IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱商事ライフサイエンス株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025026145
(43)【公開日】2025-02-21
(54)【発明の名称】疎水性アミノ酸高含有酵母組成物
(51)【国際特許分類】
   A23L 27/10 20160101AFI20250214BHJP
   A23L 27/21 20160101ALI20250214BHJP
   A23L 5/00 20160101ALI20250214BHJP
   A23L 27/00 20160101ALN20250214BHJP
   A23L 23/00 20160101ALN20250214BHJP
【FI】
A23L27/10 H
A23L27/21 Z
A23L5/00 J
A23L27/00 D
A23L23/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023131539
(22)【出願日】2023-08-10
(71)【出願人】
【識別番号】519127797
【氏名又は名称】三菱商事ライフサイエンス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】李 宇辰
(72)【発明者】
【氏名】深野 和紘
(72)【発明者】
【氏名】山瀬 なりあ
【テーマコード(参考)】
4B035
4B036
4B047
【Fターム(参考)】
4B035LC01
4B035LE02
4B035LG14
4B035LG48
4B035LG50
4B035LK01
4B035LP01
4B035LP21
4B035LP22
4B035LP23
4B035LP42
4B035LP56
4B036LC01
4B036LE02
4B036LF03
4B036LH14
4B036LH48
4B036LK01
4B036LP01
4B036LP07
4B036LP08
4B036LP16
4B036LP22
4B047LB07
4B047LB09
4B047LE01
4B047LG15
4B047LG56
4B047LP20
(57)【要約】
【課題】
本発明は、減塩、畜水産エキス系調味料の使用量を低減した食品であっても、風味の低下を抑え、さらにこれまでにない酵母組成物を得ることを課題とする。
【解決手段】
本発明者は、疎水性アミノ酸高含有酵母組成物が前記課題を解決することを見出し、本発明を完成させた。本発明によると、疎水性アミノ酸を多く含み、分岐鎖アミノ酸とそれ以外の疎水性アミノ酸の含量比を特定の範囲にすることで、先味と複雑味を強化できる風味改善用組成物である調味料を提供できる。これにより、減塩食品、畜水産エキス系調味料の使用量を低減した食品であっても、風味の低下を抑制することができる。

【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酵母自己消化物を含む組成物であって、組成物中に遊離アミノ酸を固形分あたり30重量%以上含む組成物。
【請求項2】
酵母自己消化物を含む組成物であって、組成物中に遊離アミノ酸を固形分あたり30重量%以上含み、さらに、該遊離アミノ酸中の疎水性アミノ酸が25~50重量%含み、該疎水性アミノ酸中の分岐鎖アミノ酸が60重量%以上である、組成物。
【請求項3】
風味改善用組成物である、請求項1又は2の組成物。
【請求項4】
請求項1又は2の組成物を使用した、食品の風味改善方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酵母消化物を含む呈味改善用の組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
食品を調味する方法として、食塩、砂糖などの基本調味料の他に、うま味調味料、畜水産エキス系調味料、たん白加水分解物、酵母エキスなど多様な調味料が使用されている。近年では健康志向から、低塩、低糖、低脂肪の食品が求められている。しかし、これらの食品は、塩味不足等により、風味が弱く、味に物足りなさを感じることがあった。
【0003】
このような課題に対して、低塩、低糖、低脂肪の風味を補う調味料が種々提案されている。例えば、酵母エキスは、旨味成分である、核酸類、アミノ酸類を豊富に含み、複雑な風味を付与できることから、減塩食品等の風味を補うことが知られている。(特許文献1)
酵母エキスは、多様な製品が販売されており、ビーフレーバー風味を有する酵母エキス(特許文献1)、食品の風味を増強する酵母エキス(特許文献2)、さらに特定の成分を多く含む酵母エキス(特許文献3)などが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007-259744
【特許文献2】WO 2013/031571
【特許文献3】WO 2011/074359
