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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025026444
(43)【公開日】2025-02-21
(54)【発明の名称】呼吸機能検査シミュレータ
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/087 20060101AFI20250214BHJP
【FI】
A61B5/087
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024134492
(22)【出願日】2024-08-09
(31)【優先権主張番号】P 2023130851
(32)【優先日】2023-08-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】507307374
【氏名又は名称】学校法人神戸学院
(71)【出願人】
【識別番号】597009275
【氏名又は名称】株式会社フクダ産業
(74)【代理人】
【識別番号】110001759
【氏名又は名称】弁理士法人よつ葉国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100168468
【弁理士】
【氏名又は名称】富崎 曜
(72)【発明者】
【氏名】和田 晋一
(72)【発明者】
【氏名】富井 博史
(72)【発明者】
【氏名】井桁 洋
(72)【発明者】
【氏名】重面 明徳
【テーマコード(参考)】
4C038
【Fターム(参考)】
4C038SS04
4C038SS06
(57)【要約】      (修正有)
【課題】精密検査の技術習得を低コストで可能とする装置等を提供する。
【解決手段】ガス供給機能及びガス濃度検出機能を有していないフローセンサ式のスパイロメータにおいて、被検者が安静換気を行っているときに、実際の呼気及び吸気に合わせてHe濃度の計算が繰り返されるシミュレーションが実行されることにより、ディスプレイにスパイログラムとともに表示されているHe濃度が徐々に低下して、最終的には安定した平衡状態となる。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス濃度に関する精密検査のシミュレーションを実行する呼吸機能検査シミュレータであって、
呼吸流量又は呼吸容量を測定する測定部と、
前記精密検査に対応したガイダンス情報を出力する出力部と、
前記測定部により測定されたデータに基づいて、前記精密検査に関するシミュレーションデータを生成する生成部と、
を備える呼吸機能検査シミュレータ。
【請求項2】
請求項1に記載の呼吸機能検査シミュレータであって、
前記ガイダンス情報は、前記精密検査に用いられるガスの情報と、前記精密検査において被検者に指示する呼吸の情報と、を含む、
呼吸機能検査シミュレータ。
【請求項3】
請求項1に記載の呼吸機能検査シミュレータであって、
前記生成部は、前記測定部により測定されたデータと、前記精密検査に対応した所定値とに基づいて、ガス濃度曲線を生成する、
呼吸機能検査シミュレータ。
【請求項4】
請求項3に記載の呼吸機能検査シミュレータであって、
前記生成部は、
前記測定部により測定されたデータと、前記精密検査に対応した予測式に基づいて算出される第1所定値とに基づいて、第1ガス濃度曲線を生成可能であり、
前記測定部により測定されたデータと、前記精密検査に対応した、前記第1所定値とは異なる第2所定値とに基づいて、前記第1ガス濃度曲線と良好度が異なる第2ガス濃度曲線を生成する、
呼吸機能検査シミュレータ。
【請求項5】
請求項1から請求項4の何れか1項に記載の呼吸機能検査シミュレータであって、
前記精密検査は、機能的残気量検査(FRC)であり、
前記ガイダンス情報は、Heの使用を通知する情報と、安静換気を行うことを指示する情報と、を含み、
前記生成部は、He濃度を示すガス濃度曲線を生成する、
呼吸機能検査シミュレータ。
【請求項6】
請求項1から請求項4の何れか1項に記載の呼吸機能検査シミュレータであって、
前記精密検査は、クロージングボリューム検査(CV)であり、
前記ガイダンス情報は、Oの使用を通知する情報と、最大呼気位までの呼気を行うことを指示する情報と、呼気流量を所定範囲に維持することを指示する情報と、を含み、
前記生成部は、N濃度を示すガス濃度曲線を生成する、
呼吸機能検査シミュレータ。
【請求項7】
請求項1から請求項4の何れか1項に記載の呼吸機能検査シミュレータであって、
前記精密検査は、肺機能拡散検査(DLCO)であり、
前前記ガイダンス情報は、CO、He、O2、を含む4種混合ガスの使用を通知する情報と、最大吸気位までの吸気を行うことを指示する情報と、最大吸気位において所定期間息を止めることを指示する情報と、一気の呼出を指示する情報と、を含み、
前記生成部は、CO濃度を示すガス濃度曲線を生成する、
呼吸機能検査シミュレータ。
【請求項8】
ガス濃度に関する精密検査のシミュレーションを実行する呼吸機能検査シミュレータによって実行されるプログラムであって、
呼吸流量又は呼吸容量を測定部により測定することと、
前記精密検査に対応したガイダンス情報を出力部により出力することと、
前記測定部により測定されたデータに基づいて、前記精密検査に関するシミュレーションデータを生成部によって生成することと、が実行されるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、呼吸機能の検査をシミュレーションする呼吸機能検査シミュレータに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、肺活量(VC)や努力性肺活量(FVC)等を測定可能なスパイロメータが存在する(例えば、特許文献1、特許文献2、非特許文献1を参照)。その中でも、検査用ガス(例えば、ヘリウム(He))を被検者に供給して、機能的残気量(FRC)等の精密検査を行うことが可能な精密検査装置が存在する(例えば、特許文献2、非特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013-153886号公報
【特許文献2】特開2017-086704号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】呼吸機能検査ハンドブック(日本呼吸器学会 肺生理専門委員会)メディカルレビュー社
