(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025026411
(43)【公開日】2025-02-21
(54)【発明の名称】正極活物質の作製方法、及びリチウムイオン電池の作製方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/525 20100101AFI20250214BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20250214BHJP
H01M 10/058 20100101ALI20250214BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20250214BHJP
H01M 4/1391 20100101ALI20250214BHJP
H01M 4/587 20100101ALI20250214BHJP
H01M 4/38 20060101ALI20250214BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20250214BHJP
H01M 10/0568 20100101ALI20250214BHJP
H01M 10/0569 20100101ALI20250214BHJP
C01G 53/00 20060101ALI20250214BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M10/052
H01M10/058
H01M4/62 Z
H01M4/1391
H01M4/587
H01M4/38 Z
H01M4/36 E
H01M10/0568
H01M10/0569
C01G53/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024131683
(22)【出願日】2024-08-08
(31)【優先権主張番号】P 2023130742
(32)【優先日】2023-08-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2023198136
(32)【優先日】2023-11-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000153878
【氏名又は名称】株式会社半導体エネルギー研究所
(72)【発明者】
【氏名】深井 修次
(72)【発明者】
【氏名】栗城 和貴
(72)【発明者】
【氏名】米田 祐美子
(72)【発明者】
【氏名】浅田 善治
(72)【発明者】
【氏名】島田 知弥
【テーマコード(参考)】
4G048
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
4G048AA03
4G048AA04
4G048AA05
4G048AA06
4G048AB01
4G048AC06
4G048AD03
4G048AE05
4G048AE06
5H029AJ02
5H029AJ03
5H029AK03
5H029AL07
5H029AL11
5H029AL18
5H029AM02
5H029AM03
5H029AM04
5H029AM05
5H029AM07
5H029CJ02
5H029CJ08
5H029CJ22
5H050AA02
5H050AA08
5H050BA17
5H050CA08
5H050CB08
5H050CB11
5H050CB29
5H050DA10
5H050DA11
5H050EA23
5H050EA24
5H050GA02
5H050GA10
5H050GA22
5H050HA02
5H050HA04
5H050HA05
5H050HA14
5H050HA20
(57)【要約】
【課題】低温環境においても優れた充放電特性を有するリチウムイオン電池に使用可能な正極活物質の作製方法を提供する。
【解決手段】メディアン径が10μm以下であるコバルト酸リチウムを加熱する第1の工程と、第1の工程を経たコバルト酸リチウムにフッ素源及びマグネシウム源を混合して、第1の混合物を作製する第2の工程と、第1の混合物を加熱する第3の工程と、第3の工程を経た第1の混合物にニッケル源及びアルミニウム源を混合して、第2の混合物を作製する第4の工程と、第2の混合物を加熱する第5の工程と、を有し、第3の工程及び第5の工程は、セッターの内部で、被加熱物の厚さを2.0mm以下となるように収容した状態で行われ、第1の工程、第3の工程、及び第5の工程は、酸素を有する雰囲気中で行われる、正極活物質の作製方法である。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加熱物を収容するセッターを用いる正極活物質の作製方法であって、
メディアン径が10μm以下であるコバルト酸リチウムを700℃以上1000℃以下の温度で1時間以上5時間以下加熱する第1の工程と、
前記第1の工程を経たコバルト酸リチウムにフッ素源及びマグネシウム源を混合して、第1の混合物を作製する第2の工程と、
前記第1の混合物を800℃以上1100℃以下の温度で1時間以上10時間以下加熱する第3の工程と、
前記第3の工程を経た第1の混合物にニッケル源及びアルミニウム源を混合して、第2の混合物を作製する第4の工程と、
前記第2の混合物を800℃以上950℃以下の温度で1時間以上5時間以下加熱する第5の工程と、を有し、
前記第3の工程は、第1のセッターの内部で、前記第1の混合物の厚さを2.0mm以下となるように収容した状態で行われ、
前記第5の工程は、第2のセッターの内部で、前記第2の混合物の厚さを2.0mm以下となるように収容した状態で行われ、
前記第1の工程、前記第3の工程、及び前記第5の工程は、酸素を有する雰囲気中で行われる、正極活物質の作製方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記マグネシウム源が有するマグネシウムの原子数は、前記第1の工程を経たコバルト酸リチウムが有するコバルトの原子数の0.3%以上3%以下である、正極活物質の作製方法。
【請求項3】
請求項2において、
前記ニッケル源が有するニッケルの原子数は、前記第1の工程を経たコバルト酸リチウムが有するコバルトの原子数の0.05%以上4%以下である、正極活物質の作製方法。
【請求項4】
請求項3において、
前記アルミニウム源が有するアルミニウムの原子数は、前記第1の工程を経たコバルト酸リチウムが有するコバルトの原子数の0.05%以上4%以下である、正極活物質の作製方法。
【請求項5】
正極と、電解液と、負極と、セパレータと、外装体と、を備えたリチウムイオン電池の作製方法であって、
請求項1乃至請求項4の何れか一の方法で作製された正極活物質と、導電材と、ポリフッ化ビニリデンと、を有機溶媒に分散して正極スラリーを作製し、前記正極スラリーを正極集電体上に塗布し、乾燥することで前記正極を作製する工程と、
黒鉛粒子と、シリコン粒子と、ポリアクリル酸と、を水に分散して負極スラリーを作製し、前記負極スラリーを負極集電体上に塗布し、乾燥することで前記負極を作製する工程と、
リチウム塩と、フッ化環状カーボネートと、フッ化鎖状カーボネートと、を混合することで前記電解液を作製する工程と、を有し、
前記正極と前記負極を、前記セパレータを介して重ねることで積層体を作製し、
前記外装体の内部に、前記積層体と、前記電解液と、を収容する、リチウムイオン電池の作製方法。
【請求項6】
請求項5において、
前記リチウム塩は、LiPF6を有し、
前記フッ化環状カーボネートは、フルオロエチレンカーボネートを有し、
前記フッ化鎖状カーボネートは、トリフルオロプロピオン酸メチルを有する、リチウムイオン電池の作製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の一態様は、リチウムイオン電池(リチウムイオン二次電池ともいう)に関する。また本発明は上記分野に限定されず、半導体装置、表示装置、発光装置、蓄電装置、照明装置、電子機器、車両及びこれらの製造方法に関する。上述の半導体装置、表示装置、発光装置、蓄電装置、照明装置、電子機器、及び車両は、必要な電源として、本発明の一態様であるリチウムイオン電池を適用することができる。例えば上述の電子機器には、リチウムイオン電池を搭載した情報端末装置などが含まれる。さらに上述の蓄電装置には据置型の蓄電装置などが含まれる。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウムイオン電池、リチウムイオンキャパシタ、空気電池、全固体電池等、種々の蓄電池の開発が盛んに行われている。特に高出力、高容量であるリチウムイオン電池は半導体産業の発展と併せて急速にその需要が拡大し、充電可能なエネルギーの供給源として現代の情報化社会に不可欠なものとなっている。
【0003】
リチウムイオン電池は、放電時の温度によって放電容量が変化することが知られている。そのため、低温環境であっても優れた電池特性を有するリチウムイオン電池が求められている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
さらに室温におけるリチウムイオン電池の高容量化のため、また充放電サイクル特性の向上のため、正極、負極ともに種々の研究開発が行われている。正極活物質としては、安定な結晶構造を有するコバルト酸リチウムについて検討されている(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
また蛍石(フッ化カルシウム)等のフッ化物は古くから製鉄などにおいて融剤として用いられており、物性の研究がされてきた(例えば、非特許文献1)。
【0006】
さらに負極活物質としては、シリコン系材料が黒鉛系材料と比較して容量が高いことが知られており、シリコン系材料を用いた負極の検討が行われている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2015-026608号公報
【特許文献2】WO2020/026078号パンフレット
【特許文献3】特開2019-165005号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】W. E. Counts, R. Roy, and E. F. Osborn,「Fluoride Model Systems: II, The Binary Systems CaF2-BeF2, MgF2-BeF2, and LiF-MgF2」, Journal of the American Ceramic Society, 36 [1] 12-17 (1953).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に記載の電解液を用いることにより、低温環境(例えば、0℃以下)においても動作可能なリチウムイオン電池を実現できたことが特許文献1に記載されている。しかしながら、特許文献1に記載のリチウムイオン電池であっても、低温環境で放電した際の放電容量は本出願時では大きいと言えず、さらなる改善が望まれている。
【0010】
また、低温環境においても優れた充放電特性を有するリチウムイオン電池を実現するためには、電解液だけでなく、低温環境においても動作可能なリチウムイオン電池に適した正極及び負極の開発も求められている。また、当該正極は、高電圧での充電と、放電と、が可能な正極活物質を有することが望ましい。高電圧での充電と、放電と、が可能な正極活物質を用いることで、リチウムイオン電池の充電容量および/または充電エネルギー密度の大きいリチウムイオン電池とすることができる。
【0011】
そこで本発明の一態様は、低温環境においても優れた充放電特性を有するリチウムイオン電池の提供を課題の一とする。具体的には、低温環境で放電しても放電容量の大きなリチウムイオン電池に適用可能な正極、負極及び電解液等の提供を課題の一とする。または、低温環境で充電しても充電容量および/または充電エネルギー密度の大きいリチウムイオン電池に適用可能な正極、負極、及び電解液等を提供を課題の一とする。
【0012】
なお、これらの課題の記載は、他の課題の存在を妨げるものではない。また、本発明の一態様は、これらの課題の全てを解決する必要はないものとする。また、本明細書、図面、請求項等の記載から、これら以外の課題を抽出することも可能である。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の一態様は、被加熱物を収容するセッターを用いる正極活物質の作製方法であって、メディアン径が10μm以下であるコバルト酸リチウムを700℃以上1000℃以下の温度で1時間以上5時間以下加熱する第1の工程と、第1の工程を経たコバルト酸リチウムにフッ素源及びマグネシウム源を混合して、第1の混合物を作製する第2の工程と、第1の混合物を800℃以上1100℃以下の温度で1時間以上10時間以下加熱する第3の工程と、第3の工程を経た第1の混合物にニッケル源及びアルミニウム源を混合して、第2の混合物を作製する第4の工程と、第2の混合物を800℃以上950℃以下の温度で1時間以上5時間以下加熱する第5の工程と、を有し、第3の工程は、第1のセッターの内部で、第1の混合物の厚さを2.0mm以下となるように収容した状態で行われ、第5の工程は、第2のセッターの内部で、第2の混合物の厚さを2.0mm以下となるように収容した状態で行われ、第1の工程、第3の工程、及び第5の工程は、酸素を有する雰囲気中で行われる、正極活物質の作製方法である。
【0014】
上記において、マグネシウム源が有するマグネシウムの原子数は、第1の工程を経たコバルト酸リチウムが有するコバルトの原子数の0.3%以上3%以下であることが好ましい。
【0015】
また上記において、ニッケル源が有するニッケルの原子数は、第1の工程を経たコバルト酸リチウムが有するコバルトの原子数の0.05%以上4%以下であることが好ましい。
【0016】
また上記において、アルミニウム源が有するアルミニウムの原子数は、第1の工程を経たコバルト酸リチウムが有するコバルトの原子数の0.05%以上4%以下である、正極活物質の作製方法である。
【0017】
または、本発明の一態様は、正極と、電解液と、負極と、セパレータと、外装体と、を備えたリチウムイオン電池の作製方法であって、上記の何れか一の方法で作製された正極活物質と、導電材と、ポリフッ化ビニリデンと、を有機溶媒に分散して正極スラリーを作製し、前記正極スラリーを正極集電体上に塗布し、乾燥することで正極を作製する工程と、黒鉛粒子と、シリコン粒子と、ポリアクリル酸と、を水に分散して負極スラリーを作製し、前記負極スラリーを負極集電体上に塗布し、乾燥することで負極を作製する工程と、リチウム塩と、フッ化環状カーボネートと、フッ化鎖状カーボネートと、を混合することで電解液を作製する工程と、を有し、正極と負極を、セパレータを介して重ねることで積層体を作製し、外装体の内部に、積層体と、電解液と、を収容する、リチウムイオン電池の作製方法である。
【0018】
上記のリチウムイオン電池の作製方法において、リチウム塩は、LiPF6を有し、フッ化環状カーボネートは、フルオロエチレンカーボネートを有し、フッ化鎖状カーボネートは、トリフルオロプロピオン酸メチルを有することが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明の一態様により、低温環境においても優れた充放電特性を有するリチウムイオン電池を提供することができる。具体的には、低温環境で放電しても放電容量および/または放電エネルギー密度の大きいリチウムイオン電池に適用可能な正極、負極、及び電解液等を提供することができる。または、低温環境で充電しても充電容量および/または充電エネルギー密度の大きいリチウムイオン電池に適用可能な正極、負極、及び電解液等を提供することができる。
【0020】
なお、これらの効果の記載は、他の効果の存在を妨げるものではない。本発明の一態様は、必ずしも、これらの効果の全てを有する必要はない。明細書、図面、請求項の記載から、これら以外の効果を抽出することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】
図1(A)乃至
図1(D)は、正極活物質の作製方法を説明する図である。
【
図2】
図2(A)は、加熱炉の断面模式図を示す図であり、
図2(B)は、蓋の上面図を示す図であり、
図2(C)は、容器、蓋、及び被加熱物の高さを説明する断面模式図である。
【
図3】
図3(A)は製造装置の一例を説明する図である。
図3(B)はローラーの配置を説明する図である。
【
図5】
図5は、正極活物質の作製方法を説明する図である。
【
図6】
図6(A)乃至
図6(C)は、正極活物質の作製方法を説明する図である。
【
図7】
図7は、フッ化リチウムとフッ化マグネシウムの組成および温度の関係を示す相図である。
【
図8】
図8は、DSC分析の結果を説明する図である。
【
図9】
図9(A)は、リチウムイオン電池の内部構造を説明する断面図であり、
図9(B)はリチウムイオン電池の正極活物質及び電解液等を説明する断面図である。
【
図13】
図13は従来の正極活物質の結晶構造を説明する図である。
【
図14】
図14は結晶構造から計算されるXRDパターンを示す図である。
【
図15】
図15は結晶構造から計算されるXRDパターンを示す図である。
【
図16】
図16は、負極活物質の作製方法を説明する図である。
【
図23】
図23(A)及び
図23(B)は、フィルムの加工方法を説明する図である。
図23(C)は、湾曲した電池の斜視図である。
【
図24】
図24(A)及び
図24(B)は、フィルムの加工方法を説明する図である。
図24(C)は、湾曲した電池の斜視図である。
【
図25】
図25(A)はコイン型二次電池の分解斜視図であり、
図25(B)はコイン型二次電池の斜視図であり、
図25(C)はその断面斜視図である。
【
図26】
図26(A)は、円筒型の二次電池の例を示す。
図26(B)は、円筒型の二次電池の例を示す。
図26(C)は、複数の円筒型の二次電池の例を示す。
図26(D)は、複数の円筒型の二次電池を有する蓄電システムの例を示す。
【
図27】
図27(A)及び
図27(B)は、二次電池の例を説明する図であり、
図27(C)は、二次電池の内部の様子を示す図である。
【
図36】
図36(A)及び
図36(B)は、実施例の充放電サイクルの結果を示すグラフである。
【
図37】
図37(A)及び
図37(B)は、実施例の充放電サイクルの結果を示すグラフである。
【
図38】
図38(A)及び
図38(B)は、実施例の充放電サイクルの結果を示すグラフである。
【
図39】
図39(A)及び
図39(B)は、実施例の充放電サイクルの結果を示すグラフである。
【
図40】
図40(A)及び
図40(B)は、実施例の低温充放電試験の結果を示すグラフである。
【
図41】
図41(A)及び
図41(B)は、実施例の低温充放電試験の結果を示すグラフである。
【
図42】
図42(A)は、実施例で作製した電池の写真であり、
図42(B)及び
図42(C)は、実施例の衝撃試験前のX線CT像である。
【
図43】
図43は、実施例の衝撃試験前の充放電特性を示すグラフである。
【
図44】
図44(A)及び
図44(B)は、実施例の衝撃試験を説明する写真であり、
図44(C)及び
図44(D)は、実施例の衝撃試験後のX線CT像である。
【
図45】
図45は、実施例の衝撃試験後の充放電特性を示すグラフである。
【
図46】
図46(A)乃至
図46(C)は、実施例の曲げ試験における曲げ回数と放電容量のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の実施の形態について、図面を適宜用いながら説明する。但し、本発明は以下の説明に限定されず、本発明の趣旨及びその範囲から逸脱することなくその形態及び詳細を様々に変更しうることは当業者であれば容易に理解される。従って、本発明は以下に示す実施の形態において、同じ物を指し示す符号は異なる図面において共通とする。
【0023】
また、本明細書等における「第1」、「第2」等の序数詞は、構成要素の混同を避けるために付すものであり、工程順または積層順など、なんらかの順番または順位を示すものではない。本明細書等において序数詞が付されていない用語であっても、構成要素の混同を避けるため、特許請求の範囲において序数詞が付される場合がある。本明細書等において序数詞が付されている用語であっても、特許請求の範囲において異なる序数詞が付される場合がある。本明細書等において序数詞が付されている用語であっても、特許請求の範囲において序数詞を省略する場合がある。
【0024】
また、以下に説明する実施の形態及び実施例それぞれにおいて、特に断りがない限り、本明細書等に記載されている実施形態及び実施例等を適宜組み合わせて実施することが可能である。
【0025】
本明細書等において、低温環境とは、0℃以下を指し、また0℃以下を氷点下と記すことがある。そして、本明細書等において低温環境と記載する場合、0℃以下の任意の温度を選択することが可能である。例えば、本明細書等において低温環境と記載する場合、0℃以下、-10℃以下、-20℃以下、-30℃以下、-40℃以下、-50℃以下、-60℃以下、-80℃以下、及び-100℃以下から選ばれた一を選択することが可能である。
【0026】
本明細書等において、低温環境での優れた充放電特性とは、25℃での放電容量に対して低温環境での放電容量の低下が少ないことをいう。
【0027】
本明細書等において、空間群は国際表記(またはHermann-Mauguin記号)のShort notationを用いて表記する。また、ミラー指数を用いて結晶面及び結晶方向を表記する。結晶面を示す個別面は( )を用いて表記する。空間群、結晶面、および結晶方向の表記は、結晶学上、数字に上付きのバーを付すが、本明細書等では書式の制約上、数字の上にバーを付す代わりに、数字の前に-(マイナス符号)を付して表現する場合がある。また、結晶内の方向を示す個別方位は[ ]で、等価な方向全てを示す集合方位は< >で、結晶面を示す個別面は( )で、等価な対称性を有する集合面は{ }でそれぞれ表現する。また、空間群R-3mで表される三方晶は、構造の理解のしやすさのため、一般に六方晶の複合六方格子で表され、本明細書等も特に言及しない限り空間群R-3mは複合六方格子で表すこととする。また、ミラー指数として(hkl)だけでなく(hkil)を用いることがある。ここでiは-(h+k)である。
【0028】
また1以上の任意の整数をh、k、i、l等の文字で示すことがある。例えば(00l)は(001)、(003)および(006)を含む。
【0029】
また結晶構造の空間群はXRD、電子線回折、中性子線回折等によって同定されるものである。そのため本明細書等において、ある空間群に帰属する、ある空間群に属する、またはある空間群であるとは、ある空間群に同定されると言い換えることができる。
【0030】
本明細書等において、正極活物質の理論容量とは、正極活物質が有する挿入脱離可能なリチウムが全て脱離した場合の電気量をいう。例えば、LiCoO2の理論容量は274mAh/g、LiNiO2の理論容量は275mAh/g、LiMn2O4の理論容量は148mAh/gである。
【0031】
また、正極活物質中に挿入脱離可能なリチウムがどの程度残っているかを、組成式中のx、例えばLixCoO2中のx(リチウムサイトのLiの占有率)で示すことが可能である。リチウムイオン電池の有する正極活物質の場合、x=(理論容量-充電容量)/理論容量とすることができる。例えば、LiCoO2を正極活物質に用いたリチウムイオン電池を正極活物質重量当たり219.2mAh/g充電した場合、Li0.2CoO2またはx=0.2ということができる。LixCoO2中のxが小さい状態とは、例えばx≦0.24であり、リチウムイオン電池の正極活物質として用いる際の実用的な範囲を考慮すると、例えば0.1<x≦0.24であるものとする。
【0032】
コバルト酸リチウムが化学量論比をおよそ満たす場合、LiCoO2であり、x=1である。また、放電が終了したリチウムイオン電池も、LiCoO2であり、x=1といってよい。また、一般的にLiCoO2を用いたリチウムイオン電池では、放電電圧が2.5Vになるまでに放電電圧が急激に降下する。このため、本明細書等においては、例えば正極活物質重量当たり100mA/g以下の電流で、電圧が2.5V(対極はリチウム)となった状態を、放電が終了した状態と見なし、x=1と見なす。したがって、例えばx=0.2のときのコバルト酸リチウムとするためには、放電が終了した状態から正極活物質重量当たり219.2mAh/g充電すればよい。
【0033】
LixCoO2中のxの算出に用いる充電容量および/または放電容量は、短絡および/または電解液の分解の影響がないか、少ない条件で計測することが好ましい。例えば、短絡とみられる急激な電圧の変化が生じたリチウムイオン電池のデータは、xの算出に使用するのは好ましくない。
【0034】
本明細書等において、「カーボネート」とは、分子構造に炭酸エステルを少なくとも一つ有する化合物を指し、特に断りがない限り、「環状カーボネート」及び「鎖状カーボネート」が含まれる。また、「鎖状」とは、直鎖状または分岐鎖状の両方が含まれる。
【0035】
本明細書等において、「A及び/又はBを有する」と記載することがあるが、これはAを有する、Bを有する、A及びBを有することを指す。
【0036】
本明細書等において、フルセルとは、正極と、金属以外の負極と、を用いて組み立てられた電池セルを意味する。本明細書等において、ハーフセルとは、リチウム金属を負極(対極)に用いて組み立てられた電池セルを意味する。
【0037】
(実施の形態1)
本実施の形態では、
図1乃至
図8を用いて、低温環境においても優れた充放電特性を有するリチウムイオン電池に適用可能な正極活物質の作製方法を説明する。リチウムイオン電池に適用可能な正極活物質の特徴については実施の形態2で説明する。
【0038】
<正極活物質の作製方法の例1>
図1(A)乃至
図1(D)を用いて、本発明の一態様の正極活物質の作製方法の一例(正極活物質の作製方法の例1)について説明する。
【0039】
最初に、ステップS10として、出発材料となるコバルト酸リチウムを準備する。出発材料となるコバルト酸リチウムは、粒径(厳密には、メディアン径(D50))が10μm以下(好ましくは8μm以下)のものを用いることができる。メディアン径(D50)が10μm以下のコバルト酸リチウムは、公知または公用(端的には、市販)のコバルト酸リチウムを用いてもよいし、
図1(B)に示すステップS11-ステップS14を経て作製したコバルト酸リチウムを用いてもよい。メディアン径(D50)が10μm以下である市販のコバルト酸リチウムの代表例としては、日本化学工業株式会社製のコバルト酸リチウム(商品名「セルシードC-5H」)が挙げられる。セルシードC-5Hは、メディアン径(D50)が約7μmである。また、ステップS11-ステップS14を経て、メディアン径(D50)が10μm以下のコバルト酸リチウムを得るための作製方法を以下に説明する。
【0040】
<ステップS11>
図1(B)に示すステップS11では、出発材料であるリチウム及び遷移金属の材料として、それぞれリチウム源(Li源)及びコバルト源(Co源)を準備する。
【0041】
リチウム源としては、リチウムを有する化合物を用いると好ましく、例えば炭酸リチウム、水酸化リチウム、硝酸リチウム、又はフッ化リチウム等を用いることができる。リチウム源は純度が高いと好ましく、例えば純度が99.99%以上の材料を用いるとよい。
【0042】
コバルト源としては、コバルトを有する化合物を用いると好ましく、例えば四酸化三コバルト、水酸化コバルト等を用いることができる。コバルト源は純度が高いと好ましく、例えば純度が3N(99.9%)以上、好ましくは4N(99.99%)以上、より好ましくは4N5(99.995%)以上、さらに好ましくは5N(99.999%)以上の材料を用いるとよい。高純度の材料を用いることで、正極活物質の不純物を制御することができる。その結果、二次電池の容量が高まり、二次電池の信頼性が向上する。
【0043】
<ステップS12>
次に、
図1(B)に示すステップS12として、リチウム源及びコバルト源を粉砕及び混合して、混合材料を作製する。粉砕及び混合は、乾式または湿式で行うことができる。湿式での粉砕及び混合は、より小さく解砕することができるため、出発材料としてメディアン径(D50)が10μm以下のコバルト酸リチウムを得るためには好ましい。なお、湿式で行う場合は、溶媒を準備する。溶媒として、アセトン等のケトン、エタノール及びイソプロパノール等のアルコール、エーテル、ジオキサン、アセトニトリル、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)等を用いることができるが、リチウムと反応が起こりにくい、非プロトン性溶媒を用いることが好ましい。本実施の形態では、純度が99.5%以上の脱水アセトンを用いることとする。水分含有量を10ppm以下まで抑えた、純度が99.5%以上の脱水アセトンにリチウム源及び遷移金属源を混合して、粉砕及び混合を行うと好適である。上記のような純度の脱水アセトンを用いることで、混入しうる不純物を低減できる。
【0044】
<ステップS13>
次に、
図1(B)に示すステップS13として、上記の混合材料を加熱する。加熱温度は、800℃以上1100℃以下で行うことが好ましく、900℃以上1000℃以下で行うことがより好ましく、950℃程度1000℃以下がさらに好ましい。温度が低すぎると、リチウム源及び遷移金属源の分解及び溶融が不十分となるおそれがある。一方、温度が高すぎると、リチウム源からリチウムが蒸散する、および/またはコバルトが過剰に還元される、などが原因となり、欠陥が生じるおそれがある。例えばコバルトが3価から2価へ変化し、酸素欠陥などを誘発することがある。
【0045】
加熱時間は、短すぎるとコバルト酸リチウムが合成されないが、長すぎると生産性が低下する。このため、加熱時間は、1時間以上100時間以下とすればよく、2時間以上20時間以下とすることが好ましく、2時間以上10時間以下がより好ましい。
【0046】
昇温レートは、加熱温度の到達温度によるが、80℃/h以上250℃/h以下がよい。例えば1000℃で10時間加熱する場合、昇温レートは200℃/hとするとよい。
【0047】
加熱は、乾燥空気等の水が少ない雰囲気で行うことが好ましく、例えば露点が-50℃以下、より好ましくは露点が-80℃以下の雰囲気がよい。本実施の形態においては、露点-93℃の雰囲気にて、加熱を行うこととする。また材料中に混入しうる不純物を抑制するためには、加熱雰囲気におけるCH4、CO、CO2、及びH2等の不純物濃度が、それぞれ5ppb(parts per billion)以下にするとよい。
【0048】
加熱雰囲気として、酸素を有する雰囲気が好ましい。例えば反応室に乾燥空気を導入し続ける方法がある。この場合、乾燥空気の流量は10L/minとすることが好ましい。酸素を反応室へ導入し続け、酸素が反応室内を流れている方法をフローと呼ぶ。
【0049】
加熱雰囲気を、酸素を有する雰囲気とする場合、フローさせないやり方でもよい。例えば反応室を減圧してから酸素を充填し、当該酸素が反応室から出入りしないようにする方法でもよく、これをパージと呼ぶ。例えば反応室を-970hPaまで減圧してから、50hPaまで酸素を充填すればよい。
