(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025026375
(43)【公開日】2025-02-21
(54)【発明の名称】印刷インキ及び印刷物
(51)【国際特許分類】
C09D 11/107 20140101AFI20250214BHJP
C09D 11/037 20140101ALI20250214BHJP
【FI】
C09D11/107
C09D11/037
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024128137
(22)【出願日】2024-08-02
(31)【優先権主張番号】P 2023129728
(32)【優先日】2023-08-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】artience株式会社
(72)【発明者】
【氏名】緑川 俊文
(72)【発明者】
【氏名】三根 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】春山 直樹
【テーマコード(参考)】
4J039
【Fターム(参考)】
4J039AD10
4J039BA06
4J039BC13
4J039BC16
4J039BE01
4J039BE12
4J039EA14
4J039EA34
4J039GA10
(57)【要約】
【課題】
明度(L値)が高く、写像性、拡散度及び耐候性に優れた印刷インキ、並びに、印刷物を提供すること。
【解決手段】
バインダー樹脂、顔料及び液状媒体を含有する印刷インキであって、前記バインダー樹脂が、アクリル樹脂を含み、前記顔料が、薄片状光輝性顔料を含み、前記印刷インキ全固形分質量中の前記アクリル樹脂の含有量が、5~45質量%であり、前記アクリル樹脂と前記薄片状光輝性顔料との質量比が、25/75~45/55である、印刷インキ。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バインダー樹脂、顔料及び液状媒体を含有する印刷インキであって、
前記バインダー樹脂が、アクリル樹脂を含み、
前記顔料が、薄片状光輝性顔料を含み、
前記印刷インキ全固形分質量中の前記アクリル樹脂の含有量が、5~45質量%であり、
前記アクリル樹脂と前記薄片状光輝性顔料との質量比が、25/75~45/55である、印刷インキ。
【請求項2】
薄片状光輝性顔料が、アルミニウムを含む、請求項1に記載の印刷インキ。
【請求項3】
バインダー樹脂全質量中のアクリル樹脂の含有量が、80質量%以上である、請求項1又は2に記載の印刷インキ。
【請求項4】
アクリル樹脂の酸価が、300mgKOH/g以下である、請求項1又は2に記載の印刷インキ。
【請求項5】
アクリル樹脂のガラス転移温度が、30~130℃である、請求項1又は2に記載の印刷インキ。
【請求項6】
アクリル樹脂の重量平均分子量が、10,000~100,000である、請求項1又は2に記載の印刷インキ。
【請求項7】
液状媒体が、有機溶剤を含む、請求項1又は2に記載の印刷インキ。
【請求項8】
液状媒体全質量中のエステル系有機溶剤及びケトン系有機溶剤の合計の質量比率が、75質量%以下である、請求項1又は2に記載の印刷インキ。
【請求項9】
液状媒体全質量中のアルコール系有機溶剤の質量比率が、40質量%以上である、請求項1又は2に記載の印刷インキ。
【請求項10】
基材と、請求項1に記載の印刷インキからなる光輝性印刷層とを有する印刷物。
【請求項11】
更に、着色印刷層を有する請求項10に記載の印刷物。
【請求項12】
基材側から測定した20°光沢値が700以上である、請求項10又は11に記載の印刷物。
【請求項13】
基材と、印刷インキからなる光輝性印刷層とを有する印刷物の製造方法であって、
前記印刷インキが、バインダー樹脂、顔料及び液状媒体を含み、
前記バインダー樹脂が、アクリル樹脂を含み、
前記顔料が、薄片状光輝性顔料を含み、
前記印刷インキ全固形分質量中の前記アクリル樹脂の含有量が、5~45質量%であり、
前記アクリル樹脂と前記薄片状光輝性顔料との質量比が、25/75~45/55であり、
前記印刷インキを前記基材上に凹版印刷することで光輝性印刷層を形成する工程を含む、印刷物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷インキ及び印刷物に関する。
【0002】
より具体的には、光輝性を有する印刷インキ及び印刷物に関する。
【背景技術】
【0003】
