(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025025640
(43)【公開日】2025-02-21
(54)【発明の名称】過敏性腸症候群抑制剤
(51)【国際特許分類】
A23L 33/10 20160101AFI20250214BHJP
A23L 33/105 20160101ALI20250214BHJP
A61P 1/12 20060101ALI20250214BHJP
A61P 1/04 20060101ALI20250214BHJP
A61K 31/05 20060101ALI20250214BHJP
A23K 10/12 20160101ALI20250214BHJP
【FI】
A23L33/10
A23L33/105
A61P1/12
A61P1/04
A61K31/05
A23K10/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023130578
(22)【出願日】2023-08-10
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】000210067
【氏名又は名称】池田食研株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】508319602
【氏名又は名称】学校法人京都薬科大学
(72)【発明者】
【氏名】加藤 伸一
(72)【発明者】
【氏名】松本 健次郎
(72)【発明者】
【氏名】中村 直樹
(72)【発明者】
【氏名】竹中 涼
【テーマコード(参考)】
2B150
4B018
4C206
【Fターム(参考)】
2B150AB10
2B150AC05
2B150AD02
2B150AD07
2B150AD12
2B150AD13
2B150AD14
2B150AD18
2B150BB01
2B150BC06
2B150BD01
2B150BD06
2B150CG07
2B150DD26
2B150DD38
2B150DD57
2B150DD58
2B150DD59
4B018LB08
4B018MD08
4B018MD53
4B018MD61
4B018MD86
4B018ME11
4B018ME14
4B018MF01
4B018MF13
4C206AA01
4C206AA02
4C206CA20
4C206KA01
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4C206MA01
4C206MA04
4C206MA36
4C206MA63
4C206MA64
4C206MA72
4C206NA14
4C206ZA68
4C206ZA73
(57)【要約】
【課題】 本発明は、下痢又は下痢型過敏性腸症候群に関し、その予防又は改善効果を有する予防改善剤を提供する。
【解決手段】 ジンゲルジオールが、腸運動を抑制できることを見出し、ジンゲルジオールを有効成分とする、下痢又は下痢型過敏性腸症候群予防改善剤として本発明を完成した。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジンゲルジオールを有効成分とする、下痢又は下痢型過敏性腸症候群予防改善剤。
【請求項2】
ジンゲルジオールを有効成分とする、腸運動抑制剤。
【請求項3】
請求項1記載の下痢又は下痢型過敏性腸症候群予防改善剤を含む飲食品、医薬品、医薬部外品又は飼料。
【請求項4】
請求項2記載の腸運動抑制剤を含む飲食品、医薬品、医薬部外品又は飼料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下痢又は下痢型過敏性腸症候群の予防改善剤等に関する。
【背景技術】
【0002】
過敏性腸症候群(IBS)は、心理的ストレスや自律神経バランスの乱れなどによって、大腸運動が乱れて腹痛や便通の変化などを引き起こす消化管疾患である。IBSはこれらの症状が慢性、あるいは再発的に持続することが特徴で、便通の状態により、便秘型、下痢型、交替型、分類不能型に分類されるが、下痢型は大腸運動が促進されると便の水分が大腸で吸収されずに下痢となって排出される。
【0003】
日本におけるIBS症状に悩む患者は1200万人(全人口の10-15%)とされており、特に10代~20代の若い世代で発症することが多い。IBSは命に係わる重篤な病気ではないが、お腹の不快感や外出中の下痢症状などに対する不安感により仕事や生活に支障をきたしてしまう。これらのIBS症状への対策として、日常的に無理なく摂取でき、予防改善効果を有する飲食品の開発が望まれている。
