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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025026041
(43)【公開日】2025-02-21
(54)【発明の名称】駆動装置及び液体吐出装置
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/015 20060101AFI20250214BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20250214BHJP
【FI】
B41J2/015 101
B41J2/01 401
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023131379
(22)【出願日】2023-08-10
(71)【出願人】
【識別番号】324006865
【氏名又は名称】理想テクノロジーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】梶浦 佑介
(72)【発明者】
【氏名】原田 蒼太
【テーマコード(参考)】
2C056
2C057
【Fターム(参考)】
2C056EC07
2C056EC42
2C056FA04
2C056FA13
2C057AF67
2C057AM16
2C057AN05
2C057BA14
(57)【要約】
【課題】電流の流れ込みを抑制できる駆動装置及び液体吐出装置を提供することである。
【解決手段】実施形態にかかる駆動装置は、液体を吐出する液体吐出部のアクチュエータを駆動する駆動波形を出力する駆動回路を有する。前記駆動波形は、最低電圧と最高電圧を除く中間電位よりも高い第1電位から、前記中間電位よりも低い第2電位に推移し、前記アクチュエータの充放電の時定数以下の時間で、前記第2電位から前記中間電位へ推移する。
【選択図】 図4

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を吐出する液体吐出部のアクチュエータを駆動する駆動波形を出力する駆動回路を有し、
前記駆動波形は、最低電圧と最高電圧を除く中間電位よりも高い第1電位から、前記中間電位よりも低い第2電位に推移し、前記アクチュエータの充放電の時定数以下の時間で、前記第2電位から前記中間電位へ推移する、駆動装置。
【請求項2】
前記駆動回路は、3種類以上の電圧をスイッチすることで前記駆動波形を出力するとともに、
前記駆動波形は、前記第1電位から、前記第2電位に推移するよりも前に、
まず、中間電位から前記第2電位に推移し、その後、前記第2電位から前記第1電位に推移させる、請求項1に記載の駆動装置。
【請求項3】
前記中間電位から前記第2電位に推移した後、一度前記第2電位から所定時間中間電位とするステップ波形を経て、前記第1電位に推移させる、前記請求項2に記載の駆動装置。
【請求項4】
前記アクチュエータの充放電の時定数以下の時間で前記第2電位から前記中間電位へ推移することにより放電することで、
前記中間電位から前記第2電位に推移した後、一度前記第2電位から所定時間中間電位とする前記ステップ波形による充電量の、少なくとも一部を相殺する、請求項3に記載の駆動装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の駆動装置と、
前記駆動装置に駆動されて液体を吐出する液体吐出ヘッドと、を備える、
液体吐出装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、駆動装置及び液体吐出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェットヘッド等の液体吐出装置において、吐出制御の駆動波形として、ALのパルス周期で連続してアクチュエータに電圧を供給し連続的に複数のインクを吐出させて1つの画素を形成するマルチドロップ駆動が知られている。このような駆動波形において、中間電位の電流の流れ出し量と流れ込み量のバランスが悪いと中間電位への電流流れ込みが発生する場合がある。
【0003】
