(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025025776
(43)【公開日】2025-02-21
(54)【発明の名称】電極形成用スラリー
(51)【国際特許分類】
C01B 32/174 20170101AFI20250214BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20250214BHJP
H01M 4/139 20100101ALI20250214BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20250214BHJP
【FI】
C01B32/174
H01M4/62 Z
H01M4/139
H01M4/13
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023130887
(22)【出願日】2023-08-10
(71)【出願人】
【識別番号】000005957
【氏名又は名称】三菱鉛筆株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112335
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 英介
(74)【代理人】
【識別番号】100101144
【弁理士】
【氏名又は名称】神田 正義
(74)【代理人】
【識別番号】100101694
【弁理士】
【氏名又は名称】宮尾 明茂
(74)【代理人】
【識別番号】100124774
【弁理士】
【氏名又は名称】馬場 信幸
(72)【発明者】
【氏名】中田 有亮
(72)【発明者】
【氏名】門端 孝太
(72)【発明者】
【氏名】田後 慶一朗
(72)【発明者】
【氏名】瀧本 恵莉子
【テーマコード(参考)】
4G146
5H050
【Fターム(参考)】
4G146AA11
4G146AB06
4G146AC03A
4G146AC03B
4G146AC07A
4G146AC07B
4G146AC16A
4G146AC16B
4G146AC17A
4G146AC17B
4G146AC20B
4G146AC27A
4G146AC27B
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4G146AD25
4G146BA04
4G146CB10
5H050AA19
5H050BA16
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5H050CA01
5H050CA02
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5H050CA11
5H050CB02
5H050CB03
5H050CB08
5H050CB11
5H050DA10
5H050DA18
5H050EA08
5H050FA16
5H050GA10
5H050GA22
5H050HA00
5H050HA01
5H050HA04
5H050HA07
5H050HA13
(57)【要約】
【課題】 リチウムイオン電池の電極などの製造に好適な電極スラリー及び電極形成用スラリーを提供する。
【解決手段】 少なくとも、カーボンナノチューブ、分散剤、活物質及び溶媒を含有し、
前記カーボンナノチューブが30m2/g~70m2/gのBET比表面積を有し、且つラマン分光法におけるピーク強度比G/Dが1.9以上2.3以下である電極形成用スラリー。
(但し、前記ピーク強度比G/Dは、ラマンスペクトルにおいて、1570~1620cm-1の範囲内にあるGバンド散乱光ピークの最大強度をG、1320~1370cm-1の範囲内にあるDバンド散乱光ピークの最大強度をDとするとき、その比を表す。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、カーボンナノチューブ、分散剤及び溶媒を含有し、
前記カーボンナノチューブが30m2/g~70m2/gのBET比表面積を有し、且つ、ラマン分光法におけるピーク強度比G/Dが1.9以上2.3以下であるカーボンナノチューブスラリー。
但し、前記ピーク強度比G/Dは、ラマンスペクトルにおいて、1570cm-1~1620cm-1の範囲にあるGバンド散乱光ピークの最大強度をG、1320cm-1~1370cm-1の範囲にあるDバンド散乱光ピークの最大強度をDとするとき、その比を表す。
【請求項2】
前記カーボンナノチューブが、繊維長500μm~3500μm、繊維幅20nm~100nm、粉末X線回折分析における2θピーク半値幅が0.7°~1.2°である請求項1に記載のカーボンナノチューブスラリー。
【請求項3】
カーボンナノチューブの含有量が、スラリー全量に対して0.1質量%~3.0質量%である請求項1に記載のカーボンナノチューブスラリー。
【請求項4】
少なくとも、カーボンナノチューブ、分散剤、活物質及び溶媒を含有し、
前記カーボンナノチューブが30m2/g~70m2/gのBET比表面積を有し、且つ、ラマン分光法におけるピーク強度比G/Dが1.9以上2.3以下である電極形成用スラリー。
但し、前記ピーク強度比G/Dは、ラマンスペクトルにおいて、1570cm-1~1620cm-1の範囲にあるGバンド散乱光ピークの最大強度をG、1320cm-1~1370cm-1の範囲にあるDバンド散乱光ピークの最大強度をDとするとき、その比を表す。
【請求項5】
前記カーボンナノチューブが、繊維長500μm~3500μm、繊維幅20nm~100nm、粉末X線回折分析における2θピーク半値幅が0.7°~1.2°である請求項4に記載の電極形成用スラリー。
【請求項6】
請求項4~5のいずれか一項に記載の電極形成用スラリーを用いて作製された電極膜。
【請求項7】
電極膜全量に対して、少なくとも、カーボンナノチューブ0.05~3.0質量%、分散剤0.0125~6.0質量%、活物質80~98質量%を含む電極膜であって、
前記カーボンナノチューブが30m2/g~70m2/gのBET比表面積を有し、且つ、ラマン分光法におけるピーク強度比G/Dが1.9以上2.3以下である電極膜。
但し、前記ピーク強度比G/Dは、ラマンスペクトルにおいて、1570~1620cm-1の範囲にあるGバンド散乱光ピークの最大強度をG、1320~1370cm-1の範囲にあるDバンド散乱光ピークの最大強度をDとするとき、その比を表す。
【請求項8】