【0050】
加熱後の冷却は自然放冷でよいが、規定温度から室温までの降温時間が10時間以上50時間以下に収まると好ましい。ただし、必ずしも室温までの冷却は要せず、次のステップが許容する温度まで冷却されればよい。
【0051】
本工程の加熱は、ロータリーキルン又はローラーハースキルンによる加熱を行ってもよい。ロータリーキルンによる加熱は、連続式、バッチ式いずれの場合でも攪拌しながら加熱することができる。
【0052】
加熱の際に被加熱物を収容する容器は、酸化アルミニウム製のるつぼ、または酸化アルミニウム製のセッター(さやともいう)が好ましい。酸化アルミニウム製のるつぼは、不純物が殆ど混入しない材質である。本実施の形態においては、純度が99.9%の酸化アルミニウムのセッターを用いる。なお、るつぼまたはセッターは、蓋を配してから加熱すると材料の揮発を防ぐことができるため、好ましい。
【0053】
加熱が終わった後、必要に応じて解砕し、さらにふるいを実施してもよい。
【0054】
<ステップS14>
以上の工程により、
図1(B)に示すステップS14で示すコバルト酸リチウム(LiCoO
2)を合成することができる。ステップS14で示すコバルト酸リチウム(LiCoO
2)は、複数の金属元素を構造中に含む酸化物であるため、複合酸化物と呼ぶことができる。本明細書等において、「複合酸化物」とは、複数の金属元素を構造中に含む酸化物のことを指すものとする。なお、ステップS13の後、解砕工程及び分級工程を行って粒度分布を調整してから、ステップS14で示すコバルト酸リチウム(LiCoO
2)を得る態様としてもよい。
【0055】
ステップS11乃至ステップS14のように固相法で複合酸化物を作製する例を示したが、共沈法で複合酸化物を作製してもよい。また、水熱法で複合酸化物を作製してもよい。
【0056】
ステップS11乃至ステップS14を経て、低温環境においても優れた充放電特性を有するリチウムイオン電池に適用可能な正極活物質を得るための出発材料となるコバルト酸リチウムを得ることができる。具体的には、出発材料のコバルト酸リチウムとして、メディアン径(D50)が10μm以下であるコバルト酸リチウムを得ることができる。
【0057】
<ステップS15>
次に、
図1(A)に示すステップS15として、出発材料のコバルト酸リチウムを加熱する。ステップS15の加熱は、コバルト酸リチウムに対する最初の加熱のため、本明細書等において初期加熱と呼ぶことがある。または、以下に示すステップS31の前に加熱するものであるため、予備加熱又は前処理と呼ぶことがある。
【0058】
初期加熱により、コバルト酸リチウムの表面に意図せず残っているリチウム化合物などが脱離する。また、内部の結晶性を高める効果が期待できる。また、ステップS11等で準備したリチウム源および/またはコバルト源には不純物が混入していることがあるが、初期加熱により、出発材料のコバルト酸リチウムから不純物を低減させることが可能である。なお、内部の結晶性を高める効果とは、例えばステップS14で作製したコバルト酸リチウムが有する収縮差等に由来する歪み、ずれ等を緩和する効果である。
【0059】
また、初期加熱を経ることで、コバルト酸リチウムの表面がなめらかになる効果がある。また、初期加熱を経ることで、コバルト酸リチウムが有するクラック、結晶欠陥などを緩和する効果もある。本明細書等において、コバルト酸リチウムの表面が「なめらか」とは、コバルト酸リチウムの粒子の表面が凹凸が少なく、全体的に丸みを帯び、さらに角部が丸みを帯びる様子をいう。または、表面に付着した異物が少ない状態も「なめらか」と呼ぶ。異物は凹凸の要因になると考えられ、表面に付着させない方が好ましい。
【0060】
なお、この初期加熱では、リチウム源、添加元素源、または融剤として機能する材料を別途用意しなくてもよい。
【0061】
本工程の加熱時間は、短すぎると十分な効果が得られないが、長すぎると生産性が低下する。適切な加熱時間の範囲は、例えば、ステップS13で説明した加熱条件から選択して実施できる。なお、ステップS15の加熱温度は、複合酸化物の結晶構造を維持するため、ステップS13の温度より低くするとよい。また、ステップS15の加熱時間は、複合酸化物の結晶構造を維持するため、ステップS13の時間より短くすることが好ましい。例えば、700℃以上1000℃以下(より好ましくは、800℃以上900℃以下)の温度で、1時間以上20時間以下(より好ましくは、1時間以上5時間以下)の加熱を行うとよい。
【0062】
コバルト酸リチウムは、ステップS13の加熱によって、コバルト酸リチウムの表面と内部に温度差が生じることがある。温度差が生じると収縮差が誘発されることがある。温度差により、表面と内部の流動性が異なるため収縮差が生じるとも考えられる。収縮差に関連するエネルギーは、コバルト酸リチウムに内部応力の差を与えてしまう。内部応力の差は歪みとも称され、当該エネルギーを歪みエネルギーと呼ぶことがある。内部応力はステップS15の初期加熱により除去され、別言すると歪みエネルギーはステップS15の初期加熱により均質化されると考えられる。歪みエネルギーが均質化されると、コバルト酸リチウムの歪みが緩和される。これに伴い、コバルト酸リチウムの表面がなめらかになる。または、表面が改善されたとも言える。すなわち、ステップS15を経ることで、コバルト酸リチウムに生じた収縮差が緩和され、複合酸化物の表面をなめらかにすることができる。
【0063】
また、収縮差はコバルト酸リチウムにミクロなずれ、例えば結晶のずれを生じさせることがある。このずれを低減するためにも、ステップS15を実施することが好ましい。ステップS15を経ることで、複合酸化物のずれを均一化させる(複合酸化物に生じた結晶等のずれを緩和させる、または結晶粒の整列が行われる)ことが可能である。この結果、複合酸化物の表面がなめらかになる。
【0064】
なお、上述したとおり、ステップS10として、予め合成された、メディアン径(D50)が12μm以下、好ましくは10μm以下、さらに好ましくは8μm以下のコバルト酸リチウムを用いてもよい。この場合、ステップS11乃至ステップS13を省略することができる。予め合成されたコバルト酸リチウムに対してステップS15を実施することが有用であり、表面がなめらかなコバルト酸リチウムが得られるため好適なステップである。
【0065】
なお、ステップS15は、本発明の一態様において必須の構成ではないため、ステップS15を省略した態様も本発明の一態様に含まれる。
【0066】
本発明の一態様の正極活物質は添加元素Aを有することが好ましい。以降の工程で添加元素Aを添加する方法について説明する。
【0067】
<ステップS20>
次に、A源として添加元素Aを用意するステップS20の詳細について、
図1(C)及び
図1(D)を用いて説明する。
【0068】
<ステップS21>
図1(C)に示すステップS20は、ステップS21乃至ステップS23を有する。ステップS21は、添加元素Aを準備する。添加元素Aの具体例としては、マグネシウム、フッ素、ニッケル、アルミニウム、チタン、ジルコニウム、バナジウム、鉄、マンガン、クロム、ニオブ、ヒ素、亜鉛、ケイ素、硫黄、リン、ホウ素、バリウム、臭素、及びベリリウムから選ばれた一または二以上を用いることができる。
図1(C)は、マグネシウム源(Mg源)及びフッ素源(F源)を用意した場合を例示している。なお、ステップS21において、添加元素Aに加えて、リチウム源を別途準備してもよい。
【0069】
添加元素Aとしてマグネシウムを選んだとき、添加元素A源はマグネシウム源と呼ぶことができる。マグネシウム源としては、フッ化マグネシウム(MgF2)、酸化マグネシウム(MgO)、水酸化マグネシウム(Mg(OH)2)、又は炭酸マグネシウム(MgCO3)等を用いることができる。マグネシウム源は、複数用いてもよい。
【0070】
添加元素Aとしてフッ素を選んだとき、添加元素A源はフッ素源と呼ぶことができる。フッ素源としては、例えばフッ化リチウム(LiF)、フッ化マグネシウム(MgF2)、フッ化アルミニウム(AlF3)、フッ化チタン(TiF4)、フッ化コバルト(CoF2、CoF3)、フッ化ニッケル(NiF2)、フッ化ジルコニウム(ZrF4)、フッ化バナジウム(VF5)、フッ化マンガン、フッ化鉄、フッ化クロム、フッ化ニオブ、フッ化亜鉛(ZnF2)、フッ化カルシウム(CaF2)、フッ化ナトリウム(NaF)、フッ化カリウム(KF)、フッ化バリウム(BaF2)、フッ化セリウム(CeF3、CeF4)、フッ化ランタン(LaF3)、又は六フッ化アルミニウムナトリウム(Na3AlF6)等を用いることができる。なかでも、フッ化リチウムは融点が848℃と比較的低く、後述する加熱工程で溶融しやすいため、好ましい。
【0071】
なお、フッ化マグネシウムは、フッ素源としてもマグネシウム源としても用いることができる。また、フッ化リチウムは、リチウム源としても用いることができる。ステップS21に用いられるその他のリチウム源としては、炭酸リチウムが挙げられる。
【0072】
また、フッ素源は、気体でもよく、フッ素(F2)、フッ化炭素、フッ化硫黄、又はフッ化酸素(OF2、O2F2、O3F2、O4F2、O5F2、O6F2、O2F)等を用い、後述する加熱工程において雰囲気中に混合させてもよい。フッ素源は複数用いてもよい。
【0073】
本実施の形態では、フッ素源としてフッ化リチウム(LiF)を準備し、フッ素源及びマグネシウム源としてフッ化マグネシウム(MgF
2)を準備する。またフッ化リチウムをはじめとするフッ素化合物(フッ化物と呼ぶこともある)の融点が、他の添加元素源の融点より低い場合、フッ素化合物はその他の添加元素源の融点を下げる融剤(フラックス剤ともいう)として機能しうる。フッ素化合物がLiF及びMgF
2を有する場合、
図7(非特許文献1、
図5より引用し加筆)に示すようにLiFとMgF
2の共融点Pは742℃付近(T1)である。そのため、フッ化物としてLiF及びMgF
2を有する混合フッ化物を添加元素源に用いる場合は、添加元素を混合した後の加熱工程において、加熱温度を742℃以上とすると好ましい。
【0074】
ここで、混合フッ化物および混合物についての示差走査熱量測定(DSC測定)について
図8を用いて説明する。
図8において混合フッ化物と付したカーブは、LiFおよびMgF
2の混合物のDSC測定の結果である。混合フッ化物は、LiF:MgF
2=1:3(モル比)となるように混合して作製した。
図8において混合物と付したカーブは、コバルト酸リチウム、LiFおよびMgF
2を用いて混合した混合物のDSC測定の結果である。混合物は、LiCoO
2:LiF:MgF
2=100:0.33:1(モル比)となるように混合して作製した。
【0075】
図8に示すように、混合フッ素化物では735℃付近に吸熱ピークが観測される。また混合物では830℃付近に吸熱ピークが観測される。よって、添加元素を混合した後の加熱温度(後述するステップS33等)としては、742℃以上が好ましく、830℃以上がより好ましい。またこれらの間である800℃(
図7中のT2)以上でもよい。
【0076】
またフッ化リチウムとフッ化マグネシウムは、LiF:MgF2=65:35(モル比)程度で混合すると、融点を下げる効果が最も高くなる。また、フッ化リチウムの割合を大きくしすぎると、リチウムが過剰になり、サイクル特性が悪化する懸念がある。そのため、フッ化リチウムとフッ化マグネシウムのモル比は、LiF:MgF2=x:1(0≦x≦1.9)であることが好ましく、LiF:MgF2=x:1(0.1≦x≦0.5)がより好ましく、LiF:MgF2=x:1(x=0.33又はその近傍)がさらに好ましい。なお本明細書等において、ある値の近傍とは、特に断りがない限り、その値の0.9倍より大きく1.1倍より小さい値とする。
【0077】
<ステップS22>
次に、
図1(C)に示すステップS22では、マグネシウム源及びフッ素源を粉砕及び混合する。本工程は、ステップS12で説明した粉砕及び混合の条件から選択して実施することができる。
【0078】
<ステップS23>
次に、
図1(C)に示すステップS23では、上記で粉砕、混合した材料を回収して、添加元素A源(A源)を得ることができる。なお、ステップS23に示す添加元素A源は、複数の出発材料を有するものであり、混合物と呼ぶこともできる。
【0079】
上記混合物の粒径は、メディアン径(D50)が100nm以上10μm以下であることが好ましく、300nm以上5μm以下であることがより好ましい。また、添加元素A源として、一種の材料を用いた場合においても、メディアン径(D50)が100nm以上10μm以下であることが好ましく、300nm以上5μm以下であることがより好ましい。
【0080】
ステップS22により微粉化された混合物(添加元素が1種の場合も含む)は、後の工程でコバルト酸リチウムと混合したときに、コバルト酸リチウムの表面に混合物を均一に付着させやすい。コバルト酸リチウムの表面に混合物が均一に付着していると、加熱後に複合酸化物の表層部100aに均一に添加元素を分布又は拡散させやすいため、好ましい。
【0081】
<ステップS21>
図1(C)とは異なる工程について、
図1(D)を用いて説明する。
図1(D)に示すステップS20は、ステップS21乃至ステップS23を有する。
【0082】
図1(D)に示すステップS21では、コバルト酸リチウムに添加する添加元素A源を4種用意する。すなわち、
図1(D)は
図1(C)と添加元素A源の種類が異なる。また、添加元素A源に加えて、リチウム源を別途準備してもよい。
【0083】
4種の添加元素A源として、マグネシウム源(Mg源)、フッ素源(F源)、ニッケル源(Ni源)、及びアルミニウム源(Al源)を準備する。マグネシウム源及びフッ素源としては、
図1(C)で説明した化合物等から選択することができる。ニッケル源としては、酸化ニッケル、水酸化ニッケル等を用いることができる。アルミニウム源としては、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム等を用いることができる。
【0084】
<ステップS22>及び<ステップS23>
次に、
図1(D)に示すステップS22及びステップS23は、
図1(C)で説明したステップS22及びステップS23と同様である。
【0085】
<ステップS31>
次に、
図1(A)に示すステップS31では、ステップS15(初期加熱)を経たコバルト酸リチウムと、添加元素A源(A源)とを混合する。ここで、ステップS15を経たコバルト酸リチウム中のコバルトの原子数Coと、添加元素Aが有するマグネシウムの原子数Mgとの比は、Co:Mg=100:y(0.1≦y≦6)であることが好ましく、Co:Mg=100:y(0.3≦y≦3)であることがより好ましい。なお、初期加熱を経たコバルト酸リチウムに添加元素Aを加えると、添加元素Aをムラなく添加することができる。このため、添加元素Aを添加した後に初期加熱(ステップS15)する順ではなく、初期加熱(ステップS15)後に添加元素Aを添加する順が好ましい。
【0086】
また、添加元素Aとしてニッケルを選択した場合、ニッケル源が有するニッケルの原子数が、ステップS15を経たコバルト酸リチウムが有するコバルトの原子数に対して0.05%以上4%以下となるようにステップS31の混合を行うことが好ましい。また、添加元素Aとしてアルミニウムを選択した場合、アルミニウム源が有するアルミニウムの原子数が、ステップS15を経たコバルト酸リチウムが有するコバルトの原子数に対して0.05%以上4%以下となるようにステップS31の混合を行うことが好ましい。
【0087】
ステップS31の混合は、コバルト酸リチウムの形状を破壊させないために、ステップS12の粉砕・混合よりも穏やかな条件とすることが好ましい。例えば、ステップS12の混合よりも回転数が少ない、または短時間の条件とすることが好ましい。また、乾式混合とすることが好ましい。混合には、例えば粒子複合化装置、ボールミル、ビーズミル等を用いることができる。
【0088】
粒子複合化装置としては、ホソカワミクロン社製のメカノフュージョン(登録商標)、ノビルタ(登録商標)などの市販装置が知られている。メカノフュージョンは、円筒容器内に固定ブレードを有し、当該円筒容器が回転することで粉体に機械的エネルギーを与えて、混合することができる。また、ノビルタは、円筒容器内に回転ブレードを有し、ブレードの回転によって、粉体に機械的エネルギーを与えて、混合することができる。本実施の形態では、ノビルタを用いて、3000rpm、10分間で混合することとする。
【0089】
<ステップS32>
次に、
図1(A)のステップS32において、上記で混合した材料を回収し、混合物903を得る。回収の際、必要に応じて解砕した後にふるいを実施してもよい。
【0090】
<ステップS33>
次に、
図1(A)に示すステップS33では、混合物903を加熱する。ステップS33における加熱温度は、800℃以上1100℃以下で行うことが好ましく、800℃以上950℃以下で行うことがより好ましく、850℃以上900℃以下がさらに好ましい。また、ステップS33における加熱時間は、1時間以上100時間以下とすればよいが、1時間以上10時間以下が好ましい。ステップS33の加熱温度の下限は、コバルト酸リチウムと添加元素A源との反応が進む温度以上である必要がある。反応が進む温度とは、コバルト酸リチウムと添加元素A源との有する元素の相互拡散が生じる温度であればよく、これらの材料の溶融温度よりも低くてもよい。例えば酸化物を例にして説明すると、溶融温度T
mの0.757倍(タンマン温度T
d)から固相拡散が生じるため、ステップS33における加熱温度としては、500℃以上であればよい。
【0091】
なお、混合物903が有する材料から選ばれた一または二以上が溶融する温度以上であると、より反応が進みやすい。例えば、添加元素A源として、LiF及びMgF2を有する場合、上述したとおりLiFとMgF2の共融点は742℃付近であるため、ステップS33の加熱温度の下限は742℃以上とすると好ましい。
【0092】
また、LiCoO2:LiF:MgF2=100:0.33:1(モル比)となるように混合して得られた混合物903は、上述したとおり示差走査熱量測定(DSC測定)において830℃付近に吸熱ピークが観測される。よって、加熱温度の下限は830℃以上がより好ましい。
【0093】
加熱温度は高い方が反応が進みやすく、加熱時間が短く済み、生産性が高く好ましい。
【0094】
加熱温度の上限は、コバルト酸リチウムの分解温度(1130℃)未満とする。分解温度の近傍の温度では、微量ではあるがコバルト酸リチウムの分解が懸念される。そのため、1000℃以下であると好ましく、950℃以下であるとより好ましく、900℃以下であるとさらに好ましい。
【0095】
さらに、混合物903を加熱する際、フッ素源等に起因するフッ素またはフッ化物の分圧を適切な範囲に制御することが好ましい。
【0096】
本実施の形態で説明する作製方法では、一部の材料、例えばフッ素源であるLiFが融剤として機能する場合がある。この機能により、加熱温度をコバルト酸リチウムの分解温度未満、例えば742℃以上950℃以下にまで低温化でき、表層部にマグネシウムをはじめとする添加元素を分布させ、良好な特性の正極活物質を作製できる。
【0097】
ところで、LiFは酸素よりも気体状態での比重が軽いため、加熱によりLiFが揮発又は昇華する可能性があり、揮発又は昇華すると混合物903中のLiFが減少してしまう。この場合、融剤としての機能が弱くなってしまう。したがって、LiFの揮発又は昇華を抑制しつつ、加熱することが好ましい。
【0098】
そこで、LiFを含む雰囲気で混合物903を加熱すること、すなわち、加熱炉内のLiFの分圧が高い状態で混合物903を加熱することが好ましい。このような加熱により混合物903中のLiFの揮発又は昇華を抑制することができる。
【0099】
また、本工程の加熱は、混合物903の粒子同士が固着しないように加熱することが好ましい。加熱中に混合物903の粒子同士が固着すると、雰囲気中の酸素との接触面積が減る、及び添加元素(例えばフッ素)が拡散する経路を阻害することにより、表層部への添加元素(例えばマグネシウム及びフッ素)の分布が悪化する可能性がある。
【0100】
また、添加元素(例えばフッ素)が表層部に均一に分布すると、なめらかで凹凸が少ない正極活物質を得られる。そのため、本工程では、ステップS15の加熱により表面がなめらかな状態を維持する又はより一層なめらかになるためには、混合物903の粒子同士が固着しない方がよい。
【0101】
ステップS33を加熱炉で行う場合の例を
図2(A)に示す。
【0102】
図2(A)に示す加熱炉220は、加熱炉内空間202、熱板204、圧力計221、ヒータ部206及び断熱材208を有する。被加熱物を収容するセッターとして、容器216及び蓋218を示しており、容器216に蓋218を配して加熱すると好ましい。
図2(B)は蓋218の上面図を示しており、
図2(C)は容器216及び蓋218の断面模式図を示している。容器216に蓋218を置くだけで密閉空間をつくるが、完全に密閉するのではないため、容器内が異常高圧になることがなく、安全である。予め、容器216に添加元素A源(代表的にはフッ化物)が添加されているため、容器216及び蓋218で構成される空間219内を、フッ化物を含む雰囲気にすることができる。加熱中は、空間219内のガス化されたフッ化物の濃度が一定又は低減しないように蓋をすることで状態を維持すると、混合物903の粒子表面近傍にフッ素及びマグネシウムをはじめとする添加元素Aを含ませることができる。空間219は加熱炉内空間202よりも容積が小さいため、少量のフッ化物が揮発することで、フッ化物を含む雰囲気とすることができる。すなわち、混合物903に含まれるフッ化物の量を大きく損なうことなく、反応系の雰囲気を、フッ化物を含む雰囲気にすることができる。また、蓋218を用いることによって、簡便かつ安価にフッ化物を含む雰囲気で混合物903を加熱することができる。
【0103】
また、加熱炉内空間202での加熱を行う前に、加熱炉内空間202を、酸素を含む雰囲気にする工程、及び、混合物903を入れた容器216を加熱炉内空間202に設置する工程を行う。当該工程の順序とすることで、混合物903を酸素及びフッ化物を含む雰囲気で加熱することができる。例えば、加熱中はガスをフローしながら行う(フロー)。ガスは加熱炉内空間202の下面から導入し、上面へ排気させることができる。また、加熱中は加熱炉内空間202を密閉し、ガスが外部に運ばれないように閉空間とすることもできる(パージ)。
【0104】
加熱炉内空間202を、酸素を含む雰囲気にする方法は特に制限はないが、一例として加熱炉内空間202を排気した後、酸素ガス又は乾燥空気等の酸素を含む気体を導入する方法、酸素ガス又は乾燥空気等の酸素を含む気体を一定時間流入する方法が挙げられる。中でも、加熱炉内空間202を排気した後、酸素ガスを導入する(酸素置換)を行うと好ましい。なお、加熱炉内空間202の大気を、酸素を含む雰囲気とみなしても構わない。
【0105】
また、容器216及び蓋218の内壁に浸み込ませた添加元素A源(代表的にはフッ化物)を、加熱により再飛翔させて混合物903に付着させることもできる。
【0106】
加熱炉220を加熱する工程に特に制限はない。加熱炉220に備えられている加熱機構を用いて加熱すればよい。
【0107】
混合物903を容器216に収容する際の条件について、
図2(C)を用いて説明する。
図2(C)に示すように、容器216の底面に対して、混合物903の上面が平らになるように、言い換えると混合物903の上面の高さHが均一になるように混合物903を収容すると好ましい。混合物903の上面の高さHは、4.0mm以下であることが好ましく、2.0mm以下であることがより好ましい。混合物903の上面の高さHを上記の条件とすることで、容器216の底面付近の混合物903に、雰囲気中の酸素が到達することができる。一方、混合物903の上面の高さHが4.0mmより高くなると、容器216の底面付近の混合物903に到達する酸素の量が不十分となり、当該工程を経た正極活物質を電池に用いた際の電池特性が低下してしまう。また、混合物903の上面の高さHは、低くしすぎると、容器216に収容できる混合物903の量が少なくなるため、生産性が低下していまう。そのため、混合物903の上面の高さHは、0.5mm以上、又は1.0mm以上とするとよい。上記の記載を整理すると、混合物903の上面の高さHは、0.5mm以上4.0mm以下であることが好ましく、1.0mm以上2.0mm以下であることがより好ましい。
【0108】
上記ステップS33の加熱は、圧力計221で炉内の圧力を制御しながら行うことが好ましい。炉内は、大気圧状態又は加圧状態とすることが好ましい。例えば加圧状態に曝されると、コバルト酸リチウムの表面が溶融(melt)しやすくなると考えられる。そのため、LiFとMgF2と共に加熱されたコバルト酸リチウムの表面は、加圧することで溶融しうる。
【0109】
さらに混合物903を加熱する際、フッ素源等に起因するフッ素又はフッ素化合物の分圧を適切な範囲に制御することが好ましい。本ステップに用いる容器に蓋を配して加熱することで、分圧を制御することも可能である。なお上述したとおり、蓋をすることで、材料の揮発又は昇華を防ぐことができる。
【0110】
本実施の形態で説明する作製方法では、添加元素A源(代表的にはフッ化物)の材料、例えばフッ素源であるLiFが融剤として機能する場合がある。この機能により加熱温度をコバルト酸リチウムの分解温度未満、例えば742℃以上950℃以下にまで低温化でき、表層部にマグネシウムをはじめとする添加元素を分布させ、良好な特性の正極活物質を作製できる。
【0111】
しかし、LiFは酸素よりも気体状態での比重が軽いため、加熱によりLiFが揮発又は昇華する可能性があり、揮発すると混合物903中のLiFが減少してしまう。すると融剤としての機能が弱くなってしまう。よって、LiFの揮発を抑制しつつ、加熱する必要がある。なお、フッ素源等としてLiFを用いなかったとしても、コバルト酸リチウム表面のLiとフッ素源のFが反応して、LiFが生じ、揮発する可能性もある。そのため、LiFより融点が高いフッ素化合物を用いたとしても、同じように揮発の抑制が必要である。
【0112】
そこで、LiFを含む雰囲気で混合物903を加熱すること、すなわち、加熱炉内のLiFの分圧が高い状態で混合物903を加熱することが好ましい。このような加熱により、混合物903中のLiFの揮発を抑制することができる。LiFの揮発を抑制するためにも、セッターである容器に蓋を配するとよい。セッターである容器と蓋は高い温度に曝されるため、セッターである容器と蓋の材料の熱膨張係数が異なると、容器と蓋との隙間が大きくなるおそれがある。そのため、セッターである容器と、蓋と、は同一材料とすることが好ましい。
【0113】
<ローラーハースキルン>
本発明の一態様の製造装置は、容器に入った被処理物を連続的に処理するローラーハースキルンであってもよい。
図3(A)はローラーハースキルン150の断面模式図である。
図3(B)は、ローラーハースキルンが有するローラー152を説明する図である。
【0114】
ローラーハースキルン150は、キルン本体151と、複数のローラー152と、加熱手段153aおよび加熱手段153bと、雰囲気制御手段154と、固着抑制手段155a、固着抑制手段155bおよび固着抑制手段155cを有する。またローラーハースキルン150は一以上の遮断板157と、測定装置120aおよび測定装置120bを有することが好ましい。
図3(A)においては、3つの遮断板157(遮断板157a、遮断板157bおよび遮断板157cとして示す)を有する例を示す。
【0115】
キルン本体151はトンネル状である。複数のローラー152は、被加熱物161の入った容器160を搬送する機能を有する。容器160は複数のローラー152によりトンネル状のキルン本体151を通過し外まで搬送される。なお、容器160及び被加熱物161は、
図2(C)で説明した容器216及び混合物903の説明を参照することができる。つまり、容器160に収容される被加熱物161は、容器160の底面に対する被加熱物161の上面の高さは、0.5mm以上4.0mm以下であることが好ましく、1.0mm以上2.0mm以下であることがより好ましい。
【0116】
キルン本体151は複数のローラー152の搬送方向に沿って、上流部分と、下流部分を有する。キルン本体151は上流部分に加熱手段153aを有し、下流部分に加熱手段153bを有する。上流部分と下流部分の間に遮断板157bを設けてもよい。遮断板157bを設けることで、上流部分と下流部分の雰囲気を別々に制御することができる。またキルン本体151の入り口付近に遮断板157b、出口付近に遮断板157cを設けてもよい。これらを設けることで、キルン本体151の内部の雰囲気を制御しやすくなる。
【0117】
ローラーハースキルン150が有する固着抑制手段155は、例えば、容器160を振動させる手段である。例えば
図3(A)に示す3つの固着抑制手段155(固着抑制手段155a、固着抑制手段155bおよび固着抑制手段155cとして示す)のように、複数のローラー152の間に設けられた棒状または板状の装置であってもよい。固着抑制手段155a、固着抑制手段155bおよび固着抑制手段155cは固定されていてもよいが、容器160を振動させるために動いてもよい。また
図3(A)では固着抑制手段155を3つ設ける構成としたが、本発明の一態様はこれに限らない。固着抑制手段155は1または2つ設けてもよいし、4つ以上設けてもよい。
【0118】
ローラーハースキルン150が有する固着抑制手段は、
図3(B)に示すような、傾きを変えた複数のローラー152であってもよい。
【0119】
加熱手段153aおよび加熱手段153b、雰囲気制御手段154等については
図3(A)の記載を参照することができる。また、測定装置120aおよび測定装置120bについては、
図3(A)の記載を参照することができる。
【0120】
ローラーハースキルン150は被処理物を連続的に処理するため生産性が高く好ましい。
【0121】
<ローラーハースキルンの冷却部>
ローラーハースキルンに冷却部を設けてもよい。
【0122】
図4に示すローラーハースキルン150bは、
図3(A)に示すローラーハースキルン150の構成に加えて、昇温ゾーン121、第1冷却ゾーン124、及び第2冷却ゾーン125を有する例を示す。また、上流側に位置し、加熱手段153aにより加熱される領域を第1保持ゾーン122とし、下流側に位置し、加熱手段153bにより加熱される領域を第2保持ゾーン123とする。
【0123】
雰囲気制御手段154は、5つのゾーン(昇温ゾーン121、第1保持ゾーン122、第2保持ゾーン123、第1冷却ゾーン124、及び第2冷却ゾーン125)のそれぞれの雰囲気を制御する機能を有することが好ましい。雰囲気制御手段154から例えば、5つのゾーンのそれぞれにガスが導入される。雰囲気制御手段154から5つのゾーンのそれぞれに導入されるガスは、種類、温度、流量などが異なっていてもよい。
【0124】
図4においては、5つのゾーンが遮断板157により区切られる例を示すが、隣り合うゾーンの間に遮断板が設けられない構成としてもよい。例えば、昇温ゾーン121と、第1保持ゾーン122との間に遮断板を設けない構成としてもよい。また例えば、第1冷却ゾーンと第2冷却ゾーンとの間に遮断板を設けない構成としてもよい。
