(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025025764
(43)【公開日】2025-02-21
(54)【発明の名称】プレキャストコンクリート部材の継手構造およびプレキャストコンクリート部材の接合方法
(51)【国際特許分類】
E01D 19/12 20060101AFI20250214BHJP
E01D 21/00 20060101ALI20250214BHJP
E04B 1/61 20060101ALI20250214BHJP
【FI】
E01D19/12
E01D21/00 B
E04B1/61 502K
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023130870
(22)【出願日】2023-08-10
(71)【出願人】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】白谷 宏司
(72)【発明者】
【氏名】石河 亮
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 貴紀
【テーマコード(参考)】
2D059
2E125
【Fターム(参考)】
2D059AA14
2D059GG55
2E125AA57
2E125AE02
2E125AG28
2E125BA45
2E125CA82
2E125CA83
(57)【要約】
【課題】低引張力でのひび割れの発生を抑制し、かつ、効率的な施工を可能にするプレキャストコンクリート部材の継手構造およびプレキャストコンクリート部材の接合方法を提案する。
【解決手段】一方のプレキャスト床版2の端面から突出する第一軸方向鉄筋31と、他方のプレキャスト床版2の端面から突出する第二軸方向鉄筋32と、一対のプレキャスト床版2,2の間に充填された間詰コンクリート6とを有した継手構造1。第一軸方向鉄筋31の突出長と第二軸方向鉄筋32の突出長の合計は、一対のプレキャスト床版2,2の間隔よりも小さく、第一軸方向鉄筋31の中心軸と第二軸方向鉄筋32の中心軸は偏心しているとともに平行である。また、第一軸方向鉄筋31と第二軸方向鉄筋32との間には、第一軸方向鉄筋31の中心軸および第二軸方向鉄筋32の中心軸に対して平行あるいは傾斜した向きで、接合鉄筋4が配筋されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
隙間をあけて配設された一対のプレキャストコンクリート部材を接合するためのプレキャストコンクリート部材の継手構造であって、
一方の前記プレキャストコンクリート部材の端面から突出する第一軸方向鉄筋と、
他方の前記プレキャストコンクリート部材の端面から突出する第二軸方向鉄筋と、
一対の前記プレキャストコンクリート部材の間に充填された間詰コンクリートと、を有し、
前記第一軸方向鉄筋の先端および前記第二軸方向鉄筋の先端には、各々の鉄筋径よりも大きな幅を有した定着体がそれぞれ形成されており、
前記第一軸方向鉄筋の一方の前記プレキャストコンクリート部材からの突出長と前記第二軸方向鉄筋の他方の前記プレキャストコンクリート部材からの突出長の合計は、一対の前記プレキャストコンクリート部材の間隔よりも小さく、
前記第一軸方向鉄筋の中心軸と前記第二軸方向鉄筋の中心軸は偏心しているとともに平行であり、
前記第一軸方向鉄筋と前記第二軸方向鉄筋との間に、前記第一軸方向鉄筋の中心軸および前記第二軸方向鉄筋の中心軸に対して平行あるいは傾斜した向きで、両端に定着体が形成された接合鉄筋が配筋されていることを特徴とするプレキャストコンクリート部材の継手構造。
【請求項2】
前記第一軸方向鉄筋、前記第二軸方向鉄筋および前記接合鉄筋と交差する方向に配筋された横方向鉄筋をさらに備えていることを特徴とする、請求項1に記載のプレキャストコンクリート部材の継手構造。
【請求項3】
