(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025025749
(43)【公開日】2025-02-21
(54)【発明の名称】電力制御装置及び電力制御方法
(51)【国際特許分類】
H02J 3/38 20060101AFI20250214BHJP
【FI】
H02J3/38 120
H02J3/38 150
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023130843
(22)【出願日】2023-08-10
(71)【出願人】
【識別番号】502129933
【氏名又は名称】株式会社日立産機システム
(74)【代理人】
【識別番号】110001689
【氏名又は名称】青稜弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】石丸 哲也
(72)【発明者】
【氏名】松永 俊祐
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 正将
【テーマコード(参考)】
5G066
【Fターム(参考)】
5G066AD06
5G066HA13
5G066HA15
5G066HB03
5G066HB04
5G066HB06
(57)【要約】
【課題】
再生可能エネルギー発電電力の急変による不安定化を回避する電力制御装置を提供する。
【解決手段】
再生可能エネルギーを用いて発電した電力を電力系統へ供給する複数の電力変換装置を制御可能な電力制御装置であって、発電した電力の一部を慣性供給に使用する第一の制御と、発電した電力を慣性供給に使用しない第二の制御を行う電力変換装置と、電力系統に供給する慣性の余剰を求める余剰慣性算出部と、余剰慣性算出部が求めた慣性の余剰に基づいて第一の制御と、第二の制御を電力変換装置毎に決める制御決定部と前記制御決定部が決定した運転制御を各々の電力変換装置に伝達する制御伝達部とを備える電力制御装置。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
再生可能エネルギーを用いて発電した電力を電力系統へ供給する複数の電力変換装置を制御可能な電力制御装置であって、
発電した電力の一部を慣性供給に使用する第一の制御と、発電した電力を慣性供給に使用しない第二の制御を行う電力変換装置と
電力系統に供給する慣性の余剰を求める余剰慣性算出部と、
余剰慣性算出部が求めた慣性の余剰に基づいて第一の制御と、第二の制御を電力変換装置毎に決める制御決定部と
制御決定部が決定した運転制御を各々の電力変換装置に伝達する制御伝達部とを備える電力制御装置。
【請求項2】
前記第一の制御がGFI制御であり、前記第二の制御がMPPT制御であることを特徴とする請求項1に記載の電力制御装置。
【請求項3】
慣性の余剰は、電力系統に供給される慣性の総和から電力系統の周波数を予め定められた範囲に収めるために必要な慣性との差分である請求項1に記載の電力制御装置。
【請求項4】
電力変換装置から供給される慣性は発電装置が設置された場所の予測された天候情報を基に求められる請求項2又は3に記載の電力制御装置。
【請求項5】
制御決定部が慣性の余剰に基づいて発電量を増やすよう電力変換装置毎の制御を決定するときに、前記第一の制御を行うときに前記電力変換装置が系統に供給する慣性と、前記第一の制御を行うときの前記再生可能エネルギーの発電量と、前記第二の制御を行うときの前記再生可能エネルギーの発電量とを用いることを特徴とする請求項1に記載の電力制御装置。
【請求項6】
制御決定部が慣性の余剰に基づいて発電量が増やすよう電力変換装置毎の制御を決定するときに、混合整数線形計画法による最適化を用いる請求項1に記載の電力制御装置。
【請求項7】
制御決定部はリアルタイムに慣性の余剰を求め、発電量が増えるよう電力変換装置毎の制御を決定する請求項1に記載の電力制御装置。
【請求項8】
慣性の余剰はリアルタイムに得た電力潮流情報を用いて求める請求項6に記載の電力制御装置。