一般に、金属調の意匠性を有するシートとしては、フィルムに金属蒸着を施したもの、屈折率の異なるポリマーを積層させることで可視光線を干渉反射させ、金属光沢を実現させるもの、金属の細かな破片を用いてインキ化し、フィルムに印刷することで得るものなど様々である。中でも金属片を顔料としてインキ化し、当該インキを印刷する方法は、簡便でかつ低コストに仕上がることから実用的な手段として注目されている。従来技術では、インキ化の際に金属片の分散性を高めるために、金属片の金属表面に何らかの処理を施す、インキのバインダーとなる樹脂の種類や官能基を選定するなど、様々な手法が用いられてきている(特許文献1、2)。
【0004】
特許文献1には、金属調の意匠性を与え、剥離強度に優れた高輝性インキ、および、そのインキを用いた金属調の意匠性を持ち、かつ成型時に必要な展延性を有する積層シートが記載されている。一方で特許文献2には、アルミ箔やアルミニウム蒸着フィルムを使用することなく輝度が高い印刷物を提供でき、プラスチック基材フィルムへの高い密着性を有する高輝度グラビアインキ組成物という発明が記載されている。
しかしながら、特許文献1、2に記載されたインキを用いても、金属蒸着膜のような金属光沢感や鏡面反射といった光輝性のある印刷物を得ることは難しく、本来あるべき金属特有の輝度感がくすんだり、印刷面が揺らいだりするという問題があった。
また、特許文献3では、高価な金銀銅の併用を必須とする光輝性塗料が開示されているが、金銀銅を併用しない処方が望まれている。
【0005】
光輝性の評価においては、従来行われてきた目視で判断される官能評価に加え、試料表面の明るさ、光の反射率を明度(L値)で数値化することが可能である。すなわち試料表面が明るくなり、反射率が高くなるほど明度(L値)が高くなる。さらに、試料表面で反射して見える物体の像がどの程度鮮明に歪みなく見えるかの度合を表した写像性や、光が入射したときに、どの方向にどれだけの光が反射したかを表す反射光強度の角度分布を数値化した拡散度という指標が提案されている。すなわち、上記のような輝度感のくすみ及び印刷面の揺らぎは、写像性及び拡散度に反映される。
【0006】
また、上記のような金属調の意匠性を有するシートや印刷物は屋外、屋内様々な使用環境が想定され、そうした使用環境に耐えうるためには印刷物に耐候性を付与することが必要である。特許文献1では結着樹脂にカルボキシル基、燐酸基、スルホン酸基、硝酸基、アミノ基及び/ 又はそれらの塩の何れか一種以上を含むと記載されている。また特許文献2では、酸価が2mgKOH/g以上である酸変性塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体樹脂と、ポリウレタン樹脂とを含むと記載されている。この様な樹脂は、高温多湿下での環境や、直接・間接的に外光が取り込まれる環境に於いて、樹脂の劣化が起こりやすく、その結果輝度感(光輝性)の低下、密着性の低下、層間剥離の発生を引き起こすことが予想される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004-35849号公報
【特許文献2】特開2022-54590号公報
【特許文献3】特開2006-169268号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、明度(L値)が高く、写像性、拡散度及び耐候性に優れた印刷インキ、印刷物並びに積層体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は前記課題に対して鋭意研究を重ねた結果、以下に記載の包装材を用いることで上記課題を解決することを見出し、本発明を成すに至った。
【0010】
[1]バインダー樹脂、顔料及び液状媒体を含有する印刷インキであって、
前記バインダー樹脂が、アクリル樹脂を含み、
前記顔料が、薄片状光輝性顔料を含み、
前記印刷インキ全固形分質量中の前記アクリル樹脂の含有量が、5~45質量%であり、
前記アクリル樹脂と前記薄片状光輝性顔料との質量比が、25/75~45/55である、印刷インキ。
【0011】
[2]薄片状光輝性顔料が、アルミニウムを含む、[1]に記載の印刷インキ。
【0012】
[3]バインダー樹脂全質量中のアクリル樹脂の含有量が、80質量%以上である、請求項[1]又は[2]に記載の印刷インキ。
【0013】
[4]アクリル樹脂の酸価が、300mgKOH/g以下である、[1]から[3]のいずれかに記載の印刷インキ。
【0014】
[5]アクリル樹脂のガラス転移温度が、30~130℃である、[1]から[4]のいずれかに記載の印刷インキ。
【0015】
[6]アクリル樹脂の重量平均分子量が、10,000~100,000である、[1]から[5]のいずれかに記載の印刷インキ。
【0016】
