(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025026020
(43)【公開日】2025-02-21
(54)【発明の名称】物体形状計測装置
(51)【国際特許分類】
G01B 11/24 20060101AFI20250214BHJP
【FI】
G01B11/24 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023131340
(22)【出願日】2023-08-10
(71)【出願人】
【識別番号】596120359
【氏名又は名称】ミツテック株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504160781
【氏名又は名称】国立大学法人金沢大学
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 義典
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 一規
(74)【代理人】
【識別番号】100159581
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 勝誠
(74)【代理人】
【識別番号】100106264
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 耕治
(72)【発明者】
【氏名】飯山 宏一
(72)【発明者】
【氏名】銭尾 和之
(72)【発明者】
【氏名】田口 雄太
(72)【発明者】
【氏名】青井 昭博
【テーマコード(参考)】
2F065
【Fターム(参考)】
2F065AA04
2F065AA06
2F065AA53
2F065BB05
2F065DD03
2F065DD06
2F065FF52
2F065FF66
2F065GG04
2F065GG12
2F065HH04
2F065JJ01
2F065LL15
2F065MM16
2F065MM26
2F065PP22
2F065QQ23
(57)【要約】 (修正有)
【課題】高精度かつ短時間での計測が可能な物体形状計測装置を提供する。
【解決手段】周波数を掃引可能なレーザ光を照射可能なレーザ光源と、レーザ光を、参照光および信号光に分配する分配器と、信号光の進行方向を変えて信号光を対象物に照射する鏡と、信号光の対象物からの反射光および参照光の干渉信号を生成する生成部と、干渉信号の周波数から対象物の形状を特定する測定部とを備え、鏡が、対象物の表面を信号光がスキャンするように回転可能に構成されており、周波数の掃引が、鏡を一定速度で回転させつつ、周波数を上昇させる上昇区間と、周波数を下降させる下降区間とが交互に繰り返されるものであり、上昇区間および下降区間が、低速領域と、低速領域より短い時間で掃引される高速領域とに分類され、各区間において、両側に隣接する区間のうちの少なくとも一方が異なる領域に属し、測定部が、干渉信号として、高速領域における干渉信号を用いる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光を用いて対象物の形状を測定する物体形状計測装置であって、
周波数を掃引可能なレーザ光を照射可能なレーザ光源と、
上記レーザ光を、参照光および信号光に分配する分配器と、
上記信号光の進行方向を変えて上記信号光を対象物に照射する鏡と、
上記信号光の上記対象物からの反射光および上記参照光の干渉信号を生成する生成部と、
上記干渉信号の周波数から上記対象物の形状を特定する測定部と
を備え、
上記鏡が、上記対象物の表面を上記信号光がスキャンするように回転可能に構成されており、
上記周波数の掃引が、上記鏡を一定速度で回転させつつ、上記周波数を上昇させる上昇区間と、上記周波数を下降させる下降区間とが交互に繰り返されるものであり、
上記上昇区間および上記下降区間が、低速領域と、上記低速領域より短い時間で掃引される高速領域とに分類され、各区間において、両側に隣接する区間のうちの少なくとも一方が異なる領域に属し、
上記測定部が、上記干渉信号として、上記高速領域における上記干渉信号を用いる物体形状計測装置。
【請求項2】
上記鏡が、ガルバノミラーである請求項1に記載の物体形状計測装置。
【請求項3】
上記鏡が、ポリゴンミラーである請求項1に記載の物体形状計測装置。
【請求項4】
上記低速領域および上記高速領域に含まれる区間数が、それぞれ1区間である請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の物体形状計測装置。
【請求項5】
