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特開2025-2656ダイヤモンド薄膜及びダイヤモンド薄膜の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025002656
(43)【公開日】2025-01-09
(54)【発明の名称】ダイヤモンド薄膜及びダイヤモンド薄膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 16/27 20060101AFI20241226BHJP
   C01B 32/26 20170101ALI20241226BHJP
【FI】
C23C16/27
C01B32/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023102973
(22)【出願日】2023-06-23
(71)【出願人】
【識別番号】000003942
【氏名又は名称】日新電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 真大
(74)【代理人】
【識別番号】100206151
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 惇志
(74)【代理人】
【識別番号】100218187
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 治子
(74)【代理人】
【識別番号】100227673
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 光起
(74)【代理人】
【識別番号】100231038
【弁理士】
【氏名又は名称】正村 智彦
(72)【発明者】
【氏名】長町 学
(72)【発明者】
【氏名】安藤 瞭汰
(72)【発明者】
【氏名】辰巳 夏生
【テーマコード(参考)】
4G146
4K030
【Fターム(参考)】
4G146AA04
4G146AB07
4G146AC01A
4G146AC01B
4G146AC02B
4G146AC16B
4G146AC27A
4G146AC27B
4G146AD06
4G146AD40
4G146BA09
4G146BA12
4G146BA48
4G146BC09
4G146BC23
4G146BC25
4G146BC33B
4G146DA03
4G146DA16
4G146DA25
4K030AA10
4K030AA14
4K030AA17
4K030BA28
4K030CA02
4K030CA03
4K030CA04
4K030CA05
4K030CA06
4K030CA07
4K030DA02
4K030FA04
4K030JA01
4K030JA06
4K030JA10
4K030LA21
(57)【要約】
【課題】CVD法によって形成されるとともに、摺動性が高いダイヤモンド薄膜を提供する。
【解決手段】膜中の水素濃度に対する膜中の酸素濃度の相対比が0.001以上2.0以下であるダイヤモンド薄膜。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
膜中の水素濃度に対する膜中の酸素濃度の相対比が0.001以上2.0以下であるダイヤモンド薄膜。
【請求項2】
前記酸素濃度が1000ppm以上10000ppm以下である、請求項1に記載のダイヤモンド薄膜。
【請求項3】
膜厚が0.1μm以上5.0μm以下である、請求項1に記載のダイヤモンド薄膜。
【請求項4】
前記水素濃度が5000ppm以上250000ppm以下である、請求項1に記載のダイヤモンド薄膜。
【請求項5】
表面粗さが0.01μm以上1.0μm以下である、請求項1乃至4の何れか一項に記載のダイヤモンド薄膜。
【請求項6】
基材が配置された真空容器内にC、H及びOを含有する原料ガスを供給し、
前記真空容器の内部又は外部に配置したアンテナであって、電気的に互いに直列接続された導体要素と容量素子とを有するアンテナに高周波電流を流すことによって当該真空容器内に誘導結合型プラズマを生成し、
