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特開2025-26116薄膜の膜厚を測定する測定方法、測定装置および測定プログラム
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  • 特開-薄膜の膜厚を測定する測定方法、測定装置および測定プログラム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025026116
(43)【公開日】2025-02-21
(54)【発明の名称】薄膜の膜厚を測定する測定方法、測定装置および測定プログラム
(51)【国際特許分類】
   G01B 15/02 20060101AFI20250214BHJP
   G01N 21/3586 20140101ALN20250214BHJP
【FI】
G01B15/02 C
G01N21/3586
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023131492
(22)【出願日】2023-08-10
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (その1) ウェブサイトの掲載日 2023年1月25日 ウェブサイトのアドレス https://meeting.jsap.or.jp/jsap2023s/ https://meeting.jsap.or.jp/jsap2023s/program/ (プログラム(PDF)) https://meeting.jsap.or.jp/jsapm/wp-content/uploads/sites/15/2023/02/final-program.pdf (Webプログラム(Confit)) https://confit.atlas.jp/guide/event/jsap2023s/top https://confit.atlas.jp/guide/event/jsap2023s/table/20230317_poster https://confit.atlas.jp/guide/event/jsap2023s/session/17p-PB07-1▲~▼15/tables?XaIWJxDZTY https://confit.atlas.jp/guide/event/jsap2023s/subject/17p-PB07-14/tables?cryptoId= (講演会アプリ(Confit)) https://confit.atlas.jp/guide/event/jsap2023s/recommend/publication?eventCode=jsap2023s
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (その2) 発行日 2023年2月27日 刊行物 第70回応用物理学会春季学術講演会 予稿集DVD 公益社団法人応用物理学会 (その3) ウェブサイトの掲載日 2023年2月27日 ウェブサイトのアドレス https://confit.atlas.jp/guide/event/jsap2023s/subject/17p-PB07-14/tables?cryptoId= https://confit.atlas.jp/guide/event-img/jsap2023s/17p-PB07-14/public/pdf?type=in (その4) 開催日 2023年3月17日(開催期間:2023年3月15日~2023年3月18日) 集会名、開催場所 第70回応用物理学会春季学術講演会(現地開催及びZoomによるハイブリッド開催) 現地会場:上智大学四谷キャンパス(東京都千代田区紀尾井町7-1)
(71)【出願人】
【識別番号】593006630
【氏名又は名称】学校法人立命館
(71)【出願人】
【識別番号】599126017
【氏名又は名称】日邦プレシジョン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】荒木 努
(72)【発明者】
【氏名】藤井 高志
(72)【発明者】
【氏名】岩本 敏志
【テーマコード(参考)】
2F067
2G059
【Fターム(参考)】
2F067AA27
2F067BB16
2F067CC15
2F067EE04
2F067HH02
2F067JJ02
2F067KK08
2F067RR25
2F067RR26
2G059AA02
2G059AA03
2G059BB10
2G059BB16
2G059EE02
2G059EE05
2G059EE09
2G059GG10
2G059HH05
2G059KK01
2G059MM01
(57)【要約】
【課題】極薄膜の膜厚を非接触、非破壊で測定する。