上記低速領域および上記高速領域に含まれる区間数が、それぞれ2区間である請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の物体形状計測装置。
【請求項6】
上記高速領域における上記対象物の表面の上記信号光のスキャン距離が、20μm以下である請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の物体形状計測装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、物体形状計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
距離を測定する装置として、FMCW(Frequency Modulated Continuous Wave)方式によって対象物までの距離を測定する装置が公知である(特開2017-181115号公報参照)。
【0003】
この距離測定装置では、周波数を掃引可能なレーザ光を対象物に照射し、その反射光を、同じく上記レーザ光から分配した参照光と干渉させる。上記レーザ光は周波数が掃引されているため、反射光と参照光との光路差に応じて異なる周波数の光が干渉することになるため、干渉光を観察すれば上記光路差が分かる。参照光の光路長は既知であるため、この光路差は、反射光の光路長、つまり上記対象物までの距離に起因する。
【0004】
上記対象物の測定位置を変えて上記光路差を求めれば、その光路差の違いは、上記対象物表面の凹凸を表すから、上記対象物の形状を特定することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記対象物の測定位置を変える方法としては、例えばガルバノミラーを用いた方法が採用され得る。ガルバノミラーは、一定の角度範囲内を回転するように往復運動する。これにより鏡面に対するレーザ光の入射角が変化し、上記対象物の表面をスキャンすることができる。
【0007】
ここで、距離の測定中には測定位置を変えない方が良いことから、ガルバノミラーの回転角はステップ状に変化するように制御される。つまり、一定の角度で固定されたガルバノミラーで距離を測定し、次にガルバノミラーの回転角を、少し変えて再度固定し、その後、距離測定を行うという繰り返しで測定がなされる。
【0008】
このような測定方法を採る場合、ガルバノミラーは回転と停止を繰り返すこととなり、鏡の角度が安定するまでの時間を要する。上記対象物の測定時間は、上記レーザ光を掃引する周期を短くすると短くなるが、その周期が鏡の角度が安定するまでの時間より短くなると、距離測定に誤差が生じることになる。例えばガルバノミラーの場合で、高精度な測定が可能な変調周波数(上記レーザ光を掃引する周期の逆数)は、1.4kHz以下と低く、高精度かつ短時間での計測が難しい。
【0009】
本開示は、上述のような事情に基づいてなされたものであり、FMCW方式の距離測定を利用しつつ、高精度かつ短時間での計測が可能な物体形状計測装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示の一態様に係る物体形状計測装置は、レーザ光を用いて対象物の形状を測定する物体形状計測装置であって、周波数を掃引可能なレーザ光を照射可能なレーザ光源と、上記レーザ光を、参照光および信号光に分配する分配器と、上記信号光の進行方向を変えて上記信号光を対象物に照射する鏡と、上記信号光の上記対象物からの反射光および上記参照光の干渉信号を生成する生成部と、上記干渉信号の周波数から上記対象物の形状を特定する測定部とを備え、上記鏡が、上記対象物の表面を上記信号光がスキャンするように回転可能に構成されており、上記周波数の掃引が、上記鏡を一定速度で回転させつつ、上記周波数を上昇させる上昇区間と、上記周波数を下降させる下降区間とが交互に繰り返されるものであり、上記上昇区間および上記下降区間が、低速領域と、上記低速領域より短い時間で掃引される高速領域とに分類され、各区間において、両側に隣接する区間のうちの少なくとも一方が異なる領域に属し、上記測定部が、上記干渉信号として、上記高速領域における上記干渉信号を用いる。
【発明の効果】
【0011】
本開示の物体形状計測装置は、FMCW方式の距離測定を利用しつつ、高精度かつ短時間での計測が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本開示の一態様に係る物体形状計測装置の装置構成を示す模式的ブロック図である。
【
図2】
図2は、
図1のレーザ光の周波数掃引パターンを示すグラフである。
【
図3】
図3は、
図1の鏡として用いられるガルバノミラーの構成を示す模式図である。
【
図4】
図4は、