前記カーボンナノチューブが、繊維長500μm~3500μm、繊維幅20nm~100nm、粉末X線回折分析における2θピーク半値幅が0.7°~1.2°である請求項7に記載の電極膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池などの二次電池の電極の作製に使用されるカーボンナノチューブスラリー及び電極形成用スラリーに関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車の普及、携帯電話やノート型パーソナルコンピュータなどの携帯機器の小型軽量化及び高性能化に伴い、高いエネルギー密度を有する二次電池、さらに、その二次電池の高出力化、長寿命化が求められている。このような背景の下で高エネルギー密度、高電圧という特徴から非水系電解液を用いるリチウムイオン電池を含む非水系二次電池が多くの機器に使われるようになってきており、開発が盛んに行われている。
【0003】
特許文献1には、電極活物質、導電助剤、バインダーおよび極性溶媒を含有してなるリチウムイオン電池の電極形成用スラリーであって、前記導電助剤を分散した際の平均粒径が500nm以下であることを特徴とするリチウムイオン電池の電極形成用スラリーが開示されている。
【0004】
特許文献2には、リチウムイオン電池の電極形成用スラリーとして、カーボンナノチューブ(A)と、溶媒(B)と、分散剤(C)とを含むカーボンナノチューブ分散液であって、カーボンナノチューブ(A)が粉末X線回折分析において、回折角2θ=25°±2°にピークが存在し、そのピークの半価幅が2°~6°であり、ラマンスペクトルにおいて1560~1600cm-1の範囲内での最大ピーク強度をG、1310~1350cm-1の範囲内での最大ピーク強度をDとした際にG/D比が0.5~5.0であって、分散剤(C)がビニルアルコール骨格含有樹脂であることを特徴するカーボンナノチューブ分散液が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006-309958号公報(特許請求の範囲、実施例等)
【特許文献2】特開2020-11873号公報(特許請求の範囲、実施例等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
リチウムイオン二次電池等において高い電気特性を得るためには、電極の導電性が重要である。すなわち、電極を構成する材料には、高い導電性が求められる。特に、電極の作製に用いる電極形成用スラリーに配合されるカーボンナノチューブには、導電性が高いものが選択的に使用される。
【0007】
導電性が高いカーボンナノチューブとしては、繊維長が長いものが好適である。しかしながら、繊維長が長いカーボンナノチューブは、通常、分散性が低く、これを含有するスラリーにおいて、粘度がきわめて高くなる。
本発明は、分散性に優れ、粘度の低いカーボンナノチューブスラリーを提供することを課題とする。
【0008】
一方、カーボンナノチューブを含むスラリーを用いてリチウムイオン二次電池等の電極を形成するには、カーボンナノチューブスラリーをアルミ箔等の集電体に塗工し、乾燥させて、溶媒を除去することが一般に行われる。しかしながら、これにより作製される電極においては、かならずしもカーボンナノチューブの持つ特性が十分に生かされず、電気抵抗率が低い電極を工業的に製造することは容易でなかった。
本発明は、また、高い導電性を有する電極及びその作製に用いる電極形成用スラリーを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記従来の課題について鋭意検討した結果、特定の性状を有するカーボンナノチューブを使用することにより、好適なカーボンナノチューブスラリー及び電極形成用スラリーが得られることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、少なくとも、カーボンナノチューブ、分散剤及び溶媒を含有し、
前記カーボンナノチューブが30m2/g~70m2/gのBET比表面積を有し、且つ、ラマン分光法におけるピーク強度比G/Dが1.9以上2.3以下であるカーボンナノチューブスラリーに関する。
【0011】
但し、前記ピーク強度比G/Dは、ラマンスペクトルにおいて、1570~1620cm-1の範囲にあるGバンド散乱光ピークの最大強度をG、1320~1370cm-1の範囲にあるDバンド散乱光ピークの最大強度をDとするとき、その比を表す。
【0012】
特に好ましくは、前記カーボンナノチューブが、さらに、繊維長が500μm~3500μm、繊維幅が20nm~60nmであり、粉末X線回折分析における2θピーク半値幅が0.7°~1.2°であるという性状を有するカーボンナノチューブスラリーである。
【0013】
また、本発明は、少なくとも、カーボンナノチューブ、分散剤、活物質及び溶媒を含有し、
前記カーボンナノチューブが30m2/g~70m2/gのBET比表面積を有し、且つラマン分光法におけるピーク強度比G/Dが1.9以上2.3以下である電極形成用スラリーに関する。
【0014】
特に好ましくは、前記カーボンナノチューブが、さらに、繊維長が500μm~3500μm、繊維幅が20nm~60nmであり、粉末X線回折分析における2θピーク半値幅が0.7°~1.2°である電極形成用スラリーである。
【0015】
また、他の本発明は、電極膜全量に対して、少なくとも、カーボンナノチューブを0.05~3.0質量%、好ましくは0.1~1.0質量%、分散剤を0.0125~6.0質量%、好ましくは0.025~2.0質量%、活物質を80~98質量%、好ましくは90~97質量%含有する電極膜であって、
前記カーボンナノチューブが30m2/g~70m2/gのBET比表面積を有し、且つ、ラマン分光法におけるピーク強度比G/Dが1.9以上2.3以下である電極膜に関する。但し、前記ピーク強度比G/Dは、前記した通りである。
【発明の効果】
【0016】
本発明のカーボンナノチューブスラリーは、カーボンナノチューブを比較的高濃度で均一に分散する反面、比較的低粘度のスラリーである。そのため、プレミキシング操作、分散機への送液操作及び分散機における分散操作を、大きな負荷をかけることなく行うことができる。以上により、本発明のカーボンナノチューブスラリーは、調製及び取り扱いが容易である。
【0017】
本発明の電極形成用スラリーは、分散性に優れ、低い粘度を有するため、工業的に容易に調製することができ、集電体への塗工性も良好である。
また、本発明の電極形成用スラリーを使用して、高い導電性すなわち低い電気抵抗率を有する電極膜を作製することができる。
本発明の組成からなる電極膜は、電気抵抗率が低く、リチウムイオン二次電池の電極として良好な性能を発揮する。
【発明を実施するための形態】
【0018】
〈カーボンナノチューブ〉
本発明で使用されるカーボンナノチューブは、炭素で構成されている直径がナノメートルサイズの円筒状の物質である。単層のカーボンナノチューブの他、直径の異なる二本以上のカーボンナノチューブが層状に重なった多層のカーボンナノチューブが含まれる。
【0019】