【請求項9】
制御決定部は発電量の変化の急変が予測される電力変換装置を優先的に第二の制御を決定する請求項1に記載の電力制御装置。
【請求項10】
制御決定部は発電量の安定が予測される電力変換装置を優先的に第一の制御を決定する請求項1に記載の電力制御装置。
【請求項11】
再生可能エネルギーは、太陽光発電によって得られる再生可能エネルギーである請求項1に記載の電力制御装置。
【請求項12】
電力系統は、マイクログリッドである請求項1に記載の電力制御装置。
【請求項13】
再生可能エネルギーを用いて発電した電力を電力系統へ供給する複数の電力変換装置を制御可能な電力制御方法であって、
電力変換装置が発電した電力の一部を慣性供給に使用する第一の制御と、発電した電力を慣性供給に使用しない第二の制御を行い、
余剰慣性算出部が電力系統に供給する慣性の余剰を求め、
制御決定部は余剰慣性算出部が求めた慣性の余剰に基づいて第一の制御と、第二の制御を電力変換装置毎に決め、
制御伝達部は制御決定部が決定した運転制御を各々の電力変換装置に伝達する電力制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力制御装置及び電力制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
2050年のカーボンニュートラル達成に向けて、各国で温暖化ガスの排出量の削減を進めている。その中で、太陽光発電の導入が急速に進んでいる。系統に接続される太陽光発電が増加し火力発電等の同期発電機が減少すると、同期発電機が提供していた系統の周波数を維持する慣性が低下し、電源の脱落等が起こったときに系統の周波数変動が大きくなって系統が不安定化してしまう。
【0003】
系統の慣性を維持するために、電力変換装置であるグリッドフォーミングインバータ(GFI:Grid Forming Inverter)による慣性の提供が検討されている。系統の周波数が変動したときにGFIが系統に電力を出し入れして系統の周波数変動を抑制し慣性を提供する。グリッドフォーミングインバータが系統への慣性の供給に用いる電力には、蓄電池の電力、小容量の蓄電池を備えた太陽光発電、蓄電池を備えない太陽光発電の電力がある。
【0004】
蓄電池の価格が高く、既に大量に設置されている蓄電池を備えない太陽光発電の電力を使ったグリッドフォーミングインバータが望まれている。特許文献1に、蓄電池を備えない太陽光発電の電力を使ったGFIにおいて、系統へ慣性を供給するために、太陽光発電は最大電力点での発電を行わず、上げ代を確保した発電を行うことが示されている。
また、系統の慣性に基づくインバータの動作変更については、特許文献2に、系統の慣性等を監視して電力系統の安定性を判定し、その判定の結果をもとに電力供給可否を決定し、太陽光発電のインバータの整定値を変更するシステムが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-25394号公報
【特許文献2】特開2019-201453号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
蓄電池を備えない太陽光発電の電力を使ったグリッドフォーミングインバータでは、特許文献1が示す系統に慣性を供給するために太陽光発電は上げ代を確保した発電をするため、最大電力点で発電した場合と比べ発電量が減少する課題がある。
【0007】
特許文献2が示す系統の慣性等を監視して電力系統の安定性を判定し太陽光発電のインバータの整定値を変更するシステムは、系統事故等により系統が不安定になった場合に整定値を変更するものであり、系統が安定であるときに生じる系統への慣性の供給による発電量の減少の課題は解決されない。
【0008】
また、グリッドフォーミングインバータは交流電圧制御を行うため、特許文献1が示す蓄電池を備えない太陽光発電の電力を使ったグリッドフォーミングインバータでは、太陽光発電の発電量が急変したときに、直流側の電圧が不安定になり、グリッドフォーミングインバータの制御が不安定化する課題もある。これらの課題は、蓄電池を備えない風力発電の電力を使ったグリッドフォーミングインバータにおいても同様である。
