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特開2025-2567油圧クラッチ及び走行用の伝動装置及び作業車
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025002567
(43)【公開日】2025-01-09
(54)【発明の名称】油圧クラッチ及び走行用の伝動装置及び作業車
(51)【国際特許分類】
   F16D 48/02 20060101AFI20241226BHJP
   F16D 25/063 20060101ALI20241226BHJP
   F16D 13/52 20060101ALI20241226BHJP
【FI】
F16D48/02 640B
F16D25/063
F16D48/02 640A
F16D48/02 640F
F16D13/52 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023102825
(22)【出願日】2023-06-22
(71)【出願人】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】陣内 篤史
(72)【発明者】
【氏名】土田 友也
(72)【発明者】
【氏名】岩瀬 竜馬
(72)【発明者】
【氏名】田中 智之
(72)【発明者】
【氏名】藤山 佳貴
(72)【発明者】
【氏名】伊達 虹貴
【テーマコード(参考)】
3J056
3J057
【Fターム(参考)】
3J056AA60
3J056BA06
3J056BB02
3J056BB05
3J056BB26
3J056CA07
3J056DA04
3J056GA05
3J056GA17
3J057AA04
3J057BB04
3J057CA01
3J057CA03
3J057DA09
3J057EE09
3J057GA17
3J057GA31
3J057GA66
3J057GA67
3J057GB26
3J057GC08
3J057GE05
3J057HH04
3J057HH05
3J057JJ02
(57)【要約】
【課題】油圧クラッチのピストンに対して押圧位置と離間位置との間の中間位置が設定された場合に、ピストンが中間位置に安定して保持されるように構成する。
【解決手段】動力を伝達可能な摩擦板57が備えられている。摩擦板57を押圧して動力が伝達される伝動状態が得られる押圧位置、及び、摩擦板57から離れて動力が遮断される遮断状態が得られる離間位置に移動可能で、押圧位置に向けて操作する作動油が供給されることにより押圧位置に操作されるピストン58が備えられている。ピストン58が当たることによりピストン58を押圧位置と離間位置との間の中間位置A3に保持及び解除可能な保持部材59が備えられている。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
動力を伝達可能な摩擦板と、
前記摩擦板を押圧して動力が伝達される伝動状態が得られる押圧位置、及び、前記摩擦板から離れて動力が遮断される遮断状態が得られる離間位置に移動可能で、前記押圧位置に向けて操作する作動油が供給されることにより前記押圧位置に操作されるピストンと、
前記ピストンが当たることにより前記ピストンを前記押圧位置と前記離間位置との間の中間位置に保持及び解除可能な保持部材とが備えられている油圧クラッチ。
【請求項2】
前記中間位置は、前記押圧位置と前記離間位置との間の中央位置よりも前記摩擦板に近い側に設定されている請求項1に記載の油圧クラッチ。
【請求項3】
前記中間位置は、前記押圧位置と前記離間位置との間の中央位置よりも前記摩擦板から遠い側に設定されている請求項1に記載の油圧クラッチ。
【請求項4】
前記保持部材は、前記ピストンを前記中間位置に保持可能な保持位置、及び、前記保持位置に対して前記摩擦板の側に位置して、前記ピストンの前記押圧位置への移動を許容する許容位置に移動可能であり、
前記保持部材を前記保持位置に向けて付勢する第1付勢部材と、
前記ピストンを前記押圧位置に向けて付勢し、前記第1付勢部材よりも付勢力の小さい第2付勢部材とが備えられ、
前記第1付勢部材により前記保持位置に操作された前記保持部材に、前記第2付勢部材により前記押圧位置に向けて移動しようとする前記ピストンが当たることにより、前記ピストンが前記中間位置に保持される請求項1に記載の油圧クラッチ。
【請求項5】
前記ピストンを前記押圧位置に向けて操作する作動油が供給されることにより、前記第1付勢部材に抗して、前記ピストンが前記押圧位置に操作され、前記ピストンにより前記保持部材が前記許容位置に操作される請求項4に記載の油圧クラッチ。
【請求項6】
前記ピストンを前記離間位置に向けて操作する作動油が供給されることにより、前記第2付勢部材に抗して、前記ピストンが前記離間位置に操作される請求項4に記載の油圧クラッチ。
【請求項7】
前記ピストンと前記保持部材との間に形成された油室が備えられ、
前記油室に作動油が供給されることにより、前記第2付勢部材に抗して前記ピストンが前記離間位置に操作され、前記第1付勢部材に抗して前記保持部材が前記許容位置に操作される請求項6に記載の油圧クラッチ。
【請求項8】
伝動比が互いに異なる複数の変速段の伝動系と、
前記伝動系の各々に設けられた伝動クラッチとが備えられ、
前記伝動クラッチは、動力を伝達可能な摩擦板と、前記摩擦板を押圧して動力が伝達される伝動状態が得られる押圧位置、及び、前記摩擦板から離れて動力が遮断される遮断状態が得られる離間位置に移動可能で、前記押圧位置に向けて操作する作動油が供給されることにより前記押圧位置に操作されるピストンとを有し、
前記伝動クラッチが伝動状態に操作された前記伝動系を介して動力が伝達される走行用の伝動装置であって、
前記伝動クラッチのうちの少なくとも一つが、請求項1~7のうちのいずれか一項に記載の前記油圧クラッチである走行用の伝動装置。
【請求項9】
全ての変速段のうちの低速領域の変速段の前記伝動系、及び全ての変速段のうちの高速領域の変速段の前記伝動系において、前記低速領域の変速段の前記伝動系の前記伝動クラッチが、前記油圧クラッチである請求項8に記載の走行用の伝動装置。
【請求項10】
前記押圧位置と前記離間位置との間隔において、前記高速領域の変速段の前記伝動系の前記伝動クラッチの前記間隔が、前記低速領域の変速段の前記伝動系の前記油圧クラッチの前記間隔よりも小さなものに設定されている請求項9に記載の走行用の伝動装置。
【請求項11】
前記油圧クラッチを有する前記伝動系に対して隣接する伝動比の前記伝動系の前記伝動クラッチが伝動状態に操作されると、前記油圧クラッチの前記ピストンを、前記保持部材により前記中間位置に保持する操作部が備えられている請求項8に記載の走行用の伝動装置。
【請求項12】
前記操作部は、
全ての変速段のうちの最低速段の前記伝動系の前記伝動クラッチが伝動状態に操作されると、前記最低速段の前記伝動系に対して1段高速側の変速段の前記伝動系の前記油圧クラッチの前記ピストンを、前記保持部材により前記中間位置に保持し、
前記最低速段の前記伝動系よりも高速側の変速段の前記伝動系の前記伝動クラッチが伝動状態に操作されると、前記伝動クラッチが伝動状態に操作された前記伝動系に対して1段低速側の変速段の前記伝動系の前記油圧クラッチの前記ピストンを、前記保持部材により前記中間位置に保持する請求項11に記載の走行用の伝動装置。
【請求項13】
全ての変速段のうちの低速領域の変速段の前記伝動系、及び全ての変速段のうちの高速領域の変速段の前記伝動系において、前記低速領域の変速段の前記伝動系の前記伝動クラッチが、前記油圧クラッチであり、
前記高速領域の変速段の前記伝動系のうちの最低速の変速段の前記伝動系に対して高速側である高速領域高速段の前記伝動系において、
前記操作部は、
前記高速領域高速段の前記伝動系の前記伝動クラッチが伝動状態に操作されても、前記低速領域の変速段の前記伝動系の前記油圧クラッチの前記ピストンを前記中間位置に保持しない請求項12に記載の走行用の伝動装置。
【請求項14】
前記低速領域の変速段の前記伝動系の前記油圧クラッチは、請求項7に記載の前記油圧クラッチであり、
前記操作部は、
前記高速領域高速段の前記伝動系の前記伝動クラッチの前記ピストンを前記押圧位置に向けて操作する作動油を供給する供給油路から分岐され、前記油室に接続されて、前記供給油路の一部の作動油を前記油室に供給する分岐油路である請求項13に記載の走行用の伝動装置。
【請求項15】
動力源と、
走行装置と、
前記動力源の動力を前記走行装置に伝達する伝動系とが備えられ、
請求項1~7のうちのいずれか一項に記載の前記油圧クラッチが、前記伝動系に設けられている作業車。
【請求項16】
動力源と、
走行装置と、
前記動力源の動力を前記走行装置に伝達する請求項8に記載の走行用の前記伝動装置とを備えている作業車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摩擦板及びピストンを備えた油圧クラッチ、油圧クラッチを備えた走行用の伝動装置、作業車に関する。
【背景技術】
【0002】
油圧クラッチでは、作動油がピストンに供給されて、ピストンが摩擦板を押圧する押圧位置に操作されると、動力が伝達される伝動状態となる。作動油が排出されて、ピストンが摩擦板から離れる離間位置に操作されると、動力が遮断される遮断状態となる。
【0003】
油圧クラッチが遮断状態に操作された場合、隣接する摩擦板の間でフリクショントルクが発生し、動力ロスが発生することがある。これにより、フリクショントルク(動力ロス)を抑える為に、ピストンの離間位置は摩擦板から十分に離れていることが好ましい。
【0004】
これに対して、油圧クラッチが伝動状態に操作される場合、ピストンの離間位置が摩擦板から離れていると、ピストンの離間位置から押圧位置への操作に時間を要して、油圧クラッチの伝動状態への操作に応答遅れが生じることがある。これにより、油圧クラッチの伝動状態への操作の応答遅れを抑える為に、ピストンの離間位置は摩擦板に近いことが好ましい。
