(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025026309
(43)【公開日】2025-02-21
(54)【発明の名称】人工毛髪の脱色方法、増毛用毛髪の作製方法、増毛方法及びかつらの作製方法
(51)【国際特許分類】
A41G 3/00 20060101AFI20250214BHJP
C07C 69/40 20060101ALN20250214BHJP
C07C 69/42 20060101ALN20250214BHJP
C07C 69/44 20060101ALN20250214BHJP
C07C 69/60 20060101ALN20250214BHJP
C07C 69/16 20060101ALN20250214BHJP
D06L 4/00 20170101ALN20250214BHJP
【FI】
A41G3/00 C
A41G3/00 N
C07C69/40
C07C69/42
C07C69/44
C07C69/60
C07C69/16
D06L4/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024092120
(22)【出願日】2024-06-06
(31)【優先権主張番号】P 2023131301
(32)【優先日】2023-08-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000126218
【氏名又は名称】株式会社アートネイチャー
(71)【出願人】
【識別番号】000226161
【氏名又は名称】日華化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090527
【弁理士】
【氏名又は名称】舘野 千惠子
(74)【代理人】
【識別番号】100198661
【弁理士】
【氏名又は名称】久保寺 利光
(72)【発明者】
【氏名】矢内 大輔
(72)【発明者】
【氏名】松田 光夫
【テーマコード(参考)】
4H006
【Fターム(参考)】
4H006AA03
4H006AB99
(57)【要約】
【課題】人工毛髪の一部を脱色することができ、人の頭に使用したときに結び目が目立たない人工毛髪にすることができる人工毛髪の脱色方法を提供する。
【解決手段】分散染料によって染色された人工毛髪の一部に脱色加工剤を付与する付与工程と、前記付与工程の後又は前記付与工程と同時に、前記人工毛髪に熱を加えて前記人工毛髪の一部を脱色する加熱工程と、を有し、前記脱色加工剤は、下記一般式(1)及び下記一般式(2)から選ばれる少なくとも一方の化合物を含む。
R
1OOC-X-COOR
2 ・・・(1)
R
3COO-(AO)n-Y
1 ・・・(2)
Xは炭素数2~4のアルキレン基又はアルケニレン基。R
1は炭素数1~4のアルキル基。R
2は炭素数1~4のアルキル基。AOは炭素数2~3のアルキレンオキシ基。nは1~3の整数。R
3は炭素数1~4のアルキル基。Y
1は水素原子又はR
4CO基。R
4は炭素数1~4のアルキル基。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
分散染料によって染色された人工毛髪の一部に脱色加工剤を付与する付与工程と、
前記付与工程の後又は前記付与工程と同時に、前記人工毛髪に熱を加えて前記人工毛髪の一部を脱色する加熱工程と、を有し、
前記脱色加工剤は、下記一般式(1)及び下記一般式(2)から選ばれる少なくとも一方の化合物を含む
ことを特徴とする人工毛髪の脱色方法。
R1OOC-X-COOR2 ・・・(1)
R3COO-(AO)n-Y1 ・・・(2)
一般式(1)において、Xは炭素数2~4のアルキレン基又はアルケニレン基であり、R1は炭素数1~4のアルキル基であり、R2は炭素数1~4のアルキル基であり、
一般式(2)において、AOは炭素数2~3のアルキレンオキシ基であり、nは1~3の整数であり、R3は炭素数1~4のアルキル基であり、Y1は水素原子又はR4CO基であり、R4は炭素数1~4のアルキル基である。
【請求項2】
前記付与工程は、隙間を設けて前記人工毛髪を配列させた状態で、又は、前記人工毛髪を束ねた状態で前記脱色加工剤を付与する
ことを特徴とする請求項1に記載の人工毛髪の脱色方法。
【請求項3】
前記付与工程は、加工剤付与部材に前記脱色加工剤を保持させ、前記加工剤付与部材を前記人工毛髪の一部に接触させる
ことを特徴とする請求項1に記載の人工毛髪の脱色方法。
【請求項4】
前記付与工程は、前記人工毛髪を前記脱色加工剤に浸漬させる
ことを特徴とする請求項1に記載の人工毛髪の脱色方法。
【請求項5】
前記加熱工程は、前記人工毛髪を加圧しながら熱を加える
ことを特徴とする請求項1に記載の人工毛髪の脱色方法。
【請求項6】
前記加熱工程は、前記人工毛髪に被転写材を接触させながら熱を加える
ことを特徴とする請求項1に記載の人工毛髪の脱色方法。
【請求項7】
前記加熱工程は、取手と、棒形状の加熱部とを有する治具により加熱を行う
ことを特徴とする請求項2に記載の人工毛髪の脱色方法。
【請求項8】
分散染料によって染色された人工毛髪の一部に脱色加工剤を付与する付与工程と、
前記付与工程の後又は前記付与工程と同時に、前記人工毛髪に熱を加えて前記人工毛髪の一部を脱色する加熱工程と、
前記加熱工程の後、前記人工毛髪における脱色された部分を環状にし、大きさが可変の環状部を形成する第1の環状部形成工程と、を有し、
前記脱色加工剤は、下記一般式(1)及び下記一般式(2)から選ばれる少なくとも一方の化合物を含む
ことを特徴とする増毛用毛髪の作製方法。
R1OOC-X-COOR2 ・・・(1)
R3COO-(AO)n-Y1 ・・・(2)
一般式(1)において、Xは炭素数2~4のアルキレン基又はアルケニレン基であり、R1は炭素数1~4のアルキル基であり、R2は炭素数1~4のアルキル基であり、
一般式(2)において、AOは炭素数2~3のアルキレンオキシ基であり、nは1~3の整数であり、R3は炭素数1~4のアルキル基であり、Y1は水素原子又はR4CO基であり、R4は炭素数1~4のアルキル基である。
【請求項9】
分散染料によって染色された人工毛髪の一部分を環状にし、大きさが可変の環状部を形成する第2の環状部形成工程と、
前記第2の環状部形成工程の後、前記環状部に脱色加工剤を付与する付与工程と、
前記付与工程の後又は前記付与工程と同時に、前記人工毛髪に熱を加えて前記環状部を脱色する加熱工程と、を有し、
前記脱色加工剤は、下記一般式(1)及び下記一般式(2)から選ばれる少なくとも一方の化合物を含む
ことを特徴とする増毛用毛髪の作製方法。
R1OOC-X-COOR2 ・・・(1)
R3COO-(AO)n-Y1 ・・・(2)
一般式(1)において、Xは炭素数2~4のアルキレン基又はアルケニレン基であり、R1は炭素数1~4のアルキル基であり、R2は炭素数1~4のアルキル基であり、
一般式(2)において、AOは炭素数2~3のアルキレンオキシ基であり、nは1~3の整数であり、R3は炭素数1~4のアルキル基であり、Y1は水素原子又はR4CO基であり、R4は炭素数1~4のアルキル基である。
【請求項10】
請求項1~7のいずれかに記載の人工毛髪の脱色方法により脱色された人工毛髪を用いた増毛方法であって、
人間の頭部から生えている1本又は複数本の自毛に前記人工毛髪を結び付ける第1の結び付け工程を有し、
前記第1の結び付け工程は、前記人工毛髪の脱色された部分が結び目となるように結び付ける
ことを特徴とする増毛方法。
【請求項11】
請求項8又は9に記載の増毛用毛髪の作製方法により作製された増毛用毛髪を用いた増毛方法であって、
前記環状部を人間の頭部から生えている1本又は複数本の自毛に通し、前記環状部を閉じる第1の閉環工程を有する
ことを特徴とする増毛方法。
【請求項12】
請求項1~7のいずれかに記載の人工毛髪の脱色方法により脱色された人工毛髪を用いたかつらの作製方法であって、
前記人工毛髪をかつらの紐状又は糸状のベースに結び付ける第2の結び付け工程を含み、
前記第2の結び付け工程は、前記人工毛髪の脱色された部分が結び目になるように結び付ける
ことを特徴とするかつらの作製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工毛髪の脱色方法、増毛用毛髪の作製方法、増毛方法及びかつらの作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従前より、かつらのベースに人毛や人工毛髪を結び付けてかつらを作製することが行われている。例えば特許文献1では、かつらのベースに人毛や人工毛髪が植設されたかつらが開示されている。
【0003】
