(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025025810
(43)【公開日】2025-02-21
(54)【発明の名称】チューブステントデリバリーシステムおよびチューブステントデリバリーシステムの製造方法
(51)【国際特許分類】
A61F 2/95 20130101AFI20250214BHJP
A61F 2/94 20130101ALI20250214BHJP
【FI】
A61F2/95
A61F2/94
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023130953
(22)【出願日】2023-08-10
(71)【出願人】
【識別番号】594170727
【氏名又は名称】日本ライフライン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100116274
【弁理士】
【氏名又は名称】富所 輝観夫
(72)【発明者】
【氏名】小磯 智春
(72)【発明者】
【氏名】神山 洋輝
【テーマコード(参考)】
4C267
【Fターム(参考)】
4C267AA39
4C267AA45
4C267AA49
4C267BB02
4C267BB19
4C267BB26
4C267BB40
4C267CC22
4C267EE01
4C267GG04
4C267GG05
(57)【要約】
【課題】チューブステント6の内層30および外層32の剥離を抑制する。
【解決手段】チューブステントデリバリーシステム1は、ガイドワイヤGWが通されるインナーカテーテル2と、インナーカテーテル2が通されるアウターカテーテル4と、インナーカテーテル2が通されアウターカテーテル4よりもインナーカテーテル2の先端側に配置されるチューブステント6とを備える。アウターカテーテル4は、PTFEを含む材料で構成される。チューブステント6は、PTFEを含む材料で構成されてインナーカテーテル2が通される第3ルーメンを区画する内層30と、内層30を覆う外層32とを有する。チューブステント6の軸方向における内層30の単位面積当たりの50%延伸時における強度は、アウターカテーテル4の軸方向におけるアウターカテーテル4の単位面積当たりの50%延伸時における強度より低い。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガイドワイヤが通される第1ルーメンを有するインナーカテーテルと、
前記インナーカテーテルが通される第2ルーメンを有するアウターカテーテルと、
前記インナーカテーテルが通される第3ルーメンを有し、前記アウターカテーテルよりも前記インナーカテーテルの先端側に配置されるチューブステントと、を備え、
前記アウターカテーテルは、ポリテトラフルオロエチレンを含む材料で構成され、
前記チューブステントは、ポリテトラフルオロエチレンを含む材料で構成されて前記第3ルーメンを区画する内層と、前記内層を覆う外層と、を有し、
前記チューブステントの軸方向における前記内層の単位面積当たりの50%延伸時における強度は、前記アウターカテーテルの軸方向における前記アウターカテーテルの単位面積当たりの50%延伸時における強度より低い、
チューブステントデリバリーシステム。
【請求項2】
ガイドワイヤが通される第1ルーメンを有するインナーカテーテルと、
前記インナーカテーテルが通される第2ルーメンを有するアウターカテーテルと、
前記インナーカテーテルが通される第3ルーメンを有し、前記アウターカテーテルよりも前記インナーカテーテルの先端側に配置されるチューブステントと、を備え、
前記アウターカテーテルは、ポリテトラフルオロエチレンを含む材料で構成され、
前記チューブステントは、ポリテトラフルオロエチレンを含む材料で構成されて前記第3ルーメンを区画する内層と、前記内層を覆う外層と、を有し、
前記チューブステントの軸方向における前記内層の分子配向度は、前記アウターカテーテルの軸方向における前記アウターカテーテルの分子配向度より低い、
チューブステントデリバリーシステム。
【請求項3】
前記内層の厚みは、50μm以下である、
請求項1または2に記載のチューブステントデリバリーシステム。
【請求項4】
前記外層は、ポリウレタンを含む材料で構成される、
請求項1または2に記載のチューブステントデリバリーシステム。
【請求項5】
ガイドワイヤが通される第1ルーメンを有するインナーカテーテル、前記インナーカテーテルが通される第2ルーメンを有するアウターカテーテル、および、前記インナーカテーテルが通される第3ルーメンを有し、前記アウターカテーテルよりも前記インナーカテーテルの先端側に配置されるチューブステントを備えるチューブステントデリバリーシステムの製造方法であって、
前記チューブステントは、ポリテトラフルオロエチレンを含む材料で構成されて前記第3ルーメンを区画する内層と、前記内層を覆う外層と、を有し、