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、スパイロメータによる検査は、所定の検査手順に従って適切なタイミング、適切な強度で被検者に呼気や吸気を行わせることにより、はじめて信頼できる検査結果が得られるものである。そのため、臨床において検査手順及び被検者が行う呼吸が適切であることは極めて重要であり、これらは臨床検査技師国家試験の出題範囲にも含まれている。検査者は、検査項目毎に、必要とされる検査手順と、その検査手順に応じて被検者にどのような呼吸を指示すべきかを習得しておかなければならない。このような実情から、検査者の技術習得は、座学のみならず、実際に使用するスパイロメータを被検者に用いて行うことが好ましいとされている。
【0006】
しかしながら、精密検査装置は、圧センサを用いた気流型スパイロメータ(例えば、特許文献1、非特許文献1を参照)と比較して高額であり、医療機関への導入数が比較的少ないことから、実機を用いた技術習得は困難である。さらにいえば、教育機関への精密検査装置の導入は極めて困難であり、学生が精密検査を経験する機会は極めて限られている。仮に、精密検査装置を使用できたとしても、精密検査の技術習得に検査用ガスを使用することで、コスト面での問題がある。
【0007】
本発明は上記の課題に鑑みなされたものであり、その目的は、精密検査の技術習得を低コストで可能とすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題は以下の手段によって解決される。なお、後述する発明を実施するための形態の説明及び図面で使用した符号等を参考のために括弧書きで付記するが、本発明の構成要素は該付記したものには限定されない。本発明の技術的範囲を逸脱しない範囲内において種々の変更・修正を加えることが可能である。
【0009】
第1手段は、ガス濃度に関する精密検査(FRC検査,CV検査,DLCO検査)のシミュレーションを実行する呼吸機能検査シミュレータ(1)であって、呼吸流量又は呼吸容量(スパイログラム及びスパイログラムに基づくスパイロメトリー等)を測定する測定部(フローセンサ10,CPU53)と、精密検査に対応したガイダンス情報(精密検査に使用されるガスの種類、被検者が行うべき呼吸方法)を出力する出力部(ディスプレイ56,スピーカ58)と、測定部により測定されたデータに基づいて、精密検査に関するシミュレーションデータを生成する生成部(CPU53)と、を備えることを特徴とする。
【0010】
第2手段は、第1手段において、ガイダンス情報は、精密検査に用いられるガスの情報(FRC検査の場合はHe,CV検査の場合はO,DLCO検査の場合は4種混合ガス)と、精密検査において被検者に指示する呼吸の情報(FRC検査の場合は安静換気、CV検査の場合は最大呼気位までの呼気及び呼気流量を所定範囲に維持すること、DLCO検査の場合は最大吸気位までの吸気及び最大吸気位での息こらえ並びに一気の呼出)と、を含むことを特徴とする。
【0011】
第3手段は、第1手段において、生成部は、測定部により測定されたデータ(実測データ)と、精密検査に対応した所定値(被検者のデータに基づいて基準値予測式により算出された基準値)とに基づいて、ガス濃度曲線を生成する、ことを特徴とする。
【0012】
第4手段は、第3手段において、生成部は、測定部により測定されたデータ(実測データ)と、精密検査に対応した予測式に基づいて算出される第1所定値(被検者のデータに基づいて基準値予測式により算出された基準値)とに基づいて、第1ガス濃度曲線を生成可能であり、測定部により測定されたデータ(実測データ)と、精密検査に対応した、第1所定値とは異なる第2所定値(例えば、基準値に所定係数をかけた設定値)とに基づいて、第1ガス濃度曲線と良好度が異なる第2ガス濃度曲線を生成する、ことを特徴とする。
【0013】
第5手段は、第1手段から第4手段の何れかの手段において、精密検査は、機能的残気量検査(FRC)であり、ガイダンス情報は、Heの使用を通知する情報と、安静換気を行うことを指示する情報と、を含み、生成部は、He濃度を示すガス濃度曲線を生成する、ことを特徴とする。
【0014】
第6手段は、第1手段から第4手段の何れかの手段において、精密検査は、クロージングボリューム検査(CV)であり、ガイダンス情報は、Oの使用を通知する情報と、最大呼気位までの呼気を行うことを指示する情報と、呼気流量を所定範囲に維持することを指示する情報と、を含み、生成部は、N濃度を示すガス濃度曲線を生成する、ことを特徴とする。
【0015】
第7手段は、第1手段から第4手段の何れかの手段において、精密検査は、肺機能拡散検査(DLCO)であり、ガイダンス情報は、CO、He、O2、を含む4種混合ガスの使用を通知する情報と、最大吸気位までの吸気を行うことを指示する情報と、最大吸気位において所定期間息を止めることを指示する情報と、一気の呼出を指示する情報と、を含み、生成部は、CO濃度を示すガス濃度曲線を生成する、ことを特徴とする。
【0016】
第8手段は、ガス濃度に関する精密検査(FRC検査,CV検査,DLCO検査)のシミュレーションを実行する呼吸機能検査シミュレータ(1)によって実行されるプログラムであって、呼吸流量又は呼吸容量(スパイログラム及びスパイログラムに基づくスパイロメトリー等)を測定部(フローセンサ10,CPU53)により測定することと、精密検査に対応したガイダンス情報(精密検査に使用されるガスの種類、被検者が行うべき呼吸方法)を出力部(ディスプレイ56,スピーカ58)により出力することと、測定部により測定されたデータに基づいて、精密検査に関するシミュレーションデータを生成部(CPU53)によって生成することと、が実行されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、精密検査の技術習得が低コストで可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本実施形態に係る呼吸機能検査シミュレータの一例を示す図である。
図2】スパイロメトリーと精密検査項目との比較例を示す図である。
図3】FRC検査におけるHe濃度曲線の一例を示す図である。
図4】FRC検査のシミュレーション手順の一例を示すフローチャートである。
図5】He濃度の計算例を示す図である。
図6】FRC検査のシミュレーション結果の一例を示す図である。
図7】CV検査におけるN濃度曲線の一例を示す図である。
図8】CV検査のシミュレーション手順の一例を示すフローチャートである。
図9】ダミーデータの波形の一例を示す図である。
図10】DLCO検査におけるボリューム曲線の一例を示す図である。
図11】DLCO検査のシミュレーション手順の一例を示すフローチャートである。