【0004】
従来技術として、例えば、ラクトフェリンと、ラクトバチルス・ブレビスの死菌とを有効成分として含有する排便回数・排便量改善剤(特許文献1)や、超臨界CO2抽出によって得られるショウガの親油性抽出物およびアーティチョーク抽出物を含む組成物が過敏性腸症候群の予防および治療に有用であること(特許文献2)が知られている。
【0005】
生のショウガはジンゲロールを多く含み、ジンゲルジオールはほとんど含まれていないことが知られているが、特許文献3には、ジンゲロール含有物を含む発酵用原料を乳酸菌により発酵させることでジンゲルジオール含有乳酸菌発酵物が得られることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第5828349号公報
【特許文献2】特許第5769634号公報
【特許文献3】特開2022-95539号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、下痢又は下痢型過敏性腸症候群に関し、その予防又は改善効果を有する予防改善剤を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者らは、ジンゲルジオールが、腸運動を抑制できることを見出し、ジンゲルジオールを有効成分とする、下痢又は下痢型過敏性腸症候群予防改善剤として本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、以下の[1]~[4]の態様に関する。
[1]ジンゲルジオールを有効成分とする、下痢又は下痢型過敏性腸症候群予防改善剤。
[2]ジンゲルジオールを有効成分とする、腸運動抑制剤。
[3][1]記載の下痢又は下痢型過敏性腸症候群予防改善剤を含む飲食品、医薬品、医薬部外品又は飼料。
[4][2]記載の腸運動抑制剤を含む飲食品、医薬品、医薬部外品又は飼料。
【発明の効果】
【0010】
本発明によって、摂取によって腸運動を抑制し、下痢又は下痢型過敏性腸症候群を予防改善する新規な予防改善剤を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】大腸運動抑制効果について、corn-oil、6-ショウガオール、6-ジンゲロール、6-パラドール、3R,5S-6-ジンゲルジオール又は3S,5S-6-ジンゲルジオール摂取後に大腸に挿入したビーズの排出時間を示す。
【
図2】小腸運動抑制効果について、corn-oil、6-ショウガオール、6-ジンゲロール、6-パラドール、3R,5S-6-ジンゲルジオール又は3S,5S-6-ジンゲルジオール摂取後に経口投与したチャコールミールの小腸における移動度を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の腸運動抑制剤、又は下痢若しくは下痢型過敏性腸症候群の予防改善剤(以後、まとめて本発明の製剤と呼ぶことがある)は、ジンゲルジオールを有効成分とするものであり、大腸運動の抑制、小腸運動の抑制といった腸運動の抑制効果を発揮でき、下痢又は下痢型過敏性腸症候群の予防改善に効果的である。
【0013】
本発明で、有効成分となるジンゲルジオールは、前記効果を発揮できれば特に限定されず、ジンゲルジオール含有物を使用でき、ジンゲルジオール含有物から単離・精製した精製品が好ましく、6-ジンゲルジオールがより好ましく、3S,5S-6-ジンゲルジオールがさらに好ましい。
【0014】
ジンゲルジオール含有物は、例えば、ジンゲロール含有物を含む発酵用原料を、乳酸菌により発酵させることによって得ることができ、芳香族カルボニル化合物を、芳香族アルコール化合物に還元する能力を有するラクトバチルス属に属する微生物が例示でき、ヘテロ発酵型乳酸菌が好ましく、ラクトバチルス・ファーメンタム(L.fermentum)又はラクトバチルス・ロイテリ(L.reuteri)がより好ましく、1種又は2種以上を使用することができる。
【0015】
発酵用原料は、ジンゲルジオールを生成可能な菌が発酵可能な成分であれば特に限定されず、一般的な培地成分が使用できるが、炭素源、窒素源、無機物、微量栄養素等を含有するものが例示でき、合成培地、天然培地の何れでも使用可能である。炭素源としては、グルコース、スクロース、ラクトース、トレハロース、グリセリン、ソルビトール、糖蜜等が使用できる。窒素源としては、塩化アンモニウム、硝酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、クエン酸アンモニウム、リン酸アンモニウム等の無機塩類、DL-アラニン、L-グルタミン酸等のアミノ酸類、ペプトン、肉エキス、酵母エキス、麦芽エキス、コーンスティープリカー、乳蛋白、大豆蛋白等の窒素含有天然物が使用できる。無機物としては、カルシウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、マンガン、鉄、亜鉛等が使用できる。さらにTween80等の界面活性剤、ポリグリセリン脂肪酸エステル等の乳化剤、オリーブオイル等の油脂を使用してもよい。炭酸カルシウムを使用すると、ジンゲルジオールの生成速度が上がる点で好ましい。