前記製造方法は、ポリテトラフルオロエチレンを含む材料のペーストを押出成形することで前記アウターカテーテルを形成し、ポリテトラフルオロエチレンを含む材料の分散液を塗布成形することで前記内層を形成することを含む、
チューブステントデリバリーシステムの製造方法。
【請求項6】
前記アウターカテーテルは、前記ペーストの中空押出成形によって形成される、
請求項5に記載のチューブステントデリバリーシステムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、チューブステントデリバリーシステムおよびチューブステントデリバリーシステムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ステントとしての残留チューブ(チューブステント)を胆管の狭窄部に留置するための留置チューブガイド装置(チューブステントデリバリーシステム)が開示されている。この留置チューブガイド装置は、留置チューブと、留置チューブを移動させるためのプッシャチューブと、留置チューブおよびプッシャチューブ内に挿通されるガイドカテーテルとを備えていた。そして、留置チューブおよびプッシャチューブを搭載したガイドカテーテルがガイドワイヤに沿って胆管の狭窄部に導かれ、プッシャチューブによって留置チューブが押し出されることで留置チューブが狭窄部に留置されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
留置チューブは、胆汁等のドレナージ対象が内側面に付着しにくいことが望ましい。ドレナージ対象が付着しにくい材料としては、ポリテトラフルオロエチレンが知られている。一方で、体内の目的部位への搬送のしやすさ等の観点から、留置チューブは適度な柔軟性を有することが望ましい。
【0005】
留置チューブにこれらの特性を持たせる方法としては、留置チューブを外層と内層との2層構造とし、内層をポリテトラフルオロエチレンで構成し、外層を柔軟な材料で構成することが考えられる。しかしながら、留置チューブを2層構造にする場合は、内層と外層とが互いに剥離しないことが求められる。
【0006】
本開示はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、チューブステントの内層および外層の剥離を抑制するための技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示のある態様は、チューブステントデリバリーシステムである。このデリバリーシステムは、ガイドワイヤが通される第1ルーメンを有するインナーカテーテルと、インナーカテーテルが通される第2ルーメンを有するアウターカテーテルと、インナーカテーテルが通される第3ルーメンを有し、アウターカテーテルよりもインナーカテーテルの先端側に配置されるチューブステントと、を備える。アウターカテーテルは、ポリテトラフルオロエチレンを含む材料で構成される。チューブステントは、ポリテトラフルオロエチレンを含む材料で構成されて第3ルーメンを区画する内層と、内層を覆う外層と、を有する。チューブステントの軸方向における内層の単位面積当たりの50%延伸時における強度は、アウターカテーテルの軸方向におけるアウターカテーテルの単位面積当たりの50%延伸時における強度より低い。
【0008】
本開示の他の態様は、チューブステントデリバリーシステムである。このデリバリーシステムは、ガイドワイヤが通される第1ルーメンを有するインナーカテーテルと、インナーカテーテルが通される第2ルーメンを有するアウターカテーテルと、インナーカテーテルが通される第3ルーメンを有し、アウターカテーテルよりもインナーカテーテルの先端側に配置されるチューブステントと、を備える。アウターカテーテルは、ポリテトラフルオロエチレンを含む材料で構成される。チューブステントは、ポリテトラフルオロエチレンを含む材料で構成されて第3ルーメンを区画する内層と、内層を覆う外層と、を有する。チューブステントの軸方向における内層の分子配向度は、アウターカテーテルの軸方向におけるアウターカテーテルの分子配向度より低い。
【0009】
本開示の他の態様は、ガイドワイヤが通される第1ルーメンを有するインナーカテーテル、インナーカテーテルが通される第2ルーメンを有するアウターカテーテル、および、インナーカテーテルが通される第3ルーメンを有し、アウターカテーテルよりもインナーカテーテルの先端側に配置されるチューブステントを備えるチューブステントデリバリーシステムの製造方法である。チューブステントは、ポリテトラフルオロエチレンを含む材料で構成されて第3ルーメンを区画する内層と、内層を覆う外層と、を有する。この製造方法は、ポリテトラフルオロエチレンを含む材料のペーストを押出成形することでアウターカテーテルを形成し、ポリテトラフルオロエチレンを含む材料の分散液を塗布成形することで内層を形成することを含む。