図12】DLCO検査におけるCO濃度曲線の一例を示す図である。
図13】精密検査に関するアンケート結果の一例を示す図である。
図14】N濃度曲線の生成方法の一例を示す図である。
図15】N濃度曲線の生成方法の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付図面を参照して実施形態を詳細に説明する。
【0020】
[呼吸機能検査シミュレータの測定機能]
図1は、本実施形態に係る呼吸機能検査シミュレータ1を示す説明図である。本実施形態では、フローセンサ式のスパイロメータを呼吸機能検査シミュレータ1としている。そのため、検査用ガスを被検者に供給する機能(及びガス濃度を測定するためのセンサ)は有していないが、少なくともスパイログラム(時間-気流曲線)を測定可能であり、VCやFVC、1秒量(FEV)、1秒率(FEV/FVC)が得られる。
【0021】
呼吸機能検査シミュレータ1は、呼吸機能検査用フローセンサ(以下、「フローセンサ」という。)10を備えている。フローセンサ10は、被検者の口に装着されて被検者の吸気流量及び呼気流量を測定するための流量検出部である。フローセンサ10によって検出される情報(信号)は、流量と1対1の関係(線形関係)を有する圧力差信号(抵抗体14の前後における差圧信号)である。この差圧信号は本体50に取り込まれ、この差圧信号に基づいて対応する流量信号に変換されることになる。
【0022】
フローセンサ10は、呼気及び吸気について圧力降下を発生させる抵抗体14と、抵抗体14の被検者側の圧力(静圧)を検出する第1圧力検出ポート5aと、抵抗体14の被検者と反対側の圧力(静圧)を検出する第2圧力検出ポート5bと、を具備して構成される。抵抗体14は、呼気及び吸気が抵抗体14を通過する際に、抵抗体14の前後に圧力差(差圧)を発生させるものである。
【0023】
本体50は、第1圧力検出ポート5aで検知された圧力を差圧センサ51に伝搬する第1圧力伝搬チューブ51aと、第2圧力検出ポート5bで検知された圧力を差圧センサ51に伝搬する第2圧力伝搬チューブ51bと、抵抗体14の前後における差圧を対応する電気信号に変換する差圧センサ51と、差圧センサ51が出力する電気信号(アナログ信号)を所定のディジタル信号に変換するA/D変換器52と、測定プログラムを実行し、変換されたディジタル信号を基に呼気及び吸気の流量等を算出するCPU53と、A/D変換器52が出力する差圧センサ51の出力信号に係るディジタル信号を一時的に保存するRAM54と、流量と差圧センサ51の出力電圧との較正式(関係式)を含む測定プログラムや測定データ等を保存するROM55と、操作用のアイコンや、測定データ等を表示するディスプレイ56と、CPU53からのディジタル信号に対応するアナログ電圧を生成するD/A変換器57と、操作ガイダンス等を音声により出力するスピーカ58とを備える。
【0024】
ROM55に保存された流量及び容量等の測定データは、ディスプレイ56のコントローラ56aに送信される。コントローラ56aは、CPU53からの制御信号に基づいてLCDドライバー56bを駆動してディスプレイ56にスパイログラム等の測定データ等を表示させる。ディスプレイ56は、複数のタッチセンサ(図示せず)を備え、検査者の操作によって、測定プログラムの開始及び終了、測定用パラメータの入力(選択を含む)等が行われる。
【0025】
[呼吸機能検査シミュレータのシミュレーション機能]
本実施形態の呼吸機能検査シミュレータ1は、上述したようにスパイログラムを測定可能であるとともに、通常は精密検査装置(特許文献2,非特許文献1)により行われる検査のシミュレーションが可能となっている。精密検査のシミュレーションプログラムは、ROM55に記憶されており、検査者の操作に基づいてCPU53によって実行される。
【0026】
図2は、スパイログラムから取得可能な検査項目であるスパイロメトリーと、被検者にガスを供給して行われる精密検査の検査項目との違いを説明する図である。スパイロメトリーは、例えばフローセンサ式のスパイロメータ(特許文献1を参照)により測定可能であり、閉塞性呼吸障害及び拘束性呼吸障害のスクリーニング等を目的としている。スパイロメトリーには、VC、FVC、1秒量、1秒率の他、フローボリューム曲線も含まれる。被検者が吸入する気体は室内空気であるため、装置は小型化、軽量化することができ、各検査項目はフローセンサにより検出される気流に基づいて測定される。
【0027】
一方、精密検査項目は、例えば特許文献2、非特許文献1に示されるように、被検者の呼吸に応じてシリンダ内のベルが移動することにより、シリンダ内に供給された検査用ガスを被検者に吸入させることが可能な気量型スパイロメータ(ローリングシール型スパイロメータとも称される)により測定可能であり、肺気量分画、換気不均等分布、及びガス交換障害の評価等を目的としている。なお、気量型スパイロメータによってもスパイロメトリーを測定可能である。精密検査項目には、機能的残気量(FRC)、クロージングボリューム(CV)、肺拡散機能(DLCO)等が含まれる。FRCは、He混合ガスを被検者に吸入させて行われ、He濃度はHeセンサにより測定される。CVは、100%Oを被検者に吸入させて行われ、残気量に対応したN濃度はNセンサにより測定される。DLCOは、4種混合ガス(He,CO,O,N)を被検者に吸入させて行われ、He濃度はHeセンサにより測定され、CO濃度はCOセンサより測定される。
【0028】
図2に示されるように、精密検査項目は、フローセンサ式のスパイロメータでは測定することができない項目である。そのため、本来であれば、気量型スパイロメータを使用して技術習得を行わなければならないが、本実施形態では、以下に示すように、フローセンサ式のスパイロメータに、精密検査のシミュレーション機能を持たせることで、気量型スパイロメータを使用することなく精密検査の技術習得を可能としている。
【0029】
本実施形態では、精密検査のシミュレーションに関して、単に予め設定した擬似データを表示するのではなく、被検者から取得された実際のスパイログラムに基づいてシミュレーションデータを生成することにより、臨床現場における被検者を対象とした実際のデータの振る舞いに近いシミュレーションデータを提示することが可能である。これにより、検査技術の習得を効率的に行うことができるようにしている。
【0030】
以下の式は、本実施形態におけるガス濃度の計算方法の一例を示す式である。
Y=aX+b …(式1)
【0031】