本発明で使用されるカーボンナノチューブのBET比表面積は、30m2/g以上70m2/g未満であり、好ましくは、35m2/gを超え65m2/g未満である。カーボンナノチューブのBET比表面積は、比表面積測定装置を用いて測定することができる。
【0020】
本発明においては、BET比表面積が比較的小さいカーボンナノチューブを使用することを一つの特徴とする。BET比表面積が前記範囲内にあるカーボンナノチューブを使用したカーボンナノチューブスラリー及び電極形成用スラリーは、カーボンナノチューブの繊維長が長い場合においてさえも、分散性に優れるため、低いスラリー粘度を有する。また、かかる電極用スラリーから作製される電極膜の電気抵抗も小さくできる。
【0021】
一方、カーボンナノチューブスラリー及び電極形成用スラリーに含まれるカーボンナノチューブが前記範囲を越えるBET比表面積を有する場合は、スラリー分散性が低下し、スラリー粘度が高くなって、取り扱いにくくなる。その結果、このような場合の電極形成用スラリーは、電極を工業的に生産する上で不利である。
【0022】
本発明に使用するカーボンナノチューブが本発明の効果を発揮する機構は、下記のように推測される。すなわち、一般に、カーボンナノチューブは、粉体の状態ではバンドルと呼ばれるカーボンナノチューブが束になった状態となっている。このバンドルに隙間がある場合、または、不均一で疎な状態の場合は、BET比表面積が大きくなる。一方、本発明に使用するBET比表面積が比較的小さいカーボンナノチューブは、バンドルに隙間が非常に少なく、また、均一で緻密な構造を有し、溶媒が入り込むことによる膨潤が抑えられる。そのため、スラリー内においてカーボンナノチューブに抱えこまれる溶媒の量が少なくなり、カーボンナノチューブの膨潤が抑制されて、スラリーの粘度上昇が抑制される。
【0023】
本発明で使用されるカーボンナノチューブは、ラマンスペクトルにおけるピーク強度比G/Dが1.9以上2.3以下のカーボンナノチューブである。ここで、前記ピーク強度比G/Dは、ラマンスペクトルにおいて、1570~1620cm-1の範囲内にあるGバンド散乱光ピークの最大強度をG、1320~1370cm-1の範囲内にあるDバンド散乱光ピークの最大強度をDとするとき、その比を表す。ラマンスペクトルは、ラマン分光装置を用いてラマン散乱光を検出することにより測定することができる。
【0024】
ラマン分光法におけるピーク強度比G/Dは、炭素質材料の結晶性を反映する。炭素質材料の結晶性が高すぎると、グラファイト構造の発達により炭素エッジが減少し、電解質の配位サイトが少なくなって、低温での特性が低下したり、電気抵抗率が高くなるなどの問題が生じる。また、炭素質材料の結晶性が低すぎると、非晶質が多くなり、電気抵抗率が高くなって、電解質と電極材界面の電気二重層の利用効率が低下する。G/Dの値が前記範囲内にあるカーボンナノチューブを使用すると、電極を作製した際、欠陥が少なく、高電圧駆動に対する耐性も高く、長期に亘って導電性が高い電極が得られるという利点がある。
【0025】
本発明で使用されるカーボンナノチューブは、繊維長が好ましくは500μm~3500μm、より好ましくは800μm~3300μm、更に好ましくは700μm~3000μmであり、繊維幅が好ましくは20nm~100nm、より好ましくは25nm~60nmである繊維である。カーボンナノチューブの繊維長及び繊維幅は、電子顕微鏡の画像を用いて測定した、十分なn数の繊維長及び繊維幅の算術平均値を言う。
【0026】
繊維長が前記範囲内にあるカーボンナノチューブを使用すると、高い導電性を有する電極、すなわち電気抵抗率の低い電極を作製することができるので、好ましい。一方、繊維長の長さが前記範囲より短いカーボンナノチューブを使用すると、電極を作製した際、導電パスが切れやすくなって、見かけの電気抵抗率が高くなる。
また、繊維幅が前記範囲内にあるカーボンナノチューブを使用すると、カーボンナノチューブスラリー及び電極形成用スラリーにおいて、高い分散性が得られるので、好ましい。
【0027】
また、本発明で使用されるカーボンナノチューブは、好ましくは、粉末X線回折法における回折角2θ=25°±2°にピークが存在し、そのピーク半値幅が0.7°~1.2°である。粉末X線回折法は、X線回折装置を用いて実施することができる。
粉末X線回折分析により検出される2θピークの半値幅は、カーボンナノチューブの層構成の指標である。ピークの半価幅が小さいほど多層カーボンナノチューブの層数が多く、逆に、ピークの半価幅が大きいほど、カーボンナノチューブの層数が少ないと考えられる。ピーク半値幅が前記範囲内にあるカーボンナノチューブを使用すると、導電性と分散性の両立が図れるという利点がある。
【0028】
本発明で使用されるカーボンナノチューブは、例えば、粉状の触媒を投入した高温のチャンバー内に原料ガスを導入し、流動状態にて触媒表面に成長させる流動法により製造される。又は、触媒を付けた基板を静置した高温のチャンバー内に原料ガスを導入し、基板上に化学的に成長させる基板法により製造される。本発明に規定する性状を有するカーボンナノチューブであれば、上記の方法又はその他の方法で製造されたカーボンナノチューブが使用できる。
【0029】
カーボンナノチューブは、その製造工程に由来する、Fe、Co、Ni等のVIII族、VIIA族、VIA族等の重金属を含有する場合がある。脱金属操作は、カーボンナノチューブに含有される重金属量を除去して、その含有量を調節する操作である。適用することができる脱金属操作としては、酸処理、塩基処理、又は不活性雰囲気における焼成処理、等の一種類又は二種類以上を組み合わせて実施することができる。カーボンナノチューブに含有される重金属量は、カーボンナノチューブを焼成後、酸性水溶液で抽出し、ICP発光分光分析装置を用いて測定することができる。
【0030】
脱金属操作後のカーボンナノチューブに含有される重金属の含有量の合計は、5000ppm未満が好ましく、3000ppm未満がより好ましく、1000ppm未満がさらに好ましい。
カーボンナノチューブに含有される重金属の含有量の合計が5000ppm以上である場合は、作製した二次電池において、電極から重金属が電解液中に溶解して充放電のサイクル特性を低下させ、電池の長寿命化を実現することができないので、好ましくない。
【0031】
本発明のカーボンナノチューブスラリー及び電極形成用スラリーに使用されるカーボンナノチューブは、粉砕操作、分級操作及び脱金属操作の処理操作のうち、その一種又は複数種を組み合わせた処理を経たものが好ましい。これらの操作により、カーボンナノチューブの種々の特性を調整することができる。
【0032】