【0009】
特許文献2では、系統の慣性等を監視して電力系統の安定性を判定し、その判定の結果をもとに電力供給可否を決定し、太陽光発電のインバータの整定値を変更するシステムであるが、系統が不安定になって初めて整定値を変更するので、系統の不安定化の課題は解決されない。
【0010】
電力系統に必要な慣性を確保しつつ、グリッドフォーミングインバータの制御を行っている太陽光発電や風力発電等の再生可能エネルギーの発電電力を増やし、太陽光発電や風力発電等の発電電力の急変によるグリッドフォーミングインバータの制御の不安定化を回避する電力変換装置の電力制御装置を提供することが重要である。
【0011】
本発明は、系統に必要な慣性を確保しつつ、グリッドフォーミングインバータの制御を行っている太陽光発電や風力発電等の再生可能エネルギーの発電電力を増やす電力制御装置を提供すること、加えて、再生可能エネルギー発電電力の急変による不安定化を回避する電力制御装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の課題は再生可能エネルギーを用いて発電した電力を電力系統へ供給する複数の電力変換装置を制御可能な電力制御装置であって、発電した電力の一部を慣性供給に使用する第一の制御と、発電した電力を慣性供給に使用しない第二の制御を行う電力変換装置と、電力系統に供給する慣性の余剰を求める余剰慣性算出部と、余剰慣性算出部が求めた慣性の余剰に基づいて第一の制御と、第二の制御を電力変換装置毎に決める制御決定部と前記制御決定部が決定した運転制御を各々の電力変換装置に伝達する制御伝達部とを備える電力制御装置により解決される。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、再生可能エネルギー発電電力の急変による不安定化を回避する電力制御装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施形態における系統に接続された複数のGFIとそれを制御する電力制御装置の構成を示すブロック図である。
【
図2】本発明の実施形態における電力制御装置の処理を示すフローチャートである。
【
図3(a)】本発明の実施形態における太陽光発電機のMPPT制御の予測発電量とGFI制御の予測発電量の例を示すグラフである。
【
図3(b)】本発明の実施形態における太陽光発電機のMPPT制御の予測発電量とGFI制御の予測発電量の例を示すグラフである。
【
図3(c)】本発明の実施形態における太陽光発電機のMPPT制御の予測発電量とGFI制御の予測発電量の例を示すグラフである。
【
図4】本発明の実施形態における同期発電機の慣性と太陽光発電機の慣性と余剰慣性の予測結果の例を示すグラフである。
【
図5】本発明の実施形態における太陽光発電機のGFI制御の発電量とMPPT制御の発電量と混合整数線形計画法により導出した太陽光発電機の制御計画の例を示すグラフである。
【
図6】本発明の実施形態における余剰慣性がある場合と無い場合の太陽光発電機の発電量を示すグラフである。
【
図7】本発明の実施形態における電力制御装置の処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の電力変換機器の電力制御装置の実施の形態について、図面を参照して詳細を説明する。
【実施例0016】
図1~
図6を参照して、実施例1の電力変換機器の電力制御装置について説明する。
【0017】
図1は本発明の実施形態における系統に接続された複数のGFIとそれを制御する電力制御装置の構成を示すブロック図である。
【0018】
電力系統102に複数の電力変換装置(GFI)103が接続され、それぞれの電力変換装置103に太陽光発電機(PV)104が接続される。複数の電力変換装置103の制御を行う電力変換装置の電力制御装置101が制御信号線108を介して接続されている。電力変換装置の電力制御装置101の制御部は、余剰慣性算出部105、制御決定部106、制御伝達部107からなる。電力変換装置103は、系統に慣性を供給することができるグリッドフォーミングインバータである。