[7]液状媒体が、有機溶剤を含む、[1]から[6]のいずれかに記載の印刷インキ。
【0017】
[8]液状媒体全質量中のエステル系有機溶剤及びケトン系有機溶剤の合計の質量比率が、75質量%以下である、[1]から[7]のいずれかに記載の印刷インキ。
【0018】
[9]液状媒体全質量中のアルコール系有機溶剤の質量比率が、40質量%以上である、[1]から[8]のいずれかに記載の印刷インキ。
【0019】
[10]基材と、[1]から[9]のいずれかに記載の印刷インキからなる光輝性印刷層とを有する印刷物。
【0020】
[11]更に、着色印刷層を有する[10]に記載の印刷物。
【0021】
[12]基材側から測定した20°光沢値が700以上である、[10]又は[11]に記載の印刷物。
【0022】
[13]基材と、印刷インキからなる光輝性印刷層とを有する印刷物の製造方法であって、
前記印刷インキが、バインダー樹脂、顔料及び液状媒体を含み、
前記バインダー樹脂が、アクリル樹脂を含み、
前記顔料が、薄片状光輝性顔料を含み、
前記印刷インキ全固形分質量中の前記アクリル樹脂の含有量が、5~45質量%であり、
前記アクリル樹脂と前記薄片状光輝性顔料との質量比が、25/75~45/55であり、
前記印刷インキを前記基材上に凹版印刷することで光輝性印刷層を形成する工程を含む、印刷物の製造方法。
【発明の効果】
【0023】
本発明により、明度(L値)が高く、写像性、拡散度及び耐候性に優れた印刷インキ、印刷物並びに積層体を提供することが可能になった。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に例を挙げて本発明の実施形態を詳細に説明するが、以下に記載する事項は本発明の実施形態の一例ないし代表例であり、本発明はその要旨を超えない限りこれらの内容に限定されない。以下、「印刷インキ」を、単に「インキ」と表現することがあるが同義である。
【0025】
本発明は、バインダー樹脂、顔料及び液状媒体を含有する印刷インキであって、前記バインダー樹脂が、アクリル樹脂を含み、前記顔料が、薄片状光輝性顔料を含み、前記印刷インキ全固形分質量中の前記アクリル樹脂の含有量が、5~45質量%であり、
前記アクリル樹脂と前記薄片状光輝性顔料との質量比が、25/75~45/55である印刷インキを用いることで、明度(L値)が高く、写像性、拡散度及び耐候性に優れた印刷物の提供を可能とするものである。
【0026】
<バインダー樹脂>
本発明のインキはバインダー樹脂を含み、当該バインダー樹脂は、アクリル樹脂を含む。バインダー樹脂とは本発明のインキにおける結着樹脂をいい、有機溶剤に可溶な熱可塑性樹脂であることが好ましい。バインダー樹脂を含むことで、光輝性顔料を塗膜中に保持することが容易になるだけでなく、インキと基材との密着性が向上する。また、アクリル樹脂は透明性と耐候性を併せ持つため、アクリル樹脂を用いることで明度(L値)、写像性、拡散度及び耐候性をいずれも満足させることができる。
更に、基材によっては用いる溶剤により膨潤し、光輝性を低下させることがあるが、アクリル樹脂は比較的基材への影響が少ないアルコール系溶剤に可溶であることから、基材選択の幅が広がる。
【0027】
本発明において、印刷インキ全固形分質量中、バインダー樹脂の含有量は5質量%以上55質量%以下であることが好ましく、25~50質量%であることがより好ましく、30~45質量%であることが更に好ましい。上記範囲にあることで、インキの基材密着性と、明度、写像性、拡散度が良好になる。
【0028】
<アクリル樹脂>
本発明において、「アクリル樹脂」とは、アクリルモノマーを構成単位に有する重合体を意味する。また、「アクリルモノマー」とは、アクリル基又はメタクリロイル基を有するモノマーを意味し、「メタクリル及びアクリル」を総称して「(メタ)アクリル」と略記することがある。また、「メタクリレート及びアクリレート」を総称して「(メタ)アクリレート」と略記することがある。
【0029】
印刷インキ全固形分質量中、アクリル樹脂の含有量は5~45質量%であり、10~44質量%であることが好ましく、20~43質量%であることがより好ましく、25~42質量%であることがより好ましい。この範囲にあることで、基材密着性、写像性、拡散度、耐候性が良好になる。また、バインダー樹脂全固形分質量中、アクリル樹脂の含有量は80質量%以上であることが好ましく、85質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることが更に好ましい。この範囲にあることで、上記のように基材選択の幅が広がり、また耐候性が良好になる。
【0030】
