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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025026323
(43)【公開日】2025-02-21
(54)【発明の名称】自動車用部品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B62D 21/15 20060101AFI20250214BHJP
   F16F 7/00 20060101ALI20250214BHJP
   F16F 7/12 20060101ALI20250214BHJP
【FI】
B62D21/15 B
F16F7/00 J
F16F7/12
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024101022
(22)【出願日】2024-06-24
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-12-03
(31)【優先権主張番号】P 2023128939
(32)【優先日】2023-08-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127845
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 壽彦
(72)【発明者】
【氏名】樋貝 和彦
(72)【発明者】
【氏名】塩崎 毅
(72)【発明者】
【氏名】玉井 良清
【テーマコード(参考)】
3D203
3J066
【Fターム(参考)】
3D203AA01
3D203BB12
3D203BB16
3D203BB43
3D203BB55
3D203CA07
3D203CA36
3D203CA73
3D203CA79
3J066AA23
3J066BA03
3J066BC01
3J066BF02
(57)【要約】
【課題】鋼板で樹脂を挟んだサンドイッチ構造を有する自動車用部品を低コストに製造するとともに、製造時の樹脂の破断を防止できる自動車用部品の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る自動車用部品1の製造方法は、成形前の鋼板11に樹脂7を塗布する樹脂塗布工程S1と、樹脂7が塗布された鋼板11に樹脂7を覆うようにパッチ鋼板13を設置するパッチ鋼板設置工程S3と、鋼板11とパッチ鋼板13で樹脂7を挟んだサンドイッチ構造を有するサンドイッチ構造部材15を、樹脂7が弾性率45MPa以上かつ延性10%以上となるように仮焼きする仮焼き工程S5と、仮焼きしたサンドイッチ構造部材15を自動車用部品1の部品形状にプレス成形するプレス成形工程S7と、を備えたことを特徴とするものである。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形前の鋼板に熱硬化型の樹脂を塗布する樹脂塗布工程と、
前記樹脂が塗布された前記鋼板に前記樹脂を覆うようにパッチ鋼板を設置するパッチ鋼板設置工程と、
前記鋼板と前記パッチ鋼板で前記樹脂を挟んだサンドイッチ構造を有するサンドイッチ構造部材を、前記樹脂が弾性率45MPa以上かつ延性10%以上となるように仮焼きする仮焼き工程と、
該仮焼きした前記サンドイッチ構造部材を自動車用部品の部品形状にプレス成形するプレス成形工程と、を備えたことを特徴とする自動車用部品の製造方法。
【請求項2】
成形前の鋼板にシート状に成形された熱硬化型の樹脂を貼付する樹脂貼付工程と、
前記樹脂が貼付された前記鋼板に前記樹脂を覆うようにパッチ鋼板を設置するパッチ鋼板設置工程と、
前記鋼板と前記パッチ鋼板で前記樹脂を挟んだサンドイッチ構造を有するサンドイッチ構造部材を、前記樹脂が弾性率45MPa以上かつ延性10%以上となるように仮焼きする仮焼き工程と、
該仮焼きした前記サンドイッチ構造部材を自動車用部品の部品形状にプレス成形するプレス成形工程と、を備えたことを特徴とする自動車用部品の製造方法。
【請求項3】
前記プレス成形工程によってプレス成形された前記自動車用部品の前記鋼板と前記パッチ鋼板とを溶接する溶接工程をさらに備えたことを特徴とする請求項1又は2に記載の自動車用部品の製造方法。
【請求項4】
前記樹脂の厚みが0.2mm以上3mm以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の自動車用部品の製造方法。
【請求項5】
前記樹脂が熱硬化型ゴム変性エポキシ樹脂であることを特徴とする請求項1又は2に記載の自動車用部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼板で樹脂を挟んだサンドイッチ構造を有する自動車用部品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の骨格部品であるフロントサイドメンバは、車両前部に設置される車両前後方向に長尺の部品であり、車両衝突時に軸圧壊変形することによって車両衝突時の衝突エネルギーを吸収する部品である。また、サイドシル(ロッカー)やセンターピラーは、車体の側方から衝突荷重が入力した際に、折れ曲がることで衝突エネルギーを吸収する部品である。これらの部品が車両衝突時の衝突エネルギーを吸収することで、衝突時のキャビン変形を抑制し、乗員を保護する。
【0003】
上記のフロントサイドメンバ、サイドシル(ロッカー)及びセンターピラーには、確実に車両衝突エネルギーを吸収させる必要があり、変形モードを制御する構造が必要である。一方で自動車用部品には軽量化も要求されるため、上記部品に樹脂を組み合わせて衝突エネルギー吸収性能や剛性の向上と軽量化を両立させる技術(マルチマテリアル部品)がこれまでに提案されている。
【0004】
特許文献1には、車体の前方又は後方から衝突荷重が入力した際に軸圧壊して衝突エネルギーを吸収する自動車用衝突エネルギー吸収部品が開示されている。特許文献1の自動車用衝突エネルギー吸収部品は、自動車エンジンからの振動や自動車走行時に各方向から車体に入力する振動を吸収して制振性も向上できる。
また、特許文献2には、車体の側方から衝突荷重が入力した際に折れ曲がることで衝突エネルギーを吸収する車体骨格部品が開示されている。
【0005】