【0125】
昇温ゾーン121は、加熱手段153jを有する。ここで、加熱手段153jは領域により温度が異なることが好ましい。例えば、上流側から下流側に向かって、徐々に温度が高くなることが好ましい。具体的には例えば、加熱手段153jが複数のブロックを有し、各ブロックにはヒーターが設けられ、上流側のブロックから順に、下流側に向かって、ヒーターの温度が高くなる構成とすればよい。
【0126】
第1冷却ゾーン124は加熱手段153kを有する。ここで、加熱手段153kは領域により温度が異なってもよい。例えば、上流側から下流側に向かって、徐々に温度が低くなってもよい。具体的には例えば、加熱手段153jが複数のブロックを有し、各ブロックにはヒーターが設けられ、上流側のブロックから順に、下流側に向かって、ヒーターの温度が低くなる構成としてもよい。
【0127】
第2冷却ゾーン125は例えば、室温の領域である。室温において冷却を行うことにより、降温レートを高めることができる。
【0128】
第1冷却ゾーン124及び第2冷却ゾーン125において、冷却水を用いて冷却を行ってもよい。冷却水を用いることにより、降温レートを高めることができる。
【0129】
なお、本発明の一態様のローラーハースキルンにおいて、第1冷却ゾーン124と第2冷却ゾーン125のいずれかを設けない構成としてもよい。
【0130】
例えば、第1冷却ゾーン124を設けず、第2保持ゾーン123から第2冷却ゾーンに続く構成とし、温度保持工程を行った直後に室温において冷却を行うことにより、降温レートを高めることができる。
【0131】
加熱手段153j及び加熱手段153kとして、例えば、炭化ケイ素ヒーター、カーボンヒーター、金属ヒーター、二ケイ化モリブデンヒーター等を用いることができる。
【0132】
<ステップS34>
次に、
図1(A)に示すステップS34では、加熱した材料を回収し、必要に応じて解砕して、正極活物質100を得る。このとき、回収された正極活物質100の粒子を、さらにふるいにかけると好ましい。以上の工程により、メディアン径(D50)が12μm以下(好ましくは10.5μm以下、より好ましくは8μm以下)の正極活物質100(複合酸化物)を作製することができる。なお、正極活物質100は添加元素Aを含むものである。
【0133】
<正極活物質の作製方法の例2>
図5及び
図6を用いて、本発明の一態様の正極活物質の作製方法の別の一例(正極活物質の作製方法の例2)について説明する。<正極活物質の作製方法の例2>は、添加元素を加える回数及び混合方法が先に述べた正極活物質の作製方法の例1と異なるが、その他の記載は<正極活物質の作製方法の例1>の記載を適用することができる。
【0134】
図5において、
図1(A)と同様にステップS10及びステップS15を行い、初期加熱を経たコバルト酸リチウムを準備する。なお、ステップS15は、本発明の一態様において必須の構成ではないため、ステップS15を省略した態様も本発明の一態様に含まれる。
【0135】
<ステップS20a>
次に、ステップS20aに示すように、第1の添加元素A1源(A1源)を準備する。ステップS20aの詳細は、
図6(A)を参照しながら説明する。
【0136】
<ステップS21>
図6(A)に示すステップS21では、第1の添加元素A1源(A1源)を準備する。A1源としては、
図1(C)に示すステップS21で説明した添加元素Aの中から選択して用いることができる。例えば、添加元素A1源としては、マグネシウム、フッ素、及びカルシウムの中から選ばれるいずれか一または複数を用いることができる。
図6(A)では、添加元素A1源として、マグネシウム源(Mg源)、及びフッ素源(F源)を用いる場合を例示している。
【0137】
図6(A)に示すステップS21乃至ステップS23は、
図1(C)に示すステップS21乃至ステップS23と同様の条件で行うことができる。その結果、ステップS23で添加元素A1源(A1源)を得ることができる。
【0138】
また、
図5に示すステップS31乃至S33については、
図1(A)に示すステップS31乃至S33と同様の条件で行うことができる。
【0139】
<ステップS34a>
次に、ステップS33で加熱した材料を回収し、添加元素A1を有するコバルト酸リチウムを得る。ここでは、ステップS15を経たコバルト酸リチウム(第1の複合酸化物)と区別するため、第2の複合酸化物とも呼ぶ。
【0140】
<ステップS40>
図5に示すステップS40では、第2の添加元素A2源(A2源)を用意する。ステップS40は、
図6(B)及び
図6(C)も参照しながら説明する。
【0141】
<ステップS41>
図6(B)に示すステップS40では、第2の添加元素A2源(A2源)を用意する。A2源としては、
図1(C)に示すステップS20で説明した添加元素Aの中から選択して用いることができる。例えば、添加元素A2としては、ニッケル、チタン、ホウ素、ジルコニウム、及びアルミニウムの中から選ばれるいずれか一または複数を好適に用いることができる。
図6(B)では、添加元素A2として、ニッケル源(Ni源)及びアルミニウム源(Al源)を用いる場合を例示している。
【0142】
図6(B)に示すステップS41乃至ステップS43は、
図1(C)に示すステップS21乃至ステップS23と同様の条件で行うことができる。その結果、ステップS43で添加元素A2源(A2源)を得ることができる。
【0143】
図6(C)に示すステップS41乃至ステップS43は、
図6(B)の変形例である。
図6(C)に示すステップS41ではニッケル源(Ni源)及びアルミニウム源(Al源)を準備し、ステップS42aではそれぞれ独立に粉砕する。その結果、ステップS43では、複数の第2の添加元素A2源(A2源)を準備することとなる。このように、
図6(C)のステップS40はステップS42aにおいて添加元素源を独立に粉砕している点で、
図6(B)のステップS40と異なる。
【0144】
<ステップS51乃至ステップS53>
次に、
図5に示すステップS51乃至ステップS53は、
図1(A)に示すステップS31乃至ステップS33と同様の条件で行うことができる。加熱工程に関するステップS53の条件は、
図5に示すステップS33の加熱温度と同じ温度、または低い温度であることが好ましい。また、ステップS33の加熱時間よりも短い時間であることが好ましい。具体的には、加熱温度は、800℃以上950℃以下であることが好ましく、820℃以上870℃以下がより好ましく、850℃±10℃がさらに好ましい。また、加熱時間は、0.5時間以上8時間以下が好ましく、1時間以上5時間以下がより好ましい。
【0145】
なお、添加元素A2としてニッケルを選択した場合、ニッケル源が有するニッケルの原子数が、ステップS15を経たコバルト酸リチウムが有するコバルトの原子数に対して0.05%以上4%以下となるようにステップS51の混合を行うことが好ましい。また、添加元素A2としてアルミニウムを選択した場合、アルミニウム源が有するアルミニウムの原子数が、ステップS15を経たコバルト酸リチウムが有するコバルトの原子数に対して0.05%以上4%以下となるようにステップS51の混合を行うことが好ましい。
【0146】
<ステップS54>
次に、
図5に示すステップS54では、加熱した材料を回収し、必要に応じて解砕して、正極活物質100を得る。以上の工程により、メディアン径(D50)が12μm以下(好ましくは10.5μm以下、より好ましくは8μm以下)の正極活物質100(複合酸化物)を作製することができる。または、低温環境においても優れた充放電特性を有するリチウムイオン電池に適用可能な正極活物質100を作製することができる。なお、正極活物質100は添加元素A1及び添加元素A2を含むものである。
【0147】
以上に説明した作製方法の例2では、
図5及び
図6に示すように、コバルト酸リチウムへの添加元素を第1の添加元素A1と、第2の添加元素A2とに分けて導入する。分けて導入することにより、各添加元素の深さ方向の分布を変えることができる。
【0148】
本実施の形態の内容は、他の実施の形態の内容と自由に組み合わせることができる。
【0149】
(実施の形態2)
本実施の形態では、低温環境においても優れた充放電特性を有するリチウムイオン電池について説明する。
【0150】
[リチウムイオン電池]
本発明の一態様のリチウムイオン電池は、正極と、負極と、電解液と、を有する。また、正極と負極との間にセパレータを有する。また、正極、負極、及び電解液等を収容する外装体を有する。なお、本実施の形態において、リチウムイオン電池の作製方法を説明するが、正極と、負極と、電解液と、を作製する順番は、本実施の形態の記載順に限定されるものではない。
【0151】
本実施の形態では、低温環境(例えば、0℃、-20℃、好ましくは-30℃、より好ましくは-40℃)においても優れた充放電特性を有するリチウムイオン電池を実現するために必要とされるリチウムイオン電池の構成に焦点を当てて説明する。具体的には、正極に含まれる正極活物質と、負極活物質層、電解液を中心に説明する。
【0152】
図9(A)は、電池10の内部構造を説明する断面模式図である。電池10は、正極11と、負極12と、セパレータ13と、を有する。正極11は、正極集電体21、及び正極集電体21上の正極活物質層22を有し、負極12は、負極集電体31、及び負極活物質層32を有する。図示する通り、正極活物質層22と、負極活物質層32と、はセパレータ13を挟んで対向する。また、
図9(A)では図示していないが、正極活物質層22が有する空隙、セパレータが有する空隙、及び負極活物質層32が有する空隙に、電解液が含浸している。
【0153】
図9(B)は、
図9(A)において破線で囲んだ部分Aの拡大図である。
【0154】
正極活物質層22は、正極活物質100と、導電材41と、を有する。また、図示していないが、正極活物質100及び導電材41の他、バインダを有していてもよい。
【0155】
また、正極活物質層22が有する空隙は、図示するように電解液60で満たされているとよい。例えば、正極活物質層22が有する空隙の60%以上が電解液60で満たされていることが好ましく、空隙の70%以上がより好ましく、空隙の80%以上がより好ましく、空隙の90%以上がより好ましく、空隙の95%以上がより好ましく、空隙の99%以上が最も好ましい。なお、正極活物質層22が有する空隙とは、正極活物質層22において、固体成分(正極活物質、導電材など)以外の領域のことをいう。
【0156】
また、詳細な説明は省くが、上記の正極活物質層22の説明と同様に、負極活物質層32が有する空隙においても、電解液60で満たされているとよい。例えば、負極活物質層32が有する空隙の60%以上が電解液60で満たされていることが好ましく、空隙の70%以上がより好ましく、空隙の80%以上がより好ましく、空隙の90%以上がより好ましく、空隙の95%以上がより好ましく、空隙の99%以上が最も好ましい。なお、負極活物質層32が有する空隙とは、負極活物質層32において、固体成分(負極活物質、導電材など)以外の領域のことをいう。
【0157】
このように、正極活物質層22及び負極活物質層32の隅々まで電解液60を満たすことによって、正極活物質及び負極活物質と、電解液と、が接する領域を広くすることができる。つまり、低温環境での充電特性及び放電特性に優れるリチウムイオン電池とすることができる。
【0158】
また、低温環境の充電においては、正極活物質からリチウムイオンを脱離する際のエネルギー障壁が高くなる傾向がある。つまり、充電環境の温度が低いほど、正極活物質からリチウムイオンを脱離するために要する過電圧が大きくなるといえる。つまり、正極活物質は、低温環境での充電において、高電圧に晒されるおそれがある。別言すると、低温環境での充電において、正極活物質を高電圧に晒さない場合は、充電容量が低くなってしまうおそれがある。
【0159】
そのため、低温環境においても優れた充電特性及び放電特性を有するリチウムイオン電池が有する正極活物質として、高電圧に耐え、低温環境の充電において高い充電容量を得ることが可能な正極活物質を用いることが好ましい。
【0160】
また、低温環境においても優れた充電特性及び放電特性を有するリチウムイオン電池が有する電解質は、低温環境(例えば、0℃、好ましくは-20℃、より好ましくは-30℃、より好ましくは-40℃)における充電および/または放電(充放電)であってもリチウムイオン伝導性に優れた材料を用いることが好ましい。
【0161】
低温環境においても優れた充電特性及び放電特性を有するリチウムイオン電池として好ましい正極活物質、及び電解質について、以下で詳細に説明する。
【0162】
[正極]
正極は、正極活物質層及び正極集電体を有する。正極活物質層は正極活物質を有し、さらに導電材及びバインダの少なくとも一を有していてもよい。
【0163】
<正極活物質>
正極活物質は、充放電に伴い、リチウムイオンを取り込む機能、および放出する機能を有する。本発明の一態様の正極活物質は、高い充電電圧(特に断りがない限りリチウム金属を基準とした電圧値を示し、以降「高充電電圧」とも記す)としても、低温環境における充電および/または放電(以下、「充放電」とも呼ぶ。)に伴う劣化の少ない材料(または抵抗の増加の少ない材料)を用いることができる。具体的には、実施の形態1で説明した作製方法によって得られた、粒径(厳密には、メディアン径(D50))が12μm以下(好ましくは10.5μm以下、より好ましくは8μm以下)の正極活物質(複合酸化物)を用いることができると好ましい。勿論粒径が12μmより大きく20μm以下の正極活物質を有していてもよい。この正極活物質は、実施の形態1で説明した添加元素Aを含有する材料であり、本実施の形態では、上記添加元素Aを、添加元素X、添加元素Y、及び添加元素Zに分けて、詳細を説明する。よって換言すると、本実施の形態で説明する正極活物質は、添加元素X、添加元素Y、及び添加元素Zの内の何れか一又は複数を含むものである。添加元素X、添加元素Y、及び添加元素Zについて<含有元素>において、詳細を説明する。なお、本実施の形態で説明する添加元素Xは、実施の形態1で説明した添加元素A1と対応する。また、本実施の形態で説明する添加元素Y及び添加元素Zは、実施の形態1で説明した添加元素A2と対応する。
【0164】
粒径は、レーザ回折・散乱法を用いた粒度分布計等によって測定することができる。メディアン径(D50)とは、粒度分布測定結果の累積曲線において、その積算量が50%を占めるときの粒子径である。粒子の大きさの測定は、レーザ回折式粒度分布測定に限定されず、走査電子顕微鏡(以降、SEMと記す)または透過電子顕微鏡(以降、TEMと記す)などの分析によって、粒子断面の長径を測定してもよい。なお、SEMまたはTEMなどの分析からメディアン径(D50)を測定する方法として例えば、20個以上の粒子を測定し、累積曲線を作成し、その積算量が50%を占めるときの粒子径をメディアン径(D50)とすることができる。
【0165】
低温特性を評価する指標の一つとして、低温環境における放電容量の値が、20℃における放電容量の値に比して50%以上(好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上、最も好ましくは90%以上)であるとよい。なお、上記の数値は、環境温度以外の測定条件は同じものとして求めるとよい。
【0166】
または高い充電電圧としても、充放電に伴う劣化の少ない材料(または抵抗の増加の少ない材料)を正極活物質として用いることにより、低温環境においても放電容量が大きいとよい。
【0167】
より具体的には、25℃において充電及び放電を行うときの放電容量に対して、-40℃において充電及び放電を行うときの放電容量が、60%以上であることが好ましく、65%以上であることがより好ましく、70%以上であることがより好ましく、75%以上であることがより好ましい。なお、-40℃としたが当該温度は低温であればよく、-20℃、-30℃等のその他の低温に読み替えることができる。上記放電の条件として例えば、0.1C(ただし、1C=200mA/g(正極活物質重量当たり)とする)の電流レートで放電すればよい。上記のような低温特性の評価では、環境温度以外の測定条件を揃える限りにおいて、低いレートで評価しても構わない。
【0168】
他の低温特性の評価の一つとして、低温環境における放電エネルギー密度の値が、25℃における放電エネルギー密度の値に比して50%以上(好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上、最も好ましくは90%以上)であるとよい。
【0169】
本明細書等に記載した、環境温度とは、リチウムイオン電池の温度のことをいう。恒温槽を用いた電池特性の測定では、環境温度は恒温槽の設定温度とみなすことができる。そのため、恒温槽内に測定対象の試験セル(例えば、試験用電池またはハーフセル)を設置後、試験セルが恒温槽の温度と同程度になるまで十分な時間(例えば、1時間以上)をおいてから測定を開始するとよいが、必ずしもこの方法に限定されるものではない。
【0170】
本発明の一態様である正極活物質100について、
図10及び
図11を用いて説明する。正極活物質100はリチウム金属を基準とした高電圧での充電と、放電と、の繰り返しに伴う劣化の少ないため、低温環境でも十分な電池特性を提供できる。本実施の形態において高電圧とは、リチウム金属を基準として、4.6V,好ましくは4.65V、さらに好ましくは4.7Vとする。
【0171】
図10(A)及び
図10(B)は本発明の一態様である正極活物質100の断面図である。
図10(B)中のA-B付近を拡大した図を
図11(A)乃至
図11(C)に示す。また、
図10(B)中のC-D付近を拡大した図を
図11(D)乃至
図11(F)に示す。
【0172】
図10(A)に示すように、正極活物質100は、表層部100aと、内部100bを有する。図中に破線で表層部100aと内部100bの境界を示すが、明確な境界が存在するものではない。
【0173】
正極活物質100の表層部100aとは、例えば、表面から内部に向かって50nm以内、より好ましくは表面から内部に向かって35nm以内、さらに好ましくは表面から内部に向かって20nm以内、最も好ましくは表面から内部に向かって、表面から垂直または略垂直に10nm以内の領域をいう。表面から内部に向かって幅狭な領域、具体的には20nm以内をシェルと呼ぶ。なお略垂直には垂直が含まれ、具体的には80°以上100°以下とする。ひびおよび/またはクラックにより生じた面も表面といってよい。表層部は、表面近傍、または表面近傍領域と同義である。
【0174】
また正極活物質の表層部100aより深い領域を、内部100bと呼ぶ。内部100bは、内部領域またはコアと同義である。
【0175】
また、正極活物質100が空間群R-3mの層状岩塩型の結晶構造を有する場合、
図10(B)に示すように、表層部100aは、エッジ領域100a1と、ベーサル領域100a2と、を有する。
【0176】
なお、
図10(A)及び
図10(B)において、(00l)と付した直線は、(00l)面を表している。ベーサル領域100a2は、(00l)面と平行又は概略平行な粒子表面(ベーサル面と呼ぶ)を有する。また上記のベーサル面以外の粒子表面をエッジ面と呼び、エッジ面を有する領域をエッジ領域100a1と呼ぶ。正極活物質100にコバルト酸リチウムを適用した場合、エッジ面でリチウムイオンが挿入脱離することができる。
【0177】
正極活物質100の表面とは、上記表層部100aおよび内部100bを含む複合酸化物の表面をいうこととする。そのため正極活物質100は、酸化アルミニウム(Al2O3)をはじめとする充放電に寄与しうるリチウムサイトを有さない金属酸化物が付着したもの、正極活物質の作製後に化学吸着した炭酸塩、ヒドロキシ基等は含まないとする。なお付着した金属酸化物とは、例えば内部100bと結晶の配向が一致しない金属酸化物をいう。
【0178】
二つの領域の結晶の配向が概略一致することは、TEM(Transmission Electron Microscope、透過電子顕微鏡)像、STEM(Scanning Transmission Electron Microscope、走査透過電子顕微鏡)像、HAADF-STEM(High-angle Annular Dark Field Scanning TEM、高角散乱環状暗視野走査透過電子顕微鏡)像、ABF-STEM(Annular Bright-Field Scanning Transmission Electron Microscope、環状明視野走査透過電子顕微鏡)像、電子線回折パターン等から判断することができる。またTEM像のFFTパターン、およびSTEM像等のFFTパターンによっても判断することができる。さらにXRD(X-ray Diffraction、X線回折)、中性子線回折等も判断の材料にすることができる。
【0179】
また正極活物質100に付着した電解液、電解質の分解物、有機溶剤、バインダ、導電材、またはこれら由来の化合物は、正極活物質に含まないとする。すなわち、正極活物質の表面からは、付着した電解液、電解質の分解物、有機溶剤、バインダ、導電材、またはこれら由来の化合物が除かれる。
【0180】
正極活物質100はリチウムの挿入脱離が可能な遷移金属と酸素を有する化合物であるため、リチウムの挿入脱離に伴い酸化還元する遷移金属M(例えばCo、Ni、Mn、Fe等)および酸素が存在する領域と、存在しない領域の界面を、正極活物質の表面としてもよい。そのため、スリップ、ひびおよび/またはクラックにより生じた面も正極活物質の表面に含まれる。正極活物質を分析に供する際、表面に保護膜を付ける場合があるが、保護膜は正極活物質には含まれない。保護膜としては、炭素、金属、酸化物、樹脂などの単層膜又は多層膜が用いられる場合がある。
【0181】
<含有元素>
正極活物質100は、リチウムと、コバルトと、酸素と、添加元素と、を有する。または正極活物質100はコバルト酸リチウム(LiCoO2)に添加元素が加えられたもの有することができる。ただし本発明の一態様の正極活物質100は後述する結晶構造を有すればよい。そのためコバルト酸リチウムの組成が厳密にLi:Co:O=1:1:2に限定されるものではない。
【0182】
正極活物質100が有する添加元素としては、マグネシウム、フッ素、ニッケル、アルミニウム、チタン、ジルコニウム、バナジウム、鉄、マンガン、クロム、ニオブ、ヒ素、亜鉛、ケイ素、硫黄、リン、ホウ素、バリウム、臭素、及びベリリウムから選ばれた一または二以上を用いることが好ましい。
【0183】
添加元素は、正極活物質100に固溶していることが好ましい。添加元素が、後述するように正極活物質100が有する結晶構造をより安定化させる。
【0184】
例えばマンガンを実質的に含まない正極活物質100とすると、合成が比較的容易で取り扱いやすく、優れたサイクル特性を有するといった上記の利点がより大きくなる。正極活物質100に含まれるマンガンの重量は例えば600ppm以下、より好ましくは100ppm以下であることが好ましい。
【0185】
表層部100a、特にエッジ面を有するエッジ領域は充電時にリチウムイオンが最初に脱離する領域であり、内部100bよりもリチウム濃度が低くなりやすい領域である。またリチウムイオンが脱離した表層部100a、特にエッジ領域では正極活物質100の粒子の表面の原子は、一部の結合が切断された状態ともいえる。そのため表層部100aは不安定になりやすく、結晶構造の劣化が始まりやすい領域といえる。一方で表層部100a、特にエッジ領域を十分に安定にできれば、LixCoO2中のxが小さいときでも、例えばxが0.24以下でも内部100bのコバルトと酸素の8面体からなる層状構造を壊れにくくすることができる。さらには、表層部100a、特にエッジ領域を十分に安定にできれば、内部100bのコバルトと酸素の8面体からなる層のずれを抑制することができる。
【0186】
表層部100aを安定な組成および結晶構造とするために、表層部100aは上述した添加元素を有することが好ましく、添加元素は複数有することがより好ましい。また表層部100aは内部100bよりも添加元素から選ばれた一または二以上の濃度が高いことが好ましい。またエッジ領域100a1はベーサル領域100a2よりも添加元素から選ばれた一または二以上の濃度が高いことが好ましい。
【0187】
添加元素の分布について説明する。
図11(A)乃至
図11(C)は、
図10(B)中のA-B付近を拡大した図であり、正極活物質100のエッジ領域100a1を説明する図である。また、
図11(D)乃至
図11(F)は、
図10(B)中のC-D付近を拡大した図であり、正極活物質100のベーサル領域100a2を説明する図である。
【0188】
例えば添加元素の一部、マグネシウム、フッ素、チタン等は、内部100bから表面に向かって高くなる濃度勾配を有することが好ましい。
図11(A)及び
図11(D)では上記濃度勾配のイメージをハッチの濃さを用いて表現する。このような濃度勾配を有する添加元素を添加元素Xと呼ぶこととする。ただしマグネシウム、フッ素、チタン等の濃度は、ベーサル領域100a2よりエッジ領域100a1で高くてもよい。
【0189】
別の添加元素、例えばアルミニウム等は、濃度勾配を有しかつ
図11(A)及び
図11(D)に示した添加元素Xよりも深い領域に濃度のピークを有することが好ましい。
図11(A)及び
図11(D)では上記濃度勾配とピークの領域をハッチの濃さを用いて表現する。濃度のピークは表層部100aに存在してもよいし、表層部100aより深くてもよい。例えば表面から内部に向かって5nm以上30nm以下の領域にピークを有することが好ましい。このような濃度勾配を有する添加元素を添加元素Yと呼ぶこととする。ただしアルミニウム等の濃度は、ベーサル領域100a2よりエッジ領域100a1で高くてもよい。
【0190】
別の添加元素、例えばニッケル等は、
図11(C)及び
図11(F)にハッチの有無、及びハッチの濃さで示すように、エッジ領域100a1には明瞭に存在するものの、ベーサル領域100a2には、実質的に有さない場合がある。ニッケル等の濃度は、ベーサル領域100a2よりエッジ領域100a1で高くなるとよい。なお、ここで明瞭に存在する、とは、正極活物質100の断面STEM-EDXにおける分析において、当該元素の特性X線エネルギースペクトルが検出される場合をいう。このような分布を有する添加元素を添加元素Zと呼ぶこととする。
【0191】
また、実質的に有さない、とは、正極活物質100の断面STEM-EDXにおける分析において、当該元素の特性X線エネルギースペクトルが検出されない場合をいう。当該元素がSTEM-EDX分析において検出下限未満である、ともいう。
【0192】
例えば添加元素Xの一つであるマグネシウムは2価で、マグネシウムは層状岩塩型の結晶構造におけるコバルトサイトよりもリチウムサイトに存在する方が安定であるため、リチウムサイトに入りやすい。マグネシウムが表層部100aのリチウムサイトに適切な濃度で存在することで、層状岩塩型の結晶構造を保持しやすくできる。これはリチウムサイトに存在するマグネシウムが、CoO2層同士を支える柱として機能するためと推測される。またマグネシウムが存在することで、LixCoO2中のxが例えば0.24以下の状態においてマグネシウムの周囲の酸素の脱離を抑制することができる。
【0193】
マグネシウムは、適切な濃度であれば充放電に伴うリチウムの挿入および脱離に悪影響を及ぼさず上記のメリットを享受できる。しかしマグネシウムが過剰であるとリチウムの挿入および脱離に悪影響が出るおそれがある。さらに結晶構造の安定化への効果が小さくなってしまう場合がある。これはマグネシウムが、リチウムサイトに加えてコバルトサイトにも入るようになるためと考えられる。加えて、リチウムサイトにもコバルトサイトにも置換しない、余剰なマグネシウム化合物(酸化物又はフッ化物等)が正極活物質の表面等に偏析し、リチウムイオン電池の抵抗成分となるおそれがある。また正極活物質のマグネシウム濃度が高くなることに伴って正極活物質の放電容量が減少することがある。これはリチウムサイトにマグネシウムが入りすぎ、充放電に寄与するリチウム量が減少するためと考えられる。
【0194】
そのため、正極活物質100全体が有するマグネシウムが適切な量であることが好ましい。例えばマグネシウムの原子数はコバルトの原子数の0.001倍以上0.1倍以下が好ましく、0.01倍より大きく0.04倍未満がより好ましく、0.02倍程度がさらに好ましい。ここでいう正極活物質100全体が有するマグネシウムの量とは、例えばGD-MS、ICP-MS等を用いて正極活物質100の全体の元素分析を行った値であってもよいし、正極活物質100の作製の過程における原料の配合の値に基づいたものであってもよい。
【0195】
また添加元素Yの一つであるアルミニウムは層状岩塩型の結晶構造におけるコバルトサイトに存在しうる。アルミニウムは3価の典型元素であり価数が変化しないため、充放電の際もアルミニウム周辺のリチウムは移動しにくい。そのためアルミニウムとその周辺のリチウムが柱として機能し、結晶構造の変化を抑制しうる。またアルミニウムは周囲のコバルトの溶出を抑制し、連続充電耐性を向上する効果がある。またAl-Oの結合はCo-O結合よりも強いため、アルミニウムの周囲の酸素の脱離を抑制することができる。これらの効果により、熱安定性が向上する。そのため添加元素としてアルミニウムを有すると、リチウムイオン電池に用いたときの安全性を向上できる。また充放電を繰り返しても結晶構造が崩れにくい正極活物質100とすることができる。一方でアルミニウムが過剰であるとリチウムの挿入および脱離に悪影響が出るおそれがある。
【0196】
そのため正極活物質100全体が有するアルミニウムが適切な量であることが好ましい。例えば正極活物質100の全体が有するアルミニウムの原子数は、コバルトの原子数の0.05%以上4%以下が好ましく、0.1%以上2%以下が好ましく、0.3%以上1.5%以下がより好ましい。または0.05%以上2%以下が好ましい。または0.1%以上4%以下が好ましい。ここでいう正極活物質100全体が有する量とは例えば、GD-MS、ICP-MS等を用いて正極活物質100の全体の元素分析を行った値であってもよいし、正極活物質100の作製の過程における原料の配合の値に基づいてもよい。
【0197】
また添加元素Zの一つであるニッケルは、コバルトサイトとリチウムサイトのどちらにも存在しうる。コバルトサイトに存在する場合、コバルトと比較して酸化還元電位が低くなるため放電容量増加につながり好ましい。
【0198】
またニッケルがリチウムサイトに存在する場合、コバルトと酸素の8面体からなる層状構造のずれが抑制されうる。また充放電に伴う体積の変化が抑制される。また弾性係数が大きくなる、つまり硬くなる。これはリチウムサイトに存在するニッケルも、CoO2層同士を支える柱として機能するためと推測される。そのため特に高温、例えば45℃以上での充電状態において結晶構造がより安定になることが期待でき好ましい。
【0199】
一方でニッケルが過剰であるとヤーン・テラー効果による歪みの影響が強まり好ましくない。またニッケルが過剰であるとリチウムの挿入および脱離に悪影響が出るおそれがある。
【0200】
