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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025026144
(43)【公開日】2025-02-21
(54)【発明の名称】全固体電池および全固体電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0585 20100101AFI20250214BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20250214BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20250214BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20250214BHJP
【FI】
H01M10/0585
H01M10/0562
H01M4/13
H01M4/38 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023131538
(22)【出願日】2023-08-10
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)「先進・革新蓄電池材料評価技術開発(第2期)」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 達人
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 典輝
(72)【発明者】
【氏名】田中 拓海
(72)【発明者】
【氏名】大上 一真
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ11
5H029AK01
5H029AK03
5H029AL02
5H029AL06
5H029AL07
5H029AL11
5H029AL12
5H029AM12
5H029CJ03
5H029HJ04
5H029HJ07
5H029HJ12
5H050AA14
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA07
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB02
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB11
5H050CB12
5H050FA08
5H050GA03
5H050HA04
5H050HA07
5H050HA12
(57)【要約】
【課題】本開示は、充放電による電極層の外周近傍の破損を抑制可能な全固体電池を提供することを主目的とする。
【解決手段】本開示においては、第1集電体、第1電極層、固体電解質層、第2電極層および第2集電体を、この順に有する全固体電池であって、上記第1電極層は、第1活物質を含み、上記第2電極層は、充放電中に体積変化する第2活物質を含み、上記全固体電池を厚さ方向から平面視した場合に、上記第2電極層の面積は、上記第1電極層の面積より大きく、上記第1電極層の上記固体電解質層側の第1面は、内側領域と、上記内側領域の外側に配置され、かつ、端部を含む外側領域と、を有し、上記厚さ方向において、上記外側領域と、上記第2電極層との間に、上記固体電解質層と、(i)空間、または、(ii)上記第2電極層および上記固体電解質層よりも弾性率が低い低弾性率部材と、を有する、全固体電池を提供することにより、上記課題を解決する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1集電体、第1電極層、固体電解質層、第2電極層および第2集電体を、この順に有する全固体電池であって、
前記第1電極層は、第1活物質を含み、
前記第2電極層は、充放電中に体積変化する第2活物質を含み、
前記全固体電池を厚さ方向から平面視した場合に、前記第2電極層の面積は、前記第1電極層の面積より大きく、
前記第1電極層の前記固体電解質層側の第1面は、内側領域と、前記内側領域の外側に配置され、かつ、端部を含む外側領域と、を有し、
前記厚さ方向において、前記外側領域と、前記第2電極層との間に、前記固体電解質層と、(i)空間、または、(ii)前記第2電極層および前記固体電解質層よりも弾性率が低い低弾性率部材と、を有する、全固体電池。
【請求項2】
前記内側領域および前記外側領域の境界から、前記端部に向けて、前記第1電極層の厚さが減少している、請求項1に記載の全固体電池。
【請求項3】
前記厚さ方向において、前記外側領域および前記固体電解質層の間に、前記空間が配置されている、請求項1に記載の全固体電池。
【請求項4】
前記厚さ方向において、前記外側領域および前記固体電解質層の間に、前記低弾性率部材が配置されている、請求項1に記載の全固体電池。
【請求項5】
前記固体電解質層は、前記内側領域および前記外側領域を覆うように配置され、
前記厚さ方向において、前記外側領域を覆う前記固体電解質層と、前記第2電極層との間に、前記空間が配置されている、請求項1に記載の全固体電池。
【請求項6】
前記固体電解質層は、前記内側領域および前記外側領域を覆うように配置され、
前記厚さ方向において、前記外側領域を覆う前記固体電解質層と、前記第2電極層との間に、前記低弾性率部材が配置されている、請求項1に記載の全固体電池。
【請求項7】
前記固体電解質層が、前記第1電極層側から、第1固体電解質層および第2固体電解質層を有し、
前記第1固体電解質層は、前記内側領域および前記外側領域を覆うように配置され、
前記第2固体電解質層は前記第2電極層に接して配置されており、
前記厚さ方向において、前記外側領域を覆う第1固体電解質層と、前記第2固体電解質層との間に、前記空間が配置されている、請求項1に記載の全固体電池。
【請求項8】
前記固体電解質層が、前記第1電極層側から、第1固体電解質層および第2固体電解質層を有し、
前記第1固体電解質層は、前記内側領域および前記外側領域を覆うように配置され、
前記第2固体電解質層は前記第2電極層に接して配置されており、
前記厚さ方向において、前記外側領域を覆う第1固体電解質層と、前記第2固体電解質層との間に、前記低弾性率部材が配置されている、請求項1に記載の全固体電池。
【請求項9】
前記第2電極層が、負極活物質層であり、かつ、前記第2活物質として合金系活物質を含む、請求項1に記載の全固体電池。
【請求項10】
請求項1から請求項9までのいずれかの請求項に記載の全固体電池の製造方法であって、
前記第1集電体および前記第1電極層を有する第1積層体を準備する第1積層体準備工程と、
前記第2集電体および前記第2電極層を有する第2積層体を準備する第2積層体準備工程と、
前記第1積層体に対して加圧成形を行う第1積層体加圧成形工程と、