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、減塩、畜水産エキス系調味料の使用量を低減した食品であっても、風味の低下を抑え、さらにこれまでにない酵母組成物を得ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、遊離アミノ酸高含有酵母自己消化物高含有組成物、特に、疎水性アミノ酸高含有酵母組成物が前記課題を解決することを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
本発明は以下のような発明である。
(1)酵母自己消化物を含む組成物であって、組成物中の遊離アミノ酸を固形分あたり30重量%以上含む組成物。
(2)酵母自己消化物を含む組成物であって、組成物中の遊離アミノ酸を固形分あたり30重量%以上含み、該遊離アミノ酸中の疎水性アミノ酸が25~50重量%含み、該疎水性アミノ酸中の分岐鎖アミノ酸が60重量%以上である、組成物。
(3)風味改善用組成物である、前記(1)又は(2)の組成物。
(4)前記(1)又は(2)の組成物を使用した、食品の風味改善方法。

【発明の効果】
【0008】
本発明によると、疎水性アミノ酸を多く含み、分岐鎖アミノ酸とそれ以外の疎水性アミノ酸の含量比を特定の範囲にすることで、先味と複雑味を強化できる風味改善用組成物である調味料を提供できる。これにより、減塩食品、畜水産エキス系調味料の使用量を低減した食品であっても、風味の低下を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明で「疎水性アミノ酸」とは、ロイシン、イソロイシン、フェニルアラニン、バリン、メチオニン及びチロシンからなる群を意味し、「分岐鎖アミノ酸」は、バリン、ロイシン、イソロイシンからなる群を意味する。また、本発明で、アミノ酸は、特記した場合を除き、「遊離アミノ酸」を意味する。
【0010】
本発明では、酵母自己消化物を含む組成物であり、組成物中の遊離アミノ酸中の疎水性アミノ酸の割合を特定の範囲にすることで、先味や複雑味を強化する調味料用組成物を提供する。
【0011】
本発明の組成物中の遊離アミノ酸は、30重量以上含み、特に35重量%以上含むことが好ましい。本発明では、さらに、当該遊離アミノ酸中の疎水性アミノ酸の割合が25~50重量%含み、特に疎水性アミノ酸の割合が30~40重量%含むことが好ましい。
【0012】
本発明では、疎水性アミノ酸中の分岐鎖アミノ酸(バリン、ロイシン、イソロイシン)とそれ以外の疎水性アミノ酸(フェニルアラニン、メチオニン及びチロシン)が特定範囲となる。本発明の組成物では、疎水性アミノ酸中の分岐鎖アミノ酸が60重量%以上とする。好ましくは、疎水性アミノ酸中の分岐鎖アミノ酸が65重量%以上とし、さらに好ましくは、70重量%以上とする。なお、本発明でアミノ酸含量の測定方法は、実施例の記載による。
【0013】
本発明では、前記の組成物を酵母自己消化法により製造する。 本発明の自己消化法とは、酵母に内在する酵素、又は酵母自身が産生する酵素により、酵母を消化する方法であって、外部から酵素を添加しない酵母菌体や菌体中成分を加水分解する方法である。
【0014】
本発明で使用する酵母は、一般的に食品製造等に用いられている酵母を使用することが好ましい。具体的には、サッカロマイセス(Saccharomyces属)に属する酵母である、サッカロマイセス・セレビッシェ(Saccharomyces cerevisiae) 、サッカロマイセス・パストリアヌス(Saccharomyces pastrianus) 、サッカロマイセス・ルーキシ( Saccharomyces rouxii) 、サッカロマイセス・カールスバーゲンシス(Saccharomyces carlsbergensis) 等、キャンディダ(Candida)属に属する酵母である、キャンディダ・ユティリス(Candida utilis) 、キャンディダ・トロピカリス(Candida tropicalis) 、キャンディダ・リポリティカ(Candida lipolytica)、キャンディダ・フレーベリ(Candida flaveri)等を例示することができる。好ましくは、サッカロマイセス・セレビッシェ(Saccharomyces cerevisiae)、サッカロマイセス・パストリアヌス(Saccharomyces pastrianus)、サッカロマイセス・ルーキシ(Saccharomyces rouxii)、サッカロマイセス・カールスバーゲンシス(Saccharomyces carlsbergensis)等のサッカロマイセス(Saccharomyces) 属に属する酵母が用いられ、より好ましくは、サッカロマイセス・セレビッシェ(Saccharomyces cerevisiae)又はサッカロマイセス・パストリアヌス(Saccharomyces pastrianus)が用いられる。これらの酵母は、単独で用いても良く、上記の酵母から選択される2種類以上を組み合わせて用いてもよい。この中でも、特にビール酵母が好ましい。ビール酵母を用いる場合は、ビールによる苦味を取り除くため、アルカリ水溶液で洗浄する等の脱苦味処理を施した酵母菌体を用いることが好ましい。脱苦味処理は、当業者において周知の方法を用いることができ、特に制限はない。具体的に例示すると、特開昭55-162983号公報に記載の方法により行うことができる。ビール酵母以外を使用する場合、酵母の培養方法は特に制限はなく、食品製造で一般に採用される培養方法で酵母菌体を得ることができる。