Yは測定値であり、Xはガス濃度、aは係数、bは切片である。このように、測定値とガス濃度との関係式が定められている場合、測定値として、被検者の実データ(年齢、性別、身長等)に基づく基準値予測式によって得られる予測値(基準値といってもよい)を使用することで、ガス濃度を逆算し、逆算したガス濃度と、実際に測定されたスパイログラムとに基づいて、ガス濃度の変化曲線を生成して表示することが可能となる。なお、(式1)の例では、測定値とガス濃度の関係が一次関数として規定されているが、これに限らず、二次関数や対数関数等の他の関数で規定してもよい。
【0032】
(FRC検査のシミュレーション)
FRC検査の原理は、既知濃度の指示ガスを含んだ既知容積の回路と肺を連絡して反復呼吸させ、両者の空間内のガスを十分に混合させれば指示ガスの濃度変化からFRCを算出できるというものである。指示ガスとしては肺で吸収されないヘリウム(He)が用いられることが多い。被検者が安静呼気位でHe濃度が平衡に達するまで再呼吸を行うことに対応して、図3に示すように、He濃度曲線は、ピークから安静換気が行われる毎に徐々に低下してゆき、平衡濃度に収束する。FRC検査のシミュレーションでは、このHe濃度曲線を再現する。
【0033】
図4は、FRC検査のシミュレーションに対応したフローチャートである。検査者が、ディスプレイ56に表示された、FRCの検査シミュレーションを実行させるオブジェクトを選択することにより、CPU53がシミュレーションプログラムを実行し、FRC検査シミュレーションが実行される。ディスプレイ56には、FRCの検査用ガスであるO・He混合ガスを用意するように促すメッセージが表示される(S110)。また、検査ガスをシリンダに充填してFRCの測定準備を行うための『準備開始』ボタンが表示される(S120)。検査者は、これらの情報により、FRCの測定に使用される検査ガスの種類を把握することができる。
【0034】
検査者が、『準備開始』ボタンを操作することにより、『呼吸回路換気中』及び『ガス注入中』のメッセージがディスプレイ56に表示される(S130)。前述したように、呼吸機能検査シミュレータ1は、フローセンサ式のスパイロメータであるため、ガス供給機能を有しておらず、これらの表示は擬似的なものであるが、検査者は測定開始に先立って、シリンダに検査ガスが充填される過程を把握することができる。なお、スピーカ58から、シリンダに検査用ガスが充填される擬似音を出力することにより、より実際の検査環境に近づけてもよい。
【0035】
検査者が、『呼吸回路換気中』及び『ガス注入中』のメッセージの表示終了後(ガス注入の完了後)に、ディスプレイ56に表示された『測定開始』ボタンを操作することにより(S140)、呼吸機能検査シミュレータ1が備えるフローセンサ10によって被検者の実際のスパイログラムが測定されて、ディスプレイ56に表示される(S150)。さらに、ディスプレイ56には、『安静換気をしてください。』のメッセージが表示される(S160)。これにより、検査者は、FRCの検査において安静換気によって被検者に検査ガスを吸入させる過程を把握することができる。
【0036】
次いで、CPU53は、前述したように、被検者の実データ(年齢、性別、身長、体重等)に基づく基準値予測式によってFRC予測値(FRC基準値といってもよい)を算出する。この基準値予測式は、非特許文献1に開示されている式を用いることができる。なお、基準値予測式(FRC、並びに、後述するCV、DLCOの基準値予測式)として、非特許文献1に開示されているものに限らず、他の予測式を用いてもよい。また、基準値予測式で必要となる被検者の実データとして、年齢、性別、身長、体重のみならず、体表面積(BSA)等の他のデータを含めてもよい。
【0037】
以下の式は、He濃度、回路の容量、及びFRCの関係式を示している。
C1(測定開始前の回路内のHe濃度)×(回路の容量)
=C2(平衡後のHe濃度)×(回路の容量+FRC) …(式2)
【0038】
本実施形態では、測定開始前の回路内のHe濃度は11%として、算出したFRC予測値を(式2)のFRCとして、He濃度を計算している。図5(a)の例では、測定開始前(He吸入前)における回路の容量をFRC死腔量として示しており、FRC死腔量は10.50Lである。また、測定開始前の回路内のHe量は11%×10.50L=1.155Lである。一方、予測式に基づいて計算された被検者のFRCは3.38Lであり、被検者は測定開始前の段階でHeを吸入していないため、肺内のHe濃度は0%であり、肺内のHe量は0.0Lである。このとき回路内のHe量と肺内のHe量の合計は1.155Lである。
【0039】
図5(b)に示すように、被検者が吸気をすると、FRC死腔量からTV(この場合は1回換気量のうちの吸気量相当であるTVI)相当が減算され、FRCにはTV(この場合はTVI)相当が加算される。この例では、0.50Lが吸入されたことにより、肺内には0.50L×0.11%=0.055Lが取り込まれ、He濃度は0%から1.42%に変化し、回路内のHe量は10.00L×11%=1.10Lとなっている。
【0040】
次いで、図5(c)に示すように、被検者が呼気をすると、FRC+TVからTV(この場合は1回換気量のうちの呼気量相当であるTVE)相当が減算され、減算後のFRC死腔量にはTV(この場合はTVE)相当が加算される。この例では、0.50Lが呼出されたことにより、He量として0.50L×1.42%=0.0071Lが回路内に戻され、回路内のHe量は1.1071Lとなり、回路内のHe量は10.54%となる。
【0041】
図6に示すように、被検者の実際の呼気及び吸気に合わせて図5(b)及び図5(c)のガス濃度計算が繰り返されることにより、ディスプレイ56に表示されているHe濃度が徐々に低下して、最終的には安定した(He濃度の低下速度が所定の範囲内となった)平衡状態となる。本例では、図5(d)に示すように、回路内、肺内のHe濃度が8.33%となったときに、He濃度が安定しており、このとき回路内のHe量と肺内のHe量の合計は1.155Lのままである。このように、検査者は、FRC検査のシミュレーションにおいて、被検者の安静換気の繰り返しによってHe濃度がどのように推移するのかを把握することができる(図6を参照)。
【0042】
図4に戻り、CPU53は、被検者の安静換気に応じて再計算されているHe濃度が安定している場合(S190でYES)、ディスプレイ56に『He濃度が安定』と表示することにより、FRC検査が終了することを報知する(S191)。そして、検査結果(例えば、計算したFRC予測値及びFRC検査で取得可能な他の検査結果)をディスプレイ56に表示して(S200)、FRC検査のシミュレーションを終了する。
【0043】