前記第1積層体加圧成形工程後に、前記第1積層体および前記第2積層体を、前記固体電解質層を介して積層させる積層工程と、を有し、
前記第1積層体加圧成形工程において、等方圧プレスを行うことにより、前記内側領域および前記外側領域の境界から、前記端部に向けて、前記第1電極層の厚さを減少させる、全固体電池の製造方法。
【請求項11】
前記等方圧プレスを、前記第1積層体における前記第1電極層側の面に、支持板を配置せず行う、請求項10に記載の全固体電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、全固体電池および全固体電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
全固体電池は、正極層および負極層の間に固体電解質層を有する電池であり、可燃性の有機溶媒を含む電解液を有する液系電池に比べて、安全装置の簡素化が図りやすいという利点を有する。
【0003】
全固体電池は、正極および負極により固体電解質層を挟み込み、厚さ方向に加圧接合することで製造される。特許文献1には、固体電解質層と、前記固体電解質層を挟み込む一方の電極及び他方の電極と、前記固体電解質層とともに前記一方の電極を挟み込む第1集電体と、を含み、前記一方の電極の端部は、前記第1集電体側に傾斜し、前記他方の電極の端部の前記固体電解質層側の縁辺は、平面視で前記一方の電極の端部の前記固体電解質層側の縁辺と前記一方の電極の端部の前記第1集電体側の縁辺との間に配置されている全固体電池が開示されている。特許文献1においては、一方の電極を第1集電体側に傾斜することで、第1集電体側から押圧しても圧力が直接掛からないようにすることで、加圧接合時の固体電解質層への応力集中を低減している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2022-062579号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
全固体電池の電極層において、充放電中に体積変化する活物質が使用される場合がある。本願の発明者等は、充放電中に一方の電極層に含まれる活物質の膨張が生じると、対向する他方の電極層の外周近傍に応力が集中し、破損する場合があることを新たな課題として見出した。
【0006】
本開示は、上記問題に鑑みてなされたものであり、充放電によって生じる電極層の外周近傍の破損を抑制可能な全固体電池を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
[1]
第1集電体、第1電極層、固体電解質層、第2電極層および第2集電体を、この順に有する全固体電池であって、
上記第1電極層は、第1活物質を含み、
上記第2電極層は、充放電中に体積変化する第2活物質を含み、
上記全固体電池を厚さ方向から平面視した場合に、上記第2電極層の面積は、上記第1電極層の面積より大きく、
上記第1電極層の上記固体電解質層側の第1面は、内側領域と、上記内側領域の外側に配置され、かつ、端部を含む外側領域と、を有し、
上記厚さ方向において、上記外側領域と、上記第2電極層との間に、上記固体電解質層と、(i)空間、または、(ii)上記第2電極層および上記固体電解質層よりも弾性率が低い低弾性率部材と、を有する、全固体電池。
【0008】
[2]
上記内側領域および上記外側領域の境界から、上記端部に向けて、上記第1電極層の厚さが減少している、[1]に記載の全固体電池。
【0009】
[3]
上記厚さ方向において、上記外側領域および上記固体電解質層の間に、上記空間が配置されている、[1]または[2]に記載の全固体電池。
【0010】
[4]
上記厚さ方向において、上記外側領域および上記固体電解質層の間に、上記低弾性率部材が配置されている、[1]または[2]に記載の全固体電池。
【0011】
[5]
上記固体電解質層は、上記内側領域および上記外側領域を覆うように配置され、
上記厚さ方向において、上記外側領域を覆う上記固体電解質層と、上記第2電極層との間に、上記空間が配置されている、[1]または[2]に記載の全固体電池。
【0012】
[6]
上記固体電解質層は、上記内側領域および上記外側領域を覆うように配置され、
上記厚さ方向において、上記外側領域を覆う上記固体電解質層と、上記第2電極層との間に、上記低弾性率部材が配置されている、[1]または[2]に記載の全固体電池。
【0013】
[7]
上記固体電解質層が、上記第1電極層側から、第1固体電解質層および第2固体電解質層を有し、
上記第1固体電解質層は、上記内側領域および上記外側領域を覆うように配置され、
上記第2固体電解質層は上記第2電極層に接して配置されており、
上記厚さ方向において、上記外側領域を覆う第1固体電解質層と、上記第2固体電解質層との間に、上記空間が配置されている、[1]または[2]に記載の全固体電池。
【0014】
[8]
上記固体電解質層が、上記第1電極層側から、第1固体電解質層および第2固体電解質層を有し、
上記第1固体電解質層は、上記内側領域および上記外側領域を覆うように配置され、
上記第2固体電解質層は上記第2電極層に接して配置されており、
上記厚さ方向において、上記外側領域を覆う第1固体電解質層と、上記第2固体電解質層との間に、上記低弾性率部材が配置されている、[1]または[2]に記載の全固体電池。
【0015】
[9]
上記第2電極層が、負極活物質層であり、かつ、上記第2活物質として合金系活物質を含む、[1]から[8]までのいずれかに記載の全固体電池。
【0016】
[10]
[1]から[9]までのいずれかに記載の全固体電池の製造方法であって、
上記第1集電体および上記第1電極層を有する第1積層体を準備する第1積層体準備工程と、
上記第2集電体および上記第2電極層を有する第2積層体を準備する第2積層体準備工程と、
上記第1積層体に対して加圧成形を行う第1積層体加圧成形工程と、
上記第1積層体加圧成形工程後に、上記第1積層体および上記第2積層体を、上記固体電解質層を介して積層させる積層工程と、を有し、
上記第1積層体加圧成形工程において、等方圧プレスを行うことにより、上記内側領域および上記外側領域の境界から、上記端部に向けて、上記第1電極層の厚さを減少させる、全固体電池の製造方法。
【0017】
[11]
上記等方圧プレスを、上記第1積層体における上記第1電極層側の面に、支持板を配置せず行う、[10]に記載の全固体電池の製造方法。
【発明の効果】
【0018】
本開示においては、充放電による電極層の外周近傍の破損を抑制可能な全固体電池を提供できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本開示における全固体電池の一例(第1実施形態)を示す概略断面図である。
図2】本開示における全固体電池の別の一例(第2実施形態)を示す概略断面図である。
図3】本開示における全固体電池の別の一例(第3実施形態)を示す概略断面図である。
