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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025026028
(43)【公開日】2025-02-21
(54)【発明の名称】皮膚幹細胞の分化促進剤
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/074 20100101AFI20250214BHJP
   C12N 5/071 20100101ALI20250214BHJP
   C12N 1/00 20060101ALI20250214BHJP
   A23L 33/105 20160101ALI20250214BHJP
   A61K 36/758 20060101ALI20250214BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20250214BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20250214BHJP
   A61K 8/9789 20170101ALI20250214BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20250214BHJP
   A61Q 19/08 20060101ALI20250214BHJP
   A61P 37/08 20060101ALI20250214BHJP
   A61K 131/00 20060101ALN20250214BHJP
【FI】
C12N5/074 ZNA
C12N5/071
C12N1/00 G
A23L33/105
A61K36/758
A61P43/00 107
A61P17/00
A61K8/9789
A61Q19/00
A61Q19/08
A61P37/08
A61K131:00
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023131356
(22)【出願日】2023-08-10
(71)【出願人】
【識別番号】592262543
【氏名又は名称】日本メナード化粧品株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】眞田 歩美
(72)【発明者】
【氏名】宮地 克真
(72)【発明者】
【氏名】山田 貴亮
(72)【発明者】
【氏名】深田 紘介
【テーマコード(参考)】
4B018
4B065
4C083
4C088
【Fターム(参考)】
4B018LB01
4B018LB02
4B018LB05
4B018LB06
4B018LB07
4B018LB08
4B018LE01
4B018LE02
4B018LE03
4B018LE04
4B018LE05
4B018LE06
4B018MD48
4B018MD52
4B018ME14
4B018MF14
4B065AA90X
4B065AC14
4B065BB26
4B065CA41
4B065CA44
4B065CA50
4C083AA111
4C083AA112
4C083CC01
4C083EE12
4C088AB62
4C088AC04
4C088BA09
4C088BA10
4C088CA05
4C088CA06
4C088CA08
4C088NA14
4C088ZA89
4C088ZB13
4C088ZB22
(57)【要約】
【課題】皮膚幹細胞に作用してその分化を促進し、皮膚細胞を簡便かつ効率的に再生することができる、安全性が高い新たな天然物由来の素材を見出し、皮膚幹細胞の分化促進剤として提供すること。
【解決手段】サンショウの抽出物を有効成分として含有する、皮膚幹細胞の皮膚細胞への分化促進剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンショウの抽出物を有効成分として含有する、皮膚幹細胞の皮膚細胞への分化促進剤。
【請求項2】
前記皮膚幹細胞が、表皮幹細胞及び/又は真皮幹細胞である、請求項1に記載の分化促進剤。
【請求項3】
前記皮膚細胞が、表皮角化細胞及び/又は真皮線維芽細胞である、請求項1に記載の分化促進剤。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の剤を含む、皮膚再生用組成物。
【請求項5】
前記組成物が、化粧品、医薬部外品、医薬品、又は飲食品である、請求項4に記載の皮膚再生用組成物。
【請求項6】
皮膚幹細胞を、サンショウの抽出物を含有する培地で培養する工程を含む、皮膚幹細胞の皮膚細胞への分化促進方法。
【請求項7】
前記皮膚幹細胞が、表皮幹細胞及び/又は真皮幹細胞である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記皮膚細胞が、表皮角化細胞及び/又は真皮線維芽細胞である、請求項6に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚幹細胞の皮膚細胞への分化促進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚は、大別すると表皮、真皮、皮下組織の3層構造をとっている。皮膚のうち、最外層に存在する表皮は、主にケラチノサイト(表皮角化細胞)により構成される。表皮は、成熟段階の異なるケラチノサイトからなる複数の層(基底層、有棘層、顆粒層、角質層)により構成されており、ケラチノサイトは、表皮の最下層である基底層で分裂し、成熟するにしたがって上方の層へ移行し、角化してやがて剥がれ落ちる(角質化又はターンオーバー)。ケラチノサイトの幹細胞は、基底層に存在し、必要に応じて増殖と分化を繰り返し、表皮に新しい細胞を常に供給し、その結果、皮膚は絶えず再生を繰り返している。よって、ターンオーバーの正常化と、より強固な表皮バリア機能を発揮するためには、幹細胞を最外層の角質層へ分化を導くことが重要である。
【0003】
一方、真皮層には真皮線維芽細胞が存在しており、真皮線維芽細胞から産生されるコラーゲン、エラスチン、ヒアルロン酸は、肌のハリや弾力、潤いを保つのに重要な成分として知られている。また、シワやタルミの原因として、老化や炎症によって、これらの成分が減少することが挙げられていることから、真皮線維芽細胞は、シワやタルミのない若々しい皮膚を保つのに必須な細胞といえる。この真皮線維芽細胞を生み出す真皮幹細胞は真皮乳頭層直下に存在しており、必要に応じて増殖と分化を繰り返し、真皮層に新しい真皮線維芽細胞を常に供給し、その結果、皮膚は絶えず再生を繰り返している(非特許文献1)。コラーゲンやエラスチンなどの真皮成分は真皮幹細胞から生み出された線維芽細胞から積極的に産生されていることから、真皮幹細胞から成熟した線維芽細胞へ分化を導くことが健全な真皮組織を保つ上で重要である。
【0004】
近年、臓器・組織に存在する幹細胞が老化することが明らかになっている(非特許文献2)。幹細胞の老化とは、増殖能力や分化能力が低下することであり、紫外線や酸化ストレスなどのダメージがその原因と考えられている。よって、各臓器・組織に存在する幹細胞の分化能力を維持向上させる技術は、組織恒常性維持、損傷組織の修復・再生、各種疾患の予防・治療・改善等、抗加齢(抗老化)の用途に極めて有効であると考えられる。また、幹細胞の再生医療や再生美容への応用を考えた場合、幹細胞から効率的に目的細胞への分化を制御する物質や技術の開発が必須である。特に、皮膚組織は、複雑な三次元構造を取っており、また、人の身体の最外層に備わっているため、外的傷害によるダメージを受けやすい組織である。また、人の外観や美容に大きく関わる組織であり、この組織の再生技術を進歩させることは極めて重要である。