粉砕操作は、カーボンナノチューブを適当な大きさに粉砕する操作である。適用することができる粉砕操作としては、ピンミル、パルペライザー、ハンマーミル、ジェットミル、ボールミル、ヘンシェルミキサー、又はアトライターなどによる乾式粉砕、超音波分散機、ディスパー、ホモミキサー、自転公転ミキサー、プラネタリーミキサー、高圧ホモジナイザー、ペイントコンディショナー、コロイドミル類、ビーズミル、コーンミル、湿式ジェットミル、又は薄膜旋回型高速ミキサーなどによる湿式粉砕が挙げられる。
【0033】
分級操作は、カーボンナノチューブの大きさを調節する操作である。適用することができる分級操作としては、重力、慣性力、もしくは遠心力を利用した装置、又は、フィルターを利用した装置を、乾式法もしくは湿式法において実施することができる。
【0034】
本発明のカーボンナノチューブスラリーにおいては、カーボンナノチューブを比較的高濃度で含有することができる。具体的には、カーボンナノチューブの含有量は、カーボンナノチューブスラリー及び電極形成用スラリーに全量に対して、好ましくは0.1質量%~3.0質量%、より好ましくは0.15質量%~1.0質量%、さらに好ましくは0.2質量%~0.5質量%とすることができる。電極形成用スラリーのカーボンナノチューブの含有量がこの範囲内であると、スラリーを集電体に均一に塗工することができ、かつ、スラリーから作製される二次電池用電極の性能を確保することができる。
【0035】
本発明のカーボンナノチューブスラリーは、カーボンナノチューブが均一に分散し、かつ、低粘度のスラリーである。本発明のカーボンナノチューブスラリーの粘度は、せん断速度38.3s-1の時、5~100,000mPa・s、より好ましくは10~10,000mPa・s、さらに好ましくは20~1,000mPa・s、さらに好ましくは、30~700mPa・sである。
【0036】
〈分散剤〉
分散剤は、カーボンナノチューブを溶媒中に良好に分散させて、安定なスラリーをもたらす溶媒可溶性のポリマーである。
本発明のカーボンナノチューブスラリー及び電極形成用スラリーの溶媒が水系溶媒である場合には、好ましい分散剤としては、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロース又はその塩(Li,Na,Kなどのアルカリ金属塩)、セルロースナノファイバー、変性ポリビニルブチラール、アクリル酸塩ポリマーが挙げられる。
【0037】
本発明のカーボンナノチューブスラリー及び電極形成用スラリーの溶媒が非水系溶媒である場合には、好ましい分散剤としては、ポリビニルピロリドン、ポリビニルブチラール、アクリレートポリマー、スチレンアクリレートコポリマー、ポリフッ化ビニリデンが挙げられる。
【0038】
本発明のカーボンナノチューブスラリー及び電極形成用スラリーにおける分散剤の含有量は、カーボンナノチューブ100質量部に対して、3~300質量部とすることが好ましく、5~200質量部とすることがより好ましく、8~150質量部とすることが更に好ましく、10~100質量部とすることが特に好ましい。分散剤の配合量がこの範囲内であると、電極用スラリーの分散性を発揮しつつ、電極用スラリーから作製される二次電池用電極の性能に悪影響を及ぼさない。
【0039】
〈溶媒〉
本発明のカーボンナノチューブスラリー及び電極形成用スラリーに使用される溶媒には、水系溶媒と非水系溶媒がある。電極形成用スラリーに配合される溶媒の量は、水系溶媒の場合も非水系溶媒の場合も、電極用スラリー全量に対して、好ましくは20~70質量%、より好ましくは30~60質量%とすることができる。
【0040】
本発明のカーボンナノチューブスラリー及び電極形成用スラリーの一つの形態における溶媒は、水を含む水系溶媒である。水系溶媒として、水(例えば、イオン交換水、蒸留水、水道水等)、又は、水と水溶性溶剤との混合溶媒を使用することができる。
【0041】
混合溶媒に用いることができる水溶性溶剤としては、エチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオール、2,5-ヘキサンジオール、3-メチル1,3-ブタンジオール、2メチルペンタン-2,4-ジオール、3-メチルペンタン-1,3,5-トリオール、1,2,3-ヘキサントリオール等のアルキレングリコール類、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリアルキレングリコール類、グリセロール、ジグリセロール、トリグリセロール等のグリセロール類、
【0042】
エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノ-n-ブチルエーテル等のグリコールの低級アルキルエーテル、N-メチル-2-ピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダリジノン、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド等のアミド、アセトン等のケトンが挙げられる。
【0043】
混合溶媒に配合される水溶性溶剤の含有量は、混合溶媒全量に対して、0.1~30質量%であることが好ましく、1~20質量%であることが更に好ましい。この範囲内において、良好な電極形成用スラリーの流動性が得られる。
【0044】
本発明のカーボンナノチューブスラリー及び電極形成用スラリーの他の一つの形態における溶媒は、実質的に水を含有しない非水系溶剤である。非水系溶剤に許容される水の含有量は、好ましくは5000mg/L未満、より好ましくは3000mg/L未満であり、更に好ましくは、1000mg/L以下である。水の含有量がこの範囲内であると、電極形成用スラリーの流動性が確保される。非水系溶剤に含有される水分量は、カールフィッシャー水分計(電量滴定法)で測定することができる。
【0045】
非水系溶媒として用いることができる溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールメチル-n-プロピルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、メチルモノグリシジルエーテル、エチルモノグリシジルエーテル、ブチルモノグリシジルエーテル、フェニルモノグリシジルエーテル、メチルジグリシジルエーテル、エチルジグリシジルエーテル、ブチルジグリシジルエーテル、フェニルジグリシジルエーテル、メチルフェノールモノグリシジルエーテル、エチルフェノールモノグリシジルエーテル、ブチルフェノールモノグリシジルエーテル、ブチルフェニルエーテル、ジオキサン、ジオキソラン、アニソール、エチルベンジルエーテル、クレジルメチルエーテル、ジフェニルエーテル、ジベンジルエーテル、フェネトール、
【0046】