生成した誘導結合型プラズマを用いたプラズマCVD法により、500℃以上1200℃以下の温度範囲で前記基材上にダイヤモンド薄膜を合成するダイヤモンド薄膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマCVD法により製造されるダイヤモンド薄膜及びダイヤモンド薄膜の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ダイヤモンド薄膜は、例えば特許文献1に示すように、フィラメントCVD装置又はマイクロ波表面波プラズマCVD装置を用いて製造されることが知られている。
【0003】
フィラメントCVD装置を用いる場合では、ダイヤモンド薄膜を形成する基材の上方に高融点の金属ワイヤを設置し、この金属ワイヤを熱した際に放出される熱電子により原料ガスを分解してダイヤモンド薄膜を製造している。
【0004】
またマイクロ波表面波プラズマCVD装置を用いる場合では、印加する高周波電流によって原料ガスを含むプラズマを生成し、活性化させたガスでダイヤモンド薄膜を製造している。
【0005】
これらの製造方法では、プラズマ中に活性な原子状水素を主に生成し、その作用によりsp1結合やsp2結合の非ダイヤモンド成分が除去され、sp3結合のダイヤモンド成分が主に成長できることが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2022-191959号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、フィラメントCVD装置を用いて製造されたダイヤモンド薄膜では、ラマン分光分析においてダイヤモンドピークよりもGバンドが強いダイヤモンド薄膜となり、結晶性が小さいダイヤモンド薄膜が製造されてしまう。
【0008】
また、マイクロ波表面波プラズマCVD装置を用いてダイヤモンド薄膜を製造する場合、例えば500℃以上の高温環境でダイヤモンド薄膜を製造すると結晶粒のサイズが大きくなる。一方、例えば工具等の基材にダイヤモンド薄膜をコーティングする場合にダイヤモンド薄膜に圧縮応力を与える必要があり、圧縮応力をダイヤモンド薄膜に与えるには、例えば500℃以上の高温環境が必要である。しかしながら、ダイヤモンド薄膜の結晶粒のサイズが大きいと、ダイヤモンド薄膜の摺動性が低下してしまう。
【0009】
本願発明者は、鋭意検討を重ねた結果、結晶性の高いダイヤモンド薄膜に酸素を所定の範囲内で含有させることによって、ダイヤモンド薄膜の摺動性が向上することを初めて見出した。
【0010】
本発明は上記問題点を解決すべくなされたものであり、CVD法により形成されるとともに、摺動性が高いダイヤモンド薄膜を提供することをその主たる課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち本発明に係るダイヤモンド薄膜では、膜中の水素濃度に対する膜中の酸素濃度の相対比が0.001以上2.0以下であることを特徴とする。
【0012】
このような構成であれば、ダイヤモンド薄膜が上記の相対比の範囲内で酸素を含有しているので、ダイヤモンド薄膜の摺動性を向上させることができる。
具体的には上記の相対比が0.001未満である場合、酸素濃度が低い状態又は水素濃度が高い状態となるので、結晶粒のサイズが小さくなることによる水素濃度の増加よりも、酸素濃度の低下によりダイヤモンド薄膜の摺動性の低下の方が寄与してしまう。また、上記の相対比が2.0よりも大きい場合、酸素濃度が高い状態又は水素濃度が低い状態となるので、酸素濃度の増加よりも結晶粒のサイズが大きくなることによる水素濃度の低下が寄与し、ダイヤモンド薄膜の表面粗さが大きくなり、ダイヤモンド薄膜の摺動性が低下してしまう。したがって、ダイヤモンド薄膜の摺動性を向上させるためには、上記の相対比の範囲内で酸素を含有させる必要がある。
【0013】
前記ダイヤモンド薄膜の具体的な態様としては、前記酸素濃度が1000ppm以上10000ppm以下であるものが挙げられる。
【0014】
また、前記ダイヤモンド薄膜の具体的な態様としては、膜厚が0.1μm以上5.0μm以下であるものが挙げられる。
【0015】
ダイヤモンド薄膜のダイヤモンドが様々な結晶粒のサイズを有するには、ダイヤモンド薄膜の膜中における水素濃度を調整する必要がある。
