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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025025633
(43)【公開日】2025-02-21
(54)【発明の名称】回転電機及びその回転子
(51)【国際特許分類】
   H02K 1/2783 20220101AFI20250214BHJP
【FI】
H02K1/2783
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023130552
(22)【出願日】2023-08-10
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 誠
(72)【発明者】
【氏名】須藤 哲也
【テーマコード(参考)】
5H622
【Fターム(参考)】
5H622CB02
5H622PP03
5H622PP10
(57)【要約】
【課題】
本発明の目的は、トルクを向上可能な回転子コア構造を有する回転子を提供することにある。
【解決手段】
本発明の回転子は、回転子コア31が分割コア311の集合体で構成される。分割コア311は、主極磁石321を挿入する主極磁石スロット312と、主極磁石スロット312に対して固定子2の側のd軸コア部311aと、主極磁石スロット312に対してd軸コア部311aとは逆側のバックヨーク311bと、を備える。ハウジング33は径方向内方に向かって突出する突出部332を備える。突出部332を含むハウジング33は非磁性の素材で構成される。隣接する2つの分割コア311及び突出部332は、スポーク磁石322を格納するスポーク磁石スロット313を構成する。分割コア311とハウジング33とは、バックヨーク311bと突出部332とのダブテール構造により結合される。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁石と、前記磁石が挿入される回転子コアと、前記回転子コアを固定するハウジングと、を備え、
前記磁石は、着磁方向が径方向を向く主極磁石と、着磁方向が周方向を向くスポーク磁石と、により構成され、
前記回転子コアは、分割コアの集合体で構成され、
前記分割コアは、前記主極磁石を挿入する主極磁石スロットと、前記主極磁石スロットに対して固定子の側に配置されたd軸コア部と、前記主極磁石スロットに対して前記d軸コア部とは逆側に配置されたバックヨークと、を備える回転電機の回転子において、
前記ハウジングは、前記分割コアの側に向かって突出する突出部を備え、
前記突出部を含む前記ハウジングは、非磁性の素材で構成され、
隣接する2つの前記分割コア及び前記突出部は、前記スポーク磁石を格納するスポーク磁石スロットを構成し、
前記分割コアと前記ハウジングとは、前記バックヨークと前記バックヨークに隣接する2つの前記突出部とのダブテール構造により結合されることを特徴とする回転電機の回転子。
【請求項2】
請求項1に記載の回転電機の回転子において、
前記バックヨークは、前記主極磁石の磁束を隣接する前記スポーク磁石に誘導する磁気回路を構成することを特徴とする回転電機の回転子。
【請求項3】
請求項1に記載の回転電機の回転子において、
前記ハウジングの前記突出部は、前記分割コアの側に向かうに連れて周方向における幅が拡がるテーパー面を有するハウジング側テーパー部を有し、
前記分割コアの前記バックヨークは、前記ハウジングの側に向かうに連れて周方向における幅が拡がるテーパー面を有する分割コア側テーパー部を有し、
前記分割コアと前記ハウジングとは、前記分割コア側テーパー部のテーパー面と前記ハウジング側テーパー部のテーパー面とが圧着されて結合されることを特徴とする回転電機の回転子。
【請求項4】
請求項2に記載の回転電機の回転子において、
前記主極磁石スロットと前記スポーク磁石スロットとの間にはブリッジ部が設けられ、
前記主極磁石スロットは、前記主極磁石に対して周方向における両側方に配置された2つのブリッジ部と、前記d軸コア部と、前記バックヨークとを用いて構成され、
前記スポーク磁石スロットは、隣接する2つの前記分割コアの2つの前記ブリッジ部、及び2つの前記バックヨークと、前記ハウジングの前記突出部とを用いて構成されることを特徴とする回転電機の回転子。
【請求項5】
請求項4に記載の回転電機の回転子において、
前記スポーク磁石スロットは、隣接する2つの分割コアの2つの前記d軸コア部を含んで構成されることを特徴とする回転電機の回転子。
【請求項6】
請求項5に記載の回転電機の回転子において、
前記d軸コア部は、径方向において固定子の側に位置する端部に、周方向に突出するd軸コア突出部を有し、
前記d軸コア突出部は、隣接する前記分割コアのd軸コア突出部と離間するように設けられることを特徴とする回転電機の回転子。
【請求項7】
請求項4に記載の回転電機の回転子において、
前記バックヨークの径方向幅をL1、前記ブリッジ部の周方向幅をL2、前記ブリッジ部の径方向幅をL3とすると、
L2 < L1 < L3
であることを特徴とする回転電機の回転子。
【請求項8】
請求項1に記載の回転電機の回転子において、
前記ハウジングは、前記分割コアの前記バックヨークと対向する外周面に、内周側に向かって窪む窪みが設けられ、
前記窪みは、樹脂がモールドされていることを特徴とする回転電機の回転子。
【請求項9】
請求項1に記載の回転電機の回転子において、
