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特開2025-26542有機溶媒の再生方法及び改質木質材料の製造方法
<図1>
  • 特開-有機溶媒の再生方法及び改質木質材料の製造方法 図1
  • 特開-有機溶媒の再生方法及び改質木質材料の製造方法 図2
  • 特開-有機溶媒の再生方法及び改質木質材料の製造方法 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025026542
(43)【公開日】2025-02-21
(54)【発明の名称】有機溶媒の再生方法及び改質木質材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B27K 3/34 20060101AFI20250214BHJP
【FI】
B27K3/34 Z
【審査請求】有
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024212114
(22)【出願日】2024-12-05
(62)【分割の表示】P 2020173531の分割
【原出願日】2020-10-14
(31)【優先権主張番号】P 2019190039
(32)【優先日】2019-10-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002200
【氏名又は名称】セントラル硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000408
【氏名又は名称】弁理士法人高橋・林アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】長舩 夏奈子
(72)【発明者】
【氏名】住田 康平
(72)【発明者】
【氏名】西口 祥雄
(57)【要約】
【課題】
地球環境への影響が少ない、木質材料を改質するための化学処理薬剤組成物を提供する。または、その化学処理薬剤組成物を用いた改質木質材料の製造方法を提供する。または、化学処理薬剤組成物に用いる有機溶媒の再生方法を提供する。または、化学処理薬剤組成物の製造方法を提供する。
【解決手段】
本発明の一実施形態によると、木質材料を改質する有効成分と、有効成分を溶解するハイドロフルオロオレフィン類とを含む、化学処理薬剤組成物が提供される。ハイドロフルオロオレフィン類が、炭素数3~5のハイドロフルオロオレフィン又は炭素数3~5のハイドロクロロフルオロオレフィンであってもよい。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
木質材料を改質する有効成分と、前記有効成分を溶解するハイドロフルオロオレフィン類を含む有機溶媒とを含む、化学処理薬剤組成物。
【請求項2】
前記木質材料を改質する有効成分が、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、4級アンモニウム塩化合物、有機金属化合物を含む、請求項1に記載の化学処理薬剤組成物。
【請求項3】
前記ハイドロフルオロオレフィン類が、炭素数3~5のハイドロフルオロオレフィン又は炭素数3~5のハイドロクロロフルオロオレフィンである、請求項1に記載の化学処理薬剤組成物。
【請求項4】
前記ハイドロフルオロオレフィン類が、1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン、1,2-ジクロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン、1,1-ジクロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン及び1-クロロ-2,3,3-トリフルオロ-1-プロペンから選ばれる少なくとも1つである、請求項1に記載の化学処理薬剤組成物。
【請求項5】
ハイドロフルオロオレフィン類以外の有機溶媒を更に含む、請求項1~3のいずれか一に記載の化学処理薬剤組成物。
【請求項6】
前記ハイドロフルオロオレフィン類以外の有機溶媒が塩化メチレンである、請求項3に記載の化学処理薬剤組成物。
【請求項7】
化学処理薬剤組成物100重量%に対して、水の含有量が5重量%以下である、請求項1~5のいずれか一に記載の化学処理薬剤組成物。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一に記載の化学処理薬剤組成物を、木質材料に塗布、含侵または注入すること、且つ
前記木質材料中の前記有機溶媒を揮発させること、
を含む、改質木質材料の製造方法。
【請求項9】
前記木質材料中の前記有機溶媒を90重量%以上揮発させること、を含む、請求項8に記載の改質木質材料の製造方法。
【請求項10】
請求項1~7のいずれか一に記載の化学処理薬剤組成物を、木質材料に塗布、含侵または注入すること、