エチレングリコールモノアセテート、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールジアセテート、ジプロピレングリコールメチルエーテルアセテート、1,4-ブタンジオールジアセテート、1,3-ブチレングリコールジアセテート、1,6-ヘキサンジオールジアセテート、プロピレングリコールジアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノアセテート、プロピレングリコールモノアセテート、ジプロピレングリコールモノアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、
【0047】
酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸シクロヘキシル、ピルビン酸メチル、ピルビン酸エチル、メトキシプロピオン酸メチル、エトキシプロピオン酸エチル、酪酸メチル、酪酸エチル、酪酸プロピル、酪酸ブチル、乳酸メチル、乳酸エチル、γ-ブチロラクトン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、4-ビニルピリジン、
【0048】
メチルメタクリレート、2-ヒドロキシエチルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、グリシジルメタクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、ヘキサンジオールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、アセトン、メチルエチルケトン、メチル-n-ペンチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルイソペンチルケトン、2-ヘプタノン、シクロヘプタノン、シクロヘキサノン、
【0049】
ヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、シメン、メシチレン、スチレン、エチルベンゼン、ジエチルベンゼン、イソプロピルベンゼン、ペンチルベンゼン、ミネラルスピリット、パーフルオロカーボン、ハイドロフルオロエーテル、ハイドロクロロフルオロカーボン、ハイドロフルオロカーボン、パーフルオロポリエーテル、各種シリコーンオイル、各種ナフテン系溶剤、各種パラフィン系溶剤、各種イソパラフィン系溶剤が挙げられる。以上の非水系溶媒の群から選ばれる一種類の溶剤、または二種以上の溶剤からなる混合溶媒を使用することができる。
【0050】
これらの非水系溶媒の中で、ジオキソラン、酪酸ブチル、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、イソパラフィン系溶剤が好ましい。
【0051】
〈カーボンナノチューブスラリーの製造〉
本発明のカーボンナノチューブスラリーは、少なくとも、上記のカーボンナノチューブ、分散剤、及び溶媒を混合機に投入し、撹拌・混合する分散工程を経て製造することができる。
カーボンナノチューブスラリーの製造における分散工程は、例えば、超音波分散機や、ディスパー、ホモミキサー、自転公転ミキサー、ヘンシェルミキサー、プラネタリーミキサー等のミキサー類、(高圧)ホモジナイザー、ペイントコンディショナー、コロイドミル類、ビーズミル、コーンミル、ボールミル、サンドミル、アトライター、パールミル、コボールミル等のメディア型分散機、湿式ジェットミル、薄膜旋回型高速ミキサー等のメディアレス分散機、その他ロールミル等の分散装置を用いて分散処理することによって実施できる。
分散作用の安定性や分散効率の点から、好ましい分散装置は、薄膜旋回型高速ミキサー及びビーズミルである。
【0052】
本発明のカーボンナノチューブスラリーは、流動性に優れたスラリーである。具体的には、せん断速度38.3s-1における25℃の粘度値を、好ましくは5~100,000mPa・s、より好ましくは10~10,000mPa・s、さらに好ましくは20~1,000mPa・s、さらに好ましくは30~700mPa・sとすることができる。カーボンナノチューブスラリーの粘度値は、E型回転粘度計(東機産業(株)製、TV-22型)を用いて測定することができる。
【0053】
〈電極形成用スラリー〉
本発明のカーボンナノチューブスラリーは、リチウムイオン電池などの二次電池の正極又は負極を作製するための電極用スラリーとして好適に利用することができる。
本発明の電極用スラリーは、上記のカーボンナノチューブスラリーに、正極用活物質もしくは負極用活物質である活物質などを加えることにより得られ、正極用スラリー又は負極用スラリーとして使用することができる。
【0054】
すなわち、本発明の一つは、少なくとも、前記カーボンナノチューブ、分散剤、溶媒及び活物質を含む電極用スラリーである。
電極用スラリーが正極用活物質を含む正極用スラリーである場合も、負極用活物質を含む負極用スラリーである場合も、使用されるカーボンナノチューブ、分散剤、溶媒のそれぞれの種類及び配合比は、カーボンナノチューブスラリーについて前記したものと同じである。
【0055】
〈活物質〉
本発明の電極用スラリーには、電極の活物質として、正極用活物質又は負極用活物質が配合される。以下、正極用活物質が配合された電極用スラリーを正極用スラリー、負極用活物質が配合された電極用スラリーを負極用スラリーと言うことがある。
【0056】
〈正極用活物質〉
正極用スラリーは、正極用活物質を含有する。
正極用スラリーにおいて、上記正極用活物質の含有量は、正極用スラリー全量に対して50~70質量%が好ましく、50~63質量%が更に好ましい。正極用スラリーにおける正極用活物質の含有量がこの範囲内であると、作製される電極の性能を確保しつつ、スラリーの流動性を維持することができる。
【0057】
正極用活物質としては、例えば、リチウム-ニッケル複合酸化物、リチウム-コバルト複合酸化物、リチウム-マンガン複合酸化物、リチウム-ニッケル-マンガン複合酸化物、リチウム-ニッケル-コバルト複合酸化物、リチウム-ニッケル-アルミニウム複合酸化物、リチウム-ニッケル-コバルト-アルミニウム複合酸化物、リチウム-ニッケル-マンガン-コバルト複合酸化物、リチウム-ニッケル-マンガン-アルミニウム複合酸化物、リチウム-ニッケル-コバルト-マンガン-アルミニウム複合酸化物等のリチウムと遷移金属との複合酸化物、TiS2、FeS、MoS2等の遷移金属硫化物、MnO、V2O5、V6O13、TiO2等の遷移金属酸化物、オリビン型リチウムリン酸化物が挙げられる。
【0058】
オリビン型リチウムリン酸化物は、Mn、Cr、Co、Cu、Ni、V、Mo、Ti、Zn、Al、Ga、Mg、B、Nb、およびFeよりなる群のうちの少なくとも一種の元素、リチウム、リン、及び酸素を含む化合物である。オリビン型リチウムリン酸化物は、その特性を向上させるために前記の元素を一部他の元素に置換した化合物であってもよい。
【0059】
