(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025025963
(43)【公開日】2025-02-21
(54)【発明の名称】ウェットマスターバッチの製造方法、ゴム組成物、及びタイヤ
(51)【国際特許分類】
C08J 3/22 20060101AFI20250214BHJP
C08L 21/02 20060101ALI20250214BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20250214BHJP
B60C 1/00 20060101ALI20250214BHJP
【FI】
C08J3/22 CEQ
C08L21/02
C08K3/04
B60C1/00 Z
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023131261
(22)【出願日】2023-08-10
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-04-15
(71)【出願人】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100119530
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 和幸
(74)【代理人】
【識別番号】100195556
【弁理士】
【氏名又は名称】柿沼 公二
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼田 智江
(72)【発明者】
【氏名】浜谷 悟司
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 良彦
【テーマコード(参考)】
3D131
4F070
4J002
【Fターム(参考)】
3D131AA01
3D131AA03
3D131AA04
3D131AA05
3D131AA06
3D131AA07
3D131AA08
3D131AA11
3D131AA12
3D131AA14
3D131AA18
3D131AA19
3D131BA12
3D131BC07
4F070AA04
4F070AC04
4F070AE01
4F070FA05
4F070FB04
4F070FC03
4J002AC011
4J002AC031
4J002AC061
4J002AC081
4J002AC111
4J002DA036
4J002FD016
4J002GN01
4J002HA06
(57)【要約】
【課題】再生カーボンブラックを含む充填剤の分散性に優れる上、サステナビリティの向上に寄与し得るウェットマスターバッチを得ることが可能な、ウェットマスターバッチの製造方法を提供する。
【解決手段】再生カーボンブラックを含む充填剤を水に分散させてスラリー溶液を調製するスラリー調製工程と、前記スラリー溶液とゴムラテックス溶液とを混合する混合工程と、前記混合工程後の前記スラリー溶液と前記ゴムラテックス溶液とを液相で撹拌する撹拌工程と、を含むことを特徴とする、ウェットマスターバッチの製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
再生カーボンブラックを含む充填剤を水に分散させてスラリー溶液を調製するスラリー調製工程と、
前記スラリー溶液とゴムラテックス溶液とを混合する混合工程と、
前記混合工程後の前記スラリー溶液と前記ゴムラテックス溶液とを液相で撹拌する撹拌工程と、を含むことを特徴とする、ウェットマスターバッチの製造方法。
【請求項2】
前記再生カーボンブラックが、カーボンブラックを含む加硫ゴム製品の熱分解によって得られたものである、請求項1に記載のウェットマスターバッチの製造方法。
【請求項3】
前記再生カーボンブラックは、灰分量が20質量%以下である、請求項1又は2に記載のウェットマスターバッチの製造方法。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のウェットマスターバッチの製造方法で得られるウェットマスターバッチを用いたことを特徴とする、ゴム組成物。
【請求項5】
請求項4に記載のゴム組成物を用いたことを特徴とする、タイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウェットマスターバッチの製造方法、ゴム組成物、及びタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
使用済タイヤは、一般のプラスチック製品と比較しても回収率は高く、特にセメント工場を中心として燃料として再利用されている。しかしながら、近年、環境問題の関心の高まりから、使用済タイヤを切断又は破砕したゴム片又はゴム粉末を再使用すること、即ち、いわゆるマテリアルリサイクル率の向上が求められている(例えば、特許文献1)。
【0003】
また、使用済タイヤに代表されるゴム製品(特には、加硫ゴム製品)は、カーボンブラックを含んでおり、これらゴム製品を原材料としてリサイクルに供することで、カーボンブラックを回収することができる。このような回収により得られるカーボンブラックは、「再生カーボンブラック」と称される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した再生カーボンブラックは、再生カーボンブラック以外のカーボンブラック(ヴァージンカーボンブラック)に比べて、他の材料に配合した際の分散性の観点で改善の余地あった。
【0006】
また、昨今、社会の持続可能性(サステナビリティ)の観点から、タイヤに使用される各種部材についても、生物資源(バイオマス資源)由来の材料や、再生資源(リサイクル資源)由来の材料といった、所謂、サステナブル材料を使用することが求められており、各種ゴム製品の製造に用いられるゴム組成物、ひいては当該ゴム組成物を得るためのウェットマスターバッチについても、サステナブル材料の使用率の向上が求められている。
【0007】
そこで、本発明は、再生カーボンブラックを含む充填剤の分散性に優れる上、サステナビリティの向上に寄与し得るウェットマスターバッチを得ることが可能な、ウェットマスターバッチの製造方法を提供することを課題とする。
また、本発明は、再生カーボンブラックを含む充填剤の分散性に優れる上、サステナビリティの向上に寄与し得るゴム組成物を提供することを課題とする。
また、本発明は、再生カーボンブラックを含む充填剤の分散性に優れる上、サステナビリティの向上に寄与し得るタイヤを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
即ち、上記課題を解決する本発明のゴム組成物及びタイヤの要旨構成は、以下の通りである。
【0009】
[1] 再生カーボンブラックを含む充填剤を水に分散させてスラリー溶液を調製するスラリー調製工程と、
前記スラリー溶液とゴムラテックス溶液とを混合する混合工程と、
前記混合工程後の前記スラリー溶液と前記ゴムラテックス溶液とを液相で撹拌する撹拌工程と、を含むことを特徴とする、ウェットマスターバッチの製造方法。
かかる本発明のウェットマスターバッチの製造方法によれば、再生カーボンブラックを含む充填剤の分散性に優れる上、サステナビリティの向上に寄与し得るウェットマスターバッチを得ることができる。
【0010】
[2] 前記再生カーボンブラックが、カーボンブラックを含む加硫ゴム製品の熱分解によって得られたものである、[1]に記載のウェットマスターバッチの製造方法。
この場合、使用済みゴム製品を有効に活用することができ、環境負荷低減に一層貢献することができる。
【0011】
[3] 前記再生カーボンブラックは、灰分量が20質量%以下である、[1]又は[2]に記載のウェットマスターバッチの製造方法。
この場合、タイヤ等のゴム製品に要求される諸物性、再生カーボンブラックの品質が向上する。
【0012】
[4] [1]~[3]のいずれかに記載のウェットマスターバッチの製造方法で得られるウェットマスターバッチを用いたことを特徴とする、ゴム組成物。
かかる本発明のゴム組成物は、再生カーボンブラックを含む充填剤の分散性に優れる上、サステナビリティの向上に寄与し得る。
【0013】
[5] [4]に記載のゴム組成物を用いたことを特徴とする、タイヤ。
かかる本発明のタイヤは、再生カーボンブラックを含む充填剤の分散性に優れる上、サステナビリティの向上に寄与し得る
【0014】
本発明によれば、再生カーボンブラックを含む充填剤の分散性に優れる上、サステナビリティの向上に寄与し得るウェットマスターバッチを得ることが可能な、ウェットマスターバッチの製造方法を提供することができる。
また、本発明によれば、再生カーボンブラックを含む充填剤の分散性に優れる上、サステナビリティの向上に寄与し得るゴム組成物を提供することができる。
また、本発明によれば、再生カーボンブラックを含む充填剤の分散性に優れる上、サステナビリティの向上に寄与し得るタイヤを提供することができる。
【0015】
以下に、本発明のウェットマスターバッチの製造方法、ゴム組成物、及びタイヤを、その実施形態に基づき、詳細に例示説明する。
【0016】
<定義>
本明細書に記載されている化合物は、部分的に、又は全てが化石資源由来であってもよく、植物資源等の生物資源由来であってもよく、使用済タイヤ等の再生資源由来であってもよい。また、化石資源、生物資源、再生資源のいずれか2つ以上の混合物由来であってもよい。
【0017】
本明細書において、「サステナブル率」とは、対象とする材料中の、生物資源(バイオマス資源)由来の成分と、再生資源(リサイクル資源)由来の成分と、の総質量割合である。
【0018】
本明細書において、前記生物資源(バイオマス資源)とは、生物由来のカーボンニュートラルな有機資源を指し、例えば、デンプンやセルロース等の形で蓄えられたもの、植物を食べて成育する動物の体や、植物や動物を加工して得た製品等が包含され、化石資源(石油、石炭、天然ガス等)を除く資源である。該生物資源は、可食であってもよいし、非可食であってもよいが、食料と競合せず、また、資源の有効利用の観点からは、非可食であることが好ましい。
【0019】
前記生物資源の具体例としては、例えば、セルロース系作物(パルプ、ケナフ、麦藁、稲藁、古紙、製紙残渣等)、木材、木炭、堆肥、生ゴミ、植物油カス、水産物残渣、家畜排泄物、食品廃棄物、排水汚泥、天然ゴム、綿花、油脂(パーム油、ヒマシ油、綿実油、大豆油、アマニ油、菜種油、ヤシ油、落花生油、トール油、コーン油、コメ油、紅花油、ゴマ油、オリーブ油、向日葵油、パーム核油、椿油、ホホバ油、マカデミアナッツ油、桐油、ココナッツ油等)、炭水化物系作物(トウモロコシ、小麦、米、籾殻、米ぬか、古米、イモ類、そば、キャッサバ、サゴヤシ、サトウキビ等)、バガス(即ち、サトウキビの搾汁後の残渣)、大豆、おから、精油(松根油、オレンジ油、ユーカリ油等)、パルプ黒液、藻類等が挙げられる。前記生物資源としては、これらを処理したもの(即ち、生物資源由来物質)を利用することもできる。処理方法としては、例えば、微生物、植物、動物、及びこれらの組織培養体等の働きを利用した生物学的処理方法;酸、アルカリ、触媒、熱エネルギー、光エネルギー等を利用した化学的処理方法;微細化、圧縮、マイクロ波処理、電磁波処理等の物理的処理方法;等が挙げられる。また、前記生物資源としては、前記生物資源や前記処理を行った生物資源から、抽出、精製したもの(即ち、生物資源由来物質)を利用することもできる。例えば、前記生物資源から精製した糖類、タンパク質、アミノ酸、脂肪酸、脂肪酸エステル等を利用することもできる。前記糖類としては、生物資源由来の、スクロース、グルコース、トレハロース、フルクトース、ラクトース、ガラクトース、キシロース、アロース、タロース、グロース、アルトロース、マンノース、イドース、アラビノース、アピオース、マルトース、セルロース、デンプン、キチン等が挙げられる。前記タンパク質としては、生物資源由来で、アミノ酸(好ましくはL-アミノ酸)が連結してできた化合物が挙げられ、ジペプチド等のオリゴペプチドも包含される。前記アミノ酸としては、生物資源由来の、バリン、ロイシン、イソロイシン、アルギニン、リジン、アスパラギン、グルタミン、フェニルアラニン等が挙げられ、これらの中でも、バリン、ロイシン、イソロイシン、アルギニン、フェニルアラニンが好ましい。該アミノ酸は、L-アミノ酸でも、D-アミノ酸でもよいが、天然における存在量が多く、入手容易性の観点から、L-アミノ酸が好ましい。前記脂肪酸としては、生物資源由来の、酪酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸等が挙げられる。前記脂肪酸エステルとしては、植物油、動物油、生物資源由来の油脂の改質物等が挙げられる。これら生物資源には、種々の材料、不純物が混入していてもよい。