そこで、前記ダイヤモンド薄膜では、前記水素濃度が5000ppm以上250000ppm以下であることが好ましい。
このような構成であれば、結晶粒のサイズが小さいダイヤモンド薄膜から結晶粒のサイズが大きいダイヤモンド薄膜までを製造することができる。この効果は、上記の数値範囲で特に顕著となる。
【0016】
前記ダイヤモンド薄膜では、表面粗さが0.01μm以上1.0μm以下であることが好ましい。
このような構成であれば、平滑性がよい表面のダイヤモンド薄膜から粗い表面のダイヤモンド薄膜までを製造することができる。
【0017】
また、前記ダイヤモンド薄膜の製造方法は、基材が配置された真空容器内にC、H及びOを含有する原料ガスを供給し、前記真空容器の内部又は外部に配置したアンテナであって、電気的に互いに直列接続された導体要素と容量素子とを有するアンテナに高周波電流を流すことによって当該真空容器内に誘導結合型プラズマを生成し、生成した誘導結合型プラズマを用いたプラズマCVD法により、500℃以上1200℃以下の温度範囲で前記基材上にダイヤモンド薄膜を合成することを特徴とする。
このような構成であれば、500℃以上1200℃以下の温度範囲でダイヤモンド薄膜が合成されるので、粒径50nm以下のダイヤモンド薄膜を得ることができるとともに、結晶性が高く、圧縮応力が高いダイヤモンド薄膜を得ることができる。
また、上記の温度範囲であれば、前述の相対比の範囲内で酸素を含有するダイヤモンド薄膜が成膜されるので、ダイヤモンド薄膜の摺動性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0018】
このように構成した本発明によれば、CVD法により形成されるとともに、摺動性が高いダイヤモンド薄膜を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の一実施形態に係る成膜装置の構成を模式的に示す図。
図2】同実施形態の成膜装置及びダイヤモンド薄膜の製造方法で供給する原料ガスのガス組成範囲を示す図。
図3】実施例で合成したサンプルのラマン散乱スペクトルを示す図。
図4】実施例で合成したサンプルの膜中における酸素濃度及び水素濃度を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の一実施形態のダイヤモンド薄膜及びダイヤモンド薄膜の製造方法について、図面を参照しながら説明する。なお、以下に示す何れの図についても、分かりやすくするために、適宜省略し又は誇張して模式的に書かれている場合がある。同一の構成要素については、同一の符号を付して説明を適宜省略する。
【0021】
<装置構成>
本実施形態のダイヤモンド薄膜Fは、図1に示すように、プラズマCVD装置である成膜装置100を用いて、誘導結合型のプラズマPを用いたプラズマCVD法により基材W上に形成されるものである。
【0022】
具体的に本実施形態のダイヤモンド薄膜Fでは、粒径が50nm以下であることが好ましく、更に好ましくは30nm以下である。また、ダイヤモンド薄膜Fの膜厚は、0.1μm以上5.0μm以下であることが好ましい。さらに、表面粗さは、算術平均粗さにおいて、0.01μm以上1.0μm以下であることが好ましい。
【0023】
そして、本実施形態のダイヤモンド薄膜Fでは、ダイヤモンド薄膜Fの摺動性を向上させるために、膜中の水素濃度に対する膜中の酸素濃度の相対比は0.001以上2.0以下であることが好ましい。より具体的には膜中の酸素濃度は1000ppm以上10000ppm以下であることが好ましい。また、膜中の水素濃度は5000ppm以上250000ppm以下であることが好ましい。
【0024】
以下、上記のダイヤモンド薄膜Fを製造する成膜装置100及びダイヤモンド薄膜Fを製造する製造方法について説明する。
【0025】
本実施形態の基材Wは、ダイヤモンド薄膜Fを形成するのに適した材料により構成された板状のものである。基材Wは、例えばガラス、プラスチック、シリコン、鉄、チタン、銅、超硬合金等の金属、工具鋼等のその他の合金材料、SiC、GaN、AlN、BN、ダイヤモンド等の材料からなるものが挙げられるが、これに限らない。
【0026】
