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特開2025-25723ロール周速制御装置、ロール周速制御方法、及び熱延鋼帯の製造方法
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  • 特開-ロール周速制御装置、ロール周速制御方法、及び熱延鋼帯の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025025723
(43)【公開日】2025-02-21
(54)【発明の名称】ロール周速制御装置、ロール周速制御方法、及び熱延鋼帯の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B21B 37/28 20060101AFI20250214BHJP
   B21B 37/46 20060101ALI20250214BHJP
   B21B 1/26 20060101ALI20250214BHJP
【FI】
B21B37/28 140
B21B37/46 111
B21B1/26 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023130791
(22)【出願日】2023-08-10
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】占部 元彦
(72)【発明者】
【氏名】小笠原 知義
(72)【発明者】
【氏名】酒井 貴広
【テーマコード(参考)】
4E002
4E124
【Fターム(参考)】
4E002AD02
4E002BA01
4E002BC02
4E002CA07
4E124AA07
4E124AA19
4E124CC03
4E124EE01
4E124EE15
(57)【要約】
【課題】追加の設備投資を行うことなく操業条件の変更だけで仕上前段以前からの反りを抑制することができる、ロール周速制御装置、ロール周速制御方法、及び熱延鋼帯の製造方法を提供する。
【解決手段】ロール周速制御装置10は、タンデム圧延が可能な上流側の粗圧延スタンドRn-1及び下流側の粗圧延スタンドRを備えた複数の粗圧延スタンドR~Rからなる粗圧延機3によりスラブSを粗圧延するに際し、上流側の粗圧延スタンドRn-1のみによるスラブSの圧延速度が、スラブSが下流側の粗圧延スタンドRに噛み込まれてからの上流側の粗圧延スタンドRn-1及び下流側の粗圧延スタンドRの双方によるスラブSの圧延速度よりも遅くなるように、上流側の粗圧延スタンドRn-1及び下流側の粗圧延スタンドRのそれぞれのワークロール3a,3bの周速を制御する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンデム圧延が可能な上流側の粗圧延スタンド及び下流側の粗圧延スタンドを備えた複数の粗圧延スタンドからなる粗圧延機によりスラブを粗圧延するに際し、前記上流側の粗圧延スタンド及び前記下流側の粗圧延スタンドのそれぞれのワークロールの周速を制御するロール周速制御装置であって、
前記上流側の粗圧延スタンドのみによるスラブの圧延速度が、スラブが前記下流側の粗圧延スタンドに噛み込まれてからの前記上流側の粗圧延スタンド及び前記下流側の粗圧延スタンドの双方によるスラブの圧延速度よりも遅くなるように、前記上流側の粗圧延スタンド及び前記下流側の粗圧延スタンドのそれぞれのワークロールの周速を制御することを特徴とするロール周速制御装置。
【請求項2】
スラブの先端が前記上流側の粗圧延スタンドに噛み込まれる前に、前記上流側の粗圧延スタンドのワークロールの周速をロール周速設定値に対して1~5%遅い値に設定するとともに、前記下流側の粗圧延スタンドのワークロールの周速をロール周速設定値に設定し、スラブの先端が前記下流側の粗圧延スタンドに噛み込まれた時に、前記上流側の粗圧延スタンドのワークロールの周速をロール周速設定値に設定するとともに、前記下流側の粗圧延スタンドのワークロールの周速をロール周速設定値に維持することを特徴とする請求項1に記載のロール周速制御装置。
【請求項3】
製造される熱延鋼帯の設定厚が15mm以上のときに、前記上流側の粗圧延スタンドのみによるスラブの圧延速度が、スラブが前記下流側の粗圧延スタンドに噛み込まれてからの前記上流側の粗圧延スタンド及び前記下流側の粗圧延スタンドの双方によるスラブの圧延速度よりも遅くなるように、前記上流側の粗圧延スタンド及び前記下流側の粗圧延スタンドのそれぞれのワークロールの周速を制御することを特徴とする請求項1に記載のロール周速制御装置。
【請求項4】
タンデム圧延が可能な上流側の粗圧延スタンド及び下流側の粗圧延スタンドを備えた複数の粗圧延スタンドからなる粗圧延機によりスラブを粗圧延するに際し、前記上流側の粗圧延スタンド及び前記下流側の粗圧延スタンドのそれぞれのワークロールの周速を制御するロール周速制御方法であって、
前記上流側の粗圧延スタンドのみによるスラブの圧延速度が、スラブが前記下流側の粗圧延スタンドに噛み込まれてからの前記上流側の粗圧延スタンド及び前記下流側の粗圧延スタンドの双方によるスラブの圧延速度よりも遅くなるように、前記上流側の粗圧延スタンド及び前記下流側の粗圧延スタンドのそれぞれのワークロールの周速を制御することを特徴とするロール周速制御方法。
