(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025025990
(43)【公開日】2025-02-21
(54)【発明の名称】複合構造物または複合構造材の検査方法
(51)【国際特許分類】
G01N 29/04 20060101AFI20250214BHJP
G01N 29/46 20060101ALI20250214BHJP
【FI】
G01N29/04
G01N29/46
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023131302
(22)【出願日】2023-08-10
(71)【出願人】
【識別番号】000165697
【氏名又は名称】原子燃料工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078813
【弁理士】
【氏名又は名称】上代 哲司
(74)【代理人】
【識別番号】100094477
【弁理士】
【氏名又は名称】神野 直美
(74)【代理人】
【識別番号】100099933
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 敏
(72)【発明者】
【氏名】礒部 仁博
(72)【発明者】
【氏名】小川 良太
(72)【発明者】
【氏名】松永 嵩
(72)【発明者】
【氏名】藤吉 宏彰
(72)【発明者】
【氏名】石井 元武
(72)【発明者】
【氏名】匂坂 充行
【テーマコード(参考)】
2G047
【Fターム(参考)】
2G047AA06
2G047AA10
2G047AB05
2G047BC03
2G047BC04
2G047BC09
2G047CA03
2G047GD01
2G047GD02
2G047GG12
(57)【要約】
【課題】複合構造物または複合構造材を非破壊で検査して、その健全性について容易に評価する複合構造物または複合構造材の検査方法を提供する。
【解決手段】複合構造物または複合構造材を非破壊で検査して、その健全性について評価する複合構造物または複合構造材の検査方法であって、検査対象の複合構造物または複合構造材の表面を外部から打振して、予め設定された評価指標についての特徴量を得た後、健全状態にあることが既知の複合構造物または複合構造材から得られた評価指標の基準量に基づいて、複合構造物または複合構造材の健全性について評価する複合構造物または複合構造材の検査方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複合構造物または複合構造材を非破壊で検査して、その健全性について評価する複合構造物または複合構造材の検査方法であって、
検査対象の複合構造物または複合構造材の表面を外部から打振して、予め設定された評価指標についての特徴量を得た後、
健全状態にあることが既知の複合構造物または複合構造材から得られた前記評価指標の基準量に基づいて、前記複合構造物または複合構造材の健全性について評価することを特徴とする複合構造物または複合構造材の検査方法。
【請求項2】
前記複合構造物が、複数の構造材を積層して形成された複数層からなる複合構造物であって、
検査対象の複合構造物の表面を外部から打振することにより取得される振動波形、または、前記振動波形を変換して取得される周波数分布から、予め設定された評価指標についての特徴量を得、
得られた前記評価指標の特徴量と、健全状態にあることが既知の複合構造物から得られた前記評価指標の基準量とに基づいて、検査対象の複合構造物の各層毎の状態および各層間における界面の状態の健全性について評価することを特徴とする請求項1に記載の複合構造物または複合構造材の検査方法。
【請求項3】
前記複合構造材が、複数の材料を積層して形成された複合構造材であって、
検査対象の複合構造材の表面を外部から打振することにより取得される振動波形、または、前記振動波形を変換して取得される周波数分布から、予め設定された評価指標についての特徴量を得、
得られた前記評価指標の特徴量と、健全状態にあることが既知の複合構造材から得られた前記評価指標の基準量とに基づいて、検査対象の複合構造材の各層毎の状態および各層間における界面の状態の健全性について評価することを特徴とする請求項1に記載の複合構造物または複合構造材の検査方法。
【請求項4】
前記複合構造材が、複数のマトリックス材料から形成された複合構造材であって、
検査対象の複合構造材の表面を外部から打振することにより取得される振動波形、または、前記振動波形を変換して取得される周波数分布から、予め設定された評価指標についての特徴量を得、
得られた前記評価指標の特徴量と、健全状態にあることが既知の複合構造材から得られた前記評価指標の基準量とに基づいて、検査対象の複合構造材の各マトリックス材料毎の状態および各マトリックス材料間における界面の状態の健全性について評価することを特徴とする請求項1に記載の複合構造物または複合構造材の検査方法。
【請求項5】
前記打振を、検査対象の複合構造材の表面において選択された1点以上で行うことを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の複合構造物または複合構造材の検査方法。
【請求項6】
前記打振を、テストハンマを用いて行うことを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の複合構造物または複合構造材の検査方法。
【請求項7】
前記振動波形を、AEセンサ、加速度センサ、変位センサ、マイクロフォン、レーザー変位センサのいずれかを用いて取得することを特徴とする請求項2ないし請求項4のいずれか1項に記載の複合構造物または複合構造材の検査方法。
【請求項8】
前記評価指標の特徴量として、振動波形から得られる特徴量を用いることを特徴とする請求項2ないし請求項4のいずれか1項に記載の複合構造物または複合構造材の検査方法。
【請求項9】
前記周波数分布を、前記振動波形を高速フーリエ変換することにより取得することを特徴とする請求項2ないし請求項4のいずれか1項に記載の複合構造物または複合構造材の検査方法。
【請求項10】
前記評価指標の特徴量として、前記周波数分布から得られる特徴量を用いることを特徴とする請求項2ないし請求項4のいずれか1項に記載の複合構造物または複合構造材の検査方法。
【請求項11】
前記複合構造物または複合構造材の健全性についての評価を、前記振動波形または前記周波数分布から得られた前記評価指標の特徴量の、前記評価指標の基準量からの乖離の程度に基づいて行うことを特徴とする請求項2ないし請求項4のいずれか1項に記載の複合構造物または複合構造材の検査方法。