【0005】
これまでに、表皮幹細胞から角質細胞への分化を促進する因子としては、ハンタイカイの種子抽出物(特許文献1)、真皮幹細胞から真皮線維芽細胞への分化を促進する因子としては、紫麦の種子抽出物(特許文献2)などが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010-22327号公報
【特許文献2】特開2010-22326号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Hasebe Y.ら,J Dermatol Sci.,2016年,Vol.89,pp.205-207
【非特許文献2】Beane O.S.ら,PLoS One.,2014年,Vol.9,12号,e115963
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、上記事情に鑑み、皮膚幹細胞に作用してその分化を促進し、皮膚細胞を簡便かつ効率的に再生することができる、安全性が高い新たな天然物由来の素材を見出し、皮膚幹細胞の分化促進剤として提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を行った結果、サンショウの抽出物が、表皮幹細胞から表皮角化細胞への分化促進作用、真皮幹細胞から真皮線維芽細胞への分化促進作用、及び酸化ストレスによる表皮幹細胞及び真皮幹細胞の分化抑制を回復する作用を有することを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、以下を包含する。
(1)サンショウの抽出物を有効成分として含有する、皮膚幹細胞の皮膚細胞への分化促進剤。
(2)前記皮膚幹細胞が、表皮幹細胞及び/又は真皮幹細胞である、(1)に記載の分化促進剤。
(3)前記皮膚細胞が、表皮角化細胞及び/又は真皮線維芽細胞である、(1)に記載の分化促進剤。
(4)(1)~(3)のいずれかに記載の剤を含む、皮膚再生用組成物。
(5)前記組成物が、化粧品、医薬部外品、医薬品、又は飲食品である、(4)に記載の皮膚再生用組成物。
(6)皮膚幹細胞を、サンショウの抽出物を含有する培地で培養する工程を含む、皮膚幹細胞の皮膚細胞への分化促進方法。
(7)前記皮膚幹細胞が、表皮幹細胞及び/又は真皮幹細胞である、(6)に記載の方法。
(8)前記皮膚細胞が、表皮角化細胞及び/又は真皮線維芽細胞である、(6)に記載の方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の皮膚幹細胞の分化促進剤は、表皮幹細胞及び真皮幹細胞の分化を促進し、それぞれ表皮角化細胞(ケラチノサイト)及び真皮線維芽細胞へ効率的に誘導することができる。表皮角化細胞は、皮膚のバリア機能と水分保持機能に関与し、また、真皮線維芽細胞により産生されるコラーゲン、エラスチン、ヒアルロン酸といった肌のハリや弾力、潤いを保つ成分が皮膚内に十分供給される。従って、本発明の皮膚幹細胞の分化促進剤は、乾燥や紫外線、加齢、酸化ストレスなどによる皮膚の様々な症状(アトピー性皮膚炎や乾燥肌等の皮膚疾患、バリア機能やターンオーバーの低下、シミ、シワ、タルミ、ハリ・弾力の低下など)の治療、改善、及び予防に有効であり、再生医療、再生美容、抗加齢の分野において大きく貢献できるものである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
1.皮膚幹細胞の分化促進剤
本発明に係る皮膚幹細胞の皮膚細胞への分化促進剤(以下、「皮膚幹細胞の分化促進剤」と記載する場合がある)は、サンショウの抽出物を有効成分として含有する。
【0013】
本発明において、「皮膚幹細胞」とは、表皮に存在する表皮幹細胞及び/又は真皮に存在する真皮幹細胞をいう。「表皮幹細胞」とは、表皮角化細胞(ケラチノサイト)への分化が可能な細胞をいい、「真皮幹細胞」とは、真皮線維芽細胞への分化が可能な細胞をいう。よって、本発明における「皮膚細胞」には、表皮角化細胞及び/又は真皮線維芽細胞が包含される。本発明において、皮膚幹細胞の由来は、限定されず、ヒト、サル、マウス、ラット、モルモット、ウサギ、ネコ、イヌ、ウマ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ブタ等の哺乳動物の皮膚幹細胞に対して効果を発揮することができる。
【0014】
本発明に用いるサンショウ(山椒、学名:Zanthoxylum piperitum)は、ミカン科サンショウ属の落葉低木で、日本にも多く自生している。また、生薬の「サンショウ」(和名:山椒)の基原植物でもある。本発明において用いることのできるサンショウとしては、ミカン科サンショウ属のブドウザンショウ(学名:Zanthoxylum piperitum(L.)DC.f.inerme Makino)、アサクラザンショウ(Zanthoxylum piperitum(L.)DC forma inerme(Makino)Makino)、イヌザンショウ(Zanthoxylum schinifolium)、ヤマアサクラザンショウ(Zanthoxylum piperitum(L.)DC forma brevispinosum Makino)などが挙げられ、なかでもブドウザンショウが好ましい。
【0015】
本発明においてサンショウの抽出物とは、サンショウの花、果実、果皮、茎、葉、枝、根、種子等の植物体の一部又は植物体全体、あるいはそれらの混合物の抽出物をいうが、本発明において抽出原料として使用する部位は、果皮、果実、種子が好ましい。果皮(粉山椒)は、薬味として市販されているものを用いることができる。
【0016】
サンショウから抽出物を得るための抽出方法は特に限定されず、例えば、加熱抽出方法であっても良いし、常温や冷温抽出方法であっても良い。抽出溶媒は、水もしくは熱水、又は水と有機溶媒の混合溶媒を用いることができる。有機溶媒としては、低級アルコール類(メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール等)、液状多価アルコール類(1,3-ブチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン等)、アセトニトリル、エステル類(酢酸エチル、酢酸ブチル等)、炭化水素類(ヘキサン、ヘプタン、流動パラフィン等)、エーテル類(エチルエーテル、テトラヒドロフラン、プロピルエーテル等)などを用いることができるが、エタノール、メタノール、アセトン、n-プロパノール、t-ブタノール、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール等の水溶性有機溶媒が好ましく、これらの一種又は二種以上を混合して用いてもよい。なかでも、水-エタノール系の混合極性溶媒(30~70v/v%のエタノール水溶液)、水がより好ましく、50v/v%のエタノール水溶液がさらに好ましい。また、上記抽出溶媒に酸やアルカリを添加して、pH調整した溶媒を使用することもできる。
【0017】
