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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025026598
(43)【公開日】2025-02-21
(54)【発明の名称】フレキシブルフライホイール
(51)【国際特許分類】
   F16F 15/30 20060101AFI20250214BHJP
   F16F 15/121 20060101ALI20250214BHJP
   F16F 15/129 20060101ALI20250214BHJP
【FI】
F16F15/30 E
F16F15/121 A
F16F15/129
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024214228
(22)【出願日】2024-12-09
(62)【分割の表示】P 2021159322の分割
【原出願日】2021-09-29
(71)【出願人】
【識別番号】000100805
【氏名又は名称】アイシン高丘株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 強
(72)【発明者】
【氏名】太田 剛
(57)【要約】
【課題】弾性板の撓みによる振動減衰効果と摩擦抵抗による摩擦減衰効果に加え、遠心力による反りを抑制することもできるフレキシブルフライホイールを得る。
【解決手段】フライホイール本体20と、当該フライホイール本体20を間に介してクランクシャフトの端部に設けられた摩擦プレート30とを備える。フライホイール本体20は、振動を自身の撓みによって減衰させる弾性スポーク22と、弾性スポーク22の外周部に設けられた慣性マス23と、弾性スポーク22よりも正面側に設けられた表面24cを有するプレート受け部24とを備えている。摩擦プレート30は、フライホイール本体20とともにクランクシャフトの端部に設けられた場合に、プレート受け部24の表面24cに当接するフランジ32を備えている。
【選択図】 図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転機のシャフトの端部に設けられた円形状をなすフライホイール本体と、
前記フライホイール本体を間に介して前記シャフトの端部に設けられた摩擦生成部材と、
を備えたフレキシブルフライホイールであって、
前記フライホイール本体は、
前記シャフトに作用する振動を自身の撓みによって減衰させる弾性板と、
前記フライホイール本体の外周部に設けられて前記弾性板と連結され、前記弾性板よりも前記シャフトの反対側に突出するように設けられた円環状の慣性マスと、
前記弾性板よりも前記シャフトの反対側に設けられた被当接部と、
を備え、
前記摩擦生成部材は、前記フライホイール本体とともに前記シャフトの端部に設けられた場合に、前記シャフトの反対側から前記被当接部に当接する当接部を備え、
前記被当接部が前記慣性マスの周方向において複数設けられており、
前記摩擦生成部材は円板形状を有し、円板の外周縁部のうち前記被当接部と当接する部分が前記当接部となっていることを特徴とするフレキシブルフライホイール。
【請求項2】
回転機のシャフトの端部に設けられた円形状をなすフライホイール本体と、
前記フライホイール本体を間に介して前記シャフトの端部に設けられた摩擦生成部材と、
を備えたフレキシブルフライホイールであって、
前記フライホイール本体は、
前記シャフトに作用する振動を自身の撓みによって減衰させる弾性板と、
前記フライホイール本体の外周部に設けられて前記弾性板と連結され、前記弾性板よりも前記シャフトの反対側に突出するように設けられた円環状の慣性マスと、
前記弾性板よりも前記シャフトの反対側に設けられた被当接部と、
を備え、
前記摩擦生成部材は、前記フライホイール本体とともに前記シャフトの端部に設けられた場合に、前記シャフトの反対側から前記被当接部に当接する当接部を備え、
前記被当接部を有する受け部は、前記弾性板よりも厚肉に形成されていることを特徴とするフレキシブルフライホイール。
【請求項3】
回転機のシャフトの端部に設けられた円形状をなすフライホイール本体と、
前記フライホイール本体を間に介して前記シャフトの端部に設けられた摩擦生成部材と、
を備えたフレキシブルフライホイールであって、
前記フライホイール本体は、
前記シャフトに作用する振動を自身の撓みによって減衰させる弾性板と、