前記木質材料中の前記有機溶媒を揮発させること、
揮発させた前記有機溶媒を回収すること、
を含む、有機溶媒の再生方法。
【請求項11】
前記木質材料中の前記有機溶媒を90重量%以上揮発させること、を含む、請求項10に記載の有機溶媒の再生方法。
【請求項12】
回収した有機溶媒をろ過する工程を含む、請求項10に記載の有機溶媒の再生方法。
【請求項13】
回収した有機溶媒を精製する工程を含む、請求項10に記載の有機溶媒の再生方法。
【請求項14】
回収した前記有機溶媒において、前記ハイドロフルオロオレフィン類とハイドロフルオロオレフィン類以外の有機溶媒との組成比を調整すること、
を更に含む、請求項10に記載の有機溶媒の再生方法。
【請求項15】
請求項14に記載の有機溶媒の再生方法により再生した有機溶媒に、有効成分を添加すること、
を含む、化学処理薬剤組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木質材料を改質するための化学処理薬剤組成物、それを用いた改質木質材料の製造方法、有機溶媒の再生方法及び化学処理薬剤組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
木質材料を改質するための化学処理薬剤、例えば、防腐剤、防虫剤、防カビ剤及び難燃剤等に用いる有機溶媒としては、塩化メチレンが従来用いられている。これは、塩化メチレンに対する有効成分の溶解性が良好であること、塩化メチレンが本邦の消防法に定められた危険物に該当しないこと、単価が安いこと等に起因する。
【0003】
近年、大気汚染防止法や労働安全衛生法等の法規制によって、改質木材業界では、塩素系溶剤の使用が難しくなってきている。このため、塩化メチレンに替わる有機溶媒として、高価なフッ素系溶剤をリサイクルしながら使用する試みがなされている。例えば、特許文献1においては、改質有効成分、有効成分を溶解する有機溶媒、及び有機塩化合物を含有し、且つ水の含有量が5質量%以下である木質材料を改質するための化学処理薬剤組成物が記載され、塩化メチレンの他にCFC-11、HCFC-225等のフロン系溶媒や、ハイドロフルオロカーボン(HFC)類、ハイドロフルオロエーテル(HFE)類等の代替フロン系溶媒を用いることが記載されている。
【0004】
しかし、フッ素系溶剤においては、HFC類、HFE類等の代替フロン系溶媒では地球温暖化係数(GWP)が高く、地球環境への影響が懸念される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4723408号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、地球環境への影響が少ない、木質材料を改質するための化学処理薬剤組成物を提供することを目的の一つとする。または、その化学処理薬剤組成物を用いた改質木質材料の製造方法を提供することを目的の一つとする。または、化学処理薬剤組成物に用いる有機溶媒の再生方法を提供することを目的の一つとする。または、化学処理薬剤組成物の製造方法を提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一実施形態によると、木質材料を改質する有効成分と、有効成分を溶解するハイドロフルオロオレフィン類を含む有機溶媒とを含む、化学処理薬剤組成物が提供される。
【0008】
ハイドロフルオロオレフィン類が、炭素数3~5のハイドロフルオロオレフィン又は炭素数3~5のハイドロクロロフルオロオレフィンであってもよい。
【0009】
ハイドロフルオロオレフィン類が、1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン、1,2-ジクロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン、1,1-ジクロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン及び1-クロロ-2,3,3-トリフルオロ-1-プロペンから選ばれる少なくとも1つであってもよい。
【0010】
化学処理薬剤組成物は、ハイドロフルオロオレフィン類以外の有機溶媒を更に含んでもよい。
【0011】
ハイドロフルオロオレフィン類以外の有機溶媒が塩化メチレンであってもよい。
【0012】
本発明の一実施形態によると、前記いずれかの化学処理薬剤組成物を、木質材料に塗布、含侵または注入すること、及び木質材料中の有機溶媒を揮発させること、を含む、改質木質材料の製造方法が提供される。
【0013】
本発明の一実施形態によると、前記いずれかの化学処理薬剤組成物を、木質材料に塗布、含侵または注入すること、木質材料中の有機溶媒を揮発させること、揮発させた有機溶媒を回収すること、を含む、有機溶媒の再生方法が提供される。
【0014】