このようにかつらを作製する場合、毛髪の結び目が黒い毛玉になってしまい、かつらを装着した場合、毛髪の隙間を通して結び目の毛玉が目立ってしまっていた。そのため、特許文献1では、かつらベースに植設する毛髪の根元を目立たない色彩にしている。
【0004】
特許文献1において、かつらに植設された毛髪の根元を目立たない色彩にするには、以下のような手法が開示されている。人毛の場合、毛髪全体を前もって完全に脱色し、またはかつらベースとほぼ同色になるまで脱色した状態でかつらベースに植設し、その後に毛髪の根元部分を残して使用者の頭髪色に染色する。また、人工毛(人工毛髪とも称する)の場合、あらかじめ毛髪を束にして片側ずつ染料により染色する。
【0005】
また、薄毛の一般的な対策として増毛が知られている。増毛は、頭部から生えている自毛に、人工毛髪や人毛を結着する施術である。通常、人工毛髪や人毛は、黒色などに染色されて使用されるため、自毛に結着させたときの結び目が黒くて目立つという問題がある。
【0006】
これに対して、特許文献2では、結び目を形成する部分に肌色もしくは肌色に近い淡色の領域を設けた増毛用毛髪が開示されている。特許文献2によれば、増毛用毛髪の結び目が肌色もしくは肌色に近い淡色とされていることにより、自毛との結び目が目立たないとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】実開平2-90619号公報
【特許文献2】特開2003-41417号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1では、人工毛髪を束にして片側ずつ染料により染色しているため、品質が劣ってしまう。このような方法の場合、例えば、人工毛髪同士で染料の付与にばらつきが生じ、毛髪に色むらが生じてしまう。また、このような方法の場合、根元の領域の目立たない色彩の部分(迷彩部分)の大きさにばらつきが生じてしまう。なお、特許文献1では、人工毛髪の一部を脱色して迷彩部分にするという思想は開示されていない。人工毛髪の一部を脱色するという技術は難易度が高く、結び目となる部分を脱色することについて、特許文献1では検討がなされていない。
【0009】
特許文献2では、黒色あるいは茶色等所望の色に染色した繊維を脱色して肌色とする方法との記載はあるものの、具体的にどのように脱色するかについて開示されていない。特許文献2において、脱色法としては公知の酸化法、還元法のいずれかの方法で行えばよいと記載されているのみである。しかし、このような方法を用いたとしても、増毛用毛髪の一部を狙い通りに脱色することは非常に難しい。
【0010】
そこで本発明は、人工毛髪の一部を脱色することができ、人の頭に使用したときに結び目が目立たない人工毛髪にすることができる人工毛髪の脱色方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明の人工毛髪の脱色方法は、分散染料によって染色された人工毛髪の一部に脱色加工剤を付与する付与工程と、前記付与工程の後又は前記付与工程と同時に、前記人工毛髪に熱を加えて前記人工毛髪の一部を脱色する加熱工程と、を有し、前記脱色加工剤は、下記一般式(1)及び下記一般式(2)から選ばれる少なくとも一方の化合物を含むことを特徴とする。
【0012】
また、本発明の増毛用毛髪の作製方法は、分散染料によって染色された人工毛髪の一部に脱色加工剤を付与する付与工程と、前記付与工程の後又は前記付与工程と同時に、前記人工毛髪に熱を加えて前記人工毛髪の一部を脱色する加熱工程と、前記加熱工程の後、前記人工毛髪における脱色された部分を環状にし、大きさが可変の環状部を形成する第1の環状部形成工程と、を有し、前記脱色加工剤は、下記一般式(1)及び下記一般式(2)から選ばれる少なくとも一方の化合物を含むことを特徴とする。
【0013】
また、本発明の増毛方法及びかつらの作製方法は、本発明の人工毛髪の脱色方法により脱色された人工毛髪を用いることを特徴とする。
【0014】
一般式(1)及び一般式(2)は以下である。
R1OOC-X-COOR2 ・・・(1)
R3COO-(AO)n-Y1 ・・・(2)
一般式(1)において、Xは炭素数2~4のアルキレン基又はアルケニレン基であり、R1は炭素数1~4のアルキル基であり、R2は炭素数1~4のアルキル基であり、一般式(2)において、AOは炭素数2~3のアルキレンオキシ基であり、nは1~3の整数であり、R3は炭素数1~4のアルキル基であり、Y1は水素原子又はR4CO基であり、R4は炭素数1~4のアルキル基である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、人工毛髪の一部を脱色することができ、人の頭に使用したときに結び目が目立たない人工毛髪にすることができる。本発明によって脱色された人工毛髪は、増毛用毛髪、増毛方法、かつら等に用いることができ、人の頭に使用したときに結び目が目立たない。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】人工毛髪に脱色加工剤を付与する一例を説明するための図(A)及び脱色された後の人工毛髪の一例を説明するための図(B)である。
【
図2】人工毛髪に脱色加工剤を付与する一例及び脱色された後の人工毛髪の一例を説明するための図(A)~(E)である。
【
図3A】人工毛髪に脱色加工剤を付与する他の例を説明するための図(A)及び(B)である。
【
図3B】人工毛髪に脱色加工剤を付与する他の例を説明するための図(A)~(D)である。
【
図4】脱色されていない増毛用毛髪の一例を説明するための図(A)及び(B)である。
【
図5】脱色された増毛用毛髪の一例を説明するための図(A)及び(B)である。
【
図6】脱色されていない増毛用毛髪を用いた増毛方法の一例を説明するための図(A)及び(B)である。
【
図7】脱色された増毛用毛髪を用いた増毛方法の一例を説明するための図(A)及び(B)である。
【
図8】人工毛髪に脱色加工剤を付与する他の例を説明するための図(A)~(C)である。
【
図9】被転写材を用いた一例を説明するための図(A)及び(B)である。
【
図10】遮蔽部材を用いた一例を説明するための図(A)及び(B)である。
【
図11】加熱工程の一例で用いる治具の一例を説明するための図(A)及び(B)である。
【
図12】
図11の治具を用いた加熱の一例を説明するための図(A)~(C)である。
【
図13】
図11(A)、(B)の斜視概略図(A)、(B)である。
【
図14】治具を用いる場合の他の例を説明するための図(A)及び(B)である。
【
図15】脱色された人工毛髪を用いた増毛方法の一例を説明するための図(A)及び(B)である。
【
図16】かつらのベースに人工毛髪を結び付けた一例を示す図(A)及び(B)である。(A)は脱色された人工毛髪を結び付けた例であり、(B)は脱色されていない人工毛髪を結び付けた例である。
【
図17】かつらのベースに複数の人工毛髪を結び付けた一例を示す図(A)及び(B)である。(A)は脱色された人工毛髪を結び付けた例であり、(B)は脱色されていない人工毛髪を結び付けた例である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る人工毛髪の脱色方法、増毛用毛髪の作製方法、増毛方法及びかつらの作製方法について図面を参照しながら説明する。なお、本発明は以下に示す実施形態に限定されるものではなく、他の実施形態、追加、修正、削除など、当業者が想到することができる範囲内で変更することができ、いずれの態様においても本発明の作用・効果を奏する限り、本発明の範囲に含まれるものである。
【0018】
(人工毛髪の脱色方法)
本発明の人工毛髪の脱色方法は、分散染料によって染色された人工毛髪の一部に脱色加工剤を付与する付与工程と、前記付与工程の後又は前記付与工程と同時に、前記人工毛髪に熱を加えて前記人工毛髪の一部を脱色する加熱工程と、を有し、前記脱色加工剤は、下記一般式(1)及び下記一般式(2)から選ばれる少なくとも一方の化合物を含むことを特徴とする。本発明によれば、人工毛髪の一部を脱色することができ、人の頭に使用したときに結び目が目立たない人工毛髪が得られる。以下、本発明の人工毛髪の脱色方法の実施形態について説明する。
【0019】
<付与工程>
付与工程は、分散染料によって染色された人工毛髪の一部に脱色加工剤を付与する工程である。付与の方法は、下記で説明するように、一つに限られるものではなく、複数の方法が可能である。
【0020】
<人工毛髪>
人工毛髪の材料としては、特に制限されるものではなく、適宜選択することができる。例えば、ポリ塩化ビニル系繊維、ポリエステル系繊維、アクリル系繊維、ポリアミド系繊維等が挙げられる。これらの中でも、ポリエステル系繊維が好ましい。