このような液体吐出装置において、電流の流れ込みを抑制できる技術が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006-256094号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、電流の流れ込みを抑制できる駆動装置及び液体吐出装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態にかかる駆動装置は、液体を吐出する液体吐出部のアクチュエータを駆動する駆動波形を出力する駆動回路を有する。前記駆動波形は、最低電圧と最高電圧を除く中間電位よりも高い第1電位から、前記中間電位よりも低い第2電位に推移し、前記アクチュエータの充放電の時定数以下の時間で、前記第2電位から前記中間電位へ推移する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】第1の実施形態に係る液体吐出装置の構成を示す説明図。
図2】第1の実施形態に係る液体吐出ヘッドの構成を示す斜視図。
図3】同実施形態にかかる液体吐出ヘッドのチャネルに対する等価回路図。
図4】同実施形態にかかる逃がし吐出波形と、第2電源の消費電流の関係を示すグラフ。
図5】比較例としての標準波形と、第2電源の消費電流の関係を示すグラフ。
図6】他の実施形態にかかるステップ波形を有する逃がし吐出波形と、第2電源の消費電流の関係を示すグラフ。
図7】比較例としてのステップ波形を有する標準波形と、第2電源の消費電流の関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に、第1の実施形態に係る液体吐出ヘッド1及び液体吐出ヘッド1を用いた液体吐出装置2について、図1及び図2を参照して説明する。図1は、第1の実施形態に係る液体吐出装置2の構成を示す説明図であり、図2は、液体吐出ヘッド1の構成を示す斜視図である。図3は駆動回路を示す説明図である。図4は実施形態にかかる放電波形と第2電源の消費電流を示すグラフである。図5は比較例としての基準波形と第2電源の消費電流を示すグラフである。図6は他の実施形態にかかるステップ波形Peを有する放電波形と第2電源の消費電流を示すグラフである。図7は比較例としてステップ波形Peを有する基準波形と第2電源の消費電流を示すグラフである。なお、各図において説明のため、適宜構成を拡大、縮小または省略して示している。
【0009】
液体吐出ヘッド1を有する液体吐出装置2について、図1を参照して説明する。液体吐出装置2は、筐体2111と、媒体供給部2112と、画像形成部2113と、媒体排出部2114と、支持装置である搬送装置2115と、制御部2118と、を備える。
【0010】
液体吐出装置2は、媒体供給部2112から画像形成部2113を通って媒体排出部2114に至る所定の搬送路2001に沿って、吐出対象物である記録媒体として例えば用紙Pを搬送しながらインク等の液体を吐出することで、用紙Pに画像形成処理を行うインクジェットプリンタである。
【0011】
媒体供給部2112は複数の給紙カセット21121を備える。画像形成部2113は、用紙を支持する支持部2120と、支持部2120の上方に対向配置された複数のヘッドユニット2130と、を備える。媒体排出部2114は、排紙トレイ21141を備える。
【0012】
支持部2120は、画像形成を行う所定領域にループ状に備えられる搬送ベルト21201と、搬送ベルト21201を裏側から支持する支持プレート21202と、搬送ベルト21201の裏側に備えられた複数のベルトローラ21203と、を備える。
【0013】
ヘッドユニット2130は、複数のインクジェットヘッドである液体吐出ヘッド1と、各液体吐出ヘッド1上にそれぞれ搭載された液体タンクとしての複数の供給タンク2132と、インクを供給するポンプ2134と、液体吐出ヘッド1と供給タンク2132とを接続する接続流路2135と、を備える。
【0014】
液体吐出ヘッド1は、供給タンク2132に貯留された液体としてのインクが供給される。なお、液体吐出ヘッド1は、インクを循環させない非循環式のヘッドであってもよく、また、インクを循環させる循環式のヘッドであってもよい。
【0015】
本実施形態において、液体吐出ヘッド1としてシアン、マゼンダ、イエロー、ブラックの4色の液体吐出ヘッド1と、これらの各色のインクをそれぞれ収容する4色の供給タンク2132を備える。供給タンク2132は接続流路2135によって液体吐出ヘッド1に接続される。
【0016】
図2に示すように、液体吐出ヘッド1は、インクジェットヘッドであり、複数のノズル211を有するノズルプレート21と、アクチュエータ基板22と、アクチュエータ基板22に接合されたマニフォルド23と、駆動波形生成手段としての駆動回路24と、を備える。
【0017】
アクチュエータ基板22は、ノズル211に対向配置され、ノズル211に連通する複数の圧力室26と、圧力室26の容積を変化させるアクチュエータとしての駆動素子27と、を有する液体吐出部としてのアクチュエータ部25を備える。アクチュエータ基板22は、ノズルプレート21との間に複数の圧力室26を含む所定の流路を形成する所定形状に構成される。