前記ハウジングは、前記分割コアの前記バックヨークと対向する外周面に、内周側に向かって窪む窪みが設けられ、
前記窪みは、ピンが挿入されていることを特徴とする回転電機の回転子。
【請求項10】
請求項1に記載された回転電機の回転子において、
前記ハウジングは、2つの前記突出部の間に前記バックヨークを収容する凹部を有し、
前記凹部の底面は、2つの前記突出部の間に位置して、前記バックヨークの内周側面と対向する前記ハウジングの外周面で構成され、
前記凹部は、前記底面と前記バックヨークの内周側面との間に、隙間が形成されるように構成されることを特徴とする回転電機の回転子。
【請求項11】
請求項10に記載の回転電機の回転子において、
前記隙間には接着剤、または前記バックヨークを径方向に押す力を生じる発泡材が収容されていることを特徴とする回転電機の回転子。
【請求項12】
回転子と、前記回転子に所定のギャップを介して対向する固定子と、を備える回転電機において、
前記回転子として請求項1に記載の回転子を備えたことを特徴とする回転電機。
【請求項13】
請求項12に記載の回転電機において、
前記固定子のスロットの数をコイルの相数と前記回転子の極数で除した数、すなわち毎極毎相スロット数が分数となるような分数スロットであり、
前記スロットに挿入されるコイルは、同相のコイルが隣接するスロットを少なくとも2つ以上連続して跨ぐことで回転磁界を構成する分数スロット集中巻であることを特徴とする回転電機。
【請求項14】
回転電機と、バッテリと、前記バッテリの直流電力を交流電力に変換して、交流電力を前記回転電機に供給する電力変換装置と、を備えた車両において、
前記回転電機は、請求項1に記載の回転電機の回転子を備えたことを特徴とする車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転電機及びその回転子に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、磁石と磁石が挿入される磁石孔が形成される回転子コアとを備える回転子と、回転子に所定のギャップを介して対向する固定子と、を備える回転電機が記載されている。磁石は、主面が回転電機の径方向に対向する主極磁石と、主面が回転電機の周方向に対向するスポーク磁石と、により構成される。回転子コアは、ギャップと主極磁石との間に形成されるd軸コアと、主極磁石とスポーク磁石との間に形成される磁石間ブリッジと、固定子に対向するギャップ面と、ギャップ面の径方向反対側に位置する反ギャップ面と、を有し、ギャップ面とスポーク磁石の反ギャップ面側の端部との間の長さが、ギャップ面と主極磁石の反ギャップ面側の端部との間の長さ以上となるように形成される(要約参照)。回転子コアのうち、主極磁石よりも径方向ギャップ側の領域をd軸コアと呼ぶのに対して、ギャップとは径方向逆側に位置している領域をバックヨークと呼び、このバックヨークは主極磁石及びスポーク磁石の反ギャップ面側において周方向につながった形状を成している(段落0019及び図3(a),3(b)参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2023/286606号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1における主極磁石とスポーク磁石との配置は、ハルバッハ配列と呼ばれる。主極磁石とスポーク磁石とをハルバッハ配列で構成した回転子では、例えばS極から入った磁束は、主極磁石を通った後に、バックヨーク、スポーク磁石、N極側のバックヨーク、N極側の主極磁石を順に通過する。この回転子構造では、主極磁石に対して反ギャップ面側のバックヨークはトルク発生に必要な磁束の通り道であり、磁気回路として必要な構成要素であるのに対して、スポーク磁石に対して反ギャップ面側のバックヨークはトルク発生には不必要な磁束の通り道であるばかりでなく、スポーク磁石のS極とN極とを短絡して漏れ磁束の流れる磁気回路を形成する。このため、スポーク磁石に対して反ギャップ面側のバックヨークは、トルクの向上を阻害する要因となり得る。
【0005】
本発明の目的は、トルクを向上可能な回転子コア構造を有する回転子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の回転電機は、
磁石と、前記磁石が挿入される回転子コアと、前記回転子コアを固定するハウジングと、を備え、
前記磁石は、着磁方向が径方向を向く主極磁石と、着磁方向が周方向を向くスポーク磁石と、により構成され、
前記回転子コアは、分割コアの集合体で構成され、
前記分割コアは、前記主極磁石を挿入する主極磁石スロットと、前記主極磁石スロットに対して固定子の側に配置されたd軸コア部と、前記主極磁石スロットに対して前記d軸コア部とは逆側に配置されたバックヨークと、を備える回転電機の回転子において、
前記ハウジングは、前記分割コアの側に向かって突出する突出部を備え、
前記突出部を含む前記ハウジングは、非磁性の素材で構成され、
隣接する2つの前記分割コア及び前記突出部は、前記スポーク磁石を格納するスポーク磁石スロットを構成し、
前記分割コアと前記ハウジングとは、前記バックヨークと前記バックヨークに隣接する2つの前記突出部とのダブテール構造により結合される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、トルクを向上可能な回転子コア構造を有する回転子を提供することができる。