図1の鏡として用いられるポリゴンミラーの構成を示す模式図である。
【
図5】
図5は、
図1の生成部で生成される干渉信号を説明するグラフである。
【
図6】
図6は、補助干渉計の動作を説明するグラフである。
【
図7】
図7は、
図1とは異なる実施形態に係る物体形状計測装置の装置構成を示す模式的ブロック図である。
【
図8】
図8は、
図7のレーザ光の周波数掃引パターンを示すグラフである。
【
図9】
図9は、
図7の生成部で生成される干渉信号を説明するグラフである。
【
図10】
図10は、ドップラー効果の発生を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[本開示の実施形態の説明]
(1)本開示の一態様に係る物体形状計測装置は、レーザ光を用いて対象物の形状を測定する物体形状計測装置であって、周波数を掃引可能なレーザ光を照射可能なレーザ光源と、上記レーザ光を、参照光および信号光に分配する分配器と、上記信号光の進行方向を変えて上記信号光を対象物に照射する鏡と、上記信号光の上記対象物からの反射光および上記参照光の干渉信号を生成する生成部と、上記干渉信号の周波数から上記対象物の形状を特定する測定部とを備え、上記鏡が、上記対象物の表面を上記信号光がスキャンするように回転可能に構成されており、上記周波数の掃引が、上記鏡を一定速度で回転させつつ、上記周波数を上昇させる上昇区間と、上記周波数を下降させる下降区間とが交互に繰り返されるものであり、上記上昇区間および上記下降区間が、低速領域と、上記低速領域より短い時間で掃引される高速領域とに分類され、各区間において、両側に隣接する区間のうちの少なくとも一方が異なる領域に属し、上記測定部が、上記干渉信号として、上記高速領域における上記干渉信号を用いる。
【0014】
当該物体形状計測装置では、レーザ光の周波数を掃引する際に、鏡を一定速度で回転させているので、鏡が定常状態にあり、鏡の応答に起因する測定誤差の誘発を抑止できる。また、当該物体形状計測装置では、短い時間で掃引される高速領域での干渉信号を測定に用いるので、測定中に対象物の表面の測定位置が移動することを抑止できる。このため、測定位置の移動による測定精度の低下を抑止できる。従って、当該物体形状計測装置は、高精度かつ短時間での計測を行うことができる。
【0015】
(2)上記(1)に記載の物体形状計測装置で、上記鏡が、ガルバノミラーであるとよい。ガルバノミラーはXYの2軸方向に傾斜を制御可能であり、共振等により温度が上昇することも少ない。このため、上記鏡をガルバノミラーとすることで、制御性を高められる。
【0016】
(3)上記(1)に記載の物体形状計測装置で、上記鏡が、ポリゴンミラーであるとよい。ポリゴンミラーは、同一回転方向に向けて高速に回転可能である。このため、上記鏡をポリゴンミラーとすることで、より短時間での計測を可能とする。
【0017】
(4)上記(1)から(3)のいずれかに記載の物体形状計測装置で、上記低速領域および上記高速領域に含まれる区間数が、それぞれ1区間であるとよい。このように上記低速領域および上記高速領域に含まれる区間数をそれぞれ1区間とすることで、各領域の時間を短縮できる。低速領域の時間の短縮は、対象物表面の隣合う測定点間の距離の短縮を意味し、解像度を高める。また、高速領域の時間の短縮は、測定中に対象物の表面の測定位置が移動する距離を縮められる。いずれにおいても、測定精度を高めることができる。
【0018】
(5)上記(1)から(3)のいずれかに記載の物体形状計測装置で、上記低速領域および上記高速領域に含まれる区間数が、それぞれ2区間であるとよい。このように上記低速領域および上記高速領域に含まれる区間数をそれぞれ2区間とすると、1回の測定中に上記周波数を上昇させる上昇区間と上記周波数を下降させる下降区間とが含まれることになる。1回の測定中に上昇区間と下降区間とが含まれることで、鏡が回転することによって生じるドップラー効果を補償でき、測定精度を高めることができる。
【0019】
(6)上記(1)から(5)のいずれかに記載の物体形状計測装置で、上記高速領域における上記対象物の表面の上記信号光のスキャン距離としては、20μm以下が好ましい。このように記高速領域における上記対象物の表面の上記信号光のスキャン距離を上記上限以下とすることで、測定位置の移動による測定精度が低下することをさらに抑止できる。なお、スキャン距離は、平面視における距離をいう。
【0020】
[本開示の実施形態の詳細]
以下、本開示の各実施形態に係る物体形状計測装置について説明する。
【0021】
〔第1実施形態〕
