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特開2025-26122転写制御因子タンパク質分解促進組成物およびそれを含むがん治療薬
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025026122
(43)【公開日】2025-02-21
(54)【発明の名称】転写制御因子タンパク質分解促進組成物およびそれを含むがん治療薬
(51)【国際特許分類】
   A61K 45/00 20060101AFI20250214BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20250214BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20250214BHJP
   A61K 31/506 20060101ALI20250214BHJP
   A61K 31/519 20060101ALI20250214BHJP
   A61K 31/4709 20060101ALI20250214BHJP
   A61K 31/5377 20060101ALI20250214BHJP
   A61K 31/395 20060101ALI20250214BHJP
【FI】
A61K45/00
A61P43/00 105
A61P35/00
A61K31/506
A61K31/519
A61K31/4709
A61K31/5377
A61K31/395
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023131505
(22)【出願日】2023-08-10
(71)【出願人】
【識別番号】505232346
【氏名又は名称】学校法人星薬科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【弁理士】
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】大竹 史明
(72)【発明者】
【氏名】森 友紀
(72)【発明者】
【氏名】秋月 慶乃
(72)【発明者】
【氏名】本田 陸斗
【テーマコード(参考)】
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C084AA17
4C084NA14
4C084ZB26
4C084ZC20
4C084ZC41
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC33
4C086BC36
4C086BC46
4C086BC73
4C086CB05
4C086GA07
4C086GA09
4C086GA10
4C086GA12
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZB26
4C086ZC01
4C086ZC20
(57)【要約】
【課題】転写制御因子タンパク質の分解誘導そのものを促進することができ、複数の共供与によって分解誘導の効果を高められ、また、高い治療効果を持つがん治療薬として有用である転写制御因子タンパク質分解促進組成物およびそれを用いた治療薬を提供する。
【解決手段】PARG阻害剤、PERK阻害剤、HSP90阻害剤またはヒストンアセチル化酵素阻害剤を含み、転写制御因子タンパク質の分解を促進する、転写制御因子タンパク質分解促進組成物およびそれを用いた治療薬である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
PARG阻害剤、PERK阻害剤、HSP90阻害剤またはヒストンアセチル化酵素阻害剤を含み、転写制御因子タンパク質の分解を促進する、転写制御因子タンパク質分解促進組成物。
【請求項2】
前記転写制御因子タンパク質が、BRD、BRG1、BRD9、ESR1またはCDK9である、請求項1に記載の転写制御因子タンパク質分解促進組成物。
【請求項3】
転写制御因子タンパク質のユビキチン化を介した前記転写制御因子タンパク質の分解を促進する、請求項1または2に記載の転写制御因子タンパク質分解促進組成物。
【請求項4】
MZ1、ARV771、dBET6、ACBI1、dBRD9-AまたはARV471を介したタンパク質分解を促進する、請求項1または2に記載の転写制御因子タンパク質分解促進組成物。
【請求項5】
前記PARG阻害剤としてPDD00017273、前記PERK阻害剤としてGSK2606414、GSK2656157もしくはAMG-PERK、前記HSP90阻害剤としてLuminespibもしくは17-AAG、または前記ヒストンアセチル化酵素阻害剤としてA485もしくはSGC-CBP30を用いる、請求項1または2に記載の転写制御因子タンパク質分解促進組成物。
【請求項6】
請求項1または2に記載の転写制御因子タンパク質分解促進組成物を含む治療薬。
【請求項7】
がん治療薬である、請求項6に記載の治療薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、BRDタンパク質などの転写制御因子タンパク質の分解を促進する成分を含む転写制御因子タンパク質分解促進組成物、およびそれを含む治療薬に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞内には、疾患の原因となるタンパク質が存在し、その疾患原因タンパク質を特異的に細胞内で分解して除去することで、当該疾患の治療薬に応用することが期待される。標的タンパク質分解の原理としては、細胞内にもともと備わっているユビキチン・プロテアソーム系を利用するものが考えらえている。すなわち、細胞内で不要になったタンパク質は、小分子量のユビキチンタンパク質が複数付与され、いわゆるタグ付けが行われる機構が存在する。ユビキチン化によりタグ付けされたタンパク質は、大型のタンパク質複合体であるタンパク質分解酵素、プロテアソームによって分解される。そこで、標的とするタンパク質の特異的なユビキチン化、または標的とするタンパク質の特異的にプロテアソームによる分解を促進することができれば、標的とするタンパク質の特異的な分解を促進することができると考えられる。