上記した以外の課題、構成および効果は、以下の発明を実施するための形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の一実施例に係る回転電機の分解立体図である。
図2】本発明の一実施例に係る回転子を軸方向から見た平面図である。
図3図2に示す回転子3のIII部の拡大平面図である。
図4】本発明との比較例に係る回転子の課題を説明する図である。
図5図3の分割コアの変更例(第1変更例)を示す拡大平面図である。
図6A図3の分割コアの変更例(第2変更例)を示す拡大平面図である。
図6B図3の分割コアの変更例(第2変更例)の部分拡大図である。
図7図3の分割コアの変更例(第3変更例)を示す拡大平面図である。
図8】本発明に係る回転子を用いて分数スロット集中巻きの回転電機を構成した場合の回転子及び固定子の一部を示す平面図である。
図9】本発明に係る回転子を用いて分数スロット集中巻きの回転電機を構成した場合の利点を説明する図である。
図10】本発明の一実施例に係る回転電機を採用したxEVの構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施例について説明する。各実施例および各図において、同様な構成には同じ符号を付し、同様な説明の重複を避ける。また同じ符号を付した構成について差異がある場合は、その差異を説明する。
【0010】
[実施例1]
図1を用いて、本発明の一実施例に係る回転電機1について、説明する。図1は、本発明の一実施例に係る回転電機1の分解立体図である。
【0011】
回転電機1は、主な構成部品として、固定子2と、回転子3と、を備える。固定子2は固定子コア21を有し、回転子3は回転子コア31を有する。本実施例の固定子2と回転子3とは、回転子コア31の外周面が固定子コア21の内周面と対向するように配置される。固定子2と回転子3とは互いに接触しないように配置され、固定子2と回転子3との間にはギャップ(エアギャップ)が設けられる。回転電機1は、その他の構成部品として、エンドブラケット4と、電力変換装置5と、を備えていてもよい。
【0012】
本実施例の回転電機1は、回転子3が固定子コア21の内周側に配置されるインナーローター構造であるが、回転子3が固定子コア21の外周側に配置されるアウターローター構造であってもよい。
【0013】
固定子2は、コアシートを複数枚積層して構成された固定子コア21と、固定子コア21に巻回されたコイル213と、を有する。固定子コア21は、円環状の固定子バックヨーク211と、固定子バックヨーク211に接続され、かつ径方向のギャップ側に複数設けられたティース212と、ティース間に形成されるスロットと、を有する。固定子コア21は、一体成形されたソリッド部材で構成しても良い。また、圧粉磁心などの粉末磁性体を圧縮成型した構成でも良いし、アモルファス金属やナノ結晶材で構成しても良い。
【0014】
コイル213はティース212とスロットを取り巻くように巻装されている。コイル213は、スロットの中に挿入されたスロット内コイルと、位置が異なるスロット間を渡るコイルエンドと、外部回路から電流を入力したり、位置が異なるコイルどうしを接続したりするための引出線と、から成る。コイル213はギャップに回転磁界を発生させるために、例えば、U相、V相、W相のコイルが配置されている。3相のコイル同士は、入力される電流基本波成分の位相が120°ずつ異なっており、これにより、ギャップには回転磁界が発生する。この回転磁界により回転子3は回転駆動される。
【0015】
電力変換装置5は、スイッチング動作を行い、図示しないバッテリまたは直流電源から供給される直流電力を3相交流電力に変換する。この3相交流電力は固定子2の図示しない固定子巻線に供給され、固定子2には回転磁界が発生する。なお、図1では、電力変換装置5はエンドブラケット4の内部に収納されて回転電機1と一体なっているが、電力変換装置5の位置は任意であり、回転電機1と一体でなく別体であってもよい。また、回転電機1がエンドブラケット4を備えるか否かは任意であり、回転電機1はエンドブラケット4を有さなくてもよい。
【0016】
図1では図示していないが、回転子3には回転軸が設けられる。図1の一点鎖線1aは、回転軸の軸心とその延長線を表す。すなわち一点鎖線1aは、回転軸を含む回転子3の回転軸心と一致する。回転子3と固定子2とは同一の中心軸を有し、回転子3の中心軸は回転軸心1aと一致している。
【0017】
図2を用いて、本発明の一実施例に係る回転子3について説明する。図2は、本発明の一実施例に係る回転子3を軸方向Zから見た平面図である。
【0018】
以下の説明において、「径方向DR」、「周方向Dθ」および「軸方向DZ」は、図2に示すように定義される。「径方向DR」は回転軸心1aと垂直に交わる直線方向であり、回転軸心1aを中心とする放射方向である。「周方向Dθ」は回転軸心1aを中心とする周方向であり、回転軸心1aまわりの回転方向である。「軸方向DZ」は回転軸心1aに平行な直線方向であり、回転軸心1aに沿う方向である。また「内周側」および「外周側」は、回転軸心1aに対して距離の近い側が「内周側」、遠い側が「外周側」として定義される。
【0019】
