(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025025820
(43)【公開日】2025-02-21
(54)【発明の名称】減衰性ゴム組成物および粘弾性ダンパ
(51)【国際特許分類】
C08L 9/00 20060101AFI20250214BHJP
C08K 5/39 20060101ALI20250214BHJP
C08K 3/36 20060101ALI20250214BHJP
C09K 3/00 20060101ALI20250214BHJP
F16F 15/08 20060101ALI20250214BHJP
【FI】
C08L9/00
C08K5/39
C08K3/36
C09K3/00 P
F16F15/08 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023130970
(22)【出願日】2023-08-10
(71)【出願人】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100125184
【弁理士】
【氏名又は名称】二口 治
(74)【代理人】
【識別番号】100188488
【弁理士】
【氏名又は名称】原谷 英之
(72)【発明者】
【氏名】塩瀬 隆範
【テーマコード(参考)】
3J048
4J002
【Fターム(参考)】
3J048AA01
3J048BD08
4J002AC061
4J002DA048
4J002DJ016
4J002EV147
4J002EV279
4J002FD016
4J002FD067
4J002FD148
4J002FD159
4J002GR00
(57)【要約】
【課題】減衰性能に優れ、最大荷重時歪みを超える領域で、荷重低下が抑制された減衰性ゴム組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明の減衰性ゴム組成物は、重合性二重結合を有する基材ゴム、シリカ、および、1,6-ビス(N,N-ジベンジルチオカルバモイルジチオ)ヘキサンを含有し、1,6-ビス(N,N-ジベンジルチオカルバモイルジチオ)ヘキサンの配合量が、前記重合性二重結合を有する基材ゴム100質量部に対して、0.5質量部以上、4.0質以下であることを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合性二重結合を有する基材ゴム、シリカ、および、
1,6-ビス(N,N-ジベンジルチオカルバモイルジチオ)ヘキサンを含有し、
1,6-ビス(N,N-ジベンジルチオカルバモイルジチオ)ヘキサンの配合量が、前記重合性二重結合を有する基材ゴム100質量部に対して、0.5質量部以上、4.0質以下であることを特徴とする減衰性ゴム組成物。
【請求項2】
前記重合性二重結合を有する基材ゴムは、ポリイソプレン系ゴムを含有する請求項1に記載の減衰性ゴム組成物。
【請求項3】
前記重合性二重結合を有する基材ゴム中のポリイソプレン系ゴムの含有率は、50質量%以上、100質量%以下である請求項2に記載の減衰性ゴム組成物。
【請求項4】
前記重合性二重結合を有する基材ゴム100質量部に対して、シリカを100質量部以上、180質量部以下含有する請求項1に記載の減衰性ゴム組成物。
【請求項5】
前記重合性二重結合を有する基材ゴム100質量部に対して、
硫黄系加硫剤を0質量部以上、2.5質量部以下、
加硫促進剤を0.3質量部以上、2.5質量部以下を含有する請求項1に記載の減衰性ゴム組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の減衰性ゴム組成物を硬化してなる減衰性ゴム。
【請求項7】
請求項1~5のいずれか一項に記載の減衰性ゴム組成物を硬化してなる減衰性ゴムを備える粘弾性ダンパ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、減衰性ゴム組成物およびこれを用いた粘弾性ダンパに関する。
【背景技術】
【0002】
ビルや橋梁等の建築物、産業機械、航空機、自動車、鉄道車両、コンピュータやその周辺機器類、家庭用電気機器類、さらには自動車用タイヤ等の幅広い分野において、減衰部材が用いられる。減衰部材は、振動エネルギーの伝達を緩和し、および/または、吸収することにより、免震、制震、制振、防振などを付与することができる。
【0003】
例えば、特許文献1には、ポリイソプレン系ゴム、およびポリブタジエンゴムの2種の架橋性ゴム、前記2種の架橋性ゴムの総量100質量部あたり、100質量部以上、150質量部以下のシリカ、1質量部以上、10質量部以下のアルキル型シリル化剤、15質量部以上、30質量部以下のフェニル型シリル化剤、および1質量部以上、10質量部以下のシランカップリング剤を、145℃以上、175℃以下の温度で混練する工程を含む高減衰組成物の製造方法が開示されている。
【0004】
特許文献2には、天然ゴム(NR)とエチレン・プロピレン・ジエンゴム(EPDM)とを主成分とする防振ゴム組成物において、上記の天然ゴム(NR)/エチレン・プロピレン・ジエンゴム(EPDM)の混合比率が質量比で45/55~70/30であると共に、加硫剤として過酸化物及び共架橋剤としてアクリル酸亜鉛又はメタクリル酸亜鉛を含み、更に、1,6-ビス(N,N’-ジベンジルチオカルバモイルジチオ)-ヘキサンを含むことを特徴とする防振ゴム組成物が開示されている。
【0005】
特許文献3には、ジエン系ゴム、硫黄、イミダゾール系老化防止剤、及び1,6-ビス(N,N-ジベンジルチオカルバモイルジチオ)ヘキサンを含有する、スチールコード被覆用ゴム組成物が開示されている。
【0006】