特許文献1及び特許文献2の部品はいずれも、金属製の本体部材(筒状部材、断面ハット型部材又は断面コ字状部材)の内面に樹脂が塗布又は貼付され、該樹脂の表面を覆うように金属製の断面コ字状の離脱防止部材が配設されている。本体部材の内面に樹脂を配置することで、部品の軸方向に蛇腹状に圧壊する軸圧壊、又は軸方向に垂直方向に折れ曲がる曲げ圧壊の過程において、鋼板と鋼板との間に樹脂が挟まるので、変形時の曲げ半径が拡大して本体部材の破断が生じにくくなり、衝突エネルギー吸収性能が向上する。
上記のように特許文献1及び特許文献2の部品は、金属製の本体部材と金属製の離脱防止部材とで樹脂を挟んだサンドイッチ構造を有することで、軸圧壊又は曲げ圧壊の際に本体部材の破断を防止して衝突エネルギー吸収性能を向上させつつ、軽量化を両立させている。
そして、このような金属板で樹脂を挟んだサンドイッチ構造を有する部品の製造方法が数多く提案されている。
【0006】
特許文献1には、筒状部材の内面に樹脂を塗布又は貼付し、該樹脂を覆うように離脱防止部材を配設し、離脱防止部材を筒状部材に接合した後にこれらの部材を加熱処理することで、サンドイッチ構造を有する部品を製造する方法が記載されている。また、特許文献1には、離脱防止部材に樹脂を塗布又は貼付し、該樹脂を筒状部材の内面に当接させるとともに離脱防止部材を筒状部材の内面に接合し、これらの部材を加熱処理する方法も記載されている。
【0007】
また、特許文献3には、アウタパネルとレインフォースメントとの間の空間に充填剤(エポキシ樹脂など)が発泡充填された車体のフレーム構造(センターピラー)が開示されており、該フレーム構造の組み立て方法として、下記の方法が記載されている。
まず、レインフォースメントにおけるアウタパネル側の面に、シート状に加工した未発泡状態の充填材を貼り付けてセットする。その後、充填材を貼り付けたレインフォースメントをアウタパネルにセットし、両者のフランジ部同士をスポット溶接により接合する。そして、車体全体の組み立てを完成させた後、該車体に電着塗装を行い、その際の乾燥熱により、上記充填材を発泡硬化させる。
【0008】
また、特許文献4には、自動車騒音防止のための自動車用部分複合型制振部品の製造方法として下記の方法が記載されている。
まず、鋼板等からなる拘束板に制振性を有する樹脂を塗布し、乾燥炉で拘束板上の塗料中の溶剤を揮発させる。その後、車体を構成するプレス成形前の鋼板の所定の位置に上記拘束板を張り合わせ、加熱、圧着する。そして、上記拘束板を部分的に接着接合させた鋼板をプレス成形し、自動車部分複合型制振部品を製造する。
【0009】
また、特許文献5には、樹脂接着剤を介して第1及び第2の金属板を重ね合わせてから、第1及び第2の金属板をプレス成形し、プレス成形後に樹脂接着剤を硬化させる、金属板部材の製造方法が開示されている。
【0010】
また、特許文献6には、減衰接着材を介して第1車体部材と第2車体部材を接合し、この接合体の組付け姿勢において下端領域となる部分の減衰接着材を仮硬化させ、その後に、組付け姿勢を取るように接合体を第3車体部材に接合する車両の車体製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2020-100183号公報
【特許文献2】特開2020-117039号公報
【特許文献3】特開2001-048054号公報
【特許文献4】特開平11-141005号公報
【特許文献5】特開2020-183078
【特許文献6】特開2021-126930
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上記のように、金属板と金属板の間に樹脂を挟んだサンドイッチ構造を有する部品の製造方法は様々提案されているが、これらの製造方法には下記のような問題がある。
【0013】
まず、特許文献3の製造方法は、センターピラーのアウタパネルとレインフォースメントなどの既存部品に形成された閉断面空間に充填剤を発砲充填させるため、樹脂を配置できる箇所が限定される。したがって、制振性や剛性に効果を示す部位を任意に強化することができないという問題がある。
【0014】
これに対し、特許文献1の製造方法は、筒状部材に樹脂を塗布又は貼付してから該樹脂を覆うように離脱防止部材を取り付けるので、剛性を高めたい任意の部位(例えば、筒状部材を構成するアウタ部品のパンチ肩R部)に樹脂を配置することができる。
しかし、上記製造方法は、筒状部材のプレス成形工程とは別に離脱防止部材のプレス成形工程を追加する必要があるため、製造コストが増加するという問題がある。
【0015】
また、特許文献1の製造方法は、プレス成形後の部材に樹脂を塗布又は貼付するので、部材表面に凹凸形状が付与されている部位には樹脂を均一の厚さで塗布又は貼付するのが難しい場合がある。したがって、樹脂を塗布又は貼付する部位は、表面に凹凸が少ない、比較的平滑な表面を有する部位に制限されるという問題がある。
【0016】
これに対し、特許文献4の製造方法は、プレス成形前の鋼板(拘束板)に樹脂を塗布するので、樹脂を塗布する部位のプレス成形後の表面凹凸形状による制限を受けにくい。そして、鋼板(ブランク)に拘束板を部分的に接着接合させた後、これらを一体的にプレス成形するので、プレス成形工程の追加も発生しない。
しかし、上記製造方法では、樹脂を塗布した拘束板を鋼板(ブランク)に張り合わせた後、加熱、圧着してからこれらをプレス成形するので、加熱によって樹脂が完全に硬化する場合がある。樹脂が完全に硬化すると、樹脂の延性が低下し、プレス成形時に樹脂層が破断する恐れがある。
前述したような衝突エネルギー吸収部品の場合、樹脂層が破断していると、軸圧壊又は曲げ圧壊時の本体部材の破断を十分に防止できないため、期待する衝突エネルギー吸収性能を得られないという問題がある。また、制振性が低下する恐れもある。
【0017】
これに対し、特許文献5の製造方法は、樹脂接着剤を介して第1及び第2の金属板を重ね合わせ、これをプレス成形した後に樹脂接着剤を硬化させるものであり、プレス成形時には樹脂接着剤が硬化していないので、樹脂の破断が生じない。
しかし、樹脂接着剤を硬化させずにプレス成形すると、プレス成形時の面圧負荷によって、樹脂接着剤が第1及び第2の金属板のすきまから漏れ出す恐れがある。プレス成形時に金属板の間から樹脂接着剤が漏れ出すと、金型内が樹脂で汚染され、連続生産が不可能になるという問題がある。
【0018】
また、車両衝突時の衝突エネルギーを吸収する自動車部品においては、衝突エネルギー吸収性能を確保するため、サンドイッチ構造を構成する樹脂は所定の厚みを有する必要がある。しかし、特許文献5のように樹脂接着剤を硬化させずにプレス成形すると、2枚の金属板の間から樹脂が漏れ出して、所定の樹脂厚を形成できないという問題もある。