回収した有機溶媒において、ハイドロフルオロオレフィン類とハイドロフルオロオレフィン類以外の有機溶媒との組成比を調整すること、を更に含んでもよい。
【0015】
本発明の一実施形態によると、有機溶媒の再生方法により再生した有機溶媒に、有効成分を添加すること、を含む、化学処理薬剤組成物の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0016】
本発明の一実施形態によると、地球環境への影響が少ない、木質材料を改質するための化学処理薬剤組成物が提供される。また、本発明の一実施形態によると、その化学処理薬剤組成物を用いた改質木質材料の製造方法が提供される。また、本発明の一実施形態によると、化学処理薬剤組成物に用いる有機溶媒の再生方法が提供される。また、本発明の一実施形態によると、化学処理薬剤組成物の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】改質木質材料の製造方法を説明するフロー図である。
図2】有機溶媒の再生方法を説明するフロー図である。
図3】化学処理薬剤組成物の製造方法を説明するフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る化学処理薬剤組成物、それを用いた改質木質材料の製造方法、有機溶媒の再生方法及び化学処理薬剤組成物の製造方法について詳細に説明する。ただし、本発明の化学処理薬剤組成物、それを用いた改質木質材料の製造方法、有機溶媒の再生方法及び化学処理薬剤組成物の製造方法は、以下に示す実施の形態及び実施例の記載内容に限定して解釈されるものではない。
【0019】
本発明者が鋭意検討した結果、木質材料を改質するための化学処理薬剤向けの有機溶媒として、GWPが低く、地球環境への影響が小さいハイドロフルオロオレフィン(HFO)類、特にハイドロクロロフルオロオレフィン(HCFO)類を用いた場合であっても、化学処理薬剤を溶解させることができ、化学処理薬剤を木質材料の内部に含有させるためのキャリアとして作用することを見出した。
【0020】
一実施形態において、化学処理薬剤組成物は、木質材料を改質する有効成分と、有効成分を溶解するハイドロフルオロオレフィン類を含む有機溶媒とを含む。木質材料を改質する有効成分としては、例えば、防腐剤、防虫剤、防カビ剤、酸化防止剤、寸法安定化剤、抗菌剤、防蟻剤又は難燃剤として機能する化合物が挙げられる。
【0021】
具体的には、有効成分としては、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ポリオキシエチレン硫酸エステルナトリウム塩、ジアルキルサクシネートスルホン酸ナトリウム塩、ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル硫酸エステル塩等のアニオン界面活性剤;アルキルアンモニウムハライド(例えば、ジデシルジメチルアンモニウムクロライド、トリオクチルメチルアンモニウムクロライド)、ジ硬化牛脂アルキルエチルメチルアンモニウムエトサルフェート等のカチオン界面活性剤;アルキルアンモニウムハライド(例えば、テトラブチルアンモニウムイオダイド、テトラブチルアンモニウムブロマイド、テトラブチルアンモニウムクロライド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド)、アルキルアンモニウムフォスフェート(例えば、テトラブチルアンモニウムヘキサフルオロフォスフェート、ジデシルジメチルアンモニウムヘキサフルオロフォスフェート)、アルキルアンモニウムボレート(例えば、テトラブチルアンモニウムテトラフルオロボレート)、アルキルアンモニウムスルホネート(例えば、テトラエチルアンモニウムp-トルエンスルホネート、テトラエチルアンモニウムトリフルオロメタンスルホネート)、ポリオキシエチレン硫酸エステルアンモニウム塩(例えば、ポリオキシエチレン硫酸エステルテトラブチルアンモニウム塩)、等の4級アンモニウム塩化合物;アルミニウムアルコキシド、アルミニウムキレート等の有機金属化合物等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0022】
ハイドロフルオロオレフィン類としては、有効成分を溶解する有機溶媒として機能する1つ以上のハイドロフルオロオレフィンを用いることができる。また、木質材料に有効成分を浸透させた後に、ハイドロフルオロオレフィン類は揮発除去させるため、20℃~100℃、好ましくは20℃~80℃、特に好ましくは30~80℃の範囲で木質材料から蒸発するハイドロフルオロオレフィンが好ましい。
【0023】