【解決手段】薄膜の膜厚を測定する測定方法であって、光を前記薄膜に入射させ、前記薄膜からの反射光を検出する検出ステップS1と、前記反射光のp偏光とs偏光の位相差(△)および振幅比(Ψ)を計測する計測ステップS2と、位相差(△)および振幅比(Ψ)に基づいて、前記薄膜のシート抵抗値および散乱時間を求める第1解析ステップS3と、フレネルの式を用いたモデルにより、前記シート抵抗値および前記散乱時間に基づいて、前記薄膜の膜厚を求める第2解析ステップS4と、を有する測定方法。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
薄膜の膜厚を測定する測定方法であって、
光を前記薄膜に入射させ、前記薄膜からの反射光を検出する検出ステップと、
前記反射光のp偏光とs偏光の位相差(△)および振幅比(Ψ)を計測する計測ステップと、
前記位相差および前記振幅比に基づいて、前記薄膜のシート抵抗値および散乱時間を求める第1解析ステップと、
フレネルの式を用いたモデルにより、前記シート抵抗値および前記散乱時間に基づいて、前記薄膜の膜厚を求める第2解析ステップと、
を有する測定方法。
【請求項2】
前記第1解析ステップでは、
特性インピーダンスを用いたモデルにより、前記膜厚を考慮せずに、前記シート抵抗値および前記散乱時間を求める、請求項1に記載の測定方法。
【請求項3】
前記第1解析ステップでは、
前記シート抵抗値および前記散乱時間をフィッティングパラメータとして、前記特性インピーダンスを用いたモデルにおける理論上の振幅反射強度比(tanΨ)が、前記計測ステップにおいて計測された振幅比(Ψ)に対応する振幅反射強度比(tanΨ)と整合するようにフィッティングを行う、請求項2に記載の測定方法。
【請求項4】
前記第1解析ステップでは、
フレネルの式を用いたモデルにより、前記膜厚が所定値と仮定した場合の、前記シート抵抗値および前記散乱時間を求める、請求項1に記載の測定方法。
【請求項5】
前記所定値は1μm以下である、請求項4に記載の測定方法。
【請求項6】
前記第2解析ステップで求められる前記膜厚が収束するまで、前記所定値を前記第2解析ステップで求められた膜厚に置き換えて、前記第1解析ステップおよび前記第2解析ステップを繰り返す、請求項4に記載の測定方法。
【請求項7】
前記第2解析ステップでは、
前記膜厚をフィッティングパラメータとして、前記フレネルの式を用いたモデルにおける理論上の位相差(△)が、前記計測ステップにおいて計測された位相差(△)と整合するようにフィッティングを行う、請求項1から請求項6のいずれかに記載の測定方法。
【請求項8】
薄膜の膜厚を測定する測定装置であって、
前記薄膜からの反射光のp偏光とs偏光の位相差(△)および振幅比(Ψ)を計測する計測部と、
前記位相差および前記振幅比に基づいて、前記薄膜のシート抵抗値および散乱時間を求める第1解析部と、
フレネルの式を用いたモデルにより、前記シート抵抗値および前記散乱時間に基づいて、前記薄膜の膜厚を求める第2解析部と、
を有する測定装置。
【請求項9】
薄膜の膜厚を測定するための測定プログラムであって、
前記薄膜からの反射光のp偏光とs偏光の位相差(△)および振幅比(Ψ)を計測する計測部、
前記位相差および前記振幅比に基づいて、前記薄膜のシート抵抗値および散乱時間を求める第1解析部、および
フレネルの式を用いたモデルにより、前記シート抵抗値および前記散乱時間に基づいて、前記薄膜の膜厚を求める第2解析部、
としてコンピュータを動作させる、測定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜の膜厚を測定する技術に関し、特に、テラヘルツ時間領域分光エリプソメトリーによって膜厚を測定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体薄膜の非破壊での特性評価手法としての非破壊・非接触特性評価手法としてテラヘルツ時間領域分光エリプソメトリー(Terahertz Time-Domain Spectroscopic Ellipsometry;THz-TDSE)が注目されている。THz-TDSEによる半導体の電気特性(抵抗率、キャリア濃度、移動度)測定は、2001年に大阪大学の長島らにより提案された(特許文献1)。
【0003】
さらに2013年、日邦プレシジョン株式会社は、半導体基板やエピタキシャル膜の電気特性(抵抗率、キャリア濃度、移動度)および厚さを非接触・非破壊で測定可能なテラヘルツエリプソメトリー装置(商品名:TeraEvaluator(登録商標))を上市した。TeraEvaluator(登録商標)では、テラヘルツ波の反射による偏光状態の変化から、サンプルの電気特性を推定する。
【0004】