特許文献4には、少なくとも1種類のジエン系ゴムを含むゴム成分と、充填剤と、加硫剤と、式(1)で表される化合物(例えば、1,6-ビス(N,N-ジベンジルチオカルバモイルジチオ)ヘキサン)と、式(2)で表される化合物(例えば、N-フェニル-N-(トリクロロメチルチオ)ベンゼンスルホンアミド)と、前記式(1)で表される化合物以外の加硫促進剤と、を含有し、前記加硫促進剤及び前記式(1)で表される化合物の合計量が、前記ゴム成分100質量部に対して1.3~2.0質量部であるゴム組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2018-123205号公報
【特許文献2】特開2013-18884号公報
【特許文献3】特開2021-80410号公報
【特許文献4】国際公開WO2019/107428号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
制振ダンパでは、耐力を高めるために剛性の高い高減衰ゴムが求められる場合がある。天然ゴムなどの二重結合をもつ基材ゴムからなる高減衰ゴム配合においては、剛性を付与するために加硫剤を増量したり、カーボンやシリカなどのフィラーを添加したりすることが一般的である。天然ゴムなどは、伸張結晶性が高いために、大変形時に応力が急激に高くなってしまうハードニング現象が起こり、その現象に併せて、周辺の柱などの部材の強度を、より高めなければならないという問題点があった。
【0009】
さらに、重合性二重結合を有するポリマーについて、通常の硫黄加硫を行うと、大変形時に架橋鎖をきっかけとして、ゴムが伸びきり状態になりハードニングを引き起こしやすくなる。その後、破壊するまで大変形を与えると、ポリマー鎖や架橋鎖が切れてしまい、急激に荷重低下を引き起こすという問題がある。
【0010】
本発明は、前記事情に鑑みてなされたものであり、減衰性能に優れ、最大荷重時歪みを超える領域で、荷重低下が抑制された減衰性ゴム組成物を提供することを目的とする。本発明は、減衰性に優れたゴム、および、これを用いた粘弾性ダンパを提供することをさらなる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決することができた本発明の減衰性ゴム組成物は、重合性二重結合を有する基材ゴム、シリカ、および、1,6-ビス(N,N-ジベンジルチオカルバモイルジチオ)ヘキサンを含有し、1,6-ビス(N,N-ジベンジルチオカルバモイルジチオ)ヘキサンの配合量が、前記重合性二重結合を有する基材ゴム100質量部に対して、0.5質量部以上、4.0質以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、減衰性能に優れ、最大荷重時歪みを超える領域で、荷重低下が抑制された減衰性ゴム組成物が得られる。本発明によれば、減衰性に優れた減衰性ゴムおよび粘弾性ダンパが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の減衰性ゴム組成物を用いた減衰部材の減衰特性を評価するために作製する、前記減衰部材のモデルとしての試験体を分解して示す分解斜視図。
【
図2】前記試験体を変位させて変位量と荷重との関係を求めるための試験機の概略を説明する図。
【
図3】前記試験機を用いて試験体を変位させて求められる、変位量と荷重との関係を示すヒステリシスループの一例を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<減衰性ゴム組成物>
本発明の減衰性ゴム組成物は、重合性二重結合を有する基材ゴム、シリカ、および、1,6-ビス(N,N-ジベンジルチオカルバモイルジチオ)ヘキサンを含有し、1,6-ビス(N,N-ジベンジルチオカルバモイルジチオ)ヘキサンの配合量が、前記重合性二重結合を有する基材ゴム100質量部に対して、0.5質量部以上、4.0質以下であることを特徴とする。
【0015】
本発明のゴム組成物は、重合性二重結合を有する基材ゴム(本発明において、単に「基材ゴム」と称する場合がある)を含有する。前記基材ゴムは、重合性二重結合を有するゴムであれば特に限定されない。前記重合性二重結合とは、加熱、光および/または放射線照射などにより開裂して重合する二重結合であり、例えば、エチレンに由来する炭素-炭素二重結合であることが好ましい。なお、例えば、ベンゼン環が有する炭素-炭素二重結合は安定であり、本発明の重合性二重結合には相当しない。
【0016】
前記重合性二重結合を有するゴムとしては、天然ゴム、合成ゴムを挙げることができる。
【0017】
前記重合性二重結合を有するゴムとしては、例えば、ポリブタジエンゴム(BR)、ポリイソプレンゴム(IR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、クロロプレンゴム(CR)、ブチルゴム(IIR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)等のジエン系ゴム、または、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)のような非ジエン系ゴムを挙げることができる。これらは単独で用いても良いし、2種以上を併用してもよい。
【0018】
前記重合性二重結合を有する基材ゴムは、ポリイソプレン系ゴムを含有することが好ましい。
【0019】
前記ポリイソプレン系ゴムとは、イソプレンに由来する構成単位を有するゴムであれば特に限定されない。前記ポリイソプレン系ゴムとしては、天然ゴム(NR)および合成ゴムが挙げられる。天然ゴムは、ゴム含有植物に由来し、純粋なシス-1,4-ポリイソプレンを含むものである。合成ポリイソプレンゴムは、イソプレンを含む単量体(好ましくは、イソプレンを主成分とする単量体)を重合することにより合成したものである。なお、前記天然ゴムおよび合成ポリイソプレンゴムは、変性された変性ゴムであってもよい。これらのポリイソプレン系ゴムは、単独で使用してもよく、2種を併用してもよい。