【0015】
本発明での自己消化法は、当業者において一般に採用される方法で良い。具体的には、以下のように例示することができる。
次に、酵母菌体に適量の蒸留水などの水を添加し、酵母菌体懸濁液を調製する。酵母懸濁液中の酵母菌体濃度は、任意に調整できるが、一般的には、5~40g/dlに調整する。菌体懸濁後、酸又はアルカリを用いてpH調整する。使用する酸、アルカリは、食品製造に利用できるものであれば、制限なく使用することができる。本発明の組成に調整するには、自己消化による分解条件でpHの調整により得ることができる。使用する酵母菌体により当業者が適宜調整できるが、通常は、pHを4.0~7.0に調整する。一般的には、酵母自己消化では、pHを6.5以下にすると疎水性アミノ酸が多く含まれ、遊離アミノ酸含量も増加する。疎水性アミノ酸中の分岐鎖アミノ酸とそれ以外のアミノ酸の配合割合の調整もpH調整により行うことができる。この条件も当業者が適宜調整できるが、通常は、pHを5.0以下で自己消化を行うと、本発明の組成にすることができる。
温度、自己消化反応時間も任意であるが、温度は、一般的に、40~60℃で、5~24時間反応させる。反応中は、攪拌しても良い。
【0016】
自己消化反応後、ろ過、遠心分離等により固液分離し、上清を常法により濃縮、殺菌、必要に応じてpH調整等を経て本発明の組成物を得ることができる。また、本発明では、乾燥工程も設けても良く、濃縮によりペースト状にしても良い。
【0017】
また、本発明では、前段までの方法で製造する方法のほか、複数の酵母由来の組成物を混合して、疎水性アミノ酸含量等を調製しても良い。この場合、市販の酵母エキスも利用することができる。また、本発明で特定して遊離アミノ酸、疎水性アミノ酸、及び分岐鎖アミノ酸とそれ以外のアミノ酸の含量の範囲内になれば、酵母由来素材以外の食品素材を混合することもできる。
【0018】
本発明の組成物は、各種飲食品に添加することで効果を発揮する。添加できる食品は、特に制限はない。具体的に例示すると、ソース、焼き肉のたれなどのソース・たれ類、トマトソースなどのパスタソース、めんつゆ、そばつゆ、濃縮つゆなどのつゆ類、ラーメン、コンソメスープ、シチュー、カレー、さらにハンバーグ、ハムソーセージなどの食肉や食肉加工品などを挙げることができる。
【実施例0019】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0020】
<アミノ酸含量測定方法>
遊離アミノ酸については、試料を適宜超純水に溶解後、超音波にて10分抽出した。その後、2.5%のトリクロロ酢酸で適宜希釈し、6℃で1晩置き、0.45μmのCellulose Acetateフィルターで通した後、日立Chromaster高速液体クロマトグラフよりアミノ酸分析を行った。
【0021】
(製造例1)
ビール製造により得られるビール酵母スラリーを入手し、4500rpm、10分の条件で遠心分離して得られた泥状生酵母を固形分が10重量%になるように水に懸濁した。この懸濁物を塩酸にてpH6.0に調整し、50℃、17時間の反応条件で自己消化させた後、ろ過により、固液分離をした。常法により、濃縮、加熱処理をし、ペースト状の酵母組成物を得た。得られた組成物は、固形分中の遊離アミノ酸は35重量%であった。また、遊離アミノ酸中の疎水性アミノ酸は35重量%、疎水性アミノ酸中の分岐鎖アミノ酸は71重量%であった。
【0022】
(比較品例)
比較例として、市販の酵母エキスを使用した。各酵母エキス中のアミノ酸含量は、表1に示す。
【0023】
(表1)
【0024】
(実施例1)
モデル食品として、焼き肉のたれを表2組成で作成し、製造例1品、比較品をそれぞれ、0.2重量%添加し、官能評価により評価した。官能評価は5名の熟練したパネルにより、評価コメントによる評価を行った。
(表2)
*三菱商事ライフサイエンス株式会社社製
【0025】
評価の結果、本願発明品は、旨味ではない先味が付与され、複雑味が付与された。さらに、後味のキレも良く、シャープな味質と評価された。酵母エキスCは旨味である先味が強く付与され、酵母エキスA,B、D、Eは、味質の傾向が近く、先中味のうま味と厚みが付与された。
【0026】
(実施例2)
次に、モデル食品として、トマトソースを表3組成で作成し、製造例1品、比較品をそれぞれ、0.2重量%添加し、実施例1と同様に評価した。
(表3)
*三菱商事ライフサイエンス株式会社社製
【0027】
評価の結果、本願発明品は、旨味ではない先味が付与され、複雑味が付与され、醤油感が増強された。酵母エキスCは旨味である先味が強く付与され、酵母エキスA,B、D、Eは、味質の傾向が近く、先中味のうま味と厚みが付与された。