【0021】
脱色の対象となる人工毛髪は、分散染料によって染色されている。染色の手段は問わない。公知の染色方法が挙げられる。特に制限されるものではないが、例えば、分散染料は、これを含む捺染インクや昇華転写インクの形で人工毛髪に染色される。この他にも、浸染、捺染により染色してもよい。例えば、枷状にした繊維を専用の染色釜(常圧・高圧)を用いて染色してもよい。染色されている範囲は、適宜選択できるが、人の頭に使用することを考慮すると、人工毛髪の全体が染色されていることが想定される。
【0022】
<分散染料>
分散染料としては、特に制限されるものではなく、適宜選択することができる。分散染料としては、例えば、アゾ系分散染料、アントラキノン系分散染料等が挙げられる。また、分散染料としては、例えば、C. I. Disperse Blackに分類される化合物、C. I. Disperse Blueに分類される化合物、C. I. Disperse Redに分類される化合物、C. I. Disperse Orangeに分類される化合物、C. I. Disperse Yellowに分類される化合物、C. I. Disperse Greenに分類される化合物、C. I. Disperse Violetに分類される化合物、C. I. Disperse Brownに分類される化合物等が挙げられる。日本人が人工毛髪を使用する場合は、黒色や茶色などを呈する分散染料を用いることが想定されるが、これらの色に制限されるものではない。
【0023】
<脱色加工剤>
本実施形態において、脱色加工は、分散染料によって染色された人工毛髪から分散染料を抜くことをいう。人工毛髪における分散染料を下記の加熱工程によって移動させることができればよく、完全に脱色されることが必須になるわけではない。そのため、本実施形態では、脱色加工剤と称しているが、分散染料によって染色された部分の色が薄くなることも脱色加工に含まれる。脱色加工剤は、単に加工剤と称してもよい。
【0024】
本実施形態で用いられる脱色加工剤は、下記一般式(1)及び下記一般式(2)から選ばれる少なくとも一方の化合物を含む。このような化合物を用いることにより、人工毛髪の脱色効果が向上する。
R1OOC-X-COOR2 ・・・(1)
R3COO-(AO)n-Y1 ・・・(2)
【0025】
一般式(1)において、Xは炭素数2~4のアルキレン基又はアルケニレン基であり、R1は炭素数1~4のアルキル基であり、R2は炭素数1~4のアルキル基である。Xで表されるアルキレン基は直鎖状であってもよく分岐鎖状であってもよいが、直鎖状である場合に、より高い脱色効果が発揮され易い。
一般式(2)において、AOは炭素数2~3のアルキレンオキシ基であり、nは1~3の整数であり、R3は炭素数1~4のアルキル基であり、Y1は水素原子又はR4CO基であり、R4は炭素数1~4のアルキル基である。
【0026】
上記一般式(1)で表される化合物は、二塩基酸ジエステルに相当する化学構造を有する。このような化学構造を有する化合物の具体例としては、例えば、コハク酸ジメチル、コハク酸ジエチル、グルタル酸ジメチル、グルタル酸ジエチル、アジピン酸ジメチル、アジピン酸ジエチル、2-メチルグルタル酸ジメチル、2-メチルグルタル酸ジエチル、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル等が挙げられる。上記一般式(1)で表される化合物が、コハク酸ジメチル、グルタル酸ジメチル及びアジピン酸ジメチルから選ばれる少なくとも一種である場合、一層高い脱色効果が発揮される。
【0027】
上記一般式(2)において、AOは炭素数2~3のアルキレンオキシ基であり、nは1~3の整数である。特に、AOがエチレンオキシ基である場合やnが小さい場合に、より高い脱色効果が発揮され易い。
【0028】
上記一般式(2)において、R3は炭素数1~4のアルキル基であり、Y1は水素原子又はR4CO基であり、R4は炭素数1~4のアルキル基である。特に、R3が炭素数1又は2のアルキル基であり、R4が炭素数1又は2のアルキル基である場合に、より高い脱色効果が発揮され易い。R3とR4は互いに同じ基であってもよいし、互いに異なる基であってもよい。
【0029】
上記一般式(2)で表される化合物の具体例としては、例えば、エチレングリコールジアセテート、ジ又はトリエチレングリコールジアセテート、プロピレングリコールジアセテート、ジ又はトリプロピレングリコールジアセテート等が挙げられる。
【0030】
脱色加工剤においては、上記一般式(1)や上記一般式(2)で表される化合物のみからなるものであってもよいし、当該化合物に加えてその他の成分が含まれるものであってもよい。その他の成分としては、例えば、水やその他の添加剤が挙げられる。水やその他の添加剤を含む場合、上記一般式(1)や上記一般式(2)で表される化合物の濃度は、95質量%以上であることが好ましい。
【0031】
<付与工程における脱色加工剤の付与方法>
付与工程における脱色加工剤の付与方法は、適宜選択することができる。例えば、加工剤付与部材を用いて人工毛髪に脱色加工剤を付与してもよいし、脱色加工剤に人工毛髪を浸漬してもよい。また、人工毛髪を束にした状態で脱色加工剤を付与してもよいし、一本に対して付与してもよいし、複数の人工毛髪を保持させた毛髪シートの状態にして付与してもよい。また、線状や糸状などの状態で人工毛髪に脱色加工剤を付与してもよいし、人工毛髪に環状部を形成して増毛用毛髪の状態にしてから脱色加工剤を付与してもよい。
【0032】
一本の人工毛髪に対して付与工程を行ってもよいし、複数の人工毛髪に対して同時に付与工程を行ってもよい。複数の人工毛髪に対して同時に脱色加工剤を付与する場合、生産性を向上させることができる。複数の人工毛髪に対して同時に脱色加工剤を付与する場合、人工毛髪同士に隙間を設けることで、脱色加工剤が狙いの箇所に付与されない事態を低減できる。毛髪シートの状態にすることで、このような隙間を設けやすくなる。
【0033】
<<方式1>>
付与工程について、以下、いくつか例を挙げて説明する。
方式1は、人工毛髪に環状部が形成されていない状態で脱色加工剤を付与することを想定した方式である。方式1では、人工毛髪は線状や糸状の状態で加工剤が付与される。例えば、人工毛髪の一端と他端を任意の治具で固定した状態で加工剤を付与する。このようにすることで、狙いの箇所に加工剤を付与しやすくなる。
【0034】
治具で固定する場合、例えば、シート部材に複数の人工毛髪を備え付ける方法が挙げられる。このようにしたものを、毛髪シート、人工毛髪シートなどとも称する。
【0035】
方式1を説明するための図を
図1に示す。図示する例は、毛髪シート30の状態で脱色加工剤を付与する例である。
図1(A)は、脱色加工剤を付与する前の状態の毛髪シート30を示す図である。図示する毛髪シート30では、複数の人工毛髪10が固定部材33により支持部材31に固定されている。
【0036】
固定部材33としては、適宜選択することができ、例えばテープが挙げられる。この他にも、人工毛髪10と支持部材31を挟んで固定する挟持部材等を用いてもよい。
【0037】
人工毛髪の固定方法としては、適宜選択でき、固定部材33を用いてもよいし、接着剤などを使用してもよい。接着剤を使用する場合、人工毛髪を支持部材から取り外すようにできるようにすることが好ましいが、脱色した後に人工毛髪を切断して支持部材から取り外してもよい。
【0038】
支持部材31としては、適宜選択することができ、例えば、紙、樹脂などが挙げられる。図示する例では、脱色加工剤を付与しやすくするために、支持部材31に開口部32を設けている。開口部32を設けることにより、例えば、一方の側から脱色加工剤を付与した後に、反対側から脱色加工剤を付与するなどの操作を行うことができる。
【0039】
図示するような支持部材31を用いた毛髪シート30に対して付与工程を行う場合、付与工程の後に、そのまま加熱工程を行うことができ、作業効率が向上する。また、図示するような開口部32が設けられた支持部材31を用いた毛髪シート30に対して加熱工程を行う場合、人工毛髪10を加熱する際に、支持部材31が人工毛髪10に対する熱を遮蔽する効果も得られる。この場合、人工毛髪10に対して必要最低限の箇所を加熱することができ、品質が向上する。
【0040】
付与工程では、1つの毛髪シート30に対して脱色加工剤を付与してもよいし、複数の毛髪シート30を重ねて脱色加工剤を付与してもよい。1つの毛髪シートである場合、狙いの箇所に脱色加工剤を付与しやすくなる。複数の毛髪シートを重ねる場合、生産性が向上する。毛髪シートにおける人工毛髪の密度は、適宜選択することができる。隣接する人工毛髪どうしが接触していないことが好ましい。
【0041】
図1(B)は、