【請求項5】
スラブの先端が前記上流側の粗圧延スタンドに噛み込まれる前に、前記上流側の粗圧延スタンドのワークロールの周速をロール周速設定値に対して1~5%遅い値に設定するとともに、前記下流側の粗圧延スタンドのワークロールの周速をロール周速設定値に設定し、スラブの先端が前記下流側の粗圧延スタンドに噛み込まれた時に、前記上流側の粗圧延スタンドのワークロールの周速をロール周速設定値に設定するとともに、前記下流側の粗圧延スタンドのワークロールの周速をロール周速設定値に維持することを特徴とすることを特徴とする請求項4に記載のロール周速制御方法。
【請求項6】
製造される熱延鋼帯の設定厚が15mm以上のときに、前記上流側の粗圧延スタンドのみによるスラブの圧延速度が、スラブが前記下流側の粗圧延スタンドに噛み込まれてからの前記上流側の粗圧延スタンド及び前記下流側の粗圧延スタンドの双方によるスラブの圧延速度よりも遅くなるように、前記上流側の粗圧延スタンド及び前記下流側の粗圧延スタンドのそれぞれのワークロールの周速を制御することを特徴とする請求項4に記載のロール周速制御方法。
【請求項7】
タンデム圧延が可能な上流側の粗圧延スタンド及び下流側の粗圧延スタンドを備えた複数の粗圧延スタンドからなる粗圧延機によりスラブを粗圧延するに際し、請求項4乃至6のうちいずれか一項に記載のロール周速制御方法を用いて、前記上流側の粗圧延スタンド及び前記下流側の粗圧延スタンドのそれぞれのワークロールの周速を制御してスラブを粗圧延する粗圧延工程を含むことを特徴とする熱延鋼帯の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンデム圧延が可能な上流側の粗圧延機及び下流側の粗圧延機を備えた複数の粗圧延機によりスラブを粗圧延するに際し、上流側の粗圧延機及び下流側の粗圧延機のそれぞれのワークロールの周速を制御するロール周速制御装置、ロール周速制御方法、及び熱延鋼帯の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に熱延鋼帯は、加熱炉においてスラブを所定温度に加熱し、この加熱されたスラブを粗圧延機において所定厚さに圧延して粗バーとし、次いで粗バーをエッジヒーターやバーヒーター等の加熱装置により加熱した後、複数基のスタンドからなる仕上圧延機において仕上圧延して所定厚さの熱延鋼帯とし、この熱延鋼帯をホットテーブル上で冷却装置により冷却した後、コイラーで巻取ることにより製造される。
【0003】
このような熱延鋼帯を製造する連続熱間圧延において、粗圧延機、仕上圧延機の各スタンドで被圧延材の先端部の「反り」などの形状不良が発生することがある。被圧延材の先端部で上反りが発生すると、圧延機内部の設備と接触し、設備破損が生じたり、熱延鋼帯が半成品となってしまう。このような場合では、以降の当該サイクルの圧延を停止せざるを得ず、操業生産性が著しく損なわれることになる。
【0004】
熱延鋼帯の先端部の上反りを低減させる従来例として、例えば、特許文献1及び特許文献2に示すものが知られている。
特許文献1に示す熱延鋼帯の製造方法は、スラブを粗圧延機により粗圧延して粗バーとした後、第1の反り矯正装置により粗バーの反りを粗矯正し、次いで第2の反り矯正装置により粗バーの反りを仕上矯正する。その後、誘導加熱装置により粗バーを加熱し、引き続き加熱された粗バーを仕上圧延機により仕上圧延して熱延鋼帯とするものである。
【0005】
これにより、粗圧延により粗バーの先端部に生じる反りを抑制するとともに適切に矯正して仕上圧延工程に送ることができる。
また、特許文献2に示す熱間仕上圧延における熱延鋼板の先端上反り低減方法は、複数の水平圧延機からなる仕上圧延機を用いて、鋼板の熱間仕上圧延を行う際、少なくとも一機以上の水平圧延機を、前段側から優先的に用いて製品板厚まで水平圧延を行い、残りの後段側の水平圧延機は水平圧延を行わないパススルースタンドとする。そして、このパススルースタンドのロールギャップを製品板厚より1~10mm大きく設定するとともに、ロール周速度を、製品板厚まで水平圧延を行った前段側の水平圧延機のうち最後段にある水平圧延機のロール周速より速く設定して熱間仕上圧延を行うものである。
【0006】
これにより、仕上圧延機出側での熱延鋼板の上反り量を低減することができ、コイラーの巻き取り不具合の発生や、仕上圧延後に行われる水冷での鋼板内の冷却速度のバラツキの発生を抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004-351484号公報
【特許文献2】特開2015-42410号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、これら従来の特許文献1に示す熱延鋼帯の製造方法及び特許文献2に示す熱間仕上圧延における熱延鋼板の先端上反り低減方法にあっては、以下の課題があった。
即ち、特許文献1に示す熱延鋼帯の製造方法の場合、粗圧延機、誘導加熱装置、仕上圧延機以外に、第1及び第2の反り矯正装置が必要となり、設備投資にコストが嵩むという課題があった。
【0009】