溶媒の使用量については、特に限定はなく、例えば抽出原料(乾燥重量)に対し、10倍以上、好ましくは20倍以上であればよいが、抽出後に濃縮を行なったり、単離したりする場合の操作の便宜上100倍以下であることが好ましい。また、抽出温度や時間は、用いる溶媒の種類によるが、例えば、10~100℃、好ましくは30~90℃で、30分~24時間、好ましくは1~10時間を例示することができる。より具体的には、例えば、サンショウの果皮に水を加え、95~100℃における熱水抽出を行うことで、サンショウの抽出物を得ることができる。あるいは、サンショウの果皮に低級アルコール(例えば、エタノール等)を添加し、常温(例えば5~35℃)で抽出を行うことで、サンショウの抽出物を得ることができる。
【0018】
抽出物は、抽出した溶液のまま用いてもよいが、必要に応じて、その効果に影響のない範囲で、濃縮(有機溶媒、減圧濃縮、膜濃縮などによる濃縮)、希釈、濾過、活性炭等による脱色、脱臭、エタノール沈殿等の処理を行ってから用いてもよい。さらには、抽出した溶液を濃縮乾固、噴霧乾燥、凍結乾燥等の処理を行い、乾燥物として用いてもよい。
【0019】
このようにして得られたサンショウの抽出物は、生体レベル(生体内)で又は培養レベル(生体外)で表皮幹細胞から表皮角化細胞への分化を促進する作用、真皮幹細胞から真皮線維芽細胞へ分化を促進する作用を有するので、皮膚幹細胞の分化促進剤の有効成分として用いることができる。本発明の皮膚幹細胞の分化促進剤は、ヒトを含む哺乳動物に対して投与することによって表皮幹細胞又は真皮幹細胞の分化を促進するための薬剤として、医薬品、医薬部外品、化粧品等への配合や応用が可能である。また、本発明の皮膚幹細胞の分化促進剤は、生体外では、表皮幹細胞又は真皮幹細胞の分化を促進し、表皮角化細胞又は真皮線維芽細胞を製造するための幹細胞培養用培地添加剤、研究用試薬、医療用試薬としても使用することができる。
【0020】
本発明の皮膚幹細胞の分化促進剤は、有効成分であるサンショウの抽出物が、表皮幹細胞及び真皮幹細胞の分化促進作用を有するので、表皮幹細胞又は真皮幹細胞の分化能低下又は不全により、正常に表皮角化細胞(ケラチノサイト)又は真皮線維芽細胞が形成されないことに起因する疾患又は病態を治療、改善、及び予防するのに有効である。表皮幹細胞の分化能低下又は不全により、正常に表皮角化細胞(ケラチノサイト)が形成されないことに起因する疾患又は病態としては、例えば、アトピー性皮膚炎、乾癬(紅斑、鱗屑、落屑を伴う)、熱傷や創傷の治癒の遅れ、肌荒れ、乾燥肌、敏感肌、角質肥厚、肝斑、シミ、くすみ、毛穴のひらき等が挙げられる。また、真皮幹細胞の分化能低下又は不全により、正常に真皮線維芽細胞が形成されないことに起因する疾患又は病態としては、例えば、シワ、タルミ、ほうれい線(鼻唇溝)、マリオネットライン、ハリや弾力の低下、潤いやツヤの不足、ごわつき、くすみ、日光弾性線維症、強皮症、線維肉腫、色素性乾皮症、皮膚組織球腫、線状皮膚萎縮症(皮膚線条)、創傷、熱傷、褥瘡、瘢痕、母斑等が挙げられる。また、表皮幹細胞又は真皮幹細胞の分化能低下又は不全の原因は問わないが、例えば、老化、紫外線、大気汚染、物理的刺激、疾患、薬剤、生活習慣(睡眠や喫煙習慣)、過度な運動、心身のストレスといった様々な内的因子又は外的因子により、活性酸素が過剰に産生される酸化ストレスが挙げられる。
【0021】
本発明の皮膚幹細胞の分化促進剤におけるサンショウの抽出物の含有量は、抽出物の性状(抽出液、濃縮物、又は乾燥物)により異なり、特に限定されないが、例えば、当該薬剤全量に対し、乾燥物に換算して0.00001~10重量%であることが好ましく、0.0001~1重量%とすることがより好ましい。
【0022】
2.皮膚再生用組成物
本発明の皮膚幹細胞の分化促進剤を生体内に使用する場合は、そのまま使用することも可能であるが、本発明の効果を損なわない範囲で適当な添加物とともに、化粧品、医薬品、医薬部外品、飲食品等の各種組成物に配合し、皮膚再生用組成物として提供することができる。特に、皮膚外用組成物に配合して提供することが好ましい。
【0023】
本発明に係る皮膚幹細胞の分化促進剤を化粧品や医薬部外品に配合する場合は、その剤形は、水溶液系、可溶化系、乳化系、粉末系、粉末分散系、油液系、ゲル系、軟膏系、エアゾール系、水-油二層系、又は水-油-粉末三層系等のいずれでもよい。また、当該化粧品や医薬部外品は、真皮幹細胞の分化促進剤とともに、皮膚外用組成物において通常使用されている各種成分、添加剤、基剤等をその種類に応じて選択し、適宜配合し、当分野で公知の手法に従って製造することができる。その形態は、液状、乳液状、クリーム状、ゲル状、ペースト状、スプレー状等のいずれであってもよい。皮膚外用組成物の配合成分としては、例えば、油脂類(オリーブ油、ヤシ油、月見草油、ホホバ油、ヒマシ油、硬化ヒマシ油等)、ロウ類(ラノリン、ミツロウ、カルナウバロウ等)、炭化水素類(流動パラフィン、スクワレン、スクワラン、ワセリン等)、脂肪酸類(ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘニン酸等)、高級アルコール類(ミリスチルアルコール、セタノール、セトステアリルアルコール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール等)、エステル類(ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、オクタン酸セチル、トリオクタン酸グリセリン、ミリスチン酸オクチルドデシル、ステアリン酸オクチル、ステアリン酸ステアリル等)、有機酸類(クエン酸、乳酸、α-ヒドロキシ酢酸、ピロリドンカルボン酸等)、糖類(マルチトール、ソルビトール、キシロビオース、N-アセチル-D-グルコサミン等)、蛋白質及び蛋白質の加水分解物、アミノ酸類及びその塩、ビタミン類、植物・動物抽出成分、種々の界面活性剤、保湿剤、紫外線吸収剤、抗酸化剤、安定化剤、防腐剤、殺菌剤、香料等が挙げられる。
【0024】
化粧品や医薬部外品の種類としては、例えば、化粧水、乳液、ジェル、美容液、一般クリーム、日焼け止めクリーム、パック、マスク、洗顔料、化粧石鹸、ファンデーション、おしろい、浴用剤、ボディローション、ボディシャンプー、ヘアシャンプー、ヘアコンディショナー、育毛剤等が挙げられる。
【0025】
本発明に係る皮膚幹細胞の分化促進剤を医薬品に配合する場合は、薬理学的及び製剤学的に許容しうる添加物と混合し、患部に適用するのに適した製剤形態の各種製剤に製剤化することができる。薬理学的及び製剤学的に許容しうる添加物としては、その剤形、用途に応じて、適宜選択した製剤用基材や担体、賦形剤、希釈剤、結合剤、滑沢剤、コーティング剤、崩壊剤又は崩壊補助剤、安定化剤、保存剤、防腐剤、増量剤、分散剤、湿潤化剤、緩衝剤、溶解剤又は溶解補助剤、等張化剤、pH調節剤、噴射剤、着色剤、甘味剤、矯味剤、香料等を適宜添加し、公知の種々の方法にて経口又は非経口的に全身又は局所投与することができる各種製剤形態に調製すればよい。本発明の医薬品を上記の各形態で提供する場合、通常当業者に用いられる製法、たとえば日本薬局方の製剤総則[2]製剤各条に示された製法等により製造することができる。
【0026】
本発明の医薬品の形態としては、特に制限されるものではないが、例えば錠剤、糖衣錠剤、カプセル剤、トローチ剤、顆粒剤、散剤、液剤、丸剤、乳剤、シロップ剤、懸濁剤、エリキシル剤などの経口剤、注射剤(例えば、皮下注射剤、静脈内注射剤、筋肉内注射剤、腹腔内注射剤)、点滴剤、座剤、軟膏剤、ローション剤、噴霧剤、経皮吸収剤、経粘膜吸収剤、貼付剤などの非経口剤等が挙げられる。また、使用する際に再溶解させる乾燥生成物にしてもよく、注射用製剤の場合は単位投与量アンプル又は多投与量容器の状態で提供される。