アクリル樹脂の酸価は、300mgKOH/g以下であると好ましく、270mgKOH/g以下であるとより好ましく、240mgKOH/g以下であると更に好ましい。当該酸価が300mgKOH/g以下であることにより、基材密着性が良好となる。また、酸価が、240mgKOH/g以下であると耐候性が良好となることがある。
【0031】
アクリル樹脂のガラス転移温度(Tg)は、30~130℃であることが好ましく、35~110℃であることがより好ましく、40~90℃であることがさらに好ましい。ガラス転移温度が30℃以上であると成型性が良好となり、130℃以下であると表面の硬度が高まり耐傷性が良好となる。また、110℃以下であると、耐候性が良好となる。
【0032】
アクリル樹脂の重量平均分子量(Mw)は、10,000~100,000であることが好ましく、20,000~80,000であることが好ましいい。重量平均分子量を10,000以上とすることにより、成型性と表面硬度を兼ね備え、さらに耐候性が良好となる。質量平均分子量が100,000以下であることにより、印刷インキに求められる耐薬品性等の耐性が良好になる。
【0033】
アクリル樹脂としては、Joncryl690、Joncryl819、Joncryl678、Joncryl682(BASF社製)、BR100、BR102、BR115、BR605(三菱ケミカル社製)等の市販品を使用することができる。
【0034】
(併用樹脂)
本発明においては、バインダー樹脂としてアクリル樹脂以外の樹脂を併用することが可能である。当該バインダー樹脂は以下に限定されるものではないが、例えば、ウレタン樹脂、セルロース系樹脂、ポリアミド樹脂、塩化ビニル共重合樹脂、ロジン系樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂、酢酸ビニル樹脂、塩素化ポリプロピレン樹脂、スチレン樹脂、ダンマル樹脂、スチレン-マレイン酸共重合樹脂、ポリエステル樹脂、アルキッド樹脂、テルペン樹脂、フェノール変性テルペン樹脂、ケトン樹脂、環化ゴム、塩化ゴム、ブチラール、ポリアセタール樹脂、石油樹脂、及びこれらの変性樹脂などを挙げることができる。これらの樹脂は、単独で、または2種以上を混合して用いることができる。
【0035】
バインダー樹脂において、アクリル樹脂とその他併用樹脂との質量比率は、100:0~80:20であることが好ましく、100:0~85:15であることがなお好ましく、100:0~90:10であることが更に好ましい。
【0036】
<顔料>
本発明の印刷インキは顔料を含み、当該顔料は、薄片状光輝性顔料を含む。薄片状光輝性顔料は、金属蒸着膜由来のものが好ましく用いられる。光輝性顔料が薄片状であることで、顔料の配向が揃いやすく、乱反射が起こりにくくなるため、写像性、拡散度が良好になる。
【0037】
印刷インキ全固形分質量中、薄片状光輝性顔料の含有量は55~80質量%であることが好ましく、57~75質量%であることが好ましく、58~70質量%であることがより好ましい。この範囲にあることで、明度、写像性、拡散度が良好になる。また、顔料全質量中、薄片状光輝性顔料の含有量は80質量%以上であることが好ましく、85質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることが更に好ましく100%であってよい。この範囲にあることで、明度、写像性、拡散度が良好になる。
【0038】
本発明で用いる薄片状光輝性顔料の平均粒子径は10μm以下であることが好ましい。平均粒子径は1~10μmであることが好ましく、3~10μmであるとより好ましく、5~8μmであると更に好ましい。薄片状光輝性顔料の平均粒子径が1μm以上であると、インキ塗膜の明度(L値)が高くなりやすく、10μm以下であると、薄片状光輝性顔料の配向が揃いやすくなるため乱反射が起こりにくく、写像性、拡散度が良好となる。
【0039】
本発明で用いる薄片状光輝性顔料の平均厚みは100nm以下であることが好ましく、30nm以下であることがより好ましい。この範囲にあることで、薄片状光輝性顔料の配向が揃いやすくなるため乱反射が起こりにくく、写像性、拡散度が良好となる。
【0040】
本発明で用いる薄片状光輝性顔料は、アルミニウム、インジウム、銀、銅、ニッケル、チタン、クロム等の金属又はそれらを含む合金が使用できる。アルミニウムは安価、かつ、良好な明度(L値)、写像性が得られることから好適である。
【0041】
薄片状光輝性顔料は、前記金属又はその合金をプラスチックフィルム上に真空蒸着して形成される金属薄膜(以下、蒸着膜ともいう)を、プラスチックフィルム上から剥離し、剥離した金属薄膜を粉砕、攪拌することで得られる。こうすることで非常に薄膜となり、均一に配向しやすくなるため、明度(L値)、写像性、拡散度が良好になる。また、金属蒸着膜とは、例えば、抵抗加熱方式、高周波誘導加熱方式、電子ビーム加熱方式等の真空蒸着によって得られる蒸着膜であればよく、限定されない。