また、特許文献2に示す熱間仕上圧延における熱延鋼板の先端上反り低減方法の場合、仕上圧延機の後段側の水平圧延機での反りを抑制することはできるが、粗圧延機を含む仕上圧延機の後段側の水平圧延機以前での反りに対応することができない。
従って、本発明はこれら従来の課題を解決するためになされたものであり、その目的は、追加の設備投資を行うことなく操業条件の変更だけで仕上前段以前からの反りを抑制することができる、ロール周速制御装置、ロール周速制御方法、及び熱延鋼帯の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明の一態様に係るロール周速制御装置は、タンデム圧延が可能な上流側の粗圧延スタンド及び下流側の粗圧延スタンドを備えた複数の粗圧延スタンドからなる粗圧延機によりスラブを粗圧延するに際し、前記上流側の粗圧延スタンド及び前記下流側の粗圧延スタンドのそれぞれのワークロールの周速を制御するロール周速制御装置であって、前記上流側の粗圧延スタンドのみによるスラブの圧延速度が、スラブが前記下流側の粗圧延スタンドに噛み込まれてからの前記上流側の粗圧延スタンド及び前記下流側の粗圧延スタンドの双方によるスラブの圧延速度よりも遅くなるように、前記上流側の粗圧延スタンド及び前記下流側の粗圧延スタンドのそれぞれのワークロールの周速を制御することを要旨とする。
【0011】
また、本発明の別の態様に係るロール周速制御方法は、タンデム圧延が可能な上流側の粗圧延スタンド及び下流側の粗圧延スタンドを備えた複数の粗圧延スタンドからなる粗圧延機によりスラブを粗圧延するに際し、前記上流側の粗圧延スタンド及び前記下流側の粗圧延スタンドのそれぞれのワークロールの周速を制御するロール周速制御方法であって、前記上流側の粗圧延スタンドのみによるスラブの圧延速度が、スラブが前記下流側の粗圧延スタンドに噛み込まれてからの前記上流側の粗圧延スタンド及び前記下流側の粗圧延スタンドの双方によるスラブの圧延速度よりも遅くなるように、前記上流側の粗圧延スタンド及び前記下流側の粗圧延スタンドのそれぞれのワークロールの周速を制御することを要旨とする。
【0012】
また、本発明の別の態様に係る熱延鋼帯の製造方法は、タンデム圧延が可能な上流側の粗圧延スタンド及び下流側の粗圧延スタンドを備えた複数の粗圧延スタンドからなる粗圧延機によりスラブを粗圧延するに際し、前述のロール周速制御方法を用いて、前記上流側の粗圧延スタンド及び前記下流側の粗圧延スタンドのそれぞれのワークロールの周速を制御してスラブを粗圧延する粗圧延工程を含むことを要旨とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係るロール周速制御装置、ロール周速制御方法、及び熱延鋼帯の製造方法によれば、追加の設備投資を行うことなく操業条件の変更だけで仕上前段以前からの反りを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施形態に係るロール周速制御装置を備えた熱間圧延ラインの概略構成図である。
図2図1に示すロール周速制御装置における処理の流れを説明するためのフローチャートである。
図3】圧延機入側の鋼板の噛み込み角度による上反り生成のメカニズムを示す模式図である。
図4】圧延機入側の鋼板の噛み込み角度による下反り生成のメカニズムを示す模式図である。
図5】上流側の粗圧延スタンドのみによるスラブの圧延速度を、上流側の粗圧延スタンド及び下流側の粗圧延スタンドの双方によるスラブの圧延速度よりも遅くして、下流側の粗圧延スタンドによる噛み込みの瞬間にスラブに張力を付与し、反りの発生を抑制するメカニズムを説明するための模式図である。
図6】熱延鋼帯の板厚と仕上圧延スタンドFの出側の上反り量との関係を、本発明例によって熱延鋼帯を製造した場合と、比較例によって熱延鋼帯を製造した場合とで比較して示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。以下に示す実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の材質、形状、構造、配置等を下記の実施形態に特定するものではない。
また、図面は模式的なものである。そのため、厚みと平面寸法との関係、比率等は現実のものとは異なることに留意すべきであり、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている。
【0016】
図1には、本発明の一実施形態に係るロール周速制御装置を備えた熱間圧延ラインの概略構成が示されている。
図1に示す熱間圧延ライン1は、スラブSを所定温度に加熱する加熱炉2と、加熱されたスラブSを所定厚さに粗圧延して粗バーBとする粗圧延機3と、粗圧延された粗バーBを仕上圧延して所定板厚の熱延鋼帯SPとする仕上圧延機4とを備えている。また、熱間圧延ライン1は、仕上圧延された熱延鋼帯SPを冷却する冷却装置5と、冷却された熱延鋼帯SPをピンチロール6を介して巻き取る巻取装置7とを備えている。
【0017】
つまり、熱延鋼帯SPは、スラブSを加熱炉2で所定温度に加熱する加熱工程と、加熱されたスラブSを粗圧延機3で所定厚さに粗圧延して粗バーBとする粗圧延工程と、粗圧延された粗バーBを仕上圧延機4で仕上圧延して所定板厚の熱延鋼帯SPとする仕上圧延工程と、熱延鋼帯SPを冷却装置5で冷却する冷却工程と、冷却された熱延鋼帯SPを巻取装置7で巻き取る巻取工程とを経て製造される。