回転子3は、複数の分割コア311の集合体によって構成される回転子コア31と、回転子コア31に設けられた磁石32と、複数の分割コア311が締結されるハウジング33と、を有する。回転子3は図示しない押さえ板を有しており、押さえ板は軸方向DZにおける分割コア311の一方の端面311aに対向して分割コア311をハウジング33に対して押圧する。磁石32は、着磁方向が径方向を向く主極磁石321と、着磁方向が周方向を向くスポーク磁石322と、により構成される。なお、ハウジング33に対して、分割コア311や磁石32が軸方向に飛び出さないようにするために、回転子3は押さえ板を有することが望ましいが、押さえ板は無くてもよい。
【0020】
回転子3は、回転軸心1aを中心に回転する。回転子3には図示しない回転軸が固定されていてもよく、回転電機1は固定子2および回転子3を覆うフレームを備えていてもよい。回転子3は直接、または回転軸やフレーム等の構造部材を介して負荷と接続され、回転子3が回転することで負荷に回転とトルクを伝達する。
【0021】
回転子コア31は、コアシートを複数枚積層して構成される。回転子コア31は、一体成形されたソリッド部材で構成されても良い。また回転子コア31は、圧粉磁心などの粉末磁性体を圧縮成型した構成であっても良いし、アモルファス金属やナノ結晶材で構成されても良い。
【0022】
図3を用いて、分割コア311の締結構造について説明する。図3は、図2に示す回転子3のIII部の拡大平面図である。
【0023】
回転子3は、磁石32と、磁石32が挿入される回転子コア31と、回転子コア31を固定するハウジング33と、を備える。回転子コア31は、分割コア311の集合体で構成される。磁石32は、着磁方向が径方向を向く主極磁石321と、着磁方向が周方向を向くスポーク磁石322と、により構成される。
【0024】
ハウジング33は図示しない回転軸に固定され、分割コア311が締結される。ハウジング33は、外周面311に、分割コア311の側(本実施例では外周側)に向かって突出する突出部(ハウジング側突出部)332を有する。ハウジング33の突出部332は、分割コア311の側に向かうに連れて周方向における幅が拡がるテーパー面332bを有するハウジング側テーパー部332aを有する。突出部332を含むハウジング33は非磁性の材料で形成される。
【0025】
本実施例では、突出部332はハウジング側テーパー部332aとして構成されている。突出部332の全体がハウジング側テーパー部332aを構成しており、周方向における突出部332の両側面がテーパー面332bで構成されている。
【0026】
ハウジング33は、2つの突出部332の間にバックヨーク311aを収容する凹部(バックヨーク収容部)333を有する。凹部333の底面333aは、2つの突出部332の間に位置してバックヨーク311aの内周側の面311dと対向するハウジング33の外周面33aで構成される。
【0027】
分割コア311は、主極磁石322を挿入する主極磁石スロット312と、主極磁石スロット312に対して固定子2の側に配置されたd軸コア部311aと、主極磁石スロット312に対してd軸コア部311aとは逆側に配置されたバックヨーク311bと、を備える。
【0028】
分割コア311のバックヨーク311bは、ハウジング33の側(本実施例では内周側)に向かうに連れて周方向における幅が拡がるテーパー面311b2を有する分割コア側テーパー部311b1を有する。バックヨーク311bの全体が分割コア側テーパー部311b1を構成しており、周方向におけるバックヨーク311bの両側面がテーパー面332bで構成されている。
【0029】
分割コア311は主極磁石スロット312を有する。主極磁石スロット312は分割コア311単体で構成される。より具体的には、主極磁石スロット312とスポーク磁石スロット313との間にはブリッジ部311cが設けられており、主極磁石スロット312は、主極磁石321に対して周方向における両側方に配置された2つのブリッジ部211cと、d軸コア211aと、バックヨーク311bとを用いて構成される。
【0030】
これに対してスポーク磁石322を格納するスポーク磁石スロット313は、少なくとも、隣接する2つの分割コア311及びハウジング33の突出部332を用いて構成される。より具体的には、スポーク磁石スロット313は、隣接する2つの分割コア311の2つのブリッジ部311c及び2つのバックヨーク311bと、ハウジング33の突出部332とを用いて構成される。この場合、スポーク磁石スロット313は、隣接する2つの分割コア311の2つのd軸コア部311aを含んで構成されることが好ましい。すなわちスポーク磁石スロット313は、径方向において、2つのブリッジ部311cとd軸コア部とに跨る範囲に構成される。
【0031】
d軸コア部は、径方向において固定子2の側に位置する端部311dに、周方向に突出するd軸コア突出部311eを有する。d軸コア突出部311eは、隣接する分割コア311のd軸コア突出部311eと離間するように設けられる。
【0032】
分割コア311のバックヨーク311bは、主極磁石321の磁束を隣接するスポーク磁石322に誘導する磁気回路を構成する。バックヨーク311bの径方向幅をL1、ブリッジ部311cの周方向幅をL2、ブリッジ部311cの径方向幅をL3とすると、L1、L2及びL3は、L2 < L1 < L3の関係を有することが好ましい。
【0033】