【0016】
また、ジンゲロール含有物は、天然物由来又は合成品の何れでもよく、ショウガやギニアショウガ等のショウガ科植物を抽出して得られる植物抽出物が好ましく、植物抽出物の抽出法としては、超臨界抽出法、水蒸気蒸留法、溶媒抽出法等が例示できる。前記菌を用いた発酵によりジンゲルジオールが生成されれば特に限定されないが、発酵用原料中の固形分あたりのジンゲロール含有量は、0.1重量%以上が好ましく、0.2~50重量%がより好ましく、0.4~40重量%がさらに好ましく、0.6~30重量%が特に好ましい。また、発酵中にジンゲロール含有物を添加してもよい。
【0017】
ジンゲロール含有物は、発酵用原料によく分散するように、乳化させるのが好ましく、乳化粉末としてもよい。乳化剤は、乳化能力を有する成分であれば特に限定されないが、例えば、アカシアガム、ガティガム、キサンタンガム等のガム質、オクテニルコハク酸デンプンナトリウム、カゼイン、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、レシチン、酵素処理レシチン等が例示でき、1種又は2種以上を使用することができる。乳化処理は、一般的な乳化方法で行うことができ、詳細には、乳化装置を用いて行うことができ、高圧ホモジナイザー、コロイドミル、超音波乳化機、ホモミキサー、ホモディスパー等を例示でき、二種類以上の装置を組み合わせてもよい。
【0018】
発酵条件は、前記発酵用原料を含む液体培地を殺菌後、乳酸菌を接種し、静置又は振盪にて発酵させることができるが、通気、振盪、攪拌等により好気的条件下で発酵するのが好ましく、発酵温度は例えば10~50℃が例示でき、15~40℃が好ましく、発酵時間は例えば1~120時間が例示でき、2~96時間が好ましく、6~72時間がより好ましく、pHは例えば2.0~8.0が例示でき、3.0~7.5が好ましく、培養中に例えば前記範囲でpHを調整してもよい。pH調整は、水酸化ナトリウム、アンモニア等を用いることができるが、炭酸カルシウム等のカルシウム化合物を用いると、培養中に培養液が酸性になるのに伴い、徐々に溶解して、pHの低下を緩和し、pH調整が可能で、pH低下に伴う乳酸菌の増殖抑制が抑えられるため好ましい。
【0019】
発酵物は、発酵後に殺菌してもよく、殺菌条件は一般的な方法であれば特に限定されないが、例えば60~120℃で1~30分間又は80~100℃で5~20分間の加熱が好ましい。発酵物の回収は、不織布、メッシュ等を用いたろ過、遠心分離等により、固液分離することで得られる液体として利用してもよく、さらに発酵物中のジンゲルジオールを、溶媒沈殿、蒸留、ODSを用いた逆相シリカゲルクロマトグラフィー、イオン交換樹脂等を用いたカラムクロマトグラフィー等の一般的な有機化合物精製方法によって精製してもよい。さらに濃縮及び/又は乾燥し、濃縮品や乾燥品として利用してもよい。乾燥は、ドラムドライ、エアードライ、スプレードライ、真空乾燥及び/又は凍結乾燥等により行うことができる。
【0020】
本発明の製剤の摂取方法として、ジンゲルジオールを含む製剤等を経口投与又は非経口投与のいずれでもよいが、継続的に摂取しやすいという観点から、経口投与することが好ましく、大腸運動の抑制、小腸運動の抑制等の腸運動抑制効果、下痢の予防改善効果又は下痢型過敏性腸症候群の予防改善効果が認められる摂取量又は投与量であれば特に限定されないが、ジンゲルジオールをヒトに対して1日あたり2.5mg/kg体重以上投与するのが好ましく、3.0~100mg/kg体重がより好ましく、5.0~80mg/kg体重がさらに好ましく、7.5~50mg/kg体重が特に好ましく、該投与量を摂取できるようにジンゲルジオールを含む製剤等を1日1回又は数回に分けて摂取すればよい。
【0021】