【0019】
これに対し、特許文献6には、樹脂からなる減衰接着材を用いて第1車体部材と第2車体部材を接合したあと、加熱等によって減衰接着材を仮硬化させてから、この接合体を第3車体部材へと接合する方法が記載されている。
この方法は、プレス成形された自動車部品同士を接着して車体を組み立てるときに減衰接着材の垂れ落ちを防止するものであるので、樹脂を挟んだ2枚の金属板をプレス成形する際の、プレス圧による樹脂の漏れ出し(又ははみ出し)を防止できるものではない。
【0020】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、鋼板(金属板)で樹脂を挟んだサンドイッチ構造を有する自動車用部品を低コストに製造するとともに、製造時の樹脂の破断を防止できる自動車用部品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
発明者らは、特許文献4で説明したような、プレス成形前の鋼板にサンドイッチ構造を形成してから部品形状にプレス成形する製造方法において、樹脂の破断と漏出(はみ出し)を防止する方法を鋭意検討した。
プレス成形前に樹脂を加熱し、樹脂を完全に硬化させると、プレス成形時に樹脂が破断する恐れがある。一方、プレス成形前の加熱を行わないと、プレス成形時の加圧により鋼板と鋼板の間から樹脂が漏れ出てしまい、必要な樹脂厚が確保できない。さらには、漏れ出た樹脂がプレス型内を汚染してしまい、部品成形や品質に問題が発生する可能性がある。
【0022】
仮に、予め高粘度・高弾性に調整された樹脂を塗布すれば、プレス成形前の加熱を行うことなく、プレス成形時の樹脂の漏出を防ぐことができる。しかし、高粘度・高弾性の樹脂は塗布性に劣るため塗布時間が延びて生産性が低下する。また、高粘度・高弾性の樹脂は均一な厚さで塗布することが難しいという問題もある。
【0023】
そこで、発明者は、塗布性に優位な粘度の樹脂を鋼板に塗布し、これを、樹脂が完全硬化しない熱処理条件でプレス成形前に仮焼きすることによって、上記問題を解決できるという知見を得た。
本発明は、かかる知見に基づいてなされたものであり、具体的には以下の構成からなるものである。
【0024】
(1)本発明に係る自動車用部品の製造方法は、成形前の鋼板に熱硬化型の樹脂を塗布する樹脂塗布工程と、
前記樹脂が塗布された前記鋼板に前記樹脂を覆うようにパッチ鋼板を設置するパッチ鋼板設置工程と、
前記鋼板と前記パッチ鋼板で前記樹脂を挟んだサンドイッチ構造を有するサンドイッチ構造部材を、前記樹脂が弾性率45MPa以上かつ延性10%以上となるように仮焼きする仮焼き工程と、
該仮焼きした前記サンドイッチ構造部材を自動車用部品の部品形状にプレス成形するプレス成形工程と、を備えたことを特徴とするものである。
【0025】
(2)また、本発明に係る自動車用部品の製造方法は、成形前の鋼板にシート状に成形された熱硬化型の樹脂を貼付する樹脂貼付工程と、
前記樹脂が貼付された前記鋼板に前記樹脂を覆うようにパッチ鋼板を設置するパッチ鋼板設置工程と、
前記鋼板と前記パッチ鋼板で前記樹脂を挟んだサンドイッチ構造を有するサンドイッチ構造部材を、前記樹脂が弾性率45MPa以上かつ延性10%以上となるように仮焼きする仮焼き工程と、
該仮焼きした前記サンドイッチ構造部材を自動車用部品の部品形状にプレス成形するプレス成形工程と、を備えたことを特徴とするものである。
【0026】
(3)また、上記(1)又は(2)に記載のものにおいて、前記プレス成形工程によってプレス成形された前記自動車用部品の前記鋼板と前記パッチ鋼板とを溶接する溶接工程をさらに備えたことを特徴とするものである。
【0027】
(4)また、上記(1)又は(2)に記載のものにおいて、前記樹脂の厚みが0.2mm以上3mm以下であることを特徴とするものである。
【0028】
(5)また、上記(1)又は(2)に記載のものにおいて、前記樹脂が熱硬化型ゴム変性エポキシ樹脂であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0029】
本発明においては、前記樹脂が弾性率45MPa以上かつ延性10%以上となるようにサンドイッチ構造部材を仮焼きする仮焼き工程を備えたことにより、プレス成形時の樹脂のはみ出しと破断を共に防止できる。
また、サンドイッチ構造を形成した後に部品形状にプレス成形するので、本体部品とパッチを一度にプレス成形できる。したがって、各部品を個々にプレス成形していた従来例と比べて工程数を削減でき、サンドイッチ構造を有する自動車部品を低コストに製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】実施の形態にかかる自動車用部品の製造方法の説明図である。
図2】実施の形態で対象とする自動車用部品の外観図である。
図3】熱硬化型の樹脂を加熱したときの加熱時間と、樹脂の粘度、弾性率及び延性との関係を概念的に表したグラフである。
図4】実施の形態にかかる自動車用部品の製造方法の他の態様の説明図である。
図5】実施例にかかる樹脂の塗布(貼付)範囲例を示す図である(その1)。
図6】実施例にかかる樹脂の塗布(貼付)範囲例を示す図である(その2)。
図7】実施例にかかる軸圧壊試験の説明図である。
図8】実施例にかかる比較例の樹脂の仮硬化範囲を示す図である(その1)。
図9】実施例にかかる比較例の樹脂の仮硬化範囲を示す図である(その2)。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明の一実施の形態に係る自動車用部品の製造方法は、鋼板と鋼板で樹脂を挟んだサンドイッチ構造を有する自動車用部品を製造する方法である。本実施の形態の説明に先立ち、まずは本発明が対象とする自動車用部品について図2を用いて説明する。
【0032】
図2に示した自動車用部品1は、本発明が対象とするサンドイッチ構造を有する自動車用部品の一例である。自動車用部品1は、フロントサイドメンバ、サイドシル(ロッカー)及びセンターピラー等の車体骨格部品に用いられ、車体に衝突荷重が入力した際に軸圧壊又は曲げ圧壊することで、衝突エネルギーを吸収する。
【0033】
自動車用部品1は、アウタ部品3と、アウタ部品3に接合されたインナ部品5と、アウタ部品3の内面に塗布された樹脂7と、樹脂7を覆うとともにアウタ部品3の内面に接合されたパッチ9とを備えている。
【0034】