【0018】
ここで、粗圧延機3は、複数(1~n:nは2以上の任意の整数)の粗圧延スタンドR~Rを搬送方向(圧延方向)上流側から下流側に向けて順に備えてなる。そして、複数の粗圧延スタンドR~Rうち、最下流側の2つの上流側の粗圧延スタンドRn-1及び下流側の粗圧延スタンドRは、両粗圧延スタンドRn-1,R間の距離が短く、タンデム圧延が可能な粗圧延スタンドとなっている。つまり、スラブSの先端が下流側の粗圧延スタンドRに噛み込まれているときに、スラブSが上流側の粗圧延スタンドRn-1にも噛み込まれており、上流側の粗圧延スタンドRn-1及び下流側の粗圧延スタンドRの双方でスラブSを圧延する。そして、複数の粗圧延スタンドR~Rの各々は、スラブSを粗圧延する上ワークロール3a及び下ワークロール3bと、これら上ワークロール3a及び下ワークロール3bのそれぞれを支持する上バックアップロール3c及び下バックアップロール3dとを備えている。
【0019】
また、仕上圧延機4は、複数(1~N:Nは2以上の任意の整数)の仕上圧延スタンドF~FNを搬送方向(圧延方向)上流側から下流側に向けて順に備えてなる。そして、複数の仕上圧延スタンドF~FNの各々は、粗バーBを仕上圧延する上ワークロール4a及び下ワークロール4bと、これら上ワークロール4a及び下ワークロール4bのそれぞれを支持する上バックアップロール4c及び下バックアップロール4dとを備えている。
【0020】
また、熱間圧延ライン1においては、複数の粗圧延スタンドR~Rからなる粗圧延機3によりスラブSを粗圧延するに際し、最下流側の2つの上流側の粗圧延スタンドRn-1及び下流側の粗圧延スタンドRのそれぞれの上ワークロール3a及び下ワークロール3bの周速を含む粗圧延機3における複数の粗圧延スタンドR~Rのそれぞれの上ワークロール3a及び下ワークロール3bの全ての周速を制御するロール周速制御装置10が設けられている。ロール周速制御装置10の詳細な処理については後述する。
【0021】
ロール周速制御装置10には、上位計算機11が接続されている。上位計算機11は、製造する熱延鋼帯SPの板厚や板幅等の熱延鋼帯SPのサイズ及び当該熱延鋼帯SPの鋼種、及びこれら製造する熱延鋼帯SPのサイズ及び鋼種から決められる各粗圧延スタンドR~Rにおける上ワークロール3a及び下ワークロール3bのロール周速設定値、各粗圧延スタンドR~Rにおける上ワークロール3a及び下ワークロール3bの直径等の情報を、ロール周速制御装置10に送出する。
【0022】
ここで、このような熱延鋼帯SPを製造する連続熱間圧延において、粗圧延機3の各粗圧延スタンドR~R、仕上圧延機4の各仕上圧延スタンドF~FNで被圧延材(スラブS、粗バーB)の先端部の「反り」が発生することがある。被圧延材の先端部で上反りや下反りが発生すると、圧延機内部の設備と接触し、設備破損が生じたり、熱延鋼帯が半成品となってしまう。このような場合では、以降の当該サイクルの圧延を停止せざるを得ず、操業生産性が著しく損なわれることになる。
【0023】
この被圧延材の先端部の「反り」が発生するメカニズムについて、図3及び図4を参照して説明する。図3には、圧延機入側の鋼板の噛み込み角度による上反り生成のメカニズムが示され、図4には、圧延機入側の鋼板の噛み込み角度による下反り生成のメカニズムが示されている。
図3に示すように、圧延機(粗圧延機、仕上圧延機を問わない)における上ワークロール21a及び下ワークロール21bのロールバイトに対して下側から被圧延材である鋼板SSが噛み込む場合(鋼板SSが圧延方向に対してθ1の角度で斜め上方に噛み込む場合)、鋼板SSがロールバイト近傍で下方に折れ曲がる。鋼板SSが下方に折れるので、鋼板SSの上面側に長手方向の引張応力22が作用し、鋼板SSの下面側に長手方向に圧縮応力23が作用する。ロールバイト入側近傍の鋼板SS内の板厚方向の応力分布により、引張応力22が作用する鋼板SSの上面側は、圧延の際の先進率が低下して先進速度が低減する。反対に圧縮応力23が作用する鋼板SSの下面側は、圧延の際の先進率が増加して先進速度が増大する。鋼板SSの上面側の先進速度が遅く鋼板SSの下面側の先進速度が速くなるために、圧延後の鋼板SSに上反りが発生する。
【0024】
一方、図4に示すように、圧延機における上ワークロール21a及び下ワークロール21bのロールバイトに対して上側から被圧延材である鋼板SSが噛み込む場合(鋼板SSが圧延方向に対してθ2の角度で斜め下方に噛み込む場合)、鋼板SSがロールバイト近傍で上方に折れ曲がる。鋼板SSが上方に折れるので、鋼板SSの下面側に長手方向の引張応力22が作用し、鋼板SSの上面側に長手方向に圧縮応力23が作用する。ロールバイト入側近傍の鋼板SS内の板厚方向の応力分布により、引張応力22が作用する鋼板SSの下面側は、圧延の際の先進率が低下して先進速度が低減する。反対に圧縮応力23が作用する鋼板SSの上面側は、圧延の際の先進率が増加して先進速度が増大する。鋼板SSの下面側の先進速度が遅く鋼板SSの上面側の先進速度が速くなるために、圧延後の鋼板SSに下反りが発生する。
【0025】