図4】本開示における全固体電池の別の一例(積層電池)を示す概略断面図である。
図5】本開示における第1実施形態の全固体電池の製造方法の一例を示す概略断面図である。
図6】本開示における第2実施形態の全固体電池の製造方法の一例を示す概略断面図である。
図7】本開示における第3実施形態の全固体電池の製造方法の一例を示す概略断面図である。
図8】本開示における全固体電池(積層電池)の製造方法の一例を示す概略断面図である。
図9】本開示における全固体電池(積層電池)の製造方法の一例を示す概略断面図である。
図10】従来の全固体電池の一例を示す概略断面図である。
図11】実施例および比較例における充放電試験後の電池の概略断面図である。
図12】実施例および比較例における各充電レートにおけるクーロン効率を比較した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本開示について、図面を用いて詳細に説明する。以下に示される各図は例示であり、各部の大きさ、および、各部の形状は、理解を容易にするために、誇張している場合がある。
【0021】
A.全固体電池
図1(a)および図1(b)は、本開示の全固体電池の一例を示す概略断面図である。図1(a)および図1(b)に示されるように、全固体電池10Aは、厚さ方向Dにおいて、第1集電体1、第1電極層2、固体電解質層3、第2電極層4および第2集電体5をこの順に有する。なお、特に図示しないが、全固体電池10Aは、後述する外装体および拘束部材を備えていてもよい。
【0022】
本開示においては、第1電極層2が第1活物質を含み、第2電極層4が充放電中に体積変化する第2活物質を含む。また、図1(a)および図1(b)に示されるように、全固体電池10Aを厚さ方向Dから平面視した場合に、第2電極層4の面積は、第1電極層2の面積より大きい。本開示においては、第1電極層2の固体電解質層3側の第1面S21は、内側領域R1と、内側領域R1の外側に配置され、かつ、端部E2を含む外側領域R2と、を有し、厚さ方向Dにおいて、第1面S21の外側領域R2と、第2電極層4との間(点線枠内)に、固体電解質層3と、(i)空間30、または、(ii)第2電極層および固体電解質層よりも弾性率が低い低弾性率部材40と、を有することを特徴とする。
【0023】
図1(a)および図1(b)に示す全固体電池10Aは、内側領域R1および外側領域R2の境界Bから、端部E2に向けて、第1電極層2の厚さが減少している。図1(a)に示すように、厚さ方向Dにおいて、第1電極層2の第1面S21における外側領域R2および固体電解質層3の間は、空間30であってもよい。一方、図1(b)に示すように、第1電極層2の第1面S21における外側領域R2および固体電解質層3の間に、低弾性率部材40が配置されていてもよい。
【0024】
図10(a)は、従来の全固体電池の一例を示す概略断面図である。従来、図10(a)に示す従来の全固体電池50Aのように、高い電池性能を発現するためには、第1電極層52、固体電解質層53および第2電極層54は、それぞれの層の端部まで良好に接触させることが重要と考えられている。しかしながら、第2電極層54が充放電中に体積変化する活物質を含むと、拘束部材60により全固体電池50が厚さ方向に拘束圧Pが付与された状態で、充放電中に第2電極層54が膨張した際に(図10矢印)、第1電極層52の外周近傍に応力が集中し、第1電極層52の外周近傍に破損が生じる場合がある。
【0025】
図10(b)は、従来の全固体電池の別の一例を示す概略断面図である。従来の全固体電池の製造方法によっては、図10(b)に示す全固体電池50Bのように、第1電極層52の端部が、固体電解質層53側にダレる場合がある。このような全固体電池50Bは、充放電中に第2電極層54が膨張した際に、第1電極層52の外周近傍に応力が集中する上に、第1電極層52の外周近傍に曲げ応力が生じるため、第1電極層52の外周近傍がより破損しやすい。なお、図10(a)および図10(b)中、51は第1集電体を示し、55は第2集電体を示している。
【0026】
なお、上記特許文献1は、加圧接合時の固体電解質層への応力集中を低減することを目的としており、充放電時における一方の電極の膨張によって、他方の電極層の外周近傍が破損する課題については記載されていない。
【0027】
これに対し、本開示における全固体電池は、図1(a)および図1(b)に示すように、厚さ方向Dに拘束圧が付与された状態で、第2電極層4が膨張した場合であっても、第1電極層2の外周領域R2と第2電極層4との間に、固体電解質層3に加え、空間30または低弾性率部材40を有するため、第1電極層2の外周近傍(厚さ方向において外側領域と重複する位置およびその近傍にある第1電極層)への過度な応力集中を抑制することができ、第1電極層2の外周近傍の破損を抑制することができる。これにより、第1電極層2の外周近傍のイオン伝導経路及び電子伝導経路の遮断を防ぐことができるため、容量の低下を抑制することができる。
【0028】
1.全固体電池の構造
本開示における全固体電池は、第1集電体、第1電極層、固体電解質層、第2電極層および第2集電体を有する。
【0029】
本開示における全固体電池は、図1に示すように、厚さ方向Dから平面視した場合に、第2電極層4の面積が、第1電極層2の面積より大きい。換言すると、第1電極層2の端面S2tは、第2電極層4の端面S4tよりも内側に位置している。第1電極層2の面積(A2)に対する第2電極層4の面積(A4)の割合(A4/A2)は、例えば、1.0より大きく、1.1以上であってもよく、1.2以上であってもよい。一方、上記割合(A4/A2)は、例えば、1.5以下であり、1.4以下であってもよく、1.3以下であってもよい。このように第2電極層4の面積が第1電極層2の面積より大きいと、第2電極層の膨張によって第1電極層の外周近傍に応力が集中しやすい。一方、本開示においては、厚さ方向において、第1電極層の外側領域と第2電極層との間に、固体電解質層と、空間または低弾性率部材と、を有するため、第1電極層2の外周近傍への過度な応力集中を抑制することができ、充放電による電極層の外周近傍の破損を抑制可能となる。また、第2電極層が負極活物質層である場合、上記割合(A4/A2)を有することにより、例えば、第2電極層の端部でのリチウム析出を抑制でき、短絡を抑制することができる。
【0030】
本開示における全固体電池は、第1電極層2の固体電解質層3側の第1面S21が、内側領域R1と、内側領域R1の外側に配置され、かつ、端部E2を含む外側領域R2と、を有する。本開示における全固体電池は、例えば、第1電極層2の第1集電体1側の面である第2面S22を有する。さらに、第1面S21および第2面S22を連結する端面S2tを有していてもよい。この場合、第1面S21の端部E2は、端面S2tと、第1面S21との交わる辺である。
【0031】