【0020】
前記天然ゴムとしては、例えば、SMR(Standard Malaysian Rubber)-CV60等の各種グレードの天然ゴムや、各種の脱蛋白天然ゴム等が挙げられる。
【0021】
前記合成ポリイソプレン系ゴムとしては、例えば、ポリイソプレンゴム(IR)、ブタジエン-イソプレン共重合体ゴム(BIR)、スチレン-イソプレン共重合体ゴム(SIR)、スチレン-ブタジエン-イソプレン共重合体ゴム(SBIR)等、およびそれらの変性ゴムが挙げられる。
【0022】
前記ポリイソプレンゴム(IR)は、ポリイソプレンゴムを構成する単量体全成分中、イソプレンを90質量%以上含有することが好ましく、94質量%以上含有することが好ましく、98質量%以上含有することがさらに好ましい。また、前記ポリイソプレンゴム(IR)は、実質的にイソプレン100質量%からなることが好ましい。
【0023】
前記合成ポリイソプレン系ゴムのうち、ポリイソプレンゴム(IR)が好ましく、シス-1,4-結合を90質量%以上含む高シス-1,4-ポリイソプレンゴムがより好ましい。
【0024】
前記ポリイソプレン系ゴムの具体例としては、例えば、日本ゼオン社製のNipol(登録商標)IRシリーズ(例えば、IR2200)等の市販品が挙げられる。
【0025】
前記重合性二重結合を有する基材ゴム中のポリイソプレン系ゴムの含有量は、50質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましい。また、前記重合性二重結合を有する基材ゴムは、ポリイソプレン系ゴムからなることも好ましい態様である。ポリイソプレン系ゴムの含有率が前記範囲内であれば、本発明の効果が良好に得られる。
【0026】
本発明の減衰性ゴム組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、重合性二重結合を有する基材ゴムに加えて、重合性二重結合を有さないゴムを含有してもよい。
【0027】
前記重合性二重結合を有さないゴムとしては、エチレンプロピレンゴム(EPM)、ウレタンゴム、シリコーンゴム、アクリルゴム、エピクロルヒドリンゴム、多硫化ゴム、フッ素ゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴム等の非ジエン系ゴムが挙げられる。
【0028】
重合性二重結合を有さないゴムの配合量は、重合性二重結合を有する基材ゴム100質量部に対して、40質量部以下であることが好ましく、20質量部以下であることがより好ましく、10質量部以下であることがさらに好ましい。
【0029】
本発明で使用する基材ゴムは、25℃で固体であることが好ましく、本発明で使用するポリイソプレン系ゴムは、25℃で固体であることがより好ましい。前記基材ゴムには、後記する軟化剤として使用される液状ゴムは含まれない。
【0030】
(シリカ)
本発明の減衰性ゴム組成物に含まれるシリカは、前記基材ゴムに減衰性能を付与するものである。前記シリカとしては、主として珪砂を原料として化学的に反応させて、多孔質構造を持つ合成シリカが挙げられる。
【0031】
前記シリカは、製造方法によって分類される湿式法シリカ、乾式法シリカのいずれを使用してもよい。また、減衰性能をさらに向上する点から、前記シリカのBET比表面積は、好ましくは100m2/g以上、より好ましくは120m2/g以上、さらに好ましくは150m2/g以上である。また、加工性や破壊耐久性をさらに向上する点から、前記シリカのBET比表面積は、好ましくは400m2/g以下、より好ましくは300m2/g以下、さらに好ましくは250m2/g以下である。なお、BET比表面積は、吸着気体として窒素ガスを用いる気相吸着法で測定される値である。これらのシリカは、単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0032】
前記シリカの具体例としては、例えば、東ソー・シリカ社製のNipsil(登録商標)シリーズ(例えば、NipsilVN3、NipsilAQ、NipsilKQ)や、エボニック社製のウルトラジル(登録商標)シリーズ(例えば、ウルトラジルVN3)等の市販品が挙げられる。
【0033】
前記シリカの含有量は、基材ゴム100質量部に対して、100質量部以上であることが好ましく、120質量部以上であることがより好ましく、130質量部以上であることがさらに好ましく、180質量部以下であることが好ましく、160質量部以下であることがより好ましく、150質量部以下であることがさらに好ましい。シリカの含有量を前記範囲内とすることにより、減衰性能、加工性が良好になるからである。
【0034】
本発明の減衰性ゴム組成物は、1,6-ビス(N,N-ジベンジルチオカルバモイルジチオ)ヘキサンを含有する。
【0035】
本発明によれば、前記1,6-ビス(N,N-ジベンジルチオカルバモイルジチオ)ヘキサンを適量に配合することで、ポリスルフィド結合に相当する長さで、かつ、熱をかけすぎても結合が切れにくいS-Cx-S結合が増加する。そのため、分子鎖の絡み合いが複雑になり、分子鎖が切断するタイミングが一様ではなくなる。その結果、最大荷重時歪みを超える領域でも、切断されない分子鎖の割合が増加し、荷重低下が抑制されると考えられる。
【0036】
1,6-ビス(N,N-ジベンジルチオカルバモイルジチオ)ヘキサンは、下記の構造を有する。
【0037】
【0038】
前記1,6-ビス(N,N-ジベンジルチオカルバモイルジチオ)ヘキサンの具体例としては、例えば、LANXESS社製のVulcuren(登録商標)などの市販品が挙げられる。
【0039】