前記間詰コンクリートの厚さ方向に対して、前記接合鉄筋のかぶりが、前記第一軸方向鉄筋のかぶりおよび前記第二軸方向鉄筋のかぶりと同等以上であることを特徴とする、請求項1に記載のプレキャストコンクリート部材の継手構造。
【請求項4】
前記間詰コンクリートの厚さ方向中間部に、前記両プレキャストコンクリート部材に挿通された緊張材が配設されていることを特徴とする、請求項1に記載のプレキャストコンクリート部材の継手構造。
【請求項5】
端面から軸方向鉄筋が突出する一対のプレキャストコンクリート部材を連設して接合するプレキャストコンクリート部材の接合方法であって、
一方の前記プレキャストコンクリート部材から間隔をあけて他方の前記プレキャストコンクリート部材を配設する配設工程と、
前記プレキャストコンクリート部材同士の間に接合鉄筋を配筋する配筋工程と、
前記プレキャストコンクリート部材同士の間に間詰コンクリートを打設する打設工程と、を備え、
前記軸方向鉄筋の先端には、前記軸方向鉄筋の断面形状よりも大きな外形を有した定着体が形成されており、
前記接合鉄筋の両端には、前記接合鉄筋の断面形状よりも大きな外形を有した定着体が形成されていて、
一方の前記プレキャストコンクリート部材の前記軸方向鉄筋の中心軸と他方の前記プレキャストコンクリート部材の前記軸方向鉄筋の中心軸は、偏心しているとともに平行であり、
前記配設工程では、一方の前記プレキャストコンクリート部材の前記軸方向鉄筋の突出長と他方の前記プレキャストコンクリート部材の前記軸方向鉄筋の突出長の合計よりも、前記プレキャストコンクリート部材同士の間隔が大きくなるように、他方の前記プレキャストコンクリート部材を配設し、
前記配筋工程では、一方の前記プレキャストコンクリート部材の前記軸方向鉄筋と他方の前記プレキャストコンクリート部材の前記軸方向鉄筋との間に、両軸方向鉄筋の中心軸に対して平行あるいは傾斜した向きで、前記接合鉄筋を配筋することを特徴とする、プレキャストコンクリート部材の接合方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレキャストコンクリート部材の継手構造およびプレキャストコンクリート部材の接合方法に関する。
【背景技術】
【0002】
並設されたプレキャストコンクリート部材同士は、継手部に打設された間詰コンクリートや間詰モルタル等(以下、単に「間詰材」という)を介して連結することが多い。
継手部には、両プレキャストコンクリートの端面から突設された軸方向鉄筋が突設されており、これらの軸方向鉄筋を継手部材とするのが一般的である。
鉄筋同士を連結する際には、重ね継手により連結するのが一般的であるが、鉄筋の必要な継手長を確保すると、継手部の幅が大きくなる。継手部の幅が大きくなると、間詰材の打設量が多くなり、打ち込み時の手間も増える。
【0003】
継手部における継手部材としての鉄筋をループ状に加工することで、継手部の幅を小さく抑える場合がある。
例えば、特許文献1には、ループ筋が突出するプレキャスト床版の端面同士を所定の隙間をあけて突き合せた状態で、ループ筋と交差する配力筋を配筋し、端面同士の隙間に間詰コンクリートを打設する床版継手構造が開示されている。ところが、継手部材としてループ筋を使用すると、ループの径により部材高が大きくなる場合がある。また、ループ継手により鉄筋母材の引張強度と同等の強度を得るためには、横方向鉄筋をループ内に配筋する必要があるが、この配筋作業に手間がかかる。さらに、PC鋼材を配置する場合に、ループ筋や横方向鉄筋がPC鋼材と干渉する場合がある。
【0004】
また、継手部材として鉄筋の端部に拡幅部(定着部)を形成することで、継手部の幅を小さくする場合がある。
例えば、特許文献2には、継手部において、対向するプレキャストコンクリート部材の端面から突出した軸方向鉄筋が同一軸線上に配筋されているとともに、端部に定着体が形成されていて、さらに、両端に定着体が形成された接合鉄筋を隣り合う軸方向鉄筋同士の間に軸方向鉄筋と平行に配置した継手構造が開示されている。特許文献2の継手構造では、軸方向の引張力が小さい段階から、同一軸線上に配置された軸方向鉄筋同士の間おいて、ひび割れが発生し、進展する可能性がある。