図1に示す物体形状計測装置1は、レーザ光L1を用いて対象物Sの形状を測定する物体形状計測装置である。当該物体形状計測装置1は、レーザ光源10と、第1分配器20と、第2分配器30と、サーキュレータ40と、レンズ50と、鏡60と、生成部70と、測定部80と、補助干渉計90とを備える。
【0022】
<レーザ光源>
レーザ光源10は、周波数を掃引可能なレーザ光L1を照射可能である。レーザ光源10としては、例えば半導体レーザを用いることができる。半導体レーザでは、その注入する電流を三角波あるいはのこぎり波で変調することで、発振する光の周波数を掃引することができる。
【0023】
上記周波数の掃引は、
図2に示すように、上記周波数を上昇させる上昇区間DUと、上記周波数を下降させる下降区間DDとが交互に繰り返されるものである。上昇区間DUと下降区間DDとの周波数の掃引は、それぞれ同じ掃引パターン(時間に対する周波数の応答波形が同じ)であることが好ましい。
【0024】
また、上昇区間DUおよび下降区間DDは、低速領域RLと、低速領域RLより短い時間で掃引される高速領域RHとに分類され、各区間において、両側に隣接する区間のうちの少なくとも一方が異なる領域に属する。
図2では、各区間の両側に隣接する区間はいずれも異なる領域に属しており、低速領域RLおよび高速領域RHに含まれる区間数が、それぞれ1区間である。具体的には、低速領域RLには下降区間DDが属し、高速領域RHには上昇区間DUが属している。以下、第1実施形態では、レーザ光L1の周波数の掃引が
図2の波形である場合を説明する。
【0025】
<第1分配器、第2分配器>
第1分配器20は、レーザ光L1を分配し、その一部を補助参照光L2として取り出す。また、第2分配器30は、レーザ光L1を、参照光L3および信号光L4に分配する。
【0026】
第1分配器20および第2分配器30としては、公知の光分配器、例えば1×2光ファイバカプラを用いることができる。当該物体形状計測装置1では、第1分配器20が第2分配器30より上流側に配置されているが、この順序は問われず、逆であってもよい。
【0027】
<サーキュレータ>
サーキュレータ40は、信号光L4を透過させ、信号光L4の対象物Sからの反射光L5の進行方向を変え、反射光L5を取り出す。
【0028】
サーキュレータ40としては、公知の光サーキュレータを用いることができる。
【0029】
<レンズ>
レンズ50は、信号光L4および反射光L5を集光させ、対象物Sおよび生成部70に焦点を合わせる。
【0030】
<鏡>
鏡60は、信号光L4の進行方向を変えて信号光L4を対象物Sに照射する。鏡60は、対象物Sの表面を信号光L4がスキャンするように回転可能に構成されている。当該物体形状計測装置1では、鏡60を一定速度で回転させつつ周波数の掃引が行われる。なお、機械的制御誤差等あるいは、往復の回転運動をしているものについては回転方向が切り換わる際に不可避的に速度の変動が生じたとしても「一定速度で」回転しているものとみなす。
【0031】
鏡60としては、
図3に示すガルバノミラー61、
図4に示すポリゴンミラー62等を用いることができる。
【0032】
(ガルバノミラー)
ガルバノミラー61は、レーザ光を反射する部品であり、板状である。ガルバノミラー61は、
図3に示す角度θが一定の範囲内で往復の回転運動をする。この回転運動の角速度(の絶対値)は一定である。
図3では、この回転運度のうち、一方の回転を矢印で示している。これにより信号光L4は、対象物Sの表面を
図3に示すスキャン方向SDに沿ってスキャンする。
【0033】
後述するように、当該物体形状計測装置1では、高速領域RHで対象物Sまでの距離が測定され、この距離に基づいて物体の形状を求める。
図3に示すように、高速領域RHと低速領域RLとが交互に現れるため、
図3の対象物S表面に示すように測定点Pは、離散的に現れる。また、高速領域RHを通過する時間の方が、低速領域RLを通過する時間より短いため、測定点Pのスキャン距離は、隣合う測定点P間の間隔よりも小さい。
【0034】
なお、一定の角度まで回転した後は、
図3の矢印とは逆方向に回転を始め、
図3のスキャン方向SDとは逆方向にスキャンが行われる。このとき、スキャン方向SDは逆方向となる点以外は同様である。例えばスキャン方向SDが変わるごとに、ガルバノミラー61を
図3の紙面に垂直な方向に回転させることで、すでに測定した測定点Pの列とは異なる列を測定することができる。このようにして対象物Sの立体形状を測定できる。あるいは
図3の紙面に垂直な方向へは、ガルバノミラー61を、光学系を含む全体を移動させることで異なる列を測定する構成としてもよい。
【0035】
ガルバノミラー61は、XYの2軸方向に傾斜を制御可能であり、共振等により温度が上昇することも少ない。このため、鏡60をガルバノミラー61とすることで、制御性を高められる。