一実施形態において、ハイドロフルオロオレフィン類は、炭素数3~5のハイドロフルオロオレフィン又は炭素数3~5のハイドロクロロフルオロオレフィンから選択される少なくとも1つのハイドロフルオロオレフィンである。具体的には、ハイドロフルオロオレフィン類は、1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン、1,2-ジクロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン、1,1-ジクロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン及び1-クロロ-2,3,3-トリフルオロ-1-プロペンから選ばれる少なくとも1つのハイドロフルオロオレフィンであるが、これらに限定されるものではない。一実施形態において、ハイドロフルオロオレフィン類は、炭素数3~6のハイドロフルオロオレフィン又は炭素数3~6のハイドロクロロフルオロオレフィンから選択される少なくとも1つのハイドロフルオロオレフィンであってもよく、好ましくは、炭素数3~5のハイドロフルオロオレフィン又は炭素数3~5のハイドロクロロフルオロオレフィンから選択される少なくとも1つであり、特に好ましくは、炭素数3のハイドロフルオロオレフィン又は炭素数3のハイドロクロロフルオロオレフィンから選択される少なくとも1つである。
【0024】
1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(HFO-1233zd)は、トランス-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(HFO-1233zd(E))の沸点が19℃であり、シス-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(HFO-1233zd(Z))の沸点は39℃である。1,2-ジクロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(HCFO-1223xd)は、トランス-1,2-ジクロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(HCFO-1223xd(E))の沸点が60℃である。また、シス-1,2-ジクロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(HCFO-1223xd(Z))の沸点は53℃である。1,1-ジクロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(HCFO-1223za)の沸点は約54℃である。1-クロロ-2,3,3-トリフルオロ-1-プロペン(HCFO-1233yd)は、トランス-1-クロロ-2,3,3-トリフルオロ-1-プロペン(HCFO-1233yd(E))の沸点が48℃である。また、シス-1-クロロ-2,3,3-トリフルオロ-1-プロペン(HCFO-
1233yd(Z))の沸点は54℃である。これらのハイドロフルオロオレフィンはGWPが非常に低く(10未満)、環境負荷が小さい。
【0025】
一実施形態において、ハイドロフルオロオレフィン類は、オプテオン(登録商標)SF01、オプテオン(登録商標)SF05、オプテオン(登録商標)SF10、オプテオン(登録商標)SF33、オプテオン(登録商標)SF79、DR CFX70(三井・ケマーズ フロロプロダクツ株式会社製)である。オプテオン(登録商標)SF01の沸点は32℃であり、オプテオン(登録商標)SF05の沸点は39℃であり、オプテオン(登録商標)SF10の沸点は110℃であり、オプテオン(登録商標)SF33の沸点は33℃であり、オプテオン(登録商標)SF79の沸点は48℃であり、DR CFX70の沸点は71℃である。これらのハイドロフルオロオレフィンはGWPが非常に低く、環境負荷が小さい。
【0026】
一実施形態において、化学処理薬剤組成物は、ハイドロフルオロオレフィン類以外の有機溶媒を更に含んでもよい。ハイドロフルオロオレフィン類以外の有機溶媒は、木質材料を改質するための化学処理薬剤組成物に用いられる公知の有機溶媒から1つ以上を選択することができる。例えば、n-ヘキサン、n-ヘプタン、ケロシン等の脂肪族炭化水素類;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;塩化メチレン、トリクロロエチレン等の塩素化炭化水素類;CFC-11、HCFC-225等のフロン系溶媒;HFC、HFE等の代替フロン系溶媒;ニトロメタン、ニトロエタンなどのニトロ炭化水素類;アセトニトリルなどのニトリル類;アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類;蟻酸メチル、蟻酸エチル等のエステル類;テトラヒドロフラン、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートなどのグリコールエーテル誘導体;n-メチルピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノンなどの含窒素環式化合物等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。一実施形態において、化学処理薬剤組成物は、ハイドロフルオロオレフィン類以外の有機溶媒として、塩化メチレンを含んでもよい。なお、地球環境への影響を抑制する観点から、ハイドロフルオロオレフィン類以外の有機溶媒は、化学処理薬剤組成物に含まれるハイドロフルオロオレフィン類に比して有意に少ないことが好ましく、例えば、化学処理薬剤組成物に含まれる有機溶媒100重量%に対して、ハイドロフルオロオレフィン類以外の有機溶媒の含有量は、50重量%以下であり、20重量%以下であることが好ましい。