また、特許文献3には、継手部において、対向するプレキャスト部材の端面から突出した端部に定着体が形成された軸方向鉄筋同士が重ね継手により接合された継手構造が開示されている。ところが、特許文献3の継手構造は、ボックスカルバート等のように、軸方向鉄筋が上下左右に配筋されている場合には、軸方向からスライドさせることによりプレキャストコンクリート部材を配置する必要があり、効率的な施工が困難な場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010-236258号公報
【特許文献2】特開2020-063617号公報
【特許文献3】特開2021-055531号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、低引張力でのひび割れの発生を抑制し、かつ、効率的な施工を可能にするプレキャストコンクリート部材の継手構造およびプレキャストコンクリート部材の接合方法を提案することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような課題を解決するために、本発明のプレキャストコンクリート部材の継手構造は、隙間をあけて配設された一対のプレキャストコンクリート部材を接合するためのものであって、一方の前記プレキャストコンクリート部材の端面から突出する第一軸方向鉄筋と、他方の前記プレキャストコンクリート部材の端面から突出する第二軸方向鉄筋と、一対の前記プレキャストコンクリート部材の間に充填された間詰コンクリートと、を有している。前記第一軸方向鉄筋の先端および前記第二軸方向鉄筋の先端には、各々の鉄筋径よりも大きな幅を有した定着体がそれぞれ形成されている。また、前記第一軸方向鉄筋の一方の前記プレキャストコンクリート部材からの突出長と前記第二軸方向鉄筋の他方の前記プレキャストコンクリート部材からの突出長の合計は、一対の前記プレキャストコンクリート部材の間隔よりも小さい。さらに、前記第一軸方向鉄筋の中心軸と前記第二軸方向鉄筋の中心軸は偏心しているとともに平行である。そして、前記第一軸方向鉄筋と前記第二軸方向鉄筋との間に、前記第一軸方向鉄筋の中心軸および前記第二軸方向鉄筋の中心軸に対して平行あるいは傾斜した向きで、両端に定着体が形成された接合鉄筋が配筋されている。
【0008】
また、本発明のプレキャストコンクリート部材の接合方法は、端面から軸方向鉄筋が突出する一対のプレキャストコンクリート部材を連設して接合するものである。一方の前記プレキャストコンクリート部材から間隔をあけて他方の前記プレキャストコンクリート部材を配設する配設工程と、前記プレキャストコンクリート部材同士の間に接合鉄筋を配筋する配筋工程と、前記プレキャストコンクリート部材同士の間に間詰コンクリートを打設する打設工程とにより行う。前記軸方向鉄筋の先端には、前記軸方向鉄筋の断面形状よりも大きな外形を有した定着体が形成されており、前記接合鉄筋の両端には、前記接合鉄筋の断面形状よりも大きな外形を有した定着体が形成されている。一方の前記プレキャストコンクリート部材の前記軸方向鉄筋の中心軸と他方の前記プレキャストコンクリート部材の前記軸方向鉄筋の中心軸は、偏心しているとともに平行である。前記配設工程では、一方の前記プレキャストコンクリート部材の前記軸方向鉄筋の突出長と他方の前記プレキャストコンクリート部材の前記軸方向鉄筋の突出長の合計よりも、前記プレキャストコンクリート部材同士の間隔が大きくなるように、他方の前記プレキャストコンクリート部材を配設する。そして、前記配筋工程では、一方の前記プレキャストコンクリート部材の前記軸方向鉄筋と他方の前記プレキャストコンクリート部材の前記軸方向鉄筋との間に、両軸方向鉄筋の中心軸に対して平行あるいは傾斜した向きで、前記接合鉄筋を配筋する。