【0042】
印刷物に耐水性、耐アルカリ性等の耐性が必要な場合には、薄片状光輝性顔料をシリカ等の保護膜で表面被覆されたものを用いると好ましい。耐性が著しく向上するため、用途に応じて使い分けることが好ましい。
【0043】
顔料は、上記薄片状光輝性顔料以外の顔料を含んでよく、薄片状でない光輝性顔料であり、アルミニウム地金を展延しながら粉砕加工して得られるリーフィングタイプやノンリーフィングタイプのアルミ粉や、無機顔料、有機顔料、染料等を含んでも良い。無機顔料としては、黄鉛、チタン黄、弁柄、カドミウム赤、群青、コバルトブルー等が挙げられ、有機顔料としては、溶性アゾ系、不溶性アゾ系、アゾ系、フタロシアニン系、ハロゲン化フタロシアニン系、アントラキノン系、アンサンスロン系、ジアンスラキノニル系、アンスラピリミジン系、ペリレン系、ペリノン系、キナクリドン系、チオインジゴ系、ジオキサジン系、イソインドリノン系、キノフタロン系、アゾメチンアゾ系、フラバンスロン系、ジケトピロロピロール系、イソインドリン系、インダンスロン系などの顔料が挙げられる。また、カラーインデックスにおけるC.I.ピグメントナンバーで示される顔料を任意に使用可能である。
【0044】
印刷インキ中のアクリル樹脂と上記薄片状光輝性顔料の質量比は、25/75~45/55であり、30/70~44/56であるとより好ましく、35/65~43/57であると更に好ましい。25/75~45/55の範囲にあることで、インキの経時安定性や印刷適性を保持しつつ、写像性、拡散度を良好にすることが可能である。
【0045】
<アルコキシシラン>
本発明の印刷インキは、アルコキシシランを含むことができる。アルコキシシランのアルコキシ基は、加水分解を起こしてシラノールとなり、薄片状光輝性顔料の表面の水酸基と水素結合を起こす。さらに、印刷時の乾燥熱により脱水縮合が起き、より強固な化学結合で薄片状光輝性顔料と結びつく。その結果、薄片状光輝性顔料とバインダー樹脂との相溶性が低下し、乾燥皮膜を形成する過程で薄片状光輝性顔料が配向しやすくなるため、写像性と拡散度が向上すると考えられる。
アルコキシシランとしては、メトキシシラン、エトキシシラン等が挙げられる。また、エポキシ基やメタクリル基のような反応性基を有するシランカップリング剤も好適である。
【0046】
<液状媒体>
本発明の印刷インキは液状媒体を含有する。液状媒体は、バインダー樹脂を溶解するものであればよく、有機溶剤、水及びこれらの混合いずれも使用可能であるが、乾燥性の観点から有機溶剤を含むことが好ましい。液状媒体100質量%のうち、有機溶剤は80~100質量%含むことが好ましく、90~100質量%含むことがなお好ましく、95~100質量%含むことが更に好ましい。
【0047】
<有機溶剤>
本発明で使用できる有機溶剤としては、トルエン、キシレンといった芳香族系有機溶剤、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンといったケトン系有機溶剤、酢酸エチル、酢酸n-プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸イソブチル、エステル系有機溶剤、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、エチレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のアルコール系有機溶剤など公知の有機溶剤を使用でき、混合して使用してもよい。中でも、トルエン、キシレンといった芳香族系有機溶剤を含まない有機溶剤(ノントルエン系有機溶剤)が環境対応の観点より好ましい。また、ケトン系有機溶剤及びエステル系有機溶剤は基材を膨潤、劣化させてしまうことがあり、その結果印刷物の光輝性が低下するため、液状媒体中のエステル系有機溶剤及びケトン系有機溶剤の質量比率は、75質量%以下であることが好ましく、65質量%以下であるとより好ましく、55質量%以下であると更に好ましい。この場合において、「質量%以下」とは0である場合も含む。
一方、アルコール系有機溶剤は、基材を膨潤、劣化させにくいため好ましく、液状媒体中のアルコール系有機溶剤の質量比率は、15質量%以上であることが好ましく、40質量%以上であることがより好ましく、50質量%以上であるとより好ましく、60質量%以上であると更に好ましい。また、上記範囲であると、明度、写像性、拡散度が向上する傾向にある。
【0048】