バックヨーク311bの周方向における両側面を構成するテーパー面311b2は、ブリッジ部311cに対して、周方向において突出した位置にある。バックヨーク311bは、隣り合う2つの分割コア311のそれぞれに設けられたテーパー面311b2が、周方向において離間した位置にあるように、構成される。そして隣り合う2つのテーパー面311b2の間にハウジング33の突出部332が介在するように、分割コア311とハウジング33とが締結される。
【0034】
分割コア311とハウジング33とは、バックヨーク311bとバックヨーク311bに隣接する2つの突出部332とのダブテール構造により結合される。すなわち分割コア311とハウジング33とは、分割コア側テーパー部311b1のテーパー面311b2とハウジング側テーパー部332aのテーパー面332bとが圧着されて結合される。
【0035】
上述したように、本実施例の回転電機の回転子3は、下記特徴を有する。
(1)磁石32と、磁石32が挿入される回転子コア31と、回転子コア31を固定するハウジング33と、を備え、
磁石32は、着磁方向が径方向を向く主極磁石321と、着磁方向が周方向を向くスポーク磁石322と、により構成され、
回転子コア31は、分割コア311の集合体で構成され、
分割コア311は、主極磁石321を挿入する主極磁石スロット312と、主極磁石スロット312に対して固定子2の側に配置されたd軸コア部311aと、主極磁石スロット312に対してd軸コア部311aとは逆側に配置されたバックヨーク311bと、を備える回転電機1の回転子3において、
ハウジング33は、径方向内方に向かって突出する突出部332を備え、
突出部332を含むハウジング33は、非磁性の素材で構成され、
隣接する2つの分割コア311及び突出部332は、スポーク磁石322を格納するスポーク磁石スロット313を構成し、
分割コア311とハウジング33とは、バックヨーク311bとバックヨーク311bに隣接する2つの突出部332とのダブテール構造により結合される。
図3において、バックヨーク311bの周方向の側面311b2が、分割コア311をハウジング33と固定するためのダブテール構造を兼ねる。図4を用いて、本実施例におけるダブテール構造の効果を説明する。図4は、本発明との比較例に係る回転子の課題を説明する図である。
図4の比較例では、スポーク磁石322に対して固定子2とは逆側(反ギャップ面側)にもバックヨーク311b’が設けられており、このバックヨーク311b’がスポーク磁石のN極とS極とを短絡する磁気回路を形成し、N極とS極との間に漏れ磁束Φ2が流れる。このため、スポーク磁石に対して反ギャップ面側のバックヨーク311b’は、トルクの向上を阻害する要因となり得る。すなわちバックヨーク311b’は、トルクのトルク発生には不必要の部分である。
本実施例では、バックヨーク311b’を取り除くことにより漏れ磁束Φ2の流れる磁気回路部分をなくし、回転子コア31における磁気特性を向上することで、回転電機1が発生するトルコを向上することができる。また、バックヨーク311b’を取り除くことにより回転子コア31を軽量化することができ、回転電機1の出力密度を向上することができる。また、分割コア311にダブテール構造を実現するための構造物を付加する場合、分割コア311の質量が増加し、回転電機1の出力密度が低下する。本実施例では、バックヨーク311b’の部分をダブテール構造に利用することで、分割コア311にダブテール構造を実現するための構造物を付加する必要がなく、回転電機1の出力密度を低下させることがない。これにより従来構造における、分割コア311とハウジング33との堅牢な固定と、回転電機1の出力密度とのトレードオフの関係が解消され、回転電機1の出力密度を向上させることができる。
【0036】
(2)バックヨーク311bは、主極磁石321の磁束Φ1を隣接するスポーク磁石322に誘導する磁気回路を構成する。本実施例では、トルクを発生させる磁束Φ1は、下記のように流れる。
S極のd軸コア部311a→S極の主極磁石321→バックヨーク311b→ブリッジ311c→スポーク磁石322→ブリッジ311c→バックヨーク311b→N極の主極磁石321→N極のd軸コア部311a
このような磁気回路においては、磁束Φ1の流れを阻害することのないように、バックヨーク311b及びブリッジ311cの寸法関係を適切にする必要がある。これについては後述する。
【0037】
(3)ハウジング33の突出部332は、分割コア311の側に向かうに連れて周方向における幅が拡がるテーパー面332bを有するハウジング側テーパー部332aを有し、
分割コア311のバックヨーク311bは、ハウジング33の側に向かうに連れて周方向における幅が拡がるテーパー面311b2を有する分割コア側テーパー部311b1を有し、
分割コア311とハウジング33とは、分割コア側テーパー部311b1のテーパー面311b2とハウジング側テーパー部332aのテーパー面332bとが圧着されて結合される。
これにより、ダブテール構造が実現される。
【0038】
(4)主極磁石スロット312とスポーク磁石スロット313との間にはブリッジ部311cが設けられ、
主極磁石スロット312は、主極磁石321に対して周方向における両側方に配置された2つのブリッジ部311cと、d軸コア部311aと、バックヨーク311bとを用いて構成され、
スポーク磁石スロット313は、隣接する2つの分割コア311の2つのブリッジ部311c、及び2つのバックヨーク311bと、ハウジング33の突出部332とを用いて構成される。
【0039】
(5)スポーク磁石スロット313は、隣接する2つの分割コア311の2つのd軸コア部311aを含んで構成される。