【0019】
電力制御装置101はCPU(Central Processing Unit)、主記憶装置、外部記憶装置、入出力部を備えた計算機で実現される。本実施例ではスタンドアロンの計算機で実現する例を説明するがクラウド上のサーバとして実現しても良い。
【0020】
図2は本発明の実施形態における電力制御装置の処理を示すフローチャートである。
【0021】
最初のS1~S4で余剰慣性算出部105は系統の慣性を予測する。S1では、対象の系統に接続されている火力発電等の同期発電機の1日の発電計画を取り込む。発電計画は、系統運用者から入手するか、同期発電機の運用者から入手するか、電力広域的運営推進機関OCCTOのような機関から入手する。発電計画で入手する情報は、1日の時間帯別の発電の有無と発電容量である。
【0022】
S2では、S1で取り込んだ同期発電機の発電計画をもとに、同期発電機毎の1日の系統に供給する慣性を予測する。慣性は、同期発電機毎のタービンの回転体の質量,大きさ,回転数等から求まる慣性定数と発電容量の積で求まる。慣性定数は予め同期発電機毎に導出した値を用い、発電容量は発電計画より用いる。
【0023】
同期発電機とグリッドフォーミングインバータの他に系統に慣性を供給する機器があり、その慣性が無視できない大きさの場合には、その機器の計画の取り込み、慣性の予測もS1とS2で行う。
【0024】
S3では、太陽光発電機が設置された場所の日射量の予測を取り込む。日射量予測は、例えば、太陽光発電向けに日射量予測サービスとして提供されるものを用いる。日射量の予測のデータではなく、発電量の予測のデータの提供を受けても良い。
【0025】
発電機が風力発電機の場合は風力発電機が設置されている場所の風力の予測であり、どのような再生可能エネルギーを用いた発電を行うかに依存して予測した天候情報を使用することが必要である。
【0026】
S4では、余剰慣性算出部105はS3で取り込んだ太陽光発電機が設置された場所での日射量の予測を使い、太陽光発電の予測発電量を求める。具体的には、予測発電量は、予測日射量に太陽光発電機のシステム容量とシステム出力係数(発電量の損失を表す損失係数に相当)を乗じて求める。
【0027】
もしくは、日射量と太陽光発電機の発電量の過去の関係を用いて予測日射量から予測発電量を求めても良い。
【0028】
ここで求めた予測発電量は、最大電力点での制御(MPPT(Maximum Power Point Tracking)制御)で太陽光発電をしたときの発電量である。
【0029】
更に、MPPT制御での発電量に加え、予測したMPPT制御での発電量の電力を使って系統に慣性を提供する制御(GFI制御)をしたときの系統に提供する慣性と太陽光発電の発電量も予測する。
【0030】
この予測には、電力変換装置毎に設定されたMPPT制御での発電量とGFI制御での系統供給慣性と発電量の関係を用いる。ここで、S3では、日射量の予測のデータではなく、発電量の予測のデータの提供を受けても良い。その場合、S4では、S3で取り込んだ発電量の予測のデータを用いてGFI制御での系統に提供する慣性と発電量を予測する。
【0031】
図3に、S3とS4で求めた太陽光発電機のMPPT制御の予測発電量とGFI制御の予測発電量の例を示す。横軸が時刻で、縦軸が予測発電量であり、グラフの太線がMPPT制御の予測発電量、細線がGFI制御の予測発電量である。
【0032】
ここでは、0時から24時までの期間1日の予測発電量を時間間隔1分毎に求めているが、期間は1日でなく1時間でも良いし、時間間隔は1分毎でなく30分毎でも構わない。期間が短いとより予測精度を上げることができ、期間が長いとより長い期間のデータを使った発電量の増大が可能となる。
【0033】
また、時間間隔が短いと、予測の困難さは増すが、より多くのデータを使って発電量をより増やすことができる。