【0010】
以上の構成要素の任意の組合せ、本開示の表現を方法、装置、システムなどの間で変換したものもまた、本開示の態様として有効である。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、チューブステントの内層および外層の剥離を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施の形態に係るチューブステントデリバリーシステムの側面図である。
【
図2】
図2(A)は、インナーカテーテルの側面図である。
図2(B)は、
図2(A)のA-A線に沿った断面図である。
【
図3】
図3(A)は、アウターカテーテルの側面図である。
図3(B)は、
図3(A)のB-B線に沿った断面図である。
【
図4】
図4(A)は、チューブステントの側面図である。
図4(B)は、
図4(A)のC-C線に沿った断面図である。
【
図5】チューブステントの使用状態を示す模式図である。
【
図6】チューブステントデリバリーシステムおよびガイドワイヤの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本開示を好適な実施の形態をもとに図面を参照しながら説明する。実施の形態は、本開示を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも本開示の本質的なものであるとは限らない。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、各図に示す各部の縮尺や形状は、説明を容易にするために便宜的に設定されており、特に言及がない限り限定的に解釈されるものではない。また、本明細書または請求項中に「第1」、「第2」等の用語が用いられる場合には、特に言及がない限りこの用語はいかなる順序や重要度を表すものでもなく、ある構成と他の構成とを区別するためのものである。また、各図面において実施の形態を説明する上で重要ではない部材の一部は省略して表示する。
【0014】
図1は、実施の形態に係るチューブステントデリバリーシステム1の側面図である。チューブステントデリバリーシステム1(以下では適宜、「デリバリーシステム1」と略称する)は、インナーカテーテル2と、アウターカテーテル4と、チューブステント6とを備える。インナーカテーテル2およびアウターカテーテル4がデリバリーデバイスを構成し、デリバリー対象であるチューブステント6がデリバリーデバイスに組み付けられて、デリバリーシステム1が構成される。
【0015】
デリバリーシステム1は、一端側が体内に挿入され、他端側が体外に配置される。以下では適宜、デリバリーシステム1の体内に挿入される側を「先端側」といい、体外に配置される側を「基端側」という。また、デリバリーシステム1を構成する各部材についても、デリバリーシステム1の先端側と同じ側をその部材の「先端側」といい、デリバリーシステム1の基端側と同じ側をその部材の「基端側」という。また、デリバリーシステム1および各部材の軸が延びる方向を「軸方向」といい、軸と直交する方向を「径方向」といい、軸周りの方向を「周方向」という。
【0016】
インナーカテーテル2、アウターカテーテル4およびチューブステント6は、それぞれシングルルーメン構造を有する管状部材である。なお、本実施の形態のチューブステント6は、外部からの入力がない状態で基端側が屈曲しており(
図4(A)参照)、チューブステント6に挿通されたインナーカテーテル2もチューブステント6の屈曲に併せて屈曲する。しかしながら、
図1では便宜的に、チューブステント6およびインナーカテーテル2が直線状に延びた状態を示している。
【0017】
インナーカテーテル2には、ガイドワイヤGWが通される(
図6参照)。アウターカテーテル4およびチューブステント6には、インナーカテーテル2が通される。チューブステント6は、アウターカテーテル4よりもインナーカテーテル2の先端側に配置される。また、インナーカテーテル2の基端側には、インナーカテーテル2およびアウターカテーテル4を互いに連結する、環状の接続コネクタ8が配置される。アウターカテーテル4の基端側の一部は、挿入保護チューブ10で覆われる。インナーカテーテル2とアウターカテーテル4とが接続コネクタ8で連結され、アウターカテーテル4の先端にチューブステント6の基端が接する状態で、インナーカテーテル2はチューブステント6の先端から突出している。
【0018】
図2(A)は、インナーカテーテル2の側面図である。
図2(B)は、