基材Wは平面視で矩形状又は円形等を成している。基材Wの長さは、例えば20cm以上や50cm以上のものが挙げられるがこれに限らない。また基材Wは、例えば、1mm、5mm又は10mm程度のチップ状の小さな基材を同様の長さ又は面積で複数並べたものでもよい。また基材Wは板状に限らず、柱状、穴開き形状、ポーラス状でも良い。また、例えばドリル、エンドミル等の工具類のように複雑な形状をしていてもよい。
【0027】
また基材Wは、所謂傷付け処理や種付け処理等の表面処理が施されていてもよい。例えば基材Wがシリコンである場合には、ダイヤモンド微粒子とともにアルコールに浸漬させ、超音波処理によって表面に凹凸を形成させる傷付け処理や種付け処理が施されていてもよい。また例えば基材Wが超硬合金である場合には、硝酸水溶液等の酸性溶液に浸漬して基材中のCoを除去したり、希釈NaOH等のアルカリ溶液でWC(タングステンカーバイド)粒子表面を処理してから、上記のような種付け処理を実施してもよい。
【0028】
具体的に成膜装置100は、図1に示すように、真空排気され且つガスGが導入される真空容器2と、真空容器2にガスGを供給するガス供給機構7と、真空容器2内に配置された直線状のアンテナ3と、真空容器2内に誘導結合型のプラズマPを生成するための高周波をアンテナ3に印加する高周波電源4とを備えている。この成膜装置100では、アンテナ3に高周波電源4から高周波を印加することによりアンテナ3には高周波電流IRが流れて、真空容器2内に誘導電界が発生して誘導結合型のプラズマPが生成される。
【0029】
真空容器2は、例えばSUSやアルミニウム等の金属製の容器であり、その内部は真空排気装置6によって真空排気される。真空容器2はこの例では電気的に接地されている。なお真空排気装置6は、真空容器2内の圧力を調整するバルブ等の圧力調整器61を備えている。この圧力調整器61を制御して、プラズマ生成時における真空容器2内の圧力を調整できるように構成されており、例えば7Pa以上100P以下の圧力に調整できるように構成されている。
【0030】
真空容器2内に、例えば流量調整器(図示省略)及びアンテナ3に沿う方向に配置された複数のガス導入口21を経由して、原料ガス等のガスGが導入される。
【0031】
また真空容器2内には、基材Wを保持する基材ホルダ8が設けられており、この基材ホルダ8内には、基材Wを加熱するヒータ81が設けられている。なお基材ホルダ8は、真空容器2と電気的に接続されてなくてもよい。この実施形態の成膜装置100は、基材ホルダ8にバイアス電源9からバイアス電圧を印加することにより、生成した誘導結合型プラズマに対する電位を例えば+100V~-100Vの範囲で調整する機能を有していてもよい。印加されるバイアス電圧は、例えば負の直流電圧であるが、これに限られるものではない。このようなバイアス電圧によって、例えば、プラズマP中の正イオンが基材Wに入射する時のエネルギーを制御して、基材Wの表面に形成される膜の結晶化度の制御等を行うことができる。
【0032】
ガス供給機構7は、ガス導入口21を通して原料ガス等のガスGを真空容器2内に供給するものである。ガス供給機構7は、真空容器2の上壁に設けられたガス導入口21から下向きにガスGを供給するように構成されている。このガス供給機構7は、少なくともC(炭素)、H(水素)及びO(酸素)を含む原料ガスを供給できるように構成されており、具体的には、Hガス、CHガス及びCOガスを原料ガスとして供給できるように構成されている。なおガス供給機構7は、C、H及びOを含む原料ガスを真空容器2内に供給できるよう構成されていれば、Hガス、CHガス及びCOガスに加えて、又はこれに代えて他の任意のガスを原料ガスとして供給するように構成されてもよい。
【0033】
ガス供給機構7は、Hガス、CHガス及びCOガスをそれぞれ任意の流量で供給できるように構成されている。本実施形態のガス供給機構7は、Hガス、CHガス及びCOガスを含んで構成される原料ガスにおいて、含有するO原子とH原子の合計濃度に対するO原子の濃度の割合(O/(O+H))が、例えば5at%以上45at%以下となるように各ガスの流量を調整して供給できるように構成されている。
【0034】
