材の素材が、ガラス、金属、ポリカーボネート(Tg=150℃)である実施例1から13、15~17は、基材の素材が塩化ビニル(Tg=87℃)である実施例14に比べて滲みが少ないことがわかる。
【0068】
[剥離性試験評価]
表層のガラス転移点(Tg)が38℃以上の実施例1,5~17は、表層のガラス転移点(Tg)が27℃である実施例2~4に比べて、転写シートの剥離性に優れていることがわかる。表層のガラス転移点が高ければ、表層が固く、粘着力が低くなるために、転写シートの剥離性に優れると考えられる。表層のガラス転移点が低ければ、表層が柔らかく、粘着力が高くなるために、転写シートの剥離性が劣ると考えられる。
【0069】
[密着性試験評価]
樹脂層が二層または三層である実施例6~17のうち、ベース層のガラス転移点が表層のガラス転移点よりも低い実施例6~15、17は、ベース層のガラス転移点が表層のガラス転移点よりも高い実施例16と比べて、基材への樹脂層の密着性に優れていることがわかる。紫外線照射により重合される樹脂層は、重合により収縮するために内部応力が発生している状態となる。樹脂層の厚みが増すと、この内部応力が大きくなるために、密着性に劣るものと考えられる。また、ベース層のガラス転移点が表層のガラス転移点よりも高いと、ガラス転移点と相関関係がある架橋密度が上がり、その結果、密着性に劣るものと考えられる。
【0070】
[質感試験評価]
樹脂層の厚みの合計が10μm~50μmである実施例1~17は、樹脂層の厚みの合計が100μmである比較例2と比べて、基材の質感が保持されていることがわかる。また、実施例1~17では、基材に対して樹脂層がインクジェットヘッドにより選択的に吹き付けられて形成されるので、従来の粉体塗装などと比較して装置が小型化される。また、基材に対して選択的に樹脂層を形成できるので、基材の質感を残すことができる。また、必要な箇所にのみ樹脂液が効率的に使用される。
【0071】
[基材色の隠避試験評価]
樹脂層を形成する樹脂液が顔料を含む実施例5、15~17は、基材色を隠避することがわかる。基材色が隠避されることにより、濃色な基材に対して、画像を形成したい箇所にのみ樹脂層を形成して、画像を昇華転写できる。また、実施例5、15~17のうち、表層を形成する樹脂液に顔料を含まない実施例16、17は、表層を形成する樹脂液に顔料を含む実施例5、15と比べて、発色が優れていることがわかる。
【0072】
【表1】

【表2】

【表3】