【0005】
前述の互いに対立する状態に対して、特許文献1では、油圧クラッチにおいて、ピストンの離間位置が摩擦板から十分に離れた位置に設定され、ピストンの押圧位置及び離間位置との間に、中間位置が設定されている。
【0006】
特許文献1において、油圧クラッチが遮断状態に維持される場合、ピストンが摩擦板から十分に離れた離間位置に操作され維持されて、フリクショントルク(動力ロス)が抑えられる。
油圧クラッチが伝動状態に操作される場合、ピストンが事前に離間位置から中間位置に操作されている。次に伝動状態への操作指令があると、ピストンが中間位置から押圧位置される。これにより、油圧クラッチの伝動状態への操作の応答性が向上する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2021-85430号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1の油圧クラッチは、ピストンを離間位置に付勢するバネを備えており、ピストンを押圧位置に向けて操作する作動油が供給されると、作動油によりピストンはバネに抗して押圧位置に操作される。これにより、特許文献1では、作動油の圧力とバネの付勢力とがバランスすることにより、ピストンが中間位置に操作され維持される。
【0009】
しかしながら、作動油の温度変化や油圧クラッチの振動等により、作動油の圧力をバネの付勢力とバランスする値に正確に維持することは困難であると予想される。これによって、作動油の圧力の微妙な変化により、中間位置が適切な位置から押圧位置の側に移動したり、離間位置の側に移動したりすることが考えられる。
【0010】
前述のように中間位置が安定しない状態が生じると、フリクショントルク(動力ロス)を抑えながら、油圧クラッチの伝動状態への操作の応答性を向上させることが困難になると考えられるので、改善の余地がある。
【0011】
本発明は、油圧クラッチ、油圧クラッチを備えた走行用の伝動装置、作業車において、油圧クラッチのピストンに対して押圧位置と離間位置との間の中間位置が設定された場合に、ピストンが中間位置に安定して保持されるように構成することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の油圧クラッチは、動力を伝達可能な摩擦板と、前記摩擦板を押圧して動力が伝達される伝動状態が得られる押圧位置、及び、前記摩擦板から離れて動力が遮断される遮断状態が得られる離間位置に移動可能で、前記押圧位置に向けて操作する作動油が供給されることにより前記押圧位置に操作されるピストンと、前記ピストンが当たることにより前記ピストンを前記押圧位置と前記離間位置との間の中間位置に保持及び解除可能な保持部材とが備えられている。
【0013】
本発明によると、油圧クラッチにおいて、ピストンが摩擦板を押圧する押圧位置に操作されると、動力が伝達される伝動状態が得られるのであり、押圧位置に向けて操作する作動油が供給されることにより、ピストンは押圧位置に操作される。ピストンが摩擦板から離れる離間位置に操作されると、動力が遮断される遮断状態が得られる。
【0014】
本発明によると、作動油の圧力とバネの付勢力とのバランスによりピストンが中間位置に保持される特許文献1の構成に比べて、ピストンは、保持部材に押し付けられることにより、作動油の圧力振動等の影響を受けずに、押圧位置と離間位置との間の中間位置で十分に安定して保持される。
これにより、ピストンが保持部材により中間位置に安定して保持されることによって、フリクショントルク(動力ロス)を抑えながら、油圧クラッチの伝動状態への操作の応答性を向上させることができる。
【0015】
本発明において、前記中間位置は、前記押圧位置と前記離間位置との間の中央位置よりも前記摩擦板に近い側に設定されていると好適である。
【0016】
本発明によると、中間位置が押圧位置に近い位置に設定されており、ピストンが中間位置から押圧位置に操作される際の時間がさらに短くなるので、油圧クラッチの伝動状態への操作の応答性の向上の面で有利である。
【0017】
本発明において、前記中間位置は、前記押圧位置と前記離間位置との間の中央位置よりも前記摩擦板から遠い側に設定されていると好適である。
【0018】
本発明によると、中間位置が押圧位置から遠い位置に設定されており、中間位置のピストンが摩擦板に接近し過ぎないので、油圧クラッチの伝動状態への操作の応答性を向上させながら、フリクショントルク(動力ロス)を抑えるという面で有利である。
【0019】
本発明において、前記保持部材は、前記ピストンを前記中間位置に保持可能な保持位置、及び、前記保持位置に対して前記摩擦板の側に位置して、前記ピストンの前記押圧位置への移動を許容する許容位置に移動可能であり、前記保持部材を前記保持位置に向けて付勢する第1付勢部材と、前記ピストンを前記押圧位置に向けて付勢し、前記第1付勢部材よりも付勢力の小さい第2付勢部材とが備えられ、前記第1付勢部材により前記保持位置に操作された前記保持部材に、前記第2付勢部材により前記押圧位置に向けて移動しようとする前記ピストンが当たることにより、前記ピストンが前記中間位置に保持されると好適である。
【0020】
本発明によると、ピストンを押圧位置に向けて操作する作動油が供給されない状態において、ピストンは第2付勢部材により押圧位置に移動しようとする。これに対して、保持部材は第1付勢部材により保持位置に位置するのであり、ピストンは保持部材に当たって中間位置に保持される。
この場合、第2付勢部材の付勢力が第1付勢部材の付勢力よりも小さいものに設定されているので、保持部材は、ピストン及び第2付勢部材により保持位置から許容位置に向けて移動することはなく、保持位置に安定して位置する。
【0021】
これにより、保持部材が保持位置に安定して位置することによって、フリクショントルク(動力ロス)を抑えながら、油圧クラッチの伝動状態への操作の応答性を向上させるという面で有利である。
【0022】
本発明において、前記ピストンを前記押圧位置に向けて操作する作動油が供給されることにより、前記第1付勢部材に抗して、前記ピストンが前記押圧位置に操作され、前記ピストンにより前記保持部材が前記許容位置に操作されると好適である。
【0023】
本発明によると、ピストンを押圧位置に向けて操作する作動油により、ピストンが押圧位置に操作され、ピストンにより保持部材が許容位置に操作されるのであり、第1付勢部材は、ピストンの押圧位置への操作に対して抵抗になる。
この場合、作動油の圧力はピストンを押圧位置に操作する為に必要な十分な高圧に設定される点、及び、第1付勢部材の付勢力が第2付勢部材の付勢力により減じられている点により、ピストンは中間位置から押圧位置に遅れることなく操作される。
これにより、ピストンが中間位置から押圧位置に遅れることなく操作されることによって、油圧クラッチの伝動状態への操作の応答性の向上の面で有利である。
【0024】
本発明において、前記ピストンを前記離間位置に向けて操作する作動油が供給されることにより、前記第2付勢部材に抗して、前記ピストンが前記離間位置に操作されると好適である。
【0025】
本発明によると、ピストンを離間位置に向けて操作する作動油により、ピストンが離間位置に操作されて、油圧クラッチは遮断状態となる。
この場合に、第2付勢部材はピストンの離間位置への操作に対して抵抗になるのであるが、作動油の圧力は十分な高圧に設定される点、及び、第2付勢部材の付勢力は比較的小さいものである点により、ピストンは離間位置に遅れることなく操作される。
これにより、ピストンが離間位置に遅れることなく操作されることによって、油圧クラッチの遮断状態への操作の応答性を向上させることができる。
【0026】
本発明において、前記ピストンと前記保持部材との間に形成された油室が備えられ、前記油室に作動油が供給されることにより、前記第2付勢部材に抗して前記ピストンが前記離間位置に操作され、前記第1付勢部材に抗して前記保持部材が前記許容位置に操作されると好適である。
【0027】
本発明によると、ピストンと保持部材との間に形成された油室に、作動油が供給されることにより、作動油がピストン及び保持部材の両方に作用して、作動油によりピストンが無理なく離間位置に操作される。
【0028】
本発明は、伝動比が互いに異なる複数の変速段の伝動系と、前記伝動系の各々に設けられた伝動クラッチとが備えられ、前記伝動クラッチは、動力を伝達可能な摩擦板と、前記摩擦板を押圧して動力が伝達される伝動状態が得られる押圧位置、及び、前記摩擦板から離れて動力が遮断される遮断状態が得られる離間位置に移動可能で、前記押圧位置に向けて操作する作動油が供給されることにより前記押圧位置に操作されるピストンとを有し、前記伝動クラッチが伝動状態に操作された前記伝動系を介して動力が伝達される走行用の伝動装置であって、前記伝動クラッチのうちの少なくとも一つが、請求項1~6のうちのいずれか一項に記載の前記油圧クラッチである。
【0029】
走行用の伝動装置として、伝動比が互いに異なる複数の変速段の伝動系が備えられ、摩擦板及びピストンを有する伝動クラッチが伝動系の各々に備えられたものがある。
この走行用の伝動装置では、複数の伝動系において、一つの伝動系の伝動クラッチが伝動状態に操作されると、この伝動系を介して動力が伝達される。別の伝動系の伝動クラッチが伝動状態に操作されると、この伝動系を介して動力が伝達されるのであり、伝動状態に操作される伝動クラッチを変更することにより、変速が行われる。
【0030】
本発明によると、前述の走行用の伝動装置において、伝動クラッチのうちの少なくとも一つが、摩擦板及びピストンに加えて保持部材を有する油圧クラッチである。