そのため正極活物質100全体が有するニッケルが適切な量であることが好ましい。例えば正極活物質100が有するニッケルの原子数は、コバルトの原子数の0%より高く7.5%以下が好ましく、0.05%以上4%以下が好ましく、0.1%以上2%以下が好ましく、0.2%以上1%以下がより好ましい。または0%より高く4%以下が好ましい。または0%より高く2%以下が好ましい。または0.05%以上7.5%以下が好ましい。または0.05%以上2%以下が好ましい。または0.1%以上7.5%以下が好ましい。または0.1%以上4%以下が好ましい。ここで示すニッケルの量は例えば、GD-MS、ICP-MS等を用いて正極活物質の全体の元素分析を行った値であってもよいし、正極活物質の作製の過程における原料の配合の値に基づいてもよい。
【0201】
また添加元素Xの一つであるフッ素は1価の陰イオンであり、表層部100aにおいて酸素の一部がフッ素に置換されていると、リチウム脱離エネルギーが小さくなる。これは、リチウム脱離に伴うコバルトイオンの価数の変化が、フッ素を有さない場合は3価から4価、フッ素を有する場合は2価から3価となり、酸化還元電位が異なることによる。そのため正極活物質100を正極活物質100の表層部100aにおいて酸素の一部がフッ素に置換されていると、フッ素近傍のリチウムイオンの脱離および挿入がスムースに起きやすいと言える。そのためリチウムイオン電池に用いたときに充放電特性、大電流特性等を向上させることができる。また電解液に接する部分である表面を有する表層部100aにフッ素が存在することで、フッ酸に対する耐食性を効果的に向上させることができる。また後の実施の形態で述べるが、フッ化リチウムをはじめとするフッ化物の融点が、他の添加元素源の融点より低い場合、その他の添加元素源の融点を下げる融剤(フラックス剤ともいう)として機能しうる。
【0202】
また添加元素Xの一つであるチタンの酸化物は超親水性を有することが知られている。そのため、表層部100aにチタン酸化物を有する正極活物質100とすることで、極性の高い溶媒に対して濡れ性がよくなる可能性がある。二次電池としたときに正極活物質100と、極性の高い電解液との界面の接触が良好となり、内部抵抗の上昇を抑制できる可能性がある。
【0203】
さらに、
図11(A)に示す表層部100aにマグネシウムを有し、
図11(C)に示す表層部100aにニッケルを有する場合、つまりマグネシウムとニッケルを併せて有する場合、2価のマグネシウムの近くでは2価のニッケルがより安定に存在できる可能性がある。そのためLi
xCoO
2中のxが小さい状態でもマグネシウムの溶出が抑制されうる。そのため表層部100aの安定化に寄与しうる。
【0204】
また、
図11(C)及び
図11(F)で示した様に、添加元素Zはエッジ領域100a1に多く含まれる(優先的に含まれる、選択的に含まれる、などともいう)とよく、リチウムイオン電池の充電及び放電おいてリチウムイオンが正極活物質100から出入りするエッジ領域100a1の結晶構造の安定性が向上するため、好ましい。また、添加元素Zが上記のような分布を有する場合、例えば正極活物質100がコバルト酸リチウムであるとき、添加元素Zを加えることによる放電電圧の低下、または放電容量の低下などの影響を、最小限にとどめることができるため、好ましい。
【0205】
上記のように複数の添加元素を有すると、それぞれの添加元素の効果が相乗し表層部100aのさらなる安定化に寄与しうる。特にマグネシウム、ニッケルおよびアルミニウムを有すると安定な組成および結晶構造とする効果が高く好ましい。なかでも、正極活物質100の表層部100aにおいて、アルミニウムがマグネシウムよりも内部側に分布する領域を有することが好ましい。また、さらに上記のマグネシウムとアルミニウムの分布する領域に加えて、正極活物質100の表層部100aのうち、エッジ領域100a1においてニッケルの分布とマグネシウム分布と、が重なる領域を有することが、最も好ましい。
【0206】
<結晶構造>
本発明の一態様は、低温環境における電池特性が向上するリチウムイオン電池であるが、結晶構造等を特定するXRD測定等は室温で測定したものである。
【0207】
<LixCoO2中のxが1のとき>
本発明の一態様の正極活物質100は放電状態、つまりLixCoO2中のx=1の場合に、空間群R-3mに帰属する層状岩塩型の結晶構造を有することが好ましい。層状岩塩型の複合酸化物は、放電容量が高く、二次元的なリチウムイオンの拡散経路を有しリチウムイオンの挿入/脱離反応に適しており、リチウムイオン電池の正極活物質として優れる。そのため正極活物質100の体積の大半を占める内部100bが層状岩塩型の結晶構造を有することが好ましい。
【0208】
一方、本発明の一態様の正極活物質100の表層部100aは、充電により正極活物質100からリチウムが抜けても、内部100bのコバルトと酸素の8面体からなる層状構造が壊れないよう補強する機能を有することが好ましい。または表層部100aが正極活物質100のバリア膜として機能することが好ましい。または正極活物質100の外周部である表層部100aが正極活物質100を補強することが好ましい。ここでいう補強とは、酸素の脱離をはじめとする正極活物質100の表層部100aおよび内部100bの構造変化を抑制すること、および/または電解液が正極活物質100の表面で酸化分解されることを抑制することをいう。
【0209】
補強する機能のため表層部100aは、内部100bと異なる結晶構造を有していてもよい。たとえば表層部100aは、内部100bよりも室温(25℃)で安定な組成および結晶構造であることが好ましい。例えば、本発明の一態様の正極活物質100の表層部100aの少なくとも一部が、岩塩型の結晶構造を有していてもよい。または表層部100aは、層状岩塩型と岩塩型の結晶構造の両方の結晶構造を有していてもよい。または表層部100aは、層状岩塩型と岩塩型の結晶構造の両方の特徴を有していてもよい。
【0210】
また層状岩塩型と岩塩型の結晶構造の特徴の両方を有することは、電子線回折、TEM像、断面STEM像等によって判断することができる。
【0211】
また添加元素の一部、特にマグネシウムは、内部100bよりも表層部100aの濃度が高いことが好ましく、内部100bではランダムかつ希薄に存在することが好ましい。またアルミニウムが内部100bのリチウムサイトに適切な濃度で存在すると、上記と同様に層状岩塩型の結晶構造を保持しやすくできるといった効果がある。またニッケルが内部100bに適切な濃度で存在すると、上記と同様にコバルトと酸素の8面体からなる層状構造のずれが抑制されうる。またマグネシウムとニッケルを併せて有する場合も、2価のニッケルの近くでは2価のマグネシウムがより安定に存在できる可能性があるため、マグネシウムの溶出を抑制する相乗効果が期待できる。
【0212】
また上述のマグネシウムの濃度勾配に起因して、内部100bから、表面に向かって結晶構造が連続的に変化することが好ましい。または表層部100aと内部100bの結晶の配向が概略一致していることが好ましい。
【0213】
なお本明細書等において、リチウムとコバルトをはじめとする遷移金属を含む複合酸化物が有する、空間群R-3mに帰属する層状岩塩型の結晶構造とは、陽イオンと陰イオンが交互に配列する岩塩型のイオン配列を有し、遷移金属とリチウムが規則配列して二次元平面を形成するため、リチウムの二次元的拡散が可能である結晶構造をいう。なお陽イオンまたは陰イオンの欠損等の欠陥があってもよい。また、層状岩塩型結晶構造は、厳密に言えば、岩塩型結晶構造の格子が歪んだ構造となっている場合があり、互いの結晶の配向が概略一致していることがある。
【0214】
また岩塩型結晶構造とは、空間群Fm-3mに属する結晶構造をはじめとする立方晶系の結晶構造を有し、陽イオンと陰イオンが交互に配列している構造をいう。なお陽イオンまたは陰イオンの欠損があってもよい。
【0215】
岩塩型結晶構造は陽イオンのサイトに区別がないが、層状岩塩型結晶構造は結晶構造の陽イオンのサイトが2種あり、1つはリチウムが大半を占有し、もう1つは遷移金属Mが占有する。陽イオンの二次元平面と陰イオンの二次元平面とが交互に配列する積層構造は、岩塩型も層状岩塩型も同じである。
【0216】
層状岩塩型結晶構造、および岩塩型結晶構造の陰イオンは立方最密充填構造(面心立方格子構造)をとる。後述するO3’型結晶も、陰イオンは立方最密充填構造をとると推定される。そのため層状岩塩型結晶構造と岩塩型結晶構造が接するとき、陰イオンにより構成される立方最密充填構造の向きが揃う結晶面が存在する。
【0217】
または、以下のように説明することもできる。立方晶の結晶構造の{111}面における陰イオンは三角格子を有する。層状岩塩型は空間群R-3mであって、菱面体構造であるが、構造の理解を容易にするため一般に複合六方格子で表現され、層状岩塩型の(0001)面は六角格子を有する。立方晶{111}面の三角格子は、層状岩塩型の(0001)面の六角格子と同様の原子配列を有する。両者の格子が整合性を持つことを、立方最密充填構造の向きが揃うということができる。
【0218】
ただし、層状岩塩型結晶構造および後述するO3’型結晶構造の空間群はR-3mであり、岩塩型結晶構造の空間群Fm-3m(一般的な岩塩型結晶の空間群)とは異なるため、上記の条件を満たす結晶面のミラー指数は層状岩塩型結晶構造およびO3’型結晶構造と、岩塩型結晶構造では異なる。本明細書では、層状岩塩型結晶構造、O3’型結晶構造および岩塩型結晶構造において、陰イオンにより構成される立方最密充填構造の向きが揃うとき、結晶の配向が概略一致する、と言う場合がある。
【0219】
<LixCoO2中のxが小さい状態>
本発明の一態様の正極活物質100は、上述のマグネシウムの分布および/または結晶構造を有することに起因して、放電状態(LixCoO2中のxが小さい状態)における結晶構造が、従来の正極活物質と異なる。なおここでxが小さいとは、0.1<x≦0.24をいうこととする。
【0220】
図12乃至
図15を用いて、Li
xCoO
2中のxの変化に伴う結晶構造の変化について、従来の正極活物質と本発明の一態様の正極活物質100を比較しながら説明する。
【0221】
従来の正極活物質の結晶構造の変化を
図13に示す。
図13に示す従来の正極活物質は、特にマグネシウムを有さないコバルト酸リチウム(LiCoO
2)である。
【0222】
図13にR-3m O3を付してLi
xCoO
2中のx=1のコバルト酸リチウムが有する結晶構造を示す。この結晶構造はリチウムが8面体サイトを占有し、ユニットセル中にCoO
2層が3層存在する。そのためこの結晶構造をO3型結晶構造と呼ぶ場合がある。なお、CoO
2層とはコバルトに酸素が6配位した8面体構造が、稜共有の状態で平面に連続した構造をいうこととする。これをコバルトと酸素の8面体からなる層、という場合もある。
【0223】
また従来のコバルト酸リチウムは、x=0.5程度のときリチウムの対称性が高まり、単斜晶系の空間群P2/mに帰属する結晶構造を有することが知られている。この構造はユニットセル中にCoO2層が1層存在する。そのためO1型、または単斜晶O1型と呼ぶ場合がある。
【0224】
またx=0のときの正極活物質は、三方晶系の空間群P-3m1の結晶構造を有し、やはりユニットセル中にCoO2層が1層存在する。そのためこの結晶構造を、O1型、または三方晶O1型と呼ぶ場合がある。また三方晶を複合六方格子に変換し、六方晶O1型と呼ぶ場合もある。
【0225】
またx=0.12程度のときの従来のコバルト酸リチウムは、空間群R-3mの結晶構造を有する。この構造は、三方晶O1型のようなCoO
2の構造と、R-3m O3のようなLiCoO
2の構造と、が交互に積層された構造ともいえる。そのためこの結晶構造を、H1-3型結晶構造と呼ぶ場合がある。なお、実際にはH1-3型結晶構造は、ユニットセルあたりのコバルト原子の数が他の構造の2倍となっている。しかし
図13をはじめ本明細書では、他の結晶構造と比較しやすくするためH1-3型結晶構造のc軸をユニットセルの1/2にした図で示すこととする。
【0226】
H1-3型結晶構造は一例として、ユニットセルにおけるコバルトと酸素の座標を、Co(0、0、0.42150±0.00016)、O1(0、0、0.27671±0.00045)、O2(0、0、0.11535±0.00045)と表すことができる。O1およびO2はそれぞれ酸素原子である。正極活物質が有する結晶構造をいずれのユニットセルを用いて表すべきかは、例えばXRDパターンのリートベルト解析により判断することができる。この場合はGOF(goodness of fit)の値が小さくなる、具体的には1に近くなるユニットセルを採用すればよい。
【0227】
LixCoO2中のxが0.24以下になるような充電と、放電とを繰り返すと、従来のコバルト酸リチウムはH1-3型結晶構造と、放電状態のR-3m O3の構造と、の間で結晶構造の変化(つまり非平衡な相変化)を繰り返すことになる。
【0228】
しかしながら、これらの2つの結晶構造は、CoO
2層のずれが大きい。
図13に点線および矢印で示すように、H1-3型結晶構造では、CoO
2層が放電状態のR-3m O3から大きくずれている。このようなダイナミックな構造変化は、結晶構造の安定性に悪影響を与えうる。
【0229】
さらにこれらの2つの結晶構造は体積の差も大きい。同数のコバルト原子あたりで比較した場合、H1-3型結晶構造と放電状態のR-3m O3型結晶構造の体積変化率は3.5%を超え、代表的には3.9%以上である。
【0230】
加えて、H1-3型結晶構造が有する、三方晶O1型のようにCoO2層が連続した構造は不安定である可能性が高い。
【0231】
そのため、xが0.24以下になるような充電と、放電とを繰り返すと従来のコバルト酸リチウムの結晶構造は崩れていく。結晶構造の崩れが、サイクル特性の悪化を引き起こす。これは、結晶構造が崩れることで、リチウムが安定して存在できるサイトが減少し、またリチウムの挿入脱離が難しくなるためである。
【0232】
一方、
図12に示す本発明の一態様の正極活物質100では、Li
xCoO
2中のxが1の放電状態と、xが0.24以下、具体的にはxが0.2(これをLi存在確率20%と記すことがある)の状態における結晶構造の変化が従来の正極活物質よりも少ない。より具体的には、xが1の状態と、xが0.24以下の状態におけるCoO
2層のずれを小さくすることができる。またコバルト原子あたりで比較した場合の体積の変化を小さくすることができる。よって、本発明の一態様の正極活物質100は、xが0.24以下になるような充電と、放電とを繰り返しても結晶構造が崩れにくく、優れたサイクル特性を実現することができる。また、本発明の一態様の正極活物質100は、Li
xCoO
2中のxが0.24以下の状態において従来の正極活物質よりも安定な結晶構造を取り得る。よって、本発明の一態様の正極活物質100は、Li
xCoO
2中のxが0.24以下の状態を保持した場合において、ショートが生じづらい。そのような場合にはリチウムイオン電池の安全性がより向上し好ましい。
【0233】
Li
xCoO
2中のxが1および0.2程度のときに正極活物質100の内部100bが有する結晶構造を
図12に示す。内部100bは正極活物質100の体積の大半を占め、充放電に大きく寄与する部分であるため、CoO
2層のずれおよび体積の変化が最も問題となる部分といえる。
【0234】
正極活物質100はx=1のとき、従来のコバルト酸リチウムと同じR-3m O3の結晶構造を有する。
【0235】
しかし正極活物質100は、従来のコバルト酸リチウムがH1-3型結晶構造となるようなxが0.24以下、例えば0.2程度又は0.12程度のとき、これと異なる構造の結晶を有する。
【0236】
x=0.2程度のときの本発明の一態様の正極活物質100は、三方晶系の空間群R-3mに帰属される結晶構造を有する。これはCoO
2層の対称性がO3と同じである。よって、この結晶構造をO3’型結晶構造と呼ぶこととする。またx=0.2程度のときの本発明の一態様の正極活物質100は、スピネル構造ではないが、XRDパターンにおいて、スピネル構造に似たパターンが現れる場合があり、この結晶構造を擬スピネル構造と呼ぶことがある。
図12にR-3m O3’を付してこの結晶構造を示す。
【0237】
O3’型の結晶構造は、ユニットセルにおけるコバルトと酸素の座標を、Co(0,0,0.5)、O(0,0,x)、0.20≦x≦0.25の範囲内で示すことができる。またユニットセルの格子定数は、a軸は2.797≦a≦2.837(×10-1nm)が好ましく、2.807≦a≦2.827(×10-1nm)がより好ましく、代表的にはa=2.817(×10-1nm)である。c軸は13.681≦c≦13.881(×10-1nm)が好ましく、13.751≦c≦13.811がより好ましく、代表的にはc=13.781(×10-1nm)である。
【0238】
O3’型結晶構造は、コバルト、マグネシウム等のイオンが酸素6配位位置を占める。なおリチウムなどの軽元素は酸素4配位位置を占める場合がありうる。
【0239】
図12中に点線で示すように、放電状態のR-3m(O3)と、O3’型結晶構造とではCoO
2層のずれがほとんどない。
【0240】
また放電状態のR-3m(O3)と、O3’型結晶構造の同数のコバルト原子あたりの体積変化率は2.5%以下、より詳細には2.2%以下、代表的には1.8%である。
【0241】
このように本発明の一態様の正極活物質100では、LixCoO2中のxが小さいとき、つまり多くのリチウムが脱離したときの結晶構造の変化が、従来の正極活物質よりも抑制されている。また同数のコバルト原子あたりで比較した場合の体積の変化も抑制されている。そのため正極活物質100は、xが0.24以下になるような充電と、放電とを繰り返しても結晶構造が崩れにくい。そのため、正極活物質100は充放電サイクルにおける充放電容量の低下が抑制される。また従来の正極活物質よりも多くのリチウムを安定して利用できるため、正極活物質100は重量あたりおよび体積あたりの放電容量が大きい。そのため正極活物質100を用いることで、重量あたりおよび体積あたりの放電容量の高いリチウムイオン電池を作製できる。
【0242】
なお正極活物質100は、LixCoO2中のxが0.15以上0.24以下のときO3’型の結晶構造を有する場合があることが確認され、xが0.24より高く0.27以下でもO3’型の結晶構造を有すると推定されている。しかし結晶構造はLixCoO2中のxだけでなく充放電サイクル数、充放電電流、温度、電解液等の影響を受けるため、必ずしも上記のxの範囲に限定されない。
【0243】
そのため正極活物質100はLixCoO2中のxが0.1より高く0.24以下のとき、正極活物質100の内部100bのすべてがO3’型の結晶構造でなくてもよい。他の結晶構造を含んでいてもよいし、一部が非晶質であってもよい。
【0244】
またLixCoO2中のxが小さい状態にするには、一般的には高い充電電圧で充電する必要がある。そのためLixCoO2中のxが小さい状態を、高い充電電圧で充電した状態と言い換えることができる。
【0245】
本発明の一態様の正極活物質100は、高い充電電圧、例えば25℃において4.6V以上の電圧で充電しても、R-3m O3の対称性を有する結晶構造を保持できるため好ましい、と言い換えることができる。またより高い充電電圧、例えば25℃において4.65V以上4.7V以下の電圧で充電したときO3’型の結晶構造を取り得るため好ましい、と言い換えることができる。
【0246】
正極活物質100でもさらに充電電圧を高めるとようやく、H1-3型結晶構造が観測される場合がある。また上述したように結晶構造は充放電サイクル数、充放電電流、電解液等の影響を受けるため、充電電圧がより低い場合、例えば充電電圧が25℃において4.5V以上4.6V未満でも、本発明の一態様の正極活物質100はO3’型結晶構造を取り得る場合が有る。
【0247】
なお、リチウムイオン電池において例えば負極活物質として黒鉛を用いる場合、上記よりも黒鉛の電位の分だけリチウムイオン電池の電圧が低下する。黒鉛の電位はリチウム金属の電位を基準として0.05V乃至0.2V程度である。そのため負極活物質として黒鉛を用いたリチウムイオン電池の場合は、上記の負極活物質としてリチウム金属を用いる場合の電圧から黒鉛の電位を差し引いた電圧のとき同様の結晶構造を有する。
【0248】
また
図12のO3’ではリチウムが全てのリチウムサイトに等しい確率で存在するように示したが、これに限らない。一部のリチウムサイトに偏って存在していてもよいし、例えば
図13に示す単斜晶O1(Li
0.5CoO
2)のような対称性を有していてもよい。リチウムの分布は、例えば中性子線回折により分析することができる。
【0249】
O3’型結晶構造をとりうるためにマグネシウムの濃度勾配は、正極活物質100の表層部100aの複数個所において同じような勾配であることが好ましい。つまりマグネシウムに由来する補強が表層部100aに均質に存在することが好ましい。表層部100aの一部に補強があっても、補強のない部分が存在すれば、ない部分に応力が集中するおそれがある。正極活物質100の一部に応力が集中すると、そこからクラック等の欠陥が生じ、正極活物質の割れおよび放電容量の低下につながるおそれがある。ただし必ずしも、正極活物質100の表層部100a全てにおいてマグネシウムが同じような濃度勾配を有していなくてもよい。
【0250】
R-3mの層状岩塩型の結晶構造では、(001)面に平行に陽イオンが配列している。これはCoO2層と、リチウム層と、が(001)面と平行に交互に積層した構造であるということができる。そのためリチウムイオンの拡散経路も(001)面に平行に存在する。再掲するが(001)面をベーサル面と呼び、リチウムイオンの拡散経路が露出する(001)面以外の面をエッジ面と呼ぶ。
【0251】
CoO2層は比較的安定であるため、正極活物質100の表面は(001)配向である方が安定である。(001)面には充放電におけるリチウムイオンの主な拡散経路は露出していない。
【0252】
一方、(001)面以外の表面ではリチウムイオンの拡散経路が露出している。そのため(001)面以外の表面、および当該面を有する表層部100aは、リチウムイオンの拡散経路を保つために重要な領域であると同時に、リチウムイオンが最初に脱離する領域であるため不安定になりやすい。そのため(001)面以外の表面、および当該面を有する表層部100aを補強することが、正極活物質100全体の結晶構造を保つために極めて重要である。
【0253】
<分析方法>
ある正極活物質が、LixCoO2中のxが小さいときO3’型の結晶構造を有する本発明の一態様の正極活物質100であるか否かは、LixCoO2中のxが小さい正極活物質を有する正極を、XRD、電子線回折、中性子線回折、電子スピン共鳴(ESR)、核磁気共鳴(NMR)等を用いて解析することで判断できる。XRDのなかでも粉末XRDでは、正極活物質100の体積の大半を占める正極活物質100の内部100bの結晶構造を反映した回折ピークが得られるため好ましい。
【0254】
また本発明の一態様の正極活物質100でも、xが0.1以下など小さすぎる場合、または充電電圧が4.9Vを超えるような条件ではH1-3型または三方晶O1型の結晶構造が生じる場合もある。そのため、本発明の一態様の正極活物質100であるか否かを判断するには、XRDをはじめとする結晶構造についての解析と、充電容量または充電電圧等の情報が必要である。
【0255】
またxが小さい状態の正極活物質は、大気に触れると結晶構造の変化を起こす場合がある。例えばO3’型の結晶構造からH1-3型結晶構造に変化する場合がある。そのため、結晶構造の分析に供するサンプルはすべてアルゴン雰囲気等の不活性雰囲気でハンドリングすることが好ましい。
【0256】
また、正極活物質が有する添加元素の分布が、上記で説明したような状態であるか否かは、例えばXPS、エネルギー分散型X線分光法(EDX:Energy Dispersive X-ray Spectroscopy)、EPMA(電子プローブ微小分析)等を用いて解析することで判断できる。
【0257】
また、表層部100a、結晶粒界等の結晶構造は、正極活物質100の断面の電子線回折等で分析することができる。
【0258】
≪充電方法≫
複合酸化物が、本発明の一態様の正極活物質100であるか否かを判断するための充電は、例えば正極に当該複合酸化物を用い、対極にリチウム金属を用いたコインセル(CR2032タイプ、直径20mm高さ3.2mm)を作製して充電することができる。コインセルは、電解液、セパレータ、正極缶、および負極缶を有する。
【0259】
より具体的には、正極には、正極活物質、導電材およびバインダを混合したスラリーを、アルミニウム箔の正極集電体に塗工したものを用いることができる。
【0260】
対極にはリチウム金属を用いることができる。
【0261】
リチウム塩には、1mol/Lの六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)を用い、電解質には、エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)がEC:DEC=3:7(体積比)で混合した混合溶媒を用い、添加剤としてビニレンカーボネート(VC)が混合溶媒に対して2wt%で混合されたものを用いることができる。
【0262】
セパレータには厚さ25μmのポリプロピレン多孔質フィルムを用いることができる。
【0263】
正極缶及び負極缶には、ステンレス(SUS)で形成されているものを用いることができる。
【0264】
上記条件で作製したコインセルを、任意の電圧(例えば4.5V、4.55V、4.6V、4.65V、4.7V、4.75Vまたは4.8V)で充電する。任意の電圧で十分に時間をかけて充電できれば充電方法は特に限定されない。例えばCCCVで充電する場合、CC充電における電流は、正極活物質重量当たり20mA/g以上100mA/g以下で行うことができる。CV充電は正極活物質重量当たり2mA/g以上10mA/g以下で終了することができる。正極活物質の相変化を観測するためには、このような小さい電流値で充電を行うことが望ましい。温度は25℃とする。このようにして充電した後に、コインセルをアルゴン雰囲気のグローブボックス中で解体して正極を取り出せば、任意の充電容量の正極活物質を得られる。この後に各種分析を行う際、外界成分との反応を抑制するため、アルゴン雰囲気で密封することが好ましい。例えばXRDは、アルゴン雰囲気の密閉容器内に封入して行うことができる。また充電完了後、速やかに正極を取り出し分析に供することが好ましい。具体的には充電完了後1時間以内が好ましく、30分以内がより好ましい。
【0265】
また複数回充放電した後の充電状態の結晶構造を分析する場合、該複数回の充放電条件は上記の充電条件と異なっていてもよい。例えば充電は任意の電圧(例えば4.6V、4.65V、4.7V、4.75Vまたは4.8V)まで、電流値が正極活物質重量当たり20mA/g以上100mA/g以下で定電流充電し、その後電流値が正極活物質重量当たり2mA/g以上10mA/g以下となるまで定電圧充電し、放電は2.5V、20mA/g以上100mA/g以下で定電流放電とすることができる。
【0266】
さらに複数回充放電した後の放電状態の結晶構造を分析する場合も、例えば2.5V、電流値が正極活物質重量当たり20mA/g以上100mA/g以下で定電流放電とすることができる。
【0267】
<XRD>
適切な調整と較正があればXRD測定の装置および条件は特に限定されない。たとえば下記のような装置および条件で測定することができる。
XRD装置 :Bruker AXS社製、D8 ADVANCE
X線 :Cu Kα
出力 :40kV、40mA
発散角 :Div.Slit、0.5°
検出器:LynxEye
スキャン方式 :2θ/θ連続スキャン
測定範囲(2θ) :15°以上90°以下
ステップ幅(2θ) :0.01°設定
計数時間 :1秒間/ステップ
試料台回転 :15rpm
調整と較正に用いる標準試料には、たとえばNIST(アメリカ国立標準技術研究所)の標準酸化アルミニウム焼結板SRM 1976等を用いることができる。
【0268】
測定サンプルが粉末の場合は、ガラスのサンプルホルダーに載せる、またはグリースを塗ったシリコン無反射板にサンプルを振りかける、等の手法でセッティングすることができる。測定サンプルが正極の場合は、正極を基板に両面テープで貼り付け、正極活物質層を装置の要求する測定面に合わせてセッティングすることができる。
【0269】
特性X線の単色化にはフィルタなどを用いてもよいし、XRDパターンを得た後にXRDデータ解析用ソフトウェアにて行ってもよい。たとえばDIFFRAC.EVA(Bruker社製XRDデータ解析ソフトウェア)を用いてCuKα2線によるピークを除き、CuKα1線によるピークのみを抽出することができる。また、同ソフトを用いて、バックグラウンドの除去なども行う事ができる。
【0270】
本明細書等において、ある回折ピークの2θの値に言及する場合のデータ処理について説明する。まず、結晶構造解析ソフトウェアを用いて、計算モデルをXRDパターンに対してフィッティングして、計算後パターンを得る。計算後パターンにおいて、当該回折ピークのピークトップが出現する2θの値を、当該回折ピークの2θの値という。フィッティングに用いる結晶構造解析ソフトウェアは特に限定されないが、例えばTOPASver.3(Bruker社製結晶構造解析ソフトウェア)を用いることができる。
【0271】
O3’型の結晶構造と、H1-3型結晶構造のモデルから計算される、CuKα
1線による理想的な粉末XRDパターンを
図14および
図15に示す。また比較のためLi
xCoO
2中のx=1のLiCoO
2 O3と、およびx=0の三方晶O1の結晶構造から計算される理想的なXRDパターンも示す。なお、LiCoO
2(O3)およびCoO
2(O1)のパターンはICSD(Inorganic Crystal Structure Database)より入手した結晶構造情報を基に、Materials Studio(BIOVIA)のモジュールの一つである、Reflex Powder Diffractionを用いて作成した。2θの範囲は15°から75°とし、Step size=0.01、波長λ1=1.540562×10
-10m、λ2は設定なし、Monochromatorはsingleとした。H1-3型結晶構造のXRDパターンは、
図15に示したH1-3型結晶構造の情報を基に、上記と同様の方法で作成した。O3’型の結晶構造のXRDパターンは本発明の一態様の正極活物質のXRDパターンから結晶構造を推定し、TOPAS ver.3(Bruker社製結晶構造解析ソフトウェア)を用いてフィッティングし、他と同様にXRDパターンを作成した。
【0272】
図14に示すように、O3’型の結晶構造では、2θ=19.25±0.12°(19.13°以上19.37°以下)、および2θ=45.47±0.10°(45.37°以上45.57°以下)に回折ピークが出現する。
【0273】
しかし
図15に示すように、H1-3型結晶構造および三方晶O1ではこれらの位置にピークは出現しない。そのため、Li
xCoO
2中のxが小さい状態で2θ=19.25±0.12°(19.13°以上19.37°以下)、および2θ=45.47±0.10°(45.37°以上45.57°以下)に回折ピークが出現することは、本発明の一態様の正極活物質100の特徴であるといえる。
【0274】