本開示における全固体電池は、厚さ方向において、第1電極層の外側領域と第2電極層との間に、固体電解質層と、空間を有していてもよい。一方、第1電極層の外側領域と第2電極層との間に、固体電解質層と、低弾性率部材と、を有していてもよい。低弾性率部材が配置されていることにより、第2電極層の膨張収縮による第1電極層の外周近傍への応力集中を防ぐと共に、過度な変形を抑制することで、振動等が吸収され、外部からの衝撃による破損を防ぐことができる。低弾性率部材の弾性率は、第2電極層の弾性率および固体電解質層の弾性率よりも低ければよく、第1電極層、固体電解質層、および第2電極層のいずれの層よりも低いことが好ましい。
【0032】
低弾性率部材としては、第2電極層および固体電解質層よりも弾性率が低い部材であればよく、例えば、ゴム(エラストマー)、ウレタン、樹脂製スポンジ、プラスチックなどの樹脂材料が挙げられる。
【0033】
本開示においては、図1(a)および図1(b)に示すように、内側領域R1および外側領域R2の境界Bから、端部E2に向けて、第1電極層2の厚さが減少していることが好ましい。換言すると、第1電極層2の第1面S21の外側領域R2が、第1集電体1側に傾斜する傾斜面を有していることが好ましい。これにより、第1電極層2の外周近傍への応力の集中をより抑制することができる。第1電極層2の第1面の外側領域R2は、曲率を有する傾斜面であることが好ましい。一方、曲率を有する傾斜面に限定されず、一つの角度の傾斜面であってもよいし、複数の角度の傾斜面を有していてもよい。
【0034】
本開示においては、厚さ方向において外側領域と重複する位置にある第1電極層の密度は、厚さ方向において内側領域と重複する位置にある第1電極層の密度より高いことが好ましい。このような密度の差は、例えば、後述する等方圧プレスを行うことで生じる。また、厚さ方向において外側領域と重複する位置にある第1電極層の密度が高いことで、耐衝撃性が向上する。
【0035】
図1(a)および図1(b)に示すように、上記第2面S22は、全面において平坦であることが好ましい。第2面S22が全面において平坦であることにより、厚さ方向における第1電極層2と拘束板との間に隙間が生じないため、第2電極層4の膨張による第1電極層2の外周近傍への曲げ応力が抑制されるため、第1電極層2の破損をより一層抑制することができる。
【0036】
本開示における全固体電池は、空間または低弾性率部材の位置によって、図1(a)および図1(b)に例示される第1実施形態、図2(a)および図2(b)に例示される第2実施形態および図3(a)および図3(b)に例示される第3実施形態が挙げられる。
【0037】
(1)第1実施形態
図1(a)および図1(b)に示すように、第1実施形態における全固体電池10Aは、内側領域R1および外側領域R2の境界Bから、端部E2に向けて、第1電極層2の厚さが減少している。図1(a)に示す全固体電池10Aは、厚さ方向Dにおいて、外側領域R2および固体電解質層3の間は、空間30である。一方、図1(b)に示す全固体電池10Aは、外側領域R2および固体電解質層3の間に、低弾性率部材40が配置されている。
【0038】
本実施形態における全固体電池は、厚さ方向に拘束圧が付与された状態で、第2電極層4が膨張した場合であっても、空間または低弾性率部材を有するため、第2活物質の体積変化によって生じる第1電極層の外周近傍に作用する圧力を低減することができ、第1電極層2の外周近傍への過度な応力集中を抑制することができる。従って、第1電極層の外周近傍の破損を抑制することができる。本実施形態において、図1(a)および図1(b)に示すように、外側領域R2と、固体電解質層3とは、通常、離れて配置されている。
【0039】
本実施形態においては、厚さ方向の断面視において、外側領域R2の幅(図1におけるW1)に対する端部E2と固体電解質層3との間の距離(図1におけるH1)の割合(H1/W1)は、例えば、1/50以上であり、1/10以上であってもよい。一方、上記割合(H1/W1)は、例えば、1以下であり、1/5以下であってもよい。具体的には、上記H1は、例えば、40μm以上、100μm以下であり、上記W1は、例えば、400μm以上、500μm以下である。なお、後述のように、等方圧プレスによって、内側領域および外側領域の境界から、端部に向けて、第1電極層2の厚さを減少させる場合、上記割合(H1/W1)は、第1電極層の幅および厚みの比率に影響を受ける。
【0040】
本実施形態において、全固体電池の平面視において、固体電解質層3の面積は、第2電極層4と同じであるか、第2電極層4よりも大きいことが好ましい。すなわち、固体電解質層3の端面S3tが、第2電極層4の端面S4tと同じ位置か、端面S4tよりも外側であることが好ましい。第2電極層の全面が固体電解質層3と接することにより、第2電極層の端部に、Liが析出することを抑制することができるためである。
【0041】
(2)第2実施形態
図2(a)および図2(b)は、本開示の全固体電池の別の一例を示す概略断面図である。図2(a)および図2(b)に示す全固体電池10Bは、内側領域R1および外側領域R2の境界Bから、端部E2に向けて、第1電極層2の厚さが減少している。また、固体電解質層3は、第1電極層2の第1面S21における内側領域R1および外側領域R2を覆うように配置されている。すなわち、固体電解質層3は、第1電極層2に追従して配置されている。図2(a)に示す全固体電池10Bは、厚さ方向Dにおいて、外側領域R2を覆う固体電解質層3と、第2電極層4との間が、空間である。一方、図2(b)に示す全固体電池10Bは、外側領域R2を覆う固体電解質層3と、第2電極層4との間に、低弾性率部材40が配置されている。
【0042】
本実施形態における全固体電池10Bは、空間30または低弾性率部材40を有することで、上述した理由により、第1電極層2の外周近傍への過度な応力集中を抑制することができる。従って、第1電極層の割れを抑制することができる。本実施形態においては、さらに、固体電解質層の外周近傍の割れも抑制することができる。従って、内部短絡を抑制することができる。
【0043】
本実施形態においては、外側領域R2を覆う固体電解質層3の第2電極層側の面(外側領域R3)は、曲率を有する傾斜面であることが好ましい。一方、曲率を有する傾斜面に限定されず、一つの角度の傾斜面であってもよいし、複数の角度の傾斜面を有していてもよい。これにより、固体電解質層の外周近傍および第1電極層の外周近傍への応力の集中をより抑制することができる。固体電解質層3の外側領域R3は、曲率を有する傾斜面であることが好ましい。一方、曲率を有する傾斜面に限定されず、一つの角度の傾斜面であってもよいし、複数の角度の傾斜面を有していてもよい。本実施形態において、上記外側領域R3は、通常、第2電極層4と離れて配置されている。
【0044】
本実施形態において、固体電解質層3は、例えば、互いに対向する第1面S31および第2面S32と、第1面S31および第2面S32を連結する端面S3tと、を有する。第1面S31は固体電解質層3の第2電極層4側の面であり、第2面S32は固体電解質層3の第1電極層2側の面である。本実施形態において、固体電解質層3の第1面S31は、端部E3を含む外側領域R3を含む。