【0020】
本明細書において、前記再生資源(リサイクル資源)とは、一度使用され、又は使用されずに収集され、若しくは廃棄された製品を再生(リサイクル)して得た資源を指す。例えば、再生資源としては、使用済タイヤ等の使用済ゴム製品を再生(リサイクル)して得た資源等が挙げられる。
【0021】
<ウェットマスターバッチの製造方法>
本発明の一実施形態のウェットマスターバッチの製造方法(以下、「本実施形態の製造方法」と称することがある)は、再生カーボンブラックを含む充填剤を水に分散させてスラリー溶液を調製するスラリー調製工程と、前記スラリー溶液とゴムラテックス溶液とを混合する混合工程と、前記混合工程後の前記スラリー溶液と前記ゴムラテックス溶液とを液相で撹拌する撹拌工程と、を含むことを特徴とする、ウェットマスターバッチの製造方法である。かかる本実施形態の製造方法により、ウェットマスターバッチを得ることができ、また、かかるウェットマスターバッチを用いることにより、後述する本実施形態のゴム組成物が得られる。
【0022】
再生カーボンブラックは、再生カーボンブラック以外のカーボンブラック(ヴァージンカーボンブラック)に比べて、他の材料(ゴム材料など)に配合した際の分散性に改善の余地が生じる傾向にある。この点、本実施形態の製造方法においては、あらかじめ再生カーボンブラックを含む充填剤を水に分散させてスラリー溶液を調製しておき、かかるスラリー溶液をゴムラテックス溶液と混合する、という手順を採ることで、得られるウェットマスターバッチにおいて再生カーボンブラックを含む充填剤の分散性を高めることができる。その上、本実施形態の製造方法で得られるウェットマスターバッチは、少なくとも再生カーボンブラックを用いるので、サステナビリティの向上に寄与し得る。
【0023】
(スラリー調製工程)
スラリー調製工程の方法(スラリー溶液を調製する方法)としては、特に限定されず、公知の方法及び装置を用いることができ、例えば、ローター・ステータータイプのハイシェアミキサー、高圧ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、コロイドミル、ホモミキサー等を用いることができる。例えば、ホモミキサーに所定量の再生カーボンブラックを含む充填剤と水とを入れ、一定時間撹拌することで、スラリー溶液を調製することができる。
【0024】
スラリー調製工程において、調製されるスラリー溶液における充填剤の濃度は、0.5質量%以上30質量%以下が好ましく、また、1質量%以上がより好ましく、15質量%以下がより好ましい。
【0025】
(混合工程)
混合工程の方法(スラリー溶液とゴムラテックス溶液とを混合する方法)としては、特に限定されず、公知の方法及び装置を用いることができ、例えば、ローター・ステータータイプのハイシェアミキサー、高圧ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、コロイドミル、ホモミキサー等を用いることができる。
【0026】
混合工程において、スラリー溶液由来の充填剤の量は、ゴムラテックス溶液由来のゴム成分100質量部に対して、10質量部以上100質量部以下であることが好ましい。上記量が、10質量部以上であれば、補強性を向上させることができ、100質量部以下であれば、低発熱性等の諸特性を良好に保持することができる。
【0027】
(撹拌工程)
撹拌工程の方法(スラリー溶液とゴムラテックス溶液とを液相で撹拌する方法)としては、特に限定されず、例えば、上述した装置に備え付けられた撹拌手段により撹拌する方法が挙げられる。撹拌工程後に、ウェットマスターバッチが得られる。
【0028】
(凝固)
なお、本実施形態の製造方法においては、適切なタイミング、特には撹拌工程中又は撹拌工程の後に、蟻酸、硫酸等の酸や、塩化ナトリウム等の塩の凝固剤を用い、凝固作用を生じさせてもよい。なお、本実施形態の製造方法においては、凝固剤を用いず、スラリー溶液とゴムラテックス溶液とを混合することによって、凝固がなされる場合もある。
【0029】
(乾燥)
また、本実施形態の製造方法においては、撹拌工程の後、特には凝固の後に、乾燥を行ってもよい。乾燥の方法としては、真空乾燥機、エアドライヤー、ドラムドライヤー、バンドドライヤー等の通常の乾燥機を用いることができる。また、乾燥の際には、機械的せん断力をかけることが好ましい。この場合、カーボンブラックの分散性をより向上させることができる。このような機械的せん断力をかけながらの乾燥は、一般的な混練機を用いて行うことができるが、工業的生産性の観点から、連続混練機を用いることが好ましい。更には、同方向回転又は異方向回転の多軸混練押出機を用いることがより好ましい。
【0030】
次に、本実施形態の製造方法で用い得る各種材料について説明する。
【0031】
(充填剤)
充填剤は、スラリー調製工程において水に分散させる際に用いられる。また、充填剤は、再生カーボンブラックを含むことを要する。
【0032】
-再生カーボンブラック-
本明細書において、「再生カーボンブラック」とは、リサイクルに供された廃棄物である原材料から回収して得られるカーボンブラックを指す。上記リサイクルに供された廃棄物としては、使用済ゴム及び使用済タイヤに代表される、カーボンブラックを含むゴム製品(特には、加硫ゴム製品)、廃油等が挙げられる。「再生カーボンブラック」は、石油や天然ガスなどの炭化水素を原材料から直接製造されるカーボンブラック、すなわち、リサイクル品ではないカーボンブラックとは異なる。なお、ここでの「使用済」とは、実際に使用された後で廃棄されたものだけではなく、製造されたものの実際には使用されずに廃棄されたものも含む。
【0033】
前記充填剤における再生カーボンブラックの割合は、50質量%以上であることが好ましい。この場合、サステナビリティの向上に一層寄与し得る。同様の観点から、前記充填剤における再生カーボンブラックの割合は、70質量%以上がより好ましく、90質量%以上が更に好ましく、100質量%(即ち、充填剤が、再生カーボンブラックのみからなること)が特に好ましい。
【0034】
また、本実施形態で用いる再生カーボンブラックは、カーボンブラックを含む加硫ゴム製品の熱分解によって得られたものであることが好ましい。この場合、使用済みゴム製品を有効に活用することができ、環境負荷低減に一層貢献することができる。更に、本実施形態で用いる再生カーボンブラックは、上記カーボンブラックを含む加硫ゴム製品の熱分解によって生成する固形残渣から得られたものであることが好ましい。カーボンブラックを含むゴム製品を熱分解した際に、固形残渣と揮発成分(オイル)とが得られ、いずれからも再生カーボンブラックを回収することが可能である。しかし、本実施形態で用いる再生カーボンブラックには、オイルから回収されるカーボンブラックは含まれないことが好ましい。
【0035】
使用済ゴム及び使用済タイヤに代表される廃棄物を熱分解して得られる固形残渣には、 カーボンブラックの他、灰分が含まれる。灰分は、ゴムやタイヤに含まれる不揮発成分に 由来する。このため、当該固形残渣から得られる再生カーボンブラックは、相対的にカーボンブラックの含有量が低くなる。一方で、再生カーボンブラックを用いて製造されるタイヤに要求される諸物性を考慮すると、再生カーボンブラックにおけるカーボン含有量は、高いほど好ましい。本実施形態で用いる再生カーボンブラックにおいて、カーボン含有量は、80質量%以上であることが好ましく、85質量%以上であることがより好ましく、87質量%以上であることがより好ましく、89質量%以上であることが更に好ましい。本実施形態で用いる再生カーボンブラックにおけるカーボン含有量は、97質量%以下であることが好ましい。なお、上記カーボン含有量は、吸着水分を含まない値である。
【0036】
灰分には、具体的に、酸化亜鉛、硫化亜鉛、シリカ、鉄化合物(酸化鉄)、酸化カルシウム、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム等が含まれる。廃棄物を熱分解して得られる固形残渣から製造される再生カーボンブラックの場合、灰分を除去する種々の工程を行っても、灰分が一定量残留する。本実施形態においては、再生カーボンブラックに灰分が含まれることを許容する。本実施形態で用いる再生カーボンブラックは、灰分量の下限値は0.5質量%であっても良い。一方、タイヤ等のゴム製品に要求される諸物性、再生カーボンブラックの品質等を考慮すると、再生カーボンブラックにおける灰分量は、20質量%以下であることが好ましく、15質量%以下であることがより好ましく、5.0質量%以下であることが更に好ましい。
ここで、本明細書において、カーボンブラックの灰分量は、カーボンブラックを550℃±25℃で燃焼させて灰化し、燃焼しない成分(灰分)の質量から算出する。
【0037】
また、再生カーボンブラックは、使用済み空気入りタイヤの熱分解プロセスから得ることができる。例えば、欧州特許出願公開第3427975号明細書では、「ゴム化学と技術」、Vol.85、No.3、408~449頁(2012)、特に、438、440、442頁に言及し、酸素を排除した550~800℃での有機材料の熱分解、または、比較的低い温度での真空熱分解により得られることが記載されている([0027])。このような熱分解プロセスから得られるカーボンブラックは、特許第6856781号の[0004]で言及されているように、通常、その表面に官能基を欠くものである(熱分解カーボンブラックと市販のカーボンブラックとの表面形態および化学の比較、PowderTechnology160(2005)190~193)。
【0038】
再生カーボンブラックは、その表面に官能基を欠くものであってもよく、又は、その表面に官能基を含むように処理されたものであってもよい。再生カーボンブラックの表面に官能基を含むようにする処理は、常法により実施することができる。例えば、欧州特許出願公開第3173251号明細書では、熱分解プロセスから得られたカーボンブラックを、酸性条件下で、過マンガン酸カリウムで処理することにより、その表面にヒドロキシル及び/又はカルボキシル基を含むカーボンブラックを得ている。また、特許第6856781号では、熱分解プロセスから得られたカーボンブラックを、少なくとも1つのチオール基又はジスルフィド基を含むアミノ酸化合物で処理して、その表面が活性化されたカーボンブラックを得ている。本実施形態にかかる再生カーボンブラックは、これらの表面に官能基を含むように処理されたカーボンブラックをも含むものである。
【0039】
また、使用済みタイヤ等の架橋ゴム製品(加硫ゴム製品)の熱分解としては、例えば、650℃以上の温度の熱分解法が挙げられる。
【0040】