これは、x=1と、x≦0.24の結晶構造で、XRDの回折ピークが出現する位置が近いということもできる。より具体的には、x=1と、x≦0.24の結晶構造の主な回折ピークのうち2θが42°以上46°以下に出現するピークについて、2θの差が、0.7°以下、より好ましくは0.5°以下であるということができる。
【0275】
なお、本発明の一態様の正極活物質100はLixCoO2中のxが小さいときO3’型の結晶構造を有するが、すべてがO3’型の結晶構造でなくてもよい。他の結晶構造を含んでいてもよいし、一部が非晶質であってもよい。ただし、XRDパターンについてリートベルト解析を行ったとき、O3’型の結晶構造が50%以上であることが好ましく、60%以上であることがより好ましく、66%以上であることがさらに好ましい。O3’型の結晶構造が50%以上、より好ましくは60%以上、さらに好ましくは66%以上あれば、十分にサイクル特性に優れた正極活物質とすることができる。
【0276】
またXRDパターンにおける回折ピークの鋭さは結晶性の高さを示す。そのため、充電後の各回折ピークは鋭い、すなわち半値幅が狭い方が好ましい。半値幅は、同じ結晶相から生じたピークでも、XRDの測定条件又は2θの値によっても異なる。上述した測定条件の場合は、2θ=43°以上46°以下に観測されるピークにおいて、半値幅は例えば0.2°以下が好ましく、0.15°以下がより好ましく、0.12°以下がさらに好ましい。半値幅が狭く、結晶性が高いことは、充電後の結晶構造の安定化に寄与する。一方従来のLiCoO2では、一部がO3’型の結晶構造に似た構造を取りえたとしても、結晶子サイズが小さくなり、ピークはブロードで小さくなる。
【0277】
<XPS>
X線光電子分光(XPS)では、無機酸化物の場合で、X線として単色アルミニウムのKα線を用いると、表面から2乃至8nm程度(通常5nm以下)の深さまでの領域の分析が可能であるため、表層部100aの深さに対して約半分の領域について、各元素の濃度を定量的に分析することができる。また、ナロースキャン分析をすれば元素の結合状態を分析することができる。なおXPSの定量精度は多くの場合±1原子%程度、検出下限は元素にもよるが約1原子%である。
【0278】
また添加元素の濃度は、コバルトとの比で比較してもよい。コバルトとの比を用いることにより、正極活物質を作製後に化学吸着した炭酸塩等の影響を減じて比較することができ好ましい。例えば、XPSの分析によるマグネシウムとコバルトの原子数の比Mg/Coは、0.400以上であることが好ましく、0.500以上であることがより好ましく、0.600以上であることがより好ましく、0.700以上であることがより好ましく、0.800以上であることがより好ましく、0.900以上であることがより好ましく、1.000以上であることがより好ましい。また、Mg/Coが、2.000以下であることが好ましく、1.500以下であることが好ましく、1.400以下であることが好ましく、1.300以下であることが好ましく、または1.200以下であることが好ましい。
【0279】
また、例えばXPSの分析によるニッケルとコバルトの原子数の比Ni/Coは、0.05以上であることが好ましく、0.06以上であることがより好ましく、0.07以上であることがより好ましく、0.08以上であることがより好ましく、0.09以上であることがより好ましい。また、Ni/Coが、0.200以下であることが好ましく、0.150以下であることが好ましく、0.140以下であることが好ましく、0.130以下であることが好ましく、0.120以下であることが好ましく、または0.110以下であることが好ましい。
【0280】
また、例えばXPSの分析によるフッ素とコバルトの原子数の比F/Coは、0.100以上であることが好ましく、0.200以上であることがより好ましく、0.300以上であることがより好ましく、0.400以上であることがより好ましく、0.500以上であることがより好ましく、0.600以上であることがより好ましく、0.700以上であることがより好ましい。また、F/Coが、1.500以下であることが好ましく、1.200以下であることが好ましく、1.100以下であることが好ましく、1.000以下であることが好ましく、0.900以下であることが好ましい。
【0281】
上記のような範囲であることは、これらの添加元素が正極活物質100の表面の狭い範囲に付着するのではなく、正極活物質100の表層部100aに好ましい濃度で広く分布していることを示すといえる。つまり、正極活物質100のXPS分析の結果として、上記のような範囲であることは、xが0.24以下になるような充電と放電とを繰り返しても結晶構造が崩れにくく、優れたサイクル特性を実現することができる。
【0282】
また本発明の一態様の正極活物質100についてXPS分析したとき、フッ素と他の元素の結合エネルギーを示すピークは682eV以上685eV未満であることが好ましく、684.3eV程度であることがさらに好ましい。これは、フッ化リチウムの結合エネルギーである685eV、およびフッ化マグネシウムの結合エネルギーである686eVのいずれとも異なる値である。
【0283】
さらに、本発明の一態様の正極活物質100についてXPS分析したとき、マグネシウムと他の元素の結合エネルギーを示すピークは、1302eV以上1304eV未満であることが好ましく、1303eV程度であることがさらに好ましい。これは、フッ化マグネシウムの結合エネルギーである1305eVと異なる値であり、酸化マグネシウムの結合エネルギーに近い値である。
【0284】
<EDX>
正極活物質100が有する添加元素から選ばれた一または二以上は濃度勾配を有していることが好ましい。また正極活物質100は添加元素によって、濃度ピークの表面からの深さが異なっていることがより好ましい。添加元素の濃度勾配は例えば、FIB(Focused Ion Beam)等により正極活物質100の断面を露出させ、その断面をエネルギー分散型X線分光法(EDX:Energy Dispersive X-ray Spectroscopy)、EPMA(電子プローブ微小分析)等を用いて分析することで評価できる。
【0285】
EDX測定のうち、領域内を走査しながら測定し、領域内を2次元に評価することをEDX面分析と呼ぶ。また線状に走査しながら測定し、原子濃度について正極活物質内の分布を評価することを線分析と呼ぶ。さらにEDXの面分析から、線状の領域のデータを抽出したものを線分析と呼ぶ場合もある。またある領域について走査せずに測定することを点分析と呼ぶ。
【0286】
EDX面分析(例えば元素マッピング)により、正極活物質100の表層部100a、内部100bおよび結晶粒界近傍等における、添加元素の濃度を定量的に分析することができる。また、EDX線分析により、添加元素の濃度分布および最大値を分析することができる。またFIB等によりサンプルを薄片化した後の分析は、奥行き方向の分布の影響を受けずに、特定の領域における正極活物質の表面から中心に向かった深さ方向の濃度分布を分析でき、より好適である。またSTEM-EDX線分析における空間分解能を高くするためには、電子ビームのビーム径(ビーム直径、プローブ径、又はプローブ直径ともいう)が小さいことが好ましい。STEM-EDX線分析におけるビーム径としては、0.3nm以下であることが好ましく、0.2nm以下であることがより好ましく、0.1nm以下であることが更に好ましい。
【0287】
そのため本発明の一態様の正極活物質100についてEDX面分析またはEDX点分析したとき、表層部100aの各添加元素、特に添加元素Xの濃度が、内部100bのそれよりも高いことを確認できる。
【0288】
STEM-EDX線分析等では、原理的に、または測定誤差のため、元素の特性X線の検出量のグラフが急峻な変化とならず、厳密に表面を決めることが難しい場合がある。そのためSTEM-EDX線分析等において深さ方向に言及する際は、上記遷移金属Mの特性X線の検出量が、内部の上記遷移金属Mの特性X線の検出量の平均値MAVEと、バックグラウンドの上記遷移金属Mの特性X線の検出量の平均値MBGとの和の50%になる点、又は酸素の特性X線の検出量が、内部の酸素の特性X線の検出量の平均値OAVEと、バックグラウンドの酸素の特性X線の検出量の平均値OBGとの和の50%になる点を表面の基準点とする。なお、上記遷移金属Mの特性X線の検出量が内部の上記遷移金属Mの特性X線の検出量の平均値とバックグラウンドの上記遷移金属Mの特性X線の検出量の平均値の和の50%になる点と、酸素の特性X線の検出量が内部の酸素の特性X線の検出量の平均値とバックグラウンドの酸素の特性X線の検出量の平均値の和の50%になる点とが、異なる場合は、表面に付着する酸素を含む金属酸化物、炭酸塩等の影響と考えられるため、上記遷移金属Mの特性X線の検出量が内部の上記遷移金属Mの特性X線の検出量の平均値MAVEと、バックグラウンドの上記遷移金属Mの特性X線の検出量の平均値MBGとの和の50%になる点を正極活物質の表面の位置として採用することができる。また遷移金属Mを複数有する正極活物質の場合、内部における特性X線の検出量が最も多い元素のMAVE及びMBGを用いて上記基準点を求めることができる。
【0289】
上記遷移金属Mのバックグラウンドの平均値MBGは、たとえば遷移金属Mの検出量が増加を始める近辺を避けて正極活物質の外側の2nm以上、好ましくは3nm以上の範囲を平均して求めることができる。また内部の検出量の平均値MAVEは、遷移金属Mおよび酸素のカウントが飽和し安定した領域、たとえば遷移金属Mの検出量が増加を始める領域から深さ30nm以上、好ましくは50nmを超える部分で、2nm以上、好ましくは3nm以上の範囲を平均して求めることができる。酸素のバックグラウンドの平均値OBGおよび酸素の内部の検出量の平均値OAVEも同様に求めることができる。
【0290】
また断面STEM(走査型透過電子顕微鏡)像等における正極活物質100の表面とは、正極活物質の結晶構造に由来する像が観察される領域と、観察されない領域の境界であって、正極活物質を構成する金属元素の中でリチウムより原子番号の大きな金属元素の原子核に由来する原子カラムが確認される領域の最も外側とする。STEM像等における表面は、より空間分解能の高い分析と併せて判断してもよい。
【0291】
またSTEM-EDX線分析におけるピークとは、元素毎の特性X線強度のグラフに現れる凸形状の極大値、または元素毎の特性X線の最大値をいうこととする。なおSTEM-EDX線分析におけるノイズとしては、空間分解能(R)以下、たとえばR/2以下の半値幅の測定値などが考えられる。
【0292】
例えば添加元素としてマグネシウムを有する正極活物質100についてEDX面分析またはEDX点分析したとき、表層部100aのマグネシウム濃度が、内部100bのマグネシウム濃度よりも高いことが好ましい。またEDX線分析をしたとき、表層部100aのマグネシウム濃度のピークは、正極活物質100の表面から中心に向かった深さ3nmまでに存在することが好ましく、深さ1nmまでに存在することがより好ましく、深さ0.5nmまでに存在することがさらに好ましい。または、表面から±1nm以内が好ましい。またマグネシウムの濃度はピークから深さ1nmの点でピークの60%以下に減衰することが好ましい。またピークから深さ2nmの点でピークの30%以下に減衰することが好ましい。なおここでいう濃度のピークとは、濃度の極大値をいうこととする。なお、EDX線分析における空間分解能の影響によって、マグネシウムの濃度のピークが存在する位置は、表面から内部に向かった深さとしてマイナスの値を取る場合がある。
【0293】
また添加元素としてマグネシウムおよびフッ素を有する正極活物質100では、フッ素の分布は、マグネシウムの分布と重畳することが好ましい。例えばフッ素濃度のピークと、マグネシウム濃度のピークの深さ方向の差が10nm以内であると好ましく、3nm以内であるとより好ましく、1nm以内であるとさらに好ましい。
【0294】
またEDX線分析をしたとき、表層部100aのフッ素濃度のピークは、正極活物質100の表面から中心に向かった深さ3nmまでに存在することが好ましく、深さ1nmまでに存在することがより好ましく、深さ0.5nmまでに存在することがさらに好ましい。または、表面から±1nm以内が好ましい。またマグネシウム濃度のピークはフッ素濃度のピークよりもわずかに内部側に存在すると、フッ酸への耐性が増してより好ましい。例えばマグネシウム濃度のピークはフッ素濃度のピークよりも0.5nm以上内部側であるとより好ましく、1.5nm以上内部側であるとさらに好ましい。
【0295】
また添加元素としてニッケルを有する正極活物質100では、表層部100aのニッケル濃度のピークは、正極活物質100の表面から中心に向かった深さ3nmまでに存在することが好ましく、深さ1nmまでに存在することがより好ましく、深さ0.5nmまでに存在することがさらに好ましい。または、表面から±1nm以内が好ましい。またマグネシウムおよびニッケルを有する正極活物質100では、ニッケルの分布は、マグネシウムの分布と重畳することが好ましい。例えばニッケル濃度のピークと、マグネシウム濃度のピークの深さ方向の差が10nm以内であると好ましく、3nm以内であるとより好ましく、1nm以内であるとさらに好ましい。
【0296】
また正極活物質100が添加元素としてアルミニウムを有する場合は、EDX線分析をしたとき、表層部100aのアルミニウム濃度のピークよりも、マグネシウム、ニッケルまたはフッ素の濃度のピークが表面に近いことが好ましい。例えばアルミニウム濃度のピークは正極活物質100の表面から中心に向かった深さ0.5nm以上50nm以下に存在することが好ましく、深さ3nm以上30nm以下に存在することがより好ましい。
【0297】
また正極活物質100についてEDX線分析、面分析または点分析をしたとき、マグネシウム濃度のピークにおけるマグネシウムMgとコバルトCoの原子数の比(Mg/Co)は0.05以上0.6以下が好ましく、0.1以上0.4以下がより好ましい。アルミニウム濃度のピークにおけるアルミニウムAlとコバルトCoの原子数の比(Al/Co)は0.01以上0.6以下が好ましく、0.05以上0.45以下がより好ましい。ニッケル濃度のピークにおけるニッケルNiとコバルトCoの原子数の比(Ni/Co)は0以上0.2以下が好ましく、0.01以上0.1以下がより好ましく、0.05以上0.1以下がより好ましい。フッ素濃度のピークにおけるフッ素FとコバルトCoの原子数の比(F/Co)は0以上1.6以下が好ましく、0.1以上1.4以下がより好ましい。
【0298】
<洗浄>
各種分析について述べてきたが、分析に供する前に、正極活物質の表面に付着した電解液、バインダ、導電材、またはこれら由来の化合物を除くために、正極活物質および正極活物質層等の試料に対して洗浄等を行ってもよい。このとき洗浄に用いる溶媒等にリチウムが溶け出す場合があるが、たとえその場合であっても、添加元素は溶け出しにくいため、添加元素の原子数比に影響があるものではない。
【0299】
<正極集電体>
正極集電体として、金属箔を用いることができる。正極は、金属箔上にスラリーを塗布して乾燥させることによって形成することができる。なお、乾燥後にプレスを加えてもよい。正極は、正極集電体21上に活物質層を形成したものである。
【0300】
集電体としては、ステンレス、金、白金、アルミニウム、チタン等の金属、及びこれらの合金など、導電性が高い材料を用いることができる。また正極集電体に用いる材料は、正極の電位で溶出しないことが好ましい。また、シリコン、チタン、ネオジム、スカンジウム、モリブデンなどの耐熱性を向上させる元素が添加されたアルミニウム合金を用いることができる。集電体は、箔状、板状、シート状、網状、パンチングメタル状、エキスパンドメタル状等の形状を適宜用いることができる。集電体は、厚みが5μm以上30μm以下のものを用いるとよい。
【0301】
<正極バインダ>
正極に用いることができるバインダについて説明する。
【0302】
バインダとして、例えば、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、スチレン-イソプレン-スチレンゴム、アクリロニトリル-ブタジエンゴム、ブタジエンゴム、エチレン-プロピレン-ジエン共重合体などのゴム材料を用いることが好ましい。またバインダとして、フッ素ゴムを用いることができる。
【0303】
またバインダとしては、ポリスチレン、ポリアクリル酸メチル、ポリメタクリル酸メチル(ポリメチルメタクリレート(略称:PMMA))、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリビニルアルコール(略称:PVA)、ポリエチレンオキシド(略称:PEO)、ポリプロピレンオキシド、ポリイミド、ポリ塩化ビニル、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイソブチレン、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン、ポリフッ化ビニリデン(略称:PVDF)、ポリアクリロニトリル(略称:PAN)、エチレンプロピレンジエンポリマー、ポリ酢酸ビニル、ニトロセルロース等の材料を用いることが好ましい。
【0304】
またバインダに加えて増粘剤を用いると好ましい場合がある。増粘剤として、例えば水溶性の高分子を用いることが好ましい。水溶性の高分子としては、例えば多糖類などを用いることができる。多糖類としては、カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ジアセチルセルロース、再生セルロースなどのセルロース誘導体、または澱粉などを用いることができる。
【0305】
バインダが活物質表面を覆う場合、または表面に接するバインダが膜を形成する場合には、不動態膜としての役割を果たすことができ、電解液の分解を抑える効果も期待される。ここで、「不動態膜」とは、電気の伝導性のない膜、または電気電導性の極めて低い膜であり、例えば活物質の表面に不動態膜が形成された場合には、電池反応電位において、電解液の分解を抑制することができる。また、不動態膜は、電気の伝導性を抑えるとともに、リチウムイオンは伝導できるとさらに望ましい。
【0306】
<導電材>
正極及び負極に用いることができる導電材は、導電付与剤、導電助材とも呼ばれ、炭素材料であることが好ましい。複数の活物質の間に導電材を付着させることで複数の活物質同士が電気的に接続され、導電性が高まる。なお、「付着」とは、活物質と導電材が物理的に密着していることのみを指しているのではなく、共有結合が生じる場合、ファンデルワールス力により結合する場合、活物質の表面の一部を導電材が覆う場合、活物質の表面凹凸に導電材がはまりこむ場合、互いに接していなくとも電気的に接続される場合などを含む概念とする。
【0307】
導電材としては、例えば、アセチレンブラック(AB)、およびファーネスブラックなどのカーボンブラック、人造黒鉛、および天然黒鉛などの黒鉛、カーボンナノファイバー、およびカーボンナノチューブなどの炭素繊維、ならびにグラフェン、グラフェン化合物、のいずれか一種又は二種以上を用いることができる。
【0308】
アセチレンブラックは、他の活物質などと面接触させることが困難であり、点接触となりやすい。このため、活物質とアセチレンブラックとを混合させた場合、接触抵抗を低下させるためにアセチレンブラックを多く使用することが考えられるが、活物質の割合が低下するため二次電池の放電容量が低下してしまう。また、アセチレンブラックは、凝集しやすい材料であり、分散剤などを利用して均一に分散するようにスラリーを形成することが好ましい。
【0309】
これらを鑑み負極において、アセチレンブラックの重量比は負極活物質に用いるシリコン粒子の重量比よりも少ない、または同じとするとよい。すなわち当該重量比を満たすことで、高い分散性を示すようにアセチレンブラックを混合させることができ、シリコン粒子の割合を低下させることがない。よって二次電池の放電容量を高くすることができる。
【0310】
炭素繊維としては、例えばメソフェーズピッチ系炭素繊維、等方性ピッチ系炭素繊維等の炭素繊維を用いることができる。また炭素繊維として、カーボンナノファイバーまたはカーボンナノチューブなどを用いることができる。カーボンナノチューブは、例えば気相成長法などで作製することができる。炭素繊維として、VGCF(登録商標)を用いてもよい。
【0311】
上述したグラフェンとは、グラフェン、多層グラフェン、マルチグラフェン等を含む。また上述したグラフェン化合物とは、酸化グラフェン、多層酸化グラフェン、マルチ酸化グラフェン、還元された酸化グラフェン、還元された多層酸化グラフェン、還元されたマルチ酸化グラフェン、グラフェン量子ドット等を含む。グラフェンとは、炭素を有し、平板状、シート状等の形状を有し、炭素6員環で形成された二次元的構造を有するものをいう。該炭素6員環で形成された二次元的構造は炭素シートといってもよい。またグラフェンは硬さがあり、屈曲した形状を有することが好ましい。グラフェン化合物は炭素の環に穴を有してもよく6より大きな環(例えば7員環)を有してもよく、また官能基を有してもよい。またグラフェン化合物は柔らかいため、たとえば丸まってカーボンナノファイバーのようになっていてもよい。
【0312】
グラフェン又はグラフェン化合物は、活物質等と面接触を可能とするものであるから、通常の導電材よりも少量でよい。よって、活物質の活物質層における割合を増加させることができる。これにより、二次電池の放電容量を増加させることができる。
【0313】
炭素繊維は、活物質等とは面接触となるが、炭素繊維の繊維径に比べて炭素繊維の繊維長が長いため、互いに離隔した活物質等の間で適切な電気パスを果たすことができるため、炭素繊維は通常の導電材よりも少量でよい。よって、活物質の活物質層における割合を増加させることができる。これにより、二次電池の放電容量を増加させることができる。
【0314】
<電解液>
電解液の一つの形態として、溶媒と、溶媒に溶解した電解質と、を有する電解液を用いることができる。溶媒としては、非プロトン性溶媒が好ましく、例えば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート、クロロエチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ギ酸メチル、酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、酪酸メチル、1,3-ジオキサン、1,4-ジオキサン、ジメトキシエタン(DME)、ジメチルスルホキシド、ジエチルエーテル、メチルジグライム、アセトニトリル、ベンゾニトリル、テトラヒドロフラン、スルホラン、スルトン等のうちの1種、又はこれらのうちの2種以上を任意の組み合わせおよび比率で用いることができる。2種以上を有する場合、混合溶媒と記すことがある。
【0315】
また、電解液の別形態として、溶媒に難燃性および難揮発性であるイオン液体(常温溶融塩)を一つ又は複数用いることができる。この場合、蓄電装置の内部短絡または、過充電等によって内部温度が上昇しても、蓄電装置の破裂および発火などを防ぐことができる。イオン液体は、カチオンとアニオンからなり、有機カチオンとアニオンとを含む。電解液に用いる有機カチオンとして、四級アンモニウムカチオン、三級スルホニウムカチオン、および四級ホスホニウムカチオン等の脂肪族オニウムカチオン、イミダゾリウムカチオンおよびピリジニウムカチオン等の芳香族カチオンが挙げられる。また、電解液に用いるアニオンとして、1価のアミド系アニオン、1価のメチド系アニオン、フルオロスルホン酸アニオン、パーフルオロアルキルスルホン酸アニオン、テトラフルオロボレートアニオン、パーフルオロアルキルボレートアニオン、ヘキサフルオロホスフェートアニオン、またはパーフルオロアルキルホスフェートアニオン等が挙げられる。具体例として例えば、EMI-FSA(1-エチル-3-メチルイミダゾリウムビス(フルオロスルホニル)アミド)を用いることができる。
【0316】
また、上記の溶媒に溶解させる電解質(リチウム塩とも呼ぶ)としては、例えばLiPF6、LiN(FSO2)2(リチウムビス(フルオロスルホニル)アミド:LiFSA)、LiClO4、LiAsF6、LiBF4、LiAlCl4、LiSCN、LiBr、LiI、Li2SO4、Li2B10Cl10、Li2B12Cl12、LiCF3SO3、LiC4F9SO3、LiC(CF3SO2)3、LiC(C2F5SO2)3、LiN(CF3SO2)2、LiN(C4F9SO2)(CF3SO2)、LiN(C2F5SO2)2、リチウムビス(オキサレート)ボレート(化学式:Li(C2O4)2、略称:LiBOB)等のリチウム塩を一種、又はこれらのうちの二種以上を任意の組み合わせおよび比率で用いることができる。
【0317】
またリチウム塩が溶解した混合溶媒に添加剤を混合してもよい。添加剤として、ビニレンカーボネート、プロパンスルトン(PS)、tert-ブチルベンゼン(TBB)、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、リチウムビス(オキサレート)ボレート(LiBOB)、またスクシノニトリル、アジポニトリル等のジニトリル化合物などが挙げられる。添加剤の濃度は、例えばリチウム塩が溶解した混合溶媒に対して0.1wt%以上5wt%以下とすればよい。
【0318】
<電解液の例1>
本発明のリチウムイオン電池に用いる混合溶媒は、低温環境における充電および/または放電(充放電)であってもリチウムイオン伝導性に優れた材料を用いることができる。
【0319】
電解液の一例について、以下に説明する。なお、本実施の形態で説明する電解液は、混合溶媒にリチウム塩が溶解されたものであり、混合溶媒は常温で液体である。なお混合溶媒は常温で液体あることに限定されず、常温で固体となる固体電解質を用いることも可能である。または、常温で液体と固体とを共に含む、半固体電解質を用いることも可能である。半固体電解質はゲル状のものが含まれる。
【0320】
本発明の一態様である電解液の混合溶媒として、フッ化環状カーボネート(フッ素化環状カーボネートと記すこともある)、及びフッ化鎖状カーボネート(フッ素化鎖状カーボネートと記すこともある)から選ばれた二以上を含むとよい。
【0321】
フッ化環状カーボネートとして、フルオロエチレンカーボネート(炭酸フルオロエチレン、FEC、F1EC)、ジフルオロエチレンカーボネート(DFEC、F2EC)、トリフルオロエチレンカーボネート(F3EC)、またはテトラフルオロエチレンカーボネート(F4EC)等を用いることができる。なお、DFECには、シス-4,5、トランス-4,5等の異性体がある。いずれのフッ化環状カーボネートも電子求引性を示す置換基を有するため、リチウムイオンの溶媒和エネルギーが低いと考えられる。
【0322】
下記構造式(H10)は、FECの構造式である。FECにおいて電子求引性の置換基はF基である。
【0323】
【0324】
フッ化鎖状カーボネートとして、3,3,3-トリフルオロプロピオン酸メチルがある。下記構造式(H22)は3,3,3-トリフルオロプロピオン酸メチルの構造式である。3,3,3-トリフルオロプロピオン酸メチルの略称は、「MTFP」である。MTFPにおいて、電子求引性の置換基はCF3基である。
【0325】
【0326】
フッ化鎖状カーボネートとして、3,3,3-トリフルオロプロピオン酸トリフルオロメチルがある。下記構造式(H23)は3,3,3-トリフルオロプロピオン酸トリフルオロメチルの構造式である。電子求引性の置換基はCF3基である。
【0327】
【0328】
フッ化鎖状カーボネートとして、プロピオン酸トリフルオロメチルがある。下記構造式(H24)はプロピオン酸トリフルオロメチルの構造式である。電子求引性の置換基はCF3基である。
【0329】
【0330】
フッ化鎖状カーボネートとして、2,2-ジフルオロプロピオン酸メチルがある。下記構造式(H25)は2,2-ジフルオロプロピオン酸メチルの構造式である。電子求引性の置換基はCF2基である。
【0331】
【0332】
<FEC及びMTFP>
本実施の形態で説明する混合溶媒は、FECと、MTFPとを含むとよい。その理由を説明する。
【0333】
FECは、環状カーボネートの一つであり、高い比誘電率を有するため、有機溶媒に用いると、リチウム塩の解離を促進させる効果を有する。一方でFECは電子求引性を示す置換基を有するため、エチレンカーボネート(EC)よりもリチウムイオンとの脱溶媒和が進みやすい。具体的にはFECはリチウムイオンの溶媒和エネルギーが、電子求引性を示す置換基を有さないECよりも小さい。そのため、正極活物質表面および負極活物質表面においてリチウムイオンを離しやすく、二次電池の内部抵抗を低くできる。さらにFECは最高被占有軌道(HOMO:Highest Occupied Molecular Orbital)準位が深いため、酸化されにくく耐酸化性が向上する。一方で、FECは粘度が高いことが懸念される。そこで、FECのみではなく、MTFPを更に含んだ混合有機溶媒を電解液に用いるとよい。MTFPは、鎖状カーボネートの一つであり、電解液の粘度を下げる、又は低温下(代表的には0℃)でも室温下(代表的には25℃)の粘度を維持する効果を有することも可能である。さらにMTFPは、電子求引性を示す置換基を有さないプロピオン酸メチル(略称は「MP」である)よりも溶媒和エネルギーが小さいものの、電解液に用いた際にリチウムイオンとの溶媒和を生成することがあってもよい。
【0334】
上述した有機溶媒は、粒状のごみ、または有機溶媒の構成分子以外の分子(以下、単に「不純物」とも呼び、酸素(O2)、水(H2O)又は水分が含まれる。)の含有量が少なく、高純度化されていることが好ましい。また適切な精製を経て、合成時の反応副生成物が抑制されていると好ましい。具体的には、電解質の不純物濃度が100ppm以下、好ましくは50ppm以下、さらに好ましくは10ppm未満とする。不純物のうち水分の濃度はカールフィッシャー滴定法によって検出することができる。
【0335】
さらに上述した有機溶媒は、NMR測定等により不純物に起因するピークがほぼ確認できないことが好ましい。ほぼ確認できないとは、主成分に起因するピークの積分面積に対して不純物に起因するピークの積分面積の比(単に積分比と呼ぶ)が0.005以下、好ましくは0.002以下となることを含む。NMR測定に用いる装置は特に限定されないが、たとえばBruker社の「AVANCE III 400型」を用いることができる。また1H-NMR測定において溶媒に用いるアセトニトリル-d3由来のアセトニトリルの5本のピークのうち、中心のピークを1.94ppmとすることができる。
【0336】
たとえばMTFPの場合、アセトニトリル-d3溶媒を用いて1H-NMRを測定したとき、δが3.29ppm以上3.43ppm以下に4本のピークが生じることが知られている。しかしこの近傍に他のピークが生じた場合、たとえばδが3.24ppm以上3.29ppm以下にピークが生じた場合、当該ピークは不純物由来と考えられる。そのため3.29ppm以上3.43ppm以下のピーク面積に対する、3.24ppm以上3.29ppm以下のピーク面積の比率(積分比)が0.005以下、好ましくは0.002以下であれば、不純物に起因するピークがほぼ確認できないということができる。
【0337】
HOMO準位、溶媒和エネルギー、及び融点の実測値等をまとめて、下表に示す。
【0338】
【0339】