例えば、標的タンパク質に結合する物質と、ユビキチン化酵素(タグ付加酵素、ユビキチンリガーゼとも呼ばれる)に結合する薬剤とを連結させたハイブリッド型の化合物を用いると、標的タンパク質とユビキチン化酵素とを近接させて強制的にユビキチン化を引きおこして分解を誘導することができる。
【0003】
ここで、がん治療薬における標的タンパク質としてBRD4が注目されている。BRD4は、BRD2、BRD3、BRDTと共にBETファミリータンパク質として知られ、がん細胞において転写制御因子として遺伝子発現を制御し、炎症、がん細胞の増殖、腫瘍形成などに関与することが知られている。このため、BRD4はがん、炎症性疾患や生活習慣病の治療の標的としても注目されている。
PROTAC(標的分解誘導薬)として、前記ユビキチン化酵素のCRL2と、E3ユビキチンリガーゼ基質認識サブユニットであるVHLからなるユビキチン化酵素複合体CRL2(VHL)を利用したハイブリッド型化合物が知られている。BRD4を標的とするPROTACの化合物として、VHLを認識するリガンドとBRD4を認識するリガンドとを連結した化合物MZ1が報告されている。
【0004】
一方、本発明者らによる非特許文献1では、細胞を分解誘導剤で処理した時に標的タンパク質としてBRD4に結合するタンパク質の探索を介し、これまで知られるCRL2(VHL)とは別のユビキチン付加酵素であるTRIP12を同定している。TRIP12は、CRL2(VHL)が標的タンパク質にユビキチンを付加した後で結合してくることを見出した。また、分解誘導剤の作用におけるTRIP12の役割を明らかにするために、TRIP12を持たないがん細胞を作製している。TRIP12を持たないがん細胞では、分解誘導剤で処理した際の標的タンパク質の分解が遅れ、さらに、この分解が引き起こすがん細胞の細胞死も抑制されることを見出した。TRIP12が分解誘導剤の作用を促進する分子メカニズムをさらに検討し、CRL2(VHL)とTRIP12とでは、前記ユビキチンが複数結合したユビキチン鎖の形状が異なり、CRL2(VHL)とTRIP12の両方の働きにより特殊な形状の鎖を合成することを見出した。すなわち、TRIP12はタンパク質分解に適した形状のユビキチン鎖の合成を手助けする酵素であることを見出した。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Kaiho-Soma et al., 2021, Molecular Cell 81, 1411-1424.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の技術では、分解誘導に関与するMZ1など、個別の分解誘導薬の活性を高める研究はされているが、分解誘導そのものを促進する因子や化合物は、ほとんど知られていない。例えば、BRD4などの特定の標的タンパク質のユビキチン化や、プロテアソームによる分解を促進する因子や、抑制因子に作用して阻害することで分解誘導を促進する因子が見つかれば、がん等の疾患に大きく関与する転写因子やクロマチン調節因子といった、標的タンパク質の分解に有効であると考えられる。例えば、既知のPROTACに用いる因子に加えてそれらの因子を加えることで、治療効果を大きく高めることが期待される。また、既知のそれらの因子にかえて用いる選択肢としても期待できる。
【0007】
本発明は上記のような事情を鑑みてなされたものであり、転写制御因子タンパク質の分解誘導そのものを促進することができ、複数の共供与によって分解誘導の効果を高められ、また、高い治療効果を持つがん治療薬として有用である転写制御因子タンパク質分解促進組成物およびそれを用いた治療薬を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明は以下の態様を有する。
本発明の第1の態様は、
PARG阻害剤、PERK阻害剤、HSP90阻害剤またはヒストンアセチル化酵素阻害剤を含み、転写制御因子タンパク質の分解を促進する、転写制御因子タンパク質分解促進組成物である。
【0009】
本発明の第2の態様は、
前記転写制御因子タンパク質が、BRD、BRG1、BRD9、ESR1またはCDK9である、第1の態様の転写制御因子タンパク質分解促進組成物である。
【0010】
本発明の第3の態様は、
転写制御因子タンパク質のユビキチン化を介した前記転写制御因子タンパク質の分解を促進する、第1または第2の態様の転写制御因子タンパク質分解促進組成物である。
【0011】
本発明の第4の態様は、
MZ1、ARV771、dBET6、ACBI1、dBRD9-AまたはARV471を介したタンパク質分解を促進する、第1から第3の態様のいずれかのタンパク質分解促進組成物である。
【0012】
本発明の第5の態様は、
前記PARG阻害剤としてPDD00017273、前記PERK阻害剤としてGSK2606414、GSK2656157もしくはAMG-PERK、前記HSP90阻害剤としてLuminespibもしくは17-AAG、または前記ヒストンアセチル化酵素阻害剤としてA485もしくはSGC-CBP30を用いる、第1から第4の態様のいずれかの転写制御因子タンパク質分解促進組成物である。
【0013】
本発明の第6の態様は、
第1から第5のいずれかに記載の転写制御因子タンパク質分解促進組成物を含む、治療薬である。
【0014】
本発明の第7の態様は、