【0040】
(6)d軸コア部311aは、径方向において固定子2の側に位置する端部311dに、周方向に突出するd軸コア突出部311eを有し、
d軸コア突出部311eは、隣接する分割コア311のd軸コア突出部311eと離間するように設けられる。
d軸コア突出部311eがあることでスポーク磁石322が遠心力や磁気吸引力によって固定子2側に飛び出すことを防ぐことができる。これによって回転子3の堅牢性が向上する。また、隣接する2つの分割コア311のd軸コア突出部311eが離間していることで、d軸コア突出部311eを介して短絡する漏れ磁束を減らすことができ、これにより回転電機1のトルクが向上する。
【0041】
(7)バックヨーク311bの径方向幅をL1、ブリッジ部311cの周方向幅をL2、ブリッジ部311cの径方向幅をL3とすると、L2 < L1 < L3である。
スポーク磁石322からバックヨーク311bに流れる(または、バックヨーク311bからスポーク磁石322に流れる)磁束量は、L1~L3の寸法関係で決まる。L1がL2より小さい(L1 < L2)と、バックヨーク311bが磁気飽和し、主極磁石の磁束を有効に利用することができなくなる。このため、L2 < L1 とすることでトルクの向上を図ることができる。
また、バックヨーク311bに流れる磁束量は最大でも、スポーク磁石322内の磁束密度とL3と積厚との積よりは多くはならない。磁石内の磁束密度は一般に2T(テスラ)を超えないため、L1をL3よりも小さく(L1 < L3)しても、バックヨーク311bが磁気飽和しない範囲で回転電機1を駆動させることができる。一方で、L1 > L3とすると、バックヨーク311bの径方向幅の増分に対してトルクの増分が少ないため、トルク密度は低下する。
以上より、L2 < L1 < L3とすることで、回転電機1のトルク密度を向上することができ、出力密度を向上させることができる。
【0042】
[変更例1]
図5を用いて、回転子コア31の変更例(第1変更例)について説明する。図5は、図3の分割コア311の変更例(第1変更例)を示す拡大平面図である。
【0043】
本例では、ハウジング33は、分割コア311のバックヨーク311bと対向する外周面33aに、内周側に向かって窪むくぼみ(樹脂モールド穴)51が設けられる。くぼみ51には樹脂52がモールドされている。
【0044】
ハウジング33と分割コア311を組み立てると、くぼみ51は軸方向に伸びる穴となる。この穴51に樹脂52をモールドすることで、分割コア311とハウジング33とのクリアランスを樹脂52により埋めることができる。これにより、分割コア311は樹脂モールドにより隙間なくハウジング33に固定されるため、回転子3の堅牢性が向上する。更に、分割コア311がハウジング33に対してがたつくことがなくなるため、振動や騒音を抑制することができる。
【0045】
また、あらかじめ分割コア311の公差を考慮して、分割コア311とハウジング33とを緩く締結しても(クリアランスが大きい場合でも)モールドした樹脂52で分割コア311をハウジング33に対して固定することができる。これにより、量産性が向上する。
【0046】
(8)上述したように本例の回転子3では、ハウジング33は、分割コア311のバックヨーク311bと対向する外周面33aに、内周側に向かって窪む窪み51が設けられ、窪みは樹脂52がモールドされている。
【0047】
[変更例2]
図6Aを用いて、回転子コア31の変更例(第2変更例)について説明する。図6Aは、図3の分割コア311の変更例(第2変更例)を示す拡大平面図である。
【0048】
本例では、ハウジング33は、分割コア311のバックヨーク311bと対向する外周面33aに、内周側に向かって窪むくぼみ(ピン挿入穴)53が設けられる。くぼみ53にはピン54が挿入されている。本例は第1変更例に対して、樹脂52をピン54に変更したものであり、分割コア311のハウジング33に対する固定は、ピン54で行ってもよい。
【0049】
(9)すなわち本例の回転子3では、ハウジング33は、分割コア311のバックヨーク311bと対向する外周面33aに、内周側に向かって窪む窪み53が設けられ、窪み53はピン54が挿入されている。
【0050】
これにより、分割コア311がハウジング33に対してすきまばめであっても、ピン54によって分割コア311はハウジング33に対して径方向に押されるような力を受ける。これにより、分割コア311のバックヨーク311bの周方向における両側面を構成するテーパー面311b2と、ハウジング33の周方向における突出部332のテーパー面332bが接触し、分割コア311はハウジング33に対してがたつくことがなく固定されるため、回転子3の堅牢性が向上し、振動や騒音を抑制することができる。
【0051】
図6Bに、図6Aの分割コア311とハウジング33のテーパー面の部分拡大図を示す。分割コア311がハウジング33に対してすきまばめされている場合、テーパー角をθとし、分割コア311とハウジング33の間の周方向寸法差(クリアランス)をΔc(片側はΔcの半分)とすると、分割コア311とハウジング33の間の径方向クリアランスは、
Δc/2×(1/tanθ)
