(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025025703
(43)【公開日】2025-02-21
(54)【発明の名称】水中作業用パワーアシストスーツ駆動装置、およびパワーアシストスーツシステム
(51)【国際特許分類】
B25J 11/00 20060101AFI20250214BHJP
A61F 2/74 20060101ALI20250214BHJP
A61F 2/08 20060101ALI20250214BHJP
B63C 11/04 20060101ALI20250214BHJP
【FI】
B25J11/00 Z
A61F2/74
A61F2/08
B63C11/04 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023130752
(22)【出願日】2023-08-10
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
(71)【出願人】
【識別番号】511132351
【氏名又は名称】北日本海事興業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】502340996
【氏名又は名称】学校法人法政大学
(71)【出願人】
【識別番号】523306357
【氏名又は名称】有限会社共和海事工業所
(74)【代理人】
【識別番号】100119264
【弁理士】
【氏名又は名称】富沢 知成
(72)【発明者】
【氏名】石井 千春
(72)【発明者】
【氏名】椚原 大輔
(72)【発明者】
【氏名】舘石 健幸
【テーマコード(参考)】
3C707
4C097
【Fターム(参考)】
3C707AS28
3C707AS38
3C707CY25
3C707HS21
3C707XK02
3C707XK06
3C707XK17
3C707XK42
3C707XK86
4C097AA20
4C097BB02
4C097BB08
4C097TB01
4C097TB08
(57)【要約】 (修正有)
【課題】防波堤基礎部に投入する捨石の敷き均し作業など、水中における重量物運搬に適したパワーアシストスーツの駆動技術を提供すること。
【解決手段】空気圧人工筋肉方式の水中作業用パワーアシストスーツを駆動するための装置であって、パワーアシストスーツ駆動用として送気ホースAHから分岐された圧縮空気を減圧するレギュレータ1と、レギュレータ1により減圧された圧縮空気のパワーアシストスーツへの供給を制御する制御部3と、制御部3を構成する少なくとも一部の要素を収容する防水性かつ耐圧性の容器8とからなる水中作業用パワーアシストスーツ駆動装置とする。レギュレータ1は、水圧の感知に基づき送気する圧縮空気の圧力を自動的に一定に調整する、ダイアフラム方式にて形成する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気圧人工筋肉方式の水中作業用パワーアシストスーツを駆動するための装置であって、
パワーアシストスーツ駆動用として送気ホースから分岐された圧縮空気を減圧するレギュレータと、
該レギュレータにより減圧された圧縮空気のパワーアシストスーツへの供給を制御する制御部と、
該制御部を構成する少なくとも一部の要素を収容する防水性かつ耐圧性の容器とからなることを特徴とする、
水中作業用パワーアシストスーツ駆動装置。
【請求項2】
前記レギュレータは、水圧の感知に基づき送気する圧縮空気の圧力を自動的に一定に調整する方式にて形成されていることを特徴とする、請求項1に記載の水中作業用パワーアシストスーツ駆動装置。
【請求項3】
前記レギュレータは、送気する圧縮空気の圧力をパワーアシストスーツ装着者が任意で調整できる任意調整手段を備えていることを特徴とする、請求項2に記載の水中作業用パワーアシストスーツ駆動装置。
【請求項4】
前記制御部は、
前記容器内に収容されている電磁弁制御部、ならびにその他の駆動用もしくは制御用の機器からなる自余機器一式と、
該電磁弁制御部による制御を受ける電磁弁ユニットと、
該電磁弁ユニットを機能させる指令に係る指令入力部とからなり、
該電磁弁ユニットは、パワーアシストスーツ駆動用の圧縮空気の吸気、給気および排気を制御する
ことを特徴とする、請求項2に記載の水中作業用パワーアシストスーツ駆動装置。
【請求項5】
前記電磁弁ユニットは該容器外に設けられていることを特徴とする、請求項4に記載の水中作業用パワーアシストスーツ駆動装置。
【請求項6】
前記電磁弁ユニットはモールド処理により防水処理されていることを特徴とする、請求項5に記載の水中作業用パワーアシストスーツ駆動装置。
【請求項7】
前記制御部は、空気圧人工筋肉の駆動について、駆動指令後駆動開始までの時間の設定可能に形成されていることを特徴とする、請求項4、5のいずれかに記載の水中作業用パワーアシストスーツ駆動装置。
【請求項8】
前記容器は本パワーアシストスーツ装着者が装着可能に形成されていることを特徴とする、請求項4、5のいずれかに記載の水中作業用パワーアシストスーツ駆動装置。
【請求項9】