【0045】
本実施形態においては、厚さ方向の断面視において、固体電解質層3の外側領域R3の幅(図2におけるW2)に対する端部E3と第2電極層4との間の距離(図2におけるH2)の割合(H2/W2)は、例えば、1/50以上であり、1/10以上であってもよい。一方、上記割合(H2/W2)は、例えば、1以下であり、1/5以下であってもよい。具体的には、H2は、例えば、40μm以上、100μm以下であり、W2は、例えば、400μm以上、500μm以下である。
【0046】
(3)第3実施形態
図3(a)および図3(b)は、本開示の全固体電池の別の一例を示す概略断面図である。図3(a)および図3(b)に示す全固体電池10Cは、内側領域R1および外側領域R2の境界Bから、端部E2に向けて、第1電極層2の厚さが減少している。また、固体電解質層3が、第1電極層2側から、第1固体電解質層31および第2固体電解質層32を有し、第1固体電解質層31は、第1電極層2の第1面S21における内側領域R1および外側領域R2を覆うように配置されている。すなわち、第1固体電解質層31は、第1電極層2に追従して配置されている。一方、第2固体電解質層32は第2電極層4に接して配置されている。図3(a)に示す全固体電池10Cは、厚さ方向において、外側領域R2を覆う第1固体電解質層31と、第2固体電解質層32との間が、空間である。一方、図3(b)に示す全固体電池10Cは、厚さ方向において、外側領域R2を覆う第1固体電解質層31と、第2固体電解質層32との間に上記低弾性率部材40が配置されている。
【0047】
本実施形態における全固体電池10Cは、空間30または低弾性率部材40を有することで、上述した理由により、第1電極層2の外周近傍への過度な応力集中を抑制することができる。従って、第1電極層の割れを抑制することができる。本実施形態においては、さらに、固体電解質層の外周近傍の割れも抑制することができる。従って、内部短絡を抑制することができる。
【0048】
本実施形態においては、外側領域R2を覆う第1固体電解質層31の第2電極層4側の面(外側領域R31)は、曲率を有する傾斜面であることが好ましい。一方、曲率を有する傾斜面に限定されず、一つの角度の傾斜面であってもよいし、複数の角度の傾斜面を有していてもよい。これにより、第1固体電解質層の外周近傍および第1電極層の外周近傍への応力の集中をより抑制することができる。本実施形態において、上記外側領域R31は、通常、第2固体電解質層32と離れて配置されている。本実施形態における第1電極層2の形状は、第1実施形態と同様の形状とすることができる。
【0049】
本実施形態において、第1固体電解質層31は、例えば、互いに対向する第1面S311および第2面S312と、第1面S311および第2面S312を連結する端面S31tと、を有する。第1面S311は第1固体電解質層31の第2電極層4側の面であり、第2面S312は第1固体電解質層31の第1電極層2側の面である。本実施形態において、第1固体電解質層31の第1面S311は、端部E31を含む外側領域R31を含む。
【0050】
本実施形態においては、厚さ方向の断面視において、第1固体電解質層31の外側領域R31の幅(図3におけるW3)に対する端部E31と第2固体電解質層32との間の距離(図3におけるH3)の割合(H3/W3)は、例えば、1/50以上であり、1/10以上であってもよい。一方、上記割合(H3/W3)は、例えば、1以下であり、1/5以下であってもよい。具体的には、H3は、例えば、40μm以上、100μm以下であり、W3は、例えば、400μm以上、500μm以下である。
【0051】
本実施形態において、全固体電池の平面視において、第2固体電解質層32の面積は、第2電極層4と同じであるか、第2電極層4よりも大きいことが好ましい。すなわち、第2固体電解質層32の端面S32tが、第2電極層4の端面S4tと同じ位置か、端面S4tよりも外側であることが好ましい。第2電極層の全面が第2固体電解質層32と接することにより、第2電極層の端部近傍に、Liが析出することを抑制することができるためである。
【0052】
2.全固体電池の部材
本開示において、第1集電体および第1電極層は、それぞれ、正極集電体および正極活物質層であってもよい。この場合、第2集電体および第2電極層は、それぞれ、負極集電体および負極活物質層である。逆に、第1集電体および第1電極層は、それぞれ、負極集電体および負極活物質層であってもよい。この場合、第2集電体および第2電極層は、それぞれ、正極集電体および正極活物質層である。
【0053】
(1)第2電極層
本開示においては、第2電極層は、充放電中に体積変化する第2活物質を含む。第2活物質は、充電により体積が膨張し、かつ、放電により体積が収縮する活物質であることが好ましい。一方、第2活物質は、放電により体積が膨張し、かつ、充電により体積が収縮する活物質であってもよい。充放電中に体積変化する活物質は、充電時の体積膨張率または放電時の体積膨張率が、例えば105%以上であり、110%以上であってもよく、150%以上であってもよく、200%以上であってもよい。
【0054】
第2電極層が負極活物質層である場合、上記第2活物質(負極活物質)としては、例えば、SnおよびSiなどのリチウムと合金形成可能な金属を含む合金系活物質(例えば、Si系活物質、Sn系活物質)、カーボン活物質、金属リチウム(Li)等が挙げられる。中でも、合金系活物質が好ましい。体積膨張率が大きいためである。
【0055】
Si系活物質は、Si元素を含有する活物質である。Si系活物質は、例えば、Si単体、Si合金、Si酸化物が挙げられる。Si合金は、Si元素を主成分として含有することが好ましい。Si合金におけるSi元素の割合は、例えば、50mol%以上であってもよく、70mol%以上であってもよく、90mol%以上であってもよい。Si合金としては、例えば、Si-Al系合金、Si-Sn系合金、Si-In系合金、Si-Ag系合金、Si-Pb系合金、Si-Sb系合金、Si-Bi系合金、Si-Mg系合金、Si-Ca系合金、Si-Ge系合金、Si-Pb系合金等を挙げることができる。Si合金は、2成分系合金であってもよく、3成分系以上の多成分系合金であってもよい。Si酸化物としては、例えばSiOが挙げられる。
【0056】
Sn系活物質は、Sn元素を含有する活物質である。Sn系活物質は、例えば、Sn単体、Sn合金を挙げることができる。Sn合金は、Sn元素を主成分として含有することが好ましい。Sn合金におけるSn元素の割合は、例えば、50mol%以上であってもよく、70mol%以上であってもよく、90mol%以上であってもよい。
【0057】
また、カーボン活物質としては、例えばメソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、高配向性グラファイト(HOPG)、ハードカーボン、ソフトカーボンが挙げられる。