【0018】
アクチュエータ部25の圧力室26に隣接する駆動素子27には、駆動回路24に接続される電極が形成される。電極は、例えば駆動回路24に接続される配線により駆動回路24の後述するドライバを介して、制御部2118に接続され、プロセッサによる制御によって駆動制御可能に構成される。
【0019】
駆動回路24は、ドライバIC241や、各種配線基板242を備える。駆動回路24は、ドライバIC241により駆動電圧をアクチュエータ部25の配線パターンに印加することでアクチュエータ部25を駆動し、圧力室26の容積を増減させて、対向配置されたノズル211から液滴を吐出させる。
【0020】
液体吐出ヘッド1は、ノズルプレート21と、アクチュエータ基板22と、マニフォルド23とによって、内部に圧力室26を有する所定の流路を構成する。液体吐出ヘッド1の流路は、液体吐出装置の接続流路2135に接続される。
【0021】
ポンプ2134は、例えば圧電ポンプで構成される送液ポンプである。ポンプ2134は、制御部2118に接続され、制御部2118により駆動制御される。
【0022】
接続流路2135は、液体吐出ヘッド1のインク供給管に接続される供給流路を備える。また、接続流路2135は、液体吐出ヘッド1のインク排出管に接続される回収流路を備える。例えば、液体吐出ヘッド1が非循環式の場合には、回収流路は、メンテナンス装置に接続され、液体吐出ヘッド1が循環式の場合には、回収流路は、供給タンク2132に接続される。
【0023】
搬送装置2115は、媒体供給部2112の給紙カセット21121から画像形成部2113を通って媒体排出部2114の排紙トレイ21141に至る搬送路2001に沿って、用紙Pを搬送する。搬送装置2115は、搬送路2001に沿って配置される複数のガイドプレート対21211~21218と、複数の搬送用ローラ21221~21228と、を備えている。搬送装置2115は、用紙Pを液体吐出ヘッド1に相対移動可能に支持する。
【0024】
制御部2118は、例えば、制御基板である。制御部2118は、プロセッサ、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、入出力ポートであるI/Oポート、画像メモリを搭載している。
【0025】
プロセッサは、コントローラであるCPU(Central Processing Unit)等の処理回路である。プロセッサは、I/Oポートを通して、液体吐出装置2に設けられるヘッドユニット2130、駆動モータ、操作部、及び各種センサ等を制御する。プロセッサは、画像メモリに保存した印字データを描画順に駆動回路24に送信する。
【0026】
また制御部2118は、駆動波形を決定する。制御部2118は、例えば複数段階で設定可能な波形から、適用する波形を選択する。
【0027】
ROMは、各種のプログラムなどを記憶する。RAMは、各種の可変データや画像データなどを一時的に記憶する。I/Oポートは、外部からのデータの入力及び外部へのデータの出力をするインターフェイス部である。外部接続機器からの印字データは、I/Oポートを通じて制御部2118へ送信され、画像メモリに保存される。
【0028】
印字データは、領域毎の色や濃度画像の情報を含む画像データなどから液体を吐出させるために変換された、ヘッドに入力されるデータである。液体吐出ヘッド1は入力される印字データに応じた駆動信号を、駆動回路24に入力し、駆動回路24を介してアクチュエータ部25の各駆動素子27に駆動波形を印加する。
【0029】
以下、実施形態に係る液体吐出装置2に用いられる液体吐出ヘッド1の特性及び液体吐出ヘッド1の駆動回路24で生成される駆動信号による駆動波形について説明する。例えば液体吐出ヘッド1は、駆動波形としてあるALのパルス周期で連続してアクチュエータ部25の駆動素子27に供給し連続的に複数のインクを吐出させて1つの画素を形成するマルチドロップ駆動であり、複数のドロップ波形を組み合わせることにより、複数階調で駆動する。すなわち、駆動回路24は、複数パターン(複数種類)のマルチドロップ信号により、多階調の駆動波形で駆動する。例えば、本実施形態にかかる駆動波形において、拡張要素Paから収縮要素Pbまでの幅は液体吐出ヘッド1の圧力室26の固有振動周期の半分の時間であるAL(Acoustic Length)とする。
【0030】
図3は本実施形態にかかる駆動回路24の等価回路図である。駆動回路24は、3以上の電圧を切り替え可能であり、3以上の電圧を切替えることで所定の駆動波形を出力する駆動波形生成手段となる。一例として、図3に示すように、駆動回路24は、駆動素子27に接続される3つのスイッチ243と、2つの電源244,245とを備え、各スイッチ243の接続の切替えにより、駆動素子27に印加する電圧を切替えることで、3以上の電圧値を含む駆動波形を出力する。