前記指令入力部は該装着者が手許にて入力可能に形成されていることを特徴とする、請求項4、5のいずれかに記載の水中作業用パワーアシストスーツ駆動装置。
【請求項10】
前記指令入力部は該装着者の手許での入力以外の入力方式によることを特徴とする、請求項4、5のいずれかに記載の水中作業用パワーアシストスーツ駆動装置。
【請求項11】
空気式人工筋肉で駆動するパワーアシストスーツ装着者の補助用であることを特徴とする、請求項4、5のいずれかに記載の水中作業用パワーアシストスーツ駆動装置。
【請求項12】
重量物運搬作業等の水中作業に用いられることを特徴とする、請求項4、5のいずれかに記載の水中作業用パワーアシストスーツ駆動装置。
【請求項13】
請求項4、5のいずれかに記載の水中作業用パワーアシストスーツ駆動装置、該水中作業用パワーアシストスーツ駆動装置が装備されるパワーアシストスーツ、および該パワーアシストスーツに送気する送気手段からなることを特徴とする、パワーアシストスーツシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水中作業用パワーアシストスーツ駆動装置、およびパワーアシストスーツシステムに係り、特に、水中作業を行う者の身体にかかる負担を効果的に軽減することのできる技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
潜水士が携わる種々の水中での業務の中でも、代表的な作業といえるのが、防波堤基礎部に投入する捨て石の敷き均し作業である。これは、潜水士が30~300kg/個程度の石を抱きかかえて移動させたり、転がしたりしながら、基礎石の面が平らになるようにする作業である。この作業では、潜水士の肘に大きな負荷が掛かり、繰り返し疲労することが分かっている。
【0003】
作業者の身体的負担を軽減するための技術としては、従来パワーアシストスーツ(PAS)が提供され、特許出願等もなされている。たとえば後掲特許文献1には、装着者の腰部に対する大腿部の揺動角度範囲を適切に制限して身体的負荷を軽減するパワーアシストスーツとして、腰周りに装着される装具、装具と装着者の大腿部とに装着されて装着者の腰部―大腿部間の動作を支援する従動プーリ付きのアシスト部、およびアシストトルクを発生させる動力部を有し、従動プーリには、大腿装着部に接続するアームと、腰部に対する大腿部の揺動範囲であるアームの揺動範囲を規制するストッパ機構が設けられる、という構成が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、農作業に適したパワーアシストスーツとして、装着者の背中に沿って装着されるループ状の線状部材からなる弾性部、一端が弾性部に取り付けられて装着者の肩部に巻回される一対の肩ベルト、一端が弾性部に取り付けられて装着者の下肢に巻回される一対の脚ベルト、および装着者の腰部に弾性部が接触するよう腰部を巻回する腰ベルトからなり、線状部材が装着者の動作による荷重では伸長し難い部材からなる構成が開示されている。これにより、装着者の前屈動作、側屈動作、捻り方向の動作等さまざまな動作に対してアシスト効果を発揮するとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-93310号公報「パワーアシストスーツ」
【特許文献2】特開2021-145711号公報「農業用アシストスーツ」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このように、作業者の身体的負担を軽減するための技術としてパワーアシストスーツは有効であるが、防波堤基礎部に投入する捨て石の敷き均し作業における肘への負荷の軽減等のような、水中作業に適したパワーアシストスーツは未だに提供されていない。そこで本発明が解決しようとする課題は、水中作業に適したパワーアシストスーツ、およびそれを実現するために必要な駆動装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明者は上記課題を掲げ、特に捨て石の敷き均し作業における肘への負荷軽減を目標に掲げて研究開発を行った。その結果、下記の成果を得た。
成果1:パワーアシストスーツは外骨格型とし、固いフレーム等を配置し、肘に助力を行う構造とすること。
成果2:パワーアシストスーツの駆動装置としての防水耐圧容器、空気供給用分圧レギュレータ、および水中スイッチの開発。
成果3:特に防水耐圧容器は、電源スイッチの制御回路、マイクロコンピュータ、およびマイクロバッテリーを収納して、水深30mまで潜水可能な仕様を開発。
成果4:また空気供給用分圧レギュレータは、船上から潜水士用に送気される1MPaの空気を分岐して0.5MPa程度に減圧し、人工筋肉に送気可能で、水圧を自動的に感知し送気する空気圧を一定に保持可能な仕様を開発。
【0008】
これらの成果が得られたことにより上記課題を解決できる確かな見通しが得られ、これに基づいて本発明を完成するに至った。すなわち、上記課題を解決するための手段として本願で特許請求される発明、もしくは少なくとも開示される発明は、以下の通りである。