アウタ部品3は、鋼板から形成された断面ハット型の部材であり、天板部3aと、天板部3aから肩部3bを介して連続する一対の縦壁部3cと、各縦壁部3cからそれぞれ連続するフランジ部3dを有している。
インナ部品5は、鋼板から形成された平板状の部材であり、アウタ部品3のフランジ部3dに接合されている。
【0035】
樹脂7は、アウタ部品3の天板部3a、肩部3b及び縦壁部3cの内面に塗布されている。
パッチ9は、鋼板から形成され、車両衝突によって自動車用部品が変形する際に樹脂7がアウタ部品3から離脱するのを防止する部材である。アウタ部品3の内側に樹脂7を覆うようにパッチ9が配設されており、アウタ部品3の縦壁部3cの内面にパッチ9の両端部が溶接接合されている。
【0036】
樹脂7は、後述する仮焼き工程S5、及び車体組み立ての前又は後に行われる本焼き工程を経て、アウタ部品3及びパッチ9のそれぞれと所定の接着強度で接着される。本焼き工程後の最終的な接着強度としては、10MPa以上が好ましい。
【0037】
なお、自動車用部品1の樹脂7は、塗料状のものを塗布して形成されたものに限らず、シート状に成形されたものを接着剤等によって貼付して形成されたものでもよい。
【0038】
上記のように自動車用部品1は、鋼板から形成されたアウタ部品3及びパッチ9で樹脂7を挟んだサンドイッチ構造を有している。これにより、アウタ部品3の天板部3a、肩部3b及び縦壁部3cの面剛性が向上すると共に、前述したような軸圧壊又は曲げ圧壊の過程における鋼板の破断を防止し、自動車用部品1の衝突エネルギー吸収性能が向上する。
また、樹脂7は振動を吸収する制振材としても機能するので、上記サンドイッチ構造を備えたことで自動車用部品1の制振性能も向上する。
なお、アウタ部品3、インナ部品5及びパッチ9に用いられる鋼板の種類としては、冷延鋼板、熱延鋼板、ステンレス鋼板、亜鉛系めっき鋼板、亜鉛合金系めっき鋼板、アルミ合金系めっき鋼板、が例示できる。
【0039】
本実施の形態では、上述した自動車用部品1を製造する方法について説明する。
本実施の形態における自動車用部品1の製造方法は、図1に示すように、樹脂塗布工程S1と、パッチ鋼板設置工程S3と、仮焼き工程S5と、プレス成形工程S7と、溶接工程S9とを備えている。図1に示すように、本実施の形態では、樹脂塗布工程S1~溶接工程S9を一つのプレスライン内で実施する。なお、図1(a)~図1(f)は、サンドイッチ構造を備えたアウタ部品3の製造過程を模式的に図示したものである。溶接工程S9の後、組立ラインで行う組立工程において、図1(f)のアウタ部品3にインナ部品5を接合することで図2の自動車用部品1が製造できる。
【0040】
<樹脂塗布工程>
樹脂塗布工程S1は、図1(b)に示すように、アウタ部品3を成形する前のブランク材である鋼板11に樹脂7を塗布する工程である。
ブランクラインでアウタ部品3のブランク形状にブランキングされた鋼板11(図1(a)参照)は、吸着バー付きフィーダやコンベア等の移送装置によってプレスラインに移送される。
プレスラインには、ディスペンサー(液体定量吐出装置)を装着したロボットが配置されており、このディスペンサー装着ロボットがプレスラインに移送された鋼板11の所定範囲に所定厚の樹脂7を塗布する。
【0041】
樹脂7を塗布する方法は上記に限定されるものではなく、例えば、スプレーノズルで噴霧して樹脂7を塗布(静電塗装)してもよいし、ハケなどを用いて樹脂7を塗布してもよい。もっとも、ディスペンサーを用いた塗装ロボットによる塗装は、塗布量を精度良く定量供給でき、鋼板11の所定の範囲に所定の厚みで樹脂7を塗布できるので好ましい。
【0042】
樹脂7を塗布する範囲は、自動車用部品1の衝突エネルギー吸収性能の向上に有効な箇所や、制振性、剛性に効果を示す箇所を含むように設定するのが望ましい。
例えば、図2の自動車用部品1の場合、軸圧壊又は曲げ圧壊の過程において、アウタ部品3の肩部3bに樹脂を存在させることで、自動車用部品1の衝突エネルギー吸収性能を向上させることができるので、鋼板11における少なくとも肩部3bに相当する部位に樹脂7を塗布するとよい。したがって、図5(a)のように、肩部3bに相当する部位を含むよう、パッチ9やインナ部品5との溶接部分を除く全体に樹脂7を塗布してもよいし、図6(a)のように、肩部3bに相当する部位のみに樹脂7を塗布してもよい。
【0043】
なお、樹脂7の塗布厚を0.2mmより薄くすると、樹脂7を均一に塗布するのが難しくなる。また、樹脂7の塗布厚を3mmより厚くするとコストがかかる。上記の理由から、樹脂7の厚み(塗布厚)は、0.2mm以上3mm以下とするのが好ましい。
【0044】
樹脂7の種類については、熱硬化系のものが挙げられる。
熱硬化系の樹脂としては、エポキシ系、ウレタン系、エステル系、フェノール系、メラミン系、ユリア系のものが例示できる。
特に、熱硬化型ゴム変性エポキシ樹脂は、加熱硬化後の延性が高いので、仮焼き(予加熱)後にプレス成形を行う際に破断が生じにくく、好適である。
【0045】
<パッチ鋼板設置工程>
パッチ鋼板設置工程S3は、図1(c)に示すように、樹脂7が塗布された鋼板11に、樹脂7を覆うようにパッチ鋼板13を設置する工程である。ここでパッチ鋼板とは、パッチ9(図2参照)をプレス成形する前のブランク材である。
樹脂塗布工程S1で樹脂7が塗布された鋼板11は、移送装置によりディスペンサー装着ロボットの下流に配置された鋼板搬送ロボットに移送される。鋼板搬送ロボットは、樹脂7を覆うように、パッチ鋼板13を鋼板11の所定の位置に設置する。
【0046】
鋼板11上に樹脂7が塗布され、さらにそれを覆うようにパッチ鋼板13が設置されることにより、鋼板11とパッチ鋼板13で樹脂7を挟んだサンドイッチ構造が形成される。以下、このサンドイッチ構造を有する図1(c)の部材をサンドイッチ構造部材15という。
【0047】
<仮焼き工程>
仮焼き工程S5は、図1(d)に示すように、サンドイッチ構造部材15を、樹脂7が完全硬化しない熱処理条件で仮焼きする工程である。
樹脂塗布工程S1で鋼板11に塗布される樹脂7は、塗布に適した粘度に調整されている。これを加熱硬化させることなくそのままプレス成形すると、プレス成形時の加圧により鋼板11とパッチ鋼板13の間から樹脂7が漏れ出てしまい、所定の樹脂厚を確保できないなどの問題が生じる。
【0048】
プレス成形時の樹脂7の漏出を防ぐためには、プレス成形前に樹脂7を加熱硬化させて、一定以上の粘度(又は弾性率)にする必要があるが、前述したように、プレス成形前に樹脂7を完全に硬化させると、プレス成形時に樹脂層が破断してしまい、自動車用部品1の衝突エネルギー吸収性能が低下する。