がん治療薬である、第6の態様の治療薬である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、転写制御因子タンパク質タンパク質の分解誘導そのものを促進することができ、複数の共供与によって分解誘導の効果を高められ、また、高い治療効果を持つがん治療薬として有用である転写制御因子タンパク質分解促進組成物およびそれを用いた治療薬が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本実施例で用いたHiBiT-BRD4-HCT116細胞における、MZ1タンパク質の添加量あたりのHiBiT-BRD4の量のグラフ図である。
図2】本実施例の化合物スクリーニングの結果を示す模式図である。
図3】本実施例の化合物のHiBiT-BRD4の分解効果を示すグラフ図である。
図4】本実施例のPERG阻害剤を添加した細胞抽出液のウェスタンブロットの結果を示す写真図である。
図5】本実施例の細胞抽出液のうち、BRD4のタンパク質量の定量を示すグラフ図である。
図6】本実施例の発光強度で測定できる細胞生存率の結果のグラフ図である。
図7】本実施例のカスパーゼ3/7の活性強度で測定できるアポトーシス応答の結果のグラフ図である。
図8】本実施例のユビキチン化されたBRD4,2のウェスタンブロットの結果を示す写真図である。
図9】本実施例のCUL2のウェスタンブロットの結果を示す写真図である。
図10】本実施例のPERK阻害剤、HSP90阻害剤によるウェスタンブロッティングの結果を示す写真図である。
図11】本実施例のPERK阻害剤、HSP90阻害剤によるウェスタンブロッティングの結果を示す写真図である。
図12】本実施例のGSK2606414とSIM1の添加によるBRD4とBRD2の分解を示すウェスタンブロットの結果を示す写真図である。
図13】本実施例の細胞生存の測定結果のグラフ図である。
図14】本実施例の各ヒストンアセチル化酵素阻害剤およびヒストン脱アセチル化酵素阻害剤を用いたウェスタンブロットの結果を示す写真図である。
図15】本実施例のヒストン脱アセチル化酵素阻害剤Vorinostatを用いたウェスタンブロットの結果を示す写真図である。
図16】本実施例のヒストンアセチル化酵素阻害剤SGC-CBPを用いたウェスタンブロットの結果を示す写真図である。
図17】本実施例のヒストンアセチル化酵素阻害剤SGC-CBPを用いた細胞生存の結果を示すグラフ図である。
図18】本実施例のヒストン脱アセチル化酵素阻害剤Vorinostatを用いてBRD4-MZ1-VHLとの関係を調査したウェスタンブロットの結果を示す写真図である。
図19】本実施例のヒストンアセチル化酵素阻害剤SGC-CBPを用いてBRD4-MZ1-VHLとの関係を調査したウェスタンブロットの結果を示す写真図である。
図20】本実施例のヒストン脱アセチル化酵素阻害剤Vorinostatを用いてBRD4の局在を調査したウェスタンブロットの結果を示す写真図である。
図21】本実施例のヒストンアセチル化酵素阻害剤SGC-CBPを用いてBRD4の局在を調査したウェスタンブロットの結果を示す写真図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る転写制御因子タンパク質分解促進組成物および治療薬について、実施形態を示して説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0018】
(転写制御因子タンパク質分解促進組成物)
本実施形態の転写制御因子タンパク質分解促進組成物は、PARG阻害剤、PERK阻害剤、HSP90阻害剤またはヒストンアセチル化酵素阻害剤を含む。
【0019】
本実施形態の転写制御因子タンパク質分解促進組成物は、転写制御因子タンパク質の分解を促進する。本実施形態の転写制御因子タンパク質分解促進組成物が標的とする転写制御因子タンパク質としては、転写を制御する機能にかかわるタンパク質を広く指すが、主にBRD、BRG1、BRD9、ESR1(ER-α)またはCDK9などを標的とすることができる。
BRDファミリーのタンパク質、BRG1、BRD9、CDK9は、クロマチン調節因子として知られる。ESR1はいわゆる転写因子として知られる。
【0020】
このうち、分解を促進する標的のBRDタンパク質としては、BRD、BRD2、BRD3、BRD4またはBRDTなどから選択できるが、好ましくは、後述するMZ1により分解が促進されるBRD2、BRD4を標的とすることができる。BRDタンパク質としては、BRD4がより好ましい。
BRDタンパク質は、各種動物のものであってもよく、本実施形態ではヒトBRD、特にヒトBRD4(Genebank ID:23476)であることが好ましい。
【0021】
本実施形態の転写制御因子タンパク質分解促進組成物は、転写制御因子タンパク質のユビキチン化を介した前記転写制御因子タンパク質の分解を促進することが好ましい。
したがって、本実施形態の転写制御因子タンパク質分解促進組成物を用いる系では、ユビキチン-プロテアソーム系のタンパク質分解に必要な他の成分を含んでいることが好ましい。
例えば、ユビキチン、プロテアソーム、MZ1や他に後述する分解誘導薬、または、その他の分解促進因子などが含まれる系であることが好ましい。これらを含んでいる系としては、生物内の環境、例えば細胞内が挙げられる。
または、ユビキチン-プロテアソーム系が機能する他の成分の存在下であれば、In vitroの環境でも用いることができる。
また、本実施形態の転写制御因子タンパク質分解促進組成物は、他のタンパク質分解に関与する成分と共に用いられてもよい。こうした成分には、標的タンパク質のユビキチン-プロテアソーム系による分解に関与する他の物質や、他のタンパク質分解系に関与する成分が含まれる。
【0022】