【0009】
〔1〕 空気圧人工筋肉方式の水中作業用パワーアシストスーツを駆動するための装置であって、パワーアシストスーツ駆動用として送気ホースから分岐された圧縮空気を減圧するレギュレータと、該レギュレータにより減圧された圧縮空気のパワーアシストスーツへの供給を制御する制御部と、該制御部を構成する少なくとも一部の要素を収容する防水性かつ耐圧性の容器とからなることを特徴とする、水中作業用パワーアシストスーツ駆動装置。
〔2〕 前記レギュレータは、水圧の感知に基づき送気する圧縮空気の圧力を自動的に一定に調整する方式にて形成されていることを特徴とする、〔1〕に記載の水中作業用パワーアシストスーツ駆動装置。
〔3〕 前記レギュレータは、送気する圧縮空気の圧力をパワーアシストスーツ装着者が任意で調整できる任意調整手段を備えていることを特徴とする、〔2〕に記載の水中作業用パワーアシストスーツ駆動装置。
〔4〕 前記制御部は、前記容器内に収容されている電磁弁制御部、ならびにその他の駆動用もしくは制御用の機器からなる自余機器一式と、該電磁弁制御部による制御を受ける電磁弁ユニットと、該電磁弁ユニットを機能させる指令に係る指令入力部とからなり、該電磁弁ユニットは、パワーアシストスーツ駆動用の圧縮空気の吸気、給気および排気を制御することを特徴とする、〔2〕に記載の水中作業用パワーアシストスーツ駆動装置。
【0010】
〔5〕 前記電磁弁ユニットは該容器外に設けられていることを特徴とする、〔4〕に記載の水中作業用パワーアシストスーツ駆動装置。
〔6〕 前記電磁弁ユニットはモールド処理により防水処理されていることを特徴とする、〔5〕に記載の水中作業用パワーアシストスーツ駆動装置。
〔7〕 前記制御部は、空気圧人工筋肉の駆動について、駆動指令後駆動開始までの時間の設定可能に形成されていることを特徴とする、〔4〕、〔5〕のいずれかに記載の水中作業用パワーアシストスーツ駆動装置。
〔8〕 前記容器は本パワーアシストスーツ装着者が装着可能に形成されていることを特徴とする、〔4〕、〔5〕のいずれかに記載の水中作業用パワーアシストスーツ駆動装置。
〔9〕 前記指令入力部は該装着者が手許にて入力可能に形成されていることを特徴とする、〔4〕、〔5〕のいずれかに記載の水中作業用パワーアシストスーツ駆動装置。
【0011】
〔10〕 前記指令入力部は該装着者の手許での入力以外の入力方式によることを特徴とする、〔4〕、〔5〕のいずれかに記載の水中作業用パワーアシストスーツ駆動装置。
〔11〕 空気式人工筋肉で駆動するパワーアシストスーツ装着者の補助用であることを特徴とする、〔4〕、〔5〕のいずれかに記載の水中作業用パワーアシストスーツ駆動装置。
〔12〕 重量物運搬作業等の水中作業に用いられることを特徴とする、〔4〕、〔5〕のいずれかに記載の水中作業用パワーアシストスーツ駆動装置。
〔13〕 〔4〕、〔5〕のいずれかに記載の水中作業用パワーアシストスーツ駆動装置、該水中作業用パワーアシストスーツ駆動装置が装備されるパワーアシストスーツ、および該パワーアシストスーツに送気する送気手段からなることを特徴とする、パワーアシストスーツシステム。
【発明の効果】
【0012】
本発明の水中作業用パワーアシストスーツ駆動装置、およびパワーアシストスーツシステムは上述のように構成されるため、これらによれば、潜水士が行う防波堤基礎部に投入する捨て石の敷き均し作業における肘への負荷の軽減等のような、水中作業に適したパワーアシストスーツを提供することができる。それにより、重量物運搬作業やその他の水中作業における身体的負荷を軽減し、作業者の負担・疲労を軽減できるとともに、水中作業の効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明水中作業用パワーアシストスーツ駆動装置の基本構成を概念的に示す説明図である。
【
図2】
図1に示す本発明水中作業用パワーアシストスーツ駆動装置の基本作用を示す説明図である。
【
図3】本発明水中作業用パワーアシストスーツ駆動装置を用いたパワーアシストスーツ例全体の概観を示す説明図である。
【
図4】
図3に示すパワーアシストスーツ例の使用例を概念的に示す側方視の説明図である(駆動開始前)。
【
図4-2】
図3に示すパワーアシストスーツ例の使用例を概念的に示す側方視の説明図である(駆動開始後)。
【
図5】本発明水中作業用パワーアシストスーツ駆動装置に係るレギュレータの構成例を概念的に示す説明図である。
【
図6】本発明水中作業用パワーアシストスーツ駆動装置に係る制御部の構成例を概念的に示す説明図である。
【
図7】電磁弁ユニットを容器外に設けた本発明水中作業用パワーアシストスーツ駆動装置の構成例を概念的に示す要部説明図である。
【
図7-2】
図7に示す本発明水中作業用パワーアシストスーツ駆動装置例において電磁弁ユニットをモールド処理した構成例を概念的に示す要部説明図である。
【
図8】電磁弁ユニットを容器内に設けた本発明水中作業用パワーアシストスーツ駆動装置の構成例を概念的に示す要部説明図である。
【
図9】本発明水中作業用パワーアシストスーツ駆動装置の制御部における作用例を概念的に示す要部説明図である。