ここで、ロールバイトの噛み込みを安定させるには、噛み込みの瞬間に適切な張力を鋼板SSに付与することが必要である。鋼板SSに張力が付与されれば、鋼板SSが上ワークロール21a及び下ワークロール21bに噛み込まれるときに座屈が発生せず、ロールバイトの噛み込みが安定し、圧延後の鋼板SSに上反りや下反りが発生するのを抑制できると考えられる。
【0026】
被圧延材としてのスラブSに張力を付与する方法として、図5に示すように、タンデム圧延可能な上流側の粗圧延スタンドRn-1及び下流側の粗圧延スタンドRにおいて、上流側の粗圧延スタンドRn-1のみによるスラブSの圧延速度を、上流側の粗圧延スタンドRn-1及び下流側の粗圧延スタンドRの双方によるスラブSの圧延速度よりも遅くして、下流側の粗圧延スタンドRによる噛み込みの瞬間にスラブSに張力を付与することが挙げられる。上流側の粗圧延スタンドRn-1のみによるスラブSの圧延速度が、上流側の粗圧延スタンドRn-1及び下流側の粗圧延スタンドRの双方によるスラブSの圧延速度と同じ場合には、下流側の粗圧延スタンドRによる噛み込みの瞬間にスラブSに張力を付与できない。このため、図5の左側に示すように、スラブSが上ワークロール3a及び下ワークロール3bに噛み込まれるときに座屈が発生し、ロールバイトの噛み込みが安定せず、圧延後のスラブS(粗バーB)に上反りや下反りが発生する。
【0027】
このため、本実施形態においては、前述のロール周速制御装置10によって、上流側の粗圧延スタンドRn-1のみによるスラブSの圧延速度が、スラブSが下流側の粗圧延スタンドRに噛み込まれてからの上流側の粗圧延スタンドRn-1及び下流側の粗圧延スタンドRの双方によるスラブSの圧延速度よりも遅くなるように、上流側の粗圧延スタンドRn-1及び下流側の粗圧延スタンドRのそれぞれの上ワークロール3a及び下ワークロール3bの周速を制御するようにしている。これにより、ロール周速制御装置10において追加の設備投資を行うことなく操業条件の変更だけで仕上前段以前からの反りを抑制することができる。
【0028】
従前においては、ロール周速制御装置10は、粗圧延機3における全ての粗圧延スタンドR~Rのそれぞれの上ワークロール3a及び下ワークロール3bの周速を、製造する熱延鋼帯SPのサイズ及び鋼種によって決まるロール周速設定値に設定して制御している。したがって、従前においては、上流側の粗圧延スタンドRn-1のみによるスラブSの圧延速度が、スラブSが下流側の粗圧延スタンドRに噛み込まれてからの上流側の粗圧延スタンドRn-1及び下流側の粗圧延スタンドRの双方によるスラブSの圧延速度と同じになるように、上流側の粗圧延スタンドRn-1及び下流側の粗圧延スタンドRのそれぞれの上ワークロール3a及び下ワークロール3bの周速を制御するようにしている。
【0029】
一方、本実施形態にあっては、ロール周速制御装置10は、上流側の粗圧延スタンドR~Rn-2のそれぞれの上ワークロール3a及び下ワークロール3bの周速を、従前と変わらず、圧延する熱延鋼帯SPのサイズ及び鋼種によって決まるロール周速設定値に設定して制御している。その一方、タンデム圧延可能な上流側の粗圧延スタンドRn-1及び下流側の粗圧延スタンドRについては、ロール周速制御装置10は、スラブSの先端が上流側の粗圧延スタンドRn-1に噛み込まれる前に、上流側の粗圧延スタンドRn-1の上ワークロール3a及び下ワークロール3bの周速をロール周速設定値に対して1~5%遅い値に設定するとともに、下流側の粗圧延スタンドRの上ワークロール3a及び下ワークロール3bの周速をロール周速設定値に設定する。そして、ロール周速制御装置10は、スラブSの先端が上流側の粗圧延スタンドRn-1に噛み込まれた後、下流側の粗圧延スタンドRに噛み込まれた時に、上流側の粗圧延スタンドRn-1の上ワークロール3a及び下ワークロール3bの周速をロール周速設定値に設定する(戻す)とともに、下流側の粗圧延スタンドRの上ワークロール3a及び下ワークロール3bの周速をロール周速設定値に維持する。これにより、ロール周速制御装置10は、上流側の粗圧延スタンドRn-1のみによるスラブSの圧延速度が、スラブSが下流側の粗圧延スタンドRに噛み込まれてからの上流側の粗圧延スタンドRn-1及び下流側の粗圧延スタンドRの双方によるスラブSの圧延速度に対して1~5%遅い速度に制御する。
【0030】
ここで、スラブSの先端が上流側の粗圧延スタンドRn-1に噛み込まれる前に、上流側の粗圧延スタンドRn-1の上ワークロール3a及び下ワークロール3bの周速をロール周速設定値に対して1~5%遅い値に設定する理由について説明する。上流側の粗圧延スタンドRn-1の上ワークロール3a及び下ワークロール3bの当該周速をロール周速設定値に対して5%遅い値よりも遅くすると、スラブSの先端が下流側の粗圧延スタンドRに噛み込んだ瞬間の当該粗圧延スタンドRに対する負荷が大きくなりすぎるおそれがある。また、下流側の粗圧延スタンドRによるスラブSに対する引張力が過大となり、粗圧延後の粗バーBの幅が不良となるおそれがある。
【0031】