前記フライホイール本体の外周部に設けられて前記弾性板と連結され、前記弾性板よりも前記シャフトの反対側に突出するように設けられた円環状の慣性マスと、
前記弾性板よりも前記シャフトの反対側に設けられた被当接部と、
を備え、
前記摩擦生成部材は、前記フライホイール本体とともに前記シャフトの端部に設けられた場合に、前記シャフトの反対側から前記被当接部に当接する当接部を備え、
前記弾性板は、前記シャフトの端部に固定される本体締結部と前記慣性マスとの間において、径方向に延びて両者をつなぐ複数の弾性スポークであり、
前記被当接部は前記弾性スポーク同士の間に設けられ、
前記本体締結部と、前記弾性スポークと、前記慣性マスと、前記被当接部を有する受け部とが鋳造又は鍛造によって一体形成されていることを特徴とするフレキシブルフライホイール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フレキシブルフライホイールに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、車両の内燃機関等の回転機では、シャフトの一端にフライホイールが取り付けられている。フライホイールは円環状の慣性マスを有し、慣性マスによって得られる慣性モーメントによって、シャフトの回転動作に伴う回転エネルギが保存される。そのため、フライホイールが取り付けられることによってシャフトの安定した回転動作を得ることができる。
【0003】
フライホイールの一種として、フレキシブルフライホイールが知られている。フレキシブルフライホイールはシャフトに固定される弾性板を備え、慣性マスはその弾性板の外周部に取り付けられている。フレキシブルフライホイールでは、弾性板の撓みによりシャフトに作用する振動を減衰させる。この弾性円板による振動減衰に加え、弾性円板と慣性マスとの間に設けられた皿ばねと弾性円板又は慣性マスとの間で摩擦を生じさせ、その摩擦抵抗によって振動減衰させるものも知られている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007-162792号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、フレキシブルフライホイールの慣性マスは、シャフトとの干渉を防ぐため、通常、シャフトの反対側に向けて突出するように設けられている。そのため、慣性マスに作用する遠心力により慣性マスはシャフトの反対側かつ斜め外方へ向けて引っ張られる。その引っ張りによってフライホイールはシャフトの反対側への反ろうとするため、その反りによる力が弾性板の内周側に作用する。この力は弾性板の破損をもたらすおそれがあるため、その破損に備えた剛性を確保しなければならず、それが弾性板の撓みによる振動減衰効果を低下させる要因となるという問題がある。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、弾性板の撓みによる振動減衰効果と摩擦抵抗による摩擦減衰効果に加え、遠心力による反りを抑制することもできるフレキシブルフライホイールを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決すべく、第1の発明のフレキシブルホイールは、
回転機のシャフトの端部に設けられた円形状をなすフライホイール本体と、
前記フライホイール本体を間に介して前記シャフトの端部に設けられた摩擦生成部材と、
を備えたフレキシブルフライホイールであって、
前記フライホイール本体は、
前記シャフトに作用する振動を自身の撓みによって減衰させる弾性板と、
前記フライホイール本体の外周部に設けられて前記弾性板と連結され、前記弾性板よりも前記シャフトの反対側に突出するように設けられた円環状の慣性マスと、
前記弾性板よりも前記シャフトの反対側に設けられた被当接部と、
を備え、
前記摩擦生成部材は、前記フライホイール本体とともに前記シャフトの端部に設けられた場合に、前記シャフトの反対側から前記被当接部に当接する当接部を備えていることを特徴とする。
【0008】
第2の発明のフレキシブルフライホイールは、
前記被当接部は、前記シャフトに固定される締結部と前記慣性マスとの間のうち、前記慣性マス寄りの位置に設けられていることを特徴とする。
【0009】
第3の発明のフレキシブルフライホイールは、
前記被当接部が前記慣性マスの周方向において複数設けられており、