【
図10】本発明水中作業用パワーアシストスーツ駆動装置の指令入力部構成例を概念的に示す要部説明図である。
【
図11】本発明パワーアシストスーツシステムの基本構成を概念的に示す説明図である。
【
図12】本発明水中作業用パワーアシストスーツ駆動装置実施例の基本構成および作用を概念的に示す説明図である。
【
図13】本発明実施例に係る制御部の詳細構成を概念的に示す説明図である。
【
図14】ホースが接続された状態の本発明実施例の外観構成を示す斜視の説明図である。
【
図15】本発明パワーアシストスーツシステム実施例を作業者に装着させた状態を示す写真図である(背面)。
【
図16】本発明パワーアシストスーツシステム実施例を作業者に装着させた状態を示す写真図である(前面)。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面により本発明を詳細に説明する。
図1は、本発明水中作業用パワーアシストスーツ駆動装置の基本構成を概念的に示す説明図である。また、
図2は、
図1に示す本発明水中作業用パワーアシストスーツ駆動装置の基本作用を示す説明図、
図3は
図1に示す本発明水中作業用パワーアシストスーツ駆動装置を用いたパワーアシストスーツ例全体の概観を示す説明図である。なお
図1では、制御部3が容器8内に収容されている例(図中(a))、制御部3の一部が容器8内に収容されている例(図中(b))に分けて示している。
【0015】
これらの図に示すように本水中作業用パワーアシストスーツ駆動装置10は、空気圧人工筋肉方式の水中作業用パワーアシストスーツを駆動するための装置であって、パワーアシストスーツ駆動用として送気ホースAHから分岐された圧縮空気を減圧するレギュレータ1と、レギュレータ1により減圧された圧縮空気のパワーアシストスーツへの供給を制御する制御部3と、制御部3を構成する少なくとも一部の要素を収容する防水性かつ耐圧性の容器8とからなることを主たる構成とする。
【0016】
かかる構成の本水中作業用パワーアシストスーツ駆動装置10では、パワーアシストスーツ駆動用として送気ホースAHから分岐された圧縮空気はレギュレータ1において減圧され、減圧された圧縮空気のパワーアシストスーツへの供給は制御部3によって制御されて、パワーアシストスーツ装着者(作業者)MNの両腕の空気圧人工筋肉(以下、単に「人工筋肉」ともいう)AM、AMに送られ、パワーアシストスーツが駆動される。
【0017】
なお、
図3に示すパワーアシストスーツは、上腕部分に固定した人工筋肉AMと前腕部分のフレームをワイヤーでつなげることで、人工筋肉AMが収縮した際に前腕部分が引っ張られて肘が曲がり、アシストを行う機構、すなわち肘関節補助用の例である。これはあくまでも一例であり、本発明駆動装置は肘関節補助用に限定されず、空気圧式人工筋肉で駆動するパワーアシストスーツすべてに対して使用可能である。たとえば、肩関節用アシストスーツ、腰補助用アシストスーツ、下肢用アシストスーツなどである。
【0018】
制御部3を構成する要素の中には、水の浸入や水圧からの保護を要する、ないしは水の浸入や水圧からの保護の望ましい要素があるが、少なくともそれらの要素については防水性かつ耐圧性の容器8に収容されるため、収容されていることにより、水の浸入や水圧からの保護がなされる。
【0019】
すなわち、後述するように制御部3は、マイクロコンピュータ、マイクロバッテリー、押しボタンスイッチ用の制御回路といった電子・電気機器や部品を含んで構成され得、これらには然るべき防水保護や水圧からの保護が要求される。本発明水中作業用パワーアシストスーツ駆動装置10の容器8は防水性かつ耐圧性であり、かかる要求を充足する仕様である。
【0020】
なお、
図1中の(a)、(b)に示す構成の相違については、追って別図により説明することとし、ここでは両パターンがあることを示すに留める。また、
図2では
図1中(b)パターンの構成を代表的に用いて示したが、(a)パターンの構成であってももちろんよい。このような一方のパターンに代表させての図示をする場合があることは、以下の各図においても同様である。
【0021】
図4、
図4-2は、
図3に示すパワーアシストスーツ例の使用例を概念的に示す側方視の説明図であり、前者は駆動開始前、後者は駆動開始後を示す。図示する通り、これは肘関節補助用パワーアシストスーツの例である。パワーアシストスーツ駆動用として送気ホースAHから分岐された圧縮空気は、本水中作業用パワーアシストスーツ駆動装置10のレギュレータ1において減圧され、減圧された圧縮空気のパワーアシストスーツへの供給は制御部3によって制御されて、作業者MNの両腕の人工筋肉AM、AMに送られ、パワーアシストスーツが駆動される。作業者が前腕で支持している作業対象物OB(
図4)を持ち上げる際に、腕にかかる駆動力によって上方へ持ち上げる動作が補助される(
図4-2)。
【0022】