本実施形態で用いる再生カーボンブラックは、窒素吸着比表面積N2SAが20~150m2/gであることが好ましく、また、DBP吸油量が50~150ml/100gであることが好ましい。なお、本実施形態における再生カーボンブラックとしては、市販品を用いることができ、かかる市販品としては、例えば、Enrestec社製の商品名「PB365」が挙げられる。PB365は、使用済みタイヤの熱分解を経て生成される再生カーボンブラックであり、N2SAが73.6m2/gである。また、PB365は、灰分を17質量%程度含んでいる
【0041】
前記再生カーボンブラックの窒素吸着比表面積(N2SA)は、特に限定されるものではなく、例えば、適用先のタイヤカテゴリー、タイヤ部材、目標性能等により、適宜調整することができる。例えば、再生カーボンブラックの窒素吸着比表面積(N2SA)は、20m2/g以上が好ましく、50m2/g以上がより好ましく、70m2/g以上がより好ましく、90m2/g以上が更に好ましく、また、200m2/g以下が好ましく、150m2/g以下がより好ましく、130m2/g以下が更に好ましい。
なお、本明細書において、再生カーボンブラックの窒素吸着比表面積(N2SA)は、JIS K 6217-2:2017(ISO 4652:2012)によって求められる。
【0042】
前記再生カーボンブラックの含有量(配合量)は、前記ゴム成分100質量部に対して1~100質量部であることが好ましく、5~80質量部であることが更に好ましく、5~70質量部であることが更に好ましい。再生カーボンブラックの含有量が、ゴム成分100質量部に対して5質量部以上であると、得られるゴム組成物を適用するゴム製品のサステナブル材料の比率を向上させる効果が大きく、また、70質量部以下であると、得られるゴム組成物の耐破壊性をより確実に維持できる。
【0043】
-再生カーボンブラック以外の充填剤-
本実施形態においては、充填剤として、上述した再生カーボンブラックに加えて、再生カーボンブラック以外の充填剤を更に用いてもよい。即ち、スラリー溶液は、充填剤として、上述した再生カーボンブラックに加えて、再生カーボンブラック以外の充填剤を更に含んでもよい。再生カーボンブラック以外の充填剤としては、ヴァージンカーボンブラック(再生カーボンブラック以外のカーボンブラック、未使用のカーボンブラックとも言う)、シリカ、炭酸カルシウム、タルク、アルミナ、クレー、水酸化アルミニウム、マイカ等が挙げられる。
【0044】
ヴァージンカーボンブラックとしては、植物由来のカーボンブラックが挙げられ、植物由来のカーボンブラックとしては、例えば、ヒマシ油、松脂油に由来するものが挙げられる。
【0045】
前記再生カーボンブラック以外のカーボンブラックの窒素吸着比表面積(N2SA)は、特に限定されるものではなく、例えば、適用先のタイヤカテゴリー、タイヤ部材、目標性能等により、適宜調整することができる。例えば、再生カーボンブラック以外のカーボンブラックの窒素吸着比表面積(N2SA)は、20m2/g以上が好ましく、50m2/g以上がより好ましく、70m2/g以上がより好ましく、90m2/g以上が更に好ましく、また、200m2/g以下が好ましく、150m2/g以下がより好ましく、130m2/g以下が更に好ましい。
【0046】
前記再生カーボンブラック以外のカーボンブラックは、ジブチルフタレート(DBP)吸油量が50~150mL/100gであることが好ましい。また、再生カーボンブラック以外のカーボンブラックは、ジブチルフタレート(DBP)吸油量が50~150mL/100gで、且つ窒素吸着比表面積(N2SA)が20~130m2/gであることが更に好ましくジブチルフタレート(DBP)吸油量が80~130mL/100gで、且つ窒素吸着比表面積(N2SA)が20~60m2/gであることが更に好ましい。
ジブチルフタレート(DBP)吸油量が80~130mL/100gで、且つ窒素吸着比表面積(N2SA)が20~60m2/gであるカーボンブラックを、前記再生カーボンブラックと組み合わせることにより、ゴム組成物の耐破壊性をより一層確実に維持できる。
【0047】
該シリカとしては、例えば、湿式シリカ(含水ケイ酸)、乾式シリカ(無水ケイ酸)、ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム等が挙げられ、これらの中でも、シラノール基が多い点で、湿式シリカが好ましい。これらシリカは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。前記シリカとしては、市販品を利用することができ、該シリカの市販品としては、東ソー・シリカ(株)、Evonik社、Solvay社、ソルベイジャパン(株)、(株)トクヤマ等の製品を使用できる。
【0048】
前記シリカとしては、環境負荷低減の観点から、ケイ酸植物由来のシリカが好ましい。該ケイ酸植物は、例えば、コケ類、シダ類、トクサ類、ウリ科、イラクサ科、イネ科の植物等に存在する。これら植物の中でも、イネ科植物が好ましい。また、該イネ科植物としては、イネ、笹、サトウキビ等が挙げられ、これらの中でも、イネが好ましい。該イネは、食用に広く栽培されているため、広い地域で現地調達可能であり、また、イネの籾殻は、産業廃棄物として多量に発生することから量を確保し易い。従って、入手容易性の観点から、シリカとしては、籾殻由来のシリカ(以下、「籾殻シリカ」とも呼ぶ。)が特に好ましい。該籾殻シリカを用いることで、産業廃棄物となる籾殻を有効活用でき、また、タイヤ製造工場の近隣で原料を現地調達できるため、輸送や保管のエネルギー及びコストを低減でき、種々の観点から、環境面で好ましい。前記籾殻シリカは、籾殻を加熱により炭化して得られる籾殻炭の粉末でもよいし、籾殻を燃料としてバイオマスボイラーで燃焼させた際に発生する籾殻灰をアルカリで抽出してケイ酸アルカリ水溶液を調製し、該ケイ酸アルカリ水溶液を用いて湿式法で製造した沈降シリカでもよい。前記籾殻炭の製法は、特に限定されず、公知の種々の方法を用いることができ、例えば、窯を用いて籾殻を蒸し焼きにすることで熱分解させて籾殻炭を得ることができる。このようにして得られる籾殻炭を公知の粉砕機(例えば、ボールミル)を用いて粉砕し、所定の粒径範囲に選別し分級することで、籾殻炭の粉末を得ることができる。また、前記籾殻由来の沈降シリカは、特開2019-38728号公報に記載の方法等で製造できる。
前記シリカとしては、更に、半導体の原材料となるシリコンウエハースの端材、ガラス瓶などからケイ素成分をリサイクルして製造に使用したシリカ、等も挙げられる。
【0049】
前記シリカは、窒素吸着比表面積(N2SA)が50m2/g以上であることが好ましく、100m2/g以上であることがより好ましく、150m2/g以上であることが更に好ましく、また、350m2/g以下であることが好ましく、250m2/g以下であることがより好ましく、230m2/g以下であることが更に好ましく、200m2/g以下であることがより一層好ましい。
なお、本明細書において、シリカの窒素吸着比表面積(N2SA)は、ASTM D3037-93に準じてBET法で測定される値である。
【0050】
前記シリカの配合量は、例えば、適用先のタイヤカテゴリー、タイヤ部材、目標性能等により、適宜調整することができる。例えば、シリカの配合量は、ゴムラテックス溶液由来のゴム成分100質量部に対して、5質量部以上が好ましく、10質量部以上がより好ましく、30質量部以上がより好ましく、50質量部以上がより好ましく、70質量部以上がより好ましく、80質量部以上が更に好ましく、100質量部以上がより一層好ましく、110質量部以上が特に好ましく、また、300質量部以下が好ましく、200質量部以下がより好ましく、180質量部以下が更に好ましく、150質量部以下が特に好ましい。
【0051】
なお、充填剤としてシリカを用いる場合には、該シリカの効果を向上させるために、シランカップリング剤を更に用いることが好ましい。即ち、充填剤としてシリカを用いる場合には、スラリー溶液は、シランカップリング剤を更に含むことが好ましい。該シランカップリング剤としては、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)トリスルフィド、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(2-トリエトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(3-トリメトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2-トリメトキシシリルエチル)テトラスルフィド、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、2-メルカプトエチルトリメトキシシラン、2-メルカプトエチルトリエトキシシラン、3-トリメトキシシリルプロピル-N,N-ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、3-トリエトキシシリルプロピル-N,N-ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、2-トリエトキシシリルエチル-N,N-ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、3-トリメトキシシリルプロピルベンゾチアゾリルテトラスルフィド、3-トリエトキシシリルプロピルベンゾチアゾリルテトラスルフィド、3-トリエトキシシリルプロピルメタクリレートモノスルフィド、3-トリメトキシシリルプロピルメタクリレートモノスルフィド、ビス(3-ジエトキシメチルシリルプロピル)テトラスルフィド、3-メルカプトプロピルジメトキシメチルシラン、ジメトキシメチルシリルプロピル-N,N-ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、ジメトキシメチルシリルプロピルベンゾチアゾリルテトラスルフィド等が挙げられる。前記シランカップリング剤としては、市販品を利用することができ、該シランカップリング剤の市販品としては、例えば、Evonik社、Momentive社、信越シリコーン(株)、東レ・ダウコーニング(株)、東京化成工業(株)、アヅマックス(株)等の製品を使用できる。これらシランカップリング剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0052】
(ゴムラテックス溶液)
本実施形態の製造方法で用いるゴムラテックス溶液は、ゴム成分を含有するラテックス溶液である。本実施形態で用いるゴムラテックス溶液は、作業性の向上の観点から、固形分濃度が10~30質量%になるように、適宜水等の分散媒によって濃度調整することが好ましい。
【0053】
該ゴム成分は、サステナブル率が30質量%以上であることが好ましく、40質量%以上であることがより好ましく、50質量%以上であることがより好ましく、60質量%以上であることがより好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることが更に好ましく、90質量%以上であることがより一層好ましく、100質量%であることが特に好ましい。
【0054】
前記ゴム成分としては、生物資源由来のゴム、及び再生資源由来のゴムが好ましい。
ここで、前記生物資源由来のゴムを構成するモノマー成分100mol%中の生物資源由来のモノマー成分の割合は、50mol%以上が好ましく、70mol%以上がより好ましく、80mol%以上が更に好ましく、90mol%以上がより一層好ましく、95mol%以上が特に好ましく、100mol%であってもよい。