またガス供給機構7は、原料ガスとともに、真空容器2内に触媒ガスを任意の流量で供給できるように構成されている。この触媒ガスは、プラズマ生成時において触媒として機能し、原料ガスの分解を促進させる。具体的にはガス供給機構7は、真空容器2内に供給する全ガスの合計流量(ここでは原料ガスと触媒ガスの合計流量)に対する割合が例えば50%以上95%以下、好ましくは70%以上90%以下となるように、触媒ガスを供給できるように構成されている。具体的にこの触媒ガスとしては、例えばArガス、Heガス、Neガス等の希ガスが挙げられる。
【0035】
アンテナ3は、真空容器2内における基材Wの上方に、基材Wの表面に沿うように配置されている。本実施形態では、直線状のアンテナ3を複数本、基材Wに沿うように(例えば、基材Wの表面と実質的に平行に)並列に配置している。このようにすると、より広い範囲で均一性の良いプラズマPを発生させることができ、従ってより大型の基材Wの処理に対応することができる。
【0036】
なおアンテナ3の本数は、複数本に限らず1本だけでもよい。アンテナ3を複数本備える場合、その本数は偶数本(例えば2本、4本、6本等)であることが好ましい。またアンテナ3を複数本備える場合、電波干渉を避けるためには、各アンテナ3の間隔は5cm以上が好ましく、10cm以上がより好ましく、15cm以上がさらに好ましい。一方で、均一なダイヤモンド薄膜Fを成膜するためには、アンテナ3間の間隔は25cm以下が好ましい。
【0037】
アンテナ3の両端部付近は、図1に示すように、真空容器2の相対向する一対の側壁2a、2bをそれぞれ貫通している。アンテナ3の両端部を真空容器2外へ貫通させる部分には、絶縁部材11がそれぞれ設けられている。この各絶縁部材11を、アンテナ3の両端部が貫通しており、その貫通部は例えばパッキン12によって真空シールされている。この絶縁部材11を介してアンテナ3は、真空容器2の相対向する側壁2a、2bに対して電気的に絶縁された状態で支持される。各絶縁部材11と真空容器2との間も、例えばパッキン13によって真空シールされている。なお、絶縁部材11の材質は、例えば、アルミナ等のセラミックス、石英、又はポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)等のエンジニアリングプラスチック等である。
【0038】
またアンテナ3は、インダクタとなるL部と、コンデンサとなるC部とを備えた所謂LCアンテナである。具体的にこのアンテナ3は、少なくとも2つの管状をなす金属製の導体要素31(以下、金属パイプ31)と、互いに隣り合う金属パイプ31の間に設けられて、それら金属パイプ31を絶縁する管状の絶縁要素32(以下、絶縁パイプ32)と、互いに隣り合う金属パイプ31との間に設けられ、これらと電気的に直列接続された容量素子であるコンデンサ33とを備えている。導体要素31がL部として機能し、コンデンサ33がC部として機能する。
【0039】
本実施形態では金属パイプ31の数は3つであり、絶縁パイプ32及びコンデンサ33の数は各2つである。なお、アンテナ3は、4つ以上の金属パイプ31を有する構成であっても良く、この場合、絶縁パイプ32及びコンデンサ33の数はいずれも金属パイプ31の数よりも1つ少ないものになる。
【0040】
金属パイプ31の材質は、例えば、銅、アルミニウム、これらの合金、ステンレス等であるが、これに限られるものではない。なお、アンテナ3を中空にして、その中に冷却水等の冷媒を流し、アンテナ3を冷却するようにしても良い。
【0041】
本実施形態の絶縁パイプ32は単一の部材から形成しているが、これに限られない。なお、絶縁パイプ32の材質は、例えば、アルミナ、フッ素樹脂、ポリエチレン(PE)、エンジニアリングプラスチック(例えばポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)など)等である。
【0042】
さらに、アンテナ3において、真空容器2内に位置する部分は、直管状の絶縁カバー(アンテナ保護管)10により覆われている。この絶縁カバー10の両端部は絶縁部材11によって支持されている。なお、絶縁カバー10の両端部と絶縁部材11間はシールしなくても良い。絶縁カバー10内の空間にガスGが入っても、当該空間は小さくて電子の移動距離が短いので、通常は空間にプラズマPは発生しないからである。なお、絶縁カバー10の材質は、例えば、石英、アルミナ、フッ素樹脂、窒化シリコン、炭化シリコン、シリコン等である。