一つの伝動系を介して動力が伝達される状態から、油圧クラッチを有する伝動系を介して動力が伝達される状態に変速される場合、事前に油圧クラッチのピストンを保持部材により中間位置に保持しておくことができる。
変速が行われる際、動力が伝達されている伝動系において、伝動クラッチが遮断状態に操作される。油圧クラッチを有する伝動系において、油圧クラッチのピストンが中間位置から押圧位置に操作されて、油圧クラッチが伝動状態に操作される。
【0031】
これにより、一つの伝動系を介して動力が伝達される状態から、油圧クラッチを有する伝動系を介して動力が伝達される状態への変速が、フリクショントルク(動力ロス)が抑えられながら応答良く行われる走行用の伝動装置を得ることができる。
【0032】
本発明において、全ての変速段のうちの低速領域の変速段の前記伝動系、及び全ての変速段のうちの高速領域の変速段の前記伝動系において、前記低速領域の変速段の前記伝動系の前記伝動クラッチが、前記油圧クラッチであると好適である。
【0033】
走行用の伝動装置において、高速段の伝動系を介して動力が伝達される状態では、走行速度が高く走行慣性が大きいので、変速の際に伝動クラッチのピストンが離間位置から押圧位置に操作される際に時間を要しても、この間の走行速度の変化は小さく、伝動クラッチが伝動状態に操作される際のショックは比較的小さいと考えられる。
【0034】
これに対して、低速段の伝動系を介して動力が伝達される状態では、走行速度が低く走行慣性が小さいので、変速の際に伝動クラッチのピストンが離間位置から押圧位置に操作される際に時間を要すると、この間の走行速度の変化は大きく、伝動クラッチが伝動状態に操作される際のショックは比較的大きいと考えられる。
【0035】
本発明によると、低速領域の変速段の伝動系の伝動クラッチが、摩擦板及びピストンに加えて保持部材を有する油圧クラッチである。
これにより、走行慣性が小さく、変速の際の走行速度の変化が大きい低速領域の変速段の伝動系において、伝動クラッチを、摩擦板及びピストンに加えて保持部材を有する油圧クラッチとすることによって、フリクショントルク(動力ロス)が抑えられながら、変速が応答良く行われる走行用の伝動装置を得るという面で有利である。
【0036】
本発明において、前記押圧位置と前記離間位置との間隔において、前記高速領域の変速段の前記伝動系の前記伝動クラッチの前記間隔が、前記低速領域の変速段の前記伝動系の前記油圧クラッチの前記間隔よりも小さなものに設定されていると好適である。
【0037】
本発明によると、ピストンの押圧位置と離間位置との間隔において、高速領域の変速段の伝動系の伝動クラッチの間隔が小さなものに設定されることにより、伝動クラッチに保持部材が備えられていなくても、伝動クラッチの伝動状態への操作の応答遅れが抑えられる。
【0038】
高速領域の変速段の伝動系では、高回転低トルクの動力が伝達されることが多く、伝動クラッチの摩擦板の数は少ないものに設定されることが多いので、高速領域の変速段の伝動系において、伝動クラッチのピストンの押圧位置と離間位置との間隔が小さなものに設定されても、フリクショントルク(動力ロス)の増大という不具合は生じ難い。
【0039】
これにより、高回転低トルクの動力が伝達されることが多い高速領域の変速段の伝動系において、伝動クラッチのピストンの押圧位置と離間位置との間隔が小さなものに設定することによって、フリクショントルク(動力ロス)が抑えられながら、変速が応答良く行われる走行用の伝動装置を得るという面で有利である。
【0040】
本発明において、前記油圧クラッチを有する前記伝動系に対して隣接する伝動比の前記伝動系の前記伝動クラッチが伝動状態に操作されると、前記油圧クラッチの前記ピストンを、前記保持部材により前記中間位置に保持する操作部が備えられていると好適である。
【0041】
例えば、2速段の伝動系の伝動クラッチが、摩擦板及びピストンに加えて保持部材を有する油圧クラッチであったと仮定する。
本発明によると、前述の仮定において、例えば1速段の伝動系の伝動クラッチが伝動状態に操作されて、1速段の伝動系を介して動力が伝達される状態になると、1速段の伝動系に隣接する2速段の伝動系の油圧クラッチのピストンが中間位置に保持される。
【0042】
この後、1速段の伝動系を介して動力が伝達される状態から、2速段の伝動系を介して動力が伝達される状態に変速される場合、1速段の伝動系の伝動クラッチが遮断状態に操作される。2速段の伝動系の油圧クラッチにおいて、ピストンが中間位置から押圧位置に操作されて、油圧クラッチが伝動状態となる。
【0043】
本発明によると、走行速度の差が小さい伝動系において、摩擦板及びピストンに加えて保持部材を有して応答性の良い油圧クラッチにより、変速が行われるように構成することによって、変速の際のショックがさらに抑えられる。
これにより、フリクショントルク(動力ロス)が抑えられながら、変速が応答良く行われる走行用の伝動装置を得るという面で有利であり、変速の際のショックが小さい走行用の伝動装置を得るという面で有利である。
【0044】
本発明において、前記操作部は、全ての変速段のうちの最低速段の前記伝動系の前記伝動クラッチが伝動状態に操作されると、前記最低速段の前記伝動系に対して1段高速側の変速段の前記伝動系の前記油圧クラッチの前記ピストンを、前記保持部材により前記中間位置に保持し、前記最低速段の前記伝動系よりも高速側の変速段の前記伝動系の前記伝動クラッチが伝動状態に操作されると、前記伝動クラッチが伝動状態に操作された前記伝動系に対して1段低速側の変速段の前記伝動系の前記油圧クラッチの前記ピストンを、前記保持部材により前記中間位置に保持すると好適である。
【0045】
例えば、全ての変速段のうちの最低速段の伝動系が、1速段の伝動系であると仮定し、最低速段の伝動系よりも高速側の変速段が、3速段の伝動系であると仮定した場合、3速段の伝動系に対して1段低速側の2速段の伝動系の伝動クラッチが、摩擦板及びピストンに加えて保持部材を有する油圧クラッチであったと仮定する。
【0046】
本発明によると、前述の仮定において、例えば3速段の伝動系の伝動クラッチが伝動状態に操作されて、3速段の伝動系を介して動力が伝達される状態になると、2速段の伝動系の油圧クラッチのピストンが中間位置に保持される。
【0047】
この後、3速段の伝動系を介して動力が伝達される状態から、2速段の伝動系を介して動力が伝達される状態に変速される場合、3速段の伝動系の伝動クラッチが遮断状態に操作される。2速段の伝動系の油圧クラッチにおいて、ピストンが中間位置から押圧位置に操作されて、油圧クラッチが伝動状態となる。
【0048】
本発明によると、1段低速側の変速段の伝動系を介して動力が伝達される状態に変速される場合、摩擦板及びピストンに加えて保持部材を有する油圧クラッチにより、変速が行われるように構成することによって、変速の際のショックが抑えられる。
【0049】
例えば、全ての変速段のうちの最低速段の伝動系が、1速段の伝動系であると仮定した場合、1段高速側の2速段の伝動系の伝動クラッチが、摩擦板及びピストンに加えて保持部材を有する油圧クラッチであったと仮定する。
【0050】
本発明によると、前述の仮定において、例えば1速段の伝動系の伝動クラッチが伝動状態に操作されて、1速段の伝動系を介して動力が伝達される状態になると、2速段の伝動系の油圧クラッチのピストンが中間位置に保持される。
【0051】
この後、1速段の伝動系を介して動力が伝達される状態から、2速段の伝動系を介して動力が伝達される状態に変速される場合、1速段の伝動系の伝動クラッチが遮断状態に操作される。2速段の伝動系の油圧クラッチにおいて、ピストンが中間位置から押圧位置に操作されて、油圧クラッチが伝動状態となる。
【0052】
本発明によると、最低速段の伝動系を介して動力が伝達される状態から、1段高速側の変速段の伝動系を介して動力が伝達される状態に変速される場合、摩擦板及びピストンに加えて保持部材を有する油圧クラッチにより、変速が行われるように構成することによって、変速の際のショックが抑えられる。
【0053】
これにより、フリクショントルク(動力ロス)が抑えられながら、変速が応答良く行われる走行用の伝動装置を得るという面で有利であり、変速の際のショックが小さい走行用の伝動装置を得るという面で有利である。
【0054】
本発明において、全ての変速段のうちの低速領域の変速段の前記伝動系、及び全ての変速段のうちの高速領域の変速段の前記伝動系において、前記低速領域の変速段の前記伝動系の前記伝動クラッチが、前記油圧クラッチであり、前記高速領域の変速段の前記伝動系のうちの最低速の変速段の前記伝動系に対して高速側である高速領域高速段の前記伝動系において、前記操作部は、前記高速領域高速段の前記伝動系の前記伝動クラッチが伝動状態に操作されても、前記低速領域の変速段の前記伝動系の前記油圧クラッチの前記ピストンを前記中間位置に保持しないと好適である。
【0055】
走行用の伝動装置において、高速段の伝動系を介して動力が伝達される状態では、走行速度が高く走行慣性が大きいので、変速の際に伝動クラッチのピストンが離間位置から押圧位置に操作される際に時間を要しても、この間の走行速度の変化は小さく、伝動クラッチが伝動状態に操作される際のショックは比較的小さいと考えられる。
【0056】
これに対して、低速段の伝動系を介して動力が伝達される状態では、走行速度が低く走行慣性が小さいので、変速の際に伝動クラッチのピストンが離間位置から押圧位置に操作される際に時間を要すると、この間の走行速度の変化は大きく、伝動クラッチが伝動状態に操作される際のショックは比較的大きいと考えられる。
【0057】
本発明によると、低速領域の変速段の伝動系の伝動クラッチが、摩擦板及びピストンに加えて保持部材を有する油圧クラッチである。
これにより、走行慣性が小さく、変速の際の走行速度の変化が大きい低速領域の変速段の伝動系において、伝動クラッチを、摩擦板及びピストンに加えて保持部材を有する油圧クラッチとすることによって、フリクショントルク(動力ロス)が抑えられながら、変速が応答良く行われる走行用の伝動装置を得るという面で有利である。