前記摩擦生成部材は円板形状を有し、円板の外周縁部のうち前記被当接部と当接する部分が前記当接部となっていることを特徴とする。
【0010】
第4の発明のフレキシブルフライホイールは、
前記慣性マスが前記弾性板よりも突出する部分の内側に空間部が形成されており、
前記空間部に前記摩擦生成部材が収容されていることを特徴とする。
【0011】
第5の発明のフレキシブルフライホイールは、
前記当接部は、前記被当接部を前記シャフトの側に付勢しながら前記被当接部に当接していることを特徴とする。
【0012】
第6の発明のフレキシブルフライホイールは、
前記被当接部を有する受け部は、前記弾性板よりも厚肉に形成されていることを特徴とする。
【0013】
第7の発明のフレキシブルフライホイールは、
前記弾性板は、前記シャフトの端部に固定される本体締結部と前記慣性マスとの間において、径方向に延びて両者をつなぐ複数の弾性スポークであり、
前記被当接部は前記弾性スポーク同士の間に設けられ、
前記本体締結部と、前記弾性スポークと、前記慣性マスと、前記被当接部を有する受け部とが鋳造又は鍛造によって一体形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
第1の発明によれば、弾性板よりもシャフトの反対側において、摩擦生成部材の当接部とフライホイール本体の被当接部とが当接した状態で形成されているため、シャフトが振動した場合に、当接部と被当接部との間で摩擦が生じる。弾性板による振動減衰とは別に、その摩擦抵抗によってシャフトの振動を減衰させることができる。また、慣性マスに作用する遠心力により、慣性マスがシャフトの反対側でかつ斜め外方に向けて引っ張られ、フライホイール本体が正面側に反ろうとしても、摩擦生成部材の当接部がフライホイール本体の被当接部にシャフトの反対側から当接していることにより、その反りを押える。この押さえにより、フライホイール本体の反りを抑制することができる。このように、シャフトの反対側で、摩擦生成部材の当接部とフライホイール本体の被当接部とが当接していることにより、摩擦抵抗による振動減衰に加え、遠心力によるフライホイール本体の反りが抑制されたフレキシブルフライホイールを得ることができる。
【0015】
第2の発明によれば、当接部と被当接部とが当接する部位がフライホイール本体のより外周側に設けられ、フライホイール本体の反りを内周側で押えるよりも、抑制効果をより一層高めることができる。
【0016】
第3の発明によれば、複数の当接部が径方向へ放射状に延びて設けられるのではなく、当接部同士の間を埋める部分が存在するため、当接部が反りを受け止める際に、その当接部同士の間を埋める部分によって当接部の剛性が高められる。これにより、反り抑制効果をより高めることができる。
【0017】
第4の発明によれば、摩擦生成部材が慣性マスの内側に形成された空間部に収容されているため、摩擦生成部材を設けるための空間を別に設ける必要がなく、慣性マスによって形成された空間部を有効に活用することができる。これにより、フレキシブルフライホイールの周辺に設けられる装置類の設置スペースと干渉することなく、フライホイール本体とは別体の摩擦生成部材を設けることができる。
【0018】
第5の発明によれば、当接部と被当接部との摩擦抵抗をより高めることができる。また、付勢力を調整することにより、フライホイール本体の振動によって当接部と被当接部との当接状態が解除されることなく、当接状態を維持させることができる。これにより、シャフトに振動が生じた場合には、高められた摩擦抵抗による振動減衰効果が恒常的に得られるため、振動減衰効果をより高めることができる。
【0019】
第6の発明によれば、当接部との摩擦によって被当接部に摩耗が生じても、その摩耗への耐久力を向上させることができる。
【0020】
第7の発明によれば、フライホイール本体が鋳造又は鍛造により一体形成されており、本体締結部で摩擦生成部材とともにシャフトの端部に固定すれば、フレキシブルフライホイールとなる。つまり、フライホイール本体と摩擦生成部材との両者が締結具で共締めされてシャフトに組み付けられると、シャフトにフレキシブルフライホイールが設けられる。これにより、フレキシブルフライホイールを構成する部品点数をより少なくし、各部品の製造及びそれらの組付けにかかるコストを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】フレキシブルフライホイールを示す正面図。