図1(A)の毛髪シート30の人工毛髪10に対して脱色加工剤を付与し、加熱工程を行った後の状態を示す図である。図示するように、脱色加工剤が付与されて加熱された部分が脱色されている。
【0042】
図1における符号について補足を説明する。脱色していない状態の人工毛髪を人工毛髪10としている。人工毛髪10は、脱色前の人工毛髪であるともいえる。脱色された後の人工毛髪を人工毛髪12としている。また、人工毛髪12において、符号11は、人工毛髪12の脱色された部分であり、符号13は、人工毛髪12の脱色されていない部分である。
【0043】
本実施形態における付与工程では、人工毛髪の一部に脱色加工剤を付与する。脱色加工剤を付与する箇所は、適宜選択できる。例えば、隙間を設けて人工毛髪10を配列させた状態で、又は、人工毛髪10を束ねた状態で脱色加工剤を付与することが好ましい。この場合、生産性が向上する。
【0044】
隙間を設けて人工毛髪10を配列させた状態は、例えば
図1に示す状態である。隙間を設けて人工毛髪10を配列させた状態としては、例えば人工毛髪を直線状にした状態が挙げられ、人工毛髪を直線状にした状態とあるのは、厳密に直線状である場合に限られず、略直線状である場合を含む。人工毛髪を直線状にした状態とあるのは、例えば
図1に示す例のように、人工毛髪10の両端が固定されている状態が挙げられる。この他にも、人工毛髪10の両端又は一端が引っ張られている状態であってもよい。
【0045】
人工毛髪を直線状にした状態で脱色加工剤を付与することで、狙いの箇所に脱色加工剤を付与しやすくなる。人工毛髪を直線状の状態にするには、例えば、人工毛髪の両端を固定すればよく、また、両端方向へ力を加えて引き伸ばしてもよい。人工毛髪10を束ねた状態は、例えば後述の
図3Bに示す状態が挙げられる。
【0046】
脱色加工剤を付与する箇所、脱色する箇所は、特に制限されるものではなく、適宜選択することができる。例えば、直線状にした人工毛髪10の中央部に脱色加工剤を付与して中部を脱色させる。この場合、脱色加工剤が付与されて脱色された箇所が、人の頭やかつらに用いたときの結び目にしやすくなる。
【0047】
このようにして得られた人工毛髪12を様々な用途で用いることができる。例えば、自毛に結び付けてもよいし(例えば後述
図7、
図11)、かつらのベースに結び付けてもよいし(例えば後述
図12)、中央部に環状部を形成して増毛用毛髪にしてもよい(例えば後述
図5)。
【0048】
本実施形態では、特に制限されるものではないが、加熱工程を行って脱色した後に、人工毛髪12を用いる際、人工毛髪12の中央部が脱色されていることが好ましい。この場合、増毛効果が向上する。一方、人工毛髪10の端部側を脱色した人工毛髪12にした場合、自毛に人工毛髪12を結び付けると、端部側が結び目になり、1本の人工毛髪から1本の増毛になるため、増毛効果が劣る。
【0049】
方式1において、脱色加工剤を人工毛髪に付与する方法は、適宜選択することができる。例えば加工剤付与部材を用いる方法が挙げられる。このように、加工剤付与部材を用いることで、人工毛髪の狙いの箇所に脱色加工剤を付与しやすくなる。また、脱色加工剤が人工毛髪に広がり過ぎると、脱色される部分が広がり、狙いの品質にならない場合があるが、このような加工剤付与部材を用いることで、狙いの箇所に脱色加工剤を付与しやすくなる。
【0050】
上記を考慮し、付与工程は、加工剤付与部材に脱色加工剤を保持させ、加工剤付与部材を人工毛髪の一部に接触させることが好ましい。これにより、狙いの箇所に脱色加工剤を付与しやすくなり、また用途に応じて脱色箇所を適宜選択できる。接触箇所としては、上述したように、例えば、直線状にした人工毛髪10の中央部などが挙げられる。
【0051】
加工剤付与部材としては、脱色加工剤を保持して脱色加工剤を付与することができればよく、適宜選択することができる。例えば、紐状の部材、テープ状の部材、ブラシ状の部材(例えば、はけ)、噴射部材、滴下部材等が挙げられる。これらの中でも、安定して脱色加工剤を付与することができるため、紐状の部材、テープ状の部材が好ましい。
【0052】
紐状の部材(紐状部材とも称する)としては、例えば、糸、布、紙、セルロース系繊維等によるものが挙げられる。例えば、細く切った紙によりをかけて紐状にした、こより(紙紐などと称してもよい)を紐状部材として用いることができる。セルロース系繊維により紐状部材を作製してもよい。
【0053】
テープ状の部材としては、幅がせまく長い帯状の状態の部材が挙げられ、例えば、紙により作製してもよいし、セルロース系繊維により作製してもよい。テープ状の部材は、例えば、ろ紙やペーパータオル等を裁断して作製することができる。
【0054】
加工剤付与部材が紐状部材やテープ状の部材である場合、毛髪シートや束ねた人工毛髪などに対して脱色加工剤を付与する際に、複数の人工毛髪に同時に脱色加工剤を付与できるとともに、複数の人工毛髪に対して同じ位置に脱色加工剤を付与することができる。このため、生産性と品質を向上させることができる。
【0055】
加工剤付与部材は、後述の被転写材を兼ねてもよく、この場合、加工剤付与部材を人工毛髪に接触させたまま脱色工程を行ってもよい。
【0056】
紐状の加工剤付与部材を用いた付与工程の一例について、
図2を用いて説明する。ここでは、紐状の加工剤付与部材として、こよりを用い、毛髪シートに加工剤を付与した場合の例について説明する。なお、テープ状の部材も同様に行うことができる。
【0057】
(A)は、毛髪シートにおける人工毛髪10の要部模式図である。(B)、(C)に示すように、脱色加工剤50を保持させたこより36を人工毛髪10に接触させる。ここでは、例として、人工毛髪10の中央部にこより36を接触させる。(D)に示すように、脱色加工剤50が人工毛髪10に付与される。この後、加熱工程を経ることで、(E)に示すように、人工毛髪10の中央部が脱色される。
【0058】
こより36に脱色加工剤を保持させる方法としては、適宜選択することができる。例えば、(C)に示すように、脱色加工剤50を貯留した貯留部51にこより36を浸漬させる方法が挙げられる。このように、こより36を脱色加工剤50に浸漬する場合、こより36の材質や脱色加工剤50の種類にもよるが、こより36における余分な加工剤50を吸い取っておくことが好ましい。こより36が保持する脱色加工剤50が多すぎる場合、人工毛髪10に脱色加工剤50が多く付与され、脱色部分が広がってしまう場合がある。
【0059】
脱色加工剤を付与する量としては、特に制限されるものではなく、適宜選択することができる。脱色加工剤を付与する量を調整することで、脱色する範囲を調整できる。
また、脱色加工剤の付与の回数は、特に制限されるものではなく、1回であってもよいし、複数回であってもよい。
【0060】
図3A(A)、(B)は、方式1における補足を説明するための断面概略図もしくは側面概略図である。人工毛髪10の中央部に脱色加工剤を付与する場合、例えば、人工毛髪10を支持台34で支持し、付与したい箇所の高さを高くするようにしてもよい。このようにすることで、脱色加工剤を狙いの箇所に付与しやすくなる。
【0061】
図3Bは、方式1における補足を説明するための概略図である。
図1等に示す例は、毛髪シートに対して脱色加工剤を付与する例としているが、本実施形態はこれに限られない。例えば
図3B(A)、(B)に示すように、人工毛髪10を束の状態にして脱色加工剤を付与してもよい。この場合、人工毛髪10を束の状態のまま加熱工程を行ってもよいし、束の状態を解除して加熱工程を行ってもよい。
【0062】
また、
図3B(C)、(D)に示すように、人工毛髪10を綛状(ループ状などと称してもよい)に束ねて脱色加工剤を付与してもよい。この場合、1本の人工毛髪10をループ状にしてもよいし、複数本の人工毛髪10をループ状にしてもよい。また、
図3B(C)に示す状態のまま加熱工程を行ってもよいし、人工毛髪10を切断等した後、加熱工程を行ってもよい。作業性の観点等から、ループ状に束ねて付与工程を行う場合、
図3B(C)に示す状態のまま加熱工程を行って脱色した後、用途に応じて人工毛髪12をカットすることが好ましい。
【0063】
方式1における脱色加工剤の付与について再度説明する。方式1において、人工毛髪10に対して脱色加工剤を付与する際、人工毛髪10を有する毛髪シートの状態(
図1等)であってもよく、
図1に示す例は、隙間を設けて人工毛髪10を配列させた状態であるともいえる。また、方式1において、人工毛髪10に対して脱色加工剤を付与する際、人工毛髪10を一方向に束ねた状態(
図3B(A))であってもよいし、人工毛髪10をループ状に束ねた状態(
図3B(C))であってもよい。人工毛髪10を束ねた状態で付与工程を行う場合、人工毛髪10同士の間に隙間があってもよい。