【0058】
例えば、低速領域の変速段の伝動系が、1速段の伝動系及び2速段の伝動系であると仮定し、1速段の伝動系及び2速段の伝動系に、摩擦板及びピストンに加えて保持部材を有する油圧クラッチが備えられると仮定する。高速領域の変速段の伝動系が、3速段の伝動系及び4速段の伝動系であると仮定する。
この場合、3速段(高速領域)の伝動系及び4速段(高速領域)の伝動系のうち、3速段(高速領域での最低速)の伝動系に対して高速側である高速領域高速段の伝動系は、4速段の伝動系と仮定される。
【0059】
本発明によると、前述の仮定において、例えば、4速段(高速領域高速段)の伝動系の伝動クラッチが伝動状態に操作されても、1速段(低速領域)の伝動系及び2速段(低速領域)の伝動系の油圧クラッチにおいて、ピストンは中間位置に保持されない。
このことについて言い換えると、4速段(高速領域高速段)の伝動系を介して動力が伝達される状態から変速される場合、1段低速側の3速段(高速領域)の伝動系を介して動力が伝達される状態、又は、1段高速側の5速段(高速領域)の伝動系を介して動力が伝達される状態に変速されるので、1速段(低速領域)の伝動系及び2速段(低速領域)の伝動系の油圧クラッチにおいて、ピストンを中間位置に保持する必要は無い。
【0060】
これにより、低速領域の変速段の伝動系の油圧クラッチにおいて、ピストンが中間位置に保持されることにより、フリクショントルク(動力ロス)が増大するという不具合が避けられるのであり、フリクショントルク(動力ロス)が抑えられながら、変速が応答良く行われる走行用の伝動装置を得るという面で有利である。
【0061】
本発明において、前記低速領域の変速段の前記伝動系の前記油圧クラッチは、請求項6に記載の前記油圧クラッチであり、前記操作部は、前記高速領域高速段の前記伝動系の前記伝動クラッチの前記ピストンを前記押圧位置に向けて操作する作動油を供給する供給油路から分岐され、前記油室に接続されて、前記供給油路の一部の作動油を前記油室に供給する分岐油路であると好適である。
【0062】
本発明によると、前述の仮定において、例えば、4速段(高速領域高速段)の伝動系の伝動クラッチに作動油が供給されて、この伝動クラッチが伝動状態に操作される場合、作動油の一部が分岐油路を介して、1速段(低速領域)の伝動系及び2速段(低速領域)の伝動系の油圧クラッチの油室に供給される。この油圧クラッチにおいて、ピストンが離間位置に操作され、保持部材が許容位置に操作されるのであり、ピストンは中間位置に保持されない。
【0063】
これにより、高速領域高速段の伝動系の伝動クラッチへの作動油の供給油路に対して、分岐油路を設けることにより、低速領域の変速段の伝動系の油圧クラッチのピストンを中間位置に保持しない構成を得ることができるので、構造の簡素化を図ることができる。
【0064】
本発明の作業車は、動力源と、走行装置と、前記動力源の動力を前記走行装置に伝達する伝動系とが備えられ、請求項1~7のうちのいずれか一項に記載の前記油圧クラッチが、前記伝動系に設けられている。
【0065】
本発明によると、作業車において、走行装置への動力が遮断された状態から、走行装置に動力が伝達される状態に操作される場合、事前に油圧クラッチのピストンを保持部材により中間位置に保持しておくことができる。走行装置に動力が伝達される状態への操作が行われる際、油圧クラッチのピストンが中間位置から押圧位置に操作されて、油圧クラッチが伝動状態に操作される。
【0066】
これにより、走行装置への動力が遮断された状態から走行装置に動力が伝達される状態への操作が、フリクショントルク(動力ロス)が抑えられながら応答良く行われるので、伝動性能の良い作業車を得ることができる。
【0067】
本発明の作業車は、動力源と、走行装置と、前記動力源の動力を前記走行装置に伝達する請求項8に記載の走行用の前記伝動装置とを備えている。
【0068】
作業車に備えられた走行用の伝動装置として、伝動比が互いに異なる複数の変速段の伝動系が備えられ、摩擦板及びピストンを有する伝動クラッチが伝動系の各々に備えられたものがある。
この走行用の伝動装置では、複数の伝動系において、一つの伝動系の伝動クラッチが伝動状態に操作されると、この伝動系を介して動力が伝達される。別の伝動系の伝動クラッチが伝動状態に操作されると、この伝動系を介して動力が伝達されるのであり、伝動状態に操作される伝動クラッチを変更することにより、変速が行われる。
【0069】
本発明によると、前述の走行用の伝動装置において、伝動クラッチのうちの少なくとも一つが、摩擦板及びピストンに加えて保持部材を有する油圧クラッチである。
一つの伝動系を介して動力が伝達される状態から、油圧クラッチを有する伝動系を介して動力が伝達される状態に変速される場合、事前に油圧クラッチのピストンを保持部材により中間位置に保持しておくことができる。
変速が行われる際、動力が伝達されている伝動系において、伝動クラッチが遮断状態に操作される。油圧クラッチを有する伝動系において、油圧クラッチのピストンが中間位置から押圧位置に操作されて、油圧クラッチが伝動状態に操作される。
【0070】
これにより、一つの伝動系を介して動力が伝達される状態から、油圧クラッチを有する伝動系を介して動力が伝達される状態への変速が、フリクショントルク(動力ロス)が抑えられながら応答良く行われる作業車を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0071】
図1】トラクタの左側面図である。
図2】ミッションケースの内部を示す概略図である。
図3】伝動装置の断面図である。
図4】第1クラッチにおいて、ピストンが中間位置に操作された状態を示す断面図である。
図5】第1クラッチにおいて、ピストンが押圧位置に操作された状態を示す断面図である。
図6】第1クラッチにおいて、ピストンが離間位置に操作された状態を示す断面図である。
図7】出力軸の回転速度と無段変速装置の変速位置との関係を示す図である。
図8】変速ペダルの操作位置(1速レンジ~4速レンジ)と第1クラッチ~第4クラッチのピストン(保持部材)の位置との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0072】
図1図8に、本発明の油圧クラッチ及び走行用の伝動装置が備えられた作業車の一例であるトラクタが示されている。図1において、Fは前方向を示し、Bは後方向を示し、Uは上方向を示し、Dは下方向を示している。
【0073】
(トラクタの全体構成)
図1に示すように、右及び左の前輪6(走行装置に相当)と右及び左の後輪7(走行装置に相当)が機体5に設けられ、前輪6及び後輪7により機体5が支持されている。機体5は、エンジン1(動力源に相当)、エンジン1の後部に連結されたフライホイルハウジング2、フライホイルハウジング2の後部に連結されたミッションケース3、エンジン1の前部に連結された前部フレーム4等を有している。
【0074】
前輪6が前部フレーム4に設けられ、後輪7がミッションケース3の後部に設けられており、ボンネット8によりエンジン1が覆われている。運転部9が機体5に設けられており、運転部9はキャビン12により覆われている。運転座席10と前輪6を操向操作する操縦ハンドル11とが、運転部9に設けられている。
【0075】
各種の作業装置(図示せず)を連結可能なリンク機構13が、機体5の後部に設けられており、作業装置に動力を伝達するPTO軸14が、ミッションケース3の後部に設けられている。
【0076】
(ミッションケースの内部の概要)
図2に示すように、ミッションケース3に、第1遊星装置40、第2遊星装置50、無段変速装置18、伝動装置19(走行用の伝動装置に相当)、前後進切換装置20、後輪デフ装置21、前輪変速装置22、PTOクラッチ23及びPTO変速装置24等が設けられている。
【0077】
エンジン1の出力軸15の動力が、ダンパディスク16を介してミッションケース3の入力軸17に伝達され、入力軸17から伝動軸25及び伝動軸26に伝達される。伝動軸26の動力が、PTOクラッチ23に伝達され、PTO変速装置24により変速されて、PTO軸14に伝達される。
【0078】
エンジン1の出力軸15の動力が、ダンパディスク16を介して、第1遊星装置40、第2遊星装置50、無段変速装置18及び伝動装置19に伝達され変速されて、出力軸27に伝達される。
【0079】
出力軸27の動力は、伝動軸28から前後進切換装置20に伝達される。前後進切換装置20の動力は、伝動軸26に回転可能に取り付けられた円筒状の伝動軸29から伝動軸30に伝達され、後輪デフ装置21に伝達されて、右及び左の後輪7に伝達される。
【0080】
伝動軸30の動力が、伝動軸31に伝達され、伝動軸32を介して前輪変速装置22に伝達される。前輪変速装置22の動力が、前輪出力軸33から伝動軸34を介して前輪デフ装置35に伝達され、右及び左の前輪6に伝達される。
【0081】
(第1遊星装置及び第2遊星装置、無段変速装置の構成)
図2に示すように、第1遊星装置40は、太陽ギヤ41、リングギヤ42及び複数の遊星ギヤ43を有している。第2遊星装置50は、太陽ギヤ51、リングギヤ52及び複数の遊星ギヤ53,54を有している。
【0082】
第1遊星装置40及び第2遊星装置50の共有のキャリア55が設けられている。第1遊星装置40において、遊星ギヤ43は、太陽ギヤ41及びリングギヤ42と咬合しており、キャリア55に回転可能に取り付けられている。
【0083】
第2遊星装置50において、遊星ギヤ53,54は、互いに一体回転可能に連結されており、キャリア55に回転可能に取り付けられている。遊星ギヤ54は遊星ギヤ43と咬合しており、遊星ギヤ53は太陽ギヤ51及びリングギヤ52と咬合している。
【0084】