好ましい正極用活物質は、リチウム-ニッケル複合酸化物であり、更に好ましくは、式:LiNiXM1YM2ZO2(M1およびM2は、Al、B、アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属の元素のうち少なくとも一種以上の金属元素;0.8≦X≦1.0、0≦Y≦0.2、0≦Z≦0.2)で表されるリチウム-ニッケル複合酸化物、または、リン酸リチウムである。
これらの正極用の活物質は、一種のみを単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0060】
正極用スラリーには、さらに、硫化物固体電解質、酸化物固体電解質、ドライポリマー電解質、ゲルポリマー電解質、疑似固体電解質等の固体電解質を配合することができる。
【0061】
〈負極用活物質〉
負極用スラリーは、負極用活物質を含有する。
負極用スラリーにおいて、上記負極用活物質の含有量は、負極用スラリー全量に対して30~60質量%が好ましく、35~55質量%が更に好ましい。負極用スラリーにおける負極用活物質の含有量がこの範囲内であると、作製される電極の性能を確保しつつ、スラリーの流動性を維持することができる。
【0062】
負極用活物質としては、金属酸化物系粒子、シリコン系粒子、球状黒鉛を用いることができ、特に金属酸化物系粒子を好適に用いることができる。
【0063】
金属酸化物系粒子としては、例えば、チタン酸化物を使用できる。チタン酸化物としては、リチウムを吸蔵放出可能なものが使用され、例えば、スピネル型チタン酸リチウム、ラムスデライト型チタン酸リチウム、チタン含有金属複合酸化物、単斜晶系の結晶構造を有する二酸化チタン(TiO2(B))、並びにアナターゼ型二酸化チタンなどを用いることができる。
【0064】
スピネル型チタン酸リチウムとしては、Li4+xTi5O12(xは充放電反応により-1≦x≦3の範囲で変化する)などが挙げられる。ラムスデライト型チタン酸リチウムとしては、Li2+yTi3O7(yは充放電反応により-1≦y≦3の範囲で変化する)などが挙げられる。TiO2(B)及びアナターゼ型二酸化チタンとしては、Li1+zTiO2(zは充放電反応により-1≦z≦0の範囲で変化する)などが挙げられる。
【0065】
チタン含有金属複合酸化物としては、TiとP、V、Sn、Cu、Ni及びFeよりなる群から選択される少なくとも一種類の元素とを含有する金属複合酸化物などが挙げられる。TiとP、V、Sn、Cu、Ni及びFeよりなる群から選択される少なくとも一種類の元素を含有する金属複合酸化物としては、例えば、TiO2-P2O5、TiO2-V2O5、TiO2-P2O5-SnO2、TiO2-P2O5-MeO(MeはCu、Ni及びFeよりなる群から選択される少なくとも一種類の元素)などを挙げることができる。
【0066】
このような金属複合酸化物は、結晶性が低く、結晶相とアモルファス相とが共存しているか、又は、アモルファス相が単独で存在しているミクロ構造であることが好ましい。ミクロ構造であることにより、サイクル性能を更に向上させることができる。
【0067】
負極用スラリーには、さらに、硫化物固体電解質、酸化物固体電解質、ドライポリマー電解質、ゲルポリマー電解質、疑似固体電解質等の固体電解質を配合することができる。
【0068】
〈導電性材料〉
本発明の電極形成用スラリーには、さらに、カーボンナノチューブ以外の導電性材料(以下、単に「導電性材料」と言う)を配合することができる。導電性材料を配合することにより、スラリーから作製される二次電池用電極の導電性を高めることができる。
【0069】
用いることができる導電性材料には、黒鉛型の炭素質からなる導電性炭素粒子及び導電性炭素繊維が含まれる。
用いることができる導電性炭素粒子としては、例えばアセチレンブラック、ケッチェンブラック等のカーボンブラック粒子が挙げられる。導電性炭素繊維としては、カーボンナノチューブ以外のカーボンナノファイバー等が挙げられる。
【0070】
導電性炭素粒子は、前記カーボンナノチューブとの比重差が±0.2g/cm3以内の範囲内にあるものが、電極形成用スラリーとして保管しておいた際に比重差による分離が起こりにくいので、好ましい。さらに導電性材料粒子の一次粒子径は、1~70nm、好ましくは1~50nm、さらに好ましくは1~40nmであることが、導電性、安定性の点からより好ましい。導電性炭素粒子の一次粒子径は、電子顕微鏡の画像を用いて測定した十分なn数の外径の算術平均値を言う。
【0071】
導電性炭素繊維の繊維幅は、導電性、安定性の点から、1~500nmが好ましく、1~400nmがより好ましく、1~200nmがさらに好ましい。特に好ましくは、1nm以上90nm以下、3nm以上30nm以下、さらには3nm以上15nm以下である。導電性炭素繊維の繊維幅とは、電子顕微鏡の画像を用いて測定した十分なn数の繊維幅の算術平均値を言う。
【0072】
配合される導電性材料の含有量は、電極形成用スラリー全量に対して、0.5~10質量%とすることが好ましく、0.5~7質量%とすることがさらに好ましく、0.5~5質量%とすることが特に好ましい。
【0073】
〈結着材〉
上記の電極形成用スラリーには、更に結着材(バインダー)を含むことが好ましい。
用いることができる結着材としては、ポリイミド系樹脂、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレン、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン・フッ化ビニリデン系共重合体、六フッ化プロピレン・フッ化ビニリデン系共重合体、四フッ化エチレン・パーフルオロビニルエーテル系共重合体などのフッ素樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、スチレンブタジエンゴム(SBR)、アクリル系樹脂を挙げることができる。二種類以上の結着材を組み合わせて用いてもよい。
【0074】
使用される結着材の添加量は、二次電池用の各電極用スラリー中の活物質100質量部に対して、0.05~5質量部が好ましく、0.1~4.5質量部がより好ましく、0.5~4.5質量部が更に好ましい。結着材の添加量がこの範囲内であると、電池容量や充放電特性に悪影響を与えず、集電体に対する密着性の高い電極が得られる。
【0075】
本発明の電極用スラリーには、上記成分に加えて、更に、レベリング剤、固体電解質、防腐剤などを適宜配合することができる。
【0076】
〈電極形成用スラリーの製造〉
本発明の電極形成用スラリーは、少なくとも、前記の性状を有するカーボンナノチューブ、分散剤、活物質及び溶媒を混合し、均一化することにより製造される。
例えば、カーボンナノチューブ、分散剤、活物質及び溶媒などをプレミキシングし、混合機に投入し、撹拌・混合する分散処理を経て電極形成用スラリーを調製することができる。また、カーボンナノチューブ、分散剤及び溶媒などをプレミキシングし、混合機に投入し、撹拌・混合する分散処理を経てカーボンナノチューブスラリーを調製し、これに活物質を混合し、均一化して電極形成用スラリーを調製することができる。