【0036】
(ポリゴンミラー)
ポリゴンミラー62は、回転多面鏡であり、一方向に高速で回転可能である。ポリゴンミラー62は、
図4の紙面に垂直方向に中心軸を有する多角柱状である。
図4では六角柱状であるが、六角柱状に限定されるものではなく、八角柱状や十角柱状など他の多角柱状であってもよい。
【0037】
その他の構成は、ガルバノミラー61と同様であるので、詳細説明を省略する。
【0038】
ポリゴンミラー62は、同一回転方向に向けて高速に回転可能である。このため、鏡60をポリゴンミラー62とすることで、より短時間での計測を可能とする。
【0039】
<生成部>
生成部70は、信号光L4の対象物Sからの反射光L5および参照光L3の干渉信号L6を生成する。生成部70は、第1合流分配器71と、第1検出器72とを有する。
【0040】
第1合流分配器71は、反射光L5および参照光L3を合流させ、直流成分は同じで交流成分が互いに逆相となる2つの光に分波する。この交流成分が干渉光に相当する。第1合流分配器71としては、2×2光ファイバカプラを用いることができる。
【0041】
第1検出器72は、第1合流分配器71で分波された2つの光の差分をとり、電気信号(干渉信号L6)に変換する。このように第1合流分配器71で分波された2つの光の差分を取ると直流成分は引き算されて0になり、交流成分の振幅は2倍となるため、干渉信号L6のSN比が向上する。
【0042】
生成部70により観測される波形について、
図5を用いて説明する。
図5では、簡便のため、レーザ光L1が
図2の波形である場合を説明している。
【0043】
当該物体形状計測装置1では、レーザ光L1の周波数の掃引は、線形に行われることが好ましい。以下、上記周波数の掃引が線形に行われる場合を例にとり説明する。なお、一般には上記周波数の掃引を線形に行うことは難しく、線形から外れる場合もある。このような場合、後述する補助干渉計90により線形に掃引されたと同様の効果を得ることができる。
【0044】
参照光L3と反射光L5とは、位相遅れが生じる点を除きレーザ光L1と同じ波形が観測される。ここで、反射光L5は、対象物Sの表面で反射した光であり、参照光L3より長い光路を経て第1合流分配器71に至る。この光路差は、第2分配器30から第1合流分配器71に至る光路と、サーキュレータ40から第1合流分配器71に至る光路とを等長に設計しておくと、サーキュレータ40から対象物Sの表面に至る光路(光路長L)を往復する距離2Lとなる。このとき、光速をcとして、反射光L5は、参照光L3に対してτ=2L/cだけ遅れた波形となる。一般に、2L≪cとなるから、
図5に示すように、反射光L5は、参照光L3に対してわずかに遅延した波形となる。なお、この遅延量は、例えば鏡60の位置等を調整することでLの長さを変えることができるから、所望の値に調整可能である。
【0045】
当該物体形状計測装置1では、後述する測定部80で高速領域RHにおける干渉信号L6を用いて測定が行われる。高速領域RHにおいては、
図5に示すように、両端の一部を除いて、参照光L3を高周波数側とする一定の周波数差Δfで、参照光L3と反射光L5とは掃引される。このとき、両者を重ね合わせると、周波数Δfで強度変化が生じる干渉信号L6となる(
図5の下段のグラフ参照)。
【0046】
<測定部>
測定部80は、干渉信号L6の周波数から対象物Sの形状を特定する。測定部80は、干渉信号L6として、高速領域RHにおける干渉信号L6を用いる。また、測定部80は、ADコンバータ81と、計算機82とを有する。
【0047】
ADコンバータ81は、干渉信号L6をサンプリングしてデジタル化する。当該物体形状計測装置1では、後述する補助干渉計90から供給されるサンプリング信号CKによって離散的にデジタル化される。このサンプリング信号CKのタイミングにより、レーザ光L1の周波数の掃引が非線形であっても、線形に掃引されたと同様の効果を得られる。
【0048】
計算機82は、例えばパーソナルコンピュータや、マイクロコントローラボード、マイクロコントローラユニット等により構成され、上述した光路長Lの変化を算出することで、対象物Sの形状を特定する。以下、その原理について説明する。
【0049】
まず、ADコンバータ81により得られた干渉信号L6のデジタルデータから高速領域RHにおける干渉信号L6の周波数Δfを特定する。このΔfは、掃引される周波数の幅ΔFと、上昇区間DUの周波数を掃引するのに要する時間tu、反射光L5の参照光L3に対する遅延時間τを用いて、
Δf=ΔF×τ/tu=ΔF×2L/c/tu ・・・1
と書けるから、
L=1/2×(Δf/ΔF)×(c×tu) ・・・2
と表すことができる。
【0050】