【0064】
上記のことから、本実施形態における付与工程は、隙間を設けて前記人工毛髪を配列させた状態で、又は、前記人工毛髪を束ねた状態で前記脱色加工剤を付与することが好ましい。この場合、生産性が向上する。
【0065】
<<方式2>>
次に、付与工程における方式1以外の方式である方式2について説明する。
方式2は、人工毛髪を加工剤に浸漬させる方式である。方式2は、例えば、人工毛髪に環状部が形成されている状態で付与工程を行う。
【0066】
方式2における付与工程は、人工毛髪を脱色加工剤に浸漬させる。浸漬させる方法としては、特に制限されず、例えば脱色加工剤を容器等の貯留部に貯留させ、貯留部に人工毛髪を浸漬する。浸漬させる時間としては、特に制限されず、適宜選択することができる。浸漬させる方式2の場合、人工毛髪における線状や糸状でない部分に対して脱色加工剤を付与しやすくなる。例えば、人工毛髪に環状部等が形成されており、環状部等を脱色したい場合に、方式1に比べて脱色加工剤を付与しやすく、脱色ムラをより低減することができる。
【0067】
本実施形態において、環状部は、人工毛髪の一部によって形成された環状の部分であり、大きさが可変の部分である。本実施形態では、環状部が形成された人工毛髪を増毛用毛髪と称する。
【0068】
環状部の一例について
図4及び
図5を用いて説明する。
図4は、脱色されていない増毛用毛髪14の一例を説明するための図である。
図4(A)は、1つの人工毛髪で増毛用毛髪を作製した場合の例であり、
図4(B)は、2本の人工毛髪で増毛用毛髪を作製した場合の例である。
図5は、脱色された増毛用毛髪16の一例を説明するための図である。
図5(A)は、1つの人工毛髪で増毛用毛髪を作製した場合の例であり、
図5(B)は、2本の人工毛髪で増毛用毛髪を作製した場合の例である。
【0069】
本実施形態において、増毛用毛髪は、例えば、人工毛髪の中央部に環状部18を形成することにより得られる。これにより、1つの人工毛髪から2つの直線部19が形成される。直線部19は、増毛用毛髪を人の頭髪に使用したときに、使用者の毛髪として視認される部分になる。環状部18は大きさが可変となっており、例えば直線部19を引っ張ると環の大きさが小さくなる。このような増毛用毛髪を人の頭等に用いることで、増毛効果が得られる。
【0070】
図示するように、1つの増毛用毛髪は、1つの人工毛髪により作製されていてもよいし、複数の人工毛髪により作製されていてもよい。増毛用毛髪の作製の観点や増毛用毛髪の使用時の観点等から、1つの増毛用毛髪は、2つの人工毛髪により作製されていることが好ましい。
【0071】
図中、脱色されていない増毛用毛髪を符号14で表し、脱色された増毛用毛髪を符号16で表している。また、脱色された増毛用毛髪16における脱色された部分を符号15で表している。なお、
図5では、説明のために脱色された部分15を破線で表示している。
【0072】
図6及び
図7に環状部を有する増毛用毛髪を使用した場合の一例を模式的に説明するための図を示す。
図6は、脱色されていない増毛用毛髪14を用いた場合の例を示す図であり、
図7は、脱色された増毛用毛髪16を用いた場合の例を示す図である。
【0073】
図6(A)に示すように、例えば、環状部18を自毛40に通し、直線部19を矢印の方向に引っ張る。これにより、(B)に示すように、環状部18が閉じ、増毛用毛髪14が自毛40に結ばれる。このとき、増毛用毛髪の結び目21が形成される。
図7についても同様である。
【0074】
図6に示す例では、脱色されていない増毛用毛髪14を用いているため、結び目21が例えば黒いつぶ(黒いかたまり)として視認される。一方、
図7に示す例では、環状部18が脱色された増毛用毛髪16を用いているため、脱色された部分15が結び目21となり、結び目21が視認されにくくなる。
【0075】
図8は、方式2における付与工程の一例を説明するための図である。(A)では、環状部18を有する増毛用毛髪14が図示されている。(B)に示すように、増毛用毛髪14の環状部18を脱色加工剤50に浸漬させる。(C)では、加熱工程を経た後の増毛用毛髪16が図示されており、環状部18が脱色されている。このようにすることで、環状部18に対して脱色加工剤50をムラなく付与することができる。
【0076】
脱色加工剤50を浸漬する際、例えば、増毛用毛髪14の直線部19の一端を治具等で保持しつつ、増毛用毛髪14を脱色加工剤に浸漬してもよい。この他にも、例えば、棒状の部材を環状部18に通し、棒状の部材ごと脱色加工剤に浸漬してもよい。この場合、生産性を向上させることができる。また、図示する例のように、複数の増毛用毛髪を同時に脱色加工剤に浸漬することで、作業効率を向上させることができる。
【0077】
<加熱工程>
加熱工程は、付与工程の後又は付与工程と同時に、人工毛髪に熱を加えて前記人工毛髪の一部を脱色する工程である。加熱工程は、人工毛髪に環状部が形成された増毛用毛髪を加熱してもよい。以下の説明では、主に人工毛髪を記載して説明しているが、説明の内容は増毛用毛髪についても同様に適用される。
【0078】
脱色加工剤が付与された人工毛髪を加熱することで、脱色加工剤が付与された部分の分散染料が人工毛髪から離れ、人工毛髪の一部が脱色される。加熱工程を脱色工程などと称してもよい。
【0079】
付与工程の後又は付与工程と同時に加熱するとあるのは、加熱工程が付与工程の前に行うものではないことを意味する。特に制限されないが、例えば、上記の加工剤付与部材により脱色加工剤を人工毛髪に付与し、加工剤付与部材を人工毛髪から離した後に加熱する場合、付与工程の後に加熱工程を行うといえる。また例えば、加工剤付与部材に脱色加工剤を付与し、人工毛髪に加工剤付与部材を接触させた直後に、加工剤付与部材とともに人工毛髪を加熱する場合、付与工程と同時に加熱工程を行うといえる。
【0080】
加熱の方法としては、特に制限されるものではなく、適宜選択することができる。例えば、アイロン、ホットプレート、スチーミング、乾熱処理等が挙げられる。
【0081】
加熱工程における加熱温度は、適宜選択することができ、分散染料の移動が生じる温度であればよい。加熱温度としては、例えば、150℃以上190℃以下であることが好ましく、160℃以上180℃以下であることがより好ましい。加熱温度が高すぎると人工毛髪が傷んでしまう場合があるため、上記の範囲である場合、人工毛髪が傷むことを抑制でき、品質を向上させることができる。加熱温度が低すぎると脱色が十分に行えない、もしくは脱色に時間がかかりすぎてしまう場合があるため、上記の範囲である場合、生産性を損なわずに脱色を行うことができる。
【0082】
加熱工程における加熱時間は、適宜選択することができ、特に制限されるものではない。例えば、加熱温度が150℃以上190℃以下である場合、1分以上10分以下とすることが挙げられる。長時間の加熱を行うと、人工毛髪が傷んでしまう場合があり、加熱時間が短すぎると、脱色が十分に行えない場合がある。
【0083】
加熱工程における加熱は、1回であってもよいし、複数回であってもよい。
【0084】
本実施形態における加熱工程は、人工毛髪を加圧しながら熱を加えることが好ましい。加圧しながら熱を加えることで、加熱ムラを低減でき、狙いの箇所を均一に脱色しやすくなる。
【0085】
加圧する際の圧力としては、特に制限されるものではなく、例えば、0.1kg/cm2以上1kg/cm2以下が挙げられる。加圧する方法としては、特に制限されるものではなく、例えば公知の熱プレス機等が挙げられる。
【0086】
本実施形態における加熱工程は、人工毛髪に被転写材を接触させながら熱を加えることが好ましい。被転写材を用いる場合、人工毛髪に対して加熱や加圧を行いやすくなり、品質や作業効率が向上する。また、人工毛髪の分散染料を被転写材に移動させることができるため、脱色を行いやすくなることに加え、分散染料で装置が汚染されることを防止できる。また、加熱工程後に人工毛髪に残存する分散染料の量をより低減することができる。
【0087】
被転写材としては、適宜選択することができ、例えば紙、布などが挙げられる。この他にも、樹脂等であってもよい。被転写材は、1つであってもよいし、複数であってもよく、複数を重ねて使用してもよい。
【0088】
また、上記の加工剤付与部材が被転写材を兼ねてもよい。この場合、加工剤付与部材を人工毛髪に接触させて加工剤を付与した後、加工剤付与部材を取り除かず、加工剤付与部材を人工毛髪に接触させたまま加熱してもよい。この場合、被転写材を加工剤付与部材とは別に用意する必要がなく、加工剤付与部材を接触させたまま加熱工程を行えるため、生産性が向上する。
【0089】
図9は、被転写材を用いた場合の例を模式的に説明するための図である。