【0027】
本発明に係る皮膚幹細胞の分化促進剤を、前記皮膚疾患や病態を治療、改善、及び予防するための医薬品として用いる場合に適した形態は外用製剤であり、例えば、軟膏剤、クリーム剤、ゲル剤、液剤、貼付剤(パップ剤、プラスター剤)、フォーム剤、スプレー剤、噴霧剤等が挙げられる。軟膏剤は、均質な半固形状の外用製剤をいい、油脂性軟膏、乳剤性軟膏、水溶性軟膏を含む。ゲル剤は、水不溶性成分の抱水化合物を水性液に懸濁した外用製剤をいう。液剤は、液状の外用製剤をいい、ローション剤、懸濁剤、乳剤、リニメント剤等を含む。
【0028】
経口投与用製剤には、例えば、デンプン、ブドウ糖、ショ糖、果糖、乳糖、ソルビトール、マンニトール、結晶セルロース、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、リン酸カルシウム、又はデキストリン等の賦形剤;カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、デンプン、又はヒドロキシプロピルセルロース等の崩壊剤又は崩壊補助剤;ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、アラビアゴム、又はゼラチン等の結合剤;ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、又はタルク等の滑沢剤;ヒドロキシプロピルメチルセルロース、白糖、ポリエチレングリコール、又は酸化チタン等のコーティング剤;ワセリン、流動パラフィン、ポリエチレングリコール、ゼラチン、カオリン、グリセリン、精製水、又はハードファット等の基剤などを用いることができるが、これらに限定はされない。
【0029】
非経口投与用製剤には、蒸留水、生理食塩水、エタノール、グリセリン、プロピレングリコール、マクロゴール、ミョウバン水、植物油等の溶剤;ブドウ糖、塩化ナトリウム、D-マンニトール等の等張化剤;無機酸、有機酸、無機塩基又は有機塩基等のpH調節剤などを用いることができるが、これらに限定はされない。
【0030】
本発明の医薬品は、上記皮膚疾患の発症を抑制する予防薬として、及び/又は、正常な状態に改善する治療薬として機能する。本発明の医薬品の有効成分は、天然物由来であるため、非常に安全性が高く副作用がないため、前述の疾患の治療、改善、及び予防用医薬として用いる場合、ヒト、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、ネコ等の哺乳動物に対して広い範囲の投与量で経口的に又は非経口的に投与することができる。
【0031】
本発明の医薬品の投与量は、疾患の種類、投与対象の年齢、性別、体重、症状の程度などに応じて適宜決定することができる。例えば、成人に経口投与する場合には、一日の投与量は、サンショウの抽出物として0.1~1000mg、好ましくは1~500mg、より好ましくは5~300mgである。
【0032】
本発明の化粧品、医薬品、医薬部外品における皮膚幹細胞の分化促進剤の含有量は特に限定されないが、製剤(組成物)全重量に対して、上記のサンショウの抽出物の乾燥物に換算して、0.001~30重量%が好ましく、0.01~10重量%がより好ましい。上記の量があくまで例示であって、組成物の種類や形態、一般的な使用量、効能・効果などを考慮して適宜設定・調整すればよい。また、製剤化における有効成分の添加法については、予め加えておいても、製造途中で添加してもよく、作業性を考えて適宜選択すればよい。
【0033】
また、本発明の皮膚幹細胞の分化促進剤は、飲食品にも配合できる。本発明において、飲食品とは、一般的な飲食品のほか、医薬品以外で健康の維持や増進を目的として摂取できる食品、例えば、健康食品、機能性食品、保健機能食品、又は特別用途食品を含む意味で用いられる。健康食品には、栄養補助食品、健康補助食品、サプリメント等の名称で提供される食品を含む。保健機能食品は食品衛生法又は食品増進法により定義され、特定の保健の効果や栄養成分の機能、疾病リスクの低減などを表示できる、特定保健用食品及び栄養機能食品、ならびに科学的根拠に基づいた機能性について消費者庁長官に届け出た内容を表示できる機能性表示食品が含まれる。また特別用途食品には、特定の対象者や特定の疾患を有する患者に適する旨を表示する病者用食品、高齢者用食品、乳児用食品、妊産婦用食品等が含まれる。本発明の皮膚幹細胞の分化促進剤は、特に皮膚バリア機能の低下に伴うアトピー性皮膚炎、乾燥肌、肌荒れ、老化に伴うシワ、タルミ、ハリ・弾力の低下等の諸症状の改善及び予防のために長期にわたって服用が必要となる場合に、日常的に継続して摂取できる点で上記の健康食品等に好適に用いることができる。ここで、飲食品に付される特定の保健の効果や栄養成分の機能等の表示は、製品の容器、包装、説明書、添付文書などの表示物、製品のチラシやパンフレット、新聞や雑誌等の製品の広告などにすることができる。
【0034】
さらに、本発明の飲食品をヒト以外の哺乳動物を対象として使用する場合には、ペットフード、飼料を含む意味で用いることができる。
【0035】
飲食品の形態は、食用に適した形態、例えば、固形状、液状、顆粒状、粒状、粉末状、カプセル状、クリーム状、ペースト状のいずれであってもよい。特に、上記の健康食品等の場合の形状としては、例えば、タブレット状、丸状、カプセル状、粉末状、顆粒状、細粒状、トローチ状、液状(シロップ状、乳状、懸濁状を含む)等が好ましい。
【0036】
飲食品の種類としては、パン類、麺類、菓子類、乳製品、水産・畜産加工食品、油脂及び油脂加工食品、調味料、各種飲料(清涼飲料、炭酸飲料、美容ドリンク、栄養飲料、果実飲料、乳飲料など)及び該飲料の濃縮原液及び調整用粉末等が挙げられるが、これらに限定はされない。
【0037】
本発明の飲食品は、その種類に応じて通常使用される添加物を適宜配合してもよい。添加物としては、食品衛生法上許容されうる添加物であればいずれも使用できるが、例えば、ブドウ糖、ショ糖、果糖、異性化液糖、アスパルテーム、ステビア等の甘味料;クエン酸、リンゴ酸、酒石酸等の酸味料;デキストリン、デンプン等の賦形剤;結合剤、希釈剤、香料、着色料、緩衝剤、増粘剤、ゲル化剤、安定剤、保存剤、乳化剤、分散剤、懸濁化剤、防腐剤などが挙げられる。
【0038】
本発明の飲食品が一般的な飲食品の場合は、その飲食品の通常の製造工程においてサンショウの抽出物を添加する工程を含めることによって製造することができる。また健康食品の場合は、前記の医薬品の製造方法に準じればよく、例えば、タブレット状のサプリメントでは、サンショウの抽出物に、賦形剤等の添加物を添加、混合し、打錠機等で圧力をかけて成形することにより製造することができる。カプセル状のサプリメントでは、サンショウの抽出物を含有する液状、懸濁状、ペースト状、粉末状、又は顆粒状の食品組成物をカプセルに充填するか、又はカプセル基剤で被包成形して製造することができる。また、必要に応じてその他の材料(例えば、鉄、カリウム等のミネラル類、ビタミンC、ビタミンB、ビタミンB等のビタミン類、葉酸、食物繊維等)を添加することもできる。
【0039】
本発明の飲食品におけるサンショウの抽出物の配合量は、皮膚幹細胞の分化促進作用が発揮できる量であればよいが、対象飲食品の一般的な摂取量、飲食品の形態、効能・効果、呈味性、嗜好性及びコストなどを考慮して適宜設定すればよい。
【0040】