【0034】
図3(a)~(c)は、太陽光発電機が設置されている場所の天気が異なり、(a)は快晴、(b)が曇り、(c)が晴れときどき曇りの場合の例を示してある。
【0035】
(a)の快晴でのMPPT制御の発電量は、単純に、昼に向けて太陽が高くなると日射量が増えて発電量が増加し、太陽が下がると日射量が減って発電量が減少するという安定した発電量となっている。
【0036】
GFI制御の発電量は、系統に慣性を供給するための発電量の上げ代を確保する分、MPPT制御の発電量よりも少なくなる。
【0037】
(b)の曇りでは、太陽光発電機に届く日射量が少なく、MPPT制御の発電量はより少なくなる。GFI制御の発電量は、(a)と同様に、系統に慣性を供給するための上げ代を確保する分、MPPT制御の発電量より少なくなる。発電量が少なく上げ代を確保できない場合には、系統に供給できる慣性が少なくなる。
【0038】
(c)の晴れときどき曇りでは、雲が太陽光発電機のパネルの上を通過するときに発電量が減少し、パネルの上を通過し終わると発電量が大きくなって、発電量の急変が起こる。
【0039】
発電量が急変する時刻を1分単位で予測することは簡単ではないが、雲の通過による発電量の急変が起こることを予測することは可能である。
【0040】
発電量が急変すると、GFI制御が使う電力が急変するためにGFI制御が不安定になりうる。また、GFI制御が発電量の急変に追随する際に、GFI制御の発電量が定常時に確保する上げ代以上に減少することがあり、望ましくは、GFI制御の特性を考慮に入れてGFI制御での発電量を求めるのが良い。
【0041】
図2に戻り、S5では余剰慣性算出部105は系統の余剰慣性を求める。余剰慣性は、系統の全慣性から系統の必要慣性を引いて求める。系統の全慣性は、S2で求めた同期発電機の慣性の総和とS4で求めた太陽光発電機の電力変換装置がGFI制御をしたときに系統に供給する慣性の総和との和から求める。
【0042】
同期発電機とグリッドフォーミングインバータの他に系統に慣性を供給する機器がある場合には、この機器の供給する慣性も慣性の総和に加える。
【0043】
必要慣性は、想定する電源脱落等の事故が起こったときに系統の周波数が許容範囲(例えば、50Hz±0.2Hz)に収まるために必要な慣性であり、事前に系統解析等で求めておく。
【0044】
図4に、
図2のS1~S5で求めた慣性、余剰慣性の予測結果の一例を示す。横軸が0時から24時までの1日の時間、縦軸が系統の慣性である。図中に斜線で示す同期発電機の慣性がS2で求めた同期発電機の慣性の総和であり、図中の6時から18時にかけて同期発電機の慣性の上部に上乗せされているのが太陽光発電機の慣性で、S4で求めた太陽光発電のGFI制御の慣性の総和である。
【0045】
図中の0時から6時、18時から24時にかけて同期発電機の慣性に上乗せされているのが蓄電池を用いて供給される慣性である。
【0046】
S5で用いた必要慣性は図中に点線で示してある。同期発電機の慣性の総和と太陽光発電のGFI制御の慣性の総和の和が必要慣性を超えた分が余剰慣性になる。この余剰慣性を太陽光発電の発電量の増大に用いる。
【0047】
なお、同期発電機の慣性の総和と太陽光発電の慣性の総和の和が必要慣性を下回る場合には、蓄電池のグリッドフォーミングインバータが提供する慣性を使って系統の慣性の合計が必要慣性を満たすことになる。
【0048】
再び
図2に戻り、S6では制御決定部106は余剰慣性があるかどうかを判定する。すなわち、S5で求めた余剰慣性が正であるかを判断する。余剰慣性がある場合、制御決定部106はS7で、電力変換装置103の制御の計画策定を行う。ここでは、系統に接続された複数の電力変換装置103の制御をそれぞれGFI制御にするかMPPT制御にするか、余剰慣性が負にならない範囲で、太陽光発電機の発電量の総和が増大するように決定する。S8では、策定した計画に従い、制御伝達部107は制御変更を行う電力変換装置103に対して、制御変更の指令を送る。
【0049】