【0043】
絶縁カバー10を設けることによって、プラズマP中の荷電粒子がアンテナ3を構成する金属パイプ31に入射するのを抑制することができるので、金属パイプ31に荷電粒子(主として電子)が入射することによるプラズマ電位の上昇を抑制することができると共に、金属パイプ31が荷電粒子(主としてイオン)によってスパッタされてプラズマPおよび基材Wに対して金属汚染(メタルコンタミネーション)が生じるのを抑制することができる。
【0044】
アンテナ3の長さは、例えば20cm以上が好ましく、50cm以上がより好ましく、100cm以上がさらに好ましい。一方で、絶縁パイプ32の強度を確保する観点から、アンテナ3の長さは1000cm以下が好ましく、500cm以下がより好ましい。
【0045】
アンテナ3は、図1に示すように、アンテナ方向(長手方向X)において高周波が給電される給電端部3aと、接地された接地端部3bとを有している。具体的には、各アンテナ3の長手方向Xの両端部において一方の側壁2a又は2bから外部に延出した部分が給電端部3aとなり、他方の側壁2a又は2bから外部に延出した部分が接地端部3bとなる。
【0046】
ここで、各アンテナ3の給電端部3aには、高周波電源4から整合器41を介して高周波が印加される。高周波の周波数は、400kHz以上100MHz以下であり、例えば一般的な13.56MHzであるが、これに限られるものではない。例えば27.12MHz、40.68MHz、60MHzなどであってもよい。
【0047】
<ダイヤモンド薄膜の製造方法>
次に上記した成膜装置100を用いたダイヤモンド薄膜Fの製造方法について説明する。
【0048】
まず成膜装置100の真空容器2内に基材ホルダ8に基材Wをセットし、真空排気装置6により真空容器2を真空排気する。そして、ヒータ81により基材Wを加熱する。
【0049】
(原料ガスの供給)
次にガス供給機構7により、原料ガスとしてのHガス、CHガス及びCOガスを真空容器2内に所定の流量で供給する。本実施形態のダイヤモンド薄膜Fの製造方法では、原料ガス中のO原子、C原子、H原子の原子数比率が、図2の組成三元図(C-H-Oダイアグラム)に示す斜線の範囲となるように、Hガス、CHガス及びCOガスの各流量を調整する。各原子の原子数比率について以下に説明する。
【0050】
(酸素と水素の原子数比率)
供給する原料ガスにおいて、含有するO原子とH原子の合計濃度に対するO原子の濃度の割合(O/(O+H))が、好ましくは5at%以上45at%以下となるように、より好ましくは5at%以上10at%以下となるように、Hガス、CHガス及びCOガスの各流量を制御して供給する。
【0051】
(酸素と炭素の原子数比率)
供給する原料ガスにおいて、含有するO原子とC原子の合計濃度に対するC原子の濃度の割合(C/(O+C))が、好ましくは45at%以上70at%以下となるように、Hガス、CHガス及びCOガスの各流量を制御して供給する。
【0052】
(炭素と水素の原子数比率)
また供給する原料ガスにおいて、含有するC原子とH原子の合計濃度に対するH原子の濃度の割合(H/(C+H))が、好ましくは60at%以上95at%以下となるように、より好ましくは90at%以上95at%以下となるように、Hガス、CHガス及びCOガスの各流量を制御して供給する。
【0053】
(触媒ガスの供給)
さらにガス供給機構7により、原料ガスとともに、Arガス等の触媒ガスを真空容器2内に供給する。供給する触媒ガスの流量は、真空容器2に供給する全ガスの合計流量に対する割合が、好ましくは50%以上95%以下となるように、より好ましくは70%以上90%以下となるようにする。供給する触媒ガスの流量をこのような範囲にすることで、成膜時において、電離しやすい例えばArからCHにエネルギーを受け渡し、ダイヤモンドを生成しやすいCラジカルを多く生成させることができる。これにより、生成する誘導結合型プラズマの発光スペクトルにおいて、Hαラジカルの発光強度に対するCラジカルの発光強度の比率を30%以上300%以下とすることができる。
【0054】
(真空容器内の圧力)