【0027】
一実施形態において、有効成分は、ハイドロフルオロオレフィン類100重量%に対して、0.01重量%~5重量%含有され、0.1重量%~2重量%含有されることが好ましい。有効成分の含有量をこれらの範囲に調製することにより、有効成分の木材への良好な浸透性と、化学処理薬剤組成物の十分な効果が得られるとともに、有機溶媒であるハイドロフルオロオレフィン類の回収促進効果が得られる。
【0028】
一実施形態において、化学処理薬剤組成物は、水を実質上含有しないことが好ましい。水を含有した化学処理薬剤組成物を木質材料に注入すると、木質材料の含水率が著しく上昇して、木質材料の寸法変動を引き起こす。このため、化学処理薬剤組成物に水が含まれる場合、木質材料の寸法変動を引き起こさない含有量であることが好ましく、化学処理薬剤組成物100重量%に対して、水の含有量は5重量%以下であり、3重量%以下であることが好ましい。
【0029】
上記の構成を有する本発明の一実施形態に係る化学処理薬剤組成物は、地球環境への影響を低減して、木質材料を改質することができる。
【0030】
[改質木質材料の製造方法]
上述した化学処理薬剤組成物を用いて、改質木質材料を製造することができる。図1
、改質木質材料の製造方法を説明するフロー図である。改質木質材料の製造方法は、例えば、木質材料を減圧下で乾燥させる工程(S101)、木質材料に化学処理薬剤組成物を塗布、含侵または注入する工程(S103)、及び木質材料中の有機溶媒を揮発させる工程(S105)を含む。
【0031】
工程S101は、木質材料を大気圧に対する相対圧力であるゲージ圧で-0.001MPaG~-0.101MPaGの減圧環境下で乾燥させる工程である。工程S101により、木質材料の水分含有量が減少し、化学処理薬剤組成物が浸透しやすくなるとともに、木質材料が水分を含有することによる製造後の木質材料の寸法変動を抑制することができる。木質材料の乾燥温度は、10℃~50℃で行うことができ、10℃~40℃で行うことが好ましい。なお、十分に乾燥した木材を使用する場合には、工程S101は、任意の工程である。
【0032】
工程S103は、木質材料に化学処理薬剤組成物を接触させる工程であり、塗布、含侵または注入することにより実施される。木質材料と化学処理薬剤組成物との接触は、大気圧下で行うことができる。また、化学処理薬剤組成物を木質材料に接触させる温度は10℃~100℃であり、20℃~50℃であることが好ましい。一実施形態において、加圧下で化学処理薬剤組成物を木質材料に接触させることが好ましい。例えば、化学処理薬剤組成物を塗布した木質材料を加圧する、又は加圧下で化学処理薬剤組成物を木質材料に含侵させてもよい。木質材料を0.1MPaG~1.0MPaGで加圧することが好ましい。加圧時間は、木質材料が所定量の化学処理薬剤組成物を含有すれば特に限定されず、適宜設定可能である。
【0033】
工程S105は、木質材料中の有機溶媒を揮発させて、有効成分を木質材料中に配置又は固定化する工程である。工程S105は、木質材料中の有機溶媒の少なくとも一部を除去する工程であって、必ずしも木質材料中の有機溶媒を全て除去することを意図するものではないが、木質材料中の全て有機溶媒が除去されることが好ましい。例えば、木質材料中の有機溶媒は、90重量%以上が除去されるのが好ましく、95重量%以上が除去されるのがより好ましく、99重量%以上が除去されるのが特に好ましい。有機溶媒を除去するための方法は、特に限定されないが、例えば、加温による乾燥方法、熱風乾燥、減圧乾燥、又は大気雰囲気中に放置する乾燥方法が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、有機溶媒を除去する際の温度は、20℃~100℃であり、30℃~80℃が好ましい。有機溶媒を除去するための時間は、木質材料が所定量の有機溶媒が除去されれば特に限定されず、適宜設定可能である。
【0034】
本発明に係る化学処理薬剤組成物を用いることにより、地球環境への影響を低減して、改質木質材料を製造することができる。
【0035】
[有機溶媒の再生方法]