前記1,6-ビス(N,N-ジベンジルチオカルバモイルジチオ)ヘキサンの含有量は、基材ゴム100質量部に対して、0.5質量部以上であることが好ましく、1.0質量部以上であることがより好ましく、1.5質量部以上であることがさらに好ましく、4.0質量部以下であることが好ましく、3.5質量部以下であることがより好ましく、3.0質量部以下であることがさらに好ましい。1,6-ビス(N,N-ジベンジルチオカルバモイルジチオ)ヘキサンの含有量が0.5質量部以上であれば、最大荷重時歪みを超える領域においても、荷重低下が抑制される。1,6-ビス(N,N-ジベンジルチオカルバモイルジチオ)ヘキサンの含有量が4.0質量部以下であれば、減衰性能が良好で、ブルームを抑制することができる。
【0040】
(加硫剤)
本発明の減衰性ゴム組成物は、加硫剤を含有してもよいし、加硫剤を含有しなくてもよい。
【0041】
前記加硫剤としては、硫黄系加硫剤を用いることが好ましい。前記硫黄系加硫剤としては、例えば、粉末硫黄、オイル処理粉末硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、分散性硫黄等が挙げられる。これらの硫黄系加硫剤は、単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0042】
前記加硫剤の具体例としては、例えば、鶴見化学工業社製の5%オイル処理粉末硫黄などの市販品が挙げられる。
【0043】
前記加硫剤の含有量は、基材ゴム100質量部に対して、0質量部以上であることが好ましく、0.1質量部以上であることがより好ましく、0.5質量部以上であることがさらに好ましく、2.5質量部以下であることが好ましく、2.2質量部以下であることがより好ましく、2.0質量部以下であることがさらに好ましい。
【0044】
加硫剤の含有量が、2.5質量部以下であれば、加硫戻りを防止し、減衰性能が良好で、ブルームの発生を抑制することができる。なお、前記加硫剤として、例えばオイル処理粉末硫黄や分散性硫黄等を使用する場合、前記含有量は、それぞれの中に含まれる有効成分としての硫黄自体の含有量とする。
【0045】
(加硫促進剤)
本発明の減衰性ゴム組成物は、さらに、加硫促進剤を含有することが好ましい。
【0046】
前記加硫促進剤としては、2-メルカプトベンゾチアゾール、ジ-2-ベンゾチアゾリルジスルフィド等のチアゾール系加硫促進剤;ジメチルジチオカルバミン酸亜鉛のようなジチオカルバミン酸塩系促進剤;テトラメチルチウラムジスルフィド(TMTD)、テトラベンジルチウラムジスルフィド(TBzTD)、テトラキス(2-エチルヘキシル)チウラムジスルフィド(TOT-N)等のチウラム系加硫促進剤;N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアジルスルフェンアミド(CBS)、N-tert-ブチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(TBBS)、N-オキシエチレン-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミド、N,N′-ジイソプロピル-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミド等のスルフェンアミド系加硫促進剤;ジフェニルグアニジン、ジオルトトリルグアニジン、オルトトリルビグアニジン等のグアニジン系加硫促進剤を挙げることができる。市販品としては、住友化学(株)、大内新興化学工業(株)等の製品を使用できる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0047】
前記加硫促進剤の具体例としては、例えば、大内新興化学社製のノクセラー(登録商標)シリーズ(例えば、ノクセラーNS)等が挙げられる。
【0048】
前記加硫促進剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、0.3質量部以上であることが好ましく、0.5質量部以上であることがより好ましく、0.7質量部以上であることがさらに好ましく、2.5質量部以下であることが好ましく、2.2質量部以下であることがより好ましく、2.0質量部以下であることがさらに好ましい。
【0049】
前記加硫促進剤の含有量が、0.3質量部以上であれば、破壊耐久性が良好になる。また、前記加硫促進剤の含有量を、2.5質量部以下にすることにより、加硫戻りを防止し、減衰性能が良好で、ブルームの発生を抑制することができる。
【0050】
(粘着性付与剤)
本発明の減衰性ゴム組成物は、さらに、粘着性付与剤を含有することが好ましい。
【0051】
前記粘着性付与剤としては、例えば、石油系樹脂、ロジンおよび/またはロジン誘導体、クマロン系樹脂などをあげることができる。これらの粘着性付与剤は、単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0052】
前記石油系樹脂としては、脂肪族オレフィン類および/または脂肪族ジオレフィン類を重合した脂肪族系石油系樹脂;オレフィン性不飽和結合を有する芳香族化合物を重合した芳香族系石油系樹脂;脂肪族オレフィン類および/または脂肪族ジオレフィン類と、オレフィン性不飽和結合を有する芳香族化合物とを共重合した脂肪族-芳香族共重合系石油系樹脂;シクロペンタジエンやジシクロペンタジエンを重合したジシクロペンタジエン系石油系樹脂;シクロペンタジエンやジシクロペンタジエンとオレフィン性不飽和結合を有する芳香族化合物とを共重合したジシクロペンタジエン-芳香族共重合系石油系樹脂等が挙げられる。また、芳香族系石油系樹脂には、スチレン系化合物(スチレン、α-メチルスチレン、β-メチルスチレン)を重合したスチレン系樹脂も含まれる。
【0053】
