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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025025805
(43)【公開日】2025-02-21
(54)【発明の名称】ステンレス鋼用電解研磨液
(51)【国際特許分類】
   C25F 3/24 20060101AFI20250214BHJP
【FI】
C25F3/24
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023130939
(22)【出願日】2023-08-10
(71)【出願人】
【識別番号】511121388
【氏名又は名称】株式会社日本科学エンジニアリング
(71)【出願人】
【識別番号】517132810
【氏名又は名称】地方独立行政法人大阪産業技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田口 千秋
(72)【発明者】
【氏名】左藤 眞市
(72)【発明者】
【氏名】林 寛一
(72)【発明者】
【氏名】岩田 孝二
(57)【要約】
【課題】中性又は塩基性でありながら、電解研磨処理の処理速度(溶接スケール除去速度)を向上させた電解研磨液を提供する。
【解決手段】ステンレス鋼を電解研磨処理するための電解研磨液であって、
(1)ホスホン酸及びアミノカルボン酸以外の酸の中性塩と、ホスホン酸化合物又はその塩とを含有する、又は
(2)酸の中性塩を含有し、前記酸の中性塩は、フィチン酸の中性塩を含有する、
を満たす、電解研磨液。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステンレス鋼を電解研磨処理するための電解研磨液であって、
ホスホン酸及びアミノカルボン酸以外の酸の中性塩と、
ホスホン酸化合物又はその塩、及び/又はアミノカルボン酸化合物又はその塩とを含有する、電解研磨液。
【請求項2】
前記酸の中性塩は、リン酸、フィチン酸、酒石酸、リンゴ酸、グルコン酸及びクエン酸よりなる群から選ばれる少なくとも1種の中性塩である、請求項1に記載の電解研磨液。
【請求項3】
ステンレス鋼を電解研磨処理するための電解研磨液であって、
酸の中性塩を含有し、
前記酸の中性塩は、フィチン酸の中性塩を含有する、電解研磨液。
【請求項4】
さらに、酒石酸、リンゴ酸、グルコン酸及びクエン酸よりなる群から選ばれる少なくとも1種の中性塩を含有する、請求項3に記載の電解研磨液。
【請求項5】
さらに、ホスホン酸化合物又はその塩を含有する、請求項3に記載の電解研磨液。
【請求項6】
電解研磨液の総量を100質量%として、前記ホスホン酸化合物又はその塩の含有量が0.5~20.0質量%である、請求項1、2又は5に記載の電解研磨液。
【請求項7】
さらに、アミノカルボン酸化合物及び/又はその塩を含有する、請求項3~5のいずれか1項に記載の電解研磨液。
【請求項8】
電解研磨液の総量を100質量%として、前記アミノカルボン酸化合物及び/又はその塩の含有量が0.5~5.0質量%である、請求項1又は2に記載の電解研磨液。
【請求項9】
電解研磨液の総量を100質量%として、前記アミノカルボン酸化合物及び/又はその塩の含有量が0.5~5.0質量%である、請求項7に記載の電解研磨液。
【請求項10】
電解研磨液の総量を100質量%として、前記酸の中性塩の含有量が0.5~40質量%である、請求項1~5のいずれか1項に記載の電解研磨液。
【請求項11】
さらに、スルホン酸化合物又はその塩を含有する、請求項1~5のいずれか1項に記載の電解研磨液。
【請求項12】
電解研磨液の総量を100質量%として、前記スルホン酸化合物又はその塩の含有量が0.5~20.0質量%である、請求項11に記載の電解研磨液。
【請求項13】
交流電流法又は交直重畳電流法によりステンレス鋼を電解研磨処理するために使用される、請求項1~5のいずれか1項に記載のステンレス鋼用電解研磨液。
【請求項14】
請求項1~5のいずれか1項に記載のステンレス鋼用電解研磨液を用いて電解する、ステンレス鋼の電解研磨方法。
【請求項15】
請求項1~5のいずれか1項に記載のステンレス鋼用電解研磨液を用いて電解する、ステンレス鋼の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステンレス鋼用電解研磨液に関する。
【背景技術】
【0002】
ステンレス鋼に溶接を施すと、その溶接部分に「溶接焼け」と呼ばれる酸化スケール(溶接スケール)が発生する。この溶接スケールは種々のトラブル要因となるため除去する必要がある。溶接スケールを除去する方法としては、物理的研磨法、化学的研磨法及び電解研磨法が知られているが、なかでも、溶接スケールの除去性能に優れる電解研磨法が広く採用されている。電解研磨法は、陽極としてのステンレス鋼母材を正極に接続し、陰極を負極に接続して、陽極と陰極との間に電解研磨液を介在させて両極間に電流を通電することにより、ステンレス鋼表面に生じた溶接スケールを除去する方法である。
【0003】
この電解研磨法に用いられる電解研磨液は、酸性電解研磨液と中性又は塩基性電解研磨液に大別される。このうち、酸性電解研磨液は、中性又は塩基性電解研磨液と比較すると電解研磨処理の処理速度(溶接スケール除去速度)は速いため、近年、種々の酸性電解研磨液が提案されており、近年の工業界においては、リン酸を主成分とする酸性電解研磨液が多く使用されており、電解研磨処理の処理速度(溶接スケール除去速度)が速いことから、交流電流法又は交直重畳電流法が多用されている。しかしながら、このリン酸を酸性電解研磨液として使用し、交流電流法又は交直重畳電流法により電解研磨処理を行うと、不溶性のリン酸鉄塩が生成され、ステンレス鋼の表面処理部分が白濁化してしまう。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方、中性又は塩基性電解研磨液を採用するとこの白濁化を避けることは可能であるが、従来の中性又は塩基性電解研磨液は電解研磨処理の処理速度(溶接スケール除去速度)が遅いという問題を有している。
【0005】
本発明は、このような課題を解決しようとするものであり、中性又は塩基性でありながら、電解研磨処理の処理速度(溶接スケール除去速度)を向上させた電解研磨液を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記した目的を達成すべく鋭意研究を重ねてきた。その結果、ホスホン酸及びアミノカルボン酸以外の酸の中性塩とホスホン酸化合物又はその塩とを含有するか、又は、酸の中性塩としてフィチン酸の中性塩と、酒石酸、リンゴ酸、グルコン酸及びクエン酸よりなる群から選ばれる少なくとも1種の中性塩とを含有することで、中性でありながら、電解研磨処理の処理速度(溶接スケール除去速度)に優れた電解研磨液が得られることを見出した。この知見に基づいて更に研究を重ね本発明を完成した。即ち、本発明は、以下の構成を包含する。