一方、CPU53は、後述するように、基準値予測式による予測値(基準値)と異なるFRC値の設定(良好ではない設定)が行われたことにより、所定期間待機してもHe濃度が安定しない場合(S190でNO)、FRC検査を終了させるための『測定終了』ボタンをディスプレイ56に表示する(S192)。検査者が『測定終了』ボタンを操作したことに基づいて、検査結果(設定されたFRC値であってもよく、FRCを適切に測定できなかったという結果であってもよい)をディスプレイ56に表示して(S200)、FRC検査のシミュレーションを終了する。
【0044】
なお、FRC検査のシミュレーションにおいてHe濃度が安定しないまま測定が終了する場合のように、精密検査項目を適切に測定できなかった場合には、その項目を適切に測定できなかったことをディスプレイ56やスピーカ58によってガイダンスし、さらに、そのことを電子カルテ等にコメントとして記入するように(そのまま記録無しとはしないように)ガイダンスしてもよい。これにより、検査者は、イレギュラーな結果で測定が終了した場合の対処を理解することができる。
【0045】
図6の例では、He濃度がスムーズに低下して平衡状態となっており、スパイログラムにより示されるTVも一定の振幅で安定している。本実施形態では、FRCとして予測値を用いることにより、安静換気の繰り返しにより、He濃度がスムーズに低下して安定化する状態を再現することができる。
【0046】
一方で、閉塞が強い場合には、He濃度がある程度までは低下してゆくが、そこから安定化するまでの時間が長くかかる場合がある。本実施形態では、前述したように、FRC予測値を用いているが、FRC予測値とは異なるFRC値(例えば、FRC予測値に係数として1.2を乗じたFRC設定値)を設定することにより、閉塞が強い場合のHe濃度を再現することができる。このように、検査者に対して、FRC検査における良好例と、良好ではない例の両方を経験させることができる。
【0047】
(CV検査のシミュレーション)
CV検査は、指標となるガスを肺から洗い出すことにより吸気の不均等分布を検出する呼吸機能検査であり、通常用いられる指標ガスは窒素(N)である。図7は、CV検査におけるN濃度曲線の詳細を示す説明図である。CV検査におけるN濃度曲線は単一呼出曲線であり、第1相から第4相に分かれている。第1相は100%Oのみの死腔気、第2相は死腔気と肺胞気の混合気、第3相は肺胞気、第4相はCVを表す。第3相は平坦な曲線を呈し、肺胞プラトーと呼ばれる。この相には、心拍動に一致した拍動波が認められる。色々な箇所からの肺胞気が一定の割合で呼気に寄与する場合、肺胞プラトーが形成される。第4相では、最大呼気位レベルにかけてN濃度が急激に上昇する。第4相での肺気量(呼気量)がCVである。
【0048】
図8は、CV検査のシミュレーションに対応したフローチャートである。検査者が、ディスプレイ56に表示された、CVの検査シミュレーションを実行させるオブジェクトを選択することにより、CPU53がシミュレーションプログラムを実行し、CV検査シミュレーションが実行される。ディスプレイ56には、吸入用ガスであるOを用意するように促すメッセージが表示される(S210)。また、吸入用のガスをシリンダに充填してCVの測定準備を行うための『準備開始』ボタンが表示される(S220)。検査者は、これらの情報により、CVの測定に使用されるガスの種類を把握することができる。
【0049】
検査者が、『準備開始』ボタンを操作することにより、『呼吸回路換気中』及び『ガス注入中』のメッセージがディスプレイ56に表示される(S230)。検査者が、『呼吸回路換気中』及び『ガス注入中』のメッセージの表示終了後(ガス注入の完了後)に、ディスプレイ56に表示された『測定開始』ボタンを操作することにより(S240)、呼吸機能検査シミュレータ1が備えるフローセンサ10によって被検者の実際のスパイログラムが測定されて、ディスプレイ56に表示される(S250)。さらに、ディスプレイ56には、『安静換気をしてください。』のメッセージが表示される(S260)。
【0050】
次いで、CPU53は、前述したように、被検者の実データ(年齢、性別等)に基づく基準値予測式によってCV予測値(CV基準値といってもよい)を算出する。この基準値予測式は、非特許文献1に開示されている式を用いることができる。次いで、CPU53は、図9に示される、予め用意しておいたN濃度曲線のダミーデータを、VC実測値(例えば、CV検査シミュレーションに先だって実行されたVC検査の値)、または、被検者のデータに基づいて基準値予測式により算出されたVC予測値に対応させて、呼気量方向に伸縮させる計算を行う。
【0051】
ここで、第4相部分に関しては、CV予測値に応じて呼気量方向に伸縮させる計算を行い、その伸縮分は第3相部分の伸縮によって吸収する。なお、ダミーデータで想定されていた呼気量と、実測されたVCまたはVC予測値が合致している場合には、ダミーデータの伸縮は必要ない。また、ダミーデータで想定されていたCVと、CV予測値が合致している場合には、第4相部分の伸縮は必要ない。
【0052】
なお、被検者のデータ(年齢、性別、身長等)別に、それぞれ標準的なダミーデータを用意しておき(ROM55に記憶しておき)、実際の被検者のデータ(年齢、性別、身長等)に応じたダミーデータを選択して、それを伸縮させるようにしてもよい。このようにして、必要に応じて伸縮されたダミーデータを、N濃度曲線として仮設定しておく(S270)。また、VCに応じた複数のダミーデータ(例えば、VC=2.5L,3.5L,4.5L,5.5Lの4つ)を用意しておき、実際の被検者のVCに近いダミーデータを選択して、それを伸縮させるようにしてもよい。
【0053】
なお、複数のベース波形(例えば、CV1,CV2,CV3,CV4,CV5の5つ)から1つが選択され、実測される呼気量に応じて、選択されたベース波形を呼気量方向に伸縮させるようにしてもよい。例えば、測定毎に、複数のベース波形から所定の順番(例えば、CV1→CV2→CV3→CV4→CV5の順番)に従って1つが選択されるようにしてもよく、乱数に基づいて1つが選択されるようにしてもよい。
【0054】
そして、『ゆっくりと吐けなくなるまで吐いてください』という、最大呼気位までの呼気を促すメッセージをディスプレイ56に表示させる(S280)。次いで、『ゆっくりと吸えなくなるまで胸いっぱいに吸ってください』という、最大吸気位までの吸気を促すメッセージをディスプレイ56に表示させる(S290)。このメッセージは被検者に酸素の吸入を促すメッセージである。
【0055】