また、石油系樹脂は、前記石油留分や化学合成された不飽和化合物を重合して得られた重合物に水素原子を添加した水素添加石油系樹脂も使用できる。水素原子を添加することにより、分子中の二重結合が水素化される。水素添加物は、分子中の二重結合が全て水素化された完全水素添加石油系樹脂、分子中の二重結合の一部が水素化された部分水素添加石油系樹脂のいずれも使用できる。
【0054】
水素添加された石油系樹脂としては、肪族系石油系樹脂を水素添加して得られる水素添加脂肪族系石油系樹脂;芳香族系石油系樹脂を水素添加して得られる水素添加芳香族系石油系樹脂;脂肪族-芳香族共重合系石油系樹脂を水素添加して得られる水素添加脂肪族-芳香族共重合系石油系樹脂;ジシクロペンタジエン系石油樹脂を水素添加して得られる水素添加ジシクロペンタジエン系石油系樹脂;ジシクロペンタジエン-芳香族共重合系石油系樹脂を水素添加して得られる水素添加ジシクロペンタジエン-芳香族共重合系石油系樹脂等が挙げられる。
【0055】
前記石油系樹脂の具体例としては、例えば、丸善石油化学社製のマルカレッツ(登録商標)Mシリーズ(例えば、マルカレッツM-890A)や、日本ゼオン社製のクイントン(登録商標)シリーズ(例えば、クイントン1325)などの市販品が挙げられる。前記ロジン系樹脂の具体例としては、例えば、ハリマ化成社製のハリタック(登録商標)シリーズやハリエスター(登録商標)シリーズ(例えば、ハリタックHD21)などの市販品が挙げられる。
【0056】
ロジンは、マツ科の植物の樹液である松脂等のバルサム類を集めてテレピン精油を蒸留した後に残る残留物で、ロジン酸(アビエチン酸、パラストリン酸、イソピマール酸等)を主成分とする天然樹脂である。ロジンとしては、例えば、ガムロジン、ウッドロジン及びトール油ロジン等の原料ロジン、並びにこれらの精製物が挙げられる。これらのロジンは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0057】
ロジン誘導体は、前記ロジンの誘導体であれば特に限定されず、例えば、前記ロジンに水素化、不均化、重合、エステル化、変性(例えば、酸変性)、その他の化学的な修飾などの処理を施したものが挙げられる。これらの処理は、1種であってもよく、2種以上であってもよい。ロジン誘導体としては、例えば、ロジンエステル、不均化ロジン、不均化ロジンエステル、重合ロジン、重合ロジンエステル、水素化ロジン、水素化ロジンエステル、変性ロジン、変性ロジンエステル等が挙げられる。これらのロジン誘導体は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0058】
前記ロジンおよび/またはロジン誘導体としては、市販品を用いることができる。例えば、ハリマ化成社製のハリエスターP(ペンタエリスリトールロジンエステル、酸価:6~12mgKOH/g)、ハリエスターDS-70L(ロジンエステル、酸価:8mgKOH/g以下)、ハリタックR-80(ロジンエステル、酸価:20mgKOH/g以下)、ハリタックFK100(不均化ロジンエステル、酸価:5mgKOH/g以下)、ハリタックFK125(不均化ロジンエステル、酸価:14~20mgKOH/g)、ハリタックSE10(水添ロジンエステル、酸価:2~10mgKOH/g)、ハリタックF85(水添ロジンエステル、酸価:4~12mgKOH/g)、ハリタックPH(水添ロジンエステル、酸価:7~16mgKOH/g)、ハリタックAQ-90A(ロジン変性特殊合成樹脂、酸価:100~110mgKOH/g)などのロジンエステル類;ハリタックF-75(特殊変性ロジン、酸価:145mgKOH/g以上)、ハリタックFG-90(特殊変性ロジン、酸価:140~160mgKOH/g)、ハリマックT-80(マレイン化ロジン、酸価:170~200mgKOH/g)、ハリマックR-100(マレイン化ロジンエステル、酸価:25mgKOH/g以下)、ハリマックM-453(マレイン化ロジンエステル、酸価:25mgKOH/g以下)、ハリタック4740(マレイン化ロジンエステル、酸価:25~35mgKOH/g)、ハリエスターMSR-4(マレイン化ロジンエステル、酸価:120~150mgKOH/g)、ハリタック28JA(マレイン化ロジンエステル、酸価:39mgKOH/g以下)などの変性ロジン類及び変性ロジンエステル類;ハリタックPCJ(重合ロジンエステル、酸価:16mgKOH/g以下)、ハリエスターDS-130(重合ロジンエステル、酸価:20mgKOH/g以下)、ハリエスターKT-3(重合ロジンエステル、酸価:17mgKOH/g以下)などの重合ロジンエステル類が挙げられる。
【0059】
前記クマロン系樹脂としては、主にクマロンに由来する構成単位を有する樹脂であり、例えば、クマロン樹脂、クマロン-インデン樹脂、クマロンとインデンとスチレンを主成分とする共重合樹脂などが挙げられる。これらのクマロン系樹脂は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0060】
前記クマロン系樹脂の具体例としては、例えば、日塗化学社製のニットレジン(登録商標)クマロンシリーズ(例えば、ニットレジンクマロンG-90、ニットレジンクマロンL-5、ニットレジンクマロンL-20)等の市販品が挙げられる。
【0061】
前記粘着性付与剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、5質量部以上であることが好ましく、7質量部以上であることがより好ましく、10質量部以上であることがさらに好ましく、50質量部以下であることが好ましく、45質量部以下であることがより好ましく、40質量部以下であることがさらに好ましい。
【0062】
粘着性付与剤の含有量が前記範囲内であれば、加工性が良好になるからである。
【0063】
(その他の成分)