また、前記再生資源由来のゴムを構成するモノマー成分100mol%中の再生資源由来のモノマー成分の割合は、50mol%以上が好ましく、70mol%以上がより好ましく、80mol%以上が更に好ましく、90mol%以上がより一層好ましく、95mol%以上が特に好ましく、100mol%であってもよい。
【0055】
前記ゴム成分は、架橋に寄与する成分であり、通常、重量平均分子量(Mw)が1万以上であり、好ましくは5万以上、より好ましくは15万以上、更に好ましくは20万以上であり、また、好ましくは500万以下、より好ましくは200万以下、より好ましくは150万以下、更に好ましくは130万以下である。
なお、本明細書において、ゴム成分の重量平均分子量(Mw)は、例えば、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)(東ソー(株)製GPC-8000シリーズ、検出器:示差屈折計、カラム:東ソー(株)製のTSKGEL SUPERMULTIPORE HZ-M)による測定値を基に標準ポリスチレン換算により求めることができる。
【0056】
前記ゴム成分としては、ジエン系ゴムが好ましく、また、該ジエン系ゴムとしては、イソプレン系ゴム、及びブタジエン系ゴムが好ましい。ここで、イソプレン系ゴムとは、モノマー単位としてイソプレン由来の単位を含むゴムを指し、また、ブタジエン系ゴムとは、モノマー単位としてブタジエン由来の単位を含むゴムを指す。
【0057】
前記イソプレン系ゴムとしては、天然ゴム(NR)、合成イソプレンゴム(IR)、改質天然ゴム(改質NR)、変性天然ゴム(変性NR)、変性合成イソプレンゴム(変性IR)等が挙げられる。天然ゴム(NR)としては、例えば、RSS#3、TSR20(例えば、SIR20やSTR20)等、タイヤ工業において一般的なものを使用できる。天然ゴム(NR)の起源は、特に限定されず、例えば、パラゴムノキ由来、グアユール由来、ロシアタンポポ由来のもの等が挙げられる。合成イソプレンゴム(IR)としては、特に限定されず、例えば、IR2200等、タイヤ工業において一般的なものを使用できる。改質NRとしては、脱タンパク質天然ゴム(DPNR)、高純度天然ゴム(UPNR)等が挙げられる。変性NRとしては、エポキシ化天然ゴム(ENR)、水素添加天然ゴム(HNR)、グラフト化天然ゴム等が挙げられる。変性IRとしては、エポキシ化合成イソプレンゴム、水素添加合成イソプレンゴム、グラフト化合成イソプレンゴム等が挙げられる。これらイソプレン系ゴムは、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、イソプレン系ゴムとしては、NRが好ましい。
【0058】
特に、上記天然ゴムとしては、例えば、フィールドラテックス、アンモニア処理ラテックス、遠心分離濃縮ラテックス、界面活性剤又は酵素で処理した脱タンパク質ラテックス等が挙げられる。
【0059】
前記イソプレン系ゴムは、サステナブル率が30質量%以上であることが好ましく、40質量%以上であることがより好ましく、50質量%以上であることがより好ましく、60質量%以上であることがより好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることが更に好ましく、90質量%以上であることがより一層好ましく、100質量%であることが特に好ましい。
前記イソプレン系ゴムのサステナブル率を前記範囲内とするためには、天然ゴム(NR)を使用したり、生物資源由来のイソプレンや再生資源由来のイソプレンをモノマー成分として合成されたポリマーを使用することが好ましい。この際、合成されたポリマーは、生物資源由来のモノマーの単独重合体であってもよいし、再生資源由来のモノマーの単独重合体であってもよいし、生物資源由来のモノマーと再生資源由来のモノマーとの共重合体であってもよいし、生物資源由来のモノマー及び/又は再生資源由来のモノマーと化石資源(石油等)由来のモノマーとの共重合体であってもよい。
【0060】
前記ブタジエン系ゴムとしては、ブタジエンゴム(BR)、芳香族ビニル化合物-ブタジエン共重合体ゴム(例えば、スチレン-ブタジエンゴム(SBR))等が挙げられる。ここで、ブタジエン系ゴムの原料となるブタジエンは、生物資源由来又は再生資源由来であることが好ましい。
【0061】
前記ブタジエンゴム(BR)としては、例えば、高シス含量のブタジエンゴム、低シス含量のブタジエンゴム、シンジオタクチックポリブタジエン結晶を含有するブタジエンゴム等が挙げられる。前記ブタジエンゴム(BR)としては、市販品を利用することができ、該ブタジエンゴムの市販品としては、UBEエラストマー(株)、株式会社ENEOSマテリアルズ、旭化成(株)、日本ゼオン(株)等の製品が挙げられる。これらブタジエンゴムは、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0062】
前記芳香族ビニル化合物-ブタジエン共重合体ゴム(例えば、SBR)としては、例えば、乳化重合芳香族ビニル化合物-ブタジエン共重合体ゴム(例えば、乳化重合スチレン-ブタジエンゴム(E-SBR))、溶液重合芳香族ビニル化合物-ブタジエン共重合体ゴム(例えば、溶液重合スチレン-ブタジエンゴム(S-SBR))等が挙げられる。前記芳香族ビニル化合物-ブタジエン共重合体ゴムにおいて、芳香族ビニル化合物(芳香族ビニルモノマー)としては、例えば、スチレン、ビニルナフタレン、ジビニルナフタレン等が挙げられる。これら芳香族ビニル化合物は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、スチレンが好ましく、生物資源由来のスチレン、及び再生資源由来のスチレンが特に好ましい。即ち、芳香族ビニル化合物-ブタジエン共重合体ゴムとしては、SBRが好ましい。なお、前記スチレンは、置換基を有していてもよい。前記芳香族ビニル化合物-ブタジエン共重合体ゴムとしては、市販品を利用することができ、該市販品としては、旭化成(株)、株式会社ENEOSマテリアルズ、日本ゼオン(株)、住友化学(株)等の製品が挙げられる。これら芳香族ビニル化合物-ブタジエン共重合体ゴムは、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0063】
前記ブタジエン系ゴムは、サステナブル率が30質量%以上であることが好ましく、40質量%以上であることがより好ましく、50質量%以上であることがより好ましく、60質量%以上であることがより好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることが更に好ましく、90質量%以上であることがより一層好ましく、100質量%であることが特に好ましい。
前記ブタジエン系ゴムのサステナブル率を前記範囲内とするためには、例えば、生物資源由来のブタジエン、再生資源由来のブタジエン、生物資源由来の芳香族ビニル化合物(例えば、生物資源由来のスチレン)、再生資源由来の芳香族ビニル化合物(例えば、再生資源由来のスチレン)をモノマー成分として合成されたポリマーを使用すればよい。この際、合成されたポリマーは、生物資源由来のモノマーの単独重合体であってもよいし、再生資源由来のモノマーの単独重合体であってもよいし、生物資源由来のモノマーと再生資源由来のモノマーとの共重合体であってもよいし、生物資源由来のモノマー及び/又は再生資源由来のモノマーと化石資源(石油等)由来のモノマーとの共重合体であってもよい。なお、生物資源(バイオマス資源)由来のブタジエンゴム(B-BR)、生物資源由来の芳香族ビニル化合物-ブタジエン共重合体ゴム(例えば、生物資源(バイオマス資源)由来のスチレン-ブタジエンゴム(B-SBR))には、ブタジエン等を従来法に従って重合して得たゴムだけではなく、微生物、植物、動物、及びこれらの組織培養体(以下、「微生物等」とも呼ぶ。)による反応や酵素反応により得られたゴムも包含される。
【0064】
また、前記ゴム成分全体のサステナブル率を前記範囲内とするためには、ゴム成分として、上述の通り天然ゴム(NR)を使用したり、生物資源由来のモノマー成分や再生資源由来のモノマー成分をモノマー成分として合成されたポリマーを使用することが好ましい。
【0065】
一般に、タイヤ用ゴム組成物の素材(ゴム及びそのモノマー、充填剤、樹脂等)は、その製造に大規模な製造装置を要するため、通常、特定地域の大工場で生産され、原料及び製品の保管、輸送に多くのエネルギーを要する。これに対して、生物資源(バイオマス資源)由来の素材は、各地域の農産物、森林等に由来し、また、微生物の発酵、触媒反応により小規模でも製造できるため、各地域の生産物や廃棄物を活用することで、原料の輸送及び保管に要するエネルギーを削減でき、更には製造した素材のタイヤ工場への輸送及び保管に要するエネルギーも削減でき、環境に優しい。また、再生資源(リサイクル資源)由来の素材は、例えば、使用済タイヤを解体、熱分解して、ゴム、充填剤、スチールコード等、タイヤを構成する材料を取り出すことで入手できる。その他にも、生物資源又は生物資源の処理物を脱硫して、当該生物資源又は生物資源の処理物から硫黄含有物質を取り除く脱硫工程と、該脱硫工程で発生した脱硫処理残渣から硫黄を回収する回収工程と、回収した硫黄を加硫用硫黄に加工する加工工程と、を含む方法(例えば、特願2022-140390に記載の方法)等により、生物資源又は生物資源の処理物から硫黄を得ることができ、各種廃棄物や使用済み物品からタイヤ用ゴム組成物の素材を入手することができる。このように、サステナブル材料(生物資源由来の素材や、再生資源由来の素材)を用いることで、ライフサイクル全体における二酸化炭素排出量(LCCO2)の削減、ライフサイクル全体におけるエネルギー消費量(LCE)の削減、ライフサイクル全体で発生するコスト(LCC)の削減、化石資源の使用量削減等、タイヤ製造において総合的に環境負荷を低減できる。
【0066】
また、ウェットマスターバッチ(又はゴム組成物)を製造する際の、生物資源、再生資源、化石資源(例えば、化石資源由来のモノマー成分)の供給状況及び/又は市場の要求(例えば、生物資源の食料としての需要)に応じて、生物資源由来のモノマー成分、再生資源由来のモノマー成分、及び化石資源由来のモノマー成分の比率を適宜選択して、生物資源由来のモノマー成分、再生資源由来のモノマー成分、及び化石資源由来のモノマー成分を重合することにより、従来の合成ゴムを用いた場合と同等の性能を有するサステナブル材料(生物資源由来の素材や、再生資源由来の素材)由来のゴムを得ることができる。なお、再生資源由来のモノマー成分を用いる場合は、該モノマーの製造工程上の理由から、化石資源由来のモノマー成分と分けることが困難な場合もある。その場合は、マスバランスの考え方を採用することで、環境に対する影響を評価することができる。
【0067】
前記ゴム成分全体中の各モノマー単位(例えば、イソプレンに由来する単位、ブタジエンに由来する単位、芳香族ビニル化合物に由来する単位)の比率は、適用先の部材等に応じて、適宜調整することができる。該ゴム成分全体中の各モノマー単位の比率は、例えば、上述のイソプレン系ゴム、ブタジエン系ゴムを適宜組み合わせることで調整できる。また、ブタジエンに由来する単位中のシス結合単位の比率についても、適用先の部材等に応じて適宜調整することができる。
なお、本明細書において、「モノマー単位」とは、ポリマーの構成単位を意味し、「イソプレンに由来する単位」とは、モノマーであるイソプレンに基づいて構成されるポリマー中の構成単位(天然ゴム中のイソプレン単位も含む)を意味し、「ブタジエンに由来する単位」とは、モノマーであるブタジエンに基づいて構成されるポリマー中の構成単位を意味し、芳香族ビニル化合物に由来する単位とは、モノマーである芳香族ビニル化合物に基づいて構成されるポリマー中の構成単位を意味する。
また、本明細書において、各モノマー単位の比率は、NMRにより測定される。
【0068】