図2】フレキシブルフライホイールを示す背面図。
図3】フレキシブルフライホイールの分解斜視図。
図4】クランクシャフトへの固定態様を示す図1のA-A断面図であり、(a)は固定前を示し、(b)は固定後を示している。
図5図4(b)におけるX部の拡大図。
図6】反り抑制機能を説明するためのフレキシブルホイールの概略説明図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を具体化した一実施の形態について、図面を参照しながら説明する。本実施の形態では、回転機として車両の内燃機関(エンジン)を想定し、エンジンのクランクシャフトに固定されるフレキシブルフライホイールについて説明する。
【0023】
図1及び図2に示すように、フレキシブルフライホイール10は全体として円形状をなし、フライホイール本体20と摩擦プレート30とを有している。摩擦プレート30は摩擦生成部材に相当する。図4(b)に示すように、フライホイール本体20と摩擦プレート30とがともにクランクシャフト40の端部に固定されることにより、両者が一体化されてフレキシブルフライホイール10となる。なお、この実施形態の説明では、クランクシャフト40が配置される側をフレキシブルフライホイール10の裏側とし、その反対側となる反シャフト側を表側又は正面側とする。
【0024】
まずフライホイール本体20について説明する。フライホイール本体20は、図1乃至図3に示すように、本体締結部21と、弾性スポーク22と、慣性マス23と、プレート受け部24とを有し、全体として自動車のハンドルのような形状をなしている。本体締結部21、弾性スポーク22、慣性マス23及びプレート受け部24は鋳鉄等よりなる鋳物であり、鋳造又は鍛造によって一体形成されている。プレート受け部24は受け部に相当する。
【0025】
本体締結部21は、図4(b)に示すように、クランクシャフト40の端部に締結される。図1乃至図3に示すように、本体締結部21は円板状に形成され、フレキシブルフライホイール10の中心部に設けられている。図4(b)に示すように、本体締結部21の裏面21bは、クランクシャフト40への取り付け時において、クランクシャフト40の端部に設けられた被締結部41の端面42と当接する。
【0026】
図2及び図3に示すように、本体締結部21の中心部には、本体位置決め孔25が設けられている。本体締結部21の裏面21bがクランクシャフト40の被締結部41の端面42と当接すると、図4(b)に示すように、当該端面42に設けられた先端突部43が本体位置決め孔25に挿入される。これにより、クランクシャフト40の回転中心軸線と、フライホイール本体20の回転中心軸線とが同一となるように位置決めされる。
【0027】
図2及び図3に示すように、本体位置決め孔25の周囲には、複数のボルト挿通孔26が環状に設けられ、等間隔で並んでいる。図4(b)に示すように、ボルト挿通孔26に対応するボルト孔44が、クランクシャフト40の被締結部41に設けられている。本体締結部21の裏面21bがクランクシャフト40の被締結部41の端面42と当接し、先端突部43が本体位置決め孔25に挿入された状態で、ボルト挿通孔26の位置をボルト孔44の位置に合わせ、ボルト孔44にボルトBをねじ込む。これにより、本体締結部21が被締結部41に締結され、フライホイール本体20がクランクシャフト40に固定される。
【0028】
弾性スポーク22は、図1乃至図3に示すように、本体締結部21からフレキシブルフライホイール10の径方向に沿って放射状に延びている。弾性スポーク22は幅広に形成された平板状をなし、その平板部分はフレキシブルフライホイール10の回転中心軸線に対して直交している。弾性スポーク22が本体締結部21と連結される内側連結部27では、その周方向の両側縁27a,27bがアール形状をなしている。
【0029】
弾性スポーク22は、図4(a)に示すように、フライホイール本体20をフレキシブル化すべく、本体締結部21よりも薄肉に形成されている。振動減衰効果を得ることを目的としないフライホイールのプレート部分と比較して、弾性スポーク22が薄肉化されていることにより、弾性スポーク22はその面剛性が下げられて撓みやすくなっている。そのため、クランクシャフト40で生じた振動が弾性スポーク22に伝わると、弾性スポーク22の撓みによって振動減衰効果が得られる。弾性スポーク22の厚みは任意であるが、例えば4mm以下の寸法に設定されている。弾性スポーク22は弾性板に相当する。