【0007】
項1.ステンレス鋼を電解研磨処理するための電解研磨液であって、
ホスホン酸及びアミノカルボン酸以外の酸の中性塩と、
ホスホン酸化合物又はその塩、及び/又はアミノカルボン酸化合物又はその塩とを含有する、電解研磨液。
【0008】
項2.前記酸の中性塩は、リン酸、フィチン酸、酒石酸、リンゴ酸、グルコン酸及びクエン酸よりなる群から選ばれる少なくとも1種の中性塩である、項1に記載の電解研磨液。
【0009】
項3.ステンレス鋼を電解研磨処理するための電解研磨液であって、
酸の中性塩を含有し、
前記酸の中性塩は、フィチン酸の中性塩を含有する、電解研磨液。
【0010】
項4.さらに、酒石酸、リンゴ酸、グルコン酸及びクエン酸よりなる群から選ばれる少なくとも1種の中性塩を含有する、項3に記載の電解研磨液。
【0011】
項5.さらに、ホスホン酸化合物又はその塩を含有する、項3又は4に記載の電解研磨液。
【0012】
項6.電解研磨液の総量を100質量%として、前記ホスホン酸化合物又はその塩の含有量が0.5~20.0質量%である、請求項1、2又は5に記載の電解研磨液。
【0013】
項7.さらに、アミノカルボン酸化合物及び/又はその塩を含有する、項3~6のいずれか1項に記載の電解研磨液。
【0014】
項8.電解研磨液の総量を100質量%として、前記アミノカルボン酸化合物及び/又はその塩の含有量が0.5~5.0質量%である、項1又は2に記載の電解研磨液。
【0015】
項9.電解研磨液の総量を100質量%として、前記アミノカルボン酸化合物及び/又はその塩の含有量が0.5~5.0質量%である、項7に記載の電解研磨液。
【0016】
項10.電解研磨液の総量を100質量%として、前記酸の中性塩の含有量が0.5~40.0質量%である、項1~9のいずれか1項に記載の電解研磨液。
【0017】
項11.さらに、スルホン酸化合物又はその塩を含有する、項1~10のいずれか1項に記載の電解研磨液。
【0018】
項12.電解研磨液の総量を100質量%として、前記スルホン酸化合物又はその塩の含有量が0.5~20.0質量%である、項11に記載の電解研磨液。
【0019】
項13.交流電流法又は交直重畳電流法によりステンレス鋼を電解研磨処理するために使用される、項1~12のいずれか1項に記載のステンレス鋼用電解研磨液。
【0020】
項14.項1~13のいずれか1項に記載のステンレス鋼用電解研磨液を用いて電解する、ステンレス鋼の電解研磨方法。
【0021】
項15.項1~13のいずれか1項に記載のステンレス鋼用電解研磨液を用いて電解する、ステンレス鋼の製造方法。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、中性でありながら、電解研磨処理の処理速度(溶接スケール除去速度)に優れた電解研磨液を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本明細書において、「含有」は、「含む(comprise)」、「実質的にのみからなる(consist essentially of)」、及び「のみからなる(consist of)」のいずれも包含する概念である。
【0024】
また、本明細書において、数値範囲を「A~B」で示す場合、A以上B以下を意味する。
【0025】
1.電解研磨液(第1の態様)
本発明の第1の態様に係る電解研磨液は、ステンレス鋼を電解研磨処理するための電解研磨液であって、ホスホン酸以外の酸の中性塩と、ホスホン酸化合物又はその塩、及び/又はアミノカルボン酸化合物又はその塩とを含有する。
【0026】
(1-1)酸の中性塩
ホスホン酸及びアミノカルボン酸以外の酸の中性塩としては、特に制限されるわけではないが、リン酸、フィチン酸、酒石酸、リンゴ酸、グルコン酸、クエン酸等の中性塩を採用することができる。
【0027】
中性塩としても、特に制限されるわけではないが、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩等が挙げられ、具体的には、カリウム塩、ナトリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、アンモニウム塩等が挙げられる。なかでも、電解研磨処理の処理速度(溶接スケール除去速度)の観点から、アルカリ金属塩が好ましく、カリウム塩がより好ましい。
【0028】
ホスホン酸以外の酸の中性塩としては、具体的には、リン酸カリウム、リン酸ナトリウム、フィチン酸カリウム、フィチン酸ナトリウム、酒石酸カリウム、酒石酸ナトリウム、リンゴ酸カリウム、リンゴ酸ナトリウム、グルコン酸カリウム、グルコン酸ナトリウム、クエン酸カリウム、クエン酸ナトリウム等が挙げられる。なお、リン酸の中性塩を採用する場合、リン酸としては、メタリン酸、次亜リン酸、オルトリン酸、ピロリン酸、トリメタリン酸、トリリン酸、テトラリン酸、ヘキサリン酸等が挙げられる。これらの酸の中性塩は、単独で使用することもでき、2種以上を組合せて使用することもできる。
【0029】
なかでも、電解研磨処理の処理速度(溶接スケール除去速度)の観点から、フィチン酸の中性塩(フィチン酸カリウム、フィチン酸ナトリウム等)と、酒石酸、リンゴ酸、グルコン酸、クエン酸等の中性塩(酒石酸カリウム、酒石酸ナトリウム、リンゴ酸カリウム、リンゴ酸ナトリウム、グルコン酸カリウム、グルコン酸ナトリウム、クエン酸カリウム、クエン酸ナトリウム等)等とを含有することが好ましい。この場合、フィチン酸の中性塩(フィチン酸カリウム、フィチン酸ナトリウム等)の含有量は、酒石酸、リンゴ酸、グルコン酸、クエン酸等の中性塩(酒石酸カリウム、酒石酸ナトリウム、リンゴ酸カリウム、リンゴ酸ナトリウム、グルコン酸カリウム、グルコン酸ナトリウム、クエン酸カリウム、クエン酸ナトリウム等)100質量部に対して、5~20質量部が好ましく、6~18質量部がより好ましく、7~15質量部がさらに好ましい。
【0030】
本発明の電解研磨液中の酸の中性塩の含有量は、特に制限されるわけではないが、電解研磨処理の処理速度(溶接スケール除去速度)の観点から、本発明の電解研磨液の総量を100質量%として、0.5~40.0質量%が好ましく、1.0~30.0質量%がより好ましく、3.0~20.0質量%がさらに好ましい。また、2種以上の酸の中性塩を使用する場合、その合計含有量が上記範囲となるように調整することが好ましい。
【0031】