本実施形態の転写制御因子タンパク質分解促進組成物は、BRDが標的である場合、PARG阻害剤、PERK阻害剤またはヒストンアセチル化酵素阻害剤を含み、MZ1を介した転写制御因子タンパク質の分解を促進することが好ましい。
前述したように、BRD、特にBRD2とBRD4は、分解誘導薬MZ1により分解が促進される。PARG阻害剤、PERK阻害剤またはヒストンアセチル化酵素阻害剤は、MZ1によるタンパク質分解を有効に促進することができる。従来、分解誘導薬MZ1を用いたPROTACが知られている。
【0023】
また、転写制御因子タンパク質分解促進組成物は、ARV771、dBET6、ACBI1、dBRD9-AまたはARV471を介したタンパク質分解を促進することも好ましい。
転写制御因子タンパク質の分解を促進する因子、すなわち分解誘導薬としては、例えばMZ1同様にCRL2(VHL)を標的とするARV771、CRL4(CRBN)を標的とするdBET6を介した反応であってもよい。
また、分解の対象となる転写制御因子タンパク質がBRG1であるときは、PROTACの分解誘導薬としてはACBI1を好適に用いることができる。分解の対象となる転写制御因子タンパク質がBRD9であるときは、PROTACの分解誘導薬としてはdBRD9-Aを好適に用いることができる。分解の対象となる転写制御因子タンパク質がESR1であるときは、PROTACの分解誘導薬としてはARV471を好適に用いることができる。分解の対象となる転写制御因子タンパク質がCDK9であるときは、PROTACの分解誘導薬としてはThal-SNSを好適に用いることができる。
【0024】
本実施形態の転写制御因子タンパク質分解促進組成物は、PARG阻害剤、PERK阻害剤、HSP90阻害剤またはヒストンアセチル化酵素阻害剤のいずれかを含んでいてもよく、また、複数を含んでいてもよい。本実施形態の転写制御因子タンパク質分解促進組成物は、前記のいずれかを2以上含み、前記成分が共投与されることが特に好ましい。
例えば、PARG阻害剤であるPDD00012273またはPERK阻害剤であるGSK2606414と、ヒストンアセチル化酵素CBPの阻害剤であるSGC-CBP30を共投与することで、BRD4の分解がさらに促進される。
【0025】
また、本実施形態の転写制御因子タンパク質分解促進組成物は、
(A)PARG阻害剤、PERK阻害剤またはヒストンアセチル化酵素阻害剤のいずれか1以上と、
(B)HSP90阻害剤と、
を含むことも好ましい。
すなわち、前記(A)がMZ1を介したBRDとMZ1の結合、および、BRDのユビキチン化を促進すると考えられているのに対して、(B)HSP90阻害剤は、ユビキチン化されたBRDのプロテアソーム依存性分解を促進すると考えられている。したがって、前記(A)と(B)の両方を含む転写制御因子タンパク質分解促進組成物は、特に標的がBRDである場合に、BRDとMZ1の結合、BRDのユビキチン化、およびBRDのプロテアソーム依存性分解がいずれも促進されるので、転写制御因子タンパク質の分解促進の効果がより高いことが期待される。
【0026】
本実施形態の転写制御因子タンパク質分解促進組成物が含み得るPARG阻害剤は、PARG(ポリ(ADP-リボース)グリコヒドロラーゼ)を阻害する化合物を広く指す。PARGはDNA損傷時にポリ(ADP-リボース)を分解し、DNA修復に関与していることが知られている。
PARG阻害剤としては、例えば、PDD00017272、PDD00017273、PDD00017278、PDD00031705、COHまたはJA2131などが知られている。
本実施形態では、PARG阻害剤としてPDD00017273(CAS:1945950-21-9)を用いることがより好ましい。
【0027】
本実施形態の転写制御因子タンパク質分解促進組成物が含み得るPERK阻害剤は、PERK(パンクレアチックERキナーゼまたはPKR様ERキナーゼ)を阻害する化合物を広く指す。PERKは小胞体ストレスのセンサータンパク質のひとつで、PERKの活性化によって翻訳が抑制され、異常タンパク質応答関連遺伝子の転写誘導が起こることが知られている。
PERK阻害剤としては、例えば、GSK2606414、GSK2656157、AMG-PERKまたはISRIB(融合ストレス応答阻害剤)トランス異性体などが知られている。
本実施形態では、PERK阻害剤としてGSK2606414(CAS:1337531-36-8)、GSK2656157(CAS:1337532-29-2)もしくはAMG-PERK44(CAS:1883548-84-2)を用いることがより好ましい。
【0028】
本実施形態の転写制御因子タンパク質分解促進組成物が含み得るHSP90阻害剤は、HSP90(熱ショックタンパク質の分子量90kDa類)を阻害する化合物を広く指す。HSP90は熱ショックタンパク質のひとつで、細胞恒常性を制御し、分子シャペロンとしても機能し、タンパク質の安定化に関わることが知られている。
HSP90阻害剤としては、CH5138303、HSP990、BIIB021、KW-2478、Ganetespib(STA-9090)、Tanespimycin(17-AAG)、NMS-E973、Luminespib(NVP-AUY922、VER-52296)、Onalespib(AT13387)、VER-58589、Pimitespib(TAS-116)、XL888、SNX-2112、SNX-5422、VER-49009、PU-H71、NVP-BEP800、Alvespimycin、またはGaldenamycinなどが知られている。
本実施形態では、HSP90阻害剤としてLuminespib(CAS:747412-49-3)、もしくは17-AAG(CAS:75747-14-7)を用いることがより好ましい。
【0029】