そこで、仮焼き工程S5では、樹脂7がプレス成形に適した物性となるようにサンドイッチ構造部材15を仮焼きする。プレス成形に適した樹脂の物性について図3を用いて説明する。
【0049】
なお、これまでの説明において、「樹脂の漏出」という言葉を用いたが、これは、プレス成形時に樹脂が流動性を有する状態(未硬化の状態)であることを想定した表現であった。本実施の形態では、プレス成形前に樹脂を仮焼きすることで樹脂の流動性が失われるので、仮焼き後のプレス成形時に「樹脂の漏出」は生じにくいが、仮焼きが不十分であると、樹脂が変形して鋼板の間から樹脂がはみ出す場合がある。
金型に樹脂が付着しない程度の小さいはみ出しであれば製造上問題はないが、はみ出しが大きくなると樹脂が金型に付着して連続製造が難しくなるため問題である。
【0050】
以降の説明では、プレス成形時に樹脂が流動性を有しており、プレス圧によって金型内に樹脂が押し出される現象を「樹脂の漏出(漏れ出し)」、プレス成形時に樹脂が流動性を失っており、プレス圧によって鋼板の間から樹脂が露出する現象、特に、金型に樹脂が付着するほど大きく樹脂が露出する現象を「樹脂のはみ出し」と表現する。
なお、樹脂の露出程度が小さく、金型に付着しない程度のはみ出しであれば製造上問題がないので、問題とする「樹脂のはみ出し」には含まない。
問題がないはみ出しとしては、例えば、サンドイッチ構造部材の鋼板エッジから、成形前の鋼板厚+樹脂厚+パッチ鋼板厚の合計の板厚(mm)の0.5倍の長さと同半径(mm)以下の半円弧形態のはみ出しとする。
【0051】
図3は、ある熱硬化型の樹脂を170℃で加熱したときの加熱時間と、樹脂の粘度、弾性率及び延性との関係を概念的に表したグラフである。なお、170℃は、自動車の製造に用いられる一般的な構造用接着剤の樹脂を焼付するときの熱処理温度である。参考として、自動車の構造用接着剤の樹脂を完全に硬化させる際の焼付条件(本焼付条件)は、樹脂の種類によっても多少異なるものの、一般的に加熱温度150~170℃、加熱時間15分程度とされている。
【0052】
図3の曲線Aに示すように、加熱前に液状体であった樹脂は、加熱によって徐々に硬化し、弾性率が上昇する。この時、曲線Bに示すように、樹脂の粘度も弾性率に伴って上昇する。一方、樹脂の延性は、曲線Cに示すように、弾性率の上昇に相反して低下する。
加熱時間の経過に伴って樹脂が完全に硬化すると、弾性率及び延性の変化は小さくなってほぼ一定に漸近する(硬化完了領域)。また、熱硬化型樹脂は、硬化完了領域に近づくにつれて粘度が指数関数的に増大し、流動性を失って固体に変化する。
【0053】
ここで、図中の破線矢印iは、サンドイッチ構造部材15をプレス成形する際に樹脂7のはみ出しを防止できる樹脂7の弾性率範囲を示している。即ち、曲線Aに示す弾性率が破線矢印iよりも高ければ、プレス成形時の樹脂のはみ出しを防止できる。
また、図中の破線矢印iiは、サンドイッチ構造部材15をプレス成形する際に樹脂7が鋼板変形に追随できる樹脂7の延性範囲を示している。即ち、曲線Cに示す延性が破線矢印iiよりも高ければ、プレス成形時の樹脂破断を防止できる。
【0054】
仮に、サンドイッチ構造部材15を従来の本焼付条件における加熱時間(例えば15分)で加熱した場合、樹脂7は硬化完了領域に示す性状となるので、プレス成形時の加圧によって鋼板11とパッチ9の間から樹脂がはみ出すことはない。しかし、延性が破線矢印iiを下回るので、鋼板変形に樹脂が追随できずに、樹脂層の破断が生じてしまう。
【0055】
そこで、樹脂の弾性率が破線矢印i以上、かつ、延性が破線矢印ii以上となるような加熱条件で樹脂を加熱することにより、樹脂をプレス成形性に優れた状態にすることができる。
図3の例で言えば、仮焼き工程S5における加熱時間を、曲線A(弾性率)が破線iと交差するときの加熱時間t1以上、かつ、曲線C(延性)が破線iiと交差するときの加熱時間t2以下の範囲とすることで、加熱後の樹脂の物性が、弾性率、延性ともにプレス成形に適した値となり、プレス成形時の樹脂のはみ出しと破断を共に防止することができる。
【0056】
具体的な熱処理条件の一例としては、従来の本焼付条件と同じ水準の加熱温度140~210℃とし、加熱時間を4秒~35秒とするのが好ましい。このような熱処理条件で仮焼きすることで、樹脂7の粘度は、硬化完了領域の約40~90%、樹脂7の延性は、硬化完了領域の約2~7倍となる。
【0057】
詳しくは後述の実施例で説明するが、プレス成形に好適な物性、即ち、プレス成形時の樹脂のはみ出しを防止しつつ、樹脂破断も防止する樹脂の物性としては、弾性率が45MPa以上、かつ、樹脂の延性は10%以上である。
上記では、プレス成形時の樹脂のはみ出しを防止するという観点で弾性率の下限値を規定し、プレス成形時の樹脂の破断を防止するという観点で延性の下限値を規定しているが、弾性率と延性に上限値がないという意味ではない。
【0058】
図3に示すように、一般的に樹脂の弾性率と延性には、同一の樹脂においては弾性率が大きくなるほど延性が小さくなり、延性が大きくなるほど弾性率が小さくなる、という関係がある。
したがって、樹脂のはみ出しを防止する観点で弾性率の下限値を規定すれば、その時の延性の値(図3の加熱時間t1のときの値)が延性の上限値となる。
また、樹脂の破断を防止する観点で延性の下限値を規定すれば、その時の弾性率の値(図3の加熱時間t2のときの値)が弾性率の上限値となる。
このように、弾性率と延性のそれぞれの下限値を規定することで、プレス成形に好適な弾性率の範囲と、延性の範囲は自ずと定まる。
【0059】
上記のように樹脂7がプレス成形に好適な物性となるように仮焼きすることで、樹脂7の弾性率を塗布時よりも高くしてプレス成形時の樹脂のはみ出しを防ぎつつ、樹脂7の延性を高い状態に保持してプレス成形による樹脂層の破断を防止することが可能となる。
また、サンドイッチ構造部材15を従来の本焼付条件(例えば15分)で加熱する場合と比べて、加熱時間が4~35秒と極めて短時間であるので、製造時間も短縮できる。
【0060】
仮焼きの方法は特に限定されないが、例えばサンドイッチ構造部材15を雰囲気温度が一定に保持された高温炉(オーブン)に挿入して加熱する方法や、通電加熱又は高周波誘導加熱を用いてサンドイッチ構造部材15を加熱する方法が考えられる。
【0061】