(1-2)ホスホン酸化合物又はその塩
本発明において使用するホスホン酸化合物又はその塩は、金属イオンを捕捉するホスホン酸系キレート剤としての機能を有し、上記した酸の中性塩と併用することで、電解研磨処理の処理速度(溶接スケール除去速度)をさらに向上させやすい。
【0032】
ホスホン酸化合物又はその塩としては、具体的には、ニトリロトリス(メチレンホスホン酸)、1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸、2-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸、エチレンジアミンテトラキスメチレンホスホン酸等のホスホン酸化合物や、これらの塩が挙げられる。なかでも、電解研磨処理の処理速度(溶接スケール除去速度)の観点から、ニトリロトリスメチレンホスホン酸、1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸等やその塩が好ましい。
【0033】
これらホスホン酸化合物の塩としては、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩等が挙げられ、具体的には、カリウム塩、ナトリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、アンモニウム塩等が挙げられる。また、これらの水和物を用いることも可能である。なかでも、電解研磨処理の処理速度(溶接スケール除去速度)の観点から、アルカリ金属塩が好ましく、カリウム塩がより好ましい。
【0034】
ホスホン酸化合物又はその塩としては、具体的には、ニトリロトリス(メチレンホスホン酸)、ニトリロトリス(メチレンホスホン酸)カリウム塩、ニトリロトリス(メチレンホスホン酸)ナトリウム塩、1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸、1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸カリウム塩、1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸ナトリウム塩、2-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸、2-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸カリウム塩、2-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸ナトリウム塩、エチレンジアミンテトラキスメチレンホスホン酸、エチレンジアミンテトラキスメチレンホスホン酸カリウム塩、エチレンジアミンテトラキスメチレンホスホン酸ナトリウム塩等が挙げられる。
【0035】
これらのホスホン酸化合物又はその塩は、単独で使用することもでき、2種以上を組合せて使用することもできる。
【0036】
本発明の電解研磨液中のホスホン酸化合物又はその塩の含有量は、特に制限されるわけではないが、電解研磨処理の処理速度(溶接スケール除去速度)の観点から、本発明の電解研磨液の総量を100質量%として、0.5~20.0質量%が好ましく、3.0~18.0質量%がより好ましく、7.0~15.0質量%がさらに好ましい。また、2種以上のホスホン酸化合物又はその塩を使用する場合、その合計含有量が上記範囲となるように調整することが好ましい。
【0037】
(1-3)アミノカルボン酸化合物又はその塩
本発明において使用することができるアミノカルボン酸化合物及び/又はその塩は、上記した酸の中性塩と併用することで、電解研磨処理の処理速度(溶接スケール除去速度)をさらに向上させやすい。このアミノカルボン酸化合物及び/又はその塩は、溶液中で経時劣化することなく、電解研磨処理の処理速度(溶接スケール除去速度)を向上させ続けることができる。
【0038】
アミノカルボン酸化合物及び/又はその塩としては、具体的には、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸(HEDTA)、1,3-プロパンジアミン四酢酸(PDTA)、トリエチレンテトラミン六酢酸(TTHA)、1,3-ジアミノ-2-プロパノール四酢酸(DPTA-OH)、ヒドロキシエチルイミノ二酢酸(HIDA)、ニトリロ三酢酸(NTA)等のアミノカルボン酸化合物や、これらの塩が挙げられる。なかでも、電解研磨処理の処理速度(溶接スケール除去速度)の観点から、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸(HEDTA)等やその塩が好ましく、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)やその塩がより好ましい。
【0039】
これらアミノカルボン酸化合物の塩としては、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩等が挙げられ、具体的には、カリウム塩、ナトリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、アンモニウム塩等が挙げられる。また、これらの水和物を用いることも可能である。なかでも、電解研磨処理の処理速度(溶接スケール除去速度)の観点から、アルカリ金属塩が好ましく、カリウム塩がより好ましい。
【0040】
アミノカルボン酸化合物又はその塩としては、具体的には、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、エチレンジアミン四酢酸カリウム塩、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム塩、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、ジエチレントリアミン五酢酸カリウム塩、ジエチレントリアミン五酢酸カリウム塩、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸(HEDTA)、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸カリウム塩、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸ナトリウム塩、1,3-プロパンジアミン四酢酸(PDTA)、1,3-プロパンジアミン四酢酸カリウム塩、1,3-プロパンジアミン四酢酸ナトリウム塩、トリエチレンテトラミン六酢酸(TTHA)、トリエチレンテトラミン六酢酸カリウム塩、トリエチレンテトラミン六酢酸ナトリウム塩、1,3-ジアミノ-2-プロパノール四酢酸(DPTA-OH)、1,3-ジアミノ-2-プロパノール四酢酸カリウム塩、1,3-ジアミノ-2-プロパノール四酢酸ナトリウム塩、ヒドロキシエチルイミノ二酢酸(HIDA)、ヒドロキシエチルイミノ二酢酸カリウム塩、ヒドロキシエチルイミノ二酢酸ナトリウム塩、ニトリロ三酢酸(NTA)、ニトリロ三酢酸カリウム塩、ニトリロ三酢酸ナトリウム塩等が挙げられる。