図5は、本発明水中作業用パワーアシストスーツ駆動装置に係るレギュレータの構成例を概念的に示す説明図である。図示するように本水中作業用パワーアシストスーツ駆動装置のレギュレータ21には、水圧を感知する感圧手段21S、および、感圧手段21Sによる水圧の感知に基づいて、送気する圧縮空気圧力を自動的に調整する自動調整手段21Pを設ける構成とすることができる。
【0023】
水中では、水深10mあたり0.1MPa水圧が高くなるため、水深に応じて人工筋肉が外圧を受け、人工筋肉内の圧縮空気の圧力が低下する。したがって、人工筋肉に一定値の圧力を供給した場合、水深が大きくなるにつれて人工筋肉の収縮力が弱くなり、アシストスーツのアシスト力が下がってしまう。しかし、上記構成の本レギュレータ21によれば、感圧手段21によって本水中作業用パワーアシストスーツ駆動装置が位置する水深における水圧が感知・検知され、この検知された水圧に基づいて、自動調整手段21Pによって送気する圧縮空気の圧力が自動的に一定に調整される。これにより、水圧による影響でアシスト力が低下することなく、水中でのパワーアシストスーツ使用を問題なく行うことができる。
【0024】
なお本願では、水圧の感知に基づき送気する圧縮空気の圧力を自動的に一定に調整するレギュレータ21のような方式を、「中圧保持方式」とも称する。スキューバダイビングで使用されるファーストステージは、正にこの中圧保持方式と言えるが、本発明に係るレギュレータ21でもこの原理を用いた。すなわち、たとえばダイアフラム等を用いてなる感圧手段21によって水圧を検知し、バネ等の弾性体を用いその弾性力を利用してばねの力により「中圧室内の圧力-水圧=一定」となるように中圧室内の圧力を調整する自動調整手段21Pとする構成である。
【0025】
かかる構成により、水圧の影響を受けてアシスト力が低下することなく、水中でのアシストスーツ使用が可能となった。すなわち、本レギュレータ21によれば、水深が変化しても人工筋肉内の圧力値を一定とし、これにより常に一定のアシスト力を得ることができる。なお、上述の通り中圧保持方式には水圧により変形するダイアフラムを用いることができ、ダイアフラムの変形により圧縮空気の送気の有無を調整する送気調整構造とからなる方式とすることができる。
【0026】
図示するようにレギュレータ21には、自動調整手段21Pに加えて、送気する圧縮空気の圧力を作業者が、手動など任意で調整できる任意調整手段22Mを備えている構成とすることができる。たとえば、自動調整手段21Pに任意調整用の入力部を設けておき、作業者の任意によりこの入力部に対する所定の操作を行うことで出力される圧縮空気の圧力を変更、調整できるような方式である。方式はこれに限定されないが、任意超背手段22Mを備えることにより、人工筋肉駆動の源泉である圧縮空気圧力の任意調整が可能となる。
【0027】
図6は、本発明水中作業用パワーアシストスーツ駆動装置に係る制御部の構成例を概念的に示す説明図である。図示するように本水中作業用パワーアシストスーツ駆動装置の制御部33は、容器(図示せず)内に収容されている電磁弁制御部34、ならびにその他の駆動用もしくは制御用の機器からなる自余機器一式35と、電磁弁制御部34による制御を受ける電磁弁ユニット36と、電磁弁制御部36を機能させる指令に係る指令入力部37とからなることを、主たる構成とする。
【0028】
かかる構成により本制御部33では、これを構成する要素のうち少なくとも電磁弁制御部34および自余機器一式35は防水性かつ耐圧性の容器内に収容されており、水の浸入や水圧からの保護がなされる。電磁弁ユニット36は、パワーアシストスーツ駆動用の圧縮空気の吸気、給気および排気を制御するが、かかる制御は電磁弁制御部34の機能・作用により行われる。
【0029】
また、指令入力部37においては、電磁弁制御部36を機能させるための指令が作業者により入力され、それにより電磁弁制御部34を介して最終的に電磁弁ユニット36の上記制御がなされ得る。なお、圧縮空気の給排気の制御の具体的方式としては、たとえば3ポートソレノイドバルブ電磁弁を好適に用いることができる。
【0030】
図7は、電磁弁ユニットを容器外に設けた本発明水中作業用パワーアシストスーツ駆動装置の構成例を概念的に示す要部説明図である。図示するように本水中作業用パワーアシストスーツ駆動装置は、その制御部33を構成する電磁弁ユニット36を、容器38外に設ける構造とすることができる。電磁弁ユニット36ではたとえば、3ポート電磁弁の3つのポートにおいて圧縮空気の吸気・給気・排気が行われる構成とすることができるが、これらの接続口は水中で露出する状態となる。したがって、電磁弁を容器38の内側に設置した場合には、万一海水等が逆流すると、電磁弁を介して容器38内が浸水してしまうことになる。そこで、電磁弁ユニット36を容器38外に設ける、という構造である。
【0031】
図7-2は、
図7に示す本発明水中作業用パワーアシストスーツ駆動装置例において電磁弁ユニットをモールド処理した構成例を概念的に示す要部説明図である。図示するように、電磁ユニット36を容器38外に配置する場合、電磁弁ユニット36にはモールドMDにより防水処理された構成とすることが望ましい。モールド処理には、たとえばポリウレタン樹脂等を好適に用いることができる。
【0032】