図9(A)は、人工毛髪10に被転写材37を接触させて加熱及び加圧を行うことを模式的に示した図である。図中の矢印は、加熱と加圧を模式的に示している。加熱及び加圧の方向は、特に制限されるものではなく、一方の方向からであってもよいし、複数の方向、例えば一の方向及び一の方向と反対側の方向からであってもよい。また、加熱及び加圧する箇所は、一箇所であってもよいし、複数個所であってもよい。
【0090】
図9(B)は、被転写材37に分散染料52が移動したことを模式的に示した図である。矢印で模式的に示しているように、分散染料52が人工毛髪10から被転写材37に移動する。これにより、人工毛髪12における脱色された部分11(破線部分)が形成される。
【0091】
本実施形態における加熱工程は、加熱の際に遮蔽部材を用いてもよい。
図10は、遮蔽部材を用いた場合の例を模式的に説明するための図であり、毛髪シート30を用いて加熱する場合の例である。
図10(A)に示すように、開口部39を有する遮蔽部材38を毛髪シート30の上に載せる。図中の黒矢印は、遮蔽部材38を毛髪シート30に載せることを模式的に示している。
【0092】
図10(B)は、遮蔽部材38を毛髪シート30に載せた後の断面を模式的に示す図である。このような遮蔽部材38を用いることで、人工毛髪10を加熱する部分を限定することができ、脱色加工剤が付与されていない部分が損傷することを抑制することができる。このため、品質を向上させることができる。
【0093】
図10に示す例では、脱色加工剤の付与についての説明を省略している。例えば、加工剤付与部材により脱色加工剤を人工毛髪10に付与することができる。また、加熱の際には、加工剤付与部材とともに人工毛髪10を加熱してもよいし、加工剤付与部材を取り除き、加工剤付与部材を加熱しないようにしてもよい。
【0094】
次に、加熱工程の他の例について説明する。
本例における加熱工程は、取手と、棒形状の加熱部とを有する治具により加熱を行う。
従来の加熱装置を用いる場合、面状の加熱部によりプレス加熱を行うため、加熱が不要な個所に対して加熱することとなってしまう。従来の加熱装置を用いる場合、加熱が不要な個所に対して加熱しないようにする場合、例えば
図10に示すような台紙38を用いる必要があり、手間が生じていた。
一方、本例では、人工毛髪を局所的に加熱することができるため、加熱が不要な個所に対して加熱しないこととなり、不要な加熱によって品質が劣化することを防止できる。また本例では、例えば
図10に示すような台紙38を用いる必要がなく、従来のプレス加熱よりも加熱の手間を省き、生産性を向上させることができる。また本例では、上記の治具を用いることで局所的に加熱を行うことができるため、従来のプレス加熱よりも省電力化や加熱時間の短縮化が期待できる。
【0095】
図11は、本例の加熱工程で用いる治具の一例を説明するための図である。(A)は、一方から見た場合の側面概略図であり、(B)は、下側から見た場合の平面概略図であり、(C)は、他方から見た場合の側面概略図である。
【0096】
本例の治具60は、取手61、加熱部62、コード63を有する。
コード63は、図示しない電源に接続され、加熱部62に電力を供給する。
加熱部62は、電源からの電力によって温度が高くなり、人工毛髪10を加熱する部分である。加熱部62は例えば金属である。
取手61は、例えば使用者が手で持つ部分である。例えば使用者が取手61を手に持ち、加熱部62を人工毛髪10又は加工剤付与部材に接触させて加熱する。治具60が取手61を有することで、使用者が治具60を扱いやすい、圧力をかけやすいなどの利点がある。
【0097】
(B)に示す平面概略図は、治具50を下側から見た場合の図であり、下側とあるのは、加熱の際に人工毛髪10と対向する側である。図中、接触部62aが図示されている。接触部62aは、被転写材などの他の部材に接触して人工毛髪10を加熱してもよいし、人工毛髪10に直接接触して人工毛髪10を加熱してもよい。接触部62aは、被転写材の上から加熱することが好ましく、この場合、上記で説明した人工毛髪に被転写材を接触させながら加熱する場合の効果が得られる。
【0098】
(C)に示すように、本例における加熱部62は、一の側面から見たときに接触部62aに向かって先細った形状を有している。このように加熱部62が接触部62aに向かって先細った形状を有する場合、人工毛髪10をより局所的に加熱する際に、加熱部62を作製しやすいといった利点があるが、このような形状に制限されるものではない。
【0099】
図示するように、加熱部62は棒形状であり、ここでいう棒形状は、細長い形状を意味し、断面の形状は特に制限はない。加熱部62の棒形状は、人工毛髪10の配列方向に軸を有する形状であるなどと表現してもよい。
【0100】
図11(B)に示すように、人工毛髪10側から見た場合の接触部62aの平面形状は、長手と短手を有する矩形になっている。長手方向は紙面の左右方向であり、短手方向は紙面の上下方向である。加熱部62が棒形状であることにより、接触部62aの平面形状は長手と短手を有する形状となる。
【0101】
図12は、本例の加熱工程を説明するための図である。
(A)は、治具60と人工毛髪10の位置関係の一例と、治具60を移動させる方向を模式的に示した図である。例えば図中の白矢印の方向に治具60を移動させる。
(B)は、(A)のように治具60を移動させた後、加熱部62の接触部62aが加工剤付与部材に接触した状態を模式的に示した図である。(B)のように加熱部62を接触させることにより、人工毛髪10を加熱することができる。
(C)は、(B)の状態を他の方向から見た場合の断面拡大図である。(C)を側面拡大図としてもよい。
【0102】
図13は、
図12の斜視概略図である。
図13(A)、(B)は、
図12(A)、(B)にそれぞれ対応する。ただし、人工毛髪10の本数などは一致させていない。また、
図13ではペーパー64の図示を省略している。
【0103】
図12及び
図13に示す例では、加工剤付与部材として、ろ紙65を用いている。
図12(A)及び
図13(A)に示すように、脱色加工剤をろ紙65に含ませ、ろ紙65を人工毛髪10に接触させる。次いで、
図12(B)及び
図13(B)に示すように、治具60を移動させて、加熱部62の接触部62aをろ紙65に接触させ、圧力を加えながら加熱を行う。特に制限されないが、例えば、使用者が取手61を手に持ちながら下側に押さえつけながら数秒~数分、治具60の位置を固定する。これにより、人工毛髪10を加熱することができ、人工毛髪10における脱色加工剤が付与され、加熱された箇所を脱色することができる。
【0104】
本例では、ペーパー64を人工毛髪10の下に設けている。ペーパー64は、染料による汚染を防止する汚染防止部材として用いることができる。汚染防止部材としては、例えば、シリコーン紙等を用いることができる。汚染防止部材を用いることで、装置の汚染を防ぐことができる。
図12に示すように、ペーパー64(汚染防止部材)の上に人工毛髪10を配置し、人工毛髪10の上にろ紙65を配置し、ろ紙65(加工剤付与部材)側から治具60により加熱することが好ましい。
【0105】
本例では、脱色加工剤を含むろ紙65を人工毛髪10に接触させたまま加熱工程を行っているため、人工毛髪10に対する脱色加工剤の付与と加熱が同時に行われているといえる。本発明では、人工毛髪10の加熱を脱色加工剤の付与の前に行わなければよい。また、脱色加工剤を含むろ紙65を人工毛髪10に接触させて脱色加工剤を付与し、ろ紙65を取り除いた後に加熱工程を行ってもよい。
【0106】
本例では、隙間を設けて人工毛髪10を配列させた状態で脱色加工剤を付与し、かつ、加熱を行っている。隙間を設けて人工毛髪10を配列させた状態とあるのは、例えば、毛髪シート30(例えば
図10(A))のように人工毛髪10を配列させた状態が挙げられる。このようにすることで、複数の人工毛髪10をまとめて脱色することができ、効率的である。また、本例では、加熱部62を棒形状とすることで人工毛髪10に対して必要な範囲だけを加熱することができるため、複数の人工毛髪10を同時に、かつ、局所的に加熱を行うことができ、効率が良いことに加え、品質の劣化を防止できる。
【0107】
本例では、人工毛髪10に対して局所的に加熱を行うことができ、加熱が不要な個所を加熱しないため、省電力化が期待できる。加熱の温度や圧力としては、上記で説明した範囲とすることができる。加熱温度は、使用する毛髪などを考慮して適宜設定すればよい。
【0108】
本例では、人工毛髪10の配列方向と、加熱部62の長手方向(軸方向としてもよい)とを同じにしている。このようにすることで、複数の人工毛髪10を同時に、かつ、局所的に加熱を行うことができ、生産性が向上する。