【0077】
電極形成用スラリーの製造における分散処理は、例えば、超音波分散機や、ディスパー、ホモミキサー、自転公転ミキサー、ヘンシェルミキサー、プラネタリーミキサー等のミキサー類、(高圧)ホモジナイザー、ペイントコンディショナー、コロイドミル類、ビーズミル、コーンミル、ボールミル、サンドミル、アトライター、パールミル、コボールミル等のメディア型分散機、湿式ジェットミル、薄膜旋回型高速ミキサー等のメディアレス分散機、その他ロールミル等の分散装置を用いて分散処理することによって実施できる。
分散作用の安定性や分散効率の点から、好ましい分散装置は、薄膜旋回型高速ミキサー及びビーズミルである。
【0078】
本発明の電極形成用スラリーは、流動性に優れたスラリーである。具体的には、せん断速度38.3s-1における25℃の粘度値を、好ましくは5~500,000mPa・s、より好ましくは10~10,000mPa・s、さらに好ましくは20~1,000mPa・s、さらに好ましくは30~700mPa・sとすることができる。
【0079】
〈電極膜の作製〉
本発明の電極形成用スラリーから、集電体上に塗工し、乾燥して正極用又は負極用の電極膜を作製することができる。
まず、電極形成用スラリーを集電体上に塗工する。集電体は、リチウムイオン二次電池等の二次電池の電極膜を保持する基板である。上記電極膜の基板として使用する集電体の材質や形状は特に限定されず、適用する二次電池に合ったものを適宜選択することができる。集電体の材質としては、ガラス、樹脂の他、アルミニウム、銅、ニッケル、チタン、又はステンレス等の金属や合金が挙げられる。また、集電体の形状としては、好ましくは平面状の金属箔が用いられ、表面を粗面化した箔や、穴あき状の箔、及びメッシュ状の箔も使用できる。
【0080】
電極形成用スラリーを集電体上に塗工する方法としては、ダイコーティング法、ディップコーティング法、ロールコーティング法、ドクターコーティング法、ナイフコーティング法、スプレーコティング法、グラビアコーティング法、スクリーン印刷法または静電塗装法を挙げる事ができる。また、塗工後に平版プレスやカレンダーロール等による表面平滑化処理を行っても良い。
【0081】
次に、上記電極形成用スラリーが塗工された集電体を乾燥する。これにより、集電体上に固体状の電極膜が形成された電極が作製される。
塗工後の電極形成用スラリーを乾燥する方法としては、自然乾燥、送風乾燥機、温風乾燥機、赤外線加熱機、遠赤外線加熱機などが使用できる。
乾燥させた後に集電体上に形成される電極膜の厚さは、一般的には1μm以上500μm以下であり、好ましくは10μm以上300μm以下である。
【0082】
本発明の電極形成用スラリーを用いてリチウムイオン二次電池等の電極として好適な電極膜が作製される。形成される電極膜は、少なくとも、カーボンナノチューブ、分散剤、活物質を含み、具体的には、電極膜全量に対して、カーボンナノチューブを0.05~3.0質量%、好ましくは0.1~1.0質量%、分散剤を0.0125~6.0質量%、好ましくは0.025~2.0質量%、活物質を80~98質量%、好ましくは90~97質量%含有する。
【0083】
本発明の電極形成用スラリーから作製された電極膜は、低い電気抵抗率を有する。この電極膜は、例えば、表面抵抗率を5000Ω/□以下、好ましくは4000Ω/□以下とすることができ、電池容量、サイクル特性及びクーロン効率(放電量/充電量)に優れたリチウムイオン二次電池を構成する。
【0084】
〈リチウムイオン二次電池〉
リチウムイオン二次電池は、通常、正極と、負極と、電解質と、非水系の溶媒と、必要に応じて設けられるセパレーターとから構成され、円筒形、角柱形、ガム形、コイン形、ボタン形、ピン形、ペーパー形等、使用する目的に応じた種々の形状とすることができる。リチウムイオン二次電池の正極又は負極には、上記電極用スラリーを塗工して作製される電極を用いることができる。
以下、本発明の正極用スラリー又は負極用スラリーから作製された電極を用いて構成されるリチウムイオン二次電池について説明する。
【0085】
正極には、正極活物質を含む上述の正極用スラリーを集電体上に塗工乾燥して作製した電極を使用することができる。
負極には、負極活物質を含む上述の負極用スラリーを集電体上に塗工乾燥して作製した電極を使用することができる。
【0086】
電解質には、イオンが移動可能なLi塩を使用することができる。例えば、LiBF4、LiClO4、LiPF6、LiAsF6、LiSbF6、LiCF3SO3、Li(CF3SO2)2N、LiC4F9SO3、Li(CF3SO2)3C、LiI、LiBr、LiCl、LiAlCl4、LiHF2、LiSCN、及び、LiBPh4(ただし、Phはフェニル基を表す)が挙げられる。
【0087】
非水系の溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、及びジエチルカーボネート等のカーボネート類;γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、及びγ-オクタノイックラクトン等のラクトン類;テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、1,3-ジオキソラン、4-メチル-1,3-ジオキソラン、1,2-メトキシエタン、1,2-エトキシエタン、及び1,2-ジブトキシエタン等のエーテル類;メチルフォルメート、メチルアセテート、及びメチルプロピオネート等のエステル類;ジメチルスルホキシド、及びスルホラン等のスルホキシド類;並びに、アセトニトリル等のニトリル類等の非プロトン型極性溶媒が挙げられる。これらの溶媒は、一種単独で使用しても良いが、二種以上を混合して使用しても良い。
【0088】
セパレーターとしては、ポリエチレン不織布、ポリプロピレン不織布、ポリアミド不織布、及びこれらに親水性処理を施したものが挙げられる。
【実施例0089】
本発明の実施形態の例を実施例で説明する。なお、下記の実施例及び比較例の電極形成用スラリーの調製において使用した各カーボンナノチューブ(CNT)の性状は、それぞれ以下の手法により測定した。
【0090】
〔BET比表面積〕
カーボンナノチューブのBET比表面積を、比表面積測定装置((株)マウンテック社製、Macsorb model HM-1208)を用いてBET一点法、前処理110℃30分の条件で測定した。
【0091】
〔ラマンスペクトル〕
ラマン分光装置(サーモフィッシャーサイエンティフィック(株)、DXR2xiイメージング顕微ラマン)を用いて、レーザー波長532nmで測定を行った。