本発明の製剤は、各種製品に添加することにより、大腸運動抑制剤、小腸運動抑制等の腸運動抑制剤、又は下痢若しくは下痢型過敏性腸症候群予防改善剤を含む飲食品、医薬品、医薬部外品、飼料等を製造できる。これにより、大腸運動の抑制、小腸運動の抑制等の腸運動抑制効果、又は下痢若しくは下痢型過敏性腸症候群の予防改善効果を有する飲食品、医薬品、医薬部外品、飼料等を調製することができる。各飲食品等への添加量は特に限定されないが、好ましくは0.001~50重量%、より好ましくは0.01~30重量%、さらに好ましくは0.05~20重量%、特に好ましくは0.1~10重量%である。添加する飲食品等は特に限定されないが、飲料、食品、調味料、機能性食品、サプリメント等の各種飲食品の他、医薬品、医薬部外品、飼料等にも利用できる。
【実施例0022】
以下、実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の例によって限定されるものではない。尚、本発明において、%は別記がない限り全て重量%である。
【0023】
[実施例1]
(6-ジンゲルジオールの精製)
ジンゲロール含有物としてジンジャーエキスパウダーG2(6-ジンゲロール含有量:2.3%、池田糖化工業株式会社製)を終濃度で5%となるようにMRS培地に添加し、20gずつ、試験管に分注後、121℃で15分間加熱殺菌処理した。冷却した液体培地2本ずつに、Lactobacillus fermentum NBRC15885又はLactobacillus brevis NBRC3345を一白金耳植菌し、30℃で40時間静置培養した。培養終了後、90℃で10分間、殺菌処理し、各乳酸菌発酵物を得た。各乳酸菌発酵物を下記精製方法で精製し、L.fermentum NBRC15885発酵物から3S,5S-6-ジンゲルジオールの精製品を、又はL.brevis NBRC3345発酵物から3R,5S-6-ジンゲルジオールの精製品を各々調製し、以下の試験に使用した。
【0024】
<精製方法>
(1)乳酸菌発酵物に酢酸エチルとNaClを加え、混合し、遠心分離する。
(2)酢酸エチル層を回収して濃縮し、アセトニトリルに溶解させ、精製に使用する。
(3)C18樹脂カラムに(2)を加え、適宜設定した濃度のアセトニトリル水溶液を流し、(2)中の成分を分離していく。
(4)(3)の間、一定時間おきにサンプリングを行って分取し、HPLCにて分析し、目的とする成分が検出されたサンプルを選抜する。
(5)選抜したサンプルを濃縮し、ジエチルエーテルにて回収後、ジエチルエーテルを揮発させ、精製品とする。
【0025】
(大腸運動抑制効果)
雄性C57bL/6Nマウス(9-12週齢)を24時間絶食し、試験当日にcorn-oil、又はcorn-oilに溶解した6-ショウガオール、6-ジンゲロール、6-パラドール、3R,5S-6-ジンゲルジオール若しくは3S,5S-6-ジンゲルジオールを各成分として100mg/kgで経口投与した(n=6)。投与30分後、大腸ビーズを肛門から挿入し、排出までの時間を測定し、各サンプル投与における、ビーズの排出時間を算出し、
図1に示した。
【0026】
図1より、corn-oilを経口投与したマウスと比べて、3S,5S-6-ジンゲルジオールを経口投与したマウスにおいて、有意(p<0.05)に、ビーズの排出時間が増加し、6-ショウガオール及び3R,5S-6-ジンゲルジオールにおいてもビーズの排出時間が増加する傾向が確認された。よって、6-ジンゲルジオールを経口投与したマウスにおいて、大腸運動が抑制されることが分かった。
【0027】
[実施例2]
(小腸運動抑制効果)
雄性C57bL/6Nマウス(9-12週齢)を24時間絶食し、試験当日にcorn-oil、又はcorn-oilに溶解した6-ショウガオール、6-ジンゲロール、6-パラドール、3R,5S-6-ジンゲルジオール又は3S,5S-6-ジンゲルジオールを各成分として100mg/kgで経口投与した(n=6)。投与30分後、チャコールミール0.2mlを経口投与し、1時間後にマウスを剖検して、小腸を摘出後、各サンプル投与における、全長(A)とチャコールミールの進行した長さ(B)を測定し、チャコールミールの平均移動度(B/A×100(%))を算出し、
図2に示した。尚、腸内での移動度が高いほど、腸のぜん動運動が盛んであることを示す。
【0028】
corn-oilを経口投与したマウスと比べて、3S,5S-6-ジンゲルジオールを経口投与したマウスにおいて、有意(p<0.05)に、チャコールミールの移動度が低下し、6-ショウガオールにおいてもチャコールミールの移動度が低下する傾向が確認された。よって、3S,5S-6-ジンゲルジオールを経口投与したマウスにおいて、有意(p<0.05)に、小腸運動が抑制されることが分かった。
【0029】
以上より、ジンゲルジオールを経口投与することで、腸運動を抑制することができ、ジンゲルジオールを腸運動の抑制剤として利用できることが分かり、下痢の予防・改善、下痢型過敏性腸症候群の予防・改善等に有用である。