【請求項12】
前記健全性について評価する際に、前記評価指標の基準量の設定を、モックアップ試験、または、シミュレーションにより行うことを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の複合構造物または複合構造材の検査方法。
【請求項13】
前記健全性について評価する際に、前記評価指標の基準量の設定を、検査対象の複合構造物または複合構造材の新設もしくはメンテナンス直後の状態、劣化が進んでいないと想定される部位の状態、状態の相対的比較のいずれかに基づいて行うことを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の複合構造物または複合構造材の検査方法。
【請求項14】
前記健全性についての評価が、施工不良または劣化に対する健全性の評価の場合、
前記評価指標の基準量の設定を、モックアップ試験、または、シミュレーションにより行うことを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の複合構造物または複合構造材の検査方法。
【請求項15】
前記健全性についての評価が、施工不良または劣化に対する健全性の評価の場合、
前記評価指標の基準量の設定を、検査対象の複合構造物または複合構造材の新設もしくはメンテナンス直後の状態に基づいて行うことを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の複合構造物または複合構造材の検査方法。
【請求項16】
検査対象の複合構造物または複合構造材の全面に亘って、前記評価指標の特徴量に基づいてコンター図を作成することにより、前記複合構造物または複合構造材の全面に亘る健全性について評価することを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の複合構造物または複合構造材の検査方法。
【請求項17】
前記複合構造物または前記複合構造材の健全性について評価する際、前記評価指標の基準量を、AI学習による結果から得ることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の複合構造物または複合構造材の検査方法。
【請求項18】
前記AI学習が、機械学習、深層学習、教師あり学習、教師なし学習のいずれかであることを特徴とする請求項17に記載の複合構造物または複合構造材の検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合構造物または複合構造材の検査方法に関し、より詳しくは、複数の構造材を積層して形成された複合構造物や、複数の材料を積層して形成された複合構造材、また、複数のマトリックス材料から形成された複合構造材における異常の発生の有無を非破壊で検査する複合構造物または複合構造材の検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
焼却炉、ダクト、タンクなどの構造物においては、施工管理、経年管理の観点から、物理的特性の低下や空洞の発生など、異常の発生の有無を定期的あるいは不定期に非破壊で検査して、その健全性について評価する必要がある。
【0003】
これらの構造物は、一般的に、その要求される特性に対応できるように、特徴の異なる複数の構造材を積層して形成されている(複合構造物)。
【0004】
例えば、焼却炉は、内側耐火材と外側鋼製ケーシング(缶体)とで構成されることにより、焼却時の高温に耐えると共に、焼却時のガスや灰などを外部に放出しないようになっている。そして、ダクト、タンクでは、本体の腐食などを抑制するために、ライナーが内張りされる場合がある。
【0005】
また、バイメタルやクラッド材などのような金属/金属の複合材、樹脂/樹脂の複合材、木材/木材の複合材、金属/コンクリートの複合材、金属/セラミックスの複合材、金属/樹脂の複合材、セラミックス/樹脂の複合材などを用いた複合構造物も、広い分野に存在する。
【0006】
このような複合構造物について、前記した健全性評価の検査を非破壊で行おうとすると、単一材料からなる構造物とは異なり、外側面と内側面の両面から、各層の状態(物理的特性、ひび割れや空洞などの構造上の健全性)に加えて、各層間における界面の状態(密着や剥離など)についても検査する必要があり、容易なことではない。
【0007】
例えば、焼却炉の場合には内側面からの検査は容易ではなく、特に、放射性物質で汚染された廃棄物を対象とした焼却炉では、検査担当者の放射線被爆の危険性を考慮すると、内側面からの検査を実施することは難しい。
【0008】
そこで、現状、外側ケーシング(缶体)の腐食減肉については、φ10mm程度の探触子を用いた超音波厚さ計による計測が行われているが、代表点を選んで、探触子直下の厚さを計測する方法であるため、広い面積の外側ケーシング(缶体)の全面を計測するには多大の労力を要し、効率的な検査方法とは言えない。
【0009】
また、放射性物質で汚染された廃棄物を対象とした焼却炉を内側から検査する方法として、ファイバースコープによる目視が行われるが、内側耐火材の表面におけるひび割れ等の変状を確認することは可能であるものの、耐火材内部のひび割れ進展を把握することは容易とはいえず、さらに、外側鋼製ケーシング(缶体)の腐食を促進する、内側耐火材と外側鋼製ケーシング(缶体)との界面の密着性については確認することができない。
【0010】
同様に、ライナーにより内張りされたダクト、タンクの本体の状態や、本体とライナーとの界面の状態について外面から確認することは容易ではなく、現状では内側からファイバースコープにより確認することなどが行われている。
【0011】
一方、複合構造物ではないが、ケーブルのように、芯線と絶縁材、被覆材など、複数の材料を積層して形成された複合構造材や、樹脂と繊維(ガラス繊維もしくはカーボン繊維)とをマトリックス材料として形成されたFRP(Fiber Reinforced Plastics)などのように、複数のマトリックス材料から形成された複合構造材も存在する。そして、これらの複合構造材を使用した複合構造物も存在する。
【0012】
そして、このような複合構造材においても、各層の状態および各層間における界面の状態を検査したり、各マトリックス材料の状態および各マトリックス材料間の界面の状態を検査したりすることは容易なことではない。
【0013】
さらに、これらの複合構造材を使用した複合構造物における健全性の評価は、より難しい。
【0014】