太陽光発電機の電力変換装置103が多数接続された系統の場合、混合整数線形計画法を用いて太陽光発電機の発電量の総和を最大化する計画を策定すると良い。混合整数線形計画法とは、ある設定定数、制約条件のもとで目的関数を最大化(もしくは最小化)する設定変数を求める最適化手法である。
【0050】
制御決定部106は混合整数線形計画法を用いた太陽光発電の総発電量を最大化する計画の策定は、具体的には以下のように行う。
【0051】
まず、設定定数は、S2で求めた同期発電機の系統提供慣性の合計iner_SyncGen(i)、S4で求めた太陽光発電機MPPT制御での発電量P_PV_MPPT(n,i)、太陽光発電機のGFI制御での発電量P_PV_GFI(n,i)、太陽光発電機のGFI制御での系統提供慣性iner_GFI(n,i)、S5で用いた必要慣性iner_Sys(i)、太陽光発電機のMPPT制御とGFI制御を変更するときに生じる電力ロスP_loss_change(n)、太陽光発電機のMPPT制御とGFI制御を変更したことを示すフラッグflag_change(n,i)とする。
【0052】
以降も含め、nは個々の太陽光発電機に付けた番号であり、iは整数値で表した1日の時刻である。1分置きのデータとする場合iは1~86400までの整数値を取る。上記の設定定数は、nとiの両方、もしくは、どちらかの関数として表す。
【0053】
設定変数は、太陽光発電機の制御cntl_GFI(n,i)とする。太陽光発電機がGFI制御を行っているときには1を、MPPT制御を行っているときには0を取る。
【0054】
制約条件は、iner_SyncGen(i)+ Σiner_GFI(n,i)-iner_Sys(i)≧Σ((1-cntl_GFI(n,i))・iner_GFI(n,i))とする。
【0055】
左辺は、第一項の同期発電機の慣性の合計と第二項の太陽光発電機のGFIの慣性の合計を加えた系統慣性の合計から第三項の必要慣性を引いており、余剰慣性に相当する。
【0056】
右辺は、GFI制御を行わずMPPT制御を行っている太陽光発電機のGFIがGFI制御を行う場合に系統に提供する慣性の総和を表す。
【0057】
GFI制御を行わずMPPT制御を行っている太陽光発電機のGFI では、右辺の(1-cntl_GFI(n,i))が1となり、そのGFIの慣性を足し合わせている。すなわち、この制約条件は、余剰慣性の範囲内で太陽光発電機のGFIの制御をGFI制御からMPPT制御に変更することを意味する。
【0058】
目的関数は、ΣP_PV_MPPT(n,i)・(1-cntl_GFI(n,i))+ ΣP_PV_GFI(n,i)・cntl_GFI(n,i)-P_loss_change(n)・flag_change(n,i)とする。
【0059】
第一項はMPPT制御を行っている太陽光発電機の発電量の総和、第二項はGFI制御を行っている太陽光発電機の発電量、第三項はMPPT制御とGFI制御を切り替えたときに発生する電力損失ある。また、最適化の計算は、この目的関数が最大となるように、設定定数である太陽光発電機の制御cntl_GFI(n,i)で決定する。
【0060】
図5は本発明の実施形態における太陽光発電機のGFI制御の発電量とMPPT制御の発電量と混合整数線形計画法により導出した太陽光発電機の制御計画の例を示すグラフである。
【0061】
太陽光発電機1から太陽光発電機6の各々について太線がMPPT制御による発電量、細線がGFI制御による発電量、点線がGFI制御の要否判定結果を示す。点線の値が0のときGFI制御を行わず、値が1のときGFI制御を行うと判定されている。
【0062】
対象とする系統に接続された太陽光発電機n=1~6に対して、縦左軸で混合整数線形計画法による発電量最大化に用いたMPPT制御での発電量P_PV_MPPT(n,i)と太陽光発電機のGFI制御での発電量P_PV_GFI(n,i)、縦右軸で混合整数線形計画法による発電量最大化の結果得られた太陽光発電機の制御cntl_GFI(n,i)の一例を示す。
【0063】