入力軸17の動力が、伝動軸36を介して第1遊星装置40のリングギヤ42に伝達される。入力軸17の動力が、伝動軸25と伝動軸26とを連結する伝動ギヤ37から、伝動軸38を介して無段変速装置18に伝達される。無段変速装置18は、静油圧式に構成されており、正転動力及び逆転動力を出力する。無段変速装置18の正転動力及び逆転動力が、出力軸39から第1遊星装置40の太陽ギヤ41に伝達される。
【0085】
エンジン1から無段変速装置18を介して第1遊星装置40の太陽ギヤ41に伝達された動力と、エンジン1から無段変速装置18を介さずに第1遊星装置40のリングギヤ42に伝達された動力とが、第1遊星装置40及び第2遊星装置50により合成される。
【0086】
第1遊星装置40及び第2遊星装置50により合成された動力が、第2遊星装置50のリングギヤ52から円筒状の出力軸44に伝達され、キャリア55から円筒状の出力軸45に伝達され、第2遊星装置50の太陽ギヤ51から円筒状の出力軸46に伝達される。
【0087】
(伝動装置の構成)
図2及び図3に示すように、伝動装置19は、第1クラッチCL1、第2クラッチCL2、第3クラッチCL3、第4クラッチCL4、入力ギヤ61,62,63,64及び出力軸27等を有している。
【0088】
出力軸44の出力ギヤ44aと第1クラッチCL1の入力ギヤ61とが咬合している。出力軸46の出力ギヤ46aと第2クラッチCL2の入力ギヤ62とが咬合しており、出力軸46の出力ギヤ46bと第4クラッチCL4の入力ギヤ64とが咬合している。出力軸45の出力ギヤ45aと第3クラッチCL3の入力ギヤ63とが咬合している。
【0089】
第1クラッチCL1が伝動状態に操作されると、第1遊星装置40及び第2遊星装置50により合成された動力が、第2遊星装置50のリングギヤ52から、出力軸44の出力ギヤ44a及び入力ギヤ61、第1クラッチCL1を介して出力軸27に伝達される。
【0090】
第2クラッチCL2が伝動状態に操作されると、第1遊星装置40及び第2遊星装置50により合成された動力が、第2遊星装置50の太陽ギヤ51から、出力軸46の出力ギヤ46a及び入力ギヤ62、第2クラッチCL2を介して出力軸27に伝達される。
【0091】
第3クラッチCL3が伝動状態に操作されると、第1遊星装置40及び第2遊星装置50により合成された動力が、キャリア55から、出力軸45の出力ギヤ45a及び入力ギヤ63、第3クラッチCL3を介して出力軸27に伝達される。
【0092】
第4クラッチCL4が伝動状態に操作されると、第1遊星装置40及び第2遊星装置50により合成された動力が、第2遊星装置50の太陽ギヤ51から、出力軸46の出力ギヤ46b及び入力ギヤ64、第4クラッチCL4を介して出力軸27に伝達される。
【0093】
(伝動装置における請求項との対応)
図2及び図3に示すように、伝動装置19において、入力ギヤ61が1速段(全ての変速段のうちの最低速段)の伝動系であり、第1クラッチCL1が、1速段の伝動系に設けられた伝動クラッチ及び油圧クラッチである。
【0094】
入力ギヤ62が、1速段の伝動系に対して1段高速側の2速段の伝動系であり、第2クラッチCL2が、2速段の伝動系に設けられた伝動クラッチ及び油圧クラッチである。
入力ギヤ63が、2速段の伝動系に対して1段高速側の3速段の伝動系であり、第3クラッチCL3が、3速段の伝動系に設けられた伝動クラッチである。
入力ギヤ64が、3速段の伝動系に対して1段高速側の4速段の伝動系であり、第4クラッチCL4が、4速段の伝動系に設けられた伝動クラッチである。
【0095】
以上の構成により、伝動比が互いに異なる複数の変速段の伝動系(入力ギヤ61~64)と、伝動系(入力ギヤ61~64)の各々に設けられた伝動クラッチ(第1クラッチCL1~第4クラッチCL4)とが備えられ、伝動クラッチ(第1クラッチCL1~第4クラッチCL4)が伝動状態に操作された伝動系(入力ギヤ61~64)を介して動力が伝達される走行用の伝動装置19が備えられている。
【0096】
伝動クラッチ(第1クラッチCL1~第4クラッチCL4)のうちの少なくとも一つが請求項1~6のうちのいずれか一項に記載の油圧クラッチ(第1クラッチCL1と第2クラッチCL2)である。
【0097】
全ての変速段(1速段~4速段)のうちの低速領域の変速段(1速段と2速段)の伝動系(入力ギヤ61,62)、及び全ての変速段(1速段~4速段)のうちの高速領域の変速段(3速段と4速段)の伝動系(入力ギヤ63,64)において、低速領域の変速段(1速段と2速段)の伝動系(入力ギヤ61,62)の伝動クラッチ(第1クラッチCL1と第2クラッチCL2)が、油圧クラッチ(第1クラッチCL1と第2クラッチCL2)である。
【0098】
(前後進切換装置の構成)
図2に示すように、前後進切換装置20は、前進クラッチCLF及び後進クラッチCLR、伝動軸28,29、中継ギヤ47等を有しており、出力軸27の動力が伝動軸28に伝達される。
【0099】
前後進切換装置20において、前進クラッチCLFが伝動状態に操作されると、伝動軸28の動力が、前進クラッチCLFを介して前進状態で伝動軸29に伝達され、伝動軸29から伝動軸30を介して後輪デフ装置21に伝達される。
【0100】
前後進切換装置20において、後進クラッチCLRが伝動状態に操作されると、伝動軸28の動力が、後進クラッチCLR及び中継ギヤ47を介して後進状態で伝動軸29に伝達され、伝動軸29から伝動軸30を介して後輪デフ装置21に伝達される。
【0101】
(前輪変速装置の構成)
図2に示すように、前輪変速装置22は、標準クラッチCLT、増速クラッチCLH、伝動軸32及び前輪出力軸33等を有している。
【0102】
前輪6が直進位置から右及び左の設定角度の範囲内に操作されると、前輪変速装置22において、標準クラッチCLTが伝動状態に操作される。この状態において、伝動軸30の動力が、伝動軸31,32及び標準クラッチCLTを介して前輪出力軸33に伝達されて、伝動軸34及び前輪デフ装置35を介して前輪6に伝達されるのであり、前輪6及び後輪7が同じ速度で駆動される。
【0103】
前輪6が右(左)の設定角度を越えて右(左)に操向操作されると、前輪変速装置22において、増速クラッチCLHが伝動状態に操作される。この状態において、伝動軸30の動力が、伝動軸31,32及び増速クラッチCLHを介して前輪出力軸33に伝達されて、伝動軸34及び前輪デフ装置35を介して前輪6に伝達されるのであり、前輪6が後輪7よりも高速で駆動される。
【0104】
(第3クラッチ及び第4クラッチの構成)
図3に示すように、伝動装置19において、第3クラッチCL3及び第4クラッチCL4は、油圧多板型式に構成されており、ケーシング56、摩擦板57、ピストン58、バネ受け部材60、バネ49等を有している。
【0105】
ケーシング56は、出力軸27に一体で回転可能に連結されている。円筒状の支持部63a,64aが、入力ギヤ63,64に備えられて、ケーシング56の内部に入り込んでいる。ケーシング56の内部において、ケーシング56と一体で回転する摩擦板57と、入力ギヤ63,64(支持部63a,64a)と一体で回転する摩擦板57とが、交互に配置されている。
【0106】
ピストン58は、リング状に構成されてケーシング56の内部に配置されており、摩擦板57を押圧した押圧位置A1、及び摩擦板57から離れた離間位置A2に移動可能である。
【0107】
バネ受け部材60は、円板状に構成されており、ケーシング56の内部に固定されている。バネ49がピストン58とバネ受け部材60とに亘って設けられており、バネ49によりピストン58が離間位置A2に付勢されている。
【0108】
(第1クラッチ及び第2クラッチの構成)
図3に示すように、伝動装置19において、第1クラッチCL1及び第2クラッチCL2は、油圧多板型式に構成されており、ケーシング56、摩擦板57、ピストン58、保持部材59、バネ受け部材60、バネ65(第1付勢部材に相当)及びバネ66(第2付勢部材に相当)等を有している。第1クラッチCL1は、第3クラッチCL3とケーシング56を共用しており、第2クラッチCL2は、第4クラッチCL4とケーシング56を共用している。
【0109】
円筒状の支持部61a,62aが、入力ギヤ61,62に備えられて、ケーシング56の内部に入り込んでいる。ケーシング56の内部において、ケーシング56と一体で回転する摩擦板57と、入力ギヤ61,62(支持部61a,62a)と一体で回転する摩擦板57とが、交互に配置されている。
【0110】
ピストン58は、リング状に構成されてケーシング56の内部に配置されており、摩擦板57を押圧する押圧位置A1(図5参照)、及び摩擦板57から離れた離間位置A2(図6参照)に移動可能である。
【0111】
図5及び図6に示すように、油室67がケーシング56とピストン58の背面部との間に形成されている。バネ66が油室67に設けられており、バネ66によりピストン58が押圧位置A1に向けて付勢されている。
【0112】
図3図6に示すように、第1クラッチCL1及び第2クラッチCL2において、保持部材59は、リング状に構成されてケーシング56の内部に配置されており、保持位置B1(図4参照)、及び保持位置B1に対して摩擦板57の側に位置した許容位置B2(図5及び図6参照)に移動可能である。
【0113】
バネ受け部材60は、円板状に構成されており、ケーシング56の内部に固定されている。バネ65が保持部材59とバネ受け部材60とに亘って設けられており、バネ65により保持部材59が保持位置B1に付勢されている。バネ66の付勢力は、バネ65の付勢力よりも小さな値に設定されている。油室68がピストン58と保持部材59との間に形成されており、後述するように油室67,68に対して作動油の給排操作が行われる。
【0114】
(第1クラッチ~第4クラッチにおける摩擦板及びピストンの関係)