【0030】
弾性スポーク22の表面22aは、本体締結部21の表面21aよりもシャフト側に設けられている。つまり、フライホイール本体20の中心軸線方向において、正面側から見ると、弾性スポーク22の表面22aは、本体締結部21の表面21aよりも奥側(シャフト側)寄りに設けられている。
【0031】
図1乃至図3に示すように、弾性スポーク22は3本設けられ、いずれも同じ構成を有している。3本の弾性スポーク22は、フライホイール本体20の周方向に均等に配置されている。そのため、正面視又は裏面視において、各弾性スポーク22の幅方向の中央と、フライホイール本体20の中心とを結ぶ各仮想線L1~L3を想定した場合、仮想線L1~L3同士の間の角度は120度に設定されている。
【0032】
慣性マス23は、図1及び図3に示すように、フライホイール本体20の外周部において円環状に形成されている。慣性マス23の内周部は、弾性スポーク22が本体締結部21から径方向に延びた先の先端部分に連結されている。弾性スポーク22が慣性マス23に連結される外側連結部28では、周方向の両側縁28a,28bがアール形状をなしている。フライホイール本体20が回転すると、慣性マス23の重量によって比較的大きな慣性力モーメントが得られ、クランクシャフト40の回転動作を安定化させる。慣性マス23には、ダンパー(図示略)を取り付けるためのネジ孔23a等が形成されている。なお、ダンパーの有無は任意である。
【0033】
図3及び図4に示すように、慣性マス23は、弾性板として薄板状に形成された弾性スポーク22よりも正面側に突出するように設けられている。そのため、慣性マス23の内周側において、本体締結部21及び弾性スポーク22よりも正面側には、空間部29が形成されている。図1に示すように、空間部29は正面視において円形状をなしている。
【0034】
プレート受け部24は、図1乃至図3に示すように、3本の弾性スポーク22のそれぞれの間に設けられている。各弾性スポーク22の間に1つずつプレート受け部24が設けられ、合計3つのプレート受け部24が設けられている。各プレート受け部24は、いずれも同じ構成を有している。プレート受け部24は、慣性マス23の内周部に周方向に沿って円弧状をなすように設けられ、本体締結部21とは連結されていない。プレート受け部24の内周縁も円弧状をなしている。プレート受け部24の周方向の両側縁24a,24bは、アール形状をなして慣性マス23の内周部と連結されている。図2に示すように、フライホイール本体20の径方向において、プレート受け部24の本体締結部21を挟んだ反対側には、弾性スポーク22が設けられている。つまり、プレート受け部24は、弾性スポーク22の幅方向中央で延びる各仮想線L1~L3の延長線上に設けられている。そして、プレート受け部24は、各仮想線L1~L3を延長した延長線を基準として、線対称をなしている。
【0035】
図4に示すように、プレート受け部24は、弾性スポーク22よりも厚く形成された平板状をなしている。プレート受け部24の表面24cは、弾性スポーク22の表面22aよりも正面側であって、本体締結部21の表面21aよりも裏面側に設けられている。つまり、本体締結部21の表面21a、プレート受け部24の表面24c及び弾性スポーク22の表面22aは同一平面上に設けらておらず、この順序で正面側から裏面側に向かって並んで設けられている。
【0036】
以上がフライホイール本体20の説明であり、次に、摩擦プレート30について説明する。摩擦プレート30は、図1乃至図3に示すように、慣性マス23の内周側に形成された円形状の空間部29よりも小さく、かつプレート受け部24の内周縁で形成される仮想円形の径よりも大きい径を有する円板状をなしている。摩擦プレート30は、円錐台部31と、フランジ32とを有している。円錐台部31及びフランジ32は、ばね鋼を素材とする円形平板を絞り加工することによって形成されている。
【0037】
円錐台部31は摩擦プレート30の中心部に設けられ、摩擦プレート30の外周縁部となるフランジ32は、円錐台部31の周方向全域にわたり環状に設けられている。図3及び図4に示すように、摩擦プレート30は、その円錐台部31の底部とフランジ32とが裏面側に配置された状態でフライホイール本体20に合わせられ、フライホイール本体20ともにクランクシャフト40の被締結部41に固定される。
【0038】