このように、複合構造物や複合構造材における各層毎の状態および各層間における界面の状態、あるいは、複合構造材における各マトリックスの状態および各マトリックス間の界面の状態を非破壊で検査して健全性について評価することは容易とは言えず、さらなる技術の開発が望まれていた。
【0015】
なお、本発明者等は、先に、アンカーなどの金属部材を埋設した構造物やPC構造物を対象としてその健全性を評価する技術を提案している(例えば、特許文献1~4)が、これらの技術は、最終的に複合構造となっている構造物を構成する部材について個々に健全性を評価するものに留まっており、各層毎の状態および各層間における界面の状態を検査するものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開2015-45637号公報
【特許文献2】特開2016-24069号公報
【特許文献3】特開2017-219534号公報
【特許文献4】特開2019-132658号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は、上記した従来技術における問題点に鑑み、複合構造物または複合構造材を非破壊で検査して、その健全性について容易に評価する複合構造物または複合構造材の検査方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者は、鋭意検討の結果、以下に記載の各発明によれば、上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0019】
請求項1に記載の発明は、
複合構造物または複合構造材を非破壊で検査して、その健全性について評価する複合構造物または複合構造材の検査方法であって、
検査対象の複合構造物または複合構造材の表面を外部から打振して、予め設定された評価指標についての特徴量を得た後、
健全状態にあることが既知の複合構造物または複合構造材から得られた前記評価指標の基準量に基づいて、前記複合構造物または複合構造材の健全性について評価することを特徴とする複合構造物または複合構造材の検査方法である。
【0020】
請求項2に記載の発明は、
前記複合構造物が、複数の構造材を積層して形成された複数層からなる複合構造物であって、
検査対象の複合構造物の表面を外部から打振することにより取得される振動波形、または、前記振動波形を変換して取得される周波数分布から、予め設定された評価指標についての特徴量を得、
得られた前記評価指標の特徴量と、健全状態にあることが既知の複合構造物から得られた前記評価指標の基準量とに基づいて、検査対象の複合構造物の各層毎の状態および各層間における界面の状態の健全性について評価することを特徴とする請求項1に記載の複合構造物または複合構造材の検査方法である。
【0021】
請求項3に記載の発明は、
前記複合構造材が、複数の材料を積層して形成された複合構造材であって、
検査対象の複合構造材の表面を外部から打振することにより取得される振動波形、または、前記振動波形を変換して取得される周波数分布から、予め設定された評価指標についての特徴量を得、
得られた前記評価指標の特徴量と、健全状態にあることが既知の複合構造材から得られた前記評価指標の基準量とに基づいて、検査対象の複合構造材の各層毎の状態および各層間における界面の状態の健全性について評価することを特徴とする請求項1に記載の複合構造物または複合構造材の検査方法である。
【0022】
請求項4に記載の発明は、
前記複合構造材が、複数のマトリックス材料から形成された複合構造材であって、
検査対象の複合構造材の表面を外部から打振することにより取得される振動波形、または、前記振動波形を変換して取得される周波数分布から、予め設定された評価指標についての特徴量を得、
得られた前記評価指標の特徴量と、健全状態にあることが既知の複合構造材から得られた前記評価指標の基準量とに基づいて、検査対象の複合構造材の各マトリックス材料毎の状態および各マトリックス材料間における界面の状態の健全性について評価することを特徴とする請求項1に記載の複合構造物または複合構造材の検査方法である。
【0023】
請求項5に記載の発明は、
前記打振を、検査対象の複合構造材の表面において選択された1点以上で行うことを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の複合構造物または複合構造材の検査方法である。
【0024】
請求項6に記載の発明は、
前記打振を、テストハンマを用いて行うことを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の複合構造物または複合構造材の検査方法である。
【0025】
請求項7に記載の発明は、
前記振動波形を、AEセンサ、加速度センサ、変位センサ、マイクロフォン、レーザー変位センサのいずれかを用いて取得することを特徴とする請求項2ないし請求項4のいずれか1項に記載の複合構造物または複合構造材の検査方法である。
【0026】
請求項8に記載の発明は、
前記評価指標の特徴量として、振動波形から得られる特徴量を用いることを特徴とする請求項2ないし請求項4のいずれか1項に記載の複合構造物または複合構造材の検査方法である。
【0027】
請求項9に記載の発明は、
前記周波数分布を、前記振動波形を高速フーリエ変換することにより取得することを特徴とする請求項2ないし請求項4のいずれか1項に記載の複合構造物または複合構造材の検査方法である。
【0028】
請求項10に記載の発明は、
前記評価指標の特徴量として、前記周波数分布から得られる特徴量を用いることを特徴とする請求項2ないし請求項4のいずれか1項に記載の複合構造物または複合構造材の検査方法である。
【0029】
請求項11に記載の発明は、
前記複合構造物または複合構造材の健全性についての評価を、前記振動波形または前記周波数分布から得られた前記評価指標の特徴量の、前記評価指標の基準量からの乖離の程度に基づいて行うことを特徴とする請求項2ないし請求項4のいずれか1項に記載の複合構造物または複合構造材の検査方法である。
【0030】
請求項12に記載の発明は、
前記健全性について評価する際に、前記評価指標の基準量の設定を、モックアップ試験、または、シミュレーションにより行うことを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の複合構造物または複合構造材の検査方法である。
【0031】
請求項13に記載の発明は、
前記健全性について評価する際に、前記評価指標の基準量の設定を、検査対象の複合構造物または複合構造材の新設もしくはメンテナンス直後の状態、劣化が進んでいないと想定される部位の状態、状態の相対的比較のいずれかに基づいて行うことを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の複合構造物または複合構造材の検査方法である。