図3に示すように、1速段の伝動系の第1クラッチCL1~4速段の伝動系の第4クラッチCL4において、第1クラッチCL1の摩擦板57の数が、第2クラッチCL2の摩擦板57の数よりも多い数に設定されている。
【0115】
第3クラッチCL3の摩擦板57の数が、第2クラッチCL2の摩擦板57の数よりも少ない数に設定されている。第4クラッチCL4の摩擦板57の数が、第3クラッチCL3の摩擦板57の数よりも少ない数に設定されている。
【0116】
図5及び図6に示すように、ピストン58の押圧位置A1と離間位置A2との間隔において、第1クラッチCL1のピストン58の間隔W1と、第2クラッチCL2のピストン58の間隔W1とが同じ値に設定されている。
【0117】
図3に示すように、ピストン58の押圧位置A1と離間位置A2との間隔において、第3クラッチCL3のピストン58の間隔W3が、第1クラッチCL1(第2クラッチCL2)のピストン58の間隔W1(図5及び図6参照)よりも小さい値に設定されている。第4クラッチCL4のピストン58の間隔W4が、第3クラッチCL3のピストン58の間隔W3よりも小さい値に設定されている。
【0118】
(第1クラッチ~第4クラッチのピストンにおける請求項との対応)
以上の構成により、押圧位置A1と離間位置A2との間隔において、高速領域の変速段(3速段と4速段)の伝動系(入力ギヤ63,64)の伝動クラッチ(第3クラッチCL3と第4クラッチCL4)の間隔W3,W4が、低速領域の変速段(1速段と2速段)の伝動系(入力ギヤ61,62)の油圧クラッチ(第1クラッチCL1と第2クラッチCL2)の間隔W1よりも小さなものに設定されている。
【0119】
(第1クラッチ~第4クラッチへの作動油の供給系の構成)
図3図6に示すように、供給油路71,72,73,74が、出力軸27の内部に設けられている。ポンプ(図示せず)からの作動油が、制御弁(図示せず)を介して供給油路71~74に供給され、作動油が供給油路71~74から制御弁を介して排出される。
【0120】
供給油路71が、第1クラッチCL1の油室67に接続され、供給油路72が、第2クラッチCL2の油室67に接続されている。供給油路73が、第3クラッチCL3のケーシング56とピストン58の背面部との間の油室に接続されている。
【0121】
供給油路74が、第4クラッチCL4のケーシング56とピストン58の背面部との間の油室に接続されており、供給油路74から分岐した分岐油路69(操作部に相当)が、第1クラッチCL1及び第2クラッチCL2の油室68に接続されている。
【0122】
(第3クラッチ及び第4クラッチの操作)
図3に示すように、作動油が供給油路73を介して第3クラッチCL3の油室に供給されると、ピストン58が押圧位置A1に操作されて、第3クラッチCL3は伝動状態に操作される。第3クラッチCL3の油室の作動油が供給油路73を介して排出されると、ピストン58が離間位置A2に操作されて、第3クラッチCL3は遮断状態に操作される。
【0123】
作動油が供給油路74を介して第4クラッチCL4の油室に供給されると、ピストン58が押圧位置A1に操作されて、第4クラッチCL4は伝動状態に操作される。第4クラッチCL4の油室の作動油が供給油路74を介して排出されると、ピストン58が離間位置A2に操作されて、第4クラッチCL4は遮断状態に操作される。
【0124】
図6に示すように、作動油が供給油路74を介して第4クラッチCL4の油室に供給されて、第4クラッチCL4が伝動状態に操作されると、供給油路74から分岐した作動油が、分岐油路69を介して第1クラッチCL1及び第2クラッチCL2の油室68に供給される。
【0125】
図4及び図5に示すように、第4クラッチCL4の油室の作動油が供給油路74を介して排出されて、第4クラッチCL4が遮断状態に操作されると、第1クラッチCL1及び第2クラッチCL2の油室68の作動油が、分岐油路69及び供給油路74を介して排出される。
【0126】
(第1クラッチの操作)―1
図5に示すように、作動油が供給油路71を介して第1クラッチCL1の油室67に供給される場合、第2,第3,第4クラッチCL2,CL3,CL4は遮断状態に操作されるので、第1クラッチCL1の油室68の作動油は分岐油路69及び供給油路74を介して排出される。
【0127】
油室67に作動油が供給され、油室68の作動油が排出された場合、油室67に供給された作動油の圧力はバネ65の付勢力よりも十分に強いので、ピストン58は、保持部材59をバネ65に抗して許容位置B2に押しながら、押圧位置A1に操作されて摩擦板57を押圧する。これにより、第1クラッチCL1は伝動状態となる。
【0128】
(第1クラッチの操作)―2
図4に示すように、第1クラッチCL1の油室67の作動油が供給油路71を介して排出される場合、第4クラッチCL4が遮断状態に操作されると、第1クラッチCL1の油室68の作動油が分岐油路69及び供給油路74を介して排出される。
【0129】
油室67,68の作動油が排出された場合、保持部材59は、バネ65により保持位置B1に移動し、保持位置B1で停止して保持される。ピストン58は、バネ66により押圧位置A1に向けて移動するが、保持位置B1の保持部材59に当たって止められる。
【0130】
前述のように、バネ66の付勢力がバネ65の付勢力よりも小さな値であるので、ピストン58(バネ66)は、保持部材59をバネ65に抗して押すことはできず、図4に示す位置に保持される。図4に示す位置は、押圧位置A1と離間位置A2との間の中間位置A3である。
【0131】
ピストン58が中間位置A3に位置した状態で、ケーシング56とピストン58の背面部との間隔W11と、摩擦板57とピストン58との間隔W12とにおいて、間隔W11が間隔W12よりも大きな値となるように、中間位置A3(保持位置B1)が設定されている。
【0132】
これにより、中間位置A3のピストン58は、押圧位置A1と離間位置A2との間の中央位置よりも摩擦板57に近い側に位置している。この場合、ピストン58は摩擦板57を押圧していないので、第1クラッチCL1は遮断状態となる。
第2クラッチCL2の中間位置A3(保持位置B1)も、第1クラッチCL1と同じに構成されている。
【0133】
(第1クラッチの操作)―3
図6に示すように、第1クラッチCL1の油室67の作動油が供給油路71を介して排出される場合、第4クラッチCL4が伝動状態に操作されると、供給油路74から分岐した作動油が分岐油路69を介して第1クラッチCL1の油室68に供給される。
【0134】
油室67の作動油が排出され、油室68に作動油が供給された場合、油室68に供給された作動油の圧力はバネ65,66の付勢力よりも十分に強いので、ピストン58はバネ66に抗して離間位置A2に操作され、保持部材59はバネ65に抗して許容位置B2に操作される。これにより、第1クラッチCL1は遮断状態となる。
【0135】
(第2クラッチの操作)
第2クラッチCL2は、前述の第1クラッチCL1の操作と同様に、以下の説明のように操作される。
【0136】
作動油が供給油路72を介して第2クラッチCL2の油室67に供給される場合、第1,第3,第4クラッチCL1,CL3,CL4は遮断状態に操作されるので、第2クラッチCL2の油室68の作動油は分岐油路69及び供給油路74を介して排出される。これにより、第2クラッチCL2のピストン58が押圧位置A1に操作されて、第2クラッチCL2は伝動状態となる(図5参照)。
【0137】
第2クラッチCL2の油室67の作動油が供給油路72を介して排出される場合、第4クラッチCL4が遮断状態に操作されると、第2クラッチCL2の油室68の作動油が分岐油路69及び供給油路74を介して排出される。これにより、第2クラッチCL2のピストン58が中間位置A3に操作されて、第2クラッチCL2は遮断状態となる(図4参照)。
【0138】
第2クラッチCL2の油室67の作動油が供給油路72を介して排出される場合、第4クラッチCL4が伝動状態に操作されると、供給油路74から分岐した作動油が分岐油路69を介して第2クラッチCL2の油室68に供給される。これにより、第2クラッチCL2のピストン58が離間位置A2に操作されて、第2クラッチCL2は遮断状態となる(図6参照)。
【0139】
(第1クラッチ~第4クラッチにおける請求項との対応)
以上の構成により、伝動クラッチ(第3クラッチCL3と第4クラッチCL4)は、動力を伝達可能な摩擦板57と、摩擦板57を押圧して動力が伝達される伝動状態が得られる押圧位置A1、及び、摩擦板57から離れて動力が遮断される遮断状態が得られる離間位置A2に移動可能で、押圧位置A1に向けて操作する作動油が供給されることにより押圧位置A1に操作されるピストン58とを有している。
【0140】
動力を伝達可能な摩擦板57と、摩擦板57を押圧して動力が伝達される伝動状態が得られる押圧位置A1、及び、摩擦板57から離れて動力が遮断される遮断状態が得られる離間位置A2に移動可能で、押圧位置A1に向けて操作する作動油が供給されることにより押圧位置A1に操作されるピストン58と、ピストン58が当たることによりピストン58を押圧位置A1と離間位置A2との間の中間位置A3に保持及び解除可能な保持部材59とが備えられている油圧クラッチ(第1クラッチCL1と第2クラッチCL2)が備えられている。
中間位置A3は、押圧位置A1と離間位置A2との間の中央位置よりも摩擦板57に近い側に設定されている。
【0141】
保持部材59は、ピストン58を中間位置A3に保持可能な保持位置B1、及び、保持位置B1に対して摩擦板57の側に位置して、ピストン58の押圧位置A1への移動を許容する許容位置B2に移動可能である。
【0142】
保持部材59を保持位置B1に向けて付勢する第1付勢部材(バネ65)が備えられている。ピストン58を押圧位置A1に向けて付勢し、第1付勢部材(バネ65)よりも付勢力の小さい第2付勢部材(バネ66)が備えられている。
【0143】