測定条件はレーザー出力2.0mW、露光時間0.1秒、スキャン回数10回、対物レンズの倍率50倍、アパーチャーは50μm共焦点ピンホール、グレーティングはフルレンジ、測定波長は50~3400cm-1とした。
【0092】
測定は各サンプルに対して重複しない任意の5点を測定した。
得られたピークの内、スペクトルで1580cm-1付近の最大ピーク強度をG、1350cm-1付近の最大ピーク強度をDとし、各測定に対するG/D比を算出した。同一サンプルの5点のG/D比の相加平均をそのサンプルのラマンスペクトルのピーク比(G/D)とした。
【0093】
〔繊維長・繊維幅〕
カーボンナノチューブを走査型電子顕微鏡((株)日立ハイテク製、S-3400N;SEM)を用いて観測し、1000倍の倍率の画像を用いて測定した10本のカーボンナノチューブの繊維長の算術平均値を、カーボンナノチューブの繊維長として求めた。また、カーボンナノチューブを透過型電子顕微鏡((株)日立ハイテク製、H-7650;TEM)を用いて観測し、5万倍の倍率の画像を用いて測定した10本のカーボンナノチューブの繊維幅の算術平均値を、カーボンナノチューブの繊維幅として求めた。
【0094】
〔ピーク半値幅〕
カーボンナノチューブを粉末X線回折分析装置((株)リガク製、miniflex600)を管電圧40kV、管電流15mA、スキャン速度2°/min、データサンプリング0.02°の条件で観測し、10個のカーボンナノチューブの2θピーク半値幅の平均値を求めた。
【0095】
(実施例1)
<カーボンナノチューブスラリーの調製>
300mLビーカーに、市販のカーボンナノチューブA 1.0質量部、分散剤としてカルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC、ダイセルミライズ(株)製、1190)0.5質量部、溶媒として水198.5質量部を仕込み、ディスパーを用いて泡を巻き込まない程度の撹拌速度(300rpm)にて撹拌(プレミキシング)を1時間行い、プレミキシング液を得た。
【0096】
上記のプレミキシング液を分散機((株)シンマルエンタープライゼス製、DYNO-MILL)に投入し、続いて、ジルコニア製のビーズ(ビーズ径Φ0.5mm)970質量部を仕込んだ後、周速14m/sにて分散処理を行った。その後、ビーズを分離して、カーボンナノチューブが均一に分散したカーボンナノチューブスラリーを得た。
得られたカーボンナノチューブスラリーの分散性(分散条件)を、前記分散処理において混合物が均一なスラリーになるのに要した混合時間が30分未満だった場合をA、30分以上1時間未満だった場合をB、1時間以上を要した場合をCとして、目視で評価した。
【0097】
〔粘度・平均粒子径d50の測定〕
上記のようにして調製したカーボンナノチューブスラリーの粘度を、E型回転粘度計(東機産業(株)製、TV-22型、1°34’のコーン)を用いて、せん断速度38.3s-1、サンプル温度25℃にて測定した。
また、上記のようにして調製したカーボンナノチューブスラリーに含有されるカーボンナノチューブの平均粒子径d50を、レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置((株)堀場製作所製、LA-960)を用いてレーザー回折法により体積基準で測定された粒子径分布から求めた。
【0098】
<電極形成用スラリーの調製>
上記のようにして調製したカーボンナノチューブスラリーに、カルボキシメチルセルロースナトリウム、結着剤としてSBR(スチレンブタジエンゴム)エマルション(日本ゼオン(株)製、BM-400B)、負極用活物質としてLTO(貝特瑞新能源材料有限公司製、LTO-2S)を、スラリーに含有されるカーボンナノチューブ0.3質量部に対して、CMC1.5質量部、SBR固形分1.2質量部及び負極用活物質97.0質量部になる量の量比にてそれぞれ配合した。次いで、ミキサー(シンキー(株)製、あわとり練太郎ARE-310)を用いて、均一なスラリーになるまで混錬し、電極(負極)形成用スラリーを得た。
【0099】
<電極の作製>
調製した電極形成用スラリーを、アプリケーターを用い、ソーダガラス片上に50μmの膜厚にて塗工した。次いで、電極形成用スラリーを塗工したガラス薄片を90℃ホットプレートで10分間乾燥して、電極膜が形成された電極(負極)を作製した。
負極として形成された電極膜は、活物質100質量部に対して、カーボンナノチューブを0.3質量部、CMCを1.5質量部、SBRを1.2質量部の割合で含有した。
【0100】
〔電気抵抗率の測定〕
得られた負極につき、電気抵抗率計((株)三菱化学アナリテック製、ロレスターGP、MCP-T610、四探針プローブ、ASPピン間5mm)を用いて、表面抵抗率(Ω/□)を測定し、電気抵抗率の低さを評価した。
【0101】
(実施例2~7、比較例1~6)
市販のカーボンナノチューブB~H、分散剤、結着材、活物質及び溶媒を、表1に掲載した種類及び使用量に変更した以外は、実施例1と同様の方法により、カーボンナノチューブスラリーを調製した。カーボンナノチューブスラリーの粘度及びこれに含有されるカーボンナノチューブの平均粒子径d50を、実施例1と同様の方法により、測定した。
【0102】
さらに、調製した電極形成用スラリーをそれぞれ使用して、実施例1と同様の方法により、電極(負極)を作製した。得られた電極につき、実施例1と同様の方法によりそれぞれの電極の表面抵抗率(Ω/□)を測定した。
【0103】
それぞれの実施例及び比較例で使用したカーボンナノチューブA~Hの性状を表1に示す。
実施例1~7及び比較例1~5のカーボンナノチューブスラリーについて、構成するカーボンナノチューブ、分散剤及び溶媒の種類及び配合量、並びに、これを用いて作製した電極の表面抵抗率の評価結果を表2に示す。
【0104】
【0105】
【0106】
本発明の範囲内である実施例1~7のカーボンナノチューブスラリーは、比較的低い粘度を有し、容易に調製することができた。これに対し、本発明の範囲外である比較例4のカーボンナノチューブスラリーは、分散性が低く、調製に時間を要した。
【0107】
また、本発明の範囲内である実施例1~7の電極形成用スラリーは、電極を作製する際、集電体への塗工操作が容易であった。
本発明の範囲内である実施例1~7の電極用スラリーから作製された実施例1~7の電極は、表2から明らかなように、低い表面抵抗率を示した。
【0108】
これに対し、本発明の範囲外である比較例1~5の電極用スラリーから作製された電極は、表2から明らかなように、高い表面抵抗率を示した。特に、比較例1及び比較例5の電極は、表面抵抗率が10000000Ω/□を超え、明らかにリチウム二次電池用電極として性能が劣るものであった。各比較例の電極は、本発明の範囲から外れるカーボンナノチューブを使用したものであり、作製した電極において良好な導電パスが形成されなかったものと考えられる。