本発明の飲食品の摂取量は、前述の疾患又は病態の予防や改善を目的として摂取する場合、摂取させる対象の状態、摂取形態、摂食量等により異なるが、サンショウの抽出物として、成人1日につき、0.1~1000mg、好ましくは1~500mg、より好ましくは5~300mgである。前記の量は1回で摂取させてもよいが、数回(2~4回)に分けて摂取してもよい。本発明の飲食品は、摂取量の目安とするため1回に摂取するべき量の飲食品が、1個の袋やビン等の容器に包装又は充填されていることが好ましい。
【0041】
3.皮膚幹細胞の分化促進方法
本発明はまた、皮膚幹細胞を、サンショウの抽出物を含有する培地で培養する工程を含む、皮膚幹細胞の皮膚細胞への分化促進方法に関する。本方法には、表皮幹細胞の表皮角化細胞への分化促進方法、及び、真皮幹細胞の真皮線維芽細胞への分化促進方法が包含される。本発明に係る方法において、表皮幹細胞から分化誘導して製造された表皮角化細胞、及び、真皮幹細胞から分化誘導して製造された真皮線維芽細胞は、一般的に体外で培養後、創傷部や組織を再生させたい部位に直接注射などで移植することが可能である。すなわち、本発明に係る方法にて製造された表皮角化細胞及び真皮線維芽細胞は移植材料(細胞移植剤)として用いることができる。
【0042】
本発明の皮膚幹細胞の分化促進方法において、皮膚幹細胞を培養する培地、また同時に用いる添加剤としては、特に限定はされず、皮膚幹細胞(表皮幹細胞又は真皮幹細胞)の増殖のために一般的に使用されている培地及び添加剤を用いればよい。
【0043】
具体的には、皮膚幹細胞を培養する培地には、幹細胞の生存及び増殖に必要な成分(無機塩、炭水化物、ホルモン、必須アミノ酸、非必須アミノ酸、ビタミン、脂肪酸)を含む基本培地、例えば、Dulbecco's Modified Eagle Medium(D-MEM)、Minimum Essential Medium(MEM)、RPMI 1640、Basal Medium Eagle(BME)、Dulbecco’s Modified Eagle Medium:Nutrient Mixture F-12(D-MEM/F-12)、Glasgow Minimum Essential Medium(Glasgow MEM)、Hank's balanced salt solution(ハンクス液)等に、分化誘導の目的とする細胞に応じた分化誘導又は促進因子を少なくとも1種添加した培地が用いられる。表皮幹細胞から表皮角化細胞への分化誘導因子としては、例えば、カルシウム塩、リゾフォスファチジン酸(LPA)等が挙げられる。真皮幹細胞から真皮線維芽細胞への分化誘導因子としては、例えば、TGFβ等が挙げられる。また、上記培地には、幹細胞の増殖速度を増大させるために、必要に応じて、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)、上皮細胞増殖因子(EGF)等の増殖因子、腫瘍壊死因子(TNF)、ビタミン類、インターロイキン類、インスリン、トランスフェリン、ヘパリン、ヘパラン硫酸、コラーゲン、ウシ血清アルブミン(BSA)、フィブロネクチン、プロゲステロン、セレナイト、B27-サプリメント、N2-サプリメント、ITS-サプリメント等を添加してもよく、また、抗生物質(ペニシリン、ストレプトマイシン等)等を添加してもよい。培地の各成分は、各々適する方法で滅菌して使用する。
【0044】
また、上記以外には、1~20%の含有率で血清(例えば、10%FBS)が含まれることが好ましい。しかし、血清はロットの違いにより成分が異なり、その効果にバラツキがあるため、ロットチェックを行った後に使用することが好ましい。
【0045】
皮膚幹細胞を培養する培地は、市販品を用いることもできる。市販品の培地としては、インビトロジェン製の間葉系幹細胞基礎培地や、三光純薬製の間葉系幹細胞基礎培地、東洋紡社製のMF培地、Sigma社製のハンクス液(Hank’s balanced salt solution)等を用いることができる。また、目的とする細胞の分化誘導因子を添加した分化誘導用培地は市販されており、これらの市販品の培地を用いてもよい。例えば、表皮細胞分化誘導用培地としては、CnT-Prime 3D Barrier Culture Medium(CELLn TEC社製)等が挙げられる。真皮細胞分化誘導用培地としては、Fibroblast Medium(三光純薬製)、正常ヒト線維芽細胞用培地(DSファーマバイオメディカル社製)等が挙げられる。
【0046】
上記の本発明に係る皮膚幹細胞の分化促進剤又は本発明に係る方法に準じて、サンショウの抽出物を、単独で、あるいは培地と別々に又は培地と混合し、皮膚幹細胞の分化促進のための試薬キットとして提供することもできる。当該キットは、必要に応じて取扱説明書等を含むことができる。あるいは、上記のサンショウの抽出物を培地と混合し、皮膚幹細胞の分化促進用培地として提供することもできる。
【0047】
皮膚幹細胞の培養に用いる培養器は、幹細胞の培養が可能なものであれば特に限定されないが、例えば、フラスコ、シャーレ、ディッシュ、プレート、チャンバースライド、チューブ、トレイ、培養バッグ、ローラーボトルなどが挙げられる。培養器は、細胞非接着性であっても接着性であってもよく、目的に応じて適宜選択される。細胞接着性の培養器は、細胞との接着性を向上させる目的で、細胞外マトリックス等による細胞支持用基質などで処理したものを用いてもよい。細胞支持用基質としては、例えば、コラーゲン、ゼラチン、ポリ-L-リジン、ポリ-D-リジン、ラミニン、フィブロネクチンなどが挙げられる。
【0048】
皮膚幹細胞の培養に使用される培地に対するサンショウの抽出物の添加濃度は、上述の本発明に係る皮膚幹細胞の分化促進剤におけるサンショウの抽出物の含有量に準じて適宜決定することができるが、抽出物の乾燥物に換算して、例えば10~10000μg/mL、好ましくは100~5000μg/mLの濃度が挙げられる。また、幹細胞の培養期間中、サンショウの抽出物を定期的に培地に添加してもよい。
【0049】
皮膚幹細胞の培養条件は、幹細胞の培養に用いられる通常の条件に従えばよく、特別な制御は必要ではない。例えば、培養温度は、特に限定されるものではないが約30~40℃、好ましくは約36~37℃である。COガス濃度は、例えば約1~10%、好ましくは約2~5%である。なお、培地の交換は2~3日に1回行うことが好ましく、毎日行うことがより好ましい。前記培養条件は、幹細胞が生存及び増殖可能な範囲で適宜変動させて設定することもできる。
【0050】
表皮幹細胞の表皮角化細胞への分化は、例えば、サンショウの抽出物の非存在下で培養した細胞と比較して、サンショウの抽出物存在下で培養した細胞において、表皮角化細胞マーカー遺伝子の発現レベルがmRNAレベル又はタンパク質レベルで培養開始時の発現レベルに比べて有意に増加しているか否かを決定することで確認することができる。同様に、真皮幹細胞の真皮線維芽細胞への分化は、例えば、サンショウの抽出物の非存在下で培養した細胞と比較して、サンショウの抽出物存在下で培養した細胞において、真皮線維芽細胞マーカー遺伝子の発現レベルがmRNAレベル又はタンパク質レベルで培養開始時の発現レベルに比べて有意に増加しているか否かを決定することで確認することができる。表皮角化細胞マーカー遺伝子としては、FLG(フィラグリン)、IVL(インボルクリン)、KRT10(ケラチン10)、LOR(ロリクリン)、OCLN(オクルディン)、CLDN(クローディン)などが挙げられるが、これらに限定はされない。また、真皮線維芽細胞マーカー遺伝子としては、COL1A1(I型コラーゲンα1)、COL1A2(I型コラーゲンα2)、COL3A1(III型コラーゲンα1)、FAP(線維芽細胞活性化タンパク質)、HAS1(ヒアルロン酸合成酵素-1)、ELN(エラスチン)、HYAL3(ヒアルロニダーゼ3)、galectin 9(ガレクチン9)などが挙げられるが、これらに限定はされない。mRNAレベルでは、例えば上記の各マーカー遺伝子に特異的なプライマーやプローブを用いたRT-PCR、定量PCRやノーザンブロッティングによって確認する方法が挙げられる。また、タンパク質レベルでは、例えば上記の各マーカー遺伝子によりコードされるタンパク質に特異的な抗体を用いたELISA、フローサイトメトリー、ウエスタンブロッティング等の免疫学的方法が挙げられる。