図2(A)のA-A線に沿った断面図である。インナーカテーテル2は、長さが例えば1500~3000mm程度であり、外径が例えば1.5~2.0mm程度であり、内径が例えば1.0~1,5mm程度である。インナーカテーテル2は、ガイドワイヤGWが通される第1ルーメン12を有する。第1ルーメン12は、インナーカテーテル2を構成するチューブの内側面によって区画され、当該チューブの内部空間が第1ルーメン12となっている。
【0019】
インナーカテーテル2の先端部には、X線不透過マーカー14が配置される。インナーカテーテル2の中間部には、視認マーカー16が配置される。インナーカテーテル2の基端には、インナーコネクタ18が配置される。
【0020】
図3(A)は、アウターカテーテル4の側面図である。
図3(B)は、
図3(A)のB-B線に沿った断面図である。アウターカテーテル4は、長さが例えば1300~2500mm程度であり、外径が例えば2.3~3.0mm程度であり、内径が例えば1.6~2.5mm程度である。アウターカテーテル4は、インナーカテーテル2が通される第2ルーメン20を有する。第2ルーメン20は、アウターカテーテル4を構成するチューブの内側面によって区画され、当該チューブの内部空間が第2ルーメン20となっている。
【0021】
アウターカテーテル4の先端部には、X線不透過マーカー22が配置される。アウターカテーテル4の基端には、アウターコネクタ24が配置される。アウターコネクタ24は基端面に凹部を有し、この凹部にインナーコネクタ18が差し込まれる。この状態で、インナーコネクタ18およびアウターコネクタ24が接続コネクタ8で互いに連結される。接続コネクタ8は、インナーカテーテル2およびアウターカテーテル4が互いに連結された状態と、互いに切り離された状態とを切り替えることができる。また、アウターカテーテル4におけるX線不透過マーカー22よりも先端側の側壁には、側孔26が配置される。
【0022】
図4(A)は、チューブステント6の側面図である。
図4(B)は、
図4(A)のC-C線に沿った断面図である。チューブステント6は、長さが例えば50~300mm程度であり、外径が例えば2.3~3.0mm程度であり、内径が例えば1.6~2.5mm程度である。チューブステント6は、インナーカテーテル2が通される第3ルーメン28を有する。また、チューブステント6は、インナーカテーテル2の外側面と対向する内層30と、内層30の外側面を覆う外層32とを有する。第3ルーメン28は、内層30および外層32を構成する2層チューブの内側面、換言すれば内層30の内側面によって区画され、当該チューブあるいは内層30の内部空間が第3ルーメン28となっている。
【0023】
チューブステント6は、先端側および基端側にフラップ34を有する。先端側のフラップ34は、先端がチューブステント6の側壁に連結され、基端側に向かうにつれてチューブステント6の側壁から離間するように反り立っている。基端側のフラップ34は、基端がチューブステント6の側壁に連結され、先端側に向かうにつれてチューブステント6の側壁から離間するように反り立っている。各フラップ34が設けられた位置において、チューブステント6の内外が連通し、第3ルーメン28が外部に開放されている。一例としてフラップ34は、チューブステント6の側壁を削ぎ切りすることで形成される。
【0024】
また、チューブステント6における基端側のフラップ34よりも基端側の側壁には、側孔36が配置される。
図1に示すように、アウターカテーテル4の側孔26とチューブステント6の側孔36とに連結紐38が通されることで、アウターカテーテル4およびチューブステント6が互いに連結される。また、連結紐38は、インナーカテーテル2にも括り付けられている。本実施の形態のデリバリーシステム1では、一例としてインナーカテーテル2をチューブステント6から引き抜く操作によって、連結紐38によるアウターカテーテル4およびチューブステント6の連結を解除することができる。なお、アウターカテーテル4とチューブステント6とを連結する構造および連結を解除する構造は特に限定されず、公知の構造を採用することができる。
【0025】
図5は、チューブステント6の使用状態を示す模式図である。本実施の形態のデリバリーシステム1は、ドレナージを行うべくチューブステント6を体内の目的部位に搬送するために用いられる。ドレナージの例としては胆管ドレナージや膵管ドレナージが挙げられ、この場合、デリバリーシステム1はチューブステント6を胆管や膵管に搬送する。チューブステント6が切り離される前のデリバリーシステム1は、アウターカテーテル4およびチューブステント6が基端側からこの順に並び、アウターカテーテル4の第2ルーメン20とチューブステント6の第3ルーメン28とにインナーカテーテル2が通された状態にある。この状態で、インナーカテーテル2およびアウターカテーテル4は、接続コネクタ8で連結されている。また、インナーカテーテル2、アウターカテーテル4およびチューブステント6は、連結紐38で連結されている。
【0026】