【0058】
これらの負極活物質は、単独で用いてもよく、2種以上の負極活物質が併用されてもよい。
【0059】
負極活物質の形状は、例えば、粒子状が挙げられる。負極活物質の平均粒径(D50)は、例えば10nm以上であり、100nm以上であってもよい。一方、負極活物質の平均粒径(D50)は、例えば50μm以下であり、20μm以下であってもよい。平均粒径(D50)は、例えば、レーザー回折式粒度分布計、走査型電子顕微鏡(SEM)による測定から算出できる。
【0060】
第2電極層が正極活物質層である場合、第2活物質(正極活物質)としては、例えば、リチウム-ニッケル複合酸化物、リチウム-コバルト複合酸化物、リチウム-鉄複合酸化物、LiNi1/3Co1/3Mn1/3等のリチウム-ニッケル-コバルト複合酸化物、リチウム-金属リン酸化合物、およびリチウム-遷移金属硫酸化合物などが挙げられる。これらの正極活物質は、単独で用いてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0061】
第2電極層は、導電材、固体電解質およびバインダの少なくとも一つをさらに含有していてもよい。導電材としては、例えば、炭素材料が挙げられる。固体電解質は、ゲル電解質等の有機固体電解質であってもよく、酸化物固体電解質、硫化物固体電解質等の無機固体電解質であってもよい。また、バインダとしては、例えば、ゴム系バインダ、フッ化物系バインダが挙げられる。
【0062】
(2)第1電極層
第1電極層は、第1活物質を含む。第1電極層が正極活物質層である場合、第1電極層に含まれる第1活物質(正極活物質)としては、特に限定されない。すなわち、上述した第2活物質で例示した正極活物質に加え、従来公知の活物質を使用することができる。
【0063】
第1電極層が負極活物質層である場合、第1電極層に含まれる第1活物質(負極活物質)としては、特に限定されない。すなわち、上述した第2活物質で例示した負極活物質に加え、従来公知の活物質を使用することができる。
【0064】
第1電極層は、導電材、固体電解質およびバインダの少なくとも一つをさらに含有していてもよい。導電材、固体電解質およびバインダとしては、上述したものと同様のものが用いられる。
【0065】
(3)第1集電体および第2集電体
負極集電体は、負極活物質層の集電を行う。負極集電体の材料としては、例えば、銅、SUS、ニッケル等の金属が挙げられる。負極集電体の形状としては、例えば箔状が挙げられる。負極集電体は、負極活物質層側の表面に、カーボンコート層を有していてもよい。
【0066】
正極集電体は、正極活物質層の集電を行う。正極集電体の材料としては、例えば、アルミニウム、SUS、ニッケル等の金属が挙げられる。正極集電体の形状としては、例えば箔状が挙げられる。正極集電体は、正極活物質層側の表面に、カーボンコート層を有していてもよい。
【0067】
(4)固体電解質層
固体電解質層は、第1電極層および第2電極層の間に配置され、少なくとも固体電解質を含有する。固体電解質の種類については、上述した内容と同様である。図1および図2に示すように、固体電解質層は単層構造であってもよいし、図3に示すように、複数層が積層された積層構造であってもよい。
【0068】
(5)全固体電池
また、全固体電池は、第1電極層、固体電解質層、第2電極層から構成される発電単位を、1つ有していてもよく、2つ有していてもよく、3つ以上有していてもよい。全固体電池が複数の発電単位を有する場合、それらは、並列に接続されていてもよく、直列に接続されていてもよい。
【0069】
図4は、本開示における全固体電池を例示する概略断面図である。図4に示す全固体電池10Dは、4つの電極積層体11(11A、11B、11Cおよび11D)を備える。電極積層体11Aは、第1集電体1、発電要素12A(第1電極層2、固体電解質層3および第2電極層4)および第2集電体5をこの順に有する。電極積層体11Bは、第1集電体1、発電要素12B(第1電極層2、固体電解質層3および第2電極層4)および第2集電体5をこの順に有する。一方、電極積層体11Cは、第1集電体1、発電要素12C(第1電極層2、固体電解質層3および第2電極層4)および第2集電体5をこの順に有する。また、積層体11Dは、第1集電体1、発電要素12D(第1電極層2、固体電解質層3および第2電極層4)および第2集電体5をこの順に有する。電極積層体11Aおよび電極積層体11Bは、一つの第1集電体1を共有しており、電極積層体11Bおよび電極積層体11Cは、一つの第2集電体5を共有しており、電極積層体11Cおよび電極積層体11Dは、一つの第1集電体1を共有している。これらの積層体11A~11Dは互いに並列に接続されている。
【0070】
また、本開示における全固体電池は、通常、第1集電体、第1電極層、固体電解質層、第2電極層および第2集電体を含む電極積層体を覆う外装体を有する。外装体は、ラミネート型外装体であってもよく、ケース型外装体であってもよい。
【0071】
本開示における全固体電池は、拘束部材を備えることが好ましい。拘束部材は、電極積層体に対して厚さ方向に拘束圧力を付与する部材である。拘束部材の構成は、特に限定されず、公知の構成を採用できる。拘束圧を付与することで、良好なイオン伝導パスおよび電子伝導パスが形成される。拘束圧は、例えば0.1MPa以上であり、1MPa以上であってもよく、5MPa以上であってもよい。一方、拘束圧は、例えば100MPa以下であり、50MPa以下であってもよく、20MPa以下であってもよい。
【0072】
本開示における全固体電池は、典型的にはリチウムイオン二次電池である。全固体電池の用途としては、例えば、ハイブリッド車(HEV)、プラグインハイブリッド車(PHEV)、電気自動車(BEV)、ガソリン自動車、ディーゼル自動車等の車両の電源が挙げられる。特に、ハイブリッド車(HEV)、プラグインハイブリッド車(PHEV)または電気自動車(BEV)の駆動用電源に用いられることが好ましい。また、本開示における全固体電池は、車両以外の移動体(例えば、鉄道、船舶、航空機)の電源として用いられてもよく、情報処理装置等の電気製品の電源として用いられてもよい。
【0073】
B.全固体電池の製造方法
本開示における全固体電池の製造方法は、上述した全固体電池の製造方法であって、上記第1集電体および上記第1電極層を有する第1積層体を準備する第1積層体準備工程と、上記第2集電体および上記第2電極層を有する第2積層体を準備する第2積層体準備工程と、上記第1積層体に対して加圧成形を行う第1積層体加圧成形工程と、上記第1積層体加圧成形工程後に、上記第1積層体および上記第2積層体を、上記固体電解質層を介して積層させる積層工程と、を有し、上記第1積層体加圧成形工程において、等方圧プレスを行うことにより、内側領域および外側領域の境界から、上記端部に向けて、第1電極層の厚さを減少させる、全固体電池の製造方法である。
【0074】