【0051】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0052】
[実施例1]サンショウの抽出物の製造例
サンショウの抽出物を以下のとおり製造した。
(製造例1)ブドウザンショウ種子の熱水抽出物の製造
ブドウザンショウ種子の乾燥物10gに200mLの水を加え、95~100℃で2時間抽出した。得られた抽出液を濾過し、そのろ液を濃縮し、凍結乾燥してブドウザンショウ種子の熱水抽出物を1.3g得た。
【0053】
(製造例2)ブドウザンショウ種子の50%エタノール抽出物の製造
ブドウザンショウ種子の乾燥物10gを200mLの50%(v/v)エタノール水溶液に室温で4日間浸漬した。得られた抽出液を濾過した後エバポレーターで濃縮乾固してブドウザンショウ種子の50%エタノール抽出物を1.0g得た。
【0054】
(製造例3)ブドウザンショウ種子のエタノール抽出物の製造
ブドウザンショウ種子の乾燥物10gを200mLのエタノール水溶液に室温で4日間浸漬した。得られた抽出液を濾過した後エバポレーターで濃縮乾固してブドウザンショウ種子のエタノール抽出物を0.6g得た。
【0055】
(製造例4)ブドウザンショウ果皮の熱水抽出物の製造
ブドウザンショウ果皮の乾燥物10gに200mLの水を加え、95~100℃で2時間抽出した。得られた抽出液を濾過し、そのろ液を濃縮し、凍結乾燥してブドウザンショウ果皮の熱水抽出物を2.3g得た。
【0056】
(製造例5)ブドウザンショウ果皮の50%エタノール抽出物の製造
ブドウザンショウ果皮の乾燥物10gを200mLの50%(v/v)エタノール水溶液に室温で4日間浸漬した。得られた抽出液を濾過した後エバポレーターで濃縮乾固してブドウザンショウ果皮の50%エタノール抽出物を1.0g得た。
【0057】
(製造例6)ブドウザンショウ果皮のエタノール抽出物の製造
ブドウザンショウ果皮の乾燥物10gを200mLのエタノール水溶液に室温で4日間浸漬した。得られた抽出液を濾過した後エバポレーターで濃縮乾固してブドウザンショウ果皮のエタノール抽出物を0.5g得た。
【0058】
(製造例7)ブドウザンショウ果実の熱水抽出物の製造
ブドウザンショウ果実(果皮と種子を含む)の乾燥物10gに200mLの水を加え、95~100℃で2時間抽出した。得られた抽出液を濾過し、そのろ液を濃縮し、凍結乾燥してブドウザンショウ果実の熱水抽出物を1.5g得た。
【0059】
(製造例8)ブドウザンショウ果実の50%エタノール抽出物の製造
ブドウザンショウ果実(果皮と種子を含む)の乾燥物10gを200mLの50%(v/v)エタノール水溶液に室温で4日間浸漬した。得られた抽出液を濾過した後エバポレーターで濃縮乾固してブドウザンショウ果実の50%エタノール抽出物を1.0g得た。
【0060】
(製造例9)ブドウザンショウ果実のエタノール抽出物の製造
ブドウザンショウ果実(果皮と種子を含む)の乾燥物10gを200mLのエタノール水溶液に室温で4日間浸漬した。得られた抽出液を濾過した後エバポレーターで濃縮乾固してブドウザンショウ果実のエタノール抽出物を0.5g得た。
【0061】
[実施例2]
(実験例1)サンショウの抽出物の表皮幹細胞に対する分化促進効果の評価
表皮由来細胞として市販の正常ヒト成人表皮角化細胞(クラボウ社製)を用い、特開2017-055721号公報に記載の方法に準じてNGFR(nerve growth factor receptor:Geanbank number:Nucleotide NM_002507.3;Protein NP_002498.1)を指標として表皮幹細胞を分離した。Humedia-KG2培地(クラボウ社製)で維持した上記表皮幹細胞を、細胞数が5×10個となるように12ウェルプレート(Falcon社製)に播種した。24時間培養し、細胞が生着した後、被験物質(製造例1~9のサンショウの抽出物)を最終濃度が50μg/mLとなるように添加し、72時間培養した。また、細胞が生着した後、被験物質を添加せず、CaClを1.5mM添加して72時間培養し分化を誘導した細胞を陽性コントロールとした。培養終了後RNAIso+(タカラバイオ社製)を用いてmRNAを単離抽出した。このmRNAに対して、High Capacity RNA to cDNA Kit(Thermo社製)を用いて逆転写反応によるcDNA合成を行った後に、SYBR Select Master Mix(Thermo社製)を用いてPCR反応を実施し、FLG(フィラグリン)、IVL(インボルクリン)、KRT10(ケラチン10)の遺伝子発現量を解析した。PCR反応は、95℃、2分の初期変性を行った後、下記のプライマーセットを用いて、95℃、15秒、60℃、60秒を1サイクルとして40サイクル行った。その他の操作は、定められた方法に従った。
【0062】
(FLG用プライマーセット)
5'-TCGAAGGAGCCAAAAATATAAAACAG-3’ (配列番号1)
5'-GAATTCCAATAGAAGGATAATAGAGAAAGATG-3’(配列番号2)
【0063】
(IVL用プライマーセット)
5'-CCATCAGGAGCCAAATGAAACAG-3’(配列番号3)
5'-GCTCGACAGGCACCTTCTG-3’(配列番号4)
【0064】
(KRT10用プライマーセット)
5'-ACTGAAGAGCTGGCCTATCTGAA-3’(配列番号5)
5'-CATCACCAGTGGACACATTTCG-3’(配列番号6)
【0065】
(GAPDH(内部標準)用プライマーセット)
5'-TGCACCACCAACTGCTTAGC-3'(配列番号7)
5'-TCTTCTGGGTGGCAGTGATG-3'(配列番号8)
【0066】
FLG、IVL、KRT10の各遺伝子の発現は、被験物質未添加(分化誘導なし)で培養した細胞(コントロール)におけるFLG、IVL、KRT10の発現量を内部標準であるGAPDHの発現量に対する割合として算出したFLG遺伝子発現量/GAPDH遺伝子発現量、IVL遺伝子発現量/GAPDH遺伝子発現量、KRT10遺伝子発現量/GAPDH遺伝子発現量を100とし、これに対し、被験物質添加で培養した細胞のFLG、IVL、KRT10の遺伝子相対発現量の値を算出し、評価した。これらの試験結果を以下の表1に示す。
【0067】
【表1】
【0068】
表1に示されるように、サンショウの抽出物は、分化誘導因子(CaCl)なしでも表皮幹細胞の分化を促進する効果を有することが確認された。特に、サンショウ果皮の50%エタノール抽出物(製造例5)を使用した場合の分化促進効果が高かった。
【0069】
(実験例2)サンショウの抽出物の真皮幹細胞に対する分化促進効果の評価