【0032】
請求項14に記載の発明は、
前記健全性についての評価が、施工不良または劣化に対する健全性の評価の場合、
前記評価指標の基準量の設定を、モックアップ試験、または、シミュレーションにより行うことを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の複合構造物または複合構造材の検査方法である。
【0033】
請求項15に記載の発明は、
前記健全性についての評価が、施工不良または劣化に対する健全性の評価の場合、
前記評価指標の基準量の設定を、検査対象の複合構造物または複合構造材の新設もしくはメンテナンス直後の状態に基づいて行うことを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の複合構造物または複合構造材の検査方法である。
【0034】
請求項16に記載の発明は、
検査対象の複合構造物または複合構造材の全面に亘って、前記評価指標の特徴量に基づいてコンター図を作成することにより、前記複合構造物または複合構造材の全面に亘る健全性について評価することを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の複合構造物または複合構造材の検査方法である。
【0035】
請求項17に記載の発明は、
前記複合構造物または前記複合構造材の健全性について評価する際、前記評価指標の基準量を、AI学習による結果から得ることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の複合構造物または複合構造材の検査方法である。
【0036】
請求項18に記載の発明は、
前記AI学習が、機械学習、深層学習、教師あり学習、教師なし学習のいずれかであることを特徴とする請求項17に記載の複合構造物または複合構造材の検査方法である。
【発明の効果】
【0037】
本発明によれば、複合構造物または複合構造材を非破壊で検査して、その健全性について容易に評価する複合構造物または複合構造材の検査方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【
図1】打振により取得された振動波形の一例を示す図である。
【
図3】振動波形から変換された周波数分布の一例を示す図である。
【
図4】振動波形のウェーブレット変換による時間領域と周波数領域との関係の一例を示す図である。
【
図5】第1の実施の形態において、鋼製ケーシング(缶体)に腐食が無く、耐火材が健全な状態において、(a)打振による振動が鋼製ケーシング(缶体)および耐火材に拡散、減衰していく様子を説明する図、(b)打振より得られた周波数分析を示す図、(c)打振より得られた振動波形を示す図である。
【
図6】第1の実施の形態において、鋼製ケーシング(缶体)に軽微な腐食が有り、耐火材にひび割れがある状態において、(a)打振による振動が鋼製ケーシング(缶体)および耐火材に拡散、減衰していく様子を説明する図、(b)打振より得られた周波数分析を示す図、(c)打振より得られた振動波形を示す図である。
【
図7】第1の実施の形態において、鋼製ケーシング(缶体)に顕著な腐食が有り、耐火材にひび割れが進展している状態において、(a)打振による振動が鋼製ケーシング(缶体)および耐火材に拡散、減衰していく様子を説明する図、(b)打振より得られた周波数分析を示す図、(c)打振より得られた振動波形を示す図である。
【
図8】第2の実施の形態において、金属(鋼材)と樹脂(FRP)との複合材を用いて作製された剥離模擬供試体の構成を示す模式斜視図である。
【
図9】
図8に示す剥離模擬供試体と同様の健全供試体への打振から得られた周波数分布である。
【
図10】
図8に示す剥離模擬供試体への打振から得られた周波数分布である。
【
図11】第3の実施の形態において、樹脂製ライナーが内張りされたダクトの健全部を打振して得られた周波数分布である。
【
図12】第3の実施の形態において、樹脂製ライナーが内張りされたダクトの剥離発生部を打振して得られた周波数分布である。
【
図13】第4の実施の形態において、剥離が確実に発生していると考えられる箇所(剥離部分1)と、その対面で剥離の発生がない面(健全部分1)とを打振して得られた周波数分布である。
【
図14】第4の実施の形態において、剥離発生の兆候が考えられる箇所(剥離部分2)と、その対面で剥離の発生がない面(健全部分2)とを打振して得られた周波数分布である。
【
図15】第5の実施の形態において、FRP板材に対する検査方法を示す模式斜視図である。
【
図16】
図15に示すFRP板材において得られた疲労回数と評価ピーク周波数との関係を示す図である。
【
図17】第6の実施の形態において、打振を行った箇所を説明する模式平面図である。
【
図18】第6の実施の形態において、振動持続時間を評価指標とする計測結果を示すコンター図である。
【
図19】第6の実施の形態において、固有周波数を評価指標とする計測結果を示すコンター図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
[1]本発明の基本的な考え方
1.本発明の概要
本発明は、複合構造物または複合構造材を非破壊で検査して、その健全性について評価する複合構造物または複合構造材の検査方法であり、検査対象の複合構造物または複合構造材の表面を外部から打振して、予め設定された評価指標についての特徴量を得た後、健全状態にあることが既知の複合構造物または複合構造材から得られた評価指標の基準量に基づいて、複合構造物または複合構造材の健全性について評価するものである。
【0040】
即ち、検査対象が複数の構造材を積層して形成された複数層からなる複合構造物の場合には、検査対象の複合構造物の表面を外部から打振することにより取得される振動波形、または、振動波形を変換して取得される周波数分布から、予め設定された評価指標についての特徴量を得、得られた評価指標の特徴量と、健全状態にあることが既知の複合構造物から得られた評価指標の基準量とに基づいて、検査対象の複合構造物の各層毎の状態および各層間における界面の状態の健全性について評価する。
【0041】
そして、検査対象がケーブルなどのような複数の材料を積層して形成された複合構造材の場合には、検査対象の複合構造材の表面を外部から打振することにより取得される振動波形、または、振動波形を変換して取得される周波数分布から、予め設定された評価指標についての特徴量を得、得られた評価指標の特徴量と、健全状態にあることが既知の複合構造材から得られた評価指標の基準量とに基づいて、検査対象の複合構造材の各層毎の状態および各層間における界面の状態の健全性について評価する。