となる。すなわちθがtan^-1(0.5)≒26.56より大きい場合、径方向クリアランスは周方向クリアランス以下になる。分割コア311の径方向(のクリアランスに起因する)寸法バラツキは、固定子2と、回転子3との間のギャップ長のバラツキとなるため、小さい方がよい。したがって、本例の構成とし、かつθ≧26.56とすることで、ギャップ長のバラツキを小さくすることができ、回転電機1の特性が安定し、量産性を向上できる。
【0052】
[変更例3]
図7を用いて、回転子コア31の変更例(第3変更例)について説明する。図7は、図3の分割コアの変更例(第3変更例)を示す拡大平面図である。
【0053】
本例では、
ハウジング33は、2つの突出部の間にバックヨーク311bを収容する凹部(バックヨーク収容部)333を有する。凹部333の底面333aは、2つの突出部332の間に位置して、バックヨーク311bの内周側面311fと対向するハウジング33の外周面33aで構成される。凹部333は、底面333aとバックヨーク311bの内周側面311fとの間に、隙間δが形成されるように構成される。すなわち、ハウジング33の外周面33aとバックヨーク311bの内周側面311fとは接触せず、離間している。
【0054】
分割コア311がq軸上で分割されている場合、分割コア311のバックヨーク311bは周方向対称に突出する。この場合、分割コア311をハウジング33に固定、支持する際のバックヨーク311bのバネ力は、周方向均等に分割コア311にはたらく。したがって、突出部332に発生する応力は、2つの突出部332に等分され、突出部322の機械強度上の信頼性が向上する。このような構造にあって、隙間δは、分割コア311が熱膨張した場合の逃げ穴とある。これにより、分割コア311を、より堅牢に固定、支持することができる。
【0055】
(10)すなわち本例の回転子3では、
ハウジング33は、2つの突出部の間にバックヨーク311bを収容する凹部333を有し、
凹部333の底面333aは、2つの突出部332の間に位置して、バックヨーク311bの内周側面311fと対向するハウジング33の外周面33aで構成され、
凹部333は、底面333aとバックヨーク311bの内周側面311fとの間に、隙間δが形成されるように構成される。
【0056】
[変更例4]
図7を用いて、回転子コア31の変更例(第4変更例)について説明する。
【0057】
本例では、
ハウジング33は、2つの突出部の間にバックヨーク311bを収容する凹部(バックヨーク収容部)333を有する。凹部333の底面333aは、2つの突出部332の間に位置して、バックヨーク311bの内周側面311fと対向するハウジング33の外周面33aで構成される。凹部333は、底面333aとバックヨーク311bの内周側面311fとの間に、隙間δが形成されるように構成される。すなわち、ハウジング33の外周面33aとバックヨーク311bの内周側面311fとは接触せず、離間している。したがって、ハウジング33に対して分割コア311を軸方向から容易に挿入することができ組立性が向上する。隙間δには、図示しない接着剤、もしくは発泡材が収容される。接着剤、もしくは発泡材は隙間δの作る空間の一部を埋めてもよく、また空間のすべてを埋めるように充填されていてもよい。
【0058】
隙間δに接着剤が収容されることで、分割コア311はハウジング33に接着固定されるため、回転子3の堅牢性が向上する。更に、分割コア311がハウジング33に対してがたつくことがなくなるため、振動や騒音を抑制することができる。
【0059】
同様に隙間δに発泡材が収容されることで、ハウジング33と分割コア311を組み立てた後に発泡した発泡材により、分割コア311はハウジング33に対して径方向に押されるような力を受ける。これにより、分割コア311のバックヨーク311bの周方向における両側面を構成するテーパー面311b2と、ハウジング33の周方向における突出部332のテーパー面332bが接触し、分割コア311はハウジング33に対してがたつくことがなく固定されるため、回転子3の堅牢性が向上し、振動や騒音を抑制することができる。
【0060】
分割コア311がハウジング33に対してすきまばめされている場合、テーパー角をθとし、分割コア311とハウジング33の間の周方向寸法差(クリアランス)をΔc(片側はΔcの半分)とすると、分割コア311とハウジング33の間の径方向クリアランスは、
Δc/2×(1/tanθ)
となる。すなわちθがtan^-1(0.5)≒26.56より大きい場合、径方向クリアランスは周方向クリアランス以下になる。分割コア311の径方向(のクリアランスに起因する)寸法バラツキは、固定子2と、回転子3との間のギャップ長のバラツキとなるため、小さい方がよい。したがって、本例の構成とし、かつθ≧26.56とすることで、ギャップ長のバラツキを小さくすることができ、回転電機1の特性が安定し、量産性を向上できる。
【0061】
[その他]
本実施例及び変更例の回転子3は、回転電機に適用されることで、出力密度を向上することができる。
【0062】
(11)すなわち、回転子と、回転子に所定のギャップを介して対向する固定子と、を備える回転電機において、回転子として本実施例及び変更例の回転子3を備えるとよい。
【0063】
[分数スロット集中巻との組み合わせ]
図8及び図9を用いて、本実施例に係る回転子3と分数スロット集中巻との組み合わせについて説明する。図8は、本発明に係る回転子3を用いて分数スロット集中巻きの回転電機1を構成した場合の回転子3及び固定子2の一部を示す平面図である。図9は、本発明に係る回転子3を用いて分数スロット集中巻きの回転電機1を構成した場合の利点を説明する図である。なお図8及び図9では、同相のコイル213のみを図示している。