また、本発明において光輝性発現のためには、インキ塗膜が乾燥硬化する際の光輝性顔料の配向が重要であり、それには、インキ中に含まれる有機溶剤の乾燥性(沸点)も影響があると考えられる。ここで言う有機溶剤とは、バインダー樹脂の溶解や、顔料の分散に用いている有機溶剤も含む。
特に、インキの顔料比率が高い場合においては、乾燥速度を速くしすぎず印刷面のかすれを防止する観点や、光輝性顔料を適切に配向させ光輝性を向上させる観点から、沸点の低い(沸点100℃未満の)有機溶剤(早口溶剤)と沸点の高い(沸点100℃以上の)有機溶剤(遅口溶剤)をいずれも含有することが好ましい。なお、インキ中の有機溶剤が早口溶剤のみの場合、印刷時の希釈溶剤として、遅口溶剤を使用することも可能だが、インキ希釈時の溶解性の観点から、希釈前のインキ中に早口溶剤と遅口溶剤とをともに含有しておくことが好ましい。なお、上記早口有機溶剤と遅口有機溶剤の質量比は50:50~90:10であることが好ましく、60:40~80:20であることがなお好ましい。
【0049】
早口溶剤としては、メチルエチルケトン、酢酸エチル、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール等が挙げられる。遅口溶剤としては、メチルイソブチルケトン、酢酸n-プロピル、酢酸イソブチル、n-ブタノール、エチレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、トルエン、キシレン等が挙げられる。
【0050】
<添加剤>
本発明の印刷インキは、添加剤として公知のものを適宜含むことができ、必要に応じて公知の添加剤、例えば顔料誘導体、分散剤、湿潤剤、接着補助剤、レベリング剤、消泡剤、帯電防止剤、トラッピング剤、ブロッキング防止剤、ワックス成分、イソシアネート系硬化剤、シランカップリング剤などを使用することができる。
【0051】
<インキの製造>
本発明における印刷インキは、例えば、バインダー樹脂と顔料とを、液状媒体中で分散/混合することで製造することができる。
【0052】
前記方法で製造されたインキの粘度は、B型粘度計での25℃における粘度が40~500cpsの粘度範囲であることが好ましい。より好ましくは50~350cpsである。この粘度範囲は、ザーンカップ#4での粘度が9秒~40秒程度に相当する。なお、インキの粘度は、使用される原材料の種類や量、例えばバインダー樹脂、液状媒体などの量を適宜選択することにより調整することができる。
【0053】
<基材>
本発明の印刷物に使用できる基材は特に限定されないが、プラスチック基材が好ましい。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリ乳酸などのポリエステル、ポリスチレン、アクリロニトリル-スチレン共重合(AS)樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合(ABS)樹脂、アクリロニトリル-エチレン-スチレン共重合体(AES)などのポリスチレン系樹脂、アクリル、ナイロン、ポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデンなど、もしくはこれらの複合材料からなるフィルム状の基材などが挙げられる。中でも、アクリル、ポリカーボネート、及び、アクリルとポリカーボネートとの共押出樹脂が好ましい。また基材は、ポリビニルアルコールなどでコート処理を施されていてもよく、コロナ放電処理などの表面処理が施されていてもよい。
【0054】
<印刷>
本発明のインキは、印刷方法については、例えば、凸版印刷方式、平版印刷方式、凹版印刷方式、孔版印刷方式などが挙げられ、特段限定されない。中でも凹版印刷が好ましく、グラビア印刷、フレキソ印刷等が挙げられ、グラビア印刷により印刷されることが好ましい。
【0055】
<グラビア印刷>
(グラビア版)
上記グラビア印刷においては、グラビア版は金属製の円筒状のものであり、彫刻又は腐蝕・レーザーにて凹部を各色で作成される。彫刻とレーザーは使用に制限は無く、柄に合わせて任意に設定が可能である。線数としては75線~350線のものが適宜使用され、線数の大きいものほど目の細かい印刷が可能である。印刷層の厚みとしては、0.1μm~100μmが好ましい。
【0056】
(印刷機)
グラビア印刷機において、一つの印刷ユニットには上記グラビア版及びドクターブレードを備えている。印刷ユニットは多数あり、各ユニットはオーブン乾燥ユニットを有する。印刷は輪転により行われ、巻取印刷方式である。版の種類やドクターブレードの種類は適宜選択され、仕様に応じたものが選定できる。
【0057】
<印刷物>