【0009】
かかるプレキャストコンクリート部材の継手構造およびプレキャストコンクリート部材の接合方法によれば、対向するプレキャストコンクリート部材の端面から突出した軸方向鉄筋の中心軸同士を偏心させた状態で、両軸方向鉄筋が重ならない長さであるため、プレキャストコンクリート部材を配設する際の設置方法が軸方向からのスライドのみに限定されない。
また、対向するプレキャストコンクリート部材の軸方向鉄筋の中心軸同士は、同軸上に配置されておらず、ズレているため、低引張力でのひび割れの発生を抑制できる。
軸方向鉄筋同士は、接合鉄筋を介して重ね継手により接合される。
【0010】
前記第一軸方向鉄筋、前記第二軸方向鉄筋および前記接合鉄筋と交差する方向に配筋された横方向鉄筋をさらに備えていれば、定着体に係止された横方向鉄筋によって軸方向の終局引張耐力の向上を図ることができる。また、横方向鉄筋は、横方向の引張力に対して抵抗する。
前記間詰コンクリートの厚さ方向に対して、前記接合鉄筋のかぶりは、前記軸方向鉄筋のかぶりと同等以上であるのが望ましい。このようにすると、接合鉄筋を配筋しても部材厚が増加することがない。
前記間詰コンクリートの厚さ方向中間部に、前記両プレキャストコンクリート部材に挿通された緊張材が配設されているのが望ましい。このようにすれば、使用限界状態でのひび割れ幅を小さくすることができる。また、緊張力を大きくすれば、ひび割れの発生を抑制できる。また、緊張材がねじりに対する引張鋼材として有効に機能する。
【発明の効果】
【0011】
本発明のプレキャストコンクリート部材の継手構造およびプレキャストコンクリート部材の接合方法によれば、低引張力でのひび割れの発生を抑制し、かつ、効率的な施工が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】第一実施形態の継手構造を示す平面図である。
【
図2】第一実施形態の継手構造を示す側面図である。
【
図3】本実施形態のプレキャスト床版の接合方法の手順を示すフローチャートである。
【
図4】第二実施形態の継手構造を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<第一実施形態>
第一実施形態では、橋梁の施工において、橋軸方向に連続して敷設された複数のプレキャスト床版2同士を接合する継手構造1について説明する。
図1,2に継手構造1を示す。
図1および
図2に示すように、継手構造1は、隙間11をあけて配設された一対のプレキャスト床版2,2を接合するものであって、軸方向鉄筋3、接合鉄筋4、横方向鉄筋5、間詰コンクリート6および緊張材7を備える。
【0014】
プレキャスト床版2は、鉄筋コンクリート製のプレキャストコンクリート部材である。
図1および
図2に示すように、プレキャスト床版2の内部には、上下2段の床版縦筋21が橋軸方向(図面において左右方向)に沿って配筋されているとともに、床版縦筋21と交差する床版横筋22が配筋されている。また、プレキャスト床版2の端面23には、軸方向鉄筋3が突設されている。
【0015】
本実施形態の軸方向鉄筋3は、
図2に示すように、床版縦筋21のうち、端面23から突出して隙間11に配設された部分である。本実施形態の軸方向鉄筋3はSD345である。なお、軸方向鉄筋3は、床版縦筋21とは別にプレキャスト床版2の端面23に植設されたものであってもよい。また、軸方向鉄筋3を構成する鉄筋の規格は限定されるものではない。
図1に示すように、一方のプレキャスト床版2の端面23から突出する軸方向鉄筋3である第一軸方向鉄筋31の中心軸と、他方のプレキャスト床版2の端面23から突出する軸方向鉄筋3である第二軸方向鉄筋32の中心軸は、偏心しているとともに平行である。
【0016】