本発明の減衰性ゴム組成物は、上記の各成分に加えて、さらに充填剤、加硫助剤、軟化剤、老化防止剤、シランカップリング剤等の、減衰性ゴム組成物に使用されうる種々の添加剤を、本発明の目的を損害しない範囲内で適宜選択して含有してもよい。
【0064】
[充填剤]
前記充填剤としては、カーボンブラック等が挙げられる。前記カーボンブラックの種類は特に限定されない。前記カーボンブラックとしては、SAF(Super Abrasion Furnace Black)、ISAF(Intermediate Super Abrasion Furnace Black)、IISAF(Intermediate ISAF)、HAF(High Abrasion Furnace Black)、MAF(Medium Abrasion Furnace Black)、FEF(Fast Extruding Furnace Black)、SRF(Semi-Reinforcing Furnace Black)、GPF(General Purpose Furnace Black)、FF(Fine Furnace Black)、CF(Conductive Furnace Black)などのファーネスカーボンブラック;FT(Fine Thermal black)、MT(Medium Thermal Black)などのサーマルカーボンブラック;EPC(Easy Processing Channel Black)、MPC(Medium Processing Channel Black)などのチャンネルカーボンブラック;アセチレンブラックが挙げられる。前記カーボンブラックは1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0065】
前記カーボンブラックの具体例としては、例えば、東海カーボン社製のシーストシリーズ(例えば、シースト3)などの市販品が挙げられる。
【0066】
前記充填剤の含有量は、基材ゴム100質量部に対して、1質量部以上であることが好ましく、2質量部以上であることがより好ましく、3質量部以上であることがさらに好ましく、10質量部以下であることが好ましく、9質量部以下であることがより好ましく、8質量部以下であることがさらに好ましい。充填剤の含有量が前記範囲内であれば、加工性が良好になるからである。
【0067】
[加硫助剤]
前記加硫助剤としては、酸化亜鉛等の金属化合物や、ステアリン酸、オレイン酸、綿実脂肪酸等の脂肪酸が挙げられる。これらの加硫助剤は、単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0068】
前記加硫助剤の具体例としては、例えば、三井金属鉱業社製の酸化亜鉛2種、日油社製のつばきなどの市販品が挙げられる。
【0069】
前記加硫助剤の含有量は、基材ゴム100質量部に対して、1質量部以上であることが好ましく、2質量部以上であることがより好ましく、3質量部以上であることがさらに好ましく、10質量部以下であることが好ましく、9質量部以下であることがより好ましく、8質量部以下であることがさらに好ましい。加硫助剤の含有量が前記範囲内であれば、加硫速度を制御でき、加工性が良好になるからである。
【0070】
また、加硫助剤として金属化合物と脂肪酸を併用することも好ましい。この場合、金属化合物と脂肪酸の質量比(金属化合物/脂肪酸)は、0.5以上であることが好ましく、1以上であることがより好ましく、1.5以上であることがさらに好ましく、5以下であることが好ましく、4以下であることがより好ましく、3以下であることがさらに好ましい。金属化合物と脂肪酸の質量比が前記範囲内であれば、本発明の効果がより良好に得られる。
【0071】
[軟化剤]
前記軟化剤としては、例えば、室温で液状を呈する各種の液状ゴムが挙げられる。これらの軟化剤は、単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0072】
前記液状ゴムとしては、例えば、液状ポリブタジエンゴム、液状ポリイソプレンゴム、液状ポリスチレンブタジエンゴム等が挙げられる。その具体例としては、例えば、クラレ社製のクラプレン(登録商標)LIRシリーズ、LBRシリーズ、L-SBRシリーズ(例えば、LIR-30、LIR-50)等の市販品が挙げられる。前記液状ゴムは、1種または2種以上を組み合せて使用することができる。
【0073】
前記軟化剤の含有量は、基材ゴム100質量部に対して、5質量部以上であることが好ましく、7質量部以上であることがより好ましく、10質量部以上であることがさらに好ましく、50質量部以下であることが好ましく、45質量部以下であることがより好ましく、40質量部以下であることがさらに好ましい。軟化剤の含有量が前記範囲内であれば、加工性が良好になるからである。
【0074】
[シランカップリング化剤]
本発明の減衰性ゴム組成物は、シランカップリング剤を含有してもよい。シランカップリング剤を含有することにより、基材ゴムに対するシリカの分散性が向上する。
【0075】
シランカップリング剤としては、例えば、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド等のスルフィド系シランカップリング剤;3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、モメンティブ社製のNXT-Z100、NXT-Z45、NXT等のメルカプト系シランカップリング剤;ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン等のビニル系シランカップリング剤;3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリエトキシシラン等のアミノ系シランカップリング剤;γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン等のグリシドキシ系シランカップリング剤;3-ニトロプロピルトリメトキシシラン、3-ニトロプロピルトリエトキシシラン等のニトロ系シランカップリング剤;3-クロロプロピルトリメトキシシラン、3-クロロプロピルトリエトキシシラン等のクロロ系シランカップリング剤;等が挙げられる。これらのシランカップリング剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0076】