円錐台部31の中心となる円形平面部分は、プレート締結部33となっている。プレート締結部33の中心部には、プレート位置決め孔34が設けられている。プレート位置決め孔34には、フライホイール本体20の本体位置決め孔25にクランクシャフト40の先端突部43が挿入された後、本体位置決め孔25から突出した先端突部43が挿入される。これにより、摩擦プレート30はフライホイール本体20の正面側に設けられ、慣性マス23の内周側の空間部29に収容される。プレート締結部33の裏面33bは本体締結部21の表面21aと当接し、本体締結部21を介してクランクシャフト40の被締結部41に取り付けられる。被締結部41の先端突部43がプレート位置決め孔34に挿入されることにより、クランクシャフト40の回転中心軸線と摩擦プレート30の回転中心軸線とが同一となるように位置決めされる。
【0039】
図1及び図3に示すように、プレート位置決め孔34の周囲には、本体締結部21に設けられたボルト挿通孔26と同じ数のボルト挿通孔35が環状に設けられ、等間隔で並んでいる。前述したように、フライホイール本体20はボルトBを用いてクランクシャフト40の被締結部41に固定される。図4(b)に示すように、その固定に用いられるボルトBを用いて、摩擦プレート30も一緒にクランクシャフト40の被締結部41に固定される。
【0040】
つまり、プレート締結部33の裏面33bが、正面側から本体締結部21の表面21aに当接し、先端突部43がプレート位置決め孔34にも挿入される。プレート締結部33のボルト挿通孔35の位置を、本体締結部21のボルト挿通孔26及びボルト孔44の位置と合わせ、ボルト孔44にボルトBをねじ込む。これにより、プレート締結部33が本体締結部21とともに被締結部41に共締めされ、摩擦プレート30がフライホイール本体20と一体となってクランクシャフト40に固定される。
【0041】
摩擦プレート30がフライホイール本体20とともにクランクシャフト40に固定される際、摩擦プレート30は、その厚さ方向に圧縮されながらクランクシャフト40に固定される。この圧縮状態での固定を実現するため、図4(a)に示すように、プレート締結部33の裏面33bとフランジ32の裏面32bとの間の圧縮前寸法W1は、フライホイール本体20における本体締結部21の表面22aと、プレート受け部24の表面24cとの間の設置寸法W2よりも大きく設定されている。
【0042】
この寸法差により、プレート締結部33の裏面33bが本体締結部21の表面21aに正面側から当接し、その両者がクランクシャフト40に固定されると、摩擦プレート30はその厚さ方向に圧縮され、図5に示すように、フランジ32の裏面32bがプレート受け部24の表面24cに当接する。フランジ32の裏面32b全体のうち、プレート受け部24の表面24cと当接する部分は当接部に、プレート受け部24の表面24cは被当接部にそれぞれ相当する。摩擦プレート30はばね鋼によって形成されているため、フランジ32はプレート受け部24を付勢しながら当該プレート受け部24に正面側から当接する。このようにフランジ32がプレート受け部24に当接する一方、フランジ32は弾性スポーク22には当接せず、両者は離間している。
【0043】
フランジ32とプレート受け部24との当接領域Rは、径方向においてある程度の幅をもって当接している。当接領域Rの幅は、摩擦プレート30の径やフランジ32の径方向の幅寸法、プレート受け部24の径方向の幅寸法を調整することによって設定される。また、圧縮前寸法W1と設置寸法W2を調整することにより、フランジ32がプレート受け部24を付勢する力が調整される。
【0044】
次に、上記のフレキシブルフライホイール10が、クランクシャフト40の被締結部41に固定された場合の作用について説明する。
【0045】
クランクシャフト40の回転とともにフレキシブルフライホイール10が回転すると、慣性マス23によって慣性モーメントが生じ、それによりクランクシャフト40の安定した回転動作が得られる。そして、エンジンの駆動に起因してクランクシャフト40が振動すると、その振動はフレキシブルフライホイール10の本体締結部21に伝わる。それがさらに弾性スポーク22に伝わると、弾性スポーク22が撓んでその振動を減衰させる。
【0046】