例えば胆管ドレナージの場合、胆管42内に挿入された状態にあるガイドワイヤGWが、インナーカテーテル2の第1ルーメン12に通される。デリバリーシステム1は、ガイドワイヤGWに沿いながら、内視鏡内を通って十二指腸40から胆管42の乳頭部44まで送られる。胆管42内には、胆汁の排出を阻害する狭窄部46が存在する。デリバリーシステム1が乳頭部44に到達すると、インナーカテーテル2が狭窄部46を通過するまで胆管42内に挿入される。そして、接続コネクタ8によるインナーカテーテル2およびアウターカテーテル4の連結が解除され、アウターカテーテル4の操作によってチューブステント6が胆管42の深部側に送り込まれる。チューブステント6は、先端側のフラップ34が狭窄部46を通過するまで胆管42内に挿入される。基端側のフラップ34は、十二指腸40内に配置される。
【0027】
チューブステント6が目的部位に配置された後、ガイドワイヤGWがインナーカテーテル2から引き抜かれる。また、インナーカテーテル2がチューブステント6から引き抜かれる。インナーカテーテル2の引き抜き操作により、連結紐38によるアウターカテーテル4とチューブステント6との連結が解除される。これにより、チューブステント6のみを胆管42内に留置して、インナーカテーテル2およびアウターカテーテル4を胆管42から引き抜くことができる。
【0028】
留置されたチューブステント6は、先端側のフラップ34が狭窄部46に引っかかることで胆管42から抜け落ちることが抑制される。また、基端側のフラップ34が乳頭部44に引っかかることで、全体が狭窄部46より深部側に進入することが抑制される。デリバリーシステム1におけるチューブステント6のデリバリー手順と、チューブステント6を目的部位に配置する仕組みとは公知であるため、これ以上の詳細な説明は省略する。
【0029】
図6は、チューブステントデリバリーシステム1およびガイドワイヤGWの断面図である。
図6には、デリバリーシステム1の軸方向に沿った断面を示している。
【0030】
ガイドワイヤGWは、芯線48と、芯線48の表面を覆う被膜50とを有する。芯線48は、タングステン、ステンレス鋼、ニッケルチタン等を含む生体適合性金属で構成される。被膜50は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を含む材料で構成される。好ましくは、被膜50はPTFEのみからなる。
【0031】
インナーカテーテル2は、一例としてオレフィン系樹脂(PO)を含む材料で構成される。POは、オレフィンモノマー由来の骨格を有するものであれば特に限定されず、単独重合体であってもよいし、ランダム共重合体、ブロック共重合体等の共重合体であってもよい。POの好ましい例としては、ポリエチレン(PE);ポリプロピレン(PP);TPX(登録商標)等のポリメチルペンテン(PMP)が挙げられる。好ましくは、インナーカテーテル2はPOのみからなる。なお、インナーカテーテル2は、PTFEを含む材料で構成されてもよい。
【0032】
アウターカテーテル4は、PTFEを含む材料で構成される。好ましくは、アウターカテーテル4はPTFEのみからなる。
【0033】
チューブステント6の内層30は、PTFEを含む材料で構成される。好ましくは、内層30はPTFEのみからなる。チューブステント6の外層32を構成する材料は、内層30を構成する材料より、チューブステント6を体内に留置した状態での硬度(例えばショアD硬度)が低いものであれば特に限定されないが、好ましくは、外層32はポリウレタン(PU)を含む材料で構成される。PUの好ましい例としては、熱可塑性ポリウレタン(TPU)が挙げられる。一例として外層32を構成する材料は、37℃において内層30を構成する材料より硬度が低い。好ましくは、外層32はPUのみからなる。内層30と外層32とは、例えば接着固定される。
【0034】
PTFEは、摺動性(滑り性)の高い素材として知られている。一般的なガイドワイヤGWは、PTFEを含む被膜50で芯線48を覆うことで、インナーカテーテル2に対する摺動性の向上が図られている。これにより、インナーカテーテル2に対するガイドワイヤGWの挿抜しやすさ、およびガイドワイヤGWに対するインナーカテーテル2の挿抜しやすさを向上させることができる。
【0035】
また、本実施の形態のアウターカテーテル4は、PTFEを含む樹脂で構成されることで、外側面については内視鏡の内腔や人体の消化管に対する摺動性の向上が図られている。また、内側面についてはインナーカテーテル2に対する摺動性の向上が図られている。
【0036】
また、本実施の形態のチューブステント6は、PTFEを含む内層30で外層32の内側面を覆うことで、インナーカテーテル2に対する摺動性の向上が図られている。また、PTFEを含む内層30により、第3ルーメン28の壁面にドレナージ対象である胆汁や膵液が付着することを抑制でき、よってドレナージが阻害されることを抑制することができる。また、PUを含む外層32により、チューブステント6に適度な柔軟性を付与することができる。これにより、チューブステント6の形状を内視鏡や目的部位の形状に追従させやすくすることができる。また、内視鏡の内腔や人体の消化管に対する摺動性も保たれている。
