(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025026357
(43)【公開日】2025-02-21
(54)【発明の名称】液晶ポリエステル樹脂組成物およびそれからなる成形品
(51)【国際特許分類】
C08L 67/00 20060101AFI20250214BHJP
C08K 7/00 20060101ALI20250214BHJP
C08G 63/60 20060101ALI20250214BHJP
【FI】
C08L67/00
C08K7/00
C08G63/60
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024119179
(22)【出願日】2024-07-25
(31)【優先権主張番号】P 2023129066
(32)【優先日】2023-08-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】田邉 純樹
(72)【発明者】
【氏名】小西 彬人
(72)【発明者】
【氏名】中川 裕史
(72)【発明者】
【氏名】梅津 秀之
【テーマコード(参考)】
4J002
4J029
【Fターム(参考)】
4J002CF181
4J002DJ056
4J002FA116
4J002FD016
4J002GQ00
4J029AA06
4J029AB07
4J029AC02
4J029AE01
4J029BB05A
4J029BB10A
4J029CB05A
4J029CB06A
4J029EB05A
4J029EC06A
4J029HA01
4J029HB01
(57)【要約】
【課題】高温・高剪断条件下で成形時の耐糸引き性に優れる液晶ポリエステル樹脂組成物を得ること。
【解決手段】液晶ポリエステル樹脂(A)の全構造単位100モル%に対して、芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する構造単位を20~80モル%、芳香族ジオールに由来する構造単位を10~40モル%、芳香族ジカルボン酸に由来する構造単位を10~40モル%含む液晶ポリエステル樹脂(A)100重量部に対して、無機充填材として板状充填材(B)10~100重量部を含有する液晶ポリエステル樹脂組成物であって、液晶ポリエステル樹脂組成物中の板状充填材(B)の粒径が一定の範囲に制御されている液晶ポリエステル樹脂組成物。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液晶ポリエステル樹脂(A)の全構造単位100モル%に対して、芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する構造単位を20~80モル%、芳香族ジオールに由来する構造単位を10~40モル%、芳香族ジカルボン酸に由来する構造単位を10~40モル%含む液晶ポリエステル樹脂(A)100重量部に対して、無機充填材として板状充填材(B)10~100重量部を含有する液晶ポリエステル樹脂組成物であって、液晶ポリエステル樹脂組成物中の板状充填材(B)の粒径が以下の要件(α)を満たす液晶ポリエステル樹脂組成物。
要件(α):液晶ポリエステル樹脂組成物中における板状充填材(B)の累積粒径分布曲線より得られる累積度数70%の粒径(D70)が25~45μmであり、累積度数30%の粒径(D30)が15~25μmである。
【請求項2】
液晶ポリエステル樹脂(A)が下記構造単位(I)を含む液晶ポリエステル樹脂であって、下記式(a)を満たす請求項1に記載の液晶ポリエステル樹脂組成物。
1≦[I]≦20・・・(a)
([I]は、液晶ポリエステル樹脂(A)の全構造単位100モル%に対する、下記各構造単位(I)の含有量(モル%)を示す。)
【化1】
【請求項3】
液晶ポリエステル樹脂(A)が下記構造単位(I)および(II)を含む液晶ポリエステル樹脂であって、下記式(b)および(c)を満たす請求項1に記載の液晶ポリエステル樹脂組成物。
0.01≦[II]≦5 ・・・(b)
[II]/[I]<1 ・・・(c)
([I]および[II]は、液晶ポリエステル樹脂(A)の全構造単位100モル%に対する、下記各構造単位(I)および(II)の含有量(モル%)を示す。)
【化2】
【請求項4】
液晶ポリエステル樹脂(A)が下記構造単位(II)および(III)を含む液晶ポリエステルであって、以下式(d)を満たす請求項1に記載の液晶ポリエステル樹脂組成物。
0.92<[III]/([II]+[III])<1 ・・・(d)
([II]および[III]は、液晶ポリエステル樹脂(A)の全構造単位100モル%に対する、下記各構造単位(II)および(III)の含有量(モル%)を示す。)
【化3】
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載の液晶ポリエステル樹脂組成物からなる成形品。
【請求項6】
成形品が、コネクタ、リレー、スイッチ、コイルボビン、およびカメラモジュールのアクチュエータ部品からなる群から選択されるいずれかである請求項5に記載の成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶ポリエステル樹脂組成物およびそれからなる成形品に関する。より詳しくは、液晶ポリエステル樹脂組成物、ならびにそれを用いて得られる成形品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液晶ポリエステル樹脂は、耐熱性、流動性および寸法安定性に優れるため、それらの特性が要求される電気・電子部品に用いられている。近年、スマートフォン等の小型化により、部品の高集積度化、薄肉化、低背化等が一層求められており、流動性を高めた液晶ポリエステル樹脂が求められる。
【0003】
流動性や耐熱性を高めるため、配向しやすい板状充填材を配合した液晶ポリエステル樹脂組成物が開示されており、例えば、参考文献1では、末端基質を制御した液晶ポリエステル樹脂に、アスペクト比と平均粒径が制御されたマイカを配合することで、種々物性が向上した液晶ポリエステル樹脂組成物が得られることを開示している。参考文献2には、pHと粒径が制御された板状無機フィラーを液晶ポリエステル樹脂に配合することによって、ブリスター性と耐熱性が向上することが示されている。また、参考文献3では、特定の構造単位を有する液晶ポリエステル樹脂に、板状充填材を配合することで種々特性が向上することを開示している。一方、近年の部品形状の複雑さから、薄肉部位を充填するため、高温かつ高剪断条件で射出成形することが増えてきており、また、生産性を高めるためにハイサイクルで成形されることがあるが、従来技術では、前述のような過酷な条件で成形した場合、成形時の糸引き(金型の型開き時、樹脂がスプルー頂点から糸状に伸びる現象)が生じてしまい、生産性の低下が課題となるため、耐糸引き性に優れる液晶ポリエステル樹脂組成物が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2013/128887号