【0064】
上述した回転電機1において、固定子2のスロットの数をコイル213の相数と回転子3の極数で除した数、すなわち毎極毎相スロット数が分数となるような分数スロットとすることが好ましい。この場合、固定子2のスロットに挿入されるコイル213は、同相のコイル213が隣接するスロットを少なくとも2つ以上連続して跨ぐことで回転磁界を構成する分数スロット集中巻にするとよい。
【0065】
分数スロット集中巻の場合、ある回転子の極が対向する固定子ティースの位置(位相)と、その隣の極が対向するティースの位置(位相)とは異なる。すなわち、例えば、あるN極から隣のS極に渡る磁束の分布と、そのS極からさらに隣のN極に渡る磁束の分布とは異なる。特に、分数スロット集中巻では、隣接するスロットを連続して跨ぐ同相の複数のコイル213を1つのコイル群とみなした時、隣接する2つのコイル群の間にも、これら2つのコイル群を流れる電流に起因する磁束が生じる。このため、回転子コア31が分割されず、回転子3のバックヨーク311bがひとつながりになっている場合、前述のような極毎の磁束分布の非対称性に起因して、複数の極を跨ぐ磁束がバックヨーク311bを流れるようになる。
【0066】
この複数の極を跨いでバックヨーク311bを流れる磁束は、トルクに寄与する磁束とは異なり、トルクの脈動を生み、かつ回転子3のバックヨーク311bの鉄損を増大させるだけの磁束である。
【0067】
本実施例の構成では、回転子コア31を分割コア311で構成することで、分割部311jでこの複数の極を跨いでバックヨーク311A2を流れる磁束に対する磁気抵抗を上げることができ、この磁束Φ3を低減することができる。
【0068】
前述の通り、本実施例の分割部311jは主磁束の磁路とは独立しているため、本実施例の分割コア311を分数スロット集中巻に適用することで、トルクや出力などの回転電機1の基本性能を低下させることなく、複数の極を跨いでバックヨーク311A2を流れる磁束Φ3に起因して発生していたトルク脈動や、回転子3のバックヨーク311A2に発生していた鉄損を低減することができる。これにより、回転電機1の静粛性を向上することができ、回転電機1の効率を向上させることができる。
【0069】
(12)すなわち本例の回転電機1は、
固定子2のスロット214の数をコイルの相数と回転子3の極数で除した数、すなわち毎極毎相スロット数が分数となるような分数スロットであり、
スロット214に挿入されるコイル213は、同相のコイル213が隣接するスロット214を少なくとも2つ以上連続して跨ぐことで回転磁界を構成する分数スロット集中巻である。
【0070】
[車両の実施例]
図10を用いて、本発明に係る回転電機1を車両(xEV)に搭載した実施例を説明する。図10は、本発明の一実施例に係る回転電機1を採用したxEV100の構成を示す図である。
【0071】
駆動モータとしての回転電機1は、支持部材102により、台車101に固定支持されている。回転電機1の回転子は車軸106と連結し、回転電機1は車軸106を介して車輪103を駆動する。車両100は、回転電機1と、バッテリ105と、バッテリ105の直流電力を交流電力に変換して、交流電力を回転電機1に供給する電力変換装置107と、を備えている。
【0072】
本実施例のxEVでは、本実施例の回転電機1を備えることで、コイル11のスロット内占積率の向上と損失低減と簡易なコイル放熱構造とを実現でき、駆動モータの高出力密度化が図られる。これにより高トルクが得られると共に、コストパフォーマンスに優れたxEVが提供される。
【0073】
(13)本例の車両100は、回転電機と、バッテリ105と、バッテリ105の直流電力を交流電力に変換して、交流電力を回転電機1に供給する電力変換装置107と、を備えた車両において、
回転電機として上述した実施例及び変更例に記載の回転電機1の回転子3を備える。
【0074】
なお、本発明は上記した各実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0075】
1…回転電機、2…固定子、3…回転子、31…回転子コア、32…磁石、33…ハウジング、33a…ハウジング33の外周面、51…くぼみ、52…樹脂、53…くぼみ、54…ピン、100…車両、105…バッテリ、107…電力変換装置、213…コイル、214…固定子2のスロット、311…分割コア、311a…d軸コア部、311b…バックヨーク、311b1…分割コア側テーパー部、311b2…分割コア側テーパー部311b1のテーパー面、311c…ブリッジ部、311d…径方向において固定子2の側に位置するd軸コア部311aの端部、311e…周方向に突出するd軸コア突出部、311f…バックヨーク311bの内周側面、312…主極磁石スロット、313…スポーク磁石スロット、321…主極磁石、322…スポーク磁石、332…突出部、332a…ハウジング側テーパー部、332b…ハウジング側テーパー部332aのテーパー面、333…バックヨーク311bを収容する凹部、333a…凹部333の底面、L1…バックヨーク311bの径方向幅、L2…ブリッジ部311cの周方向幅、L3…ブリッジ部311cの径方向幅、δ…隙間、Φ1…主極磁石321の磁束。
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7
図8
図9
図10