第1付勢部材(バネ65)により保持位置B1に操作された保持部材59に、第2付勢部材(バネ66)により押圧位置A1に向けて移動しようとするピストン58が当たることにより、ピストン58が中間位置A3に保持される。
【0144】
ピストン58を押圧位置A1に向けて操作する作動油が供給されることにより、第1付勢部材(バネ65)に抗して、ピストン58が押圧位置A1に操作され、ピストン58により保持部材59が許容位置B2に操作される。
【0145】
ピストン58を離間位置A2に向けて操作する作動油が供給されることにより、第2付勢部材(バネ66)に抗して、ピストン58が離間位置A2に操作される。
ピストン58と保持部材59との間に形成された油室68が備えられている。油室68に作動油が供給されることにより、第2付勢部材(バネ66)に抗してピストン58が離間位置A2に操作され、第1付勢部材(バネ65)に抗して保持部材59が許容位置B2に操作される。
【0146】
(無段変速装置及び伝動装置による変速の概要)
図1に示すように、変速ペダル48が運転部9に設けられている。変速ペダル48は、停止位置から最高速位置まで踏み操作可能であり、停止位置に付勢されている。変速ペダル48の停止位置と最高速位置の間の操作範囲において、1速レンジ、2速レンジ、3速レンジ、4速レンジが設定されている。変速ペダル48の停止位置が、1速レンジの最低速位置であり、変速ペダル48の最高速位置が4速レンジの最高速位置である。
【0147】
図7において、1速レンジ~4速レンジにおける無段変速装置18と第1クラッチCL1~第4クラッチCL4との関係が示されており、出力軸27(図2及び図3参照)の回転速度V、無段変速装置18の中立位置N、正転最高速位置FMAX及び逆転最高速位置RMAXが示されている。
【0148】
図8において、変速ペダル48の操作位置(1速レンジ~4速レンジ)と、第1クラッチCL1のピストン58及び保持部材59の位置、第2クラッチCL2のピストン58及び保持部材59の位置、第3クラッチCL3のピストン58の位置、第4クラッチCL4のピストン58の位置との関係が示されている。
【0149】
後述するように、変速ペダル48が1速レンジに操作されると、第1クラッチCL1が伝動状態に操作されて、変速ペダル48の操作位置に対応して、無段変速装置18が正転最高速位置FMAX及び逆転最高速位置RMAXの範囲で操作される。
変速ペダル48が2速レンジに操作されると、第2クラッチCL2が伝動状態に操作されて、変速ペダル48の操作位置に対応して、無段変速装置18が正転最高速位置FMAX及び逆転最高速位置RMAXの範囲で操作される。
【0150】
後述するように、変速ペダル48が3速レンジに操作されると、第3クラッチCL3が伝動状態に操作されて、変速ペダル48の操作位置に対応して、無段変速装置18が正転最高速位置FMAX及び逆転最高速位置RMAXの範囲で操作される。
変速ペダル48が4速レンジに操作されると、第4クラッチCL4が伝動状態に操作されて、変速ペダル48の操作位置に対応して、無段変速装置18が正転最高速位置FMAX及び逆転最高速位置RMAXの範囲で操作される。
【0151】
(変速ペダルの停止位置での無段変速装置及び伝動装置による変速状態)
変速ペダル48が停止位置に操作されると、図3に示すように、作動油が供給油路71~74及び分岐油路69から排出され、無段変速装置18が逆転最高速位置RMAXに操作される。
【0152】
図8に示すように、第1クラッチCL1及び第2クラッチCL2において、保持部材59が保持位置B1に操作され、ピストン58が中間位置A3に操作される(図4参照)。第3クラッチCL3及び第4クラッチCL4において、ピストン58が離間位置A2に操作される。これにより、第1クラッチCL1~第4クラッチCL4が遮断状態に操作される。
【0153】
(変速ペダルの1速レンジでの無段変速装置及び伝動装置による変速状態)
変速ペダル48が1速レンジに操作されると、図3に示すように、作動油が供給油路71に供給され、作動油が供給油路72,73,74及び分岐油路69から排出される。
【0154】
図8に示すように、第1クラッチCL1において、ピストン58が押圧位置A1に操作され、保持部材59が許容位置B2に操作される(図5参照)。第2クラッチCL2において、保持部材59が保持位置B1に操作され、ピストン58が中間位置A3に操作される(図4参照)。第3クラッチCL3及び第4クラッチCL4において、ピストン58が離間位置A2に操作される。これにより、第1クラッチCL1が伝動状態に操作され、第2,第3,第4クラッチCL2,CL3,CL4が遮断状態に操作される。
【0155】
図2に示すように、第1クラッチCL1が伝動状態に操作されると、第1遊星装置40及び第2遊星装置50により合成された動力が、第2遊星装置50のリングギヤ52から第1クラッチCL1を介して、出力軸27に伝達される。
【0156】
前述の状態において、図7の1速レンジに示すように、変速ペダル48により、1速レンジの最低速位置(変速ペダル48の停止位置)で無段変速装置18が逆転最高速位置RMAXに操作され、1速レンジの最高速位置で無段変速装置18が正転最高速位置FMAXに操作されて、無段変速装置18が逆転最高速位置RMAXと正転最高速位置FMAXとに亘って操作され、出力軸27の回転速度Vが零速度と速度V1との間で無段階に変速操作される。
【0157】
(変速ペダルの2速レンジでの無段変速装置及び伝動装置による変速状態)
変速ペダル48が2速レンジに操作されると、図3に示すように、作動油が供給油路72に供給され、作動油が供給油路71,73,74及び分岐油路69から排出される。
【0158】
図8に示すように、第1クラッチCL1において、保持部材59が保持位置B1に操作され、ピストン58が中間位置A3に操作される(図4参照)。第2クラッチCL2において、ピストン58が押圧位置A1に操作され、保持部材59が許容位置B2に操作される(図5参照)。第3クラッチCL3及び第4クラッチCL4において、ピストン58が離間位置A2に操作される。これにより、第2クラッチCL2が伝動状態に操作され、第1,第3,第4クラッチCL1,CL3,CL4が遮断状態に操作される。
【0159】
図2に示すように、第2クラッチCL2が伝動状態に操作されると、第1遊星装置40及び第2遊星装置50により合成された動力が、第2遊星装置50の太陽ギヤ51から第2クラッチCL2を介して、出力軸27に伝達される。
【0160】
前述の状態において、図7の2速レンジに示すように、変速ペダル48により、2速レンジの最低速位置で無段変速装置18が正転最高速位置FMAXに操作され、2速レンジの最高速位置で無段変速装置18が逆転最高速位置RMAXに操作されて、無段変速装置18が正転最高速位置FMAXと逆転最高速位置RMAXとに亘って操作され、出力軸27の回転速度Vが速度V1と速度V2との間で無段階に変速操作される。
【0161】
(変速ペダルの3速レンジでの無段変速装置及び伝動装置による変速状態)
変速ペダル48が3速レンジに操作されると、図3に示すように、作動油が供給油路73に供給され、作動油が供給油路71,72,74及び分岐油路69から排出される。
【0162】
図8に示すように、第1クラッチCL1及び第2クラッチCL2において、保持部材59が保持位置B1に操作され、ピストン58が中間位置A3に操作される(図4参照)。第3クラッチCL3において、ピストン58が押圧位置A1に操作される。第4クラッチCL4において、ピストン58が離間位置A2に操作される。これにより、第3クラッチCL3が伝動状態に操作され、第1,第2,第4クラッチCL1,CL2,CL4が遮断状態に操作される。
【0163】
図2に示すように、第3クラッチCL3が伝動状態に操作されると、第1遊星装置40及び第2遊星装置50により合成された動力が、キャリア55から第3クラッチCL3を介して、出力軸27に伝達される。
【0164】
前述の状態において、図7の3速レンジに示すように、変速ペダル48により、3速レンジの最低速位置で無段変速装置18が逆転最高速位置RMAXに操作され、3速レンジの最高速位置で無段変速装置18が正転最高速位置FMAXに操作されて、無段変速装置18が逆転最高速位置RMAXと正転最高速位置FMAXとに亘って操作され、出力軸27の回転速度Vが速度V2と速度V3との間で無段階に変速操作される。
【0165】
(変速ペダルの4速レンジでの無段変速装置及び伝動装置による変速状態)
変速ペダル48が4速レンジに操作されると、図3に示すように、作動油が供給油路74及び分岐油路69に供給され、作動油が供給油路71,72,73から排出される。
【0166】
図8に示すように、第1クラッチCL1及び第2クラッチCL2において、ピストン58が離間位置A2に操作され、保持部材59が許容位置B2に操作される(図6参照)。第3クラッチCL3において、ピストン58が離間位置A2に操作される。第4クラッチCL4において、ピストン58が押圧位置A1に操作される。これにより、第4クラッチCL4が伝動状態に操作され、第1,第2,第3クラッチCL1,CL2,CL3が遮断状態に操作される。
【0167】
図2に示すように、第4クラッチCL4が伝動状態に操作されると、第1遊星装置40及び第2遊星装置50により合成された動力が、第2遊星装置50の太陽ギヤ51から第4クラッチCL4を介して、出力軸27に伝達される。
【0168】
前述の状態において、図7の4速レンジに示すように、変速ペダル48により、4速レンジの最低速位置で無段変速装置18が正転最高速位置FMAXに操作され、4速レンジの最高速位置(変速ペダル48の最高速位置)で無段変速装置18が逆転最高速位置RMAXに操作されて、無段変速装置18が正転最高速位置FMAXと逆転最高速位置RMAXとに亘って操作され、出力軸27の回転速度Vが速度V3と速度V4との間で無段階に変速操作される。
【0169】