【特許文献2】国際公開第2017/051883号
【特許文献3】国際公開第2018/101214号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
流動性を確保するために液晶ポリエステル樹脂を低粘度化すると、成形時に空気を巻き込みやすくなり、成形機の先端から樹脂を押し出してしまい、糸引きしやすくなる。流動性を確保するために高温条件かつ高射出速度(高剪断)条件下で成形した場合も同様である。また、流動性を高めるために、液晶ポリエステル樹脂のフィラーとして、しばしば板状充填材が使用されるが、板状充填材は配向性が良いため、成形品のスプルー頂点から成形機のノズル先端付近に存在する樹脂も高配向となるため、高温・高剪断かつハイサイクル条件とした場合、金型開き時に高配向部分が糸状に伸びやすくなる。すなわち、流動性と耐糸引き性はトレードオフの関係である。
【0006】
本発明の課題は、高温・高剪断でハイサイクル条件で射出成形しても糸引きが発生しにくい液晶ポリエステル樹脂組成物およびそれからなる成形品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、液晶ポリエステル樹脂の全構造単位100モル%に対して、芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する下記構造単位を20~80モル%、芳香族ジオールに由来する構造単位を10~40モル%、芳香族ジカルボン酸に由来する構造単位を10~40モル%含む液晶ポリエステル樹脂と板状充填材からなる液晶ポリエステル樹脂組成物であって、組成物中の板状充填材の粒径を特定の範囲に制御することで、高温成形時の耐糸引き性に優れることを見出し、本発明に到達した。
【0008】
すなわち本発明は以下のとおりである:
(1)液晶ポリエステル樹脂(A)の全構造単位100モル%に対して、芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する構造単位を20~80モル%、芳香族ジオールに由来する構造単位を10~40モル%、芳香族ジカルボン酸に由来する構造単位を10~40モル%含む液晶ポリエステル樹脂(A)100重量部に対して、無機充填材として板状充填材(B)10~100重量部を含有する液晶ポリエステル樹脂組成物であって、液晶ポリエステル樹脂組成物中の板状充填材(B)の粒径が以下の要件(α)を満たす液晶ポリエステル樹脂組成物。
要件(α):液晶ポリエステル樹脂組成物中における板状充填材(B)の累積粒径分布曲線より得られる累積度数70%の粒径(D70)が25~45μmであり、累積度数30%の粒径(D30)が15~25μmである。
(2)液晶ポリエステル樹脂(A)が下記構造単位(I)を含む液晶ポリエステル樹脂であって、下記式(a)を満たす(1)に記載の液晶ポリエステル樹脂組成物。
1≦[I]≦20・・・(a)
([I]は、液晶ポリエステル樹脂(A)の全構造単位100モル%に対する、下記各構造単位(I)の含有量(モル%)を示す。)
【0009】
【0010】
(3)液晶ポリエステル樹脂(A)が下記構造単位(I)および(II)を含む液晶ポリエステル樹脂であって、下記式(b)および(c)を満たす(1)または(2)に記載の液晶ポリエステル樹脂組成物。
0.01≦[II]≦5 ・・・(b)
[II]/[I]<1 ・・・(c)
([I]および[II]は、液晶ポリエステル樹脂(A)の全構造単位100モル%に対する、下記各構造単位(I)および(II)の含有量(モル%)を示す。)
【0011】
【0012】
(4)液晶ポリエステル樹脂(A)が下記構造単位(II)および(III)を含む液晶ポリエステルであって、以下式(d)を満たす(1)~(3)のいずれかに記載の液晶ポリエステル樹脂組成物。
0.92<[III]/([II]+[III])<1 ・・・(d)
([II]および[III]は、液晶ポリエステル樹脂(A)の全構造単位100モル%に対する、下記各構造単位(II)および(III)の含有量(モル%)を示す。)
【0013】
【0014】
(5)(1)~(4)のいずれかに記載の液晶ポリエステル樹脂組成物からなる成形品。
(6)成形品が、コネクタ、リレー、スイッチ、コイルボビン、およびカメラモジュールのアクチュエータ部品からなる群から選択されるいずれかである(5)に記載の成形品。
【発明の効果】
【0015】
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物は、高温成形時の耐糸引き性に優れる。特に、小型の電気・電子部品用途などを成形する際に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】液晶ポリエステル樹脂組成物中の板状充填材の累積粒径分布曲線を示す概要図である。
【
図2】実施例でゲート詰まり評価に用いた成形品の概略図である。
【0017】
P:斜視図、Q:側面図、R:上面図
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0019】
<液晶ポリエステル樹脂(A)>
液晶ポリエステル樹脂(A)は、異方性溶融相を形成するポリエステルである。このようなポリエステル樹脂としては、例えば、後述するオキシカルボニル単位、ジオキシ単位、ジカルボニル単位などから異方性溶融相を形成するよう選ばれた構造単位から構成されるポリエステルが挙げられる。
【0020】
次に、液晶ポリエステル樹脂(A)を構成する構造単位について説明する。
本発明の液晶ポリエステル樹脂(A)は、オキシカルボニル単位として、液晶ポリエステル樹脂(A)の全構造単位100モル%に対して、芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する構造単位を20~80モル%含む。20%未満であると、液晶性が損なわれるため溶融成形が困難となる。25モル%以上が好ましく、30モル%以上がより好ましい。一方で、80モル%より多いと、溶融成形が困難となる。75モル%以下が好ましく、70モル%以下がより好ましく、55モル%以下がさらに好ましい。