このような物性を有するFEC、及びMTFPを、これら2つの混合溶媒の全含有量を100vol%として、体積比がx:100-x(ただし、5≦x≦30、好ましくは10≦x≦20である。)となるように混合して用いるとよい。すなわち混合溶媒において、MTFPがFECよりも多くなるように混合するとよい。なお、上記の体積比は、混合溶媒の混合前に計測した体積比であってもよく、また当該混合の際の外気は室温(代表的には、25℃)であってもよい。FEC、及びMTFPが混合された混合溶媒はリチウムイオン電池として動作可能な粘性を発現し、低温環境であっても適切な粘性を維持するため好ましい。
【0340】
リチウムイオン電池に用いられている一般的な溶媒は-20℃程度で凝固してしまうため、-30℃、好ましくは-40℃で充放電できるリチウムイオン電池を作製することは困難である。しかしながら本実施の形態において一例として説明した混合溶媒は、凝固点が-30℃以下、好ましくは-40℃以下となることを可能とし、低温環境においても充放電可能なリチウムイオン電池を実現できる。その結果、少なくとも低温環境を含む広い温度範囲で充放電可能なリチウムイオン電池を実現できる。
【0341】
上記ではFECを代表として説明したが、フッ化環状カーボネートとして述べたいずれの有機化合物においても、リチウム塩の解離を促進させる効果を有すること、溶媒和エネルギーが小さくリチウムイオンと溶媒との結合が切れやすいこと、粘度が高くそれのみで用いると氷点下で使用が難しいこと、がいえる。
【0342】
また上記ではMTFPを代表として説明したが、フッ化鎖状カーボネートとして述べたいずれの有機化合物においても、本発明の一態様である電解液の粘度を下げる、又は維持する効果を有するといえる。よって、本発明の一態様である混合溶媒がフッ化環状カーボネートとフッ化鎖状カーボネートとを含むものであれば、低温環境で充放電可能なリチウムイオン電池を提供することができる。
【0343】
<電解液の例2>
本発明の別態様である電解液の混合溶媒として、エチレンカーボネート(EC)と、エチルメチルカーボネート(EMC)と、ジメチルカーボネート(DMC)と、を含み、エチレンカーボネート、エチルメチルカーボネート、及びジメチルカーボネートの全含有量を100vol%としたとき、エチレンカーボネート、エチルメチルカーボネート、及びジメチルカーボネートの体積比が、x:y:100-x-y(ただし、5≦x≦35であり、0<y<65である。)であるものを用いることができる。より具体的には、ECと、EMCと、DMCと、を、EC:EMC:DMC=30:35:35(体積比)で含んだ混合溶媒を用いることができる。なお、上記の体積比は、混合溶媒の混合前における体積比であってもよく、当該混合の際の外気は室温(代表的には、25℃)であってもよい。
【0344】
ECは、環状カーボネートであり、高い比誘電率を有するため、リチウム塩の解離を促進させる効果を有する。一方で、ECは、粘度が高く、凝固点(融点)が38℃と高いため、溶媒としてEC単体を用いた場合、低温環境での使用が難しい。そこで、本発明の一態様として具体的に説明する溶媒は、EC単体ではなく、EMCとDMCを更に含む。EMCは、鎖状カーボネートであり、電解液の粘度を下げる効果を有する上に、凝固点が-54℃である。また、DMCも、鎖状カーボネートであり、電解液の粘度を下げる効果を有する上に、凝固点が-43℃である。このような物性を有するEC、EMC、及びDMCを、これら3つの混合溶媒の全含有量を100vol%として、体積比が、x:y:100-x-y(ただし、5≦x≦35であり、0<y<65である。)となるように混合した混合溶媒を用いて作製された電解液は、凝固点が-40℃以下という特徴を有する。
【0345】
リチウムイオン電池に用いられている一般的な電解液は、-20℃程度で凝固してしまうため、-40℃で充放電できる電池を作製することは困難である。本実施の形態において一例として説明した電解液は、凝固点が-40℃以下であるため、-40℃という低温環境においても充放電可能なリチウムイオン電池を実現できる。
【0346】
また、上記の溶媒に溶解させる電解質としては、リチウム塩を用いることが可能である。例えば、LiPF6、LiClO4、LiAsF6、LiBF4、LiAlCl4、LiSCN、LiBr、LiI、Li2SO4、Li2B10Cl10、Li2B12Cl12、LiCF3SO3、LiC4F9SO3、LiC(CF3SO2)3、LiC(C2F5SO2)3、LiN(CF3SO2)2、LiN(C4F9SO2)(CF3SO2)、LiN(C2F5SO2)2、リチウムビス(オキサレート)ボレート(LiBOB)のうち一種のリチウム塩、またはこれらのうちの二種以上を任意の組み合わせ及び比率で用いることが可能である。上記の溶媒に溶解させるリチウム塩は、上記溶媒の体積に対して、0.5mol/L以上1.5mol/L以下であるとよく、0.7mol/L以上1.3mol/L以下であることが好ましく、0.8mol/L以上1.2mol/L以下であることがより好ましい。具体的な使用例としては、上記溶媒の体積に対してLiPF6を、0.5mol/L以上1.5mol/L以下であるとよく、0.7mol/L以上1.3mol/L以下であることが好ましく、0.8mol/L以上1.2mol/L以下であることがより好ましい。
【0347】
また、混合溶媒は、粒状のごみ、または電解液の構成元素以外の元素(以下、単に「不純物」ともいう。)の含有量が少なく、高純度化されていることが好ましい。具体的には、電解液に対する不純物の重量比を1%以下、好ましくは0.1%以下、より好ましくは0.01%以下とすることが好ましい。
【0348】
また、安全性向上等を目的として、電極(活物質層)と電解液との界面に被膜(Solid Electrolyte Interphase Film)を形成するため、電解液に対し、ビニレンカーボネート(VC)、プロパンスルトン(PS)、tert-ブチルベンゼン(TBB)、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、リチウムビス(オキサレート)ボレート(LiBOB)、またはスクシノニトリルもしくはアジポニトリルのジニトリル化合物の添加剤を添加してもよい。添加剤の濃度は、例えば溶媒に対して0.1wt%以上5wt%以下とすればよい。
【0349】
電解液の例2において、リチウム塩は電解液の例1に記載した材料を用いることができる。また、添加剤についても電解液の例1に記載した材料を用いることができる。
【0350】
以上のとおり、本発明の一態様のリチウムイオン電池に用いることが可能な電解液の例について説明したが、本発明の一態様のリチウムイオン電池に用いることが可能な電解液は、この一例に限定解釈されるものではない。低温環境における充放電であってもリチウムイオン伝導性に優れた材料であれば、他の材料を用いることも可能である。
【0351】
[負極]
負極は、負極活物質層及び負極集電体を有し、負極活物質層は負極活物質を有する。
【0352】
<負極バインダ>
本発明の一態様である負極のバインダとして、カルボキシ基を有する高分子を用いると好ましい。カルボキシ基は、塩基性の酸素を2つ、酸性の水素を1つ、求電子性の炭素を1つ有するともいえる。またカルボキシ基はヒドロキシ基であるOHと、カルボニル基であるC=Oを有し、極性を持っている基ともいえる。カルボキシ基等の極性を持った基をバインダが有すると、キャリアイオンであるリチウムイオンとの相互作用が期待され、たとえばリチウムイオンが引き寄せられるため負極活物質におけるリチウムイオンの挿入を補助する可能性がある。なお、カルボキシ基は、FT-IR等で特定することができる。
【0353】
カルボキシ基を有する高分子として、ポリグルタミン酸(PGAと記すことがある)、ポリアクリル酸(PAAと記すことがある)、アルギン酸(多糖と記すことがある)がある。またカルボキシ基を有する高分子としてポリアミノ酸を用いてもよく、具体的にはポリオルニチン、ポリサルコシンをバインダに適用してもよい。さらにケトン基を有する高分子として、ポリアスパラギン酸をバインダに適用してもよい。またケトン基を有する高分子として、二元共重合体(コポリマー)を適用してもよく、アクリル酸とマレイン酸とのコポリマー、アクリル酸とスルホン酸とのコポリマーをバインダに適用してもよい。これらを負極のバインダとして用いることで、負極におけるバインダの混合量を少なくするという効果もある。
【0354】
上述した高分子のうちポリグルタミン酸、またはポリアクリル酸は、負極に用いるバインダとして特に好ましい。ポリグルタミン酸の構造式を以下に示す。
【0355】
【0356】
ポリグルタミン酸は、構造式から明らかなようにカルボキシ基以外に、窒素を有するが、当該窒素は非共有電子対を有するため、キャリアイオンであるリチウムイオンとの相互作用が期待される。たとえば、当該非共有電子対によりリチウムイオンが引き寄せられ、負極活物質に挿入するのを補助する可能性もある。
【0357】
またポリグルタミン酸は、構造式から明らかなようにカルボキシ基以外にも、カルボニル基であるC=Oを有する。カルボニル基等の極性を持った基をバインダが有すると、キャリアイオンであるリチウムイオンとの相互作用が期待され、たとえば負極活物質でのリチウムイオンの挿入脱離を補助する可能性がある。
【0358】
ポリグルタミン酸として、直鎖型γ-ポリグルタミン酸、又は架橋型γ-ポリグルタミン酸のいずれをバインダに適用してもよく、これらをまとめてγ-ポリグルタミン酸を主体とする構造と呼ぶ。なお、架橋型γ-ポリグルタミン酸の方が、網目構造を有するという点においてバインダに好適である。さらにポリグルタミン酸の分子量は、100万以上、好ましくは300万以上、さらに好ましくは1000万以上5000万以下がよい。
【0359】
ポリグルタミン酸は、作製方法によっては、他の元素(例えば、Ca、Al、Na、Mg、Fe、Si、S)を含むγ-ポリグルタミン酸を主体とする構造とも言える。すなわち、ポリグルタミン酸はアルカリ金属イオン、例えばリチウムイオン、又はナトリウムイオンを用いて中和させてもよい。
【0360】
このようなポリグルタミン酸は、親水性を有するため溶媒には脱イオン水を用いることができ、スラリーを形成する際に好適である。
【0361】
次にポリアクリル酸の構造式を以下に示す。
【0362】
【0363】
ポリアクリル酸は、構造式から明らかなようにカルボキシ基を有する。
【0364】
ポリアクリル酸を架橋させた材料を用いてもよい。架橋構造、つまり網目構造を形成できるため、バインダとしての機能が高まる可能性があり好ましい。
【0365】
<負極活物質>
本発明の一態様である負極は、負極活物質として炭素粒子及びシリコン粒子を共に有する。炭素粒子としては、黒鉛、黒鉛のような層構造を持つ炭素、アモルファスカーボン、ハードカーボン、炭素繊維を用いる。本明細書で用いる炭素粒子として具体的には黒鉛粒子を用いるとよい。
【0366】
黒鉛としては、人造黒鉛または天然黒鉛等が挙げられる。人造黒鉛としては例えば、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、コークス系人造黒鉛、ピッチ系人造黒鉛等が挙げられる。ここで人造黒鉛として、球状の形状を有する球状黒鉛を用いることができる。例えば、MCMBは球状の形状を有する場合があり、好ましい。また、MCMBはその表面積を小さくすることが比較的容易であり、好ましい場合がある。天然黒鉛としては、例えば、鱗片状黒鉛、球状化天然黒鉛等が挙げられる。
【0367】
本発明の一態様である、黒鉛粒子の平均粒子径は1μm以上、好ましくは5μm以上、好ましくは10μm以上、より好ましくは20μm以上、とすることが好ましい。黒鉛粒子はシリコン粒子と混合して負極に用いるとよい。
【0368】
黒鉛粒子の平均粒子径は、レーザ回折・散乱法を用いた粒度分布計等によって測定することができる。本明細書等において、黒鉛粒子の平均粒子径はメディアン径(D50)として求めることができる。
【0369】
黒鉛粒子の比表面積は、0.5m2/g以上3m2/g以下がよい。比表面積はBET法によって測定することができる。BET法による比表面積は、窒素ガス吸着式によるBET一点法により測定される値であり、測定機としては自動比表面積/細孔分布測定装置トライスターII3020(島津製作所製)を使用して測定することができる。
【0370】
シリコン粒子としては、平均粒子径が100nm又はその近傍のものを用いるとよく、これをナノシリコン粒子と呼ぶ場合がある。シリコンの容量は重量当たり4200mAh/gであり、黒鉛容量372mAh/g(活物質重量当たり)の10倍以上であるが、シリコンのみを用いた負極とすると、充放電時における膨張及び収縮により急激なサイクル劣化が生じる問題がある。そのため、サイクル劣化の改善するためには、シリコンを上記の平均粒子径のように微細化したナノシリコン粒子が好適である。
【0371】
シリコン粒子の平均粒子径は、レーザ回折・散乱法を用いた粒度分布計等によって測定することができる。本明細書等において、シリコン粒子の平均粒子径はメディアン径(D50)として求めることができる。
【0372】
シリコン粒子は、シリコン原料を粉砕し、均一な粒径に調整することが好ましい。この調整を経て、平均粒子径が1μm未満のシリコン粒子を得ることができる。なお平均粒子径が大きい場合には負極活物質層が厚くなるおそれがあるため、平均粒子径は1μm未満がよいといえる。シリコン粒子は、シリコン系材料であればよく、具体的にはシリコン、シリコン酸化物、シリコン合金のうち、少なくとも一つを含む。
【0373】
シリコン粒子の比表面積は、10m2/g以上35m2/g以下、好ましくは10m2/g以上15m2/g以下がよい。比表面積はBET法によって測定することができる。BET法による比表面積は、窒素ガス吸着式によるBET一点法により測定される値であり、測定機としては自動比表面積/細孔分布測定装置トライスターII3020(島津製作所製)を使用して測定することができる。
【0374】
本発明の一態様では、負極活物質が黒鉛粒子及びシリコン粒子の両方を含むため、放電容量の高いリチウムイオン電池を実現できる。また黒鉛粒子の平均粒子径がシリコン粒子の平均粒子径と異なるため、これらを混合して負極に用いると、負極活物質の担持量を増大させることができる。また、本明細書において、担持量とは、負極集電体の表面単位面積あたりの負極活物質の重量である。負極活物質の担持量は正極の容量に合わせて求めることができる。担持量が少ないとリチウムイオン電池の出力特性を高めることができるが、少ないと放電容量が少なくなる。そのため、負極活物質の担持量は1.5mg/cm2以上が好ましい。
【0375】
本発明の一態様では負極活物質層において、黒鉛粒子の重量比はシリコン粒子の重量比よりも多いとよく、たとえば黒鉛粒子の重量比はシリコン粒子の重量比より5倍以上15倍以下とするとよい。別言すると負極活物質を構成する粉末材料の総重量に対するシリコン重量比を7.5wt%以上、37.5wt%以下とするとよい。
【0376】
また、負極活物質層を形成する際に、導電材を加えてもよい。
【0377】
リチウムイオン電池において、負極集電体の片面または両面に負極活物質層を形成することができる。負極活物質層は負極集電体上にスラリーを塗布して、乾燥等を経て完成する。
【0378】
なお、本明細書における各原料の重量比は、スラリーを作製した際の各原料の配合比とみなしてよい。すなわち負極活物質の重量比は、スラリーにおける負極活物質及びバインダの総重量、又は負極活物質、バインダ、及び導電材の総重量に対する、負極活物質の配合比(wt%)である。負極活物質をバインダに置き換えて、重量比及び配合比を理解することができる。
【0379】
バインダの重量比は、黒鉛粒子の重量比よりも小さくすることが好ましい。また、バインダとしての効果を奏するためには、バインダの重量比は5wt%よりも多くすることが好ましい。
【0380】
<負極集電体>
負極集電体には、正極集電体と同様の材料に加え、銅なども用いることができる。なお負極集電体は、アルミニウム等のリチウムイオンと合金化する金属は使用できない。
【0381】
<負極活物質層の作製方法>
ここで負極活物質層の作製方法について説明する。本発明の一態様である負極のスラリーは、黒鉛粒子と、シリコン粒子と、カルボキシ基を有するバインダとを混合した後、溶媒を加えて混合するとよい。本発明の一態様であるスラリーにおいて、黒鉛粒子と、シリコン粒子と、カルボキシ基を有するバインダとを同時に混合することができるため、工程を短縮でき好ましい。さらにスラリーの作製時、黒鉛粒子と、シリコン粒子と、カルボキシ基を有するバインダと、溶媒とを同時に混合することもできる。さらにスラリーの作製時、導電材も同時に混合することができる。導電材としては、前述の導電材を用いることができ、例えばアセチレンブラックを用いるとよい。
【0382】
【0383】
まず、黒鉛粒子400、シリコン粒子401、バインダ402、及び導電材403を用意する。バインダとして、カルボキシ基を有する高分子を用いる。
【0384】
<ステップS60>
上述した原料をそれぞれ秤量して、
図16のステップS60の第1の混合を行う。具体的には、第1の混合で混合する粉末の総重量に対するシリコン粒子401の重量比の範囲は、7.5wt%以上37.5wt%以下とし、総重量に対するバインダ402の重量比の範囲は10wt%以上50wt%以下とする。また、総重量に対する導電材403の重量比の範囲は0wt%以上20wt%以下とする。なお上記重量比を満たす導電材403としてアセチレンブラックを用いるとよい。
【0385】
例えば、シリコン粒子401と黒鉛粒子400とバインダ402と導電材403が重量比で3:5:1:1となるように秤量する。また、導電材を用いず、例えば、シリコン粒子401と黒鉛粒子400とバインダ402が重量比で3:5:1となるように秤量する。また、黒鉛粒子400とシリコン粒子401とバインダ402が重量比で9:1:1となるように秤量してもよい。
【0386】
<混合物404、溶媒405の混合>
本発明の一態様において、ステップS60では原料がすべて粉体のため、溶媒を加える前に混合して混合物404を得る。粉体同士で混合すると均一に混合することが可能である。その後、溶媒405を加えるとよい。溶媒405としては脱イオン水を用いるとよい。
【0387】
<ステップS61>
溶媒405を加えた後、
図16のステップS61の第2の混合を行い、スラリー406を作成する。第2の混合はスラリー調製と呼ばれることもある。
【0388】
スラリー406とは、集電体上に活物質層を形成するために用いる材料液であり、少なくとも活物質とバインダと溶媒を含有し、さらに導電材も混合してもよい。スラリーは電極用スラリー又は活物質スラリーと呼ばれることもある。
【0389】
そして、
図16のステップS62として、負極集電体407上にスラリー406を塗布する。その後、
図16のステップS63として乾燥させる。乾燥として、仮乾燥と本乾燥を実施してもよい。すなわち2回の乾燥工程を実施し、先の乾燥工程の方が緩やかな条件とする。たとえば40℃以上60℃以下の乾燥機に10分以上1時間以下おいて乾燥させることができ、これを仮乾燥とすることができる。次いで本乾燥として、60℃より高く90℃以下の乾燥機において30分以上1時間半以下乾燥させることができる。乾燥と同時にプレスしてもよい。
【0390】
乾燥後、
図16のステップS64としてプレス処理を行う。プレス処理ではロールプレス機を用いることができるが、上下に位置するローラを互いに100℃以上150℃以下の温度にすることもできる。すなわち、プレス処理と同時に加熱を行ってもよい。プレス時の線圧は0.3MPa以上1MPa以下とするとよい。勿論、プレス処理は省略しても、リチウムイオン電池として動作させることができる。
【0391】
以上の工程で、負極集電体407上に負極活物質層を有する負極408を作製することができる。
【0392】
こうして得られた負極408を用いたリチウムイオン電池は、放電容量が大きく、優れたサイクル特性を示す。
【0393】
なおシリコン粒子は、酸化させないようにするとよい。たとえばスラリーを作製する際にもシリコン粒子が酸化しないように混合処理することが好ましい。
【0394】
本実施の形態の内容は、他の実施の形態の内容と自由に組み合わせることができる。
【0395】
[セパレータ]
正極と負極の間にセパレータを配置する。セパレータとしては、例えば、紙をはじめとするセルロースを有する繊維、不織布、ガラス繊維、セラミックス、或いはナイロン(ポリアミド)、ビニロン(ポリビニルアルコール系繊維)、ポリエステル、アクリル、ポリオレフィン、ポリウレタンを用いた合成繊維等で形成されたものを用いることができる。セパレータは袋状に加工し、正極または負極のいずれか一方を包むように配置することが好ましい。
【0396】
セパレータは多層構造であってもよい。例えばポリプロピレン、ポリエチレン等の有機材料フィルムに、セラミックス系材料、フッ素系材料、ポリアミド系材料、またはこれらを混合したもの等をコートすることができる。セラミックス系材料としては、例えば酸化アルミニウム粒子、酸化シリコン粒子等を用いることができる。フッ素系材料としては、例えばPVDF、ポリテトラフルオロエチレン等を用いることができる。ポリアミド系材料としては、例えばナイロン、アラミド(メタ系アラミド、パラ系アラミド)等を用いることができる。
【0397】
セラミックス系材料をコートすると耐酸化性が向上するため、高電圧充電の際のセパレータの劣化を抑制し、二次電池の信頼性を向上させることができる。またフッ素系材料をコートするとセパレータと電極が密着しやすくなり、出力特性を向上させることができる。ポリアミド系材料、特にアラミドをコートすると、耐熱性が向上するため、二次電池の安全性を向上させることができる。
【0398】
例えば、ポリプロピレンのフィルムの両面に酸化アルミニウムとアラミドの混合材料をコートしてもよい。また、ポリプロピレンのフィルムの、正極と接する面に酸化アルミニウムとアラミドの混合材料をコートし、負極と接する面にフッ素系材料をコートしてもよい。
【0399】
多層構造のセパレータを用いると、セパレータ全体の厚さが薄くても二次電池の安全性を保つことができるため、二次電池の体積あたりの容量を大きくすることができる。
【0400】
[電極積層体の例]
以下では、積層された複数の電極を有する積層体の構成例について説明する。
【0401】
図17(A)に正極集電体21、
図17(B)にセパレータ40、
図17(C)に負極集電体31、
図17(D)に正極リード23及び負極リード33、
図17(E)にフィルム状の外装体50のぞれぞれの上面図を示す。正極リード23は封止層75とリード金属76aを有し、負極リード33は封止層75とリード金属76bを有する。
【0402】
図17の各図においてそれぞれの寸法が概略等しく、
図17(E)中の一点鎖線で囲んだ領域Bは、
図17(B)のセパレータの寸法とほぼ同一である。また、
図17(E)中の破線と端部との間の領域は、それぞれ封止部51、封止部52となる。
【0403】
また、正極集電体21の突出部(
図17(A)の破線部)と負極集電体31の突出部(
図17(C)の破線部)をタブ部と呼ぶ。
【0404】
図18(A)は、正極集電体21の両面に正極活物質層22が設けられた例である。詳細に説明すると、負極集電体31、負極活物質層32、セパレータ40、正極活物質層22、正極集電体21、正極活物質層22、セパレータ40、負極活物質層32、負極集電体31という順に配置されている。この積層構造を平面70によって切断した際の断面図を
図18(B)に示す。
【0405】
なお、
図18(A)においてはセパレータを2つ使用している例が示されているが、1枚のセパレータを折り曲げ、両端を封止して袋状にし、その間に正極集電体21を収納する構造とすることも可能である。袋状のセパレータに収納される正極集電体21の両面に正極活物質層22が形成される。
【0406】
また、負極集電体31の両面にも負極活物質層32を設けることも可能である。
図18(C)には、片面のみに負極活物質層32を有する2つの負極集電体31の間に、両面に負極活物質層32を有する3つの負極集電体31と、両面に正極活物質層22を有する4つの正極集電体21と、8枚のセパレータ40を挟んだ二次電池を構成する例を示している。この場合も、8枚のセパレータを用いず、袋状のセパレータを4枚用いてもよい。
【0407】
積層数を増やすことで二次電池の容量を増やすことができる。また、正極集電体21の両面に正極活物質層22を設け、負極集電体31の両面に負極活物質層32を設けることで、二次電池の厚みを小さくすることができる。
【0408】
図19(A)は正極集電体21の片面のみに正極活物質層22を設け、負極集電体31の片面のみに負極活物質層32を設けて形成した二次電池の図を示している。詳細に説明すると、負極集電体31の片面に負極活物質層32が設けられ、負極活物質層32に接するようにセパレータ40が積層されている。負極活物質層32に接していない側のセパレータ40の表面は正極活物質層22が片面に形成された正極集電体21の正極活物質層22が接している。正極集電体21の表面には、さらにもう1枚の正極活物質層22が片面に形成された正極集電体21が接している。その際、正極集電体21は正極活物質層22が形成されていない面同士が向かい合うように配置される。そして、さらにセパレータ40が形成され、片面に負極活物質層32が形成された負極集電体31の負極活物質層32がセパレータに接するように積層される。
図19(A)の積層構造を平面71によって切断した際の断面図を
図19(B)に示す。
【0409】
図19(A)では2枚のセパレータを用いているが、1枚のセパレータを折り曲げ、両端を封止して袋状にし、その間に片面に正極活物質層22を配置した正極集電体21を2枚挟んでもよい。
【0410】
図19(C)は
図19(A)の積層構造を複数積層した図を示している。
図19(C)では負極集電体31の負極活物質層32が形成されていない面同士を向かい合わせて配置させている。
図19(C)では12枚の正極集電体21と12枚の負極集電体31と12枚のセパレータ40が積層されている様子を示している。
【0411】
正極集電体21の片面のみに正極活物質層22を設け、負極集電体31の片面のみに負極活物質層32を設けて積層させる構造は、正極集電体21の両面に正極活物質層22を設け、負極集電体31の両面に負極活物質層32を設ける構造と比較して、二次電池の厚みは大きくなってしまう。しかし、正極集電体21の正極活物質層22が形成されていない面は、別の正極集電体21の正極活物質層22が形成されていない面と向かい合っており、集電体同士が接触している。同様に負極集電体31の負極活物質層32が形成されていない面は、別の負極集電体31の負極活物質層32が形成されていない面と向かい合っており、集電体同士が接触している。例えば、正極集電体21の正極活物質層22が形成されていない面、及び/又は負極集電体31の負極活物質層32が形成されていない面に摺動性を高める処理を施した場合、集電体同士が接する面で、摩擦力が大きく働くことなく、集電体が接触している面同士を滑り易くすることができる。つまり、二次電池を曲げる際に、二次電池の内部で集電体が滑るため、二次電池が曲げ易くなる。集電体に施す摺動性を高める処理として例えば、フッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン等)コート、グラフェンコート、グラフェン化合物コートなどを用いることができる。
【0412】
図18又は
図19に示すように積層し、複数の正極集電体21を全て固定して電気的に接続する。同様に、複数の負極集電体31を全て固定して電気的に接続する。
【0413】
ここで、正極リード23と、複数の正極集電体21と、を同時に固定して電気的に接続することが好ましい。同様に、負極リード33と、複数の負極集電体31と、を同時に固定して電気的に接続することが好ましい。このように複数の集電体と電極リードを同時に接続することで、作製を効率的に行うことができる。
【0414】
また、セパレータ40は、正極20と負極30とが電気的にショートしにくい形状とすることが好ましい。例えば、
図20(A)に示すように、各セパレータ40の幅を、正極20及び負極30よりも大きくすると、曲げなどの変形により正極20と負極30の相対的な位置がずれたときであっても、これらが接触しにくくなるため好ましい。また、
図20(B)に示すような1つのセパレータ40を蛇腹状に折った形状又は、
図20(C)に示すような1つのセパレータ40が正極20と負極30を交互に巻きつけた形状とすると、正極20と負極30の相対的な位置がずれても接触しないため好ましい。また
図20(B)、(C)では、セパレータ40の一部が正極20と負極30の積層構造の側面を覆うように設けられている例を示している。
【0415】
なお、
図20の各図では、正極20及び負極30の詳細を示していないが、これらの形成方法は上記を参照すればよい。また、ここでは正極20及び負極30を1つずつ交互に配置する例を示したが、
図19のように2つの正極20同士、または2つの負極30同士が連続する構成としてもよい。
【0416】
本実施の形態では、1枚の長方形フィルムを中央で折り曲げて2つの端部を重ねて封止する構造の例を示したが、フィルムの形状は長方形に限定されない。三角形、正方形、五角形等の多角形、円形、星形など長方形以外の対称性のある任意の形でもよい。
【0417】
上記の
図18乃至
図20で説明した積層体と、上記で説明した電解液と、を外装体に収容し、外装体を封止することで、リチウムイオン電池を作製することができる。
【0418】
[外装体]
電池が有する外装体としては、例えばアルミニウム、ステンレス、チタンなどの金属材料または樹脂材料を用いることができる。また、フィルム状の外装体を用いることもできる。フィルムとしては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、アイオノマー、ポリアミド等の材料からなる膜上に、アルミニウム、ステンレス、チタン、銅、ニッケル等の可撓性に優れた金属薄膜又は金属箔を設け、さらに該金属薄膜上に外装体の外面としてポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂等の絶縁性合成樹脂膜を設けた三層構造のフィルムを用いることができる。このような多層構造のフィルムをラミネートフィルムと呼ぶことができる。このときラミネートフィルムが有する金属層の材料名を用いて、アルミ(アルミニウム)ラミネートフィルム、ステンレスラミネートフィルム、チタンラミネートフィルム、銅ラミネートフィルム、ニッケルラミネートフィルム等と呼ぶことがある。
【0419】
ラミネートフィルムが有する金属層の材料または厚さは、電池の柔軟性に影響を及ぼすことがある。柔軟性に優れた(曲げることのできる)電池に用いる外装体として例えば、ポリプロピレン層、アルミニウム層およびナイロンを有するアルミラミネートフィルムを用いることが好ましい。ここで、アルミニウム層の厚さとして、50μm以下が好ましく、40μm以下がより好ましく、30μm以下がより好ましく、20μm以下がより好ましい。なお、アルミニウム層が10μmよりも薄い場合、アルミニウム層のピンホールによるガスバリア性の低下が懸念されるため、アルミニウム層の厚さとして、10μm以上であることが望ましい。
【0420】