【0042】
また、検査対象がFRPなどのような複数のマトリックス材料から形成される複合構造材の場合には、検査対象の複合構造材の表面を外部から打振することにより取得される振動波形、または、振動波形を変換して取得される周波数分布から、予め設定された評価指標についての特徴量を得、得られた評価指標の特徴量と、健全状態にあることが既知の複合構造材から得られた評価指標の基準量とに基づいて、検査対象の複合構造材の各マトリックス材料毎の状態および各マトリックス材料間における界面の状態の健全性について評価する。
【0043】
このような複合構造物または複合構造材の検査方法を採用することにより、複合構造物または複合構造材の各層毎の状態および各層間における界面の状態、あるいは、複合構造材における各マトリックスの状態および各マトリックス間の界面の状態を非破壊で検査して、その健全性について容易に評価することができる。
【0044】
2.本発明に係る複合構造物または複合構造材の検査方法におけるメカニズム
本発明に係る複合構造物または複合構造材の検査方法におけるメカニズムは、以下のように考えることができる。なお、本発明において、前記したケーブルなどのような複数の材料を積層して形成された複合構造材におけるメカニズム、および、FRPなどのような複数のマトリックス材料から形成される複合構造材におけるメカニズムは、実質的に、複数の構造材を積層して形成された複数層からなる複合構造物におけるメカニズムと同様に考えることができるため、以下においては、基本的に、複数の構造材を積層して形成された複数層からなる複合構造物に沿って説明する。
【0045】
(1)振動波形に基づいた評価
検査対象の複合構造物の表面を外部から打振することにより、検査対象の複合構造物の振動波形を取得することができる。
【0046】
図1に、取得された振動波形の一例を示す。なお、
図1において、縦軸は振幅(Amplitude:mV)、横軸は加振開始からの経過時間(Time:sec)であり、時間の経過に伴って振動が減衰していくことが分かる。
【0047】
このとき、複合構造物において、各層毎の状態および各層間における界面の状態に異常(例えば、ひび割れ、空洞、剥離など)が生じていると、後述する[具体的な実施の形態]に説明するように、減衰時間が変化し、この減衰時間の変化は、生じた異常の発生の程度と関係しているため、振動が持続される時間(振動持続時間)を計測することにより、異常の発生状況を知ることができる。即ち、振動持続時間を、評価指標の特徴量として利用することができる。
【0048】
具体的には、
図2に示すように、振幅の大きさが最大値のX%(例えば、10%)まで低下するのに要する時間を振動持続時間と定義し、振動持続時間を評価指標の特徴量とする。そして、予め設定した基準となる振動持続時間(診断基準)と比較することにより、対象複合構造物に生じた異常の発生の程度を知ることができる。
【0049】
なお、上記では、振動持続時間を評価指標の特徴量としているが、振動波形から得られる他の特徴量、例えば、最大振幅幅、S/N比、事前に設定した閾値を超えるピーク数、振幅の平均値、振幅の標準偏差、振幅の分布なども、振動持続時間と同様に、生じた異常の発生の程度と関係しているため、評価指標の特徴量および診断基準として用いてもよい。
【0050】
本発明において、打振に際しては、打音点検用に一般的に用いられており、重さも軽く、持ち運びに便利なテストハンマを使用することが好ましいが、プラスチックハンマ、ゴムハンマ、木ハンマ、テストハンマ以外の鉄ハンマ、先端に鋼球が装着された打診棒など、対象に振動を与えることができて振動波形が取得可能なハンマであれば、特に限定されない。なお、打振に替えて、圧電素子やレーザーなどにより特定の周波数を弾性波として入力してもよい。
【0051】
また、振動波形の取得に際しては、発生した振動を高精度で取得するという観点から、AE(Acoustic Emission)センサを使用することが好ましいが、加速度センサや変位センサ、マイクロフォン、レーザー変位センサを用いてもよい。
【0052】
(2)周波数分布に基づいた評価
打振で取得された振動波形を高速フーリエ変換することにより、周波数分布を得ることができる。
【0053】
図3に、振動波形から変換された周波数分布の一例を示す。なお、
図3において、縦軸は振動の強度(Magnitude:a.u.[arbitrary unit:任意単位])、横軸は周波数(Frequency:Hz)であり、最大ピークの周波数を固有振動数と定義する。
【0054】
このとき、複合構造物において、各層毎の状態および各層間における界面の状態に異常(例えば、ひび割れ、空洞、剥離など)が生じていると、後述する[具体的な実施の形態]に説明するように、固有振動数が変化し、その変化は生じた異常の発生の程度と関係しているため、固有振動数を計測して、予め設定した基準となる固有振動数(診断基準)と比較することにより、異常の発生状況を知ることができる。即ち、固有振動数を、評価指標の特徴量として利用することができる。
【0055】
なお、周波数分布から得られる他の特徴量、例えば、面積、重心、S/N比、固有振動ピーク、固有振動ピーク数、事前に設定した周波数範囲の固有振動ピーク、事前に設定した周波数範囲の固有振動ピーク数なども、固有振動数と同様に、生じた異常の発生の程度と関係しているため、評価指標の特徴量および診断基準として用いてもよい。
【0056】
また、振動波形のウェーブレット変換(Wavelet Transformation)または、短時間フーリエ変換STFT(Short Time Fourier Transformation)により求めることができる時間領域と周波数領域との関係で示される特徴量も、固有振動数と同様に、生じた異常の発生の程度と関係しているため、評価指標の特徴量および診断基準として用いてもよい。
図4に、ウェーブレット変換による時間領域と周波数領域との関係で示される特徴量の一例を示す。
図4では、横軸を加振時点からの経過時間(sec)、縦軸を周波数(Hz)として、時間領域と周波数領域とにおける振幅(a.u)の変化を示している。
【0057】
(3)診断基準の設定
本発明において、診断基準は、検査対象の複合構造物を構成する材料や形状を考慮して、事前に設定するものとする。
【0058】
即ち、複合構造物における異常の発生状況を検査、評価するためには、検査に先立って、上記した各評価指標の内から、どれを採用するか選択する。そして、選択された評価指標に対応した診断基準を設定する。
【0059】