一方、上流側の粗圧延スタンドRn-1の上ワークロール3a及び下ワークロール3bの当該周速をロール周速設定値に対して1%遅い値よりも速くすると、スラブSの先端が下流側の粗圧延スタンドRに噛み込んだ瞬間に適切な張力をスラブSに付与することができずにロールバイトの噛み込みが安定せず、スラブSの先端に反りが発生するおそれがある。このため、スラブSの先端が上流側の粗圧延スタンドRn-1に噛み込まれる前に、上流側の粗圧延スタンドRn-1の上ワークロール3a及び下ワークロール3bの周速をロール周速設定値に対して1~5%遅い値に設定している。なお、当該周速をロール周速設定値に対して2.5%~3.5%遅い値に設定することがより好ましい。
【0032】
ここで、スラブSの圧延速度をSV(mpm)とし、上ワークロール3a及び下ワークロール3bの周速をRV(mpm)とし、上ワークロール3a及び下ワークロール3bの回転数をN(rpm)とし、上ワークロール3a及び下ワークロール3bの直径をD(mm)とした場合、次の式が成立する。
SV=RV=π・D・N/1000
ロール周速制御装置10は、上位計算機11からロール周速設定値(RV)の情報及び各上ワークロール3a及び下ワークロール3bの直径(D)の情報を受け取り、上式に基づいて、各上ワークロール3a及び下ワークロール3bの回転数(N)を算出し、その算出された各上ワークロール3a及び下ワークロール3bの回転数(N)で各上ワークロール3a及び下ワークロール3bの回転数を制御する。また、上流側の粗圧延スタンドRn-1の上ワークロール3a及び下ワークロール3bの周速をロール周速設定値に対して1~5%遅い値に設定した場合、ロール周速制御装置10は、上位計算機11から取得したロール周速設定値(RV)に対して1~5%遅い値を算出し、この算出された遅い値と各上ワークロール3a及び下ワークロール3bの直径(D)の情報から、上式に基づいて、各上ワークロール3a及び下ワークロール3bの回転数(N)を算出し、その算出された各上ワークロール3a及び下ワークロール3bの回転数(N)で各上ワークロール3a及び下ワークロール3bの回転数を制御する。
【0033】
なお、本実施形態においては、前述したタンデム圧延可能な上流側の粗圧延スタンドRn-1及び下流側の粗圧延スタンドRのそれぞれの上ワークロール3a及び下ワークロール3bの周速の制御につき、製造される熱延鋼帯SPの設定厚が15mm以上のときに行う。その理由は、製造される熱延鋼帯SPの設定厚が15mm以上のときに先端に反りが発生しやすいからである。
【0034】
また、ロール周速制御装置10は、スラブSの搬送方向の位置、つまりスラブSの先端の搬送方向の位置を熱間圧延ライン1における搬送ローラ(図示せず)からのトラッキング情報によって、常に、把握している。
次に、ロール周速制御装置10における処理の流れについて図2を参照して説明する。図2は、ロール周速制御装置における処理の流れを説明するためのフローチャートである。
【0035】
先ず、ステップS1において、ロール周速制御装置10は、上位計算機11からの製造する熱延鋼帯SPのサイズに関する情報に基づいて、当該熱延鋼帯SPの設定厚が15mm以上か否かの判定を行う。その理由は、前述したように、製造される熱延鋼帯SPの設定厚が15mm以上のときに先端に反りが発生しやすく、この場合に本実施形態に係るロール周速制御方法が特に有効となるからである。
【0036】
ステップS1の判定結果がYESの場合(熱延鋼帯SPの設定厚が15mm以上の場合)はステップS2に移行し、当該判定結果がNOの場合(熱延鋼帯SPの設定厚が15mm未満の場合)はステップS3に移行する。
ステップS3において、ロール周速制御装置10は、全ての粗圧延スタンドR~Rの上ワークロール3a及び下ワークロール3bの周速を、ロール周速設定値に設定する。ロール周速設定値は、上位計算機11からロール周速制御装置10に入力され、前述したように、製造する熱延鋼帯SPのサイズ及び鋼種によって決まる定数である。この際に、ロール周速設定値RV(mpm)と、上位計算機11からの各粗圧延スタンドR~Rの上ワークロール3a及び下ワークロール3bの直径D(mm)の情報に基づいて、ロール周速制御装置10は、RV=π・D・N/1000の式から各粗圧延スタンドR~Rの上ワークロール3a及び下ワークロール3bの回転数N(rpm)を算出し、その算出した回転数N(rpm)を粗圧延スタンドR~Rの上ワークロール3a及び下ワークロール3bの回転数の制御値とする。
【0037】
そして、ステップS3を終了したら、ロール周速制御装置10における処理を終了する。
一方、ステップS2において、ロール周速制御装置10は、粗圧延スタンドR~Rn-2の上ワークロール3a及び下ワークロール3bの周速を、ロール周速設定値に設定する。また、ロール周速制御装置10は、タンデム圧延可能な上流側の粗圧延スタンドRn-1及び下流側の粗圧延スタンドRについては、スラブSの先端が上流側の粗圧延スタンドRn-1に噛み込まれる前に、上流側の粗圧延スタンドRn-1の上ワークロール3a及び下ワークロール3bの周速をロール周速設定値に対して1~5%遅い値に設定するとともに、下流側の粗圧延スタンドRの上ワークロール3a及び下ワークロール3bの周速をロール周速設定値に設定する。
【0038】