前記ゴム成分は、上述のイソプレン系ゴム、ブタジエンゴム(BR)、芳香族ビニル化合物-ブタジエン共重合体ゴム(例えば、SBR)の他にも、アクリロニトリル-ブタジエンゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、ブチルゴム(IIR)、スチレン-イソプレン-ブタジエン共重合体ゴム(SIBR)等のジエン系ゴムを含んでもよい。これらゴム成分は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0069】
前記ゴム成分には、変性により、カーボンブラック、シリカ等の充填剤と相互作用する官能基が導入されていてもよい。該官能基としては、アミノ基、アミド基、イソシアネート基、イミノ基、イミダゾール基、ウレア基、アンモニウム基、イミド基、ヒドラゾ基、アゾ基、ジアゾ基、カルボキシル基、ニトリル基、ピリジル基、アルコキシ基、水酸基、オキシ基、エポキシ基、エーテル基、カルボニル基、オキシカルボニル基、シリル基、アルコキシシリル基、メルカプト基、スルフィド基、ジスルフィド基、スルホニル基、スルフィニル基、チオカルボニル基等が挙げられ、また、これら官能基は、置換基を有していてもよい。これら官能基は、1種単独でゴム成分に導入してもよいし、2種以上を組み合わせてゴム成分に導入してもよい。これらの中でも、アミノ基、アルコキシ基、及びアルコキシシリル基が好ましく、アミノ基の水素原子が炭素数1~6のアルキル基で置換された置換アミノ基、炭素数1~6のアルコキシ基、及び炭素数1~6のアルコキシシリル基が更に好ましい。
【0070】
前記官能基は、例えば、該官能基を有する化合物(変性剤)を前記ゴム成分と反応させることで導入できる。該官能基は、シリカやカーボンブラックといった充填剤に対して相互作用性を有する変性官能基であり、例えば、含窒素官能基、含ケイ素官能基、含酸素官能基等が挙げられる。含窒素官能基を有する化合物(変性剤)としては、アミノ基含有化合物等が挙げられ、含ケイ素官能基を有する化合物(変性剤)としては、ハロゲン化ケイ素、ヒドロカルビルオキシシラン化合物等が挙げられ、含酸素官能基を有する化合物(変性剤)としては、アルコキシ基含有化合物、アルキレンオキシド基含有化合物、トリアルキルシリロキシ基含有化合物等が挙げられる。より具体的には、国際公開第2016/194316号、国際公開第2019/117256号に記載の化合物等が挙げられる。これら変性剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0071】
前記サステナブル材料(生物資源由来の素材や、再生資源由来の素材)由来のゴムは、例えば、生物資源由来のモノマー成分や、再生資源由来のモノマー成分を用い、必要に応じて、化石資源由来のモノマー成分を用いて、従来の化石資源由来の合成ゴムの製造方法と同様にして製造することができる。また、前記サステナブル材料由来のゴム(特には、生物資源由来のゴム)は、微生物等による反応や酵素反応により得ることもできる。
【0072】
上述の生物資源から生物資源由来ゴムを調製する方法については、例えば、特開2022-179158号公報に記載の方法を用いることができる。例えば、モノマー成分として生物資源から得られたブタジエンを用いることで、生物資源(バイオマス資源)由来のブタジエンゴム(B-BR)を得ることができ、また、モノマー成分として生物資源から得られたスチレンと、生物資源から得られたブタジエンを用いることで、生物資源(バイオマス資源)由来のスチレン-ブタジエンゴム(B-SBR))を得ることができる。ここで、生物資源からB-BR、B-SBRを得る方法としては、人工的に重合する方法の他、生体内で重合する方法、生物由来酵素で重合する方法等が挙げられる。得られるB-BR、B-SBRの分子量、分岐、ミクロ構造等は、目的のタイヤ性能に応じて、公知の方法に従って重合条件を変更することにより適宜調整することができる。
【0073】
前記生物資源から得られたブタジエンとしては、アルキルアルコール類(好ましくはエタノール、及びブタノール、より好ましくはブタノール)由来のブタジエン、アルケン類(好ましくはエチレン)由来のブタジエン、不飽和カルボン酸類(好ましくはチグリン酸)由来のブタジエンを好適に使用できる。また、これらのブタジエンを2種以上組み合わせて用いてもよい。
また、前記生物資源から得られたスチレンとしては、植物(好ましくはマンサク科、エゴノキ科、キョウチクトウ科に属する植物、より好ましくはフウ属、エゴノキ属、ニチニチソウ属に属する植物、更に好ましくはモミジバフウ、エゴノキ、ニチニチソウ)により得られたスチレン、微生物(好ましくはペニシリウム属、エシェリキア属に属する微生物、より好ましくはP.citrinum、形質転換されたE.coli)により得られたスチレンを好適に使用できる。また、これらのスチレンを2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0074】
昨今、バイオエタノール、バイオエチレン等を中心としたバイオマスコンビナートが計画されているが、バイオエタノール及びバイオエチレンは、生物資源として、主に糖類及び/又はセルロース類を用いて製造され、タンパク質、脂質、アミノ酸等の他の生物資源を有効に活用できない。更に、糖類は、食料と競合し、セルロース類の過度の利用は、森林伐採に繋がる。そのため、種々の生物資源の供給状況の他、再生資源の供給状況、化石資源の供給状況、及び市場の要求(例えば、バイオマス資源の食料としての需要)に応じて、前記生物資源由来のモノマー成分として、生物資源由来のモノマー成分を複数種使用したり、生物資源由来のモノマー成分と再生資源由来のモノマー成分と化石資源由来のモノマー成分とを併用し、更にこれらのモノマー成分の比率を適宜調整して使用することが好ましい。これにより、1種類の生物資源に頼ることなく、糖、タンパク質、脂質等、幅広い生物資源や、再生資源を有効に活用でき、また、サステナブル材料由来のゴムを安定的に供給でき、更には、製造時の状況に応じて環境に配慮することもできる。
なお、生物資源由来のモノマー成分を複数種類使用する場合には、異なる生物資源に由来するモノマー成分、即ち、異なる生物資源から得られたモノマー成分を使用することが好ましい。具体的には、生物資源由来のブタジエンとして、由来が異なる複数種類の生物資源由来のブタジエンの混合物を使用すること、及び/又は、生物資源由来のスチレンとして、由来が異なる複数種類の生物資源由来のスチレンの混合物を使用することが好ましい。これにより、複数種類の生物資源を有効活用できる。
【0075】
(その他の材料)
本実施形態の製造方法においては、上述したものの他、必要に応じて、その他の成分を、スラリー溶液又はゴムラテックス溶液に配合してもよい。その他の成分としては、ゴム組成物が含有し得る成分として後述するもの、が挙げられる。
【0076】
<ゴム組成物>
本発明の一実施形態のゴム組成物(以下、「本実施形態のゴム組成物」と称することがある)は、上述したウェットマスターバッチの製造方法で得られるウェットマスターバッチを用いたことを特徴とする。かかる本実施形態のゴム組成物は、上述したウェットマスターバッチを用いているので、再生カーボンブラックを含む充填剤の分散性に優れる上、サステナビリティの向上に寄与し得る。
【0077】
以下、本実施形態のゴム組成物が更に含有し得る各種成分について説明する。
【0078】
(樹脂)
本実施形態のゴム組成物は、樹脂を含有してもよい。該樹脂としては、テルペン系樹脂、ロジン系樹脂、C5系樹脂、C5-C9系樹脂、C9系樹脂、シクロペンタジエン系樹脂、芳香族系樹脂、クマロン樹脂、インデン樹脂、クマロン-インデン系樹脂、オレフィン系樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂等が挙げられる。これら樹脂は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これら樹脂の中でも、テルペン系樹脂、ロジン系樹脂、C5系樹脂、C5-C9系樹脂、C9系樹脂、シクロペンタジエン系樹脂及び芳香族系樹脂が好ましく、テルペン系樹脂及びロジン系樹脂が特に好ましい。テルペン系樹脂及びロジン系樹脂は、天然由来のサステナブルな樹脂であるため、環境負荷をより低減できると共に、乾燥路面、湿潤路面、積雪路面、凍結路面等の各種路面状態でのグリップ性能等、タイヤ性能を更に向上させることができる。また、C5系樹脂、C9系樹脂、C5-C9系樹脂、シクロペンタジエン系樹脂は、耐摩耗性及び低燃費性をバランス良く向上させることができる。また、芳香族系樹脂は、グリップ性能、耐摩耗性及びゴム強度をバランス良く向上させることができる。
【0079】
前記樹脂は、水素添加されていてもよく、即ち、水素添加樹脂(水添樹脂)であってもよい。また、前記樹脂には、変性により、カーボンブラック、シリカ等の充填剤と相互作用する官能基が導入されていてもよい。該官能基としては、アミノ基、アミド基、イソシアネート基、イミノ基、イミダゾール基、ウレア基、アンモニウム基、イミド基、ヒドラゾ基、アゾ基、ジアゾ基、カルボキシル基、ニトリル基、ピリジル基、アルコキシ基、水酸基、オキシ基、エポキシ基、エーテル基、カルボニル基、オキシカルボニル基、シリル基、アルコキシシリル基、メルカプト基、スルフィド基、ジスルフィド基、スルホニル基、スルフィニル基、チオカルボニル基等が挙げられる。
【0080】
前記テルペン系樹脂は、松属の木からロジンを得る際に同時に得られるテレビン油、或いはこれから分離した重合成分を配合し、フリーデルクラフツ型触媒を用いて重合して得られる固体状の樹脂であり、β-ピネン樹脂、α-ピネン樹脂等がある。また、テルペン系樹脂には、テルペン-芳香族化合物系樹脂も包含され、該テルペン-芳香族化合物系樹脂としては、代表例としてテルペン-フェノール樹脂、スチレン-テルペン樹脂等が挙げられる。該テルペン-フェノール樹脂は、テルペン類と種々のフェノール類とを、フリーデルクラフツ型触媒を用いて反応させたり、或いは更にホルマリンで縮合する方法で得ることができる。また、前記スチレン-テルペン樹脂は、スチレンとテルペン類とを、フリーデルクラフツ型触媒を用いて反応させることで得ることができる。原料のテルペン類としては、特に制限はなく、α-ピネンやリモネン等のモノテルペン炭化水素が好ましく、α-ピネンを含むものがより好ましく、α-ピネンが特に好ましい。
【0081】
前記ロジン系樹脂としては、天然樹脂ロジンとして、生松ヤニやトール油に含まれるガムロジン、トール油ロジン、ウッドロジン等があり、また、変性ロジン、ロジン誘導体、変性ロジン誘導体として、例えば、重合ロジン、その部分水添ロジン;グリセリンエステルロジン、その部分水添ロジンや完全水添ロジン;ペンタエリスリトールエステルロジン、その部分水添ロジンや重合ロジン;等が挙げられる。
【0082】
前記C5系樹脂としては、石油化学工業のナフサの熱分解によって得られるC5留分を(共)重合して得られる脂肪族系石油樹脂が挙げられる。C5留分には、通常1-ペンテン、2-ペンテン、2-メチル-1-ブテン、2-メチル-2-ブテン、3-メチル-1-ブテン等のオレフィン系炭化水素、2-メチル-1,3-ブタジエン、1,2-ペンタジエン、1,3-ペンタジエン、3-メチル-1,2-ブタジエン等のジオレフィン系炭化水素等が含まれる。
【0083】
前記C5-C9系樹脂とは、C5-C9系合成石油樹脂を指し、C5-C9系樹脂としては、例えば、石油由来のC5-C11留分を、AlCl3、BF3等のフリーデルクラフツ触媒を用いて重合して得られる固体重合体が挙げられ、より具体的には、スチレン、ビニルトルエン、α-メチルスチレン、インデン等を主成分とする共重合体等が挙げられる。C5-C9系樹脂としては、C9以上の成分の少ない樹脂が、ゴム成分との相溶性の観点から好ましい。ここで、「C9以上の成分が少ない」とは、樹脂全量中のC9以上の成分が50質量%未満、好ましくは40質量%以下であることを言うものとする。