グラフの横軸は0時から24時までの1分毎の時刻を表す整数iである。太陽光発電機n=1~6は、設置された位置が異なり、その位置の天候が異なり、定格の発電容量も異なるため、MPPT制御での発電量P_PV_MPPT(n,i)が異なっている。
【0064】
GFI制御での発電量P_PV_GFI(n,i)は、慣性提供のための上げ代確保の分、MPPT制御での発電量P_PV_MPPT(n,i)より小さくなっている。これらの太陽光発電機の制御cntl_GFI(n,i)が0の時刻にはその太陽光発電機はGFI制御を行い、1の時刻にはその太陽光発電機はMPPT制御を行う。
【0065】
このcntl_GFI(n,i)の制御を行うことで、太陽光発電機の発電量を最大にすることができる。
【0066】
図6は本発明の実施形態における余剰慣性がある場合と無い場合の太陽光発電機の発電量を示すグラフである。
【0067】
横軸が時刻で、縦軸が複数の太陽光発電機の発電量の総和であり、グラフ中の太線が余剰慣性を活用して太陽光発電量の最大化を行った場合、細線が余剰慣性を活用しなかった場合の太陽光発電機の発電量の総和ある。
【0068】
両者を比較すると、発電量の総和は、前者が後者を上回っており、余剰慣性を活用して太陽光発電量の最大化を行うことで発電量を増加できることが分かる。今回の場合、4%強の発電量の増加が得られている。
【0069】
続いて、太陽光発電機の発電量の急変によるGFI制御の不安定化を回避する機能を付加した電力変換装置の電力制御装置を説明する。
【0070】
図3(c)に示す太陽光発電機の発電では、雲の通過で発電量の急変を繰り返している。このような発電量の急変が予測されるときには、余剰慣性がその太陽光発電機の電力変換装置の制御を優先的にMPPT制御に変更する。
【0071】
混合整数線形計画法の場合、設定変数に発電量急変を表す変数β(n,i)を追加し、発電量の予測から、発電量の急変がないときは1、発電量の急変が予測されるときには1より大きな値、例えば2とする。
【0072】
目的関数をΣP_PV_MPPT(n,i)・(1-cntl_GFI(n,i))・β(n,i)+ ΣP_PV_GFI(n,i)・cntl_GFI(n,i)-P_loss_change(n)・flag_change(n,i)として、第一項にβ(n,i)を乗ずる。
【0073】
このようにすることで、発電量の変動が予測されるときに、MPPT制御を選択しやすくなり、発電量の急変によるGFI制御の不安定化を回避することができる。
【0074】
図3(a)のように快晴が予想される太陽光発電機を優先的にGFI制御の対象とする制御を行えば太陽光発電機当たりの供給可能な慣性が大きいため、より安定した運用が可能となる。
最初にS9~S12でリアルタイムに系統の慣性を推定する。S9では、余剰慣性算出部105が系統に接続されている火力発電等の同期発電機のリアルタイムの発電情報を取り込む。発電情報は、系統運用者から入手するか、同期発電機運用者から入手する。
S10では、S9で余剰慣性算出部105は取り込んだリアルタイムの同期発電機の発電情報をもとに、実施例1と同様の方法でリアルタイムの慣性を求める。同期発電機とグリッドフォーミングインバータの他に系統に慣性を供給する機器があり、その慣性が無視できない大きさの場合には、S9とS10で、慣性を供給する機器の運転状況をリアルタイムに取り込み、慣性を求める。
S11では、余剰慣性算出部105は太陽光発電機のリアルタイムの発電量とGFI制御かのMPPT制御かの制御状況を取り込む。S12では、GFI制御の場合は、リアルタイムの発電量から、GFI制御でリアルタイムに系統に提供している慣性と、MPPT制御に変更したときの発電量を求める。
MPPT制御の場合は、リアルタイムの発電量から、GFI制御に変更したときの発電量とGFI制御で系統に提供する慣性を求める。この際、実施例1と同様に、電力変換装置毎に設定されたMPPT制御での発電量とGFI制御での系統に供給する慣性と発電量の関係を用いる。