ロール周速制御装置10は、上流側の粗圧延スタンドRn-1の上ワークロール3a及び下ワークロール3bの周速については、上位計算機11から取得した、ロール周速設定値RV(mpm)、上位計算機11からの粗圧延スタンドRn-1の上ワークロール3a及び下ワークロール3bの直径D(mm)、及び減速率αの情報に基づいて、(1―α)RV=π・D・N/1000の式から粗圧延スタンドRn-1の上ワークロール3a及び下ワークロール3bの回転数N(rpm)を算出する。そして、その算出した回転数N(rpm)を粗圧延スタンドRn-1の上ワークロール3a及び下ワークロール3bの回転数の制御値とする。ここで、αは前述したように減速率であり、本実施形態の場合1%~5%の間の数値である。また、ロール周速制御装置10は、下流側の粗圧延スタンドRの上ワークロール3a及び下ワークロール3bの周速については、上位計算機11から取得した、ロール周速設定値RV(mpm)、及び粗圧延スタンドRの上ワークロール3a及び下ワークロール3bの直径D(mm)の情報に基づいて、RV=π・D・N/1000の式から粗圧延スタンドRの上ワークロール3a及び下ワークロール3bの回転数N(rpm)を算出する。そして、その算出した回転数N(rpm)を粗圧延スタンドRの上ワークロール3a及び下ワークロール3bの回転数の制御値とする。
【0039】
次いで、ステップS4において、ロール周速制御装置10は、スラブSの先端が、下流側の粗圧延スタンドRに噛み込まれたか否かを判定する。この際に、ロール周速制御装置10は、熱間圧延ライン1における搬送ローラ(図示せず)からのトラッキング情報によってスラブSの先端の位置を把握する。
ステップS4の判定結果がYESの場合(スラブSの先端が下流側の粗圧延スタンドRに噛み込まれた場合)はステップS5に移行し、当該判定結果がNOの場合(スラブSの先端が下流側の粗圧延スタンドRに噛み込まれていない場合)はステップS4の判定を繰り返す。
【0040】
ステップS5において、ロール周速制御装置10は、スラブSの先端が、下流側の粗圧延スタンドRに噛み込まれた時に、上流側の粗圧延スタンドRn-1の上ワークロール3a及び下ワークロール3bの周速をロール周速設定値に設定するとともに、下流側の粗圧延スタンドRの上ワークロール3a及び下ワークロール3bの周速をロール周速設定値に維持する。
【0041】
そして、ステップS3を終了したら、ロール周速制御装置10における処理を終了する。
このように、本実施形態に係るロール周速制御装置10及びロール周速制御方法によれば、タンデム圧延が可能な上流側の粗圧延スタンドRn-1及び下流側の粗圧延スタンドRを備えた複数の粗圧延スタンドR~Rからなる粗圧延機3によりスラブSを粗圧延するに際し、上流側の粗圧延スタンドRn-1のみによるスラブSの圧延速度が、スラブSが下流側の粗圧延スタンドRに噛み込まれてからの上流側の粗圧延スタンドRn-1及び下流側の粗圧延スタンドRの双方によるスラブSの圧延速度よりも遅くなるように、上流側の粗圧延スタンドRn-1及び下流側の粗圧延スタンドRのそれぞれの上ワークロール3a及び下ワークロール3bの周速を制御する。
【0042】
これにより、下流側の粗圧延スタンドRによる噛み込みの瞬間にスラブSに張力を付与することができ、スラブSが下流側の粗圧延スタンドRに噛み込まれるときに座屈が発生するのを阻止でき、ロールバイトの噛み込みが安定し、圧延後のスラブS(粗バーB)に上反りや下反りが発生するのを防止することができる。ここで、既存のロール周速制御装置10において追加の設備投資を行うことなく操業条件の変更だけで仕上前段以前からの反りを抑制することができる。
【0043】
また、本実施形態に係るロール周速制御装置10及びロール周速制御方法によれば、スラブSの先端が上流側の粗圧延スタンドRn-1に噛み込まれる前に、上流側の粗圧延スタンドRn-1の上ワークロール3a及び下ワークロール3bの周速をロール周速設定値に対して1~5%遅い値に設定するとともに、下流側の粗圧延スタンドRの上ワークロール3a及び下ワークロール3bの周速をロール周速設定値に設定する。そして、スラブSの先端が下流側の粗圧延スタンドRに噛み込まれた時に、上流側の粗圧延スタンドRn-1の上ワークロール3a及び下ワークロール3bの周速をロール周速設定値に設定するとともに、下流側の粗圧延スタンドRの上ワークロール3a及び下ワークロール3bの周速をロール周速設定値に維持する。
【0044】
これにより、上流側の粗圧延スタンドRn-1のみによるスラブSの圧延速度を、スラブSが下流側の粗圧延スタンドRに噛み込まれてからの上流側の粗圧延スタンドRn-1及び下流側の粗圧延スタンドRの双方によるスラブSの圧延速度に対して1~5%遅い速度に制御することができる。
また、本実施形態に係るロール周速制御装置10及びロール周速制御方法によれば、製造される熱延鋼帯SPの設定厚が15mm以上のときに、上流側の粗圧延スタンドRn-1のみによるスラブSの圧延速度が、スラブSが下流側の粗圧延スタンドRに噛み込まれてからの上流側の粗圧延スタンドRn-1及び下流側の粗圧延スタンドRの双方によるスラブSの圧延速度よりも遅くなるように、上流側の粗圧延スタンドRn-1及び下流側の粗圧延スタンドRのそれぞれの上ワークロール3a及び下ワークロール3bの周速を制御する。
【0045】
これにより、先端に上反りが発生しやすい製造される熱延鋼帯SPの設定厚が15mm以上の対象材について、既存のロール周速制御装置10において追加の設備投資を行うことなく操業条件の変更だけで仕上前段以前からの反りを適切に抑制することができる。