上述したように、高速領域RHで対象物Sまでの距離が測定される測定点Pは離散的である。例えば最初の測定点Pで算出される光路長Lを基準として、他の測定点Pで算出される光路長との差分ΔLを求めると、このΔLが対象物Sの表面の凹凸を表す。また、上述したように鏡60等の位置や傾きを制御することで、すでに測定した測定点Pの列とは異なる列を測定することができるから、当該物体形状計測装置1は、対象物Sの形状を特定することができる。
【0051】
当該物体形状計測装置1は、鏡60を一定速度で回転させつつ、光路長Lを求めるため、測定点Pは光路長Lの測定が行われる高速領域RHであっても一定距離移動する。この高速領域RHにおける対象物Sの表面の信号光L4のスキャン距離の上限としては、10μmが好ましく、5μmがより好ましい。上記スキャン距離が長くなると、例えば対象物Sの凹凸に起因して測定中に光路長Lの変動が大きくなる場合があり、測定誤差につながる。上記スキャン距離を上記上限以下とすることで、測定位置の移動による測定誤差が生じることを抑止し易い。一方、上記スキャン距離は、高速領域RHにおける干渉信号L6の周波数Δfを特定するために必要な時間を確保できる限り特に限定されず、小さい方がよいが、通常1μm以上とされる。
【0052】
連続する低速領域RLの1区間と高速領域RHの1区間とを合計した領域の繰返し周期に対する高速領域RHの割合の下限としては、5%が好ましく、10%がより好ましい。一方、上記高速領域RHの割合の上限としては、40%が好ましく、30%がより好ましい。上記高速領域RHの割合を上記下限以上とすることで、高速領域RHにおける干渉信号L6の周波数Δfを特定するために必要な時間を確保し易い。また、レーザ光の周波数の掃引を容易に行える。上記高速領域RHの割合を上記上限以下とすることで、測定位置の移動による測定誤差が生じることを抑止し易い。また、このように高速領域RHの割合を低くとることで、同じ繰返し周期であっても、測定誤差をより低減できる。
【0053】
低速領域RLと高速領域RHとの繰返し周波数(上記繰返し周期の逆数)の下限としては、測定時間の観点から、2kHzが好ましく、10kHzがより好ましく、50kHzがさらに好ましく、200kHzが特に好ましい。一方、上記繰返し周波数が大きい場合、高速領域RHの時間が短くなり高速領域RHにおける干渉信号L6の周波数Δfを特定するために必要な時間を確保し難くなるおそれがある。この観点から上記繰返し周波数の上限としては、50MHzが好ましく、30MHzがより好ましい。
【0054】
<補助干渉計>
補助干渉計90は、レーザ光L1の周波数の掃引の非線形を打ち消すためのサンプリングタイミングを生成する。補助干渉計90は、第3分配器91と、第2合流分配器92と、第2検出器93とを有する。
【0055】
第3分配器91は、補助参照光L2を、第1補助参照光L7と第2補助参照光L8とに分配する。このうち第2補助参照光L8は、第1補助参照光L7よりも光路長がLAだけ長くなるように調整されており、第2合流分配器92に至る際には、第1補助参照光L7よりも遅延している。例えばこの調整は、第1補助参照光L7と第2補助参照光L8とを通過させる光ファイバの長さを変えることで行える。第1補助参照光L7と第2補助参照光L8との間の光路差LAは、サンプリング定理を満たす必要があり、第2補助参照光L8が通過する光路(光ファイバ)の屈折率をnとするとき測定対象の光路長Lに対してnLAが4倍以上であることが求められる。
【0056】
第2合流分配器92および第2検出器93は、それぞれ生成部70の第1合流分配器71および第1検出器72と同様であり、第1補助参照光L7と第2補助参照光L8との間の同一時刻における周波数の差分で決まる信号(サンプリング信号CK)が出力される。
【0057】
補助干渉計90は、レーザ光L1の周波数の掃引が非線形である場合に効果を発揮する。上述したようにレーザ光L1の周波数の掃引は線形に行われることが好ましいが、例えば半導体レーザを用いている場合、レーザ光源10の周波数応答は電流変化に対して遅れるため、実際には
図6に示すように、周波数の掃引は非線形となりやすい(
図6は、第1補助参照光L7および第2補助参照光L8とサンプリング信号CKとの関係を示しているが、参照光L3および反射光L5と干渉信号L6との関係でも同じである)。
図6の場合、これらの波形の干渉として観測される干渉信号L6は、周波数が徐々に増加することになる。上述したサーキュレータ40から対象物Sへ至る光路長Lを算出する式2は、線形の掃引を前提としているため、そのまま適用すると光路長Lの算出に誤差を生じることになる。
【0058】