(分岐油路における請求項との対応)
以上の構成により、油圧クラッチ(第1クラッチCL1と第2クラッチCL2)を有する伝動系(入力ギヤ61,62)に対して隣接する伝動比の伝動系(入力ギヤ63)の伝動クラッチ(第3クラッチCL3)が伝動状態に操作されると、油圧クラッチ(第1クラッチCL1と第2クラッチCL2)のピストン58を、保持部材59により中間位置A3に保持する操作部(分岐油路69)が備えられている。
【0170】
操作部(分岐油路69)は、全ての変速段のうちの最低速段(1速段)の伝動系(入力ギヤ61)の伝動クラッチ(第1クラッチCL1)が伝動状態に操作されると、最低速段(1速段)の伝動系(入力ギヤ61)に対して1段高速側の変速段(2速段)の伝動系(入力ギヤ62)の油圧クラッチ(第2クラッチCL2)のピストン58を、保持部材59により中間位置A3に保持する。
【0171】
操作部(分岐油路69)は、最低速段(1速段)の伝動系(入力ギヤ61)よりも高速側の変速段(3速段)の伝動系(入力ギヤ63)の伝動クラッチ(第3クラッチCL3)が伝動状態に操作されると、伝動クラッチ(第3クラッチCL3)が伝動状態に操作された伝動系(入力ギヤ63)に対して1段低速側の変速段(2速段)の伝動系(入力ギヤ62)の油圧クラッチ(第2クラッチCL2)のピストン58を、保持部材59により中間位置A3に保持する。
【0172】
高速領域の変速段(3速段と4速段)の伝動系(入力ギヤ63,64)のうちの最低速の変速段(3速段)の伝動系(入力ギヤ63)に対して高速側である高速領域高速段(4速段)の伝動系(入力ギヤ64)が存在する。
【0173】
操作部(分岐油路69)は、高速領域高速段(4速段)の伝動系(入力ギヤ64)の伝動クラッチ(第4クラッチCL4)が伝動状態に操作されても、低速領域の変速段(1速段と2速段)の伝動系(入力ギヤ61,62)の油圧クラッチ(第1クラッチCL1と第2クラッチCL2)のピストン58を中間位置A3に保持しない。
【0174】
操作部(分岐油路69)は、高速領域高速段(4速段)の伝動系(入力ギヤ64)の伝動クラッチ(第4クラッチCL4)のピストン58を押圧位置A1に向けて操作する作動油を供給する供給油路74から分岐され、油室68に接続されて、供給油路74の一部の作動油を油室68に供給する分岐油路69である。
【0175】
(作業車における請求項との対応)
以上の構成により、動力源(エンジン1)と、走行装置(前輪6と後輪7)と、動力源(エンジン1)の動力を走行装置(前輪6と後輪7)に伝達する伝動系(入力ギヤ61,62)とが備えられ、請求項1~7のうちのいずれか一項に記載の油圧クラッチ(第1クラッチCL1と第2クラッチCL2)が、伝動系(入力ギヤ61,62)に設けられている作業車(トラクタ)である。
【0176】
動力源(エンジン1)と、走行装置(前輪6と後輪7)と、動力源(エンジン1)の動力を走行装置(前輪6と後輪7)に伝達する請求項8に記載の走行用の伝動装置19とを備えている作業車(トラクタ)である。
【0177】
(発明の実施の第1別形態)
図3図6に示す分岐油路69が廃止されて、第1クラッチCL1の油室68に作動油を給排操作する油路(図示せず)及び制御弁(図示せず)と、第2クラッチCL2の油室68に作動油を給排操作する油路(図示せず)及び制御弁(図示せず)とが設けられてもよい。
【0178】
前述の構成において、供給油路71~74に作動油を給排操作する4個の制御弁と、第1クラッチCL1及び第2クラッチCL2の油室68に作動油を給排操作する2個の制御弁とが操作されることにより、図8に示す状態が得られるように構成すればよい。
この場合、第1クラッチCL1及び第2クラッチCL2の油室68に作動油を給排操作する油路及び制御弁が、操作部となる。
【0179】
(発明の実施の第2別形態)
図2及び図3に示す第1クラッチCL1~第4クラッチCL4において、1個だけが保持部材59を有して中間位置A3が設定可能なものに構成され、他の3個が保持部材59を有せず中間位置A3が設定不可なものに構成されてもよい。
【0180】
図2及び図3に示す第1クラッチCL1~第4クラッチCL4において、3個だけが保持部材59を有して中間位置A3が設定可能なものに構成され、残りの1個が保持部材59を有せず中間位置A3が設定不可なものに構成されてもよい。
図2及び図3に示す第1クラッチCL1~第4クラッチCL4の全てが、保持部材59を有して中間位置A3が設定可能なものに構成されてもよい。
【0181】
(発明の実施の第3別形態)
前述の(発明の実施の第2別形態)に記載のように構成された場合、前述の(発明の実施の第1別形態)に記載の構成が採用されるとよい。
【0182】
(発明の実施の第4別形態)
伝動装置19において、4個の伝動系に加えて、1個又は複数個の伝動系が追加され、追加された伝動系に伝動クラッチ(油圧クラッチ)が備えられてもよい。
【0183】
図2及び図3に示す伝動装置19において、例えば5個の伝動系が備えられた場合、1速段と2速段とが低速領域の変速段の伝動系とされ、3速段と4速段と5速段とが高速領域の変速段の伝動系とされてもよい。この場合、4速段又は5速段の変速段の伝動クラッチが伝動状態に操作されると、1速段と2速段の伝動系の第1クラッチCL1及び第2クラッチCL2のピストン58が中間位置A3に操作されるように構成されてもよい。
【0184】
図2及び図3に示す伝動装置19において、例えば5個の伝動系が備えられた場合、1速段と2速段と3速段とが低速領域の変速段の伝動系とされ、4速段と5速段とが高速領域の変速段の伝動系とされてもよい。この場合、5速段の変速段の伝動クラッチが伝動状態に操作されると、1速段と2速段と3速段の伝動系の第1,第2,第3クラッチCL1,CL2,CL3のピストン58が中間位置A3に操作されるように構成されてもよい。
【0185】
(発明の実施の第5別形態)
第1クラッチCL1及び第2クラッチCL2において、中間位置A3が、押圧位置A1と離間位置A2との間の中央位置に設定されてもよく、押圧位置A1と離間位置A2との間の中央位置よりも摩擦板57から遠い側に設定されてもよい。
【0186】
(発明の実施の第5別形態における請求項との対応)
以上の構成により、中間位置A3は、押圧位置A1と離間位置A2との間の中央位置よりも摩擦板57から遠い側に設定されている。
【0187】
(発明の実施の第6別形態)
第1クラッチCL1の中間位置A3が、押圧位置A1と離間位置A2との間の中央位置よりも摩擦板57から遠い側に設定され、第2クラッチCL2の中間位置A3が、押圧位置A1と離間位置A2との間の中央位置よりも摩擦板57に近い側に設定されてもよい。
【0188】
第1クラッチCL1の中間位置A3が、押圧位置A1と離間位置A2との間の中央位置よりも摩擦板57に近い側に設定され、第2クラッチCL2の中間位置A3が、押圧位置A1と離間位置A2との間の中央位置よりも摩擦板57から遠い側に設定されてもよい。
【0189】
第1クラッチCL1の中間位置A3及び第2クラッチCL2の中間位置A3が、押圧位置A1と離間位置A2との間の中央位置よりも摩擦板57に近い側に設定され、この状態で互いに異なる位置に設定されてもよい。
【0190】
第1クラッチCL1の中間位置A3及び第2クラッチCL2の中間位置A3が、押圧位置A1と離間位置A2との間の中央位置よりも摩擦板57から遠い側に設定され、この状態で互いに異なる位置に設定されてもよい。
【0191】
(発明の実施の第7別形態)
図2に示す第1遊星装置40及び第2遊星装置50が廃止され、複数個の伝動装置19が直列に接続されて、走行系の伝動系がミッションケース3の内部に構成されてもよい。
【0192】
複数個の伝動装置19が直列に接続された構成において、伝動装置19の伝動系の数が互いに異なるものに設定されてもよい。この場合、伝動系の数が多い伝動装置19が、主の伝動装置19とされ、伝動系の数の少ない伝動装置19が、副の伝動装置19とされてもよい。
【0193】
(発明の実施の第8別形態)
エンジン1に代えてモータ(図示せず)が動力源として備えられてもよく、エンジン1とモータ(図示せず)とが組み合わされハイブリッド型式の動力源が備えられてもよい。
【0194】
(発明の実施の第9別形態)
後輪7に代えて、クローラ走行装置が後の走行装置として備えられてもよい。この構成によると、前の走行装置である右及び左の前輪6と、後の走行装置である右及び左のクローラ走行装置が備えられる。
前輪6及び後輪7が廃止されて、右及び左のクローラ走行装置が走行装置として備えられてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0195】
本発明は、トラクタばかりではなく、コンバインや乗用型田植機等の農業用の作業車にも適用でき、この農業用の作業車に装備される油圧クラッチ及び走行用の伝動装置にも適用できる。バックホウやホイルローダ等の建設用の作業車にも適用でき、この建設用の作業車に装備される油圧クラッチ及び走行用の伝動装置にも適用できる。
【符号の説明】
【0196】
1 エンジン(動力源)
6 前輪(走行装置)
7 後輪(走行装置)
19 伝動装置
57 摩擦板
58 ピストン
59 保持部材
61 入力ギヤ(伝動系)
62 入力ギヤ(伝動系)
63 入力ギヤ(伝動系)
64 入力ギヤ(伝動系)
65 バネ(第1付勢部材)
66 バネ(第2付勢部材)
68 油室
69 分岐油路(操作部)
74 供給油路
A1 押圧位置
A2 離間位置
A3 中間位置
B1 保持位置
B2 許容位置
CL1 第1クラッチ(伝動クラッチ)(油圧クラッチ)
CL2 第2クラッチ(伝動クラッチ)(油圧クラッチ)
CL3 第3クラッチ(伝動クラッチ)
CL1 第4クラッチ(伝動クラッチ)
W1 間隔
W3 間隔
W4 間隔
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8