シランカップリング剤を含有する場合、シランカップリング剤の含有量は、シリカ100質量部に対して、10質量部以上が好ましく、12質量部以上がより好ましく、15質量部以上がさらに好ましい。また、前記シランカップリング剤の含有量は、シリカ100質量部に対して、30質量部以下が好ましく、25質量部以下がより好ましく、20質量部以下がさらに好ましい。
【0077】
[老化防止剤]
老化防止剤としては、例えばベンズイミダゾール系、キノン系、ポリフェノール系、アミン系等の各種老化防止剤の1種または2種以上が挙げられる。特にベンズイミダゾール系老化防止剤とキノン系老化防止剤を併用するのが好ましい。
【0078】
このうちベンズイミダゾール系老化防止剤としては、例えば2-メルカプトベンズイミダゾール等が挙げられる。ベンズイミダゾール系老化防止剤の配合割合は、基材ゴム100質量部あたり0.5質量部以上であるのが好ましく、5質量部以下であるのが好ましい。
【0079】
キノン系老化防止剤としては、例えば丸石化学品(株)製のアンチゲンFR〔芳香族ケトン-アミン縮合物〕等が挙げられる。
【0080】
キノン系老化防止剤の配合割合は、基材ゴム100質量部あたり0.5質量部以上であるのが好ましく、5質量部以下であるのが好ましい。
【0081】
本発明の減衰性ゴム組成物は、例えば、基材ゴム、シリカ、1,6-ビス(N,N-ジベンジルチオカルバモイルジチオ)ヘキサン、および必要に応じて添加する加硫剤、加硫促進剤、粘着性付与剤や、その他の成分を混練することにより調製することができる。混練の方法は、特に限定されず、例えば、密閉式混練機、混練ロール、バンバリーミキサー、ニーダーなどの公知の混練機を用いて行えばよい。
【0082】
本発明の減衰性ゴム組成物は、混練後のゴム組成物を金型内で成形することができる。成形する温度は、120℃以上が好ましく、130℃以上がより好ましく、140℃以上がさらに好ましく、170℃以下が好ましい。成形時間は、20分間~120分間が好ましい。
【0083】
<減衰性ゴム>
本発明には、本発明の減衰性ゴム組成物を硬化してなる減衰性ゴムが含まれる。本発明の減衰性ゴムは、振動エネルギーの伝達を緩和および/または吸収するので、免震材料、制振材料、制震材料、または、防振材料として使用することができる。
【0084】
<粘弾性ダンパ>
特に、本発明の減衰性ゴム組成物を硬化してなる減衰性ゴムは、建築物の構造中に組み込まれる粘弾性ダンパとして好適に使用することができる。本発明の粘弾性ダンパは、粘弾性体である減衰性ゴムが変形することで、振動エネルギーを吸収して揺れを低減する。
【実施例0085】
以下、本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明は、下記実施例によって限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲の変更、実施の態様は、いずれも本発明の範囲内に含まれる。
【0086】
[評価方法]
【0087】
<減衰特性試験>
(試験体の作製)
各減衰性ゴム組成物をシート状に押出成形したのち打ち抜いて、
図1に示すように平面形状が矩形の平板1(厚み5mm×縦25mm×横25mm)を形成した。次いで、この平板1の表裏両面にそれぞれ加硫接着剤を介して厚み6mm×縦44mm×横44mmの矩形平板状の鋼板2を重ねて積層体とした。そして、上記の積層体を積層方向に加圧しながら150℃に加熱して、平板1を形成する減衰性ゴム組成物を架橋させるとともに、当該平板1を2枚の鋼板2と加硫接着させて、減衰部材のモデルとしての減衰特性評価用の試験体3を作製した。
【0088】
(変位試験)
上記試験体3を
図2(a)に示すように2個用意し、この2個の試験体3をそれぞれ一方の鋼板2を介して1枚の中央固定治具4に固定するとともに、両試験体3の他方の鋼板2にそれぞれ1枚ずつの左右固定治具5をボルトで固定した。次いで、中央固定治具4を、図示しない試験機の上側の固定アーム6にジョイント7を介して固定し、かつ2枚の左右固定治具5を、上記試験機の下側の可動盤8にジョイント9を介して固定した。なお、両試験体3は、それぞれ平板1の互いに平行な2辺を下記の変位方向と平行に揃えた状態で、上記のように固定した。
【0089】
(単純変位試験)
次いで、下記(I)(II)の操作を1サイクルとして、平板1を繰り返し歪み変形、すなわち振動させた際の、平板1の厚み方向(積層方向)に直交する方向の変位量(mm)と、荷重(N)との関係を示すヒステリシスループH(
図3参照)を求めた。
(I):可動盤8を、
図2(a)中に白抜きの矢印で示すように固定アーム6の方向に押し上げるように変位させて、平板1を、
図2(b)に示すように厚み方向(積層方向)に直交する方向に歪み変形させた状態とする。
(II):上記の状態から、可動盤8を、今度は
図2(b)中に白抜きの矢印で示すように固定アーム6の方向と反対方向に引き下げるように変位させて、
図2(a)に示す状態に戻す。
【0090】
測定は、温度20℃の環境下、上記(I)(II)の操作を6サイクル実施して6サイクル目の値を求めた。各サイクルにおける最大変位量は、いずれも平板1を挟む2枚の鋼板2の、当該平板1の厚み方向(積層方向)に直交する方向のずれ量が平板1の厚みの100%となるように設定した。