【0037】
また、PTFEを含む材料で内層30を構成し、PUを含む材料で外層32を構成することで、チューブステント6を劣化しにくくすることができる。また、体内留置下で相対的に硬度の低い外層32に、体内留置下で相対的に硬度の高い内層30を積層することで、フラップ34の損傷を抑制することができる。
【0038】
また、チューブステント6の軸方向における内層30の単位面積当たりの50%延伸時における強度は、アウターカテーテル4の軸方向におけるアウターカテーテル4の単位面積当たりの50%延伸時における強度より低い。チューブステント6およびアウターカテーテル4の軸方向は、デリバリーシステム1の軸方向に等しい。本実施の形態における50%延伸時における強度は、以下に説明する引張試験により測定される強度であり、内層30およびアウターカテーテル4のそれぞれから切り出した試験片が50%延びたとき、つまり試験片が150%の長さとなったときに試験片の単位面積当たりにかかった力である。軸方向における内層30の50%延伸時における強度は、例えば5MPa以上20MPa以下である。軸方向におけるアウターカテーテル4の50%延伸時における強度は、例えば20MPa以上80MPa以下である。
【0039】
引張試験は、ISO10555-1:2013(Intravascular catheters-Sterile and single-use catheters-)の付属書B(破断強度の測定方法)を参照し、試験片長さ(チャック間距離)25mm、引張速度500mm/minの条件で実施される(附属書Bの手順B.3.2は実施せず)。したがって、試験片が12.5mm延びて37.5mmとなったときの強度が測定される。
【0040】
軸方向における内層30の単位面積当たりの50%延伸時における強度を軸方向におけるアウターカテーテル4の単位面積当たりの50%延伸時における強度より低くすることで、外層32の変形に対して内層30をより追従させやすくすることができる。したがって、内層30と外層32とを互いに剥がれにくくすることができる。つまり、内層30および外層32の剥離を抑制することができる。
【0041】
また、チューブステント6の軸方向における内層30の分子配向度は、アウターカテーテル4の軸方向におけるアウターカテーテル4の分子配向度より低い。内層30およびアウターカテーテル4がそれぞれPTFEからなる場合、内層30に含まれるPTFEの軸方向における分子配向度が、アウターカテーテル4に含まれるPTFEの軸方向における分子配向度より低い。つまり、アウターカテーテル4におけるPTFE繊維の配向は、内層30におけるPTFE繊維の配向よりも軸方向に沿っている。
【0042】
軸方向における内層30の分子配向度を軸方向におけるアウターカテーテル4の分子配向度より低くすることで、軸方向における内層30の50%延伸時における強度を軸方向におけるアウターカテーテル4の50%延伸時における強度より低くすることができる。これにより、外層32の変形に対して内層30をより追従させやすくすることができ、内層30と外層32とが互いに剥離することを抑制することができる。
【0043】
内層30およびアウターカテーテル4の分子配向度の高低は、内層30およびアウターカテーテル4の複屈折を測定することで特定することができる。複屈折は、以下の式(1)で表される。
ΔN=Re/t (1)
式(1)において、ΔNは複屈折であり、Reはレタデーションであり、tは試験サンプルの厚みである。レタデーションReとは、2枚の偏光板に挟まれた試験サンプルを測定光が通過する際に試験サンプルの屈折率差によって生じる位相差である。
【0044】
一般的に、樹脂成形品の分子配向は、成形処理における樹脂の流動や変形により生み出される。そして、分子配向によって樹脂成形品の種々の性質に異方性が生じる。異方性が生じる性質の一例として、光学異方性に関する屈折率が挙げられる。光学異方性を有する樹脂成形品において測定される2つの異なる屈折率の差は、複屈折として定義される。つまり、複屈折は、所定の第1方向と、第1方向に垂直な第2方向との屈折率の差を表す。この屈折率の差は、分子配向の大きさの差に相当する。一般的に、第1方向における屈折率が第2方向における屈折率よりも大きいとき、複屈折は大きくなる。複屈折が大きいことは、第1方向における分子配向が第2方向における分子配向より大きいこと、つまり第1方向における分子配向度が高いことを示す。
【0045】