【0021】
本発明の液晶ポリエステル樹脂(A)は、芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する構造単位として、構造単位(I)を2~20モル%含むことが好ましい。構造単位(I)は6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸に由来する構造単位である。構造単位(I)はナフタレン構造であり嵩高く、分子鎖の直線性を乱すため、加熱滞留時において、液晶ポリエステル樹脂(A)の分子鎖同士の絡み合いを促進するため、高温成形時の耐糸引き性が向上する。耐糸引き性の観点から、2.5モル%以上が好ましく、3モル%以上がより好ましい。また、15モル%以下が好ましく、10モル%以下がより好ましい。
【0022】
【0023】
本発明の液晶ポリエステル樹脂(A)は、耐糸引きに優れる観点から、芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する構造単位として、構造単位(IV)を15~75モル%含むことが好ましい。25モル%以上がより好ましく、35モル%以上がさらに好ましい。また、65モル%以下が好ましく、55モル%以下がより好ましい。構造単位(IV)は、p-ヒドロキシ安息香酸に由来する構造単位である。
【0024】
【0025】
その他のオキシカルボニル単位の具体例としては、m-ヒドロキシ安息香酸などに由来する構造単位を使用することができる。
【0026】
本発明の液晶ポリエステル樹脂(A)は、ジカルボニル単位として、液晶ポリエステル樹脂(A)の全構造単位100モル%に対して、芳香族ジカルボン酸に由来する構造単位を10~40モル%含む。10モル%未満であると、液晶性が損なわれるため溶融成形が困難となる。15モル%以上が好ましく、20モル%以上がより好ましい。一方で、40モル%より多いと、溶融成形が困難となる。また、耐糸引き性の観点から35モル%以下が好ましく、30モル%以下がより好ましい。芳香族ジカルボン酸に由来する構造単位としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルジカルボン酸、3,3’-ジフェニルジカルボン酸、2,2’-ジフェニルジカルボン酸、1,2-ビス(フェノキシ)エタン-4,4’-ジカルボン酸、1,2-ビス(2-クロロフェノキシ)エタン-4,4’-ジカルボン酸、4,4’-ジフェニルエーテルジカルボン酸などに由来する構造単位が挙げられる。入手性に優れ、成形可能な温度範囲に優れる観点から、テレフタル酸、イソフタル酸に由来する構造単位を使用することが好ましい。
【0027】
本発明の液晶ポリエステル樹脂(A)は、高温成形時の耐糸引き性に優れる観点から、液晶ポリエステル樹脂(A)の全構造単位100モル%に対し、芳香族ジカルボン酸に由来する構造単位として、構造単位(II)を0.01モル%以上含むことが好ましく、0.05モル%以上含むことが好ましく、0.1モル%以上含むことがさらに好ましい。また、構造単位(II)を5モル%以下含むことが好ましく、3モル%以下がより好ましく、1.5モル%以下がさらに好ましい。構造単位(II)はイソフタル酸に由来する構造単位である。構造単位(II)は屈曲した構造であり、分子鎖の直線性を乱すため、加熱滞留時において、液晶ポリエステル樹脂(A)の分子鎖同士の絡み合いを促進し、高温成形時の耐糸引き性が向上する。上記の好ましい範囲とすることで本発明の効果を際立たせることができる。
【0028】
【0029】
本発明の液晶ポリエステル樹脂(A)は、高温成形時の耐糸引き性に優れる観点から、液晶ポリエステル樹脂(A)の全構造単位100モル%に対し、芳香族ジカルボン酸に由来する構造単位として、構造単位(III)を5モル%以上含むことが好ましく、10モル%以上含むことが好ましく、15モル%以上含むことがさらに好ましい。また、35モル%以下が好ましく、30モル%以下がより好ましく、25モル%以下がさらに好ましい。構造単位(III)はテレフタル酸に由来する構造単位である。
【0030】
【0031】
その他のジカルボニル単位として、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジオン酸、ヘキサヒドロテレフタル酸などの脂肪族ジカルボン酸に由来する構造単位;1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環式ジカルボン酸に由来する構造単位を、本発明の効果を損なわない範囲で使用することができる。
【0032】
本発明の液晶ポリエステル樹脂(A)は、高温成形時の耐糸引き性に優れる観点から液晶ポリエステル樹脂(A)の全構造単位100モル%に対する、前記構造単位(I)と構造単位(II)の含有量の比率([II]/[I])が1未満であることが好ましい。この範囲とすることで、構造単位(II)はポリマー鎖中に十分に取り込まれ、分子鎖の直線性を乱すため、加熱滞留時において、液晶ポリエステル樹脂(A)の分子鎖同士の絡み合いを促進し、高温成形時の耐糸引き性が向上する。一方、[II]/[I]の下限は特に限定されるものではなく、0.005以上であればよい。[II]/[I]は0.01以上が好ましく、0.05以上がより好ましい。
【0033】
本発明の液晶ポリエステル樹脂(A)は、高温成形時の耐糸引き性に優れる観点から、液晶ポリエステル樹脂(A)の全構造単位100モル%に対する、構造単位(II)と(III)の含有量の関係が、下記式(d)を満たすことが好ましい。この範囲とすることで、構造単位(II)はポリマー鎖中に十分に取り込まれ、分子鎖の直線性を乱すため、加熱滞留時において、液晶ポリエステル樹脂(A)の分子鎖同士の絡み合いを促進し、高温成形時の耐糸引き性が向上する。
0.92<[III]/([II]+[III])<1 ・・・(d)
([II]および[III]は、液晶ポリエステル樹脂(A)の全構造単位100モル%に対する、下記各構造単位(II)および(III)の含有量(モル%)を示す。)