第一軸方向鉄筋31の先端および第二軸方向鉄筋32の先端には、各々の鉄筋径よりも大きな幅(鉄筋の断面形状よりも大きな外形)を有した定着体33がそれぞれ形成されている。本実施形態の定着体33は、矩形状の鋼板を軸方向鉄筋3の先端に固定することにより形成されている。定着体33の軸方向鉄筋3への固定方法は限定されるものではなく、例えば、溶接でもよいし、摩擦圧接接合やガス圧接接合でもよい。また、軸方向鉄筋3にネジ加工が施されている場合には、定着体33として軸方向鉄筋3に螺合可能なナットを採用してもよいし、雌ネジが形成された鋼板を採用してもよい。また、定着体33は、別部材(鋼板)を軸方向鉄筋3に接合することにより形成されたものに限定されるものではなく、例えば、鉄筋の端部を鍛造することにより形成された拡径部(いわゆるコブ)であってもよい。
定着体33の部材厚を含めた第一軸方向鉄筋31の一方のプレキャスト床版2からの突出長と、定着体33の部材厚を含めた第二軸方向鉄筋32の他方のプレキャスト床版2からの突出長の合計は、一対のプレキャスト床版2,2の間隔(隙間11の幅)よりも小さい。すなわち、第一軸方向鉄筋31の定着体33と、第二軸方向鉄筋32の定着体33との間には、隙間が確保されている。なお、第一軸方向鉄筋31の突出長と第二軸方向鉄筋32の突出長の合計は、一対のプレキャスト床版2,2の間隔と同等であってもよい。
【0017】
接合鉄筋4は、
図1に示すように、プレキャスト床版2同士の隙間11において軸方向鉄筋3(第一軸方向鉄筋31および第二軸方向鉄筋32)と平行に配筋された鉄筋である。本実施形態の接合鉄筋4の鉄筋径は、軸方向鉄筋3の鉄筋径と同等以下である。間詰コンクリート6の厚さ方向に対する接合鉄筋4のかぶりは、軸方向鉄筋3(第一軸方向鉄筋31および第二軸方向鉄筋32)のかぶりと同等以上である。
なお、継手構造1の配筋が密になる場合には、接合鉄筋4の鉄筋径を軸方向鉄筋3の鉄筋径よりも小さくすることが好ましい。
接合鉄筋4の両端には、接合鉄筋4の断面形状よりも大きな外形を有した定着体41が形成されている。接合鉄筋4の定着体41は、矩形状の鋼板を接合鉄筋4の先端に固定することにより形成されている。定着体41の接合鉄筋4への固定方法は限定されるものではなく、例えば、溶接でもよいし、摩擦圧接接合やガス圧接接合でもよい。また、接合鉄筋4にネジ加工が施されている場合には、定着体41として接合鉄筋4に螺合可能なナットを採用してもよいし、雌ネジが形成された鋼板を採用してもよい。また、定着体41は、別部材(鋼板)を接合鉄筋4に固定することにより形成されたものに限定されるものではなく、例えば、鉄筋の端部を鍛造することにより形成された拡径部(いわゆるコブ)であってもよい。
【0018】
横方向鉄筋5は、プレキャスト床版2同士の間(隙間11)において、軸方向鉄筋3および接合鉄筋4と交差する方向に配筋された鉄筋である。横方向鉄筋5は、軸方向鉄筋3の定着体33または接合鉄筋の4の定着体41に近接した状態で配筋されている。
【0019】
間詰コンクリート6は、プレキャスト床版2同士の間(隙間11)に充填されたコンクリートの硬化体である。間詰コンクリート6には、プレキャスト床版2と同等の圧縮強度を有する材料を使用する。なお、間詰コンクリート6を構成する材料は限定されるものではなく、例えば、モルタルを使用してもよい。また、間詰コンクリート6の配合は適宜決定すればよい。
緊張材7は、両プレキャスト床版2,2に挿通されていて、間詰コンクリート6の厚さ方向中間部に配設されている。緊張材7は、例えば、PC鋼棒、PC鋼線、PCより線などからなる。
【0020】
次に、プレキャスト床版2(プレキャストコンクリート部材)の接合方法について説明する。
図3にプレキャスト床版2の接合方法の手順を示す。
図3に示すように、プレキャスト床版2の接合方法は、配設工程S1と、配筋工程S2と、打設工程S3と、緊張工程S4を備えている。