診断基準の設定については、例えば、以下に説明する(i)~(v)の方法のいずれかにより行うことができる。
(i)検査対象の複合構造物と同様に作製されたモックアップ試験体を用いて評価指標について計測して、その値を診断基準として設定する。
(ii)検査対象の複合構造物をシミュレーションにより作成し、評価指標を求めて、その値を診断基準として設定する。
(iii)新設時、もしくは、メンテナンス直後に、評価指標について計測して、その値を診断基準として設定する。
(iv)検査対象の複合構造物において、劣化などの異常が発生していないと十分に想定される部位で評価指標について計測して、その値を診断基準として設定する。
(v)検査対象の複合構造物において、複数箇所で評価指標について計測して、各値を相対比較して、診断基準を設定する。
【0060】
なお、上記(i)~(iii)は、健全性評価に対する診断基準、および、各種施工不良や各種劣化に対する診断基準のいずれにも適用可能であり、(iv)、(v)は、健全性評価に対する診断基準として適用可能である。
【0061】
本発明においては、上記各評価指標に基づいて、検査対象の複合構造物の代表点、あるいは、全面の相対的変化や経年変化を評価指標の特徴量として計測し、診断基準に基づいて分析することにより、各層毎の状態および各層間における界面の状態に異常(例えば、ひび割れ、空洞、剥離など)を評価することができる。
【0062】
このとき、打振作業は短時間で多くの箇所で行うことができ、評価指標の特徴量と診断基準に基づいて客観的に分析、評価することができるため、面積の広いコンクリート施工面の全体であっても、検査員の熟練度や主観に左右されることなく、効率的に、短時間で評価することができる。
【0063】
[2]具体的な実施の形態
以下、上記した[本発明の基本的な考え方]に基づいて、各種複合構造物または複合構造材における具体的な実施の形態を説明する。
【0064】
1.第1の実施の形態
本実施の形態においては、内側耐火材と外側鋼製ケーシング(缶体)とで構成される焼却炉における健全性評価について、
(1)鋼製ケーシング(缶体)に腐食が無く、耐火材が健全な状態
(2)鋼製ケーシング(缶体)に軽微な腐食が有り、耐火材にひび割れがある状態
(3)鋼製ケーシング(缶体)に顕著な腐食が有り、耐火材にひび割れが進展している状態
以上、3つに分けて、上記した[本発明の基本的な考え方]が適用できることを具体的に説明する。なお、ここでは、周波数分布に基づく評価指標にはピークの形状と固有振動数を、振動波形に基づく評価指標には振動持続時間を採用している。
【0065】
(1)鋼製ケーシング(缶体)に腐食が無く、耐火材が健全な状態
図5は、鋼製ケーシング(缶体1)に腐食が無く、耐火材2が健全な状態において、(a)打振による振動が鋼製ケーシング(缶体)および耐火材に拡散、減衰していく様子を説明する図、(b)打振より得られた周波数分析を示す図、(c)打振より得られた振動波形を示す図である。
【0066】
図5(a)に示すように、鋼製ケーシング(缶体)に腐食が無く、耐火材が健全な状態の場合、即ち、鋼製ケーシング(缶体)と耐火材との界面が密着しており、腐食性ガスが鋼製ケーシング(缶体)に至らない状態の場合には、打振による振動が鋼製ケーシング(缶体)および耐火材に拡散、減衰していく。このため、
図5(b)に示すように、周波数分布にはブロードなピークが現れる(固有振動数:7331Hz)。そして、耐火材に伝達した振動は、瞬時に減衰するため、
図5(c)に示すように、振動持続時間は短い(1.89ms)。
【0067】
(2)鋼製ケーシング(缶体)に軽微な腐食が有り、耐火材にひび割れがある状態
図6は、鋼製ケーシング(缶体)に軽微な腐食が有り、耐火材にひび割れがある状態において、(a)打振による振動が鋼製ケーシング(缶体)および耐火材に拡散、減衰していく様子を説明する図、(b)打振より得られた周波数分析を示す図、(c)打振より得られた振動波形を示す図である。
【0068】
図6(a)に示すように、鋼製ケーシング(缶体)に軽微な腐食が有り、耐火材にひび割れがある状態の場合、即ち、鋼製ケーシング(缶体)と耐火材との界面が剥離して、腐食性ガスが耐火材のひび割れを通って鋼製ケーシング(缶体)に至っている状態の場合には、打振による振動が鋼製ケーシング(缶体)で共振する。このため、
図6(b)に示すように、周波数分布には鋼製ケーシング(缶体)のシャープな固有振動ピークが現れる(固有振動数:7873Hz)。そして、打振による振動が鋼製ケーシング(缶体)で共振することにより、
図6(c)に示すように、振動持続時間は(1)の場合よりも長くなる(5.35ms)。
【0069】
なお、腐食が発生した後に、鋼製ケーシング(缶体)と耐火材との界面に、腐食生成物が付着した場合には、振動持続時間が短くなることもあるため、振動波形に基づく評価指標には、実際の腐食形態に合わせて、別の評価指標を採用して評価を行う。
【0070】
(3)鋼製ケーシング(缶体)に顕著な腐食が有り、耐火材にひび割れが進展している状態
図7は、鋼製ケーシング(缶体)に顕著な腐食が有り、耐火材にひび割れが進展している状態において、(a)打振による振動が鋼製ケーシング(缶体)および耐火材に拡散、減衰していく様子を説明する図、(b)打振より得られた周波数分析を示す図、(c)打振より得られた振動波形を示す図である。
【0071】
図7(a)に示すように、鋼製ケーシング(缶体)に軽微な腐食が有り、耐火材にひび割れがある状態の場合、即ち、鋼製ケーシング(缶体)と耐火材との界面が剥離して、腐食性ガスによって缶体の腐食の進行に至っている状態の場合には、鋼製ケーシング(缶体)の板厚が減少して、鋼製ケーシング(缶体)のたわみ振動が発生する。この結果、(1式)より求められる固有振動数が低下して、
図7(b)に示すように、低周波側にシャープな固有振動ピークが現れる(固有振動数:3131Hz)。
【0072】
【0073】
なお、上記(1式)において、fは固有周波数(Hz)、Eはヤング率(Pa)、ρは密度(kg/m3)、aおよびbは欠陥の平面寸法(m)、hは平板(缶体)の厚さ(m)、νはポアソン比、mおよびnは振動モードの次数である。
【0074】
そして、缶体のたわみ振動が発生することにより、
図7(c)に示すように、振動持続時間は(i)、(ii)の場合よりも長くなる(20.89ms)。
【0075】
なお、腐食が発生した後に、鋼製ケーシング(缶体)と耐火材との界面に、腐食生成物が付着した場合には、振動持続時間が短くなることもあるため、振動波形に基づく評価指標には、実際の腐食形態に合わせて、別の評価指標を採用して評価を行う。
【0076】
図5~