本発明の液晶ポリエステル樹脂(A)は、ジオキシ単位として、液晶ポリエステル樹脂(A)の全構造単位100モル%に対して、芳香族ジオールに由来する構造単位を10~40モル%含む。10モル%未満であると、溶融成形性が困難となる。15モル%以上が好ましく、20モル%以上がより好ましい。一方で、40モル%より多いと、耐糸引き性が低下する。35モル%以下が好ましく、30モル%以下がより好ましい。芳香族ジオールに由来する構造単位としては、例えば、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノン、レゾルシノール、t-ブチルハイドロキノン、フェニルハイドロキノン、クロロハイドロキノン、2,6-ジヒドロキシナフタレン、2,7-ジヒドロキシナフタレン、3,4’-ジヒドロキシビフェニル、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、4,4’-ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4’-ジヒドロキシベンゾフェノンなどに由来する構造単位が挙げられる。
【0034】
本発明の液晶ポリエステル樹脂は、高温成形時の耐糸引き性に優れる観点から、液晶ポリエステル樹脂(A)の全構造単位100モル%に対し、芳香族ジオールに由来する構造単位として、構造単位(V)を2モル%以上含むことが好ましく、5モル%以上含むことが好ましく、8モル%以上含むことがさらに好ましい。また、20モル%以下が好ましく、18モル%以下がより好ましく、16モル%以下がさらに好ましい。構造単位(V)はハイドロキノンに由来する構造単位である。
【0035】
【0036】
本発明の液晶ポリエステル樹脂(A)は、高温成形時の耐糸引き性に優れる観点から、液晶ポリエステル樹脂(A)の全構造単位100モル%に対し、芳香族ジオールに由来する構造単位として、構造単位(VI)を2モル%以上含むことが好ましく、4モル%以上含むことが好ましく、6モル%以上含むことがさらに好ましい。また、20モル%以下が好ましく、17モル%以下がより好ましく、14モル%以下がさらに好ましい。構造単位(VI)は4,4’-ジヒドロキシビフェニルに由来する構造単位である。
【0037】
【0038】
その他のジオキシ単位として、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコールなどの脂肪族ジオールに由来する構造単位;1,4-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノールなどの脂環式ジオールに由来する構造単位を、本発明の効果を損なわない範囲で使用することができる。
【0039】
本発明の液晶ポリエステル樹脂(A)は、上記構造単位(I)~(VI)を上述の範囲で全て含むことにより、高温成形時の耐糸引き性がさらに優れるため好ましい。また、本発明の効果を損なわない観点から、前記構造単位(I)~(VI)の合計量が99モル%以上であることが好ましく、99.5モル%以上が好ましく、100モル%がより好ましい。
【0040】
また、液晶ポリエステル樹脂(A)には、上記構造単位(I)~(VI)に加えて、p-アミノ安息香酸、p-アミノフェノールなどから生成した構造単位を、本発明の効果を損なわない範囲で使用することができる。
【0041】
上記の各構造単位を構成する原料となるモノマーは、各構造単位を形成しうる構造であれば特に限定されない。また、そのようなモノマーの水酸基のアシル化物、カルボキシル基のエステル化物、酸ハロゲン化物、酸無水物などのカルボン酸誘導体などが使用されてもよい。
【0042】
液晶ポリエステル樹脂(A)について、各構造単位の含有量の算出法を以下に示す。まず、液晶ポリエステル樹脂を粉砕後、水酸化テトラメチルアンモニウムを添加し、島津製GCMS-QP5050Aを用いて、熱分解GC/MS測定を行うことによって求めることができる。検出されなかった、あるいは検出限界以下の構造単位の含有量は0モル%として計算する。
【0043】
液晶ポリエステル樹脂(A)の融点(Tm)は、耐熱性の観点から、280℃以上が好ましく、300℃以上がより好ましく、320℃以上がさらに好ましい。一方、加工性の観点から、液晶ポリエステル樹脂の融点(Tm)は、370℃以下が好ましく、360℃以下がより好ましく、350℃以下がさらに好ましい。
【0044】
液晶ポリエステル樹脂(A)の溶融粘度は、耐熱性の観点から、3Pa・s以上が好ましく、5Pa・s以上がより好ましい。一方、流動性の観点から、液晶ポリエステル樹脂(A)の溶融粘度は、50Pa・s以下が好ましく、30Pa・s以下がより好ましく、20Pa・s以下がさらに好ましい。
【0045】
なお、この溶融粘度は、液晶ポリエステル樹脂(A)の融点(Tm)+20℃の温度において、かつ、せん断速度1000/秒の条件下で、高化式フローテスターによって測定した値である。
【0046】
<液晶ポリエステル樹脂(A)の製造方法>
本発明の液晶ポリエステル樹脂(A)を製造する方法は、構造単位(I)~(VI)を与えるモノマーを、上述の範囲の含有量で共重合して得る方法や、構造単位(I)~(VI)を上述の範囲外の含有量で共重合して得られた、2種類以上の液晶ポリエステル樹脂をブレンドして、構造単位(I)~(VI)を上述の範囲とする方法があるが、ブレンド前の液晶ポリエステル樹脂の性質を引き継がずに、耐糸引き性に優れる観点から、構造単位(I)~(VI)を与えるモノマーを、上述の範囲の含有量で共重合して得る方法が好ましい。
【0047】
本発明の液晶ポリエステル樹脂(A)を製造する方法は、特に制限はなく、公知のポリエステルの重縮合法に準じて製造できるが、耐糸引き性に優れる観点から、p-ヒドロキシ安息香酸に由来する構造単位、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸に由来する構造単位、4,4’-ジヒドロキシビフェニルに由来する構造単位、ハイドロキノンに由来する構造単位、テレフタル酸およびイソフタル酸に由来する構造単位からなる液晶ポリエステル樹脂を例とすると、p-ヒドロキシ安息香酸、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノン、テレフタル酸およびイソフタル酸に無水酢酸を反応させて、フェノール性水酸基をアセチル化した後、脱酢酸重合することによって液晶ポリエステル樹脂を製造する方法が好ましい。
【0048】
<板状充填材(B)>
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物は、前述の液晶ポリエステル樹脂(A)100重量部に対して板状充填材(B)を10~100重量部含む。10重量部より少ないと耐糸引き性が低下し、100重量部より多いと成形加工性が低下する。高温成形時の耐糸引き性に優れる観点から、液晶ポリエステル樹脂(A)100重量部に対して、板状充填材(B)は15重量部以上が好ましく、20重量部以上がより好ましい。また、80重量部以下が好ましく、60重量部以下がより好ましい。