図10に示すように、THz-TDSEでは、テラヘルツ(1THz~3THz)の直線偏光を薄膜のサンプルに入射させ、サンプルからの反射光のp偏光とs偏光の振幅比(Ψ)および位相差(Δ)を、周波数を変化させながら測定する。図11(a)および(b)はそれぞれ、振幅反射強度比(tanΨ)および位相差(Δ)の周波数依存性(実験値)を示すグラフである。これらの実験値を、フレネル方程式を用いた理論値(FRモデル)とフィッティング(コンピュータにより最適化)させることにより、電気特性を推定している(非特許文献1)。
【0005】
図6に示すような基板上の薄膜(2層構造)に対して、フレネル方程式から、振幅反射強度比(tanΨ)および位相差(Δ)の関係は下記の式で表される。
【数1】
上記式において、
である。
【0006】
Drudeモデルにより、複素屈折率は下記の式で表される。
【数2】
上記式において、
τ:散乱時間
ε:バックグラウンド誘電率
N:キャリア密度
ε:真空誘電率
:有効質量
ω:角周波数
e:素電荷
である。
【0007】
従来のFRモデルでは、これらの式における膜厚(d)、キャリア密度(N)および散乱時間(τ)の各パラメータを、TeraEvaluator(登録商標)で測定された振幅反射強度比(tanΨ)および位相差(Δ)が同時に成立するようにフィッティングさせることで、膜厚等を推定している。出願人らは、これまでにこの手法を用いてSi、GaAs、SiC、GaN、InN等の3次元半導体基板上のエピタキシャル膜の電気特性を非接触、非破壊で測定し、測定結果を報告した。これらの報告から、バルク結晶やある程度の厚みのある(おおよそ1μm以上)のエピタキシャル膜に関して、FRモデルによる測定結果が他の手法での測定結果とよい一致を示していることを明らかにした。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第3550381号
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】岩室憲幸監修、「次世代パワーエレクトロニクスの課題と評価技術」、S&T出版株式会社、2022年7月、p.127―138
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
出願人らは、GaNの自立基板の作成を目指して、ScAlMgO(SAM)基板上にRF-MBE法により約1μm以下のGaN薄膜を成長させたテンプレートを検討している。しかしながら、このような極薄膜の膜厚を従来のFRモデルによって解析しようとしたところ、膜厚に複数の最適解が存在するために一意に膜厚を決定することができないことが分かった。
【0011】
図12は、従来のTHz-TDSEのフィッティングによる極薄膜の電気特性の最適解の一例である。この例では、tanΨでフィッティングを行い、散乱時間、キャリア密度および膜厚の3つのパラメータを最適化した。膜厚の初期値は0.5μm~1.1μmの範囲で変更した。実測値と理論値との残差の二乗和を最小にする解は、図12に示すものを含め無限に存在する可能性があり、従来のFRモデルによる解析では、散乱時間、キャリア密度および膜厚のパラメータ3つを同時にフィッティングすることは困難であることが分かった。
【0012】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであって、極薄膜の膜厚を非接触、非破壊で測定することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本発明は以下の態様を含む。
項1.
薄膜の膜厚を測定する測定方法であって、
光を前記薄膜に入射させ、前記薄膜からの反射光を検出する検出ステップと、
前記反射光のp偏光とs偏光の位相差(△)および振幅比(Ψ)を計測する計測ステップと、
前記位相差および前記振幅比に基づいて、前記薄膜のシート抵抗値および散乱時間を求める第1解析ステップと、
フレネルの式を用いたモデルにより、前記シート抵抗値および前記散乱時間に基づいて、前記薄膜の膜厚を求める第2解析ステップと、
を有する測定方法。
項2.
前記第1解析ステップでは、
特性インピーダンスを用いたモデルにより、前記膜厚を考慮せずに、前記シート抵抗値および前記散乱時間を求める、項1に記載の測定方法。
項3.
前記第1解析ステップでは、
前記シート抵抗値および前記散乱時間をフィッティングパラメータとして、前記特性インピーダンスを用いたモデルにおける理論上の振幅反射強度比(tanΨ)が、前記計測ステップにおいて計測された振幅比(Ψ)に対応する振幅反射強度比(tanΨ)と整合するようにフィッティングを行う、項2に記載の測定方法。
項4.
前記第1解析ステップでは、
フレネルの式を用いたモデルにより、前記膜厚が所定値と仮定した場合の、前記シート抵抗値および前記散乱時間を求める、項1に記載の測定方法。
項5.
前記所定値は1μm以下である、項4に記載の測定方法。
項6.