これに対し、当該物体形状計測装置1では、補助干渉計90で生成されたサンプリング信号CKを用いて、測定部80のADコンバータ81で、アナログ信号である干渉信号L6をサンプリングしてデジタル化する。このように構成すると、掃引する周波数の変化が小さいところはサンプリング間隔が広がり、周波数の変化が大きいところはサンプリング間隔が狭くなるため、隣合うサンプリング点での周波数の変化が均等となる方向に補正され、最適化される。従って、光路長Lの算出誤差を低減することができる。
【0059】
また、デジタル化された干渉信号L6はFFT解析される。このFFT解析したビートスペクトルにおいてD番目のデータにピークが現れれば、光路長Lは、以下の式3で求められる。下記式3のNは、FFT解析に用いたデータ数である。FFTによるビートスペクトルは離散値であるので、式3で求めた距離は離散値となる。そこで、ビートスペクトルのピーク付近を2次関数近似することで光路長Lを推定するとよい。
L={(n×LA)/(2×N)}×D ・・・3
【0060】
<利点>
当該物体形状計測装置1では、レーザ光L1の周波数を掃引する際に、鏡60を一定速度で回転させているので、鏡60が定常状態にあり、鏡60の応答に起因する測定誤差の誘発を抑止できる。また、当該物体形状計測装置1では、短い時間で掃引される高速領域RHでの干渉信号L6を測定に用いるので、測定中に対象物Sの表面の測定位置が移動することを抑止できる。このため、測定位置の移動による測定精度の低下を抑止できる。従って、当該物体形状計測装置1は、高精度かつ短時間での計測を行うことができる。
【0061】
また、当該物体形状計測装置1では、低速領域RLおよび高速領域RHに含まれる区間数をそれぞれ1区間とするので、各領域の時間を短縮できる。低速領域RLの時間の短縮は、対象物S表面の隣合う測定点間の距離の短縮を意味し、解像度を高める。また、高速領域RHの時間の短縮は、測定中に対象物Sの表面の測定位置が移動する距離を縮められる。いずれにおいても、測定精度を高めることができる。
【0062】
〔第2実施形態〕
図7に示す本開示の別の一態様に係る物体形状計測装置2は、レーザ光L1を用いて対象物Sの形状を測定する物体形状計測装置であって、周波数を掃引可能なレーザ光L1を照射可能なレーザ光源10と、レーザ光L1を、参照光L3および信号光L4に分配する第2分配器30と、信号光L4の進行方向を変えて信号光L4を対象物Sに照射する鏡60と、信号光L4の対象物Sからの反射光L5および参照光L3の干渉信号L6を生成する生成部70と、干渉信号L6の周波数から対象物Sの形状を特定する測定部80とを備え、鏡60が、対象物Sの表面を信号光L4がスキャンするように回転可能に構成されており、上記周波数の掃引が、鏡60を一定速度で回転させつつ、上記周波数を上昇させる上昇区間DUと、上記周波数を下降させる下降区間DDとが交互に繰り返されるものであり、上昇区間DUおよび下降区間DDが、低速領域RLと、低速領域RLより短い時間で掃引される高速領域RHとに分類され、各区間において、両側に隣接する区間のうちの少なくとも一方が異なる領域に属し、測定部80が、干渉信号L6として、高速領域RHにおける干渉信号L6を用いる。
【0063】
また、当該物体形状計測装置2は、第1分配器20と、サーキュレータ40と、レンズ50と、補助干渉計90とをさらに備える。当該物体形状計測装置2は、レーザ光L1の周波数の掃引が異なる点を除き、第1実施形態における物体形状計測装置1と同様に構成されるので、同一符号を付して詳細説明を省略する。
【0064】
(周波数の掃引)
当該物体形状計測装置2の周波数の掃引は、
図3に示すように、上昇区間DUと、下降区間DDとが交互に繰り返される。また、上昇区間DUおよび下降区間DDは、低速領域RLと、高速領域RHとに分類され、各区間において、両側に隣接する区間のうちの少なくとも一方が異なる領域に属する。
図3では、各区間の両側に隣接する領域は、一方が同じ領域に属し、他方が異なる領域に属しており、低速領域RLおよび高速領域RHに含まれる区間数が、それぞれ2区間である。具体的には、低速領域RLおよび高速領域RHにそれぞれ下降区間DDおよび上昇区間DUがこの順に属している。
【0065】
測定部80では、干渉信号L6として、高速領域RHにおける干渉信号L6を用いるので、当該物体形状計測装置2では、
図9に示すように、1回の測定中に上記周波数を上昇させる上昇区間DUと上記周波数を下降させる下降区間DDとが含まれることになる。
【0066】
下降区間DDのΔf1および上昇区間DUのΔf2は、後述するドップラー効果の影響を無視すると、掃引される周波数の幅ΔFと、下降区間DDおよび上昇区間DUの周波数を掃引するのに要する時間td、tu、反射光L5の参照光L3に対する遅延時間τを用いて、