上述した改質木質材料の製造方法において木質材料から除去された有機溶媒は、ハイドロフルオロオレフィン類を含むため、回収して再利用することが好ましい。図2は、有機溶媒の再生方法を説明するフロー図である。有機溶媒の再生方法は、例えば、揮発させた有機溶媒を回収する工程(S201)、回収した有機溶媒をろ過する工程(S203)、ろ過した有機溶媒を精製する工程(S205)、及び精製した有機溶媒の組成を調整する工程(S207)を含む。
【0036】
工程S201は、揮発させた有機溶媒を回収する工程であって、有機溶媒を含む気体を回収する、又は有機溶媒を含む気体を凝集させて、液化した有機溶媒を回収する工程である。例えば、工程S201は、有機溶媒を含む気体をタンクに貯蔵してもよく、貯蔵せずに、精製工程に有機溶媒を含む気体を供給してもよい。また、有機溶媒を含む気体を凝集
器で液化させてタンクに貯蔵してもよく、液化した有機溶媒を精製工程に供給してもよい。有機溶媒を液化させて回収することにより、改質木質材料の製造プラントとの外部にある有機溶媒の再生に搬送することができ、その輸送コストも低減することができる。
【0037】
工程S203は、回収した有機溶媒をろ過して、有機溶媒に含まれるゴミや埃のような固形成分を除去する工程である。例えば、メッシュやフィルタを用いて、有機溶媒をろ過することができる。なお、工程S203は任意の工程であって、精製工程に供給するのに支障をきたさなければ実施しなくてもよい。
【0038】
工程S205は、改質木質材料の製造により有機溶媒に混入した木質材料に由来する成分や水分を除去する工程であって、例えば、蒸留工程及び脱水工程を備える。したがって、有機溶媒に含まれるハイドロフルオロオレフィン類とハイドロフルオロオレフィン類以外の有機溶媒を完全に分離する必要はない。また、有機溶媒が2種類以上のハイドロフルオロオレフィンを含む場合や、ハイドロフルオロオレフィン類以外の有機溶媒を2種類以上含む場合にも、それぞれの成分を単離する必要はない。なお、必要に応じて、有機溶媒に含まれる成分を単離して回収してもよい。また、精製した有機溶媒をゼオライトや活性炭等の多孔質体と接触させて脱水処理を行ってもよい。
【0039】
工程S207は、有機溶媒を再利用するために、組成を調整する工程である。例えば、精製した有機溶媒が所定の組成比となるように、不足した構成成分を添加してもよく、所定の組成比となるように、単離して回収した有機溶媒の構成成分を調合してもよい。なお、工程S207は任意の工程であって、有機溶媒が1種類のハイドロフルオロオレフィンから構成されている場合には実施されない。また、再生された有機溶媒は、改質木質材料の製造に用いられた化学処理薬剤組成物に含まれる有機溶媒の組成と同じであってもよく、異なっていてもよい。異なる組成で再生された有機溶媒は、異なる化学処理薬剤組成物の溶媒として用いてもよい。
【0040】
本発明に係る有機溶媒の再生方法を用いることにより、地球環境への影響を低減して、改質木質材料を継続して製造することができる。
【0041】
[化学処理薬剤組成物の製造方法]
再生した有機溶媒を用いて化学処理薬剤組成物を製造することができる。図3は、化学処理薬剤組成物の製造方法を説明するフロー図である。化学処理薬剤組成物の製造方法は、再生した有機溶媒に、有効成分を添加する工程(S301)を含む。製造される化学処理薬剤組成物は、上述した改質木質材料を製造する方法で用いた化学処理薬剤組成物と同じ組成としてもよく、異なる有効成分を添加して異なる化学処理薬剤組成物を製造してもよい。
【0042】
本発明に係る有機溶媒の再生方法を用いることにより、地球環境への影響を低減して、改質木質材料を継続して製造することができる。
【実施例0043】
上述した本発明に係る木質材料を改質するための化学処理薬剤組成物の具体的な実施例及び改質木質材料の製造例を示して、詳細に説明する。
【0044】
[実施例]
<化学処理薬剤組成物の調製>
表1に記載の有機溶媒に有効成分を混合溶解させて、実施例の化学処理薬剤組成物を調製した。有効成分が有機溶媒に溶解し、均一な溶液を形成できたものを「〇」と表記した。なお、TBABは、テトラブチルアンモニウムブロマイドを示す。また、HCFO-2
546mzxzzは、3-クロロ-1,1,1,6,6,6-ヘキサフルオロ-2,4-ヘキサジエンを示す。
【表1】
【0045】
<改質木質材料の製造>
ガラス製サンプル瓶(50cc、外径40mm)に、上記で調製した化学処理薬剤組成物を50g入れた。厚さ5mm、0.8gのスギの木材片を耐圧密閉容器に入れ、1kPaにて4時間減圧乾燥させた。この木材片を大気圧に解放した後、25℃にて、化学処理薬剤組成物に1時間浸漬させた。浸漬後、化学処理薬剤組成物から取り出した木材片を、25℃、大気圧で静置乾燥して、木材片の経時的な重量変化(%)を計測した。静置後64時間経過した時点で、木材片を耐圧密閉容器に入れ、1kPaにて2時間減圧乾燥させて、実施例の改質木質材料を調製した。各実施例の改質木質材料における重量変化を表2に示す。
【表2】
【0046】
[参考例]