配設工程S1では、一方のプレキャスト床版2から間隔(隙間11)をあけて他方のプレキャスト床版2を配設する。配設工程S1では、第一軸方向鉄筋31と第二軸方向鉄筋32とが、軸方向に間隔をあけて、かつ、軸方向と交差さする方向で交互に配置されるように、プレキャスト床版2を敷設する。すなわち、第一軸方向鉄筋31の中心軸と他方の前記プレキャストコンクリート部材の第二軸方向鉄筋32の中心軸とを偏心させる。また、第一軸方向鉄筋31の突出長と第二軸方向鉄筋32の突出長の合計よりも、プレキャスト床版2同士の間隔が大きくなるように、他方のプレキャストコンクリート部材を配設する。プレキャスト床版2の敷設作業は、一方のプレキャスト床版2を所定の位置に配置した後、他方のプレキャスト床版2を上方から吊り下ろすことにより行う。プレキャスト床版2の敷設後、プレキャスト床版2,2に緊張材7を挿通する。プレキャスト床版2を敷設したら、必要に応じて隙間11の側面および底面を型枠(図示せず)により覆う。なお、隙間11の下側に主桁が配設されている場合など、隙間11の下側から間詰コンクリート6が流出するおそれがない場合などには、隙間11の底面の型枠を省略してもよい。
【0021】
配筋工程S2では、プレキャスト床版2同士の間(隙間11)に接合鉄筋4および横方向鉄筋5を配筋する。接合鉄筋4は、第一軸方向鉄筋31と第二軸方向鉄筋32との間に、両軸方向鉄筋3,3と平行になるように配筋する。また、配筋工程S2では、軸方向鉄筋3の定着体33または接合鉄筋4の定着体41に近接する位置に横方向鉄筋5を配筋する。
打設工程S3では、プレキャスト床版2同士の間(隙間11)に間詰コンクリート6を打設する。間詰コンクリート6は、隙間11を覆う型枠内に打設する。間詰コンクリート6の養生を行い、所定の強度が発現したら、型枠を撤去する。
緊張工程S4では、緊張材7を緊張して、プレキャスト床版2にプレストレスを導入する。
【0022】
本実施形態の継手構造1およびプレキャストコンクリート部材の接合方法によれば、対向するプレキャスト床版2の端面から突出した軸方向鉄筋3同士が重ならない長さであるため、プレキャスト床版2を配設する際の設置方法が軸方向からのスライドのみに限定されない。後から敷設するプレキャスト床版2を上方から下ろす場合であっても、軸方向鉄筋3同士が接触することがない。
また、対向するプレキャスト床版2,2の軸方向鉄筋3,3の中心軸同士は、同軸上に配置されておらず、ズレているため、低引張力でのひび割れの発生を抑制できる。
対向するプレキャスト床版2,2から突設された第一軸方向鉄筋31と第二軸方向鉄筋32は、プレキャスト床版2の敷設後に、両軸方向鉄筋3,3の間において、両軸方向鉄筋3,3に跨って配筋された接合鉄筋4を介して重ね継手により接合される。
【0023】
また、軸方向鉄筋3の定着体33または接合鉄筋4の定着体41に係止された横方向鉄筋5によって軸方向の終局引張耐力の向上を図ることができる。また、横方向鉄筋5は、横方向の引張力に対して抵抗する。
接合鉄筋4の間詰コンクリート6の厚さ方向に対するかぶりが、軸方向鉄筋3のかぶりと同等以上であるため、接合鉄筋4を配筋しても部材厚が増加することがない。
また、間詰コンクリート6の厚さ方向中間部に、両プレキャスト床版2,2に挿通された緊張材7が配設されているため、使用限界状態でのひび割れ幅を小さくすることができる。また、緊張材7の緊張力を大きくすれば、ひび割れの発生を抑制できる。さらに、緊張材7がねじりに対する引張鋼材として有効に機能する。
【0024】
<第二実施形態>
第二実施形態では、第一実施形態と同様に、橋梁の施工において、橋軸方向に連続して敷設された複数のプレキャスト床版2同士を接合する継手構造1について説明する。
図4に第二実施形態の継手構造1を示す。
図4に示すように、継手構造1は、隙間11をあけて配設された一対のプレキャスト床版2,2を接合するものであって、軸方向鉄筋3、接合鉄筋4、横方向鉄筋5、間詰コンクリート6および緊張材7を備える。なお、プレキャスト床版2、軸方向鉄筋、横方向鉄筋5、間詰コンクリート6および緊張材7の詳細は、第一実施形態で記載した内容と同様なため、詳細な説明は省略する。