また、本実施形態に係る熱延鋼帯の製造方法によれば、タンデム圧延が可能な上流側の粗圧延スタンドRn-1及び下流側の粗圧延スタンドRを備えた複数の粗圧延スタンドR~Rからなる粗圧延機3によりスラブSを粗圧延するに際し、前述のロール周速制御方法を用いて、上流側の粗圧延スタンドRn-1及び下流側の粗圧延スタンドRのそれぞれの上ワークロール3a及び下ワークロール3bの周速を制御してスラブSを粗圧延する粗圧延工程を含む。
【0046】
これにより、反りに起因した圧延機内部の設備と接触することによる損傷のない熱延鋼帯SPについて操業生産性を損なわずに製造することができる。
以上、本実施形態について説明してきたが、本発明はこれに限定されずに種々の変更、改良を行うことができる。
例えば、ロール周速制御装置10は、全ての粗圧延スタンドR~Rの上ワークロール3a及び下ワークロール3bの周速の制御を行う必要は必ずしもなく、タンデム圧延可能な粗圧延スタンドRn-1、Rのみの上ワークロール3a及び下ワークロール3bの周速の制御を行い、他の粗圧延スタンドR~Rn-2の上ワークロール3a及び下ワークロール3bの周速の制御は別個に設けた他のロール周速制御装置によって行うようにしてもよい。
【0047】
また、複数の粗圧延スタンドR~Rにおいて、タンデム圧延が可能な上流側の粗圧延スタンド及び下流側の粗圧延スタンドがRn-1とRではなく、粗圧延スタンドRとRk+1(kは1~n-1までの任意の整数)であるときには、ロール周速制御装置10は、上流側の粗圧延スタンドRのみによるスラブSの圧延速度が、スラブSが下流側の粗圧延スタンドRk+1に噛み込まれてからの上流側の粗圧延スタンドR及び下流側の粗圧延スタンドRk+1の双方によるスラブSの圧延速度よりも遅くなるように、上流側の粗圧延スタンドR及び下流側の粗圧延スタンドRk+1のそれぞれの上ワークロール3a及び下ワークロール3bの周速を制御すればよい。
【0048】
また、本発明のロール周速制御装置10によるロール周速の制御は、製造される熱延鋼帯SPの設定厚が15mm以上のときに限らず、熱延鋼帯SPの設定厚が15mm未満の場合も適用することができる。
【実施例0049】
本発明の効果を検証すべく、比較例及び本発明例のそれぞれのロール周速制御装置によって粗圧延スタンドR~Rにおける上ワークロール3a及び下ワークロール3bの周速を制御して熱延鋼帯SPを製造し、仕上圧延機4における仕上圧延スタンドFの出側での対象材の上反り量を測定した。製造した熱延鋼帯SPの板厚は、上反りが発生しやすい15mm以上である、15mm、18mm、25mmとした。
【0050】
比較例のロール周速制御装置では、粗圧延機3における複数の粗圧延スタンドR~Rのそれぞれの上ワークロール3a及び下ワークロール3bの全ての周速を、製造する熱延鋼帯SPのサイズ及び鋼種によって決まるロール周速設定値に設定して制御した。
これに対して、本発明例のロール周速制御装置10では、粗圧延スタンドR~Rのそれぞれの上ワークロール3a及び下ワークロール3bの周速を、製造する熱延鋼帯SPのサイズ及び鋼種によって決まるロール周速設定値に設定して制御した。その一方、タンデム圧延可能な上流側の粗圧延スタンドR及び下流側の粗圧延スタンドRについては、ロール周速制御装置10は、スラブSの先端が上流側の粗圧延スタンドRに噛み込まれる前に、上流側の粗圧延スタンドRの上ワークロール3a及び下ワークロール3bの周速をロール周速設定値に対して3%遅い値に設定するとともに、下流側の粗圧延スタンドRの上ワークロール3a及び下ワークロール3bの周速をロール周速設定値に設定した。そして、ロール周速制御装置10は、スラブSの先端が下流側の粗圧延スタンドRに噛み込まれた時に、上流側の粗圧延スタンドRの上ワークロール3a及び下ワークロール3bの周速をロール周速設定値に設定する(戻す)とともに、下流側の粗圧延スタンドRの上ワークロール3a及び下ワークロール3bの周速をロール周速設定値に維持した。
【0051】
仕上圧延機4における仕上圧延スタンドFの出側での対象材の上反り量の測定結果を、製造した熱延鋼帯SPの板厚15mm、18mm、25mm毎に図6に示す。
図6に示すように、本発明例のロール周速制御装置を用いて熱延鋼帯SPを製造した場合、熱延鋼帯SPの板厚15mm、18mm、25mmのいずれの場合でも、比較例のロール周速制御装置を用いて熱延鋼帯SPを製造し場合と比較して、仕上圧延スタンドFの出側での対象材の上反り量が減少していることが確認できた。
【符号の説明】
【0052】
1 熱間圧延ライン
2 加熱炉
3 粗圧延機
3a 上ワークロール
3b 下ワークロール
3c 上バックアップロール
3d 下バックアップロール
4 仕上圧延機
4a 上ワークロール
4b 下ワークロール
4c 上バックアップロール
4d 下バックアップロール
5 冷却装置
6 ピンチロール
7 巻取装置
10 ロール周速制御装置
11 上位計算機
21a 上ワークロール
21b 下ワークロール
22 引張応力
23 圧縮応力
B 粗バー
~F 仕上圧延スタンド
~R 粗圧延スタンド
S スラブ
SP 熱延鋼帯
SS 鋼板
図1
図2
図3
図4
図5
図6