【0049】
本発明で使用される板状充填材(B)は、例えば、マイカ、タルク、カオリン、ガラスフレーク、クレー、二硫化モリブデン、およびワラステナイトなどが挙げられる。流動性と高温成形時の耐糸引き性に優れる観点からマイカが特に好ましい。
【0050】
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物中の板状充填材(B)は、累積粒径分布曲線より得られる累積度数70%の粒径(以下、単にD70と記載することがある)が25~45μmであり、累積度数30%の粒径(以下、単にD30と記載することがある)が15~25μmであることを満たすことが特徴である。
【0051】
図1には、液晶ポリエステル樹脂組成物中の板状充填材の累積粒径分布曲線の概要図を示す。
図1の実線で示す累積粒径分布曲線が、本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物中の板状充填材の累積分布曲線であるが、D70およびD30を前記の範囲内とすることで、点線で示す従来の組成物と比較すると粒度分布が広くなることが分かる。本発明のように、幅広い粒径の板状充填材を液晶ポリエステル組成物中に内在させることで、成形品中での液晶ポリエステル樹脂の配向をほど良く乱すことができ、特に成形品のスプルー頂点から成形機のノズル先端付近に存在する樹脂の配向が乱れるため、高温・高剪断かつハイサイクル条件としても、金型開き時に当該箇所が糸状に伸びにくくなる。また、前記の粒径の範囲内であれば、溶融樹脂の流動中では樹脂の配向を大きく乱すことはないため、液晶ポリエステル樹脂が本来有する流動性も担保される。従って、耐糸引き性と流動性を高い次元で両立することができる。D70またはD30が前記範囲を外れると、耐糸引き性が低下する。高温成形時の耐糸引き性に優れる観点から、前記D70の範囲は、28~42μmが好ましく、30~40μmがさらに好ましい。また、前記D30の範囲は、16~24μmが好ましく、17~22μmがさらに好ましい。
【0052】
高温成形時の耐糸引き性に優れる観点から、本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物中の板状充填材(B)の累積粒径分布曲線より得られる累積度数90%の粒径(以下、単にD90と記載することがある)は、40~60μmであることが好ましい。より好ましくは43~53μmであり、さらに好ましくは、45~51μmである。さらに、D90を前記の範囲内とすることで、大粒径の板状充填材によるゲート詰まりが起こりにくくなり成形安定性が向上する。
【0053】
詳しくは、ピンポイントゲートなどの極小なゲート部分を有する成形品を射出成形する際に、D90を前記の範囲内とすることで、大粒径の板状充填材によるゲートでの詰まりが起こりにくくなり、キャビティ内全体に樹脂が充填され、いわゆるショートショットが起こりにくくなり、成形安定性が向上すると考える。
【0054】
本発明における液晶ポリエステル樹脂組成物中の板状充填材(B)のD90、D70およびD30の値は、次の手法で得られる。液晶ポリエステル樹脂組成物3gを空気中で550℃で3時間加熱することにより、液晶ポリエステル樹脂(A)成分を除去し、不燃物として残った残渣を板状充填材(B)として得る。得られた板状充填材(B)を100mg秤量し、界面活性剤10mgとともに脱イオン水6gに良く分散させ、測定用分散液とする。日機装株式会社製レーザー回折式粒径分布計測定装置(マイクロトラックMT3300EXII)に、測定用分散液を測定可能濃度になるまで添加し、測定装置内で30Wにて60秒間の超音波分散を行った後、測定時間10秒で測定される粒径分布の小粒径側からの累積度数が30%となる粒径をD30とし、70%となる粒径をD70とし、90%となる粒径をD90する。なお測定時の屈折率は1.52、媒体(脱イオン水)の屈折率は1.33とする。
【0055】
前述のD70およびD30を適した範囲とすることが容易となる観点から、液晶ポリエステル樹脂(A)100重量部に対し、累積粒径分布曲線より得られる累積度数70%の粒径(D70)が30~55μm、累積度数30%の粒径(D30)が20~30μmである板状充填材(B)を10~100重量部配合して、後述の<液晶ポリエステル樹脂組成物の製造方法>に記載の方法で液晶ポリエステル樹脂組成物を製造する方法が好ましい。なお、この段落に記載のD70とD30は、配合前の板状充填材(B)のD70とD30を示している。前述のD70およびD30を適した範囲とすることが容易となる観点から、D70の範囲は35~50μmがより好ましく、37~46μmがさらに好ましい。D30の範囲は22~30μmがより好ましく、22~27μmがさらに好ましい。
上記の粒径の板状充填材(B)を含有することや後述の<液晶ポリエステル樹脂組成物の製造方法>に記載の好ましい製法により、液晶ポリエステル樹脂組成物中の板状充填材(B)の粒径の制御が容易となる。
【0056】
<板状充填材(B)以外の充填材>
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物は、前述した液晶ポリエステル樹脂(A)と板状充填材(B)を含有するが、その他の特性を付与するために板状充填材(B)以外の充填材を含有してもよい。本発明で使用される充填材は、特に限定されるものではないが、例えば、繊維状、ウィスカー状、板状、粉末状、粒状などの充填材を挙げることができる。具体的には、繊維状、ウィスカー状充填材としては、ガラス繊維、PAN系やピッチ系の炭素繊維、ステンレス繊維、アルミニウム繊維や黄銅繊維などの金属繊維、芳香族ポリアミド繊維や液晶ポリエステル繊維などの有機繊維、石膏繊維、セラミック繊維、アスベスト繊維、ジルコニア繊維、アルミナ繊維、シリカ繊維、酸化チタン繊維、炭化ケイ素繊維、ロックウール、チタン酸カリウムウィスカー、チタン酸バリウムウィスカー、ホウ酸アルミニウムウィスカー、窒化ケイ素ウィスカー、および針状酸化チタンなどが挙げられる。粉状、粒状の充填材としては、シリカ、ガラスビーズ、酸化チタン、酸化亜鉛、ポリリン酸カルシウムおよび黒鉛などが挙げられる。
【0057】
上記充填材中のガラス繊維の種類は、一般に樹脂の強化用に用いるものであれば特に限定はなく、例えば、長繊維タイプや短繊維タイプのチョップドストランド、ミルドファイバーなどを挙げることができる。
【0058】