上記は、プレス機入側、即ちプレスラインにおけるプレス機の上流側に配置されたオーブン等の装置で仮焼き工程S5を行う例であるが、仮焼き工程S5は、図4に示すようにプレス機内で行うようにしてもよい。図4の場合の仮焼きの方法としては、例えば、通電加熱又は高周波誘導加熱を用いてプレス成形工程S7に用いる成形金型を所定温度に加熱しておき、該加熱した成形金型にサンドイッチ構造部材15を積載して所定時間(4~35秒)待機する方法が考えられる。
【0062】
<プレス成形工程>
プレス成形工程S7は、上記仮焼き工程S5で仮焼きしたサンドイッチ構造部材15を自動車用部品の部品形状にプレス成形する工程である。ここでは、図1(e)に示すように、サンドイッチ構造部材15を自動車用部品1のアウタ部品3の部品形状にプレス成形する。
仮焼き工程S5でサンドイッチ構造部材15を仮焼きしたことにより、樹脂7は塗布時よりも粘性が高くなっているので、プレス成形時に加圧されても鋼板11とパッチ鋼板13の間から樹脂7が漏れ出る又ははみ出すことがない。また、樹脂7を完全硬化させていないので、樹脂7の延性が高い状態で保持されており、プレス成形による樹脂層の破断を防止できる。
【0063】
<溶接工程>
溶接工程S9は、図1(f)に示すように、プレス成形工程S7によってプレス成形された自動車用部品1の鋼板11とパッチ鋼板13とを溶接する工程である。
プレス成形工程S7でプレス成形された部品は、移送装置によりプレス機出側に移送される。プレス機出側には、スポット溶接ガンを装着したロボットが配置されており、このスポット溶接ガン装着ロボットによって、パッチ鋼板13(パッチ9)を鋼板11(アウタ部品3)にスポット溶接する(図1(f)の×印部分)。
【0064】
なお、サンドイッチ構造部材15がプレス成形される際、樹脂7は高い面圧を受けて、鋼板11及びパッチ鋼板13に圧着し、さらに後述する本焼付工程を経て、所定の接着強度で鋼板11及びパッチ鋼板13に接着するので、溶接工程S9を省略することもできる。
もっとも、本実施の形態の自動車用部品1は、軸圧壊又は曲げ圧壊することで衝突エネルギーを吸収するものであり、変形過程でパッチ9が樹脂7から剥離すると衝突エネルギー吸収特性が低下するので、パッチ鋼板13を鋼板11に固定するのが好ましい。
【0065】
図1(f)の部品は、組立ラインに移送され、インナ部品5を接合されることにより図2の自動車用部品1となる。なお、上記のように製造された自動車用部品1の樹脂7は、その後の本焼付工程によって完全硬化させることにより、アウタ部品3及びパッチ9とそれぞれ所定の強度で接着する。以下、自動車製造で一般的に行われている電着塗装を活用して本焼付工程を実施する例を説明する。
【0066】
図1(f)の部品にインナ部品5を接合して自動車用部品1を製造した後、自動車用部品1は車体として組み立てられる。該車体は電着塗料に浸漬され、電着によって表面に塗料層が形成された後、乾燥炉(オーブン)等に移送されて熱処理される。この乾燥熱により、自動車用部品1の樹脂7が完全硬化する。上記のように、自動車用部品1を用いて組み立てられた車体に対して行われる電着塗装の乾燥工程を、本実施の形態の本焼付工程として位置付けることができる。
【0067】
なお、自動車用部品1に対して行う本焼付工程は、上記に限らず、車体組立て前に実施してもよい。例えば、雰囲気温度が一定に保持された高温炉(オーブン)に車体組立て前の自動車用部品1を装入して加熱してもよいし、通電加熱又は高周波誘導加熱を用いて車体組立て前の自動車用部品1を加熱してもよい。
【0068】
いずれの場合も、自動車用部品1を所定の温度及び所定の時間で加熱処理することで、樹脂7は、樹脂自身の接着能により、アウタ部品3と、パッチ9に所定の接着強度で接着する。なお、上記本焼付工程における熱処理条件、即ち、樹脂7を完全硬化させる熱処理条件は、前述したように加熱温度150~170℃、加熱時間15分程度である。もっとも、この熱処理条件は樹脂7の種類によって異なるので、加熱後の樹脂7の接着強度が所定の値(例えば、10MPa以上)となるように適宜調整すると良い。
【0069】
以上のように、本実施の形態によれば、サンドイッチ構造部材15を樹脂7が完全硬化しない熱処理条件で仮焼きしてから部品形状にプレス成形するので、樹脂7を漏出又ははみ出させることなくプレス成形できて、かつ、成形時の樹脂7の破断も防止できる。したがって、所要の衝突エネルギー吸収性能や、制振性を備えた自動車用部品1を製造することができる。
【0070】
また、アウタ部品3とパッチ9をそれぞれプレス成形していた従来の製造方法と比べて、本実施の形態は一連の工程を一つのプレスライン内で完了できるので、自動車用部品1の生産性を向上できる。
【0071】
また、アウタ部品3をプレス成形する前のブランク材である鋼板11に樹脂7を塗布するので、プレス成形後の部品に樹脂7を塗布する場合と比べて、部品の表面凹凸形状による制限を受けずに、樹脂7を均一な厚さで塗布することができる。これにより、自動車用部品1の衝突エネルギー吸収性能及び制振性能のばらつきを軽減できる。
【0072】
上記の製造方法は、鋼板11に塗料状の樹脂7を塗布するものであったが、この樹脂塗布工程S1に代えて、シート状に成形された樹脂7を貼付する樹脂貼付工程を備えたものであってもよい。
シート状の樹脂7を貼付する場合、例えばラミネート設備を用いてシート状の樹脂7を鋼板11に貼付する。その際、接着テープや接着剤を使用して樹脂7を鋼板11に仮固定するとよい。また、樹脂7を覆うようにパッチ鋼板13を設置する際にも、接着テープや接着剤を使用して樹脂7とパッチ鋼板13を仮固定するとよい。もっとも、両面テープのようにシート状の樹脂7自体に初期粘着力がある場合には、上記接着テープや接着剤を使用する必要はない。
【0073】
なお、樹脂7を塗布する場合の塗布厚は、均一な厚さで樹脂7を塗布可能な0.2mm以上とするのが好ましいと説明したが、シート状の樹脂7を貼付する場合には、樹脂7の厚さはこの限りではない。本発明における樹脂7の厚みの下限は、均一に樹脂7を形成できる厚さであればよく、シート状の樹脂7の場合、そのシート厚は20μm程度でもよい。なお、樹脂7のシート厚の上限は、コストの観点から塗布の場合と同じく3mm以下とするのが好ましい。
【0074】
シート状の樹脂7はある程度の硬さを有しているので、塗料状の樹脂7と比べて、プレス成形中に漏出が生じにくいが、仮焼きすることでプレス成形工程S7に適した硬さ(はみ出しが生じない硬さ)に調整できる。もっとも、シート状の樹脂7が、プレス成形に耐えられる(樹脂7がはみ出さない)硬さを有し、プレス成形中に破壊されない場合には、仮焼き工程S5を省略しても良い。