次いで、CPU53は、『ゆっくりと吐けなくなるまで吐いてください。』という、最大呼気位までの呼気を促すメッセージをディスプレイ56に表示させる(S300)。そして、フローセンサにより実測されたフローをディスプレイ56に表示させるとともに、『呼気速度を0.3~0.5L/sの範囲に維持してください。』という、呼気速度を所定範囲に維持するように指示するメッセージをディスプレイ56に表示させる(S310)。
【0056】
また、CPU53は、CV検査シミュレーションにおいて実測されているスパイログラムに基づく呼気量の増加に応じてN濃度曲線を生成する(S320)。N濃度曲線の生成は、仮設定されている非表示のN濃度曲線を、測定中の呼気量に合わせてトレースする(呼気量に対応した箇所のN濃度を表示させる)ことにより行われる。これにより、N濃度がリアルタイムで変化しているように見える。なお、例えば、第3相に関しては、測定中の呼気流(フローセンサにより計測されているフロー)が所定値未満(例えば、0.2L/s未満)となったタイミングで第3相を終了させ(仮設定されているダミーデータの第3相部分を伸縮させ)、第4相を開始させる(仮設定されているダミーデータの第4相部分を伸縮させて、そのトレースを開始する)ようにしてもよい。
【0057】
そして、CPU53は、最大呼気位までの呼出が終了した後の吸気を検出したことに基づいて(S330)、N濃度曲線の生成を終了して、検査結果(例えば、計算したCV予測値及びCV検査で取得可能な他の検査結果)をディスプレイ56に表示して(S340)、CV検査のシミュレーションを終了する。
【0058】
本実施形態では、前述したように、N濃度曲線の仮設定にCV予測値を用いているが、CV予測値とは異なるCV値(例えば、CV予測値に係数として1.2を乗じたCV設定値)を設定することにより、第4相のCVを増大させることができ、閉塞が強い場合のN濃度を再現することができる。このように、検査者に対して、CV検査における良好例と、良好ではない例の両方を経験させることができる。
【0059】
(DLCO検査のシミュレーション)
図10は、DLCO検査におけるボリューム曲線の詳細を示す説明図である。DLCO検査では、被検者にCO、He、O2、を含む4種混合ガス(例えば、0.3%、10%、21%、68.7%の割合)を最大呼気位(RVレベル)から一気に吸入させ、10秒間の息こらえののち、死腔の影響の多いはじめの750mLを捨てて0.5~1Lの肺胞気を採取して解析する。吸入気のCO濃度(FICO)に対する呼出肺胞気のCO濃度(FACO)、吸入気のHe濃度(FIHe)に対する呼出肺胞気のHe濃度(FAHe)を測定して、両者を対比する。
【0060】
本実施形態では、以下に示す方法によってHe濃度曲線、CO濃度曲線をそれぞれ生成する。概要を(1)~(9)に示す。
(1)DLCOは、予測値(基準値)とする。(2)VI(DLCO測定中の吸気肺活量)は、測定中に取得した実測データを用いる。DLCO検査におけるVIは、4種混合ガスを最大呼気位(RVレベル)から一気に吸入したときの吸入気量であるといえる。(3)VA(標準状態(STPD)の肺胞気量)は、VIとRV(残気量)から求める。(4)RV(残気量)は、予測値(基準値)とする。(5)FIHe(吸入気のHe濃度)は当初のHe濃度設定値とする。(6)FICO(吸入気のCO濃度)は当初のCO濃度設定値とする。(7)FAHe(呼出肺胞気のHe濃度)は、VAからVA’計算式により逆算して求める。(8)FACO(呼出肺胞気のCO濃度)は、DLCO計算式より逆算して求める。そして、(9)逆算して求めたFAHe、FACOに収束するようガス分布濃度を以下の(式3-1)及び(式3-2)に基づいて変化させ表示する。
濃度曲線は、FIとFAとの差分濃度に(1-EXP(-経過時刻÷時定数))を乗じて、FIから減算することにより得られる。すなわち、
現在Heガス濃度=FIHe-(FIHe-FAHe)×(1-EXP(-経過時刻÷He時定数))…(式3-1)
現在COガス濃度=FICO-(FICO-FACO)×(1-EXP(-経過時刻÷CO時定数))…(式3-2)
と表される。
【0061】
以下に、DLCO計算式を示す。
DLCO=[VA×1000×60/((PB-47)×BHT)]×ln(FACO(0)/FACO) …(式4)
ここで、BHTは呼吸停止時間であり、固定値(10.0秒)である。なお、BHTは、10.0秒に限らず他の時間であってもよい。また、PBは大気圧(固定値(760Torr)または手動設定値)である。また、減算する47は、37℃での飽和水蒸気分圧である。FACO(0)は、CO吸入直後の肺胞気CO濃度である。
ここで、
FACO(0)=(FAHe/FIHe)×FICO …(式4-1)
VA(BTPS)=(VI+RV) …(式4-2)
VA’(BTPS)=(VI×(FIHe/FAHe)-VD) …(式4-3)
が成立している。
【0062】
DLCO計算式(式4)より既知のパラメータを使い、FAHe濃度、FACO濃度を逆算する。測定中に得たVIと、RV(残気量)予測値から、以下のようにVA(標準状態(STPD)の肺胞気量)を求める。
VA=(VI+RV) …(式4-4)
さらに、VA=VA’としてVA’式からFAHeを逆算する。
FAHe=FIHe×(VA’/VI) …(式4-5)
求めたFAHeを使いFACO(0)を求める。
FACO(0)=(FAHe/FIHe)×FICO …(式4-6)
【0063】
DLCO予測値とBHTを使いFACOを逆算する。
D1=(VA×1000×60)/((PB-47)×BHT) …(式4-7)
D2=exp(DLCO/D1) …(式4-8)
FACO=FACO(0)/D2 …(式4-9)
【0064】
図11は、DLCO検査のシミュレーションに対応したフローチャートである。例えば、検査者が、ディスプレイ56に表示された、DLCOの検査シミュレーションを実行させるオブジェクトを選択することにより、CPU53がシミュレーションプログラムを実行し、DLCO検査シミュレーションが実行される。ディスプレイ56には、4種混合ガスを用意するように促すメッセージが表示される(S410)。また、吸入用のガスをシリンダに充填してCVの測定準備を行うための『準備開始』ボタンが表示される(S420)。検査者は、これらの情報により、DLCOの測定に使用されるガスの種類を把握することができる。
【0065】