【0109】
図11(B)に示す接触部62aの平面形状としては、例えば人工毛髪10の数、脱色したい範囲などを考慮して適宜選択することができる。例えば、2.5mm×270mmの形状が挙げられる。接触部62aの平面形状としては、適宜選択することが可能であり、特に制限されないが、例えば、短手の長さとしては1mm以上30mm以上が好ましく、長手の長さとしては10mm以上400mm以上が好ましい。接触部62aの短手の長さは、人工毛髪10の脱色する幅に相当するため、脱色する範囲を考慮して適宜定めればよい。接触部62aの長手の長さは、人工毛髪10を並べる幅に相当するため、一度に何本の人工毛髪10を加工するかを考慮して適宜定めればよい。
【0110】
接触部62aの短手の長さが上記の範囲である場合、人工毛髪10に対して必要な範囲だけを加熱しやすくなり、不要な個所への加熱を抑えることができる。また、脱色される範囲が小さくなり過ぎることを抑え、かつ、脱色される範囲が大きくなり過ぎることを抑えることができる。長手の長さが上記の範囲である場合、数多くの人工毛髪10を同時に加熱することができるとともに、治具60が大きくなり過ぎず、操作性に優れる。また、短手及び長手の長さが上記の下限値以上であることにより、治具60の作製が複雑になることを抑えることができる。
【0111】
治具60を用いる加熱は、図示する例のような隙間を設けて人工毛髪10を配列させた状態の場合に限られず、人工毛髪10を束ねた状態の場合にも適用できる。人工毛髪10を束ねた状態としては、例えば、
図3Bに示す状態が挙げられる。この場合、加熱部62の軸方向(長手方向としてもよい)と人工毛髪10の束ねた方向が同じであることが好ましい。
【0112】
次に、上記の治具60を用いた場合について、別の図を用いて更に説明する。
図14は、本例を説明するための断面拡大概略図であり、
図12(C)と同様の図である。
図12(C)では、加工剤付与部材である、ろ紙65の幅(Y方向の長さ)と、接触部62aの幅を略同じにしているが、本実施形態はこれに限られるものではなく、適宜変更できる。
【0113】
図14に示すように、ろ紙65の幅は、接触部62aの幅よりも大きくてもよい。
図14(A)は、接触部62aがろ紙65に接触したときの断面概略図であり、ろ紙65の幅(Y方向の長さ)が接触部62aの幅よりも大きくなっている。
図14(B)は、治具60による加熱が進んだときの状態を模式的に示した図である。図示するように、人工毛髪10では、接触部62aにより加熱される部分、換言すると、例えば接触部62aに対向する部分のみが脱色される。このため、脱色したい幅に合わせた加工剤付与部材を用意する必要がなく、非常に簡便に加熱を行うことができる。そのため、
図14(C)の斜視図に示すように、大判の加工剤付与部材65であっても、また広範囲に脱色加工剤を付与した場合であっても、狙いの箇所のみを脱色することができる。
【0114】
本例の効果について更に説明する。
上記の治具60を用いずに、従来の加熱装置を用いる場合、加熱する部分が幅の広いアイロンやプレス加熱装置などが用いられる。この場合、脱色したい幅に合わせた加工剤付与部材を用意する必要があり、手間が生じる。例えば、加工剤付与部材が紙である場合には、裁断したり、こよりを作成したりして狙いの箇所に脱色加工剤を付与する。このため、人工毛髪10の狙いの箇所のみを脱色させるためには、部材の準備や加熱方法の工夫が必要になってしまい、品質と生産性をともに高めることが難しい。
【0115】
一方、本例のように治具60を用いる場合、接触部62aに対応する人工毛髪10の部分のみが脱色されるため、狙いの箇所のみに脱色加工剤を付与する必要がなく、脱色したい幅に合わせた加工剤付与部材を用意する必要がなくなる。また本例によれば、脱色加工剤を付与した人工毛髪10の部分に、治具60の接触部62aの位置を合わせるといった手間も不要になり、作業が簡略化される。また、人工毛髪10ごとに脱色加工剤が付与される範囲にばらつきが生じた場合にも、接触部62aに対応する人工毛髪10の部分のみが脱色されるため、人工毛髪10ごとに品質のばらつき(脱色される範囲のばらつき)が生じることを抑制できる。これらのことから、本例によれば、品質と生産性をともに高めることができる。
【0116】
(増毛用毛髪の作製方法)
本発明の増毛用毛髪の作製方法について説明する。上記で既に説明した事項は、説明を省略することがある。
【0117】
本発明の増毛用毛髪の作製方法によれば、環状部が脱色された増毛用毛髪を作製することができ、人の頭に使用したときに結び目が目立たない増毛用毛髪を作製することができる。
【0118】
上記
図4、
図5の例で説明したように、増毛用毛髪は、環状部が形成された人工毛髪を増毛用毛髪と称する。本発明の増毛用毛髪の作製方法では、環状部をどの段階で形成するかによって実施形態を分けて規定できる。
【0119】
本発明の増毛用毛髪の作製方法の一実施形態は、分散染料によって染色された人工毛髪の一部に脱色加工剤を付与する付与工程と、前記付与工程の後又は前記付与工程と同時に、前記人工毛髪に熱を加えて前記人工毛髪の一部を脱色する加熱工程と、前記加熱工程の後、前記人工毛髪における脱色された部分を環状にし、大きさが可変の環状部を形成する第1の環状部形成工程と、を有し、前記脱色加工剤は、上記一般式(1)及び上記一般式(2)から選ばれる少なくとも一方の化合物を含むことを特徴とする。
【0120】
また、本発明の増毛用毛髪の作製方法の他の実施形態は、分散染料によって染色された人工毛髪の一部分を環状にし、大きさが可変の環状部を形成する第2の環状部形成工程と、前記第2の環状部形成工程の後、前記環状部に脱色加工剤を付与する付与工程と、前記付与工程の後又は前記付与工程と同時に、前記人工毛髪に熱を加えて前記環状部を脱色する加熱工程と、を有し、前記脱色加工剤は、上記一般式(1)及び上記一般式(2)から選ばれる少なくとも一方の化合物を含むことを特徴とする。
【0121】
<環状部形成工程>
第1の環状部形成工程は、加熱工程を経た後の人工毛髪に対して環状部を形成する。第2の環状部形成工程は、付与工程を行う前の人工毛髪に対して環状部を形成する。環状部を形成する方法としては、第1の環状部形成工程及び第2の環状部形成工程のどちらにおいても、共通して公知の方法を用いることができる。
【0122】
例えば上記の
図4(A)及び
図5(A)に示すように、1つの人工毛髪から1つの増毛用毛髪を作製してもよい。上記の
図4(B)及び
図5(B)に示すように、2つの人工毛髪から1つの増毛用毛髪を作製してもよい。
【0123】
上記の方式1では、
図1等に示すように、環状部18を形成する前に付与工程と加熱工程を行っている。このため、第1の環状部形成工程は、方式1の場合に行われることが想定される。第1の環状部形成工程で環状部を形成する場合、脱色した後に環状部を形成するため、脱色ムラをより低減でき、品質を向上させることができる。
【0124】
上記の方式2では、
図8等に示すように、環状部18を形成した後に付与工程と加熱工程を行っている。このため、第2の環状部形成工程は、方式2の場合に行われることが想定される。第2の環状部形成工程で環状部を形成する場合、環状部を形成した後に脱色するため、作製が容易という利点がある。
【0125】
第1の環状部形成工程及び第2の環状部形成工程のどちらにおいても、環状部18の全てが脱色されている必要はない。環状部18の一部が脱色されていれば、結び目が目立たなくなる効果が得られる。増毛用毛髪16を人の頭等に使用する前の環状部18の大きさ、人毛40等の太さなどを考慮して脱色される部分を調整することが好ましい。
【0126】
環状部を形成する方法としては、特に制限されるものではなく、公知の方法を用いることができる。例えば、特開2023-23892号公報等に開示される方法等が挙げられる。
【0127】
(増毛方法)
本発明の増毛方法について説明する。本発明の増毛方法は、本発明の人工毛髪の脱色方法により脱色された人工毛髪、又は、本発明の増毛用毛髪の作製方法により作製された増毛用毛髪を用いることを特徴とする。上記で既に説明した事項は、説明を省略することがある。
【0128】
本発明の増毛方法では、人工毛髪の脱色された部分を結び目にすることで、結び目が目立たなくなる。また、本発明の増毛方法では、増毛用毛髪を用いた場合においても、増毛用毛髪の脱色された部分を結び目にすることで、結び目が目立たなくなる。
【0129】
本発明の増毛方法の一実施形態は、本発明の人工毛髪の脱色方法により脱色された人工毛髪を用いた増毛方法であって、人間の頭部から生えている1本又は複数本の自毛に前記人工毛髪を結び付ける第1の結び付け工程を有し、前記第1の結び付け工程は、前記人工毛髪の脱色された部分が結び目となるように結び付けることを特徴とする。