【0084】
前記C9系樹脂とは、C9系合成石油樹脂を指し、例えばAlCl3やBF3等のフリーデルクラフツ型触媒を用い、C9留分を重合して得られる固体重合体を指す。C9系樹脂としては、例えば、インデン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン等を主成分とする共重合体等が挙げられる。
【0085】
前記シクロペンタジエン系樹脂は、モノマー単位としてシクロペンタジエン系モノマー由来の単位を含む樹脂を指す。該シクロペンタジエン系樹脂としては、シクロペンタジエン系モノマーの単独重合体、2種以上のシクロペンタジエン系モノマーの共重合体、シクロペンタジエン系モノマーと他のモノマーとの共重合体等が挙げられる。ここで、シクロペンタジエン系モノマーとしては、シクロペンタジエン、ジシクロペンタジエン、トリシクロペンタジエン等が挙げられ、これらの中でも、ジシクロペンタジエンが好ましく、即ち、前記シクロペンタジエン系樹脂としては、ジシクロペンタジエン系樹脂が好ましい。該ジシクロペンタジエン系樹脂は、例えば、AlCl3やBF3等のフリーデルクラフツ型触媒等を用い、ジシクロペンタジエンを重合して得られる樹脂を指す。ジシクロペンタジエン系樹脂としては、ジシクロペンタジエンの単独重合体、ジシクロペンタジエンと芳香族系モノマーとの共重合体、ジシクロペンタジエンとC9留分(ビニルトルエン、インデン等)との共重合体等が挙げられる。
【0086】
前記芳香族系樹脂は、モノマー単位として芳香族系モノマー由来の単位を含む樹脂を指す。該芳香族系樹脂としては、芳香族系モノマーの単独重合体、2種以上の芳香族系モノマーの共重合体、芳香族系モノマーと他のモノマーとの共重合体等が挙げられる。ここで、芳香族系モノマーとしては、スチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、α-メチルスチレン、p-メトキシスチレン、p-tert-ブチルスチレン、o-クロロスチレン、m-クロロスチレン、p-クロロスチレン、p-フェニルスチレン等のスチレン系モノマー;フェノール、アルキルフェノール、アルコキシフェノール等のフェノール系モノマー;ナフトール、アルキルナフトール、アルコキシナフトール等のナフトール系モノマー;等が挙げられる。
【0087】
前記樹脂は、軟化点が30℃以上であることが好ましく、60℃以上であることがより好ましく、80℃以上であることがより好ましく、110℃より高いことがより好ましく、116℃以上であることがより好ましく、120℃以上であることがより好ましく、123℃以上であることがより好ましく、127℃以上であることが更に好ましい。また、前記樹脂は、加工性の観点から、軟化点が160℃以下であることが好ましく、150℃以下であることがより好ましく、145℃以下であることがより好ましく、141℃以下であることがより好ましく、136℃以下であることが更に好ましい。
なお、本明細書において、樹脂の軟化点は、JIS K 6220-1:2015(ISO 28641:2010)に規定される軟化点を環球式軟化点測定装置で測定し、球が降下した温度である。
【0088】
前記樹脂としては、市販品を利用することができ、該樹脂の市販品としては、例えば、ENEOS(株)、荒川化学工業(株)、エクソンモービル社、クレイトン社、ヤスハラケミカル(株)、丸善石油化学(株)、住友ベークライト(株)、東ソー(株)、Rutgers Chemicals社、BASF社、クレイトンポリマー社、日塗化学(株)、(株)日本触媒、田岡化学工業(株)等の製品を使用できる。
【0089】
前記樹脂の含有量は、特に限定されるものではなく、例えば、適用先のタイヤカテゴリー、タイヤ部材、目標性能等により、適宜調整することができる。例えば、樹脂の含有量は、前記ゴム成分100質量部に対して、5~100質量部の範囲が好ましく、10~60質量部の範囲が更に好ましい。
【0090】
(ゴム粉)
本実施形態のゴム組成物は、ゴム粉を含有してもよい。該ゴム粉は、使用済タイヤ等の使用済ゴム製品を粉砕し、所望により、鋼材類、繊維類等の補強材、ダスト類、ガラス類、砂、石等を取り除き、又はゴム粉を製造するために新たに加硫済ゴム組成物を準備し、粉砕することで得てもよい。例えば、「Rubber Chemistry And Technology」に記載の方法により、加硫ゴムからゴム粉を得ることができる。加硫ゴムを粉砕してゴム粉を得る工程においては、機械的処理や低温処理を利用してもよい。例えば、機械的処理では、加硫ゴムを微粒子に機械的に粉砕するために、クラッカーミル、グラニュレータ等の種々の破砕機器を使用できる。また、低温処理では、細かく刻まれた加硫ゴムを極低温で凍結させ、続いて、微粒子に粉砕する。また、鋼材類の除去には、磁選機等を用いることができ、繊維類の除去には、空気選別機等を用いることができる。前記ゴム粉としては、市販品を利用することもでき、該ゴム粉の市販品としては、Global Corporation又はNantong Huili Rubber Corporation等の製品が挙げられる。環境負荷低減の観点から、使用済タイヤ等の使用済ゴム製品を粉砕することで得られるゴム粉を用いることが好ましい。前記ゴム粉は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0091】
前記ゴム粉の組成は、特に限定されず、原料となる使用済ゴム製品(使用済タイヤ)等の加硫ゴムの組成による。一実施形態において、ゴム粉は、ゴム成分、カーボンブラック、シリカ等を含む。ゴム粉に含まれるゴム成分、カーボンブラック、シリカ等は、上述した本実施形態のゴム組成物に含まれるゴム成分、カーボンブラック、シリカ等と同様であってもよいし、異なってもよい。
【0092】
前記ゴム粉は、体積平均粒子径が1000μm以下であることが好ましく、500μm以下であることがより好ましく、200μm以下であることが更に好ましく、100μm以下であることがより一層好ましい。また、ゴム粉の体積平均粒子径は、小さい程好ましく、下限は特に限定されない。
なお、本明細書において、体積平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定装置で測定され、例えば、堀場製作所(株)製「CAPA500」を用いて測定できる。
【0093】
前記ゴム粉は、60メッシュ篩残分が1質量%未満であることが好ましく、0.5質量%以下であることがより好ましく、0.1質量%以下であることが更に好ましく、下限は特に限定されない。また、前記ゴム粉は、80メッシュ篩残分が10質量%未満であることが好ましく、1質量%以下であることがより好ましく、0.5質量%以下であることが更に好ましく、下限は特に限定されない。
なお、本明細書において、篩残分は、ASTM D5644-01に従って測定される。
【0094】
前記ゴム粉は、アセトン抽出分が12質量%以下であることが好ましく、11質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることが更に好ましく、また、1質量%以上であることが好ましく、2質量%以上であることがより好ましく、3質量%以上であることが更に好ましい。
なお、本明細書において、ゴム粉中のアセトン抽出分とは、JIS K6350に準拠するアセトン抽出法により求められるアセトン抽出分(%)をいう。
【0095】
前記ゴム粉の含有量は、特に限定されるものではなく、例えば、適用先のタイヤカテゴリー、タイヤ部材、目標性能等により、適宜調整することができる。例えば、ゴム粉の含有量は、前記ゴム成分100質量部に対して、1質量部以上が好ましく、2質量部以上がより好ましく、3質量部以上がより一層好ましく、また、200質量部以下が好ましく、150質量部以下がより好ましく、100質量部以下がより好ましく、50質量部以下がより好ましく、30質量部以下がより好ましく、15質量部以下が更に好ましく、10質量部以下がより一層好ましく、5質量部以下が特に好ましい。
【0096】
(液状軟化剤)
本実施形態のゴム組成物は、液状軟化剤を含有してもよい。ここで、「液状軟化剤」とは、25℃(室温)で液状であり、ゴム組成物を軟化させる作用を有する配合剤である。該液状軟化剤としては、特に限定されず、オイル、液状ポリマー等が挙げられ、これらの中でも、オイルが好ましい。これら液状軟化剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0097】
前記オイルとは、ゴム成分に含まれる伸展油、及び、ゴム組成物の配合剤として添加する液状の油分の総称であり、例えば、植物油、プロセスオイル、植物油やプロセスオイルのリサイクルにより得られたオイル、又はその混合物等が挙げられる。環境負荷低減の観点から、オイルとしては、植物油、リサイクルにより得られたオイルが好ましい。前記植物油としては、パーム油、ヒマシ油、綿実油、大豆油、アマニ油、菜種油、ヤシ油、落花生油、パインオイル、パインタール、トール油、コーン油、コメ油、紅花油、ゴマ油、オリーブ油、向日葵油、パーム核油、椿油、ホホバ油、マカデミアナッツ油、桐油、ココナッツ油等が挙げられる。また、前記プロセスオイルとしては、例えば、パラフィン系プロセスオイル、アロマ系プロセスオイル、ナフテン系プロセスオイル等が挙げられる。前記オイルとしては、市販品を利用することができ、該オイルの市販品としては、出光興産(株)、三共油化工業(株)、ENEOS(株)、オリソイ社、H&R社、豊国製油(株)、日清オイリオグループ(株)等の製品を使用できる。これらオイルは、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0098】
前記液状ポリマーとしては、液状ジエン系ポリマーが好ましい。該液状ジエン系ポリマーとしては、液状スチレン-ブタジエン共重合体(液状SBR)、液状ポリブタジエン(液状BR)、液状ポリイソプレン(液状IR)、液状スチレン-イソプレン共重合体(液状SIR)、液状スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(液状SBSブロックポリマー)、液状スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体(液状SISブロックポリマー)、液状ポリファルネセン、液状ファルネセン-ブタジエン共重合体等が挙げられる。これら液状ポリマーは、水素添加されていてもよいし、末端や主鎖が官能基(極性基)で変性されていてもよい。これら液状ポリマーは、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0099】
前記液状軟化剤の含有量は、特に限定されるものではなく、例えば、適用先のタイヤカテゴリー、タイヤ部材、目標性能等により、適宜調整することができる。例えば、液状軟化剤の含有量は、前記ゴム成分100質量部に対して、5質量部以上が好ましく、10質量部以上が更に好ましく、また、100質量部以下が好ましく、70質量部以下がより好ましく、50質量部以下が更に好ましく、30質量部以下がより一層好ましい。
【0100】
(老化防止剤)