本実施形態の転写制御因子タンパク質分解促進組成物が含み得るヒストンアセチル化酵素(HAT)阻害剤は、ヒストンアセチル化酵素を阻害する化合物を広く指す。ヒストンアセチル化酵素は、DNAとヒストンの複合体をアセチル化し、BRDの転写制御の機能に関係する点では、BRD4のBDとアセチル化ヒストンとの結合により、RNAポリメラーゼIIによる転写伸長を促進することが知られている。
ヒストンアセチル化酵素阻害剤としては、C646、SGC-CBP30、MG149、Ginkgolic Acid、A-485、WM-8014、CPTH2、HATインヒビターII、またはNicCurなどが知られている。
本実施形態では、ヒストンアセチル化酵素阻害剤としてA-485(CAS:1889279-16-6)またはSGC-CBP30(CAS:1613695-14-9)を用いることがより好ましい。
【0030】
また、本実施形態の転写制御因子タンパク質分解促進組成物は、BRG1、BRD9、ESR1が標的である場合は、前記SGC-CBPを含有することが好ましい。これらの標的はSGC-CBPにより有効に分解が促進される。
また、CDK9が標的である場合は、SGC-CBP,PDD,GSK,Luminespibの4種のいずれかを含むことが好ましく、2種以上を含むことがさらに好ましい。CDK9はこれらにより有効に分解が促進される。
【0031】
(治療薬)
本実施形態の治療薬は、前記転写制御因子タンパク質分解促進組成物を含む。
治療薬は、転写制御因子タンパク質を分解されることにより治療、予防または病態改善などの効果を発揮し得るものであれば、いかなる疾患にも使用することができる。具体的には、本実施形態で標的とする転写制御因子タンパク質、特にBRD4は遺伝子発現の制御、炎症、がん細胞の増殖、腫瘍形成などに関与すると考えられるため、これらが関係する疾患、例えばがん、炎症性疾患や生活習慣病の治療薬として使用できる。
【0032】
前記治療薬は、がん治療薬であることが好ましい。がんに対する治療は一般に需要が特に大きい。
【0033】
(本実施形態の効果)
本実施形態によれば、転写制御因子タンパク質の分解誘導そのものを促進することができ、複数の共供与によって分解誘導の効果を高められ、また、高い治療効果を持つがん治療薬として有用である転写制御因子タンパク質分解促進組成物およびそれを用いた治療薬が得られる。
【0034】
本発明者らは、がんに関連する転写制御因子タンパク質のうち、BRDタンパク質、特にBRD4タンパク質のユビキチン-プロテアソーム系での分解に関与する因子をスクリーニングし、既に性質が知られている阻害剤、PARG阻害剤、PERK阻害剤、HSP90阻害剤、ヒストンアセチル化酵素阻害剤等を見出した。
これらの結果により、既に性質が知られている阻害剤の新たな用途として、該阻害剤の働きによって標的分解を促進できる機序を見出した。そして、これらの阻害剤を含む、BRD4などのBRDタンパク質、すなわち転写制御因子タンパク質の分解促進組成物を見出した。この転写制御因子タンパク質分解促進組成物は、直接に標的であるタンパク質を分解する作用を用いる他に、従来知られている転写制御因子タンパク質分解機序を持つ組成物と併用することもできる。そのため、従来知られているタンパク質分解の応用法、例えばPROTACによる標的タンパク質の分解による治療法が実用化された際に、合わせて投与することで、促進剤として利用することも可能となる。
【0035】
(本実施形態の別の態様)
本実施形態は、別の側面として、以下のような態様も含む。
本実施形態の別の態様は、前記転写制御因子タンパク質分解促進組成物を用いた、治療薬の製造方法である。
本実施形態の別の態様は、治療薬を製造するための、前記転写制御因子タンパク質分解促進組成物の使用である。
本実施形態の別の態様は、がん治療のための、前記転写制御因子タンパク質分解促進組成物の使用である。
本実施形態の別の態様は、がん治療における使用のための、前記転写制御因子タンパク質分解促進組成物の使用である。
本実施形態の別の態様は、前記転写制御因子タンパク質分解促進組成物を用いた、がん治療方法である。
【実施例0036】
以下、実施例を示す。なお、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0037】
(試験例)
(スクリーニング用の細胞株)
転写制御因子タンパク質であるBRD4の分解に関与する因子をスクリーニングするため、使用する細胞株の樹立を行った。細胞としては、HCT116細胞のBRD4遺伝子座に、ゲノム編集によりHiBiTタグ(11アミノ酸)を組み込んだHiBiT-BRD4-HCT116細胞を用いた。この細胞を細胞溶解(Cell Lysis)してLgBiTを加えると、BRD4融合タンパク質量を発光検出することができる。
図1は、HiBiT-BRD4-HCT116細胞における、MZ1タンパク質の添加量あたりのHiBiT-BRD4の量のグラフ図である。
BRD4の分解に関与することがわかっているMZ1によって、NaNoLucの発光強度、すなわちHiBiT-BRD4タンパク質量が減少していることが確認できる。すなわち、MZ1添加濃度依存的にBRD4融合タンパク質の分解を検出した。
【0038】
(化合物のスクリーニング)
スクリーニングの対象となる化合物群として、Selleck社の既知化合物ライブラリーの一部を使用した。96well-plateで、化合物各種(10μM)を4時間添加後、30nM MZ1を2時間添加し、発光プレートリーダーで測定した(n=3)。
図2にスクリーニングの結果を示す。(a)は、MZ非存在下(-)、存在下(+)で実験を行い、それぞれ、促進化合物無し(DMSO添加)を基準として、分解促進(Enhancers)/抑制(Repressors)の度合いをLog2で表し、スクリーニング対象となる化合物の分布を示した模式図である。MZ1非存在下でのBRD4量変動が小さく、MZ1存在下でのBRD4分解を変化させるもの(図中、Enhancers付近の化合物)を選んだ。(b)はMZ非存在下(-)、存在下(+)のプロット図である。(b)の右上(分解抑制化合物)には、既知のプロテアソーム阻害剤が同定されたことから、本実験系の構築が確認できた。