リアルタイムの系統の全慣性は、S9で求めた同期発電機のリアルタイムの慣性の総和とS11で求めた太陽光発電機の電力変換装置がGFI制御をしたときにリアルタイムの慣性の総和との和から求める。同期発電機とグリッドフォーミングインバータの他に系統に慣性を供給する機器がある場合には、慣性を供給する機器のリアルタイムの慣性をこの和に加える。
必要慣性は、第一の実施形態と同様に、想定する電源脱落等の事故が起こったときに系統の周波数が許容範囲(例えば、50Hz±0.2Hz)に収まるために必要な慣性であり、事前に系統解析等で求めておく。
S14では、制御決定部106はリアルタイムの慣性に余剰があるか、すなわち、S13で求めたリアルタイムの余剰慣性が正であるかを判断する。S14で余剰慣性がある場合、S15で、余剰慣性が負にならない範囲で、太陽光発電機の総発電量が大きくなるようにGFI制御を行っている太陽光発電機の電力変換装置の中で制御をMPPT制御に変える電力変換装置を決定する。
GFI制御を行っている太陽光発電機が複数ある場合には、MPPT制御に変えたことによる発電量の増加が最も大きくなるように太陽光発電機を決める。S16では、S15で決定した制御変更に従い、制御伝達部107は制御変更を行う電力変換装置に対して制御変更の指令を送る。S14で余剰慣性がない場合は、S15とS16の処理をスキップする。
以上、リアルタイムの系統の慣性は、系統に接続された同期発電機、グリッドフォーミングインバータ等により系統に提供される慣性の総和で求めているが、系統の電力潮流や位相の変動を複数の箇所でリアルタイムに測定し、そのデータから系統の慣性を求めてもよい。
実施例2の電力変換装置の電力制御装置では、実施例1で事前に予測した余剰慣性を使って太陽光発電の発電量を増やす電力変換装置の制御の計画を策定する場合と比べ、リアルタイムに推定した余剰慣性を使って逐次太陽光発電の発電量を増やす電力変換装置の制御を決めることで、リアルタイムで推定することの難易度はあるが、予測の誤差なく余剰慣性を使うことができるため、より太陽光発電の発電量を増やすことが可能になる。
実施例2の電力変換装置の電力制御装置においても、実施例1の電力変換装置の電力制御装置で説明した太陽光発電機の発電量の急変によるGFI制御の不安定化を回避する機能を付加することができる。
リアルタイムで発電量の急変しているとき、もしくは、発電量の急変が直後に予測されているとき、余剰慣性がその太陽光発電機の電力変換装置の制御を優先的にMPPT制御に変更する。
実施例1で事前に予測した余剰慣性を使って太陽光発電の発電量を増やす電力変換装置の制御の計画を策定する場合と、実施例2でリアルタイムに推定した余剰慣性を使って逐次太陽光発電の発電量を増やす電力変換装置の制御を決める場合を説明したが、両者を組み合わせても良い。
予測した余剰慣性を使って計画を策定することで、長い予測期間での最適化ができ、リアルタイムに推定した余剰慣性を使って逐次太陽光発電の電力変換装置の制御を決めることで、予測の誤差なく余剰慣性を使うことが可能になり、更に太陽光発電の発電量を増やすことが可能になる。
実施例1と実施例2の電力変換装置の電力制御装置は、系統に接続した電力変換装置の制御を対象としたが、系統ではなく地域のマイクログリッドや事業所や工場のマイクログリッドでも良い。
実施例1と実施例2の電力変換装置の電力制御装置では太陽光発電機の電力変換装置を例に説明したが、太陽光発電機ではなく風力発電機等のグリッドフォーミングインバータで系統に慣性を提供できる発電機を用いても良い。
説明した実施例1と実施例2の電力変換装置の電力制御装置は、系統に必要な慣性を確保しつつ、グリッドフォーミングインバータの制御を行っている太陽光発電や風力発電等の再生可能エネルギーの発電電力を増やし、太陽光発電や風力発電等の発電電力の急変によるグリッドフォーミングインバータの制御の不安定化を回避する電力変換装置の電力制御装置を提供することができる。
また、以上説明した本発明の実施形態は、余剰慣性を使って太陽光発電機の発電量を増やす電力変換装置の電力制御装置を提供する方法の一例であり、これに限定されるものではない。