【0041】
これらのアミノカルボン酸化合物又はその塩は単独で用いることもでき、2種以上を組合せて用いることもできる。
【0042】
本発明の電解研磨液中のアミノカルボン酸化合物又はその塩の含有量は、特に制限されるわけではないが、電解研磨処理の処理速度(溶接スケール除去速度)の観点から、本発明の電解研磨液の総量を100質量%として、0.5~5.0質量%が好ましく、0.6~4.0質量%がより好ましく、0.7~3.0質量%がさらに好ましい。また、2種以上のアミノカルボン酸化合物又はその塩を使用する場合、その合計含有量が上記範囲となるように調整することが好ましい。
【0043】
(1-4)スルホン酸化合物又はその塩
本発明において使用することができるスルホン酸化合物又はその塩は、上記した酸の中性塩と併用することで、電解研磨処理の処理速度(溶接スケール除去速度)をさらに向上させやすい。
【0044】
スルホン酸化合物としては、具体的には、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、プロパンスルホン酸(1-プロパンスルホン酸、2-プロパンスルホン酸等)、ビニルスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸(o-トルエンスルホン酸、m-トルエンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸等)、フェノールスルホン酸(o-フェノールスルホン酸、m-フェノールスルホン酸、p-フェノールスルホン酸等)、ニトロベンゼンスルホン酸(o-ニトロベンゼンスルホン酸、m-ニトロベンゼンスルホン酸、p-ニトロベンゼンスルホン酸等)、ビス(3-スルホプロピル)ジスルフィド等のスルホン酸化合物や、これらの塩が挙げられる。なかでも、電解研磨処理の処理速度(溶接スケール除去速度)の観点から、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、プロパンスルホン酸(1-プロパンスルホン酸、2-プロパンスルホン酸等)、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸(o-トルエンスルホン酸、m-トルエンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸等)、フェノールスルホン酸(o-フェノールスルホン酸、m-フェノールスルホン酸、p-フェノールスルホン酸等)、ニトロベンゼンスルホン酸(o-ニトロベンゼンスルホン酸、m-ニトロベンゼンスルホン酸、p-ニトロベンゼンスルホン酸等)、ビス(3-スルホプロピル)ジスルフィド等やその塩が好ましく、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、プロパンスルホン酸(1-プロパンスルホン酸、2-プロパンスルホン酸等)、トルエンスルホン酸(o-トルエンスルホン酸、m-トルエンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸等)、ニトロベンゼンスルホン酸(o-ニトロベンゼンスルホン酸、m-ニトロベンゼンスルホン酸、p-ニトロベンゼンスルホン酸等)、ビス(3-スルホプロピル)ジスルフィド等やその塩がより好ましい。
【0045】
これらスルホン酸化合物の塩としては、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩等が挙げられ、具体的には、カリウム塩、ナトリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、アンモニウム塩等が挙げられる。また、これらの水和物を用いることも可能である。なかでも、電解研磨処理の処理速度(溶接スケール除去速度)の観点から、アルカリ金属塩が好ましく、カリウム塩がより好ましい。
【0046】
スルホン酸化合物又はその塩としては、具体的には、メタンスルホン酸、メタンスルホン酸カリウム、メタンスルホン酸ナトリウム、エタンスルホン酸、エタンスルホン酸カリウム、エタンスルホン酸ナトリウム、プロパンスルホン酸(1-プロパンスルホン酸、2-プロパンスルホン酸等)、プロパンスルホン酸カリウム(1-プロパンスルホン酸カリウム、2-プロパンスルホン酸カリウム等)、プロパンスルホン酸ナトリウム(1-プロパンスルホン酸ナトリウム、2-プロパンスルホン酸ナトリウム等)、ビニルスルホン酸、ビニルスルホン酸カリウム、ビニルスルホン酸ナトリウム、ベンゼンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸カリウム、ベンゼンスルホン酸ナトリウム、トルエンスルホン酸(o-トルエンスルホン酸、m-トルエンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸等)、トルエンスルホン酸カリウム(o-トルエンスルホン酸カリウム、m-トルエンスルホン酸カリウム、p-トルエンスルホン酸カリウム等)、トルエンスルホン酸ナトリウム(o-トルエンスルホン酸ナトリウム、m-トルエンスルホン酸ナトリウム、p-トルエンスルホン酸ナトリウム等)、フェノールスルホン酸(o-フェノールスルホン酸、m-フェノールスルホン酸、p-フェノールスルホン酸等)、フェノールスルホン酸カリウム(o-フェノールスルホン酸カリウム、m-フェノールスルホン酸カリウム、p-フェノールスルホン酸カリウム等)、フェノールスルホン酸ナトリウム(o-フェノールスルホン酸ナトリウム、m-フェノールスルホン酸ナトリウム、p-フェノールスルホン酸ナトリウム等)、ニトロベンゼンスルホン酸(o-ニトロベンゼンスルホン酸、m-ニトロベンゼンスルホン酸、p-ニトロベンゼンスルホン酸等)、ニトロベンゼンスルホン酸カリウム(o-ニトロベンゼンスルホン酸カリウム、m-ニトロベンゼンスルホン酸カリウム、p-ニトロベンゼンスルホン酸カリウム等)、ニトロベンゼンスルホン酸ナトリウム(o-ニトロベンゼンスルホン酸ナトリウム、m-ニトロベンゼンスルホン酸ナトリウム、p-ニトロベンゼンスルホン酸ナトリウム等)、ビス(3-スルホプロピル)ジスルフィド、3,3’-ジチオビス(プロパン-1-スルホン酸ナトリウム)等が挙げられる。