【0039】
このスクリーニングで特にヒットした化合物の3種類は、PERG阻害剤であるPDD17273、PERK阻害剤であるGSK2606414、HSP90阻害剤であるLuminespibであった。
この3種類の化合物を、前記したHiBiT-BRD4-HCT116細胞に対して、濃度を1μM,3μM,10μMの3段階で加え、発光の減少、すなわちHiBiT-BRD4の量を測定した。
図3はこの3種の化合物のHiBiT-BRD4の分解効果を示すグラフ図である。
MZ1の存在下(MZ+)においては、3種の阻害剤はいずれも、阻害剤の濃度依存的にHiBiT-BRD4が減少していることがわかる。すなわち、この3種の化合物は、BRD4の分解を促進することが明らかとなった。
【0040】
また、この結果から、本発明者らは、この3種の阻害剤の他、PERG阻害剤、PERK阻害剤およびHSP90阻害剤にBRDの分解を促進する化合物が含まれることも予測し、以後の試験に反映した。
【0041】
(PERG阻害剤PDD17273の活性検討)
前記PERG阻害剤のPDD17273(PDD)を、HeLa細胞に3μM PDD,100nM MZ1を図示した時間で添加し、細胞全抽出液を作製し、ウェスタンブロッティングを行った。なお、以下を含め、ウェスタンブロットは適切なシグナルの比較ができるよう抗体濃度等の条件を適宜調整して行った。
図4は、PERG阻害剤を添加した細胞抽出液のウェスタンブロットの結果を示す写真図である。左軸は各タンパク質の抗体名を示した。MZ1の軸の数値はMZ1添加後の時間、PDDの-、+はPERG阻害剤のPDD17273の添加の有無を示した。
図5は、前記細胞抽出液のうち、BRD4のタンパク質量の定量を示した。タンパク質量は、図4のウェスタンブロットのバンド強度を定量したものである。MZ1添加前を1として、バンド強度が何倍かによって測定した。
図に示すように、PDDを添加しなくともMZ1によってBRD4のタンパク質量は減少する。しかし、PDDの添加によって、BRD4のタンパク質量はさらに大きく減少し、MZ1添加の4時間後には顕著な差が見られた(図中、枠内)。
PDDの添加によって、BRD4,BRD2、BRD3の分解に関して促進が見られた。一方、経路に関係するユビキチンリガーゼの量には変化が見られなかった。
ここで、BRD2およびBRD3はMZ1による分解の程度は弱いことが知られる一方で、BRD4はMZ1の標的タンパク質である。上記の結果からは、PARG阻害剤であるPDD17273は、BRD4およびBRD2、BRD3をいずれも分解を促進することが明らかとなった。
【0042】
ついで、前記PDDによる細胞死誘導の促進を調べた。
HeLa細胞に3μM PDDを添加、6時間後にMZ1を添加、3日後に細胞生存をCellTiter-Glo(R)2.0 Cell Viability Assay (Promega)を用いて測定した。
図6に発光強度で測定できる細胞生存率の結果のグラフ図を示す。PDDの添加により、MZ1による細胞死は促進されることが明らかとなった。
【0043】
ついで、前記PDDによるアポトーシスの促進を調べた。
HeLa細胞に3μM PDDを添加、6時間後に図示した濃度のMZ1を添加、24時間後にアポトーシス応答を、ApoLive-Glo(TM)Multiplex Assay (Promega)を用いて測定した。
図7にカスパーゼ3/7の活性強度で測定できるアポトーシス応答の結果のグラフ図を示す。PDDの添加により、MZ1によるアポトーシスは促進されることが明らかとなった。
【0044】
ついで、前記PDDによるユビキチン鎖形成への影響を調べた。
HeLa細胞に3μM PDDを添加し、5時間後にMZ1を添加し、1時間後に回収した。TUBE2-agaroseでユビキチン鎖を回収し、BRD2,BRD4の抗体でウェスタンブロッティングした。
図8にユビキチン化されたBRD4,2のウェスタンブロットの結果の写真を示す。TUBEのレーン(ユビキチン鎖を回収したサンプル)については、PDDの添加により、BRD4、BRD2の抗体に反応する分子量が増大したバンドが強くなり、BRD4、BRD2にユビキチン鎖が結合している。未結合のバンドについては減少が見られる。すなわち、PDDの添加によりMZ1によるユビキチン化が促進されることが明らかとなった。
【0045】
ついで、前記PDDによるBRD4、BRD2とCUL2タンパク質の相互作用に対する影響を調べた。BRD4,2は、MZ1が結合した後、MZ1を介してVHLタンパク質に結合する。そのVHLタンパク質にCUL2タンパク質が結合し、ユビキチン化が促進されてプロテアソームによる分解に至ることが知られている。
293T細胞にFLAGタグを結合させたBRD4(FLAG-BRD4)とHAタグを結合させたVHL(HA-VHL)を発現し、PDDおよびMZ1を添加して45分後に回収し、抗FLAG抗体で免疫沈降した。相互作用したCUL2をウェスタンブロッティングで検出した。
図9にCUL2のウェスタンブロットの結果の写真を示す。抗FLAG抗体で沈降しているので、FLAG-BRD4およびそれに結合したタンパク質が示されており、たとえばBRD4,CUL2、VHLの全ての抗体に反応しているレーンは、この3種が結合しているタンパク質が沈降されたレーンである。MZ1のみを添加した細胞でもBRD4、CUL2,VHLの結合体のバンドが見られるが、PDDを加えた場合はCUL2、VHLのバンドがさらに促進された。
これらの結果から、PDDはMZ1とBRD4,2の複合体形成の経路のみならず、BRD4,2とVHL,CUL2の複合体の形成の経路も促進し、ユビキチン化を促進することが推測された。
【0046】