弾性スポーク22の撓みによる振動減衰に加え、クランクシャフト40の振動がフライホイール本体20に伝わると、図5に示すように、フライホイール本体20と摩擦プレート30との当接領域Rにおいて、プレート受け部24とフランジ32との間で摩擦が生じる。その摩擦抵抗によっても、クランクシャフト40に生じた振動が減衰される。この場合、フランジ32は付勢力をもってプレート受け部24に当接しているため、振動によって両者の当接が解除されることが抑制され、両者の当接状態が維持される。その結果、フランジ32とプレート受け部24との間の摩擦が確実に生じ、摩擦抵抗による振動減衰が確実に得られる。しかも、当接領域Rにおいて摩擦が生じる際、フランジ32は弾性スポーク22とは当接していないため、摩擦プレート30の存在が弾性スポーク22の撓みを阻害しない。これにより、クランクシャフト40は、エンジンの駆動に起因する振動が抑制されながら安定した回転動作を行える。
【0047】
また、上記のような振動減衰の他に、フライホイール本体20の反りが摩擦プレート30によって抑制される。クランクシャフト40が回転すると、慣性マス23を有するフライホイール本体20には遠心力が作用する。この遠心力により、図6に示すように、フライホイール本体20は、慣性マス23が突出する正面側の斜め上方に向けて引っ張られて正面側への反りが生じる。もっとも、摩擦プレート30のフランジ32がフライホイール本体20のプレート受け部24に当接しているため、摩擦プレート30がこの反りに対する押さえとなり、反りが抑制される。特に、プレート受け部24は慣性マス23寄りとなるフライホイール本体20の外周側に設けられている。そのため、内周側で反りを押えるよりも反りの抑制効果が高められる。これにより、反りによる弾性スポーク22の破損を抑制するために弾性スポーク22の剛性を高め、それによって振動減衰効果を犠牲にする必要がなくなる。
【0048】
以上をまとめると、本実施の形態のフレキシブルフライホイール10によれば、以下の作用効果を得ることができる。
【0049】
(1)弾性スポーク22よりも正面側において、摩擦プレート30のフランジ32とフライホイール本体20のプレート受け部24とが当接し、両者の当接領域Rが設けられている。そのため、クランクシャフト40が振動すると、フランジ32とプレート受け部24との間で摩擦が生じる。弾性スポーク22による振動減衰とは別に、その摩擦抵抗によってクランクシャフト40の振動を減衰させることができる。また、慣性マス23に作用する遠心力により、慣性マス23が正面側でかつ斜め外方に向けて引っ張られ、フライホイール本体20が正面側に反ろうとしても、フランジ32がプレート受け部24に正面側から当接していることによってその反りを押える。これにより、フライホイール本体20の反りを抑制することもできる。
【0050】
(2)摩擦プレート30のフランジ32は、フライホイール本体20のプレート受け部24と当接しながら、弾性スポーク22とは当接していないため、摩擦プレート30の存在が弾性スポーク22の撓みによる振動減衰機能を阻害しない。また、フランジ32と弾性スポーク22との間で摩擦が生じないため、両者の摩擦によって弾性スポーク22が擦り減り、弾性スポーク22の剛性を低下させてしまうことも抑制できる。
【0051】
(3)プレート受け部24は、本体締結部21と慣性マス23との間のうち、慣性マス23寄りの位置に設けられ、フランジ32とプレート受け部24との当接領域Rがフライホイール本体20のより外周側に設けられている。そのため、当該当接領域Rがフライホイール本体20の内周側に設けられ、その内周側で反りを押えるよりも反り抑制効果を高めることができる。
【0052】
(4)プレート受け部24は3本の弾性スポーク22のそれぞれの間に設けられ、摩擦プレート30は円板形状を有している。そのため、プレート受け部24と当接する3つの当接部が径方向へ放射状に延びて設けられた構成と異なり、プレート受け部24と当接するのは環状をなすフランジ32の一部分となり、当接部分同士の間には、その間を埋める円錐台部31やフランジ32が存在している。これにより、その当接部分同士の間を埋める円錐台部31やフランジ32によって当接部分の剛性が高められ、反り抑制効果をより高めることができる。
【0053】
(5)慣性マス23の内周側では弾性スポーク22の正面側に空間部29が形成され、その空間部29に摩擦プレート30が収容されている。そのため、摩擦プレート30を設けるための空間を別に設ける必要がなく、慣性マス23によって形成された空間部29を有効に活用することができる。これにより、フレキシブルフライホイール10の周辺に設けられる装置類の設置スペースと干渉することなく、フライホイール本体20とは別体の摩擦プレート30を設けることができる。