本実施の形態において、内層30の複屈折は、チューブステント6の軸方向(第1方向)における屈折率と、チューブステント6の径方向(第2方向)における屈折率との差である。アウターカテーテル4の複屈折は、アウターカテーテル4の軸方向(第1方向)における屈折率と、チューブステント6の径方向(第2方向)における屈折率との差である。内層30の複屈折は、例えば1×10-4以上1×10-3以下である。アウターカテーテル4の複屈折は、例えば1×10-3以上2×10-2以下である。
【0046】
好ましくは、内層30の厚みは外層32の厚みより薄い。これにより、内層30が外層32の変形により追従しやすくなるため、内層30と外層32とが互いに剥離することをより抑制することができる。内層30の厚みは、好ましくは50μm以下である。内層30の厚みを50μm以下とすることで、内層30の剛性を抑えて外層32の変形により追従しやすくすることができる。なお、内層30の厚みは、30μm以下、または20μm以下の場合もある。
【0047】
また、アウターカテーテル4の厚みは、好ましくは内層30の厚みの10倍より大きく(したがって、内層30の厚みはアウターカテーテル4の厚みの1/10以下)、例えば0.2~0.5mm程度である。アウターカテーテル4の厚みを内層30の厚みの10倍より大きくすることで、アウターカテーテル4に適度な剛性を付与することができる。これにより、インナーカテーテル2をアウターカテーテル4に対して変位させた際に、アウターカテーテル4が破断することを抑制することができる。また、チューブステント6の位置を調整しやすくすることができる。
【0048】
なお、内層30は、フラップ34の損傷抑制などの観点から、ある程度の剛性を有することが望まれる。アウターカテーテル4は、インナーカテーテル2の挿抜時の変形抑制などの観点から、ある程度の剛性を有することが望まれる。一方で、内層30およびアウターカテーテル4の剛性が高くなると、内層30およびアウターカテーテル4とインナーカテーテル2との摺動抵抗が大きくなる傾向にある。つまり、内層30およびアウターカテーテル4の剛性の決定には種々の要因が関連する。このため、内層30の50%延伸時における強度や分子配向度をアウターカテーテル4の50%延伸時における強度や分子配向度より低く設定することを、当業者が容易になし得たものと認定してはならない。
【0049】
(チューブステントデリバリーシステム1の製造方法)
インナーカテーテル2の成形方法は、特に限定されない。例えばインナーカテーテル2は、POを含む材料のペーストを押出成形することで形成される。得られたインナーカテーテル2には、X線不透過マーカー14、視認マーカー16およびインナーコネクタ18が取り付けられる。
【0050】
アウターカテーテル4は、PTFEファインパウダーを含む材料をペースト押出成形することで形成される。PTFEファインパウダーを含む材料をペースト押出成形することで、PTFE繊維の配向を軸方向に向けやすくすることができる。これにより、軸方向におけるアウターカテーテル4の50%延伸時における強度を高めることができる。好ましくは、アウターカテーテル4は、中空状態でのペースト押出成形によって形成される。ペースト押出成形では一般に、材料が鉛直方向下方に向けて押し出される。中空状態でのペースト押出成形であれば、マンドレル外周面へのペースト押出成形とは異なり、押し出された材料(アウターカテーテル4)が自重により下方に引っ張られる。これにより、PTFE繊維の配向をより軸方向に向けることができる。よって、軸方向におけるアウターカテーテル4の50%延伸時における強度をより高めることができる。得られたアウターカテーテル4には、X線不透過マーカー22、アウターコネクタ24および挿入保護チューブ10が取り付けられ、側孔26が設けられる。
【0051】
内層30は、PTFEを含む材料の分散液(ディスパージョン)を塗布成形することで形成される。塗布成形では、例えば分散液がマンドレルの外周面に塗布されることで、内層30が成形される。塗布成形の場合、押出成形に比べてPTFE繊維の配向が軸方向に向きにくい。このため、内層30に対してアウターカテーテル4よりも低い50%延伸時における強度を付与しやすくすることができる。
【0052】
外層32の成形方法は、特に限定されない。例えば外層32は、PUを含む材料のペレットを押出成形することで形成される。そして、内層30と外層32とが互いに固定され、チューブステント6が形成される。一例として、内層30の外側面にエッチング処理が施され、この外側面に対して外層32が押出成形されることによって、内層30および外層32が互いに固定される。あるいは、内層30と外層32とが積層された状態でリフロー処理(溶融処理)が施されて両者が接合されることによって、内層30および外層32が互いに固定される。得られたチューブステント6には、フラップ34および側孔36が設けられる。
【0053】