【0031】
制御部2118は、印字データに基づき、各駆動素子27に印加する駆動波形を設定する。例えば制御部2118は、駆動回路24におけるスイッチ243の切替えにより、電源244,245とGNDとで接続状態を切替えることで、対象の駆動素子27に印加する電圧値を3種類以上の電圧で切替える。すなわち、駆動回路24は、スイッチ243を切替えることで、所定の駆動波形を生成・出力する、駆動波形生成手段として機能する。
【0032】
一例として、第1電源244に接続される第1電位と、第2電源245に接続される中間電位と、グランドに接続される第2電位と、の3つの電位で、電圧を切替える例を示す。
【0033】
ここで中間電位Vbは最低電位と最高電位を除く電位に設定される。また、一例として放電電位となる第2電位Vaは接地によるグランド電位とする。すなわち、例えば本実施形態において、第1電位Vcを最高電位とし、第2電位Vaであるグランド電位を最低電位とし、中間電位はその間の電位とする。
【0034】
例えば制御部2118は、少なくともいずれかの駆動素子27に対して、中間電位Vbよりも高い第1電位Vcから中間電位Vbへ下げる際に一時的に中間電位Vbよりもさらに低い第2電位Vaまで電圧を下げる吐出波形WAを出力する。
【0035】
図4は、本実施形態にかかる吐出波形WAを示すグラフであり、縦軸は電圧[V]、横軸は時間[μs]を示す。例えば本実施形態にかかる吐出波形WAは、拡張と収縮によりノズル211から液体を1回吐出させる吐出波形である。例えば吐出波形WAは、マルチドロップ駆動における1ドロップ分のドロップ波形を示している。すなわち、複数のドロップ波形を連続して有するマルチドロップ波形における一つのドロップ波形として、吐出波形WAを有する。
【0036】
図4に示すように、吐出波形WAはまず、最低電圧と最高電圧を除く中間電位Vbから中間電位Vbよりも低い第2電位Vaに推移し、その後、第2電位Vaから中間電位Vbよりも高い第1電位Vcに推移する。そして、第1電位Vcから、中間電位Vbよりも低い第2電位Vaに推移し、アクチュエータの充放電の時定数以下の時間で、第2電位Vaから中間電位Vbへ推移する。
【0037】
すなわち、本実施形態にかかる吐出波形WAは、まず電圧を中間電位Vbから第2電位Vaまで下げて圧力室を拡張する拡張要素Paと、一定時間経過後に第2電位Vaから第1電位Vcまで電圧を上げて圧力室を収縮させる収縮要素Pbと、収縮後所定のタイミングで、第1電位Vcから一度中間電位Vbよりも低い第2電位Vaまで電圧を下げて電流を逃がす逃がし要素Pcと、第2電位Vaまで下げた後、充放電の時定数以下の時間内に、第2電位Vaから中間電位Vbにまで戻す戻し要素Pdと、を有する駆動波形である。
【0038】
ここで、第2電位まで下げる時間は、印加する対象となる駆動素子27(アクチュエータ)の充放電の時定数以下の時間とする。
【0039】
具体的には、制御部2118は、駆動回路24において、第1電源244から第2電源245へスイッチする際に一時的に第2電源245よりも低い第2電位Va(GND)へスイッチし、第2電源245への電流流れ込みを一時的にGNDへ逃がす。そして、充放電の時定数以下の時間内に、再び第2電源245にスイッチすることで、中間電位Vbに戻す。
【0040】
図4の下図は、吐出波形WAの駆動における、第2電源245の消費電流Iを示すグラフである。図4によれば、吐出波形WAにおいて、収縮後に中間電位に戻すタイミングでも消費電流Iは下降せずに、一定の電流値を保つ直線状のラインを呈する。すなわち、電荷の流れ込みが生じないことを示している。
【0041】
本実施形態によれば、電流流れ込みを抑制できる駆動装置及び液体吐出装置を提供できる。すなわち、収縮要素Pbの後に、第1電位から中間電位へ下げる際に一時的に中間電位よりもさらに低い第2電位まで電圧を下げて放電することにより、駆動素子27に充電された電荷が第2電源245へ流れ込んでしまうことを抑制できる。
【0042】
図5は比較例としての標準波形WBと第2電源の消費電流Iの対応を示す説明図である。標準波形WBは、中間電位Vbから第2電位Vaまで下げる拡張要素Paと、一定時間経過後に第2電位Vaから第1電位Vcまで電圧を上げて圧力室を収縮させる収縮要素Pbと、その後所定のタイミングで、再び第1電位Vcから中間電位Vbにまで戻す戻し要素Pfと、を含む。この標準波形WBの駆動における、第2電源245の消費電流Iは、収縮後に中間電位に戻すタイミングまで基準の電流値を保ち、中間電位に戻すタイミングで一旦下降し、下降点から曲線状に、基準電流値まで戻るラインを呈する。すなわち、中間電位Vbに戻すタイミングで電源の消費電流が下降しており、第1電源から第2電源へスイッチングするタイミングでは、駆動素子27に充電された電荷が第2電源245に流れ込んでいることを示している。