前記第2解析ステップで求められる前記膜厚が収束するまで、前記所定値を前記第2解析ステップで求められた膜厚に置き換えて、前記第1解析ステップおよび前記第2解析ステップを繰り返す、項4に記載の測定方法。
項7.
前記第2解析ステップでは、
前記膜厚をフィッティングパラメータとして、前記フレネルの式を用いたモデルにおける理論上の位相差(△)が、前記計測ステップにおいて計測された位相差(△)と整合するようにフィッティングを行う、項1から項6のいずれかに記載の測定方法。
項8.
薄膜の膜厚を測定する測定装置であって、
前記薄膜からの反射光のp偏光とs偏光の位相差(△)および振幅比(Ψ)を計測する計測部と、
前記位相差および前記振幅比に基づいて、前記薄膜のシート抵抗値および散乱時間を求める第1解析部と、
フレネルの式を用いたモデルにより、前記シート抵抗値および前記散乱時間に基づいて、前記薄膜の膜厚を求める第2解析部と、
を有する測定装置。
項9.
薄膜の膜厚を測定するための測定プログラムであって、
前記薄膜からの反射光のp偏光とs偏光の位相差(△)および振幅比(Ψ)を計測する計測部、
前記位相差および前記振幅比に基づいて、前記薄膜のシート抵抗値および散乱時間を求める第1解析部、および
フレネルの式を用いたモデルにより、前記シート抵抗値および前記散乱時間に基づいて、前記薄膜の膜厚を求める第2解析部、
としてコンピュータを動作させる、測定プログラム。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、極薄膜の膜厚を非接触、非破壊で測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】テラヘルツ時間領域分光エリプソメトリー装置の概略構成図である。
図2】本発明の実施形態に係る測定装置の機能を示すブロック図である。
図3】本発明の実施形態に係る第1の測定方法の処理手順を示すフローチャートである。
図4】(a)~(d)はCIモデルの説明図である。
図5】CIモデルにおけるフィッティングの一例である。
図6】FRモデルの説明図である。
図7】FRモデルにおけるフィッティングの一例である。
図8】本発明の実施形態に係る第2の測定方法の処理手順を示すフローチャートである。
図9】断面TEM観察によるサンプルの断面画像である。
図10】THz-TDSEの測定原理の説明図である。
図11】振幅反射強度比(tanΨ)および位相差(Δ)の周波数依存性(実験値)を示すグラフである。
図12】従来のTHz-TDSEのフィッティングによる極薄膜の電気特性の最適解の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について添付図面を参照して説明する。なお、本発明は、下記の実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて、種々の変更が可能である。
【0017】
(装置構成)
図1は、本実施形態に係るテラヘルツ時間領域分光エリプソメトリー装置(THz-TDSE装置)1の概略構成図である。THz-TDSE装置1では、光源2から、パルス幅100fsec程度のフェムト秒パルスレーザ光を出射し、ビームスプリッタ3で、レーザ光L1(ポンプパルス)とレーザ光L2(プローブパルス)に分波する。レーザ光L1は、発振側の光伝導アンテナ4に入射し、光伝導アンテナ4より周波数がテラヘルツ波領域(100GHz~10THz)の電磁波が放射される。電磁波は、偏光子5を通過してサンプルSに斜入射する。本実施形態において、サンプルSは、ScAlMgO(SAM)基板上にRF-MBE法により約1μmのGaN薄膜を成長させたものである。
【0018】
サンプルSからの反射光は、検光子6および偏光子7を通過して、検出側の光伝導アンテナ8で検出される。また、検出側の光学経路の遅延回路9により時間領域での測定が可能となる。光伝導アンテナ8で検出された反射光の信号は、測定装置10に送信される。
【0019】
図2は、測定装置10の機能を示すブロック図である。測定装置10は、汎用のコンピュータで構成することができる。測定装置10は、ハードウェア構成として、CPUやGPUなどのプロセッサ、DRAMやSRAMなどの主記憶装置(図示省略)、および、HDDやSSDなどの補助記憶装置11を備えている。補助記憶装置11には、測定プログラムPが格納されている。