本発明の実施形態の一つとして、プラスチックフィルム基材と、本発明の印刷インキからなる光輝性印刷層とを有する、光輝性印刷物が挙げられる。
プラスチックフィルム基材上に、本発明の印刷インキを印刷した後、充分に乾燥させ、有機溶剤等の揮発成分を乾燥させることで、光輝性印刷物を得ることができる。
前記光輝性印刷層の膜厚は0.1~5μmであると好ましく、0.1~3μmであるとより好ましい。膜厚が0.1μm以上であるとインキ被膜物性が良好となり、5μm以下であると、乱反射が起こりにくく光輝性が良好となる。
【0058】
また、本発明の実施形態の一つとして、プラスチックフィルム基材、着色印刷層及び本発明の印刷インキからなる光輝性印刷層を有する、光輝性印刷物が挙げられる。
【0059】
<着色印刷層>
前記着色印刷層は、光輝性印刷層の意匠性を高めるために設けられるものであり、インキを印刷することで形成されるものであればよいが、グラビア印刷による印刷層であることが好ましい。また光輝性印刷層の光輝性を妨げない程度に着色されていることが好ましい。着色印刷層は、プラスチックフィルム基材と光輝性印刷層との間に位置することが好ましい。
【0060】
印刷層は、基材側から測定した20°光沢値が700以上であると好ましく、800以上であるとより好ましく、900以上であると更に好ましく、1000以上であると特に好ましい。基材側から測定した20°光沢値が700以上であると、明度が高く、写像性、拡散度に優れた光輝性印刷物が得られる。
【0061】
<積層体>
本発明の実施形態の一つとして、プラスチックフィルム基材1上に、本発明の印刷インキからなる光輝性印刷層を有し、前記光輝性印刷層上に接着剤による接着層を設け、基材2を張り合わせた、積層体が挙げられる。
その他、下記の構成が挙げられるが、これらに限定されるわけではない。
基材1/着色印刷層/光輝性印刷層/接着層/基材2
表面保護層/基材1/着色印刷層/光輝性印刷層/接着層/基材2
表面保護層/着色印刷層/基材1/光輝性印刷層/接着層/基材2
基材1/光輝性印刷層/着色印刷層/接着層/基材2
【実施例0062】
以下、実施例をあげて本発明を詳細に説明するが、以下の実施態様は本発明のごく一例であり、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、本発明における部及び%は、特に注釈の無い場合、質量部及び質量%を表す。
【0063】
(酸価)
酸価は、樹脂1g中に含有する酸基を中和するのに必要とする水酸化カリウムのmg数である。いずれも、JISK0070に従って測定を行った。
【0064】
(ガラス転移温度)
ガラス転移温度(Tg)は、JISK0129に記載の方法に従って求めた。具体的には、DSC(示差走査熱量測定装置)により求めた。なお、測定機は株式会社リガク製DSC8231を使用し、測定温度範囲-70~150℃、昇温速度10℃/分、DSC曲線におけるガラス転移に基づく吸熱開始温度を終了温度との中点をガラス転移温度とした。
【0065】
(重量平均分子量)
重量平均分子量(Mw)はGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)装置(昭和電工社製「ShodexGPCSystem-21」)を用いて分子量分布を測定し、ポリスチレン換算分子量として求めた。
【0066】
(光輝性顔料の平均粒子径及び平均厚み)
光輝性顔料の平均粒子径及び平均厚みは日本電子(株)製走査型電子顕微鏡(JSM-6390LA)を用いて観察を行い、得られた画像において、光輝性顔料の平均粒子径及び膜厚をそれぞれ4箇所測定し、その平均値を求めた。
【0067】
(実施例1)[印刷インキS1の製造]
アクリル樹脂1 2.1部をイソプロパノール(以下、IPAとも記す) 65.3部に溶解させ、アルミニウムペーストA(蒸着アルミニウム:平均粒子径8μm、平均厚み25nm、薄片状、液状媒体:プロピレングリコールモノメチルエーテル、固形分10質量%)32.6部を混合し、印刷インキS1を得た。
【0068】
(実施例2~26、比較例1~6)[印刷インキS2~S26、R1~R6の製造]
表1、表2に記載した原料及び配合比率に変更した以外は印刷インキS1の製造と同様の方法にて印刷インキS2~S26、R1~R6を得た。
【0069】
表1、表2中の略称は以下を示す。
・アクリル樹脂1:酸価280mgKOH/g、Tg80℃、Mw80000
・アクリル樹脂2:酸価228mgKOH/g、Tg60℃、Mw50000
・アクリル樹脂3:酸価75mgKOH/g、Tg57℃、Mw14500
・アクリル樹脂4:酸価0mgKOH/g、Tg50℃、Mw55000
・アクリル樹脂5:酸価230mgKOH/g、Tg134℃、Mw14000