Δf1=ΔF×τ/tu=ΔF×2L/c/tu ・・・4
Δf2=ΔF×τ/td=ΔF×2L/c/td ・・・5
と表される。
【0067】
ここで、ドップラー効果の影響について説明する。当該物体形状計測装置2では、鏡60が対象物Sの表面を信号光L4がスキャンするように回転可能に構成されている。また、上記周波数の掃引が、鏡60を一定速度で回転させつつ行われる。このとき、
図10に示すように、測定が行われる高速領域RHの起点での信号光L4Sと、高速領域RHの終点での信号光L4Eとでは光路長が異なり得る。
図10では、信号光L4Sの光路長の方が長いから、信号光L4のスキャンに伴って光路長が短くなる。この場合、対象物Sが相対的に近づいてくるのと同じ効果を奏し、光の周波数にドップラー効果が生じ、実際の周波数よりもΔf
dだけ高い周波数が観測されることになる。これは、干渉信号L6の周波数Δfの変化となって現れる。このため、ドップラー効果の影響が無視できない場合には、上記式4および上記式5から計算される光路長Lは誤差を有することとなる。
【0068】
例えば
図10の場合、下降区間DDでは、ドップラー効果の影響によりΔf
1は、ドップラー効果の影響がない場合に比べてΔf
dだけ周波数が高くなり、上昇区間DUでは、逆にΔf
2は、Δf
dだけ周波数が低くなる。このため、ドップラー効果の影響を加味した関係式は、
Δf
1+Δf
d=ΔF×τ/tu=ΔF×2L/c/tu ・・・6
Δf
2-Δf
d=ΔF×τ/td=ΔF×2L/c/td ・・・7
と表される。なお、信号光L4のスキャンに伴って光路長が長くなる場合は、この逆の影響が生じるから、上記式6および上記式7において、+Δf
d、-Δf
dが逆になる。
【0069】
上記式6および上記式7の両辺を加算すると、信号光L4のスキャンに伴って光路長が長くなる場合であっても短くなる場合であっても、下記式8が得られ、ドップラー効果の影響を相殺することができる。具体的には、下記式8の左辺は、ドップラー効果の影響の有無に関わらず下降区間DDおよび上昇区間DUで実際に測定される干渉信号L6の周波数の和と等しい。
Δf1+Δf2=ΔF×2L/c×(1/tu+1/td) ・・・8
【0070】
<利点>
当該物体形状計測装置2では、1回の測定中に上昇区間DUと下降区間DDとを含めることで、鏡60が回転することによって生じるドップラー効果を補償でき、測定精度を高めることができる。
【0071】
[その他の実施形態]
本開示は上記実施形態に限定されるものではなく、上記態様の他、種々の変更、改良を施した態様で実施することができる。
【0072】
上記第1実施形態では、低速領域に下降区間が属し、高速領域に上昇区間が属している場合を説明したが、低速領域に上昇区間が属し、高速領域に下降区間が属していてもよい。この場合、下降区間で対象物の形状測定が行われる。
【0073】
上記第2実施形態では、低速領域および高速領域にそれぞれ下降区間および上昇区間がこの順に属している場合を説明したが、低速領域および高速領域にそれぞれ上昇区間および下降区間がこの順に属していてもよい。
【0074】
さらに、各区間において、両側に隣接する区間のうちの少なくとも一方が異なる領域に属する限り、他のパターンであってもよい。
【0075】
上記実施形態では、生成部および補助干渉計が合流分配器および検出器を有する場合を説明したが、干渉信号を生成できる限りこの構成に限定されるものではない。他の公知の干渉計を用いることもできる。
【0076】
上記実施形態では、当該物体形状計測装置が補助干渉計を備える場合を説明したが、補助干渉計は必須の構成要素ではなく、例えばレーザ光源の周波数の掃引の線形性が高い場合には、補助干渉計を省略することができる。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本開示の物体形状計測装置は、FMCW方式の距離測定を利用しつつ、高精度かつ短時間での計測が可能である。
【符号の説明】
【0078】
1、2 物体形状計測装置
10 レーザ光源
20 第1分配器
30 第2分配器
40 サーキュレータ
50 レンズ
60 鏡
61 ガルバノミラー
62 ポリゴンミラー
70 生成部
71 第1合流分配器
72 第1検出器
80 測定部
81 ADコンバータ
82 計算機
90 補助干渉計
91 第3分配器
92 第2合流分配器
93 第2検出器
DU 上昇区間
DD 下降区間
RL 低速領域
RH 高速領域
L1 レーザ光
L2 補助参照光
L3 参照光
L4、L4S、L4E 信号光
L5 反射光
L6 干渉信号
L7 第1補助参照光
L8 第2補助参照光
CK サンプリング信号
S 対象物
SD スキャン方向
P 測定点
θ 角度