アウターカテーテル4およびチューブステント6にインナーカテーテル2が通される。そして、これらが連結紐38によって互いに連結される。また、インナーカテーテル2およびアウターカテーテル4が接続コネクタ8で互いに連結される。以上の工程により、デリバリーシステム1が得られる。
【0054】
以上、本開示の実施の形態について詳細に説明した。前述した実施の形態は、本開示を実施するにあたっての具体例を示したものにすぎない。実施の形態の内容は、本開示の技術的範囲を限定するものではなく、請求の範囲に規定された本開示の思想を逸脱しない範囲において、構成要素の変更、追加、削除等の多くの設計変更が可能である。設計変更が加えられた新たな実施の形態は、組み合わされる実施の形態および変形それぞれの効果をあわせもつ。前述の実施の形態では、このような設計変更が可能な内容に関して、「本実施の形態の」、「本実施の形態では」等の表記を付して強調しているが、そのような表記のない内容でも設計変更が許容される。各実施の形態に含まれる構成要素の任意の組み合わせも、本開示の態様として有効である。図面の断面に付したハッチングは、ハッチングを付した対象の材質を限定するものではない。
【0055】
実施の形態は、以下に記載する項目によって特定されてもよい。
[第1項目]
ガイドワイヤ(GW)が通される第1ルーメン(12)を有するインナーカテーテル(2)と、
インナーカテーテル(2)が通される第2ルーメン(20)を有するアウターカテーテル(4)と、
インナーカテーテル(2)が通される第3ルーメン(28)を有し、アウターカテーテル(4)よりもインナーカテーテル(2)の先端側に配置されるチューブステント(6)と、を備え、
アウターカテーテル(4)は、ポリテトラフルオロエチレンを含む材料で構成され、
チューブステント(6)は、ポリテトラフルオロエチレンを含む材料で構成されて第3ルーメン(28)を区画する内層(30)と、内層(30)を覆う外層(32)と、を有し、
チューブステント(6)の軸方向における内層(30)の単位面積当たりの50%延伸時における強度は、アウターカテーテル(4)の軸方向におけるアウターカテーテル(4)の単位面積当たりの50%延伸時における強度より低い、
チューブステントデリバリーシステム(1)。
[第2項目]
ガイドワイヤ(GW)が通される第1ルーメン(12)を有するインナーカテーテル(2)と、
インナーカテーテル(2)が通される第2ルーメン(20)を有するアウターカテーテル(4)と、
インナーカテーテル(2)が通される第3ルーメン(28)を有し、アウターカテーテル(4)よりもインナーカテーテル(2)の先端側に配置されるチューブステント(6)と、を備え、
アウターカテーテル(4)は、ポリテトラフルオロエチレンを含む材料で構成され、
チューブステント(6)は、ポリテトラフルオロエチレンを含む材料で構成されて第3ルーメン(28)を区画する内層(30)と、内層(30)を覆う外層(32)と、を有し、
チューブステント(6)の軸方向における内層(30)の分子配向度は、アウターカテーテル(4)の軸方向におけるアウターカテーテル(4)の分子配向度より低い、
チューブステントデリバリーシステム(1)。
[第3項目]
内層(30)の厚みは、50μm以下である、
第1項目または第2項目に記載のチューブステントデリバリーシステム(1)。
[第4項目]
外層(32)は、ポリウレタンを含む材料で構成される、
第1項目乃至第3項目のいずれかに記載のチューブステントデリバリーシステム(1)。
[第5項目]
ガイドワイヤ(GW)が通される第1ルーメン(12)を有するインナーカテーテル(2)、インナーカテーテル(2)が通される第2ルーメン(20)を有するアウターカテーテル(4)、および、インナーカテーテル(2)が通される第3ルーメン(28)を有し、アウターカテーテル(4)よりもインナーカテーテル(2)の先端側に配置されるチューブステント(6)を備えるチューブステントデリバリーシステム(1)の製造方法であって、
チューブステント(6)は、ポリテトラフルオロエチレンを含む材料で構成されて第3ルーメン(28)を区画する内層(30)と、内層(30)を覆う外層(32)と、を有し、
製造方法は、ポリテトラフルオロエチレンを含む材料のペーストを押出成形することでアウターカテーテル(4)を形成し、ポリテトラフルオロエチレンを含む材料の分散液を塗布成形することで内層(30)を形成することを含む、
チューブステントデリバリーシステム(1)の製造方法。
[第6項目]
アウターカテーテル(4)は、ペーストの中空押出成形によって形成される、
第5項目に記載のチューブステントデリバリーシステム(1)の製造方法。
【符号の説明】
【0056】
1 チューブステントデリバリーシステム、 2 インナーカテーテル、 4 アウターカテーテル、 6 チューブステント、 12 第1ルーメン、 20 第2ルーメン、 28 第3ルーメン、 30 内層、 32 外層、 GW ガイドワイヤ。