【0020】
測定装置10は、機能ブロックとして、計測部12と、第1解析部13と、第2解析部14とを備える。これらの機能ブロックは、測定装置10のプロセッサが測定プログラムPを主記憶装置に読み出して実行することにより実現される。測定プログラムPは、インターネット等の通信ネットワークを介して測定装置10にダウンロードしてもよいし、CD-ROMやSDカード等のコンピュータ読み取り可能な非一時的な記録媒体に測定プログラムPを記録しておき、当該記憶媒体を介して測定装置10にインストールしてもよい。上記機能ブロックの機能については、後述する。
【0021】
(第1の測定方法)
図3は、本実施形態に係る第1の測定方法の処理手順を示すフローチャートである。
【0022】
ステップS1(検出ステップ)では、THz-TDSE装置1によって、偏光子5を通過した光(本実施形態では直線偏光)をSAM基板上にGaN薄膜が形成されたサンプルSに入射させ、光伝導アンテナ8が薄膜からの反射光(本実施形態では楕円偏光)を検出する。検出された反射光の信号は、測定装置10に入力される。
【0023】
ステップS2(計測ステップ)では、測定装置10の計測部12が、従来公知の方法で、反射光のp偏光とs偏光の位相差(△)および振幅比(Ψ)を計測する。(Ψ、△)は、エリプソメトリック角(Ellipsometric angle)と呼ばれる。
【0024】
(CI解析)
ステップS3(第1解析ステップ)では、測定装置10の第1解析部13が、位相差(△)および振幅比(Ψ)に基づいて、GaN薄膜(薄膜のシート)抵抗値および散乱時間を求める。第1の測定方法では、第1解析部13は、特性インピーダンスを用いたモデル(CIモデル)により、GaN薄膜の膜厚を考慮せずに、GaN薄膜の直流シート電気伝導度(シート抵抗値)および散乱時間を求める。
【0025】
まず、CIモデル(電波の理論)について説明する。特性インピーダンスとは、交流の電気エネルギーが媒質に伝達する際に伝搬媒質中に発生する電圧と電流、または電場と磁場の比である。図4(a)に示すように、屈折率n、nが異なる2つの媒体の界面では、反射が起こる。図4(b)に示すように、電気信号がインピーダンスZの伝送線路からインピーダンスZの伝送線路に伝搬するときにも、同様の反射が起こる。
【0026】
図4(c)に示すように、SAM基板上に形成されたGaN薄膜が膜厚1μm以下の極薄膜である場合、振幅反射強度比(tanΨ)は、膜厚を0としても、THz-TDSEにより測定される振幅反射強度比に対して、測定ばらつき範囲内でほぼ差がない(一方、位相差(△)は、膜厚が数10nmであっても、THz-TDSEにより測定される位相差に対して大きな差が出る)。そのため、CIモデルでは、図4(c)に示す構造が、図4(d)に示す集中定数回路と等価であるとみなすことができる。
【0027】
【数3】
上記式(1)において、
ω:角周波数
τ:散乱時間
N:シートキャリア密度
:有効質量
e:素電荷
である。
【0028】
CIモデルにおいて、振幅反射強度比(tanΨ)と位相差(△)との関係は、下記の式(2)で表すことができる。
【数4】
【0029】
上記式(2)の右辺の各変数は、下記の式(3)および式(4)ように表される。
【数5】
式(3)および式(4)において、
である。
【0030】
交流電気伝導率を表す式(1)における直流シート電気伝導度(σ)および散乱時間(τ)をフィッティングパラメータとして、CIモデルにおける理論上の振幅反射強度比(tanΨ)がステップS2において計測された振幅比(Ψ)に対応する振幅反射強度比(tanΨ)と整合するようにフィッティングを行う。これにより、GaN薄膜の直流シート電気伝導度(σ)および散乱時間(τ)を一意に決定することができる。ただし、GaN薄膜の厚みを無視しているため、直流シート電気伝導度がシート抵抗値と同等であるという仮定を置いている。
【0031】
図5は、CIモデルにおけるフィッティング(フィッティング範囲:1THz~2.5THz)の一例である。これにより、理論値(fitting)と実測値(GanonSAM)との残差の二乗和が最小となる直流シート電気伝導度(σ)および散乱時間(τ)を求める。