【0047】
これらのスルホン酸又はその塩は単独で用いることもでき、2種以上を組合せて用いることもできる。
【0048】
本発明の電解研磨液中のスルホン酸化合物又はその塩の含有量は、特に制限されるわけではないが、電解研磨処理の処理速度(溶接スケール除去速度)の観点から、本発明の電解研磨液の総量を100質量%として、0.5~20.0質量%が好ましく、3.0~18.0質量%がより好ましく、7.0~15.0質量%がさらに好ましい。また、2種以上のスルホン酸化合物又はその塩を使用する場合、その合計含有量が上記範囲となるように調整することが好ましい。
【0049】
(1-5)電解研磨液
本発明の電解研磨液には、上記したホスホン酸及びアミノカルボン酸以外の酸の中性塩と、ホスホン酸化合物又はその塩と、必要に応じてアミノカルボン酸化合物又はその塩と、必要に応じてスルホン酸化合物又はその塩以外にも、様々な成分を含ませることもできる。
【0050】
本発明の電解研磨液には、ゲル化剤を含ませることもできる。ゲル化剤を含有させることにより、本発明の電解研磨液により適切な粘性を付与し、ペースト状の電解研磨液を得ることも可能である。電解研磨処理の際の液だれを避けたい場合、例えば、ステンレス鋼母材が垂直方向に設置された現場で溶接され、その溶接焼けを除去したい場合等に有用である。このような観点から、本発明の電解研磨液にゲル化剤を含ませる場合、その含有量は、0.01~1質量%が好ましく、0.02~0.5質量%がより好ましい。このようなゲル化剤としては、特に限定されないが、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等の化学修飾されたセルロース誘導体、キサンタンガム、グアーガム、カラギーナン、タマリンドガム、ローカストビーンガム、ペクチン等の多糖類等の1種又は2種以上を挙げることができる。
【0051】
また、本発明の電解研磨液には、ジエチレングリコールを含ませることもできる。ジエチレングリコールを含有させることにより、処理速度をさらに向上させることも可能である。このような観点から、本発明の電解研磨液にジエチレングリコールを含ませる場合、その含有量は、0.01~1質量%が好ましく、0.02~0.5質量%がより好ましい。
【0052】
このような本発明の電解研磨液は、電解研磨法により溶接スケールを除去する際の処理速度をより向上させやすい観点から、水溶液が好ましい。水の使用量は、本発明の電解研磨液中の各成分の含有量を上記範囲となるように調整することが好ましい。この結果、本発明の電解研磨液を中性、例えばpHを6.0~8.0、好ましくは6.5~7.5とすることができ、酸性電解研磨液と異なり白濁化が起こらない中性電解研磨液でありつつも、溶接スケールを特に効果的に除去することができる。
【0053】
2.電解研磨液(第2の態様)
本発明の第2の態様に係る電解研磨液は、ステンレス鋼を電解研磨処理するための電解研磨液であって、酸の中性塩を含有し、前記酸の中性塩は、フィチン酸の中性塩を含有する。
【0054】
(2-1)酸の中性塩
酸の中性塩としては、フィチン酸の中性塩を含有する。
【0055】
中性塩としては、特に制限されるわけではないが、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩等が挙げられ、具体的には、カリウム塩、ナトリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、アンモニウム塩等が挙げられる。なかでも、電解研磨処理の処理速度(溶接スケール除去速度)の観点から、アルカリ金属塩が好ましく、カリウム塩がより好ましい。
【0056】
酸の中性塩において、フィチン酸の中性塩としては、具体的には、フィチン酸カリウム、フィチン酸ナトリウム等が挙げられる。これらのフィチン酸の中性塩は、単独で使用することもでき、2種以上を組合せて使用することもできる。
【0057】
酸の中性塩において、フィチン酸の中性塩以外にも、酒石酸、リンゴ酸、グルコン酸及びクエン酸よりなる群から選ばれる少なくとも1種の中性塩を含ませることもできる。酒石酸、リンゴ酸、グルコン酸及びクエン酸よりなる群から選ばれる少なくとも1種の中性塩としては、具体的には、酒石酸カリウム、酒石酸ナトリウム、リンゴ酸カリウム、リンゴ酸ナトリウム、グルコン酸カリウム、グルコン酸ナトリウム、クエン酸カリウム、クエン酸ナトリウム等が挙げられる。これらの酸の中性塩は、単独で使用することもでき、2種以上を組合せて使用することもできる。
【0058】
なかでも、電解研磨処理の処理速度(溶接スケール除去速度)の観点から、フィチン酸の中性塩(フィチン酸カリウム、フィチン酸ナトリウム等)の含有量は、酒石酸、リンゴ酸、グルコン酸、クエン酸等の中性塩(酒石酸カリウム、酒石酸ナトリウム、リンゴ酸カリウム、リンゴ酸ナトリウム、グルコン酸カリウム、グルコン酸ナトリウム、クエン酸カリウム、クエン酸ナトリウム等)100質量部に対して、5~20質量部が好ましく、6~18質量部がより好ましく、7~15質量部がさらに好ましい。
【0059】
本発明の電解研磨液中の酸の中性塩の含有量は、特に制限されるわけではないが、電解研磨処理の処理速度(溶接スケール除去速度)の観点から、本発明の電解研磨液の総量を100質量%として、0.5~40.0質量%が好ましく、1.0~30.0質量%がより好ましく、3.0~20.0質量%がさらに好ましい。この酸の中性塩の含有量は、フィチン酸の中性塩と、酒石酸、リンゴ酸、グルコン酸及びクエン酸よりなる群から選ばれる少なくとも1種の中性塩との合計含有量が上記範囲となるように調整することが好ましい。
【0060】
(2-2)ホスホン酸化合物又はその塩
本発明において使用することができるホスホン酸化合物又はその塩は、金属イオンを捕捉するホスホン酸系キレート剤としての機能を有し、上記した酸の中性塩と併用することで、電解研磨処理の処理速度(溶接スケール除去速度)をさらに向上させやすい。
【0061】
ホスホン酸化合物又はその塩としては、具体的には、ニトリロトリス(メチレンホスホン酸)、1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸、2-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸、エチレンジアミンテトラキスメチレンホスホン酸等のホスホン酸化合物や、これらの塩が挙げられる。なかでも、電解研磨処理の処理速度(溶接スケール除去速度)の観点から、ニトリロトリスメチレンホスホン酸、1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸等やその塩が好ましい。