【0025】
接合鉄筋4は、
図4に示すように、プレキャスト床版2同士の隙間11において、第一軸方向鉄筋31と第二軸方向鉄筋32との間に配筋されている。本実施形態では、第一軸方向鉄筋31の中心軸および第二軸方向鉄筋32の中心軸に対して平行となるように配筋された第一接合鉄筋42と、第一軸方向鉄筋31の中心軸および第二軸方向鉄筋32の中心軸に対して傾斜した向きで配筋された第二接合鉄筋とを有している。第一接合鉄筋42と第二接合鉄筋43は、軸方向と直交する方向で交互に配筋されている。第一接合鉄筋42および第二接合鉄筋43は、第一軸方向鉄筋31の中心軸および第二軸方向鉄筋32の中心軸を含む平面に平行となるように配筋されている。
本実施形態の接合鉄筋4の鉄筋径は、軸方向鉄筋3の鉄筋径と同等以下である。間詰コンクリートの厚さ方向に対する接合鉄筋4のかぶりは、軸方向鉄筋3(第一軸方向鉄筋31および第二軸方向鉄筋32)のかぶりと同等以上である。
【0026】
接合鉄筋4の両端には、接合鉄筋4の断面形状よりも大きな外形を有した定着体41が形成されている。接合鉄筋4の定着体41は、矩形状の鋼板を接合鉄筋4の先端に固定することにより形成されている。定着体41の接合鉄筋4への固定方法は限定されるものではなく、例えば、溶接でもよいし、摩擦圧接接合やガス圧接接合でもよい。また、接合鉄筋4にネジ加工が施されている場合には、定着体41として接合鉄筋4に螺合可能なナットを採用してもよいし、雌ネジが形成された鋼板を採用してもよい。また、定着体41は、別部材(鋼板)を接合鉄筋4に固定することにより形成されたものに限定されるものではなく、例えば、鉄筋の端部を鍛造することにより形成された拡径部(いわゆるコブ)であってもよい。
【0027】
本実施形態の継手構造1によれば、接合鉄筋4を傾斜させることで、軸方向鉄筋3同士の軸方向と直交する方向の間隔を第一実施形態の継手構造1よりも小さくできる。すなわち、軸方向鉄筋3の配筋ピッチを第一実施形態における軸方向鉄筋3の配筋ピッチよりも小さくすることが可能となる。そのため、プレキャスト床版2の形状が比較的小さい場合であっても、必要な鉄筋量を配筋できる。
また、接合鉄筋4の傾斜角度を調整すれば、軸方向鉄筋3の配置誤差やプレキャスト床版2の配置誤差にも容易に対応できる。
この他の第二実施形態の継手構造1の作用効果は、第一実施形態と同様なため、詳細な説明は省略する。
【0028】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、前述の実施形態に限られず、各構成要素については、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜変更が可能である。
前記実施形態では、プレキャスト床版2の継手構造1について説明したが、プレキャストコンクリート部材は、床版に限定されるものではなく、例えば、ボックスカルバートであってもよい。
接合鉄筋4の全てが軸方向鉄筋3の中心軸に対して傾斜していてもよい。
横方向鉄筋5は、必ずしも定着体33,41と接している必要はない。また、横方向鉄筋5は、必要に応じて配筋すればよい。
緊張材7は、必要に応じて配設すればよい。同様に、緊張工程S4は必要に応じて実施すればよい。
定着体33,41の形状は矩形に限定されるものではなく、例えば、その他の多角形、円形、楕円形等であってもよい。
【符号の説明】
【0029】
1 継手構造(プレキャストコンクリート部材の継手構造)
11 隙間
2 プレキャスト床版(プレキャストコンクリート部材)
21 床版縦筋
22 床版横筋
23 端面
3 軸方向鉄筋
31 第一軸方向鉄筋
32 第二軸方向鉄筋
33 定着体
4 接合鉄筋
41 定着体
42 第一接合鉄筋
43 第二接合鉄筋
5 横方向鉄筋
6 間詰コンクリート
7 緊張材