本実施形態のゴム組成物は、老化防止剤を含有してもよい。該老化防止剤としては、N-(1,3-ジメチルブチル)-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン(6PPD)、N,N’-ビス(1,4-ジメチルペンチル)-p-フェニレンジアミン(77PD)、N,N’-ジフェニル-p-フェニレンジアミン(DPPD)、N,N’-ビス(1-エチル-3-メチルペンチル)-p-フェニレンジアミン、2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン重合体(TMDQ)、6-エトキシ-2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン(AW)、6-アニリノ-2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン等が挙げられる。前記老化防止剤としては、市販品を利用することができ、該老化防止剤の市販品としては、大内新興化学工業(株)、住友化学(株)、精工化学(株)、フレクシス社等の製品を使用できる。これら老化防止剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0101】
前記老化防止剤の含有量は、特に限定されるものではなく、例えば、適用先のタイヤカテゴリー、タイヤ部材、目標性能等により、適宜調整することができる。例えば、老化防止剤の含有量は、前記ゴム成分100質量部に対して、1質量部以上が好ましく、1.5質量部以上がより好ましく、2質量部以上が更に好ましく、また、12質量部以下が好ましく、10質量部以下がより好ましく、8質量部以下が更に好ましい。
【0102】
(ワックス)
本実施形態のゴム組成物は、ワックスを含有してもよい。該ワックスとしては、例えば、植物系ワックス、動物系ワックス等の天然系ワックス;パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス等の石油系ワックス;エチレンの重合物、プロピレンの重合物等の合成ワックス;等が挙げられる。前記ワックスとしては、市販品を利用でき、該ワックスの市販品としては、精工化学(株)、日本精蝋(株)、大内新興化学工業(株)等の製品を使用できる。これらワックスは、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0103】
前記ワックスの含有量は、特に限定されるものではなく、例えば、適用先のタイヤカテゴリー、タイヤ部材、目標性能等により、適宜調整することができる。例えば、ワックスの含有量は、前記ゴム成分100質量部に対して、0.5質量部以上が好ましく、1質量部以上がより好ましく、また、10質量部以下が好ましく、6質量部以下がより好ましい。
【0104】
(ステアリン酸)
本実施形態のゴム組成物は、ステアリン酸を含有してもよい。該ステアリン酸としては、市販品を利用でき、該ステアリン酸の市販品としては、日油(株)、花王(株)、富士フイルム和光純薬(株)、千葉脂肪酸(株)等の製品を使用できる。これらステアリン酸の市販品は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0105】
前記ステアリン酸の含有量は、特に限定されるものではなく、例えば、適用先のタイヤカテゴリー、タイヤ部材、目標性能等により、適宜調整することができる。例えば、ステアリン酸の含有量は、前記ゴム成分100質量部に対して、1質量部以上が好ましく、2質量部以上がより好ましく、また、10質量部以下が好ましく、6質量部以下がより好ましい。
【0106】
(酸化亜鉛)
本実施形態のゴム組成物は、酸化亜鉛(亜鉛華)を含有してもよい。該酸化亜鉛としては、リサイクルにより得られた酸化亜鉛が好ましい。該酸化亜鉛としては、市販品を利用でき、該酸化亜鉛の市販品としては、ハクスイテック(株)、正同化学工業(株)、堺化学工業(株)、三井金属鉱業(株)、東邦亜鉛(株)等の製品を使用できる。これら酸化亜鉛の市販品は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なお、酸化亜鉛に用いられる亜鉛としては、亜鉛地金だけでなく,再生亜鉛や亜鉛ドロスにより得られた亜鉛であってもよい。
【0107】
前記酸化亜鉛の含有量は、特に限定されるものではなく、例えば、適用先のタイヤカテゴリー、タイヤ部材、目標性能等により、適宜調整することができる。例えば、酸化亜鉛の含有量は、前記ゴム成分100質量部に対して、1質量部以上が好ましく、2質量部以上がより好ましく、また、10質量部以下が好ましく、6質量部以下がより好ましい。
【0108】
(硫黄)
本実施形態のゴム組成物は、硫黄を含有することが好ましい。該硫黄としては、化石資源由来のもの、再生資源由来のもの、生物資源由来材料の処理によるもの等を用いることができ、環境負荷低減の観点から、生物資源に由来する廃棄物から得られる硫黄を用いることが特に好ましい。生物資源に由来する廃棄物から硫黄を得る方法としては、例えば、上述の特願2022-140390に記載の方法等が挙げられる。また、前記硫黄としては、ゴム工業において一般的に架橋剤として用いられる粉末硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄、可溶性硫黄等を用いてもよい。前記硫黄としては、市販品を利用でき、該硫黄の市販品としては、鶴見化学工業(株)、細井化学工業(株)、軽井沢硫黄(株)、四国化成工業(株)、フレクシス社等の製品を使用できる。これら硫黄は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0109】
前記硫黄の含有量は、特に限定されるものではなく、例えば、適用先のタイヤカテゴリー、タイヤ部材、目標性能等により、適宜調整することができる。例えば、硫黄の含有量は、前記ゴム成分100質量部に対して、0.3質量部以上が好ましく、0.5質量部以上がより好ましく、0.8質量部以上が更に好ましく、また、8質量部以下が好ましく、5質量部以下がより好ましい。
【0110】
(加硫促進剤)
本実施形態のゴム組成物は、加硫促進剤を含有することが好ましい。該加硫促進剤は、化石資源由来、再生資源由来、生物資源由来を問わず使用可能であるが、環境負荷低減の観点から、生物資源由来であることが好ましい。生物資源由来の加硫促進剤については、例えば、特開2005-139239号公報等に開示される方法にて得ることができる。
前記加硫促進剤としては、N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(CBS)、N,N-ジシクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N-tert-ブチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(TBBS)、N-オキシエチレン-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミド、N,N’-ジイソプロピル-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミド等のスルフェンアミド系加硫促進剤;1,3-ジフェニルグアニジン(DPG)、1,3-ジ-o-トリルグアニジン、o-トリルビグアニジン等のグアニジン系加硫促進剤;2-メルカプトベンゾチアゾール(M)、ジ-2-ベンゾチアゾリルジスルフィド(MBTS、DM)等のチアゾール系加硫促進剤;テトラメチルチウラムジスルフィド(TMTD)、テトラステアリルチウラムジスルフィド、テトラベンジルチウラムジスルフィド(TBzTD)、テトラキス(2-エチルヘキシル)チウラムジスルフィド(TOT-N)等のチウラム系加硫促進剤等が挙げられる。前記加硫促進剤としては、市販品を利用でき、該加硫促進剤の市販品としては、大内新興化学工業(株)、住友化学(株)等の製品を使用できる。これら加硫促進剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0111】
前記加硫促進剤の含有量は、特に限定されるものではなく、例えば、適用先のタイヤカテゴリー、タイヤ部材、目標性能等により、適宜調整することができる。例えば、加硫促進剤の含有量は、前記ゴム成分100質量部に対して、1質量部以上が好ましく、2質量部以上がより好ましく、3質量部以上が更に好ましく、また、8質量部以下が好ましく、6質量部以下がより好ましく、5.5質量部以下が更に好ましい。
【0112】
(セルロースナノファイバー)
本実施形態のゴム組成物は、セルロースナノファイバー(CNF)を含有してもよい。セルロースナノファイバーは、ゴム組成物に配合することにより、ゴム組成物を補強できる。該セルロースナノファイバーとしては、変性セルロースナノファイバーが好ましく、該変性セルロースナノファイバーは、変性セルロースを原料とする微細繊維である。セルロースナノファイバーの繊維径は、特に限定されないが、3~500nm程度である。セルロースナノファイバーの平均繊維径及び平均繊維長は、走査型電子顕微鏡(SEM)、原子間力顕微鏡(AFM)、又は透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて、各繊維を観察した結果から得られる繊維径及び繊維長を平均することによって得ることができる。前記セルロースナノファイバーは、セルロースを解繊することによって得ることができる。また、微細繊維の平均繊維長と平均繊維径は、酸化処理、解繊処理により調整することができる。
【0113】
前記セルロースナノファイバーの原料は、セルロースを含んでいればよく、特に限定されるものではないが、例えば、植物(例えば、木材、竹、麻、ジュート、ケナフ、農地残廃物、布、パルプ(針葉樹未漂白クラフトパルプ(NUKP)、針葉樹漂白クラフトパルプ(NBKP)、広葉樹未漂白クラフトパルプ(LUKP)、広葉樹漂白クラフトパルプ(LBKP)、晒クラフトパルプ(BKP)、針葉樹未漂白サルファイトパルプ(NUSP)、針葉樹漂白サルファイトパルプ(NBSP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、再生パルプ、古紙等)、動物(例えば、ホヤ類)、藻類、微生物(例えば、酢酸菌(アセトバクター))、微生物産生物等が挙げられる。これらセルロース原料は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0114】
前記セルロースナノファイバーの含有量は、特に限定されるものではなく、例えば、適用先のタイヤカテゴリー、タイヤ部材、目標性能等により、適宜調整することができる。例えば、セルロースナノファイバーの含有量は、前記ゴム成分100質量部に対し、1~100質量部の範囲が好ましく、5~70重量部の範囲がより好ましく、10~40質量部の範囲が更に好ましい。
【0115】
(多孔質セルロース粒子)
本実施形態のゴム組成物は、多孔質セルロース粒子を含有してもよい。該多孔質セルロース粒子は、好ましくは空隙率が75~95%の多孔質構造を持つセルロース粒子であり、ゴム組成物に配合することにより、氷上性能を向上させることができる。多孔質セルロース粒子の空隙率が75%以上であることにより、氷上性能の向上効果に優れ、また、空隙率が95%以下であることにより、粒子の強度を高めることができる。該空隙率は、より好ましくは80~90%である。前記多孔質セルロース粒子の空隙率は、一定質量の試料(即ち、多孔質セルロース粒子)の体積をメスシリンダーで測定し、嵩比重を求めて、下記式から求めることができる。
空隙率(%)={1-[試料の嵩比重(g/mL)]/[試料の真比重(g/mL)]}×100
ここで、セルロースの真比重は1.5である。
【0116】
前記多孔質セルロース粒子の粒径は、特に限定されるものではないが、耐摩耗性の観点から、平均粒径が1000μm以下のものが好ましい。平均粒径の下限は、特に限定されるものではないが、5μm以上であることが好ましい。平均粒径は、より好ましくは100~800μmであり、更に好ましくは200~800μmである。