・アクリル樹脂6:酸価215mgKOH/g、Tg85℃、Mw8500
・アクリル樹脂7:酸価0mgKOH/g、Tg20℃、Mw360000
・アクリル樹脂8:酸価0mgKOH/g、Tg105℃、Mw120000
・アクリル樹脂9:酸価0mgKOH/g、Tg50℃、Mw80000
・アクリル樹脂10:酸価238mgKOH/g、Tg56℃、Mw1700
・塩化ビニル―酢酸ビニル共重合樹脂:酸価5.8mgKOH/g、Tg70℃、Mw69000
・ウレタン樹脂:酸価 30mgKOH/g、Tg30℃、Mw45000
・インジウムペースト:リーフパウダー49CJ-1120(尾池工業社製、金属蒸着膜由来の薄片状光輝性顔料、平均粒子径1μm以下、平均厚み10~100nm、液状媒体:プロピレングリコールモノメチルエーテル、固形分20%)
・シリカコートアルミニウムペースト:EMRS-710(東洋アルミニウム社製、金属蒸着膜由来の薄片状光輝性顔料、平均粒子径10μm、平均厚み30nm以下、液状媒体:プロピレングリコールモノメチルエーテル、固形分10%)
・アルミニウムペーストB:0231T―N(東洋アルミニウム社製、平均粒子径8μm、平均厚み500nm、薄片状ではない、液状媒体:酢酸n-プロピル、固形分60%)
・PGM:プロピレングリコールモノメチルエーテル
・MEK:メチルエチルケトン
【0070】
<印刷物の作製>
上記で得られた印刷インキS1~S26、R1~R6を、スタイラス角度140度、スクリーン線数250線/インチのグラビア版(ファイン)により、厚さ75μmのアクリルフィルム(住友化学社製、テクノロイ)に印刷速度120m/分で印刷し、印刷物を得た。なお、S22~S24は光輝性印刷層の膜厚が異なる例であり、所定の膜厚になるよう塗布量を調整した。
【0071】
<20°光沢>
上記実施例及び比較例で作製した印刷物の基材側より、キヤノン社製表面反射アナライザーRA―532Hを用いて、20°光沢値を測定した。結果は表1、表2に示した。表中の数値は下記の通りである。
5:1000以上
4:900以上1000未満
3:800以上900未満
2:700以上800未満
1:700未満
【0072】
<性能評価>
上記実施例及び比較例で得られたインキの印刷物を用いて以下の評価を行った。評価結果は表1、表2に示した。
【0073】
<L値>
上記実施例及び比較例で作製した印刷物の基材側より、X―RITE社製ポータブル積分球分光測色計 Ci64を用いて、L値を測定した。評価基準を下記に示す。本評価においてL値が高いということは印刷物の明度が高く、外観が明るく高輝度感がある状態を表す。
5:85以上
4:80以上85未満
3:70以上80未満
2:50以上70未満
1:50未満
実用上使用可能な評価は3以上である。
【0074】
<写像性>
上記実施例及び比較例で作製した印刷物の基材側より、キヤノン社製表面反射アナライザーRA―532Hを用いて、写像性を測定した。評価基準を下記に示す。本評価において写像性が高いことは印刷物の表面に写る像がより鮮明に歪みなく見えるということを表す。
5:85%以上
4:80%以上85%未満
3:70%以上80%未満
2:50%以上70%未満
1:50%未満
実用上使用可能な評価は3以上である。
【0075】
<拡散度>
上記実施例及び比較例で作製した印刷物の基材側より、キヤノン社製表面反射アナライザーRA―532Hを用いて、拡散度を測定した。評価基準を下記に示す。拡散度は、反射光の正反射が強く拡散が小さいほど値が小さくなり、本発明において良好であることを表す。
5:2未満
4:2以上3未満
3:3以上4未満
2:4以上5未満
1:5以上
実用上使用可能な評価は3以上である。
【0076】
<耐候性>
上記実施例及び比較例で作製した印刷物について、促進耐候性試験機(キセノンウェザーメーター)にて耐候性試験を行い、試験後の印刷物を基材側より目視評価した。
試験条件:ブラックパネル温度63℃、湿度50%(相対湿度)、放射照度180W/m2(300nm~400nm)、連続照射、水噴霧時間12分間/60分間照射
5:変化なし
4:塗膜が黄色もしくは白色に若干変化
3:塗膜が黄色もしくは白色に変化
2:基材と塗膜の間に浮き(空隙)が見られる
1:塗膜にクラックが生じる
実用上使用可能な評価は3以上である。
【0077】
【0078】
【0079】
【0080】
以上の結果より、本発明の印刷インキを用いることで、明度(L値)が高く、写像性、拡散度及び耐候性に優れた印刷インキ、並びに、印刷物を提供するという課題を達成できることが判った。これに対して比較例では、明度(L値)、写像性、拡散度、耐候性の少なくともいずれかが、評価基準を満たさない結果となった。