本開示によれば、第1積層体加圧成形工程によって、等方圧プレスを行うことにより、内側領域および外側領域の境界から、端部に向けて、第1電極層の厚さを減少させる。従って、充放電による第1電極層の外周近傍の破損を抑制可能な全固体電池が得られる。
【0075】
以下、本開示における全固体電池の製造方法の各工程について、図5を用いて詳述する。図5は、上述した第1実施形態の全固体電池の製造方法の一例を示す概略断面図である。
【0076】
1.第1積層体準備工程
本工程は、第1集電体および第1電極層を有する第1積層体を準備する工程である。図5(a)に示すように、第1積層体51Aは、第1集電体1および第1電極層2を有する。後述する図6および図7に示すように、第1積層体は、第1電極層の第1集電体とは反対側の面に、固体電解質層を有していてもよい。
【0077】
第1積層体は、例えば、第1集電体1上に第1電極層を形成することにより作製される。第1電極層の形成方法としては、例えば、第1電極層を形成するためのスラリーを塗工し、乾燥する方法(塗工法)が挙げられる。さらに、第1電極層上に、固体電解質層を形成してもよい。固体電解質層の形成方法としては、例えば、金属箔上に固体電解質層が形成されたシートを用いて、第1電極層上に固体電解質層を転写する方法(転写法)が挙げられる。
【0078】
2.第2積層体準備工程
本工程は、第2集電体および第2電極層を有する第2積層体を準備する工程である。図5(b)に示すように、第2積層体52Aは、第2集電体4および第2電極層5を有する。図5(b)に示すように、第2電極層4の第1集電体5とは反対側の面に、固体電解質層3を有していてもよい。第2電極層および固体電解質層の形成方法は、上記第1電極層および固体電解質層の形成方法と同様である。
【0079】
3.第1積層体加圧成形工程
本工程は、第1積層体に対して加圧成形を行う工程であり、等方圧プレスを行うことにより、内側領域および外側領域の境界から、端部に向けて、第1電極層の厚さを減少させる工程である。
【0080】
本工程においては、図5(c)に示すように、第1積層体51Aの第1電極層2側の面に支持板を配置せずに、等方圧プレスを行うことが好ましい。「第1積層体の第1電極層側の面」とは、第1集電体を基準として、第1電極層側に位置する第1積層体の面をいう。このような等方圧プレスによって、支持板が配置されない第1電極層の第1集電体とは反対側の面(第1面)の外側領域に傾斜が設けられる。即ち、第1面の内側領域および外側領域の境界から、端部に向けて、第1電極層の厚さを容易に減少させることができる。なお、支持板は、第1積層体よりも剛性の高い部材であれば特に限定されない。一方、第1積層体51Aの第1集電体1側には、支持板15を配置することが好ましい。等方圧プレスによって、支持板が配置される第1積層体の第1集電体側の面は平坦となる。
【0081】
等方圧プレスの圧力媒体としては、水やオイル等の液体や、粉体等を挙げることができる。圧力媒体としては液体を用いることがより好ましい。等方圧プレスにおける圧力は、特に限定されないが、例えば10~1000MPa、好ましくは100~500MPaとすることができる。また、加圧時間は、特に限定されず、例えば1~120分、好ましくは5~30分とすることができる。さらに、加圧時における圧力媒体の温度も特に限定されず、例えば20~200℃、好ましくは50~100℃とすることができる。
【0082】
なお、図5(c)に示すように、第1積層体51Aは、支持板15と共に、ラミネートフィルム16により密封され、外部雰囲気から遮断された状態で等方圧プレスすることが好ましい。さらに、第1積層体と支持体との間、支持体とラミネートフィルムとの間に、固着を防止するための離型フィルムを配置していてもよい。
【0083】
4.積層工程
本工程は、第1積層体加圧成形工程後に、第1積層体および第2積層体を、固体電解質層を介して積層させる工程である。図5(b)に示すように、第2積層体52Aが固体電解質層3を有する場合、第1積層体51Aおよび第2積層体52Aを、第2積層体の固体電解質層3を介して対向させ、積層する(図5(d))。また、第1積層体が固体電解質層を有する場合、第1積層体および第2積層体を、第1積層体の固体電解質層を介して対向させ、積層する。これにより、全固体電池10Aが製造される。また、低弾性率部材が配置された全固体電池を製造する場合には、積層工程において、低弾性率部材を第1積層体および第2積層体の間に介して、第1積層体および第2積層体を積層する。
【0084】
5.他の実施形態
図6は、上述した第2実施形態の全固体電池の製造方法の一例を示す概略断面図である。図6(a)に示すように、第1集電体1および第1電極層2を有し、さらに、第1電極層2の第1集電体1とは反対側の面に、固体電解質層3を有する第1積層体51Bを準備する。また、図6(b)に示すように、第2集電体5および第2電極層4を有する第2積層体52Bを準備する。
【0085】
次に、図6(c)に示すように、第1積層体加圧成形工程において、第1積層体51Bの第1集電体1側に支持板15を配置し、第1積層体51の第1電極層2側の面(固体電解質層の面)に支持板を配置せずに、等方圧プレスを行う。等方圧プレスによって、支持板が配置される第1積層体の第1集電体側の面は平坦となる。一方、支持板が配置されない第1電極層2および固体電解質層3の面は、外側領域に傾斜が設けられる。即ち、第1電極層の第1面の内側領域および外側領域の境界から、端部に向けて、第1電極層の厚さを容易に減少させることができる。
【0086】
次に、図6(d)に示すように、積層工程において、第1積層体51Bおよび第2積層体52Bを、第1積層体51Bの固体電解質層3を介して対向させ、積層する。これにより、第2実施形態の全固体電池10Bが製造される。
【0087】
図7は、上述した第3実施形態の全固体電池の製造方法の一例を示している。まず、図7(a)に示すように、第1集電体1および第1電極層2を有し、さらに、第1電極層2の第1集電体1とは反対側の面に、第1固体電解質層31を有する第1積層体51Cを準備する。また、図7(b)に示すように、第2集電体5および第2電極層4を有し、さらに、第2電極層4の第2集電体5とは反対側の面に、第2固体電解質層32を有する第2積層体52Cを準備する。
【0088】
次に、図7(c)に示すように、第1積層体加圧成形工程において、第1積層体51Cの第1集電体1側に支持板15を配置し、第1積層体51Cの第1電極層2側の面(第1固体電解質層の面)に支持板を配置せずに、等方圧プレスを行う。等方圧プレスによって、支持板が配置される第1積層体の第1集電体側の面は平坦となる。一方、支持板が配置されない第1電極層2および第1固体電解質層31の面は、外側領域に傾斜が設けられる。即ち、第1電極層の第1面の内側領域および外側領域の境界から、端部に向けて、第1電極層の厚さを容易に減少させることができる。
【0089】