前記多孔質セルロース粒子としては、長径/短径の比が1~2である球状粒子が好ましい。このような球状構造の粒子を用いることにより、ゴム組成物中への分散性が向上して、氷上性能の向上、耐摩耗性等の維持に寄与することができる。前記長径/短径の比は、より好ましくは1.0~1.5である。
前記多孔質セルロース粒子の平均粒径と、長径/短径の比は、次のようにして求められる。即ち、多孔質セルロース粒子を顕微鏡で観察して画像を得て、この画像を用いて、粒子の長径と短径(長径と短径が同じ場合には、ある軸方向の長さとこれに直交する軸方向の長さ)を100個の粒子について測定し、その平均値を算出することで平均粒径が得られ、また、長径を短径で割った値の平均値により長径/短径の比が得られる。
【0117】
前記多孔質セルロース粒子としては、レンゴー株式会社から「ビスコパール」として市販されており、また、特開2001-323095号公報、特開2004-115284号公報等に記載されており、それらを好適に用いることができる。
【0118】
前記多孔質セルロース粒子の含有量は、特に限定されるものではなく、例えば、適用先のタイヤカテゴリー、タイヤ部材、目標性能等により、適宜調整することができる。例えば、多孔質セルロース粒子の含有量は、前記ゴム成分100質量部に対し、0.3~20質量部の範囲が好ましく、1~15重量部の範囲がより好ましく、3~15質量部の範囲が更に好ましい。
【0119】
(固体微粒子)
本実施形態のゴム組成物は、固体微粒子を含有してもよい。該固体微粒子は、ゴム組成物に配合することにより、氷上性能を向上させることができる。該固体微粒子は、平均粒子径が1μm以上であることが好ましく、また、1000μm以下であることが好ましく、300μm以下であることがより好ましい。前記固体微粒子としては、籾殻、胡桃粉又は胡桃の殻等の植物より得られた植物由来の粉体;卵殻(卵殻粉)、骨粉等の動物より得られた動物由来の粉体;シラス等の天然鉱物由来の粉体;グラファイト、酸化亜鉛ウィスカ等の無機微粒子;硫酸マグネシウム、リグニンスルホン酸の金属塩等の水溶性金属塩微粒子;グラスファイバー等の非金属繊維;等が挙げられ、これらの中でも、籾殻、胡桃の殻、卵殻、及びシラスが好ましい。
【0120】
前記固体微粒子の含有量は、特に限定されるものではなく、例えば、適用先のタイヤカテゴリー、タイヤ部材、目標性能等により、適宜調整することができる。例えば、固体微粒子の含有量は、前記ゴム成分100質量部に対し、0.3~20質量部の範囲が好ましく、1~15重量部の範囲がより好ましく、3~15質量部の範囲が更に好ましい。
【0121】
(その他)
本実施形態のゴム組成物には、上述の成分の他、タイヤ工業において一般的に用いられている各種添加剤、例えば、有機過酸化物等を更に配合してもよい。これらの添加剤の含有量は、特に限定されるものではなく、例えば、適用先のタイヤカテゴリー、タイヤ部材、目標性能等により、適宜調整することができ、例えば、前記ゴム成分100質量部に対して、0.1~200質量部の範囲が好ましい。
【0122】
(ゴム組成物の製造方法)
本実施形態のゴム組成物の製造方法は、特に限定されるものではないが、例えば、前記ウェットマスターバッチに、必要に応じて適宜選択した各種成分を配合して、混練り、熱入れ、押出等することにより製造することができる。或いは、本実施形態のゴム組成物は、前記ウェットマスターバッチそのものであってもよい。また、得られたゴム組成物を加硫することで、加硫ゴムとすることができる。
【0123】
前記混練りの条件としては、特に制限はなく、混練り装置の投入体積やローターの回転速度、ラム圧等、及び混練り温度や混練り時間、混練り装置の種類等の諸条件について目的に応じて適宜に選択することができる。混練り装置としては、通常、ゴム組成物の混練りに用いるバンバリーミキサーやインターミックス、ニーダー、ロール等が挙げられる。
【0124】
前記熱入れの条件についても、特に制限はなく、熱入れ温度や熱入れ時間、熱入れ装置等の諸条件について目的に応じて適宜に選択することができる。該熱入れ装置としては、通常、ゴム組成物の熱入れに用いる熱入れロール機等が挙げられる。
【0125】
前記押出の条件についても、特に制限はなく、押出時間や押出速度、押出装置、押出温度等の諸条件について目的に応じて適宜に選択することができる。押出装置としては、通常、ゴム組成物の押出に用いる押出機等が挙げられる。押出温度は、適宜に決定することができる。
【0126】
前記加硫を行う装置や方式、条件等についても、特に制限はなく、目的に応じて適宜に選択することができる。加硫を行う装置としては、通常、ゴム組成物の加硫に用いる金型による成形加硫機等が挙げられる。加硫の条件として、その温度は、例えば100~190℃程度である。
【0127】
(用途)
本実施形態のゴム組成物は、タイヤの種々の構成部材に適用することができ、例えば、トレッド(キャップトレッド、ベーストレッド、アンダートレッド)、クッションゴム、ショルダー、サイドウォール、クリンチ、ビードフィラー、カーカスのコーティングゴム、インスレーション、チェーファー、インナーライナー等に用いることができ、また、ランフラットタイヤのサイド補強層等に用いることもできる。また、本実施形態のゴム組成物は、タイヤの他にも、ゴムクローラ、免震ゴム等にも適用することができる。
【0128】
<タイヤ>
本発明の一実施形態のタイヤ(以下、「本実施形態のタイヤ」と称することがある)は、上述したゴム組成物を用いたことを特徴とする。換言すると、本実施形態のタイヤは、上述したゴム組成物を備えることを特徴とする。かかる本実施形態のタイヤは、上述したゴム組成物を備えるため、再生カーボンブラックを含む充填剤の分散性に優れる上、サステナビリティの向上に寄与し得る。
【0129】
本実施形態のタイヤは、上述のゴム組成物を用いて通常の方法によって製造することができる。例えば、本実施形態のタイヤは、適用するタイヤの種類に応じ、未加硫のゴム組成物を用いて成形後に加硫して得てもよく、又は予備加硫工程等を経た半加硫ゴムを用いて成形後、更に本加硫して得てもよい。なお、本実施形態のタイヤは、好ましくは空気入りタイヤであり、空気入りタイヤに充填する気体としては、通常の或いは酸素分圧を調整した空気の他、窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガスを用いることができる。
【実施例0130】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は、下記の実施例に何ら限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において適宜変更可能である。
【0131】
(第1の評価)
表1に示す配合処方に従って実施例及び比較例のゴム組成物を調製した。得られた各ゴム組成物につき、生物資源(バイオマス資源)由来の材料と、再生資源(リサイクル資源)由来の材料と、の総質量割合を算出して、サステナブル材料比率を算出した。結果を表1に示す。
【0132】
更に、得られたゴム組成物に対して、以下の方法で、DG分散による分散性(マクロ分散)を評価した。即ち、各ゴム組成物を145℃で33分間加硫して、加硫ゴム試験片を得た。得られた加硫ゴム試験片に対し、ディスパグレーダー(TechPro製)を用い、“CB(X,Y)/100”のメソッドのX値を測定し、カーボンブラックの分散性を評価した。測定結果を表1に示す。測定値が小さいほど、カーボンブラックの分散性が悪いことを示す。
【0133】
【0134】
*1 ブタジエンゴム:UBEエラストマー社製、商品名「BR150L」
*2 未使用のカーボンブラック:旭カーボン社製、商品名「N550」、窒素吸着比表面積(N2SA)=40m2/g、DBP吸油量=121mL/100g
*3 再生カーボンブラック:Enrestec社製、商品名「PB365」、灰分量=17質量%
*4 老化防止剤1:大内新興化学工業社製、商品名「ノクラック 6C」
*5 老化防止剤2:大内新興化学工業社製、商品名「ノクラック 224」
*6 オイル:ENEOS社製、商品名「A/Omix」
*7 脂肪酸:ミヨシ油脂社製、商品名「MXST」
*8 その他薬品:硫黄、加硫促進剤、樹脂、ワックスの合計量。比較例と実施例とで同比率。
【0135】
表1より、ヴァージンカーボンブラックを再生カーボンブラックに置き換えると、カーボンブラック分散性が悪化し得ることが分かる。但し一方で、かかる置き換えは、サステナビリティの向上に寄与するものであり、これは表1からも分かる。
【0136】
(第2の評価)
<ウェットマスターバッチの調製>
水中に、カーボンブラック(旭カーボン社製、N330、旭#70、平均粒子径:28nm、N2SA:77m2/g)を10質量%の割合で配合し、ミキサー(ハイシェアミキサーEX60、シルバーソン社製)にて微分散させて、スラリー溶液を調製した。
【0137】
その一方で、天然ゴム(NR)ラテックスと、水(精製水)とを含有するゴムラテックス溶液を調製した。ゴムラテックス溶液の固形分濃度は、30質量%であった。
【0138】
上述のスラリー溶液とゴムラテックス溶液とを、ミキサー(ハイシェアミキサーEX60、シルバーソン社製)にて混合し、蟻酸を用いて凝固し、二軸押出機を用いて乾燥・混練を行った。なお、このとき、スラリー溶液由来のカーボンブラックの量を、ゴムラテックス溶液由来の天然ゴム(NR)100質量部に対して、50質量部とした。その後、バンバリーにて、イソプレンゴム(日本ゼオン社製、「Nipol(登録商標) IR2200」)を、ゴムラテックス溶液由来の天然ゴム(NR)100質量部に対して3質量部の割合で配合して粘度調整し、ウェットマスターバッチを得た。
【0139】
<未加硫ゴムの調製>
天然ゴム(RSS#3)100質量部と、カーボンブラック(旭カーボン社製、N330、旭#70、平均粒子径:28nm、N2SA:77m2/g)50質量部とを混合して、未加硫ゴムを得た。
【0140】
<カーボンブラック分散性の評価(耐亀裂性の評価)>
上記ウェットマスターバッチと、上記未加硫ゴムとについて、以下の方法で評価を行った。
まず、サンプルとしてダンベル型の3号試験片(JIS#3)に切り出した。このサンプルを用いて、クリープ試験機(島津製作所製)で定荷重モードテストを行った。即ち、試験条件:繰り返し引張試験、荷重:1.5kg、周波数:5Hzとした。そして、その際の破断までの繰り返し引張回数を測定した。なお、本評価は耐亀裂性の試験方法であり、測定値が高いほど、耐亀裂性に優れることを示す。その結果、上記未加硫ゴムの測定結果を100とした場合の上記ウェットマスターバッチの測定結果の指数は135であった。
【0141】
例えば特開2007-197622において、カーボンブラックの分散性が高いと耐亀裂性に優れることが明らかとなっていること、及び、上記の結果を踏まえると、所定の製造方法にてウェットマスターバッチとすることにより、カーボンブラックの分散性が高まり得ることが分かる。
【0142】
そして、これら第1の評価及び第2の評価に基づけば、本発明のウェットマスターバッチの製造方法により得られるウェットマスターバッチ並びにかかるウェットマスターバッチを用いたゴム組成物及びタイヤは、再生カーボンブラックを用いてもその分散性に優れる上、サステナビリティの向上に寄与し得ることが期待できる。
本発明によれば、再生カーボンブラックを含む充填剤の分散性に優れる上、サステナビリティの向上に寄与し得るウェットマスターバッチを得ることが可能な、ウェットマスターバッチの製造方法を提供することができる。
また、本発明によれば、再生カーボンブラックを含む充填剤の分散性に優れる上、サステナビリティの向上に寄与し得るゴム組成物を提供することができる。
また、本発明によれば、再生カーボンブラックを含む充填剤の分散性に優れる上、サステナビリティの向上に寄与し得るタイヤを提供することができる。