【0075】
また、図1の例は、サンドイッチ構造部材15を部品形状にプレス成形するプレスライン内で樹脂塗布工程S1~仮焼き工程S5を行うものであったが、これらの工程は必ずしも同じプレスライン内で実施する必要はない。例えば、サンドイッチ構造部材15を製造する製造ラインと、サンドイッチ構造部材15を部品形状にプレス成形するプレスラインとを別に設けてもよい。その場合、サンドイッチ構造部材15の製造ラインで樹脂塗布工程S1~仮焼き工程S5を実施した後、製造されたサンドイッチ構造部材15を移送装置でプレスラインに移送し、プレス成形工程S7を実施するとよい。
【0076】
また、溶接工程S9も、必ずしもプレスライン内で実施する必要はない。例えば、プレス成形工程S7を実施した後、図1(e)の部品を組立ラインに移送し、組立ラインでインナ部品5を接合する際に、溶接工程S9を実施してもよい。
【実施例0077】
本発明の製造方法による作用効果について、具体的な実施例に基づいて説明する。
本実施例では、引張強度1470MPa級の板厚1.4mmの鋼板11に対し、図5(a)又は図6(a)に示すように樹脂7を塗布又は貼付した後、図5(b)又は図6(b)に示すように引張強度270MPa級の板厚0.4mmのパッチ鋼板13を設置してサンドイッチ構造部材15を形成した。上記樹脂7の塗布厚(又はシート厚)は0.2~3mmの範囲で設定した。
そして、このサンドイッチ構造部材15を各種加熱法及び各熱処理条件(加熱温度140~210℃、加熱時間4~35秒)で仮焼きした。加熱方法は、通電加熱(通電)、高温炉(オーブン)、型加熱(プレス成形工程に用いる成形金型を通電加熱又は高周波誘導加熱により所定温度に加熱)のいずれか、とした。
なお、図5は、鋼板11全体(プレス成形後に溶接する部分を除く)に樹脂7を塗布した例(表1中の樹脂・範囲「全」)であり、図6は、鋼板11におけるアウタ部品3の肩部3bになり得る部位のみに樹脂7を塗布した例(表1中の樹脂・範囲「肩部」)である。
【0078】
上記仮焼きしたサンドイッチ構造部材15を、図2に示すアウタ部品3の部品形状にプレス成形し、そのプレス成形性を評価した。ここでは、プレス成形後のアウタ部品3及びパッチ9からの樹脂7のはみだし有無を観察した。
【0079】
樹脂7のはみだしの評価に関しては、鋼板から樹脂が全くはみ出さなかったもの、及び若干はみ出したものの金型に樹脂が付着しなかったものを「なし」、鋼板から樹脂が大きくはみ出して金型に樹脂が付着したものを「あり」とした。
具体的には、サンドイッチ構造部材の鋼板エッジから、成形前の鋼板厚+樹脂厚+パッチ鋼板厚の合計の板厚(mm)の0.5倍の長さと同半径(mm)以下の半円弧形態のはみだしは「なし」と評価し、製造上問題となるはみ出しと区別した。
【0080】
その後、プレス成形したアウタ部品3にインナ部品5を溶接して図2の自動車用部品1に組み立てた後、170℃で15分間加熱し、本焼付けを実施した。そして、本焼付けを行った自動車用部品1に軸圧壊試験を実施した。
【0081】
軸圧壊試験は図7に示すように、自動車用部品1の軸方向に試験速度17.8m/sで荷重を入力して試験体長を200mmから120mmまで80mm軸圧壊変形させたときの荷重-ストローク曲線を測定し、吸収エネルギーを求めた。また、高速度カメラ撮影により変形状態とアウタ部品3の破断発生の有無を観察した。
各評価部品の構成、仮焼きの熱処理条件、及びプレス成形性の評価結果と軸圧壊試験の評価結果を表1に示す。
【0082】
【表1】
【0083】
発明例Aはディスペンサーで樹脂7を0.2mm厚で図5(a)の範囲で塗布し、パッチ9を重ねた後に通電加熱200℃で13秒間仮焼きした例である。試験体重量は1.17kgでプレス後の樹脂はみだしはなかった。また、軸圧壊試験の結果、母材(アウタ部品3)破断はなく、吸収エネルギーは13.4kJとなりEA/重量(単位重量当たりのエネルギー吸収量)は11.5kJ/kgであった。
【0084】
発明例Bは1mm厚のシート状の樹脂7を接着テープで図5(a)の範囲で仮止めし、パッチ9を重ねた後に150℃のオーブンで5秒間仮焼きした例である。試験体重量は1.21kgでプレス後の樹脂はみだしはなかった。また、軸圧壊試験の結果、母材破断はなく、吸収エネルギーは15.5kJとなりEA/重量は12.8kJ/kgであった。
【0085】
発明例Cはディスペンサーで樹脂7を3mm厚で図5(a)の範囲で塗布し、パッチ9を重ねた後に200℃に加熱した金型で25秒間仮焼きした例である。試験体重量は1.33kgでプレス後の樹脂はみだしはなかった。また、軸圧壊試験の結果、母材破断はなく、吸収エネルギーは18.9kJとなりEA/重量は14.2kJ/kgであった。
【0086】
発明例Dはディスペンサーで樹脂7を1mm厚で図6(a)の範囲で塗布し、パッチ9を重ねた後に通電加熱170℃で8秒間仮焼きした例である。試験体重量は1.21kgでプレス後の樹脂はみだしはなかった。また、軸圧壊試験の結果、母材破断はなく、吸収エネルギーは15.5kJとなりEA/重量は12.8kJ/kgであった。
【0087】
発明例Eはディスペンサーで樹脂7を0.2mm厚で図5(a)の範囲で塗布し、パッチ9を重ねた後に通電加熱140℃で6秒間仮焼きした例である。試験体重量は1.17kgでプレス後の樹脂はみだしはなかった。また、軸圧壊試験の結果、母材破断はなかった。吸収エネルギーは、発明例Aよりも低下したが、後述する比較例A(樹脂7がない例)よりも高い11.9kJとなりEA/重量は10.2kJ/kgであった。
【0088】
発明例Fはディスペンサーで樹脂7を0.2mm厚で図5(a)の範囲で塗布し、パッチ9を重ねた後に通電加熱210℃で35秒間仮焼きした例である。試験体重量は1.17kgでプレス後の樹脂はみだしはなかった。また、軸圧壊試験の結果、母材破断もなかった。吸収エネルギーは、後述する比較例A(樹脂7がない例)よりも高い13.0kJとなりEA/重量は11.1kJ/kgであった。
【0089】
発明例Gはディスペンサーで樹脂7を0.2mm厚で図5(a)の範囲で塗布し、パッチ9を重ねた後に通電加熱170℃で4秒間仮焼きした例である。試験体重量は1.17kgでプレス後の樹脂はみだしはなかった。また、軸圧壊試験の結果、母材破断はなかった。吸収エネルギーは、後述する比較例A(樹脂7がない例)よりも高い12.0kJとなりEA/重量は10.3kJ/kgであった。
【0090】