【0043】
これに対して、上記本実施形態における吐出波形WAでは、図4に示すように一次的に低い電位として放電することで、アクチュエータである駆動素子27からの電荷の流れ出しを抑制できていることが判る。
【0044】
また、吐出波形WAにおいて、第2電位とする時間を、当該アクチュエータの充放電の時定数以下とすることで、消費電力の増大及び駆動波形への影響を防ぐことができる。すなわち、例えば放電時間は、電圧や駆動素子27であるPZT(チタン酸ジルコン酸鉛)の静電容量などによっても左右される、短すぎると第2電源への流れ込みが多少発生してしまい、逆に長過ぎると第2電源から電流が流れ出してしまい、第2電源の消費電流が増大する要因となってしまうため、適度な時間に設定する必要がある。そこで、一例として充放電の時定数以下として短く調整することで、電源からの流れ込みを防止でき、印字品質への影響を抑制できる。
【0045】
なお、本発明の実施形態は上述した構成に限定されるものではなく、適宜変更して実施できる。
【0046】
例えば駆動波形は上記実施形態の例に限られるものではなく、適宜変更可能である。図6は、ステップ波形Pe及び逃がし要素Pcを有する吐出波形WCを示すグラフである。
【0047】
図6に示すように、本実施形態にかかる吐出波形WCは、中間電位Vbから第2電位Vaまで下げて圧力室を拡張させる拡張要素Paと、一定時間経過後に第2電位Vaから中間電位Vbに電圧を戻し、さらに中間電位Vbから中間電位Vbよりも高い第1電圧Vcまで上げて圧力室26を収縮させるステップ波形Peを有する収縮要素Pbと、第1電圧Vcから一度中間電位Vbよりも低い第2電圧Vaまで下げる逃がし要素Pcと、第2電圧Vaから再び中間電位Vbにまで戻す戻し要素Pdと、を含む。
【0048】
この吐出波形WCの駆動における、第2電源245の消費電流Iは、拡張時、中間電位に戻すタイミングまで基準の電流値を保ち、拡張後に中間電位に戻すタイミングで一度上昇し、上昇点から曲線状に、基準電流値まで戻るラインを呈する。その後、第2電源245の消費電流Iは、収縮後に中間電位に戻すタイミングまで基準の電流値を保ち、中間電位に戻すタイミングで一旦下降し、下降点から曲線状に、基準電流値まで戻るラインを呈する。吐出波形WCでは、拡張後に中間電位に戻すタイミングで一度上昇する消費電流の上昇量と、中間電位に戻すタイミングでの下降量とが同程度となる。すなわち、本実施形態において、逃がし要素Pcは、その前のステップ要素における電荷の流れ込みに応じて、これを相殺できる条件に設定する。例えば、吐出波形WCの全体として、電荷の流れ込み電流の総和がゼロとなる条件に、逃がし要素Pcの条件を設定する。
【0049】
すなわち、本実施形態にかかる波形WCは、中間電位Vbから第2電位Vaに推移した後、一度第2電位Vaから所定時間中間電位Vbとするステップ波形Peを経て、第1電位Vcに推移させる波形である。このステップ波形Peにおいては電荷が流れ出すため、その後のアクチュエータの充放電の時定数以下の時間で第2電位Vaとする逃がし要素Pcによって放電を行いこの放電量と、ステップ波形Peにおける充電量を近づけ、あるいは同じとするように調整することで、互いに相殺させる。すなわち、本実施形態にかかる波形WCは、逃がし吐出波形によって、一旦電荷の流れ出しがある前提で、放電により電荷の流れ込みを発生させることにより、ステップ波形Peと逃がし吐出波形とで電荷の流れ込みと流れ出しを相殺させることができる。
【0050】
本実施形態によれば、収縮要素Pbの後に、第1電位Vcから中間電位Vbへ下げる際に一時的に中間電位Vbよりもさらに低い第2電位Vaまで電圧を下げて放電することにより、駆動素子27に充電された電荷が第2電源245へ流れ込んでしまうことを抑制できる。
【0051】
図7は比較例としてのステップ波形Peを有する標準の吐出波形WDである。吐出波形WDは、中間電位Vbから第2電位Vaまで下げる拡張要素Paと、一定時間経過後に一旦第2電位Vaから中間電位Vbを戻した後所定のタイミングで中間電位Vbから第1電位Vcまで電圧を上げて圧力室を収縮させる収縮要素Pbと、その後所定のタイミングで、再び第1電位Vcから中間電位Vbにまで戻す戻し要素Pfと、を含む。
【0052】