【0130】
図15は、第1の結び付け工程の一例を説明するための図である。この図に示す例は、環状部を有していない人工毛髪12を用いた場合の例である。(A)に示すように、本例の増毛方法で用いる人工毛髪12は、中央部分が脱色されており、脱色された部分11と、脱色されていない部分13からなる。
【0131】
本例ではまず(A)に示すように、人工毛髪12を2つ折りにし、自毛40に脱色された部分11をからませる。次いで(B)に示すように、上記(A)により脱色された部分11に輪っかの部分が形成されるため、人工毛髪12の端部を輪っかの部分に通す。この操作を矢印で模式的に示している。
【0132】
次いで(C)に示すように、人工毛髪12の端部を輪っかに通した後、矢印のように人工毛髪12の端部側を引っ張る。これにより、(D)に示すように、自毛40に人工毛髪12が結び付けられる。この結果、脱色された部分11により結び目20が形成される。
図15に示す例によれば、複雑な操作をすることなく、第1の結び付け工程を行うことができ、脱色された部分11が結び目20になる。このため、結び目が目立たなくなり、自然な見た目で増毛することができる。
【0133】
また、本発明の増毛方法の他の実施形態は、本発明の増毛用毛髪の作製方法により作製された増毛用毛髪を用いた増毛方法であって、前記環状部を人間の頭部から生えている1本又は複数本の自毛に通し、前記環状部を閉じる第1の閉環工程を有することを特徴とする。
【0134】
上記の
図7は、第1の閉環工程の一例を説明した図である。上記で説明したように、環状部18を自毛40に通し、直線部19を矢印の方向に引っ張る(A)。これにより、環状部18が閉じ、増毛用毛髪14が自毛40に結ばれる(B)。本例では、環状部18が脱色された増毛用毛髪16を用いているため、脱色された部分15が結び目21となり、結び目21が視認されにくくなる。
【0135】
図7に示す例の場合、すなわち、環状部18を有する増毛用毛髪14を用いた増毛方法の場合、
図15に示す例に比べて容易に増毛を行えるという利点がある。
図7に示す例の場合、環状部18を自毛40に通した後、直線部19を引っ張ればよいので、容易に自毛40に結び付けることができる。
【0136】
(かつらの作製方法)
本発明のかつらの作製方法について説明する。本発明のかつらの作製方法は、本発明の人工毛髪の脱色方法により脱色された人工毛髪、又は、本発明の増毛用毛髪の作製方法により作製された増毛用毛髪を用いることを特徴とする。上記で既に説明した事項は、説明を省略することがある。
【0137】
本発明のかつらの作製方法では、かつらのベースに人工毛髪を結び付ける際、人工毛髪の脱色された部分を結び目にすることで、結び目が目立たなくなる。また、本発明のかつらの作製方法では、増毛用毛髪を用いた場合においても、かつらのベースに増毛用毛髪を結び付ける際、増毛用毛髪の脱色された部分を結び目にすることで、結び目が目立たなくなる。
【0138】
本発明のかつらの作製方法の一実施形態は、本発明の人工毛髪の脱色方法により脱色された人工毛髪を用いたかつらの作製方法であって、前記人工毛髪をかつらの紐状又は糸状のベースに結び付ける第2の結び付け工程を含み、前記第2の結び付け工程は、前記人工毛髪の脱色された部分が結び目になるように結び付けることを特徴とする。
【0139】
図16は、本発明の作製方法によって作製されたかつらの例を説明するための要部拡大図である。図示する例では、説明のために、1本の人工毛髪をかつらのベースに結び付けている。
図17は、複数本の人工毛髪をかつらのベースに結びつけた例を説明するための図である。
図16及び
図17において、(A)は本発明に含まれる例であり、(B)は本発明に含まれない例である。
【0140】
図16(A)は、第2の結び付け工程を行った後の結び目20を示す図である。本発明で作製された人工毛髪12を用いてかつらを作製する場合、かつらのベース42には、脱色された部分が結び目20となって人工毛髪12が結び付けられる。このため、結び目20が目立たなくなる。これにより、
図17(A)に示すように、本発明で作製されるかつらは、結び目20目立たなくなり、自然な見た目にすることができる。
【0141】
一方、
図16(B)に示す例は、脱色されていない人工毛髪10を用いてかつらを作製した場合の例である。この場合、かつらのベース42に結び付けられた人工毛髪10の結び目20は脱色されていない。このため、結び目20が黒いつぶ(黒いかたまり)として視認される。また、
図17(B)にも示すように、本発明に含まれないかつらは、結び目20が黒いつぶ(黒いかたまり)として視認されるため、不自然な見た目になってしまう。
【実施例0142】
以下、実施例を示して本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0143】
(実施例1~3、比較例1~3:人工毛髪の脱色(1))
<付与工程>
図1(A)に示す毛髪シート30の人工毛髪10に対して、下記表1に示す脱色加工剤を加工剤付与部材により付与した。脱色加工剤を付与した箇所は、伸ばした状態の人工毛髪10の中央部とした。脱色加工剤の付与は、
図2に示すこより36を用い、図示するように、こより36に脱色加工剤を保持させた後、こより36を人工毛髪10に接触させて脱色加工剤を付与した。
毛髪シート30における人工毛髪10は、ポリエステル製であり、一般的な分散染料によって黒色に染色されている。
【0144】
表1中、二塩基酸ジエステル混合物は、一般式(1)で表される化合物の混合物に相当する。
二塩基酸ジエステル混合物は、グルタル酸ジメチル63質量%、コハク酸ジメチル24質量%及びアジピン酸ジメチル13質量%の混合物である。
なお、グルタル酸ジメチルは、Xがトリメチレン基であり、コハク酸ジメチルは、Xがエチレン基であり、アジピン酸ジメチルは、Xがテトラメチレン基であり、いずれもR1及びR2がメチル基である化合物である。
【0145】
<加熱工程>
付与工程で用いたこより36を人工毛髪10に接触させたまま熱プレス機により加熱した。こより36は、例えば
図9に示す被転写材37として機能する。加熱の際には、
図10に示す遮蔽部材38を用いた。遮蔽部材38は、市販の薄いダンボール紙を用いた。加熱温度は180℃であり、加熱時間は4分であり、圧力は0.5kg/cm
2である。180℃、4分の加熱を2回行った。
【0146】
加熱工程を行った後の人工毛髪について、下記の評価基準で目視にて評価を行った。
結果を表1に示す。「2」以上を合格とする。
【0147】
[評価基準]
3:白い紙の上で人工毛髪の脱色部分が同色又はほぼ同色に見え、目立たない
2:白い紙の上で人工毛髪の脱色部分が淡色に見える
1:白い紙の上で人工毛髪の脱色部を判別することが困難である
0:白い紙の上で人工毛髪の脱色が全く認められない
【0148】
【0149】
脱色効果が2以上の実施例では、例えば
図1(B)や
図2(E)に示すように、人工毛髪の中央部が脱色されて透明になった。脱色された範囲は、約5mmであった。また、表1からわかるように、一般式(1)、一般式(2)で表される化合物を用いていない比較例1~3では、脱色ができていない、もしくは脱色が不十分であった。
【0150】
(実施例4:人工毛髪の脱色(2))
実施例1において、毛髪シート30を2枚重ねた以外は、実施例1と同様にして脱色を行った。その結果、実施例1と同様に、人工毛髪の中央部が脱色された。実施例4では、生産性が向上した。
【0151】
(実施例5:人工毛髪の脱色(3))
実施例1において、こより36、遮蔽部材38及び熱プレス機を用いず、
図11、
図12(A)、(B)、
図14に示す形態で付与工程及び加熱工程を行う。
実施例5では、加工剤付与部材としてろ紙65を用い、脱色加工剤をろ紙65に含ませ、ろ紙65を毛髪シート30の人工毛髪10に対して上から接触させ、ろ紙65の上から治具60の加熱部62(接触部62a)を接触させて加熱を行った。ろ紙65は被転写材としての機能も有している。また、実施例5では、ペーパー64(汚染防止部材)を用い、人工毛髪10の下に配置させた。実施例5では、治具60の取手61を使用者が手で握り、圧力を加えながら180℃、30秒加熱した。実施例5では、実施例1に比べて簡便に加熱を行うことができた。
【0152】
(実施例6:増毛用毛髪の脱色)
図8(A)、(B)のようにして、環状部18を有する複数の増毛用毛髪14を脱色加工剤に浸漬させた。脱色加工剤は実施例1と同様のものを用いた。これらの増毛用毛髪14に対して被転写材37を接触させながら、上記の熱プレス機により加熱した。加熱条件は、上記の実施例と同様とした。その結果、
図8(C)のように、環状部18が脱色された増毛用毛髪16が得られた。