真皮由来細胞として市販のヒト皮膚線維芽細胞(東洋紡株式会社製)を用い、特開2017-093383号公報に記載の方法に準じて、NGFR(nerve growth factor receptor:Geanbank number:Nucleotide NM_002507.3;Protein NP_002498.1)を指標として真皮幹細胞を分離した。10%FBS含有DMEM培地(ナカライ社製)で維持した上記真皮幹細胞を、細胞数が2×10個となるように12ウェルプレート(Falcon社製)に播種した。24時間培養し、細胞が生着した後、被験物質(製造例1~9のサンショウの抽出物)の最終濃度が50μg/mLとなるように添加し、48時間培養した。また、細胞が生着した後、被験物質を添加せず、一般的に線維芽細胞の分化誘導因子として使用されているTGFβを10ng/mL(Pepro Tech社製)添加して48時間培養し分化を誘導した細胞を陽性コントロールとした。培養終了後RNAIso+(タカラバイオ社製)を用いてmRNAを単離抽出した。このmRNAに対して、High Capacity RNA to cDNA Kit(Thermo社製)を用いて逆転写反応によるcDNA合成を行った後に、SYBR Select Master Mix(Thermo社製)を用いてPCR反応を実施し、COL1A1(Collagen Type I Alpha 1 Chain)とFAP(Fibroblast Activation Protein Alpha)の遺伝子発現量を解析した。PCR反応は、95℃、2分の初期変性を行った後、下記のプライマーセットを用いて、95℃、15秒、60℃、60秒を1サイクルとして40サイクル行った。その他の操作は、定められた方法に従った。
【0070】
(COL1A1用プライマーセット)
5'-GCTACCCAACTTGCCTTCATG-3’ (配列番号9)
5'-TTCTTGCAGTGGTAGGTGATGTTC-3’(配列番号10)
【0071】
(FAP用プライマーセット)
5'-CTAATTCAAGTGTATGGTGGTCCC-3’(配列番号11)
5'-CCAGTGATGAAACGTATCCTCC-3’(配列番号12)
【0072】
(GAPDH(内部標準)用プライマーセット)
5'-TGCACCACCAACTGCTTAGC-3'(配列番号7)
5'-TCTTCTGGGTGGCAGTGATG-3'(配列番号8)
【0073】
COL1A1、FAPの各遺伝子の発現は、被験物質未添加(分化誘導なし)で培養した細胞(コントロール)におけるCOL1A1、FAPの発現量を内部標準であるGAPDHの発現量に対する割合として算出したCOL1A1遺伝子発現量/GAPDH遺伝子発現量、FAP遺伝子発現量/GAPDH遺伝子発現量を100とし、これに対し、被験物質添加で培養した細胞のCOL1A1、FAPの遺伝子相対発現量の値を算出し、評価した。これらの試験結果を以下の表2に示す。
【0074】
【表2】
【0075】
表2に示されるように、サンショウの抽出物は、分化誘導因子(TGFβ)なしでも真皮幹細胞の分化を促進する効果を有することが確認された。特に、サンショウ果皮の50%エタノール抽出物(製造例5)を使用した場合の分化促進効果が高かった。
【0076】
(実験例3)過酸化水素による表皮幹細胞分化障害に対するブドウザンショウの抽出物の効果の評価
皮膚組織は加齢や紫外線などの影響によって酸化ストレスが蓄積することが知られている。活性酸素が表皮幹細胞の分化誘導に及ぼす影響を解析するとともにサンショウの抽出物を作用させた場合の有効性を評価した。表皮由来細胞として市販の正常ヒト成人表皮角化細胞(クラボウ社製)を用い、特開2017-055721号公報に記載の方法に準じてNGFR(nerve growth factor receptor:Geanbank number:Nucleotide NM_002507.3;Protein NP_002498.1)を指標として表皮幹細胞を分離した。Humedia-KG2培地(クラボウ社製)で維持した上記表皮幹細胞を、細胞数が5×10個となるように12ウェルプレート(Falcon社製)に播種した。24時間培養し、細胞が生着した後、CaClを1.5mM添加し分化を誘導し、酸化ストレスとして過酸化水素を100mM、被験物質(製造例1~9のサンショウの抽出物)を最終濃度が50μg/mLとなるように添加し、72時間培養した。また、細胞が生着した後、過酸化水素及び被験物質を添加しないで72時間培養した細胞を陽性コントロールとした。培養終了後RNAIso+(タカラバイオ社製)を用いてmRNAを単離抽出した。このmRNAに対して、High Capacity RNA to cDNA Kit(Thermo社製)を用いて逆転写反応によるcDNA合成を行った後に、SYBR Select Master Mix(Thermo社製)を用いてPCR反応を実施し、FLG(Filaggrin)、IVL(Involucrin)、KRT10(Keratin10)の遺伝子発現量を実験例1と同様にして解析した。
【0077】
FLG、IVL、KRT10の各遺伝子の発現は、被験物質未添加(分化誘導なし)で培養した細胞(コントロール)におけるFLG、IVL、KRT10の発現量を内部標準であるGAPDHの発現量に対する割合として算出したFLG遺伝子発現量/GAPDH遺伝子発現量、IVL遺伝子発現量/GAPDH遺伝子発現量、KRT10遺伝子発現量/GAPDH遺伝子発現量を100とし、これに対し、被験物質添加/未添加で培養した細胞のFLG、IVL、KRT10の遺伝子相対発現量の値を算出し、評価した。これらの試験結果を以下の表3に示す。
【0078】
【表3】
【0079】
表3に示されるように、酸化ストレス(過酸化水素)によって表皮幹細胞の分化が抑制されたが(分化誘導あり/過酸化水素あり/抽出物未添加)、サンショウの抽出物(製造例1~9)を同時に添加した場合、酸化ストレスによる表皮幹細胞の分化抑制を改善することが確認された。特に、サンショウ果皮の50%エタノール抽出物(製造例5)を使用した場合により有効性が高かった。
【0080】
(実験例4)過酸化水素による真皮幹細胞分化障害に対するブドウザンショウの抽出物の効果の評価
皮膚組織は加齢や紫外線などの影響によって酸化ストレスが蓄積することが知られている。活性酸素が真皮幹細胞の分化誘導に及ぼす影響を解析するとともにサンショウの抽出物を作用させた場合の有効性を評価した。真皮由来細胞として市販のヒト皮膚線維芽細胞(東洋紡株式会社製)を用い、特開2017-093383号公報に記載の方法に準じて、NGFR(nerve growth factor receptor:Geanbank number:Nucleotide NM_002507.3;Protein NP_002498.1)を指標として真皮幹細胞を分離した。10%FBS含有DMEM培地(ナカライ社製)で維持した真皮幹細胞を2×10個となるように12ウェルプレート(Falcon社製)に播種した。24時間培養し、細胞が生着した後、一般的に線維芽細胞の分化誘導因子として使用されているTGFβを10ng/mL(Pepro Tech社製)添加し分化を誘導し、酸化ストレスとして過酸化水素を50mM、被験物質(製造例1~9のサンショウの抽出物)の最終濃度が50μg/mLとなるように添加し、48時間培養した。また、細胞が生着した後、過酸化水素及び被験物質を添加しないで48時間培養した細胞を陽性コントロールとした。培養終了後、RNAIso+(タカラバイオ社製)を用いてRNAを単離抽出した。このRNAに対して、High Capacity RNA to cDNA Kit(Thermo社製)を用いて逆転写反応によるcDNA合成を行った後に、SYBR Select Master Mix(Thermo社製)を用いてPCR反応を実施し、COL1A1とFAPの遺伝子発現量を実験例2と同様にして解析した。