【0054】
(6)摩擦プレート30のフランジ32は、プレート受け部24をクランクシャフト40の側に付勢しながら当該プレート受け部24に当接しているため、両者の摩擦抵抗をより高めることができる。また、付勢力を調整することにより、フライホイール本体20の振動によってフランジ32とプレート受け部24との当接状態が解除されることなく、当接状態を維持させることができる。これにより、高められた摩擦抵抗による振動減衰効果が恒常的に得られるため、振動減衰効果をより高めることができる。
【0055】
(7)フライホイール本体20のプレート受け部24は、弾性スポーク22よりも厚肉に形成されているため、フランジ32との摩擦によってプレート受け部24に摩耗が生じても、その摩耗への耐久力を向上させることができる。
【0056】
(8)フライホイール本体20は、本体締結部21と、弾性スポーク22と、慣性マス23と、プレート受け部24とが鋳造又は鍛造によって一体形成されている。フライホイール本体20と摩擦プレート30とが、締結具となるボルトBでクランクシャフト40の被締結部41に固定されることにより、フレキシブルフライホイール10となる。これにより、フレキシブルフライホイール10を構成する部品点数をより少なくし、各部品の製造及びそれらの組付けにかかるコストを低減することができる。
【0057】
なお、上記実施の形態のフレキシブルフライホイール10に限らず、例えば次のような構成を採用してもよい。
【0058】
(a)上記実施の形態では、フライホイール本体20の弾性スポーク22は3本設けられている。これに代えて、弾性スポーク22の数を4本とするなど、弾性スポーク22が設けられる本数は任意である。
【0059】
(b)上記実施の形態では、弾性スポーク22同士の間に、それぞれ1つのプレート受け部24が設けられている。これに代えて、それぞれの間に、複数のプレート受け部24が設けられたり、異なる数のプレート受け部24が設けられたりした構成を採用してもよい。その場合でも、プレート受け部24は、弾性スポーク22が延びる仮想線L1~L3の延長線に対して線対称をなすように配置されることが好ましい。
【0060】
(c)上記実施の形態では、摩擦生成部材としての摩擦プレート30が円錐台部31とフランジ32とを有する円板状をなしている。これに代えて、円錐台部31のない平坦な円板形状をなす摩擦生成部材としたり、プレート受け部24の数に対応する角を有する多角形状の摩擦生成部材としたり、プロペラ形状をなす摩擦生成部材としたりしてもよい。プロペラ形状をなす摩擦生成部材においては、本体締結部21からプレート受け部24に向けて径方向に延びる翼部が設けられる。この場合、翼部の先端部の裏面がプレート受け部24と当接する当接部となる。
【0061】
(d)上記実施の形態では、プレート受け部24が慣性マス23の内周部に設けられ、本体締結部21とは連結されていない。これとは逆に、プレート受け部24が本体締結部21の外周側に設けられ、慣性マス23とは連結されない構成を採用してもよい。
【0062】
(e)上記実施の形態では、フライホイール本体20は、本体締結部21と、弾性スポーク22と、慣性マス23と、プレート受け部24とが鋳造又は鍛造によって一体形成されている。これに代えて、これら各部を別部材とし、それを組み立ててフライホイール本体としてもよい。
【0063】
(f)上記実施の形態では、弾性スポーク22を弾性板としたが、弾性板はスポーク状に形成されたものでなく円板状をなすものであってもよい。この場合、円板状の弾性板の所々に肉抜き部が設けられていてもよい。
【0064】
(g)上記実施の形態では、回転機として車両の内燃機関(エンジン)を想定している。本発明は、慣性モーメントを利用した回転の安定化や回転エネルギの保存等を図る目的で用いられるのであれば、例えばプレス機械に用いられるフライホイールなどその適用対象は任意である。
【符号の説明】
【0065】
10…フレキシブルフライホイール、20…フライホイール本体、21…本体締結部、22…弾性スポーク(弾性板)、23…慣性マス、24…プレート受け部(受け部)、24c…プレート受け部の表面(被当接部)、29…空間部、30…摩擦プレート(摩擦生成部材)、32a…フランジの裏面(当接部)、40…クランクシャフト。
図1
図2
図3
図4
図5
図6