次に、図7(d)に示すように、積層工程において、第1積層体51Cおよび第2積層体52Cを、第1積層体51Cの第1固体電解質層31および第2積層体52Cの第2固体電解質層32を介して対向させ、積層する。これにより、第3実施形態の全固体電池10Cが製造される。
【0090】
図8は、全固体電池が積層電池である場合の全固体電池の製造方法の一例を示す概略断面図である。まず、図8(a)に示すように、第1集電体1および第1集電体1の両面に形成された第1電極層2を有する第1積層体51Dを準備する。また、図8(b)に示すように、第2集電体5と、第2集電体5の両面に形成された第2電極層4および固体電解質層3と、を有する第2積層体52Dを準備する。
【0091】
次に、図8(c)に示すように、第1積層体加圧成形工程において、第1積層体51Dの両面(第1電極層2の面)に支持板を配置せずに、等方圧プレスを行う。これにより、第1積層体51Dの両側の第1電極層2の第1面の外側領域は、傾斜が設けられる。
【0092】
次に、図9に示すように、積層工程において、第2積層体52Dの両側に第1積層体51Dを配置する。さらに、それぞれの第1積層体51D上に、固体電解質層3、第2電極層4および第2集電体5を有する第3積層体53Dを配置し、積層する。この際、第3積層体53Dが、固体電解質3が第1積層体51D側となるように配置し、積層する。これにより、第4実施形態の全固体電池10Dが製造される。
【0093】
なお、本開示は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本開示における特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本開示における技術的範囲に包含される。
【実施例0094】
[評価用セルの作製]
(実施例)
まず、LiNi0.5Co0.2Mn0.3、アルジロダイト型硫化物固体電解質、導電助材およびバインダを溶媒中に分散した正極活物質層用スラリーを調製した。正極活物質用スラリーを、正極集電箔に塗工、乾燥することで、正極集電体(第1集電体)および正極活物質層(第1電極層)を有する正極シートを作製した。
次に、ケイ素、アルジロダイト型硫化物固体電解質、導電助材およびバインダを溶媒中に分散した負極活物質層用スラリーを調製した。負極活物質層用スラリーを負極集電箔に塗工、乾燥することで、負極集電体(第2集電体)および負極活物質層(第2電極層)を有する負極シートを作製した。
【0095】
次に、アルジロダイト型固体電解質、バインダを溶媒中に分散したスラリーを調製し、金属箔に塗工、乾燥することにより、第1固体電解質層および金属箔を有する第1固体電解質シートを作製した。同様の方法により、第2固体電解質層および金属箔を有する第2固体電解質シートを作製した。
【0096】
次に、正極シート、負極シート、第1固体電解質シートおよび第2固体電解質シートの各シートを所定の寸法に切断した。この際、負極シートの面積が正極シートの面積より大きくなるようにした。第1固体電解質シートおよび第2固体電解質シートの面積は、切断した正極シート、負極シートのいずれの面積より大きくなるようにした。
【0097】
次に、正極シートと第1固体電解質シートを、正極活物質層と第1固体電解質層が対向するように重ねることにより、第1積層体を得た。この第1積層体をステンレス板の上に配置し、支持板であるステンレス板と一緒に、アルミラミネートフィルムで真空封止した。この時、正極シート側がステンレス板側になるように配置した。真空封止した第1積層体について、温間等方圧プレス(WIP)処理を施した(第1積層体加圧成形工程)。その後、アルミラミネートフィルムを開封して第1積層体を取出し、固体電解質層側の金属箔を剥離した。これにより、固体電解質層が転写され、かつ高充填化された正極活物質層を得た。
【0098】
また、第2固体電解質シートの第2固体電解質層を、負極シートの負極活物質層と対向するように重ね、ロールプレスにより接合し、その後、第2固体電解質層側の金属箔を剥離することで、負極集電体、負極活物質層および第2固体電解質層を有する第2積層体を得た。
【0099】
得られた第1積層体における第1固体電解質層と、第2積層体における第2固体電解質層とが対向するように重ね合わせ、集電タブと共にラミネートフィルムで真空封止することで全固体電池を作製した。得られた全固体電池は平板状の拘束治具で拘束することにより、所定の面圧を付与した。
【0100】
(比較例)
第1積層体加圧成形工程において、固体電解質シートがステンレス板側になるように配置した以外は、実施例と同じ方法で全固体電池を作製した。
【0101】
[充放電試験]
実施例及び比較例で製造した全固体電池に対して、所定の条件でコンディショニングのための充放電を実施した後、60℃、電圧範囲2.5~4.35Vでの充放電試験を実施した。充電は1C、2C、3C、4C、5C、6C(CC充電)、放電レートは0.1C(CCCV放電、カットオフレート0.1C)とし、充電容量(CC容量)に対する放電容量(CCCV容量)の比を、クーロン効率として算出した。
【0102】
実施例及び比較例の各充電レートにおけるクーロン効率を比較した結果を図12に示す。いずれの充電レートにおいても、実施例のクーロン効率が比較例のクーロン効率より高いことが確認された。短絡が発生すると、充電時の方が短絡に起因する電流が多く流れることによってクーロン効率が低下することから、この結果は、実施例が短絡を抑制できていることを示している。
【0103】
充放電試験前の全固体電池の断面形状をSEMにより観察した。実施例の全固体電池においては、正極活物質層(第1電極層)の第1面の外側領域及びこの外側領域を覆う第1固体電解質層の第2固体電解質層側の面が傾斜していることが確認された。また、正極活物質層(第1電極層)の第1面の外側領域を覆う第1固体電解質層と第2固体電解質層との間に空間があることが確認された。一方、比較例の全固体電池においては、正極活物質層(第1電極層)および第1固体電解質層の第2固体電解質層側の面は傾斜しておらず、第1電極層の第1集電体側の面の外側領域が傾斜していることが確認された。
【0104】
充放電試験後の電池の断面形状をSEMにより観察した。観察した断面形状の概略図を図11(a)および図11(b)に示す。図11(a)に示すように、実施例の電池においては、正極活物質層(第1電極層2)及び固体電解質層3に顕著な割れは見られなかった。一方、図11(b)に示すように、比較例の電池においては、正極活物質層(第1電極層52)及び固体電解質層53(第1固体電解質層531および第2固体電解質層532)の外周近傍に明らかな割れが観察された。
【符号の説明】
【0105】
1 …第1集電体
2 …第1電極層
3 …固体電解質層
31…第1固体電解質層
32…第2固体電解質層
4 …第2電極層
5 …第2集電体
10…全固体電池
図1
図2
図3
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