【0062】
これらホスホン酸化合物の塩としては、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩等が挙げられ、具体的には、カリウム塩、ナトリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、アンモニウム塩等が挙げられる。また、これらの水和物を用いることも可能である。なかでも、電解研磨処理の処理速度(溶接スケール除去速度)の観点から、アルカリ金属塩が好ましく、カリウム塩がより好ましい。
【0063】
ホスホン酸化合物又はその塩としては、具体的には、ニトリロトリス(メチレンホスホン酸)、ニトリロトリス(メチレンホスホン酸)カリウム塩、ニトリロトリス(メチレンホスホン酸)ナトリウム塩、1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸、1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸カリウム塩、1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸ナトリウム塩、2-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸、2-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸カリウム塩、2-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸ナトリウム塩、エチレンジアミンテトラキスメチレンホスホン酸、エチレンジアミンテトラキスメチレンホスホン酸カリウム塩、エチレンジアミンテトラキスメチレンホスホン酸ナトリウム塩等が挙げられる。
【0064】
これらのホスホン酸化合物又はその塩は、単独で使用することもでき、2種以上を組合せて使用することもできる。
【0065】
本発明の電解研磨液中のホスホン酸化合物又はその塩の含有量は、特に制限されるわけではないが、電解研磨処理の処理速度(溶接スケール除去速度)の観点から、本発明の電解研磨液の総量を100質量%として、0.5~20.0質量%が好ましく、3.0~18.0質量%がより好ましく、7.0~15.0質量%がさらに好ましい。また、2種以上のホスホン酸化合物又はその塩を使用する場合、その合計含有量が上記範囲となるように調整することが好ましい。
【0066】
(2-3)アミノカルボン酸化合物又はその塩
本発明において使用することができるアミノカルボン酸化合物及び/又はその塩は、上記した酸の中性塩と併用することで、電解研磨処理の処理速度(溶接スケール除去速度)をさらに向上させやすい。このアミノカルボン酸化合物及び/又はその塩は、溶液中で経時劣化することなく、電解研磨処理の処理速度(溶接スケール除去速度)を向上させ続けることができる。
【0067】
アミノカルボン酸化合物及び/又はその塩としては、具体的には、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸(HEDTA)、1,3-プロパンジアミン四酢酸(PDTA)、トリエチレンテトラミン六酢酸(TTHA)、1,3-ジアミノ-2-プロパノール四酢酸(DPTA-OH)、ヒドロキシエチルイミノ二酢酸(HIDA)、ニトリロ三酢酸(NTA)等のアミノカルボン酸化合物や、これらの塩が挙げられる。なかでも、電解研磨処理の処理速度(溶接スケール除去速度)の観点から、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸(HEDTA)等やその塩が好ましく、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)やその塩がより好ましい。
【0068】
これらアミノカルボン酸化合物の塩としては、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩等が挙げられ、具体的には、カリウム塩、ナトリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、アンモニウム塩等が挙げられる。また、これらの水和物を用いることも可能である。なかでも、電解研磨処理の処理速度(溶接スケール除去速度)の観点から、アルカリ金属塩が好ましく、カリウム塩がより好ましい。
【0069】
アミノカルボン酸化合物又はその塩としては、具体的には、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、エチレンジアミン四酢酸カリウム塩、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム塩、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、ジエチレントリアミン五酢酸カリウム塩、ジエチレントリアミン五酢酸カリウム塩、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸(HEDTA)、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸カリウム塩、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸ナトリウム塩、1,3-プロパンジアミン四酢酸(PDTA)、1,3-プロパンジアミン四酢酸カリウム塩、1,3-プロパンジアミン四酢酸ナトリウム塩、トリエチレンテトラミン六酢酸(TTHA)、トリエチレンテトラミン六酢酸カリウム塩、トリエチレンテトラミン六酢酸ナトリウム塩、1,3-ジアミノ-2-プロパノール四酢酸(DPTA-OH)、1,3-ジアミノ-2-プロパノール四酢酸カリウム塩、1,3-ジアミノ-2-プロパノール四酢酸ナトリウム塩、ヒドロキシエチルイミノ二酢酸(HIDA)、ヒドロキシエチルイミノ二酢酸カリウム塩、ヒドロキシエチルイミノ二酢酸ナトリウム塩、ニトリロ三酢酸(NTA)、ニトリロ三酢酸カリウム塩、ニトリロ三酢酸ナトリウム塩等が挙げられる。
【0070】
これらのアミノカルボン酸化合物又はその塩は単独で用いることもでき、2種以上を組合せて用いることもできる。
【0071】
本発明の電解研磨液中のアミノカルボン酸化合物又はその塩の含有量は、特に制限されるわけではないが、電解研磨処理の処理速度(溶接スケール除去速度)の観点から、本発明の電解研磨液の総量を100質量%として、0.5~5.0質量%が好ましく、0.6~4.0質量%がより好ましく、0.7~3.0質量%がさらに好ましい。また、2種以上のアミノカルボン酸化合物又はその塩を使用する場合、その合計含有量が上記範囲となるように調整することが好ましい。