そしてガス供給機構7により、原料ガス及び触媒ガスを導入しつつ、圧力調整器61により真空容器2内の圧力を7Pa以上100Pa以下となるように調整する。より好ましくは10Pa以上50Pa以下となるようにする。
【0055】
(プラズマの生成及びダイヤモンド薄膜の成膜)
そして、上記のように原料ガス及び触媒ガスの流量を調整し、真空容器2内の圧力を調整した状態で、高周波電源4からアンテナ3に高周波電力を供給する。これにより真空容器2内に誘導電界を生じさせて誘導結合型のプラズマPを生成させ、基材Wにダイヤモンド薄膜Fを形成する。なお、高周波電力の周波数は、13.56MHzである。また、供給する高周波電力の電力密度は、1.4W/cmである。また電力密度は、1000W/cm以下が好ましく、100W/cm以下がより好ましく、50W/cm以下がさらに好ましい。
【0056】
ここで、500℃以上1200℃以下の温度でダイヤモンド薄膜Fを合成する必要がある。これにより、ダイヤモンド薄膜Fの膜中における水素濃度に対する膜中の酸素濃度の相対比が0.001以上2.0以下となる。粒径50nm以下のダイヤモンドを含む炭素系薄膜を合成する場合には、供給する原料ガスを水素リッチにして、500℃以上とする必要がある。1200℃よりも高い温度でダイヤモンド薄膜Fを合成した場合、黒鉛になるので、そもそもダイヤモンド薄膜を合成できず、上記の相対比から外れてしまう。
【0057】
上記のように基材Wの温度を500℃以上1200℃以下にしてダイヤモンド薄膜Fを製造して、レーザラマン分光法(325nm励起)を行った場合、1333cm-1の波長近傍において観測されるダイヤモンドの光学フォノンピークは、1550cm-1の波長近傍で観測されるGバンドの光学フォノンピークと比較して、1倍以上5倍以下の強度を有することとなり、結晶性が高いダイヤモンド薄膜Fが製造される。
【0058】
<実施例>
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。本発明は以下の実施例によって制限を受けるものではなく、前記、後記の趣旨に適合し得る範囲で変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0059】
実施例では、前記した成膜装置100を用いたプラズマCVD法により、原料ガスの組成、真空容器2の圧力及びArガスの流量比率を変えて、サンプルを基板上に成膜した。サンプルの製造時における原料ガスの流量、原料ガスの組成、Arガスの流量比率、真空容器2内の圧力、供給する高周波電力の周波数、供給する高周波電力の電力密度、及び、基板温度は次のとおりである。
・原料ガスのうちHガスの流量:20sccm
・原料ガスのうちCHガスの流量:3sccm
・原料ガスのうちCOガスの流量:4sccm
・原料ガス中におけるO原子とH原子の合計濃度に対するO原子の濃度の割合(O/(O+H)): 13%
・Arガスの流量比率:82%
・真空容器内の圧力:15Pa
・供給する高周波電力の周波数:13.56MHz
・供給する高周波電力の電力密度:1.4W/cm
・基板温度:800℃
【0060】
上記の条件下でダイヤモンド薄膜Fを製造して、ダイヤモンド薄膜Fに含まれるダイヤモンドの粒径を透過電子顕微鏡(TEM)により評価した。その結果、ダイヤモンド薄膜Fの粒径は10nm程度であった。
【0061】
そして製造したサンプルの結晶性をレーザラマン分光法(325nm励起)により評価した。サンプルに対して得られたラマン散乱スペクトルを図3に示す。図3に示すように、サンプルでは、1333cm-1の波長近傍において、ダイヤモンドの光学フォノンピークが観測され、ダイヤモンドの光学フォノンピークは、1550cm-1の波長近傍で観測されるGバンドの光学フォノンピークと比較して、約3倍の強度を有している。したがって、結晶性が高いダイヤモンド薄膜Fが製造できることを確認できた。
【0062】
また、ダイヤモンド薄膜Fの膜厚を走査電子顕微鏡(SEM)でのサンプル断面観察により評価したところ、膜厚は1.2μmであった。従って、膜厚が0.1μm以上5.0μm以下の範囲に含まれることを確認することができた。
【0063】