【0081】
COL1A1、FAPの各遺伝子の発現は、被験物質未添加(分化誘導なし)で培養した細胞(コントロール)におけるCOL1A1、FAPの発現量を内部標準であるGAPDHの発現量に対する割合として算出したCOL1A1遺伝子発現量/GAPDH遺伝子発現量、FAP遺伝子発現量/GAPDH遺伝子発現量を100とし、これに対し、被験物質添加/未添加(分化誘導あり)で培養した細胞のCOL1A1、FAPの遺伝子相対発現量の値を算出し、評価した。これらの試験結果を以下の表4に示す。
【0082】
【表4】
【0083】
表4に示されるように、酸化ストレス(過酸化水素)によって真皮幹細胞の分化が抑制されたが(分化誘導あり/過酸化水素あり/抽出物未添加)、サンショウの抽出物(製造例1~9)を同時に添加した場合、酸化ストレスによる真皮幹細胞の分化抑制を改善することが確認された。特に、サンショウ果皮の50%エタノール抽出物(製造例5)を使用した場合により有効性が高かった。
【0084】
(実験例5)伸展刺激による表皮幹細胞分化障害に対するブドウザンショウの抽出物の効果の評価
皮膚組織は表情変化や発話などにより伸展刺激がかかっており、伸展刺激が酸化ストレスとなることが知られている。伸展刺激が表皮幹細胞の分化誘導に及ぼす影響を解析するとともにサンショウの抽出物を作用させた場合の有効性を評価した。表皮由来細胞として市販の正常ヒト成人表皮角化細胞(クラボウ社製)を用い、特開2017-055721号公報に記載の方法に準じてNGFR(nerve growth factor receptor:Geanbank number:Nucleotide NM_002507.3;Protein NP_002498.1)を指標として表皮幹細胞を分離した。Humedia-KG2培地(クラボウ社製)で維持した上記表皮幹細胞をコラーゲンゲル(新田ゼラチン社製)中に1×10細胞/mLでストレッチチャンバー(STREX社製)上に播種し、Humedia-KG2培地を添加し24時間培養した。24時間後に、CaClを1.5mM添加し分化を誘導し、被験物質(製造例1~9のサンショウの抽出物)を最終濃度が50μg/mLとなるように添加し、伸展装置(STREX社製)でゲルの長さが1.4倍となる伸展率で伸展させた状態で24時間培養した。また、被験物質を添加せず伸展させない状態で24時間培養した細胞を陽性コントロールとした。培養終了後、RNAIso+(タカラバイオ社製)を用いてRNAを単離抽出した。このRNAに対して、High Capacity RNA to cDNA Kit(Thermo社製)を用いて逆転写反応によるcDNA合成を行った後に、SYBR Select Master Mix(Thermo社製)を用いてPCR反応を実施し、FLG、IVL、KRT10の遺伝子発現量を実施例1と同様にして解析した。
【0085】
FLG、IVL、KRT10の各遺伝子の発現は、被験物質未添加(分化誘導なし)で培養した細胞(コントロール)におけるFLG、IVL、KRT10の発現量を内部標準であるGAPDHの発現量に対する割合として算出したFLG遺伝子発現量/GAPDH遺伝子発現量、IVL遺伝子発現量/GAPDH遺伝子発現量、KRT10遺伝子発現量/GAPDH遺伝子発現量を100とし、これに対し、被験物質添加/未添加(分化誘導あり)で培養した細胞のFLG、IVL、KRT10の遺伝子相対発現量の値を算出し、評価した。これらの試験結果を以下の表5に示す。
【0086】
【表5】
【0087】
表5に示されるように、伸展刺激によって表皮幹細胞の分化が抑制されたが(分化誘導あり/伸展刺激あり/抽出物未添加)、サンショウの抽出物(製造例1~9)を同時に添加した場合、伸展刺激による表皮幹細胞の分化抑制を改善することが確認された。特に、サンショウ果皮の50%エタノール抽出物(製造例5)を使用した場合により有効性が高かった。
【0088】
(実験例6)伸展刺激による真皮幹細胞分化障害に対するブドウザンショウの抽出物の効果の評価
皮膚組織は表情変化や発話などにより伸展刺激がかかっており、伸展刺激が酸化ストレスとなることが知られている。伸展刺激が真皮幹細胞の分化誘導に及ぼす影響を解析するとともにサンショウの抽出物を作用させた場合の有効性を評価した。真皮由来細胞として市販のヒト皮膚線維芽細胞(東洋紡株式会社製)を用い、特開2017-093383号公報に記載の方法に準じて、NGFR(nerve growth factor receptor:Geanbank number:Nucleotide NM_002507.3;Protein NP_002498.1)を指標として真皮幹細胞を分離した。10%FBS含有DMEM培地(ナカライ社製)で維持した真皮幹細胞をコラーゲンゲル(新田ゼラチン社製)中に1×10細胞/mLでストレッチチャンバー(STREX社製)上に播種し、10%FBS含有DMEM培地を添加し24時間培養した。24時間後に一般的に線維芽細胞の分化誘導因子として使用されているTGFβを10ng/mL(Pepro Tech社製)添加して分化を誘導し、被験物質(製造例1~9のサンショウの抽出物)の最終濃度が50μg/mLとなるように添加し、伸展装置(STREX社製)でゲルの長さが1.4倍となる伸展率で伸展させた状態で24時間培養した。また、被験物質を添加せず伸展させない状態で24時間培養した細胞を陽性コントロールとした。培養終了後、RNAIso+(タカラバイオ社製)を用いてRNAを単離抽出した。このRNAに対して、High Capacity RNA to cDNA Kit(Thermo社製)を用いて逆転写反応によるcDNA合成を行った後に、SYBR Select Master Mix(Thermo社製)を用いてPCR反応を実施し、COL1A1とFAPの遺伝子発現量を実験例2と同様にして解析した。
【0089】
COL1A1、FAPの各遺伝子の発現は、被験物質未添加(分化誘導なし)で培養した細胞(コントロール)におけるCOL1A1、FAPの発現量を内部標準であるGAPDHの発現量に対する割合として算出したCOL1A1遺伝子発現量/GAPDH遺伝子発現量、FAP遺伝子発現量/GAPDH遺伝子発現量を100とし、これに対し、被験物質添加/未添加(分化誘導あり)で培養した細胞のCOL1A1、FAPの遺伝子相対発現量の値を算出し、評価した。これらの試験結果を以下の表6に示す。
【0090】
【表6】
【0091】
表6に示されるように、伸展刺激によって真皮幹細胞の分化が抑制されたが(分化誘導あり/伸展刺激あり/抽出物未添加)、サンショウの抽出物(製造例1~9)を同時に添加した場合、伸展刺激による真皮幹細胞の分化抑制を改善することが確認された。特に、サンショウ果皮の50%エタノール抽出物(製造例5)を使用した場合により有効性が高かった。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明の皮膚幹細胞の分化促進剤は、生体内で又は生体外で、皮膚幹細胞の分化を促進することができる。よって、本発明は、表皮幹細胞や真皮幹細胞の機能低下や不全に起因する皮膚疾患や病態を治療、改善、及び予防するための化粧品や医薬品の製造分野、再生医療や再生美容のための移植材料の製造分野において利用できる。
【配列表】
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