(PERK阻害剤、HSP90阻害剤の活性検討)
HCT116細胞を用いて、GSK2606414および他のPERK阻害剤、HSP90阻害剤Luminespibの活性を検討した。
HCT116細胞において、10μMの化合物PERK阻害剤GSK2606414(GSK)、PERK阻害剤GSK2656157、PERK阻害剤AMG-PERK、HSP90阻害剤Luminespib(Lumi),HSP90阻害剤17-AAGを添加し、4時間後にMZ1を添加、1~2時間後に回収し、抗BRD4抗体および抗アクチン抗体によるウェスタンブロッティングを行った。
図10にPERK阻害剤、HSP90阻害剤によるウェスタンブロッティングの結果を示す。なお、左軸のBRD4(JESS)は定量ウェスタンブロット装置(プロテインシンプル社)を用いたもの、Ponceauはポンソーを用いたタンパク質染色である。
図の結果からは、スクリーニングで得られたGSK2606414、Luminespibの他のPERK阻害剤、HSP90阻害剤の添加によっても、MZ1のみの添加に比べてBRD4の分解の強い促進が見られた。多くのPERK阻害剤、HSP90阻害剤によりBRD4の分解が促進する可能性が示された。
【0047】
また、PERK阻害剤、HSP90阻害剤によるユビキチン化の活性を調べた。同様に薬剤を添加したHCT116細胞を用い、ユビキチン鎖をTUBEを用いて回収した。
図11にPERK阻害剤、HSP90阻害剤によるウェスタンブロッティングの結果を示す。ユビキチン鎖はB4D1抗体を用いて検出している。各阻害剤の添加により、ユビキチン化が促進されることが明らかとなった。
【0048】
(PERK阻害剤GSK2606414およびSIM1の活性検討)
PERK阻害剤のGSK2606414について、さらにBRD分解促進活性の検討を行った。
GSK(GSK2606414)と、BRD及びVHLに結合することが知られるSIM1(Nature Chemical Biology, 17 (2021), pp1157-1167)によるBRD2、4の分解について調べた。
図12は、GSK2606414とSIM1の添加によるBRD4とBRD2の分解を示すウェスタンブロットの結果を示す写真図である。図に示すように、GSKの添加と、SIM1の濃度に依存してBRD4、BRD2が分解されている。
ついで、前記HCT116細胞にGSK2606414とSIM1を添加し、細胞生存を3日後のCellTiter Gloを用いて測定した。
図13は、細胞生存の測定結果のグラフ図である。SIM1の濃度に依存して細胞生存率の低下が見られた。
【0049】
(ヒストンアセチル化酵素阻害剤およびヒストン脱アセチル化酵素阻害剤によるBRD分解への影響)
BRD4とアセチル化したヒストンの結合により転写が促進されることが知られている。そこで発明者らは、ヒストンアセチル化、ヒストン脱アセチル化の酵素阻害剤が、それぞれBRD4と関与し、PROTACの効果に関連することを予測した。そこで、ヒストンアセチル化酵素阻害剤、ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤のBRD4分解への関与を調べた。
ヒストンアセチル化酵素阻害剤としてはA485、SGC-CBPを用いた。ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤としてはvorinostatを用いた。
【0050】
図14は、前記各阻害剤を用いたウェスタンブロットの結果を示す写真図である。前記HCT116細胞に、図中に示した濃度、時間でそれぞれの阻害剤を添加し、細胞全抽出液を調製した。その後、前記試験例と同様にウェスタンブロッティングを行った。
図の結果から、A485、SGC-CBP(ヒストンアセチル化酵素阻害剤)はBRD4分解を促進すること、Vorinostat(ヒストン脱アセチル化酵素阻害薬、HDAC)はBRD4分解を阻害することが明らかとなった。
【0051】
ついで、ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤とユビキチン鎖形成の関係について調べた。
図15は、ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤Vorinostatを用いたウェスタンブロットの結果を示す写真図である。前記HCT116細胞に、Vorinostatを6時間、MZ1およびMG132を1時間添加し、細胞抽出液を作製した。前記同様のユビキチン鎖を結合するTUBE-アガロース複合体を用いて、ユビキチン鎖をプルダウンしたサンプルおよびプルダウン前のサンプル(input)について、ウェスタンブロッティングを行った。図に示すように、TUBEはリジン29、48、63を介して結合しているユビキチン鎖にそれぞれ反応するK29TUBE、K48TUBE、K63TUBEを用いている。
図に示すように、ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤VorinostatはMZ1による、BRD4のK29,K48,K63を介したユビキチン鎖を減少させることが明らかになった。すなわち、ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤はユビキチン-プロテアソーム系を介したBRD4の分解を阻害することが示唆された。
【0052】
ついで、ヒストンアセチル化酵素阻害剤とユビキチン鎖形成の関係について調べた。
図16は、ヒストンアセチル化酵素阻害剤SGC-CBPを用いたウェスタンブロットの結果を示す写真図である。前記HCT116細胞に、Vorinostatを6時間、MZ1およびMG132を1時間添加し、細胞抽出液を作製した。TUBE-アガロース複合体(TUBEはそれぞれ前記と同様)を用いて、ユビキチン鎖をプルダウンしたサンプルおよびプルダウン前のサンプル(input)について、ウェスタンブロッティングを行った。