【0091】
測定によって求めた
図3のヒステリシスループHから、下記式(1)によって等価せん断弾性率Geq(N/mm
2)を求めた。
【数1】
式中、Keq(N/mm)は、ヒステリシスループHの最大変位点と最小変位点とを結ぶ、
図3中に太線の実線で示す直線L
1の傾きであり、T(mm)は平板1の厚みであり、A(mm
2)は平板1の断面積である。
【0092】
また、
図3のヒステリシスループHから、下記式(2)によって等価減衰定数heqを求めた。
【数2】
式中、ΔWは、
図3中に斜線を付して示した、ヒステリシスループHの全表面積で表される吸収エネルギー量であり、Wは、同図中に網線を付して示した、直線L
1と、グラフの横軸と、直線L
1とヒステリシスループHとの交点から上記グラフの横軸におろした垂線L
2とで囲まれた三角形の領域の表面積で表される弾性歪みエネルギーである。
【0093】
そして、減衰性ゴム組成物No.1における等価せん断弾性率Geqを100としたときの、各ゴム組成物の等価せん断弾性率Geqの相対値を求め、かかる相対値について、以下の評価基準で、減衰性能を評価した。かかる相対値が大きいほど、減衰性能に優れることを示す。
〇:100以上、
△:100未満、80以上
×:80未満
【0094】
また、減衰性ゴム組成物No.1における等価減衰定数heqを100としたときの、各ゴム組成物の等価減衰定数heqの相対値を求め、かかる相対値について、以下の評価基準で、減衰性能を評価した。かかる相対値が大きいほど、減衰性能に優れることを示す。
〇:90以上
△:90未満、80以上、
×:80未満
【0095】
(限界変形試験)
可動盤8を、
図2(a)中に白抜きの矢印で示すように固定アーム6の方向に押し上げるように変位させて、平板1を、
図2(b)に示すように厚み方向と直交方向に歪み変形させた状態とする。変位量(mm)が50mmとなるまで変形した際の厚み方向(積層方向)に直交する方向への平板1の変位量(mm)と荷重(N)との関係を示すS-N荷重曲線を求めた。得られたS-N荷重曲線のうち、最大荷重となるときの変位量を「最大荷重時変位」とした。「最大荷重時変位」から平板1の厚みの100%になるように、さらに歪み変形させたときの荷重を「最大荷重後荷重」とし、荷重低下率を下記式(3)により求めた。
【0096】
荷重低下率(%)=最大荷重後荷重/最大荷重×100
荷重低下率について、以下の基準で評価した。数値が大きいほど良好である。
〇:90以上、
△:90未満、80以上、
×:80未満
【0097】
<総合判定>
減衰性能、単純変位試験、限界変形試験の評価結果のすべてが「〇」であるか、「△」が一つのみの場合には、総合判定を「合格(〇)」とし、減衰性能、単純変位試験、限界変形試験の評価結果で「△」が二つ以上ある場合は、総合評価を「△」とし、減衰性能、単純変位試験、限界変形試験の評価結果のいずれか一つが「×」のものは、総合判定を「不合格(×)」とした。
【0098】
表1に示す配合の各成分を、密閉式混練機を用いて混練することでゴム組成物を作製した。
【表1】
【0099】
表1中の各成分は下記のとおりである。
基材ゴム:日本ゼオン社製のポリイソプレンゴムNipol IR2200
シリカ:エボニックデグサ社製ウルトラジルVN3
1,6-ビス(N,N-ジベンジルチオカルバモイルジチオ)ヘキサン:LANXESS社製のVulcuren クマロン系樹脂:日塗化学社製のニットレジンクマロンG-90
石油系樹脂:丸善石油化学社製マルカレッツM890A(ジシクロペンタジエン系石油系樹脂)
液状ポリイソプレンゴム:クラレ社製のクラプレンLIR-50
カーボンブラック:東海カーボン社製のシースト3(FEFグレード)
加硫剤:鶴見化学工業社製の5%オイル処理粉末硫黄
加硫促進剤:大内新興化学社製のノクセラーNS(スルフェンアミド系加硫促進剤)
酸化亜鉛:三井金属鉱業社製の酸化亜鉛2種
ステアリン酸:日油社製のつばき
老化防止剤1:川口化学工業製アンテージRD(2,2,4-トリメチル-1,2-ジハイドロキノリンの重合体)
老化防止剤2:大内新興化学社製のノクラックMB(2-メルカプトベンズイミダゾール)
【0100】
表1の結果から明らかなように、重合性二重結合を有する基材ゴム、シリカ、および、1,6-ビス(N,N-ジベンジルチオカルバモイルジチオ)ヘキサンを含有し、1,6-ビス(N,N-ジベンジルチオカルバモイルジチオ)ヘキサンの配合量が、前記二重結合を有する基材ゴム100質量部に対して、0.5質量部以上、4.0質以下である減衰性ゴム組成物は、減衰性能に優れ、最大荷重時歪みを超える領域で、荷重低下が抑制されている。
本発明の好ましい態様(1)は、重合性二重結合を有する基材ゴム、シリカ、および、1,6-ビス(N,N-ジベンジルチオカルバモイルジチオ)ヘキサンを含有し、1,6-ビス(N,N-ジベンジルチオカルバモイルジチオ)ヘキサンの配合量が、前記重合性二重結合を有する基材ゴム100質量部に対して、0.5質量部以上、4.0質以下であることを特徴とする減衰性ゴム組成物である。
本発明の好ましい態様(3)は、前記重合性二重結合を有する基材ゴム中のポリイソプレン系ゴムの含有率は、50質量%以上、100質量%以下である態様(1)または(2)の減衰性ゴム組成物である。
本発明の好ましい態様(4)は、前記重合性二重結合を有する基材ゴム100質量部に対して、シリカを100質量部以上、180質量部以下含有する態様(1)~(3)のいずれかひとつの減衰性ゴム組成物である。
本発明の好ましい態様(5)は、前記重合性二重結合を有する基材ゴム100質量部に対して、硫黄系加硫剤を0質量部以上、2.5質量部以下、加硫促進剤を0.3質量部以上、2.5質量部以下を含有する態様(1)~(4)のいずれかひとつの減衰性ゴム組成物である。