上記の膜厚において、膜中における酸素濃度及び水素濃度を二次イオン質量分析(SIMS)により評価した。ダイヤモンド薄膜Fの膜中における酸素濃度及び水素濃度を図4に示す。図4に示すように、膜の深さが0.1μm以上1.2μm以下の範囲では、膜中の水素濃度に対する酸素濃度の相対比が0.04程度であった。また、膜中の酸素濃度は約4.0×1020atm/cm程度(2300ppm程度)であり、膜中の水素濃度は約1.0×1022atm/cm程度(58000ppm程度)であった。したがって、ダイヤモンド薄膜Fの膜中に前述した相対比の範囲内で酸素が含有されていることを確認できた。
【0064】
さらに、製造したサンプルの摺動性を往復動摩擦試験機により評価した。
【0065】
加えて、製造したサンプルの表面粗さをレーザー顕微鏡により評価した。基材Wには表面処理が施されており、その表面処理時の表面粗さにより成膜後の粗さが異なることが知られている。本実施例では、表面処理時の表面が粗いもの(例えば表面処理時の表面粗さが0.03μm以上0.06μm以下)において、成膜後の表面粗さは0.23μm以上0.60μm以下であり、表面処理時の表面が平坦なもの(例えば表面処理時の表面粗さが0.02μm以上0.03μm以下)において、成膜後の表面粗さは、0.03μm以上0.60μm以下であった。従って成膜後の表面粗さは、0.01μm以上1.0μm以下の範囲に含まれることを確認することができた。
【0066】
<本実施形態の効果>
本実施形態によれば、500℃以上1200℃以下の温度範囲でダイヤモンド薄膜Fが製造されるので、膜中の水素濃度に対する膜中の酸素濃度の相対比が0.001以上2.0以下の範囲でダイヤモンド薄膜Fに酸素を含有させることができ、ダイヤモンド薄膜Fの摺動性を向上させることができる。
【0067】
具体的には上記の相対比が0.001未満である場合、酸素濃度が低い状態又は水素濃度が高い状態となるので、結晶粒のサイズが小さくなることによる水素濃度の増加よりも、酸素濃度の低下によりダイヤモンド薄膜の摺動性の低下の方が寄与してしまう。また、上記の相対比が2.0よりも大きい場合、酸素濃度が高い状態又は水素濃度が低い状態となるので、酸素濃度の増加よりも結晶粒のサイズが大きくなることによる水素濃度の低下が寄与し、ダイヤモンド薄膜の表面粗さが大きくなり、ダイヤモンド薄膜の摺動性が低下してしまう。したがって、ダイヤモンド薄膜の摺動性を向上させるためには、上記の相対比の範囲内で酸素を含有させる必要がある。
【0068】
また、LCアンテナに高周波電流を流すことによって生成された誘導結合型プラズマを用いて、500℃以上1200℃以下の温度範囲でダイヤモンド薄膜Fが製造されるので、粒径50nm以下、更に好ましくは粒径30nm以下のダイヤモンド薄膜Fを得ることができるとともに、結晶性が高く、圧縮応力が高いダイヤモンド薄膜Fを得ることができる。
【0069】
さらに本実施形態によれば、ダイヤモンド薄膜Fの水素濃度は、5000ppm以上250000ppm以下であるので、結晶粒のサイズが小さいダイヤモンド薄膜Fから結晶粒のサイズが大きいダイヤモンド薄膜Fまでを製造することができる。
【0070】
その上本実施形態によれば、ダイヤモンド薄膜Fの表面粗さが0.01μm以上1.0μm以下であるので、平滑性がよい表面のダイヤモンド薄膜Fから粗い表面のダイヤモンド薄膜Fまでを製造することができる。
【0071】
<その他の実施形態>
なお、本発明の成膜装置100は前記実施形態に限られるものではない。
【0072】
例えば、前記実施形態の成膜装置100は、誘導結合型プラズマを生成するアンテナ3は真空容器2内に配置されていたが、これに限らない。他の実施形態の成膜装置100は、真空容器2の外部にアンテナ3を配置した構造であってもよい。
【0073】
なお、本発明は前記実施形態に限られず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であるのは言うまでもない。例えば、上述した複数の例示的な実施形態は、以下の態様の具体例であることが当業者により理解される。
【符号の説明】
【0074】
100・・・プラズマCVD装置
2 ・・・真空容器
3 ・・・アンテナ
7 ・・・ガス供給機構
F ・・・ダイヤモンド薄膜
W ・・・基材
P ・・・プラズマ

図1
図2
図3
図4