【0072】
(2-4)スルホン酸化合物又はその塩
本発明において使用することができるスルホン酸化合物又はその塩は、上記した酸の中性塩と併用することで、電解研磨処理の処理速度(溶接スケール除去速度)をさらに向上させやすい。
【0073】
スルホン酸化合物としては、具体的には、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、プロパンスルホン酸、ビニルスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸(o-トルエンスルホン酸、m-トルエンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸等)、フェノールスルホン酸(o-フェノールスルホン酸、m-フェノールスルホン酸、p-フェノールスルホン酸等)、ニトロベンゼンスルホン酸(o-ニトロベンゼンスルホン酸、m-ニトロベンゼンスルホン酸、p-ニトロベンゼンスルホン酸等)、ビス(3-スルホプロピル)ジスルフィド等のスルホン酸化合物や、これらの塩が挙げられる。なかでも、電解研磨処理の処理速度(溶接スケール除去速度)の観点から、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、プロパンスルホン酸(1-プロパンスルホン酸、2-プロパンスルホン酸等)、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸(o-トルエンスルホン酸、m-トルエンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸等)、フェノールスルホン酸(o-フェノールスルホン酸、m-フェノールスルホン酸、p-フェノールスルホン酸等)、ニトロベンゼンスルホン酸(o-ニトロベンゼンスルホン酸、m-ニトロベンゼンスルホン酸、p-ニトロベンゼンスルホン酸等)、ビス(3-スルホプロピル)ジスルフィド等やその塩が好ましく、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、プロパンスルホン酸(1-プロパンスルホン酸、2-プロパンスルホン酸等)、トルエンスルホン酸(o-トルエンスルホン酸、m-トルエンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸等)、ニトロベンゼンスルホン酸(o-ニトロベンゼンスルホン酸、m-ニトロベンゼンスルホン酸、p-ニトロベンゼンスルホン酸等)、ビス(3-スルホプロピル)ジスルフィド等やその塩がより好ましい。
【0074】
これらスルホン酸化合物の塩としては、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩等が挙げられ、具体的には、カリウム塩、ナトリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、アンモニウム塩等が挙げられる。また、これらの水和物を用いることも可能である。なかでも、電解研磨処理の処理速度(溶接スケール除去速度)の観点から、アルカリ金属塩が好ましく、カリウム塩がより好ましい。
【0075】
スルホン酸化合物又はその塩としては、具体的には、メタンスルホン酸、メタンスルホン酸カリウム、メタンスルホン酸ナトリウム、エタンスルホン酸、エタンスルホン酸カリウム、エタンスルホン酸ナトリウム、プロパンスルホン酸(1-プロパンスルホン酸、2-プロパンスルホン酸等)、プロパンスルホン酸カリウム(1-プロパンスルホン酸カリウム、2-プロパンスルホン酸カリウム等)、プロパンスルホン酸ナトリウム(1-プロパンスルホン酸ナトリウム、2-プロパンスルホン酸ナトリウム等)、ビニルスルホン酸、ビニルスルホン酸カリウム、ビニルスルホン酸ナトリウム、ベンゼンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸カリウム、ベンゼンスルホン酸ナトリウム、トルエンスルホン酸(o-トルエンスルホン酸、m-トルエンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸等)、トルエンスルホン酸カリウム(o-トルエンスルホン酸カリウム、m-トルエンスルホン酸カリウム、p-トルエンスルホン酸カリウム等)、トルエンスルホン酸ナトリウム(o-トルエンスルホン酸ナトリウム、m-トルエンスルホン酸ナトリウム、p-トルエンスルホン酸ナトリウム等)、フェノールスルホン酸(o-フェノールスルホン酸、m-フェノールスルホン酸、p-フェノールスルホン酸等)、フェノールスルホン酸カリウム(o-フェノールスルホン酸カリウム、m-フェノールスルホン酸カリウム、p-フェノールスルホン酸カリウム等)、フェノールスルホン酸ナトリウム(o-フェノールスルホン酸ナトリウム、m-フェノールスルホン酸ナトリウム、p-フェノールスルホン酸ナトリウム等)、ニトロベンゼンスルホン酸(o-ニトロベンゼンスルホン酸、m-ニトロベンゼンスルホン酸、p-ニトロベンゼンスルホン酸等)、ニトロベンゼンスルホン酸カリウム(o-ニトロベンゼンスルホン酸カリウム、m-ニトロベンゼンスルホン酸カリウム、p-ニトロベンゼンスルホン酸カリウム等)、ニトロベンゼンスルホン酸ナトリウム(o-ニトロベンゼンスルホン酸ナトリウム、m-ニトロベンゼンスルホン酸ナトリウム、p-ニトロベンゼンスルホン酸ナトリウム等)、ビス(3-スルホプロピル)ジスルフィド、3,3’-ジチオビス(プロパン-1-スルホン酸ナトリウム)等が挙げられる。
【0076】
これらのスルホン酸又はその塩は単独で用いることもでき、2種以上を組合せて用いることもできる。
【0077】
本発明の電解研磨液中のスルホン酸化合物又はその塩の含有量は、特に制限されるわけではないが、電解研磨処理の処理速度(溶接スケール除去速度)の観点から、本発明の電解研磨液の総量を100質量%として、0.5~20.0質量%が好ましく、3.0~18.0質量%がより好ましく、7.0~15.0質量%がさらに好ましい。また、2種以上のスルホン酸化合物又はその塩を使用する場合、その合計含有量が上記範囲となるように調整することが好ましい。
【0078】
(2-5)電解研磨液
本発明の電解研磨液には、上記した酸の中性塩と、必要に応じてホスホン酸化合物又はその塩と、必要に応じてアミノカルボン酸化合物又はその塩と、必要に応じてスルホン酸化合物又はその塩以外にも、様々な成分を含ませることもできる。
【0079】