【0032】
このように、ステップS3では、振幅反射強度比(tanΨ)にCIモデルを適用することにより、直流シート電気伝導度(σ)および散乱時間(τ)を求めることができる。
【0033】
(FR解析)
ステップS4(第2解析ステップ)では、測定装置10の第2解析部14が、フレネルの式を用いたモデル(FRモデル)により、直流シート電気伝導度(シート抵抗値)および散乱時間に基づいて、GaN薄膜の膜厚を求める。
【0034】
図6は、FRモデルの説明図である。FRモデルにおいて、振幅反射強度比(tanΨ)と位相差(△)との関係は、下記の式(5)で表すことができる。
【数6】
【0035】
上記式(5)の右辺の各変数は、下記の式(6)および式(7)ように表される。
【数7】
式(6)および式(7)において、
【数8】
であり、式(10)において、
【数9】
である。式(11)において、
ε:バックグラウンド誘電率
σ:直流シート電気伝導度
:GaN薄膜の膜厚
ε:真空誘電率
τ:散乱時間
ω:角周波数
である。
【0036】
ステップS3において、直流シート電気伝導度(σ)および散乱時間(τ)は決定されているので、膜厚(d)をフィッティングパラメータとして、FRモデルにおける理論上の位相差(△)が、ステップS2において計測された位相差(△)と整合するようにフィッティングを行う。これにより、GaN薄膜の膜厚(d)を一意に決定することができる。
【0037】
図7は、FRモデルにおけるフィッティング(フィッティング範囲:1.5THz~2.5THz)の一例である。これにより、理論値(fitting)と実測値(GanonSAM)との残差の二乗和が最小となる膜厚(d)を求める。
【0038】
このように、ステップS4では、位相差(△)にFRモデルを適用することにより、膜厚(d)を求めることができる。さらに、膜厚(d)が決定されると、GaN薄膜の抵抗率、キャリア濃度、移動度などの電気的特性も求めることができる。
【0039】
(総括)
以上のように、本実施形態に係る第1の測定方法は、
光を前記薄膜に入射させ、前記薄膜からの反射光を検出するステップS1と、
前記反射光のp偏光とs偏光の位相差(△)および振幅比(Ψ)を計測するステップS2と、
特性インピーダンスを用いたモデルにより、前記膜厚を考慮せずに、前記薄膜のシート抵抗値(直流シート電気伝導度)および散乱時間を求めるステップS3と、
フレネルの式を用いたモデルにより、前記シート抵抗値および前記散乱時間に基づいて、前記薄膜の膜厚を求めるステップS4と、
を有する。
【0040】
より具体的には、
ステップS3では、シート抵抗値(直流シート電気伝導度)および散乱時間をフィッティングパラメータとして、CIモデルにおける理論上の振幅反射強度比(tanΨ)が、ステップS2において計測された振幅比(Ψ)に対応する振幅反射強度比(tanΨ)と整合するようにフィッティングを行うことにより、シート抵抗値および散乱時間を求める。ステップS4では、膜厚をフィッティングパラメータとして、FRモデルにおける理論上の位相差(△)が、ステップS2において計測された位相差(△)と整合するようにフィッティングを行うことにより、膜厚を求める。
【0041】
このように、本実施形態では、膜厚が1μm以下の極薄膜であっても、振幅反射強度比(tanΨ)にCIモデルを適用し、位相差(△)にFRモデルを適用することにより、1回の測定で膜厚を求めることができる。よって、極薄膜の膜厚を非接触、非破壊で測定することができる。
【0042】
なお、薄膜の膜厚は、概ね1μm以下であれば特に限定されず、例えば、100nm~1μmであることが望ましい。また、薄膜に照射される光の波長は、特に限定されないが、100GHz~10THzであることが望ましく、1THz~4THzであることがさらに望ましい。
【0043】
(第2の測定方法)
図8は、本実施形態に係る第2の測定方法の処理手順を示すフローチャートである。
【0044】
ステップS1およびS2は、第1の測定方法におけるものと同じであるので、説明を省略する。
【0045】