実施例で調製した木材処理溶液の代わりに、有機溶媒のみを用いたこと以外は、実施例と同様の方法により改質木質材料を調製した。改質木質材料の調製において、浸漬前の木材片の重量を基準として、木材片の経時的な重量変化(%)を計測した。また、静置後40時間経過した時点で、木材片を耐圧密閉容器に入れ、1kPaにて2時間減圧乾燥させた。各参考例の改質木質材料における重量変化を表3に示す。
【表3】
【0047】
実施例および参考例の結果から、有機溶媒は木材片から揮発する一方、有効成分は木材片の内部に残留することが明らかとなった。また、有機溶媒としてHCFO-1233yd、HCFO-1233zd、HCFO-1223xdを用いる場合、HCFO-2546mzxzzと比べて短時間で揮発することが明らかとなった。また、実施例及び参考例のいずれにおいても、乾燥後の木材片には寸法の変化はなく、変色も起こらなかった。
図1
図2
図3
【手続補正書】
【提出日】2024-12-11
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
木質材料を改質する有効成分と、前記有効成分を溶解するハイドロフルオロオレフィン類を含む有機溶媒とを含む、化学処理薬剤組成物を、木質材料に塗布、含侵または注入すること、
前記木質材料中の前記有機溶媒を揮発させること、
揮発させた前記有機溶媒を回収すること、
回収した前記有機溶媒において、前記ハイドロフルオロオレフィン類とハイドロフルオロオレフィン類以外の有機溶媒との組成比を調整すること、
を含む、有機溶媒の再生方法。
【請求項2】
前記木質材料を改質する有効成分が、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、4級アンモニウム塩化合物、有機金属化合物を含む、請求項1に記載の有機溶媒の再生方法。
【請求項3】
前記木質材料を改質する有効成分が、
アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ポリオキシエチレン硫酸エステルナトリウム塩、ジアルキルサクシネートスルホン酸ナトリウム塩、ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル硫酸エステル塩から選択されるアニオン界面活性剤;
ジデシルジメチルアンモニウムクロライド、トリオクチルメチルアンモニウムクロライド、ジ硬化牛脂アルキルエチルメチルアンモニウムエトサルフェートから選択されるカチオン界面活性剤;
アルキルアンモニウムハライド、アルキルアンモニウムフォスフェート、アルキルアンモニウムボレート、アルキルアンモニウムスルホネート、及びポリオキシエチレン硫酸エステルアンモニウム塩から選択される4級アンモニウム塩化合物;及び
アルミニウムアルコキシド、及びアルミニウムキレートから選択される有機金属化合物から選択される、請求項2に記載の有機溶媒の再生方法。
【請求項4】
前記ハイドロフルオロオレフィン類が、炭素数3~5のハイドロフルオロオレフィン又は炭素数3~5のハイドロクロロフルオロオレフィンである、請求項1に記載の有機溶媒の再生方法。
【請求項5】
前記ハイドロフルオロオレフィン類が、1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン、1,2-ジクロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン、1,1-ジクロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン及び1-クロロ-2,3,3-トリフルオロ-1-プロペンから選ばれる少なくとも1つである、請求項1に記載の有機溶媒の再生方法。
【請求項6】
ハイドロフルオロオレフィン類以外の有機溶媒を更に含む、請求項1に記載の有機溶媒の再生方法。
【請求項7】
前記ハイドロフルオロオレフィン類以外の有機溶媒が塩化メチレンである、請求項6に記載の有機溶媒の再生方法。
【請求項8】
化学処理薬剤組成物100重量%に対して、水の含有量が5重量%以下である、請求項1に記載の有機溶媒の再生方法。
【請求項9】
前記木質材料中の前記有機溶媒を90重量%以上揮発させること、を含む、請求項1に記載の有機溶媒の再生方法。
【請求項10】
回収した有機溶媒をろ過する工程を含む、請求項1に記載の有機溶媒の再生方法。
【請求項11】
回収した有機溶媒を精製する工程を含む、請求項1に記載の有機溶媒の再生方法。
【請求項12】
請求項1~11の何れか一に記載の有機溶媒の再生方法により再生した有機溶媒に、前記有効成分を添加すること、
を含む、化学処理薬剤組成物の製造方法。
【請求項13】
請求項12に記載の化学処理薬剤組成物の製造方法により製造された化学処理薬剤組成物を、木質材料に塗布、含侵または注入すること、且つ
前記木質材料中の前記有機溶媒を揮発させること、
を含む、改質木質材料の製造方法。