検査者が、『準備開始』ボタンを操作することにより、『呼吸回路換気中』及び『ガス注入中』のメッセージがディスプレイ56に表示される(S430)。検査者が、『呼吸回路換気中』及び『ガス注入中』のメッセージの表示終了後(ガス注入の完了後)に、ディスプレイ56に表示された『測定開始』ボタンを操作することにより(S440)、呼吸機能検査シミュレータ1が備えるフローセンサ10によって被検者の実際のスパイログラムが測定されて、ディスプレイ56に表示される(S450)。さらに、ディスプレイ56には、『安静換気をしてください。』のメッセージが表示される(S460)。
【0066】
次いで、CPU53は、『ゆっくり吐けなくなるまで吐いてください』という、最大呼気位までの呼気を促すメッセージをディスプレイ56に表示させる(S490)。次いで、『一気に吸ってください』という、最大吸気位までの吸気を促すメッセージをディスプレイ56に表示させる(S500)。このメッセージは被検者に4種混合ガスの吸入を促すメッセージである。次いで、CPU53は、『それ以上吸えなくなったら10秒間息を止めてください。』という、設定された息こらえ時間、息をとめるように指示するメッセージをディスプレイ56に表示させる(S510)。
【0067】
次いで、CPU53は、前述したように、被検者のデータに対応したDLCOの予測値を予測式に基づいて計算する。なお、予測値は基準値といってもよい。予測式に関しては、例えば、日本呼吸器学会により定められている計算式を用いる。そして、計算したDLCO予測値とVI実測値に基づいて、前述した式によりHe濃度曲線、CO濃度曲線を計算して生成する(S520)。ここで、図12に示すように、フローセンサにより測定される吸気フローが変化しない息こらえ時間に対応するHe濃度曲線、CO濃度曲線として、FIHe(ボンベガス濃度設定値)、FICO(ボンベガス濃度設定値)の値を使用し、息こらえ後の呼出期間に対応するHe濃度曲線、CO濃度曲線として、上記のようにして算出されたFAHe、FACOを使用する。なお、図12の例では、He濃度とCO濃度の相対的な変化を把握できるように、それぞれの濃度を正規化している。被検者が息をとめている期間は、He濃度としてFIHeを表示し、CO濃度としてFICOを表示する。
【0068】
次いで、CPU53は、『一気に吐いてください。』という、一気の呼出を指示するメッセージをディスプレイ56に表示させる(S530)。これに伴い、He濃度としてFAHe、CO濃度としてFACOを表示する。そして、CPU53は、呼気フローが所定値未満まで低下したことに基づいて(S540)、検査結果(例えば、計算したDLCO予測値及びDLCO検査で取得可能な他の検査結果)をディスプレイ56に表示して(S550)、DLCO検査のシミュレーションを終了する。
【0069】
なお、上記の実施形態では、息こらえ時間において、He濃度曲線としてFIHe、CO濃度曲線としてFICOを表示させたうえで、呼出後において、He濃度曲線としてFAHe、CO濃度曲線としてFACOを表示させるようにしている(あたかもフローに対応してリアルタイムで曲線が描写されているように見せている)が、このような形態に限らず、息こらえ時間中はHe濃度曲線、CO濃度曲線を表示させず、呼出後に所定時間を経てから(例えば1~数秒後に)、FIHe及びFAHeを含むHe濃度曲線と、FICO及びFACOを含むCO濃度曲線を表示させてもよい。これは、DLCOを実測する場合に、呼出によるサンプルガスが分析回路(He濃度センサ、CO濃度センサ)に送られ、はじめの750mLを捨てて解析が完了してからガス濃度曲線が表示されることに対応させたものである。
【0070】
本実施形態では、前述したように、CO濃度曲線の生成にDLCO予測値を用いているが、DLCO予測値とは異なるDLCO値(例えば、DLCO予測値に係数として0.8を乗じたDLCO設定値)を設定することにより、ガス交換機能が低下している場合のCO濃度を再現することができる。このように、検査者に対して、DLCO検査における良好例と、良好ではない例の両方を経験させることができる。
【0071】
以上に示したように、本実施形態によれば、被検者への検査ガス供給機能及びガス濃度検出機能が必要となる精密検査の検査技術を習得させるために、実際に検査ガスを使用する必要がなく、低コストで検査技術を習得させることが可能となる。
【0072】
また、本実施形態のシミュレーション機能は、精密検査の検査項目(例えば、FRC,CV,DLCO)の検査手順をガイダンスする機能を有することにより、各検査項目についてどのような手順で検査を行わなければならないかを習得させることができる。また、検査に使用されるガスの種類や、検査手順に即して被検者が行うべき呼吸方法をガイダンスすることにより、各検査項目について、どのようなガスを用意しておくべきか、どのような呼吸を被検者にさせなければならないかを習得させることができる。
【0073】
また、本実施形態のシミュレーション機能は、精密検査においてガス濃度曲線のシミュレーションを、実際に測定されている呼吸流量または呼吸容量(スパイログラム)に基づいて行っていることから、実際の検査環境に近いデータを検査者に提示することが可能であり、単に定められている疑似データを提示する場合と比較してリアリティを持たせて学習効果を高めることができる。例えば、トレーニング用だからといって被検者に不適切な呼吸を行わせてしまうと、適切なガス濃度曲線が得られないことから、検査者は被検者に正確な呼吸を行わせることの重要性を認識できる。
【0074】
さらに、本実施形態では、良好な検査結果のシミュレーションと、良好ではない検査結果のシミュレーションを実行することが可能であるため、臨床現場における多様な検査結果に慣れさせることができる。
【0075】
図13は、FRC、CV、DLCOのそれぞれの検査シミュレーション(トレーニング)を経て、検査者の意識がどのように変化したのかを示している。いずれの精密検査項目についても、検査シミュレーションが実行される前には、その精密検査が簡単ではないという意識を持つ検査者が多かったが、検査シミュレーションが実行された後は、検査手順と被検者に指示すべき呼吸方法を経験したこと、また、実測データに基づくガス濃度曲線を提示したことにより、その精密検査が予想よりも簡単であったという意識を持つ検査者が増加している。このように、精密検査が難しいという意識が解消されることで、臨床の現場で混乱することなく精密検査装置を使用して正確に精密検査を実行することができる。
【0076】
なお、一例として新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行下における医療体制のひっ迫状況に見られたように、仮に高度な医療装置が相当数導入されたとしても、適切にそれを運用できる検査者が不足してしまうと、ひっ迫状況が一向に改善されない事態となる。このような観点からも、精密検査装置が導入されていない段階であっても、精密検査の技術習得についてはある程度進めておくことが望ましい。本実施形態の呼吸機能検査シミュレータは、このような問題の解決にも寄与するものである。