図7の各(b)、(c)を比較すると、いずれも互いに明確に異なっており、上記した[本発明の基本的な考え方]を適用することにより、内側耐火材と外側鋼製ケーシング(缶体)とで構成される焼却炉における異常の発生を確実に診断、評価できることが分かる。
【0077】
2.第2の実施の形態
本実施の形態においては、金属(鋼材)と樹脂(FRP)との複合材における健全性評価について、施工不良や経年劣化などによって金属(鋼材)と樹脂(FRP)との界面に発生した剥離(界面剥離)の診断、評価を行うに際して、上記した[本発明の基本的な考え方]が適用できることを具体的に説明する。なお、ここでは、周波数分布に基づく評価指標として固有振動ピークを採用している。
【0078】
図8は、金属(鋼材)と樹脂(FRP)との複合材を用いて作製された剥離模擬供試体の構成を示す模式斜視図であり、樹脂層3(厚さ:10mm)と鋼材層4(厚さ:10mm)との界面の一部に剥離を生じさせて界面剥離部を設けることにより、剥離模擬供試体としている。
【0079】
そして、界面剥離が生じていない供試体(健全供試体)および、剥離模擬供試体の表面を打振して、振動波形を得た後、周波数分布に変換する。なお、剥離模擬供試体における打振位置は、界面剥離部の上部位置(剥離上面までの距離:130mm)とし、健全供試体における打振位置も同じ位置とする。
【0080】
図9は、健全供試体への打振から得られた周波数分布であり、
図10は、剥離模擬供試体への打振から得られた周波数分布である。
【0081】
図9、
図10より、剥離模擬供試体においては、健全供試体に比べて、同一固有周波数ピークが明らかに低周波側にシフトしていることが分かる。この固有周波数の低周波数側へのシフトは、「第1の実施の形態」の場合と同様に、剥離箇所では厚さが減少していることにより発生しているものと考えられる。
【0082】
この結果より、上記した[本発明の基本的な考え方]を適用して、固有周波数の低周波数側へのシフトを確認することにより、金属(鋼材)と樹脂(FRP)との複合材における界面剥離の発生を、確実に診断、評価できることが分かる。
【0083】
なお、上記した固有周波数の低周波数側へのシフトは、剥離上部だけではなく、試験体の全体で観測が可能であるため、固有周波数の低周波数側へのシフトに基づいた評価は、測定位置にあまり依存することなく、簡易的に、剥離の発生の有無を検知することができる。
【0084】
そして、剥離の発生の有無を検知した後、剥離位置を特定して評価しようとする場合には、局所的な振動について評価する必要があるため、高周波数側の固有周波数や、振動の伝搬時間などを組み合わせて評価を行うことが好ましい。
【0085】
3.第3の実施の形態
本実施の形態においては、ライナーにより内張りされている金属ダクトにおける健全性評価について、ライナーの剥離の診断、評価を行うに際して、上記した[本発明の基本的な考え方]が適用できることを具体的に説明する。なお、ここでは、評価指標として、ダクトの形状、材料にも依存するが、周波数分布の形状を採用している。
【0086】
金属ダクトでは内面の腐食を抑制するために、樹脂等のライナーにより内張りされていることがあるが、この場合、ライナーが剥離すると、ダクトの腐食が顕著に進展して、穴が開いてしまうことがある。
【0087】
そこで、ライナーの剥離の発生の有無を診断、評価する必要があるが、長くて狭い経路のダクトの内部に入って点検することは労力を要するため、ダクトの外面から打診によりライナーの剥離の発生の有無を診断、評価することが好ましい。
【0088】
図11は、樹脂製ライナーが内張りされたダクトの健全部を打振して得られた周波数分布であり、
図12は、樹脂製ライナーが内張りされたダクトの剥離発生部を打振して得られた周波数分布である。
【0089】
図11に示すように、健全部を打振した場合には、振動がライナーにより吸収されるため、周波数分布はブロードな形状を示す。これに対して、剥離発生部を打振した場合には、
図12に示すように、ライナーによる振動の吸収がないため、周波数分布はシャープな形状を示す。
【0090】
この結果より、上記した[本発明の基本的な考え方]を適用して、周波数分布の形状を確認することにより、ダクトに内張りされた樹脂製ライナーにおける剥離の発生を、確実に診断、評価できることが分かる。
【0091】
なお、本実施の形態は、ダクトだけでなく、配管等に内張りされたライナーにおける剥離の発生や、金属とFRPなどの複合材との界面における剥離の発生の診断、評価にも適用することができる。
【0092】
4.第4の実施の形態
本実施の形態においては、ライナーにより内張りされている金属タンクにおける健全性評価について、ライナーの剥離の診断、評価を行うに際して、上記した[本発明の基本的な考え方]が適用できることを具体的に説明する。なお、ここでは、評価指標として、タンクの形状、材料にも依存するが、周波数分布のピーク位置を採用している。
【0093】
金属タンクでは内面の腐食を抑制するために、樹脂等のライナーにより内張りされていることがあるが、この場合、ライナーが剥離すると、タンクの腐食が顕著に進展して、タンクからの漏洩が生じることがある。
【0094】
そこで、ライナーの剥離の発生の有無を診断、評価する必要があるが、閉じたタンクの内部に入って点検することは労力を要するため、タンクの外面から打診によりライナーの剥離の発生の有無を診断、評価することが好ましい。
【0095】
具体的には、内張りされた樹脂製ライナーに剥離の発生が懸念される面(剥離部分)と、剥離の発生がない面(健全部分)と対向させたタンクを作製し、剥離が確実に発生していると考えられる箇所(剥離部分1)と、その対面で剥離の発生がない面(健全部分1)とを打振し、それぞれ、周波数分布を得る。また、剥離発生の兆候が考えられる箇所(剥離部分2)と、その対面で剥離の発生がない面(健全部分2)とを打振し、それぞれ、周波数分布を得る。
【0096】
図13は、剥離が確実に発生していると考えられる箇所(剥離部分1)と、その対面で剥離の発生がない面(健全部分1)とを打振して得られた周波数分布であり、上段が剥離部分1、下段が健全部分1である。そして、
図14は、剥離発生の兆候が考えられる箇所(剥離部分2)と、その対面で剥離の発生がない面(健全部分2)とを打振して得られた周波数分布であり、上段が剥離部分2、下段が健全部分2である。
【0097】
図13では、健全部分1で2536Hzに計測されたピークが、剥離部分1では801Hzと低周波領域に計測されている。同様に、
図14では、健全部分2で1678Hzに計測されたピークが、剥離部分2では1272Hzと低周波領域に計測されている。
【0098】