図8は、電磁弁ユニットを容器内に設けた本発明水中作業用パワーアシストスーツ駆動装置の構成例を概念的に示す要部説明図である。上述の通り、逆流による容器38内浸水を防止するためには、電磁弁ユニット36の容器38外に設けることが望ましいが、本発明はこれに限定されない。本図に示すように電磁弁ユニット46は容器48内に収納する構成としてもよい。
【0033】
図9は、本発明水中作業用パワーアシストスーツ駆動装置の制御部における作用例を概念的に示す要部説明図である。図示するように本水中作業用パワーアシストスーツ駆動装置の制御部53は、人工筋肉の駆動について、一または複数の設定が可能に形成されている構成とすることができる。この設定は、あらかじめなされているものとすることができるが、一部または全部を指令により設定する構成とすることもできる。
【0034】
図に例示するように、人工筋肉の駆動制御の内容としては、
「人工筋肉駆動」のON・OFF(接続・遮断)、
「駆動指令~駆動開始時間」すなわち、人工筋肉への駆動指令がなされてから駆動が開始するまでの時間、
「駆動時間」すなわち、駆動が継続される時間(駆動保持時間)、
「駆動停止」すなわち、人工筋肉駆動の停止、・・・
など、種々の制御内容を含めて、適宜に構成することができる。特に、「駆動指令後駆動開始までの時間の設定」は、水中における各動作対応の時間差制御の観点から、水中作業用である本パワーアシストスーツ駆動装置にとっては有意義である。
【0035】
たとえば、捨て石の敷き均し作業では、捨て石を持ち上げて下ろす「持ち上げ動作」、捨て石を持ち上げて運搬する「持ち運び動作」、捨て石を転がして運搬する「転がし動作」という3種類の動作があるが、それぞれ捨て石を保持する時間が異なる。そこで、各動作の捨て石保持時間に対応した「駆動指令後駆動開始までの時間の設定」が肝要である。つまり、駆動指令がなされてから人工筋肉へ圧縮空気を排気するまでの時間を、各動作に対応した適切な時間設定とすればよい。なお、これについては、追って実施例でも説明を加える。
【0036】
図10は、本発明水中作業用パワーアシストスーツ駆動装置の指令入力部構成例を概念的に示す要部説明図である。図示するように本水中作業用パワーアシストスーツ駆動装置610の指令入力部67は、装着者MNが手許にて入力可能に形成されている構成とすることができる。かかる構成によれば、本パワーアシストスーツ装着者MNが自らの手許にて指令入力部67を操作して、人工筋肉AMの駆動制御を行うことができる。指令入力部67は、手指で操作できる押しボタン式の水中スイッチなど、適宜の構造とすることができる。また、駆動される動作の種類に応じて、押しボタンスイッチの単押し、長押し、ダブルクリックなどの指令モードとする等のことも、適宜設計可能である。
【0037】
なお、以上の説明に関わらず本水中作業用パワーアシストスーツ駆動装置の指令入力部は、装着者の手許での入力以外の入力方式による構成であっても、もちろんよい。たとえば、首や顎で操作を行う方式、電磁式により非接触で指令する方式、等である。
【0038】
図10に示すように本水中作業用パワーアシストスーツ駆動装置610を構成する容器68は、本パワーアシストスーツ装着者MNが装着可能に形成されている構成とすることができる。装着の形態は、実施例で後述する
図15、16等に示すように背負う形態が、作業者MNの身体への負荷軽減や作業性の上で望ましいが、これに限定されるものではない。また、装着しない方式であっても本発明からは除外されない。
【0039】
以上説明したように、本発明水中作業用パワーアシストスーツ駆動装置10等は、空気式人工筋肉で駆動するパワーアシストスーツ装着者の補助用として広く用いることができる。つまり、本駆動装置10等の適用対象となり得るパワーアシストスーツは、肘関節補助用に限定されず、空気圧式人工筋肉で駆動するパワーアシストスーツすべてに対して使用可能である。なお、後述する実施例は肘関節補助用のものであるが、これは、捨て石の敷き均し作業など、水中での重量物運搬作業等に特に適した例である。
【0040】
このように、レギュレータ1等、制御部3等、防水耐圧性の容器8等を組み合わせてなる本発明水中作業用パワーアシストスーツ駆動装置10等は、空気圧人工筋肉で駆動するパワーアシストスーツを、水中でスタンドアローン型として使用すること、つまり、地上・船上にいる作業補助者によるパワーアシストスーツの操作や、人工筋肉に供給する圧縮空気の圧力調整を要することなく、水中の作業者(潜水士)が単独で操作し、使用することを可能とするものである。
【0041】
図11は、本発明パワーアシストスーツシステムの基本構成を概念的に示す説明図である。図示するように本パワーアシストスーツシステム60は、以上説明したいずれかの構成の水中作業用パワーアシストスーツ駆動装置10、水中作業用パワーアシストスーツ駆動装置10が装備されるパワーアシストスーツ20、およびパワーアシストスーツ20に送気する送気手段30とからなることを、主たる構成とする。
【0042】