【0077】
(他の形態)
上記の実施形態では、呼吸機能検査シミュレータが、フローセンサ式のスパイロメータである例について説明したが、これに限らず、呼吸機能検査シミュレータは、検査ガス供給機能及びガス濃度検出機能を有する精密検査装置(気量型スパイロメータ(ローリングシール型スパイロメータ))であってよい。例えば、精密検査装置を、(1)検査ガス供給機能によって実際に被検者にガスを供給してガス濃度検出機能によってガス濃度を検出する実測モードと、(2)被検者にガスを供給することなくガス濃度も検出しないシミュレーションモードの何れかに制御可能であり、(2)シミュレーションモードにおいて、上記実施形態のシミュレーションプログラムが実行されてもよい。このような形態であっても、実際の検査ガスは使用しないことから、精密検査の技術習得が低コストで可能となる。
【0078】
上記の実施形態では、呼吸機能検査シミュレータが、He濃度、N濃度、CO濃度をシミュレーションする例について説明したが、これに限らず、呼吸機能検査シミュレータは、呼気中のNO(一酸化窒素)をシミュレーションするものであってもよい。例えば、VCやFVC、1秒量や1秒率等のスパイロメトリー項目の値が低いほど、呼気中のNO濃度が高くなるという関係式に基づいて、呼気中のNO濃度曲線をシミュレーションしてもよい。
【0079】
上記の実施形態では、呼吸機能検査シミュレータにより実測可能なパラメータが、フローセンサによって取得可能な呼吸流量又は呼吸容量であり、シミュレーションの対象となるパラメータが、ガス濃度である例について説明したが、このような形態に限らず、呼吸機能検査シミュレータにより実測可能なパラメータは、呼吸流量や呼吸容量とは異なるパラメータであってもよく、シミュレーションの対象となるパラメータは、ガス濃度とは異なるパラメータであってもよい。例えば、睡眠中の被検者の胸腹部をビデオカメラによって撮像して、撮像した胸腹部の実画像に基づく特徴量と、睡眠時無呼吸検査(PSG)における、呼吸数や動脈血酸素飽和度(SpO)等との関係式に基づいて、呼吸数や動脈血酸素飽和度(SpO)をシミュレーションしてもよい。これにより、被検者側にPSG装置の実機を設置することなく、遠隔でPSG検査を行うシミュレーションが可能となる。
【0080】
上記の実施形態では、ガス希釈法による機能的残気量におけるHe濃度をシミュレーションする例について説明したが、このような形態に限らず、ボディプレチスモ(ボディボックスとも称される)を用いた機能的残気量検査(体プレチスモグラフ法)における口腔内圧をシミュレーションしてもよい。また、ボディプレチスモを用いた気道抵抗をシミュレーションしてもよい。これにより、高額で大型のボディプレチスモを実際に導入することなく、ボディプレチスモを使用する検査項目についての検査技術を習得することが可能となる。
【0081】
上記の実施形態では、N濃度曲線の生成は、仮設定されている非表示のN濃度曲線を、測定中の呼気量に合わせてトレースする方法を示したが、図14及び図15に示すように、TLC(全肺気量)の予測値と、TLCの計算式から算出した平均呼気N濃度に基づいて、上記仮設定されるN濃度曲線を構成してもよい。
【0082】
以下に、TLC計算式を示す。
TLC=[(VI×FAN)-(Vd×FA’N)]÷(FAN-FEN)…(式5)
ここで、
VI:吸気量
Vd:死腔量(解剖学的死腔量+機械的死腔量)
FAN:肺胞気N濃度(80%)
FA’N:呼気N濃度(死腔による希釈を補正)
FEN:平均呼気N濃度
とする。
【0083】
式(5)より、(Vd×FA’N)は、N濃度曲線をリアルタイムに提示するシミュレーションにおいて、視覚的には大きな影響を与えないため省略可能である。その場合に、
(FAN-FEN)=(VI×FAN)÷TLC …(式5-1)
FEN=FAN-((VI×FAN)÷TLC) …(式5-2)
が成立する。
【0084】
そして、図14(a)に示すように、(式5-2)によって算出した平均呼気N濃度に基づいて、N濃度曲線を構成する。この段階のN濃度曲線は、算出した平均呼気N濃度に対応した一定値を示している。次いで、図14(b)に示すように、ΔN予測値に基づいて第3相の傾きを算出して、算出した傾きに応じた第3相部分を、図14(a)の一定値の部分に追加することで、第3相以降のN濃度が上昇する形態とする。ここで、第3相以降の部分の追加に応じて、平均呼気N濃度が計算値より上昇せずに計算値に維持されるように、N濃度曲線全体をN濃度方向に調整する(例えば、N濃度が低下する方向に移動させる)。さらに、図14(c)に示すように、第4相部分を、第3相部分に追加することで、第4相のN濃度が、呼気終末に対応して急激に上昇する形態とする。なお、CV/VC予測値及びCV予測値に基づいて、第4相の出現点(開始点)を設定してもよい。追加される第4相の波形は、第3相の傾きに対して、N濃度が一定割合で増加する波形としてもよい。
【0085】
次いで、図15(d)に示すように、形成した第3相以降の部分に対して、第1相及び第2相の部分を追加する。追加される第1相及び第2相の波形は、例えば、予め用意していた標準の波形パターンを伸縮させたものである。これにより、仮設定されるN濃度曲線が完成する。
【0086】
前述したように、N濃度曲線の生成は、仮設定されている非表示のN濃度曲線を、測定中の呼気量に合わせてトレースする(呼気量に対応した箇所のN濃度を表示させる)ことにより行われる。ここで、図15(e)に示すように、CVのシミュレーション期間中(被検者が実際に呼気を行っている期間中)において、第3相表示中に、60~90bpm(1.0~1.5Hz)の周期でカーディアックオッシレーションを模した波形を表示させてもよい。例えば、カーディアックオッシレーションに相当する各波形の周期や振幅は、所定範囲の乱数を生成して、その中から抽出した乱数に基づいて決定してもよい。検査者は、CV測定においてカーディアックオッシレーションが出現することを経験することができる。
【符号の説明】
【0087】
1 呼吸機能検査シミュレータ
10 フローセンサ
14 抵抗体
5a 第1圧力検出ポート(圧力検出部)
5b 第2圧力検出ポート(圧力検出部)
50 本体
51 差圧センサ
52 A/D変換器
53 CPU
54 RAM
55 ROM
56 タッチパネル式ディスプレイ
57 D/A変換器
58 スピーカ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15