すなわち、収縮の際に、一旦中間電位Vbに維持して段階的に電圧を上げるステップ波形Peを有する。このステップ波形を有する標準波形WBの駆動における、第2電源245の消費電流は、拡張時、中間電位Vbに戻すタイミングまで基準の電流値を保ち、拡張後に中間電位Vbに戻すタイミングで一度上昇し、上昇点から曲線状に、基準電流値まで戻るラインを呈する。その後、第2電源245の消費電流は、収縮後に中間電位に戻すタイミングまで基準の電流値を保ち、中間電位に戻すタイミングで一旦下降し、下降点から曲線状に、基準電流値まで戻るラインを呈する。すなわち、ステップ波形を有する吐出波形WDでは、中間電位Vbに戻すタイミングで電源の消費電流が下降しており、駆動素子27から第2電源245に電荷が流れ込んでいることを示している。吐出波形WDでは、第2電位Vaから第1電位Vcへ上げる際に段階的に一度中間電位Vbに上げてから第1電位Vcへ上げるステップ波形とすることで、第2電源の流れ込みを防ぐことができるが、段階時間が十分でない場合には十分に放電することができない。また段階時間を長くしすぎてしまうと、印字品質に影響してしまう。
【0053】
ここで、吐出波形WCでは、ステップ波形Peを有する吐出波形WDよりも、中間電位に戻すタイミングでの消費電流の下降が抑制されている。また、ステップ波形Peにおける上昇量と同程度の下降であり、ステップ波形Peによる充電と逃がし要素Pcによる放電を互いに相殺できていることがわかる。
【0054】
また、ステップ波形Peを有する吐出波形WCにおいても、第2電位とする時間を、当該アクチュエータの充放電の時定数以下とすることで、消費電力の増大及び駆動波形への影響を防ぐことができる。すなわち、放電時間が長すぎると反対に、電源からの流れ込みが発生するため、時定数以下とすることで、電源からの流れ込みを防止できる。
【0055】
例えば上記実施形態においては、駆動装置の一例として、液体吐出ヘッド1に設けられたドライバIC241を有する駆動回路24を例示したがこれに限られるものではない。例えば液体吐出ヘッド1に接続され、液体吐出ヘッド1の外部に設けられた制御装置など、各種制御装置を駆動装置としてもよい。
【0056】
波形は、1つの種類ではなく、複数種類以上の波形を組み合わせてもよい。例えば複数の駆動素子27のうち、いずれかの駆動素子27に、いずれかのタイミングで印加する駆動波形で逃がし要素を有していればよく、異なる別の波形と組み合わせて駆動することも可能である。例えば、逃がし要素を有する吐出波形は、複数の吐出波形により液滴を吐出するマルチドロップ波形の一部であってもよく、あるいは1回の吐出波形により液滴を吐出するシングル波形であってもよい。
【0057】
各電圧についても、上記実施形態に限られるものではない。例えば第2電位としての放電電位は、GNDに限られるものではない。
【0058】
また、第1電位と第2電位は、それぞれ最高電圧と最低電圧にした例を示したが、これに限られるものではなく、他の電圧値に設定してもよい。
【0059】
また3つの電位でスイッチする例に限られず、4つ以上の電位でスイッチできる構成としてもよい。
【0060】
また、少なくともいずれかの液体を吐出しない非吐出波形を含んでいてもよい。
【0061】
例えば、液体吐出ヘッド1の構成は上記の例に限られるものではなく、他のタイプのヘッドに用いてもよい。例えば液体吐出ヘッドは、圧力室と駆動素子との間に設けられる振動板を駆動素子の変形によって振動させることで、液体吐出部を駆動する構成であってもよい。
【0062】
以上説明した少なくともひとつの実施形態によれば、電流流れ込みを抑制できる駆動装置及び液体吐出装置を提供できる。
【0063】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0064】
1…液体吐出ヘッド、2…液体吐出装置、21…ノズルプレート、22…アクチュエータ基板、23…マニフォルド、24…駆動回路、25…アクチュエータ部、26…圧力室、27…駆動素子(アクチュエータ)、211…ノズル、241…ドライバIC、242…配線基板、243…スイッチ、244…第1電源、245…第2電源、2001…搬送路、2111…筐体、2112…媒体供給部、2113…画像形成部、2114…媒体排出部、2115…搬送装置、2118…制御部、2120…支持部、2130…ヘッドユニット、2132…供給タンク、2134…ポンプ、2135…接続流路、21121…給紙カセット、21141…排紙トレイ、21201…搬送ベルト、21202…支持プレート、21203…ベルトローラ、21211~21218…ガイドプレート対、21221~21228…搬送用ローラ、Pa…拡張要素、Pb…収縮要素、Pc…逃がし要素、Pd…戻し要素、Pe…ステップ波形、Pf…戻し要素。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7