また、ラミネートフィルムとして、上記の金属層のかわりに、グラフェンシートを用いてもよい。グラフェンシートとしては100nm以上30μm以下、好ましくは200nm以上20μm以下の多層グラフェンシートを用いることができる。グラフェンシートが柔軟であること、グラフェンの層間距離が0.34nmでありガスバリア性を有することから、二次電池の外装体に用いるフィルムとして好適である。
【0421】
[凹部と凸部を有するフィルムの加工方法]
次に、外装体に用いることのできるフィルムの加工方法について説明する。フィルムとしては、上記のラミネートフィルムを用いることができる。
【0422】
ラミネートフィルムとして例えば、積層フィルムを用いることができる。積層フィルムとして例えば、金属フィルムの一方の面または両方の面にヒートシール層を有するものを用いることができる。接着層は、ポリプロピレン又はポリエチレンなどを含む熱融着性樹脂フィルムを用いることができる。本実施の形態では、アルミニウム箔の表面にナイロン樹脂を有し、アルミニウム箔の裏面に耐酸性ポリプロピレン膜と、ポリプロピレン膜の積層が設けられているアルミラミネートフィルムを用いる。
【0423】
そして、このフィルムにエンボス加工を行う。この結果、凹凸形状が形成されたフィルムを作製することができる。フィルムは、複数の凹凸部を有することにより、視認可能な波状の模様を有する。
【0424】
以下に、プレス加工の一種であるエンボス加工の説明をする。
【0425】
図21は、エンボス加工の一例を示す断面図である。なお、エンボス加工とは、プレス加工の一種であり、表面に凹凸のあるエンボスロールをフィルムに圧接させ、エンボスロールの凹凸に対応する凹凸をフィルムに形成する処理のことを指している。なお、エンボスロールは、表面に模様を彫刻したロールである。
【0426】
また、
図21は、フィルムの両面にエンボス加工を行う例である。また、一方の面側に頂部を有する凸部を備えたフィルムの形成方法である。
【0427】
図21は、フィルムの一方の面に接するエンボスロール95と、もう一方の面に接するエンボスロール96との間にフィルム90が挟まれ、フィルム90がフィルムの進行方向91に送り出されている途中を示している。圧力或いは熱によってフィルム表面に模様を形成している。なお、圧力及び熱の両方によってフィルム表面に模様を形成してもよい。
【0428】
エンボスロールは、金属ロール、セラミックスロール、プラスチックロール、ゴムロール、有機樹脂ロール、木材ロール等を適宜用いることができる。
【0429】
図21は、雄柄のエンボスロールであるエンボスロール96と雌柄のエンボスロール95を用いてエンボス加工を行う。雄柄のエンボスロール96は、複数の凸部96aを有する。該凸部は、加工対象であるフィルムに形成する凸部に対応する。雌柄のエンボスロール95は、複数の凸部95aを有する。該隣り合う凸部95aにより、雄柄のエンボスロール96に設けられた凸部96aがフィルムに形成する凸部に嵌る凹部を構成する。
【0430】
フィルム90の一部を浮き上がらせるエンボスと、フィルム90の一部をへこませる空押しを連続的に行うことで、凸部と平坦部を連続的に形成することができる。この結果、フィルム90に模様を形成することができる。
【0431】
次に、
図21とは異なる形状の複数の凸部を有するフィルムについて、
図22(A)乃至
図22(E)を用いて説明する。
図21のエンボスロール95及びエンボスロール96の凸部形状を、
図21とは異なる形状に替えることで、
図22(A)乃至
図22(E)に示す様々な断面形状のエンボス加工を行うことができる。
【0432】
図22(A)は、波状の形状を有するエンボスの断面模式図であり、
図22(B)乃至
図22(E)は
図22(A)の変形例である。
図22(B)及び
図22(C)は波状の形状を階段状に形成する例を示す図であり、
図22(D)は波状の形状を矩形状に形成する例を示す図であり、
図22(E)は波状の形状を鋭角な谷形状と台形の山形状とで形成する例を示す図である。
【0433】
図23(A)及び
図23(B)は、
図21乃至
図22(E)で示したエンボス加工を、フィルム90の方向を変えて2回行う場合の出来上がり形状を示す鳥瞰図である。具体的にはフィルム90を第1の方向でエンボス加工を行い、次にフィルム90を第1の方向から90度回転させた第2の方向でエンボス加工を行うことで、
図23(A)及び
図23(B)に示すエンボス形状(交差波形状と呼ぶことができる)を有するフィルム81(81a,81b,81c)を得ることができる。なお、
図23(A)で示す交差波形状を有するフィルム81aは、1枚のフィルム81aで二次電池を作製する際に用いる外形を示しており、破線部にて二つ折りにして使用することができる。また、
図23(B)で示す交差波形状を有する複数のフィルム(フィルム81b、フィルム81c)は、2枚のフィルム(フィルム81b、フィルム81c)で二次電池を作製する際に用いる外形を示しており、フィルム81bと、フィルム81cとを重ねて使用することができる。
【0434】
上記のように、エンボスロールを用いて加工を行うことで、装置を小型化することが可能である。また、フィルムをカットしない状態で加工できるため、量産性に優れる。なお、エンボスロールを用いた加工に限られず、例えば表面に凹凸が形成された一対のエンボスプレートをフィルムに押し付けることにより、フィルムを加工してもよい。このとき、エンボスプレートの一方は平坦であってもよく、複数回に分けて加工してもよい。
【0435】
図23(C)は1方向の波型のエンボス加工を行ったラミネートフィルムを外装体50Aに用いて作製した電池10を湾曲させた状態を示す斜視図である。このように、1方向の波型のエンボス加工を行ったラミネートフィルムを外装体に用いると、1方向に曲げ易い電池とすることができる。
【0436】
上記に示した二次電池の構成例では、二次電池の一方の面の外装体と他方の面の外装体と、が同様のエンボス形状を有する例を示しているが、本発明の一態様の二次電池の構成はこれに限られない。例えば、
図24(A)乃至
図24(C)に示すように、二次電池の一方の面の外装体にエンボス形状を有し、他方の面の外装体にエンボス形状を有さない二次電池とすることができる。また、二次電池の一方の面の外装体と他方の面の外装体と、が異なるエンボス形状を有していてもよい。例えば、二次電池の外装体としては、
図24(A)のフィルム81dのように、エンボス形状を有する領域と、エンボス形状を有さない領域と、を有する1枚のフィルムを用いてもよい。または、
図24(B)に示すように、エンボス形状を有するフィルム81eと、エンボス形状を有さないフィルム81fと、を外装体に用いてもよい。
図24(C)は、
図23(C)に示した図において、電池の一方の面の外装体にエンボス形状を有し、他方の面の外装体にエンボス形状を有さない電池10Bの構成例を示す図である。
【0437】
本実施の形態の内容は、他の実施の形態の内容と自由に組み合わせることができる。
【0438】
(実施の形態3)
本実施の形態では、本発明の一態様である上記正極活物質を有することのできる二次電池に関し、上記とは別の形状の例を説明する。
【0439】
[コイン型二次電池]
コイン型の二次電池の一例について説明する。
図25(A)はコイン型(単層偏平型)の二次電池の分解斜視図であり、
図25(B)は、外観図であり、
図25(C)は、その断面図である。コイン型の二次電池は主に小型の電子機器に用いられる。
【0440】
なお、
図25(A)では、わかりやすくするために部材の重なり(上下関係、及び位置関係)がわかるように模式図としている。従って
図25(A)と
図25(B)は完全に一致する対応図とはしていない。
【0441】
図25(A)では、正極304、セパレータ310、負極307、スペーサ322、ワッシャー312を重ねている。これらを負極缶302と正極缶301とガスケットで封止している。なお、
図25(A)において、封止のためのガスケットは図示していない。スペーサ322、ワッシャー312は、正極缶301と負極缶302を圧着する際に、内部を保護または缶内の位置を固定するために用いられている。スペーサ322、ワッシャー312はステンレスまたは絶縁材料を用いる。
【0442】
正極集電体305上に正極活物質層306が形成された積層構造を正極304としている。
【0443】
図25(B)は、完成したコイン型の二次電池の斜視図である。
【0444】
コイン型の二次電池300は、正極端子を兼ねた正極缶301と負極端子を兼ねた負極缶302とが、ポリプロピレン等で形成されたガスケット303で絶縁シールされている。正極304は、正極集電体305と、これと接するように設けられた正極活物質層306により形成される。また、負極307は、負極集電体308と、これに接するように設けられた負極活物質層309により形成される。また、負極307は、積層構造に限定されず、リチウム金属箔またはリチウムとアルミニウムの合金箔を用いてもよい。
【0445】
なお、コイン型の二次電池300に用いる正極304及び負極307は、それぞれ活物質層は片面のみに形成すればよい。
【0446】
正極缶301、負極缶302には、電解液に対して耐食性のあるニッケル、アルミニウム、チタン等の金属、若しくはこれらの合金又はこれらと他の金属との合金(例えばステンレス鋼等)を用いることができる。また、電解液などによる腐食を防ぐため、ニッケルまたはアルミニウム等を被覆することが好ましい。正極缶301は正極304と、負極缶302は負極307とそれぞれ電気的に接続する。
【0447】
これら負極307、正極304及びセパレータ310を電解液に浸し、
図25(C)に示すように、正極缶301を下にして正極304、セパレータ310、負極307、負極缶302をこの順で積層し、正極缶301と負極缶302とをガスケット303を介して圧着してコイン形の二次電池300を製造する。
【0448】
上記の負極、正極及び電解液等に上記実施の形態で述べた構成を適用することで、低温環境においても優れた放電容量を有するコイン型の二次電池とすることができる。
【0449】
[円筒型二次電池]
円筒型の二次電池の例について
図26(A)を参照して説明する。円筒型の二次電池616は、
図26(A)に示すように、上面に正極キャップ(電池蓋)601を有し、側面及び底面に電池缶(外装缶)602を有している。これら正極キャップ601と電池缶(外装缶)602とは、ガスケット(絶縁パッキン)610によって絶縁されている。
【0450】
図26(B)は、円筒型の二次電池の断面を模式的に示した図である。
図26(B)に示す円筒型の二次電池は、上面に正極キャップ(電池蓋)601を有し、側面及び底面に電池缶(外装缶)602を有している。これら正極キャップと電池缶(外装缶)602とは、ガスケット(絶縁パッキン)610によって絶縁されている。
【0451】
中空円柱状の電池缶602の内側には、帯状の正極604と負極606とがセパレータ605を間に挟んで捲回された電池素子が設けられている。図示しないが、電池素子は中心軸を中心に捲回されている。電池缶602は、一端が閉じられ、他端が開いている。電池缶602には、電解液に対して耐腐食性のあるニッケル、アルミニウム、チタン等の金属、又はこれらの合金、これらと他の金属との合金(例えば、ステンレス鋼等)を用いることができる。また、電解液による腐食を防ぐため、ニッケル及びアルミニウム等を電池缶602に被覆することが好ましい。電池缶602の内側において、正極、負極及びセパレータが捲回された電池素子は、対向する一対の絶縁板608、絶縁板609により挟まれている。また、電池素子が設けられた電池缶602の内部は、電解液(図示せず)が注入されている。電解液は、コイン型の二次電池と同様のものを用いることができる。
【0452】
円筒型の蓄電池に用いる正極及び負極は捲回するため、集電体の両面に活物質を形成することが好ましい。
【0453】
上記の負極、正極及び電解液等に上記実施の形態で述べた構成を適用することで、低温環境においても優れた放電容量を有する円筒型の二次電池とすることができる。
【0454】
正極604には正極端子(正極集電リード)603が接続され、負極606には負極端子(負極集電リード)607が接続される。正極端子603はアルミニウムなどの金属材料を用いることができる。負極端子607は銅などの金属材料を用いることができる。正極端子603は安全弁機構613に、負極端子607は電池缶602の底にそれぞれ抵抗溶接される。安全弁機構613は、PTC(Positive Temperature Coefficient)素子611を介して正極キャップ601と電気的に接続されている。安全弁機構613は電池の内圧の上昇が所定の閾値を超えた場合に、正極キャップ601と正極604との電気的な接続を切断するものである。また、PTC素子611は温度が上昇した場合に抵抗が増大する熱感抵抗素子であり、抵抗の増大により電流量を制限して異常発熱を防止するものである。PTC素子には、チタン酸バリウム(BaTiO3)系半導体セラミックス等を用いることができる。
【0455】
図26(C)は蓄電システム615の一例を示す。蓄電システム615は複数の二次電池616を有する。それぞれの二次電池の正極は、絶縁体625で分離された導電体624に接触し、電気的に接続されている。導電体624は配線623を介して、制御回路620に電気的に接続されている。また、それぞれの二次電池の負極は、配線626を介して制御回路620に電気的に接続されている。制御回路620として、充放電などを行う充放電制御回路、または過充電もしくは/及び過放電を防止する保護回路を適用することができる。
【0456】
図26(D)は、蓄電システム615の一例を示す。蓄電システム615は複数の二次電池616を有し、複数の二次電池616は、導電板628及び導電板614の間に挟まれている。複数の二次電池616は、配線627により導電板628及び導電板614と電気的に接続される。複数の二次電池616は、並列接続されていてもよいし、直列接続されていてもよいし、並列に接続された後さらに直列に接続されていてもよい。複数の二次電池616を有する蓄電システム615を構成することで、大きな電力を取り出すことができる。
【0457】
複数の二次電池616が、並列に接続された後、さらに直列に接続されてもよい。
【0458】
また、複数の二次電池616の間に温度制御装置を有していてもよい。二次電池616が過熱されたときは、温度制御装置により冷却し、二次電池616が冷えすぎているときは温度制御装置により加熱することができる。そのため蓄電システム615の性能が外気温に影響されにくくなる。
【0459】
また、
図26(D)において、蓄電システム615は制御回路620に配線621及び配線622を介して電気的に接続されている。配線621は導電板628を介して複数の二次電池616の正極に、配線622は導電板614を介して複数の二次電池616の負極に、それぞれ電気的に接続される。
【0460】
[二次電池の他の構造例]
二次電池の構造例について
図27及び
図28を用いて説明する。
【0461】
図27(A)に示す二次電池913は、筐体930の内部に端子951と端子952が設けられた捲回体950を有する。捲回体950は、筐体930の内部で電解液中に浸される。端子952は、筐体930に接し、端子951は、絶縁材などを用いることにより筐体930に接していない。なお、
図27(A)では、便宜のため、筐体930を分離して図示しているが、実際は、捲回体950が筐体930に覆われ、端子951及び端子952が筐体930の外に延在している。筐体930としては、金属材料(例えばアルミニウムなど)又は樹脂材料を用いることができる。
【0462】
なお、
図27(B)に示すように、
図27(A)に示す筐体930を複数の材料によって形成してもよい。例えば、
図27(B)に示す二次電池913は、筐体930aと筐体930bが貼り合わされており、筐体930a及び筐体930bで囲まれた領域に捲回体950が設けられている。
【0463】
筐体930a及び筐体930bのそれぞれには、ガス透過性を踏まえると、金属材料(例えばアルミニウムなど)又は金属材料に加えて有機樹脂を用いることができる。
【0464】
さらに、捲回体950の構造について
図27(C)に示す。捲回体950は、負極931と、正極932と、セパレータ933と、を有する。捲回体950は、セパレータ933を挟んで負極931と、正極932が重なり合って積層され、該積層シートを捲回させた捲回体である。なお、負極931と、正極932と、セパレータ933と、の積層を、さらに複数重ねてもよい。
【0465】
また、
図28に示すような捲回体950aを有する二次電池913としてもよい。
図28(A)に示す捲回体950aは、負極931と、正極932と、セパレータ933と、を有する。負極931は負極活物質層931aを有する。正極932は正極活物質層932aを有する。
【0466】
上記の負極、正極及び電解液等に上記実施の形態で述べた構成を適用することで、低温環境においても優れた放電容量を有する二次電池とすることができる。
【0467】
セパレータ933は、負極活物質層931a及び正極活物質層932aよりも広い幅を有し、負極活物質層931a及び正極活物質層932aと重畳するように捲回されている。また正極活物質層932aよりも負極活物質層931aの幅が広いことが安全性の点で好ましい。またこのような形状の捲回体950aは安全性及び生産性がよく好ましい。
【0468】
図28(B)に示すように、負極931は、超音波接合、溶接、または圧着により端子951と電気的に接続される。端子951は端子911aと電気的に接続される。また正極932は、超音波接合、溶接、または圧着により端子952と電気的に接続される。端子952は端子911bと電気的に接続される。
【0469】
図28(C)に示すように、筐体930により捲回体950a及び電解液が覆われ、二次電池913となる。筐体930には安全弁、過電流保護素子等を設けることが好ましい。安全弁は、電池破裂を防止するため、筐体930の内部が所定の内圧で開放する弁である。
【0470】
図28(B)に示すように二次電池913は複数の捲回体950aを有していてもよい。複数の捲回体950aを用いることで、より放電容量の大きい二次電池913とすることができる。
図28(A)及び(B)に示す二次電池913の他の要素は、
図27(A)乃至(C)に示す二次電池913の記載を参照することができる。
【0471】
<ラミネート型二次電池>
次に、ラミネート型の二次電池の例について、外観図の一例を
図29(A)及び
図29(B)に示す。
図29(A)及び
図29(B)は、正極503、負極506、セパレータ507、外装体509、正極リード電極510、及び負極リード電極511を有する。
【0472】
図30(A)は正極503及び負極506の外観図を示す。正極503は正極集電体501を有し、正極活物質層502は正極集電体501の表面に形成されている。また、正極503は正極集電体501が一部露出する領域(以下、タブ領域という)を有する。負極506は負極集電体504を有し、負極活物質層505は負極集電体504の表面に形成されている。また、負極506は負極集電体504が一部露出する領域、すなわちタブ領域を有する。なお、正極及び負極が有するタブ領域の面積または形状は、
図30(A)に示す例に限られない。
【0473】
上記の負極、正極及び電解液等に上記実施の形態で述べた構成を適用することで、低温環境においても優れた放電容量を有するラミネート型の二次電池とすることができる。
【0474】
<ラミネート型二次電池の作製方法>
図29(A)に外観図を示すラミネート型二次電池の作製方法の一例について、
図30(B)及び
図30(C)を用いて説明する。
【0475】
まず、負極506、セパレータ507及び正極503を積層する。
図30(B)に積層された負極506、セパレータ507及び正極503を示す。ここでは負極を5組、正極を4組使用する例を示す。負極とセパレータと正極からなる積層体とも呼べる。次に、正極503のタブ領域同士の接合と、最表面の正極のタブ領域への正極リード電極510の接合を行う。接合には、例えば超音波溶接等を用いればよい。同様に、負極506のタブ領域同士の接合と、最表面の負極のタブ領域への負極リード電極511の接合を行う。
【0476】
次に、外装体509上に、負極506、セパレータ507及び正極503を配置する。
【0477】
次に、
図30(C)に示すように、外装体509を破線で示した部分で折り曲げる。その後、外装体509の外周部を接合する。接合には例えば熱圧着等を用いればよい。この時、後に電解液を入れることができるように、外装体509の一部(または一辺)に接合されない領域(以下、導入口という)を設ける。
【0478】
次に、外装体509に設けられた導入口から、電解液を外装体509の内側へ導入する。電解液の導入は、減圧雰囲気下、或いは不活性雰囲気下で行うことが好ましい。そして最後に、導入口を接合する。このようにして、ラミネート型の二次電池500を作製することができる。
【0479】
本実施の形態の内容は、他の実施の形態の内容と自由に組み合わせることができる。
【0480】
(実施の形態4)
本実施の形態では、本発明の一態様である二次電池を電子機器に実装する例について
図31(A)乃至
図33(C)を用いて説明する。
【0481】
先の実施の形態で説明した正極活物質を有する二次電池を電子機器に実装する例を、
図31(A)乃至
図31(G)に示す。二次電池を適用した電子機器として、例えば、テレビジョン装置(テレビ、又はテレビジョン受信機ともいう)、コンピュータ用などのモニタ、デジタルカメラ、デジタルビデオカメラ、デジタルフォトフレーム、携帯電話機(携帯電話、携帯電話装置ともいう)、携帯型ゲーム機、携帯情報端末、音響再生装置、パチンコ機などの大型ゲーム機などが挙げられる。
【0482】
また、フレキシブルな形状を備える二次電池を、家屋、ビル等の内壁又は外壁、自動車の内装又は外装の曲面に沿って組み込むことも可能である。
【0483】
図31(A)は、携帯電話機の一例を示している。携帯電話機7400は、筐体7401に組み込まれた表示部7402の他、操作ボタン7403、外部接続ポート7404、スピーカ7405、マイク7406などを備えている。なお、携帯電話機7400は、二次電池7407を有している。上記の二次電池7407に本発明の一態様の二次電池を用いることで、軽量で長寿命な携帯電話機を提供できる。
【0484】
図31(B)は、携帯電話機7400を湾曲させた状態を示している。携帯電話機7400を外部の力により変形させて全体を湾曲させると、その内部に設けられている二次電池7407も湾曲される。また、その時、曲げられた二次電池7407の状態を
図31(C)に示す。二次電池7407は薄型の蓄電池である。二次電池7407は曲げられた状態で固定されている。なお、二次電池7407は集電体と電気的に接続されたリード電極を有している。
【0485】
図31(D)は、バングル型の表示装置の一例を示している。携帯表示装置7100は、筐体7101、表示部7102、操作ボタン7103、及び二次電池7104を備える。また、
図31(E)に曲げられた二次電池7104の状態を示す。二次電池7104は曲げられた状態で使用者の腕への装着時に、筐体が変形して二次電池7104の一部又は全部の曲率が変化する。なお、曲線の任意の点における曲がり具合を相当する円の半径の値で表したものを曲率半径と呼び、曲率半径の逆数を曲率と呼ぶ。具体的には、曲率半径が40mm以上150mm以下の範囲内で筐体又は二次電池7104の主表面の一部又は全部が変化する。二次電池7104の主表面における曲率半径が40mm以上150mm以下の範囲であれば、高い信頼性を維持できる。上記の二次電池7104に本発明の一態様の二次電池を用いることで、軽量で長寿命な携帯表示装置を提供できる。
【0486】
図31(F)は、腕時計型の携帯情報端末の一例を示している。携帯情報端末7200は、筐体7201、表示部7202、バンド7203、バックル7204、操作ボタン7205、入出力端子7206などを備える。
【0487】
携帯情報端末7200は、移動電話、電子メール、文章閲覧及び作成、音楽再生、インターネット通信、コンピュータゲームなどの種々のアプリケーションを実行することができる。
【0488】
表示部7202はその表示面が湾曲して設けられ、湾曲した表示面に沿って表示を行うことができる。また、表示部7202はタッチセンサを備え、指又はスタイラスなどで画面に触れることで操作することができる。例えば、表示部7202に表示されたアイコン7207に触れることで、アプリケーションを起動することができる。
【0489】
操作ボタン7205は、時刻設定のほか、電源のオン、オフ動作、無線通信のオン、オフ動作、マナーモードの実行及び解除、省電力モードの実行及び解除など、様々な機能を持たせることができる。例えば、携帯情報端末7200に組み込まれたオペレーティングシステムにより、操作ボタン7205の機能を自由に設定することもできる。
【0490】
また、携帯情報端末7200は、近距離無線通信を実行することが可能である。例えば無線通信可能なヘッドセットと相互通信することによって、ハンズフリーで通話することもできる。
【0491】
また、携帯情報端末7200は入出力端子7206を備え、他の情報端末とコネクタを介して直接データのやりとりを行うことができる。また入出力端子7206を介して充電を行うこともできる。なお、充電動作は入出力端子7206を介さずに無線充電により行ってもよい。
【0492】
携帯情報端末7200の表示部7202には、本発明の一態様の二次電池を有している。本発明の一態様の二次電池を用いることで、軽量で長寿命な携帯情報端末を提供できる。例えば、
図31(E)に示した二次電池7104を、筐体7201の内部に湾曲した状態で、又はバンド7203の内部に湾曲可能な状態で組み込むことができる。
【0493】
携帯情報端末7200はセンサを有することが好ましい。センサとして例えば、指紋センサ、脈拍センサ、体温センサ等の人体センサ、タッチセンサ、加圧センサ、加速度センサ、等が搭載されることが好ましい。
【0494】
図31(G)は、腕章型の表示装置の一例を示している。表示装置7300は、表示部7304を有し、本発明の一態様の二次電池を有している。また、表示装置7300は、表示部7304にタッチセンサを備えることもでき、また、携帯情報端末として機能させることもできる。
【0495】
表示部7304はその表示面が湾曲しており、湾曲した表示面に沿って表示を行うことができる。また、表示装置7300は、近距離無線通信などにより、表示状況を変更することができる。
【0496】
また、表示装置7300は入出力端子を備え、他の情報端末とコネクタを介して直接データのやりとりを行うことができる。また入出力端子を介して充電を行うこともできる。なお、充電動作は入出力端子を介さずに無線充電により行ってもよい。
【0497】
表示装置7300が有する二次電池として本発明の一態様の二次電池を用いることで、軽量で長寿命な表示装置を提供できる。
【0498】
また、先の実施の形態で示したサイクル特性のよい二次電池を電子機器に実装する例を
図31(H)乃至
図33(C)を用いて説明する。
【0499】
日用電子機器に二次電池として本発明の一態様の二次電池を用いることで、軽量で長寿命な製品を提供できる。例えば、日用電子機器として、電動歯ブラシ、電気シェーバー、電動美容機器などが挙げられ、それらの製品の二次電池としては、使用者の持ちやすさを考え、形状をスティック状とし、小型、軽量、かつ、放電容量の大きな二次電池が望まれている。
【0500】
図31(H)はタバコ収容喫煙装置(電子タバコ)とも呼ばれる装置の斜視図である。
図31(H)において電子タバコ7500は、加熱素子を含むアトマイザ7501と、アトマイザに電力を供給する二次電池7504と、液体供給ボトル及びセンサなどを含むカートリッジ7502で構成されている。安全性を高めるため、二次電池7504の過充電及び/又は過放電を防ぐ保護回路を二次電池7504に電気的に接続してもよい。
図31(H)に示した二次電池7504は、充電機器と接続できるように外部端子を有している。二次電池7504は持った場合に先端部分となるため、トータルの長さが短く、かつ、重量が軽いことが望ましい。本発明の一態様の二次電池は放電容量が高く、良好なサイクル特性を有するため、長期間に渡って長時間の使用ができる小型であり、かつ、軽量の電子タバコ7500を提供できる。
【0501】
図32(A)は、ウェアラブルデバイスの例を示している。ウェアラブルデバイスは、電源として二次電池を用いる。また、使用者が生活又は屋外で使用する場合において、防沫性能、耐水性能又は防塵性能を高めるため、接続するコネクタ部分が露出している有線による充電だけでなく、無線充電も行えるウェアラブルデバイスが望まれている。
【0502】
例えば、
図32(A)に示すような眼鏡型デバイス4000に本発明の一態様である二次電池を搭載することができる。眼鏡型デバイス4000は、フレーム4000aと、表示部4000bを有する。湾曲を有するフレーム4000aのテンプル部に二次電池を搭載することで、軽量であり、かつ、重量バランスがよく継続使用時間の長い眼鏡型デバイス4000とすることができる。本発明の一態様である二次電池を備えることで、筐体の小型化に伴う省スペース化に対応できる構成を実現することができる。
【0503】
また、ヘッドセット型デバイス4001に本発明の一態様である二次電池を搭載することができる。ヘッドセット型デバイス4001は、少なくともマイク部4001aと、フレキシブルパイプ4001bと、イヤフォン部4001cを有する。フレキシブルパイプ4001b内及び/又はイヤフォン部4001c内に二次電池を設けることができる。本発明の一態様である二次電池を備えることで、筐体の小型化に伴う省スペース化に対応できる構成を実現することができる。
【0504】
また、身体に直接取り付け可能なデバイス4002に本発明の一態様である二次電池を搭載することができる。デバイス4002の薄型の筐体4002aの中に、二次電池4002bを設けることができる。本発明の一態様である二次電池を備えることで、筐体の小型化に伴う省スペース化に対応できる構成を実現することができる。
【0505】
また、衣服に取り付け可能なデバイス4003に本発明の一態様である二次電池を搭載することができる。デバイス4003の薄型の筐体4003aの中に、二次電池4003bを設けることができる。本発明の一態様である二次電池を備えることで、筐体の小型化に伴う省スペース化に対応できる構成を実現することができる。
【0506】
また、ベルト型デバイス4006に本発明の一態様である二次電池を搭載することができる。ベルト型デバイス4006は、ベルト部4006a及びワイヤレス給電受電部4006bを有し、ベルト部4006aの内部に、二次電池を搭載することができる。本発明の一態様である二次電池を備えることで、筐体の小型化に伴う省スペース化に対応できる構成を実現することができる。
【0507】
また、腕時計型デバイス4005に本発明の一態様である二次電池を搭載することができる。腕時計型デバイス4005は表示部4005a及びベルト部4005bを有し、表示部4005a又はベルト部4005bに、二次電池を設けることができる。本発明の一態様である二次電池を備えることで、筐体の小型化に伴う省スペース化に対応できる構成を実現することができる。
【0508】
表示部4005aには、時刻だけでなく、メール及び電話の着信等、様々な情報を表示することができる。