このように、ライナー剥離部分(剥離部分1、2)では、対面位置(健全部分1、2)で見られない1300Hz以下の低周波領域に、強い振動ピークが存在することから、上記した[本発明の基本的な考え方]を適用して、周波数分布の低周波領域におけるピーク位置の存在を確認することにより、ダクトに内張りされた樹脂製ライナーにおける剥離の発生を、確実に診断、評価できることが分かる。
【0099】
そして、剥離部分1では、剥離部分2よりも低周波領域に強い振動ピークが現れていることから、剥離部分2のように1300Hz程度以下に振動ピークが現れている場合には、これを剥離の兆候の目安とすることができる。また、剥離部分1のように1000Hz程度以下に振動ピークが現れている場合には、これを剥離の発生の目安とすることができ、この場合には、タンクを開放して、内部を目視することにより、剥離の有無、状態を確認することが好ましい。
【0100】
なお、本実施の形態は、タンクだけでなく、配管等に内張りされたライナーにおける剥離の発生や、金属とFRPなどの複合材との界面における剥離の発生の診断、評価にも適用することができる。
【0101】
5.第5の実施の形態
本実施の形態においては、樹脂をガラスやカーボン繊維で補強した複合材(FRP)における健全性評価を行うに際して、上記した[本発明の基本的な考え方]が適用できることを具体的に説明する。なお、ここでは、評価指標として、周波数分布より得られる評価ピーク周波数を採用している。
【0102】
上記したように、ERPは、樹脂をガラスやカーボン繊維で補強した複合材であり、近年では、航空機の機体や自動車のボディ、さらには、各種機器のパーツ、タンク、配管などに利用されているが、樹脂および繊維のそれぞれの状態(例えば、物理的特性、および、ひび割れ、空洞等の構造健全性)、および、樹脂と繊維との界面の状態(例えば、密着、剥離など)等を、非破壊で表面から確認することは容易ではない。
【0103】
このFRPの劣化は、荷重(例えば、静荷重、繰返し疲労荷重、熱疲労など)、紫外線、加水分解などにより生じるが、本実施の形態においては、FRP板材が疲労損傷を受けた場合を例に挙げて、打振による診断、評価について説明する。
【0104】
具体的には、
図15に示すように、FRP板材5の長手方向に所定の大きさの単軸疲労荷重を、所定の時間、所定の時間間隔で繰り返し掛け、所定の回数(疲労回数)毎に、検査対象の表面にセンサを設置して打振し、取得された振動波形から周波数分布を作成して、ピーク周波数(評価ピーク周波数)を求め、疲労回数に伴う評価ピーク周波数の変化を計測する。
【0105】
図16は、上記した計測により得られた疲労回数と評価ピーク周波数との関係を示す図であり、横軸は疲労回数(N)、縦軸は評価ピーク周波数(Hz)である。
図16より、疲労回数の増加に伴って、評価ピーク周波数が低下し、2500Hzを下回った場合には、FRP板材の破断が発生することが分かる。
【0106】
そして、この結果より、FRP板材の評価ピーク周波数を計測することにより、繰り返し疲労による劣化の状況を診断、評価することができるため、上記した[本発明の基本的な考え方]を適用して、FRP板材の破損に至る前の段階に対応する評価ピーク周波数を評価の基準値として設定することにより、FRPの状態を確実に診断、評価できることが分かる。
【0107】
6.第6の実施の形態
本実施の形態においては、検査対象の全面に亘る相対的変化、または経年変化を診断、評価する場合において、上記した[本発明の基本的な考え方]が適用できることを具体的に説明する。なお、本実施の形態において、評価指標には、振動持続時間、および固有周波数を採用している。
【0108】
具体的には、トンネルの内壁に設けられ、事前に「うき」があると判定されたモルタル補修済の目地部で、打振に基づく診断、評価を行った。
図17は、打振を行った箇所を示す図であり、モルタル補修済の目地部を挟んだ覆工コンクリート部(1100mm×1500mm)を示している。打振は、覆工コンクリート部で、10cm格子状の〇で示す部分に対して行い、各位置における振動持続時間および評価ピーク周波数を求めた。
【0109】
図18に振動持続時間を評価指標とする計測結果を、
図19に固有周波数を評価指標とする計測結果を示す。なお、
図18、
図19においては、覆工コンクリート部の左側下端を原点とし、縦軸に高さ方向位置(mm)、横軸に水平方向位置(mm)を配して、
図18では振動持続時間(ms)、
図19では評価ピーク周波数(Hz)の計測結果をコンター図として示している。
【0110】
図18より、中央の目地部における振動持続時間は、周囲の覆工コンクリート部に比較して、長くなっていることが分かる。そして、
図19より、中央の目地部における評価ピーク周波数は、周囲の覆工コンクリート部に比較して、著しく短いことが分かる。
【0111】
この結果より、本発明の[基本的な考え方]を適用することにより、検査対象の全面に亘る相対的変化、または経年変化を診断、評価できることが分かる。
【0112】
そして、このようなコンター図の使用は、検査対象の全面に対して容易に視覚的判断することができる。
【0113】
7.第7の実施の形態
本実施の形態においては、検査対象の複合構造物または複合構造材における健全性評価を行うに際して、上記した[本発明の基本的な考え方]に対して、AI(人口知能)診断が適用できることを説明する。
【0114】
具体的には、AIを使用して、それまでの評価指標の特徴量と評価指標の基準値とに基づく診断、評価における結果を学習させておく(AI学習)。そして、検査対象の複合構造物または複合構造材を打振して取得された振動波形や周波数分布から得られるデータ(評価指標の特徴量)を入力データに採用して、対応する複合構造物または複合構造材における状態(異常の有無)をAIから出力データとして採用することにより、検査対象の複合構造物または複合構造材における健全性評価を行うことができる(AI診断)。そして、その結果を新しいデータとしてAIに追加することにより、AI診断の精度をより高い精度で、より効率的に行うことができる。
【0115】
なお、AI診断に用いるAI学習としては、特に限定されず、例えば、機械学習、深層学習、教師あり学習、教師なし学習など、いずれを採用してもよい。
【0116】
以上、本発明を実施の形態に基づいて説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではない。本発明と同一および均等の範囲内において、上記の実施の形態に対して種々の変更を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0117】
1 缶体
2 耐火材
3 樹脂層
4 金属(鋼材)層
5 FRP板材