本発明の電解研磨液には、ゲル化剤を含ませることもできる。ゲル化剤を含有させることにより、本発明の電解研磨液により適切な粘性を付与し、ペースト状の電解研磨液を得ることも可能である。電解研磨処理の際の液だれを避けたい場合、例えば、ステンレス鋼母材が垂直方向に設置された現場で溶接され、その溶接焼けを除去したい場合等に有用である。このような観点から、本発明の電解研磨液にゲル化剤を含ませる場合、その含有量は、0.01~1質量%が好ましく、0.02~0.5質量%がより好ましい。このようなゲル化剤としては、特に限定されないが、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等の化学修飾されたセルロース誘導体、キサンタンガム、グアーガム、カラギーナン、タマリンドガム、ローカストビーンガム、ペクチン等の多糖類等の1種又は2種以上を挙げることができる。
【0080】
また、本発明の電解研磨液には、ジエチレングリコールを含ませることもできる。ジエチレングリコールを含有させることにより、処理速度をさらに向上させることも可能である。このような観点から、本発明の電解研磨液にジエチレングリコールを含ませる場合、その含有量は、0.01~1質量%が好ましく、0.02~0.5質量%がより好ましい。
【0081】
このような本発明の電解研磨液は、電解研磨法により溶接スケールを除去する際の処理速度をより向上させやすい観点から、水溶液が好ましい。水の使用量は、本発明の電解研磨液中の各成分の含有量を上記範囲となるように調整することが好ましい。この結果、本発明の電解研磨液を中性、例えばpHを6.0~8.0、好ましくは6.5~7.5とすることができ、酸性電解研磨液と異なり白濁化が起こらない中性電解研磨液でありつつも、溶接スケールを特に効果的に除去することができる。
【0082】
3.電解研磨処理
本発明の電解研磨液は、ステンレス鋼表面の溶接スケールを除去するために使用されることが好ましい。この際、酸性電解研磨液と異なり白濁化が起こらない中性電解研磨液でありつつも、電解研磨処理中の処理速度を向上させることができる。
【0083】
この本発明の電解研磨液を用いてステンレス鋼表面の溶接スケールを除去する場合、交流電流法又は交直重畳電流法により電解研磨処理することができる。
【0084】
この場合、交流電流法又は交直重畳電流法において、本発明の電解研磨液を使用すること以外は従来と同様の条件で行うことができる。例えば、交直重畳電流法を採用する場合は、ステンレス鋼母材を、交流電流や、直流に交流を重ねた交直重畳電流の陽極側に接続し、本発明の電解研磨液を使用して電解処理することができる。この際、電解研磨液の保持性が良好な布又はフェルトに本発明の電解研磨液を含浸させたり刷毛塗りしたりして陽極であるステンレス鋼母材に押し当てることにより、本発明の電解研磨液を電気分解における電解質とすることもできる。なお、酸の中性塩としてフィチン酸の中性塩と、酒石酸、リンゴ酸、グルコン酸及びクエン酸よりなる群から選ばれる少なくとも1種の中性塩とを含有する電解研磨液は、刷毛塗りして電解研磨を施すのに特に適している。これにより、陽極で溶解が起こり、陽極であるステンレス鋼母材表面から溶接スケールが溶出することにより、溶接スケールが除去される。これらの電流方式や条件は、ステンレス鋼の表面処理の用途、電解処理液の仕様、表面処理を行う母材の材質、母材の表面処理加工の種類等によって、最適な方式を選択することが好ましい。なお、交流電流法又は交直重畳電流法による電解研磨処理時の電流、電圧等の各種条件は常法にしたがい調整することができる。例えば、出力電圧は10~70Vの範囲で調節し、5~90Aの電流を流すことが好ましい。
【実施例0085】
以下、実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらのみに限定されないことは言うまでもない。
【0086】
なお、実施例において、各種試薬は以下のものを使用した。
オルトリン酸カリウム:富士フイルム和光純薬(株)製(10質量%水溶液)
ピロリン酸カリウム:富士フイルム和光純薬(株)製(10質量%水溶液)
フィチン酸カリウム:富士フイルム和光純薬(株)製(10質量%水溶液)
酒石酸カリウム:富士フイルム和光純薬(株)製(10質量%水溶液)
リンゴ酸カリウム:富士フイルム和光純薬(株)製(10質量%水溶液)
グルコン酸カリウム:富士フイルム和光純薬(株)製(10質量%水溶液)
クエン酸カリウム:富士フイルム和光純薬(株)製(10質量%水溶液)
1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸(キレストPH-210):キレスト(株)製
エチレンジアミン四酢酸(EDTA;キレスト3K-50):キレスト(株)製
p-トルエンスルホン酸カリウム:富士フイルム和光純薬(株)製のp-トルエンスルホン酸一水和物の水溶液(10質量%)を水酸化カリウムでpHが7.0となるように中和
3,3’-ジチオビス(プロパン-1-スルホン酸ナトリウム)(SPS):旭化学工業(株)製(30質量%水溶液)。
【0087】
速度試験用ステンレス鋼板には、SUS-304(50mm×100mm×1.6mm;2B材)に溶接でビードを作成したものを使用した。溶接条件は、初期電流20A、溶接電流60A、クレーター電流20A、ガス流量6L/min、スピード約1000m/m/分とした。
【0088】
上記したステンレス鋼板に対して、表1~4に示す電解研磨液を用いて、交流電流法(AC)による電解研磨処理を施した。具体的には、上記したステンレス鋼板を電源の一極に接続し、他の一極は上記したステンレス鋼板と同じ材質の電極を合成繊維製の不織布で巻き、その不織布に表1~3に示す電解研磨液(pHは約7.0である)を染み込ませて摺動させた。また、上記したステンレス鋼板を電源の一極に接続し、他の一極は上記したステンレス鋼板と同じ材質の電極を表4に示す電解研磨液(pHは約7.0である)を刷毛塗りした不織布で巻いて摺動させた。この際、電圧35.4V及び電流6Aとした。電解研磨処理の処理速度(溶接スケール除去速度)に関する結果を表1~4に示す。
【0089】
【表1】
【0090】
【表2】
【0091】
【表3】
【0092】
【表4】
【0093】
以上のとおり、いずれの例においても、ホスホン酸及びアミノカルボン酸以外の酸の中性塩とホスホン酸化合物又はその塩とを含有するか、又は、酸の中性塩としてフィチン酸の中性塩と、酒石酸、リンゴ酸、グルコン酸及びクエン酸よりなる群から選ばれる少なくとも1種の中性塩とを含有することで、中性でありながら、処理速度が向上することが示された。なお、上記では交流電流法(AC)における結果のみを掲載しているが、交直重畳電流法で実験した場合も同様に、処理速度が向上する結果が得られた。