上記充填材は、その表面が公知のカップリング剤(例えば、シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤など)、その他の表面処理剤により処理されていてもよい。また、ガラス繊維は、エチレン/酢酸ビニル共重合体などの熱可塑性樹脂、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂で被覆あるいは集束されていてもよい。また、本発明に使用される上記の充填材は、2種以上を併用してもよい。
【0059】
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲でさらに酸化防止剤、熱安定剤(例えば、ヒンダードフェノール、ハイドロキノン、ホスファイト、チオエーテル類およびこれらの置換体など)、紫外線吸収剤(例えば、レゾルシノール、サリシレート)、亜リン酸塩、次亜リン酸塩などの着色防止剤、滑剤および離型剤(モンタン酸およびその金属塩、そのエステル、そのハーフエステル、ステアリルアルコール、ステアラミドおよびポリエチレンワックスなど)、染料または顔料を含む着色剤、導電剤あるいは着色剤としてカーボンブラック、結晶核剤、可塑剤、難燃剤(臭素系難燃剤、燐系難燃剤、赤燐、シリコーン系難燃剤など)、難燃助剤、および帯電防止剤から選択される通常の添加剤を配合することができる。
【0060】
<液晶ポリエステル樹脂組成物の製造方法>
上記の板状充填剤(B)およびその他の添加剤を液晶ポリエステル樹脂(A)に配合する方法としては、例えば、液晶ポリエステル樹脂(A)に板状充填剤(B)およびその他の固体の添加剤等を配合するドライブレンド法や、液晶ポリエステル樹脂(A)に板状充填剤(B)およびその他の液体状の添加剤等を配合する溶液配合法、板状充填剤(B)およびその他の添加剤を液晶ポリエステル樹脂(A)の重合時に添加する方法、液晶ポリエステル樹脂(A)に板状充填剤(B)およびその他の添加剤を溶融混練する方法を用いることができる。D70およびD30を適した範囲とすることが容易となる観点から、溶融混練する方法が好ましい。
【0061】
溶融混練には、公知の方法を用いることができる。例えば、バンバリーミキサー、ゴムロール機、ニーダー、単軸もしくは二軸押出機などを挙げることができる。D70およびD30を適した範囲とすることが容易となる観点から、二軸押出機を用いて溶融混練をする方法が好ましい。なかでも、スクリュー長さをL,スクリュー直径をDとすると、L/D>30の二軸押出機を使用して溶融混練する方法が特に好ましい。ここで言うスクリュー長さとは、スクリュー根元の原料が供給される位置から、スクリュー先端部までの長さを指す。二軸押出機のL/Dの上限は150であり、好ましくはL/Dが30を越え、100以下のものが使用できる。
【0062】
D70およびD30を適した範囲とすることが容易となる観点から、溶融混練時の押出機のシリンダーの設定温度は、液晶ポリエステル樹脂(A)の融点-10℃~+30℃の範囲に設定することが好ましい。液晶ポリエステル樹脂(A)の融点-10℃~+20℃の範囲とすることがより好ましく、融点-5~+5℃の範囲とすることがさらに好ましい。
【0063】
また、D90を適した範囲とすることが容易となる観点から、溶融混練時の押出機のシリンダー温度について、スクリュー全長に対して24%から62%までのシリンダー温度を液晶ポリエステル樹脂(A)の融点-20℃~+15℃の範囲に設定することが好ましい。液晶ポリエステル樹脂(A)の融点-15℃~+10℃の範囲とすることがより好ましく、融点-10~+5℃の範囲とすることがさらに好ましい。
【0064】
D70およびD30を適した範囲とすることが容易となる観点から、溶融混練時のスクリューの回転周速度(m/min)は10~30m/minとすることが好ましい。13~23m/minの範囲とすることがより好ましく、15~22m/minの範囲とすることがさらに好ましい。
【0065】
また、D90を適した範囲とすることが容易となる観点から、溶融混練時のスクリューの回転周速度(m/min)は10~50m/minとすることが好ましい。13~45m/minの範囲とすることがより好ましく、15~40m/minの範囲とすることがさらに好ましい。
なお、スクリューの回転周速度(m/min)は、スクリュー直径(m)×円周率×回転数(rpm)で算出することができる。
【0066】
また、本発明において二軸押出機で用いる場合のスクリュー構成としては、フルフライトおよびニーディングディスクを組み合わせて用いられるが、D90、D70、D30を適した範囲とすることが容易となる観点から、スクリュー全長に対するニーディングディスク(以下、「ニーディングゾーン」ということがある)の合計長さの割合を、5~50%の範囲とすることが好ましく、10~40%の範囲であればさらに好ましく、20~30%の範囲が最も好ましい。
【0067】
混練方法としては、1)液晶ポリエステル樹脂(A)、板状充填材(B)およびその他の添加剤を元込めフィーダーから一括で投入して混練する方法(一括混練法)、2)液晶ポリエステル樹脂(A)とその他の添加剤を元込めフィーダーから投入して混練した後、板状充填材(B)をサイドフィーダーから添加して混練する方法(サイドフィード法)、3)液晶ポリエステル樹脂(A)と板状充填材(B)およびその他の添加剤を高濃度に含む液晶ポリエステル組成物(マスターペレット)を作製し、次いで規定の濃度になるようにマスターペレットを、液晶ポリエステル樹脂(A)、板状充填材(B)およびその他の添加剤を混練する方法(マスターペレット法)などが挙げられる。D90、D70、D30を適した範囲とすることが容易となる観点から、前記の1)に記載の一括混練法が好ましい。
【0068】
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物は、以下の(V)、(W)、(X)、(Y)、(Z)の項のうち2項以上を満たすことにより、D90、D70、D30を適した範囲とすることが容易となる。(V)、(W)、(X)、(Y)、(Z)の項のうち3項以上を満たすことが好ましい。また、少なくとも(Z)を含む2項または3項を満たすことがさらに好ましい。
(V): 溶融混練時の押出機のシリンダー温度について、前述の通りスクリュー全長に対して24%から62%までのスクリュー長さを液晶ポリエステル樹脂(A)の融点-20℃~+15℃の範囲に設定する。
(W):溶融混練時のスクリューの回転周速度(m/min)は前述の通り10~50m/minとする。
(X):D90、D70、D30を適した範囲となるように板状充填材(B)を2種以上、液晶ポリエステル樹脂(A)に配合する。
(Y):D90、D70、D30を適した範囲となるように板状充填材(B)をふるいなどで分級させ、液晶ポリエステル樹脂(A)に配合する。