ステップS3’(第1解析ステップ)では、測定装置10の第1解析部13が、位相差(△)および振幅比(Ψ)に基づいて、GaN薄膜(薄膜のシート)抵抗値および散乱時間を求める。第2の測定方法では、第1解析部13は、フレネルの式を用いたモデル(FRモデル)により、GaN薄膜の膜厚が所定値と仮定した場合の、GaN薄膜の直流シート電気伝導度(シート抵抗値)および散乱時間を求める。所定値は特に限定されないが、例えば1μm以下であることが好ましい。
【0046】
具体的には、図6に示す薄膜に対して、フレネル方程式から、振幅反射強度比(tanΨ)および位相差(Δ)の関係は下記の式(12)~式(14)で表される。
【数10】
上記式において、
である。
【0047】
Drudeモデルにより、複素屈折率は下記の式(15)および式(16)で表される。
【数11】
上記式において、
τ:散乱時間
ε:バックグラウンド誘電率
N:キャリア密度
ε:真空誘電率
:有効質量
ω:角周波数
e:素電荷
である。
【0048】
ステップS3’では、式(12)~式(16)において、膜厚(d)を所定値とし、キャリア密度(N)および散乱時間(τ)の各パラメータを、ステップS2で測定された振幅反射強度比(tanΨ)および位相差(Δ)が同時に成立するようにフィッティングさせる。これにより、キャリア密度(N)および散乱時間(τ)が求められ、さらに、キャリア密度(N)からシート抵抗値(直流シート電気伝導度)が求められる。
【0049】
ステップS4(第2解析ステップ)では、測定装置10の第2解析部14が、フレネルの式を用いたモデル(FRモデル)により、直流シート電気伝導度(シート抵抗値)および散乱時間に基づいて、GaN薄膜の膜厚を求める。膜厚の求め方は、第1の測定方法におけるステップS4と同じである。
【0050】
さらに、ステップS4で求められる膜厚が収束するまで(ステップS5においてYES)、前記所定値をステップS4で求められた膜厚に置き換えて(ステップS6)、ステップS3’およびステップS4を繰り返す。これにより、膜厚を一意に決定することができる。収束したか否かの判断手法は特に限定されないが、例えば、ステップS4で求められた膜厚の、直前のステップS4で求められた膜厚に対する変動割合が一定値以下になった場合に、収束したと判断してもよい。
【実施例0051】
本実施例では、上記実施形態と同様に、ScAlMgO4(SAM)基板上にRF-MBE法によりGaN薄膜を成長させることにより、サンプルSを作製した。このサンプルSに対し、上記実施形態に係る第1の測定方法および第2の測定方法により、GaN薄膜の膜厚、抵抗率、キャリア濃度および移動度を測定した。第2の測定方法では、ステップS3’における所定値を1μmに設定した。
【0052】
また、比較例として、サンプルSのSAM基板を10mm角にカットし、ホール効果測定および断面TEM観察による膜厚測定を行った。断面TEM観察による膜厚測定では、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて、カットされたサンプルSの断面を撮影し、画像からGaN薄膜の膜厚を測定した。
【0053】
図9は、断面TEM観察によるサンプルSの断面画像である。この断面画像から、GaN薄膜の膜厚が0.78~0.85μmであることが確かめられた。ホール効果測定では、膜厚を0.8μmとして、GaN薄膜の抵抗率、キャリア濃度および移動度を測定した。
【0054】
実施例1および比較例の測定結果を表1に示す。
【表1】
【0055】
上記測定結果から、膜厚が1μm以下の極薄膜であっても、本実施例に係る第1および第2の測定方法により、膜厚、抵抗率、キャリア濃度および移動度を正確に測定できることが分かった。
【符号の説明】
【0056】
1 テラヘルツ時間領域分光エリプソメトリー装置(THz-TDSE装置)
2 光源
3 ビームスプリッタ
4 光伝導アンテナ(放射器)
5 偏光子
6 検光子
7 偏光子
8 光伝導アンテナ(検出器)
9 遅延回路
10 測定装置
11 補助記憶装置
12 計測部
13 第1解析部
14 第2解析部
L1 レーザ光
L2 レーザ光
P 測定プログラム
S サンプル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12