かかる構成の本パワーアシストスーツシステム60によれば、送気手段30からパワーアシストスーツ20に送気がなされ、この送気は作業者MNの呼吸用空気と人工筋肉AMの駆動用とに分岐され、人工筋肉駆動用に分岐された圧縮空気は、水中作業用パワーアシストスーツ駆動装置10のレギュレータ2によって減圧され、制御部3により吸気・給気・排気を制御されて、パワーアシストスーツ20の人工筋肉AMへの供給がなされ、人工筋肉AMが駆動される。
【実施例0043】
以下、本発明の実施例として肘関節用パワーアシストスーツ用の駆動装置、および当該パワーアシストスーツについて説明する。しかし、既に述べた通り本発明駆動装置は、肩関節用、腰補助用、下肢用など空気圧人工筋肉により駆動されるパワーアシストスーツ類すべてに対して適用可能であり、また具体的な構成、細部の仕様等も含め、本発明が以下述べる実施例に限定されるものではない。
【0044】
〔1〕パワーアシストスーツ
まず、本実施例パワーアシストスーツ(以下、単に「アシストスーツ」ともいう)全般について概説する。
これは、潜水士が海中に投入された捨て石を持ち運び、あるいは転がして、基礎部表面を平らに均す作業、すなわち敷き均し作業において、潜水士の腕にかかる負担を軽減するための肘関節用アシストスーツである。
【0045】
アシストスーツのフレームは、前腕部と上腕部から構成され、上腕部分に固定した人工筋肉と前腕部分のフレームをワイヤーでつなげることで、人工筋肉が収縮した際に前腕部分が引っ張られて肘が曲がり、アシストを行う機構となっている。左右各腕に2本のMckibben型人工筋肉を用いた。フレームの素材には耐海水性を有し、かつ比較的剛性の高いA5052アルミ材を用いた。また、装着者の腕へのフィット性を向上させ、腕を保護するために、フレームの所定箇所にゴムシートやクッション材等を用いた。
【0046】
〔2〕駆動装置の構成概要
図12は、本発明水中作業用パワーアシストスーツ駆動装置実施例の基本構成および作用を概念的に示す説明図である。図示するように本実施例水中作業用パワーアシストスーツ駆動装置710は、アシストスーツ駆動用として送気ホースから分岐された圧縮空気を減圧するレギュレータ71と、レギュレータ71により減圧された圧縮空気のアシストスーツへの供給を制御する制御部73と、制御部73を構成する要素の一部を収容する防水性かつ耐圧性の容器78とからなる構成とする。
【0047】
制御部73は、容器78内に収容する要素として電磁弁制御部(スイッチ制御回路)74ならびに自余機器一式75、および容器78外に配置する要素として電磁弁ユニット76、から構成した。また、電磁弁制御部76を機能させる指令を入力するための指令入力部77を設けた。指令入力部77は押しボタン式の水中スイッチとした。装着者がこの水中スイッチの押しボタンを押すことにより、人工筋肉に圧縮空気が供給される方式である。
【0048】
〔3〕付加技術_緊急用バルブ
ところで、本実施例に係るアシストスーツには、駆動装置710と併せて、
図12に示す通り緊急用バルブEEを装備することとした。この緊急用バルブについて概要を説明する。
緊急用バルブEEの目的は、海中での作業中に緊急事態となった際、アシストスーツ装着者が手動で空気排出を行えるようにすることである。海中での作業において、アシストされた状態でアシストスーツが故障した場合、肘関節が曲がった状態で拘束されてしまう。そこで、この状態でも操作できる位置に緊急用バルブEEを設置し、これを手動で開放することにより、人工筋肉AM内に充填された圧縮空気を強制的に排出し、肘関節を自由に動かせるようにした。
【0049】
緊急用バルブEEは、アシストスーツの左右手首付近にそれぞれ設置するのがよい。人工筋肉AMに圧縮空気が充填され肘関節が90°に固定された状態であっても、反対側の手でもう一方の手首付近の緊急用バルブを開放し、固定を解除することができる。なお、緊急バルブ開放後も圧縮空気は送気ホースから供給され続けるが、その状態でも肘関節を自由に動かすことができる。
【0050】
〔4〕制御部の詳細構成
図13は、本発明実施例に係る制御部の詳細構成を概念的に示す説明図である。図示するように、電磁弁制御部(スイッチ制御回路)74以外に容器78内に収容する制御部73の要素である自余機器一式として、バッテリー75Bおよび主電源回路75Pを備えた。スイッチ制御回路にはマイクロコンピュータArduinoを使用した。バッテリー75Bは電磁弁制御部(スイッチ制御回路)74および主電源回路75Pの電源となる。
【0051】
圧縮空気の吸気・給気・排気制御を行う電磁弁ユニット76には、3ポートソレノイドバルブ電磁弁を用いた。電磁弁ユニット76は容器78外に設置し、ポリウレタン樹脂モールドにより防水処理した。これにより、万一海水が逆流した場合でも、容器78内への海水の浸水を防ぐことができる。
【0052】
〔5〕ホース接続状態の駆動装置
図14は、ホースが接続された状態の本発明実施例の外観構成を示す斜視の説明図である。主電源スイッチPWは、駆動装置全体の電源ON/OFFスイッチであり、電源投入(ON)すると容器78内に設置されたLEDランプ等の照明器具が点灯する。証明の点灯状態および容器78内を視認できるよう、容器78の上面にはポリカーボネート製等の透明材料を用いた。
【0053】