(Z):二軸押出機で用いる場合のスクリュー構成としては、フルフライトおよびニーディングディスクを組み合わせて用いられるがスクリュー全長に対するニーディングディスク(以下、「ニーディングゾーン」ということがある)の合計長さの割合を、5~50%の範囲とする。10~40%の範囲であれば好ましく、20~30%の範囲がさらに好ましい。
ここで、(V)項において、溶融混練時の押出機のシリンダー温度を、スクリュー全長に対して24%から62%までのスクリュー長さを液晶ポリエステル樹脂(A)の融点-15℃~+10℃の範囲とすることがより好ましく、融点-10~+5℃の範囲とすることがさらに好ましい。
(W)項において、溶融混練時のスクリューの回転周速度(m/min)を13~45m/minの範囲とすることがより好ましく、15~40m/minの範囲とすることがさらに好ましい。
【0069】
<成形品>
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物は、通常の射出成形、押出成形、プレス成形、溶液キャスト製膜、紡糸などの成形方法によって、優れた表面外観(色調)、機械的性質、耐熱性を有する成形品に加工することが可能である。ここでいう成形品としては、射出成形品、押出成形品、プレス成形品、シート、パイプ、未延伸フィルム、一軸延伸フィルム、二軸延伸フィルムなどの各種フィルム、未延伸糸、超延伸糸などの各種繊維などが挙げられる。特に加工性の観点から射出成形であることが好ましい。
【0070】
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物を成形して得られる成形品は、電気・電子部品として好ましく用いることができる。電気・電子部品としては、例えば、パソコン、GPS内蔵機器、携帯電話、衝突防止用レーダーなどのミリ波および準ミリ波レーダー、タブレットやスマートフォンなどの移動通信・電子機器のアンテナに用いられるフレキシブルプリント基板、積層用回路基板、プリント配線基板および三次元回路基板;LEDなどのランプリフレクターやランプソケット、移動通信端末の通信基地局スモールセルやマイクロセル部材、アンテナカバー、筐体、センサー、カメラモジュールのアクチュエータ部品、コネクタ、リレーケースおよびベース、スイッチ、コイルボビン、コンデンサーなどが挙げられる。なかでも、コネクタ、リレー、スイッチ、コイルボビン、カメラモジュールのアクチュエータ部品などに有用である。
【実施例0071】
以下、実施例を用いて本発明を説明するが、本発明が実施例により限定されるものではない。製造例に記載の液晶ポリエステル樹脂(A)について、以下(1)~(3)の評価を行った結果を表1に示す。
【0072】
(1)液晶ポリエステル樹脂(A)の組成分析
粉砕した液晶ポリエステル樹脂0.1mgに、水酸化テトラメチルアンモニウム25%メタノール溶液2μLを添加し、島津製GCMS-QP5050Aを用いて熱分解GC/MS測定を行い、液晶ポリエステル樹脂中の各構成成分の組成比を求めた。
【0073】
(2)液晶ポリエステル樹脂(A)の融点(Tm)測定
示差走査熱量計DSC-7(パーキンエルマー製)により、液晶ポリエステル樹脂を室温から20℃/分の昇温条件で加熱した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm1)の観測後、Tm1+20℃の温度で5分間保持した後、20℃/分の降温条件で室温まで一旦冷却し、再度20℃/分の昇温条件で加熱した際に観測される吸熱ピーク温度を融点(Tm)とした。
【0074】
(3)液晶ポリエステル樹脂(A)の溶融粘度
高化式フローテスターCFT-500D(オリフィス0.5φ×10mm)(島津製作所製)を用いて、Tm+20℃で、せん断速度1000/sの条件で液晶ポリエステル樹脂の溶融粘度を測定した。
【0075】
[製造例1]
撹拌翼および留出管を備えた5Lの反応容器にp-ヒドロキシ安息香酸(HBA)808重量部、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸(HNA)88重量部、4,4’-ジヒドロキシビフェニル(DHB)229重量部、ハイドロキノン(HQ)161重量部、テレフタル酸(TPA)428重量部、イソフタル酸(IPA)19重量部および無水酢酸1278重量部(フェノール性水酸基合計の1.07当量)を仕込み、窒素ガス雰囲気下で撹拌しながら145℃で120分反応させた後、145℃から360℃まで4時間かけて昇温した。その後、重合温度を360℃に保持し、1.0時間かけて1.0torr(133Pa)に減圧し、更に反応を続け、所定の撹拌トルクに到達したところで重合を完了させた。次に、直径6mmの円形吐出口を1ケ持つ口金を経由してポリマーをストランド状に吐出し、カッターによりペレタイズして液晶ポリエステル樹脂(A-1)を得た。
【0076】
[製造例2]
モノマー仕込みを、p-ヒドロキシ安息香酸(HBA)931重量部、4,4’-ジヒドロキシビフェニル(DHB)251重量部、ハイドロキノン(HQ)99重量部、テレフタル酸(TPA)284重量部、イソフタル酸(IPA)90重量部および無水酢酸1227重量部(フェノール性水酸基合計の1.07当量)に変更した以外は実施例1と同様にして、液晶ポリエステル樹脂(A-2)を得た。
【0077】
【0078】
製造例1および2で得られた液晶ポリエステル樹脂(A)に対して、さらに板状充填材(B)を配合し、液晶ポリエステル樹脂組成物を作製した。各実施例および比較例において用いた板状充填材(B)を次に示す。なお、配合前の板状充填材(B)の粒径(D70およびD30)は、後述の(4)と同様の記載の方法で測定した。
【0079】
充填材(B)
(B-1)ヤマグチマイカ(株)製 マイカ“AB-25S”(配合前の粒径:D70=30μm、D30=17μm)
(B-2)ヤマグチマイカ(株)製 マイカ“A-41S”(配合前の粒径:D70=55μm、D30=33μm)
(B-3)ヤマグチマイカ(株)製 マイカ“J-31M”を、400メッシュのふるいを用いて後述の粒径となるように篩い分けを行い、ふるい上に残ったマイカ粉を用いた。(配合前の粒径:D70=40μm、D30=24μm)
(B-4)ヤマグチマイカ(株)製 マイカ“J-31M”(配合前の粒径:D70=41μm、D30=19μm)
【0080】
[実施例1および2、6、比較例1および2]