発明例Hはディスペンサーで樹脂7を0.2mm厚で図5(a)の範囲で塗布し、パッチ9を重ねた後に通電加熱170℃で15秒間仮焼きした例である。試験体重量は1.17kgでプレス後の樹脂はみだしはなかった。また、軸圧壊試験の結果、母材破断はなかった。吸収エネルギーは、後述する比較例A(樹脂7がない例)よりも高い12.9kJとなりEA/重量は11.0kJ/kgであった。
【0091】
比較例Aは樹脂7がない例である。サンドイッチ構造を有さない比較例Aの場合、軸圧壊試験の結果、母材破断が認められた。また、吸収エネルギーは10.7kJとなりEA/重量は9.2kJ/kgであった。
【0092】
比較例Bは樹脂7が存在するものの仮焼きを行わない例である。塗布したままで仮焼きされてない樹脂はプレス加工でのはみ出しが著しかった。また流動性の高い樹脂が周囲に飛散し装置や測定機器に損傷を与えることが懸念されたため軸圧壊試験は実施しなかった。
【0093】
比較例Cは、ディスペンサーで樹脂7を0.2mm厚で図5(a)の範囲で塗布し、パッチ9を重ねた後にオーブン170℃で900秒(15分)本焼付した例である。試験体重量は1.17kgでプレス後の樹脂はみだしはなかった。しかし、軸圧壊試験の結果、母材破断が認められ、比較例Aと比較して吸収エネルギーの上昇はほとんど認められなかった。
【0094】
比較例Dはディスペンサーで樹脂7を0.2mm厚で図5(a)の範囲で塗布し、パッチ9を重ねた後に通電加熱170℃で45秒間仮焼きした例である。試験体重量は1.17kgでプレス後の樹脂はみだしはなかった。また、軸圧壊試験の結果、母材破断が認められ、比較例Aと比較して吸収エネルギーの上昇はほとんど認められなかった。
【0095】
上記のように、発明例A~Hでは、いずれもプレス成形中の樹脂7のはみだしは発生しなかった。また、プレス成形時の樹脂7の破断有無は目視評価できないものの、発明例A~Hはいずれも比較例A~Dより高い吸収エネルギー性能を示した。
【0096】
また、表1の各例の仮焼き後の樹脂の弾性率と延性を以下の方法で調べた。
まず、2枚の鋼板の隙間を0.2mmに調整し、その間に未硬化の樹脂を入れ、表1の各仮焼き条件で加熱したのち、鋼板を剥がして0.2mm厚の平板上樹脂を作製した。
続いて、当該平板状樹脂をダンベル形状(JIS6号ダンベル)に加工して試験片を作製し、引張速度2mm/minで樹脂が破断するまで引張試験を行い、樹脂破断時の評線間伸び量を初期の標線間距離(=20mm)で除し、百分率にして伸び率を算出し、これを当該試験片の延性とした。
また、上記引張試験によって得られた応力-ひずみ曲線から、弾性域であるひずみ量0と0.005間の応力(引張強度)の傾きを算出し、これを当該試験片の弾性率とした。
その結果を表1に併せて示す。
【0097】
上記のように、各仮焼き条件における仮焼き後の樹脂の弾性率と延性をそれぞれ計測した結果、弾性率が45MPa以上、かつ延性が10%以上であることがわかった。
即ち、仮焼き後の樹脂の物性が、弾性率45MPa以上、かつ延性10%以上であれば、表1に示すように、サンドイッチ構造部材をプレス成形する際に樹脂のはみ出しがなく、かつ軸圧壊試験で高い吸収エネルギー性能を示す(樹脂破断が生じない)ことがわかった。
【0098】
なお、比較例B~Dをみると、いずれも、弾性率45MPa以上かつ延性10%以上という条件を満たしておらず、弾性率が45MPa未満の場合には樹脂のはみ出しが生じ、延性が10%未満の場合には樹脂の破断が生じた。したがって、弾性率又は延性の一方でも条件を満たしていない場合には、プレス成形時の樹脂のはみ出し及び破断を共に防ぐことができない。
【0099】
以上のように、仮焼き後の樹脂の物性が、弾性率45MPa以上、かつ延性10%以上となるようにサンドイッチ構造部材を仮焼きしてからプレス成形を行うことで、プレス成形時の樹脂のはみ出し及び破断を抑制できることが分かった。
【0100】
なお、引張試験に用いた試験片は、本発明が規定する樹脂厚(0.2mm~3mm)の範囲内で最も樹脂厚が薄い、即ち最も延性が小さくなると想定される条件で作製したものである。したがって、本発明が規定する樹脂厚の範囲内であれば、同様の加熱条件で仮焼きしたときに表1に記載の延性を下回ることはなく、樹脂の破断も生じないと考えられる。
【0101】
ところで、前述した特許文献6には、樹脂を部分的に仮硬化させることで重力による樹脂の垂れを抑止する技術が示されている。そこで、このような技術によってもプレス成形時の樹脂のはみ出しを抑制できるかについて検討したので、その結果を表2に示す。
【0102】
【表2】
【0103】
表2の比較例E~Hは、特許文献6の技術にかかる比較例であり、樹脂厚、樹脂を設ける範囲、加熱温度、及び加熱時間を表1の発明例A~Dと同様とし、樹脂を硬化させる範囲のみを限定したものである。特許文献6では、組付け姿勢において下端領域となる部分の樹脂を仮硬化するとされているが、比較例E~Hでは、図8図9に示すように、塗布(貼付)した樹脂の外周部分の樹脂を仮硬化させた。
なお、図8は、鋼板11全体(プレス成形後に溶接する部分を除く)に樹脂7を塗布した例(表2中の樹脂・範囲「全」)であり、図9は、鋼板11におけるアウタ部品3の肩部3bになり得る部位のみに樹脂7を塗布した例(表2中の樹脂・範囲「肩部」)である。
また、加熱法としては、特許文献6を参考に、高周波誘導加熱を用いた。
【0104】
上記のように樹脂7の外周部分のみを仮硬化させたサンドイッチ構造部材15を、図2に示すアウタ部品3の部品形状にプレス成形し、そのプレス成形性、即ちプレス成形後のアウタ部品3及びパッチ9からの樹脂7のはみだし有無を評価した。
【0105】
その結果、表2に示したように、比較例E~Hのいずれもプレス成形時の樹脂のはみ出しを抑制することはできなかった。
これは、プレス成形によって樹脂に強い圧力が加わり、仮硬化した部分が内圧に耐えることができずに破壊したためと考えられる。
【0106】
以上のように、特許文献6の技術は、重力による樹脂の垂れを防止するのには有効であるが、プレス成形時の強い加圧力によって生じる樹脂のはみ出しを防止することはできない。
よって、特許文献6の技術と比べても、本発明はサンドイッチ構造を有する自動車部品を製造する方法として優れていることが示された。
【符号の説明】
【0107】
1 自動車用部品
3 アウタ部品
3a 天板部
3b 肩部
3c 縦壁部
3d フランジ部
5 インナ部品
7 樹脂
9 パッチ
11 鋼板
13 パッチ鋼板
15 サンドイッチ構造部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9