電磁弁ユニット76の各ポート76a、76b、76cとホースDH等との脱着には、カプラーを用いた。また、分岐機器BFは、送気ホースAHから人工筋肉への給気のために、圧縮空気の送気経路を分岐させるためのものである。また、排気ポートからの海水逆流や、人工筋肉内の圧縮空気の呼吸用送気ホースへの逆流を防止するため、所定箇所に逆止弁を設けた。
【0054】
〔6〕駆動制御プログラム
捨石の敷き均し作業の際、潜水士は海中で両手を使って捨て石に触れ、取り扱うため、押しボタン式の水中スイッチを押す等の操作を行いながら作業することは困難である。そこで、水中スイッチを投入してすぐに駆動開始するのではなく、たとえば3秒後など一定の時間をおいて人工筋肉に圧縮空気を供給する方式とすることにした。これにより、水中スイッチの操作を終えた後、両手とも自由に使用できる状態で、捨石の持ち上げ動作を行うことができる。
【0055】
捨て石を持ち上げて下ろす「持ち上げ動作」、捨て石を持ち上げて運搬する「持ち運び動作」、捨て石を転がして運搬する「転がし動作」、という3種類の各動作において、それぞれ捨て石を保持する時間が異なることから、各動作に対応したボタンスイッチの操作によって、圧縮空気を排気するまでの時間を変えるプログラムを作成した。
【0056】
持ち上げ動作、持ち運び動作、転がし動作それぞれに対して、押しボタンスイッチの単押し、長押し、ダブルクリックの3種類の操作により、圧縮空気が給気されてから排気されるまでの時間がそれぞれ5秒、10秒、20秒となるようにした。これらの時間はプログラムを書き換えることにより、任意の長さに設定することが可能である。スイッチ制御回路にはマイコンボード Arduinoを使用しており、上述の押しボタンスイッチ操作のプログラムは、これによって書き込みを行った。
【0057】
〔7〕レギュレータ
潜水士の呼吸用に船上から送気される圧縮空気の圧力(入力)は、0.9MPa程度である。海中では水深10mにつき0.1MPa水圧が高くなる。これにより、水深に応じて人工筋肉が外圧を受けて、人工筋肉内の圧縮空気の圧力が低下する。したがって、人工筋肉に一定値の圧力を供給した場合、水深が大きくなるにつれて人工筋肉の収縮力が弱くなり、アシストスーツのアシスト力が下がってしまう。そこで、スキューバダイビングで使用されるファーストステージの原理を用いて、水深によらず常に人工筋肉に一定圧力の圧縮空気を供給できるレギュレータを製作した。
【0058】
製作したレギュレータ71は、感圧部が水圧を検知し、ばねの力により「中圧室内の圧力-水圧=一定」となるように中圧室内の圧力が調整される仕組みである。さらに、感圧部の六角形の穴部に六角レンチを挿入して回転させることにより、出力される圧縮空気の圧力を、0.4MPa程度から0.9MPa程度まで任意に手動調整できるようにした。これにより、水圧による影響を受けてアシスト力が低下することなく、水中でアシストスーツを使用することが可能となった(性能試験について後述)。
【0059】
〔8〕潜水試験
図15、16は、本発明実施例を作業者(潜水士)に装着させた状態を示す写真図であり、それぞれ背面、前面示す。潜水士に、アシストスーツ720および本発明駆動装置710を装着して水深10m地点まで潜水してもらい、そこで捨石の持ち上げ動作等を行いつつ、10分間滞在してもらった。浮上後に容器78内の状況を確認したところ、浸水その他の異状は全く認められなかった。
【0060】
〔9〕レギュレータの性能試験
従来技術との比較によるレギュレータの性能試験について説明する。
潜水士にアシストスーツ720および駆動装置710を装着して水深10m地点まで潜水してもらい、製作したレギュレータと、水深に応じた圧力調整のない従来型のレギュレータを使用して、人工筋肉内の圧力変化を測定し、比較した。
【0061】
実施例に係るレギュレータを使用した場合の圧力値を潜水前と潜水時で比較したところ、いずれも0.43MPa程度であり、圧力値に差はなかった。一方、従来のレギュレータを使用した場合の圧力値は、潜水前は0.49MPaであったが、潜水時には0.39MPaとなり、10mの潜水で0.1MPa減圧した。したがって、水深が変わっても人工筋肉内の圧力値を一定とし、常に一定のアシスト力を得るためには、本発明に係るレギュレータが有効であることが確認された。
【0062】
以上の通り、本発明水中作業用パワーアシストスーツ駆動装置は、空気圧人工筋肉で駆動するアシストスーツ類を水中でスタンドアローン型として操作可能とするものであり、その高い実用性を確認することができた。
本発明の水中作業用パワーアシストスーツ駆動装置、およびパワーアシストスーツシステムによれば、重量物運搬作業やその他の水中作業における身体的負荷を軽減し、作業者の負担・疲労を軽減でき、水中作業の効率を向上させることができる。したがって、海洋土木を初めとする水中作業を支援する技術・産業分野、および関連する全分野において、産業上利用性が高い発明である。
なお本願発明は、公益財団法人JKAによる2022年度機械振興補助事業(補助事業名 「港湾工事における捨石均し作業用パワーアシストスーツの開発」)の成果を受けて行われた。