スクリュー径30mm、L/D35の同方向回転ベント付き二軸押出機(日本製鋼所製、TEX-30α)で、各製造例で得られた液晶ポリエステル樹脂(A)および板状充填材(B)を表2に示す配合量で二軸押出機に導入した。シリンダー温度を液晶ポリエステル樹脂(A)の融点に設定し、液晶ポリエステル樹脂(A)と板状充填材(B)を元込めフィーダーから一括で投入して(一括混練法)、ニーディングゾーンを組み込んだスクリュー構成とし、その割合をスクリュー全長に対して25%として、スクリューの回転周速度を19m/minの押出条件で溶融混合を行い、ストランド状に吐出し、冷却バスを通して固化させた後、ストランドカッターによりペレット化した。
【0081】
[実施例3]
各製造例で得られた液晶ポリエステル樹脂(A)および板状充填材(B)を表2に示す配合量で二軸押出機に導入し、スクリューの回転周速度を38m/minに設定した以外は実施例1と同様の方法でペレットを得た。
【0082】
[実施例4]
各製造例で得られた液晶ポリエステル樹脂(A)および板状充填材(B)を表2に示す配合量で二軸押出機に導入し、スクリュー全長に対して24%から62%までの樹脂温度が液晶ポリエステル樹脂(A)の融点-10℃となるように設定し、スクリュー全長に対して24%未満および62%を超える部分を液晶ポリエステル樹脂(A)の融点に設定した以外は実施例1と同様の方法でペレットを得た。
【0083】
[実施例5]
各製造例で得られた液晶ポリエステル樹脂(A)および板状充填材(B)を表2に示す配合量で二軸押出機に導入し、シリンダー温度をスクリュー全長に対して24%から62%までを液晶ポリエステル樹脂(A)の融点-10℃に設定し、スクリュー全長に対して24%未満および62%を超える部分を液晶ポリエステル樹脂(A)の融点とし、スクリューの回転周速度を38m/minに設定した以外は実施例1と同様の方法でペレットを得た。
【0084】
[比較例3]
スクリュー径30mm、L/D35の同方向回転ベント付き二軸押出機(日本製鋼所製、TEX-30α)で、製造例で得られた液晶ポリエステル樹脂(A)および板状充填材(B)を表2に示す配合量で二軸押出機に導入した。シリンダー温度を液晶ポリエステル樹脂(A)の融点+10℃に設定し、液晶ポリエステル樹脂(A)を元込めフィーダーから投入し、板状充填材(B)を押出機の中央に組み込んだ中間供給口(サイドフィーダー)から投入して(サイドフィード法)、ニーディングゾーンをサイドフィーダーから吐出口の途中に組み込んだスクリュー構成とし、その割合をスクリュー全長に対して15%として、スクリューの回転周速度を14m/minの押出条件で溶融混合を行い、ストランド状に吐出し、冷却バスを通して固化させた後、ストランドカッターによりペレット化した。
【0085】
前記に示す方法で得られたペレットを用いて、以下(4)~(6)の評価を行った結果を表2に示す。
【0086】
(4)液晶ポリエステル樹脂組成物中の板状充填材(B)のD90、D70およびD30
液晶ポリエステル樹脂組成物3gを空気中で550℃で3時間加熱して、液晶ポリエステル樹脂(A)成分を除去し、不燃物として残った残渣を板状充填材(B)として得た。得られた板状充填材(B)を100mg秤量し、界面活性剤10mgとともに脱イオン水6gに良く分散させ、測定用分散液とした。日機装株式会社製レーザー回折式粒径分布計測定装置(マイクロトラックMT3300EXII)に、測定用分散液を測定可能濃度になるまで添加し、測定装置内で30Wにて60秒間の超音波分散を行った後、測定時間10秒で測定される粒径分布の小粒径側からの累積度数が30%となる粒径をD30とし、70%となる粒径をD70とし、90%となる粒径をD90として算出した。なお測定時の屈折率は1.52、媒体(脱イオン水)の屈折率は1.33とした。得られたD30、D70およびD90は表2中に「組成物中の(B)各累積度数の粒径」として記載する。
【0087】
(5)高温成形時の糸引き性の評価
液晶ポリエステル樹脂を、熱風乾燥機を用いて150℃で3時間乾燥した後、TR30EHA射出成形機(ソディック製)に供し、高温かつ高速射出条件下、すなわち、シリンダー温度を液晶ポリエステル樹脂の融点+30℃、金型温度を110℃として、幅30mm×長さ30mm×0.5mm厚みの成形品を成形できる金型を用い、成形末端に樹脂が行き当たるように成形圧力を調整して、保圧45MPaを0.5秒かけ、射出速度200mm/s、成形サイクルが6秒となるように100ショット連続成形を行った。本条件のような、高温・高射出条件下で連続成形すると、液晶ポリエステル樹脂の配向や、生成ガス、成形中のエアの巻き込みの影響が顕著となり、糸引きが発生しやすくなる。100ショットの連続成形中に、スプール先端部分から糸引きが発生した個数を計測して糸引きの「発生率(%)」を算出した。また、糸引きが発生した場合、スプール先端から生じた糸引き部分の長さをそれぞれ計測し、その平均値を糸引きの「長さ(mm)」として算出した。得られた値は、表2中の「耐糸引き性」に「発生率(%)」および「長さ(mm)」として記載する。発生率および長さの値が小さいほど耐糸引き性に優れる。
【0088】
(6)ゲート詰まり評価
液晶ポリエステル樹脂組成物を、熱風乾燥機を用いて150℃で3時間乾燥した後、TR30EHA射出成形機(ソディック製)に供し、シリンダー温度を液晶ポリエステル樹脂の融点+10℃、ノズルの温度のみを液晶ポリエステル樹脂の融点、金型温度:110℃として、射出圧力を100MPa、速度を150mm/secに設定し、
図2に示す外形寸法が5.0mm×5.0mm、肉厚が0.5mmの箱筒上の部分と、幅5.0mm、肉厚が0.2mmの短冊部分とを合わせ持ち、ゲート穴がφ0.2mmの成形品を短冊部分の長さが20mmとなるように条件を調整後、50ショット連続成形し、短冊部分の長さが20mm未満となり成形できなかったショートショット数を評価した。なお、本測定は、板状充填剤の凝集によるゲート詰まりが生じると成形品が未充填となりショートショットが生じる。このショートショット数をゲート詰まりとして評価し、ショートショットが少ないほど、ゲート詰まりが発生しにくく、優れるとした。
【0089】
【0090】
表1および2の結果から、液晶ポリエステル樹脂組成物中の板状充填材(B)の、D70およびD30が特定の範囲に制御することによって、耐糸引き性に優れる液晶ポリエステル樹脂組成物が得られることが分かる。
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物は、高温成形時の耐糸引き性に優れるため、コネクタ、リレー、スイッチ、コイルボビン、およびカメラモジュールのアクチュエータ部品に好適に用いることができ、特に近年薄肉ファインピッチ化が進むコネクタに好適である。