【0509】
また、腕時計型デバイス4005は、腕に直接巻きつけるタイプのウェアラブルデバイスであるため、使用者の脈拍、血圧等を測定するセンサを搭載してもよい。使用者の運動量及び健康に関するデータを蓄積し、健康を管理することができる。
【0510】
図32(B)に腕から取り外した腕時計型デバイス4005の斜視図を示す。
【0511】
また、側面図を
図32(C)に示す。
図32(C)には、内部に二次電池913を内蔵している様子を示している。二次電池913は先の実施の形態に示した二次電池である。二次電池913は表示部4005aと重なる位置に設けられており、小型、かつ、軽量である。
【0512】
図32(D)はワイヤレスイヤホンの例を示している。ここでは一対の本体4100a及び本体4100bを有するワイヤレスイヤホンを図示するが、必ずしも一対でなくてもよい。
【0513】
本体4100a及び4100bは、ドライバユニット4101、アンテナ4102、二次電池4103を有する。表示部4104を有していてもよい。また無線用IC等の回路が載った基板、充電用端子等を有することが好ましい。またマイクを有していてもよい。
【0514】
ケース4110は、二次電池4111を有する。また無線用IC、充電制御IC等の回路が載った基板、充電用端子を有することが好ましい。また表示部、ボタン等を有していてもよい。
【0515】
本体4100a及び4100bは、スマートフォン等の他の電子機器と無線で通信することができる。これにより他の電子機器から送られた音データ等を本体4100a及び4100bで再生することができる。また本体4100a及び4100bがマイクを有すれば、マイクで取得した音を他の電子機器に送り、該電子機器により処理をした後の音データを再び本体4100a及び4100bに送って再生することができる。これにより、例えば翻訳機として用いることもできる。
【0516】
またケース4110が有する二次電池4111から、本体4100aが有する二次電池4103に充電を行うことができる。二次電池4111及び二次電池4103としては先の実施の形態のコイン型二次電池、円筒形二次電池等を用いることができる。実施の形態1で得られる正極活物質100を正極に用いた二次電池は高エネルギー密度であり、二次電池4103及び二次電池4111に用いることで、ワイヤレスイヤホンの小型化に伴う省スペース化に対応できる構成を実現することができる。
【0517】
図33(A)は、掃除ロボットの一例を示している。掃除ロボット6300は、筐体6301上面に配置された表示部6302、側面に配置された複数のカメラ6303、ブラシ6304、操作ボタン6305、二次電池6306、各種センサなどを有する。図示されていないが、掃除ロボット6300には、タイヤ、吸い込み口等が備えられている。掃除ロボット6300は自走し、ゴミ6310を検知し、下面に設けられた吸い込み口からゴミを吸引することができる。
【0518】
例えば、掃除ロボット6300は、カメラ6303が撮影した画像を解析し、壁、家具又は段差などの障害物の有無を判断することができる。また、画像解析により、配線などブラシ6304に絡まりそうな物体を検知した場合は、ブラシ6304の回転を止めることができる。掃除ロボット6300は、その内部に本発明の一態様に係る二次電池6306と、半導体装置又は電子部品を備える。本発明の一態様に係る二次電池6306を掃除ロボット6300に用いることで、掃除ロボット6300を稼働時間が長く信頼性の高い電子機器とすることができる。
【0519】
図33(B)は、ロボットの一例を示している。
図33(B)に示すロボット6400は、二次電池6409、照度センサ6401、マイクロフォン6402、上部カメラ6403、スピーカ6404、表示部6405、下部カメラ6406及び障害物センサ6407、移動機構6408、演算装置等を備える。
【0520】
マイクロフォン6402は、使用者の話し声及び環境音等を検知する機能を有する。また、スピーカ6404は、音声を発する機能を有する。ロボット6400は、マイクロフォン6402及びスピーカ6404を用いて、使用者とコミュニケーションをとることが可能である。
【0521】
表示部6405は、種々の情報の表示を行う機能を有する。ロボット6400は、使用者の望みの情報を表示部6405に表示することが可能である。表示部6405は、タッチパネルを搭載していてもよい。また、表示部6405は取り外しのできる情報端末であっても良く、ロボット6400の定位置に設置することで、充電及びデータの受け渡しを可能とする。
【0522】
上部カメラ6403及び下部カメラ6406は、ロボット6400の周囲を撮像する機能を有する。また、障害物センサ6407は、移動機構6408を用いてロボット6400が前進する際の進行方向における障害物の有無を察知することができる。ロボット6400は、上部カメラ6403、下部カメラ6406及び障害物センサ6407を用いて、周囲の環境を認識し、安全に移動することが可能である。
【0523】
ロボット6400は、その内部に本発明の一態様に係る二次電池6409と、半導体装置又は電子部品を備える。本発明の一態様に係る二次電池をロボット6400に用いることで、ロボット6400を稼働時間が長く信頼性の高い電子機器とすることができる。
【0524】
図33(C)は、飛行体の一例を示している。
図33(C)に示す飛行体6500は、プロペラ6501、カメラ6502、及び二次電池6503などを有し、自律飛行する機能を有する。
【0525】
例えば、カメラ6502で撮影した画像データは、電子部品6504に記憶される。電子部品6504は、画像データを解析し、移動する際の障害物の有無などを察知することができる。また、電子部品6504によって二次電池6503の蓄電容量の変化から、バッテリ残量を推定することができる。飛行体6500は、その内部に本発明の一態様に係る二次電池6503を備える。本発明の一態様に係る二次電池を飛行体6500に用いることで、飛行体6500を稼働時間が長く信頼性の高い電子機器とすることができる。
【0526】
本実施の形態は、他の実施の形態と適宜組み合わせて実施することが可能である。
【0527】
(実施の形態5)
本実施の形態では、車両に本発明の一態様の正極活物質を有する二次電池を搭載する例を示す。
【0528】
二次電池を車両に搭載すると、ハイブリッド車(HV)、電気自動車(EV)、又はプラグインハイブリッド車(PHV)等の次世代クリーンエネルギー自動車を実現できる。
【0529】
図34において、本発明の一態様である二次電池を用いた車両を例示する。
図34(A)に示す自動車8400は、走行のための動力源として電気モーターを用いる電気自動車である。または、走行のための動力源として電気モーターとエンジンを適宜選択して用いることが可能なハイブリッド自動車である。本発明の一態様を用いることで、航続距離の長い車両を実現することができる。また、自動車8400は二次電池を有する。例えば車内の床部分に二次電池のモジュールを並べて使用することができる。二次電池は電気モーター8406を駆動するだけでなく、ヘッドライト8401及びルームライト(図示せず)などの発光装置に電力を供給することができる。
【0530】
また、二次電池は、自動車8400が有するスピードメーター、タコメーターなどの表示装置に電力を供給することができる。また、二次電池は、自動車8400が有するナビゲーションシステムなどの半導体装置に電力を供給することができる。
【0531】
図34(B)に示す自動車8500は、自動車8500が有する二次電池にプラグイン方式及び/又は非接触給電方式等により外部の充電設備から電力供給を受けて、充電することができる。
図34(B)に、地上設置型の充電装置8021から自動車8500に搭載された二次電池8024に、ケーブル8022を介して充電を行っている状態を示す。充電に際しては、充電方法及びコネクタの規格等はCHAdeMO(登録商標)又はコンボ等の所定の方式で適宜行えばよい。充電装置8021は、商用施設に設けられた充電ステーションでもよく、また家庭の電源であってもよい。例えば、プラグイン技術によって、外部からの電力供給により自動車8500に搭載された二次電池8024を充電することができる。充電は、ACDCコンバータ等の変換装置を介して、交流電力を直流電力に変換して行うことができる。
【0532】
また、図示しないが、受電装置を車両に搭載し、地上の送電装置から電力を非接触で供給して充電することもできる。この非接触給電方式の場合には、道路及び/又は外壁に送電装置を組み込むことで、停車中に限らず走行中に充電を行うこともできる。また、この非接触給電の方式を利用して、車両同士で電力の送受信を行ってもよい。さらに、車両の外装部に太陽電池を設け、停車時及び/又は走行時に二次電池の充電を行ってもよい。このような非接触での電力の供給には、電磁誘導方式及び/又は磁界共鳴方式を用いることができる。
【0533】
また、
図34(C)は、本発明の一態様の二次電池を用いた二輪車の一例である。
図34(C)に示すスクータ8600は、二次電池8602、サイドミラー8601、方向指示灯8603を備える。二次電池8602は、方向指示灯8603に電気を供給することができる。
【0534】
また、
図34(C)に示すスクータ8600は、座席下収納8604に、二次電池8602を収納することができる。二次電池8602は、座席下収納8604が小型であっても、座席下収納8604に収納することができる。二次電池8602は、取り外し可能となっており、充電時には二次電池8602を屋内に持って運び、充電し、走行する前に収納すればよい。
【0535】
本発明の一態様によれば、二次電池のサイクル特性が良好となり、二次電池の放電容量を大きくすることができる。よって、二次電池自体を小型軽量化することができる。二次電池自体を小型軽量化できれば、車両の軽量化に寄与するため、航続距離を向上させることができる。また、車両に搭載した二次電池を車両以外の電力供給源として用いることもできる。この場合、例えば電力需要のピーク時に商用電源を用いることを回避することができる。電力需要のピーク時に商用電源を用いることを回避できれば、省エネルギー、及び二酸化炭素の排出の削減に寄与することができる。また、サイクル特性が良好であれば二次電池を長期に渡って使用できるため、コバルトをはじめとする希少金属の使用量を減らすことができる。
【0536】
本実施の形態は、他の実施の形態と適宜組み合わせて実施することが可能である。
【0537】
(実施の形態6)
本実施の形態では、本発明の一態様である二次電池を宇宙用機器に実装する例について説明する。
【0538】
図35(A)には、宇宙用機器の一例として、人工衛星6800を示している。人工衛星6800は、機体6801と、ソーラーパネル6802と、アンテナ6803と、二次電池6805と、を有する。ソーラーパネルは、太陽電池モジュールと呼ばれる場合がある。
【0539】
ソーラーパネル6802に太陽光が照射されることにより、人工衛星6800が動作するために必要な電力が生成される。しかしながら、例えばソーラーパネルに太陽光が照射されない状況、又はソーラーパネルに照射される太陽光の光量が少ない状況では、生成される電力が少なくなる。よって、人工衛星6800が動作するために必要な電力が生成されない可能性がある。生成される電力が少ない状況下であっても人工衛星6800を動作させるために、人工衛星6800に二次電池6805を設けるとよい。二次電池に、本発明の正極活物質を用いることで、放電容量が高くかつサイクル特性に優れた二次電池とすることができる。
【0540】
人工衛星6800は、信号を生成することができる。当該信号は、アンテナ6803を介して送信され、例えば地上に設けられた受信機、又は他の人工衛星が信号を受信することができる。人工衛星6800が送信した信号を受信することにより、例えば当該信号を受信した受信機の位置を測定することができる。以上より、人工衛星6800は、例えば衛星測位システムを構成することができる。
【0541】
または、人工衛星6800は、センサを有する構成とすることができる。例えば、可視光センサを有する構成とすることにより、人工衛星6800は、地上に設けられている物体に当たって反射された太陽光を検出する機能を有することができる。または、熱赤外センサを有する構成とすることにより、人工衛星6800は、地表から放出される熱赤外線を検出する機能を有することができる。以上より、人工衛星6800は、例えば地球観測衛星としての機能を有することができる。
【0542】
図35(B)には、宇宙用機器の一例として、ソーラーセイル(太陽帆ともいう)を有する探査機6900を示している。探査機6900は、機体6901と、ソーラーセイル6902と、二次電池6905と、を有する。二次電池に、本発明の正極活物質を用いることで、放電容量が高くかつサイクル特性に優れた二次電池とすることができる。太陽から発せられる光子がソーラーセイル6902の表面に当たるとき、ソーラーセイル6902に運動量が伝達される。そのため、ソーラーセイル6902の表面は、高反射率の薄膜を有するとよく、さらに太陽の方向に面することが好ましい。
【0543】
またソーラーセイル6902は大気圏外に出るまで、小さく折り畳まれた状態であり、地球の大気圏外(宇宙空間)では
図35(B)に示すように大きなシート状に展開されるように設計してもよい。
【0544】
図35(C)には、宇宙用機器の一例として、宇宙船6910を示している。宇宙船6910は、機体6911と、ソーラーパネル6912と、二次電池6913と、を有する。二次電池に、本発明の正極活物質を用いることで、放電容量が高くかつサイクル特性に優れた二次電池とすることができる。機体6911は例えば与圧室と非与圧室を有することができる。与圧室は乗員が乗り込める仕様としてもよい。ソーラーパネル6912に太陽光が照射されることで生じた電力は、二次電池6913に充電することができる。
【0545】
図35(D)には、宇宙用機器の一例として、探査車6920を示している。探査車6920は、機体6921と、二次電池6923と、を有する。二次電池に、本発明の正極活物質を用いることで、放電容量が高くかつサイクル特性に優れた二次電池とすることができる。探査車6920は、ソーラーパネル6922を有していてもよい。
【0546】
探査車6920は乗員が乗り込める仕様としてもよい。ソーラーパネル6912に太陽光が照射されることで生じた電力を二次電池6923に充電してもよいし、その他の動力源、例えば燃料電池、放射性同位体熱電気転換器等により生成した電力を二次電池6923に充電してもよい。
【0547】
本実施の形態の内容は、他の実施の形態内容と適宜組み合わせることができる。
【実施例0548】
本実施例では、本発明の一態様である正極活物質を有する試験用電池(ハーフセル)を作製して、充放電サイクル試験を実施した。サンプルの作製工程を説明し、サイクル特性結果を示す。
【0549】
<正極活物質の作製>
図5および
図6に示す作製方法を参照しながら本実施例に用いた正極活物質について説明する。
【0550】
図5のステップS10のコバルト酸リチウム(LiCoO
2)として、遷移金属Mとしてコバルトを有し、添加元素を特に有さない市販のコバルト酸リチウム(日本化学工業株式会社製、セルシードC-5H)を用意し、自動ふるい機でふるっておいた。自動ふるい機での処理として例えば、伊藤製作所製の電磁振動式篩分器 MS-200を用い、ふるいの目は53μm、タッピングボールを用いる条件で行うことができる。ステップS15の初期加熱として、このコバルト酸リチウムをセッターに入れて蓋をし、焼成炉としてローラーハースキルンシミュレーター炉(株式会社ノリタケカンパニー製)を用いて850℃、2時間加熱した。炉内は空気(圧縮空気であり、十分に乾燥されている)を10L/分でフローした。炉の差圧計が5Paとなるようにフロー量、具体的には排気口の開口幅を調整し、炉内を陽圧にした。初期加熱後、炉内を冷却する際、200℃/時間の速度で冷却し、200℃になるまで上記空気のフローを止めなかった。
【0551】
本実施例では、まず
図6(A)で示したステップS20aに従って、添加元素としてMg,Fを分けて添加した。
図6(A)で示したステップS21に従って、F源としてLiFを用意し、Mg源としてMgF
2を用意した。LiF:MgF
2が1:3(モル比)となるように秤量し、脱水アセトン中で、500rpmの回転速度で20時間混合した。目開き300μmのふるいでふるい、粒径のそろった添加元素源(A1源)を作製した。
【0552】
次に
図5で示したステップS31として、A1源のマグネシウムがコバルト酸リチウムのコバルトの1モル%となるように秤量して、A1源と初期加熱後のコバルト酸リチウムとを、ピコボンド(ホソカワミクロン製)を用いて、3000rpmの回転速度で10分攪拌して、混合物903を得た(ステップS32)。ピコボンドのロータとしてノビルタを用いた。次のステップS33の前に、混合物903は自動ふるい機でふるっておいた。
【0553】
次にステップS33として、混合物903を加熱した。加熱条件は、850℃及び10時間とした。加熱の際、混合物903をセッターに入れ、蓋をした。ここで、セッターへ入れる混合物903の量を5条件用意した。具体的には、30g、60g、120g、180g、及び240gの混合物903を入れたセッターをそれぞれ用意した。混合物903を30g入れた条件を条件A、混合物903を60g入れた条件を条件B、混合物903を120g入れた条件を条件C、混合物903を180g入れた条件を条件D、混合物903を240g入れた条件を条件Eと呼ぶ。それぞれの条件における、セッター内での混合物903の高さHは、条件Aにおいて0.5mm以上1.0mm以下、条件Bにおいて1.5mm以上2.0mm以下、条件Cにおいて3.5mm以上4.0mm以下、条件Dにおいて5.5mm以上6.0mm以下、条件Eにおいて7.5mm以上8.0mm以下であった。上記の数値を表2に示す。
【0554】
【0555】
セッターをローラーハースキルンシミュレーター炉(株式会社ノリタケカンパニー製)にいれて、上記加熱温度で加熱した。炉内は酸素を10L/分でフローした(O2フロー)。炉の差圧計が5Paとなるようにフロー量、具体的には排気口の開口幅を調整し、炉内を陽圧にした。初期加熱後、炉内を冷却する際、200℃/時間の速度で冷却し、200℃になるまで酸素のフローを止めなかった。このようにして、Mg,及びFを有する複合酸化物を得た(ステップS34a)。
【0556】
次にステップS40として、複合酸化物と添加元素源(A2源)を用意した。まず
図6(C)で示したステップS41に従って、ニッケル源として粉砕工程を経た水酸化ニッケルを用意し、アルミニウム源として粉砕工程を経た水酸化アルミニウムを用意し、これらを添加元素源(A2源)とした。粉砕工程として、脱水アセトン中で、水酸化ニッケル及び水酸化アルミニウムをそれぞれ、500rpmの回転速度で20時間攪拌した。その後、目開き300μmのふるいでふるっておいた。
【0557】
A2源として、水酸化ニッケルのニッケルがコバルトの0.5モル%となり、水酸化アルミニウムのアルミニウムがコバルトの0.5モル%となるように秤量して、Mg、及びFを有する複合酸化物を、ピコボンド(ホソカワミクロン製)を用いて、3000rpmの回転速度で10分攪拌し、混合物904を得た(ステップS52)。ピコボンドのロータとしてノビルタを用いた。次のステップS53の前に、混合物904は自動ふるい機でふるっておいた。なお、上記のステップS33において条件分けした後、それぞれ独立してステップS52までを処理している。そこで、ステップS33において条件Aで処理した材料をステップS52まで処理したものを混合物904Aと呼び、同様に条件Bのものを混合物904B、同様に条件Cのものを混合物904C、同様に条件Dのものを混合物904D、同様に条件Eのものを混合物904Eと呼ぶ。
【0558】
次にステップS53として、混合物904を加熱した。加熱条件は、850℃及び2時間とした。加熱の際、混合物904をセッターに入れ、蓋をした。上記のステップS33において条件分けしたときと同様に、セッターに混合物904Aを30g入れ、別のセッターに混合物904Bを60g入れ、別のセッターに混合物904Cを120g入れ、別のセッターに混合物904Dを120g入れ、別のセッターに混合物904Eを240g入れた。なお、混合物904Aを30g入れた条件を条件AA、混合物904Bを60g入れた条件を条件BB、混合物904Cを120g入れた条件を条件CC、混合物904Dを180g入れた条件を条件DD、混合物904Eを240g入れた条件を条件EEと呼ぶ。それぞれの条件における、セッター内での混合物904の高さHは、条件AAにおいて0.5mm以上1.0mm以下、条件BBにおいて1.5mm以上2.0mm以下、条件CCにおいて3.5mm以上4.0mm以下、条件DDにおいて5.5mm以上6.0mm以下、条件EEにおいて7.5mm以上8.0mm以下であった。上記の数値を表3に示す。
【0559】
【0560】
セッターをローラーハースキルンシミュレーター炉(株式会社ノリタケカンパニー製)にいれて、上記加熱温度で加熱した。炉内は酸素を10L/分でフローした(O2フロー)。炉の差圧計が5Paとなるようにフロー量、具体的には排気口の開口幅を調整し、炉内を陽圧とした。加熱後、炉内を冷却する際、200℃/時間の速度で冷却し、200℃になるまで酸素のフローを止めなかった。
【0561】
このようにして、Mg,F、Ni、及びAlを有するコバルト酸リチウムを得た(ステップS54)。なお、上記のステップS53において条件分けした後、それぞれ独立してステップS54までを処理している。そこで、ステップS53において条件AAで処理した材料をステップS54まで処理したものを正極活物質Aと呼び、同様に条件BBのものを正極活物質B、同様に条件CCのものを正極活物質C、同様に条件DDのものを正極活物質D、同様に条件EEのものを正極活物質Eと呼ぶ。
【0562】
<正極の作製>
正極活物質として上記の正極活物質A乃至正極活物質Eを用意し、導電材としてアセチレンブラック(AB)を用意し、結着剤としてポリフッ化ビニリデン(PVDF)を用意した。PVDFはあらかじめN-メチル-2-ピロリドン(NMP)に対して重量比で5%の割合で溶解したものを用意した。次に、正極活物質:AB:PVDF=95:3:2(重量比)で混合してスラリーを作製し、該スラリーをアルミニウムの正極集電体に塗工した。スラリーの溶媒としてNMPを用いた。正極集電体にスラリーを塗工した後、溶媒を揮発させた。
【0563】
その後、上記の正極集電体上の正極活物質層の密度を高めるため、ロールプレス機によってプレス処理を行った。プレス処理の条件は、線圧210kN/mとした。なお、ロールプレス機の上部ロール及び下部ロールは、いずれも120℃とした。
【0564】
以上の工程により、各正極活物質を有する正極を得た。正極活物質の担持量が10mg/cm2以上11mg/cm2以下の範囲となるように調節した。なお、正極活物質Aを用いて作製した正極を正極A、正極活物質Bを用いて作製した正極を正極B、正極活物質Cを用いて作製した正極を正極C、正極活物質Dを用いて作製した正極を正極D、正極活物質Eを用いて作製した正極を正極Eと呼ぶ。
【0565】
<ハーフセルの作製>
上記で作製した正極A、正極B、正極C、正極D、及び正極Eのそれぞれと、リチウム金属箔と、セパレータと、電解質と、コインセル正極缶と、コインセル負極缶を用いて、ハーフセルを作製した。ハーフセルのサイズは、2032型(直径20mm、厚さ3.2mm)とした。なお、正極はそれぞれ、直径12mmの円形とした。
【0566】
電解液には、エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)をEC:DEC=3:7(体積比)で混合したものに、1mol/Lの六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)を溶解させた溶液に対して、添加剤としてビニレンカーボネート(VC)を2wt%加えたものを用いた。
【0567】
セパレータとしては、厚さ20μmの多孔質ポリプロピレンフィルムを用いた。
【0568】
正極Aを用いて作製したハーフセルをセルA、正極Bを用いて作製したハーフセルをセルB、正極Cを用いて作製したハーフセルをセルC、正極Dを用いて作製したハーフセルをセルD、正極Eを用いて作製したハーフセルをセルEと呼ぶ。なお、それぞれのセルは3個ずつ作製した。
【0569】
<充放電サイクル試験>
上記で作製したセルA乃至セルEを用いて、充放電サイクル試験を行った。充放電サイクル試験の条件は、充電時の最大電圧を4.60V(条件1)、4.65V(条件2)、又は4.70V(条件3)の3条件とした。
【0570】
条件1では、充電において、0.5Cの電流で、電池電圧が4.60Vになるまで定電流で充電し、続いて、電流が0.05Cを下回る電流になるまで、4.60Vの定電圧充電を行った(定電流-定電圧充電)。放電は、0.5Cの電流で、電池電圧が2.50Vになるまで定電流で放電した(定電流放電)。充放電の環境温度は、25℃として、上記の充電と放電を、50回繰り返した。また、条件2は、充電時の電圧を4.65Vに変えた以外は、条件1と同じ条件とした。また、条件3は、充電時の電圧を4.70Vに変えた以外は、条件1と同じ条件とした。なお、本実施例において、1Cは、正極活物質重量当たり200mA/gとした。
【0571】
充放電サイクル試験の結果を、
図36乃至
図38に示す。
図36(A)及び
図36(B)は、条件1における充放電サイクル試験の結果を示すグラフであり、
図37(A)及び
図37(B)は、条件2における充放電サイクル試験の結果を示すグラフであり、
図38(A)及び
図38(B)は、条件3における充放電サイクル試験の結果を示すグラフである。
図36(A)、
図37(A)、及び
図38(A)において、横軸は、充放電の繰り返し回数(サイクル数)を示しており、縦軸は、セルの放電容量を、セルの正極が有する正極活物質の重量で除した放電容量を示している。また、
図36(B)、
図37(B)、及び
図38(B)において、横軸は、充放電の繰り返し回数を示しており、縦軸は、各サイクルでの放電容量を、充放電サイクル試験全体における最大の放電容量に対する100分率(放電容量維持率)として示している。
【0572】
図36(A)及び
図36(B)に示す条件1(4.60V条件)の充放電サイクル試験の結果として、セルA乃至セルEの結果が、重なっており、ほとんど差がない結果であった。セルA乃至セルEの、50サイクル後の放電容量維持率は、いずれのセルも、98%を超える優れた充放電サイクル特性を示した。
【0573】
図37(A)及び
図37(B)に示す条件2(4.65V条件)の充放電サイクル試験の結果として、セルA及びセルBの結果が重なっており、50サイクル後の放電容量維持率は、セルA及びセルBが最も高く、セルCが次に高く、セルDが次に高く、セルEは最も低い値であった。なお、セルA、セルB、及びセルCは、50サイクル後の放電容量維持率が90%を超えており、4.65Vの条件において、優れた充放電サイクル特性を示した。つまり、正極活物質の作製において、セッターの内部で、3.5mm以上4.0mm以下の厚さとなるように収容した状態で加熱した正極活物質A、正極活物質B、及び正極活物質Cは、4.65Vの条件において、優れた充放電サイクル特性を示した。
【0574】
図38(A)及び
図38(B)に示す条件3(4.70V条件)の充放電サイクル試験の結果として、50サイクル後の放電容量維持率は、セルBが最も高く、セルAが次に高く、セルCが次に高く、セルDが次に高く、セルEは最も低い値であった。なお、セルA、及びセルBは、50サイクル後の放電容量維持率が80%を超えており、4.70Vの条件において、優れた充放電サイクル特性を示した。つまり、正極活物質の作製において、セッターの内部で、1.5mm以上2.0mm以下の厚さとなるように収容した状態で加熱した正極活物質A、及び正極活物質Bは、4.70Vの条件において、優れた充放電サイクル特性を示した。
【0575】
図36乃至
図38に示した充放電サイクル試験の結果のうち、各条件の最大放電容量を比較するグラフを
図39(A)に示し、各条件の放電容量維持率を比較するグラフを
図39(B)に示す。また、
図39(A)及び
図39(B)のグラフの各値を表4、表5、及び表6に示す。なお、
図39(A)及び
図39(B)のグラフの横軸には、各セルに用いた正極に関連する情報(正極活物質作製時のセッター内の混合物(混合物903又は混合物904)の厚さ)を付記している。
【0576】
【0577】
【0578】
【0579】
繰り返しとなるが、
図39(A)、
図39(B)、及び表4に示すように、正極活物質の作製において、セッターの内部で、混合物(903又は904)を3.5mm以上4.0mm以下の厚さとなるように収容した状態で加熱した正極活物質A、正極活物質B、及び正極活物質Cは、4.65Vの条件において、優れた充放電サイクル特性を示した。また、正極活物質の作製において、セッターの内部で、2.0mm以下の厚さとなるように収容した状態で加熱した正極活物質A、及び正極活物質Bは、4.70Vの条件において、優れた充放電サイクル特性を示した。
本実施例では、本発明の一態様である正極活物質、負極、電解液を有する試験用電池(フルセル)を作製して、低温充放電試験を実施した。サンプルの作製工程を説明し、試験結果を示す。
各温度環境下において、充電は4.50Vの電圧になるまで0.1Cの充電電流で定電流充電を行い、続けて4.50Vでの定電圧充電を、充電電流が0.01C以下になるまで行った。また、放電は、2.0V(カットオフ電圧)になるまで0.1Cの放電レートで定電流放電する条件とした。なお、0.1Cの電流は正極活物質の重量あたり20mA/gの電流ということができ、また、0.01C電流は正極活物質の重量あたり2mA/gの電流ということができる。
表8において、第1列は温度条件を示し、第2列はセルBF1の充電容量を示し、第3列はセルBF1の放電容量を示し、第4列は25℃における充電容量を100%とした場合の、各温度環境における充電容量を、充電容量25℃比(%)として示し、第5列は、25℃における放電容量を100%とした場合の、各温度環境における放電容量を、放電電容量25℃比(%)として示す。
低温環境での充放電測定の結果、本発明の一態様の電池であるセルBF1は、25℃環境下での充電及び放電において測定された放電容量値を100%としたとき、以下の良好な結果を得た。-40℃環境での充電及び放電において測定された放電容量値は、64.7%であり、60%を超える良好な結果であった。また、-30℃環境での充電及び放電において測定された放電容量値は、74.4%であり、70%を超える良好な結果であった。また、-20℃環境での充電及び放電において測定された放電容量値は、85.7%であり、85%を超える良好な結果であった。また、-10℃環境での充電及び放電において測定された放電容量値は、94.2%であり、90%を超える良好な結果であった。また、0℃環境下での充電及び放電において測定された放電容量値は、97.4%であり、97%を超える良好な結果であった。
以上の実施例にて示した通り、実施の形態1に記載の作製方法により得られた正極活物質と、実施の形態2に記載の負極及び電解液と、を備えることで、-40℃以上25℃以下の温度範囲で、非常に優れた充電動作及び放電動作が可能であることが明らかとなった。