図に示すように、ヒストンアセチル化酵素阻害剤SGC-CBPはMZ1による、BRD4のK29,K48,K63を介したユビキチン鎖を増加させることが明らかになった。すなわち、ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤はユビキチン-プロテアソーム系を介したBRD4の分解を促進することが示唆された。
【0053】
図17は、ヒストンアセチル化酵素阻害剤SGC-CBPを用いた細胞生存の結果を示すグラフ図である。HCT116細胞において、横軸に図示した濃度のMZ1、およびSGC-CBPの添加(+)と無添加(-)について、3日後に細胞生存をCellTiter Gloを用いて測定し、縦軸を発光強度としてプロットした。
図に示すように、CGC-CBPはMZ1による細胞死を促進することが明らかとなった。
【0054】
ついで、ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤Vorinostatと、BRD4-VHL複合体形成の関係を調べた。
図18は、ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤Vorinostatを用いてBRD4-MZ1-VHLとの関係を調査したウェスタンブロットの結果を示す写真図である。293T細胞においてFLAG-BRD4、HA-VHLを発現させ、図中に示した薬剤を添加した。IP:FLAGは、FLAG抗体で免疫沈降したサンプルである。inputは免疫沈降前のサンプルを示した。
図に示すように、Vorinostatの添加により、Vorinostatを添加していない場合より複合体のシグナルが低下した。Vorinostatは、MZ1によるBRD4-VHL複合体形成を減少させることが明らかとなった。すなわち、ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤VorinostatはMZ1によるBRD4-VHL複合体形成によるユビキチン化を阻害すると考えられた。
【0055】
ついで、ヒストンアセチル化酵素阻害剤SGC-CBPと、BRD4-VHL複合体形成の関係を調べた。
図19は、ヒストンアセチル化酵素阻害剤SGC-CBPを用いてBRD4-MZ1-VHLとの関係を調査したウェスタンブロットの結果を示す写真図である。前図と同様に、293T細胞においてFLAG-BRD4、HA-VHLを発現させ、図中に示した薬剤を添加した。IP:FLAGは、FLAG抗体で免疫沈降したサンプルである。inputは免疫沈降前のサンプルを示した。
図に示すように、SGC-CBPの添加により、SGC-CBPを添加していない場合より複合体のシグナルは増加した。TUBEサンプルでのCUL2の発現量では、増加は顕著となっている。
SGC-CBPは、MZ1によるBRD4-VHL複合体形成を増加させることが明らかとなった。すなわち、ヒストンアセチル化酵素阻害剤SGC-CBPはMZ1によるBRD4-VHL複合体形成によるユビキチン化を促進すると考えられた。
【0056】
ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤、ヒストンアセチル化酵素阻害剤はBRD4のクロマチンへの結合に関与していると考えられる。そこで、これらの阻害剤のBRD4のクロマチンへの結合、離脱(核への移行)への影響について調べた。
まず、ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤Vorinostatと、BRD4の局在について調べた。
図20は、ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤Vorinostatを用いてBRD4の局在を調査したウェスタンブロットの結果を示す写真図である。前述のHCT116細胞において、細胞分画キット(Subcellular Protein Fractionation Kit for Cultured Cells, Thermo)を用いて細胞を分画し、nucleus(核部)、chromatin(クロマチン)のそれぞれについてウェスタンブロッティングを行った。核酸修復に関する転写因子ETSの抗体による検出も行った。
図に示すように、核部ではVorinostatの添加によりBRD4のシグナルは減少していた。一方、クロマチンではVorinostatの添加によりBRD4のシグナルは増加していた。VorinostatはBRD4の局在をクロマチンに移行させ、BRDがクロマチンに結合することにより分解が阻害されることが示された。
【0057】
図21は、ヒストンアセチル化酵素阻害剤SGC-CBPを用いてBRD4の局在を調査したウェスタンブロットの結果を示す写真図である。細胞の分画およびウェスタンブロットは前図と同様に行った。転写因子p53の抗体による検出も行った。
図に示すように、核部ではSGC-CBPの添加によりBRD4のシグナルは増加していた。一方、クロマチンではSGC-CBPの添加によりBRD4のシグナルは減少していた。SGC-CBPはBRD4の局在を核部に移行させ、BRDがクロマチンから外れることにより分解が阻害されることが示された。
【0058】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明によれば、転写制御因子タンパク質タンパク質の分解誘導そのものを促進することができ、複数の共供与によって分解誘導の効果を高められ、また、高い治療効果を持つがん治療薬として有用である転写制御因子タンパク質分解促進組成物およびそれを用いた治療薬が得られる。
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